説明

エレベーター用ロープの清掃装置

【課題】エレベーターのロープ表面に付着している余分なグリースを容易に除去することができ、清掃時の作業性を大幅に向上させることができるエレベーター用ロープの清掃装置を提供する、
【解決手段】本清掃装置は、主ロープ1の表面に付着したグリースを除去するためのものであり、その要部が、供給装置7と除去装置8とから構成される。供給装置7は、加熱及び圧縮された空気を除去装置8に供給する機能を有している。また、除去装置8は、供給装置7から供給された空気を主ロープ1の表面に吹き付ける機能を有しており、主ロープ1に対し、非接触の状態で対向するように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベーターのロープの表面に付着したグリースを除去するためのエレベーター用ロープの清掃装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4はトラクション式エレベーター装置の一般的な構成を示す要部側面図、図5は図4のA−A矢視図である。
トラクション式エレベーター装置では、エレベーターのかごとつり合いおもり(共に図示せず)とが主ロープ1によって昇降路2内に釣瓶式に懸架されている。主ロープ1は、巻上機3(の駆動シーブ)にその一部が巻き掛けられており、巻上機3の回動に連動してその長手方向に移動する。即ち、巻上機3が駆動されて主ロープ1が移動することにより、かご(及び、つり合いおもり)は、昇降路2内を昇降する。
【0003】
主ロープ1は、例えば、その中心部に芯綱1aが配置され、芯綱1aの周囲に多数の子縄1bが縒り合わされたワイヤロープで構成されている。そして、主ロープ1は、潤滑性の向上や防錆を目的として、その内部や外表面に、ワックスタイプ等のグリースが含浸及び塗布されている。
【0004】
上記構成を有するトラクション式エレベーター装置では、主ロープ1がかごに連動して移動するため、特に主ロープ1の屈曲部分において、子縄1bの頂部や谷部に溜まったグリースが飛散し、周囲を汚損するといった問題があった。このため、エレベーターの保守員等は定期的に主ロープ1を清掃し、余分なグリースを主ロープ1の表面から除去しなければならなかった。
【0005】
図6は従来のエレベーター用ロープの清掃装置を説明するための図、図7は図6のB−B矢視図であり、下記特許文献1に記載された清掃装置の具体的構成を示したものである。
【0006】
図6及び図7において、12は主ロープ1の外形に合わせて型取りされた樹脂ワイパー、13は樹脂ワイパー12を締め付けるための締付具、14は樹脂ワイパー12を回転自在に支持する軸受である。樹脂ワイパー12は、主ロープ1への取り付けを容易に行うことができるように、その一部に割り面12aが形成されている。
【0007】
上記構成の清掃装置によって主ロープ1の表面からグリースを除去するためには、先ず、樹脂ワイパー12を主ロープ1に適切に配置し、締付具13によって樹脂ワイパー12を固定する。そして、その状態で主ロープ1を移動させることにより、主ロープ1の表面に付着した余分なグリースを、樹脂ワイパー12によって削り取るように除去していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−190888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図6及び図7に示す清掃装置によって主ロープ1の清掃作業を行うと、樹脂ワイパー12の上面に、樹脂ワイパー12によって削り取られたグリースが徐々に溜まっていってしまう。このため、作業者は、定期的に主ロープ1の移動を止めて、樹脂ワイパー12の上面からグリースを手作業で除去しなければならず、上記清掃作業に多大な労力と時間とが必要になるといった問題があった。
【0010】
また、従来の清掃装置では、樹脂ワイパー12によって削り取るようにグリースの除去を行うため、清掃を行う度に、樹脂ワイパー12が摩耗してしまう。このため、樹脂ワイパー12の清掃性能が劣化すると、樹脂ワイパー12の交換が必要になってしまい、作業性が著しく悪化するといった問題があった。また、グリースによって滑り易くなっているため、樹脂ワイパー12の交換時に、締付具13等の小型部品を落下させてしまう恐れもあった。
【0011】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、エレベーターのロープ表面に付着している余分なグリースを容易に除去することができ、清掃時の作業性を大幅に向上させることができるエレベーター用ロープの清掃装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るエレベーター用ロープの清掃装置は、エレベーターのロープの表面に付着したグリースを除去するためのエレベーター用ロープの清掃装置であって、加熱及び圧縮された空気を供給する供給装置と、ロープに非接触で対向するように配置され、供給装置から供給された空気をロープの表面に吹き付ける除去装置と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るエレベーター用ロープの清掃装置であれば、エレベーターのロープ表面に付着している余分なグリースを容易に除去することができ、清掃時の作業性を大幅に向上させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1におけるエレベーター用ロープの清掃装置の使用例を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるエレベーター用ロープの清掃装置を示す平面図である。
【図3】この発明の実施の形態1におけるエレベーター用ロープの清掃装置を示す縦断面図である。
【図4】トラクション式エレベーター装置の一般的な構成を示す要部側面図である。
【図5】図4のA−A矢視図である。
【図6】従来のエレベーター用ロープの清掃装置を説明するための図である。
【図7】図6のB−B矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0016】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1におけるエレベーター用ロープの清掃装置の使用例を示す図、図2はこの発明の実施の形態1におけるエレベーター用ロープの清掃装置を示す平面図、図3はこの発明の実施の形態1におけるエレベーター用ロープの清掃装置を示す縦断面図である。図1は、トラクション式エレベーター装置において本清掃装置を使用した時の状態を示している。
【0017】
トラクション式エレベーター装置では、エレベーターのかごとつり合いおもり(共に図示せず)とが主ロープ1によって昇降路2内に釣瓶式に懸架されている。主ロープ1は、巻上機3(の駆動シーブ)にその一部が巻き掛けられており、巻上機3の回動に連動してその長手方向に移動する。即ち、巻上機3が駆動されて主ロープ1が移動することにより、かご(及び、つり合いおもり)は、昇降路2内を昇降する。
【0018】
また、図1において、4は昇降路2の上方に設けられたエレベーター専用の機械室、5は機械室4に設置された、巻上機3を支持するための支持装置、6は主ロープ1の配置を変更するためのそらせシーブである。図1は巻上機3が機械室4に設置されたものを一例として示している。
【0019】
主ロープ1は、例えば、その中心部に芯綱1aが配置され、芯綱1aの周囲に多数の子縄1bが縒り合わされたワイヤロープで構成されている。そして、主ロープ1は、潤滑性の向上や防錆を目的として、その内部や外表面に、ワックスタイプ等のグリースが含浸及び塗布されている。
【0020】
清掃装置は、主ロープ1の表面、例えば、子縄1bの頂部や谷部に付着した余分なグリースを除去するためのものであり、エレベーターの保守時に、機械室4等において使用される。具体的に、本清掃装置は、供給装置7、除去装置8、回収箱9により、その要部が構成されている。
【0021】
供給装置7は、所定の温度及び圧力に加熱及び圧縮された空気を除去装置8に供給する機能を有している。供給装置7には、例えば、空気を圧縮するためのコンプレッサや、空気を加熱するためのヒータ、加熱及び圧縮された空気を送り出すためのファン等が備えられている。
【0022】
除去装置8は、主ロープ1の表面から余分なグリースを除去するため、供給装置7から供給された加熱圧縮空気を主ロープ1の表面に吹き付ける機能を有している。主ロープ1に使用されるグリースは、一般に、常温で軟固体となり、70℃前後で軟化又は溶融する特性を有している。除去装置8は、供給装置7からの加熱圧縮空気を主ロープ1の表面に吹き付けることにより、子縄1bの頂部や谷部に溜まったグリースを100℃程度に加熱して軟化或いは溶融させ、その一部を主ロープ1の表面から吹き飛ばす。なお、本清掃装置ではこのような方法によってグリースの除去を行うため、除去装置8を主ロープ1に接触させておく必要はない。このため、除去装置8は、例えば、主ロープ1と僅かな間隙を有して対向するように、主ロープ1に対して非接触な状態に配置される。
【0023】
具体的に、本実施の形態における除去装置8は、所定形状のブロック部材が積層されることによって構成され、その使用時に、所定箇所(図1に示す例では、巻上機3の直下部分)を通過する主ロープ1の周囲を囲むように配置される。そして、除去装置8は、各ブロック部材が適切に積層されることにより、空気案内路8a、回収部8b、グリース誘導路8c、空気排出路8dの各空間がその内部に形成される。なお、除去装置8の組立及び分解を容易にするため、除去装置8を構成する各ブロック部材は、例えば、二分割に構成されている。
【0024】
空気案内路8aは、供給装置7から供給された空気を除去装置8内に導いて、主ロープ1の表面に吹き付けるために形成された内部空間である。供給装置7と除去装置8とは供給ホース10によって接続されており、供給装置7からの空気は、供給ホース10を介して除去装置8に供給される。そして、除去装置8に供給された供給装置7からの空気は、この空気案内路8aを通過した後、主ロープ1の表面に吹き付けられる。
【0025】
具体的に、除去装置8には、その外周部に取込口8eが形成されており、空気案内路8aは、主ロープ1に(除去装置8の中心部に)接近するに従って下降するように斜めに形成されている。そして、空気案内路8aは、除去装置8の中心部において開口し、その開口が、上記所定箇所に配置された主ロープ1の全周に対向する。即ち、取込口8eから空気案内路8aに進入した空気は、空気案内路8aを通過することにより、除去装置8の内部に配置された主ロープ1の全周に対して、斜め下向きに吹き付けられる。
【0026】
回収部8bは、主ロープ1の表面から飛散したグリースを除去装置8内で回収するために形成された内部空間である。上述したように、供給装置7から供給された空気は、空気案内路8aを通過することによって、主ロープ1に対して斜め下向きに吹き付けられる。このため、主ロープ1の表面に付着したグリースの一部は、吹き付けられる熱風によって主ロープ1の表面から剥離され、その大部分が下向きに飛ばされる。回収部8bは、主ロープ1から吹き飛ばされたグリースを回収するため、例えば、空気案内路8a(の開口部)よりも下方で、且つ、主ロープ1の全周に対向するように形成されている。
【0027】
グリース誘導路8cは、回収部8bに回収されたグリースを除去装置8の外部に誘導するために形成された内部空間である。即ち、回収部8bに回収されたグリースは、このグリース誘導路8cを通り、グリースを回収するための回収箱9に回収される。本実施の形態においては、内部にグリース誘導路8cが形成された誘導具8fを、除去装置8の本体部から突出させている。
【0028】
なお、主ロープ1に使用されるグリースは、加熱されなくなることによって、その流動性が急速に失われてしまう。このため、本清掃装置には、除去装置8の内部に、主ロープ1から除去されたグリースを加熱するための加熱装置11が設けられている。例えば、加熱装置11を回収部8b内に設置することにより、加熱装置11によって回収部8bに回収されたグリースを加熱する。これにより、グリースが回収部8bやグリース誘導路8c内で軟固体状に戻ってしまうことを防止でき、主ロープ1から除去したグリースを液状のまま回収箱9まで誘導することができる。
【0029】
空気排出路8dは、空気案内路8aから主ロープ1の表面に吹き付けられた空気を除去装置8の外部に排出するために形成された内部空間である。空気排出路8dは、例えば、空気案内路8a(の開口部)よりも下方で、且つ、回収部8b及びグリース誘導路8cよりも上方位置に形成される。これにより、空気案内路8aから主ロープ1に吹き付けられた空気は、その大部分が、回収部8bやグリース誘導路8cに進入することなく、空気排出路8dから除去装置8の外部に排出される。
【0030】
上記構成を有する清掃装置によってグリースの除去作業を行う場合、作業者は、先ず、清掃装置を昇降路2内或いは機械室4内に運び入れ、各機器を例えば図1乃至図3に示す状態に設置する。そして、主ロープ1を所定の方向及び速度で移動させながら主ロープ1に熱風を吹き付け、主ロープ1の表面から余分なグリースを取り除く。この時、主ロープ1に吹き付ける熱風の方向と主ロープ1の走行方向とが一致するように、主ロープ1を移動させる。即ち、本実施の形態においては、除去装置8を貫通する部分の主ロープ1が下方に移動するように、巻上機3を駆動する。
【0031】
また、本清掃装置によってグリースの除去作業を行うためには、主ロープ1の表面に付着したグリースを適切な温度まで加熱する必要がある。このため、作業者は、例えば、除去装置8までの距離(加熱圧縮空気の移動経路)や主ロープ1の走行速度も考慮して供給装置7の各種設定を行い(或いは、予め設定しておき)、主ロープ1の表面に付着したグリースが100℃程度に加熱されるようにする。
【0032】
この発明の実施の形態1によれば、主ロープ1の表面に付着している余分なグリースを容易に除去することができ、清掃時の作業性を大幅に向上させることができる。即ち、本清掃装置では、主ロープ1から除去されたグリースは、液状のまま自動的に回収箱9に回収される。このため、従来のようにグリースの片付けを手作業で行ったりする必要が無く、作業者の負担が大幅に軽減される。また、グリースの片付けのために主ロープ1の移動を停止させる必要もなく、作業時間の大幅な短縮が可能となる。
【0033】
更に、本清掃装置では、グリースを除去するための除去装置8が、主ロープ1に対して非接触に配置されている。このため、本清掃装置を長期間使用しても各部品が摩耗することがなく、安定した清掃性能を発揮及び持続できる。
【0034】
また、本清掃装置においては、主ロープ1の表面に付着したグリースを加熱するための予備加熱装置(図示せず)を別途設け、この予備加熱装置によって、供給装置7からの空気が吹き付けられる前のグリースを加熱するように構成しても良い。かかる構成により、供給装置7の小型化が可能となる。
【0035】
なお、本実施の形態においては、トラクション式エレベーター装置の主ロープ1を清掃する場合について具体的な説明を行った。しかし、これは単に一例を示したものであり、他の方式のエレベーターやエレベーターに使用されている他のロープ(例えば、コンペンロープ)にも本清掃装置が適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0036】
1 主ロープ
1a 芯綱
1b 子縄
2 昇降路
3 巻上機
4 機械室
5 支持装置
6 そらせシーブ
7 供給装置
8 除去装置
8a 空気案内路
8b 回収部
8c グリース誘導路
8d 空気排出路
8e 取込口
8f 誘導具
9 回収箱
10 供給ホース
11 加熱装置
12 樹脂ワイパー
12a 割り面
13 締付具
14 軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターのロープの表面に付着したグリースを除去するためのエレベーター用ロープの清掃装置であって、
加熱及び圧縮された空気を供給する供給装置と、
前記ロープに非接触で対向するように配置され、前記供給装置から供給された空気を前記ロープの表面に吹き付ける除去装置と、
を備えたことを特徴とするエレベーター用ロープの清掃装置。
【請求項2】
前記除去装置は、所定個所を通過する前記ロープの周囲を囲むように配置され、前記供給装置から供給された空気を、前記所定箇所に配置された前記ロープの全周に対して吹き付けることを特徴とする請求項1に記載のエレベーター用ロープの清掃装置。
【請求項3】
前記除去装置は、前記供給装置から供給された空気を、前記ロープに対して斜め下向きに吹き付けることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレベーター用ロープの清掃装置。
【請求項4】
前記除去装置は、
前記供給装置から供給された空気を前記ロープの表面に吹き付けるための空気案内路と、
前記ロープから飛散したグリースを回収するための回収部と、
前記回収部に回収されたグリースを前記除去装置の外部に誘導するためのグリース誘導路と、
が形成され、
前記回収部は、前記空気案内路よりも下方に設けられたことを特徴とする請求項3に記載のエレベーター用ロープの清掃装置。
【請求項5】
前記除去装置に設けられ、前記回収部に回収されたグリースを加熱する加熱装置と、
を更に備えたことを特徴とする請求項4に記載のエレベーター用ロープの清掃装置。
【請求項6】
前記除去装置は、
前記空気案内路から前記ロープの表面に吹き付けられた空気を前記除去装置の外部に排出するための空気排出路と、
が更に形成され、
前記空気排出路は、前記空気案内路よりも下方で且つ前記グリース誘導路よりも上方に設けられたことを特徴とする請求項4に記載のエレベーター用ロープの清掃装置。
【請求項7】
前記ロープから除去されたグリースを加熱するための加熱装置と、
を更に備えたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のエレベーター用ロープの清掃装置。
【請求項8】
前記ロープの表面に付着したグリースを加熱するための予備加熱装置と、
を更に備え、
前記予備加熱装置は、前記供給装置からの空気が吹き付けられる前のグリースを加熱することができるように設置されたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のエレベーター用ロープの清掃装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−225288(P2011−225288A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93701(P2010−93701)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】