説明

エレベータのかご室

【課題】エレベータのかご室内外の気圧差により扉が動いて気密板がゴムに押し当てられた際に気密となるが、一定の圧力以下では気密にならないという課題を解消する。
【解決手段】かご室の乗降口6を形成する周囲枠部7と、この周囲枠部に近接して設けられ上記乗降口を開閉する扉5と、上記周囲枠部に設けられ所定時に上記扉を上記周囲枠部の方向に磁力により引き寄せる電磁石14と、上記周囲枠部と上記扉の間に介在され上記電磁石が上記扉を引き寄せたときに上記周囲枠部と上記扉の間の隙間を遮蔽する弾性部材13を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特に高速エレベータ向けのかご室として好適な、遮音性能が向上され騒音が低減されたエレベータのかご室に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の高層化に伴い、エレベータの昇降速度の高速化が望まれているが、エレベータの昇降速度が上がると、昇降路内で風切音等の騒音が増加し、かご室内の静粛性が保てなくなる。かご室の壁や天井などの遮音壁の板厚を厚くすることで、かご室の遮音性能を向上させることができるが、かご室の重量が増加し、巻き上げ機や非常止め等の負担が大きくなってしまう。気圧制御装置を搭載しているかご室では、かご室内とかご室外とで気圧差が生じることにより、かご室の隙間箇所から風音が発生するという問題もある。
そこで、かご室を気密化してかご室の遮音性能を向上させる方法が検討されている。特許文献1では気圧制御装置で制御されるかご室内の気圧の負荷に応じてドアパネルと開口部の周囲部との間の隙間を密閉する技術が記載されている。特許文献2ではドアパネルと出入口との間の隙間に楔形の密着材を設けて密閉する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−81561号公報(第1頁、図7)
【特許文献2】特開平10−120349号公報(第1頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような技術においては、かご室内外の気圧差により扉が動いて気密板がゴムに押し当てられた際に気密となるが、一定の圧力以下では気密にならないという課題がある。また、特許文献2のような技術においては、かご室内が加圧されると扉が外側に動き気密が得られなくなる。また、楔形の密着材の面と戸当り面を同時に気密にするためには密着材の位置を微調整しなければならないという課題がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、かご室内外の気圧差があっても常にかご室内を気密にでき、また騒音が軽減されたエレベータのかご室を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るエレベータのかご室は、かご室の乗降口を形成する周囲枠部と、この周囲枠部に近接して設けられ上記乗降口を開閉する扉と、上記周囲枠部に設けられ所定時に上記扉を上記周囲枠部の方向に引き寄せる電磁石装置と、上記周囲枠部と上記扉の間に介在され上記電磁石装置が上記扉を引き寄せたときに上記周囲枠部と上記扉の間の隙間を遮蔽する弾性部材を備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明においては、乗降口の周囲枠部と扉との間に弾性部材を介在させ電磁石装置の磁力による吸引力で扉を周囲枠部に引き寄せ、弾性部材を圧縮して密閉を図るようにしたので、かご室の気密化が確実で、気圧差があっても気密を保つようにすることができる。また、騒音も低減できる
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1に係るエレベータのかご室を示す斜視図。
【図2】図1に示されたかご室に対する弾性部材の配置を示す図であり、(a)は上面図、(b)は正面図。
【図3】図2に示されたかご室に電磁石装置を付加したときの配置を示す図であり、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は側面から見た要部断面図。
【図4】この発明の実施の形態2に係るエレベータのかご室を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面から見た要部断面図。
【図5】かご室における騒音の流入経路を概念的に説明する図であり、(a)は比較のための実施の形態1の場合、(b)は実施の形態2の場合を示す要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1に係るエレベータのかご室について図1から図3を用いて説明する。なお、図1はこの発明の実施の形態1に係るエレベータのかご室を示す斜視図、図2は図1に示されたかご室に対する弾性部材の配置を示す図であり、(a)は上面図、(b)は正面図である。図1に示すように、エレベータのかご室1は大きく分けて天井2、壁3、床4、扉5を組み合わせて構成されている。天井2、壁3、床4はボルトで締結され一体化されている。図2に示すように、壁3の前方側には乗降口6を形成する周囲枠部7が設けられている。扉5は、周囲枠部7の上部外側に設けられたレール8にドアハンガー15を介して吊られており、扉5の下部に設けられた戸の足9が周囲枠部7を構成する敷居10の溝10aに係合されていることで、扉5は、図示省略している開閉機構により敷居10に沿って周囲枠部7の近接位置を開閉動作される構造となっている。
【0010】
昇降工程の長いビルにおいては乗客に耳閉感などの不快感を与える可能性があるため、かご室1内を気圧制御する気圧制御装置11が搭載される。また、気圧制御のために気密性が高められたかご室1の場合、停電などで乗客がかご室1内に閉じ込められた際に、酸欠などの問題を発生しないようにするため、非常時にかご室1内を換気するための換気装置12が搭載される。
【0011】
この発明の特徴部分の一つである弾性部材13は、この実施の形態1では図2に示すように周囲枠部7の室外側表面部の直線部分に設けられた直線状のゴムパッキング材13aと、ゴムパッキング材13a相互の縦横の角部で隣り合うゴムパッキング材13a相互を連結する連結部弾性材13bによって構成されている。なお、図のように扉5が両開き式の場合は戸当り部5aにもゴムパッキング材13aを設置する。弾性部材13は、ゴムの押し当て量調整や交換作業のし易さなどを考慮し、扉5の上部、下部、足部、戸当り部5a、のように複数に分割することは好ましく、この実施の形態1では直線状のゴムパッキング材13aを図2(b)のように分割配置されている。
【0012】
ゴムパッキング材13aを分割することによって、ゴムパッキング材13a相互の継ぎ目部分に生じる隙間は、連結部弾性材13bを隣り合うゴムパッキング材13aの面方向外側に、双方のゴムパッキング材13aに跨るように重ねて設置することによって気密に塞がれる。また、ゴムパッキング材13a及び連結部弾性材13bの厚さは互いに同一とし、周囲枠部7の外側の面と扉5の間の隙間を埋める程度で、扉5の開閉に支障のない寸法とすることが望ましい。また、扉5のかご室内側の化粧面の状態にもよるが、扉5の開閉過程で弾性部材13と部分的に摺動する程度にしても良い。なお、扉5の下側部分は周囲枠部7の室外側表面部とは対向されない部分があるので、例えばゴムパッキング材13aを扉5の下面から溝10aの中に入り込むように装着することで隙間が塞がれる(図示省略)。
【0013】
上記弾性部材13を構成するゴムパッキング材13a及び連結部弾性材13bとして用いられる素材は特に限定されるものではなく、互いに同一の素材であっても、異なる素材であっても差し支えない。特にゴム弾性を有するものは好ましく用いることができ、例えばシリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ニトリルゴムなどの各種合成ゴムや、天然ゴムなどを挙げることができる。また、弾性部材13の形状としては、例えば板状のゴム材、例えば断面がD字形状等各種断面形状の型ゴム材、テープ状のスポンジゴム材料などは何れも好ましく用いることができる。また、上記弾性部材13の固定手段は特に限定されるものではないが、例えば接着剤や両面接着テープなどによって固定することができる。なお、スポンジゴム材料の場合、内部の気泡が相互に独立した通気性のないものが望ましい。
【0014】
図3は、図2に示されたかご室に電磁石装置を付加したときの配置を示す図であり、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は側面から見た要部断面図である。この発明の特徴部分の他の一つである電磁石装置を構成する電磁石14は、周囲枠部7を構成する袖壁7a内における、閉合時の扉5に対向する面に扉5に近接させて設置されている。この例では左右の袖壁7aの上下に一か所ずつ合計4か所に設置されている。なお、電磁石14を構成するヨーク、電磁コイル、あるいは電磁石装置を構成する配線、制御装置などは図示省略している。また、扉5の全部または少なくとも電磁石14に対向する部分は磁性体からなるものとする。気圧制御装置11、換気装置12、及びその他の構成は従来のエレベータのかご室と同様であるので説明を省略する。
【0015】
次に、上記のように構成された実施の形態1の動作について説明する。エレベータの扉5が閉合されると、電磁石14が付勢され、磁性体からなる扉5が電磁力によってかご室1の周囲枠部7側に引き付けられ、ゴムパッキング材13a及び連結部弾性材13bからなる弾性部材13が周囲枠部7と扉5の間で圧縮され、ゴムパッキング材13a及び弾性部材13の密度が上がり、扉5の周りの隙間が遮蔽される。エレベータ昇降中に昇降路からかご室1内に進入する騒音の流入経路は壁3や扉5などの遮音壁から透過する騒音だけでなく、扉周りや締結部などの隙間から侵入する騒音もある。そのため、遮音性能の高いかご室1を実現するには扉周りや締結部などの隙間を極力小さくする必要がある。なお、電磁石14の動作を気圧制御装置11と連動させるようにしても良い。
【0016】
この実施の形態1では、乗降口6の周囲枠部7と扉5との間に介在させた弾性部材13が、電磁石14によって引き寄せられた扉5によって周囲枠部7との間で圧縮され密閉が図られる。これにより、かご室1が気密になり遮音性能が向上される。また、かご室1が気密になることでかご室1内を気圧制御する際に必要な風量が小さくなり、気圧制御装置11の図示省略している送風機の回転数は小さくなるように制御され、気圧制御装置11の騒音も低減する。また、送風機の回転数が小さくなることで、消費電力も低減されるように動作する。
【0017】
上記のように、実施の形態1によれば、乗降口6の周囲枠部7と扉5との間に弾性部材13を介在させ電磁石装置によって扉5を周囲枠部7に引き寄せることで弾性部材13を圧縮して密閉を図るようにしたので、エレベータ昇降中の圧力変動やかご室内の気圧制御による気圧差で扉5に力が加えられても、扉5が動かないため気密性を保持できる。また、かご室1が気密になるため、かご室1の遮音性能が向上する。また、かご室1の隙間が小さくなると、かご室内を気圧制御する送風機からかご室に給排気する風量が小さくできるため、送風機の騒音・消費電力を低減できる。また、弾性部材13は扉1の開閉方向に直交する方向に弾性変形するように取り付けたので、弾性部材13が効果的に圧縮されるため、密度が高くなり遮音性能を容易に向上させることができる。
【0018】
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2に係るエレベータのかご室について図4、図5を用いて説明する。なお、図4はこの発明の実施の形態2に係るエレベータのかご室を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面から見た要部断面図である。図5はかご室における騒音の流入経路を概念的に説明する図であり、(a)は比較のための実施の形態1の場合、(b)は実施の形態2の場合を示す要部断面図である。なお、この実施の形態2はドアハンガーに弾性部材とその支持部材、及び電磁石を追加して、遮音性能を更に向上させるようにしたものである。
【0019】
図において、板状のドアハンガー15のかご室1側には、鉄系の磁性材料からなる支持部材16が突設され、該支持部材16の突出端部には周囲枠部7の上部外側面との隙間を塞ぐ上部弾性部材13cが扉1の幅方向に設けられている。なお、上部弾性部材13cは連結部弾性材13bと同様の材質のものを用いることができる。上部弾性部材13cの固定位置は周囲枠部7の上部外側面としても良い。そして、周囲枠部7の支持部材16に対向する部分には電磁石14Aが左右の扉5に一対ずつ計4個設置されている。なお、電磁石14Aは、他の4個の電磁石14と同時にON、OFFされる。その他の構成は実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0020】
上記のように構成された実施の形態2においては、エレベータの扉5が閉合されると同時に、電磁石14、14Aが付勢される。これにより、磁性体からなる扉5とドアハンガー15が電磁力によってかご室1の周囲枠部7側に同時に引き付けられ、ゴムパッキング材13a、連結部弾性材13b、及び上部弾性部材13cからなる弾性部材13が周囲枠部7と扉5の間、及び周囲枠部7と支持部材16の間でそれぞれ圧縮され、共に密度が上がり、扉5とかご室1間の隙間が塞がれる。これにより、かご室1が気密になり遮音性能が増す。
【0021】
また、ドアハンガー15とかご室1間の隙間も塞がれることにより、騒音の進入経路は、図5(a)の矢印A1で示す実施の形態1の場合に比べて、実施の形態2では図5(b)の矢印A2で示すように、扉5の上部が二重に遮音されるため、遮音性能が実施の形態1の場合よりも更に向上するという効果が得られる。また、4個の電磁石14Aの内、中央部の2個が扉5の戸当り部5a近傍を周囲枠部7側に引き寄せるので、弾性部材13におけるドア幅方向中央部が効果的に圧縮され、気密性が向上する。
【0022】
なお、上記実施の形態1、2では、弾性部材13をかご室1の周囲枠部7の室外側表面に固定したが、扉5における周囲枠部7の室外側表面に対向する面に固定しても良い。また、弾性部材13をゴムパッキング材13aと連結部弾性材13bによって構成したが、曲げ部を円弧状に形成するなどにより弾性部材13を一様に貼り付けることで、任意の1種類の弾性材料のみで構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 かご室、 2 天井、 3 壁、 4 床、 5 扉、 5a 戸当り部、 6 乗降口、 7 周囲枠部、 7a 袖壁、 8 レール、 9 戸の足、 10 敷居、 10a 溝、 11 気圧制御装置、 12 換気装置、 13 弾性部材、 13a ゴムパッキング材、 13b 連結部弾性材、 13c 上部弾性部材、 14、14A 電磁石、 15 ドアハンガー、 16 支持部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かご室の乗降口を形成する周囲枠部と、この周囲枠部に近接して設けられ上記乗降口を開閉する扉と、上記周囲枠部に設けられ所定時に上記扉を上記周囲枠部の方向に磁力により引き寄せる電磁石装置と、上記周囲枠部と上記扉の間に介在され上記電磁石装置が上記扉を引き寄せたときに上記周囲枠部と上記扉の間の隙間を遮蔽する弾性部材を備えたことを特徴とするエレベータのかご室。
【請求項2】
上記弾性部材は、上記周囲枠部または上記扉の直線部分に設けられた直線状のゴムパッキング材と、該ゴムパッキング材相互の縦横の角部に設けられた該ゴムパッキング材相互を連結する連結部弾性材からなることを特徴とする請求項1に記載のエレベータのかご室。
【請求項3】
上記扉を吊下げるドアハンガーと上記周囲枠部の間に上記弾性部材を配設すると共に、上記ドアハンガーを上記周囲枠部に引き寄せる電磁石装置を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエレベータのかご室。
【請求項4】
上記かご室の昇降時に上記電磁石装置を付勢して上記扉を上記周囲枠部の方向に吸引するようにしたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のエレベータのかご室。
【請求項5】
上記かご室内の気圧を制御する気圧制御装置を備え、上記電磁石装置を上記気圧制御装置に連動して動作するようにしたことを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載のエレベータのかご室。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate