説明

エンジンアッシのアンバランス測定方法及びアンバランス測定装置

【課題】効率的かつ安価に、測定されるエンジンアッシのアンバランスについて、各エンジンにおける位相を基準として履歴化すること。
【解決手段】設備の位相と基準位相を一致させた位相差算出用エンジンアッシを回転させ、このエンジンアッシの位相を検出するとともに、設備の位相に対して所定の位相差を有するエンコーダ40の位相を検出し、各検出した位相から前記所定の位相差を導出する一方、任意のエンジンアッシ1のアンバランス測定にともない検出されるエンコーダ40の位相とエンジンアッシ1の位相とから、エンコーダ40とエンジンアッシ1との位相差である第一の位相差を算出し、第一の位相差と前記所定の位相差とから、設備の位相とエンジンアッシ1の位相との位相差である第二の位相差を算出し、第二の位相差を用いて設備の位相を基準として測定したエンジンアッシ1のアンバランスをエンジンアッシ1の位相を基準とするものに変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンアッシのアンバランス測定方法及びアンバランス測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両における振動の低減や静粛性の向上等を目的として、タイヤやエンジンのクランク軸等の回転体となる部品のアンバランスの測定が行われている(例えば、特許文献1参照。)。すなわち、前記のような回転体が駆動装置等により回転され、これにより発生する振動が検出され、この振動に基づいてアンバランスが測定される。そして、前記回転体について測定されたアンバランスに基づいて、それが打ち消されるように、回転体の所定の位置に対して錘(ウエイト)が取り付けられられたり切削や研削が行われたりすることで、回転体の所定の部位の重量が増加または減少され、アンバランスの修正が行われる。
そして近年、エンジンのバランス精度をより高める等の観点から、エンジンアッシのアンバランスの測定及び修正が行われている。エンジンアッシとは、エンジンの組立ラインにおいて、少なくとも主要な部分が組み立てられた組立完了状態のエンジンであり、エンジンを構成するクランク軸等の個々の部品のアンバランス修正に加え、その組立完了状態でのアンバランスの測定及び修正が行われることにより、エンジン全体としてのアンバランスが低減される。かかるエンジンアッシのアンバランスの低減は、車両1次振動を抑制する上で重要である。
【0003】
エンジンアッシのアンバランスの測定及び修正は、概略的には次のようにして行われる。
アンバランスの測定及び修正が行われる装置構成としては、振動検出手段を有する振動架台上に載置されたエンジンアッシに対し、そのクランク軸にモータ等の回転駆動装置が外部から連結され、この回転駆動装置により、エンジンアッシ(のクランク軸)が回転される。
測定及び修正対象であるアンバランスは、その変化量が、エンジンアッシを回転させたときの振動の変化量との関係から導かれる。つまり、エンジンアッシにおけるアンバランスと振動との間には、所定の関係式が成り立つ。そこで、あるエンジンアッシが用いられ、既知のアンバランスの変化量に対する振動の変化量が測定されることにより、その装置におけるエンジンアッシのアンバランスと振動との関係(関係式における係数の値)が予め求められる。
【0004】
そして、アンバランスの測定及び修正が行われるエンジンアッシの回転にともなう振動が前記振動検出手段により検出され、その振動の値から、予め求められた関係式によってアンバランスが算出されることで、エンジンアッシのアンバランスの測定が行われる。この測定されたアンバランスの値に基づき、エンジンアッシのアンバランスの修正が行われる。
すなわち、測定されたアンバランスが打ち消されるように、クランク軸の所定の部位、例えばシリンダブロックから突出するクランク軸の端部に取り付けられるプーリの所定の部位の重量が増加または減少されることにより、エンジンアッシのアンバランスの修正が行われる。
【特許文献1】特許第3063503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンジンアッシのアンバランスの測定を行う目的の一つに、そのエンジンの品質の証明や正確な在庫管理等を行うため、各エンジンアッシについて測定されたアンバランスの履歴を残すということがある。また、各エンジンアッシについてのアンバランスの履歴を明確にすることは、そのエンジンが搭載される車両における車両振動等の不具合の原因追跡に際しても有効となる。すなわち、エンジンのアンバランスの低減は、車両振動の抑制を図る上で重要であるところ、例えば、アンバランスの測定及び修正が行われたエンジンが搭載された車両において、その検査の段階で許容される値以上の振動が発生した場合、各エンジンアッシについてのアンバランスの履歴が明確であると、発生する車両振動がエンジンのアンバランスに起因するのかどうかを解析したり、エンジンにおけるアンバランスの構成部品(例えばクランク軸等)との因果関係を明確にしたりすることができ、正確な原因解明を行うことが可能となる。
このように、エンジンアッシのアンバランスの測定結果の履歴を残すことは、トレーサビリティの観点からその重要性が高いといえる。
【0006】
ここで、エンジンアッシについて測定されるアンバランスは、一般的には、エンジンアッシのクランク軸の軸心方向視での中心位置からのベクトル(アンバランスベクトル)により表され、そのアンバランスベクトルによりアンバランスの量と角度(方向)が表される。
エンジンアッシのアンバランスの測定に際しては、前記のとおりエンジンアッシを回転させるためのモータ等の回転駆動装置を具備する装置(アンバランス測定装置)が必要となり、アンバランスの測定及び修正は、設備(装置)の位相(回転位相)を基準としてエンジンアッシが回転されることにより実施される。つまり、測定されるアンバランスベクトルの方向や、そのアンバランスの修正のために錘が取り付けられたりする位置は、エンジンアッシが搭載される設備側の位相が基準として示されることとなる。
【0007】
しかし、測定されるアンバランスについて本来必要な履歴は、被測定物である各エンジンについてのものである。このため、従来のアンバランス測定では、各エンジンについて有用な履歴を残すことができない。
すなわち、前述のような従来のアンバランスの測定においては、設備の位相が基準として行われるため、測定されるアンバランスについてその量に関しては各エンジンについての履歴を残すことができるものの、アンバランスの角度(方向)に関しては各エンジンにおける位相を基準として履歴を残すことができない。
【0008】
各エンジンにおける位相を基準とするアンバランスの測定値の履歴を残す方法としては、各エンジンアッシのアンバランスの測定ごとに毎回、作業者による手作業等によって設備側の基準位相(0位相)とエンジンアッシ側の基準位相とを合わせることが考えられる。つまり、設備側の位相とエンジンアッシ側の位相とを一致させることで、設備側の位相を基準に測定されるアンバランスが、エンジンアッシ側の位相に対応するものとなる。
しかし、各エンジンアッシのアンバランスの測定ごとに毎回、設備側とエンジン側との位相を合わせることは、多大な工数を要するため、生産ラインにおけるサイクルタイムを短縮させる等の観点から得策ではない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、効率的かつ安価に、測定されるエンジンアッシのアンバランスについて、各エンジンにおける位相を基準として履歴化することができるエンジンアッシのアンバランス測定方法及びアンバランス測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
すなわち、請求項1においては、振動検出手段を有する振動架台上に載置したエンジンアッシを、回転駆動手段によって所定の回転数で回転させることにより該エンジンアッシに生じる振動を前記振動検出手段によって検出し、検出した振動を用いて、予め設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係からエンジンアッシのアンバランスを測定するエンジンアッシのアンバランス測定方法であって、前記回転駆動手段の回転に基づく設備の回転位相と基準位相を一致させた位相差算出用エンジンアッシを回転させ、前記位相差算出用エンジンアッシの回転位相を検出するとともに、前記設備の回転位相に対して所定の位相差を有する回転位相検出手段の回転位相を検出し、前記各検出した回転位相から前記所定の位相差を導出する一方、任意のエンジンアッシのアンバランス測定にともない検出される、前記回転位相検出手段の回転位相と該任意のエンジンアッシの回転位相とから、前記回転位相検出手段と該任意のエンジンアッシとの位相差である第一の位相差を算出し、算出した前記第一の位相差と前記所定の位相差とから、前記設備の回転位相と前記任意のエンジンアッシの回転位相との位相差である第二の位相差を算出し、算出した前記第二の位相差を用いて、前記設備の回転位相を基準として測定した前記任意のエンジンアッシのアンバランスを、該任意のエンジンアッシの回転位相を基準とするアンバランスに変換するものである。
【0012】
請求項2においては、前記位相差算出用エンジンアッシ及び前記任意のエンジンアッシの回転位相を、前記各エンジンアッシのクランク軸に設けられ外周に沿って形成される被検出部を有する回転角検出ロータと、前記被検出部の通過を検出する回転角検出センサとを用いて検出するものである。
【0013】
請求項3においては、エンジンアッシを載置する振動架台と、前記振動架台に設けられエンジンアッシに生じる振動を検出する振動検出手段と、エンジンアッシに連結されエンジンアッシを所定の回転数で回転させる回転駆動手段と、前記振動検出手段によって検出される振動を用いて、予め設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係からエンジンアッシのアンバランスを測定するアンバランス測定手段と、を備えるエンジンアッシのアンバランス測定装置であって、前記回転駆動手段の回転に基づく設備の回転位相に対して所定の位相差を有する回転位相検出手段と、前記回転位相検出手段により検出される回転位相、及びエンジンアッシに設けられ該エンジンアッシの回転位相を検出する回転検出手段により検出される回転位相を用いて所定の演算を行う演算手段と、を備え、前記演算手段は、前記回転検出手段により検出される、前記設備の回転位相と基準位相が一致されて回転される位相差算出用エンジンアッシの回転位相と、該位相差算出用エンジンアッシの回転にともない前記回転位相検出手段により検出される回転位相とから、前記所定の位相差を導出する一方、任意のエンジンアッシのアンバランス測定にともない検出される、前記回転位相検出手段の回転位相と該任意のエンジンアッシの回転位相とから、前記回転位相検出手段と該任意のエンジンアッシとの位相差である第一の位相差を算出し、算出した前記第一の位相差と前記所定の位相差とから、前記設備の回転位相と前記任意のエンジンアッシの回転位相との位相差である第二の位相差を算出し、算出した前記第二の位相差を用いて、前記設備の回転位相を基準として測定した前記任意のエンジンアッシのアンバランスを、該任意のエンジンアッシの回転位相を基準とするアンバランスに変換するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
すなわち、本発明によれば、効率的かつ安価に、測定されるエンジンアッシのアンバランスについて、各エンジンにおける位相を基準として履歴化することができる。
【0015】
また、エンジンアッシの位相を検出するに際し、クランク軸に設けられ外周に沿って形成される被検出部を有する回転角検出ロータと、前記被検出部の通過を検出する回転角検出センサとを含む構成を用いることにより、エンジンに備えられる既存の装置構成を有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず、本実施形態に係るエンジンアッシのアンバランス測定装置(以下、単に「アンバランス測定装置」という。)の構成について、図1及び図2を用いて説明する。
本実施形態に係るアンバランス測定装置は、例えばエンジンの組立ラインの最終工程付近において、エンジンアッシ1のアンバランスを測定し、そのアンバランスを修正するために用いられるものであり、エンジンアッシ1を載置する振動架台2と、振動架台2に設けられエンジンアッシ1に生じる振動を検出する振動検出手段としての振動ピックアップ3と、エンジンアッシ1のクランク軸11に連結されエンジンアッシ1を所定の回転数で回転させる回転駆動手段としてのモータ(サーボモータ)4とを備える。
【0017】
アンバランス測定装置におけるアンバランスの測定及び修正の対象となるエンジンアッシ1は、エンジンの組立ラインにおいて、少なくとも主要な部分が組み立てられた組立完了状態のエンジンであり、エンジン本体10を構成するシリンダブロック内を貫通するとともに両端部がシリンダブロックから突出した状態で回転可能に支持されるクランク軸11を有する。
以下の説明においては、クランク軸11の回転軸線となる軸芯線C1の方向(図1における左右方向)をエンジンアッシ1の前後方向とし、図1における右をアンバランス測定装置における「前」、同じく図1における左を「後」とする。
【0018】
クランク軸11の、シリンダブロックから突出する前端部(図1における右端部)には、フロントプーリ12が固設される。フロントプーリ12には、エンジンに組み付けられるラジエータファンや発電機等の補機類に動力を伝達するためのベルトが、他の補機用プーリ等とともに巻回される。
また、クランク軸11の、シリンダブロックから突出する後端部(図1における左端部)には、ドライブプレート13が固設される。ドライブプレート13は、エンジンの回転動力をトランスミッションに伝達するための板状の部材である。図2に示すように、ドライブプレート13は、クランク軸11の後端部に軸支される取付板14に対して、ボルト等の締結具15が用いられて固定されることによりクランク軸11に対して固設される。
【0019】
振動架台2は、ベース(台座)5上の所定の高さ位置において、後端部がステー16に支持されるとともに、複数の(図1では二箇所図示)弾性支持部材としての振動バネ17・17・・・により振動可能に支持される。振動バネ17は、振動架台2上のエンジンアッシ1が回転することで発生する振動を減衰させる。本実施形態では、振動バネ17は、振動架台2上に載置されるエンジンアッシ1の前端部と後端部に対応する位置に配設されている。
また、振動架台2とベース5との間には、一または複数(本実施形態では二つ)のクランプ機構18が介装される。クランプ機構18は、振動バネ17による振動架台2の弾性支持をオン・オフするためのものである。すなわち、クランプ機構18は、振動架台2に対するエンジンアッシ1の搭載作業時等は、伸長すること等によって振動架台2を安定させるためその荷重を受けて振動架台2をクランプした状態で支持し、振動バネ17による振動架台2の弾性支持をオフとし、エンジンアッシ1のアンバランスが測定される際等は、収縮すること等によって振動架台2からの荷重を受けることなく振動バネ17による振動架台2の弾性支持をオンとする。
【0020】
エンジンアッシ1は、振動架台2上において複数の(図1では二箇所図示)支持部材19を介して載置固定される。支持部材19は、適宜シリンダ機構等により構成され、エンジンアッシ1の振動架台2上における高さ位置を調整可能にエンジンアッシ1を支持する。
また、振動架台2は、エンジンアッシ1の振動を検出するための振動ピックアップ3を有する。振動ピックアップ3は、例えば加速度センサ等により構成され、振動架台2において、その上に載置されるエンジンアッシ1の前後両端部付近に対応する位置にそれぞれ配設(内蔵)され、エンジンアッシ1のアンバランス測定の際におけるエンジンアッシ1の両端部(フロント部及びリア部)の振動を、振動架台2を介して検出(ピックアップ)できるように構成される。
【0021】
モータ4は、ベース5上において、振動架台2上に載置されるエンジンアッシ1の後方に載置支持され、その図示せぬ出力軸(駆動軸)が駆動装置20を介してエンジンアッシ1のクランク軸11に連結される。
駆動装置20は、その略筒状のハウジング22内に貫通支持される駆動軸21を有し、この駆動軸21がモータ4の出力軸と同心配置され連結された状態で設けられる。駆動装置20は、モータ4の回転数を所定の回転数に減速するとともに所定のトルクを得るための減速機(図示略)を備え、この減速機を介してモータ4の出力軸の回転駆動力を駆動軸21に受ける。
【0022】
駆動装置20は、そのハウジング22が、モータ4の振動架台2側の端面に固設されるとともにベース5上に立設される支持柱24や、この支持柱24とモータ4との間に架設される補強ステー24aや、振動架台2上に立設される支持部材25等の適宜配設される支持部材によって支持されることで、所定の姿勢で支持される。
駆動装置20の駆動軸21は、その軸芯線C2方向であってエンジンアッシ1が載置される側(モータ4と反対側)に延設されハウジング22外へと延出される。駆動軸21の延出側端部には、円板状の回り止め部材であるケレー26が固設される。また、駆動軸21は、ハウジング22に対して軸心線C2方向に移動可能に構成される。
【0023】
駆動装置20の駆動軸21のクランク軸11に対する連結は、次のような構成により行われる。
すなわち、図2に示すように、前記のとおりランク軸11の端部に設けられるドライブプレート13は、クランク軸11に軸支される取付板14に対して複数の締結具15により固定される。締結具15は、クランク軸11の軸心方向視で軸芯線C1を中心とする円状に等角度間隔で複数配設される。一方、駆動軸21の端部に取り付けられるケレー26側には、各締結具15に対応してその頭部15aが嵌合可能な孔部26aが形成されている。また、ケレー26における駆動軸21の先端側の面の中央部には突起部26bが形成される一方、クランク軸11の先端面の中央部には、前記突起部26bがインロー嵌合可能な凹部11aが形成されている。
かかる構成により、クランク軸11の軸芯線C1と駆動軸21の軸芯線C2とが一致している状態で、振動架台2上に載置されたエンジンアッシ1のクランク軸11に対して駆動装置20の駆動軸21が近接移動することにより、ケレー26の各孔部26aに各締結具15の頭部15aがそれぞれ嵌合するとともに、ケレー26の突起部26bがクランク軸11の凹部11aに嵌合することにより、駆動軸21とクランク軸11とが相対回転不能に連結される。なお、駆動装置20の駆動軸21とクランク軸11との連結に際しては、振動架台2がベース5上にて駆動装置20に対してキャスター等により水平方向に移動可能に構成されることにより、エンジンアッシ1側が駆動装置20側に移動する構成(クランク軸11が駆動軸21に対して近接移動する構成)であってもよい。
【0024】
このような構成を備えるアンバランス測定装置において、アンバランスの測定及び修正の対象であるエンジンアッシ1が、振動架台2上に載置されるとともに、クランク軸11の軸芯線C1が駆動装置20の駆動軸21の軸芯線C2と一致するようにセットされ、前記のとおり駆動軸21とクランク軸11とが連結され、モータ4の回転駆動によりエンジンアッシ1が所定の回転数(例えば、1600rpm)で回転される。
そして、エンジンアッシ1のアンバランスの測定及び修正が行われる。
【0025】
エンジンアッシ1のアンバランスの測定及び修正は、次のようにして行われる。すなわち、振動架台2上に載置されたエンジンアッシ1が、モータ4によって所定の回転数で回転されることによりこのエンジンアッシ1に生じる振動が振動ピックアップ3によって検出され、検出された振動が用いられて、予め設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係からエンジンアッシ1のアンバランスが測定される。
そして、測定されたアンバランスに基づきエンジンアッシ1のクランク軸11における修正狙い位置が算出され、エンジンアッシ1の回転が停止された後、前記修正狙い位置に相当する部位の重量が増加あるいは減少されることにより、エンジンアッシ1のアンバランスが修正される。
【0026】
かかるアンバランスの測定及び修正に際しての演算制御は、図3に示す構成により行われる。図3に示すように、本実施形態に係るアンバランス測定装置は、エンジンアッシ1のアンバランスの測定及び修正を行うための演算制御装置30を備える。
演算制御装置30は、振動ピックアップ3によって検出される振動を用いて、予め設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係からエンジンアッシ1のアンバランスを測定するアンバランス測定部31と、このアンバランス測定部31により測定されたアンバランスに基づき、エンジンアッシ1回転停止後にクランク軸11における重量が増加または減少される部位に相当する修正狙い位置を算出する修正狙い位置算出部32とを備える。つまり、本実施形態では、演算制御装置30が、アンバランス測定手段及び修正狙い位置算出手段として機能する。また、演算制御装置30は、モータ4の駆動を制御する駆動制御部33を備える。
【0027】
アンバランス測定部31は、予め設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係を一定の関係式として記憶する。すなわち、アンバランスの測定に際しては、予め前記関係式を導出するためのマスタリング(校正)が行われる。具体的には、ある一つのエンジンアッシが用いられ、このエンジンアッシについて既知のアンバランスの変化量に対する振動の変化量が、振動ピックアップ3が用いられて測定されることにより、その装置におけるエンジンアッシのアンバランスと振動との関係式(関係式における係数の値)が予め求められる。このマスタリングにより導出された関係式が、アンバランス測定部31に予め設定され記憶される。
アンバランス測定部31は、振動ピックアップ3により検出されるエンジンアッシ1の振動に基づき、エンジンアッシ1のアンバランスを予め設定される前記関係式から測定する。振動ピックアップ3により検出されるエンジンアッシ1の振動(検出値)は、アンプ等を介してアンバランス測定部31に入力される。
【0028】
ここで、エンジンアッシ1のアンバランスは、一般的には、エンジンアッシ1のクランク軸11の軸心方向視での軸芯線C1からのベクトル(アンバランスベクトル)により表され、そのアンバランスベクトルによりアンバランスの量と角度(方向)が表される。つまり、アンバランス測定部31により測定されるエンジンアッシ1のアンバランスはアンバランスベクトルとして表される。
【0029】
修正狙い位置算出部32により算出される修正狙い位置は、前記のとおりエンジンアッシ1のクランク軸11における重量が増加または減少される部位に相当し、本実施形態においては、修正狙い位置は、クランク軸11に固設されるフロントプーリ12における所定の位置となる。
そして、本実施形態では、フロントプーリ12の修正狙い位置に錘が取り付けられることによりクランク軸11における所定の部位の重量が増加され、エンジンアッシ1のアンバランスが修正される。修正狙い位置に対しては、図示せぬマーキング装置等により所定のマーキングが施される。
【0030】
また、本実施形態では、フロントプーリ12の修正狙い位置に錘が取り付けられてクランク軸11の所定の部位の重量が増加されることにより、エンジンアッシ1のアンバランスが修正されるが、クランク軸11の所定の部位の重量が減少されることでアンバランスの修正が行われてもよい。この場合、修正狙い位置は、その位置に相当する部位の重量が減少されることにより、アンバランス測定部31により測定されたアンバランスベクトルが打ち消されるように算出される。そして、重量の減少は、フロントプーリ12の修正狙い位置に相当する部位が切削または研削されること等により行われる。
【0031】
以上の構成を備え、エンジンアッシ1のアンバランスの修正に際してアンバランスの測定等を行うアンバランス測定装置には、その測定等を行う各エンジンアッシについてのアンバランスの履歴を残すため、次のような構成が備えられる。
すなわち、本実施形態に係るアンバランス測定装置においては、図1及び図3に示すように、モータ4の回転に基づく設備の回転位相に対して所定の位相差を有する回転位相検出手段としてのエンコーダ(ロータリエンコーダ)40と、このエンコーダ40により検出される回転位相、及びエンジンアッシ1に設けられこのエンジンアッシ1の回転位相を検出する回転検出手段により検出される回転位相を用いて所定の演算を行う演算手段としての演算装置50(図3参照)とを備える。なお、以下において「位相」とは、回転位相を指す。
【0032】
エンコーダ40は、モータ4に対して接続され、クランク軸11に連結される駆動軸21の回転に対応する位相を出力する。具体的には、エンコーダ40は、モータ4の駆動にともなう駆動軸21の一回転に対して一個出力されるパルス信号(基準信号)であるZ相信号(以下、単に「Z相」ともいう。)を出力する。
したがって、エンコーダ40については、Z相の出力によりその位相が基準位相(0位相)に達したことが検出される。
【0033】
また、エンコーダ40は、モータ4の回転に基づく設備の位相に対して所定の位相差を有し、設備の回転と同じ周期となる(一対一となる)回転についてのZ相を出力する。
つまり、ここでいう「設備の位相」とは、前記のとおりモータ4の回転に基づくものであり、モータ4の駆動にともなう駆動軸21の位相に対応し、エンコーダ40が設備の位相に対して有する所定の位相差は、機械的に不変となる。このエンコーダ40が設備の位相に対して有する所定の位相差は未知の値となる。
なお、回転位相検出手段としては、エンコーダ40に限定されるものではなく、設備の位相に対して所定の位相差を有するとともに、設備側の一回転に対して一個の0位相を出力することができる装置であればよい。
【0034】
一方、設備の回転と、振動架台2上に載置されアンバランスの測定対象となるエンジンアッシ1の回転とは、前述した駆動軸21とクランク軸11との連結構成により同じ周期となる(一対一となる)ものの、設備の位相と、エンジンアッシ1の位相(以下、単に「エンジンの位相」ともいう。)との関係は、振動架台2上に載置される各エンジンアッシ1毎に異なることとなる。つまり、設備の0位相とエンジンの0位相との関係は、各エンジンアッシ1毎に任意となる。
【0035】
ここで、図4に示す概念図を用いて、エンコーダ40の位相と設備の位相とエンジンの位相との関係についてまとめる。
図4において、エンコーダ40、設備(駆動軸21)及びエンジン(エンジンアッシ1)それぞれに対応する楕円P1、P2及びP3は、それぞれの位相についての変位(回転)を軌道として示すものであり、各楕円P1、P2及びP3における点O1、O2及びO3は、それぞれにおける0位相の位置を示す。
エンコーダ40、設備及びエンジンは、モータ4の駆動により、互いに同じ周期で回転する。言い換えると、エンコーダ40、設備及びエンジンの回転については、共通の回転軸C3を仮想することができる。
【0036】
エンコーダ40の0位相は、その出力するZ相により検出される。エンコーダ40の位相は、設備の位相に対して不変となる所定の位相差を有する。以下では、この所定の位相差(設備とエンコーダ40の位相差)を「エンコーダ位相差」という。
設備の0位相は、直接検出されない。なお、設備の0位相は、前述したマスタリングの際に規定される。具体的には、例えば、マスタリングの際、エンジンアッシについて既知のアンバランスを与えるためにクランク軸11の所定の部位(フロントプーリ12等)において錘が取り付けられる位置に対応する位相が、設備の0位相として規定される。
エンジンの0位相は、回転検出手段(後述するNEセンサ)により検出される。
【0037】
エンジンアッシ1の位相(クランク軸11の回転角)を検出する回転検出手段としては、周知の構成を用いることができ種々の構成が考えられる。
例えば、クランク軸11と一体に回転する部材(フロントプーリ12やドライブプレート13等)の一部に反射板等の反射部材を取り付け、この反射部材に対してレーザ等の外部信号を用いてクランク軸11の回転角を光学的に検出することが考えられる。また、カメラ等の撮像手段を用いて画像処理等によってクランク軸11の回転角を検出したり、あるいはロータリエンコーダを用いてクランク軸11の回転角を検出したりすることが考えられる。
【0038】
ここで、エンジンアッシ1(後述する「位相差算出用エンジンアッシ」含む)の位相は、クランク軸11に設けられ外周に沿って形成される被検出部を有する回転角検出ロータと、前記被検出部の通過を検出する回転角検出センサとを用いて検出することが好ましい。
このため、本実施形態では、図1、図2及び図5に示すように、前記回転検出手段として、クランク軸11に設けられ外周に沿って形成される被検出部を有する回転角検出ロータとしてのNEセンサプレート35と、前記被検出部の通過を検出する回転角検出センサとしてのNEセンサ36とを含む構成が用いられる。
【0039】
NEセンサプレート35とNEセンサ36とは、エンジンアッシ1の回転にともない回転するNEセンサプレート35に形成される被検出部の通過が、NEセンサ36によって検出されるいわゆるマグネットピックアップ式のセンサに構成される。
図2及び図5に示すように、NEセンサプレート35は、クランク軸11に設けられる金属製の円板状の部材であり、クランク軸11と一体的に回転する。NEセンサプレート35は、その外周に沿って形成される被検出部としての複数の被検歯35aを有する。NEセンサプレート35においては、被検歯35aが等しいクランクアングル間隔(等角度間隔)で形成されるとともに、NEセンサプレート35の回転位相が認識されるための欠切部35bが形成される。
【0040】
NEセンサ36は、例えば永久磁石などにより構成される芯材と、これに巻回されるコイルとを有し、NEセンサプレート35の回転による磁界の変化を検出する。つまり、NEセンサ36は、電磁誘導によって、その形成する磁界が、金属製のNEセンサプレート35の回転にともなう被検歯35aの通過により遮断される強さ(被検歯35aとNEセンサ36の間隔・スピード)に応じた電圧(起電力)を、センサ出力としてパルス信号により出力する。NEセンサ36により出力される信号がクランク角信号となり、このクランク角信号によりエンジンアッシ1(クランク軸11)の回転角や回転数が検知される。
図5に示すように、NEセンサ36は、例えば全体として略筒状に構成されその一端部が検出部となり、この検出部側がNEセンサプレート35の被検歯35aに対向するように、エンジンアッシ1のシリンダブロック等の所定の位置に所定の姿勢で組み付けられて設けられる。
【0041】
このように、クランク軸11の回転検出手段として、NEセンサプレート35とNEセンサ36とを用いることにより、クランク軸11の回転角を検出するに際し、エンジンに備えられる既存の装置構成を用いることができる。
すなわち、エンジンにおいては、例えばECU等の制御手段による運転制御に際し、エンジンの回転数が測定されるところ、このエンジン回転数を測定するため、NEセンサプレート35とNEセンサ36とを備えるものがある。そこで、これらNEセンサプレート35とNEセンサ36とによりエンジンの位相を検出することができる。
【0042】
演算装置50としては、市販のパソコンやワークステーション等が用いられ、各エンジンアッシについてのアンバランスの履歴を残すために実行されるプログラム等を格納する格納部や、このプログラム等を展開する展開部や、エンコーダ40からの検出信号(Z相信号)及びエンジンアッシ1の回転検出手段(本実施形態ではNEセンサ36)からの検出信号に基づいて行われる演算結果等を記憶する記憶部等を具備する。
なお、演算装置50は、別途パソコン等を用いることなく、前述した演算制御装置30に具備される構成であってもよい。
【0043】
演算装置50により、本実施形態に係るアンバランス測定装置により測定される各エンジンアッシについてのアンバランスの履歴を残すための演算が行われる。
演算装置50により行われる演算について概説すると、まず、ある一つのエンジンアッシが用いられ、設備とエンコーダ40との間の所定の位相差であるエンコーダ位相差が算出される。以下では、エンコーダ位相差が算出されるためのエンジンアッシを「位相差算出用エンジンアッシ」という。そして、算出されたエンコーダ位相差が用いられ、その後にアンバランスが測定される任意のエンジンアッシについて、そのエンジンの位相と設備の位相との関係が求められる。このエンジンの位相と設備の位相との関係により、設備の位相を基準として測定されるアンバランスが、各エンジンアッシ1における位相を基準とするものに変換される。
【0044】
すなわち、演算装置50は、NEセンサ36により検出される、設備の位相と0位相が一致されて回転される位相差算出用エンジンアッシの位相と、この位相差算出用エンジンアッシの回転にともないエンコーダ40により検出される位相とから、エンコーダ位相差を導出する。
エンコーダ位相差を算出した後、任意のエンジンアッシ1のアンバランス測定にともない検出される、エンコーダ40の位相とその任意のエンジンアッシ1の位相とから、エンコーダ40と任意のエンジンアッシ1との位相差である第一の位相差を算出し、算出した第一の位相差とエンコーダ位相差とから、設備の位相と任意のエンジンアッシ1の位相との位相差である第二の位相差を算出する。
そして、算出した第二の位相差を用いて、設備の位相を基準として測定した前記任意のエンジンアッシ1のアンバランスを、この任意のエンジンアッシ1の位相を基準とするアンバランスに変換する。
【0045】
以下、エンジンアッシのアンバランス測定を行うに際し、各エンジンアッシについてのアンバランスの履歴を残す方法について、図4に加え図6に示す位相関係図及び図7に示すフロー図を用いて具体的に説明する。
なお、図6において、原点Oを中心とする時計方向の回転がエンジンの回転方向を示し、「位相差」とは、そのエンジンの回転方向の位相差をいう。そして、原点(回転中心)Oに対し、Sの方向(線分OS)は設備の0位相を示し、Tの方向(線分OT)はエンコーダ40の0位相を示す。したがって、位相差θ1が、エンコーダ位相差となる。また、図6(a)において、原点Oに対し、Uの方向(線分OU)は位相算出用エンジンアッシの0位相を示し、同図(b)において、原点Oに対し、U´の方向(線分OU´)は任意のエンジンアッシの0位相を示す。
【0046】
本実施形態に係るエンジンアッシのアンバランス測定方法は、設備とエンコーダ40の位相差(エンコーダ位相差θ1)を算出する手順(図7におけるS100〜S140参照)と、設備の位相を基準として測定されるエンジンアッシ1のアンバランスをそのエンジンアッシ1の位相を基準とするものに変換する手順(図7におけるS200〜S250参照)とを含む。
【0047】
設備とエンコーダ40の位相差を算出する手順について説明する。
まず、モータ4の回転に基づく設備の位相と0位相を一致させた位相差算出用エンジンアッシを回転させる。
すなわち、まず、位相差算出用エンジンアッシを、振動架台2上にセットし、設備とエンジンの位相を手動にて合わせる(ステップ(以下「S」と略す)100)。具体的には、位相差算出用エンジンアッシのクランク軸11を作業者が手動で回転させることで、エンジンの0位相を設備の0位相に合わせる。ここで、図6(a)に示すように、エンジンと設備の位相差θ2に対して、位相差算出用エンジンアッシのクランク軸11をエンジンの回転方向に対してθ2回転させることで、エンジンの位相と設備の位相とを一致させる。
そして、駆動軸21とクランク軸11とを連結させてモータ4の駆動により位相差算出用エンジンアッシを回転させる(S110)。
【0048】
次に、位相差算出用エンジンアッシの位相を検出するとともに、エンコーダ40の位相を検出する。
すなわち、位相差算出用エンジンアッシが備えるNEセンサ36からの出力信号によりエンジンの0位相を、エンコーダ40からのZ相によりエンコーダ40の0位相を、それぞれ検出する(S120)。
【0049】
そして、前記各検出した位相差算出用エンジンアッシの位相及びエンコーダ40の位相からエンコーダ位相差θ1を導出する。
ここではまず、位相差算出用エンジンアッシのNEセンサ36からの出力信号とエンコーダ40からの出力信号(Z相)との2つの信号の差分を処理することにより、エンジンとエンコーダ40の位相差を算出する(S130)。この算出したエンジンとエンコーダ40の位相差は、設備とエンコーダ40の位相差つまりエンコーダ位相差θ1に相当する。すなわち、前記S100にて設備と位相差算出用エンジンアッシとの位相を一致させたため、設備の位相=エンジンの位相となり、エンジンとエンコーダ40の位相差は、設備とエンコーダ40の位相差となる。
したがって、算出したエンジンとエンコーダ40の位相差を、設備とエンコーダ40の位相差として演算装置50に記憶させる(S140)。
【0050】
これにより、設備とエンコーダ40の位相差を算出する手順が終了する。
つまり、本手順により、機械的には不変であるが未知であるエンコーダ位相差θ1(図4における両矢印X1参照)が導出される。
【0051】
続いて、設備の位相を基準として測定されるエンジンアッシ1のアンバランスをそのエンジンアッシ1の位相を基準とするものに変換する手順について説明する。
本手順は、任意の(成行きの)エンジンアッシ1、つまりアンバランス測定装置によってアンバランスが測定される、設備の位相に対して任意の位相差を有するエンジンアッシ1について行う。
すなわち、まず、アンバランスの測定に係る任意のエンジンアッシ1を振動架台2上にセットする(S200)。
そして、駆動軸21とクランク軸11とを連結させてモータ4の駆動により任意のエンジンアッシ1を回転させる(S210)。
【0052】
回転させた任意のエンジンアッシ1について、設備の位相でアンバランスを測定する(S220)。つまり、ここで測定するエンジンアッシ1についてのアンバランスは、設備の位相を基準とするものとなる。
【0053】
一方、任意のエンジンアッシ1のアンバランス測定にともない検出される、エンコーダ40の位相と任意のエンジンアッシ1の位相とから、エンコーダ40と任意のエンジンアッシ1との位相差である第一の位相差を算出する(S230)。
すなわち、任意のエンジンアッシ1をアンバランスの測定に際して回転させることで、エンコーダ40からの出力信号(Z相)とエンジンアッシ1のNEセンサ36からの出力信号との2つの信号の差分を処理することにより、エンコーダ40とエンジンアッシ1の位相差である第一の位相差(図4における両矢印X2参照)を算出する。第一の位相差は、図5においては、位相差α1で表される。
【0054】
続いて、前記S230にて算出した第一の位相差α1と、前記のとおり導出したエンコーダ位相差θ1とから、設備の位相と任意のエンジンアッシ1の位相との位相差である第二の位相差を算出する(S240)。
つまりここでは、エンコーダ40とエンジンの位相差である第一の位相差α1に、設備とエンコーダ40の位相差であるエンコーダ位相差θ1を加えることで、設備とエンジンの位相差となる第二の位相差(図4における両矢印X3参照)を算出する。したがって、図5に示すように、第二の位相差は、エンコーダ位相差θ1と第一の位相差α1とを合算した位相差α2となる。
【0055】
そして、算出した第二の位相差α2を用いて、設備の位相を基準として測定した任意のエンジンアッシ1のアンバランスを、この任意のエンジンアッシ1の位相を基準とするアンバランスに変換する(S250)。
すなわち、設備の位相を基準として測定されるエンジンアッシ1のアンバランスに対し、設備とエンジンアッシ1の位相差である第二の位相差α2を補正値として用い、設備の位相をエンジンアッシ1の位相に変換する。
【0056】
これにより、設備の位相を基準として測定されるエンジンアッシ1のアンバランスをそのエンジンアッシ1の位相を基準とするものに変換する手順が終了する。
つまり、本手順により、予め導出したエンコーダ位相差θ1や、各エンジンアッシ1のNEセンサ36及びエンコーダ40からの出力信号等に基づいて、設備の位相を基準として測定されるエンジンアッシ1のアンバランスが、各エンジンアッシ1の位相を基準とするものに変換される。
【0057】
以上の各手順を経ることにより、効率的かつ安価に、測定されるエンジンアッシ1のアンバランスについて、各エンジンにおける位相を基準として履歴化することができる。
つまり、従来においては、エンジンアッシ1のアンバランス測定に際し、設備の位相が基準として示されていたアンバランスベクトルを、アンバランスの測定対象となる各エンジンアッシ1の位相を基準とするものに変換することができ、測定されるアンバランスを各エンジンにおける位相を基準として履歴化することが可能となる。
これにより、アンバランスが測定されたエンジンアッシについて、そのエンジンの品質の証明や正確な在庫管理等を行うことができるとともに、そのエンジンが搭載される車両における車両振動等の不具合の原因追跡を有効に行うことができる。
【0058】
また、測定されるアンバランスを、各エンジンアッシ1の位相を基準として履歴化するに際し、前述したように、位相差算出用エンジンアッシを用いて、エンコーダ位相差θ1を予め一旦導出することにより、その後の任意の位相で搬入されるエンジンアッシ1に対しては、自動的にアンバランスを各エンジンアッシ1の位相を基準として履歴化することができる。これにより、各エンジンアッシ1の測定毎に設備とエンジンとの位相を合わせる作業を省くことができ、効率的な作業性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係るアンバランス測定装置の全体構成を示す図。
【図2】駆動軸とクランク軸との連結部の構成を示す図。
【図3】アンバランス測定装置における制御構成の一例を示すブロック図。
【図4】設備とエンコーダとエンジンとの位相関係を示す概念図。
【図5】NEセンサプレート及びNEセンサの構成を示す図。
【図6】設備とエンコーダとエンジンとの位相関係図。
【図7】本発明の一実施形態に係るアンバランス測定方法についてのフロー図。
【符号の説明】
【0060】
1 エンジンアッシ
2 振動架台
3 振動ピックアップ(振動検出手段)
4 モータ(回転駆動手段)
11 クランク軸
35 NEセンサプレート(回転角検出ロータ)
36 NEセンサ(回転角検出センサ)
40 エンコーダ(回転位相検出手段)
50 演算装置(演算手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動検出手段を有する振動架台上に載置したエンジンアッシを、回転駆動手段によって所定の回転数で回転させることにより該エンジンアッシに生じる振動を前記振動検出手段によって検出し、検出した振動を用いて、予め設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係からエンジンアッシのアンバランスを測定するエンジンアッシのアンバランス測定方法であって、
前記回転駆動手段の回転に基づく設備の回転位相と基準位相を一致させた位相差算出用エンジンアッシを回転させ、
前記位相差算出用エンジンアッシの回転位相を検出するとともに、前記設備の回転位相に対して所定の位相差を有する回転位相検出手段の回転位相を検出し、
前記各検出した回転位相から前記所定の位相差を導出する一方、
任意のエンジンアッシのアンバランス測定にともない検出される、前記回転位相検出手段の回転位相と該任意のエンジンアッシの回転位相とから、前記回転位相検出手段と該任意のエンジンアッシとの位相差である第一の位相差を算出し、
算出した前記第一の位相差と前記所定の位相差とから、前記設備の回転位相と前記任意のエンジンアッシの回転位相との位相差である第二の位相差を算出し、
算出した前記第二の位相差を用いて、前記設備の回転位相を基準として測定した前記任意のエンジンアッシのアンバランスを、該任意のエンジンアッシの回転位相を基準とするアンバランスに変換することを特徴とするエンジンアッシのアンバランス測定方法。
【請求項2】
前記位相差算出用エンジンアッシ及び前記任意のエンジンアッシの回転位相を、前記各エンジンアッシのクランク軸に設けられ外周に沿って形成される被検出部を有する回転角検出ロータと、前記被検出部の通過を検出する回転角検出センサとを用いて検出することを特徴とする請求項1に記載のエンジンアッシのアンバランス測定方法。
【請求項3】
エンジンアッシを載置する振動架台と、前記振動架台に設けられエンジンアッシに生じる振動を検出する振動検出手段と、エンジンアッシに連結されエンジンアッシを所定の回転数で回転させる回転駆動手段と、前記振動検出手段によって検出される振動を用いて、予め設定されるエンジンアッシのアンバランスとエンジンアッシに生じる振動との関係からエンジンアッシのアンバランスを測定するアンバランス測定手段と、を備えるエンジンアッシのアンバランス測定装置であって、
前記回転駆動手段の回転に基づく設備の回転位相に対して所定の位相差を有する回転位相検出手段と、
前記回転位相検出手段により検出される回転位相、及びエンジンアッシに設けられ該エンジンアッシの回転位相を検出する回転検出手段により検出される回転位相を用いて所定の演算を行う演算手段と、を備え、
前記演算手段は、
前記回転検出手段により検出される、前記設備の回転位相と基準位相が一致されて回転される位相差算出用エンジンアッシの回転位相と、該位相差算出用エンジンアッシの回転にともない前記回転位相検出手段により検出される回転位相とから、前記所定の位相差を導出する一方、
任意のエンジンアッシのアンバランス測定にともない検出される、前記回転位相検出手段の回転位相と該任意のエンジンアッシの回転位相とから、前記回転位相検出手段と該任意のエンジンアッシとの位相差である第一の位相差を算出し、
算出した前記第一の位相差と前記所定の位相差とから、前記設備の回転位相と前記任意のエンジンアッシの回転位相との位相差である第二の位相差を算出し、
算出した前記第二の位相差を用いて、前記設備の回転位相を基準として測定した前記任意のエンジンアッシのアンバランスを、該任意のエンジンアッシの回転位相を基準とするアンバランスに変換することを特徴とするエンジンアッシのアンバランス測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−32571(P2008−32571A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207208(P2006−207208)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】