説明

エンボス離型紙製造用エンボス版及びその製造方法

【課題】 版の表面に施したメッキ皮膜等の表面保護層が脱落してエンボス柄に抜けが発生することのないエンボス離型紙製造用エンボス版及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 エンボス離型紙製造用エンボス版において、金属基体の表面にエンボス模様が刻設され、エンボス模様が刻設された金属基体の表面を被覆してセラミック皮膜が設けられている。セラミック皮膜はプラズマCVD法、TEOS−O3 CVD法、プラズマTEOSCVD法、セラミックメッキ法、物理蒸着法等ににより形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成皮革の製造に用いる工程離型紙、即ちエンボス離型紙の製造用エンボス版及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成皮革は、布や不織布等からなる基体の上に革の表面層を高分子物質で構成したもので、表面層は、ポリ塩化ビニル、ポリアミドまたはポリウレタンの発泡体からなり、この表面に変性ポリアミド、ポリウレタン、ポリアクリル酸誘導体等からなる仕上げ層をつけ、仕上げ層に革しぼ模様等をエンボス加工してなるものである。このエンボス加工に革しぼ模様等の逆型の付いたエンボス離型紙が用いられる。このエンボス離型紙への革しぼ模様等の逆型の型付けはエンボス版を用いて行われる。
エンボス版には、通常、版の表面の磨耗防止のためにクロムメッキが施されている。例えば、特許文献1、特許文献2等にエンボス版の表面にクロムメッキを施すことが記載されている。エンボス離型紙製造用エンボス版にも版の表面の磨耗防止のためにクロムメッキが施されている。
【特許文献1】特開平7−118890号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平8−72140号公報(段落0014)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、エンボス離型紙製造用エンボス版の場合、クロムメッキを施したエンボス版を用いて離型紙にエンボス加工を施すとき、エンボス版の表面に大きな力がかかるので、版表面のクロムメッキが脱落することがある。そのため離型紙のエンボス柄に抜けが発生し、合成皮革の製造に影響することがある。
本発明の目的は、版の表面に施したメッキ皮膜等の表面保護層が脱落してエンボス柄に抜けが発生することのないエンボス離型紙製造用エンボス版及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の発明は、上記のエンボス離型紙製造用エンボス版の課題を解決するもので、金属基体の表面にエンボス模様が刻設され、エンボス模様が刻設された金属基体の表面を被覆してセラミック皮膜が設けられていることを特徴とするエンボス離型紙製造用エンボス版を要旨とする。
【0005】
請求項2に記載の発明は、上記のエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法に関する課題を解決するもので、金属基体の表面にエンボス柄を刻設し、エンボス柄を刻設した金属基体の表面にプラズマCVD法によりSi、SiOX 、SiNX またはSiCX からなるSi系セラミック皮膜を形成することを特徴とするエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法を要旨とする。
【0006】
請求項3に記載の発明は、上記のエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法に関する課題を解決するもので、金属基体の表面にエンボス柄を刻設し、エンボス柄を刻設した金属基体の表面にTEOS−O3 CVD法またはプラズマTEOSCVD法によりSiO2 系セラミック皮膜を形成することを特徴とするエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法を要旨とする。
【0007】
請求項2又は3に記載のエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法において、金属基体として鏡面仕上げした鉄製ロールを用いることが望ましい。
【0008】
請求項5に記載の発明は、上記のエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法に関する課題を解決するもので、金属基体の表面にエンボス柄を刻設し、エンボス柄を刻設した金属基体の表面に、セラミックメッキ法によりSiO2 系セラミック皮膜を形成することを特徴とするエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法を要旨とする。
【0009】
請求項5に記載のエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法において、金属基体としてアルミニウム合金またはマグネシウム合金からなるロールを用いることが望ましい。
【0010】
請求項7に記載の発明は、上記のエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法に関する課題を解決するもので、金属基体の表面にエンボス柄を刻設し、エンボス柄を刻設した金属基体の表面に真空蒸着法、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理蒸着法によりセラミック皮膜を形成することを特徴とするエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法を要旨とする。
【0011】
本発明のエンボス離型紙製造用エンボス版は、エンボス模様を刻設した金属基体の表面にセラミック皮膜が良く密着し、エンボス離型紙の製造を繰り返しても表面保護層の脱落が生じないという優れた点を有し、クロムメッキを施したエンボス版に見られるような表面保護層が脱落してエンボス柄に抜けが発生することのないものである。
【0012】
また、請求項2、3、5又は7に記載の製造方法によれば、エンボス模様が刻設された金属基体のエンボス加工により形成された凹部を含めて全表面に均一な厚みでセラミック皮膜を被着することができる。これに対し、セラミック粉末または焼結体をプラズマジェットや酸素−アセチレン炎で加熱溶融し、微滴を基体表面に吹きつける溶射法による場合凹部にも均一な厚みでセラミック皮膜を形成することは難しい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエンボス離型紙製造用エンボス版は、金属基体の表面にエンボス模様が刻設され、エンボス模様が刻設された金属基体の表面を被覆してセラミック被膜が設けられているもので、エンボス模様を刻設した金属基体の表面にセラミック被膜が良く密着し、エンボス離型紙の製造を繰り返しても表面保護層の脱落が生じないという優れた点を有する。
また、請求項2、3、5又は7に記載の製造方法によれば、エンボス模様が刻設された金属基体のエンボス加工により形成された凹部を含めて全表面に均一な厚みでセラミック皮膜を被着することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1及び図2は本発明のエンボス離型紙製造溶エンボス版の製造方法の第1の実施の形態のロールの表面をフラットに展開して示す略断面図である。
【0015】
図1に示すように、鏡面仕上げした鉄製ロールからなる金属基体1の表面にエンボス柄2を刻設する。次いで図2に示すようにエンボス柄2を刻設した金属基体1の表面にプラズマCVD装置を用いて反応ガスのプラズマ放電分解によりSi、SiOX、SiNXまたはSiCXからなるSi系セラミック皮膜3を形成する。
【0016】
また、セラミック皮膜の形成方法として、上記したプラズマCVD法に代えて、反応源として、液体ソースであるTEOS(テトラエチルオルトシリケート、Si(OCH2CH34と酸化剤としてO3 を用いてSiO2 系セラミック皮膜を形成する常圧法(TEOS−O3 CVD法)、或いは減圧CVDの反応室内に反応ガスとしてTEOSを供給し、電極間に高周波電圧を印加することでプラズマを発生させ、金属基体上にSiO2 系セラミック皮膜を形成する方法(プラズマTEOSCVD法)を採用しても良い。
【0017】
さらにセラミック皮膜の形成法として、真空蒸着法、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理蒸着法(PVD法)を採用しても良い。
【0018】
次に本発明のエンボス離型紙製造溶エンボス版の製造方法の第2の実施の形態について説明する。
【0019】
図3乃至図5は、本発明のエンボス離型紙製造溶エンボス版の製造方法の第2の実施の形態3の工程を示す。図3に示すように、第1の実施の形態と同様にして、アルミニウム合金またはマグネシウム合金からなるロール状の金属基体11の表面にエンボス柄2を刻設する。次いで図4に示すように、SiO2 を分散させた水溶液を満たした槽5内にエンボス柄2を刻設した金属基体11を入れてこれを陽極6とし、それと共に陰極7を配置し電源8から両電極6、7間に通電することにより金属基体の表面にSiO2 を電解析出させるセラミックメッキ法により、図5に示すようにSiO2 系セラミック皮膜13を形成する。
【0020】
上記の第1、第2の実施の形態において金属基体としてロール状の金属基体を用いたが、これに代えてシート状の金属基体を用いて、シート状のエンボス版を形成しても良い。
【0021】
本発明の製造方法により製造されたエンボス離型紙製造用エンボス版は、エンボス模様を刻設した金属基体の表面にセラミック皮膜が良く密着し、エンボス離型紙の製造を繰り返しても表面保護層の脱落が生じないという優れた点を有し、クロムメッキを施したエンボス版に見られるような表面保護層が脱落してエンボス柄に抜けが発生することのないものである。
【0022】
また、本発明の製造方法によれば、エンボス模様が刻設された金属基体のエンボス加工により形成された凹部を含めて全表面に均一な厚みでセラミック皮膜を被着することができる。これに対しセラミック粉末または焼結体をプラズマジェットや酸素−アセチレン炎で加熱溶融し、微滴を基体表面に吹きつける溶射法による場合、凹部にも均一な厚みでセラミック皮膜を形成することは難しい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のエンボス離型紙の製造用エンボス版は合成皮革の製造に用いるエンボス離型紙の製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法の第1の実施の形態を、ロール状の金属基体にエンボス柄を刻設した状態をフラットに展開して示す略断面図である。
【図2】本発明のエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法の第1の実施の形態において、エンボス柄を刻設した金属基体の表面にセラミック皮膜を被着した状態を示す略断面図である。
【図3】本発明のエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法の第2の実施の形態を、ロール状の金属基体にエンボス柄を刻設した状態をフラットに展開して示す略断面図である。
【図4】本発明のエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法の第2の実施の形態において、セラミックメッキ法によりエンボス柄を刻設した金属基体の表面にセラミック皮膜を被着する過程を示す略図である。
【図5】本発明のエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法の第2の実施の形態において、エンボス柄を刻設した金属基体の表面にセラミック皮膜を被着した状態を示す略断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 金属基体
2 エンボス柄
3 セラミック皮膜
11 金属基体
5 メッキ槽
6 陽極
7 陰極
8 電源
13 セラミック皮膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基体の表面にエンボス模様が刻設され、エンボス模様が刻設された金属基体の表面を被覆してセラミック皮膜が設けられていることを特徴とするエンボス離型紙製造用エンボス版。
【請求項2】
金属基体の表面にエンボス柄を刻設し、エンボス柄を刻設した金属基体の表面にプラズマCVD法によりSi、SiOX、SiNXまたはSiCX からなるSi系セラミック皮膜を形成することを特徴とするエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法。
【請求項3】
金属基体の表面にエンボス柄を刻設し、エンボス柄を刻設した金属基体の表面にTEOS−O3 CVD法またはプラズマTEOSCVD法によりSiO2 系セラミック皮膜を形成することを特徴とするエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法。
【請求項4】
金属基体が鏡面仕上げした鉄製ロールであることを特徴とする請求項2又は3に記載のエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法。
【請求項5】
金属基体の表面にエンボス柄を刻設し、エンボス柄を刻設した金属基体の表面に、セラミックメッキ法によりSiO2 系セラミック皮膜を形成することを特徴とするエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法。
【請求項6】
金属基体がアルミニウム合金またはマグネシウム合金からなるロールであることを特徴とする請求項5に記載のエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法。
【請求項7】
金属基体の表面にエンボス柄を刻設し、エンボス柄を刻設した金属基体の表面に真空蒸着法、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理蒸着法によりセラミック皮膜を形成することを特徴とするエンボス離型紙製造用エンボス版の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−26966(P2006−26966A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205892(P2004−205892)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】