説明

エレベータ用速度検出装置

【課題】使用状況に拘わらずガイドレールへのローラの押し付け力を安定させて高精度に乗かごの速度を検出でき、ローラの摩耗が少なくて耐久性の向上を図り得るエレベータ用速度検出装置を提供する。
【解決手段】この速度検出装置では、第1の揺動腕14の上端側に設けられて可動ベース25aを軸支する軸とベース25aに設けられて第1のローラ6を軸支する回転軸26とが一つに重なる位置に配置されると共に、揺動腕14の上端側に配置された軸が回転軸26による共通軸としてベース25aとローラ6とを軸支しており、ベース25aに軸支された回転防止部材となる第3の揺動腕23の下端側は、揺動腕14と並行に乗かごに軸支された構造であることにより、揺動腕14の上端側の回転軸26と揺動腕23の上端側の軸24との2点で軸支されたベース25aは、揺動腕14の回転時に揺動腕23が同じ角度で回転し、乗りかごに対して常に並行を保つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータ設備の乗かごの速度を検出するために乗かごに設置される速度検出装置に係り、詳しくは速度検出用にローラを乗かご用のガイドレールに押し当てる構造を持つエレベータ用速度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なエレベータ設備では、乗かごが異常な速度で運転されるのを監視して安全装置を作動させるため、乗かごの速度を検出するための速度検出装置が乗かごに設置されている。このようなエレベータ用速度検出装置は、エレベータ設備において乗かごの昇降用のメインロープが切断されるといった異常な状態になった場合でも、乗かごの下降速度を検出するために設置されている。
【0003】
従来、エレベータ用速度検出装置では、ガバナプーリに取り付けた振子の遠心力によって乗かごの異常な下降速度を検出していたが、最近では乗かご用のガイドレールに接触して回転するローラを乗かごに取り付け、このローラに取り付けたロータリーエンコーダ等のセンサで乗かごの速度を検出した結果を制御装置に入力して乗かごの速度異常を判別させ、速度異常が判別された場合に非常停止装置を作動させるエレベータ設備が開発されている。こうした機能に関連する周知技術として、乗りかごの占有体積を増大させることなく、乗りかごの昇降速度を精度良く検出できる「エレベーター装置」(特許文献1参照)や、経年変化に対してもかごの位置や速度の検出精度を維持する信頼性の高い「エレベータ制御装置」(特許文献2)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−140361号公報
【特許文献2】特開2010−275078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1記載の技術によれば、運転走行中に乗かごが揺れてローラを支持する揺動腕が回転しても、ローラの回転速度の検出に影響せず、正確に乗かごの速度を検出できる機能が得られるものとしているが、係る構造はローラが首振り回転する構造であるため、ローラの進行方向と乗かごの進行方向とが偏荷重による乗かごの傾きによってずれてしまうと、首振りの力が発生する。この結果、ローラの角の部分がガイドレールに強く接触する状態(片当たり)になってローラの角の部分が摩耗し易く、この摩耗によってローラの半径が小さくなると速度検出の精度に悪影響を及ぼすため、使用状態によってはローラの経年変化に伴って速度検出が精度良く行われなくなってしまうという問題がある。こうした問題は、定期的にローラの状態を点検し、摩耗したローラを新品に交換しないと改善されないため、定期的な点検及びメンテナンスが必要になることを示している。因みに、上述した偏荷重は乗客やテールコード(乗りかごから垂らして地上側と繋がる電源・信号ケーブル)等の荷重のアンバランスにより発生する偏った荷重状態を示すもので、この偏荷重の影響によって乗かごが傾くことが知られている。
【0006】
一方、特許文献2記載の技術によれば、運転走行中に乗かごが揺れたり、偏荷重により乗りかごが傾くことによって、ガイドレールに対して乗りかごが横に変位しても、ローラの回転速度の検出に影響せず、精度良く乗かごの速度を検出できる他、ローラとは別に乗かごのガイド装置を設けているため、ローラに大きな荷重が加わらずにローラの耐久性が向上する機能が得られるものとしているが、係る構造は速度の速いエレベータに適用する場合に、ローラがガイドレール上を高速で回転することによって発生する振動と共振しないように、ローラを支持するばねのばね定数を大きくする必要がある。こうした構造によれば、偏荷重や揺れによって乗かごが横に変位すると、少しの変位でローラの押付力が大幅に変化し、安定した押付力が得られなくなってしまうという問題がある。
【0007】
具体的に説明すれば、ガイドレール上をローラが走行し回転することによって発生する振動の周波数f[Hz]は、乗かごの速度をv[m/s]、ローラの半径をr[m]とすると、f=v/(2πr)なる関係で計算することができる。従って、速度が速くてローラ半径が小さい程、周波数fが大きくなることが判る。例えば、乗かごの速度vを5m/s、ローラの半径rを0.050mとすると、振動周波数fは約16Hzになる。
【0008】
また、ローラの質量をm、ローラに作用するばねのばね定数をkとすると、ローラの固有振動数fnは、fn=1/(2π)×(k/m)1/2なる関係で計算できる。これをばね定数kについて解くと、k=(2×fn×π)×mとなり、ローラが運転走行して発生する振動の周波数fが高い場合、これに共振しないためのばね定数kは、ローラの質量mにも依存するが、非常に大きくなることが分かる。例えば、ローラの固有振動数fnを先の例で求めたfの2倍の32Hz、ローラの質量mを1kgとすると、ばね定数kは約4.0×10Nm(40N/mm)になる。
【0009】
以上のことから、高速で運転走行中の乗かごが±5mm程度横に変位する可能性があると考えると、ローラの押し付け力は±200Nで変動することになり、安定した押し付け力が得られなくなってしまうことが判る。
【0010】
このように、周知のエレベータ用速度検出装置では、使用状況によりガイドレールへのローラの押し付け力を安定させることが困難になり、高精度に速度検出を行うことやローラの摩耗を少なくしてローラの耐久性を向上させることが困難になってしまう事態が生じるため、係る問題点の技術面での改善が求められている。
【0011】
本発明は、このような問題点を解決すべくなされたもので、その技術的課題は、使用状況に拘わらずにガイドレールへのローラの押し付け力を安定させて高精度に乗かごの速度を検出でき、ローラの摩耗を少なくして耐久性の向上を図り得るエレベータ用速度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記技術的課題を解決するため、本発明の第1の手段は、建物に設備された昇降路の多床階間をガイドレールに案内されて昇降する乗かごに設けられると共に、ローラを当該ガイドレールに押し当てて当該乗かごの速度を検出するエレベータ用速度検出装置において、ガイドレールの敷設方向と並行する方向に延在すると共に、当該ガイドレールの敷設方向と直交する方向に揺動するように一端側が第1の軸で乗りかごに軸支された第1の揺動腕と、ガイドレールを挟んで反対側に配置され、当該ガイドレールの敷設方向と並行する方向に延在すると共に、第1の軸と並行な第2の軸で一端側が乗りかごに軸支された第2の揺動腕と、第1の揺動腕の他端側に第1の軸と並行な第3の軸で軸支された可動ベースと、可動ベースに設けられると共に、ガイドレールの敷設方向に転動するように第1の軸と並行な軸で軸支された第1のローラと、第1のローラの軸に連結されると共に、当該第1のローラの回転速度に比例する信号を速度検出信号として出力する速度検出手段と、第2の揺動腕の他端側に設けられると共に、第1のローラが接するガイドレールの面とは反対側の面で当該ガイドレールの敷設方向に転動するように軸支された第2のローラと、第1の揺動腕と第2の揺動腕との間隔を狭める方向に所定の付勢力を発生する付勢手段と、可動ベースに設けられると共に、当該可動ベースの回転を拘束するように軸支された回転防止部材と、を有して成り、速度検出手段の筐体は、可動ベースに固定され、付勢手段による所定の付勢力によってガイドレールを第1のローラ及び第2のローラで挟み込む構造であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第2の手段は、第1の手段において、第1の揺動腕の他端側に設けられて可動ベースを軸支する軸と当該可動ベースに設けられて第1のローラを軸支する軸とが一つに重なる位置に配置されると共に、当該第1の揺動腕の他端側に配置された軸が共通軸として当該可動ベースと当該第1のローラとを軸支しており、可動ベースに軸支された回転防止部材は、第1の揺動腕と同じ長さの第3の揺動腕であり、第3の揺動腕の一端側は、第1の揺動腕と並行に乗かごに軸支されており、第1の揺動腕の他端側と第3の揺動腕の他端側の2点で軸支された可動ベースは、当該第1の揺動腕の回転時に当該第3の揺動腕が同じ角度で回転することにより、乗かごに対して常に並行を保つ構造であることを特徴とする。
【0014】
本発明の第3の手段は、第1の手段において、第1の揺動腕の他端側に設けられて可動ベースを軸支する軸と当該可動ベースに設けられて第1のローラを軸支する軸とが一つに重なる位置に配置されると共に、当該第1の揺動腕の他端側に配置された軸が共通軸として当該可動ベースと当該第1のローラとを軸支しており、可動ベースは長穴を有し、可動ベースに軸支された回転防止部材は、可動ベースの長穴に軸支された第1の揺動腕と同じ長さの第2の揺動腕であり、第2の揺動腕の一端側は、第1の揺動腕と並行に第2の軸で乗かごに軸支されており、第1の揺動腕の他端側と第2の揺動腕との他端側の2点で軸支された可動ベースは、当該第1の揺動腕の回転時に当該第2の揺動腕が同じ角度で回転することにより、乗かごに対して常に並行を保つ構造であることを特徴とする。
【0015】
本発明の第4の手段は、第1の手段において、可動ベースに軸支された回転防止部材は、第1の揺動腕の他端側の軸で軸支された当該可動ベースにおけるガイドレールの敷設方向で第1のローラとは反対の位置に隔てて軸支された第3のローラであり、可動ベースは、第1のローラ及び第3のローラがガイドレールに接触して回転拘束されることにより、第1の揺動腕が回転してもガイドレールに対して回転しない構造であることを特徴とする。
【0016】
本発明の第5の手段は、第4の手段において、速度検出手段は、第1のローラの軸以外にも第3のローラの軸に連結されると共に、当該第3のローラの回転速度に比例する信号を速度検出信号として出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエレベータ用速度検出装置によれば、所定の付勢力によってガイドレールをローラで挟み込み、ローラの軸と並行な軸で回転する揺動腕によってローラを支持する構造としているため、乗かごが横方向に揺れて揺動腕が回転しても、ローラへの押し付け力が安定して変動せず、ローラが片当たりせずに確実にガイドレールに押し当てられ、ローラの回転速度の検出に影響を与えないため、乗かごの速度を長期間に及んで高精度に検出できる上、ローラの摩耗を少なくして耐久性の向上を図り得るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1に係るエレベータ用速度検出装置を含むエレベータ設備の要部を示した外観斜視図である。
【図2】図1に示されるエレベータ用速度検出装置の基本構成(要部)を一部透視して示した正面図である。
【図3】図1に示されるエレベータ用速度検出装置の基本構成(要部)を示した側面図である。
【図4】本発明の実施例2に係るエレベータ用速度検出装置の基本構成(要部)を一部透視して示した正面図である。
【図5】本発明の実施例3に係るエレベータ用速度検出装置の基本構成(要部)を一部透視して示した正面図である。
【図6】図5に示されるエレベータ用速度検出装置の基本構成(要部)を示した側面図である。
【図7】比較例1に係るエレベータ用速度検出装置を含むエレベータ設備の要部を一部拡大して透視して示した外観斜視図である。
【図8】比較例2に係るエレベータ用速度検出装置の可動部分の動作を説明するために示した基本構成(要部)の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のエレベータ用速度検出装置について、幾つかの実施例並びに比較例を挙げ、図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の実施例1に係るエレベータ用速度検出装置を含むエレベータ設備の要部を示した外観斜視図である。
【0021】
このエレベータ設備は、略図する建物に設備された昇降路の多床階間を昇降する乗かご1がその外壁側面の上部、下部にそれぞれ配設されたガイド装置2a、2bとガイド装置2c、2dとによりガイドレール3a、3bに案内され、具体的には一方の上下の組みのガイド装置2a及びガイド装置2cが一方のガイドレール3aに案内され、他方の上下の組みのガイド装置2b及びガイド装置2dが他方のガイドレール3bに案内されて上下に移動する。なお、エレベータ設備として周知なその他の構造部分である乗りかご1を懸架する主ロープ4を駆動する巻上機やつり合いおもり等については略図して説明を省略する。
【0022】
また、乗かご1の上部のガイド装置2a、2b上にはそれぞれ速度検出装置5a、5bが設置されている。ここでは、保守性を考慮して乗りかご1の左右に位置されるガイドレール3a、3bに対応させて乗かご1の上部のガイド装置2a、2b上に速度検出装置5a、5bを取り付けた場合を示したが、更に乗かご1の下部のガイド装置2c、2d上に設置したり、或いはガイドレール3a、3bの片側のみのガイド装置2a及びガイド装置2cの上又はガイド装置2b及びガイド装置2dの上に速度検出装置を取り付けても良い。 要するに、速度検出装置は各ガイド装置2a〜2dに対応して設置可能であるが、通常は例示したように2つ以上備えられれば充分に機能する。
【0023】
更に、乗かご1の上部に設けられた制御装置7は、速度検出装置5aの第1のローラ6aに取り付けたロータリーエンコーダ8aのパルス信号と速度検出装置5bの第1のローラ6bに取り付けたロータリーエンコーダ8bのパルス信号とを入力し、各ロータリーエンコーダ8a、8bのパルス信号より速度を計算し、2つの速度検出装置5a、5bの検出結果の差が所定の許容値以内の場合に速度検出装置5a、5bが正常動作と判断する。速度検出装置5a、5bが正常動作である場合には、何れか大きい方の速度を検出結果として採用するか、或いは予め速度検出装置5a、5bの主従関係を決めておくようにし、各装置が正常動作であるときに主装置からの速度検出値を採用するようにしても良い。例えば速度検出装置5aを主装置、速度検出装置5bを従装置としておけば、各装置が正常であるときに主装置である速度検出装置5aの速度検出値を採用する。
【0024】
制御装置7は、各速度検出装置5a、5bの検出結果の差が所定の許容値を超える場合、故障と判断して乗かご1を停止させる。また、制御装置7は、速度検出装置5a、5bの速度検出の結果が乗かご1に規定される所定の速度を超える場合にも、故障と判断して乗かご1を停止させる。
【0025】
図2は、上述した速度検出装置5(上述した速度検出装置5a、5bの何れか一方)の基本構成(要部)を一部透視して示した正面図である。
【0026】
この速度検出装置5は、乗かご1の上部に固定した装置構成部分となるベース12に対し、ガイドレール3の敷設方向に直交してローラが接する面に並行な第1の軸13を設け、第1の揺動腕14がガイドレール3に対して並行になるように第1の揺動腕14の一端(図2中では下端)側を第1の軸13に軸支する。同様にして、ガイドレール3を挟んだ位置のベース12に設けた第2の軸15に、第2の揺動腕16の一端(図2中では下端)側を軸支する。ここでの第1の揺動腕14と第2の揺動腕16とは同じ長さにし、各揺動腕14、16を並行になるように取り付ける。
【0027】
第1の揺動腕14の他端(図2中では上端)側に、後述する構造により第1のローラ6を軸支する。第2の揺動腕16の他端(図2中では上端)側に、第2のローラ17を軸支する。これら第1のローラ6及び第2のローラ17は、ガイドレール3の敷設方向に転動するように各揺動腕14、16の他端(図2中では上端)側に軸支する。
【0028】
第1の揺動腕14の中間部分に、第1の軸13と直交し且つ水平方向の貫通穴18をあけ、第2の揺動腕16の中間部分にも同様な貫通穴19をあける。第1の揺動腕14の貫通穴18と第2の揺動腕16の貫通穴19とに軸20を通し、ばね21を第2の揺動腕16の側面に押し当てて軸20の両端にストッパ22a、22bを取り付ける。このようにすると、軸20は第1の揺動腕14を第2の揺動腕16の方に引っ張る格好となり、第1の揺動腕14と第2の揺動腕16との間隔が狭まる方向の力が働く。
【0029】
以上の構成により、第1のローラ6と第2のローラ17とにより、破線で示すガイドレール3を挟む構造にする。据付時にストッパ22a、22bの位置を調整することにより、ガイドレール3を挟む力の大きさを調整する。第1のローラ6の摩擦係数をμ、第1のローラ6の半径をr、第1のローラ6の慣性モーメントをI、重力加速度をgとすると、第1のローラ6をガイドレール3に押し付ける力の大きさNは、(I×g)/(μ×r)よりも大きくなるように設定する。これは、乗かご1が重力加速度gで落下しても、第1のローラ6がガイドレール3に対して滑らずに正確に速度を検出するための条件である。ばね定数がkのばねを用いてローラを押し付ける場合、据付時のばね21の変位xはx=N×(L/L)/k以上になるように設定する。ここで、Lは第1の揺動腕14の下端の軸13からばね21が作用する軸20までの距離、Lは第1の揺動腕14の下端の軸13から第1のローラ6の回転軸26までの距離である。
【0030】
以上の構造により、偏荷重や揺れによって乗かご1がガイドレール3に対して横方向に変位したとき、第1の揺動腕14と第2の揺動腕16とは自由に回転して第1のローラ6と第2のローラ17とがガイドレール3に追従する。このとき、第1の揺動腕14と第2の揺動腕16との間隔は一定のため、ばね21の変位xは変化しない。従って、乗かご1が横方向に1mm以上変位しても影響を受けないで、必要なローラへの押し付け力が安定して得られる。よって、第1のローラ6の押し付け力を50N前後の設定値に保つことができる。
【0031】
更に、第1の揺動腕14よりもガイドレール3から隔たった側(図2中では第1の揺動腕14の右側)に、第1の揺動腕14と同じ長さの第3の揺動腕23を配置し、第3の揺動腕23の一端(図2中では下端)側を第3の軸24でベース12に軸支する。後述する構造により、矩形板状の可動ベース25aのガイドレール3が有る側(図2中では左端)を第1の揺動腕14の他端(図2中では上端)側に軸支する。第1の揺動腕14と第3の揺動腕23とが並行になるように、可動ベース25aのガイドレール3が無い側(図2中では右端)を第3の軸24で第3の揺動腕23の他端(図2中では上端)側に軸支する。また、後述するように、第1のローラ6の回転軸26に、ロータリーエンコーダ8の軸を固定し、ロータリーエンコーダ8の筺体を可動ベース25aに固定する。
以上の構造により、ベース12、第1の揺動腕14、可動ベース25a、及び第3の揺動腕23により並行リンク構造を構成しているので、乗かご1が横方向に変位して第1の揺動腕14及び第3の揺動腕23が回転しても、可動ベース25aは第3の揺動腕23により回転が拘束されて傾かず、乗かご1に対して並行を保つ。従って、第1の揺動腕14及び第3の揺動腕23が回転しても、第1のローラ6と可動ベース25a上に固定されたロータリーエンコーダ8との相対的な回転角度に影響が無く、速度検出に影響しないため、高精度に速度を検出することができる。
【0032】
なお、第2の揺動腕16に対して第3の揺動腕23と同様な図示しない第4の揺動腕を配置し、可動ベース25aと左右対称な形状の可動ベースを追加すれば、第2のローラ17側にもロータリーエンコーダ8を追加して左右対称な構造にすることができる。
【0033】
図3は、上述した実施例1に係る速度検出装置5の基本構成(要部)を示した側面図である。即ち、図3では、図2に示した速度検出装置5の第1のローラ6と第1の揺動腕14と可動ベース25aとロータリーエンコーダ8との結合部分を側面図により示したものである。なお、図3中では軸が通る部分を見易くするため、揺動腕14や可動ベース25a等を断面で示しているが、そうした断面を示す部分のハッチングを省略している。
【0034】
図3を参照して、第1の揺動腕14に第1のローラ6と可動ベース25aとを軸支する部分の構造を詳細に説明すれば、第1のローラ6の回転軸26は、第1のローラ6に固定されており、第1のローラ6と一体になって回転する。第1の揺動腕14の上端に設けられた軸受27により回転軸26を支持する。
【0035】
回転軸26に対してフランジの付いたスペーサ28を挿入し、可動ベース25aに設けた穴にスペーサ28を通す。この穴は、図2中において可動ベース25aの左側の回転軸26の位置に設けた穴を示すものである。また、回転軸26の端部にワッシャ10とナット29とを取り付け、可動ベース25aが抜け落ちないようにすると共に、第1のローラ6を第1の揺動腕14に固定する。更に、回転軸26の端部にロータリーエンコーダ8を取り付けて固定する。ロータリーエンコーダ8の筺体は、板ばね31とスペーサ32とを介して可動ベース25aに固定する。尚、板ばね31は、回転軸26とロータリーエンコーダ8との芯ずれを吸収するために取り付けるものである。このような構成により、ロータリーエンコーダ8で第1のローラ6の回転速度を検出することができる。因みに、速度検出手段として、ロータリーエンコーダ8の代わりに、回転速度に比例する大きさの信号を出力する他のセンサを用いても良い。
【0036】
以上の構造を総括すれば、実施例1に係るエレベータ用速度検出装置は、ガイドレール3の敷設方向と並行する方向に延在すると共に、ガイドレール3の敷設方向と直交する方向に揺動するように一端側が第1の軸13で乗りかご1に軸支された第1の揺動腕14と、ガイドレール3を挟んで反対側に配置され、ガイドレール3の敷設方向と並行する方向に延在すると共に、第1の軸13と並行な第2の軸15で一端側が乗りかご1に軸支された第2の揺動腕16と、第1の揺動腕14の他端側に第1の軸13と並行な第3の軸24で軸支された可動ベース25aと、可動ベース25aに設けられると共に、ガイドレール3の敷設方向に転動するように第1の軸13と並行な軸で軸支された第1のローラ6と、第1のローラ6の回転軸26に連結されると共に、第1のローラの回転速度に比例する信号を速度検出信号として出力する速度検出手段としてのロータリーエンコーダ8と、第2の揺動腕16の他端側に設けられると共に、第1のローラ6が接するガイドレール3の面とは反対側の面でガイドレール3の敷設方向に転動するように軸支された第2のローラ17と、第1の揺動腕14と第2の揺動腕16との間隔を狭める方向に所定の付勢力を発生する付勢手段としてのばね21と、可動ベース25aに設けられると共に、可動ベース25aの回転を拘束するように軸支された回転防止部材としての第3の揺動腕23と、を有して成るもので、ロータリーエンコーダ8の筐体が可動ベース25aに固定され、ばね21による所定の付勢力によってガイドレール3を第1のローラ6及び第2のローラ17で挟み込む構造となっている。
【0037】
特に実施例1に係る速度検出装置では、第1の揺動腕14の他端側に設けられて可動ベース25aを軸支する軸と可動ベース25aに設けられて第1のローラ6を軸支する回転軸26とが一つに重なる位置に配置されると共に、第1の揺動腕14の他端側に配置された軸が回転軸26による共通軸として可動ベース25aと第1のローラ6とを軸支しており、可動ベース25aに軸支された回転防止部材となる第3の揺動腕23の一端側は、第1の揺動腕14と並行に乗かご1に軸支されている。これにより、第1の揺動腕14の他端側と第3の揺動腕23の他端側の2点で軸支された可動ベース25aは、第1の揺動腕14の回転時に第3の揺動腕23が同じ角度で回転することにより、乗かご1に対して常に並行を保つ構造となっている。
【0038】
こうした構造によれば、上述したように弟1の揺動腕14が回転しても、ロータリーエンコーダ8は可動ベース25aに取り付けられているために回転しないことにより、揺動腕14の回転の影響を受けずに第1のローラ6の回転速度を検出することができる。また、第1の揺動腕14の第1の軸13は第1のローラ6の回転軸26に並行であり、第1の揺動腕14が回転しても、第1のローラ6の回転軸26はガイドレール3の接触面に対して並行な関係を保つため、従来構造(ローラの回転軸と揺動腕の回転軸とが直交する構造)の場合に発生するローラの片当たりが起きない。
【実施例2】
【0039】
図4は、本発明の実施例2に係るエレベータ用速度検出装置の基本構成(要部)を一部透視して示した正面図である。但し、実施例2に係るエレベータ用速度検出装置については、先の実施例1に係るエレベータ用速度検出装置と比べて構造上で共通部分が多いため、同一構成部分には同一符号を付して説明を省略し、相違する箇所を説明する。
【0040】
実施例2に係るエレベータ用速度検出装置の技術的概要を簡単に云えば、実施例1に係る構造の回転防止部材としての第3の揺動腕23に代え、矩形板状の可動ベース25bの構造を工夫してそれに軸支される第2の揺動腕16を回転防止部材として働かせるようにしたものである。
【0041】
具体的に云えば、ここでは所定の位置に長穴33が設けられた矩形板状の可動ベース25bを、ガイドレール3を跨いで第2の揺動腕16の方まで伸ばし、第2の揺動腕16の他端(図4中では上端)側に、第2のローラ17の軸と重なる位置に軸11を取り付ける。また、可動ベース25bがベース12に対して並行になるように、可動ベース25bの左側に設けた長穴33に、第2の揺動腕16の他端(図4中では上端)側の軸11を案内する構造とする。
要するに、実施例2に係る速度検出装置では、第1の揺動腕14の他端側に設けられて可動ベース25bを軸支する軸と可動ベース25bに設けられて第1のローラ6を軸支する回転軸26とが一つに重なる位置に配置されると共に、第1の揺動腕14の他端側に配置された軸が回転軸26による共通軸として可動ベース25bと第1のローラ6とを軸支しており、可動ベース25bの長穴33に軸支された第1の揺動腕14と同じ長さの回転防止部材としての第2の揺動腕16の一端(図4中では下端)側は、第1の揺動腕14と並行に第2の軸15で乗かご1に軸支されている。これにより、第1の揺動腕14の他端側と第2の揺動腕16との他端側の2点で軸支された可動ベース25bは、第1の揺動腕14の回転時に第2の揺動腕16が同じ角度で回転することにより、乗かご1に対して常に並行を保つ構造となっている。
【0042】
こうした構造によれば、可動ベース25bは長穴33で第2の揺動腕16に軸支されているため、第1の揺動腕14と第2の揺動腕16とを連結しても、ばね21の力を殺さないで第1のローラ6及び第2のローラ17でガイドレール3を挟むことができる。また、ベース12、第1の揺動腕14、可動ベース25b、及び第2の揺動腕16により、並行リンク構造を成すため、先の実施例1の場合と同様の効果が得られる。
【0043】
即ち、乗かご1が横方向に変位して第1の揺動腕14及び第2の揺動腕16が回転しても、可動ベース25bは第2の揺動腕16により回転が拘束されて傾かず、乗かご1に対して並行を保つ。従って、第1の揺動腕14及び第2の揺動腕16が回転しても、第1のローラ6と可動ベース25b上に固定されたロータリーエンコーダ8との相対的な回転角度に影響が無く、速度検出に影響しないため、高精度に速度を検出することができる。
【0044】
因みに、実施例2に係る速度検出装置によれば、実施例1の場合で説明した第3の揺動腕23を省いて部品点数を削減できるが、構造的に第2のローラ17側の軸11にロータリーエンコーダ8を追加することはできない。
【実施例3】
【0045】
図5は、本発明の実施例3に係るエレベータ用速度検出装置の基本構成(要部)を一部透視して示した正面図である。但し、実施例3に係るエレベータ用速度検出装置についても、先の実施例1に係るエレベータ用速度検出装置と比べて構造上で共通部分が多いため、同一構成部分には同一符号を付して説明を省略し、相違する箇所を説明する。
【0046】
実施例3に係るエレベータ用速度検出装置の技術的概要を簡単に云えば、実施例1に係る構造の回転防止部材としての第3の揺動腕23に代え、台形板状の可動ベース25cを利用してそれに軸支される第3のローラ34を回転防止部材として働かせるようにしたものである。
【0047】
具体的に云えば、ここでは第1の揺動腕14の他端(図5中では上端)側に台形板状の可動ベース25cの中央部分に設けた軸35を軸支する。後述する構造により、可動ベース25cの他端(図5中では上端)側に第1のローラ6を軸支し、可動ベース25cの一端(図5中では下端)側に第3のローラ34とを軸支する。図5に示す例では、第1のローラ6と第3のローラ34とのガイドレール3への押し付け力が均等になるように、軸35を第1のローラ6及び第3のローラ34の中間に配置している。
【0048】
また、後述するように、第1のローラ6の回転軸26にはロータリーエンコーダ8に固定し、ロータリーエンコーダ8の筺体を可動ベース25cに固定する。因みに、ロータリーエンコーダ8は第3のローラ34の方に取り付けても良いし、或いは両方に取り付けても良い。その場合、第1の揺動腕14やばね21の軸20に干渉しないようにロータリーエンコーダ8を取り付ける。
【0049】
ここで、ばね21によるローラへの押し付け力(所定の付勢力)は第1のローラ6と第3のローラ34とに分散されるため、必要な押し付け力が得られるようにばね21の変位を調整する。第2のローラ17の方は、第1のローラ6及び第3のローラ34の場合よりも押し付け力が増大するため、ここでは機械的強度を考慮して第2のローラ17を第1のローラ6及び第3のローラ34よりも大きくしている。
【0050】
このような構成で第1のローラ6及び第3のローラ34と第2のローラ17とにより破線で示すガイドレール3を挟む構造にする。これにより、偏荷重や揺れによって乗かご1が横方向に変位しても、第1の揺動腕14と第2の揺動腕16との間隔が一定となり、ばね21の変位xは変化しないため、先の各実施例の場合と同様に、必要とされるローラ押し付け力が安定して得られる。
【0051】
また、中心位置の軸35で回転する可動ベース25cと第1のローラ6及び第3のローラ34とによりガイドレール3に倣って向きを変えるボギー構造になっているため、乗かご1が横方向に変位して第1の揺動腕14及び第2の揺動腕16が回転しても、可動ベース25cは第1のローラ6及び第3のローラ34により回転が拘束されてガイドレール3に対して常に並行を保って回転しない。従って、先の各実施例の場合と同様に、第1の揺動腕14及び第2の揺動腕16の回転に影響を受けずに高精度に速度検出することができる。更に、係る構造によれば、別途に揺動腕や可動ベースを追加しなくても、片側のガイドレール3に対して、2つのロータリーエンコーダ8を取り付けることができる。
【0052】
図6は、上述した実施例3に係る速度検出装置5の基本構成(要部)を示した側面図である。即ち、図6では、図5に示した速度検出装置5のベース12と第1のローラ6と第1の揺動腕14と可動ベース25cとロータリーエンコーダ8との結合部分を側面図により示したものである。なお、図6中においても、軸が通る部分を見易くするため、揺動腕14や可動ベース25c等を断面で示しているが、そうした断面を示す部分のハッチングを省略している。
【0053】
図6を参照して、第1の揺動腕14に可動ベース25cを軸支し、第1のローラ6を可動ベース25cに固定する構造を説明すれば、第1の揺動腕14の他端(図6中では上端)側に可動ベース25cの中心位置の軸35を軸支し、軸受36が内蔵された第3のローラ34を可動ベース25cの一端側(図6中では下側)に設けたネジ穴にピン37で固定する。
【0054】
可動ベース25cの他端側(図6中では上側)に設けられた軸受27により第1のローラ6の回転軸26を支持するが、回転軸26の端部はネジになっているため、ナット29で回転軸26が抜け落ちないように固定する。更に、回転軸26の端部にロータリーエンコーダ8を取り付けて固定する。ロータリーエンコーダ8の筺体は、板ばね31を介して可動ベース25cに固定する。このような構成により、ロータリーエンコーダ8で第1のローラ6の回転速度を検出することができる。
【0055】
要するに、実施例3に係る速度検出装置では、可動ベース25cに軸支された回転防止部材としての第3のローラ34が第1の揺動腕14の他端側の軸35で軸支された可動ベース25cにおけるガイドレール3の敷設方向で第1のローラ6とは反対の位置に隔てて軸支され、可動ベース25cについては、第1のローラ6及び第3のローラ34がガイドレール3に接触して回転拘束されることにより、第1の揺動腕14が回転してもガイドレール3に対して回転しない構造となっている。
【0056】
こうした構造によれば、第1の揺動腕14の第1の軸13と可動ベース25cの軸35と第1のローラ6の回転軸26とが全て並行なため、第1の揺動腕14が回転しても第1のローラ6の回転軸26はガイドレール3の接触面に対して並行を保つため、先の各実施例の場合と同様に、従来構造(ローラの回転軸と揺動腕の回転軸とが直交する構造)の場合に発生するローラの片当たりが起きない。
[比較例1]
【0057】
図7は、比較例1に係るエレベータ用速度検出装置5を含むエレベータ設備の要部を一部拡大して透視して示した外観斜視図である。この図7は、ローラの回転軸と揺動腕の回転軸が直交している従来構造(特許文献1)の速度検出装置5において発生するローラの片当たりを説明するための図である。
【0058】
図7に示す従来構造の速度検出装置5では、乗りかご1の左右のガイドレール3a、3bのうち、左側のガイドレール3aを対象とするガイド装置2a上ではなく、右側のガイドレール3bを対象とするガイド装置2b上に設置された場合を示している。この速度検出装置5は、第1のローラ6の回転軸26に直交する第1の軸13が第1の揺動腕14の根元に設けられている。第1の揺動腕14の第1の軸13は乗かご1に軸支されており、ばね21によって第1の揺動腕14をガイドレール3bの方に押し付けている。また、第1の揺動腕14の先端にも第1のローラ6の回転軸26に直交する第2の軸となるピン37が設けられている。第1のローラ6の軸受部材38はピン37で軸支されており、第1のローラ6は軸受部材38に設けられた回転軸(z軸)26で回転してガイドレール3bの上を転動すると共に、ピン37によるy軸回りの首振りの自由度を有する。
【0059】
乗かご1が横方向に変位して第1の揺動腕14が第1の軸13で回転したとき、第1のローラ6はピン37で首振り回転して第1のローラ6の外周面がガイドレール3bの接触面に密着するような構造になっている。
【0060】
図7に示す構造では、偏荷重等により乗かご1が矢印で示すようにx軸周りに回転して傾いた状態を示している。そこで、例えば乗かご1がガイドレール3bに沿って上昇する場合について考えると、このときに乗かご1の進行方向はガイドレール3bの長手軸yとなるが、乗かご1が傾いていると弟1のローラ6の進行方向yと乗かご1の進行方向yが微妙にずれてしまい、それにより図7中に示すように第1のローラ6のy軸に時計回りのモーメント力Mが発生する。この結果、第1のローラ6がy軸周りに首振り回転し、第1のローラ6の角の部分(図7中の点Pの部分)がガイドレール3bに強く接触し、片当たりの状態になる。
【0061】
従来、首振り回転により片当たりが助長されるのを抑えるためには、第1のローラ6の幅を広くしたり、或いはばね21で押し付ける力を大きくしてガイドレール3bへの密着度を高める必要があったが、本発明の各実施例に係る構造の場合には、上述した通り、首振りの回転自由度が無いため、こうしたローラの片当たりが発生しない。
[比較例2]
【0062】
図8は、比較例2に係るエレベータ用速度検出装置の可動部分の動作を説明するために示した基本構成(要部)の側面図である。この図8は、他の従来構造(文献公知に係る発明でないが、一般的に周知な構造のもの)の速度検出装置において発生する揺動腕の回転が速度検出に影響するのを説明するための図である。
【0063】
図8に示す他の従来構造の速度検出装置5では、本発明の各実施例で用いた可動ベース25a〜25cが無く、ロータリーエンコーダ8の筺体を第1の揺動腕14に直接固定する構造になっている。図8中では、第1の揺動腕14が直立した状態から、破線で示すように角度θだけ回転した状態を表わしている。
【0064】
偏荷重や揺れにより乗かご1がガイドレール3に対して横方向にδ変位した場合、第1の揺動腕14の回転角度θは、θ=sin−1(δ/l)なる関係で計算できる。但し、ここでのlは第1の揺動腕14の長さである。また、第1の揺動腕14が時計回りに回転する方向、すなわちロータリーエンコーダ8を基準に第1のローラ6が反時計回りに回転する方向を正とする。
【0065】
このとき、第1のローラ6はδ=l−l×cosθ1なる関係で表わされる変位分だけ下方に移動する。第1のローラ6の半径をrとすると、第1のローラ6がδだけ下方に移動することによって第1のローラ6が回転する角度θは、θ=−δ/r=−(l−l×cosθ)/rなる関係で計算できる。
【0066】
例えば、極端に最悪の場合として、乗かご1が10mm変位すると仮定すると、δは0.01mである。また、このときの加速度を0.3m/s(震度3程度の地震を想定)と仮定すると、0.01mの変位に要する時間tは、t=(0.01×2/0.3)1/2=0.258秒である。
【0067】
一例として第1の揺動腕14の長さlを0.1m、第1のローラ6の半径rを0.08mとして計算すると、第1の揺動腕14の回転角度θは0.10radである。また、第1の揺動腕14が回転することにより第1のローラ6が下がる距離δは0.0005m(0.5mm)である。更に、第1のローラ6が0.0005m下がることにより第1のローラ6がロータリーエンコーダ8に対して回転する角度θは、−0.006radである。
【0068】
以上の計算例よれば、図8に示した他の従来構造の速度検出装置の場合の速度検出誤差ve1を求めると、ve1=r×(θ+θ)/t=0.08×(0.10−0.006)/0.258=0.029m/sとなる。従って、定格速度が3m/sの場合は1%の誤差が発生し、速度検出に影響することが判る。
【0069】
これに対し、本発明の各実施例で説明した並行リンク構造やボギー構造を適用すると、第1の揺動腕14が傾く角度θの影響は無くなり、第1のローラ6が下方に移動することによる回転角度θのみが影響する。その場合の速度検出誤差ve2を求めると、ve2=r×θ/t=0.08×(−0.006)/0.258=−0.002m/sとなる。従って、定格速度が3m/sの場合は0.07%の誤差しか発生せず、この影響は無視できる。
【0070】
以上のことから、乗かご1が横方向の変位して揺動腕が回転しても、本発明の各実施例に係る速度検出装置の場合には影響を受けずに、高精度に乗かご1の速度を検出できることが判る。
【符号の説明】
【0071】
1 乗かご
2a〜2d ガイド装置
3、3a、3b ガイドレール
4 主ロープ
5、5a、5b 速度検出装置
6、6a、6b 第1のローラ
7 制御装置
8、8a、8b ロータリエンコーダ
10 ワッシャ
11、20、35 軸
12 ベース
13 第1の軸
14 第1の揺動腕
15 第2の軸
16 第2の揺動腕
17 第2のローラ
18、19 貫通穴
21 ばね
22a、22b ストッパ
23 第3の揺動腕
24 第3の軸
25a、25b、25c 可動ベース
26 回転軸
27、36 軸受
28、32 スペーサ
29 ナット
31 板ばね
34 第3のローラ
37 ピン
38 軸受部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に設備された昇降路の多床階間をガイドレールに案内されて昇降する乗かごに設けられると共に、ローラを当該ガイドレールに押し当てて当該乗かごの速度を検出するエレベータ用速度検出装置において、
前記ガイドレールの敷設方向と並行する方向に延在すると共に、当該ガイドレールの敷設方向と直交する方向に揺動するように一端側が第1の軸で前記乗りかごに軸支された第1の揺動腕と、前記ガイドレールを挟んで反対側に配置され、当該ガイドレールの敷設方向と並行する方向に延在すると共に、前記第1の軸と並行な第2の軸で一端側が前記乗りかごに軸支された第2の揺動腕と、前記第1の揺動腕の他端側に前記第1の軸と並行な第3の軸で軸支された可動ベースと、前記可動ベースに設けられると共に、前記ガイドレールの敷設方向に転動するように前記第1の軸と並行な軸で軸支された第1のローラと、前記第1のローラの軸に連結されると共に、当該第1のローラの回転速度に比例する信号を速度検出信号として出力する速度検出手段と、前記第2の揺動腕の他端側に設けられると共に、前記第1のローラが接する前記ガイドレールの面とは反対側の面で当該ガイドレールの敷設方向に転動するように軸支された第2のローラと、前記第1の揺動腕と前記第2の揺動腕との間隔を狭める方向に所定の付勢力を発生する付勢手段と、前記可動ベースに設けられると共に、当該可動ベースの回転を拘束するように軸支された回転防止部材と、を有して成り、
前記速度検出手段の筐体は、前記可動ベースに固定され、
前記付勢手段による前記所定の付勢力によって前記ガイドレールを前記第1のローラ及び前記第2のローラで挟み込む構造であることを特徴とするエレベータ用速度検出装置。
【請求項2】
請求項1記載のエレベータ用速度検出装置において、
前記第1の揺動腕の他端側に設けられて前記可動ベースを軸支する軸と当該可動ベースに設けられて前記第1のローラを軸支する軸とが一つに重なる位置に配置されると共に、当該第1の揺動腕の他端側に配置された軸が共通軸として当該可動ベースと当該第1のローラとを軸支しており、
前記可動ベースに軸支された前記回転防止部材は、前記第1の揺動腕と同じ長さの第3の揺動腕であり、
前記第3の揺動腕の一端側は、前記第1の揺動腕と並行に前記乗かごに軸支されており、
前記第1の揺動腕の他端側と前記第3の揺動腕の他端側の2点で軸支された前記可動ベースは、当該第1の揺動腕の回転時に当該第3の揺動腕が同じ角度で回転することにより、前記乗かごに対して常に並行を保つ構造であることを特徴とするエレベータ用速度検出装置。
【請求項3】
請求項1記載のエレベータ用速度検出装置において、
前記第1の揺動腕の他端側に設けられて前記可動ベースを軸支する軸と当該可動ベースに設けられて前記第1のローラを軸支する軸とが一つに重なる位置に配置されると共に、当該第1の揺動腕の他端側に配置された軸が共通軸として当該可動ベースと当該第1のローラとを軸支しており、
前記可動ベースは長穴を有し、
前記可動ベースに軸支された前記回転防止部材は、前記可動ベースの長穴に軸支された前記第1の揺動腕と同じ長さの前記第2の揺動腕であり、
前記第2の揺動腕の一端側は、前記第1の揺動腕と並行に前記第2の軸で前記乗かごに軸支されており、
前記第1の揺動腕の他端側と前記第2の揺動腕との他端側の2点で軸支された前記可動ベースは、当該第1の揺動腕の回転時に当該第2の揺動腕が同じ角度で回転することにより、前記乗かごに対して常に並行を保つ構造であることを特徴とするエレベータ用速度検出装置。
【請求項4】
請求項1記載のエレベータ用速度検出装置において、
前記可動ベースに軸支された前記回転防止部材は、前記第1の揺動腕の他端側の軸で軸支された当該可動ベースにおける前記ガイドレールの敷設方向で前記第1のローラとは反対の位置に隔てて軸支された第3のローラであり、
前記可動ベースは、前記第1のローラ及び前記第3のローラが前記ガイドレールに接触して回転拘束されることにより、前記第1の揺動腕が回転しても前記ガイドレールに対して回転しない構造であることを特徴とするエレベータ用速度検出装置。
【請求項5】
請求項4記載のエレベータ用速度検出装置において、
前記速度検出手段は、前記第1のローラの前記軸以外にも前記第3のローラの前記軸に連結されると共に、当該第3のローラの回転速度に比例する信号を速度検出信号として出力することを特徴とするエレベータ用速度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−95526(P2013−95526A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237304(P2011−237304)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】