説明

エンドトキシン吸着体、およびそれを用いたエンドトキシンの除去方法

【課題】ヘパリンなど高度に酸性な物質が共存する溶液から選択的にエンドトキシンを選択除去する方法とそれに用いる吸着体を提供すること。
【解決手段】本発明は、エンドトキシン吸着体のリガンドとして用いるアミノ基含有分子に含まれるアミノ基をアミノ基と反応しうる分子で部分的に修飾する事により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドトキシン吸着体及び、それを用いたエンドトキシンの除去方法に関する。更に詳しくは、高度に酸性を示すヘパリンのような物質が共存する溶液からエンドトキシンを選択的に吸着する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンは細菌の菌体成分中にある毒性物質であり、菌が死滅する際に遊離してくるものである。エンドトキシンの構造成分はリポポリサッカライドであり、医薬品の生産プロセス中に生息する細菌が菌体内に生産し、死滅することによって、医薬品に混入する。エンドトキシンの除去方法としては、従来から、活性炭やイオン交換体による吸着体、膜やメンブレンフィルター等を使う濾過法、高温・高圧処理または酸、アルカリを使う分解法が知られている。いずれの方法も一長一短があり、工業的に用いるには問題があった。例えば、医薬品製造におけるエンドトキシンの除去は、本来の医薬品の安定性維持の面から、過酷な条件下で行う事ができなかったり、存在するエンドトキシンの量がごく微量であるため、実験室的には吸着がうまく行えても、実際の工業スケールでは満足に吸着が行えなかったり、吸着体に医薬品そのものが吸着されたりして決して満足の行くものではなかった。これに対して近年、工業的にも満足の行くエンドトキシンの吸着を可能にすべく、いくつかの吸着体が開示されている。例えば、側鎖及び/又は主鎖の末端に、脂肪族基及び/又はアリールを有する修飾基を含むポリアミノ酸より構成される吸着体が開示され(特許文献1:特公平6−16843号公報)、ポリアミノ酸球状粒子を担体とし、これにイミダゾール誘導体を結合させた吸着体が開示されている(特許文献2:特開平1−127039号公報)。また、塩基性物質を固定化して且つ吸着剤のポアサイズをコントロールしてエンドトキシンを選択的に吸着する方法が開示されている(特許文献3:特開2002−263486号公報)。
【特許文献1】特公平6−16843号公報
【特許文献2】特開平1−127039号公報
【特許文献3】特開2002−263486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これらの吸着体は高度に酸性である物質、例えばヘパリンなどが共存した場合、ヘパリンを吸着しエンドトキシンの吸着量が著しく減少するという問題があった。特にヘパリンは血液の抗凝固剤として多用される物質であり、ヘパリン含有血液などからエンドトキシンを選択的に吸着する方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、リガンドとして用いるアミノ基含有分子に含まれるアミノ基を部分的に修飾する事により、ヘパリンのような酸性物質が共存する溶液から選択的にエンドトキシンを吸着除去することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、ヘパリンなど高度に酸性な物質が共存する溶液から選択的にエンドトキシンを選択除去する方法とそれに用いる吸着体を提供するものである。
【0006】
本発明は、下記のエンドトキシン吸着体、エンドトキシンを吸着除去する方法などを提供する。
(1) アミノ基含有分子の分子内に存在するアミノ基をアミノ基と反応しうる分子で部分的に修飾したリガンドを含有するエンドトキシン吸着体。
(2) リガンドが担体に固定化されている、上記(1)に記載のエンドトキシン吸着体。
(3) 担体が、多糖類またはその誘導体である、上記(2)に記載のエンドトキシン吸着体。
(4) 多糖類が、セルロース、アガロース、デキストラン、キチンまたはキトサンである、上記(3)に記載のエンドトキシン吸着体。
(5) 担体の形状が、球状、膜状、粒状または繊維状である、上記(2)〜(4)のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
(6) 担体が、球状セルロース、球状セファロースまたは球状デキストランである、上記(5)に記載のエンドトキシン吸着体。
【0007】
(7) アミノ基含有分子がポリリジンである上記(1)〜(6)のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
(8) アミノ基含有分子がポリエチレンイミン、ポリアリルアミンである上記(1)〜(6)のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
(9) アミノ基と反応しうる分子が、アミノ基とアミン結合またはアミド結合を形成しうる分子である、上記(1)〜(8)のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
(10) アミノ基とアミン結合またはアミド結合を形成しうる分子が、カルボン酸、エポキシ化合物およびアルデヒドから選ばれる少なくとも一種である、上記(9)に記載のエンドトキシン吸着体。
(11) アミノ基とアミン結合またはアミド結合を形成しうる分子が、無水酢酸、ブチルグリシジルエーテルおよびフェニルグリシジルエーテルから選ばれる少なくとも一種である、上記(9)に記載のエンドトキシン吸着体。
(12) アミノ基と反応しうる分子がアミン結合またはアミド結合をアミノ基含有分子の分子内のアミノ基と形成してなる上記(1)〜(11)のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
(13) アミノ基含有分子のアミノ基の修飾率が20〜60%である、上記(1)〜(12)のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
【0008】
(14) ポリリジンのアミノ基をアミノ基とアミン結合またはアミド結合を形成しうる分子で部分的に修飾したリガンドを担体に固定化したエンドトキシン吸着体。
(15) ポリリジンがイプシロン−ポリリジンである、上記(14)に記載のエンドトキシン吸着体。
(16) 担体が、多糖類またはその誘導体である、上記(14)または(15)に記載のエンドトキシン吸着体。
(17) 多糖類が、セルロース、アガロース、デキストラン、キチンまたはキトサンである、上記(16)に記載のエンドトキシン吸着体。
(18) 担体の形状が、球状、膜状、粒状または繊維状である、上記(14)〜(17)のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
(19) 担体が、球状セルロース、球状セファロースまたは球状デキストランである、上記(18)に記載のエンドトキシン吸着体。
(20) アミノ基とアミン結合またはアミド結合を形成しうる分子が、カルボン酸、エポキシ化合物およびアルデヒドから選ばれる少なくとも一種である上記(14)〜(19)のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
(21) アミノ基とアミン結合またはアミド結合を形成しうる分子が、無水酢酸、ブチルグリシジルエーテルおよびフェニルグリシジルエーテルから選ばれる少なくとも一種である、上記(14)〜(19)のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
(22) ポリリジンのアミノ基の修飾率が20〜60%である、上記(14)〜(21)のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
【0009】
(23) 上記(1)〜(22)のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体とエンドトキシン含有溶液を接触させることによりエンドトキシンを吸着除去する方法。
(24) 上記(1)〜(22)のいずれかに記載のエンドトキシン吸着剤とヘパリンを含有するエンドトキシン含有溶液を接触させることによりエンドトキシンを選択的に吸着除去する方法。
(25) エンドトキシン吸着体とエンドトキシン含有溶液の接触が、エンドトキシン吸着体を充填したカラムを用いて行われる、上記(23)または(24)に記載の方法。
(26) アミノ基含有分子の分子内に存在するアミノ基をアミノ基と反応しうる分子と反応させて部分的に修飾する工程を含む、上記(1)〜(22)のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体の製造方法。
(27) アミノ基が修飾されていないポリリジンを担体に固定化した後に、該ポリリジンのアミノ基をアミノ基とアミノ結合またはアミド結合を形成しうる分子と反応させる工程を含む、上記(14)〜(22)のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヘパリンなど高度に酸性な物質が共存する溶液から選択的にエンドトキシンを吸着除去する方法とそれに用いる吸着体を提供することができる。また、本発明によれば、ヘパリンなど高度に酸性な物質を含有する溶液(例えば、医薬品、血液、血漿成分など)から選択的にエンドトキシンを吸着除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のエンドトキシン吸着体およびそれを用いたエンドトキシン吸着除去方法について詳細に説明する。
【0012】
まず、本明細書中の用語について説明する。「アミノ基含有分子の分子内に存在するアミノ基をアミノ基と反応しうる分子で部分的に修飾する」とは、アミノ基含有分子の分子内に存在する複数のアミノ基の一部を、アミノ基と反応しうる分子と反応させることにより修飾することを意味する。また、「高度に酸性である物質」とは、そのような物質の共存下、エンドトキシン含有溶液をアミノ基含有分子(例えば、イプシロン−ポリリジンなど)と接触させた場合に、アミノ基含有分子に吸着され、エンドトキシンの吸着量を減少させるような酸性物質を意味する。
【0013】
次に本発明の態様について説明する。
1.エンドトキシン吸着体
本発明の第1の態様は、アミノ基含有分子の分子内に存在するアミノ基をアミノ基と反応しうる分子で部分的に修飾したリガンドを含有するエンドトキシン吸着体に関する。
本発明に用いるアミノ基含有分子としては、リジン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、オルニチン、2,4ジアミノブチリックアシッド、2,3ジアミノプロピオン酸などの塩基性アミノ酸からなるペプチド、あるいはプロタミンなどの塩基性タンパク質、ポリリジン(例えば、イプシロン−ポリリジン、アルファ−ポリリジン)、ポリヒスチジン、ポリアルギニン、ポリトリプトファン、ポリオルニチン、ポリ−2,4−ジアミノブチリックアシッド、ポリ−2,3−ジアミノプロピオン酸などの塩基性アミノ酸からなるポリマー、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、アリルアミンとジアリルアミンの共重合物、ポリジアリルアミン、ポリビニルアミンなどの塩基性ポリマー、またはポリミキシン、ストレプトマイシン、アミカシン、カナマシンなどの塩基性抗生物質が使用できる。
アミノ基含有分子としては、ポリリジンが好ましく使用することができ、また、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンも好ましく使用することができる。特にイプシロン−ポリリジンは微生物発酵により大量に製造できることから好ましく使用できる。
イプシロン−ポリリジンは、L−リジンが、α位のカルボキシルとε位のアミノ基との間でアミド結合している直鎖状のポリマーである。イプシロン−ポリリジンは発酵により製造することができ、例えば、イプシロン−ポリリジンを生産する菌(例えば、ストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌)を液体培地中で培養し、液中に生成蓄積したイプシロン−ポリリジンを採取する方法が知られている(例えば、特公昭59−20359号公報など参照)。イプシロン−ポリリジンの重合度(n)は、約2〜50であるのが好ましく、約20〜40であるのがより好ましく、約25〜35であるのが特に好ましい。このようなイプシロン−ポリリジンは、商業的にも入手可能である。また、イプシロン−ポリリジンは、化学合成により、例えば、α位のアミノ基を保護したリジンを縮合させた後、保護基を脱離させることにより製造することもできる。
【0014】
アミノ基含有分子の分子内に存在するアミノ基をアミノ基と反応しうる分子で部分的に修飾する際に使用する物質としては、アミノ基と反応しうる分子であればよく特に制限はない。アミノ基と反応しうる分子としては、アミノ基とアミン結合またはアミド結合を形成しうる分子であるのが、アミノ基とアミン結合またはアミド結合を形成することによってアミノ基を修飾することができるため好ましい。アミノ基とアミン結合またはアミド結合を形成しうる分子としては、例えば、カルボン酸(カルボキシル含有物質)、アルデヒド(アルデヒド含有物質)、エポキシ化合物(エポキシ含有物質)、ハロゲン化アルキルなどが使用でき、なかでもカルボン酸、エポキシ化合物およびアルデヒドが好ましく使用することができる。特に、無水カルボン酸やエポキシ化合物は容易にアミノ基と反応するため好ましく使用することができる。
無水カルボン酸としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水フタル酸、安息香酸無水物、無水マレイン酸、無水イソ酪酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、アコニット酸無水物、シトラコン酸無水物などが使用でき、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水安息香酸、無水マレイン酸、無水イソ酪酸などが好ましく、さらに無水酢酸が好ましい。エポキシ化合物(エポキシ含有物質)としては、例えば、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2-エポキシブタン、3-(2-ビフェニリルオキシ)-1,2-エポキシプロパン、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、クロロメチルオキシラン、1,2-エポキシエチルベンゼン、2,3-エポキシ-1-プロパノール、プロピレンオキシド、1,2-エポキシオクタン、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどが使用でき、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルが好ましく、さらにブチルグリシジルエーテルが好ましい。アルデヒドとしては、例えば、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、へプチチルアルデヒド、ベンズアルデヒドとその誘導体、還元末端を有する2糖類以上の糖類、単糖類などが使用できる。
アミノ基と反応しうる分子としては、なかでもエポキシ化合物および無水カルボン酸が好ましく、さらにエポキシ化合物が好ましく、特にブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルが好ましく、とりわけブチルグリシジルエーテルが好ましい。
【0015】
アミノ基含有分子の分子内に存在するアミノ基の修飾は、公知の方法またはそれに準じる方法で行うことができる。例えば、グリシジルエーテル類などのエポキシ化合物を使用して修飾する場合には、アミノ基含有分子を水、極性溶媒(例えば、ジオキサン、THF、DMF、DMSOなど)またはこれらの混合液に溶解または懸濁し、そこにエポキシ化合物を加えて、反応させることにより行うことができる。エポキシ化合物の使用量は、担体に含まれているアミノ基含有分子の一級アミノ基のモル数に対して通常0.1〜30倍量、好ましくは0.5〜25倍量である。反応温度は、通常10℃〜80℃、好ましくは35℃〜45℃である。反応時間は、通常10分〜24時間、好ましくは2時間〜5時間である。これらの反応条件は、所望の修飾率などに応じて適宜設定することができる。また、無水酢酸などの無水カルボン酸を使用して修飾する場合には、アミノ基含有分子を水、極性溶媒(例えば、ジオキサン、THF、DMF、DMSOなど)またはこれらの混合液に溶解または懸濁し、塩基(例えば、トリエチルアミン、ピリジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)存在下、無水カルボン酸を加えて反応させることにより行うことができる。無水カルボン酸の使用量は、担体に含まれているアミノ基含有分子の一級アミノ基のモル数に対して通常0.1〜30倍量、好ましくは0.3〜25倍量である。反応温度は、通常10℃〜80℃、好ましくは35℃〜45℃である。反応時間は、通常10分〜24時間、好ましくは2時間〜5時間である。これらの反応条件は、所望の修飾率などに応じて適宜設定することができる。
【0016】
アミノ基含有分子の分子内のアミノ基の修飾率は、約10%〜約70%であるのが好ましく、さらに約20%〜約60%であるのが好ましく、特に約50%〜約60%であるのが好ましい。修飾率が低いと、ヘパリンなどの高度に酸性である物質の吸着を十分に抑制することができない傾向がある。修飾率が高くなるに従い、ヘパリンなどの高度に酸性である物質の吸着率は低下するが、エンドトキシンの吸着率も低下し、エンドトキシンを十分に吸着除去できなくなる傾向がある。このような高度に酸性である物質は、硫酸エステル、リン酸エステル、カルボキシルなどを分子内に持つもので、弱酸性からアルカリ性のpH領域でマイナスに荷電しているものである。高度に酸性である物質としては、例えば、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸などのグリコサミノグリカンやムコ多糖類、またはアルギン酸、ペクチンなどのポリウロン酸類、あるいは硫酸化セルロース、硫酸化キチン、硫酸化キトサンなどの硫酸化多糖類、リン酸化澱粉、リン酸化マンナン、リン酸化ガラクタンなどのリン酸化多糖、デオキシリボ核酸(DNA)、コロミン酸、ポリグルタミン酸などが挙げられる。
アミノ基含有分子の分子内に存在するアミノ基の修飾率は、修飾前後の分子内に存在する1級アミノ基を測定し、下記式によって算出することができる。
【数1】

1級アミノ基の測定は、公知の方法、例えばニンヒドリン法によって行うことができる。より具体的には、例えばアミノ酸自動分析装置用ニンヒドリン試液および標準液として2−アミノエタノールを使用して1級アミノ基量を測定できる。アミノ酸自動分析装置用ニンヒドリン試液及び2−アミノエタノールは商業的に入手可能である(例えば、ニンヒドリン試液は和光純薬工業株式会社製、2−アミノエタノールは東京化成工業株式会社製など)。ニンヒドリン法による1級アミノ基の定量測定は、基礎生化学実験法5巻化学的測定p175(丸善株式会社)に記載の方法にしたがって行うことができる。
【0017】
本発明のエンドトキシン吸着体によるエンドトキシンの選択性(エンドトキシン吸着率/ヘパリン吸着率)は、好ましくは2以上、より好ましくは5以上、特に好ましくは8以上、最も好ましくは10以上である。エンドトキシンの選択性の測定は、通常、エンドトキシン初期値が約10〜約1,000EU/ml、ヘパリン初期値が約50〜約500IU/mlで行い、好ましくは、エンドトキシン初期値が30〜100EU/ml、ヘパリン初期値が100〜120IU/mlで行う。
エンドトキシン吸着率は、エンドトキシン吸着体による吸着前のエンドトキシン含有溶液中のエンドトキシン濃度と、吸着後のエンドトキシン濃度から、下記式により算出することができる。
【数2】

エンドトキシンの測定は、公知の方法、例えばカイネチック比色法によってエンドトキシン濃度を測定することにより行うことができる。より具体的には、例えば、ライセート試薬およびエンドトキシン標準品を用い、カイネチック比色法によって測定することができる。ライセート試薬およびエンドトキシン標準品は商業的に入手可能である(例えば、生化学工業株式会社製など)。カイネチック比色法は、例えば、第14改正日本薬局方 エンドトキシン試験法などに記載の方法にしたがって行うことができる。
ヘパリン吸着率は、エンドトキシン吸着体による吸着前のヘパリン濃度と、吸着後のヘパリン濃度から、下記式により算出することができる。
【数3】

ヘパリンの測定は、公知の方法、例えばカルバゾール−硫酸法によってヘパリン濃度を測定することにより行うことができる。より具体的には、例えば、カルバゾール−硫酸法によって、ヘパリン標準液を用いて作成した検量線から被験試料液の濃度を求めることができる。ヘパリン標準液としては、市販のヘパリンナトリウム注射液などを使用することができる(例えば、三菱ウェルファーマ社製のヘパリンナトリウム注射液など)。カルバゾール−硫酸法は、例えば、T.Bitter,H.M.Muir,Anal.Biochem.,4,330(1962)やJ.T.Galambos,Anal.Biochem.,19,119(1967)に記載の方法にしたがって行うことができる。
【0018】
本発明のリガンドは、担体に固定化してもよく、担体に固定化するのが、エンドトキシン含有溶液と接触させた後にエンドトキシン吸着体を除去するのが容易である点で好ましい。
本発明のリガンドの固定化に使用する材料(担体)としては、セルロース、アガロース、デキストラン、澱粉、キチン、キトサンなどの多糖類またはその誘導体や合成高分子粒子(例えば、ポリアクリル系、ポリスチレン系、ポリビニル系など)など一般的なものが利用可能である。また、無機系の材料としてシリカやガラスが利用可能であるが、担体中のエンドトキシンを除去する際のアルカリ処理には不適である。このなかで、多糖類は分子内に豊富に存在する水酸基を容易に活性化する事が可能であり、リガンドの固定化を容易に行うことができるので、好ましく用いる事ができる。多糖類としては、セルロース、アガロース、デキストラン、キチン、キトサンなどが好ましく利用できる。これらの多糖類は、天然由来の材料から、公知の方法に従って抽出、単離精製することにより製造することができ、商業的にも入手可能である。本発明で用いられる多糖類の誘導体とは、天然由来の多糖類に官能基が導入された誘導体を意味する。多糖類に導入される官能基としては、例えば、置換されていてもよいアルキル(例えば、メチル、エチル、ブチルなど);アルコール(例えば、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピルなど);エステル(例えば、酢酸、酪酸、リン酸、硫酸など);イオン交換基(アミノエチル、ジエチルアミノエチル、4級アンモニュウム、カルボキシメチル、スルホン)などが挙げられる。多糖類の誘導体としては、本発明のリガンドの固定化を阻害しないものであればよく、特に制限はないが、例えば、メチル化多糖、エチル化多糖、ヒドロキシエチル化多糖、ヒドロキシプロピル多糖などが挙げられる。より具体的には、本発明で用いられるセルロース誘導体としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、アミノエチルセルロースなどが挙げられる。アガロース誘導体としては、例えば、クロロメチルオキシラン架橋アガロース、アガロース―アクリル共重合物などが挙げられる。デキストラン誘導体としては、例えば、クロロメチルオキシラン架橋デキストラン、ヒドロキシプロピル化デキストランなどが挙げられる。キチン誘導体としては、例えば、クロロメチルオキシラン架橋キチンなどが挙げられる。キトサン誘導体としては、例えば、クロロメチルオキシラン架橋キトサンなどが挙げられる。このような多糖類の誘導体は、公知の方法またはそれに準じる方法に従って製造することができ、商業的にも入手可能である。
【0019】
また、本発明で用いられる担体の形状としては、球状(例えば、球状粒子など)、粒状、繊維状、顆粒状、モノリスカラム、中空糸、膜状(例えば、平膜など)などの一般的に分離基材として使用される形状が利用可能であり、球状、膜状、粒状、繊維状などが好ましい。球状粒子はカラム法やバッチ法で使用する際、その使用体積を自由に設定できる事から、特に好ましく使用できる。球状粒子の粒径は、通常1〜1,000μmであり、使用形態などに応じて適宜選択される。例えば、カラム法で使用される場合には、粒径は50〜500μmであるのが好ましい。バッチ法で使用される場合には、粒径は10〜300μmであるのが好ましい。球状粒子としては、球状セルロース、球状セファロース、球状アガロース、球状デキストラン、球状キトサンとそれらの架橋球状粒子、球状シリカ、スチレンビーズ、アクリル系ビーズなどが好ましく使用できる。このような球状粒子は商業的に入手可能であり、例えば、セルファイン(チッソ株式会社製)、セファロース、セファデックス(アマシャムバイオサイエンス社製)、ビスコパール(レンゴー株式会社製)、Perloza MTシリーズ(Iontsorb社製)、“Cellulose,Beaded”(カタログコードC8204)(Sigma社製)、トヨパール(東ソー株式会社製)などが使用できる。
本発明で用いられる担体としては、なかでも球状セルロース、球状セファロース、球状デキストランなどが好ましく使用できる。
【0020】
本発明のリガンドの固定化は、公知の方法またはそれに準じる方法によって行うことができる。リガンド固定化方法としては、例えば、実験と応用 アフィニティクロマトグラフィー 千畑一郎、土佐哲也、松尾雄志著 講談社サイエンティフィック、Immobilized Affinity Ligand Techniques G.T.Hermanson,A.K. Mallia,P.K.Smith ACADEMIC PRESS,INC.などの文献に記載されている一般的な方法を使用することができる。特に、エポキシ活性化法によるアミノ基含有リガンドの固定化方法は、アミノ基の塩基性的な性質を損なわない為に、本発明では好ましく利用できる。
エポキシ活性化法によるリガンドの固定化は、例えば、担体(例えば、球状セルロースなど)に、水とNaOH溶液を加えて攪拌した後、エポキシ活性化剤(例えば、エピクロロヒドリンなど)を加えて反応させることによりエポキシ活性化担体(例えば、エポキシ活性化セルロース粒子など)を調製し、得られたエポキシ活性化担体にアミノ基含有分子(例えば、イプシロン−ポリリジンなど)を加えて反応させることにより行うことができる。
【0021】
本発明の担体に固定化されたリガンド中のアミノ基の修飾方法としては、先に未修飾のリガンド(すなわち、アミノ基が修飾されていないアミノ基含有分子)を担体に固定化した後に修飾する方法、あるいは、リガンド中のアミノ基を修飾した後に、修飾したリガンドを担体に固定化する方法が可能である。この内、未修飾のリガンドを担体に固定化した後に修飾する方法は、生成物の洗浄回収が容易になることから、本発明において好ましい。
【0022】
従って、本発明のエンドトキシン吸着体、すなわち、アミノ基が部分的に修飾されたリガンドを固定化したエンドトキシン吸着体は、未修飾のリガンドを担体に固定化した後に、無水カルボン酸やエポキシ化合物などのアミノ基と反応しうる分子と反応させる事で容易に調製することができる。
例えば、アミノ基が修飾されていないポリリジンを担体に固定化した後に、該ポリリジンのアミノ基をアミノ基とアミノ結合またはアミド結合を形成しうる分子と反応させることによって、ポリリジンのアミノ基をアミノ基とアミノ結合またはアミド結合を形成しうる分子で部分的に修飾したリガンドを担体に固定化したエンドトキシン吸着体を製造することができる。
アミノ基の部分的な修飾は、アミノ基を修飾した後、修飾されたアミノ基から部分的に修飾基を除去することによって行ってもよいが、アミノ基を部分的に修飾し、修飾基の除去は行わないのが好ましい。
【0023】
2.エンドトキシン吸着除去方法
本発明の第2の態様は、本発明のエンドトキシン吸着体とエンドトキシン含有溶液を接触させることによりエンドトキシンを吸着除去する方法に関する。
本発明のエンドトキシン吸着体はエンドトキシンを効果的に吸着するので、エンドトキシン吸着体とエンドトキシン含有溶液を接触させてエンドトキシンを該エンドトキシン吸着体に吸着させることによって、エンドトキシン含有溶液からエンドトキシンを除去することができる。
本発明の方法によってエンドトキシンを吸着除去するエンドトキシン含有溶液には特に制限はない。例えば、本発明の方法によってエンドトキシンを含む医薬品や血液などからエンドトキシンを吸着除去することができる。本発明のエンドトキシン吸着体は、ヘパリンなど高度に酸性である物質が共存している場合でも、エンドトキシンを選択的に吸着除去することができるので、本発明の方法は、特にヘパリンを含有する医薬品、血液、血漿成分などのエンドトキシン含有溶液からエンドトキシンを除去する場合に有効である。
高度に酸性である物質を含むエンドトキシン含有溶液としては、例えば、ヘパリンナトリウム溶液などヘパリンを含有する医薬品またはその製造工程で使用されるヘパリン溶液、血液または血漿成分などが挙げられる。血液または血漿成分は、ヘパリンなどの高度に酸性である物質を投与された患者由来のものであってもよく、また、ヘパリンなどの高度に酸性である物質が添加された血液または血漿成分であってもよい。
【0024】
エンドトキシン吸着体とエンドトキシン含有溶液を接触させてエンドトキシンを吸着除去する方法には特に制限はなく、当該技術分野で通常用いられる方法を用いることができ、例えば、カラム法やバッチ法などが用いられる。カラム法やバッチ法は、当該技術分野で通常用いられる方法に従って行うことができる。例えば、カラム法による場合は、本発明のエンドトキシン吸着体をカラムに充填し、緩衝液、塩類溶液などで洗浄した後、エンドトキシンを含む医薬品や血液などの溶液を通液させることにより、該溶液中のエンドトキシンがエンドトキシン吸着体に吸着され、素通り画分としてエンドトキシンが除去された液が得られる。また、バッチ法による場合には、本発明のエンドトキシン吸着体にエンドトキシン含有溶液を加えて攪拌してエンドトキシンをエンドトキシン吸着体に吸着させた後、エンドトキシン吸着体をろ過や遠心分離などにより溶液から分離除去することにより、エンドトキシンが除去された液を得ることができる。
本発明の方法は、ヘパリンなどの高度に酸性である物質が共存している場合であっても、エンドトキシンを選択的に吸着除去することができるので、例えば、患者の体内から取り出された血液または血漿成分を、患者の体内に戻す前に、本発明のエンドトキシン吸着体を用いて(例えば、本発明のエンドトキシン吸着体が充填されたカラムを用いる)、該血液または血漿成分中のエンドトキシンを除去し、エンドトキシンが除去された血液または血漿成分を患者の体内に戻す体外循環治療に特に好適に用いることができる。さらに、患者がヘパリン投与を受けている場合や、患者の体内から取り出された血液または血漿成分に血液凝固を抑制するためにヘパリンが添加される場合にも、本発明の方法を好適に用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
[比較例1]
未修飾のリガンドの担体への固定化(吸着剤A)
特公昭63−62252号公報記載の方法に従って製造される球状セルロースであるセルファイン100g(湿重量、水分含量91.7%)に、78mlの純水と20%(重量)NaOH溶液64gを加え、これを30℃に保ち1時間撹拌した。次いでエピクロロヒドリン38gを加え、2時間撹拌し反応させた。反応終了後、ろ過し、中性になるまで水洗した。このようにして得られたエポキシ活性化セルロース粒子全量を純水90ml、イプシロン−ポリ−L−リジン25%溶液(チッソ株式会社製、平均分子量4,700)30mlを加え、これを45℃で2時間撹拌し反応させた。反応終了後水洗し、エンドトキシン吸着体を得た(吸着剤A)。
【0027】
全窒素含有量(TN量)の測定により導入されたイプシロン−ポリ−L−リジン量を下記の計算によって求めた。
なお、全窒素含有量(TN量)測定のサンプルは水洗した後80℃で乾燥させたものを用いて、ケールダール法によって測定した。

イプシロン−ポリ−L−リジン量(mg/g-dry)=(Lys-H2O)×(TN量÷2×N)÷1000

ここで、Lys−HOはリジン分子より水分子を差し引いた値で128.17である。Nは窒素の原子量をあらわす。mg/g−dryは乾燥サンプル1g当たりのポリリジン量(mg)をあらわす。
【0028】
その結果、比較例1のポリリジン含有量は140mg/g−dryであった。
【0029】
[比較例2]
未修飾のリガンドの担体への固定化(吸着剤B)
特公昭63−62252号公報記載の方法に従って製造される球状セルロースであるセルファイン100g(湿重量、水分含量91.7%)に、163mlの純水と20%(重量)NaOH溶液49gを加え、これを30℃に保ち1時間撹拌した。次いでエピクロロヒドリン47gを加え、2時間撹拌し反応させた。反応終了後、ろ過し、中性になるまで水洗した。このようにして得られたエポキシ活性化セルロース粒子全量を純水90ml、イプシロン−ポリ−L−リジン25%溶液(チッソ株式会社製、平均分子量4、700)30mlを加え、これを45℃で2時間撹拌し反応させた。反応終了後水洗し、エンドトキシン吸着体を得た(吸着剤B)。
【0030】
比較例2のポリリジン含有量は94mg/g−dryであった。
【0031】
[実施例1]
ブチルグリシジルエーテルによる吸着剤Aのアミノ基の修飾
比較例1で得られたエンドトキシン吸着体(吸着剤A)のアミノ基をブチルグリシジルエーテルによって修飾した。
吸着剤A100g(湿重量、水分含量89%)に純水150mlを加えた。ブチルグリシジルエーテル11.5gを加え35℃から40℃で4時間反応させた。反応後メタノールで5回、純水で5回洗浄して実施例1のエンドトキシン吸着体(ABu-1)を得た。
【0032】
[実施例2〜14]
グリシジルエーテル類による吸着剤Bのアミノ基の修飾
次に、比較例2で得られた吸着剤Bを出発材料として、固定化されたリガンドであるイプシロン−ポリ−L−リジンのアミノ基をグリシジルエーテル類によって修飾した。
実施例2から12の場合は吸着剤B30g(湿重量、水分含量89.5%)に純水を40ml加えた。実施例13と14の場合は純水40mlの代わりにジオキサン40mlを用いた。吸着剤の懸濁液に、下記の表に示すグリシジルエーテル類を加え35℃から40℃で4時間反応させた。反応後メタノールで5回、純水で5回洗浄した。
実施例13と14の場合は純水40mlの代わりにジオキサン40mlを用いた。
表1に、実施例2〜14で用いたグリシジルエーテル類と、その仕込量を示す。
【0033】
表1 グリシジルエーテル類仕込量
【表1】

【0034】
フェニルグリシジルエーテルはCas No.122−60−1(キシダ化学株式会社製)、ブチルグリシジルエーテルはCas No.2426−08−6(和光純薬株式会社製)、ポリエチレングリコール・ジグリシジルエーテルはナガセケムテックス株式会社製のデナコールEX−830及びデナコールEX−861を使用した。
【0035】
[実施例15〜21]
無水酢酸による吸着剤Bのアミノ基の修飾
吸着剤Bを出発材料として、固定化されたリガンドであるイプシロン−ポリ−L−リジンのアミノ基を無水酢酸によって修飾した。
吸着剤B30g(湿重量、水分含量89.5%)に純水を40ml加えた。吸着剤Bの懸濁液に、下記の表に示すトリエチルアミンと無水酢酸を加えて35℃から40℃で4時間反応させた。反応後、純水3回、ついで0.2N 水酸化ナトリウムで3回洗浄し、さらに純水で洗浄液が中性になるまで洗浄した。
表2に、実施例15〜21におけるトリエチルアミンと無水酢酸の仕込量を示す。
【0036】
表2 トリエチルアミンと無水酢酸の仕込量
【表2】

【0037】
[試験例1]
リガンド中のアミノ基の修飾率の測定
リガンド中のアミノ基の修飾率は、ニンヒドリン法によって求めた値より下記の計算式で算出した。ニンヒドリン反応は1級のアミノ基に対して起こるため、修飾前後のアミノ基をニンヒドリン法で測定するとアミノ基の修飾の度合いがわかる。
乾燥させた吸着剤0.004gを含むイオン交換水1mlをはかりとり、ネジ栓付試験管に入れた。ニンヒドリン試液(和光純薬工業株式会社製)を1ml加えて沸騰水中で20分加熱した。水道水で冷却後、8mlのエチルセルソルブ(和光純薬工業株式会社製)を加えて良く混合した。上澄みの570nmの吸光度を測定した。アミノ基の標準としては2−アミノエタノール(東京化成株式会社製)を用いた。
【数4】

表3に、実施例1〜21のエンドトキシン吸着体について、それぞれのリガンド中のアミノ基の修飾率を示す。
【0038】
表3 リガンド中のアミノ基の修飾率
【表3】

吸着剤Aの1級アミノ基含有量は820μmol/g(乾燥重量)であった。
吸着剤Bの1級アミノ基含有量は680μmol/g(乾燥重量)であった。
【0039】
[試験例2]
ヘパリン存在下でのエンドトキシン除去能力の測定
吸着剤Bと実施例2から14および18から21までのエンドトキシン吸着体を0.2N水酸化ナトリウムに18時間以上浸漬し、その後注射用蒸留水で中性になるまで洗浄しエンドトキシンフリーにした。
エンドトキシンフリーの各吸着体を0.7g(湿重量)量り乾熱滅菌した三角フラスコに入れた。下記の表に示した組成の試験液10mlを加えて30℃で2時間振盪した。その後、上清のエンドトキシン量とヘパリン量を測定した(表4)。
【0040】
表4 ヘパリン共存液からのエンドトキシン除去能力
【表4】

エンドトキシンはLPS(E.coli 0110:B4、シグマ社製)、ヘパリンはヘパリンナトリウム注射液(三菱ウェルファーマ社製)を使用した。
アミノ基を修飾する事により、エンドトキシンの選択性を表すエンドトキシン/ヘパリンの値は比較例2(吸着剤B)よりも大きくなる事がわかった。
【0041】
[エンドトキシンの測定方法]
エンドトキシン濃度は、ライセート試薬(生化学工業株式会社製)及びエンドトキシン標準品(生化学工業株式会社製)を用いカイネチック比色法(第14改正日本薬局方 エンドトキシン試験法)によって測定した。
【0042】
[ヘパリンの定量方法]
ヘパリンの定量は、市販の1000IU/mlヘパリンナトリウム注射液を標準原液とし、カルバゾール−硫酸法により各被験試料液及び検量線用各標準液のヘパリン濃度を測定することによって行った。
1000IU/mlヘパリンナトリウム注射液を生理食塩水で希釈して50IU/ml、25IU/ml溶液を調製し、生理食塩水を0IU/mlとして標準液に用いた。各被験試料液は生理食塩水で2倍希釈液にした。ネジ栓付試験管にホウ酸ナトリウムの硫酸溶液(9.5mg/ml濃硫酸溶液)2.5mlを入れ約20分間氷冷後、試料液を0.5ml入れ撹拌混合した。沸騰水中にて10分間煮沸後、氷冷しカルバゾール溶液(1.25mg/mlエタノール溶液)0.1mlを入れ撹拌混合した。ついで15分間煮沸し水冷後、530nmにて吸光度を測定しヘパリンを定量した。
【0043】
[試験例3]
エンドトキシン、BSA、ヘパリン共存系でのエンドトキシン除去能力の測定
比較例1(吸着剤A)、実施例1(ABu−1)および実施例9(BBu−2)のエンドトキシン吸着体について、エンドトキシン、牛血清アルブミン(BSA)、ヘパリン共存系でのエンドトキシン除去性能について比較した。
エンドトキシンはLPS(E.coli 0110:B4、シグマ社製)、ヘパリンはヘパリンナトリウム注射液(三菱ウェルファーマ社製)、ウシ血清アルブミンはアルブミン、ウシ血清由来(和光純薬工業社製)を使用した。
吸着剤Bを0.2N水酸化ナトリウムに18時間以上浸漬し、その後注射用蒸留水で中性になるまで洗浄しエンドトキシンフリーにした。
エンドトキシンフリーの各吸着体を0.7g(湿重量)量り乾熱滅菌した三角フラスコに入れた。下記の表に示した組成の試験液10mlを加えて30℃で2時間振盪した。その後、上清のエンドトキシン量とヘパリン量、BSA量を測定した(表5)。
【0044】
表5 比較例1、実施例1、実施例9のエンドトキシン吸着体のBSA−LPS混合液からのエンドトキシン吸着能の比較
【表5】

表5中、ETはエンドトキシン、Hepはヘパリン、BSAはウシ血清アルブミンを表す。
【0045】
[BSAの定量方法]
BSAの定量は、280nmの吸光度を測定することによって行った。
【0046】
[試験例4]
カラム法によるヘパリン共存液からのエンドトキシン除去
実施例1(ABu−1)のエンドトキシン吸着体を5mlのカラムに充填し、0.2N水酸化ナトリウムに18時間接触させたのち注射用蒸留水で中性になるまで洗浄しエンドトキシンフリーにした。下記の緩衝液25mlをカラムに通液して平衡化した。
下記の組成のヘパリンおよびエンドトキシン含有の試験液を通液しカラム溶出液のエンドトキシン量とヘパリン量を測定した(表6)。
【0047】
表6 カラム法によるヘパリン含有緩衝液からのエンドトキシン除去
【表6】

【0048】
図1にカラム法によるヘパリン含有緩衝液からのエンドトキシン除去の結果を示す。図1中、[C/Co]はヘパリンあるいはエンドキシンの濃度を表し、溶出液中の濃度を[C]とし、試験液中の濃度(初期値)を[Co]とした。
図1に示されるように、ヘパリンはあまり吸着されず、[C/Co]は1に近い値になっている。一方、エンドトキシンは[C/Co] がフラクション30でも0.01以下であり選択的に吸着していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のエンドトキシン吸着体は、ヘパリンなど高度に酸性な物質を含有する溶液から選択的にエンドトキシンを吸着除去することができるので、ヘパリンなど高度に酸性の多糖類などが共存する溶液からのエンドキシンの除去用の医療用基材、吸着剤、またはクロマトグラフィー用充填剤などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】カラム法によるヘパリン含有緩衝液からのエンドトキシン除去において、ヘパリンよりもエンドトキシンが選択的に除去される事を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基含有分子の分子内に存在するアミノ基をアミノ基と反応しうる分子で部分的に修飾したリガンドを含有するエンドトキシン吸着体。
【請求項2】
リガンドが担体に固定化されている、請求項1に記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項3】
担体が、多糖類またはその誘導体である、請求項2に記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項4】
多糖類が、セルロース、アガロース、デキストラン、キチンまたはキトサンである、請求項3に記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項5】
担体の形状が、球状、膜状、粒状または繊維状である、請求項2〜4のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項6】
担体が、球状セルロース、球状セファロースまたは球状デキストランである、請求項5に記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項7】
アミノ基含有分子がポリリジンである請求項1〜6のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項8】
アミノ基含有分子がポリエチレンイミン、ポリアリルアミンである請求項1〜6のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項9】
アミノ基と反応しうる分子が、アミノ基とアミン結合またはアミド結合を形成しうる分子である、請求項1〜8のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項10】
アミノ基とアミン結合またはアミド結合を形成しうる分子が、カルボン酸、エポキシ化合物およびアルデヒドから選ばれる少なくとも一種である、請求項9に記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項11】
アミノ基とアミン結合またはアミド結合を形成しうる分子が、無水酢酸、ブチルグリシジルエーテルおよびフェニルグリシジルエーテルから選ばれる少なくとも一種である、請求項9に記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項12】
アミノ基と反応しうる分子がアミン結合またはアミド結合をアミノ基含有分子の分子内のアミノ基と形成してなる請求項1〜11のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項13】
アミノ基含有分子のアミノ基の修飾率が20〜60%である、請求項1〜12のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項14】
ポリリジンのアミノ基をアミノ基とアミン結合またはアミド結合を形成しうる分子で部分的に修飾したリガンドを担体に固定化したエンドトキシン吸着体。
【請求項15】
ポリリジンがイプシロン−ポリリジンである、請求項14に記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項16】
担体が、多糖類またはその誘導体である、請求項14または15に記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項17】
多糖類が、セルロース、アガロース、デキストラン、キチンまたはキトサンである、請求項16に記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項18】
担体の形状が、球状、膜状、粒状または繊維状である、請求項14〜17のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項19】
担体が、球状セルロース、球状セファロースまたは球状デキストランである、請求項18に記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項20】
アミノ基とアミン結合またはアミド結合を形成しうる分子が、カルボン酸、エポキシ化合物およびアルデヒドから選ばれる少なくとも一種である請求項14〜19のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項21】
アミノ基とアミン結合またはアミド結合を形成しうる分子が、無水酢酸、ブチルグリシジルエーテルおよびフェニルグリシジルエーテルから選ばれる少なくとも一種である、請求項14〜19のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項22】
ポリリジンのアミノ基の修飾率が20〜60%である、請求項14〜21のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体とエンドトキシン含有溶液を接触させることによりエンドトキシンを吸着除去する方法。
【請求項24】
請求項1〜22のいずれかに記載のエンドトキシン吸着剤とヘパリンを含有するエンドトキシン含有溶液を接触させることによりエンドトキシンを選択的に吸着除去する方法。
【請求項25】
エンドトキシン吸着体とエンドトキシン含有溶液の接触が、エンドトキシン吸着体を充填したカラムを用いて行われる、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
アミノ基含有分子の分子内に存在するアミノ基をアミノ基と反応しうる分子と反応させて部分的に修飾する工程を含む、請求項1〜22のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体の製造方法。
【請求項27】
アミノ基が修飾されていないポリリジンを担体に固定化した後に、該ポリリジンのアミノ基をアミノ基とアミノ結合またはアミド結合を形成しうる分子と反応させる工程を含む、請求項14〜22のいずれかに記載のエンドトキシン吸着体の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−145743(P2007−145743A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340538(P2005−340538)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】