説明

エンコーダの誤差補正装置

【課題】本発明は、回転角度を検出する磁気式または光学式エンコーダの誤差補正装置及び誤差補正方法に関するものである。
【解決手段】製造時に誤差検出用の高精度エンコーダを用い、本発明のエンコーダの誤差を検出する。検出した誤差をFFTにより周波数成分を検出し記憶装置に保存する。エンコーダ使用時は、記憶装置から誤差を読み込み逆FFTにより角度による誤差を求め、逐次誤差補正を行うことにより、安価で高精度なエンコーダの誤差補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転角度を検出する磁気式または光学式エンコーダの誤差補正装置ならびに誤差補正装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気式エンコーダや光学式エンコーダの出力信号誤差の補正法としては、センサ、回転ディスク、信号補正回路を中心に多くの方法が提案されている。高精度な位置制御や回転むら精度が要求される一定速度駆動、また可変速駆動を行うためにも高精度な角度・速度検出器が必要となり、検出精度が最終的な制御性能に大きく影響する場合が多い。
次に、従来の磁気エンコーダの動作について説明する。
【0003】
図1は従来から実施されている磁気エンコーダの構成を示す断面図で、1は磁気ドラム,2は回転軸、3はMR素子を備えた磁気センサ、4は磁気媒体、5は軸受け、6は回路基板、7は止めネジである。図1において軸受け5に支持された回転軸2に、その外周に磁気媒体4が固着された磁気ドラム1を止めネジ7で固着し、該磁気ドラム1の外周と空隙を介して磁気センサ3が対向して配置されている。磁気ドラム1の外周と磁気センサ3との空隙は磁気ドラム1の着磁ピッチが小さくなると空隙も狭くする必要があり、高パルスとなる程空隙は狭くなり一般的には50ミクロン程度が限界である。
【0004】
図2は磁気ドラム1と回転軸2との固着方法を説明する説明図で、回転軸2の寸法公差に対して適切な穴公差で加工された磁気ドラム1を前記回転軸2に挿入し、止めネジ7で固定する方法が取られている。
図1,図2に示した従来技術に成る磁気エンコーダの構成においては、磁気ドラム1を回転軸2に止めネジ7で固定する際に僅かであるが回転軸2に対し磁気ドラム1が傾き磁気ドラム1の外径振れが発生する。この値は約10〜15ミクロンぐらいなることが経験値より得られている。このため、特に高いパルス数のエンコーダにおいては磁気ドラムと磁気センサの空隙に対する振れ(偏心)の影響度が大きく、MR素子の出力特性に大きく影響し振幅変動や周波数変動が生じる。
【0005】
磁気式エンコーダや光学式エンコーダの出力信号誤差の補正法としては、センサ、回転ディスク、信号補正回路を中心に多くの方法が提案されている。例えば特許文献1では、外部ロータリーエンコーダで測定した角度と発明のエンコーダシステムで測定した角度との誤差を測定し、その誤差が正弦波であるとして振幅と位相を求めている。しかし、この方法ではエンコーダ一回転に対して一次の成分しか補正できない。また、補正される角度の精度はサインテーブルに保存された正弦波の分解能に依存し、高精度な角度を得るためには多くの記憶装置が必要となる。
【0006】
また、例えば特許文献2では、回転シャフトに固定された回転ディスクと、前記回転ディスクに対して空隙を介して対向配置された磁気式または光学式のセンサヘッドで構成された検出部と、前記検出部から出力される信号を角度データに処理する信号処理部とを備え、前記信号処理部にはデータ読み書き可能な不揮発性の記憶手段が実装され予め測定し、処理された絶対精度の高い角度データとの関係を明らかにした補正用角度データを参照し、エンコーダ値を補正する。しかし、この方法では角度と補正用角度データは一対一で対応しているため、全ての角度での補正用角度データが必要になる。また、複数の検出器を用いてその差分を記憶することも述べてあるが、やはり全ての角度ごとの補正用角度データが必要になる。
【0007】
また、例えば特許文献3では、検出された複数の検出角度データと、センサの出力であるアナログ信号の1周期内で角度がリニアに変化するものとして求められる理想的角度データとにより算出された、アナログ信号の1周期内での角度に対応した誤差データを基準データとして記憶しておき、検出された角度データに対し補正手段が記憶手段に記憶した基準データに基づいて検出誤差データを求め、検出された検出角度データに求めた検出誤差データを補正してアナログ信号角度周期内の角度データとして出力するようにしたものである。しかし、この方法では、誤差を持った源信号の平均値を理想的な角度データとしているため確実に誤差が検出できないことや、やはり全ての角度ごとの補正用角度データが必要になる。
【0008】
また、例えば特許文献4では、回転ディスクの回転に伴い回転ディスクの円周上に角度検出用のセンサを3つ以上、回転ディスクの周辺近傍の固定角度に、回転ディスクの中心から見てほぼ等間隔に、且つ回転円板の偏心がないとき各検出器の発生する角度検出信号の位相が一致するように配置し、エンコーダの偏心誤差を補正するものである。しかし、この方法では、最低でも3つのセンサが必要となりコストや信頼性の面から問題となる。
【0009】
【特許文献1】特開2000−213958号公報
【特許文献2】特開2004−317411号公報
【特許文献3】特開2003−254785号公報
【特許文献4】特開平08−061979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
回転ディスクと該回転ディスクに対して一定の間隔を置いて配置された磁気式または光学式のセンサヘッドで構成された検出部と、前記検出部から出力される信号を角度または速度信号として処理する信号処理部を備えた磁気式または光学式エンコーダにおいて、回転ディスクの偏心や反りなど機械加工精度の問題により出力パルスに振幅変動、周波数変動の歪みが生じる。それらの誤差は最終的に角度・速度誤差となって現われ検出精度の悪化を招く。
【0011】
そのためには、回転ディスクの機械加工精度上げることが一つの解決法である。例えば、磁気エンコーダにおいては磁気ドラムを真円に近づけ、偏心を減少させ、また側面を平滑にすればよい。すなわち回転ディスクの機械的精度を上げることであるが、それにも限界があり、コスト高にもつながる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、前記回転ディスクと磁気式または光学式のセンサヘッドで構成された検出部と、前記検出部から出力される信号を角度または速度信号として処理する信号処理部を備えた磁気式または光学式エンコーダにおいて、回転ディスクの偏心や反りなどの機械加工精度の問題から発生する周期的な誤差を補正するための記憶装置を実装していることを特徴としている。
【0013】
前記回転ディスクの偏心や反りなどの機械加工精度により発生する回転角度の誤差は、角度の誤差をQerr(x)、角度の真値をx、各周波数成分の振幅をA1、A2、…、An、各周波数成分の位相をr1、r2、…、rnとすると数式1のように表すことができる。
「数式1」
Qerr(x)=A1*sin(x+r1)+A2*sin(2*x+r2)+…+An*sin(n*x+rn) (1)
【0014】
数式1の角度誤差は、誤差の補償されたエンコーダを用いて測定することができる。図6はエンコーダにより測定した、前記角度誤差を示している。従来の技術では数式1の角度誤差を分割して記憶装置に記憶することを主な特徴としている。すなわち、エンコーダの一回転である0度から360度を、例えばn分割した場合を考えると、前記角度誤差から次のような誤差補正のためのテーブルが作成される。
「数式2」
Qerr={ Qerr(0)、 Qerr(360/n)、
Qerr(2*360/n)、…、Qerr((n−1)*360/n) }
(2)
特許文献1では数式1の基本波成分のみから作成されるテーブルを用い、特許文献2、3では数式2のテーブルを記憶装置に記憶することを特徴としている。エンコーダの角度精度を上げるためにはnを十分に大きくする必要があるため、従来技術では多くのメモリを必要とする。
【0015】
本発明では、前記角度誤差をFFT(Fast Fourier Transfer)装置を付加することにより数式1で表される誤差の周波数成分を検出し、前記記憶装置に周波数成分のみを記憶することにより記憶装置のメモリ数を削減することを特徴としている。数式1の角度誤差をFFT装置により周波数成分を検出すると、前記角度誤差は、角度の誤差をQerr(x)、角度の真値をx、角度誤差の正弦波成分の振幅をA11、A21、…、An1、角度誤差の余弦波成分の振幅をA12、A22、…、An2、とすると数式3のように表すことができる。
「数式3」
Qerr(x)=A11*sin(x)+A12*cos(x)
+A21*sin(2*x)+A22*cos(2*x)+…
+An1*sin(n*x)+An2*cos(n*x) (3)
図7は図6の角度誤差をFFT装置を用いて周波数成分を検出した結果を示している。
前記角度誤差を数式3で表した場合、全ての周波数成分を記憶する必要はなく、必要な精度が得られるのに十分な次数まで前記記憶装置に記憶すればよい。例えば、2次の成分まで記憶する場合、数式3から次のようなテーブルが作成される。数式4の成分を前記記憶装置に記憶することにより従来技術と比較して使用するメモリ数が削減される。
「数式4」
Qerr_f={ A11、 A12、 A21、 A22 }
(4)
【0016】
また本発明では、前記FFT装置を用いて周波数成分を検出した角度誤差をメモリに記憶する次数を決めるための精度補償装置を用いていることを特徴としている。精度補償装置はエンコーダの角度精度を満たすための、記憶装置に記憶する最小のメモリ数を決定するために使用される。精度補償装置は次のようにメモリ数を決定する。まず、数式3の角度誤差の各周波数成分の振幅から最大の振幅値を検出する。次にA11の項を削除した角度誤差を求め、その角度誤差の最大値を計算する。例えば、数式3において、A11が最大であったとすると、A11の項を削除した角度誤差は次のように表される。
「数式5」
Qerr‘(x)=A12*cos(x)
+A21*sin(2*x)+A22*cos(2*x)+…
+An1*sin(n*x)+An2*cos(n*x) (5)
数式5の最大値を計算し、その値とエンコーダに求められる角度精度とを比較し、エンコーダの角度精度を満たしていれば、A11のみを記憶装置に記憶する。エンコーダの角度精度を満たしていなければ、再度、数式5の各周波数成分の振幅の最大値を検出し、その振幅の最大値の項を削除した角度誤差の最大値とエンコーダの角度精度とを比較する。
これをエンコーダの角度精度を満たすまで繰返すことにより、エンコーダの角度精度を満たし、記憶装置に記憶するメモリ数を最小とするメモリ数を決定することができる。
【0017】
また本発明では、前記記憶装置に記憶した前記誤差の周波数成分を持いて誤差を補正する場合に、エンコーダから得られた信号から信号処理装置により角度を求める間隔と同じ間隔で、前記誤差の周波数成分を逆FFT装置により前記エンコーダから得られた角度ごとの誤差を計算することにより、前記記憶装置のメモリ数や分割数に依存しない高精度な補正が行えることを特徴としている。
【0018】
また本発明では、前記記憶装置に数式3で表される誤差成分の高次の周波数成分まで記憶する必要がある場合や、逆FFT装置を計算するのに十分な計算速度を備えていないマイクロコンピュータを用いて構成する場合には、前記記憶装置に記憶された前記誤差の周波数成分の逆FFTにより変換された角度誤差を、エンコーダの要求される角度精度から決まる分割数分に、マイクロコンピュータ上のメモリに電源投入時に一度だけ展開し、角度ごとにメモリの角度誤差を読み補正することにより計算量を減らすことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明になるエンコーダの誤差補正装置は下記の特徴がある。
(1)記憶装置とFFT装置を搭載することにより、少ないメモリ数でエンコーダの誤差を補正することができる。
(2)FFT装置をエンコーダ信号処理用のマイコンに搭載することにより安価に実現できる。
(3)フラッシュメモリを搭載したマイコンを用いることにより、新たにハードウェアを付加することなく安価に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
回転ディスクと、該回転ディスクに対して一定の間隔を置いて配置された磁気式または光学式のセンサヘッドで構成された検出部と、前記検出部から出力される信号を角度または速度信号として処理する信号処理部を備えた磁気式または光学式エンコーダを構成し、外部エンコーダで測定した回転ディスクの機械精度の問題から発生する角度誤差を、FFT装置を用いて周波数分解し、エンコーダに必要な精度から決まる次数の成分のみを記憶した、読み書きが可能な不揮発性の記憶装置、例えばフラッシュメモリで構成される。該エンコーダで角度を検出する場合においては、記憶装置に記憶された誤差の周波数成分を読み、逆FFT装置により元の角度誤差を復元し、回転ディスクと検出部、信号処理部から計算された角度に応じて角度誤差を求め、誤差補正を行った角度をエンコーダの出力角度とする。
【実施例1】
【0021】
図3は本発明による実施例である回転ディスク11と磁気式または光学式のセンサヘッドで構成された検出部12と検出部から得られた信号から回転ディスクの回転角度を計算する信号処理部から構成されたエンコーダを含むエンコーダの誤差補正装置の構成図である。また外部エンコーダにより測定した、回転ディスクの偏心や反りなどの機械精度から発生するエンコーダの誤差を読み書きするための記憶装置として一般的なフラッシュメモリ13を搭載している。
【0022】
図4は本発明によるエンコーダの誤差補正装置において、外部エンコーダを用いて前記エンコーダの誤差を測定するときの構成図である。誤差を測定するための、補正値測定用エンコーダ21と補正値測定用角度計算部22で、本発明のエンコーダの回転ディスク11の機械精度から発生する角度誤差を含まない角度を検出する。一方、回転ディスク11と検出装置12から得られた信号から角度計算部23により計算した角度には前記機械精度の問題から発生する角度誤差を含んでいる。これらの角度の差分を求めることにより角度誤差を求めることが出来る。角度誤差成分をFFT装置24により周波数成分を検出し、精度補償装置25により記憶装置26に記憶する必要がある周波数成分を検出する。その検出した周波数成分を記憶装置26に記憶する。
【0023】
図5は本発明によるエンコーダの誤差補正装置において、記憶装置26に記憶した機械精度の問題から発生する角度誤差の周波数成分を用いて、回転ディスク11と検出装置12および角度計算部23から得られた角度の誤差を補正する場合の構成図である。記憶装置26から読み込まれた角度誤差の周波数成分は逆FFT装置32によりもとの角度誤差に復元される。角度計算部23から得られた角度に応じて誤差補正値を計算し誤差を補正する誤差補正部31により誤差が補正された角度がエンコーダの出力角度となる。また、記憶装置26に記憶されている角度誤差の周波数成分が、角度計算部23で角度を計算する間に逆FFTを計算できない程度の高次の周波数成分まで含んでいる場合には、記憶装置26に記憶された周波数成分の逆FFTは本発明のエンコーダの誤差補正システムに電源が投入されたときに一度だけ行われ、エンコーダの要求される角度精度から決まる分割数分にマイクロコンピュータ上のメモリに展開され、補正時においては角度計算部23から得られた角度に応じてメモリのアドレスから角度誤差が読まれ、誤差補正部31により誤差補正が行われる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、回転角度を検出する磁気式または光学式エンコーダにおいて、回転ディスクの偏心や反りなどの機械精度から発生する周期的な誤差を、安価で高精度に補正することが可能であるため、安価で高精度な回転精度が要求される分野、例えば産業用モータ用などとして広く応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来の磁気エンコーダの断面図
【図2】磁気ドラムと回転軸の固着方法説明図
【図3】本発明のエンコーダシステム
【図4】本発明のエンコーダシステムの誤差補正値検出時の構成
【図5】本発明のエンコーダシステムの誤差補正値を用いた補正時のシステム構成
【図6】誤差補正値測定用エンコーダにより測定した誤差
【図7】測定した誤差の周波数成分
【符号の説明】
【0026】
1:磁気ドラム
2:回転軸
3:磁気センサ
4:磁気媒体
5:軸受け
6:回路基板
7:止めネジ
11:回転ディスク
12:検出装置
13:フラッシュメモリ
14:信号処理装置
21:補正値測定用エンコーダ
22:補正値測定用角度計算部
23:角度計算部
24:FFT装置
25:精度補償装置
26:記憶装置
31:誤差補正部
32:逆FFT装置
33:検出角度



【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ディスクと該回転ディスクに対して一定の間隔を置いて配置された磁気式または光学式のセンサヘッドで構成された検出部と、前記検出部から出力される信号を角度または速度信号として処理する信号処理部と回転ディスクの偏心や反りなどの機械精度から発生する周期的な誤差を補正するために記憶装置を実装した磁気式または光学式エンコーダにおいて、前記誤差をFFT(Fast Fourier Transform)により周波数成分を検出し、前記記憶装置に周波数成分のみを記憶することを特徴としたFFT処理装置を具備した磁気式または光学式エンコーダ。
【請求項2】
前記磁気式または光学式エンコーダにおいて、前記誤差をFFTにより周波数成分を検出した後、該エンコーダの角度検出精度に影響する周波数成分のみを検出し、周波数成分のみを記憶することを特徴とした請求項1に記載の磁気式または光学式エンコーダ。
【請求項3】
前記磁気式または光学式エンコーダにおいて、記憶装置に記憶された前記誤差の周波数成分を逆FFTにより角度誤差に変換し、エンコーダの信号から信号処理により計算した角度ごとに補正値を計算することを特徴とした請求項1及び2に記載の磁気式または光学式エンコーダ。
【請求項4】
前記磁気式または光学式エンコーダにおいて、前記記憶装置に記憶された前記誤差の周波数成分の逆FFTにより変換された角度誤差を、エンコーダの要求される角度精度から決まる分割数分に、マイクロコンピュータ上のメモリに電源投入時に一度だけ展開することにより計算量を減らすことを特徴とした請求項1及び2、3に記載の磁気式または光学式エンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−64771(P2007−64771A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250407(P2005−250407)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000228730)日本サーボ株式会社 (276)
【Fターム(参考)】