説明

エンジン制御装置

【課題】車両走行状態において、機械式スロットルバルブが運転者の意に反して開いたまま閉じないスロットル開異常が生じた場合にも車両の走行安全性の低下を抑制する。
【解決手段】エンジン10は、機械式のスロットルバルブ13を備える。ECU40は、車両走行状態においてスロットル開異常が検出された場合にエンジン10の燃焼停止を実施するとともに、その車両走行状態でのエンジン燃焼停止後において、エンジン回転速度が第1判定値よりも低い場合にエンジン10の燃焼復帰を行うとともに、該燃焼復帰後にエンジン回転速度が第2判定値よりも高い場合にエンジン10の燃焼を停止する。また特に、エンジン燃焼停止に伴い車速が低下する際には、その車速低下に伴い、第1判定値と第2判定値との乖離量を小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置に関し、詳しくは、ドライバの踏み込み操作力によって吸気量を調整する機械式のスロットルバルブの開異常が生じた場合の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スロットルバルブには、電動モータでスロットル開度を制御する電動式と、ドライバによるアクセルペダルの踏込み操作力によって機械的に駆動する機械式とがある。これらのうち、機械式のスロットルバルブでは、電動式とは異なり、アクセル開度と独立してスロットル開度を調整できない。そのため、例えばドライバの意思とは無関係にアクセルペダルが押し下げられたり、ドライバがアクセルペダルを戻そうとしても戻らなくなったりするなどの誤作動が生じた場合に、スロットルバルブの開状態が継続するスロットル開異常が生じるおそれがある。この場合、エンジンの吸気量が少なくならず、その結果、ドライバの意に反してエンジン出力が低減されないことが考えられる。
【0003】
このような事態が生じた場合の対処方法として、例えば特許文献1には、スロットル開度が所定値以上であって所定間隔以下の時間にブレーキ操作が繰り返しがあった場合、エンジンが異常であると判定し、燃料カットを行うことが開示されている。これにより、エンジン出力の低下を図るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平01−124354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両走行時に上記のスロットル開異常が検出された場合、異常発生に伴うエンジンの出力制限の開始後において、退避走行を可能にする等を目的として車両を走行可能な状態にしておく必要が生じることがある。この場合、例えば、エンジン回転速度に応じてエンジンの燃焼停止と燃焼復帰とを繰り返すことにより、エンジンストールを回避しつつエンジン出力を制限する制御を行うことが考えられる。
【0006】
ところが、エンジンの燃焼停止と燃焼復帰とが繰り返し実施された場合、エンジン回転速度が上昇と下降とを繰り返し、その回転変動によって車両が加速と減速とを繰り返すことが考えられる。この場合、車両の走行安定性が低下することが懸念される。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、車両走行状態において、機械式スロットルバルブが運転者の意に反して開いたまま閉じないスロットル開異常が生じた場合にも、車両の走行安全性が低下するのを抑制することができるエンジン制御装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0009】
本発明のエンジン制御装置は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み操作力によって機械的に駆動されることでエンジンの吸気量を調整する機械式のスロットルバルブを備える車載のエンジンに適用される。特に、請求項1に記載の発明は、車両走行状態において、運転者によるアクセルペダルの踏み込みが解除された状態で前記スロットルバルブが開いたまま閉じない異常であるスロットル開異常を検出する異常検出手段と、前記異常検出手段により前記スロットル開異常が検出された場合にエンジンの燃焼停止を実施してエンジンの出力を制限する出力制限手段と、前記出力制限手段による前記車両走行状態でのエンジンの燃焼停止後において、エンジン回転速度が第1判定値よりも低い場合にエンジンの燃焼復帰を行うとともに、前記燃焼復帰後においてエンジン回転速度が前記第1判定値より高回転側の第2判定値よりも高い場合に前記燃焼を停止する燃焼復帰停止処理を実施する燃焼制御手段と、前記燃焼復帰停止処理によるエンジン燃焼停止に伴い車速が低下する際に、その車速低下に伴い、前記第1判定値と前記第2判定値との乖離量を小さくする乖離量変更手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
要するに、機械式のスロットルバルブを備えるシステムにおいて、運転者によるアクセルペダルの踏み込みが解除されているにもかかわらずスロットルバルブが開状態となったまま閉状態にならない異常(スロットル開異常)が生じることが考えられる。本構成では、このようなスロットル開異常が車両走行中に生じた場合、エンジンの燃焼停止を実施してエンジンの出力を制限するため、車両が危険な状態に陥るのを回避することができる。また、出力制限に際しては、エンジン回転速度に応じてエンジンの燃焼再開及び燃焼停止を行うため、エンジンストールを回避して車両が走行可能な状態を保持することができる。
【0011】
また特に、本構成では、スロットル開異常が検出された時には、燃焼復帰するエンジン回転速度の判定値(第1判定値)と、燃焼停止するエンジン回転速度の判定値(第2判定値)との乖離量を車速低下に伴い小さくするため、エンジンの燃焼/燃焼停止の繰り返しに起因するエンジン回転速度の変動を車速の低下に従って抑制することができる。つまり、エンジンの回転変動の影響を受けやすい低車速域において回転変動を小さくすることができ、その結果、エンジンの出力制限を実施する際に車両の安定性が低下するのを抑制することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明では、前記乖離量変更手段は、車速低下に伴い前記第2判定値を低下させることにより前記乖離量を小さくするものとしている。本構成によれば、第1判定値を変更する必要がないため、第1判定値を、エンジンストールが生じない最小回転速度に保持しつつ、第1判定値と第2判定値との乖離量を変更することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明では、前記異常検出手段は、前記スロットル開異常として、前記スロットルバルブの開状態においてブレーキペダルが踏み込まれていることを検出するものとしている。機械式のスロットルバルブを備えるシステムにおいて、スロットルバルブが開状態あってかつブレーキペダルが踏み込み状態の場合、ドライバには走行意思がなく、スロットルバルブの開異常が生じているものと判断することができる。よって、上記場合には、スロットル開異常が生じているものとしてエンジンの出力制限を行うとよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】エンジン制御システムの全体概略構成図。
【図2】車両走行状態においてスロットル開異常が生じた時のエンジン制御を示すフローチャート。
【図3】車速と第2判定値との関係を示すマップ。
【図4】本実施形態のエンジン制御の具体的態様を示すタイムチャート。
【図5】他の実施形態におけるエンジン制御の具体的態様を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施の形態について図面を参照しつつ説明する。本実施の形態は、火花点火式の車載多気筒ガソリンエンジンを対象にエンジン制御システムを構築するものとしている。当該制御システムにおいては、電子制御ユニット(以下、ECUという)を中枢として、燃料噴射量の制御や点火時期の制御等を実施する。このエンジン制御システムの全体概略構成図を図1に示す。
【0016】
図1において、エンジン10には、吸気管11と排気管12とが接続されており、吸気管11には気筒内への吸入空気量を調整するためのスロットルバルブ13が設けられている。スロットルバルブ13は、運転者によるアクセルペダル14の踏込み操作力によって機械的に開閉駆動される機械式の空気量調整手段である。スロットルバルブ13では、アクセルペダル14が押し下げられた際の操作量がケーブル15を介してスロットルバルブ13へ伝達されることで開度(スロットル開度)が調整される。スロットル開度は、スロットルアクチュエータ16に内蔵されたスロットル開度センサ17により検出される。
【0017】
スロットルバルブ13の下流側にはサージタンク18が設けられている。サージタンク18には、エンジン10の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド19が接続されており、吸気マニホールド19において、各気筒の吸気ポート近傍には、燃料を噴射供給する燃料噴射手段としてのインジェクタ21が取り付けられている。
【0018】
なお、本実施形態では、吸気ポート噴射式エンジンを採用しており、インジェクタ21が吸気ポート近傍に設けられる構成としているが、これに代えて、直噴式エンジンを採用し、インジェクタ21が各気筒のシリンダヘッド等に設けられる構成としてもよい。
【0019】
エンジン10の吸気ポート及び排気ポートには、それぞれ吸気バルブ22及び排気バルブ23が設けられている。これらのうち、吸気バルブ22の開動作により、空気と燃料との混合気が燃焼室24内に導入され、排気バルブ23の開動作により、燃焼後の排ガスが燃焼室24から排気管12に排出される。
【0020】
エンジン10のシリンダヘッドには、気筒毎に点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25には、点火コイル等よりなる点火装置(図示略)を通じて、所望とする点火時期において高電圧が印加される。この高電圧の印加により、各点火プラグ25の対向電極間に火花放電が発生し、燃焼室24内に導入した混合気が着火され燃焼に供される。
【0021】
排気管12には、排気中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ26が設けられており、酸素濃度センサ26の下流側には、排気浄化装置としての触媒27が設けられている。触媒27は例えば三元触媒であり、排気が通過する際に排気中の有害成分等を浄化する。
【0022】
その他、本システムには、エンジン冷却水温を検出する冷却水温センサ28や、クランク軸29が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ31、吸入空気量や吸気管負圧といったエンジン負荷を検出する負荷センサ36、アクセルペダル14の操作量を検出するアクセルセンサ32、ブレーキペダル33の操作量を検出するブレーキセンサ34、車速を検出する車速センサ35等の各種センサが設けられている。なお、アクセルペダル14及びブレーキペダル33としては、吊り下げ式(ペンダントタイプ)でもフロア支持式(オルガン式)でもよい。
【0023】
ECU40は、周知の通りCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータ(以下、マイコンという)を主体として構成され、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、都度のエンジン運転状態に応じてエンジン10の各種制御を実施する。すなわち、ECU40のマイコンは、前述した各種センサなどから各々検出信号を入力し、それらの各種検出信号に基づいて燃料噴射量や点火時期等を演算するとともに、インジェクタ21や点火装置の駆動を制御する。
【0024】
ここで、スロットルバルブ13が機械式の場合では、アクセル開度と独立してスロットル開度を調整できない。そのため、例えばフロアマットのずれ等に起因してドライバの意思とは無関係にアクセルペダル14が押し下げられたり、あるいは、ケーブル15の作動不良などが原因でアクセルペダル14が元の位置に戻らなくなったりした場合には、スロットルバルブ13の開状態が継続されることとなる。この場合、ドライバがアクセル操作を解除した状態でも吸入空気量が少なくならないため、ドライバの意に反してエンジン出力が低減されないことが懸念される。
【0025】
そこで、本実施形態では、車両走行中にスロットルバルブ13が開いたまま閉じない異常(スロットル開異常)が生じている場合、エンジン10の燃焼停止を実施してエンジン出力を制限する出力制限制御を実施することとしている。具体的には、スロットルバルブ13が開状態であって、かつブレーキペダル33が踏み込み状態であることが検出された場合にスロットル開異常が生じているものと判断し、エンジン10の出力制限を実施する。スロットル開であるにもかかわらずブレーキペダル33の踏み込み操作が行われている場合、ドライバには車両加速の意思又は走行意思がなく、そのスロットル開の状態はドライバの意思に基づくものではないと考えられるからである。
【0026】
また、本実施形態では、スロットル開異常の検出に伴いエンジン10の燃焼を停止した場合、エンジン回転速度が、エンジンストールが生じない最小回転速度を基準に定めた第1判定値T1よりも低くなった場合にエンジン10の燃焼を再開するとともに、第1判定値T1よりも高回転側の第2判定値T2より高くなった場合にエンジン10の燃焼を停止することとしている。つまり、スロットル開異常時のエンジン出力制限に際してはエンジンストールを回避するようにし、これにより、車両が走行可能な状態を保持するようにしている。
【0027】
ところで、車両走行状態において、エンジン10の燃焼停止と燃焼再開とが繰り返されると、エンジン回転速度が上昇と下降とを繰り返すとともに、エンジン回転変動の影響を受けて車両が加速と減速とを繰り返すことが考えられる。また、このようなエンジンの回転変動が車速に及ぼす影響は車速の高低に応じて相違し、車速が低いほどエンジンの回転変動の影響を受けて車速が不安定になりやすい。特に、ドライバの意に反してスロットル開の状態となる異常時では、車両の加速及び減速がドライバの意図するものではないことを考慮すると、このような車速が不安定な状況を回避する必要性が高いと考えられる。その一方で、車速が比較的高い領域では、危険を回避するべく、エンジンの燃焼停止による車両の減速効果を十分に得るようにするのが望ましい。
【0028】
そこで、本実施形態では、車両走行状態でスロットル開異常が生じた場合、エンジン10の燃焼停止に伴い車速が低下する際に、その車速低下に伴い、燃焼復帰判定用のエンジン回転速度である第1判定値T1と、燃焼停止判定用のエンジン回転速度である第2判定値T2との乖離量を小さくすることとしており、具体的には、車速が低いほど第2判定値T2を低く設定することとしている。つまり、高車速域では、燃焼停止から燃焼復帰までのエンジン回転速度変化を大きくして車両の減速効果を十分に発揮できるようにする一方、低車速域では、エンジン回転速度を小刻みに変化させることによって、回転変動による車速の変動が小さくなるようにしている。また、乖離量を小さくする際には、第2判定値T2を変更し、第1判定値T1を一定値とすることにより、第1判定値T1を、エンジンストールが生じない最小回転速度で保持するようにしている。
【0029】
次に、車両走行状態においてスロットル開異常が生じた時のエンジン制御について、図2のフローチャートを用いて説明する。この処理は、ECU40により所定周期毎に実行される。
【0030】
図2において、ステップS11では、例えば車速センサ35の検出値に基づいて、車両が走行状態にあるか否かを判定する。車両走行状態であればステップS12へ進み、スロットル開異常が生じているか否かを判定する。ここでは、スロットルバルブ13が開状態であって、かつブレーキペダル33が踏み込み状態であるか否かを判定する。なお、スロットルバルブ13が開状態であることは、スロットル開度センサ17により検出されるスロットル開度が閾値aよりも大きいか否かの判定によって行う。また、ブレーキペダル33が踏み込み状態であることは、ブレーキセンサ34により検出されるブレーキ踏み込み量が閾値bよりも大きいか否かの判定によって行う。
【0031】
スロットル開異常が生じている場合にはステップS13へ進み、スロットル開異常フラグf1がオンか否かを判定する。このスロットル開異常フラグf1は、スロットル開異常が検出された場合にオンされるフラグである。スロットル開異常フラグf1がオフの場合、ステップS14へ進み、スロットル開異常フラグf1をオンするとともに、燃料噴射を停止する。また、スロットル開異常の検出に伴い出力制限を開始した時点の車速及びエンジン回転速度を、それぞれ車速基準値Va及び回転基準値Naとして記憶する。
【0032】
なお、ステップS14におけるエンジン出力制限では、燃料噴射の停止に先立ち、まず点火時期を遅角側に変更し、点火時期の遅角側への変更後に燃料噴射を停止する。これにより、エンジン10の出力低下を緩やかに実施し、トルクショックが発生するのを抑制するようにしている(以下のステップS19の燃料カットについても同じ)。
【0033】
さて、ステップS11〜S13がYESになると、ステップS15へ進み、クランク角センサ31により検出されるエンジン回転速度(実回転速度)が、燃焼復帰判定用のエンジン回転速度である第1判定値T1よりも低いか否かを判定する。この第1判定値T1は、アイドル運転時のエンジン回転速度(例えば700〜800rpm)又はそれよりも若干高い値に設定されている。
【0034】
実回転速度が第1判定値T1よりも低い場合にはステップS16へ進み、燃料カット中か否かを判定し、燃料カット中の場合、ステップS17においてエンジン10の燃料カットを解除する(燃料噴射を再開する)。一方、実回転速度が第1判定値T1以上の場合にはステップS18へ進み、車速センサ35により検出される車速に基づいて、燃料噴射停止判定用のエンジン回転速度である第2判定値T2を設定する。
【0035】
図3は、車速と第2判定値T2との関係の一例を示すマップである。本実施形態では、車速の単位変化量あたりの第2判定値T2の変化量(傾きα)を予め定めて記憶しておき、その傾きαと、ステップS14で記憶した車速基準値Va及び回転基準値Naを用いて車速と第2判定値T2との関係が定めてられている。具体的には、図3に示すように、車速が車速基準値Vaよりも低いほど、第2判定値T2が回転基準値Naよりも低く設定されるようになっている。換言すれば、車速が低いほど、第1判定値T1と第2判定値T2との乖離量が小さくなっている。
【0036】
図2の説明に戻り、ステップS19では、クランク角センサ31により検出されるエンジン回転速度(実回転速度)と、ステップS18で算出した第2判定値T2とを比較する。このとき、実回転速度が第2判定値T2よりも高い場合にはステップS20へ進み、燃料カット中か否かを判定し、燃料カット中でなければステップS21において燃料噴射を停止する。
【0037】
次に、本実施形態のエンジン制御の具体的態様について、図4のタイムチャートを用いて説明する。図中、(a)はスロットルバルブの開閉の推移、(b)はブレーキペダル33の踏み込み/踏み込み解除の推移、(c)はスロットル開異常フラグf1のオン/オフの推移、(d)は車速の推移、(e)はエンジン回転速度の推移、(f)は燃焼カット/燃料カット解除の推移をそれぞれ示す。
【0038】
図4において、車両走行状態においてスロットル開異常が検出されると、燃料カット(F/C)が行われ、エンジン回転速度が降下する。この回転降下に伴い、エンジン回転速度が第1判定値T1を下回ると、そのタイミングt11で燃料カットが解除され、エンジン回転速度が上昇に転じることにより、車速低下の度合いが減じられる。なお、図3では、燃料カット解除に伴うエンジン回転速度の上昇により車速の変化が略0となる場合を例示している。
【0039】
そして、燃料カットの解除に伴い、エンジン回転速度が第2判定値T2を上回ると、タイミングt12で再び燃料カットが行われ、エンジン回転速度が上昇から下降に転じる。スロットル開異常が検出されている間は、このようにしてエンジン10の燃料カットと燃料カット解除とが繰り返し行われることで、エンジン回転速度の下降と上昇とが繰り返される。これにより、スロットル開異常時において、エンジン10の出力が制限されつつ、エンジンストールが生じるのが回避される。
【0040】
また、図3では、ブレーキ力や燃料カットに伴い車速が徐々に低下していき、その車速の低下に伴い第2判定値T2が徐々に低回転側に変更される。これにより、高車速域では、燃料カットから燃料カット復帰までのエンジン回転速度の変化幅が大きくなり、エンジンの燃焼停止による車両の減速効果が十分に発揮される。また、低車速域では、燃料カット及び燃料カット復帰に伴うエンジン回転速度の変動幅が小さくなり、車両の加速と減速との繰り返しが抑制される。
【0041】
なお、スロットル開異常フラグf1のオン後においてブレーキペダル33の踏み込みが解除された場合には、ドライバによる走行意思があるものとして、エンジン10の出力制限を解除すべく、燃料カットを解除するとよい。
【0042】
以上詳述した本実施形態によれば、次の優れた効果が得られる。
【0043】
車両走行状態において、運転者によるアクセルペダルの踏み込みが解除されているにもかかわらずスロットルバルブが開状態となったまま閉状態にならないスロットル開異常が生じた場合に、エンジンの燃焼停止を実施してエンジンの出力を制限するため、車両が危険な状態に陥るのを回避することができる。また、その際、エンジン回転速度に応じてエンジンの燃焼再開及び燃焼停止を行うため、エンジンストールを回避することができ、車両が走行可能な状態を保持することができる。
【0044】
また特に、本実施形態では、スロットル開異常の検出に伴いエンジンの燃焼を停止し、その燃焼停止により車速が低下している際、第1判定値T1と第2判定値T2との乖離量を車速低下に伴い小さくするため、エンジン10の燃焼/燃焼停止の繰り返しに起因するエンジン回転速度の変動を車速の低下に従って次第に小さくすることができる。これにより、車両の安定性が低下するのを抑制することができる。
【0045】
第1判定値T1と第2判定値T2との乖離量を小さくする際には第2判定値を低回転側に変更することにより行い、第1判定値T1については変更しない構成としたため、第1判定値T1を、エンジンストールが生じない最小回転速度で保持することができる。
【0046】
(他の実施形態)
本発明は、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0047】
・上記図3では、燃料カット解除に伴うエンジン回転速度の上昇により車速の変化が略0となる場合を例示したが、異常発生時のスロットル開度によっては、燃料カット解除に伴い車速が上昇することが考えられる。その点に鑑み、第2判定値T2について、車速の上昇時には第2判定値T2を保持する構成としてもよい。つまり、燃料カット状態では、車速の低下に伴い第2判定値T2を低くし、燃料カット解除の状態では、車速の変化に依らず第2判定値T2を現在値のまま保持する構成としてもよい。
【0048】
・上記実施形態では、車速に応じて第2判定値T2を設定したが、燃料カット状態では車速が低下することに鑑み、燃料カット開始からの経過時間Tcに応じて第2判定値T2を低回転側に変更する構成としてもよい。この場合、経過時間Tcが長いほど、第2判定値T2を低くする。また、経過時間Tcについては、スロットル開異常の検出に伴い燃料カットを開始したタイミング(図4のt10)からの経過時間でもよいし、あるいは、エンジン回転速度が第2判定値T2を超えたのに伴い燃料カットを開始したタイミング(図4のt12)からの経過時間でもよい。
【0049】
・上記実施形態では、車速に基づき第2判定値T2を変更する場合、上記図3のマップを用い、車速が低くなるにつれて第2判定値T2が小さくなるようにしたが、第2判定値T2を変更する構成は上記に限定しない。例えば、図5に示すように、車速と判定値Vthとの比較に基づいて第2判定値T2を大小切り替える構成としてもよい。つまり、図5では、車両走行状態において、タイミングt20でスロットル開異常が検出された場合、車速がVth以上の場合に第2判定値T2をNmとし、車速がVth未満の場合に第2判定値T2をNmよりも小さいNnとする。このとき、車速の判定値Vthを、ブレーキペダル33の踏み込みによって車両を停止可能な車速の上限値としてもよい。この場合、ブレーキ力によって車両を停止可能な低車速域において車速の変動抑制を優先させることができ、その結果、車両安定性の低下を抑制することができる。
【0050】
・上記図5では、車速が判定値Vth未満では第2判定値T2をNnで一定にしたが、車速が判定値Vth未満の領域において、車速が低くなるにつれて第2判定値T2を小さくする構成としてもよい。
【0051】
・上記実施形態では、スロットル開異常の検出に伴い出力制限を開始した時点の車速及びエンジン回転速度を、それぞれ車速基準値Va及び回転基準値Naとして記憶し、これら車速基準値Va及び回転基準値Naを基に第2判定値T2を設定したが、車速基準値Va及び回転基準値Naを用いずに、例えば予め設定して記憶されたマップを用いて第2判定値T2を設定してもよい。
【0052】
・上記実施形態では、第1判定値T1と第2判定値T2との乖離量を小さくするのに際し、第2判定値T2を低回転側に変更することにより行ったが、第2判定値T2に代えて又は第2判定値T2とともに、第1判定値T1を高回転側に変更することにより行ってもよい。
【0053】
・エンジンの出力制限を行うべくエンジン10の燃焼を停止する際、一部の気筒の燃焼を停止させる一部気筒停止から、全部の気筒の燃焼を停止させる全気筒停止へ移行させる構成とする。この場合、エンジンの燃焼停止を開始してから、全気筒について燃焼を停止するまでのトルクの変化がより緩やかになり、エンジンの出力制限に際し、ショック発生の抑制をより好適に行うことができる。
【符号の説明】
【0054】
10…エンジン、13…スロットルバルブ、14…アクセルペダル、15…ケーブル、16…スロットルアクチュエータ、17…スロットル開度センサ、21…インジェクタ、25…点火プラグ、32…アクセルセンサ、33…ブレーキペダル、34…ブレーキセンサ、35…車速センサ、40…ECU(異常検出手段、出力制限手段、燃焼制御手段、乖離量変更手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によるアクセルペダルの踏み込み操作力によって機械的に駆動されることでエンジンの吸気量を調整する機械式のスロットルバルブを備える車載のエンジンに適用され、
車両走行状態において、運転者によるアクセルペダルの踏み込みが解除された状態で前記スロットルバルブが開いたまま閉じない異常であるスロットル開異常を検出する異常検出手段と、
前記異常検出手段により前記スロットル開異常が検出された場合にエンジンの燃焼停止を実施してエンジンの出力を制限する出力制限手段と、
前記出力制限手段による前記車両走行状態でのエンジンの燃焼停止後において、エンジン回転速度が第1判定値よりも低い場合にエンジンの燃焼復帰を行うとともに、前記燃焼復帰後においてエンジン回転速度が前記第1判定値より高回転側の第2判定値よりも高い場合に前記燃焼を停止する燃焼復帰停止処理を実施する燃焼制御手段と、
前記燃焼復帰停止処理によるエンジン燃焼停止に伴い車速が低下する際に、その車速低下に伴い、前記第1判定値と前記第2判定値との乖離量を小さくする乖離量変更手段と、
を備えることを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記乖離量変更手段は、車速低下に伴い前記第2判定値を低下させることにより前記乖離量を小さくする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記異常検出手段は、前記スロットル開異常として、前記スロットルバルブの開状態においてブレーキペダルが踏み込まれていることを検出する請求項1又は2に記載のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−197762(P2012−197762A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63759(P2011−63759)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】