説明

エレベータのドア制御装置

【課題】少ないメモリ容量でも、階床毎に適切なトルク閾値を設定することができるエレベータのドア制御装置を提供する。
【解決手段】エレベータのドアを駆動するモータの回転速度がドアの開閉方向の位置に対応した速度指令値に追従するように、モータへのトルク指令値を出力する駆動制御手段と、モータのトルクが過剰であることを判断するためにトルク指令値にオフセット値を加算したトルク閾値を求める際の基準として、ドアの開閉方向の各位置に対応した複数の基準トルク閾値を記憶した記憶手段と、階床毎に、ドアの開閉方向の各位置に対し、基準トルク閾値に対応した基準トルク指令値に対するトルク指令値の比率に対応する値を算出する算出手段と、ドアの開閉方向の位置に対応した基準トルク閾値からオフセット値を差し引いた差分を求め、差分に比率を乗じたものにオフセット値を加えた値を、階床毎のドアの開閉方向の位置に対応したトルク閾値とするトルク閾値算出手段と、とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータのドア制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータのドア制御装置は、ドアモータのトルク指令値と所定のトルク閾値とを比較して、モータへの過負荷を判定する。これにより、ドア間への人や物の挟まれや引き込まれを検知することができる。人や物の挟まれや引き込まれの検知精度を向上させるため、階床毎に、ドアの位置等を条件としてトルク閾値をきめ細かく分割して設定するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−110096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エレベータは、階床毎にドア開閉時の速度やドアへの負荷が変化する。このため、特許文献1記載のものは、階床毎に、複数のトルク閾値を記憶する必要がある。すなわち、トルク閾値を設定するために、多くのメモリ容量が必要となる。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、少ないメモリ容量でも、階床毎に適切なトルク閾値を設定することができるエレベータのドア制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るエレベータのドア制御装置は、エレベータのドアを駆動するモータの回転速度が前記ドアの開閉方向の位置に対応した速度指令値に追従するように、前記モータへのトルク指令値を出力する駆動制御手段と、前記モータのトルクが過剰であることを判断するために前記トルク指令値にオフセット値を加算したトルク閾値を求める際の基準として、前記ドアの開閉方向の各位置に対応した複数の基準トルク閾値を記憶した記憶手段と、前記階床毎に、前記ドアの開閉方向の各位置に対し、前記基準トルク閾値に対応した基準トルク指令値に対するトルク指令値の比率に対応する値を算出する算出手段と、前記ドアの開閉方向の位置に対応した基準トルク閾値から前記オフセット値を差し引いた差分を求め、前記差分に前記比率を乗じたものに前記オフセット値を加えた値を、前記階床毎のドアの開閉方向の位置に対応したトルク閾値とするトルク閾値算出手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、少ないメモリ容量でも、階床毎に適切なトルク閾値を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1におけるエレベータのドア制御装置の正面図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるエレベータのドア制御装置のブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1におけるエレベータのドア制御装置が利用されるエレベータのドアが通常動作した場合の速度パターンとトルクパターンを説明するための図である。
【図4】この発明の実施の形態1におけるエレベータのドア制御装置が利用されるエレベータのドアの速度指令値が変化した場合の速度パターンとトルクパターンを説明するための図である。
【図5】この発明の実施の形態1におけるエレベータのドア制御装置の動作を説明するための図である。
【図6】この発明の実施の形態2におけるエレベータのドア制御装置のブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態2におけるエレベータのドア制御装置が利用されるエレベータのドアの質量が階床毎に異なる場合のトルクパターンを説明するための図である。
【図8】この発明の実施の形態2におけるエレベータのドア制御装置の動作を説明するための図である。
【図9】この発明の実施の形態3におけるエレベータのドア制御装置のブロック図である。
【図10】この発明の実施の形態3におけるエレベータのドア制御装置が利用されるエレベータのドアの速度指令値と質量が階床毎に異なる場合のトルクパターンを説明するための図である。
【図11】この発明の実施の形態3におけるエレベータのドア制御装置の動作を説明するための図である。
【図12】この発明の実施の形態4におけるエレベータのドア制御装置のブロック図である。
【図13】この発明の実施の形態4におけるエレベータのドア制御装置が利用されるエレベータのドアの質量が階床毎に異なる場合のトルクパターンを説明するための図である。
【図14】この発明の実施の形態4におけるエレベータのドア制御装置の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明を実施するための形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0010】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1におけるエレベータのドア制御装置の正面図である。
エレベータの昇降路(図示せず)は、建築物の各階床を貫くように形成される。各階床では、昇降路近傍に乗場(図示せず)が形成される。昇降路内には、乗客カゴ(図示せず)が設けられる。乗客カゴには、制御ケーブル(図示せず)を介して制御装置1が接続される。制御装置1での制御により、乗客カゴは、各階床間を移動する。
【0011】
各乗場と昇降路との間には、乗場出入口(図示せず)が形成される。乗場出入口には、乗場戸(図示せず)が設けられる。乗客カゴの乗場側には、カゴ出入口(図示せず)が形成される。カゴ出入口には、ドア制御装置2が設けられる。ドア制御装置2は、カゴ戸3、戸開閉機構4、戸駆動機構5からなる。
【0012】
カゴ戸3は、カゴ出入口を開閉するように設けられる。具体的には、カゴ戸3は、中央開きとなるように対をなして設けられる。カゴ戸3の上方に、戸開閉機構4が設けられる。
【0013】
戸開閉機構4は、懸架部材6、ハンガーローラ7、レール8、プーリ9、ベルト10、連結部材11を備える。懸架部材6は、カゴ戸3の上部に固定される。ハンガーローラ7は、懸架部材6の上部に配設される。レール8は、カゴ戸3の上方に配設される。プーリ9は、レール8の上方で水平方向に所定間隔だけ離れて配置される。ベルト10は、プーリ9を周回するように配設される。
【0014】
連結部材11の一方の一端は、プーリ9の上側で、ベルト10の所定位置に固定される。連結部材11の一方の他端は、懸架部材6の一方に固定される。連結部材11の他方の一端は、プーリ9の下側で、ベルト10の所定位置に固定される。連結部材11の双方の他端は、懸架部材6の他方に固定される。
【0015】
戸駆動機構5は、モータ12、パルスエンコーダ13、制御ユニット14を備える。モータ12は、回転軸を介してプーリ9を回転駆動する機能を備える。パルスエンコーダ13は、モータ12の回転をパルスに変換する機能を備える。
【0016】
制御ユニット14は、パルスエンコーダ13が出力したパルスに基づいて、カゴ戸3の位置に対応する速度指令値とドアの速度とを演算処理する機能を備える。制御ユニット14は、演算処理結果に基づいて、モータ12に対するトルク指令値を算出する機能を備える。制御ユニット14は、トルク指令値に基づいて、モータ12を制御する制御信号を出力する機能を備える。
【0017】
このようなエレベータにおいては、乗客カゴが乗場に隣接して配置されると、カゴ戸3の一部と乗場戸の一部とがかみ合う。この状態で、制御ユニット14によりモータ12が駆動する。この駆動により、プーリ9が回転する。この回転により、ベルト10が移動する。このとき、プーリ9の上側では、ベルト10が左右の一方に移動する。これに対し、プーリ9の下側では、ベルト10が左右の他方に移動する。
【0018】
この移動に伴って、連結部材11は、互いに反対方向に移動する。この移動に伴って、懸架部材6は互いに反対方向に移動する。この移動に伴って、カゴ戸3は互いに反対方向に移動する。この際、ハンガーローラ7はレール8上を走行する。このため、カゴ戸3はカゴ出入口を円滑に開閉する。この開閉に伴って、一対の乗場戸は互いに反対方向に移動する。この移動により、乗場戸は乗場出入口を開閉する。このように、カゴ戸3と乗場戸は連動し、エレベータのドアとして機能する。
【0019】
次に、図2を用いて、制御ユニット14を具体的に説明する。
図2はこの発明の実施の形態1におけるエレベータのドア制御装置のブロック図である。
【0020】
図2に示すように、制御ユニット14は、入出力ポート15、パルスカウントユニット16、ROM17、戸位置検出部18、戸速度検出部19、モータ負荷検出部20、戸駆動制御部21、トルク指令値制限部22、RAM23、速度指令値変化率判断部24、トルク閾値算出部25を備える。
【0021】
入出力ポート15は、制御装置1との間で情報を送受信する機能を備える。パルスカウントユニット16は、パルスエンコーダ13から入力されるパルスをカウントする機能を備える。ROM17は、予め定められた基準速度指令値のパターンを記憶する記憶手段として機能する。
【0022】
戸位置検出部18は、パルスカウントユニット16で求まるパルスカウントからドアの位置を求める機能を備える。戸速度検出部19は、パルスカウントユニット16で求まるパルスカウントからドアの速度を求める機能を備える。モータ負荷検出部20は、ドアの位置に基づきROM17に記憶されている速度指令値を読み出し、速度指令値と戸速度検出部19で求まるドアの速度との偏差からトルク指令値を算出する機能を備える。
【0023】
戸駆動制御部21は、制御装置1からの指令とトルク指令値に基づいて、モータ12への開閉駆動指令を制御する機能を備える。トルク指令値制限部22は、トルク指令値が過剰に大きくなってドアに過大な力が働くことを防ぐべく、トルク指令値に一定の余剰幅を持たせたトルク閾値を基準にして、戸駆動制御部21の動作を制限する機能を備える。
【0024】
RAM23は、制御ユニット14での演算データや通常負荷時のドアの速度や基準トルク指令値を一時的に記憶する機能を備える。RAM23は、基準トルク指令値に所定のオフセット値を加算した値を基準トルク閾値のパターンとして記憶する記憶手段として機能する。この基準トルク指令値のパターンはきめ細かく設定される。例えば、基準トルク指令値のパターンは、ドアの各位置に対応して50個のデータからなる。
【0025】
速度指令値変化率判断部24は、階床毎に、ドアの開閉方向の各位置に対し、基準トルク閾値に対応した基準トルク指令値に対するトルク指令値の比率に対応する値を算出する比率算出手段として機能する。具体的には、モータ12に対する速度指令値における、加速部、最高速部、減速部の位置毎に、それぞれの位置における加減速度の基準となる基準速度指令値からの変化率を求める機能を備える。すなわち、速度指令値変化率判断部24は、基準速度指令値から求まる加減速度に対する階床毎のドアの開閉方向の位置の速度指令値から求まる加減速度の比率を算出する。
【0026】
トルク閾値算出部25は、速度指令値変化率判断部24で求めた速度指令値変化率を基準トルク閾値に対してオフセット値を中心に掛け合わせることで、対象階床のトルク閾値を求める機能を備える。具体的には、以下のように、対象階床のトルク閾値が求められる。
【0027】
まず、トルク閾値算出部25は、基準トルク閾値からオフセット値を差し引いた差分を求める。その後、トルク閾値算出部25は、上記差分に上記比率を乗じたものにオフセット値を加え、階床毎のドアの開閉方向の位置に対応した複数のトルク閾値を算出する。
【0028】
次に、図3を用いて、基準トルク閾値を説明する。
図3はこの発明の実施の形態1におけるエレベータのドア制御装置が利用されるエレベータのドアが通常動作した場合の速度パターンとトルクパターンを説明するための図である。図3の横軸は時間である。図3の上段の縦軸はドアの速度である。図3の下段の縦軸はモータ12のトルクである。
【0029】
図3の上段において、W01は基準速度指令値のパターンである。基準速度指令値のパターンW01において、時刻「全閉」から「P11」までは、加速部である。加速部では、ドアの加速度が一定となる。時刻「P11」から「P21」までは最高速部である。最高速部では、ドア速度が最高速度で一定となる。時刻「P21」から「全開」までは減速部である。減速部では、ドアの減速度が一定となる。
【0030】
W04はドアの実速度のパターンである。ドアの実速度のパターンと基準速度指令値のパターンとの偏差に基づいて、トルク指令値W00が算出される。具体的には、加速部において、トルク指令値W00のパターンは、上側に凸状となり、プラスの値となる。最高速部において、トルク指令値W00のパターンは、ほぼ零となる。減速部において、トルク指令値W00のパターンは、下側に凸状となり、マイナスの値となる。
【0031】
W02は基準トルク閾値のパターンである。基準トルク閾値のパターンW02は、トルク指令値のパターンW00にオフセット値を加算したものである。オフセット値は、加速部、最高速部、減速部の全てで共通の値である。
【0032】
次に、図4を用いて、階床毎に速度指令値が変化する場合のトルク閾値の算出方法を説明する。
図4はこの発明の実施の形態1におけるエレベータのドア制御装置が利用されるエレベータのドアの速度指令値が変化した場合の速度パターンとトルクパターンを説明するための図である。図4の横軸及び縦軸は、図3と同様である。
【0033】
B03は図3で説明したオフセット値である。W11はある階床での速度指令値のパターンである。速度指令値のパターンW11において、時刻「全閉」から「P12」までは加速部である。時刻「P12」から「P22」までは最高速部である。時刻「P22」から「全開」までは減速部である。
【0034】
ここで、ドアの加減速度は、モータ12の角加減速度に比例する。モータ12の角加減速度は、モータ12のトルクに比例する。すなわち、ドアの加減速度は、モータ12のトルクに比例する。従って、加速部、最高速部、減速部で、基準トルク指令値のパターンW00に、速度指令値のパターンW01から求まる加減速度に対する速度指令値のパターンW11から求まる加減速度の比率を乗ずれば、本階床でのモータ12のトルクに相当するものとなる。
【0035】
基準トルク指令値のパターンW00は、基準トルク閾値のパターンW02からオフセット値B03を差し引いた差分である。すなわち、上記差分に上記比率を乗じたものは、本階床でのモータ12のトルクに相当するものとなる。従って、本階床でのモータ12のトルクに相当するものにオフセット値B03を加算すれば、本階床でのモータ12のトルクに適切に対応するトルク閾値のパターンW12が求まる。
【0036】
次に、図5を用いて、階床毎に対応したトルク閾値の算出手順を説明する。
図5はこの発明の実施の形態1におけるエレベータのドア制御装置の動作を説明するための図である。
【0037】
まず、ステップS1で、ドアが開閉中か否かが判断される。ドアが開閉中でない場合は、当該判断が繰り返される。これに対し、ドアが開閉中の場合は、ステップS2に進む。ステップS2では、モータ12に対する速度指令値における、加速部、最高速部、減速部の位置毎に、それぞれの位置における加減速度の基準速度指令値からの変化率が求められる。
【0038】
その後、ステップS3に進み、対象階床のトルク閾値が求められる。具体的には、基準トルク閾値からオフセット値を差し引いた差分に、基準速度指令値からの変化率が掛け合わされる。この値に、オフセット値が加算され、対象階床のトルク閾値が求められる。その後、ステップS4に進み、トルク閾値がトルク指令値との比較に用いられ、ステップS1に戻る。
【0039】
以上で説明した実施の形態1によれば、ドアの開閉方向の位置に対応した基準トルク閾値からオフセット値を差し引いた差分が求められる。この差分に、基準トルク閾値に対応した基準トルク指令値に対するトルク指令値の比率に対応する値が掛け合わされる。この値にオフセット値を加えた値が、階床毎のドアの開閉方向の位置に対応したトルク閾値となる。このため、少ないメモリ容量でも、階床毎に適切なトルク閾値を設定することができる。
【0040】
また、本実施の形態でトルク閾値を求める際に利用される比率は、基準トルク指令に対応したドアの開閉方向の位置の速度指令値から求まる加減速度に対する階床毎のドアの開閉方向の位置の速度指令値から求まる加減速度の比率である。この場合、階床毎のトルク閾値を求めるために記憶する必要があるデータは、基準トルク閾値のデータ、基準速度指令値のデータ、オフセット値のみである。このため、階床毎に速度指令値が異なる場合においても、階床毎のトルク指令値のパターンに酷似したトルク閾値をRAM23等に保存することなく得ることができる。
【0041】
実施の形態2.
図6はこの発明の実施の形態2におけるエレベータのドア制御装置のブロック図である。なお、実施の形態1と同一又は相当部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0042】
実施の形態1においては、速度指令値変化率判断部24が設けられていた。一方、実施の形態2においては、扉質量変化率判断部26が設けられている。ROM17は、カゴ戸3の質量データと階床毎の乗場戸の質量データを記憶する。
【0043】
次に、図7を用いて、階床毎にドアの重量が変化する場合の一例として、ドアが重い場合のトルク閾値の算出方法を説明する。
図7はこの発明の実施の形態2におけるエレベータのドア制御装置が利用されるエレベータのドアの質量が階床毎に異なる場合のトルクパターンを説明するための図である。図7の横軸及び縦軸は、図4の下段の横軸及び縦軸と同様である。
【0044】
モータ12のトルクは、カゴ戸3の質量と乗場戸の質量との合計値に比例する。従って、加速部、最高速部、減速部で、基準トルク指令値のパターンW00に、基準となるドアの質量に対する本階床のドアの質量の比率(変化率)を乗ずれば、本階床でのトルク指令値のパターンW20に相当するものとなる。
【0045】
基準トルク指令値のパターンW00は、基準トルク閾値のパターンW02からオフセット値B03を差し引いた差分である。すなわち、上記差分に上記比率を乗じたものは、本階床でのトルク指令値のパターンW20に相当するものとなる。従って、本階床でのトルク指令値のパターンW20に相当するものにオフセット値B03を加算すれば、本階床でのモータ12のトルクに適切に対応するトルク閾値のパターンW22が求まる。
【0046】
次に、図8を用いて、階床毎に対応したトルク閾値の算出手順を説明する。
図8はこの発明の実施の形態2におけるエレベータのドア制御装置の動作を説明するための図である。
【0047】
まず、ステップS11で、ドアが開閉中か否かが判断される。ドアが開閉中でない場合は、当該判断が繰り返される。これに対し、ドアが開閉中の場合は、ステップS12に進む。ステップS12では、基準ドア質量データに対する対象階床のドア質量データの変化率が求められる。
【0048】
その後、ステップS13に進み、対象階床のトルク閾値が求められる。具体的には、基準トルク閾値からオフセット値を差し引いた差分に、基準ドア質量データからの変化率が掛け合わされる。この値に、オフセット値が加算され、対象階床のトルク閾値が求められる。その後、ステップS14に進み、トルク閾値がトルク指令値との比較に用いられ、ステップS11に戻る。
【0049】
以上で説明した実施の形態2によれば、トルク閾値を求める際に利用される比率は、基準トルク閾値に対応したドアの質量に対する階床毎のドアの質量の比率である。この場合、階床毎のトルク閾値を求めるために記憶する必要があるデータは、基準トルク閾値のデータ、基準ドア質量データ、階床毎のドア質量データ、オフセット値のみである。このため、階床毎の乗場戸の質量が異なる場合であっても、階床毎のトルク指令値のパターンに酷似したトルク閾値をRAM23等に保存することなく得ることができる。
【0050】
実施の形態3.
図9はこの発明の実施の形態3におけるエレベータのドア制御装置のブロック図である。なお、実施の形態1と同一又は相当部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0051】
図9に示すように、実施の形態3には、実施の形態1の速度指令値変化率判断部24と実施の形態2の扉質量変化率判断部26の双方が設けられる。
【0052】
次に、図10を用いて、階床毎に速度指令値とドアの質量が変化する場合のトルク閾値の算出方法を説明する。
図10はこの発明の実施の形態3におけるエレベータのドア制御装置が利用されるエレベータのドアの速度指令値と質量が階床毎に異なる場合のトルクパターンを説明するための図である。図9の横軸及び縦軸は、図4の下段の横軸及び縦軸と同様である。
【0053】
実施の形態3においては、図4のトルク指令値のパターンW02と図7のトルク指令値のパターンW20を組み合わせることで、トルク指令値のパターンW30を得ることができる。このトルク指令値のパターンW30にオフセット値B03を加算すれば、本階床でのモータ12のトルクに適切に対応するトルク閾値のパターンW32が求まる。
【0054】
次に、図11を用いて、階床毎に対応したトルク閾値の算出手順を説明する。
図11はこの発明の実施の形態3におけるエレベータのドア制御装置の動作を説明するための図である。
【0055】
まず、ステップS21で、ドアが開閉中か否かが判断される。ドアが開閉中でない場合は、当該判断が繰り返される。これに対し、ドアが開閉中の場合は、ステップS22に進む。ステップS22では、モータ12に対する速度指令値における、加速部、最高速部、減速部の位置毎に、それぞれの位置における加減速度の基準速度指令値からの変化率が求められる。その後、ステップS23に進み、基準ドア質量データに対する対象階床のドア質量データの変化率が求められる。
【0056】
その後、ステップS24に進み、対象階床のトルク閾値が求められる。具体的には、基準トルク閾値からオフセット値を差し引いた差分に、基準速度指令値からの変化率と基準ドア質量データからの変化率とが掛け合わされる。この値に、オフセット値が加算され、対象階床のトルク閾値が求められる。その後、ステップS25に進み、トルク閾値がトルク指令値との比較に用いられ、ステップS21に戻る。
【0057】
以上で説明した実施の形態3によれば、ドアの加減速度とドアの質量の双方を考慮して、階床毎に対応したトルク閾値が設定される。このため、階床毎に速度指令値やドアの質量が異なる場合においても、階床毎のトルク指令値のパターンに酷似したトルク閾値をRAM23等に保存することなく得ることができる。
【0058】
実施の形態4.
図12はこの発明の実施の形態4におけるエレベータのドア制御装置のブロック図である。なお、実施の形態1と同一又は相当部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0059】
図12において、27はトルク指令値学習部である。トルク指令値学習部27は、各階床の加速部のみの基準となるきめ細かなトルク指令値のパターンを学習する学習手段として機能する。例えば、各階床の加速部のみの基準となるトルク指令値のパターンのデータ数は、ドアの各位置の分割数の1/3程度となる。28はトルク指令値変化率判断部である。トルク指令値変化率判断部28は、加速部以外で、基準トルク閾値に対する加速部のトルク閾値の最大値の比率を求める機能を備える。
【0060】
次に、図13を用いて、階床毎にドアの重量が変化する場合の一例として、ドアが重い場合のトルク閾値の算出方法を説明する。
図13はこの発明の実施の形態4におけるエレベータのドア制御装置が利用されるエレベータのドアの質量が階床毎に異なる場合のトルクパターンを説明するための図である。図13の横軸及び縦軸は、図4の下段の横軸及び縦軸と同様である。
【0061】
全閉位置から加速終了位置までの加速部においては、ドアの負荷状態により、階床毎にトルク指令値が変化しやすい。これに対し、本実施の形態の加速部においては、トルク指令値学習部27が実動作時のトルク指令値のパターンW43を所定幅の位置点毎のデータとして学習する。この学習結果は、RAM23に記憶される。これらのデータに対して、オフセット値B03が加算されて、階床毎のドアの開閉方向の位置に対応した複数のトルク閾値が求められる。
【0062】
一方、加速部以外では、基準トルク閾値のパターンW02からオフセット値B03を差し引いた差分が求められる。この差分は、基準トルク指令値のパターンW00に相当するものである。この基準トルク指令値のパターンW02に相当するものにトルク指令値変化率判断部28が求めた比率が掛け合わされる。この値にオフセット値B03を加算した値が階床毎のドアの開閉方向の位置に対応したトルク閾値となる。
【0063】
次に、図14を用いて、階床毎に対応したトルク閾値の算出手順を説明する。
図14はこの発明の実施の形態4におけるエレベータのドア制御装置の動作を説明するための図である。
【0064】
まず、ステップS31で、ドアが開閉中か否かが判断される。ドアが開閉中でない場合は、当該判断が繰り返される。これに対し、ドアが開閉中の場合は、ステップS32に進む。ステップS32では、加速部におけるトルク指令値は学習済みか否かが判断される。加速部におけるトルク指令値の学習が済んでいない場合は、ステップS33に進む。ステップS33では、加速部におけるトルク指令値が学習され、ステップS31に戻る。
【0065】
これに対し、ステップS32で加速部におけるトルク指令値の学習が済んでいる場合は、ステップS34に進む。ステップS34では、ドアの現在位置は加速部か否かが判断される。ドアの現在位置が加速部の場合は、ステップS35に進み、学習した加速部のトルク指令値から、トルク閾値が求められる。その後、ステップS36に進み、トルク閾値がトルク指令値との比較に用いられ、ステップS31に戻る。
【0066】
これに対し、ステップS34でドアの現在位置が加速部以外の場合は、ステップS37に進む。ステップS37では、基準トルク閾値に対する加速部におけるトルク閾値の最大値の比率が求められ、ステップS38に進む。
【0067】
ステップS38では、加速部以外でのトルク閾値が求められる。具体的には、基準トルク閾値からオフセット値を差し引いた差分に、基準トルク閾値に対する加速部におけるトルク閾値の最大値の比率が掛け合わされる。この値に、オフセット値が加算され、対象階床のトルク閾値が求められる。その後、ステップS36に進み、トルク閾値がトルク指令値との比較に用いられ、ステップS31に戻る。
【0068】
以上で説明した実施の形態4によれば、各階床の加速部においては、きめ細かなトルク指令値が学習される。この場合、階床毎のトルク閾値を求めるために記憶する必要があるデータは、基準トルク閾値のデータ、階床毎の加速部におけるトルク指令値、オフセット値のみである。このため、階床毎の乗場戸の質量が異なる場合であっても、機械系の影響を受けやすい加速部においては、精度よくトルク閾値が設定される。これに対し、各階床の加速部以外においては、適度な精度で、階床毎のトルク指令値のパターンに酷似したトルク閾値をRAM23等に保存することなく得ることができる。
【0069】
なお、実施の形態1〜3のドア制御装置2での制御をドアの開動作時に限定する必要はない。すなわち、ドアの閉動作をドア制御装置2で制御してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 制御装置
2 ドア制御装置
3 カゴ戸
4 戸開閉機構
5 戸駆動機構
6 懸架部材
7 ハンガーローラ
8 レール
9 プーリ
10 ベルト
11 連結部材
12 モータ
13 パルスエンコーダ
14 制御ユニット
15 入出力ポート
16 パルスカウントユニット
17 ROM
18 戸位置検出部
19 戸速度検出部
20 モータ負荷検出部
21 戸駆動制御部
22 トルク指令値制限部
23 RAM
24 速度指令値変化率判断部
25 トルク閾値算出部
26 扉質量変化率判断部
27 トルク指令値学習部
28 トルク指令値変化率判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのドアを駆動するモータの回転速度が前記ドアの開閉方向の位置に対応した速度指令値に追従するように、前記モータへのトルク指令値を出力する駆動制御手段と、
前記モータのトルクが過剰であることを判断するために前記トルク指令値にオフセット値を加算したトルク閾値を求める際の基準として、前記ドアの開閉方向の各位置に対応した複数の基準トルク閾値を記憶した記憶手段と、
前記階床毎に、前記ドアの開閉方向の各位置に対し、前記基準トルク閾値に対応した基準トルク指令値に対するトルク指令値の比率に対応する値を算出する比率算出手段と、
前記ドアの開閉方向の位置に対応した基準トルク閾値から前記オフセット値を差し引いた差分を求め、前記差分に前記比率を乗じたものに前記オフセット値を加えた値を、前記階床毎のドアの開閉方向の位置に対応したトルク閾値とするトルク閾値算出手段と、
を備えたことを特徴とするエレベータのドア制御装置。
【請求項2】
前記比率算出手段は、前記比率に対応する値として、前記基準トルク閾値に対応した前記ドアの開閉方向の位置の速度指令値から求まる加減速度に対する前記階床毎のドアの開閉方向の位置の速度指令値から求まる加減速度の比率を算出することを特徴とする請求項1記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項3】
前記比率算出手段は、前記比率に対応する値として、前記基準トルク閾値に対応したドアの質量に対する前記階床毎のドアの質量の比率を算出することを特徴とする請求項1記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項4】
前記比率算出手段は、前記比率に対応する値として、前記基準トルク閾値に対応した前記ドアの開閉方向の位置の速度指令値から求まる加減速度に対する前記階床毎のドアの開閉方向の位置の速度指令値から求まる加減速度の比率に、前記基準トルク閾値に対応したドアの質量に対する前記階床毎のドアの質量の比率を乗じた値を算出することを特徴とする請求項1記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項5】
前記階床毎に、前記ドアを閉状態及び開状態の一方から加速する際のドアの開閉方向の位置に対応した複数のトルク指令値を学習する学習手段、
を備え、
前記比率算出手段は、前記比率に対応する値として、前記学習手段が前記階床毎に学習したトルク指令値の最大値に対応するトルク閾値の前記基準トルク閾値に対する比率を算出し、
前記トルク閾値算出手段は、前記ドアを閉状態及び開状態の一方から加速する際は、前記学習手段に学習された前記階床毎のトルク指令値に前記オフセット値を加算したものを、前記階床毎のドアの開閉方向の位置に対応したトルク閾値とし、前記ドアを閉状態及び開状態の一方から加速する際以外は、前記基準トルク閾値から前記オフセット値を差し引いた差分を求め、前記差分に前記比率を乗じたものに前記オフセット値を加えた値を、前記階床毎のドアの開閉方向の位置に対応したトルク閾値とすることを特徴とする請求項1記載のエレベータのドア制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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