説明

エレベータベルト形成方法

例示的なエレベータベルト形成方法は、複数のテンション部材の各々が他のテンション部材とは別に個々にコーティングされるように、ジャケット材料の個々のコーティングを各テンション部材に適用するステップを含む。個々のコーティングの一部は、テンション部材を固定して所望の配列とし、エレベータベルトの外形状を構成する単一のジャケットを形成するように互いに接合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータベルトの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータシステムは、ビルの異なる階の間に亘って乗客や荷物などを運ぶために有用である。あるエレベータシステムは、トラクション方式のエレベータであり、ロープやベルトなどの耐荷重(ロードベアリング)トラクション部材を用いて、エレベータかごを支持するとともに、エレベータかごの所望の移動および配置を実現する。
【0003】
例示的なベルトは、以下の特許文献1〜3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,295,799号明細書
【特許文献2】米国特許第6,364,061号明細書
【特許文献3】米国特許第6,739,433号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなベルトの製造では、熱可塑性ポリマーによって覆われるコードを支持するように成形ホイールが用いられる。成形ホイールを用いたプロセスの1つの短所は、成形プロセス中に成形ホイールを支持するためベルトのジャケット外面に設けられた溝である。このような溝は不利であると認識されている。
【0006】
周知のベルト成形プロセスに付随する問題点は、ジャケットの適用プロセス時にコードの位置を制御することである。所望のベルト形態を付与するため、このコードの位置を正確に制御し、かつ維持しなくてはならない。さらに、エラストマージャケット材料をコードに固定する際にも問題が生じる。
【0007】
さらに、製造プロセスにおいて、ジャケットの外形状上に良好な制御をもたらすジャケット材料の流れが要求される。このエラストマーの流れに対する要求は、得られるジャケット層の厚さの下限を設定する。線形の押出加工において、実用的なベルトの形成に適した十分に早い線速度で適度な線形の流れを許容するように、十分に広いオリフィスが要求される。成形ホイールでは、各コードを完全かつ均等にコーティングするようにエラストマーを流す必要がある。
【0008】
したがって、エレベータ用の耐荷重トラクション部材として用いられるベルトの製造時に生じ得る上記問題を最小限化または回避することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
例示的なエレベータベルト形成方法は、複数のテンション部材の各々が他のテンション部材とは別に個々にコーティングされるように、ジャケット材料の個々のコーティングを各テンション部材に適用するステップを含む。個々のコーティングの一部は、テンション部材を固定して所望の配列とし、エレベータベルトの外形状を構成する単一のジャケットを形成するように互いに接合される。
【0010】
本発明の特徴および利点は、以下の発明を実施するための形態によって明らかになるであろう。実施例に伴う図面について以下に簡単に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】エレベータシステムの一部を示す概略図。
【図2】例示的な耐荷重エレベータトラクションベルトの斜視図。
【図3】耐荷重エレベータトラクションベルトの形成プロセスの一実施例を示す概略図。
【図4】耐荷重エレベータトラクションベルトの形成プロセスの他の実施例を示す概略図。
【図5】耐荷重エレベータトラクションベルトの形成プロセスの別の実施例を示す概略図。
【図6】耐荷重エレベータトラクションベルトの形成プロセスのさらに別の実施例を示す概略図。
【図7】他の例示的な耐荷重エレベータトラクションベルトの斜視図。
【図8】さらに別の例示的な耐荷重エレベータトラクションベルトの斜視図。
【図9】例示的なベルトの形成に用いられる装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1はトラクションエレベータシステム20の一部を概略的に図示する。昇降路26内において、エレベータかご22および釣り合い錘24は移動可能に支持される。耐荷重(ロードベアリング)トラクションエレベータベルト(以下、LBETBという)30は、エレベータかご22および釣り合い錘24の重量を支持し、かつ駆動装置(図示せず)と相互に作用して、昇降路26内でエレベータかご22を所望のように移動させ配置する。LBETB30は、本発明に開示の方法により製造されるエレベータ用ベルトの1つの例示的な形式である。他の形式のエレベータベルトには、トラクションや推進をもたらすものではなく、テンションまたはサスペンション用に用いられるベルトが含まれる。さらに他の例示的なエレベータベルトは、サスペンション用でなく、推進用に用いられる。
【0013】
図2は1つの例示的なLBETB30を図示する。本実施例には、LBETB30の長さに沿って延びる複数のテンション部材32が含まれる。テンション部材32は、種々の材料から構成され得る。一実施例では、テンション部材32はスチール製のコードを含む。他の実施例では、テンション部材32はポリマー材料を含む。
【0014】
LBETB30は、少なくとも部分的にテンション部材32を覆うジャケット34を含む。図2の実施例では、ジャケット34は、テンション部材32間にジャケット材料を含みつつ各テンション部材32を完全に覆っている。本実施例では、隣接するテンション部材32間のスペースは、ジャケット材料で満たされている。ジャケット34はエラストマーを含む。一実施例として、熱可塑性エレストマーが含まれる。他の実施例では、ジャケット34はウレタンを含む。
【0015】
図3は、図2の実施例に示すベルトを形成する技術を図示する。本実施例では、各テンション部材32は、ジャケット34を構成するのに用いられるジャケット材料のコーティング34’で個々にコーティングされる。個々にコーティングされたテンション部材32は、符号36で示すように個々のコーティング34’の一部を接合することによって互いに接合される。個々のコーティング34’を接合することにより、テンション部材32を固定し、所望のように配列して単一のLBETB30が形成される。結果生じる構造は、ジャケット34の最終形状およびテンション部材32の位置に対応する所望の外形状を有する。
【0016】
一実施例では、個々のコーティング34’を互いに接合することには、隣接するコーティングを接合するように、少なくとも符号36で示す領域の周辺において個々のコーティング34’のジャケット材料を少なくとも部分的に溶かすことが含まれる。一実施例には、コーティングのジャケット材料と隣接するコーティング34’のジャケット材料とを融合(fuse)することによりコーティング34’を接合することが含まれる。他の実施例には、個々のコーティング34’のジャケット材料を溶接することによりコーティング34’を互いに接合することが含まれる。
【0017】
一実施例には、隣接するコーティング34’間のインタフェース36に接着剤を適用して個々のコーティング34’を互いに接着接合することが含まれる。他の実施例には、個々のコーティング34’を接着して固定するように、隣接するコーティング34’の所定の部分上に溶解した熱可塑性プラスチック材料を適用することが含まれる。
【0018】
図2,3の実施例において、テンション部材32は、各テンション部材32の中心線が他のテンション部材の中心線と列をなして実質的に線状に整列する。図2,3の実施例では、LBETB30は、実質的に矩形の断面を有する。しかし、例示的なLBETB30を形成する方法には、他の外形状や断面形状が含まれる。
【0019】
図4は、ジャケットの一方の側と他方の側でジャケットの形状が異なるLBETB30の一実施例を概略的に図示する。
【0020】
図5は、ジャケットの一方の側と他方の側でジャケットの形状が異なるLBETB30の他の実施例を概略的に図示する。
【0021】
図6は、いずれの側においても平面をなしていないLBETB30の他の実施例を概略的に図示する。本実施例では、ジャケットの両側において、ジャケット34の断面に沿って複数の曲線部分を有する。
【0022】
図7は、第1のジャケット材料を用いてコーティング34’を形成し、他のジャケット材料40を用いて個々のコーティング34’の所定の部分を固定する他の実施例を概略的に図示する。本実施例では、図6の実施例に付加的に材料を適用して、LBETB30の少なくとも一方の側を実質的に平面とすることができる。一実施例では、個々のコーティング34’は、付加的な材料40から独立して互いに固定され得る。他の実施例では、付加的な材料40は、各々に対して所望の配置で個々のコーティングを固定するように作用する。
【0023】
図8は、第2の付加的な材料42がジャケット34の外面に固定された他の実施例を概略的に図示する。本実施例では、付加的な材料42は、個々のコーティング34’に用いられるポリマー材料の特性と異なる所定の表面特性を有するファブリックを含む。図8において、例示的なLBETB30の各々の側に異なる表面を設けることにより、例えば、エレベータシステムにおいて例示的なベルトがシーブに接触する側に応じて異なるトラクション(摩擦)特性を実現することができる。
【0024】
LBETBを形成する技術には種々の特徴がある。コーティングの厚さ(例えば、ジャケット34の断面寸法)は、特定の状況での要求に応じて変更することができる。例えば、テンション部材32を個々にコーティングする場合、一連のテンション部材全体に対してジャケット材料を同時に適用する場合と比べて、より薄いコーティング34’を用いることができる。さらに、所望であれば、従来の技術と比べてより厚いコーティングを用いてもよい。図7,8の実施例において、例示的な材料40,42などの他の材料を付加することにより、LBETB30の一方または両方の面を変更することができる。このような付加的な材料により、個々のコーティング34’に使用されるジャケット材料の表面特性に伴う制限を回避することができる。例えば、個々のコーティング34’は、個々のコーティング34’を互いに接合するため、特定の特徴を有する熱可塑性エラストマーを含む必要がある。異なる材料40,42または双方の材料を付加することにより、選択されたジャケット材料に応じた潜在的な表面特性の広い選択の幅を有しつつ、テンション部材32に対する個々のコーティングに伴う効率が向上し得る。
【0025】
図4,6などいくつかの開示した実施例の他の特徴として、細長部材50は、コーティング34’に用いられるものと同様の材料からなるコーティング54’により個々にコーティングされ得る。細長部材50は、テンション部材32と異なる。例えば、細長部材50は、LBETB30内で他の特徴をもたらす非耐荷重部材である。一実施例として、LBETB30の長さに沿って配され、情報通信を行う光ファイバーが含まれる。他の実施例では、LBETBの耐用年数期間内にLBETB30の強度などの特性を電気的に測定するために用いられる導電部材が含まれる。テンション部材32および細長部材50を個々にコーティングし、個々のコーティングを互いに接合することによって、より好都合に異なる材料をLBETB30に組み込むことができ、特定の状況に応じた特徴をもたらすことが可能となる。
【0026】
図9は、1つまたは複数の開示した例示的なLBETBを形成する装置を概略的に図示する。成形装置62は、個々にコーティングされたテンション部材32を受け、該部材を互いに固定する。一実施例では、成形装置62は押出機を含む。熱可塑性エラストマー64は、押出成形機62に導入され、個々のコーティングを互いに融合するように用いられる。
【0027】
他の実施例では、成形装置62は、成形ホイールを含み、この成形ホイール上に個々にコーティングされたテンション部材32が配置される。熱可塑性エラストマー64は、成形ホイール上でコーティングに付加される。個々のコーティング34’は、付加的な熱可塑性エラストマーを用いて互いに融合される。
【0028】
一実施例では、成形装置62は、加熱された成形ホイールを含む。個々にコーティングされたテンション部材32の各々は、高温の成形ホイールに案内される。成形ホイールの温度を制御することにより、接合プロセス中に、コーティング34’内のテンション部材32が移動しないように防ぐことができる。これにより、アッセンブリ内でのテンション部材32の位置をより正確に制御でき、ジャケット34に使用されるエラストマーの量を制御することができる。
【0029】
本発明のLBETB30の製造技術により、低コストでより早くLBETBを製造でき、かつ異なる材料を組み込む能力が向上する。開示した実施例により、従来と比較して、コードの位置制御が向上する。コードの位置制御が向上することにより、ベルト形状がより均一となる。
【0030】
開示した実施例によると、製造プロセスを複雑化することなく、かつ経済性を低下させることなく、幅広い種類のベルト形態がもたらされる。
【0031】
上記開示は、例示的なものに過ぎず、限定的なものではない。本発明の範囲を逸脱することなく、開示した実施例に対して種々の変更や修正がされることを当業者であれば理解されるであろう。本発明に付与される法的保護の範囲は以下の特許請求の範囲を検討することによって判断され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータベルトを形成する方法であって、
複数のテンション部材の各々が他のテンション部材とは別に個々にコーティングされるように、ジャケット材料の個々のコーティングを各テンション部材に適用するステップと、
テンション部材を固定して所望の配列とし、エレベータベルトの外形状を構成する単一のジャケットを形成するように、個々のコーティングの一部を接合するステップと、
を含むことを特徴とするエレベータベルト形成方法。
【請求項2】
前記接合ステップは、
個々のコーティングを互いに隣接させて配置することと、
コーティングを隣接するコーティングと接合するように少なくとも部分的にジャケット材料を溶かすことと、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接合ステップは、一のコーティングのジャケット材料と他の一のコーティングのジャケット材料とを融合することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記接合ステップは、一のコーティングのジャケット材料と他の一のコーティングのジャケット材料とを溶接することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
個々のコーティングを互いに接合する際に、コーティングに付加的な材料を固定するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記付加的な材料は、コーティングのジャケット材料と同じ材料であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記付加的な材料は、コーティングのジャケット材料と異なる材料であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記付加的な材料はファブリックを含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ベルトの外形状の少なくとも一方の側を構成するように、付加的な材料を成形するステップをさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項10】
隣接するコーティング間のインタフェースに接着剤を塗布して個々のコーティングを接着接合するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
個々にコーティングされたテンション部材を押出機に供給するステップと、
押出機に熱可塑性エラストマーを導入するステップと、
熱可塑性エラストマーを用いて個々のコーティングを融合するステップと、
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
個々にコーティングされたテンション部材を成形ホイールに配置するステップと、
成形ホイール上でコーティングに熱可塑性エラストマーを付加するステップと、
熱可塑性エラストマーを用いて個々のコーティングを融合するステップと、
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ジャケット材料はエラストマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ジャケット材料は熱可塑性エラストマーを含むことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ベルトは、テンション部材と異なる少なくとも1つの細長部材を含み、
前記方法は、少なくとも1つの細長部材を個々にコーティングするステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
接合中に個々のコーティングを加熱するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
接合中に、少なくともいくつかのコーティングの形状を少なくとも部分的に変更するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
各テンション部材の中心線が他のテンション部材の中心線と列をなすように、実質的に直線状にテンション部材を整列させるステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項19】
ベルトは実質的に矩形の断面形状を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項20】
耐荷重エレベータトラクションベルトであって、
該ベルトは以下のステップを有するプロセスによって形成され、該プロセスは、
複数のテンション部材の各々が他のテンション部材とは別に個々にコーティングされるように、ジャケット材料の個々のコーティングを各テンション部材に適用するステップと、
テンション部材を固定して所望の配列とし、エレベータベルトの外形状を構成する単一のジャケットを形成するように、個々のコーティングの一部を接合するステップと、
を含むことを特徴とする耐荷重エレベータトラクションベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−508679(P2012−508679A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536295(P2011−536295)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/083491
【国際公開番号】WO2010/056247
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(591020353)オーチス エレベータ カンパニー (402)
【氏名又は名称原語表記】OTIS ELEVATOR COMPANY
【Fターム(参考)】