説明

オイルシール及び転がり軸受装置

【課題】分割構造の転がり軸受装置のオイルシールについて、確実な装着を可能とし、周方向に動かないようにする。
【解決手段】シールゴム81の切断された箇所Sの近傍で、一対の芯金82の各端部に鉄製のピン83を溶接して固定し、オイルシール8を装着する内輪の外周側に設けられた周溝に穴を形成して、ここに、ピン83の突起部を嵌合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば連続鋳造設備のロールを支持する分割構造の転がり軸受装置に関し、特にそれに用いられるオイルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造設備では多くのロールが使用されているが、そのうちの駆動用ロールは、中央が小径となった杵形のロールである。この小径部を回転自在に支持する転がり軸受は、2分割構造となっており、軸方向ではなく径方向から取り付けることが可能である。また、このような転がり軸受に使用される環状のオイルシールは、周方向の一箇所に切れ目があり、ここを開きながら装着することができる。また、装着を確実なものとするため、オイルシールの切れ目近傍の内周に一体成形のゴム製突起が設けられ、これを被装着部材である内輪に嵌合させるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−315340号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、オイルシールの装着作業において、ゴム製の突起は、内輪に嵌合したのかどうかの感触がつかみにくく、しかも、弾力があるので嵌合していなくても外観上、嵌合している場合との見分けが付きにくい。そのため、嵌合していない状態に気づかず、そのまま使用してしまう場合があり、その場合、オイルシールが周方向に動いて破損しやすくなる。また、オイルシールが破損すれば転がり軸受の破損に発展し、寿命が短くなる。一方、突起が嵌合している場合でも、ゴムの弾力のために、周方向へ引っ張られると切れ目が開いてしまうことがある。
【0005】
上記のような従来の問題点に鑑み、本発明は、確実な装着が可能で、周方向に動かないオイルシールを提供すること、及び、そのようなオイルシールが装着された転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のオイルシールは、全体として環状の形態を成し、周方向において切断された箇所を有するシールゴムと、前記シールゴムに沿って円弧状に設けられ、前記箇所の周方向両側に一対の端部が互いに近接して配置されている金属製の芯金と、前記一対の端部にそれぞれ固定され、前記シールゴムが装着される部材の溝に形成された被嵌合部と嵌合する金属製の又はそれと同等以上の剛性を有する材質の嵌合部材とを備えたものである。
【0007】
上記のようなオイルシールでは、嵌合部材に一定の剛性が確保されるので、装着時に嵌合部材が弾性変形しない。しかも、芯金に固定されている嵌合部材は、シールゴム内に押し込まれることはない。そのため、嵌合していない場合にはオイルシールが所定位置に収まらず、嵌合していないことが外見上明らかとなる。こうして、オイルシールの確実な装着が可能となる。また、かかる嵌合部材の嵌合によって、オイルシールの周方向への動きを規制することができる。
【0008】
また、上記のオイルシールにおいて、芯金及び嵌合部材は共に鉄製であり、互いに溶接されていることが好ましい。
この場合、嵌合部材を、容易かつ確実に、芯金に固定することができる。
【0009】
一方、本発明は、分割構造の内輪と外輪との間に転動体を介在させ、内外輪間に形成される空間を塞ぐオイルシールが装着された転がり軸受装置において、当該オイルシールが、前記内輪の外周面に形成された周溝に取り付けられ、全体として環状の形態を成し、周方向において切断された箇所を有するシールゴムと、前記シールゴムに沿って円弧状に設けられ、前記箇所の周方向両側に一対の端部が互いに近接して配置されている金属製の芯金と、前記一対の端部にそれぞれ固定され、前記周溝に形成された被嵌合部と嵌合する金属製の又はそれと同等以上の剛性を有する材質の嵌合部材とを備えたものである。
【0010】
上記のような転がり軸受装置では、嵌合部材に一定の剛性が確保されるので、装着時に嵌合部材が弾性変形しない。しかも、芯金に固定されている嵌合部材は、シールゴム内に押し込まれることはない。そのため、嵌合していない場合にはオイルシールが所定位置に収まらず、嵌合していないことが外見上明らかとなる。こうして、オイルシールの確実な装着が可能となる。また、かかる嵌合部材の嵌合によって、オイルシールの周方向への動きを規制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のオイルシールは、確実な装着が可能で、装着後は周方向に動かない。また、このようなオイルシールを用いた転がり軸受装置は、オイルシールの早期破損が防止され、長寿命なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、連続鋳造設備に用いられる杵形(中央が小径)のロール1に、本発明の一実施形態によるオイルシールを含む分割構造の転がり軸受装置2が取り付けられた状態の断面図である。図において、ロール1の小径部1aにおける直径d2は、それ以外の部分の直径d1より小さい。
【0013】
転がり軸受装置2は、小径部1aに外嵌される2分割構造の内輪3と、内輪3の外周側に形成された軌道3aに装着された転動体(円筒ころの総ころ形)4と、下側ハーフリングの外輪5と、内輪3及び転動体4の外側にあって、これらを保持するハウジング6と、ハウジング6の内周側に嵌合された一対の円筒形のラビリンスリング7と、内輪3の外周側に形成された周溝3bに装着され、ラビリンスリング7に摺接して内外輪間の空間を塞ぐオイルシール8と、内輪3の軸端近傍の外周側に形成された周溝3cに装着され、ラビリンスリング7と摺接するパッキン9とを備えている。ハウジング6は2分割構造であり、本実施形態では上下2分割構造であるが、上部のハウジング6は、外輪の役割も担っている。
【0014】
上記小径部1aの両壁となるロール1の両端面の各々には、ラビリンス溝1bが円形に形成され、ここに、ラビリンスリング7が一部入り込んでラビリンスシールを構成している。
図2は、図1の左側のオイルシール8を単体で軸方向左側(図1の左側)から見た図、若しくは、図1の右側のオイルシール8を単体で軸方向右側(図1の右側)から見た図である。図3は図2におけるIII部の拡大図、また、図4は図3におけるIV-IV線断面図である。
【0015】
図2において、オイルシール8は、フッ素ゴム製のシールゴム81と、鉄製の芯金82と、嵌合部材としての鉄製のピン83とを備えている。シールゴム81は、周方向の一箇所Sで切断されており、端面81a,81bを互いに突き合わせることにより、全体として環状の形態を成している。端面81aは図8に示す端面形状を備え、端面81bは図8を左右反転させた端面形状を備えている。一対の芯金82は、表面のみ露出した状態となるようにシールゴム81に埋設され、かつ、シールゴム81に沿って円弧状に設けられている。
【0016】
上記箇所Sを、オイルシール8の幾何的中心(円の中心)から見て0度の位置であるとすると、芯金82は、0度を中心としたその周方向の前後の範囲である分割部Aには存在せず、上記箇所Sの周方向両側に、芯金82の一対の端部82aが互いに近接して配置されている。また、芯金82は、180度を中心としたその周方向の前後の範囲を除くように設けられている。この範囲は、分割部Aの範囲より大きく、オイルシール8を開く際の屈曲部Bとなる。
【0017】
図3において、一対のピン83は、例えば内径135mmのオイルシール8の場合、−5度及び+5度の位置にあり、その角度間隔は10度である。一方、図4及び、単体としてのピン83を示す斜視図である図5において、ピン83は、シールゴム81内に埋め込まれる角柱状の基部83aと、シールゴム81の径方向内方へ突出している円柱状の突起部83bとを有している。例えば、突起部83bの直径は3.8mm、突出長は2mmである。ピン83は、芯金82に溶接(スポット溶接)され、芯金82と固定されている。
【0018】
芯金82と固定されたピン83は、シールゴム81によって保持されるのみならず、芯金82によって強固に保持される。シールゴム81の外周側には、内側(転動体4のある方)に向けられた主リップ81cと、外側に向けられたダストリップ81dとが形成されている。主リップ81cは潤滑油が外にもれるのを抑制し、ダストリップ81dは塵埃が入ることを抑制している。
【0019】
図6は、内輪3の周溝3bの一箇所について、図1のオイルシール8が周溝3bに装着されていない状態でのVI−VI線断面を示す図である。図において、周溝3bには一対の穴3dが形成されている。この穴3dは、オイルシール8におけるピン83の突起部83bを、ほぼ緊密に収めることができる形状及び寸法となっており、例えば、突起部83bが上記寸法であるとすると、内径は4mm、深さは2.5mmである。また、一対の穴3dの角度間隔は、ピン83の角度間隔(10度)に対応するが、若干小さくしてオイルシール8の端面同士を圧接させるべく、例えば9.5度とされている。
【0020】
この周溝3bにオイルシール8を装着し、突起部83bを穴3dに嵌合させる。ここで、鉄製の突起部83bは一定の剛性を有し、ゴムのように容易に弾性変形することはなく、しかも、芯金82に固定されていることで、内輪3に押されてもシールゴム81内に押し込まれることはない。その結果、突起部83bが穴3dに入っていないときはオイルシール8の端部が外側へ張り出し、入っていないことが外見上明らかとなる。従って、オイルシール8の確実な装着が可能となる。また、かかる突起部83bを穴3dに嵌合させることにより、オイルシール8の周方向への動きが確実に規制される。また、オイルシール8の端面同士が圧接する。
【0021】
図7は、周溝3bにオイルシール8を装着した後の、図6のVII−VII線断面を示す図である。主リップ81c及びダストリップ81dはラビリンスリング7に押し付けられて変形し、潤滑油及び塵埃に対するシールを構成する。
【0022】
なお、上記実施形態では、突起部83bを有する嵌合部材としてのピン83をオイルシール8に設け、内輪3の周溝3bに穴3dを形成したが、この凹凸の関係は逆でもよい。すなわち、上述したピン83の突起部83bを凹部に変えたことのみ上述したピン83と異なる凹部を有する嵌合部材をオイルシール8に設け、内輪3の周溝3bに突起部を形成してもよい。
また、芯金82に対するピン83の固定は溶接以外に、ねじ止め、かしめ、嵌め合わせ等でもよいし、一体形成であってもよい。
【0023】
なお、芯金82やピン83の材質は、溶接により容易かつ確実に固定できる点において鉄が好適であるが、鉄以外の金属であってもよい。さらに、ピン83の材質は、金属以外でも金属と同等以上の剛性を有する材質(例えばセラミックス)であれば、採用可能である。
また、上記実施形態では突起部83bを周溝3bの底の穴3dに嵌合させたが、底ではなく側面に穴や溝を設けて、これに、オイルシールの側面に設けた突起部を嵌合させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】連続鋳造設備に用いられる杵形のロールに、本発明の一実施形態によるオイルシールを含む分割構造の転がり軸受装置が取り付けられた状態の断面図である。
【図2】図1のオイルシールを単体で軸方向から見た図である。
【図3】図2におけるIII部の拡大図である。
【図4】図3におけるIV-IV線断面図である。
【図5】ピンの斜視図である。
【図6】図1のVI−VI線断面を示す図である。
【図7】図6のVII−VII線断面を示す図である。
【図8】オイルシールの端面形状を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
2 転がり軸受装置
3 内輪
3b 周溝
4 転動体
5 外輪
8 オイルシール
81 シールゴム
82 芯金
83 ピン(嵌合部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体として環状の形態を成すとともに、周方向において切断された箇所を有するシールゴムと、
前記シールゴムに沿って円弧状に設けられ、前記箇所の周方向両側に一対の端部が互いに近接して配置されている金属製の芯金と、
前記一対の端部にそれぞれ固定され、前記シールゴムが装着される部材の溝に形成された被嵌合部と嵌合する金属製の又はそれと同等以上の剛性を有する材質の嵌合部材と
を備えたことを特徴とするオイルシール。
【請求項2】
前記芯金及び嵌合部材は共に鉄製であり、互いに溶接されている請求項1記載のオイルシール。
【請求項3】
分割構造の内輪と外輪との間に転動体を介在させ、内外輪間に形成される空間を塞ぐオイルシールが装着された転がり軸受装置において、当該オイルシールは、
前記内輪の外周面に形成された周溝に取り付けられ、全体として環状の形態を成し、周方向において切断された箇所を有するシールゴムと、
前記シールゴムに沿って円弧状に設けられ、前記箇所の周方向両側に一対の端部が互いに近接して配置されている金属製の芯金と、
前記一対の端部にそれぞれ固定され、前記周溝に形成された被嵌合部と嵌合する金属製の又はそれと同等以上の剛性を有する材質の嵌合部材と
を備えたことを特徴とする転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−281170(P2008−281170A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128055(P2007−128055)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000252207)六菱ゴム株式会社 (41)
【Fターム(参考)】