説明

エレベータ制御システム

【課題】パワー半導体素子の寿命劣化を算出し、号機毎に割り当て制限などの運転制御を実施することでエレベータの寿命劣化を分散すること。
【解決手段】エレベータ制御装置をそれぞれ有する複数台のエレベータと、複数台のエレベータの運行管理を行う郡管理制御装置と、を備え、エレベータ制御装置は、パワー半導体素子を有するコンバータ装置10及びインバータ装置12と、コンバータ・インバータ駆動制御装置9と、を有し、コンバータ・インバータ駆動制御装置9は、乗りかごの積載荷重率と、エレベータ速度帰還値と、エレベータ速度指令値とエレベータ速度帰還値との差分から求めたトルク指令値と、に基づいて、パワー半導体素子18の劣化頻度を算出し、劣化頻度がしきい値を超えたときに郡管理制御装置に発報し、郡管理制御装置は発報を受けて、複数台のエレベータの号機毎の寿命劣化を分散させるように各エレベータ制御装置を管理制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの電動機を駆動制御するエレベータ制御装置と複数台のエレベータの運行制御を効率的に行う群管理制御装置を備えたエレベータ制御システムに係わり、特に、エレベータ制御装置に使用するパワー半導体素子の寿命劣化を分散する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータ等における乗りかごの始動・停止を頻繁に繰り返す制御を行うエレベータ制御装置において、これに用いられるパワー半導体素子は、その温度変化によりパワーサイクル及びサーマルサイクルを繰り返す。そして、この繰り返し回数が所定回数に達するとパワー半導体素子は熱疲労の破壊や破損に至る(パワーサイクル寿命及びサーマルサイクル寿命)という現象が発生する。パワー半導体素子以外のリレーやコンタクタなどは、オン/オフの回数で寿命が推定されている。
【0003】
エレベータ制御装置に使用される部品の寿命推定の従来技術に関しては、例えば、特許文献1、特許文献2において提案されている。特許文献1には、巻き上げ機、かごドア、荷重検知器、ガバナ等の診断対象機器の種々のパラメータを取得し、これらを評価することで機器の劣化状態を判断、把握して故障発生前に対処することが開示されている。また、特許文献2には、エレベータの各部の状態を診断し、その診断結果でエレベータを遠隔監視するシステムにおいて、診断装置が機器と部品の監視項目毎の動作データを適宜周期で収集し、この動作データに基づいて監視項目の使用不能時期を予測することが開示されています。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−230742号公報
【特許文献2】特開2008−230781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1や特許文献2に開示されているように、前述の従来技術においては、エレベータを構成する装置毎の劣化状況を診断し、故障前に保守交換する手法については開示されているが、劣化状況によってエレベータ運転に制限を設け、延命処置や負荷を分散することについては特段の記載はない。また、パワー半導体素子などの寿命管理が難しくかつ一定の納期がかかる部品に対しては、従来の保守交換の手法はあまり効果的な解決策とは云えない。
【0006】
本発明の目的は、群管理制御されているエレベータのコンバータ・インバータを構成するパワー半導体素子の劣化頻度を算出し、号機毎に割り当て制限などの運転制御を実施することでエレベータの寿命劣化を分散でき、かつ部品交換までの間エレベータのサービスをさほど低下させることなく運行可能なエレベータ制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は主として次のような構成を採用する。
エレベータの運転制御を行うエレベータ制御装置をそれぞれ有する複数台のエレベータと、前記複数台のエレベータの運行制御を前記エレベータ制御装置に通して実施する郡管理制御装置と、を備えたエレベータ制御システムであって、
前記エレベータ制御装置は、パワー半導体素子を有してエレベータ駆動用モータと接続されたコンバータ装置及びインバータ装置と、PWMコンバータ・インバータ駆動制御装置と、を有し、前記PWMコンバータ・インバータ駆動制御装置は、乗りかごの荷重検出器の検出信号から求めた積載荷重率と、前記エレベータ駆動用モータのエンコーダの検出信号から求めたエレベータ速度帰還値と、エレベータ速度指令値と前記エレベータ速度帰還値との差分から求めたトルク指令値と、に基づいて、前記パワー半導体素子の残寿命を示す劣化頻度を算出し、前記算出した劣化頻度がしきい値を超えたときに劣化状態信号を前記郡管理制御装置に発報し、前記郡管理制御装置は、前記劣化状態信号による発報を受けて、前記複数台のエレベータの号機毎の寿命劣化を分散させるように各エレベータ制御装置を管理制御する構成とする。
【0008】
また、前記エレベータ制御システムにおいて、前記コンバータ装置のパワー半導体素子の劣化頻度は、前記積載荷重率と前記速度帰還値がともに前記しきい値を超えた場合に算出され、前記インバータ装置のパワー半導体素子の劣化頻度は、前記トルク指令値が前記しきい値を超えた場合に算出される構成とする。さらに、前記郡管理制御装置は、前記複数台のエレベータの号機毎の配車割り当て、前記号機毎の運転休止、前記号機毎の加減速度の変更、または前記号機毎の積載負荷の制限の管理制御を行う構成とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コンバータ装置とインバータ装置に用いられるパワー半導体素子の劣化頻度の算出結果を基に、号機毎の運転割り当て制限、エレベータの加減速度の変更、積載負荷の制限などを実施することで、パワー半導体素子の劣化進行を抑止することができ、さらに、号機毎の寿命劣化の分散を図ることができる。
【0010】
また、パワー半導体素子の交換に至る間において、運行サービスのさほどの低下を招かずに運行制御を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るエレベータ制御システムにおける全体構成を示す図である。
【図2】本実施形態に関するエレベータ制御装置におけるモータ制御装置の構成とその関連要素を示す図である。
【図3】本実施形態に関するエレベータ制御装置で使用されるパワー半導体素子の素子寿命算出と素子劣化の均等化手法を説明する図である。
【図4】本実施形態に関するエレベータ制御装置の負荷である乗りかご駆動用モータの制御系を示す基本図である。
【図5】本実施形態に関するエレベータ制御装置で制御する乗りかごの速度指令値と乗降階との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係るエレベータ制御システムについて、図1〜図5を参照しながら以下詳細に説明する。図1は本発明の実施形態に係るエレベータ制御システムにおける全体構成を示す図であり、図2は本実施形態に関するエレベータ制御装置におけるモータ制御装置の構成とその関連要素を示す図である。
【0013】
図1と図2において、1は郡管理制御装置、2はホール呼びボタン、3は乗りかご、4は配車制御システム、5はエレベータ制御装置、6は巻き上げ機、7はモータ制御装置、8はモータ、9はPWMコンバータ・インバータ駆動制御装置、10はコンバータ装置、11は商用電源、12はインバータ装置、13はエンコーダ、14は電流検出器、15はモータ巻き上げ機、16は乗りかご、17は荷重検出器、18はパワー半導体素子、をそれぞれ表す。
【0014】
図1において、郡管理制御装置1は、各停止階に設置されるホール呼びボタン2のいずれかの押下操作により、管理下にあるエレベータの特定の号機の乗りかご3を効率良く割り当てサービスする配車制御システム4を備えた郡管理制御装置であり、各エレベータ制御装置5に接続されている。各エレベータの巻き上げ機6は、モータ制御装置7により供給される可変電圧可変周波数の3相交流電力より可変速度制御される。ここで、郡管理制御装置1は各エレベータ制御装置5から異常信号の発報を受けた場合、任意の号機に対し運転を制限する機能を有している。
【0015】
図2において、コンバータ装置10は商用電源11から供給される3相交流電源を任意のパワーをもつ直流電源に変換し、インバータ装置12はコンバータ装置10と接続され、直流電源を任意の可変電圧可変周波数の3相交流電力に変換する装置である。PWMコンバータ・インバータ駆動制御装置9は、モータの回転数や位置を検出するエンコーダ13及び電流検出器14から信号を受信し、乗りかご16に備え付けられている荷重検出器17、エンコーダ13から得られる速度帰還値からトルク指令を算出し、モータ巻き上げ機15を速度フィードバック制御する駆動制御装置である(モータのフィードバック制御については、後述する図4で説明する)。
【0016】
また、PWMコンバータ・インバータ駆動制御装置9は、モータ8へのトルク指令値、荷重検出器17より得られる積載荷重率、及びエンコーダ13から得られる速度帰還値に基づいて、パワー半導体素子の残寿命を算出し、残寿命の劣化状態を発報及び表示する機能を有している。
【0017】
次に、本発明の実施形態に関するエレベータ制御装置5の基本的な制御態様について、図4と図5を用いて説明する。図4は本実施形態に関するエレベータ制御装置の負荷である乗りかご駆動用モータの制御系を示す基本図であり、図5は本実施形態に関するエレベータ制御装置で制御する乗りかごの速度指令値と乗降階との関係を示す図である。
【0018】
乗りかご3を上下動駆動する巻き上げ機6のモータ8の制御系は、図4に示すように、速度指令値Vとモータ8のエンコーダ13からの速度帰還値Vとの差分(係数Kも含めて)を基に、電流指令値すなわちトルク指令値iが算出される。ここで、速度指令値Vは、図5に示すように、定速走行状態において、乗りかごの乗り降り時に通過する階数に応じて、V02を最大値、V01を最小値として、速度指令値は予め設定された値が決められている。
【0019】
図4で、算出された電流指令値(トルク指令値)iと電流検出器14からの電流帰還値iとの偏差が、コンバータ・インバータ装置10,12を介してモータ8に印加されモータトルクを発生してエレベータの速度制御が実行されるのである。
【0020】
次に、本発明の実施形態に係るエレベータ制御システムの動作について、図2と図3を用いて概説する。図2に示すコンバータ・インバータを構成する各パワー半導体素子18の劣化頻度は、コンバータ装置10とインバータ装置12の駆動条件、モータ8の負荷条件により決まり、モータ8の起動回数、運転時間だけでは一意に寿命を算出することはできない。エレベータのように積載負荷が一定ではなく、かつ頻繁に起動・停止を繰り返す場合においては、当然にエレベータ毎で劣化頻度に違いが生じる。
【0021】
パワー半導体素子18の寿命算出、及び外部の郡管理制御装置1への発報動作(パワー半導体素子の劣化頻度数がしきい値を超えた場合に報知する発信信号)について、図3を用いて説明する。
【0022】
コンバータ装置10におけるパワー半導体素子18の素子寿命算出について説明すると、荷重検出器17によって得られる積載負荷率とエンコーダ13によって得られる速度帰還値が各パワー半導体素子18の寿命に影響を及ぼす閾値を互いに超えた場合、例えば、積載負荷が25%以下もしくは75%以上で且つ速度帰還値が定格速度の80%以上の場合の回数をカウントし、メモリに積算して蓄積する。このカウント数があらかじめ設定していたパワー半導体素子18の寿命に影響を及ぼす閾値を超えた場合(例えば、寿命カウント数の70%、80%、90%)に、それぞれの劣化状態信号Cを外部の群管理制御装置1へ発報する。
【0023】
インバータ制御装置12におけるパワー半導体素子18の素子寿命算出について説明すると、乗りかご3の速度指令値とエンコーダ13によって得られる速度帰還値とから算出するトルク指令値iがパワー半導体素子18寿命に影響を及ぼす閾値を超えた場合(例えば定格の75%以上、90%以上)、その回数をカウントし、メモリに積算して蓄積し、このカウント数があらかじめ設定していた閾値を超えた場合(例えば、寿命カウント数の70%、80%、90%)にそれぞれの劣化状態信号Iを外部の群管理制御装置1へ発報する。
【0024】
次に、劣化状態信号C,Iを受けた郡管理制御装置1の対処策について説明する。複数台のエレベータの運行制御を効率的に行う群管理制御装置1を備えたエレベータにおいては、劣化状態信号C,Iの発報を受け、その緊急度合いで各号機の呼びに対する運転割り当てを制限することが可能であり、劣化進行を緩和することが可能となる。また、仮に劣化状態が改善されない状態が続いた場合において、加減速度の変更指令、エレベータの運転に対し積載制限(例えば35%〜65%積載)を設けることなどにより、走行トルクを低減させ、パワー半導体素子の劣化進行を緩和することが可能となる。
【0025】
ここで、郡管理制御装置1が上述した加減速度の変更や積載負荷の制限(パワー半導体素子の劣化進行を抑止する処置)等の対処策を実施する場合には、複数のエレベータを必ずしも前提とする必要はなく、建物に設置されたエレベータが単独のエレベータであっても適用可能な対処策である。このような場合においては、郡管理制御装置1に依らずに、エレベータ制御装置5において、上述した対処策を実施することも当然に可能である。なお、複数のエレベータの内で号機毎の寿命劣化を分散するための、配車割り当てや運転休止などの対処策は、複数のエレベータが設置されていることを前提として、これらのエレベータ郡を管理する郡管理制御装置が実施可能なものである。
【0026】
以上の説明では、群管理制御による運転制限を実施する例を挙げたが、群管理制御を受けず、単独設置されたエレベータ制御装置においても、劣化状態信号を管理室等に設置される監視盤や遠隔監視センタへ状態を発報することができる。これにより、パワー半導体素子の交換の予測ができ、部品調達時間の確保、保守員の確保が可能となり、保守・メンテナンスの効率化に貢献できる。
【符号の説明】
【0027】
1 郡管理制御装置
2 ホール呼びボタン
3 乗りかご
4 配車制御システム
5 エレベータ制御装置
6 巻き上げ機
7 モータ制御装置
8 モータ
9 PWMコンバータ・インバータ駆動制御装置
10 コンバータ装置
11 商用電源
12 インバータ装置
13 エンコーダ
14 電流検出器
15 モータ巻き上げ機
16 乗りかご
17 荷重検出器
18 パワー半導体素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの運転制御を行うエレベータ制御装置をそれぞれ有する複数台のエレベータと、前記複数台のエレベータの運行管理を前記エレベータ制御装置に通して実施する郡管理制御装置と、を備えたエレベータ制御システムであって、
前記エレベータ制御装置は、パワー半導体素子を有しエレベータ駆動用モータと接続されたコンバータ装置及びインバータ装置と、コンバータ・インバータ駆動制御装置と、を有し、
前記コンバータ・インバータ駆動制御装置は、乗りかごの荷重検出器の検出信号から求めた積載荷重率と、前記エレベータ駆動用モータのエンコーダの検出信号から求めたエレベータ速度帰還値と、エレベータ速度指令値と前記エレベータ速度帰還値との差分から求めたトルク指令値と、に基づいて、前記パワー半導体素子の残寿命を示す劣化頻度を算出し、前記算出した劣化頻度がしきい値を超えたときに劣化状態信号を前記郡管理制御装置に発報し、
前記郡管理制御装置は、前記劣化状態信号による発報を受けて、前記複数台のエレベータの号機毎の寿命劣化を分散させるように各エレベータ制御装置を管理制御する
ことを特徴とするエレベータ制御システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記コンバータ装置のパワー半導体素子の劣化頻度は、前記積載荷重率と前記速度帰還値がともに前記しきい値を超えた場合に算出され、前記インバータ装置のパワー半導体素子の劣化頻度は、前記トルク指令値が前記しきい値を超えた場合に算出される
ことを特徴とするエレベータ制御システム。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記郡管理制御装置は、前記複数台のエレベータの号機毎の配車割り当て、前記号機毎の運転休止、前記号機毎の加減速度の変更、または前記号機毎の積載負荷の制限の管理制御を行う
ことを特徴とするエレベータ制御システム。
【請求項4】
エレベータの運転制御を行うエレベータ制御装置において、
前記エレベータ制御装置は、パワー半導体素子を有してエレベータ駆動用モータと接続されたコンバータ装置及びインバータ装置と、コンバータ・インバータ駆動制御装置と、を有し、
前記コンバータ・インバータ駆動制御装置は、乗りかごの荷重検出器の検出信号から求めた積載荷重率と、前記エレベータ駆動用モータのエンコーダの検出信号から求めたエレベータ速度帰還値と、エレベータ速度指令値と前記エレベータ速度帰還値との差分から求めたトルク指令値と、に基づいて、前記パワー半導体素子の残寿命を示す劣化頻度を算出し、前記算出した劣化頻度がしきい値を超えたときに劣化状態信号を出力し、
前記エレベータ制御装置は、前記劣化状態信号の出力に基づいて、前記エレベータの加減速度の変更及び/又は前記エレベータの積載負荷の制限の制御を行う
ことを特徴とするエレベータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−131623(P2012−131623A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286236(P2010−286236)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】