説明

エンジンの点火制御装置

【課題】燃焼室内の火炎伝播を均等にすることにより、エンジンの冷却損失を抑制し、高い熱効率を維持することを目的とする。
【解決手段】エンジン10の点火制御装置1は、燃焼室14内の複数地点から点火地点を選択可能な多点点火手段20と、燃焼室14の吸気側壁面に設けた第1イオンプローブ31と、燃焼室14の排気側壁面に設けた第2イオンプローブ32と、ECU35とを備える。点火制御装置1は、ECU35により、第1イオンプローブ31が検出する火炎到達時間と第2イオンプローブ32が検出する火炎到達時間との差に基づいて、多点点火手段20の点火地点を選択する制御を行い、燃焼室14内に均等な火炎伝播を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの点火制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンにおける熱効率は、燃料を燃焼して得られる総エネルギーから排気熱損失、冷却損失、機関放熱による熱損失を差し引いて得られる。したがって、排気熱損失、冷却損失、機関放熱を低減するほど、仕事量を増加し、ひいては出力向上と熱効率の向上を実現できる。
【0003】
特許文献1には、シリンダヘッドにおける燃焼室に対向する箇所をシリンダブロックとの接合面より凹ませて、遮熱板を装着することにより、シリンダヘッドを断熱し、ヘッドジャケットを介して失われる冷却損失を低減する技術が開示されている。
【0004】
また、ガソリンエンジンでは燃焼室内の燃料噴霧に点火することにより燃料の燃焼を実現するところ、特許文献2に示すように、1つの燃焼室について点火手段(点火プラグ)を複数備えるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−270404号公報
【特許文献2】特開2006−250105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジンの燃焼室内における火炎伝播は、エンジンの運転条件によって変化する。エンジンの運転条件の変化に応じて、吸気や排気のタイミングを変化させることや吸排気脈動が変化することにより、シリンダ内の気流形成過程が変化する。この影響を受け、点火プラグ付近での気流や燃料噴霧の分布が変化する。点火プラグ付近での気流や燃料噴霧の分布が変化することにより、燃焼室内における火炎伝播が均等ではなくなり、偏りが生じる。これにより、吸気ポート側の燃焼室壁面と排気ポート側の燃焼室壁面への火炎到達時間に差が生じる。
【0007】
例えば、図8は高タンブル流の発生時における火炎伝播の偏り傾向の一例を示した説明図である。図8の縦軸は、排気ポート側のシリンダブロック壁面への火炎到達時間から吸気ポート側のシリンダブロック壁面への火炎到達時間を差し引いた時間差(以下、「EX−IN火炎到達時間差」と述べる。)を表わし、横軸は、エンジン回転数を表している。図8中の四角実線は、エンジンの運転条件が条件1の場合、黒丸破線は、条件2の場合を示している。
【0008】
図8に示したEX−IN火炎到達時間差が正であるとき、排気ポート側のシリンダブロック壁面への火炎到達時間が長い。反対に、EX−IN火炎到達時間差が負であるとき、吸気ポート側のシリンダブロック壁面への火炎到達時間が長い。火炎伝播が均等であるほど、すなわち、EX−IN火炎到達時間差が短いほど、シリンダヘッドやシリンダブロックを介して失われる冷却損失が減少する。反対に、火炎伝播が偏るほど、すなわち、EX−IN火炎到達時間差が長くなるほど、シリンダヘッドやシリンダブロックを介して失われる冷却損失が増加する。したがって、シリンダヘッドを断熱して冷却損失を抑制し、熱効率を向上させるエンジンであっても、燃焼室内の火炎伝播の偏りによる冷却損失を低減しなければ、シリンダヘッドを断熱することにより得られる効果を無駄にしてしまう。
【0009】
そこで、本発明は、燃焼室内の火炎伝播を均等にすることにより、エンジンの冷却損失を抑制し、高い熱効率を維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決する本発明のエンジンの点火制御装置は、燃焼室内の複数地点から点火地点を選択可能な多点点火手段と、前記燃焼室の吸気側壁面に設けた第1火炎伝播検出手段と、前記燃焼室の排気側壁面に設けた第2火炎伝播検出手段と、前記第1火炎伝播検出手段が検出する火炎到達時間と前記第2火炎伝播検出手段が検出する火炎到達時間の差に基づいて、前記多点点火手段の前記点火地点を選択する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
この構成により、燃焼室内における火炎の伝播の偏りに応じて点火地点を選択し、燃焼室内の火炎の伝播を均等にすることができる。燃焼室の火炎の伝播を均等にすることにより、エンジンの冷却損失を抑制し、高い熱効率を維持することができる。
【0012】
上記のエンジンの点火制御装置において、前記多点点火手段の点火地点が、吸気側から排気側へ向かって直列に配置された構成とすることができる。この構成により、吸気側と排気側とに生じる火炎の伝播時間の差に応じて、点火地点を選択することができる。
【0013】
上記のエンジンの点火制御装置において、前記多点点火手段の点火地点は、前記燃焼室の中央部と、前記中央部よりも吸気側と、前記中央部よりも排気側とに配置された構成とすることができる。この構成により、吸気側への火炎伝播時間が早いときには、排気側の点火地点を選択し、排気側への火炎伝播時間が早いときには、吸気側の点火地点を選択することができる。
【0014】
上記のエンジンの点火制御装置において、前記制御手段は、第1火炎伝播検出手段が検出する火炎到達時間と第2火炎伝播検出手段が検出する火炎到達時間の差を小さくするように、前記多点点火手段の前記点火地点を決定することができる。これにより、燃焼室内に均等な火炎伝播状態を生成することができる。燃焼室内の火炎伝播を均等にすることにより、エンジンの冷却損失を抑制し、熱効率を向上することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、燃焼室内における火炎の伝播の偏りから点火地点を選択して、燃焼室内の火炎伝播を均等にすることにより、エンジンの冷却損失を抑制し、高い熱効率を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】エンジンの点火制御装置の概略構成を示した説明図である。
【図2】燃焼室側から見たエンジンのシリンダヘッドの概略を示した説明図である。
【図3】シリンダヘッドとシリンダブロックを示した概略構成図である。
【図4】多点点火手段の点火制御を示したフローチャートである。
【図5】第1イオンプローブと第2イオンプローブとが出力するイオン電流の時間変化の一例を示した説明図である。
【図6】点火制御装置のEX−IN火炎到達時間差を示した説明図である。
【図7】タンブルコントロールバルブを備えた点火制御装置の概略構成図である。
【図8】高タンブル流の発生時における火炎伝播の偏り傾向の一例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための一形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。図1は本実施例のエンジン10の点火制御装置(以下、単に「点火制御装置」と述べる。)1の概略構成を示した説明図である。図2は、燃焼室14側から見たエンジン10のシリンダヘッド12の概略を示した説明図である。点火制御装置1にかかるエンジン10は、ピストン11、シリンダヘッド12、シリンダブロック13を備えている。シリンダブロック13の内側壁面は滑らかに形成されており、シリンダブロック13の内側壁面に沿ってピストン11が摺動する。さらに、燃焼室14が、ピストン11、シリンダヘッド12、シリンダブロック13により区画されて形成されている。
【0019】
シリンダヘッド12には、吸気ポート15と排気ポート16とがそれぞれ2つ形成されている。吸気と燃料噴霧とが混合した混合気が、吸気ポート15を介して燃焼室14へ供給される。吸気ポート15の燃焼室14における開口部(吸気口)151には、吸気バルブ17が吸気口151を開閉可能に設けられている。同様に、排気ポート16の燃焼室14における開口部(排気口)161には排気バルブ18が排気口161を開閉可能に設けられている。これらの吸気口151、吸気バルブ17、排気口161、排気バルブ18も吸気ポート15、排気ポート16に対応するように、それぞれ2つ設けられている。2つの吸気口151と2つの排気口161とは対向するように形成されており、2つの吸気口151と2つの排気口161との間に、多点点火手段20が設けられている。
【0020】
多点点火手段20は、第1点火プラグ21、第2点火プラグ22、第3点火プラグ23からなる。図2に示すように、第1点火プラグ21、第2点火プラグ22、第3点火プラグ23は、吸気側から排気側へ向かう方向に(以下、「IN−EX方向」と述べる。)直列に配置されている。IN−EX方向は、対向する吸気口151と排気口161とを結ぶ直線の方向である。また、このIN−EX方向は、例えば、エンジン10が直列に気筒を配置したエンジンである場合、気筒の並ぶ方向にほぼ直交する方向である。また、第1点火プラグ21、第2点火プラグ22、第3点火プラグ23は、燃焼室14の円柱の断面を形成する円の直径上に直列に配置されている。第1点火プラグ21は、円の中心に相当する中央部に配置され、第2点火プラグ22は、第1点火プラグ21よりも吸気口151側に配置され、第3点火プラグ23は、第1点火プラグ21よりも排気口161側に配置されている。
【0021】
第1点火プラグ21、第2点火プラグ22、第3点火プラグ23のいずれも中心電極と側方電極を備え、中心電極と側方電極の電極間の火花放電ギャップにおいて、高電圧を放電することにより点火し、燃焼室内の混合気を燃焼させる。第1点火プラグ21、第2点火プラグ22、第3点火プラグ23のそれぞれの点火位置は異なるため、燃焼室14内には、点火地点が複数設けられていることになる。混合気への点火時には、多点点火手段20における3つの点火プラグの中から点火するプラグを選択することができる。すなわち、燃焼室14内の複数地点から点火地点を選択することができる。
【0022】
図1に示すように、シリンダブロック13には第1イオンプローブ31、第2イオンプローブ32が燃焼室14内の火炎を測定可能に設けられている。第1イオンプローブ31は、吸気ポート15側のシリンダブロック13の壁面に設けられている。第2イオンプローブ32は、排気ポート16側のシリンダブロック13の壁面に設けられている。第1イオンプローブ31は、中心電極およびこれに近接した接地電極を備えている。火炎が発生する際に、これらの電極間に微小なイオンギャップが形成されることにより、第1イオンプローブ31は、燃焼による火炎の伝播を検出する。そして、第1イオンプローブ31は、検出した火炎をイオン電流として出力する。同様に、第2イオンプローブ32も、第1イオンプローブ31と同様の構成を備え、燃焼による火炎の伝播を検出し、イオン電流として出力する。また、イオンプローブを用いて燃焼室14内の火炎を測定する構成に代えて、筒内圧センサを用いて圧力の変化から火炎の伝播を検出する構成、光ファイバーを用いてラジカル発光強度の変化から火炎の伝播を検出する構成、温度センサを用いて燃焼温度の変化から火炎の伝播を検出する構成であってもよい。
【0023】
図3は、エンジン10のシリンダヘッド12とシリンダブロック13を示した概略構成図である。シリンダヘッド12、シリンダブロック13には冷却水が流通する第1ウォータジャケット19aと第2ウォータジャケット19bが形成されている。第1ウォータジャケット19aは、シリンダヘッド12のうち、多点点火手段20周辺と、排気ポート16が形成された側の部分に冷却水を流通させるとともに、シリンダブロック13のうち、排気ポート16が形成された側の部分に冷却水を流通させる。第2ウォータジャケット19bは、シリンダヘッド12のうち、吸気ポート15が形成された側の部分に冷却水を流通させるとともに、シリンダブロック13のうち、吸気ポート15が形成された側の部分に冷却水を流通させる。
【0024】
第1ウォータジャケット19a、第2ウォータジャケット19bのそれぞれは、シリンダブロック13側から冷却水が流入し、シリンダヘッド12側へ冷却水が流出する縦流しの構造を有している。また、エンジン10の出力を取り出す側をリア側として、第1ウォータジャケット19a、第2ウォータジャケット19bのそれぞれは、エンジン10のフロント側から冷却水が流入し、リア側から冷却水が流出する構造になっている。また、エンジン10には第2ウォータジャケット19bを流通する冷却水の流量を調整する調整弁33が設けられている。
【0025】
また、エンジン10は、クランクシャフト(図示しない)のクランク角を検出するクランク角センサ34を備えている。さらに、エンジン10は、ECU(Electronic Control Unit)35を備えている。ECU35は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、入出力ポートを双方向バスで接続した公知の形式のディジタルコンピュータからなり、エンジン10の制御のために設けられている各種センサや作動装置と信号をやり取りしてエンジン10を制御する。本実施例においては、ECU35は、第1イオンプローブ31、第2イオンプローブ32、クランク角センサ34のそれぞれと電気的に接続されており、これらの各センサの出力信号を取得する。また、ECU35は、第1点火プラグ21、第2点火プラグ22、第3点火プラグ23と電気的に接続されており、各点火プラグによる点火を制御する。具体的には、ECU35は、第1イオンプローブ31と第2イオンプローブ32とが検出する火炎伝播の時間差に基づいて、多点点火手段20の点火地点を選択し、第1点火プラグ21、第2点火プラグ22、第3点火プラグ23のいずれかにより、混合気に点火する。また、ECU35は、調整弁33と電気的に接続されており、調整弁33の開閉を制御する。
【0026】
次に、エンジン10の熱効率向上を目的としてシリンダヘッド12の冷却を抑制する動作について説明する。エンジン10はシリンダヘッド12の冷却を抑制することにより冷却損失を低減するとともに、ノッキングを改善する。一般に、エンジンの圧縮行程上死点付近でシリンダヘッドとピストンの表面積割合が大きくなるため、冷却損失はシリンダヘッドの温度の影響を大きく受ける。一方、ノッキングは、燃焼室の内壁温度の上昇により誘発されることが知られている。
【0027】
ECU35は、調整弁33を閉弁し、第2ウォータジャケット19bへ供給する冷却水の流量を低減し、シリンダヘッド12、及びシリンダブロック13の吸気ポート15側の冷却を抑制する。これにより、吸気ポート15側のシリンダヘッド12の冷却が抑制されて、冷却損失が減少する。一方、第1ウォータジャケット19aへ供給される冷却水量は変わらないため、排気ポート16側の冷却能力が維持される。構造上、排気ガスが通過する排気ポート16は高温になる。排気ポート16側への冷却水の供給により、高温になりがちな排気ポート16側が冷却され、燃焼室14の内壁温度の上昇が防がれてノッキングの発生を抑制する。このようにエンジン10では、第2ウォータジャケット19bへの冷却水の供給を低減し、シリンダヘッド12の冷却を抑制してシリンダヘッド12の断熱性能を高め、冷却損失を低減し、熱効率を向上するとともに、燃焼室14の内壁温度の上昇を防ぎ、ノッキングの発生を抑制している。
【0028】
次に、点火制御装置1における多点点火手段20の点火制御について説明する。多点点火手段20の点火制御はECU35により実行される。図4は多点点火手段20の点火制御を示したフローチャートである。多点点火手段20の点火制御はエンジン10の始動とともに開始される。以下、図4のフローチャートを参照して多点点火手段20の点火制御について説明する。
【0029】
ECU35はステップS1において、第1点火プラグ21を用いて混合気に点火する。燃焼室14内の環境を反映する情報の乏しいエンジン10始動の初期の段階では、3つの点火プラグの中から中央に配置されている第1点火プラグ21を用いる。ECU35は次にステップS2へ進む。
【0030】
ECU35はステップS2において、時間差Θを算出する。時間差Θは、第1点火プラグ21により混合気が点火された場合において、第1イオンプローブ31が検出する火炎到達時間と、第2イオンプローブ32が検出する火炎到達時間の差である。時間差Θは、第2イオンプローブ32が検出する火炎到達時間から第1イオンプローブ31が検出する火炎到達時間を差し引いた時間差である。すなわち、時間差Θは、第1点火プラグ21使用時のEX−IN火炎到達時間差である。
【0031】
図5は、第1イオンプローブ31と第2イオンプローブ32とが出力するイオン電流の時間変化の一例を示した説明図である。図5の縦軸は、出力されるイオン電流を示し、横軸は、クランクアングル(時間変化)を示している。混合気への点火が行われると、燃焼による火炎が燃焼室14の壁面へ伝播する。この結果、第1イオンプローブ31と第2イオンプローブ32とが火炎を検出する。図5の例では、第2イオンプローブ32のイオン電流が、第1イオンプローブ31のイオン電流よりも先に上昇している。これは、第2イオンプローブ32が第1イオンプローブ31よりも先に火炎を検出していることを示している。これは、火炎が燃焼室14の排気側の壁面に先に到達したことを示している。時間差Θは第2イオンプローブ32のイオン電流の立ち上がり時から、第1イオンプローブ31のイオン電流の立ち上がり時を差し引いて算出される。図5の例では、火炎が燃焼室14の排気側の壁面に先に到達したため、時間差Θが負の値となるが、火炎が燃焼室14の吸気側の壁面に先に到達した場合には、時間差Θが正の値となる。ECU35はステップS2の処理を終えるとステップS3へ進む。
【0032】
ECU35はステップS3において、時間差Θが0より大きいか否かを判断する。ECU35はステップS3においてYESと判断する場合、すなわち、時間差Θが0より大きい場合、ステップS4へ進む。
【0033】
ECU35はステップS4において、第3点火プラグ23を用いて混合気に点火する。時間差Θが0より大きい(時間差Θが正の値)場合は、火炎が燃焼室14の吸気側の壁面に先に到達し、排気側の壁面に遅れて到達していることを示している。これは、点火時点の燃焼室14の気流、燃料噴霧の分布の環境において、燃焼室14の中央で点火した場合、排気側よりも吸気側へ火炎が伝播するのが早いことを意味している。そこで、点火制御装置1では、排気側に設けられた第3点火プラグ23により混合気に点火する。ECU35は次にステップS5へ進む。
【0034】
ECU35はステップS5において、時間差Θを算出する。時間差Θは、第3点火プラグ23により混合気が点火された場合における、第1イオンプローブ31が検出する火炎の到達する時間と、第2イオンプローブ32が検出する火炎の到達する時間の差である。時間差Θは、第2イオンプローブ32が検出する火炎到達時間から第1イオンプローブ31が検出する火炎到達時間を差し引いた時間差である。すなわち、時間差Θは第3点火プラグ23使用時のEX−IN火炎到達時間差である。時間差Θは時間差Θ同様に、第2イオンプローブ32のイオン電流の立ち上がり時から、第1イオンプローブ31のイオン電流の立ち上がり時を差し引いて算出される。ECU35はステップS5の処理を終えるとステップS6へ進む。
【0035】
ECU35はステップS6において、時間差Θの絶対値が時間差Θの絶対値よりも小さいか否かを判断する。ステップS6は、この時点の燃焼室14の環境下において、最適な点火位置として第1点火プラグ21と第3点火プラグ23のどちらを選択するのがよいかを判断するステップである。時間差Θの絶対値と時間差Θの絶対値とを比較して値の小さい方が、吸気側壁面と排気側壁面の火炎到達にかかる時間差が小さく、燃焼室14の壁面への火炎伝播時間が均等になる。従って、この結果に基づき、以降の処理において、火炎到達にかかる時間差が小さくなるように使用する点火プラグを選択する。ECU35はステップS6においてYESと判断する場合、すなわち、時間差Θの絶対値が時間差Θの絶対値よりも小さい場合、ステップS7へ進む。
【0036】
ECU35はステップS7において、第3点火プラグ23を用いて混合気に点火する。時間差Θの絶対値が時間差Θの絶対値よりも小さい場合、第1点火プラグ21の点火地点において点火するよりも、第3点火プラグ23の点火地点において点火する方が、吸気側壁面と排気側壁面の火炎到達にかかる時間差を小さくできる。このため、第3点火プラグ23を用いて混合気を点火する。ECU35はステップS7の処理を終えると、リターンとなる。
【0037】
ところで、ECU35はステップS3においてNOと判断する場合、すなわち、時間差Θが0以下である場合、ステップS8へ進む。ECU35はステップS8において、時間差Θが0より小さいか否かを判断する。ECU35はステップS8においてYESと判断する場合、すなわち、時間差Θが0より小さい場合、ステップS9へ進む。
【0038】
ECU35はステップS9において、第2点火プラグ22を用いて混合気に点火する。時間差Θが0より小さい(時間差Θが負の値)場合は、火炎が燃焼室14の排気側の壁面に先に到達し、吸気側の壁面に遅れて到達していることを示している。これは、点火時点の燃焼室14の気流、燃料噴霧の分布の環境において、燃焼室14の中央で点火した場合、吸気側よりも排気側へ火炎が伝播するのが早いことを意味している。そこで、点火制御装置1では、吸気側に設けられた第2点火プラグ22により混合気に点火する。ECU35は次にステップS10に進む。
【0039】
ECU35はステップS10において、時間差Θを算出する。時間差Θは、第2点火プラグ22により混合気が点火された場合における、第1イオンプローブ31が検出する火炎の到達する時間と、第2イオンプローブ32が検出する火炎の到達する時間の差である。時間差Θは、第2イオンプローブ32が検出する火炎到達時間から第1イオンプローブ31が検出する火炎到達時間を差し引いた時間差である。すなわち、時間差Θは第2点火プラグ22使用時のEX−IN火炎到達時間差である。時間差Θは時間差Θ同様に、第2イオンプローブ32のイオン電流の立ち上がり時から、第1イオンプローブ31のイオン電流の立ち上がり時を差し引いて算出される。ECU35はステップS10の処理を終えるとステップS11へ進む。
【0040】
ECU35はステップS11において、時間差Θの絶対値が時間差Θの絶対値よりも小さいか否かを判断する。ステップS11は、この時点の燃焼室14の環境下において、最適な点火位置として第1点火プラグ21と第2点火プラグ22のどちらを選択するのがよいかを判断するステップである。時間差Θの絶対値と時間差Θの絶対値とを比較し、値の小さい方が吸気側壁面と排気側壁面の火炎到達にかかる時間差が小さく、燃焼室14の壁面への火炎伝播時間が均等になる。従って、この結果に基づき、以降の処理において、火炎到達にかかる時間差が小さくなるように使用する点火プラグを選択する。ECU35はステップS11においてYESと判断する場合、すなわち、時間差Θの絶対値が時間差Θの絶対値よりも小さい場合、ステップS12へ進む。
【0041】
ECU35はステップS12において、第2点火プラグ22を用いて混合気に点火する。時間差Θの絶対値が時間差Θの絶対値よりも小さい場合、第1点火プラグ21の点火地点において点火するよりも、第2点火プラグ22の点火地点において点火する方が、吸気側壁面と排気側壁面の火炎到達にかかる時間差を小さくできる。このため、第2点火プラグ22を用いて混合気を点火する。ECU35はステップS7の処理を終えると、リターンとなる。
【0042】
一方、ECU35はステップS11においてNOと判断する場合、すなわち、時間差Θの絶対値が時間差Θの絶対値以上である場合、ステップS13へ進む。また、ECU35はステップS7においてNOと判断する場合、すなわち、時間差Θの絶対値が時間差Θの絶対値以上である場合にも、ステップS13へ進む。
【0043】
ECU35はステップS13において、第1点火プラグ21を用いて混合気に点火する。時間差Θの絶対値が時間差Θの絶対値や時間差Θの絶対値よりも小さい場合、第1点火プラグ21の点火地点において点火する方が、吸気側壁面と排気側壁面の火炎到達にかかる時間差を小さくできる。このため、第1点火プラグ21を用いて混合気を点火する。
【0044】
また、ECU35はステップS8においてNOと判断する場合、ステップS13へ進む。すなわち、時間差Θが0のとき、続けて第1点火プラグ21を用いて混合気を点火する。時間差Θが0のときは、その環境下での第1点火プラグ21における点火により燃焼室14の壁面への火炎到達時間が等しいため、第1点火プラグにおける点火を維持する。ECU35はステップS13の処理を終えると、リターンとなる。
【0045】
点火制御装置1は、複数の点火プラグをIN−EX方向に直列に配置したことにより、吸気側と排気側とに生じる火炎の伝播時間の差に応じて、点火地点を選択することができる。すなわち、点火時点における燃焼室14内の環境に適した点火プラグを選択できる。上記の通り、点火制御装置1は、複数の点火プラグをそれぞれ単独で用いて混合気を点火し、点火時点の燃焼室14の環境下において、第1イオンプローブ31が検出した火炎の到達時間と第2イオンプローブ32が検出した火炎の到達時間の差を小さくするように点火位置を決定する。これにより、燃焼室14の壁面への火炎到達時間が均等になる点火プラグを選択できる。
【0046】
上記の制御を実施することにより、図6の結果が得られる。図6は、点火制御装置1のEX−IN火炎到達時間差を示した説明図である。図6の縦軸は、EX−IN火炎到達時間差を表わし、横軸は、エンジン回転数を表している。図6中の白丸実線は、本実施例の点火制御装置1の値を示し、黒丸破線は、比較例の装置の値を示している。比較例の装置は、第1点火プラグ21のみ備えており、全ての点火を第1点火プラグ21で行うものである。比較例の装置のその他の構成は点火制御装置1と同様である。
【0047】
図6によると、点火制御装置1におけるEX−IN火炎到達時間差は、エンジン回転数に依存せず、常に、0近傍の値を示している。すなわち、点火制御装置1における混合気の燃焼による燃焼室14の壁面への火炎到達時間が概ね等しい。このため、燃焼室14内に均等な火炎伝播状態が生成されている。燃焼室14の火炎伝播状態が均等であると冷却損失を抑制できるため、点火制御装置1は、エンジン回転数によらず、冷却損失を抑制する。これにより、点火制御装置1は高い熱効率を維持することができる。
【0048】
また、点火制御装置1では、燃焼室14内のタンブル流を強化するタンブル流生成手段を備えていてもよい。図7はタンブルコントロールバルブを備えた点火制御装置1Aの概略構成図である。タンブルコントロールバルブ41は吸気通路40に設けられ、吸気通路40の一部を閉塞することにより、燃焼室14内に供給される混合気の流れを調整し、燃焼室14内のタンブル流を強化する。タンブルコントロールバルブ41はECU35と電気的に接続されており、ECU35により制御される。なお、図7の点火制御装置1Aは、タンブルコントロールバルブ41を備えたことを除き、点火制御装置1と同様の構成をしている。
【0049】
このようなタンブル流を強化する構成を備えていると、タンブル流を強化する条件では、燃焼室14内の気流、燃料噴霧の分布が変化し、混合気の燃焼時に燃焼室14の壁面に火炎が到達する時間に大きな偏りが生じる。このため、火炎到達時間の偏りにより、冷却損失が大きくなることが考えられる。しかしながら、点火制御装置1Aは、点火位置を複数設けるともに、火炎到達時間を等しくする制御を実施することにより、燃焼室14の壁面への均等な火炎伝播状態を生成し、冷却損失を抑制する。これにより、点火制御装置1Aは、高い熱効率を維持することができる。
【0050】
また、点火制御装置1は、上記のようなタンブル流を強化する構成に限られず、燃焼室14内の気流を変化させる構成、例えば、スワール流を強化する構成、吸気弁の開閉タイミングを変化する可変動弁機構を備える構成にも応用できる。
【0051】
上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、さらに本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。例えば、実施例では点火プラグを3つ備えているが、これ以上備えていてもよい。
【0052】
また、上記の実施例では、シリンダヘッド12の冷却を抑制することにより、エンジン1の冷却損失を低減するが、特に、実施例で示した構成に限定されるものではない。上記の構成は、例えば、シリンダヘッド12の燃焼室14に露出した部分に断熱部材を配置する構成により、シリンダヘッド12を燃焼室14から断熱し、シリンダヘッド12へ移動するの熱の移動量を低減するものであってもよい。この断熱部材として、例えば、シリンダヘッド12を構成する材料よりも熱伝導率の小さい部材を選択できる。これにより、シリンダヘッド12から失われる熱量が減少し、シリンダヘッド12における冷却損失を低減できる。また、上記の構成は、シリンダブロック13からシリンダヘッド12への熱伝導を防ぐ構成であってもよい。例えば、シリンダヘッド12のシリンダブロック13側の面に断熱部材を配置することにより、シリンダブロック13からシリンダヘッド12への熱伝導を防ぎ、シリンダヘッド12において失われる熱量を低減し、冷却損失を低減してもよい。また、これらの構成は、互いに組み合わせてもよいし、上記実施例で述べた構成と組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 点火制御装置
10 エンジン
11 ピストン
12 シリンダヘッド
13 シリンダブロック
20 多点点火手段
21 第1点火プラグ
22 第2点火プラグ
23 第3点火プラグ
31 第1イオンプローブ(第1火炎伝播検出手段)
32 第2イオンプローブ(第2火炎伝播検出手段)
35 ECU(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室内の複数地点から点火地点を選択可能な多点点火手段と、
前記燃焼室の吸気側壁面に設けた第1火炎伝播検出手段と、
前記燃焼室の排気側壁面に設けた第2火炎伝播検出手段と、
前記第1火炎伝播検出手段が検出する火炎到達時間と前記第2火炎伝播検出手段が検出する火炎到達時間の差に基づいて、前記多点点火手段の前記点火地点を選択する制御手段と、
を備えたことを特徴とするエンジンの点火制御装置。
【請求項2】
前記多点点火手段の点火地点が、吸気側から排気側へ向かって直列に配置されていることを特徴とする請求項1記載のエンジンの点火制御装置。
【請求項3】
前記多点点火手段の点火地点は、前記燃焼室の中央部と、前記中央部よりも吸気側と、前記中央部よりも排気側とに配置されたことを特徴とする請求項1または2記載のエンジンの点火制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、第1火炎伝播検出手段が検出する火炎到達時間と第2火炎伝播検出手段が検出する火炎到達時間の差を小さくするように、前記多点点火手段の前記点火地点を決定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載のエンジンの点火制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−188936(P2012−188936A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50797(P2011−50797)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】