説明

エンテロコッカス・フェカリス菌抗原および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌抗原

本発明は、概して、エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌が原因菌である感染症を発見および予防する分野に関する。より具体的には、本発明は、下記の一般式で示される構成単位を少なくとも1つ含むエンテロコッカス・フェカリス菌抗原および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌抗原に関する。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌が原因菌である感染症を発見および予防する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
より具体的には、本発明は、請求項1に記載の抗原、請求項14および33に記載の抗体、請求項10および15に記載の組成物、請求項19、20、32および34に記載の方法、請求項25および26に記載のキット、ならびに請求項30に記載の使用に関する。
【0003】
院内感染(病院感染)は、入院に伴って起こる微生物が原因の感染である。
【0004】
アメリカでは、院内感染の発生数が1975〜1995年で36%増加し、1995年は1000人の患者のうちおよそ10人が院内感染の被害を受けた。
【0005】
このような状況で、現在アメリカにおける院内感染単独の死者数は、年間44,000〜98,000人に上っている。
【0006】
病院内で発症する合併症の多くは、院内感染が原因である。このような院内感染を予防することが、患者に対する医療および看護の質を維持する上で不可欠である。
【0007】
入院治療において、質を重視した医療行為を行う上で、その至上目的は、もちろん患者を健康な状態にすることである。このため、院内感染は病院にとって重大問題である。
【0008】
院内感染は、さらなる苦痛となって患者自身に負担を与えるだけでなく、通常、入院期間の延長(平均で約4日)にもつながる。したがって、病院および医療制度にとっても重い負担となる。院内感染は、アメリカで年間170〜290億米ドルのコスト負担となっている。
【0009】
医療は確実に進歩しているにもかかわらず、院内感染の発生率は、今後むしろ増加することが予想される。
【0010】
このような状況には、とりわけ下記要因が関与している:
−高齢の患者数が増加すること、
−内因感染に対する防御力が弱い患者を病院で治療する機会が増えること、
−外科技術の進歩により、以前より複雑かつ困難な手術が実施されること、
−複雑な装置を用いた感染リスクの高い侵襲性の処置を行う可能性がますます高まっていること、
−防御力が低下するような治療的処置を行う機会が増加すること、および
−抗生物質、特に広域スペクトルを持った抗生物質の使用頻度が増すことで、多剤耐性微生物が増加すること。
【0011】
これに関連した最近の研究(Am.J.Infect.Control.,32:470−485,2004)より、病院内で単離されたエンテロコッカス・フェシウム菌のうち、最大で25%がグリコペプチド抗生物質耐性であることがわかった。
【0012】
グリコペプチド系抗生物質は、菌体の細胞壁に作用してその構造内へ直接進入する。それにより細胞壁に穴が開いて、菌体内へ水が進入する。グリコペプチド系抗生物質としては、バンコマイシンが挙げられる。
【0013】
近年、DiazGranados、C.A.らは、免疫系機能が弱まった患者においては特に、バンコマイシン耐性エンテロコッカス菌による疾病率および死亡率が極めて高くなることを示した(Clin.Infect.Dis.,41:327−333,2005)。
【0014】
したがって、このような院内感染を予防または少なくとも抑制する効果のある免疫療法の手法を開発することに、引き続き関心が集まっている。
【0015】
ワクチンの開発における糖鎖抗原の利用は、原理上、先行技術(Ada,G.,et al.,Clin.Microbiol.Infect.,9:79−85,2003)において公知であるが、エンテロコッカス・フェカリス菌の細胞壁に関連した莢膜多糖体については、これまでほとんど知られていない。
【0016】
これまでに4つの糖鎖抗原について報告があるが(Hancock,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci USA,99:1574−1579,2002;Hsu et al.,BMC Microbiol.,6:62,2006;Pazur et al.,J.Biol.Chem.,248:279−284,1973;Wang et al.,Carbohydr.Res.316:155−160,1999;Xu et al.,Infect.Immun.,65:4207−4215,1997;Xu et al.,Infect.Immun.66:4313−4323,1998;Xu et al.,Infect.Immun.,68:815−823,2000)、このうち完全な構造解析が行われたのは、1つのみである。また、エンテロコッカス・フェカリス菌株FA2−2の菌体表面に露出した、グルコース、ガラクトースおよびグリセリンリン酸から構成される糖鎖抗原についても報告されている。
【0017】
エンテロコッカス・フェカリス菌および近縁のエンテロコッカス・フェシウム菌における多剤耐性菌株の出現により生じた問題を解決するために、エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌の菌体表面に露出した抗原の特性を明らかにし、このような抗原を用いて上記の問題を克服することが、先行技術において強く求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の目的は、エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌における未知の抗原を提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、前記エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌における未知の抗原に対する抗体を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌の少なくとも1種の抗原、またはその抗体を含む組成物を提供することである。この組成物は、エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌感染を防ぐための能動免疫または受動免疫に適していることが好ましい。
【0021】
本発明の別の目的は、試料中に含まれる前記未知の抗原を検出する方法を提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、試料中に含まれる前記未知の抗原に対する抗体を検出する方法を提供することである。
【0023】
本発明の別の目的は、前記未知の抗原またはその抗体を検出するキットを提供することである。
【0024】
本発明の別の目的は、前記未知の抗原に対する抗体もしくは抗体フラグメントを検出または産生するための該抗原の使用、およびその使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明におけるこれらの目的は、請求項1に記載の抗原、請求項14および33に記載の抗体、請求項10および15に記載の組成物、請求項19、20、32および34に記載の方法、請求項25および26に記載のキット、ならびに請求項30に記載の使用により達成される。
【0026】
より具体的には、本発明は、下記の一般式で示される構成単位を少なくとも1つ含むことを特徴とするエンテロコッカス・フェカリス菌抗原および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌の抗原を提供する。
【0027】
【化1】

【0028】
{式中、Rは、それぞれ独立してH、OH、OCH、OAc、OC、OFo、OAcyl、SH、SCH、SC、SFo、SAc、SAcyl、NH、NHCH、NHC、NHFo、NHAc、NHAcyl、PO(OR、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれ
[式中、Foはホルミル基を表し、Rは、それぞれ独立してH、C、Cm−1NHRおよびCm−1N(CHからなる群より選ばれる(式中、Rは、それぞれ独立してH、Fo、Acおよびアシル基からなる群より選ばれる)]、
Xは、それぞれ独立してO、S、CH、NHおよびPOORからなる群より選ばれ
[式中、Rは、H、C、Cm−1NHRまたはCm−1N(CHを表す]、
Yは、それぞれ独立してO、S、CHおよびHPOからなる群より選ばれ、
CAは、それぞれ独立してC−Cアシル基、特にヒドロキシアシル基、好ましくはラクチル基、ならびにH、OH、OCH、OAc、OC、OFo、OAcyl、SH、SCH、SC、SFo、SAc、SAcyl、NH、NHCH、NHC、NHFo、NHAc、NHAcyl、POOR、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれ
[式中、Foはホルミル基を表し、Rは、それぞれ独立してH、OC、OCm−1NHRおよびOCm−1N(CHからなる群より選ばれる(式中、Rは、それぞれ独立してH、Fo、Acおよびアシル基からなる群より選ばれる)]、
m=2n+1およびnは、自然数1〜10より選ばれる。}
【0029】
この構成単位の2つの糖は、D体であることが好ましい。
【0030】
本発明の抗原は、フラノース型ガラクトースおよびピラノース型グルコースからなる二糖類が、下記式より選ばれる構造を有することを特徴とする抗原であることが特に好ましい。
→−v)−D−Galf−(1→−z)−D−Glcp−(1→−、
→−v)−D−Galf−(1→−z)−D−Glcf−(1→−、
→−v)−D−Galp−(1→−z)−D−Glcp−(1→−または
→−v)−D−Galp−(1→−z)−D−Glcf−(1→−
【0031】
(式中、vおよびzは、それぞれ1、2、3、4、5または6である。)
【0032】
本発明に用いられる抗原としては、下記式で示される構成単位を含むことが特に好ましい。
【0033】
【化2】

【0034】
がOH、XがO、YがO、およびCAがラクチル基であることがさらに好ましい。
【0035】
理論的には、本発明の抗原の分子量は重要でないため、分子量に関してこれ以上限定されることはない。しかし、一般に本発明の抗原の分子量は、約1,000〜200,000Da、より好ましくは約50,000〜150,000Da、特に好ましくは約100,000Daである。抗原の分子量が小さすぎると分子内相互作用が十分に働かないため、構造上安定したエピトープを形成できない可能性がある。一方、抗原の分子量が大きすぎると、往々にして合成されにくく、抗原の寿命も短くなる。
【0036】
理論的には、本発明の抗原は、請求項1に記載の構成単位が少なくとも1回繰り返された構造を持っていれば十分である。しかし、1抗原当たり上記構成単位が少なくとも5回、好ましくは少なくとも10回、より好ましくは少なくとも100回、特に好ましくは少なくとも1,000回繰り返された構造をとることによって、本発明の抗原の抗原性を高めることができる。本発明の抗原を様々な分析に応用するために、上記抗原を固定することがさらに好ましい。このようにして、抗原が局所的に存在するよう制限してもよい。その結果、種々の試料を、例えばアレイ状に配置することにより、これらの試料を同時にかつ個別に抗体と接触させ、分析することができる。また、固相化抗原は、親和性を利用した、抗体などの精製方法にも有用である。
【0037】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、抗原を担体に、好ましくは免疫担体に結合する。
【0038】
抗原の固相化は、理論的にはいずれの種類の相互作用を用いてもよい。例えば、ファンデルワールス力、イオン相互作用、双極子相互作用、水素結合または疎水的相互作用などを用いることができる。しかし、抗原を共有結合で担体に結合することが好ましい。
【0039】
本発明の抗原が、組成物の形態で提供されることが好ましい。好ましい実施形態において、このような組成物は少なくとも1種の薬学的に許容される基剤を含む。ここで、「基剤」は、抗原を付加できる、かつ/または抗原が物理的に結合できる物質であればよい。このようにして例えば、通常投与するのに困難が伴う量の抗原を、容易に投与できる量の基剤に結合することができる。このような基剤として、デンプンおよびマルトデキストリンが挙げられる。ここで、「薬学的に許容される」とは、本発明で用いる基剤が無毒で、抗原の作用を妨げないことを意味する。
【0040】
エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌が原因菌である感染症に対する予防対策として、能動的に免疫を獲得するワクチン接種の形態で、本発明の抗原を患者に投与してもよい。このようなワクチン接種の目的は、本来備わっている免疫系自体を賦活して特異的抗体を産生させ、それによりエンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対する特異的な免疫を形成することである。したがって、患者は、免疫系を持つ生物であればよい。しかし、例えばヒト、ヒト以外の霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギおよびヒツジなどの哺乳動物、ならびに例えばニワトリ、アヒル、ガチョウ、七面鳥およびダチョウなどの鳥類が、特に重要である。
【0041】
この点において、好ましい実施形態における本発明の抗原は、エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対するワクチンである。
【0042】
本発明はまた、前記抗原の抗体に関する。
【0043】
この抗体はモノクローナル抗体とポリクローナル抗体のいずれであってもよい。
【0044】
抗体は、2つの同一の重鎖(H)および2つの同一の軽鎖(L)から構成され、それぞれの鎖は共有結合の一つであるジスルフィド結合によって結合し、Y字形の構造をしている。生物の分類上のサブクラスおよび免疫グロブリンのサブクラスによって異なるが、2つの軽鎖はカッパ鎖とラムダ鎖のいずれかであり、重鎖のうちヒンジ領域の上流に位置する領域と共に、抗原結合性フラグメント(Fab)を形成している。このフラグメントは、酵素により下流の結晶化可能フラグメント(Fc)と分離することができる。
【0045】
生物は、V(D)J組換えにより抗体結合部位(相補性決定領域(CDR))の著しい可変性を享受している。
【0046】
2つの軽鎖は、それぞれ1つの可変領域と1つの定常領域から構成される。それぞれ、VとCと称する。一方、2つの重鎖は、1つの可変領域と3つの定常領域をそれぞれ有する。同様にそれぞれ、VおよびC1、C2、C3と称する。
【0047】
本発明で用いる抗体は、全長抗体またはそのフラグメントであり、フラグメントとしては、例えば、FabまたはscFvが挙げられる。ただし、後者は、少なくとも限定的に抗原に結合することができる場合に限る。
【0048】
本発明はまた、ヒト化抗体およびキメラ抗体を含む。
【0049】
この種の抗体および/または本発明の抗原は、例えば下記において使用することができる。
−酵素標識抗体を用いて、例えば血清や細胞培養上清などに含まれる抗原または抗体を定量するELISA法、
−酵素標識抗体を用いて、形質細胞などの抗体産生細胞または抗原産生細胞を検出するELISPOT法、
−細胞表面、細胞質内、または核内の抗原に結合する蛍光標識抗体を用いて、細胞を定量するFACS法、
−ウェスタンブロット、
−スーパーゲルシフトアッセイ(EMSAも含む)、
−ファージディスプレイ、
−ドラッグワイプ(drugwipe)分析、
−アブザイム法、または
−適切なアフィニティー法による本発明の抗原または抗体の精製方法。
【0050】
本発明の抗体は、本発明の抗原と同様に、組成物の形態、好ましくは薬学的に許容される基剤を含む組成物の形態で提供されることが好ましい。
【0051】
本発明の特に好ましい実施形態において、本発明の抗体をエンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対して受動的に免疫を獲得するワクチン接種に使用する。したがって、この場合、本発明の抗体は、エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対するワクチンである。
【0052】
受動的に免疫を獲得するワクチン接種は、エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対する本発明の特異的抗体を含有する、好ましくは本発明の特異的抗体を高濃度に含有するワクチン血清を用いて行う。
【0053】
本発明の組成物は、原則として医薬組成物であることが好ましい。本発明の医薬組成物は、治療または予防のための投与に適している点で優れている。
【0054】
本発明は、さらにエンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対する抗体を検出する方法に関する。該方法は、下記の工程を含む。
−エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対する抗体の有無を調べる試料と、本発明の抗原とを接触させる工程。
−抗体−抗原複合体または抗体−複合抗原複合体を検出する工程。
このような複合体が検出されることにより、試料中にエンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対する抗体の存在が示される。
【0055】
本発明はまた、エンテロコッカス・フェカリス菌抗原および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌抗原を検出する方法を含む。該方法は、少なくとも下記の工程を含む。
−エンテロコッカス・フェカリス菌抗原および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌抗原の有無を調べる試料と、本発明の抗体とを接触させる工程。このとき、本発明の抗体は担体に固定されていてもよい。
−抗原−抗体複合体または複合抗体−抗原複合体を検出する工程。
このような複合体が検出されることにより、試料中にエンテロコッカス・フェカリス菌抗原および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌抗原の存在が示される。
【0056】
上記の2つの方法において、抗原または抗体が、担体に、特に固相担体に、好ましくはマイクロタイタープレートに固定されていることが好ましい。
【0057】
あるいは、検査試料を担体に固定することも考えられる。
【0058】
いずれの場合も、形成された抗原抗体複合体を極めて容易に検出できる。これは、複合体を検出する前に、例えば洗浄操作を行うことで担体から未結合の試料成分を除去することも可能であり、その結果、ノイズが減り、測定精度が向上するからである。また、固相担体を使用することによって、機器による試料の取り扱いが容易になるため、本発明の方法は、例えばハイスループットスクリーニングのような自動化システムにとりわけ優れた適性を示す。
【0059】
本発明の抗原または抗体を検出可能なマーカーで標識することにより、抗原抗体複合体をさらに容易に検出できる。
【0060】
例えば抗エンテロコッカス・フェカリス菌抗体および/または抗エンテロコッカス・フェシウム菌抗体を含む可能性がある検査試料を担体に固定し、次いで、この固相化試料を本発明の標識抗原と接触させると、抗原の標識マーカーが放つシグナルによって、洗浄操作が終了した時点で抗エンテロコッカス・フェカリス菌抗体および/または抗エンテロコッカス・フェシウム菌抗体を含む試料を確認できる。
【0061】
マーカーとして使用できる好適な化合物は、抗原と抗体の相互作用を妨げることなく本発明の抗体または抗原と接触できればよく、必要ならば適宜基質を活性化または導入した後、種類は問わず検出可能なシグナルを直接的または間接的に生成するものであればいかなる化合物であってもよい。
【0062】
本発明で用いるマーカーとしては、放射性マーカー、色素マーカー、酵素マーカーおよび磁気マーカーが好ましい。
【0063】
抗体または抗原に結合した後に、マーカーが特性変化を示す場合、本発明の検出方法はさらに容易なものになる。これは、例えば洗浄操作を行わなくても、未結合の標識抗原や標識抗体と、結合したものとを識別できるからである。
【0064】
本発明はまた、エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対する抗体を検出するためのキット、および/またはエンテロコッカス・フェカリス菌抗原および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌抗原を検出するためのキットを提供する。該キットは、上記の実施形態のいずれかにおける本発明の抗体および/または抗原を含むものである。
【0065】
具体的には、本発明の抗原および/または本発明の抗体を、担体に、好ましくは固相担体に結合してもよく、かつ/またはマーカー、好ましくは放射性マーカー、色素マーカー、酵素マーカーまたは磁気マーカーで標識してもよい。
【0066】
さらに本発明は、エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対する抗体および/または抗体フラグメント、具体的にはFabまたはscFvを検出または産生するための、請求項1〜10に記載の本発明の抗原の使用を含む。
【0067】
こうして産生されるエンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対する抗体および/または抗体フラグメントは、特にエンテロコッカス菌抗原に対する受動的免疫療法または感染予防に使用することを目的としている。
【0068】
本発明の抗体または抗体フラグメント、具体的にはFabまたはscFvは、例えば抗体または抗体フラグメントの産生に十分な量の本発明の抗原を、動物、特に哺乳動物に投与することを含む方法によって調製できる。
【0069】
本発明のポリクローナル抗体を調製するには、まず目的の抗体にあった本発明の抗原を選択して産生する。これは種々の方法によって実施できる。例えばエンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌より抗原を単離するか、該抗原をin vitroで合成するか、または遺伝子組換えを用いて例えば微生物で産生するなどの方法が挙げられる。次いで、得られた抗原を動物に投与すると、動物の体内で免疫系が働き、この抗原に対する抗体が産生される。抗体産生に好適な動物は、特にマウス、ラットおよびウサギであるが、またヤギ、ヒツジおよびウマを用いることも可能である。免疫を数回繰り返して行うことが好ましい。数週間後、抗体産生に用いた動物の血液または血清からポリクローナル抗体を回収する。
【0070】
モノクローナル抗体は、上述したポリクローナル抗体と同様の方法で産生することができる。具体的には、まず、動物、好ましくはマウスおよび/またはラットを免疫した後、脾臓またはリンパ節から形質細胞を得る。この形質細胞を腫瘍細胞株と融合して、「ハイブリドーマ細胞株」を作製することができる。このハイブリドーマ細胞株は、理論的には、不死の細胞で1種類のモノクローナル抗体を産生する。この細胞の培養上清から、モノクローナル抗体を単離することができる。
【0071】
本発明の別の実施形態は、本発明の抗体またはそのフラグメント、具体的にはFabまたはscFvを遺伝子組換えで産生する方法である。該方法は、前記抗体またはそのフラグメントをコードするDNA配列を発現ベクターへクローニングした後、このコンストラクトを用いて細胞、具体的には大腸菌、酵母菌または真核細胞(例えばCHO細胞)を形質転換して組換え抗体または組換え抗体フラグメントを発現させることを含む。
【0072】
このような方法で得られる組換え抗体は、本発明の抗体と構造的に同等であることを特徴とする。同様に、本発明の組換え抗体フラグメント、具体的にはFabまたはscFvは、精製して得られる天然の本発明の抗体フラグメントと同等である。
【0073】
本発明の組換え抗体および組換え抗体フラグメントは、複雑な技術や抗体産生用の動物を用いなくても大量に産生できるという点が特に好都合である。また、極めて高純度な抗体を調製することが可能であるとともに、血液との直接接触やそれに関連した感染のリスクを回避できる。
【0074】
本発明で開示された範囲を逸脱せずに、本明細書に例を用いて記載された本発明の実施形態を適宜組み合わせることが可能であることは当業者にとって自明である。
【0075】
さらに、本明細書に記載の全ての引用文献の内容は、すべて参考として本明細書において援用する。
【0076】
各々の例示的な実施形態に関する記述および図面より、上記以外の本発明の利点および実施形態は自明である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】E.フェカリス菌5型株の莢膜多糖体のプロトン核磁気共鳴スペクトル(H NMRスペクトル)を示す。H NMRスペクトルは、600MHz、27℃で測定した。文字は、図3に示す糖残基を表す。アラビア数字は、糖残基に存在するプロトンの番号を表す。LAは乳酸を表す。
【図2】E.フェカリス菌5型株の莢膜多糖体のROESYスペクトルのセクションを示す。ROESYスペクトルは、600MHz、27℃で測定した。文字は、図3に示す糖残基を表す。アラビア数字は、糖残基に存在するプロトンの番号を表す。糖残基間のNOE相関を下線とイタリック体で示す。
【図3】E.フェカリス菌5型株の莢膜多糖体の繰り返し単位の化学構造を示す。LAは乳酸を表す。Galf基はD体とする。
【図4】E.フェカリス菌5型株の菌体とウサギ抗血清との結合実験結果を示す。使用した抗原を凡例に示す。図中の数値はそれぞれ、少なくとも2回の測定の平均値を示す。
【図5】ウサギ抗血清のE.フェカリス菌5型株菌体に対するオプソニン作用における阻害実験結果を示す。抗血清はすべて、1:200に希釈して使用した。使用した阻害剤を凡例に示す。図中のデータは、少なくとも4回の測定値の平均値を示し、エラーバーはSEMを示す。阻害剤非存在下では、すべての抗血清のオプソニン活性は70%を上回った。
【図6】E.フェカリス菌2型株および5型株の莢膜多糖体に対するウサギ抗体と、それぞれに対応する精製抗原との結合実験結果を示す。
【図7】精製抗血清のE.フェカリス菌2型株に対するオプソニン化貪食作用による殺菌率を示す。図中の数値より、in vitroアッセイにおいて、ウサギで産生された防御抗体の作用によって、最終的に菌が殺滅することが明確に示された。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0078】
オプソニン化貪食作用によるエンテロコッカス・フェカリス菌(以下、E.フェカリス菌と略記することもある)の排除は、特に細胞壁および細菌莢膜の糖鎖抗原に対する抗体を介して行われる。最近、リポテイコ酸(LTA)が、E.フェカリス菌株12030に対するオプソニン抗体の標的抗原として同定された。しかし、精製LTAに対して作製された抗血清は、血清型CPS−CおよびCPS−Dの菌株に対する殺菌力はない。
【0079】
本発明の実施例は、菌体の細胞壁を酵素で分解し、ゲル浸透クロマトグラフィーおよび陰イオン交換クロマトグラフィーを行うことにより、CPS−D型株であるE.フェカリス菌5型株から新規莢膜多糖体を単離することを含む。
【0080】
次いで、単離した多糖体を、糖分析や、Hや13Cを観測する、同種核または異種核の一次元または二次元NMR測定により分析する。
【0081】
そして、繰り返し単位に、通常とは異なる、→6)−3−O−[1−カルボキシエチル]−β−Galf−(1→、という単位を含有する新規E.フェカリス菌莢膜多糖体を同定する。
【0082】
熱失活したE.フェカリス菌5型株菌体を用いてウサギに免疫を行ったところ、得られたウサギ抗血清は、該菌株の新規莢膜多糖体に対する特異的な抗体、および同菌株のLTAに対する抗体をいずれも含んでいた。
【0083】
しかし、この抗血清のE.フェカリス菌5型株に対するオプソニン作用は、LTAでは阻害されず、精製した上述の多糖体によってのみ阻害された。
【0084】
以上より、本実施例は、E.フェカリス菌5型株の新規莢膜多糖体を、免疫原性を有するオプソニン抗体の標的抗原として同定する方法の可能性を示す。
【0085】
さらに本実施例は、E.フェカリス菌由来抗原の免疫原性の有無を調べる方法を示す。
【実施例2】
【0086】
2a) 菌株およびその培養
CPS−D型株であるE.フェカリス菌5型株(Maekawa,S.,et al.,Microbiol.Immunol.,36:671−681,1992)から、最近報告された血清型分類法(Hufnagel,M.,et al.,J.Clin.Microbiol.42:2548−2557,2004)を用いて莢膜多糖体を単離した。菌体は、スタータカルチャーを1%グルコース含有コロンビア培養液(Columbia nutrient solution:Becton Dickinson製,Sparks,MD,USA)で37℃、2時間撹拌せずに培養することにより得られた。
【0087】
2b) 抗血清
E.フェカリス菌5型株の完全な菌体に対する抗血清については過去に記載がある(Hufnagel,M.,et al.,J.Clin.Microbiol.42:2548−2557,2004)。菌株12030から精製したLTAを用いて、過去の報告(Theilacker,C.,et al.,Infect.Immun.74,2006)の記載通りにLTAに対する抗血清を作製した。まず、雌性ニュージーランド白ウサギに、100μgのLTAを完全フロイントアジュバントで懸濁した液を皮下注射して免疫を行った。次いで7日後、同量のLTAを不完全フロイントアジュバントで懸濁した液で同様に免疫を行い、さらに翌週、3日ごとに10μgの追加免疫を行った。
【0088】
2c) 莢膜多糖体の調製およびその特性
E.フェカリス菌のLTAを、過去の報告(Huebner,J.,et al.,Infect.Immun.67:1213−1219,1999;Theilacker,C.,et al.,Infect.Immun.74,2006)の記載通りに単離した。本明細書に記載の抗原を以下の通り調製した。簡単に述べると、遠心分離によって菌体を回収し、これにムタノリジンおよびリゾチーム(それぞれ100pg/ml、Sigma Chemicals製(St.Louis,MO,USA)、それぞれ5mM MgCl、1mM CaClおよび0.05% NaN含有PBSに溶解)を加えて37℃で18時間反応させ、菌体を消化した。遠心分離によって不溶性物質を除去し、上清をヌクレアーゼ(DNaseIおよびRNaseA、100pg/ml)で37℃、4時間処理した。続いて、プロテナーゼK(100pg/ml)を加えて56℃で18時間処理した(試薬はいずれもSigma Chemicals製である)。上清にエタノール(最終容量80%)を加え、得られた沈殿を遠心分離によって回収した。透析外液に脱イオン化水を使用して透析した後、得られた物質を凍結乾燥した。ゲル浸透クロマトグラフィー用に、上記物質を0.01M炭酸水素アンモニウム緩衝液に溶解し、これをSephacryl S−400カラム(1.6×90cm)(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)にロードした。Kav値が約0.45の溶出画分をまとめて透析し、凍結乾燥した。得られた物質を20mM NaHCO(pH8.4)で再懸濁し、陰イオン交換カラム(Sepharose Q FF,GE Healthcare)にロードした。NaClの直線濃度勾配をかけて、カラムに結合している抗原を溶出した。多糖体を含む画分を、Duboisアッセイ(Dubois,M.,et al.,Anal.Chem.28:350−356,1956.)および5型株に対するウサギ免疫血清を用いたイムノブロッティング法により同定した。450mM NaClで溶出され免疫反応を示した物質をまとめて透析し、凍結乾燥した。最終精製工程として、1.5×75cmのToyopearl HW−40(Tosoh Corporation,Tokyo,Japan)カラムを用いてゲル浸透クロマトグラフィーを行った。次いで、泳動バッファーとしてMOPS緩衝液(Invitrogen,Karlsruhe,Germany)を用い、10%ビス−トリスゲルを用いてSDS PAGEを行った後、付属の製品マニュアルに従ってクマシー(Invitrogen)染色およびPAS(Sigma)染色を行うことにより、単離した物質の純度を求めた。
【0089】
さらに、SDS PAGEで分離した物質に対して、5型株に対するウサギ抗血清を用いてウェスタンブロット染色を行った。
【0090】
2d)莢膜多糖体の精製結果
E.フェカリス菌5型株のペプチドグリカンを酵素で消化して、菌体から莢膜多糖体を分離した。目的の抽出物は、Sephacryl S−400ゲル浸透クロマトグラフィーによって、糖鎖を含む2つの画分として溶出された。第1の画分は、ボイド容量で溶出した画分で、H NMR分析(データ示さず)によってLTAを含むことがわかった。容量の大きい第2の画分は、Kav値が約0.45の溶出画分で、これをさらにQ Sepharoseを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーによって精製した。450mM NaClの時点で、免疫反応を示す少量の物質が溶出した。この物質は、グルコースとガラクトースのみを含んでおり、これをToyopearl HW−40Sを用いたゲル浸透クロマトグラフィーに供した。その後、さらに分析を行った。この精製物質に対してSDS PAGEを行ったところ、100kDaの位置に1つのブロードなバンドが検出された。このバンドは、PASで染色されたが、クマシーでは染色されなかった。同様に、5型株に対する抗血清で染色したウェスタンブロットにおいても、100kDaの位置に1つのブロードなバンドが検出され、それ以外のバンドは存在しなかった(データ示さず)。
【実施例3】
【0091】
LTAの調製
過去の報告(Theilacker,C.,et al.,Infect.Immun.74,2006)の記載通りに、ブタノール抽出と疎水性相互作用クロマトグラフィーによってLTAを調製した。調製したLTAの純度は、完全な菌体に対するLTAの抗血清(上記参照)を用いて、SDS PAGEとウェスタンブロット分析によって評価した。
また、最近の報告(Theilacker,C.,et al.,Infect.Immun.74,2006)の記載通りにNMR測定を行い、LTAと構造が一致することを確認した。
【0092】
一般分析手法
2Mトリフルオロ酢酸を用いて、120℃で3時間加水分解を行った。次いで、単糖をアルジトール酢酸に変換し、SPB−5カラム(30m×0.25mm×0.25pm,Supelco,Munich,Germany)を装着したHewlett−Packard5890クロマトグラフを用いてGC分析を行った。150℃を3分保持した後、毎分3℃の速度で300℃まで昇温させる温度プログラムを使用した。
また、過去の報告(Haseley,S.R.,et al.,Eur.J.Biochem.244:761−766,1997;Leontein,K.,et al.,Carb.Res.62:359−362,1978)の記載通りに、糖残基の絶対配置を決定した。
【0093】
NMR測定
試料を99.0%のOで3回置換した後凍結乾燥し、99.9%のOに再度分散した。一次元および二次元のスペクトルはすべて、Bruker DRX Avance 600MHzスペクトロメータ(動作周波数:H NMRでは600.31MHz、13C NMRでは150.96MHz)と慣用のBruker Software(Bruker,Rheinstetten,Germany)を用いて27℃で測定したものである。化学シフト値は、アセトン(δH 2.225;δC 31.45)を基準としたものである。相関分光法(COSY)、全相関分光法(TOCSY)、およびROESYは、4096×512データポイントを含むデータシート(t1×t2)を用い、32回スキャンして測定した。
【0094】
TOCSYおよびROESYの測定は、Statesらの方法に従って位相検波法を用いて行った。TOCSYは、混合時間100msで行った(States,D.J.,et al.,J.Magn.Reson.48:286−292,1982)。Hと13Cの相関は、多量子コヒーレンス(HMQC)によるH検出モードで測定して求めた。13Cのドメイン中のプロトンをデカップルし、2048×256データポイントを含むデータシートを用いて、t1の各値に対して128回スキャンを行い測定した(Bax,A.,et al.,J.Am.Chem.Soc.109:2093−2094,1986;Summers,M.F.,et al.,J.Am.Chem.Soc.108:4285−4294,1986)。
【0095】
化学分析およびNMR測定
精製多糖体のH NMRスペクトル(図1)では、低磁場領域において、2つのアノメリックシグナルがδ5.315(A基、[H1,H2<2Hz])とδ4.542(B基、[H1,H2=7.8Hz])に観測された。これらのシグナルは、β−Galfとβ−D−Glcpに帰属すると同定された。さらに、δ1.361のダブレットは、乳酸基(LA)のメチル基に帰属すると同定された(Knirel,Y.A.,et al.,Carbohydr.Res.259,1994;Knirel,Y.A.,et al.,Carbohydr.Res.235:C19−23,1992)。D−Glcp基の存在は、化学分析、絶対配置決定法、およびNMR測定データによって確認された。3位の炭素が乳酸で置換されたGalf基は、NMRデータのみから同定された(Beynon,L.M.,et al.,Eur.J.Biochem.250:163−167,1997;Knirel,Y.A.,et al.,Carbohydr.Res.259,1994;Knirel,Y.A.,et al.,Carbohydr.Res.235:C19−23,1992)。E.フェカリス菌5型株の莢膜多糖体のHと13Cの化学シフト値(表1)はすべて、H−H COSYおよびTOCSYスペクトル、ならびにH−13C HMQCスペクトルから求めた。
【0096】
【表1】

【0097】
炭素原子のシグナルが低磁場にシフトしていることから、β−Galfの6位と3位の炭素(A基、δ71.90とδ84.96)およびβ−D−Glcpの3位の炭素(B基、δ82.44)に置換基があることがわかった。繰り返し単位内の2つの糖残基の配列順序は、ROESYの測定結果により決定した。2つの糖残基間で、プロトンA1(δ5.315)とB3(δ3.663)との間、およびプロトンB1(δ4.542)とA6a(δ3.768)との間に強力なNOE相関が観測された(図2)。以上より、単離した多糖体の繰り返し単位は、図3に示す構造であることが判明した。
【実施例4】
【0098】
ELISA実験
ELISA実験を過去の報告(Theilacker,C.,et al.,Infect.Immun.74,2006)の記載通りに慣用的な方法を用いて行った。簡単に述べると、マイクロタイタープレートをE.フェカリス菌由来の種々の糖鎖抗原(10pg/ml、0.04Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解)でコーティングし、4℃で18時間静置した。プレートの洗浄は、0.05%Tween 20含有PBSで行った。これらのプレートを、0.02%アジ化ナトリウム含有PBSで調製した3%スキムミルクで、37℃、2時間ブロッキングした。二次抗体としては、ヤギ抗ウサギIgGアルカリホスファターゼ複合体(Sigma)を1:1000に希釈して用い、基質としては、パラニトロフェニルリン酸(Sigma)を用いた。37℃で60分インキューベーションした後、405nmで吸光度を測定した。
【実施例5】
【0099】
オプソニン活性測定
オプソニン活性測定を過去の報告(Theilacker,C.,et al.,Infect.Immun.74,2006)の記載通りに行った。補体供給源として、標的菌株で吸着した子ウサギ血清(Cedarlane Laboratories,Hornby,Ontario,Canada)を用いた。免疫血清のオプソニン活性を、正常ウサギ血清を含むコントロールと比較した。免疫血清は、使用前に56℃で30分間熱失活させた。ネガティブコントロールの試験管は、多形核白血球、補体および血清のいずれも含まなかった。免疫血清のオプソニン活性を以下の通りに算出した。
[1−(免疫血清による90分後のCFU/免疫前血清による90分後のCFU)]×100
オプソニン化貪食作用の阻害実験においては、まず1:200に希釈した抗血清を、0.08〜100μg/mlの阻害剤とともに4℃で60分間インキュベートした。インキューベーション後に、吸着済みの血清を加えて、上記と同様にオプソニン活性測定を行った。阻害剤非存在下では、いずれの免疫血清においても、接種原に対するオプソニン活性の最小値は70%を上回った。
【実施例6】
【0100】
免疫化学的特性
E.フェカリス菌5型株(Maekawa,S.,et al.,Microbiol.Immunol.36:671−681,1992)の菌体に対する抗血清は、上述の精製多糖体に反応した(図4)。またこの抗血清は、E.フェカリス菌のLTAに対する高濃度のIgG抗体を含んでいた(図4)。抗LTA抗体は、E.フェカリス菌株12030のオプソニン化貪食作用を媒介するので、E.フェカリス菌5型株に対するオプソニン抗体の特異性を調べた。精製LTAは、5型株に対する抗血清のオプソニン活性を阻害しなかった(図5)。これは、E.フェカリス菌5型株およびE.フェカリス菌株12030のそれぞれのオプソニン抗体が交差反応を示さないという所見(Hufnagel,M.,et al.,J.Clin.Microbiol.42:2548−2557,2004)に合致している。一方、上述の精製莢膜多糖体は、5型株に対するオプソニン抗体の作用を強力に阻害した(図5)。また、精製LTAに対するウサギ抗血清は、オプソニン活性測定において、菌株12030に対するオプソニン化貪食作用を促進するが、5型株に対してはオプソニン作用を示さなかった。これは、我々が行った阻害実験結果(データ示さず)を裏付けるものである。
【実施例7】
【0101】
ウサギを用いて、2型株および5型株のそれぞれの多糖体に対する抗体を産生した。雌性ニュージーランド白ウサギに、100μgの2型株または5型株の多糖体を完全フロイントアジュバントで懸濁した液を皮下注射して免疫を行った。次いで7日後、同量の上記多糖体を不完全フロイントアジュバントで懸濁した液で同様に免疫を行い、さらに翌週、3日ごとに10μgの追加免疫を行った。上記で用いた多糖体は、2d)に記載の方法によって得た。いずれの場合も、2匹のウサギで免疫を行い、抗血清を得た。ウサギから得られた抗血清をELISA実験に供した。ELISA実験用に、2型株の多糖体および5型株の多糖体をそれぞれマイクロタイタープレートに固定した。その結果、驚いたことに、5型株の精製多糖体と2型株の多糖体のいずれに対しても抗体が産生されていることがわかった。この事実により、この抗原が免疫原性を有することが示されたが、この抗原が「T細胞非依存性」抗原であるという事実を考慮しても、このような結果が必ずしも予想されたわけではない。図6に上記抗体の結合実験結果を示す。
【実施例8】
【0102】
オプソニン活性測定
このインビトロアッセイは、顆粒細胞、抗血清および菌体を組み合わせて、産生された抗体がエンテロコッカス・フェカリス菌を殺滅可能かどうか調べるものである。このアッセイ混合物について、以下に正確に述べる。健康なドナーから採取した新鮮な全血を、ヘパリンデキストラン緩衝液と混合した。次いで、白血球を精製し、所定の細胞数(5×10cells/ml)に調整した。アッセイに用いる菌体は、対数増殖中期に、培養液から遠心分離により回収し、分光光度法により白血球と同様に5×10cells/mlに調整した。補体供給源として、凍結乾燥した子ウサギ血清を細胞培養液で1:15に希釈し、これを標的菌株に吸着させて、使用するエンテロコッカス菌株に対する既存抗体を除去したものを用いた。同様にウサギ血清を、実験の慣例に合った細胞培養液で希釈した。実験の実施にあたり、それぞれ、100μlの菌体懸濁液、100μlの白血球(菌体:白血球比率は1:1)、100μlの補体供給源および上記菌体に対応する100μlの希釈抗体液を混合した。このアッセイ混合液を希釈してプレート上に植菌し、最初の菌体数を求め、次いで、アッセイ混合液を転倒型回転器で37℃、90分間インキュベートした。実験が終了したところで、先と同様に、アッセイ混合液を再び希釈してプレート上に植菌し、翌日コロニー数を数えた。接種原混合時と実験終了時とを比べた際の菌体数の減少率をパーセントで示し、オプソニン作用を介した殺菌率とした。この値は、感染力を有する病原性細菌に対して防御的な免疫反応を示すかどうかを調べる上で、最良の間接的なマーカーである。
【0103】
図7に実験結果を示す。実験結果によると、1:50〜1:200に希釈した血清は、約80%の顕著な殺菌率を示したが、さらに血清を希釈するとこのような作用が失われることがわかった。このことは、このような抗原に対する抗体の力価が高ければ、E.フェカリス菌による感染から生物を防御できることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式で示される構成単位を少なくとも1つ含むことを特徴とするエンテロコッカス・フェカリス菌抗原および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌抗原。
【化1】

{式中、Rは、それぞれ独立してH、OH、OCH、OAc、OC、OFo、OAcyl、SH、SCH、SC、SFo、SAc、SAcyl、NH、NHCH、NHC、NHFo、NHAc、NHAcyl、PO(OR、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれ
[式中、Foはホルミル基を表し、Rは、それぞれ独立してH、C、Cm−1NHRおよびCm−1N(CHからなる群より選ばれる(式中、Rは、それぞれ独立してH、Fo、Acおよびアシル基からなる群より選ばれる)]、
Xは、それぞれ独立してO、S、CH、NHおよびPOORからなる群より選ばれ
[式中、Rは、H、C、Cm−1NHRまたはCm−1N(CHを表す]、
Yは、それぞれ独立してO、S、CHおよびHPOからなる群より選ばれ、
CAは、それぞれ独立してC−Cアシル基、特にヒドロキシアシル基、好ましくはラクチル基、ならびにH、OH、OCH、OAc、OC、OFo、OAcyl、SH、SCH、SC、SFo、SAc、SAcyl、NH、NHCH、NHC、NHFo、NHAc、NHAcyl、POOR、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれ
[式中、Foはホルミル基を表し、Rは、それぞれ独立してH、OC、OCm−1NHRおよびOCm−1N(CHからなる群より選ばれる(式中、Rは、それぞれ独立してH、Fo、Acおよびアシル基からなる群より選ばれる)]、
m=2n+1およびnは、自然数1〜10より選ばれる。}
【請求項2】
2つの糖がD体であることを特徴とする、請求項1に記載の抗原。
【請求項3】
フラノース型ガラクトースおよびピラノース型グルコースからなる二糖類が、下記式より選ばれる構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の抗原:
→−v)−D−Galf−(1→−z)−D−Glcp−(1→−、
→−v)−D−Galf−(1→−z)−D−Glcf−(1→−、
→−v)−D−Galp−(1→−z)−D−Glcp−(1→−または
→−v)−D−Galp−(1→−z)−D−Glcf−(1→−、
(式中、vおよびzは、それぞれ1、2、3、4、5または6である)。
【請求項4】
下記式で示される構成単位を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抗原。
【化2】

【請求項5】
がOH、XがO、YがO、およびCAがラクチル基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抗原。
【請求項6】
分子量が、約1,000〜200,000Da、より好ましくは約50,000〜150,000Da、特に好ましくは約100,000Daであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の抗原。
【請求項7】
1抗原当たり前記構成単位が、少なくとも5回、好ましくは少なくとも10回、より好ましくは少なくとも100回、特に好ましくは少なくとも1,000回繰り返されている構造であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の抗原。
【請求項8】
担体に結合していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の抗原。
【請求項9】
前記担体への結合が共有結合であることを特徴とする請求項8に記載の抗原。
【請求項10】
前記担体が免疫担体であることを特徴とする請求項8または9に記載の抗原。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の抗原を含む組成物。
【請求項12】
薬学的に許容される基剤を含む請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対するワクチンであることを特徴とする請求項11または12に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載の抗原に対する抗体。
【請求項15】
請求項14に記載の抗体を含む組成物。
【請求項16】
薬学的に許容される基剤を含む請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対するワクチンであることを特徴とする請求項14または15に記載の組成物。
【請求項18】
医薬組成物であることを特徴とする請求項11〜13または15〜17に記載の組成物。
【請求項19】
エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対する抗体の検出方法であって、
−エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対する抗体の有無を調べる試料と、請求項1〜10に記載の抗原とを接触させる工程、および
−抗体−抗原複合体または抗体−複合抗原複合体を検出する工程を含み、
該複合体が検出されることによって、試料中にエンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対する抗体の存在が示されることを特徴とする検出方法。
【請求項20】
エンテロコッカス・フェカリス菌抗原および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌抗原の検出方法であって、
−担体に固定されていてもよい請求項14に記載の抗体と、エンテロコッカス・フェカリス菌抗原および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌抗原の有無を調べる試料とを接触させる工程、および
−抗原−抗体複合体または複合抗体−抗原複合体を検出する工程を含み、
該複合体が検出されることによって、試料中にエンテロコッカス・フェカリス菌抗原および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌抗原の存在が示されることを特徴とする検出方法。
【請求項21】
前記抗原または抗体が、担体に、特に固相担体に、好ましくはマイクロタイタープレートに固定されていることを特徴とする請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記抗原または抗体が、マーカーで標識されていることを特徴とする請求項19〜21に記載の方法。
【請求項23】
前記マーカーが、放射性マーカー、色素マーカー、酵素マーカーおよび磁気マーカーからなる群より選ばれることを特徴とする請求項22の方法。
【請求項24】
抗体に結合した後に、前記マーカーが特性変化を示すことを特徴とする請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1〜10のいずれかに記載の抗原を含む、試料中のエンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対する抗体を検出するためのキット。
【請求項26】
担体に結合していてもよい請求項14に記載の抗体を含む、試料中のエンテロコッカス・フェカリス菌抗原および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌抗原を検出するためのキット。
【請求項27】
前記抗原または抗体が、マーカーで標識されていることを特徴とする請求項25または26に記載のキット。
【請求項28】
前記マーカーが、放射性マーカー、色素マーカー、酵素マーカーまたは磁気マーカーであることを特徴とする請求項27に記載のキット。
【請求項29】
前記抗原または抗体が、担体に、好ましくは固相担体に結合していることを特徴とする請求項25〜28のいずれかに記載のキット。
【請求項30】
エンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対する抗体および/または抗体フラグメント、具体的にはFabまたはscFvを検出または産生するための請求項1〜10に記載の抗原の使用。
【請求項31】
産生されるエンテロコッカス・フェカリス菌および/またはエンテロコッカス・フェシウム菌に対する抗体および/または抗体フラグメントを、エンテロコッカス菌抗原に対する受動的免疫療法または感染予防に使用することを目的とする請求項30に記載の使用。
【請求項32】
前記抗体または抗体フラグメント、具体的にはFabまたはscFvの産生方法であって、前記抗体または抗体フラグメントの産生に十分な量の請求項1〜10に記載の抗原を、動物、特に哺乳動物に投与することを含む方法。
【請求項33】
請求項14に記載の抗体と構造的に同等である組換え抗体、またはその組換えフラグメント、具体的にはFabまたはscFv。
【請求項34】
請求項14に記載の抗体、またはそのフラグメント、具体的にはFabまたはscFvを遺伝子組換えで産生する方法であって、前記抗体またはそのフラグメントをコードするDNA配列を発現ベクターへクローニングした後、このコンストラクトを用いて細胞、特に大腸菌または酵母菌を形質転換して組換え抗体またはそのフラグメントを発現させることを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−509256(P2010−509256A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535636(P2009−535636)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/009813
【国際公開番号】WO2008/058706
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(501476605)ウニヴェルシテートクリニクム フライブルグ (3)
【Fターム(参考)】