説明

エンドセリン受容体の阻害剤による星状細胞−腫瘍細胞の処置

本開示は、細胞毒性化学療法剤、放射線療法または両方との併用での脳転移の予防または処置における使用のためのエンドセリン受容体拮抗薬に関する。そのエンドセリン受容体拮抗薬は、例えばボセンタン、マシテンタンまたはボセンタンおよびマシテンタンの混合物であってよい。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
脳転移は腫瘍学が直面している最も困難な問題の1つである。転移性腫瘍はほとんどの化学療法剤に抵抗性である。脳転移の処置は主に全脳および焦点放射線療法であり、少数の症例において腫瘍の外科的切除である。ほとんどの化学療法計画は2〜3種類の薬剤、例えばシスプラチン、シクロフォスファミド、エトポシド、テニポシド、マイトマイシン、イリノテカン、ビノレルビン、エトポシド、イホスファミド、テモゾロミド(temozolomide)およびフルオロウラシル(5−FU)を含む。これらは放射線療法と組み合わせて投与される。これらの化学療法の生存の延長への効果は一般に1年未満である。脳腫瘍に関するかなり新しい化学療法は、全脳照射と共に用いられるテモゾロミドである。結果は予備段階であるが、テモゾロミドは放射線照射単独と比較して奏効率にいくらかの限られた効果を有するようであり、第II相試験において放射線照射との併用でいくらかの臨床活性を有するようである。
【0002】
熱心な努力にも関わらず、脳転移に関して利用可能な限られた医学の選択肢は乏しいままであり、療法的に有効であるよりも一時しのぎである場合が多すぎる。この状況は長く認識されてきたが、現在までに著しい進歩は実現していない。従って、脳転移の処置において有効な新規の療法的アプローチおよび医薬に関する大きな、および目下の医学的必要性が存在する。
【0003】
下記の開示は、脳転移に関するエンドセリン受容体拮抗薬を論じる。血管作動性ペプチドであるエンドセリン−1(以下“ET−1”)は、主に内皮、血管平滑筋、および上皮細胞において産生される。ET−1は2種類の高親和性Gタンパク質共役型受容体であるエンドセリン−A(以下“ET”)およびエンドセリン−B(以下“ET”)受容体を介してその生理的作用を及ぼす。エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)は、これらのエンドセリン受容体(以下“ETR”)を阻害することができる十分に確立されたクラスの化合物である。このクラス内にあるのが、ETまたはETに特異的な拮抗薬のサブクラスおよび両方に対して有効な(二重特異性)サブクラスである。その二重特異性サブクラスの1つのメンバーであるボセンタン(bosentan)は、肺動脈高血圧の処置における使用に関して現在承認されている。
【0004】
特定のERAが癌療法における使用に関して調べられた。[Nelson JB, et al., 非転移性のホルモン不応性前立腺癌を有する患者における、アトラセンタンの第3相のランダム化され制御された試験。Cancer, 2008 Nov 1;113(9):2376-8.;Chiappori AA, et al. 進行性非小細胞肺癌における第一選択療法としての、パクリタキセルおよびカルボプラチンとの併用での、ET受容体拮抗薬であるアトラセンタンの第I/II相試験。Clin Cancer Res, 2008 Mar 1; 14(5): 1464-9.]これらの試験は、活性な脳転移を有する患者を大部分除外してきた。同誌。この除外は、既存の脳転移は処置に反応しないと考えられ、従ってこれらの転移による死亡率および症状が原発腫瘍に対する試験処置の効果を見えなくするであろうという一般的な見解に基づいてなされた。[Carden CP, et al., 第I相試験に関する脳転移を有する患者の適格性:再考すべき時か? The Lancet Oncology, Vol 9, Issue 10, Pages 1012-1017, October 2008 doi:10.1016/S1470-2045(08)70257-2.]この標準的な臨床試験設計戦略は、原発腫瘍およびさらには非脳転移腫瘍に対して有効な療法は脳転移腫瘍に影響を及ぼす(effect)のに失敗するであろうという一般的な予想を強調する役目を果たす。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nelson JB, et al., 非転移性のホルモン不応性前立腺癌を有する患者における、アトラセンタンの第3相のランダム化され制御された試験。Cancer, 2008 Nov 1;113(9):2376-8.
【非特許文献2】Chiappori AA, et al. 進行性非小細胞肺癌における第一選択療法としての、パクリタキセルおよびカルボプラチンとの併用での、ETA受容体拮抗薬であるアトラセンタンの第I/II相試験。Clin Cancer Res, 2008 Mar 1; 14(5): 1464-9.
【非特許文献3】Carden CP, et al., 第I相試験に関する脳転移を有する患者の適格性:再考すべき時か? The Lancet Oncology, Vol 9, Issue 10, Pages 1012-1017, October 2008 doi:10.1016/S1470-2045(08)70257-2.
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1:MDA−MB−231乳癌細胞(T)およびマウス星状細胞(A)のインビトロ培養物を、走査電子顕微鏡により評価した。星状細胞(ポッドフット(pods−feet)を伸ばしている)と腫瘍細胞の間の直接的な接触は明らかである;
【図2】図2:星状細胞−転移癌細胞の共培養は、共培養された細胞間での染料の移動を示した;
【図3】図3:ヒトMDA−MB−231乳癌細胞またはヒトPC14Br4肺癌細胞を星状細胞と共に培養すると、パクリタキセル(5ng/ml)と共に72時間培養した腫瘍細胞の相対的アポトーシス指数がそれぞれ58.3+8.9%(平均±標準偏差、P<0.01)および61.8±6.7%(平均±標準偏差、P<0.05)低減した(耐性が増大した)(が、3T3線維芽細胞と共に培養しても低減しなかった)(アポトーシス指数はスチューデントのt検定により比較された);
【図4】図4:ヒト肺癌PC14Br4細胞を、単独で、または星状細胞と共に(直接的な細胞間接触)、P−糖タンパク質と会合するアドリアマイシン(200ng/ml)、パクリタキセル(5ng/ml)、ビンブラスチン(3ng/ml)、ビンクリスチン(8ng/ml)、およびP−糖タンパク質と解離する5−FU(500ng/ml)またはシスプラチナム(2.4μg/ml)を含有する培地中で培養した;
【図5】図5:星状細胞に仲介される脳転移細胞の細胞毒性化学療法に誘導される細胞死からの保護は、直接的な星状細胞−脳転移細胞の接触が失われた後72時間より長くは続かない;
【図6】図6:マウスおよびヒトのmRNAの間で相違が示された遺伝子転写プロファイリングの状況;
【図7】図7:MDA−MB−231細胞において1069個の遺伝子が、およびPC14Br4細胞において594個の遺伝子が差次的に発現していた。2つの遺伝子リストの比較は、抗アポトーシスおよび生存と関係することが周知であるいくつかの遺伝子:グルタチオンSトランスフェラーゼ5(GSTA5)、BCL2L1、TWISTの増大した発現を明らかにした;
【図8】図8:いくつかの抗アポトーシスおよび生存遺伝子の発現を、ウェスタンブロット分析によりタンパク質レベルで確かめた;
【図9】図9:2サイクルの共培養実験から遺伝子転写データを収集した;
【図10】図10:星状細胞と共培養したMDA−MB−231ヒト乳癌細胞において増大したが、線維芽細胞(3T3)とでは増大しなかったETA−Rの発現;
【図11】図11:星状細胞/タキソールと共培養したMDA−MB−231ヒト乳癌細胞によるpAKTの発現;
【図12】図12:単独で、または星状細胞と共に、または3T3線維芽細胞と共にMDA−MB−231ヒト乳癌細胞に添加されたACT−064992は、測定可能な細胞毒性作用を全くもたらさなかった;
【図13】図13:単独で、または星状細胞と共に、または3T3線維芽細胞と共にPC14肺癌細胞に添加されたACT−064992は、測定可能な細胞毒性作用を全くもたらさなかった;
【図14A】図14A〜D:転移性脳癌に関するいくつかのインビボ実験モデルにおけるETRおよびETRに関する免疫染色は、腫瘍と特異的に関係し、正常な脳組織とは関係しない、比較的高い発現を示す;
【図14B】図14A〜D:転移性脳癌に関するいくつかのインビボ実験モデルにおける、ETRおよびETRに関する免疫染色は、腫瘍と特異的に関係し、正常な脳組織とは関係しない、比較的高い発現を示す;
【図14C】図14A〜D:転移性脳癌に関するいくつかのインビボ実験モデルにおける、ETRおよびETRに関する免疫染色は、腫瘍と特異的に関係し、正常な脳組織とは関係しない、比較的高い発現を示す;
【図14D】図14A〜D:転移性脳癌に関するいくつかのインビボ実験モデルにおける、ETRおよびETRに関する免疫染色は、腫瘍と特異的に関係し、正常な脳組織とは関係しない、比較的高い発現を示す;
【図15】図15:星状細胞と、または3T3線維芽細胞と共培養されたMDA−MB−231ヒト乳癌細胞に対する、パクリタキセルおよびACT−064992の併用療法;
【図16】図16:星状細胞と、または3T3線維芽細胞と共培養されたヒト肺癌細胞PC14Br4に対するパクリタキセルおよびACT−064992の併用療法;
【図17】図17:星状細胞および腫瘍細胞の共培養物へのACT−064992の添加は、生存因子pAKTおよびpMAPKの発現を阻害した;
【図18A】図18:脳転移の可視化のために、脳切片を固定し、染色した。対照(ビヒクル)(図18A);テモゾロミド(“TMZ”)、毎日経口で10mg/kg(図18B);ACT−064992、毎日経口で50mg/kg(図18C);またはTMZ+ACT−064992の併用(図18D);より高い倍率でのTMZ+ACT−064992の併用(図18E);
【図18B】図18:脳転移の可視化のために、脳切片を固定し、染色した。対照(ビヒクル)(図18A);テモゾロミド(“TMZ”)、毎日経口で10mg/kg(図18B);ACT−064992、毎日経口で50mg/kg(図18C);またはTMZ+ACT−064992の併用(図18D);より高い倍率でのTMZ+ACT−064992の併用(図18E);
【図18C】図18:脳転移の可視化のために、脳切片を固定し、染色した。対照(ビヒクル)(図18A);テモゾロミド(“TMZ”)、毎日経口で10mg/kg(図18B);ACT−064992、毎日経口で50mg/kg(図18C);またはTMZ+ACT−064992の併用(図18D);より高い倍率でのTMZ+ACT−064992の併用(図18E);
【図18D】図18:脳転移の可視化のために、脳切片を固定し、染色した。対照(ビヒクル)(図18A);テモゾロミド(“TMZ”)、毎日経口で10mg/kg(図18B);ACT−064992、毎日経口で50mg/kg(図18C);またはTMZ+ACT−064992の併用(図18D);より高い倍率でのTMZ+ACT−064992の併用(図18E);
【図18E】図18:脳転移の可視化のために、脳切片を固定し、染色した。対照(ビヒクル)(図18A);テモゾロミド(“TMZ”)、毎日経口で10mg/kg(図18B);ACT−064992、毎日経口で50mg/kg(図18C);またはTMZ+ACT−064992の併用(図18D);より高い倍率でのTMZ+ACT−064992の併用(図18E);
【図19】図19:脳転移の可視化のために、脳切片を固定し、染色した。A.対照(ビヒクル溶液を注入);B.パクリタキセル(1週につき1回腹腔内に8mg/kgを投与);C.ACT−064992(1日につき1回経口で50mg/kgを投与);ならびにD.ACT−064992およびパクリタキセルの併用;
【図20】図20:4つの処置グループからの代表的な脳組織薄片を、CD31(内皮細胞のマーカー)およびKi67(細胞増殖のマーカー)に関して染色した:A.対照のマウス;B.パクリタキセルのみで処置したマウス;C.ACT−064992;D.パクリタキセルおよびACT−064992;
【図21】図21:異なる処置グループからのマウスの脳組織薄片(sices)を、インサイチュでの末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(TUNEL)により分析した:A.対照;B.パクリタキセルで処置した;C.ACT−064992で処置した;D.ACT−064992+パクリタキセルの併用;
【図22】図22:4つの処置グループからのマウスの脳組織薄片を、ET(赤)およびホスホセリン(緑)に関して免疫染色し、同時局在は橙〜黄色をもたらした。A.対照の脳;B.パクリタキセルで処置したマウスからの脳;C.ACT−064992のみで処置したマウスからの脳;D.ACT−064992+パクリタキセルで処置したマウスからの脳。
【発明を実施するための形態】
【0007】
定義
本明細書で用いられる際、“a”または“an”という単語の使用は、特許請求の範囲および/または明細書中で用語“含む(comprising)”と共に用いられた場合、“1”を意味してよいが、それは“1以上”、“少なくとも1”、および“1または1より多く”の意味とも一致する。さらに、用語“有する”、“含有する(containing)”、“含まれる(including)”および“含む”は互いに交換可能であり、当業者はこれらの用語が拡張可能な(open ended)用語であることを認識している。
【0008】
用語“処置する”および“処置”は、本明細書で用いられる際、対象に療法的に有効な医学的介入、例えば化学療法を、その対象が癌に関するパラメーターにおける改善を有するように施すことを指す。その改善は、癌、腫瘍の大きさの変化、癌、腫瘍の成長の速度、または癌、腫瘍と関係する痛みの主観的もしくは客観的な測定における低減が含まれる、あらゆる観察可能または測定可能な改善である。従って、当業者は、処置は患者の状態を改善することができるがその疾患の完全な治癒でなくてもよいことを理解する。
【0009】
用語“有効量”または“療法上有効量”は、本明細書で用いられる際、結果としてその疾患または病気の症状の改善または治療をもたらす量を指す。
用語“既存の脳転移腫瘍”は、本明細書で用いられる際、GFAP陽性星状細胞に取り囲まれ、浸潤されている多細胞脳腫瘍および脳転移を指す。既存の脳転移腫瘍は、2つの臨床的に異なるタイプである微小転移巣(小さすぎて放射線医学的手段により可視化できない)および可視転移(臨床的な放射線医学的手段、例えば磁気共鳴映像法、コンピューター断層撮影法、または陽電子射出断層撮影法により識別可能であるのに十分に大きい腫瘍)からなる。これらの転移巣は、全身循環中の転移癌細胞および脳組織中に血管外遊出している、または静止してその中に存在している単一の癌細胞とは異なる。[一般に、Johanna A. Joyce & Jeffrey W. Pollard, 転移の微小環境的制御, Nat Rev Cancer 9, 239-252 (April 2009) | doi:10.1038/nrc2618を参照。]“微小転移巣”は、本明細書で用いられる際、好ましくは大きさが0.2mmより大きい、および/または200個より多くの細胞を有するものから最大幅2mmまでの集密的な癌細胞のグループとして定義される。より好ましくは、“微小転移巣”は、最大幅が0.2mmから2mmまでの集密的な癌細胞のグループとして定義される。The AJCC Cancer Staging Manual and Handbook, 第7版 (2010), Edge, S.B.; Byrd, D.R.; Compton, CC; Fritz, A.G.; Greene, F.L.; Trotti, A. (Eds.), ISBN: 978-0-387-88440-0参照。“微小転移巣”の代わりの好ましい定義は、少なくとも1000個の癌細胞の、最も幅広い寸法において少なくとも0.1mm〜最も幅広い寸法において1mmまでの集密的なグループである。微小転移巣は一般には標準的なコントラストMRI画像化または他の臨床的な画像化技法では見えない。しかし、特定の癌において、腫瘍選択的抗原(例えば乳癌転移に関してHer2)に向けられた放射性抗体は、微小転移巣の可視化を可能にするであろう。他の間接的検出法には、VEGFに誘導される血管漏出による脳微小転移部位における造影剤の漏出が含まれる。Yano S; et al. (2000), 血管内皮成長因子の発現は脳転移の生成および成長に必要であるが十分ではない。 Cancer research 2000;60(17):4959-67。微小転移巣を検出するために、より高感度な画像化技法を適用することもできる。例えば、微小転移巣を検出するために、代わりの造影剤USPIO(Molday Iron, Biopal、マサチューセッツ州ウースター、Molday ION(商標)として販売されている)を用いてMRIにより血液量を画像化することができる。Juan Yin J, et al. 実験的脳転移モデルにおける、抗VEGF療法の腫瘍細胞血管外遊出および局部血液量への機能的効果の非侵襲的画像化。 Clin Exp Metastasis. 2009;26(5):403-14. Epub 2009 Mar 11。
【0010】
用語“星状細胞に仲介される保護”は、本明細書で用いられる際、星状細胞の、その星状細胞と直接物理的に接触している別の細胞型に関して化学物質の細胞毒性を低減する能力を指す。この物理的接触には、特にギャップ結合コミュニケーション(GJC)を介して癌細胞に接続された星状細胞が含まれる。
【0011】
用語“細胞毒性化学療法に誘導される細胞死”は、本明細書で用いられる際、細胞毒性化学物質によるアポトーシスまたは壊死性の細胞死の誘導を指す。ほとんどの医学的に用いられる化学療法剤は、急速に分裂する腫瘍細胞をこの方法で殺すように機能する。
【0012】
用語“エンドセリン受容体拮抗薬”は、本明細書で用いられる際、当技術でそのようなものとして認識されているクラスの化合物を指し、特に、本特許出願において記述されている“ETまたはETのIC50の決定のための試験”に委ねた場合にETに対して、ETに対して、またはETおよびETの両方に対して1μM以下のIC50を有する化合物を指す。ERAは、エンドセリン受容体がET−1と相互作用するのを妨害する、またはETRが結合したET−1に応答するのを妨げる薬物である。2つの主な種類のERAが存在する:ET受容体に作用する選択的ERA、例えばシタキセンタン(sitaxentan)、アンブリセンタンおよびアトラセンタン、ならびにETおよびET受容体の両方に作用する二重ERA、例えばボセンタン。ERAクラスの化合物の典型的なメンバーは、[HAM Mucke “小分子エンドセリン受容体拮抗薬:療法領域を越える特許活動の総説”IDrugs 2009 12:366-375.]において引用されている特許文献において見つけることができる。既にヒトの臨床試験において調べられた、または医学的使用に関して承認された代表的なERAには、シタキセンタン、テゾセンタン(tezosentan)、クラゾセンタン(clazosentan)、アブリセンタン(abbrisentan)、ボセンタン、マシテンタン(macitentan)(ACT−064992としても知られている)および/またはアトラセンタンが含まれる。
【0013】
用語“ET拮抗薬”は、本明細書で用いられる際、本特許出願において記述されている“ETまたはETのIC50の決定のための試験”に委ねた場合にETに対して1μM以下のIC50を有する化合物を指す。
【0014】
用語“ET拮抗薬”は、本明細書で用いられる際、本特許出願において記述されている“ETまたはETのIC50の決定のための試験”に委ねた場合にETに対して1μM以下のIC50を有する化合物を指す。
【0015】
用語“二重エンドセリン受容体拮抗薬”または“二重“ERA”は、本明細書で用いられる際、本特許出願において記述されている“ETまたはETのIC50の決定のための試験”に委ねた場合にETに対して1μM以下のIC50およびETに対して1μM以下のIC50を有する化合物を指す。二重ERAにはボセンタンおよびマシテンタンが含まれる。
【0016】
用語“細胞毒性化学療法剤”は、本明細書で用いられる際、アポトーシスまたは壊死性の細胞死を誘導する物質を指す。本発明に従ってERAと組み合わせて用いることができる細胞毒性化学療法剤の例には、以下のものが含まれる:
・アルキル化剤(例えばメクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、ストレプトゾシン(streptozocin)、カルムスチン、ロムスチン、メルファラン、ブスルファン、ダカルバジン、テモゾロミド(temozolomide)、チオテパ(thiotepa)またはアルトレタミン);
・白金系薬物(例えばシスプラチン、カルボプラチンまたはオキサリプラチン(oxaliplatin));
・代謝拮抗薬(例えば5−フルオロウラシル、カペシタビン(capecitabine)、6−メルカプトプリン、メトトレキセート、ゲムシタビン(gemcitabine)、シタラビン、フルダラビン(fludarabine)またはペメトレキセド(pemetrexed));
・抗腫瘍抗生物質(例えばダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン(epirubicin)、イダルビシン(idarubicin)、アクチノマイシン−D、ブレオマイシン、マイトマイシン−Cまたはミトキサントロン);および
・有糸分裂阻害剤(例えばパクリタキセル、ドセタキセル(docetaxel)、イキサベピロン(ixabepilone)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン(vinorelbine)、ビンデシン(vindesine)またはエストラムスチン(estramustine));および
・トポイソメラーゼ阻害剤(例えばエトポシド(etoposide)、テニポシド(teniposide)、トポテカン(topotecan)、イリノテカン(irinotecan)、ジフロモテカン(diflomotecan)またはエロモテカン(elomotecan))。
【0017】
“過敏化”または“過敏化する”は、星状細胞の非存在下か、または星状細胞との直接的な物理的接触が無いかのどちらかである細胞において見られる細胞死を超える、星状細胞と物理的に接触した状態で細胞毒性化学療法剤(単数または複数)により引き起こされる細胞死の相対的な増大として定義される。
【0018】
“同時に”または“同時の”は、療法的使用を指す場合、本出願において、関係する療法的使用が2種類以上の有効成分を同じ経路により同時に投与することにあることを意味する。
【0019】
“別々に”または“別々の”は、療法的使用を指す場合、本出願において、関係する療法的使用が2種類以上の有効成分を少なくとも2つの異なる経路によりおおよそ同時に投与することにあることを意味する。
【0020】
“ある期間にわたる”療法的投与により、本出願において、2種類以上の成分の異なる時点での投与、特にそれに従ってその有効成分の内の1種類の全投与がそれ以外の、または他の有効成分の投与が始まる前に完了する投与法を意味する。このようにして、その有効成分の内の1種類を、他の有効成分(単数または複数)を投与する前に数日、数週間または数ヶ月間投与することが可能である。この場合、同時投与は起こらない。
【0021】
開示
脳実質において、ホメオスタシスの維持における星状細胞の役割は十分に認識されている。星状細胞は全ての血管を特殊化したエンドフィート(end−feet)で包み、他の脳細胞、例えばニューロンとコミュニケーションする。この独特の構造は、星状細胞が必須栄養素、例えばグルコースおよびアミノ酸を循環から依存するニューロンへと輸送することを可能にし、星状細胞における解糖はニューロンの活動を制御していることが最近示されており、それがいわゆる“ニューロン−星状細胞代謝カップリング”である。低酸素、虚血および変性条件のような病的条件下では、星状細胞は活性化され、GFAPと呼ばれるタンパク質を発現するであろう。GFAP反応性星状細胞は、ニューロンを様々な負荷から保護し、ニューロンをグルタミン酸の蓄積によりもたらされる興奮毒性から救うことが示されている。活性化された星状細胞は、ニューロンをエタノール、過酸化水素、および銅に触媒されるシステイン細胞毒性によりもたらされるアポトーシスから保護することもできる。
【0022】
臨床での脳転移は、一般には活性化された(GFAP−陽性)星状細胞により取り囲まれ、浸潤される。[Yoshimine T, et al. (1985) グリア特異的タンパク質であるアストロタンパク質(astroprotein)(GFAP)を有する転移性脳腫瘍の免疫組織化学的研究。組織構造および血管の起源。J Neurosurg 62: 414-418.]本発明者は、この現象が下記の異物移植モデルで再現されることを確認した。
【0023】
本発明の様々な態様を以下に示す:
1)本発明は第1に、細胞毒性化学療法剤、放射線療法、または両方との併用での、脳転移の予防または処置における使用のためのエンドセリン受容体拮抗薬に関する。
【0024】
2)態様1)の1つの主な変形に従って、そのエンドセリン受容体拮抗薬は細胞毒性化学療法剤との併用での使用のためのものであろう。
3)態様2)の1つの下位態様(sub−embodiment)に従って、その細胞毒性化学療法剤はアルキル化剤を含むであろう(そして特にアルキル化剤であろう)。
【0025】
4)特に、態様3)のアルキル化剤は、メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、ストレプトゾシン、カルムスチン、ロムスチン、メルファラン、ブスルファン、ダカルバジン、テモゾロミド、チオテパおよびアルトレタミンからなるグループから選択されるであろう。
【0026】
5)態様2)の別の下位態様に従って、その細胞毒性化学療法剤は白金系系薬物を含むであろう(そして特に白金系系薬物であろう)。
6)特に、態様5)の白金系系薬物は、シスプラチン、カルボプラチンおよびオキサリプラチンからなるグループから選択されるであろう。
【0027】
7)態様2)のさらに別の下位態様に従って、その細胞毒性化学療法剤は代謝拮抗薬を含むであろう(そして特に代謝拮抗薬であろう)。
8)特に、態様7)の代謝拮抗薬は、5−フルオロウラシル、カペシタビン、6−メルカプトプリン、メトトレキセート、ゲムシタビン、シタラビン、フルダラビンおよびペメトレキセドからなるグループから選択されるであろう。
【0028】
9)態様2)のさらなる下位態様に従って、その細胞毒性化学療法剤は抗腫瘍抗生物質を含むであろう(そして特に抗腫瘍抗生物質であろう)。
10)特に、態様9)の抗腫瘍抗生物質は、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、アクチノマイシン−D、ブレオマイシン、マイトマイシン−Cおよびミトキサントロンからなるグループから選択されるであろう。
【0029】
11)態様2)の別の下位態様に従って、その細胞毒性化学療法剤は有糸分裂阻害剤を含むであろう(そして特に有糸分裂阻害剤であろう)。
12)特に、態様11)の有糸分裂阻害剤は、パクリタキセル、ドセタキセル、イキサベピロン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、ビンデシンおよびエストラムスチンからなるグループから選択されるであろう。
【0030】
13)態様2)のさらに別の下位態様に従って、その細胞毒性化学療法剤はトポイソメラーゼII阻害剤を含むであろう(そして特にトポイソメラーゼII阻害剤であろう)。
14)特に、態様13)のトポイソメラーゼII阻害剤は、エトポシド、テニポシド、トポテカン、イリノテカン、ジフロモテカンおよびエロモテカンからなるグループから選択されるであろう。
【0031】
15)態様2)の好ましい下位態様に従って、その細胞毒性化学療法剤はパクリタキセル、ドキソルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、5−フルオロウラシル、シスプラチン、シクロフォスファミド、エトポシド、テニポシド、マイトマイシン−C、イリノテカン、ビノレルビン、イホスファミドおよびテモゾロミドからなるグループから(ならびに特にパクリタキセルおよびテモゾロミドから)選択されるであろう。
【0032】
16)特に、態様15)の細胞毒性化学療法剤はパクリタキセル、テモゾロミドならびにパクリタキセルおよびテモゾロミドの混合物から選択されるであろう。
17)態様16)の好ましい変形に従って、態様16)のエンドセリン受容体拮抗薬は、ボセンタン、マシテンタンならびにマシテンタンおよびボセンタンの混合物からなるグループから選択されるであろう(そして特にマシテンタンであろう)。
【0033】
18)本発明は、態様2)〜17)の1つで言及された細胞毒性化学療法剤の少なくとも1種類との、および放射線療法との併用での使用のためのエンドセリン受容体拮抗薬にも関する。
【0034】
19)この発明の好ましい態様に従って、態様1)〜18)で用いられるエンドセリン受容体拮抗薬は、二重エンドセリン受容体拮抗薬を含むであろう(そして特に二重エンドセリン受容体拮抗薬であろう)。
【0035】
20)特に、態様19)の二重エンドセリン受容体拮抗薬は、ボセンタン、マシテンタンならびにボセンタンおよびマシテンタンの混合物からなるグループから選択されるであろう。
【0036】
21)特に好ましい態様において、態様20)の二重エンドセリン受容体拮抗薬はマシテンタンであろう。
22)態様1)〜21)の1つの変形に従って、そのエンドセリン受容体拮抗薬および細胞毒性化学療法剤は別々に投与されるであろう。
【0037】
23)態様1)〜21)の別の変形に従って、そのエンドセリン受容体拮抗薬および細胞毒性化学療法剤は同時に投与されるであろう。
24)態様1)〜21)のさらに別の変形に従って、そのエンドセリン受容体拮抗薬および細胞毒性化学療法剤はある期間をかけて投与されるであろう。
【0038】
25)態様1)のさらに別の主な変形に従って、そのエンドセリン受容体拮抗薬は放射線療法との併用での使用のためのものであろう(それによりこの放射線療法は好ましくは全脳放射線療法または定位放射線手術である)。
【0039】
26)この発明の好ましい態様に従って、態様25)において用いられるエンドセリン受容体拮抗薬は二重エンドセリン受容体拮抗薬を含むであろう(そして特に二重エンドセリン受容体拮抗薬であろう)。
【0040】
27)特に、態様26)の二重エンドセリン受容体拮抗薬は、ボセンタン、マシテンタンならびにボセンタンおよびマシテンタンの混合物からなるグループから選択されるであろう。
【0041】
28)特に好ましい態様において、態様27)の二重エンドセリン受容体拮抗薬はマシテンタンであろう。
29)この発明の別の主な変形において、態様2)〜23)の1つに従う細胞毒性化学療法剤と共に使用するためのエンドセリン受容体拮抗薬は、放射線療法と一緒に使用するためのものであろう(それによりこの放射線療法は好ましくは全脳放射線療法または定位放射線手術である)。
【0042】
30)前記の態様1)〜29)のいずれか1つ以上と組み合わせることができるこの発明の別の主な変形は、対象における既存の脳転移腫瘍の処置における使用のためのエンドセリン受容体拮抗薬であり、ここでその既存の脳転移腫瘍は微小転移腫瘍、例えば肺癌、乳癌、大腸癌、黒色腫または腎癌脳微小転移腫瘍からなるグループから選択される微小転移腫瘍である。
【0043】
31)本発明は、星状細胞に仲介される脳転移細胞の保護を阻害する方法にも関し、その方法は、有効量のエンドセリン受容体拮抗薬を脳転移細胞および星状細胞に投与して星状細胞に仲介される保護を阻害することを含む。
【0044】
32)本発明はさらに、さらに有効量の少なくとも1種類の細胞毒性化学療法剤をその脳転移細胞に投与することを含む、態様31)の方法に関する。
33)本発明はさらに、さらにその脳転移細胞に放射線療法を施す(それによりこの放射線療法は好ましくは全脳放射線療法または定位放射線手術である)ことを含む、態様31)の方法に関する。
【0045】
34)本発明はさらに、さらに有効量の少なくとも1種類の細胞毒性化学療法剤をその脳転移細胞に投与することおよびその脳転移細胞に放射線療法を施す(それによりこの放射線療法は好ましくは全脳放射線療法または定位放射線手術である)ことを含む、態様31)の方法に関する。
【0046】
35)本発明はさらに、前記の1)〜34)のいずれかおよびそのあらゆる組み合わせに従う使用のための医薬品を製造する方法に関する。好ましくは、前記により製造される医薬品はさらに、1)〜34)の1つ以上およびそのあらゆる組み合わせを実施するための説明書と共に商業的な包装中に包装される。
【0047】
36)本発明はさらに、1)〜34)の1つ以上およびそのあらゆる組み合わせに従う、細胞毒性化学療法剤、放射線療法または両方との併用での、脳微小転移を含む脳転移の危険性の低減および/または脳転移の拡大の速度の低減における使用のためのエンドセリン受容体拮抗薬に関する。
【実施例】
【0048】
実験1−脳転移の免疫蛍光分析
材料および方法
実験用の脳転移を、ヒト肺腺癌細胞PC14Br4のヌードマウスの内頚動脈中への注入により生成した(S1)。マウスを5週間後に殺し、凍結切片のために組織試料を以前に記述したようにOCT化合物中で処理した(S2)。組織を薄切し(8〜10μm)、正に荷電したスライドの上にマウントし、30分間空気乾燥させた。組織の固定を、アセトン、50:50(v/v)アセトン:クロロホルム、およびアセトンの氷冷溶液中に3回(それぞれ5分間)順次浸すことからなるプロトコルを用いて実施した。次いで試料をPBSで3回洗浄し、PBS中で5%正常ウマ血清および1%正常ヤギ血清を含有するタンパク質ブロッキング溶液と共に室温で20分間保温し、次いでウサギ抗GFAPポリクローナル抗体(Biocare Medical、カリフォルニア州コンコード)の1:400希釈液と共に4℃で18時間保温した。その試料をPBSで4回、それぞれ3分間すすぎ、次いでヤギ抗ウサギCy5抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories、ペンシルバニア州ウェストグローブ)の1:1500希釈液と共に1時間保温した。対照試料を同じ濃度のアイソタイプ対照抗体およびヤギ抗ウサギCy5抗体で標識した。全ての試料をすすぎ、次いでsytox緑色核酸染色剤(Eugene,OR)と共に短時間保温した。そのスライドを、蛍光の退色を最小限にするために、0.1mol/L没食子酸プロピル(Sigma)を含有するグリセロール/PBS溶液と共にマウントした。モーター付きAxioplan顕微鏡、アルゴンレーザー、HeNeレーザー、LSM510制御および画像取得ソフトウェア、ならびに適切なフィルター(Chroma Technology Corp.、バーモント州ブラットルボロ)を備えたZeiss LSM 510レーザ走査顕微鏡システム(Carl Zeiss, Inc.、ニューヨーク州ソーンウッド)上で共焦点画像を収集した。Photoshopソフトウェア(Adobe Systems, Inc.カリフォルニア州マウンテンビュー)を用いて、18個の合成画像を構築した。
【0049】
結果
結果を免疫組織化学的に反応させた試料のカラー画像(示していない)から決定した。腫瘍細胞はGFAP陽性の(赤)星状細胞に取り囲まれ、浸潤されていた。この実験は、以前の臨床での脳転移試料の星状細胞の浸潤の観察を確証した。GFAP陽性の星状細胞による同じ浸潤が、同質遺伝子のマウスのマウスモデルに関して見られた。C57マウスの脳におけるマウスルイス肺癌(3LL)の免疫組織化学的分析。分裂している3LL細胞(PCNA陽性、青)は、活性化された星状細胞(GFAP陽性、茶色)により浸潤され、取り囲まれていた。まとめると、これらの実験はマウス−ヒト異種移植モデルを検証し、それは臨床でのヒトの試料において、および同質遺伝子のマウスモデルにおいて見られた現象を再現した。従って、本発明の1観点は、例えばヒトの転移性脳癌の現象の研究において有用であるインビボマウス−ヒト脳転移細胞モデルである。
【0050】
実験2−走査電子顕微鏡での研究
主なヒトの臨床標本において見られたのと同様に、脳転移の形成においてマウスの星状細胞はヒトの腫瘍細胞とインビボで相互作用することを証明したので、本発明者はこれらの2種類の細胞型の相互作用をインビトロで、単純化された共培養系において試験した。上記のインビボの状況に対してはるかに少ない直接的な生理学的関連性を有するそのような系が結果として何らかの細胞間相互作用をもたらすかどうかは不確かであった。従って、ヒトの転移癌細胞株およびマウスの星状細胞の間の細胞間相互作用がインビトロで達成されたことは驚くべき発見であった。
【0051】
材料および方法
細胞株および培養条件。ヒト乳癌細胞株MDA−231(S3)、ヒト肺腺癌細胞株PC14Br4の脳転移変種(Si)およびマウスNIH 3T3線維芽細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS;HyClone、ユタ州ローガン)、ピルビン酸L−グルタミン、非必須アミノ酸、2倍ビタミン溶液、およびペニシリンストレプトマイシン(GIBCO/Invitrogen、カリフォルニア州カールスバッド)を補った完全イーグル最小必須培地(CMEM)中で単層培養として維持した。組織培養のために用いた全ての試薬はエンドトキシンを含まず、それはカブトガニアメーバ様細胞ライセートアッセイ(limulus amebocyte lysate assay)(Associate of Cape Cod、マサチューセッツ州ウッズホール)により決定され、その細胞株は次のマウス病原体を含まなかった:マイコプラスマ種、ハンタン(Hantan)ウイルス、肝炎ウイルス、マイニュートウイルス、アデノウイルス(MAD1、MAD2)、サイトメガロウイルス、エクトロメリアウイルス、乳酸デヒドロゲナーゼ上昇ウイルス、ポリオーマウイルス(polyma virus)、および仙台ウィルス(研究動物診断研究所、ミズーリ大学、ミズーリ州コロンビアによりアッセイされた)。この研究において用いられた細胞は凍結されたストックからのものであり、全ての実験は、解凍した後インビトロでの10回の継代以内で実施された。
【0052】
マウス星状細胞の単離および維持。温度感受性SV40ラージT抗原に関してホモ接合型の新生仔マウス(H−2Kb−tsA58マウス;CBA/ca x C57BL/10ハイブリッド;Charles River研究所、マサチューセッツ州ウィルミントン)を、二酸化炭素チャンバーの中で安楽死させ、その皮膚を標準的な様式で手術のために準備した(S4)。無菌のマイクロピンセット(Roboz Surgical Instrument Co.、メリーランド州ゲイザースバーグ)を用いて頭骨から皮膚を除去し、小さいハサミを用いて左耳の開口部から右耳の開口部までの円形の後部の切り込みを作った。脳の正中線に沿って別の切り込みを作り、頭蓋腔にアクセスすることを可能にするために頭骨を分割した。視神経を切り、先端が鋭くないピンセットを用いて脳を取り出し、100mm氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に置いた。新皮質全体を切開し、海馬および内部構造を取り外して皮質シートのみを残した。髄膜を剥がして外し、皮質シートをメスで細かく切り、0.1%コラゲナーゼ(150 U/ml; Worthington Biochemical Corp.、ニュージャージー州レイクウッド)および40pg/mlデオキシリボヌクレアーゼ(Sigma Chemical Co.、ミズーリ州セントルイス)を含有するダルベッコ変法必須培地(DMEM)中で37℃で30分間消化した。次いでその皮質組織を10%FBSを含有するDMEM中ですりつぶし、50−pm無菌メッシュを通してこした。得られた単細胞懸濁液を、前もって5μg/mlマウスラミニン(Sigma)でコートした75cm2組織培養フラスコ上に蒔いた。その細胞を、10%FBSおよび補助剤(上記参照)を含有するDMEM中で、(33℃においてpHの適切な緩衝を達成するために)8%二酸化炭素の雰囲気中で、7日間増殖させた。この時点で、星状グリア細胞はコンフルエントな単層を形成し、ニューロン、乏突起膠細胞、および線維芽細胞がその上で増殖していた。これらの混入している細胞を、そのフラスコを暖かい部屋で250毎分回転数で一夜回転振盪することにより除去した。得られた培養物は95%より多くの星状細胞で構成されており、それはGFAPに対して向けられた抗体との免疫反応性により決定された。これらの培養物を増殖させ(expanded)、その手順を繰り返し、これらの培養物中の星状細胞の百分率は99%を超えていると決定された。
【0053】
培養した腫瘍細胞および星状細胞の走査電子顕微鏡画像化法。ヒト乳癌MDA−MB−231細胞およびマウス星状細胞を、5%FBSを含有するDMEM中で、24ウェルプレート中の滅菌されたカバーガラス上に、2.4×10細胞の密度で蒔いた。48時間後、そのカバーガラスを取り出し、0.1Mカコジル酸緩衝液(pH 7.3)中で3%グルタルアルデヒド/2%パラホルムアルデヒド(parpformaldehyde)/7.5%スクロースを含有する溶液中で室温で1時間固定した。次いでその試料を0.1mカコジル酸緩衝液で洗浄し、7.5%スクロースを含有する1%カコジル酸緩衝四酸化オスミウムで1時間後固定した(post−fixed)。その試料を0.1Mカコジル酸緩衝液、続いて蒸留水で洗浄し、ミリポア濾過した水性1%タンニン酸で暗所において30分間、蒸留水中で洗浄、そしてミリポア濾過した1%水性酢酸ウラニルで暗所において1時間、連続的に処理した。その試料を蒸留水で完全にすすぎ、エタノールの上昇系列を通して脱水し、次いで増大する濃度のヘキサメチルジシラザンの段階的な系列にそれぞれ5分間移し、一夜空気乾燥させた。試料を、アルミニウムの標本台(Electron Microscopy Sciences、ペンシルバニア州フォートワシントン)上に前もって据え付けた二重厚(double−thick)カーボンタブ(Ted Pella, Inc.、カリフォルニア州レディング)の上にマウントした。次いでその試料を、Balzer MED 010エバポレーター(Technotrade International、ニューハンプシャー州マンチェスター)を用いた真空の下で、プラチナ合金で25nmの厚さに被覆し、次いですぐに真空下でフラッシュ炭素被覆した。その試料を、後日の試験のためにデシケーターに移した。試料をJSM−5910走査電子顕微鏡(JEOL, Inc.、マサチューセッツ州ピーボディ)を用いて5kVの加速電圧で試験した。
【0054】
結果
結果を図1に示す。MDA−MB−231乳癌細胞(T)およびマウス星状細胞(A)のインビトロ培養物を、走査電子顕微鏡により評価した。星状細胞(ポッドフットを伸ばしている)と腫瘍細胞の間の直接的な接触は明らかである。単一の星状細胞は多数の腫瘍細胞と接触することができる。これらは、完全に形成された中枢神経系の星状細胞およびニューロンの間で見られる種類のギャップ結合であるように見える。類似の結果が、黒色腫、乳癌、および肺癌細胞株に関して見られる(示していない)。
【0055】
実験3−ギャップ結合アッセイ
図1で示したギャップ結合の機能的性質をさらに検証するため、本発明者らは染料移動実験を実施して実験2で見られたギャップ結合のような構造が機能しているかどうかを確かめた。
【0056】
材料および方法
ギャップ結合コミュニケーション。受容側の腫瘍細胞(MDA−MB−231)と供与側の細胞(星状細胞、3T3細胞、MDA−MB−231)の間のギャップ結合コミュニケーションを、染料の移動を測定するフローサイトメトリーにより分析した。簡潔には、受容側の細胞(300,000細胞/ウェル)を6ウェルプレート中に蒔き、一夜培養した。その時点で、供与側の細胞を1μg/mlのグリーンカルセイン−AM(Molecular Probes)で45分間標識し、続いて十分に洗浄した。供与側の細胞(60,000細胞/ウェル)を受容側の細胞と、直接またはトランスウェルチャンバー(Transwell−Boyden Chamber、0.4p.m孔径;Costar、ニューヨーク州コーニング)中でのどちらかで5時間共培養した。細胞を収集し、洗浄し、エタノール中で固定し、フローサイトメトリーにより分析した。ギャップ結合の形成を、シフトしたFITCのピークのパーセントとして算出した(S9〜S11)。
【0057】
結果
図2に示したように、星状細胞−転移癌細胞の共培養物は、共培養された細胞の間での染料の移動を示した。従って、本発明者の共培養系は、マウスの星状細胞およびヒトの転移癌細胞株の間で形成された有効なギャップ結合をもたらした。対照のトランスウェル実験は、これが真の細胞間相互作用であることを実証した。従って、本発明の第2観点は、例えば操作可能な生体外での設定におけるヒトの転移性脳癌の星状細胞との相互作用の現象の研究において有用である、インビトロマウス星状細胞−ヒト転移細胞共培養系である。
【0058】
実験4−化学保護アッセイ
脳転移の化学療法抵抗性のモデル化は、前述のインビボモデル系およびインビトロ細胞共培養系の両方に関する主要な用途であり、主要な用途であろう。細胞に基づく共培養系は実験操作をより受け入れやすいため、インビボで見られた脳転移の化学療法抵抗性が細胞に基づく培養系により再現されるかどうかを決定するために、それをさらに評価した。
【0059】
材料および方法
インビトロ共培養化学保護アッセイ。星状細胞およびNIH 3T3線維芽細胞に、以前に記述したようにGFP遺伝子を形質移入した(S5、S6)。標的の腫瘍細胞、星状細胞、または3T3線維芽細胞を、60〜70%コンフルエント培養物から、0.1%EDTA/PBS中0.25%トリプシン溶液への短時間(2分間)の曝露により収集した。その細胞を、培養フラスコを威勢よく(briskly)軽くたたくことにより取り外し、CMEM中で再懸濁した。マウス星状細胞、3T3線維芽細胞、および腫瘍細胞を、無菌の6ウェル組織培養マルチウェルディッシュの直径35mmのウェルのそれぞれの上に、単独で、または1:2の腫瘍細胞/星状細胞/3T3細胞の比率での共培養物として蒔いた。その細胞を、加湿した37℃の培養器中で、6.4%二酸化炭素+空気の雰囲気中で一夜接着させた。次いでその培養物を洗浄し、新しいCMEM(陰性対照)または様々な濃度のTAXOL(登録商標)(パクリタキセル;NDC 0015−3476−30, Bristol−Myers Squibb、ニュージャージー州プリンストン)および他の化学療法薬(下記参照)を含有する培地と共に培養した。72時間後、GFP標識された星状細胞またはNIH 3T3細胞を選り分け、ヨウ化プロピジウム染色およびFACS分析により腫瘍細胞のアポトーシス画分を決定した(下記参照)。腫瘍細胞および星状細胞(または対照の役目を果たす線維芽細胞)の間の直接的な接触が化学療法への耐性の誘導をもたらすのに必須であるかどうかを決定するため、我々はTranswell−Boydenチャンバーを用いてその共培養アッセイを実施し、すなわち、腫瘍細胞をチャンバー中に、Immorto星状細胞(ImmortoAstrocytes)(または線維芽細胞)をウェル中に蒔いた。72時間の培養の後、腫瘍細胞の相対的アポトーシス指数を下記で記述するように決定した。
【0060】
インビトロでの研究の第2セットにおいて、我々は、星状細胞に仲介される腫瘍細胞の化学療法薬に対する耐性の誘導が一時的であるか永久的であるかを決定した。ヒト肺癌PC14Br4細胞を、培地のみまたは5ng/mlパクリタキセルを含有する培地中で、星状細胞または3T3線維芽細胞のどちらかと共培養した。72時間後、その星状細胞または3T3細胞を腫瘍細胞からFACSにより分離し、腫瘍細胞の相対的アポトーシス指数を、多数のウェルにおいて、下記のようなヨウ化プロピジウム染色により決定した。並行するウェルから、我々は生存している腫瘍細胞を回収し、それらを星状細胞または3T3細胞の異なる単層の上に再度蒔いた。これらの共培養は、最初は星状細胞と、次いで星状細胞もしくは3T3細胞のどちらかと共培養された腫瘍細胞の、または最初は3T3細胞と共に、次いで3T3細胞もしくは星状細胞のどちらかと共に培養された腫瘍細胞の共培養であった。次いでその第2ラウンドの共培養物に5ng/mlのパクリタキセルを含有する培地を与えた。72時間後、腫瘍細胞の相対的アポトーシス指数を、ヨウ化プロピジウム染色およびFACS分析により決定した。
【0061】
ヨウ化プロピジウム染色およびFACS分析のための調製。浮遊している細胞を含有する上清の培地をそれぞれのディッシュから15mlコニカル遠心チューブの中に集めた。付着した細胞を、細胞を0.1%EDTA/PBSを含有する溶液中の0.25%トリプシンに短時間曝露することにより収集した。細胞を対応する上清培地と組み合わせた。その試料を100gで5分間の遠心分離によりペレットにした。そのペレットを10mlのHBSS中で再懸濁し、さらに100gで5分間でペレットにした。その試料をボルテックスにより再懸濁し、その細胞を1mlの1%パラホルムアルデヒド中で室温で10分間固定した。次いでその試料をポリプロピレン微量遠心チューブの中に移し、固定された細胞を1mlのPBS中で洗浄し、次いで10,000gで1分間でペレットにした。そのペレットをボルテックスにより再懸濁し、その細胞を1mlのエタノール中で−20℃で一夜固定した。続いてその細胞をボルテックスし、微量遠心機により10,000gで1分間によりペレットにした。次いでその試料をボルテックスし、そのペレットを、RNアーゼ(15μg/ml;カタログ番号A7973,Promega、ウィスコンシン州マディソン)を含有する300のヨウ化プロピジウム(50μg/ml;カタログ番号P4864,Sigma)中で再懸濁し、37℃で20〜30分間染色した。その試料を、Coulter EPICS血球計算器(Beckman Coulter, Inc.、カリフォルニア州フラトン)を用いるFACS分析のために、最終的に5mlのプラスチック培養チューブに移した。相対的アポトーシス指数を、腫瘍細胞のアポトーシス指数/腫瘍細胞およびImmorto星状細胞または腫瘍細胞およびNIH 3T3線維芽細胞のアポトーシス指数×100(%)を比較することにより決定した(S7)。
【0062】
結果
ヒトMDA−MB−231乳癌細胞またはヒトPC14Br4肺癌細胞を星状細胞と共に培養すると、パクリタキセル(5ng/ml)と共に72時間培養した腫瘍細胞の相対的アポトーシス指数がそれぞれ58.3+8.9%(平均±標準偏差、P<0.01)および61.8±6.7%(平均±標準偏差、P<0.05)低減した(化学療法抵抗性が増大した)(が、3T3線維芽細胞と共に培養しても低減しなかった)(アポトーシス指数はスチューデントのt検定により比較された)(図3)。この低減は、腫瘍細胞と星状細胞の間の直接的な接触に依存していた。本発明者は、この結論の基礎を、腫瘍細胞と星状細胞を半透膜(Transwell−Boyden Chamber、0.4pm孔径の膜;Costar、ニューヨーク州コーニング)により分離した場合、星状細胞の化学保護作用が観察されなかったことを示すデータに置いている。腫瘍細胞の3T3線維芽細胞との共培養は、腫瘍細胞を化学療法から保護しなかった(図3)。ヒト腫瘍細胞の、H−2k−tsA58マウスから単離された線維芽細胞を用いた代わりの対照との共培養は、その腫瘍細胞を化学療法剤から保護しなかった(データは示していない)。細胞毒性の程度を決定するための標準的なMTTアッセイを用いて、類似の結果が見られた(データは示していない)。[Cory AH, Owen TC, Barltrop JA, Cory JG (July, 1991) “培養中の細胞増殖アッセイのための、水溶性テトラゾリウム/ホルマザンアッセイの使用。” Cancer Communications 3 (7): 207-212.]
これらのデータは、本明細書で開示する細胞に基づく共培養系が脳転移の化学療法抵抗性の現象を再現することを実証している。従って、その共培養系の化学療法抵抗性を再現する意外な能力は、それを化学療法抵抗性の機序およびインビボでの既存の脳転移における化学療法抵抗性を抑止するための可能性のある療法的介入の研究における使用に十分に適したものにする。
【0063】
これらの最初の実験に基づいて拡張するため、本発明者らは今日用いられている薬物の主要なクラスを代表するいくつかの追加の化学療法剤を試験した。ヒト肺癌PC14Br4細胞を、単独で、または星状細胞と共に(直接的な細胞間接触)、P−糖タンパク質と会合するアドリアマイシン(200ng/ml)、パクリタキセル(5ng/ml)、ビンブラスチン(3ng/ml)、ビンクリスチン(8ng/ml)、およびP−糖タンパク質と解離する5−FU(500ng/ml)またはシスプラチナム(2.4μg/ml)を含有する培地中で培養した。星状細胞との共培養は、全ての薬物に対する有意な(P<0.01)保護を誘導した(図4)。この意外な発見は、その細胞に基づく共培養系をさらに実証した。この細胞培養系は、星状細胞により誘導される化学療法抵抗性の頑強性を、臨床設定においてインビボで見られる脳転移の化学療法抵抗性と直接比較可能である様式で示す。従って、本発明の第3観点は、例えば星状細胞に仲介される脳転移細胞の細胞毒性化学療法に誘導される細胞死からの保護の現象の研究において有用である、インビトロでの細胞に基づく化学療法抵抗性アッセイである。特定の態様において、そのインビトロでの細胞に基づく化学療法抵抗性アッセイは、1種類以上の候補化学療法剤をスクリーニングしてその化学療法剤の細胞毒性作用に対する星状細胞に仲介される保護の程度を評価するために用いることができる。
【0064】
図5で要約した追加の実験は、星状細胞に仲介される脳転移細胞の細胞毒性化学療法に誘導される細胞死からの保護は、直接的な星状細胞−脳転移細胞の接触が失われた後72時間より長くは続かないことを示している。さらに、前の星状細胞接触により与えられた保護作用を失った細胞は、星状細胞との第2の共培養により再度保護されて化学療法剤の細胞毒性作用に対する星状細胞に仲介される保護を再獲得することができる。これは、原発腫瘍およびさらに他の非脳転移が化学療法反応性である一方で、それらに由来する脳転移は化学療法抵抗性であるという臨床での観察を反映している。
【0065】
実験5−星状細胞に仲介される化学療法抵抗性の機序
本発明者らは、上記の細胞に基づく化学療法抵抗性アッセイを、その現象の基礎をなしている可能性のある機序を調べるために適用した。遺伝子発現プロファイリング+タンパク質産生のウェスタンブロットでの確認を用いて、星状細胞に仲介される脳転移細胞の細胞毒性化学療法に誘導される細胞死からの保護を調べた。
【0066】
材料および方法
RNAマイクロアレイ分析による遺伝子発現プロフィール。この第1セットの実験において、MDA−MB−231またはPC14Br4細胞を単独で、マウス星状細胞と共に、またはNIH 3T3線維芽細胞と共に、直径35mmの6ウェルプレート(カタログ番号353046、BD Falcon TM、カリフォルニア州サンノゼ)中で培養した。細胞間接触を確かめるため、腫瘍細胞のマウス星状細胞またはNIH 3T3細胞に対する比率は1:2であった。72時間後、GFP標識されたマウス星状細胞または線維芽細胞をFACSにより選り分け、腫瘍細胞をマイクロアレイ分析のために処理した。第2セットの実験において、我々は腫瘍細胞の化学療法薬に対する抵抗性と関係する遺伝子の発現が星状細胞との連続的な接触に依存しているのかどうかを決定した。MDA−231またはPC14Br4細胞をマウス星状細胞またはNIH 3T3細胞のどちらかと72時間共培養した。マウス星状細胞またはNIH 3T3細胞を選り分け、腫瘍細胞をマイクロアレイ分析により遺伝子発現プロフィールを決定するために処理し、またはマウス星状細胞もしくは線維芽細胞のどちらかとの第2ラウンドの共培養のために蒔いた。従って、最初にマウス星状細胞と共に培養された腫瘍細胞を、マウス星状細胞と、または線維芽細胞と再度共培養し、逆に、最初に線維芽細胞と共に培養された腫瘍細胞を、線維芽細胞または星状細胞と再度共培養した。72時間の培養の後、マウス星状細胞または線維芽細胞を選り分け、腫瘍細胞をマイクロアレイ分析のために処理した。
【0067】
マイクロアレイ分析。全RNA(500ng)を、製造業者のプロトコル(Illumina, Inc.、カリフォルニア州サンディエゴ)に従う標識およびハイブリダイゼーションのために用いた。簡潔には、IlluminaR Total Prep RNA増幅キット(Applied Biosystem、テキサス州オースティン)を用いて全RNAからcDNAを生成した。次に、37℃で4時間インビトロ転写を行ってビオチン標識ヌクレオチドをcRNAの中に組み込んだ。合計で1500ngのビオチン標識cRNAを、製造業者の説明書に従って、IlluminaのSentrixR human 6−v2 Expression BeadChipに58℃で一夜(16時間)ハイブリダイズさせた。ハイブリダイズしたビオチン化cRNAを、1μg/mlのシアニン3−ストレプトアビジン(GE Healthcare、ニュージャージー州ピスカタウェイ)を用いて検出し、そのBeadChipをIllumina BeadArray Reader(Illumina, Inc.)を用いて走査した。マイクロアレイデータの結果を、正規化またはバックグラウンドの減算は一切無しで、Bead Studio 3.7(Illumina, Inc.)を用いて抽出した。遺伝子発現データを、R(www.r−project.org)中のLIMMAパッケージ中の変位値正規化法を用いて正規化した(S12)。さらなる分析の前に、それぞれの遺伝子の発現レベルをIog2に変換した。組織の2つのグループにおいて差次的に発現している遺伝子を選択するため、我々はBRB Array Tools(v 3.6; Biometrics Research Branch、国立癌研究所、メリーランド州ベセスダ)中のクラス比較ツールをFDRの見積もりによる2標本t検定のための方法として用いた。
【0068】
ウェスタンブロット分析。ウェスタンブロットを用いてマイクロアレイの結果を確認した。簡潔には、FACSで選り分けられた腫瘍細胞の全細胞溶解物を、プロテアーゼ阻害剤混合物(Roche、インディアナ州インディアナポリス)を含有する1mlの溶解緩衝液(10mMトリス[pH 8.0]、1mM EDTA、0.1% SDS、1%デオキシコレート、1% NP40、0.14M NaCl、1μg/mlロイペプチン、1μg/mlアプロチニン、および1μg/mlペプスタチン)を用いて調製した。等しい量のタンパク質(30fag)を含有する試料を、4〜12% Nu−PAGEゲル(Invitrogen)上での電気泳動により分離し、ニトロセルロース膜に転写した。5%脱脂乳を含有するTTBS(TBS + 0.1% Tween20)を用いたブロッキングの後、その膜をBCL2に対するマウスモノクローナル抗体(1:1,000、BD PharMingen、カリフォルニア州サンディエゴ)、BCL2L1に対するウサギポリクローナル抗体(1:1,000、Cell Signaling、マサチューセッツ州ビバリー)、TWISTに対するウサギポリクローナル抗体(1:1000、Cell Signaling)、グルタチオンS−トランスフェラーゼに対するマウスモノクローナル抗体(1:1,000、BD PharMingen)、I3−アクチンに対するマウスモノクローナル抗体(Sigma)と共に4℃で一夜保温した。次いでブロットをホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体(1:3000)にさらし、Amersham(ニュージャージー州ピスカタウェイ)からの増強された化学発光システムにより可視化した。等しいタンパク質の装填(loading)は、ブロットを剥がして抗13−アクチン抗体を用いてそれらを再検出する(re−probing)ことにより確認された。
【0069】
統計分析。遺伝子発現プロフィールの統計分析のため、それぞれの遺伝子の発現レベルをさらなる分析の前にlog2に変換した。FDRの見積もりによる2標本t検定のためのBRB Array Tools(v3.6;Biometrics Research Branch、国立癌研究所、メリーランド州ボルチモア)中のクラス比較ツールは、異なる宿主細胞と共培養された腫瘍細胞の間で差次的に発現していた遺伝子の統計的有意性を決定するために用いられた方法であった。ベン図のための遺伝子を、一変量検定(2標本t検定)と多変量並べ替え検定(10,000のランダムな並べ替え)により選択した。我々は、その発現が試験した組織の2個のグループの間で有意に異なっている遺伝子を保持するために、0.001未満のカットオフP値を適用した。
【0070】
結果
本発明者らは、その発現が一般に星状細胞との共培養の後に変化する腫瘍細胞の遺伝子を、2標本t検定を適用することにより同定した(P<0.001)。この手順を用いて、本発明者らは、MDA−MB−231細胞において差次的に発現している1069個の遺伝子、およびPC14Br4細胞において差次的に発現している594個の遺伝子を同定した(図7)。2つの遺伝子リストの比較は、抗アポトーシスおよび生存と関係することが周知であるいくつかの遺伝子:グルタチオンSトランスフェラーゼ5(GSTA5)、BCL2L1、TWISTの増大した発現を明らかにした(図7)。これらの遺伝子の発現は、ウェスタンブロット分析によりタンパク質レベルで確認された(図8)。次いで本発明者らは、星状細胞と共培養された腫瘍細胞におけるその変化した(線維芽細胞とでは変化しなかった)遺伝子発現パターンが永久的であるか一時的であるかを決定した。本発明者らは、腫瘍細胞を星状細胞または線維芽細胞と1サイクル共培養し、次いでその腫瘍細胞を回収し、それらを第2ラウンドにおいて星状細胞または線維芽細胞上に蒔いた。その2サイクルの共培養実験から遺伝子実験データを収集した際、その癌細胞の遺伝子発現パターンにおいて2度目の共培養の影響が優勢であった。1度目の共培養条件にかかわらず、第2サイクルにおいて星状細胞と共培養された癌細胞は、第1サイクルの培養実験において検出されたものと違いを示す遺伝子発現サインを示し(GSTA5、BCL2L1、およびTWISTの高発現)、一方で第1ラウンドにおいて星状細胞と共培養された癌細胞は、それらが第2ラウンドにおいて線維芽細胞と共培養された場合、その特異的な遺伝子発現サインを失った(図9)。この結果は、図5で要約したインビトロ化学保護アッセイの結果のそれと類似しており、腫瘍細胞における遺伝子発現パターンが星状細胞との絶え間ない接触に依存することを証明している。第2ラウンドにおいて星状細胞と共培養された腫瘍細胞は、高レベルのTCF4、CD24、CARD14、およびEFNB2遺伝子も発現していた(データは示していない)。腫瘍細胞のこれらの遺伝子の発現は乏しい予後と相関していることが臨床試験により示されている。従って、本発明の第4観点は、例えば生体外での設定における星状細胞に仲介される脳転移細胞の細胞毒性化学療法に誘導される細胞死からの保護の現象の研究において有用である分子診断構成要素を有する、インビトロでの細胞に基づく化学療法抵抗性アッセイである。特定の態様において、その分子診断構成要素は、遺伝子発現プロファイリング工程および細胞のタンパク質濃度の分析の1つ以上である。特定の態様において、予め決められた遺伝子発現サインを用いて、実験的介入が例えば星状細胞に仲介される保護を抑止する作用を評価する。本発明の第5観点は、星状細胞に仲介される脳転移細胞の細胞毒性化学療法に誘導される細胞死からの保護を示す遺伝子発現サインまたはタンパク質発現プロフィールの組み合わせである。第6観点は、上記で記述し、例証したような、前記の遺伝子サインまたはタンパク質レベルのプロフィールを生成するプロセスである。
【0071】
実験6−腫瘍細胞および星状細胞によるエンドセリン受容体の発現
300,000個のMDA−MB−231ヒト乳癌細胞を、600,000個のGFP標識した星状細胞と共に、またはGFP標識した3T3線維芽細胞と共に24時間培養した。次いでその細胞を収集し、選り分けてMDA−MB−231細胞を分離した。タンパク質を抽出し、ウェスタンブロットにより分析し、抗ETR抗体とハイブリダイズさせた。図10に示したデータは、星状細胞と共培養された腫瘍細胞がより高いレベルのETRを発現していることを明確に示している。
【0072】
研究の次のセットにおいて、10,000個のGFP標識したMDA−MB−231細胞を20,000個の星状細胞とチャンバースライド中で共培養した。24時間後、その培養物をタキソール(15ng/ml)で24時間処理し、次いでリン酸化されたpAKTに関して染色した(4% PFA固定)。図11に示したように、星状細胞(およびタキソール)と共培養された腫瘍細胞は高レベルのpAKTを発現していた。従って、星状細胞との共培養は、腫瘍細胞の化学療法薬に対する増大した耐性と相関している腫瘍細胞によるETRおよび生存因子の発現を増大させた。抗ETR抗体を用いた類似の研究は、ETRの発現を明らかにした。
【0073】
実験7−エンドセリン受容体拮抗薬は腫瘍細胞に対して細胞毒性作用をもたらさない
上記のインビトロでの細胞に基づく化学療法抵抗性アッセイのスキームを用いて、本発明者らは二重ETARおよびETBR親和性を有する2種類のエンドセリン受容体拮抗薬を試験し、その化学療法剤の細胞毒性作用に対する星状細胞に仲介される保護の程度を評価した。試験した1つのETR拮抗薬は、EMEAにより肺動脈高血圧(PAH)の処置における使用に関して承認されているボセンタンであった。試験した第2の薬物はACT−064992と呼ばれ、それはやはり二重ETAR/ETBR親和性を有するボセンタンの誘導体である。ACT−064992は正式にはマシテンタンと呼ばれ、構造[N−[5−(4−ブロモフェニル)−6−(2−(5−ブロモピリミジン−2−イルオキシ)エトキシ)−ピリミジン−4−イル]−N’−プロピルアミノスルホンアミド]を有する:
【0074】
【化1】

【0075】
Iglarz M, et al., 経口で有効な組織標的化二重エンドセリン受容体拮抗薬であるマシテンタンの薬理学, J Pharmacol Exp Ther. 2008 Dec;327(3):736-45. Epub 2008 Sep 9。ACT−064992分子、それの合成およびそれの薬理学的活性の最初の開示は、WO02/053557において見つけることができる。ACT−064992はボセンタンよりもおおよそ3倍医薬的に有効である(すなわち、それは1/3の用量を必要とする)。本明細書における詳細なデータはACT−064992の実験に言及するが、より高い用量のボセンタンの実験により類似の結果が得られる。
【0076】
ACT−064992(100nM)を、上記の細胞に基づく共培養アッセイに、1:2の腫瘍細胞:星状細胞または腫瘍細胞:3T3線維芽細胞の比率で48時間添加し、アポトーシスの程度を上記のように測定した。図12(MDA−231乳癌)および図13(PC14肺癌)において示したように、単独で、または星状細胞と共に、または3T3線維芽細胞と共に添加されたACT−064992は、測定可能な細胞毒性作用を全くもたらさなかった。
【0077】
実験8−化学療法剤との併用でのエンドセリン受容体拮抗薬
上記で示したようなETR拮抗薬は、単剤化学療法としては効果がない。この否定的な結果は、併用療法の構成要素としてのETR拮抗薬に関して見られた劇的な作用を非常に意外なものにした。共培養実験において、細胞培養の比率は1:2 腫瘍細胞:星状細胞(50,000:100,000)であり、処理はパクリタキセル(TAXOL(登録商標))(6ng/ml)および/またはACT−064992(100nM)を用いて48時間であった(図15;*p<0.01)。MDA−MB−231細胞を用いた対照実験に関して、前の実験におけるものと同じ星状細胞に仲介されるパクリタキセルからの保護が起こった。これらの併用実験から2つの驚くべき結果があった。第1に、星状細胞を欠く対照におけるパクリタキセルおよびACT−064992の併用は、パクリタキセル単独を超える細胞死の有意な増大をもたらさなかった。これは少なくとも3つの独立した実験において見られた(図15)。これらの結果はヒト肺癌細胞PC14Br4を用いて再現された(図16)。従って、試験した条件の下で、ETR拮抗薬は、単剤として実験6で観察されたように、併用でも効果がなかった。腫瘍細胞−星状細胞の共培養において、ACT−064992は星状細胞に仲介されるパクリタキセルからの保護を無効にする意外な能力を示した。さらにもっと驚いたことに、ACT−064992は実際には星状細胞無しの対照実験と比較してパクリタキセルの有効性を高め、転移腫瘍細胞をパクリタキセルに対して過敏化した。ACT−064992の星状細胞および腫瘍細胞の共培養物への添加は、生存因子pAKTおよびpMAPKの発現を阻害した(図17)。この阻害は、化学療法薬により仲介される腫瘍細胞の死の増大と直接相関していた。星状細胞を欠く実験は相加効果すら示さなかったため、この相乗作用はさらにもっと驚くべきものになった。併用療法におけるETR拮抗薬の作用は、共培養された星状細胞を欠く標準的な腫瘍細胞株のアッセイスキームでは見られなかったであろうから、これらの劇的な結果は本明細書で開示する新規の共培養スクリーニング法の重要性を示している。従って、本発明の第7観点は、対象において既存の脳転移腫瘍を処置するための、1種類以上の他の細胞毒性化学療法剤および/または放射線療法との併用でのエンドセリン受容体拮抗薬の使用である。特定の態様において、この併用療法は既存の脳転移をETR拮抗薬と同時投与された細胞毒性化学療法剤および/または放射線療法に対して過敏化する。
【0078】
既存の脳転移のためのインビボでのエンドセリン受容体拮抗薬療法
エンドセリン受容体拮抗薬(単数または複数)および同時投与される化学療法剤のインビボでの送達は、このクラスの化合物の様々なメンバーに関して既に開発され、前の臨床試験で用いられた同じ経口および/または全身送達により達成することができる。そのような療法計画の開発および最適化は、当技術において型にはまった手順である。[臨床試験:設計、分析および報告のための実用的な手引き Ameet Bakhai and Duolao Wang編。Remedica, London 2005.]脳癌に特有の1つの問題は、血液脳関門の影響である。これは長い間脳転移に関する全身処置を妨げる技術的な問題として挙げられてきたが、当技術は今日、微小転移巣においてさえも血液脳関門が部分的に混乱している(disrupted)ことを認識している。[Cavaliere R. and Schiff D., 化学療法および脳転移:誤解か真実か? Neurosurg Focus. 2007 Mar 15;22(3):E6.]従って、エンドセリン受容体拮抗薬(単数または複数)の全身送達は脳転移腫瘍に浸透し、療法的作用を有するであろうと期待するのは理にかなっている。加えて、エンドセリン受容体拮抗薬(単数または複数)ファミリーの特定のメンバーは完全な血液脳関門さえも越える能力を有しており、従って、それらをインビボでの脳転移腫瘍療法における使用に特に適したものにする。[Vatter H, et al., 脳血管痙攣の処置に関して臨床的に有効であることが示された最初の非ペプチド性エンドセリン受容体拮抗薬であるクラゾセンタンの脳血管的特性付け。第2部:エンドセリン(B)受容体に仲介される弛緩への作用。 J Neurosurg. 2005 Jun;102(6):1108-14.]最後に、エンドセリン受容体拮抗薬(単数または複数)の直接的な腫瘍への注入または注射は、その転移腫瘍の大きさがそのようなアプローチを実現可能にする場合は適切である可能性がある。
【0079】
マウスにおける脳転移に関するインビボ療法
既存の脳転移に関するエンドセリン受容体拮抗薬療法の有効性をさらに検証するため、本発明者らはマウスを用いて典型的なインビボでの実験を実施した。ヌードマウスに10,000個の生存可能なMDA231細胞を、内頚動脈を経由して注射した。予備的な病理学研究は、注射後2週間で視認できる確立された転移が形成されたことを明らかにした(データは示していない)。従って、本発明者はこの時点で処置を開始した。
【0080】
実験9−インビボでの腫瘍成長へのACT−064992およびテモゾロミドの作用
ヌードマウスに、10000個の生存可能なMDA231細胞を、内頚動脈中に注射した。注射後2週間における処置グループは以下のものであった:対照(ビヒクル)(図18A);テモゾロミド(“TMZ”)、経口で毎日10mg/kg(図18B);ACT−064992、経口で毎日50mg/kg(図18C);またはTMZ+ACT−064992の併用(図18D)。
【0081】
全てのマウスを処置の28日目に殺した。脳切片を固定し、染色した。脳転移を視覚的に評価した。典型的な標本を図18A〜Dにおいて同じ倍率で示す。図18Eにおいてより詳細に見られるように、TMZおよびACT−064992の併用はTMZ単独と比較して転移腫瘍の大きさおよび密度を劇的に低減させた。これは、上記の細胞培養系の結果がインビボで観察された作用と直接相関していることを示している。
【0082】
実験10−インビボでの腫瘍成長へのACT−064992およびパクリタキセルの作用
メスのヌードマウス(10〜12週齢)に、10,000個の生存可能なMDA231細胞を、内頚動脈中に注射した。脳転移が確立された注射の2週間後に、マウスを4つの処置グループ(n=10)中に無作為に分けた:1)対照(ビヒクル溶液を注射した);2)パクリタキセル(1週間につき1回腹腔内に8mg/kgを投与した);3)ACT−064992(1日につき1回経口で50mg/kgを投与した);ならびに4)ACT−064992およびパクリタキセルの併用。全てのマウスを処置の28日後に安楽死させ、検死解剖した。脳を組織学的研究および免疫組織化学のために集めた。典型的な結果を図19Aに示す。対照(19A)、ACT−064992(19B)およびパクリタキセル(19C)全てが明確な転移腫瘍を有している。対照的に、ACT−064992+パクリタキセルのグループ(19D)は、はるかに小さい腫瘍細胞のコロニーを有していた。
【0083】
テモゾロミドおよびパクリタキセルに関する結果は、エンドセリン受容体拮抗薬療法が脳転移を化学療法剤に対して広く敏感にすることを示している。
実験11−インビボでの腫瘍細胞増殖へのACT−064992およびパクリタキセルの作用
4つの処置グループからの代表的な脳組織薄片を、CD31(内皮細胞のマーカー)およびKi67(細胞増殖のマーカー)に関して染色した。対照のマウス、パクリタキセルのみ、またはACT−064992のみで処置したマウスの脳は、多数の増殖している細胞を含有していた。はっきりと対照的に、パクリタキセルおよびACT−064992の両方で処置したマウスの脳は、ごく少数の分裂している細胞しか含有していなかった。それぞれ図20A、B、CおよびD。
【0084】
実験12−インビボでの腫瘍細胞のアポトーシスへのACT−064992およびパクリタキセルの作用
異なる処置グループからのマウスの脳組織薄片を、インサイチュでの末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(TUNEL)により分析した。Negoescu A, et al., J Histochem Cytochem. 1996 Sep;44(9):959-68。対照のマウス、タキソールで処置したマウス、およびACT−064992で処置したマウスの脳は、アポトーシス性の細胞をほとんど〜全く有していなかった。図21A〜C。はっきりと対照的に、ACT−064992+タキソールの併用で処置したマウスの脳は、多数のアポトーシス性の腫瘍細胞(緑)および内皮細胞(黄色)を有していた(図21D)。
【0085】
実験13
4つの処置グループからのマウスの脳組織薄片を、ETR(赤)およびホスホセリン(緑)に関して免疫染色し、同時局在は橙〜黄色をもたらした。対照の脳はリン酸化されたETRを発現しており、パクリタキセルで処置したマウスからの脳も同様であった(図22A〜B)。ACT−064992のみでの、およびACT−064992+パクリタキセルでの処置はETRのリン酸化を妨げた(図22C〜D)。この結果は、エンドセリン受容体拮抗薬活性と転移腫瘍の化学療法剤への敏感化の相関を確証している。
【0086】
実験14
実験的なヒトMDA231乳癌脳転移のACT064992およびタキソールを用いた処置に関する生存研究
実験の詳細
5×10個のMDA231細胞を、実験10のプロトコルに従って注射した。注射後14日目に実験10のプロトコルに従って処置を開始した。生存曲線を引き、p値を得て、処置グループの間で統計的有意性を比較した。
【0087】
処置グループ
対照(ビヒクル):毎日の経口投与および週1回の腹腔内注射。
パクリタキセル(5mg/kg):毎日の経口でのビヒクル投与および週1回のパクリタキセルの腹腔内注射。
【0088】
ACT064992(10mg/kg):毎日の経口でのACT064992投与および週1回のパクリタキセルの腹腔内注射。
結果
死亡日(処置後)
対照:42、43、53、60、64、68、68、69、69
パクリタキセル:49、53、60、63、74、74、78
ACT064992:51、63、68、75、78、82
パクリタキセル+ACT:48
【0089】
【化2】

【0090】
ETまたはETのIC50の決定のための試験:
競合結合の試験のため、ヒトの組み換えETまたはET受容体を発現しているCHO細胞の膜を用いた。組み換えCHO細胞からのミクロソーム膜を調製し、以前に記述されたように結合アッセイを行った(Breu V., et al, FEBS Lett. (1993), 334, 210)。
【0091】
アッセイは、ポリプロピレンマイクロタイタープレートにおいて、200μLの25mM MnCl、1mM EDTAおよび0.5%(w/v)BSAを含む50mMトリス/HCl緩衝液、pH7.4中で実施された。0.5ugのタンパク質を含有する膜を8pM [125I]ET−1(4000cpm)および増大する濃度の未標識の拮抗薬と共に20℃で2時間保温した。ET−1を含まない、および100nM ET−1を含む試料において、それぞれ最大および最小の結合が見積もられた。2時間後、その膜をGF/Cフィルターを含有するフィルタープレート(Canberra Packard S.A. スイス、チューリヒからのUnifilterplate)上で濾過した。それぞれのウェルに、50μLのシンチレーション混合物を添加し(MicroScint 20, Canberra Packard S.A. スイス、チューリヒ)、そのフィルタープレートをマイクロプレート計数器(TopCount, Canberra Packard S.A. スイス、チューリヒ)で計数した。
【0092】
全ての試験化合物は、DMSO中で溶解させ、希釈し、添加した。そのアッセイは2.5%DMSOの存在下で行われ、それは結合を有意に妨げないことが分かっている。IC50を、ET−1の特異的な結合の50%を阻害する拮抗薬の濃度として計算した。
【0093】
背景の参考文献:
【0094】
【化3】

【0095】
【化4】

【0096】
技術的参考文献:
【0097】
【化5】

【0098】
本明細書で引用された、またはそうでなければ同定された全ての参考文献をそのまま、そして特にそのためにそれらが引用されたあらゆる特定の情報に関して、本明細書に援用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞毒性化学療法剤、放射線療法、または両方との併用での、脳転移の予防または処置における使用のためのエンドセリン受容体拮抗薬。
【請求項2】
二重エンドセリン受容体拮抗薬である、請求項1に記載の脳転移の予防または処置における使用のためのエンドセリン受容体拮抗薬。
【請求項3】
ボセンタン、マシテンタンならびにボセンタンおよびマシテンタンの混合物からなるグループから選択される、請求項1または2に記載の脳転移の予防または処置における使用のためのエンドセリン受容体拮抗薬。
【請求項4】
それによりそのエンドセリン受容体拮抗薬がボセンタン、マシテンタンおよびそれらの混合物からなるグループから選択され、それが細胞毒性化学療法剤と共に用いられることが意図されている、請求項1〜3の内の1項に記載の脳転移の予防または処置における使用のためのエンドセリン受容体拮抗薬。
【請求項5】
その細胞毒性化学療法剤がパクリタキセル、テモゾロミドならびにパクリタキセルおよびテモゾロミドの混合物からなるグループから選択される、請求項4に記載の脳転移の予防または処置における使用のためのエンドセリン受容体拮抗薬。
【請求項6】
そのエンドセリン受容体拮抗薬がボセンタン、マシテンタンならびにボセンタンおよびマシテンタンの混合物からなるグループから選択される、請求項4に記載の脳転移の予防または処置における使用のためのエンドセリン受容体拮抗薬。
【請求項7】
星状細胞に仲介される脳転移細胞の細胞毒性化学療法に誘導される細胞死からの保護を阻害する方法であって、その方法が有効量のエンドセリン受容体拮抗薬を脳転移細胞および星状細胞に投与して星状細胞に仲介される保護を阻害する工程を含む、前記方法。
【請求項8】
星状細胞に仲介される脳転移細胞の細胞毒性化学療法に誘導される細胞死からの保護を阻害する方法であって、その方法が、有効量のエンドセリン受容体拮抗薬を脳転移細胞および星状細胞に投与して星状細胞に仲介される保護を阻害し、さらにその脳転移細胞を細胞毒性化学療法に誘導される細胞死に対して過敏化する工程を含む、前記方法。
【請求項9】
さらに少なくとも1種類の細胞毒性化学療法剤を脳転移細胞に投与する工程を含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
その脳転移細胞が対象中の既存の脳転移腫瘍中に含まれるか、またはその脳転移細胞が単離された細胞であるかのどちらかである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
その細胞毒性化学療法剤がパクリタキセル、ドキソルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、5−フルオロウラシル、シスプラチン、シクロフォスファミド、エトポシド、テニポシド、マイトマイシン、イリノテカン、ビノレルビン、イホスファミドおよび/またはテモゾロミドの少なくとも1種類である、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
そのエンドセリン受容体拮抗薬がマシテンタン、シタキセンタン、テゾセンタン、クラゾセンタン、アブリセンタン(abbrisentan)、ボセンタンおよび/またはアトラセンタンの内の1種類以上である、請求項7〜11の内の1項に記載の方法。
【請求項13】
その対象がヒトであり、場合によりさらにそのヒトの対象において既存の脳転移腫瘍のケア緩和および/または療法処置の標準を施す工程を含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
ケア療法処置の標準が与えられ、そのケア療法処置の標準が全脳放射線療法または定位放射線手術の一方または両方である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
対象において既存の脳転移腫瘍を処置する方法であって、前記の対象にエンドセリン受容体拮抗薬および少なくとも1種類の細胞毒性化学療法剤の組み合わせを投与することを含む、前記方法。
【請求項16】
ヒト癌転移細胞脳腫瘍を有するマウスであって、そのマウスがさらにa)そのヒト癌転移脳腫瘍を処置するのに療法的に有効な量の少なくとも1種類の細胞毒性化学療法剤およびb)星状細胞に仲介されるヒト癌転移脳腫瘍の保護を阻害するのに十分な量の少なくとも1種類のエンドセリン受容体拮抗薬を含む、前記マウス。
【請求項17】
単離された星状細胞が単離された癌細胞とギャップ結合コミュニケーションしている、単離された星状細胞−癌細胞複合体。
【請求項18】
その単離された星状細胞がマウスの星状細胞であり、その単離された癌細胞がヒトの癌細胞である、請求項17に記載の単離された星状細胞−癌細胞複合体。
【請求項19】
その単離された癌細胞株の細胞がMDA−MB−231またはPC14Br4である、請求項18に記載の単離された星状細胞−癌細胞複合体。
【請求項20】
a)単離された星状細胞を提供し、b)癌細胞を提供し、c)その提供された細胞を、その細胞の間でギャップ結合が形成されるのに十分な時間の間共培養し、それにより星状細胞−癌細胞複合体が形成される工程を含む、単離された星状細胞−癌細胞複合体を形成する方法。
【請求項21】
その単離された星状細胞がマウスの星状細胞であり、その単離された癌細胞がヒトの癌細胞である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
その単離された癌細胞株がMDA−MB−231またはPC14Br4である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
さらに1種類以上の候補化学療法剤を添加してその化学療法剤の細胞毒性作用に対する星状細胞に仲介される保護の程度を評価する工程を含む、請求項20、21または22に記載の方法。
【請求項24】
さらに分子診断工程を実施してその化学療法剤の細胞毒性作用に対する星状細胞に仲介される保護に対応する分子プロフィールの同定を提供する工程を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
その分子診断工程が差次的遺伝子発現測定または差次的細胞タンパク質濃度測定の内の1種類以上である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
その差次的遺伝子発現測定が遺伝子チップを用いて実施される、請求項25に記載の方法。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図14A】
image rotate

【図14B】
image rotate

【図14C】
image rotate

【図14D】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18A】
image rotate

【図18B】
image rotate

【図18C】
image rotate

【図18D】
image rotate

【図18E】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公表番号】特表2013−501791(P2013−501791A)
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−524769(P2012−524769)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/044832
【国際公開番号】WO2011/019630
【国際公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(500039463)ボード・オブ・リージエンツ,ザ・ユニバーシテイ・オブ・テキサス・システム (115)
【Fターム(参考)】