説明

エンジン負荷に応じて自動的にIVT出力を調節する作業機械

【課題】ICエンジンの過剰負荷状態を回避するように、IVT出力を調節可能にする作業機械を提供する。
【解決手段】作業機械は、内燃(IC)エンジンと、ICエンジンに結合されている無限可変トランスミッション(IVT)とを含む。少なくとも1つのセンサが、ICエンジンに対するリアル・タイム負荷値を表す出力信号を供給する。少なくとも1つの電気処理回路は、ICエンジンに対するスレッシュホールド負荷値とICエンジンに対するリアル・タイム負荷値とに応じて、IVTの出力を制御するように構成されている。一実施形態では、少なくとも1つの電気処理回路は、ICエンジンと関連したエンジン制御ユニット(ECU)と、IVTと関連したトランスミッション制御ユニット(TCU)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に関し、更に特定すれば、無限可変トランスミッション(IVT)と結合した内燃エンジンを含む作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
建設作業機械、農業作業機械、または林業作業機械のような作業機械は、通例、内燃(IC)エンジンの形態とした原動機を含む。ICエンジンは、圧縮点火エンジン(即ち、ディーゼル・エンジン)または火花点火エンジン(即ち、ガソリン・エンジン)の任意の形態であればよい。ディーゼル・エンジンの方が関連する作業動作に対する引っ張り、引き落とし、およびトルク特性が高いので、殆どの重作業機械では、原動機はディーゼル・エンジンの形態をなす。
【0003】
負荷衝撃(load impact)後の過渡状態におけるICエンジンのステップ負荷応答は、エンジン排気量、エンジンのハードウェア(例えば、標準的なターボチャージャ、ウェイスト・ゲートまたは可変外形のターボチャージャ等を有するか否か)、ならびに排出法(例えば、可視煙、窒素酸化物(NOx)等)、ノイズまたは振動の要件に関する空気および燃料アクチュエータ(例えば、排気ガス循環、可変外形タービンを有するターボチャージャ(VGT)、燃料噴射器の構成等)を駆動するソフトウェア計略によって影響される特徴である。負荷衝撃は、ドライブトレーン負荷(例えば、作業機械の後ろで引かれる道具)または外部負荷(例えば、フロント・エンド・ローダ、バックホー連結装置などのような補助液圧負荷)の結果であることもある。
【0004】
エンジン・システム全体では、過渡負荷が加えられている間、線形に反応する。最初に、負荷がICエンジンの駆動軸に加えられる。負荷が増大すると、ICエンジンの速度が減少する。エンジン速度の下落は、ガバナが等時性であるかまたは速度垂下を有するかによって影響を受ける。エア・アクチュエータを変更することによって、空気流を増大させて、追加の空気をICエンジンに供給する。新たな空気流設定点に達するには、時間遅延が必要となる。燃料噴射量は、ほぼ即座であるが、煙制限(smoke limit)および最大許容燃料量の双方に関して増大する。次いで、エンジンはエンジン速度設定点に復元する。負荷衝撃後の過渡状態におけるエンジン・ステップ負荷応答に関連するパラメータには、速度下落、およびエンジン設定点に復元するまでの時間がある。
【0005】
ICエンジンを無限可変トランスミッション(IVT)と結合すると、無段階で0から最大まで連続可変出力速度を得ることができる。IVTは、通例、静水および機械的伝導部品を含む。静水部品は、回転するシャフトの動力を作動流に、そしてその逆に変換する。IVTを通過する動力流(power flow)は、設計および出力速度に応じて、静水的部品のみ、機械的部品のみ、または双方の組み合わせを通過することがあり得る。
【0006】
IVTと結合されたICエンジンを含む作業機械には、解決すべき問題が2種類明らかになっていると考えられる。第1に、ドライブトレーンまたは車両液圧機能に急激な負荷をかけると、エンジン速度が低下する。一旦減少したエンジン負荷を低減するのにIVT比を変更するための応答時間は、大きなエンジン速度下落を防止するために必要な応答時間よりも長く、場合によっては停止してしまうこともある。第2に、IVT車両上のフロント・エンド・ローダのバケットを充填するときのように、外部負荷がICエンジンに加えられた場合、操作者は、ICエンジンから可能な車両速度よりもかなり高い車両速度を指令することがある。これらの条件下では、IVT出力トルクおよび速度が、過度な車輪の滑動およびその他の望ましくない特性を招く可能性がある。同様に、液圧機能のような、別の外部機能からトランスミッションへの外部負荷が活性化されると、外部負荷とトランスミッションの出力能力との複合作用によってエンジンが過負荷状態に陥る虞れがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
当技術分野においては、ICエンジンの過剰負荷状態を回避するように、IVT出力を調節可能にする作業機械、および対応する動作方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一形態では、本発明は、内燃(IC)エンジンと、ICエンジンに結合された無限可変トランスミッション(IVT)とを含む作業機械に関する。少なくとも1つのセンサが、ICエンジンに対するリアル・タイム負荷値を表す出力信号を供給する。少なくとも1つの電気処理回路は、ICエンジンに対するスレッシュホールド負荷値とICエンジンに対するリアル・タイム負荷値とに応じて、IVTの出力を制御するように構成されている。
【0009】
別の形態では、本発明は、無限可変トランスミッション(IVT)と結合された内燃(IC)エンジンを含む作業機械の動作方法に関する。この方法は、ICエンジンに対する最大許容負荷に対応するスレッシュホールド負荷値を設定するステップと、ICエンジンと関連のあるリアル・タイム負荷値を判定するステップと、リアル・タイム負荷値をスレッシュホールド負荷値と比較するステップと、比較ステップに応じて、IVTの出力を制御するステップとを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
これより図1を参照すると、本発明の作業機械10の一実施形態の模式図が示されている。作業機械10は、John Deereフロント・エンド・ローダのような建設作業機械であることを想定しているが、農業、林業、鉱業、または工業用作業機械のような、異なる種類の作業機械とすることもできる。
【0011】
作業機械10は、通例、ICエンジン12からの出力クランクシャフト16を介してIVT14と結合されているICエンジン12を含む。ICエンジン12は、図示の実施形態では、ディーゼル・エンジンであると仮定するが、ガソリン・エンジン、プロパン・エンジン等とすることもできる。ICエンジン12は、用途に応じて大きさおよび構成が決められる。
【0012】
IVT14は、従来の設計でよく、したがってここでは詳細には説明しない。IVT14の出力は、少なくとも1つの他の下流ドライブトレーン部品18と結合されており、一方、下流ドライブトレーン部品18は複数の駆動輪20に結合されている。駆動輪20の1つが図1に示されている。勿論、トラック型(track-type)作業車両の場合、ドライブトレーン部品18を対地係合トラックと結合することができる。
【0013】
また、IVT14は出力動力を1つ以上の外部負荷22に供給し、一方、外部負荷22はこれによってICエンジン12に追加の負荷をかける。外部負荷22は、通例、フロント・エンド・ローダ、バック・ホー・ブーム、粒子揚げ卸しオーガ(grain unloading auger)、伐木鋸モータ等のように、液圧負荷の形態である。つまり、ICエンジン12にかかる総負荷は、牽引負荷および外部液圧負荷双方の関数となる。
【0014】
エンジン制御ユニット(ECU)24が、ICエンジン12の動作を電子的に制御し、ICエンジン12の動作と関連のある複数のセンサ(具体的には示さない)と結合されている。例えば、ECU24は、1つ以上の吸気マニフォルド内における空気流速、エンジン速度、燃料供給速度および/またはタイミング、排気ガス環流(EGR)率、ターボチャージャ・ブレード位置等のような、エンジン制御パラメータを示すセンサと結合することができる。加えて、ECU24は、指令した対地速度(スロットルおよび/またはハイドロスタット・レバーの位置によって示す)または指令した作業機械10の方向(ハンドルの角度方位によって示す)のような、操作者が入力する車両制御パラメータを表す出力信号を、車両制御ユニット28から受信することもできる。
【0015】
同様に、トランスミッション制御ユニット(TCU)26は、IVT14の動作を電子的に制御し、IVT14の動作と関連のある複数のセンサと結合されている。ECU24およびTCU26は、コントローラ・エリア・ネットワーク(CAN)バス30のような、双方向データ流を提供するバス構造によって互いに結合されている。
【0016】
ECU24、TCU26、およびVCU28のような種々の電子部品は、有線接続を用いて互いに結合されているように示されているが、ある種の用途には無線接続を用いてもよいことは言うまでもない。
【0017】
ここで図2Aおよび図2Bを参照して、本発明の作業機械10の動作方法の一実施形態について、更に詳しく説明する。ブロック40において、VCU28と接続されているキーパッドを通じて入力する等によって、ユーザが定めるスレッシュホールド負荷値をセットし、メモリに格納する。
【0018】
スレッシュホールド負荷値をセットする1つの可能性は、この値を、所与のICエンジンに対するトルク曲線上の最大トルク/負荷値と一致させることである。例えば、所与のICエンジンに対して、トルクをエンジン速度の関数として既定したトルク曲線を用いることは慣例である。トルク曲線は、メモリに格納することができ、あるいは所与の数学的関数を用いて決定することができる。このようなトルク曲線は当技術分野では周知であり、したがって簡潔さの目的のためにここでは示さない。動作において用いられるトルク曲線は、所与のエンジン速度における最大出力トルクを定める。つまり、各々がICエンジン12の異なる動作速度に対応する、ある数の最大出力トルクが可能となる。このトルクまたは負荷は、エンジンのクランクシャフトの回転進行力(effort)、即ち、出力動力である。エンジン速度は、電子式または機械式のいずれであっても、通例スロットルの位置によって決定する。対応するエンジン・トルクに対して、エンジン制御ユニット(ECU)24は、所望の出力トルクを得るために、1つ以上のエンジン制御パラメータの動作を制御する。所望の出力トルクは、その動作速度に対する最大トルク以下である。例えば、ECU24は、EGRシステムにおける排気ガス再循環(EGR)(希釈液(diluent)対空気比)、可変外形ターボチャージャ(VGT)における制御可能な要素、燃料噴射タイミング、および/または燃料圧力を制御することができる。つまり、所与の動作速度におけるトルク曲線上の最大負荷値、または最大負荷値の小数量に対応するスレッシュホールド負荷値をこのようにセットすることができる。
【0019】
判断ブロック42において、IVT14からのトルク出力を下げるべきか否か判断するために、ある数の判断基準を確認する。第1に、ICエンジン12に対するリアル・タイム負荷値が、ブロック40において入力したスレッシュホールド負荷値よりも大きい場合、IVT14からのトルク出力を下げるべきであるという指示となる。リアル・タイム負荷値は、ICエンジン12へのリアル・タイム燃料流速を検知する等によって、検知するか、または多数の技法から推論することができる。判断ブロック42において考慮するその他の要因には、ギアセレクタ要件、車両速度要件、およびその他の種々雑多の要件が含まれる。
【0020】
判断ブロック42において、トルク軽減(torque derate)を活性化すると決定した場合(線44)、トルク軽減を単に活性化すればよい(ブロック46)。それ以外の場合、トルク軽減を活性化しない場合(ブロック48)、トルク軽減機能を不活性化するか否か判断する(判断ブロック50)。即ち、判断ブロック42においてトルク軽減を活性化しないと決定しても、実際には、以前の論理ループからトルク軽減は既に活性化状態にある可能性がある。判断ブロック50において、再度、ギアセレクタ要件、車両速度要件、およびその他の種々雑多の要件を含む動作パラメータをチェックして、トルク軽減を不活性化すべきか否か判断する。不活性化すると決定した場合、トルク軽減を単に不活性化し(ブロック52)、それ以外の場合、制御は線54を通過する。
【0021】
判断ブロック55において、トルク軽減がアクティブかまたはディアクティブ(deactive)かチェックする。トルク軽減がディアクティブである場合(線56)、IVT14の出力を下げず、100%牽引進行力をIVT14の出力に加える(ブロック57)。一方、トルク軽減がアクティブである場合(線58)、トルク軽減倍率を、リアル・タイム負荷値とスレッシュホールド負荷値との間の差に基づいて計算する(ブロック60および62)。ブロック64において、トルク軽減倍率に対してユーザが定義したいずれの倍率も考慮し、それに応じてブロック66においてフィードバック・ループ・データを更新し、ブロック68において牽引進行力軽減倍率を得て、ロジックは終了する。
【0022】
以上、好適な実施形態について説明したが、添付した特許請求の範囲に定めた本発明の範囲から逸脱することなく、種々の修正が可能であることは明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の作業機械の一実施形態の模式図である。
【図2A】図2Aは、本発明の作業機械の動作方法の一実施形態のフローチャートを示す。
【図2B】図2Bは、本発明の作業機械の動作方法の一実施形態のフローチャートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械であって、
内燃(IC)エンジンと、
前記ICエンジンに結合された無限可変トランスミッション(IVT)と、
前記ICエンジンに対するリアル・タイム負荷値を表す出力信号を供給する少なくとも1つのセンサと、
前記ICエンジンに対するスレッシュホールド負荷値と前記ICエンジンに対する前記リアル・タイム負荷値とに応じて、前記IVTの出力を制御するように構成された少なくとも1つの電気処理回路と、
を備えた、作業機械。
【請求項2】
請求項1記載の作業機械において、前記少なくとも1つの電気処理回路は、前記ICエンジンと関連したエンジン制御ユニット(ECU)と、前記IVTと関連したトランスミッション制御ユニット(TCU)とを含み、前記ECUは、前記リアル・タイム負荷値を表す出力信号を前記TCUに供給し、前記TCUは、前記スレッシュホールド負荷値と前記リアル・タイム負荷値との間の比較に応じて、前記IVTの出力を制御する、作業機械。
【請求項3】
請求項2記載の作業機械において、前記TCUは、前記作業機械の指令対地速度および前記作業機械の指令方向に更に応じて、前記IVTの前記出力を制御する、作業機械。
【請求項4】
請求項2記載の作業機械において、前記TCUは、前記IVTの前記出力を制御するために、IVTトルク指令を決定する、作業機械。
【請求項5】
請求項2記載の作業機械において、前記ECUは、コントローラ・エリア・ネットワーク(CAN)バスを通じて、前記TCUと通信する、作業機械。
【請求項6】
請求項1記載の作業機械において、前記スレッシュホールド負荷値は、前記ICエンジンの所与の動作条件に対する、前記ICエンジンに対する最大許容負荷に対応し、該最大許容負荷は、前記ICエンジンに対するドライブトレーン負荷と少なくとも1つの外部負荷の双方を含む、作業機械。
【請求項7】
請求項6記載の作業機械において、前記最大許容負荷は、前記ICエンジンに対する所与の動作速度における最大トルクと関連した、作業機械。
【請求項8】
請求項6記載の作業機械において、前記少なくとも1つの外部負荷は、前記ICエンジンにかけられる少なくとも1つの液圧負荷を含む、作業機械。
【請求項9】
請求項1記載の作業機械において、前記少なくとも1つのセンサは、ICエンジンの燃料供給率、ICエンジンの負荷係数、および前記ICエンジンに対するパーセント・トルクの内少なくとも1つを検知する、作業機械。
【請求項10】
請求項1記載の作業機械において、当該作業機械は、建設作業機械、農業作業機械、林業作業機械、鉱業作業機械、および工業作業機械の内1つを備えた、作業機械。
【請求項11】
無限可変トランスミッション(IVT)と結合された内燃(IC)エンジンを含む作業機械の動作方法であって、
前記ICエンジンに対する最大許容負荷に対応するスレッシュホールド負荷値を設定するステップと、
前記ICエンジンと関連のあるリアル・タイム負荷値を判定するステップと、
前記リアル・タイム負荷値を前記スレッシュホールド負荷値と比較するステップと、
前記比較ステップに応じて、前記IVTの出力を制御するステップと、
を備えた、作業機械の動作方法。
【請求項12】
請求項11記載の作業機械の動作方法において、前記少なくとも1つの電気処理回路は、前記ICエンジンと関連したエンジン制御ユニット(ECU)と、前記IVTと関連したトランスミッション制御ユニット(TCU)とを含み、
前記リアル・タイム負荷値を表す出力信号を前記ECUから前記TCUに出力するステップと、
前記比較ステップに応じて、前記TCUを用いて前記IVTの前記出力を制御するステップと、
を含む、作業機械の動作方法。
【請求項13】
請求項12記載の作業機械の動作方法において、前記TCUは、前記作業機械の指令対地速度および前記作業機械の指令方向に更に応じて、前記IVTの前記出力を制御する、作業機械の動作方法。
【請求項14】
請求項11記載の作業機械の動作方法において、前記スレッシュホールド負荷値は、前記ICエンジンの所与の動作条件に対する、前記ICエンジンに対する最大許容負荷に対応し、前記最大許容負荷は、ドライブトレーン負荷と、前記ICエンジンに対する少なくとも1つの外部負荷との双方を含む、作業機械の動作方法。
【請求項15】
請求項14記載の作業機械の動作方法において、前記最大許容負荷は、前記ICエンジンに対するトルク曲線と関連した、作業機械の動作方法。
【請求項16】
請求項14記載の作業機械の動作方法において、前記少なくとも1つの外部負荷は、前記ICエンジンにかけられる少なくとも1つの液圧負荷を含む、作業機械の動作方法。
【請求項17】
請求項11記載の作業機械の動作方法において、前記リアル・タイム負荷値を判定するステップは、ICエンジン燃料供給率、ICエンジン負荷係数、および前記ICエンジンに対するパーセント・トルクの内少なくとも1つを検知することを含む、作業機械の動作方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2009−133482(P2009−133482A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−280958(P2008−280958)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(591005165)ディーア・アンド・カンパニー (109)
【氏名又は名称原語表記】DEERE AND COMPANY
【Fターム(参考)】