説明

エレベータのロープ張力測定装置

【課題】他のロープの張り具合に依存されずに、各ロープの張力を1本ずつ正確かつ簡便に測定する。
【解決手段】装置本体11の先端部に設けられたフック部材12にロープを引っかけた状態で、Y字形状の本体支持部材17の先端部に形成された一対のアーム18a,18bの一方の端部を上記ロープに押し当て、他方の端部を手前に引くようにして回動することで、フック部材12を介して当該ロープの張力をセンサ13にて測定する。これにより、他のロープの張り具合に依存されずに、各ロープの張力を1本ずつ正確かつ簡便に測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの乗りかごをカウンタウェイトと共に支える複数本のロープ(メインロープ)の張力を測定するためのロープ張力測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの乗りかごは、複数本からなるロープによって支持されており、巻上機の駆動により、これらのロープを介して昇降路内をカウンタウェイトと共に昇降動作する。ここで、乗りかごを安定して昇降動作させるためには、各ロープの張力を均一に調整しておく必要がある。
【0003】
従来、その調整作業に用いられる器具として、例えば特許文献1に開示されているような張力測定装置が知られている。この張力測定装置は、各ロープの任意の1本を移動させることによって、その移動の際に要する力を測定する張力測定部と、この1本のロープ以外の他のロープの位置を基準として、この1本のロープを移動させた際の張力測定部の移動量を測定する移動量測定部とを備える。
【特許文献1】特開2005−345164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の張力測定装置は、隣接する2本のロープを対にして、一方のロープを基準に他方のロープの張力を相対的に測定する構造である。このため、基準となる一方のロープの張りが弱いと、他方のロープを引っ張ったときに一緒に移動してしまい、正確な張力を測定することができないといった問題がある。
【0005】
さらに、測定結果を読み取る間、人手にてロープを引いた状態を維持しておく必要があり、ロープ本数が多い場合にかなり労力を強いられるなどの問題もある。
【0006】
本発明は上記のような点に鑑みなされたもので、他のロープの張り具合に依存されずに、各ロープの張力を1本ずつ正確かつ簡便に測定可能なエレベータのロープ張力測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るエレベータのロープ張力測定装置は、先端部に測定対象となるロープを引っかけるためのフック部材を有し、そのフック部材を介して上記ロープの張力を測定するセンサを内蔵した装置本体と、この装置本体上に設けられ、上記センサにて測定された張力値を表示する表示部と、上記装置本体を載置支持すると共に、先端部から上記フック部材を間に挟んで所定の角度をなして開口された一対のアーム部材を有するY字形状の本体支持部材と、この本体支持部材の後端部に上記一対のアーム部材に対向して設けられ、上記フック部材を支点に上記一対のアーム部材を回動操作するためのハンドル部材とを具備して構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、他のロープの張り具合に依存されずに、各ロープの張力を1本ずつ正確かつ簡便に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0010】
図1は本発明の一実施形態に係るエレベータのロープ張力測定装置を上から見た平面図である。図2は同測定装置を側面から見た側面図、図3は同測定装置を正面から見た正面図である。本発明のロープ張力測定装置は、主としてエレベータの乗りかごを支持する複数本のロープ(メインロープ)の張力を測定するために用いられる。
【0011】
図1乃至図3に示すように、本実施形態におけるロープ張力測定装置は、直方形状の薄型の装置本体11を備える。この装置本体11の先端部には、測定対象となるロープを引っかけるためのフック部材12が取り付けられており、そのフック部材12を介してロープの張力を測定するセンサ13が装置本体11に内蔵されている。
【0012】
このセンサ13は、例えば圧電素子からなり、フック部材12にロープを引っかけたときに発生する復元力を当該ロープの張力として測定し、そのときの力を電気信号に変換して数値化する。
【0013】
装置本体11の正面には、センサ13にて測定された張力値をデジタル表示するための表示部14と、電源をON/OFFするための電源ボタンなどの各種操作ボタンからなる操作部15が設けられている。
【0014】
また、装置本体11は、例えば金属製の薄板からなるY字形状の本体支持部材17によって支持されている。この本体支持部材17は、装置本体11の裏面にネジ16a〜16dを介して固定されている。
【0015】
ここで、本体支持部材17の先端部には、所定の角度をなして開口された一対のアーム18a,18bが形成されており、そのアーム18a,18bの間(Y字の谷部分)にフック部材12が配置されている。
【0016】
アーム18a,18bの端部には、所定の径を有するローラ19a,19bが回転自在に取り付けられている。図2および図3に示すように、このローラ19a,19bの円周部には、測定対象とするロープの径と略同じ幅を有する溝20a,20bが形成されている。
【0017】
ここで、一方のローラ19bを例にして、その取付け部分の構成を説明する。
図4(a)はローラ19bの取付け部分の構成を示す側面図、同図(b)はその断面図である。ローラ19bは、固定用のボルト31と複数個のベアリング32とを備え、ボルト31を軸としてベアリング32を介して回転する。
【0018】
一方、アーム18bの端部には取付け穴34が形成されており、その取付け穴34にボルト31の先端部33が緩み止めのばね座35と溶接ナット36を介して嵌着されている。その際、ボルト31の先端部33が取付け穴34から出ないように内部に納めた状態で固定しておく。ローラ18aについても同様である。これにより、作業時に隣接するロープがローラ19bの取り付け部分に引っかかることを防止することができる。
【0019】
また、図1および図2に示すように、本体支持部材17の後端部に一対のアーム18a,18bに対向させて円筒状のハンドル部材21が設けられている。このハンドル部材21は、作業員が作業を行うときの取っ手となる部分であり、作業員が握りやすい径とフック部材12を支点にアーム18a,18bを回動操作し易い長さを有する。
【0020】
また、本体支持部材17の装置本体11とハンドル部材21との隙間には、所定の径を有する3個の円形状の器具取付け穴22a,22b,22cがハンドル部材21の長手方向に沿って所定の間隔で形成されている。
【0021】
図5に示すように、これらの器具取付け穴22a,22b,22cのうちの任意の1つに落下防止用の器具であるワイヤ41を取付け、そのワイヤ41の一端を近くの部材などに巻き付けておくことで、本装置の落下を防止することができる。
【0022】
なお、器具取付け穴22a,22b,22cの設置場所は、図示のように装置本体11とハンドル部材21との隙間など、ワイヤ41を取付けたときに作業の邪魔にならない場所が好ましい。また、複数個(ここでは3個)の器具取付け穴22a,22b,22cを設けておくことで、その中で作業の邪魔にならない穴を選んでワイヤ41を取り付けることができ、さらに、穴を空けた分だけ装置を軽量化することができる。
【0023】
図6は本体支持部材17とハンドル部材21の寸法を示す図である。
【0024】
本実施形態におけるロープ張力測定装置は、マシンルームレス型のエレベータに用いられるメインロープを測定対象としており、小型・軽量に設計されている。マシンルームレス型のエレベータとは、機械室を必要としないエレベータのことであり、小型のモータを昇降路内に設置するなどして全体的に小型化されている。したがって、メインロープの径も一般的なマシンルーム型のエレベータに比べて細いものが使用される。
【0025】
図6に示すように、Y字形状の本体支持部材17の先端部に形成された一対のアーム18a,18bの先端部間の長さをW1、本体支持部材17の末端部の幅をW2、本体支持部材17の長手方向の幅をW3とすると、W1:280[mm]、W2:98[mm]、W3:240[mm]に設計されている。
【0026】
一方、ハンドル部材21の長手方向の長さをW4とすると、作業時にアーム18a,18bを回動させるときの操作性などを考慮して、W4はW1と略同じ長さか、あるいは若干短めに設計されている。具体的には、W4は260[mm]程度に設計されている。
【0027】
また、アーム18a,18bのそれぞれの先端部に取り付けられたローラ19a,19bの径をR1、本体支持部材17の後端部側に形成された器具取付け穴22a,22b,22cの径をR2とすると、R1:30[mm]、R2:10[mm]である。一方、ハンドル部材21の径をR3とすると、握りやすさを考慮して、例えば27[mm]程度に設計されている。なお、上述した各寸法は一例であり、必ずしも、これに限定されるものではなく、種々変更可能である。
【0028】
次に、図7乃至図10を参照してロープ張力測定装置の使い方について説明する。
【0029】
上述したように、このロープ張力測定装置は小型・軽量に設計されているため、バッグ等に入れて持ち運ぶことができる。作業現場において、作業員はロープ張力測定装置をバッグ等から取り出して、以下のような手順で測定作業を行う。
【0030】
なお、上記作業現場とは昇降路の中である。作業員は昇降路内に入り、乗りかごの上に乗って、そこに吊り下げられている複数本のロープの張力を1本ずつ測定していく。その際、作業中にロープ張力測定装置を誤って落下させてしまうことを防止するため、図5で説明したように、器具取付け穴22a,22b,22cのいずれかにワイヤ41の一端を取り付け、他端を乗りかごの部材や昇降路の部材などに巻き掛けておく。
【0031】
(1)作業員は乗りかごの上に乗り、操作部15の操作により本装置の電源をONにして作業を開始する。まず、図7に示すように、ハンドル部材21の両端を握り、装置本体11を縦向きにした状態(ハンドル部材21を垂直にした状態)で、装置本体11の先端部に取り付けられたフック部材12を測定対象となるロープ51に引っかける。
【0032】
(2)図8に示すように、フック部材12をロープ51に引っかけたまま、下側のローラ19bをロープ51に押し当てる。このとき、ハンドル部材21はロープ51と略平行な状態にある。
【0033】
(3)図9に示すように、ハンドル部材21の上側を手前に傾けて、ロープ51をフック部材12で引っ張りこむように上側のローラ19aを手前に引く。
【0034】
(4)図10に示すように、ハンドル部材21の傾きを戻して、上側のローラ19aをロープ51に押し当てる。これにより、上側のローラ19aと下側のローラ19b、そして、フック部材12の3点で本装置がロープ51に支持されることになり、手を離しても、その状態を維持することができる。
【0035】
ここで、ロープ51はフック部材12に引かれて「く」の字に屈曲しており、元に戻ろうとする力(復元力)が働く。このときの復元力が当該ロープ51の張力としてセンサ13にて計測され、その計測値が表示部14にデジタル表示される。
【0036】
他のロープについても同様の方法で張力を測定していく。これにより、全てのロープ張力の相対関係を把握することができる。なお、復元力はロープ張力と線形の関係となるため、復元力が必ずしもロープ張力の値と同じである必要はない。
【0037】
また、図7乃至図10に示した作業手順では、下側のローラ19bを先にロープ51に当てて上側のローラ19aを手前に引くようにしたが、上側のローラ19aを先にロープ51に当てて、下側のローラ19bを手前に引くことでも良い。
【0038】
このように、本実施形態のロープ張力測定装置では、測定対象となるロープをフック部材12に引っかけた状態で、アーム18a,18bを回動させて引っ張るだけの作業で、当該ロープの張力を簡単に測定することができる。この場合、1本のロープに対して作業を行う構造であるため、隣接するロープの張りの状態に依存されずに、乗りかごを支える1本1本のロープの張力を正確に測定することができる。
【0039】
さらに、構造的に以下のような利点がある。
【0040】
すなわち、薄板の本体支持部材17上に装置本体11を乗せた構造であるため、本装置を軽量化することができる。
【0041】
また、本体支持部材17をY字形状とすることで、他のロープに干渉されずに、測定対象となるロープだけをそのY字の谷間に位置するフック部材12に引っかけて簡単に引っ張ることができる。
【0042】
また、アーム18a,18bの端部に回転自在のローラ19a,19bを取り付けておくことで、アーム18a,18bの端部をロープに押し当てたときに、ロープに対する負荷を軽減できる。さらに、ローラ19a,19bが回転するので、測定箇所をスムーズに変えることができる。
【0043】
また、図10のように、3点支持により本装置をロープに取り付けた状態で、そのロープの張力を表示部14で確認しながら調整作業を行うことができる。
【0044】
また、図4に示したように、ローラ19a,19bに設けられたボルト31の先端部33をアーム18a,18bの端部から突出させない構造により、隣接するロープを引っかけることなく、測定作業を行うことができる。
【0045】
また、アーム18a,18bに対向させて本体支持部材17の後端部にハンドル部材21を設けることで、てこの原理を利用して、軽い力でロープを引くことができる。
【0046】
また、本体支持部材17に落下防止用の器具取付け穴22a,22b,22cを設けておくことで、作業中の落下を防ぐことができる。
【0047】
なお、上記実施形態において、フック部材12を軸方向に回転自在な構成にすることでも良い。このようにすれば、昇降路内の狭い場所でのロープへの引っ掛け作業が容易となる。
【0048】
また、フック部材12の先端部にローラを設け、そのローラにロープを引っかけるような構造にしても良い。このようにすれば、ロープへの負担を軽減できる。
【0049】
その他、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の形態を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を省略してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係るエレベータのロープ張力測定装置を上から見た平面図である。
【図2】図2は同実施形態におけるロープ張力測定装置を側面から見た側面図である。
【図3】図3は同実施形態におけるロープ張力測定装置を正面から見た正面図である。
【図4】図4は同実施形態におけるロープ張力測定装置のローラ取付け部分の構成を示す図である。
【図5】図5は同実施形態におけるロープ張力測定装置の器具取付け穴部分の構成を示す図である。
【図6】図6は同実施形態におけるロープ張力測定装置の本体支持部材とハンドル部材の寸法を示す図である。
【図7】図7は同実施形態におけるロープ張力測定装置の使い方(手順1)を説明するための図である。
【図8】図8は同実施形態におけるロープ張力測定装置の使い方(手順2)を説明するための図である。
【図9】図9は同実施形態におけるロープ張力測定装置の使い方(手順3)を説明するための図である。
【図10】図10は同実施形態におけるロープ張力測定装置の使い方(手順4)を説明するための図である。
【符号の説明】
【0051】
11…装置本体、12…フック部材、13…センサ、14…表示部、15…操作部、16a〜16d…ネジ、17…本体支持部材、18a,18b…アーム、19a,19b…ローラ、20a,20b…溝、21…ハンドル部材、22a,22b,22c…器具取付け穴、31…軸部、32…ベアリング、33…ボルト、34…取付け穴、35…ナット、36…ばね座、41…ワイヤ、51…ロープ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に測定対象となるロープを引っかけるためのフック部材を有し、そのフック部材を介して上記ロープの張力を測定するセンサを内蔵した装置本体と、
この装置本体上に設けられ、上記センサにて測定された張力値を表示する表示部と、
上記装置本体を載置支持すると共に、先端部から上記フック部材を間に挟んで所定の角度をなして開口された一対のアーム部材を有するY字形状の本体支持部材と、
この本体支持部材の後端部に上記一対のアーム部材に対向して設けられ、上記フック部材を支点に上記一対のアーム部材を回動操作するためのハンドル部材と
を具備したことを特徴とするエレベータのロープ張力測定装置。
【請求項2】
上記一対のアーム部材の端部に、上記ロープの径と略同じ幅を有する溝が円周部に形成されたローラが回転自在に設けられていることを特徴とする請求項1記載のエレベータのロープ張力測定装置。
【請求項3】
上記ローラを上記アーム部材の端部に固定するためのボルトの端部が上記アーム部材内に納められていることを特徴とする請求項2記載のエレベータのロープ張力測定装置。
【請求項4】
上記ハンドル部材は、円筒状からなり、上記一対のアーム部材の先端部間と略同じ長さか、あるいは若干短く設計されていることを特徴とする請求項1記載のエレベータのロープ張力測定装置。
【請求項5】
上記本体支持部材上に落下防止用の器具を取り付けるための器具取付け穴が設けられていることを特徴とする請求項1記載のエレベータのロープ張力測定装置。
【請求項6】
上記器具取付け穴は、上記本体支持部材上の上記装置本体と上記ハンドル部材との間に設けられていることを特徴とする請求項5記載のエレベータのロープ張力測定装置。
【請求項7】
上記器具取付け穴は、上記本体支持部材上の上記装置本体と上記ハンドル部材との間に上記ハンドル部材の長手方向に沿って複数個設けられていることを特徴とする請求項6記載のエレベータのロープ張力測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−162602(P2009−162602A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146(P2008−146)
【出願日】平成20年1月4日(2008.1.4)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】