説明

エレベータ用巻上機

【課題】ブレーキライニングの摩擦係数を安定した値に保つことができるエレベータ用巻上機を得る。
【解決手段】エレベータのかごを懸吊する主ロープが巻き掛けられた駆動綱車と、この駆動綱車に連動して回動するブレーキドラム1と、このブレーキドラムの制動面に対向して配置されたブレーキライニング2と、ブレーキドラムの制動面に形成された溝16内に配置され、溝の開口側に付勢されてその一部がブレーキドラムの制動面から突出する押付具5と、この押付具の突出部に設けられ、駆動綱車の制動時にブレーキライニングの制動面を研磨する研磨部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、機械式のブレーキ装置を有するエレベータ用巻上機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータ用巻上機のブレーキ装置には、駆動綱車に連動して回動するブレーキドラムにブレーキライニングを所定の力で押圧し、ブレーキライニング押圧時に発生する摩擦力によって駆動綱車の回動を制動するものがある。かかる構成を有する機械式のブレーキ装置では、昇降路内を昇降するかごを所定の乗場位置に正確に停止させるための各種制御が、エレベータ据付時や保守時等に設定されたブレーキライニングの摩擦係数や上記押圧力等に基づいて行われている。
【0003】
また、機械式のブレーキ装置を有するエレベータ用巻上機の従来技術として、基体に固定された励磁コイルとブレーキライニングに連動するプランジャーとの相対位置を検出することにより、ブレーキライニングの摩耗量に応じてブレーキライニングとブレーキドラムとの距離を調整するものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−222371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エレベータのかごが停止する際、エレベータ用巻上機のブレーキ装置内では、上述の通り、ブレーキライニングが所定の力でブレーキドラムに押圧されている。即ち、ブレーキライニングの擦り合わせが実施されている。また、ブレーキ装置に使用されているブレーキライニングは、擦り合わせによる摩耗が進行すればするほど、一般に摩擦係数が高くなる特性を有している。このため、駆動綱車の制動を繰り返してブレーキライニングの摩耗が進行すると、制動時のブレーキトルクが徐々に増加して、かごの停止距離がエレベータの据付時や保守時等における調整値よりも短くなるという問題が生じていた。かかる場合には、かごが所定の乗場位置よりも手前で停止してしまうため、かごの床面と乗場の床面との間に段差が生じることとなっていた。また、ブレーキライニングの摩擦係数が高くなるに従い、制動時の鳴き音が発生し易くなるため、騒音問題を招来する要因ともなり得た。
【0006】
なお、特許文献1記載のものは、ブレーキライニングの摩耗状態に応じてブレーキライニング及びブレーキドラム間の距離を調整するものであるが、ブレーキライニングの摩耗自体は従来と同様に進行するため、駆動綱車の制動を繰り返すことによってブレーキライニングの摩擦係数は徐々に高くなってしまい、上記問題を解消することはできなかった。
【0007】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、ブレーキライニングの摩擦係数を安定した値に保つことができるエレベータ用巻上機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るエレベータ用巻上機は、エレベータのかごを懸吊する主ロープが巻き掛けられた駆動綱車と、この駆動綱車に連動して回動するブレーキドラムと、このブレーキドラムの制動面に対向して配置されたブレーキライニングと、ブレーキドラムに設けられ、駆動綱車の制動時にブレーキライニングの制動面を研磨する研磨部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明は、エレベータのかごを懸吊する主ロープが巻き掛けられた駆動綱車と、この駆動綱車に連動して回動するブレーキドラムと、このブレーキドラムの制動面に対向して配置されたブレーキライニングと、ブレーキドラムに設けられ、駆動綱車の制動時にブレーキライニングの制動面を研磨する研磨部とを備える構成としたことで、ブレーキライニングの摩擦係数を安定した値に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0011】
実施の形態1.
エレベータのかごを懸吊する主ロープは、エレベータ用巻上機に備えられた駆動綱車に巻き掛けられており、この駆動綱車の回動に連動して主ロープが移動することにより、上記かごが昇降路内を昇降する。また、エレベータ用巻上機には、駆動綱車の回動を制動するブレーキ装置が備えられており、このブレーキ装置を制御することによりかごを所定の乗場位置に停止させている。
【0012】
図1は、この発明の実施の形態1におけるエレベータ用巻上機の正面図であり、エレベータ用巻上機に備えられたブレーキ装置を示したものである。図1において、エレベータ用巻上機のブレーキ装置には、駆動綱車(図示せず)の回動軸と同じ回動軸に設けられて駆動綱車に連動して回動し、その外周面に制動面1aが形成されたブレーキドラム1と、ブレーキドラム1の制動面1aに対向する制動面2aを有するブレーキライニング2と、このブレーキライニング2を支持するブレーキシュー3と、このブレーキシュー3に連結され、駆動綱車の制動時にブレーキシュー3をブレーキドラム1の制動面1a側に所定の力で付勢することにより、ブレーキライニング2の制動面2aをブレーキドラム1の制動面1aに接触させて、駆動綱車を制動するための摩擦抵抗を制動面1a及び2a間に発生させる付勢部4とが備えられている。
【0013】
また、ブレーキライニング2を備えたブレーキシュー3は、ブレーキドラム1の両側にそれぞれ1つずつ設けられており、ブレーキ装置の解放時、各ブレーキライニング2の制動面2aとブレーキドラム1の制動面1aとの間には、所定の間隙が形成されている。なお、図2は、この発明の実施の形態1におけるエレベータ用巻上機の要部正面図であり、ブレーキ装置の解放時におけるブレーキドラム1の一部と一方のブレーキライニング2との配置を示したものである。図2において、ブレーキドラム1の制動面1aの半径とブレーキライニング2の制動面2aの曲率半径とは、ほぼ同じ値Rで設定されている。即ち、駆動綱車の制動時、ブレーキライニング2の制動面2a全体がブレーキドラム1の制動面1aに接触するように構成されている。
【0014】
また、ブレーキドラム1の制動面1aには、その回動軸方向に複数の溝1bが形成されており、各溝1b内に、略凸字状の断面を有する押付具5がそれぞれ配置されている。この押付具5は、溝1bの底面との間に設けられた押しバネ6により溝1bの開口側、即ちブレーキドラム1の外側に常時付勢されるとともに、その肩部5aが溝1bの開口部に係止されることによって、凸部5bがブレーキドラム1の制動面1aから僅かに突出するように配置されている。ブレーキドラム1の制動面1aから突出する押付具5の凸部5bは、研磨材で構成され、その曲率半径rが、ブレーキライニング2の制動面2aの曲率半径Rより小さな値(r<R)となるように形成されている。また、押付具5の凸部5bの突出量とブレーキドラム1の制動面1a及びブレーキライニング2の制動面2aの間の距離とは、ブレーキ装置の解放時に凸部5bと制動面2aとが接触することのないように、適宜調整されている。なお、図3はこの発明の実施の形態1におけるブレーキドラムの要部側面図であり、押付具5がブレーキドラム1の制動面1aの回動軸方向に渡って設けられている状態を示したものである。
【0015】
次に、上記構成を有するエレベータ用巻上機のブレーキ装置の動作について説明する。ブレーキ装置を解放してエレベータのかごを昇降可能な状態にする場合、先ず、エレベータの制御装置(図示せず)からの制御信号によって励磁コイル7が励磁され、プランジャー8が励磁コイル7に吸着されて図1に示す下方向に移動する。略L字状を呈する2つの操作レバー9は、下方向に移動したプランジャー8の下端部でその一端部が付勢されることにより、レバーピン9aを中心軸としてその他端部が外側に広がるようにそれぞれ反対方向に回転する。その結果、各操作レバー9の他端部に連動するブレーキアーム10が、アームピン10aを中心軸としてコイルバネ11の付勢力に抗してそれぞれ外側に移動し、ブレーキドラム1と各ブレーキライニング2との間に所定の間隙が形成される。このとき、押付具5の凸部5bとブレーキライニング2の制動面2aとの間にも所定の間隙が形成されており、ブレーキドラム1の回動は、ブレーキライニング2からの抵抗を受けることなく可能な状態となる。
【0016】
また、図4は駆動綱車の制動時におけるエレベータ用巻上機の正面図、図5は駆動綱車の制動時における図2相当図であり、この図4及び図5に基づいて、駆動綱車を制動してエレベータのかごを停止させる場合の動作を説明する。エレベータの制御装置(図示せず)からの制御信号によって励磁コイル7の励磁が停止されると、プランジャー8が図4に示す上方向に移動する。その結果、各ブレーキシュー3を支持するブレーキアーム10が、コイルバネ11の付勢力によりそれぞれ内側に移動し、各ブレーキライニング2がブレーキドラム1の制動面1aに押し付けられる。かかる状態により、ブレーキドラム1の制動面1aとブレーキライニング2の制動面2aとの間に、駆動綱車の回動を制動するための摩擦抵抗が発生する。
【0017】
また、押しバネ6による付勢力は付勢部4の付勢力よりも小さい値に設定されているため、ブレーキ装置の解放時にブレーキドラム1の制動面1aからその一部が突出する押付具5は、駆動綱車の制動時にブレーキドラム1の制動面1aに押し付けられるブレーキライニング2によりブレーキドラム1の中心方向に力を受け、押しバネ6の付勢力に抗してブレーキドラム1の中心方向に移動する。したがって、駆動綱車の制動時にブレーキドラム1の回転により押付具5の凸部5bがブレーキライニング2に接触すると、押付具5はブレーキドラム1の中心方向に移動してブレーキライニング2の制動面2a下に潜り込み、凸部5bの先端部である研磨材で構成された部分(研磨部)をブレーキライニング2の制動面2a全体に接触させながら移動する。即ち、上記研磨部によりブレーキライニング2の制動面2aが研磨される。
【0018】
この発明の実施の形態1によれば、駆動綱車の制動時に、研磨材で構成された押付具5の凸部5bによってブレーキライニング2の制動面2aが研磨されるため、ブレーキライニング2の制動面2aの目詰まりを防止し、常に新しい制動面2aを形成することができる。したがって、ブレーキライニング2の制動面2aの摩擦係数を常に安定した値に保つことができ、かごの停止を繰り返すことによりかごの床面と乗場の床面との段差が増大するといった従来の問題を解消することが可能となる。また、ブレーキライニング2の制動面2aの摩擦係数を安定した値に保つことができるため、制動時の鳴き音の発生も防止することが可能である。
【0019】
なお、ブレーキ装置の制動時にブレーキライニング2の制動面2aを研磨する押付具5は、付勢部4の付勢力とは関係なく、押しバネ6により常に一定の力で制動面2aに押し付けられている。したがって、押付具5がブレーキライニング2の制動面2aに過度に押し付けられることもなく、制動面2aの損傷を防止することが可能である。また、押付具5の凸部5bの曲率半径rは、ブレーキライニング2の制動面2aの曲率半径Rよりも小さい値で設定されているため、制動時にブレーキドラム1が回転して押付具5の凸部5bがブレーキライニング2に接触する際に、押付具5が滑らかに制動面2a下に潜り込むことができ、制動面2aの損傷及び接触の際の衝突音を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施の形態1におけるエレベータ用巻上機の正面図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるエレベータ用巻上機の要部正面図である。
【図3】この発明の実施の形態1におけるブレーキドラムの要部側面図である。
【図4】この発明の実施の形態1におけるエレベータ用巻上機の動作を説明するための図である。
【図5】図4における図2相当図である。
【符号の説明】
【0021】
1 ブレーキドラム
1a、2a 制動面
1b 溝
2 ブレーキライニング
3 ブレーキシュー
4 付勢部
5 押付具
5a 肩部
5b 凸部
6 押しバネ
7 励磁コイル
8 プランジャー
9 操作レバー
9a レバーピン
10 ブレーキアーム
10a アームピン
11 コイルバネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのかごを懸吊する主ロープが巻き掛けられた駆動綱車と、この駆動綱車に連動して回動するブレーキドラムと、このブレーキドラムの制動面に対向して配置されたブレーキライニングと、前記ブレーキドラムに設けられ、前記駆動綱車の制動時に前記ブレーキライニングの制動面を研磨する研磨部とを備えたことを特徴とするエレベータ用巻上機。
【請求項2】
エレベータのかごを懸吊する主ロープが巻き掛けられた駆動綱車と、この駆動綱車に連動して回動するブレーキドラムと、このブレーキドラムの制動面に対向して配置されたブレーキライニングと、前記ブレーキドラムの制動面に形成された溝内に配置され、前記溝の開口側に付勢されてその一部が前記ブレーキドラムの制動面から突出する押付具と、この押付具の突出部に設けられ、前記駆動綱車の制動時に前記ブレーキライニングの制動面を研磨する研磨部とを備えたことを特徴とするエレベータ用巻上機。
【請求項3】
研磨部は、その曲率半径がブレーキライニングの制動面の曲率半径より小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレベータ用巻上機。
【請求項4】
研磨部は、ブレーキドラムの制動面に複数設けられたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のエレベータ用巻上機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−193292(P2006−193292A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7749(P2005−7749)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】