説明

オイルダンパーのジョイント部構造

【課題】建物の架構に組み込まれる制振装置に適用されるオイルダンパーにおいて、ダンパーストロークを短くすることなく架構の開口部を大きくとることができ、しかも架構の面外方向の力を逃がすことができるジョイント部構造を提供する。
【解決手段】他の部材に回動自在に連結されるクレビス部31と、クレビス部31の端部に該クレビス部31から直角に張り出すように設けられ、それぞれピン穴34を有する互いに平行な1対のトラニオン支持部32,32とからなるジョイント部材30と、シリンダ端部外周に設けられた1対のピン取付部37とを備え、トラニオン支持部32,32はピン穴34及びピン取付部37に取り付けられるトラニオンピン40を介してシリンダ20端部外周に回動自在に連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はオイルダンパーのジョイント部構造に関し、さらに詳細には、例えば建物の架構に組み込まれる制振装置に適用されるオイルダンパーのジョイント部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
制振技術の1つとして建物の架構に組み込まれ、地震などの際に生じる層間変位を増幅してダンパーに伝達する変位増幅機構を備えた制振装置が知られている(例えば特許文献1参照)。制振装置は変位増幅機構が1基タイプのものと、2基タイプのものとがあり、図4は変位増幅機構が2基タイプのものの一例を示している。すなわち、変位増幅機構は、層間変位を減衰させるためのオイルダンパー1と、層間変位を増幅してオイルダンパー1に伝達するための1対のブレース部材2,2との組合せからなり、制振装置は変位増幅機構を2組備えている。
【0003】
各組の変位増幅機構において、ブレース部材2,2の一方の端部及びオイルダンパー1のシリンダ側端部がジョイント部材4,4,5及びピン6を介して回動自在に連結されている。また、ブレース部材2,2の各他方の端部は枠体7の下部コーナー部及び上部横枠中央部にそれぞれジョイント部材8及びピン9を介して回動自在に連結され、オイルダンパー1のロッド側端部は枠体7の上部コーナー部にジョイント部材10及びピン11を介して回動自在に連結されている。
【0004】
上記のような、制振装置において、オイルダンパー1のシリンダ側端部と1対のブレース部材2,2の端部との連結部には、ジョイント部材4,5としてクレビスが用いられている。このような連結構造のもと、架構の開口部12を大きくとろうとすると、クレビス5はシリンダ端部への取り付けのために所定長さの取付基部を要することからこれを減じることはできない。このため、上記のような開口部12を大きくするという要求を満たすには、シリンダの長さを短くせざるをえず、そうするとダンパーストロークが短くなってしまう。また、連結部におけるオイルダンパー1の回動は、架構の面内の運動であるが、ダンパーには面外方向の力が加わることがある。この面外方向の力を受けるとオイルダンパーが破損するおそれがあるので、これを逃がさなくてはならない。
【0005】
特許文献2には、オイルダンパーに加わる架構の面外方向の力を逃がすようにしたジョイント部構造が開示されている。しかしながら、仮にこのジョイント部構造をオイルダンパーに適用したとしても、ダンパーストロークの減少には対応できない。
【特許文献1】特開2005−387553号公報
【特許文献2】特開2006−38117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、例えば、建物の架構に組み込まれる制振装置に適用されるオイルダンパーにおいて、ダンパーストロークを短くすることなく架構の開口部を大きくとることができ、しかも架構の面外方向の力を逃がすことができて、無理な荷重が加わることのないジョイント部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、シリンダ端部を他の部材に回動自在なように連結するためのオイルダンパーのジョイント部構造であって、
前記他の部材に回動自在に連結されるクレビス部と、このクレビス部の端部に該クレビス部から直角に張り出すように設けられ、それぞれピン穴を有する互いに平行な1対のトラニオン支持部とからなるジョイント部材と、
前記シリンダ端部外周に設けられた1対のピン取付部とを備え、
前記トラニオン支持部は前記ピン穴及び前記ピン取付部に取り付けられるトラニオンピンを介して前記シリンダ端部外周に回動自在に連結されていることを特徴とするオイルダンパーのジョイント部構造にある。
【0008】
より具体的には、前記ピン取付部は、前記シリンダの端部外周に有底穴を設け、この有底穴の周縁に筒状部を設けて形成され、前記有底穴及び前記筒状部は前記トラニオンピンが嵌合される嵌合穴を形成する。
【0009】
また、前記トラニオンピンは頂部にフランジを有し、このフランジは前記トラニオン支持部の前記ピン穴周縁に固定されている。
【0010】
前記シリンダは、シリンダ本体と、このシリンダ本体にねじ接続され、前記端部を形成する端部部材とからなる。
【0011】
前記オイルダンパーは建物の架構に組み込まれる制振装置用のものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、ジョイント部材はシリンダ端部を挟み込むように配置されるトラニオン支持部を介してシリンダに取り付けられるので、ジョイント部の長さを短くすることができる。これにより、シリンダの長さを減じることなく、すなわちダンパーストロークを短くすることなく、ジョイント部を含むオイルダンパー全体の長さを短くすることができる。したがって、このようなオイルダンパーを建物の架構に組み込まれる制振装置に適用することにより、架構の開口面積を大きくとることができる。
【0013】
また、トラニオン支持部は、クレビス部の回動軸線に対して垂直な回動軸線を持つこととなるのでので、オイルダンパーは架構の面外方向にも回動することが可能であり、これによりオイルダンパーに作用する面外方向の力を逃がすことができ、その損傷を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、この発明の実施形態を示す部分断面図、図2はジョイント部の分解斜視図、図3はジョイント部の斜視図である。オイルダンパー1は、シリンダ20と、シリンダ20内に軸方向に移動自在に収容され、中間部にピストン21が設けられたロッド22とを備えている。シリンダ20内にはシリンダ室23が区画され、ピストン21はシリンダ室23内に摺動自在に配置されている。
【0015】
ロッド22はシリンダ20の一方の端部から突出し、突出部には架構に回動自在に取り付けるためのジョイント部材であるクレビス24が設けられている。また、ロッド22の突出部にはフランジ25が設けられ、このフランジ25にはシリンダ20側に延びる円筒形のカバー26が設けられている。カバー26はシリンダ20の外周を摺動自在であり、このカバー26によってフランジ25とシリンダ20との間のロッド22部分を覆うようになっている。
【0016】
シリンダ20はシリンダ本体20aと、シリンダの他方の端部を構成する端部部材20bとからなり、端部部材20bはシリンダ本体20aにねじ27により着脱自在に固定される。端部部材20bはシリンダ本体20aの内部と連通する円筒形の部材であり、ピストン21の中立位置を示している図1から理解されるように、ロッド22が端部部材20bの内部に入り込むことが可能である。この端部部材20bの端部はプレート28によって閉鎖されている。
【0017】
1対のブレース部材と連結するためのジョイント部材30は、端部部材20bに取り付けられる。ジョイント部材30はクレビス部31と、互いに平行な1対のトラニオン支持部32,32とからなっている。クレビス部31は図2に示すように二山クレビスであり、したがって、クレビス部31は互いに平行な1対のクレビスアイ31a,31aを有している。これらクレビスアイ31a,31aの各ピン穴33,33に図示しないピンが挿入され、ジョイント部材30は1対のブレース部材と回動自在に連結される。
【0018】
1対のトラニオン支持部32,32は、クレビスアイ31a,31aの端部から直角に張り出すようにクレビス部31と一体に形成されている。これらのトラニオン支持部32,32にはピン穴34が設けられている。このピン穴34の軸線は、クレビスアイ31aのピン穴33の軸線に対して垂直をなしている。
【0019】
一方、シリンダ20の端部部材20bの外周には、1対のピン取付部35,35が設けられている。これらピン取付部35,35は、端部部材20bの外周に同一軸線を持つ1対の有底穴36,36(図1参照)を設け、これら有底穴36の周縁に筒状部37を設けて形成されている。この有底穴36及び筒状部37は、ピン嵌合穴を形成している。
【0020】
ジョイント部材30は、そのトラニオン支持部32,32間に端部部材20bが挟み込まれるように配置される。そして、トラニオン支持部32のピン穴34、ピン取付部35の筒状部37及び有底穴36にトラニオンピン40が嵌合される。トラニオンピン40の頂部にはフランジ41が設けられ、このフランジ41はボルト42によってピン穴34の周縁に固定される。以上のようにして、ジョイント部材30が端部部材20に取り付けられる。
【0021】
上記のようなジョイント部構造によれば、ジョイント部材30はトラニオン支持部32,32間にシリンダ20の端部部材20bが挟み込まれるように配置されるので、ジョイント部の長さを短くすることができる。これにより、シリンダ20の長さを減じることなく、すなわちダンパーストロークを短くすることなく、ジョイント部を含むオイルダンパー全体の長さを短くすることができる。したがって、このようなオイルダンパーを建物の架構に組み込まれる制振装置に適用することにより、架構の開口面積を大きくとることができる。
【0022】
また、トラニオン支持部32,32は、クレビス部31の回動軸線に対して垂直な回動軸線を持つので、オイルダンパーは架構の面外方向にも回動することが可能であり、これによりオイルダンパーに作用する面外方向の力を逃がすことができ、その損傷を防止することができる。
【0023】
さらに、シリンダ20をシリンダ本体20aと端部部材20bとで構成し、ジョイント部材30を端部部材20bに取り付けることにより、オイルダンパーの組立が簡単なものとなる。
【0024】
上記実施形態は例示にすぎず、この発明は種々の改変が可能である。例えば、上記実施形態では、ジョイント部材のクレビス部として二山クレビスが示されているが、これに限られるものではなくクレビス部は一山クレビスであってもよい。また、この発明によるジョイント部構造を持つオイルダンパーは、建物の架構に組み込まれる制振装置に限らず、免震装置等他の用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施形態を示す部分断面図である。
【図2】ジョイント部の分解斜視図である。
【図3】ジョイント部の斜視図である。
【図4】オイルダンパーが適用される制振装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 オイルダンパー
20 シリンダ
20 端部部材
20a シリンダ本体
20b 端部部材
21 ピストン
22 ロッド
23 シリンダ室
24 クレビス
30 ジョイント部材
31 クレビス部
31a クレビスアイ
32 トラニオン支持部
33 ピン穴
34 ピン穴
35 ピン取付部
36 有底穴
37 筒状部
40 トラニオンピン
41 フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ端部を他の部材に回動自在なように連結するためのオイルダンパーのジョイント部構造であって、
前記他の部材に回動自在に連結されるクレビス部と、このクレビス部の端部に該クレビス部から直角に張り出すように設けられ、それぞれピン穴を有する互いに平行な1対のトラニオン支持部とからなるジョイント部材と、
前記シリンダ端部外周に設けられた1対のピン取付部とを備え、
前記トラニオン支持部は前記ピン穴及び前記ピン取付部に取り付けられるトラニオンピンを介して前記シリンダ端部外周に回動自在に連結されていることを特徴とするオイルダンパーのジョイント部構造。
【請求項2】
前記ピン取付部は、前記シリンダの端部外周に有底穴を設け、この有底穴の周縁に筒状部を設けて形成され、前記有底穴及び前記筒状部は前記トラニオンピンが嵌合されるピン嵌合穴を形成することを特徴とする請求項1記載のオイルダンパーのジョイント部構造。
【請求項3】
前記トラニオンピンは頂部にフランジを有し、このフランジは前記トラニオン支持部の前記ピン穴周縁に固定されていることを特徴とする請求項1又は2記載のオイルダンパーのジョイント部構造。
【請求項4】
前記シリンダは、シリンダ本体と、このシリンダ本体にねじ接続され、前記端部を形成する端部部材とからなることを特徴とする請求項1,2又は3記載のオイルダンパーのジョイント部構造。
【請求項5】
前記オイルダンパーは建物の架構に組み込まれる制振装置用のものであることを特徴とする請求項1,2,3又は4記載のオイルダンパーのジョイント構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−7685(P2010−7685A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164251(P2008−164251)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(504289473)株式会社川金テクノソリューション (7)
【Fターム(参考)】