説明

オイルパン内槽弁構造

【課題】異常開弁を防止することができかつ従来より小型化することが可能なオイルパン内槽弁構造を提供する。
【解決手段】内槽の底壁20Uを内外に連通した弁口34,34の下方に、円盤状をなしたフロート弁50が配置されると共に、フロート弁50の下方に下部カバー40が配置されている。また、フロート弁50の下面中央に中央凹部52が陥没形成されると共に、下部カバー40から側方移動規制ピン43Pが起立して中央凹部52と常に凹凸係合している。下部カバー40によりフロート弁50の上下移動の範囲が規制される。また、側方移動規制ピン43Pにより、上面膨出部51の頂上部が弁座33の内側領域に上下方向で常に対向するようにフロート弁50の側方への移動が規制される。これにより、フロート弁50を、弁体かつ浮体として機能する円盤状にして上下方向で小型化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二槽オイルパンにおける内槽の底壁に形成された弁口を、その弁口の下方に配置されたフロート弁にて閉塞可能なオイルパン内槽弁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来のオイルパン内槽弁構造に備えられたフロート弁として、弁口の下方に配置した弁体と弁口の上方に配置した浮体とを弁口を貫通した弁シャフトで連結した構成のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このフロート弁は、浮体が内槽のオイル面に応じて上下動することで弁体が弁口を開閉する構成となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4420026号公報(第18項第43行目〜第19項第9行目、第5図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述した従来のオイルパン内槽弁構造では、浮体と弁シャフトと弁体とが上下方向で並んで大型化するという問題があった。また、エンジン作動中の内槽オイルの流動や、傾斜路走行中のオイル面の傾き等により、フロート弁が傾き、弁シャフトが弁口内で引っ掛かって異常開弁するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、異常開弁を防止することができかつ従来より小型化することが可能なオイルパン内槽弁構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係るオイルパン内槽弁構造は、外槽(11)の内側に内槽(20)を有した二槽オイルパン(10)における内槽(20)の底壁(20U)に弁口(34)を形成し、その弁口(34)の下方に配置されたフロート弁(50)を、二槽オイルパン(10)内のオイルからの浮力の有無により弁口(34)の周囲の弁座(33)に接離して弁口(34)を開閉可能なオイルパン内槽弁構造において、フロート弁(50)に、その上面の外縁部から中心部に向かって徐々に上方に膨出又は突出した上面山形部(51)を形成し、その上面山形部(51)が弁座(33)に当接することで弁口(34)が閉塞される構成とし、フロート弁(50)の下面に対向し、フロート弁(50)の上下動可能な範囲を規制する上下移動規制部(40)と、上面山形部(51)の頂上部が弁座(33)の内側領域に上下方向で常に対向するようにフロート弁(50)の側方への移動を規制する側方移動規制部(43P)とを、内槽(20)又は外槽(11)の何れかに設けたところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載のオイルパン内槽弁構造において、上面山形部(51)のうち少なくとも弁座(33)との当接部分(51B)の表面を球面形状にしたところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載のオイルパン内槽弁構造において、底壁(20U)のうち弁口(34)を囲みかつ円環状の領域を下方に膨出させて弁座(33)を形成したところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載のオイルパン内槽弁構造において、弁口(34)は、弁座(33)の内側に複数設けられたところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れか1の請求項に記載のオイルパン内槽弁構造において、フロート弁(50)の下面中央又は上面中央の一方に中央凹部(52)を設け、その中央凹部(52)に受容される側方移動規制ピン(43P)を側方移動規制部(43P)として備え、フロート弁(50)の下面中央又は上面中央の他方に中央凹部(52)の陥没方向と同じ側に突出した中央突出部(51A)を設けたところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1乃至4の何れか1の請求項に記載のオイルパン内槽弁構造において、フロート弁(50)の下面中央に中央凹部(52)を設ける一方、フロート弁(50)の上面中央に弁座(33)との当接部分(51B)より急傾斜になって上方に突出した中央突出部(51A)を設け、上下移動規制部(40)により中央凹部(52)を下方から覆い、その上下移動規制部(40)から突出して中央凹部(52)に受容された側方移動規制ピン(43P)を、側方移動規制部(43P)として備えたところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1乃至6の何れか1の請求項に記載のオイルパン内槽弁構造において、内槽(20)の底壁(20U)の下面には、弁座(33)の側方位置から下方に膨出した構造をなしかつオイルが通過可能なオイル通過孔(41A,45A)を有した膨出壁(40)が上下移動規制部(40)として備えられ、底壁(20U)と膨出壁(40)の間の弁収容部屋(45)にフロート弁(50)が収容されたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
[請求項1の発明]
請求項1の発明によれば、上下移動規制部(40)と側方移動規制部(43P)とを設けたことで、フロート弁(50)を、弁体かつ浮体として機能するようにして、従来より上下方向で小型化することができる。これにより、フロート弁(50)を従来より下方に配置してオイル面の傾きや内槽オイルの流動の影響を抑えることができる。また、従来の弁シャフトを無くすことができるので、これらにより、フロート弁(50)の異常開弁を防止することができる。しかも、フロート弁(50)の上面に外縁部から中心部に向かって徐々に上方に膨出するか又は、外縁部から中心部に向かって徐々に上方に突出した上面山形部(51)を形成したことで、フロート弁(50)の傾きに関わらず、弁口(34)を閉じることができる。即ち、本発明によれば、閉弁状態が安定する。
【0014】
[請求項2の発明]
請求項2の発明によれば、フロート弁(50)が車両の前後左右の何れの方向に傾いても、弁座(33)全体にフロート弁(50)を当接させて閉弁することができる。即ち、本発明によれば、閉弁状態が一層安定する。
【0015】
[請求項3の発明]
本発明に係る弁座(33)は、内槽(20)の底壁(20U)に貫通形成した弁口(34)の開口縁を面取りして形成してもよいし、請求項3の発明のように、弁口(34)を囲みかつ円環状の領域を下方に膨出させて形成してもよい。請求項3の発明によれば、弁座(33)をプレス成形することができるので、弁口(34)の開口縁を面取りして弁座(33)とする場合に比べて、加工の手間が軽減される。また、プレス成形により膨出させた弁座(33)の表面は滑らかになるので、弁座(33)とフロート弁(50)の引っ掛かりを防止することができる。
【0016】
[請求項4の発明]
請求項4の発明によれば、仮に、弁口(34)がオイル面から露出したとしても、複数の弁口(34)同士の間に形成された壁部によってフロート弁(50)の上面の一部を覆うことができるから、エンジンから流下してきた戻りオイルがフロート弁(50)に衝突し難くなる。
【0017】
[請求項5の発明]
請求項5の発明によれば、フロート弁(50)のうち中央凹部(52)を設けた面とは逆側の面に中央突出部(51A)を設けたことで、肉厚のバランスを取ることができるから、フロート弁(50)を樹脂成形した場合に、ヒケを抑制して上面山形部(51)の表面形状を安定させることができる。
【0018】
[請求項6の発明]
請求項6の発明によれば、フロート弁(50)の下面に設けた中央凹部(52)内に気泡が留まり、オイルの浮力と気泡の浮力とによりフロート弁(50)を浮上させることができる。
【0019】
[請求項7の発明]
請求項7の発明によれば、内槽(20)の底壁(20U)と、底壁(20U)から下方に膨出した膨出壁(40)との間の弁収容部屋(45)内でフロート弁(50)を上下動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係るオイルパンの斜視図
【図2】オイルパンの断面図
【図3】オイルパンの断面図
【図4】閉弁状態におけるオイルパン内槽弁構造の拡大断面図
【図5】フロート弁が傾いた状態のオイルパン内槽弁構造の拡大断面図
【図6】開弁状態におけるオイルパン内槽弁構造の拡大断面図
【図7】上部カバー、フロート弁、下部カバーの側面図
【図8】下部カバーの側面図
【図9】本発明の第2実施形態に係るオイルパン内槽弁構造の側断面図
【図10】変形例に係るオイルパン内槽弁構造の側断面図
【図11】変形例に係るオイルパン内槽弁構造の側断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
以下、本発明の一実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。図1に示す本発明の二槽オイルパン10(以下、単に「オイルパン10」という)は、図示しないエンジンの下部に組み付けられ、所定量のオイルを貯留可能となっている。オイルパン10は、外槽11の内側に内槽20を組み付けてなる。また、オイルパン10(内槽20)の内側には、バランスシャフト、クランクキャップ、オイルバッフルプレート、オイルストレーナ等(図示せず)が配置されている。
【0022】
外槽11は、上方に開放した容器形状をなしている。図2に示すように、外槽11の底壁11Uのうち、エンジンに組み付けたときの最も低い位置或いはその近傍位置には、ドレイン孔14が貫通形成されている。ドレイン孔14には、外槽11の外側からドレインボルト15が挿入されており、ドレインボルト15をドレイン孔14から取り外すと、オイルパン10内のオイルを自重によって外部へ排出させることができる。
【0023】
内槽20は、外槽11の内面形状に対応した容器形状をなすと共に上方に開放している。内槽20は、その側壁20Sの中間部に側方に張り出した段差を備え、その段差より開口端側の周縁部を外槽11の側壁内面に重ねて溶接されている。内槽20の上方からは、図示しないバッフルプレートが被せられ、バッフルプレートと内槽20及び外槽11とが一体に固定されている。
【0024】
内槽20の内側に配置されたオイルストレーナは図示しないオイルポンプから延びている。内槽20に貯留されたオイルは、オイルポンプによって吸い上げられ、オイルストレーナを通ってオイルパン10の上方のエンジンに供給される。そして、エンジン各部を潤滑・冷却したオイルは、自重でオイルパン10の内槽20に向かって流下する。
【0025】
オイルパン10の内部は、内槽20と外槽11とに挟まれた外側貯油室18と、内槽20の内側の内側貯油室19とに区画されている。内側貯油室19の下方及び側方は、外側貯油室18によって囲まれている。
【0026】
内槽20の側壁20Sには、内槽20の内外(外側貯油室18と内側貯油室19と)を連通した複数の横孔21,21(図1参照)が貫通形成されている。これら横孔21,21によって、内側貯油室19と外側貯油室18との間でオイルが適度に交流するように構成されている。詳細には、オイルが比較的低温で粘度が高い状態では、外側貯油室18から内側貯油室19へのオイルの流入が抑制され、オイルが暖められて粘度が低下すると、外側貯油室18から内側貯油室19へ容易に流入するようになる。これにより、エンジン始動直後には、外側貯油室18から内側貯油室19へのオイルの流入が抑制されて内側貯油室19内のオイルの昇温が促進されると共に、オイルがある程度温まった後は、外側貯油室18からのオイル流入により内側貯油室19内のオイルが極端に高温となることを防止することができる。
【0027】
さて、オイルパン10内のオイルをドレイン孔14から抜き取る場合、内側貯油室19内のオイルは外側貯油室18を介して排出させる必要がある。そのために、内槽20の底壁20Uには、外側貯油室18と内側貯油室19とを連通した弁口34が設けられている。
【0028】
ここで、弁口34を常時開にしておくと、オイルポンプによる吸引時に、弁口34から外側貯油室18のオイルが吸引されてオイルの昇温スピードが遅くなる。そこで、弁口34の下方には、オイルパン10に規定量のオイルが貯留された状態で常時、弁口34を閉じるためのフロート弁50が配置されている。
【0029】
以下、本発明に係るオイルパン内槽弁構造について詳説する。底壁20Uのうちドレイン孔14の近傍位置には、底壁20Uを貫通した円形孔23が貫通形成されている。その円形孔23に対し、内槽20の内側から上部カバー30が取り付けられると共に、円形孔23と向き合うように内槽20の外側から下部カバー40が取り付けられている。
【0030】
上部カバー30は、例えば、板金をプレス加工して成形されている。詳細には、上部カバー30の中央部には、円形孔23と同心の円錐形凹部31が形成され、円錐形凹部31の外側には円錐形凹部31の外周に沿って延びた土手状の弁座33が形成され、さらに、弁座33の外側は平板状のフランジ部32となっている。
【0031】
円錐形凹部31は、上部カバー30の中央部を内槽20側(上方)に円錐台形状に膨出させてなる。弁座33は、円錐形凹部31と連続しかつ外槽11側(下方)に膨出した円環状をなしており、頂上部分が全周に亘って滑らかな曲面で構成されている。そして、上部カバー30は、弁座33を円形孔23から下方に突出させかつフランジ部32を底壁20Uの内面に重ねた状態で固定(例えば、リベット止め)されている。ここで、オイルパン10をエンジンに組み付けたときに、底壁20Uのうち円形孔23が形成された部分は水平面に対して傾斜しており(図3参照)、その底壁20Uに上部カバー30を固定したときに、弁座33の頂上部分が同一水平面上に配置されるように、フランジ部32に対する弁座33の膨出量が周方向で徐変している(図7参照)。
【0032】
上部カバー30のうち円錐形凹部31の中央には複数(例えば、4つ)の弁口34,34が形成されている。各弁口34,34は、円錐形凹部31の中心部で十字に交差した天井壁35によって区画されている。なお、図7には、4つの弁口34,34のうち2つのみが示されている。
【0033】
図8に示すように、下部カバー40はベースプレート41と1対の脚部42,42とから構成されている。ベースプレート41は、円形の薄皿形状をなしており、上部カバー30における弁座33の内側領域(円錐形凹部31及び弁口34,34)に対向配置されている。また、ベースプレート41の上面中心部からは側方移動規制ピン43P(本発明の「側方移動規制部」に相当する)が起立している。詳細には、ベースプレート41の中心部を下方から鋲43が貫通しており、その鋲43の鋲頭がベースプレート41の下面に溶接されかつ、ベースプレート41の上面に突出した鋲軸にキャップ43Cを被せて側方移動規制ピン43Pが構成されている。なお、ベースプレート41には、複数の抜き孔41Aが貫通形成されており、オイルパン10からオイルを抜いた場合にベースプレート41にオイルが残らないようになっている。
【0034】
1対の脚部42,42は、ベースプレート41の外周縁の互いに180度離れた位置から相反する方向に張り出している。詳細には、各脚部42,42は、ベースプレート41の外周縁から内槽20の底壁20U側(上方)に曲げ起こされた起立片42Aと、起立片42Aの先端からベースプレート41の側方に折れ曲がった張出片42Bとを備えている。下部カバー40は、ベースプレート41を弁座33及び円錐形凹部31の下方に対向配置した状態で、張出片42B,42Bを底壁20Uの外面に重ねて固定(例えば、リベット止め)されている。ここで、オイルパン10をエンジンに組み付けたときに、底壁20Uのうち円形孔23が形成された部分は水平面に対して傾斜しており、その底壁20Uに下部カバー40を固定したときに、ベースプレート41が水平になるように、ベースプレート41に対して1対の脚部42,42が傾いている(図7参照)
【0035】
フロート弁50は、内槽20の底壁20Uと下部カバー40との間に形成された弁収容部屋45に収容されており、その弁収容部屋45内でのみ移動可能となっている。フロート弁50は、オイルより比重の軽い材質(例えば、発泡フェノール樹脂、発泡ナイロン樹脂が好適である)で構成されている。フロート弁50は、上下方向に扁平な円盤状をなし、その上面に、外縁部から中心部に向かって徐々に上方に膨出した上面山形部51を有している。上面山形部51は、上下方向の中間部より上側部分が、下側部分に比べて急傾斜になって上方に突出した中央突出部51Aとなっており、中間部より下側の中腹部51Bの表面が球面形状をなしている。
【0036】
一方、フロート弁50の下面は、外周縁寄り部分がテーパー面となっており、中央部分が平面となっている。フロート弁50の下面中心部には、中央突出部51Aに向かってドーム状に陥没した中央凹部52が形成されている。
【0037】
図4に示すように、フロート弁50の下面に下部カバー40のベースプレート41が対向配置されたことにより、フロート弁50の上下動可能な範囲が規制されている。また、同図に示すように、中央凹部52と側方移動規制ピン43Pとが凹凸係合することにより、フロート弁50の頂上部が弁座33の内側領域(弁口34,34)に上下方向で常に対向するように、フロート弁50の側方への移動範囲が規制されている。ここで、中央凹部52と側方移動規制ピン43Pとは遊嵌しており、その隙間(遊び)の範囲内で弁座33に対するフロート弁50の傾動及び側方への移動が許容されている。
【0038】
また、上面山形部51の中央に中央凹部52の陥没方向と同じ側に突出した中央突出部51Aを設けたことでフロート弁50の肉厚のバランスを取ることができるから、フロート弁50を樹脂成形する場合に、ヒケを抑制して上面山形部51の表面形状を安定させることができる。
【0039】
なお、フロート弁50の材質は、耐熱性及び耐油性に優れかつオイルより比重の軽いものであればよく、上記した発泡フェノール樹脂や発泡ナイロン樹脂に限定するものではない。
【0040】
下部カバー40は本発明の「上下移動規制部」及び「膨出壁」に相当する。また、下部カバー40と内槽20の底壁20Uとの間に形成された弁収容部屋45の側方開放部45A(図3参照)及びベースプレート41に形成された抜き孔41Aが、本発明の「オイル通過孔」に相当する。
【0041】
本実施形態の構成は以上であって、次に動作を説明する。オイルパン10に規定量のオイルが貯留されているとき、フロート弁50はオイル面F1より下に潜った状態で浮いている。このとき、フロート弁50における上面山形部51の中腹部51Bがオイルの浮力によって弁座33に押し当てられて、弁座33の全周で線接触する(図4参照)。これにより弁口34,34が閉じられ、弁口34,34を介した内側貯油室19と外側貯油室18との間でのオイルの流通が禁止される。
【0042】
また、例えば、車両が前後左右に傾くと、側方移動規制ピン43Pと中央凹部52との間の隙間(遊び)の範囲でフロート弁50が弁座33に対して傾く。このような場合であっても、フロート弁50は上面に上面山形部51Bを備えているので、閉弁状態を維持することができる。詳細には、上面山形部51Bの中腹部51Bが球面形状をなしているので、フロート弁50が弁収容部屋45内でどのように傾いたとしても、上面山形部51の中腹部51Bを弁座33の全周で線接触させることができ、閉弁状態が安定する(図5参照)。
【0043】
オイルポンプによって吸い上げられてエンジン各部を潤滑及び冷却したオイルは、エンジンの下方に流下して再びオイルパン10の内槽20(内側貯油室19)に戻される。ここで、フロート弁50は上下方向で扁平な円盤状をなし、内槽20のオイル面から露出し難いので、エンジンから流下したオイルがフロート弁50に当たることが防がれ、これによる弁口34,34の異常開放が防がれる。また、仮に、車両の姿勢変化によるオイル面F1の傾きやオイル不足により、弁口34,34がオイル面F1から露出したとしても、上部カバー30に備えた天井壁35によってフロート弁50が上方から覆われているから、エンジンから流下したオイルがフロート弁50に当たり難くなり、異常開弁を抑制することができる。
【0044】
オイルパン10からオイルを抜くために外槽11のドレイン孔14を開放する(ドレインボルト15を取り外す)と、まず、外側貯油室18のオイルが自重でドレイン孔14から流出する。外側貯油室18のオイル面低下に伴い、フロート弁50が降下して弁座33から離間すると弁口34,34が開放され、その弁口34,34を通って内側貯油室19から外側貯油室18へとオイルが自重で流出する(図6参照)。この間、側方移動規制ピン43Pと中央凹部52とが凹凸係合を維持するので、フロート弁50の側方移動が規制される。即ち、フロート弁50は、弁収容部屋45の内側で上面山形部51の頂上部(中央突出部51A)が弁座33の内側領域(弁口34,34)に下方から対向した状態のまま降下する。そして、内側貯油室19及び外側貯油室18のオイルがほぼ全量流出してフロート弁50にオイルからの浮力がかからなくなると、フロート弁50が側方移動規制ピン43Pと凹凸係合したままベースプレート41上に残置される。
【0045】
オイルパン10が空になった状態で、エンジン上部の図示しない注油口にオイルを注入すると、そのオイルはオイルパン10の側面に形成された流入口10A(図3参照)から内槽20(内側貯油室19)に流入し、さらに、開弁状態の弁口34,34を通って外側貯油室18へと流入する。そして外側貯油室18のオイル面上昇に伴ってフロート弁50が浮上し、やがて、弁座33に当接して弁口34,34が閉じられる。この間、側方移動規制ピン43Pと中央凹部52とが凹凸係合を維持するので、フロート弁50の側方移動が規制される。即ち、フロート弁50は、弁収容部屋45の内側で中央突出部51Aが弁座33の内側領域に下方から対向した状態のまま浮上する。また、フロート弁50の中央凹部52に気泡が保持されるので、その気泡とオイルの浮力とによりフロート弁50を浮上させることができる。
【0046】
このように、本実施形態によれば、内槽20の底壁20Uの下面に設けた下部カバー40(ベースプレート41)によりフロート弁50の上下移動可能な範囲を規制すると共に、下部カバー40(ベースプレート41)から起立した側方移動規制ピン43Pによりフロート弁50の側方への移動範囲を規制するようにしたことで、フロート弁50を、弁体かつ浮体として機能する円盤状にして、従来より上下方向で小型化することができる。これにより、フロート弁50を従来より下方に配置してオイル面の傾きや内槽オイルの流動の影響を抑えることができ、フロート弁50の異常開弁を防止することができる。また、フロート弁50の上面に上面山形部51を形成したことで、フロート弁50の傾きに関わらず、弁口34を閉じることができる。しかも、上面山形部51の中腹部51Bを球面形状にしたことで閉弁状態がより一層安定する。
【0047】
また、弁座33をプレス成形することができるから、内槽20の底壁20Uに貫通形成された弁口の開口縁を面取りして弁座とする場合に比べて、加工の手間を軽減することができる。また、弁座33が滑らかな曲面で構成されているので、弁座33とフロート弁50との引っ掛かりを防止することができる。
【0048】
ここで、従来のフロート弁は上下方向に大型化していたため、オイル面から露出し易く、エンジンから内槽20に向かって流下した戻りオイルがフロート弁に衝突し易い。そのため、戻りオイルの衝撃で異常開弁したり、オイルの気泡率が高くなり易い。また、従来のフロート弁では、内槽20の内側に配置されるオイルバッフルプレートやオイルストレーナ等と干渉するため、弁口をオイルストレーナ等の下方に配置することができなかった。
【0049】
これに対し、本実施形態のフロート弁50は、上下方向に小型化可能であるので、フロート弁50がオイル面F1上に露出した状態になり難く、エンジンから流下した戻りオイルがフロート弁50に直接当たることが防がれ、戻りオイルによる異常開弁や、気泡率の上昇を抑えることができる。また、オイルストレーナ等との干渉の問題が無くなり、弁口34の配置の自由度が高くなる。さらに、浮体と弁シャフトとが内槽の内側に配置される従来のフロート弁を使用した場合と比べて、内槽20に貯留されるオイル量を増やすことができる。しかも、フロート弁50を弁座33に線接触させることで、弁座33とのシール面圧を高めると共に、オイルパン10からの排油時にはフロート弁50を弁座33から離れ易くすることができる。
【0050】
[第2実施形態]
図9には、側方移動規制ピン43Pと中央凹部52の配置を上記第1実施形態とは異ならせた本発明の第2実施形態が示されている。同図に示すように、側方移動規制ピン43Pは、上部カバー30のうち円錐形凹部31の中心を貫通して下方に突出している。一方、中央凹部52は、フロート弁50の上面山形部51の中心部に陥没形成されている。そして、これら側方移動規制ピン43Pと中央凹部52とが上下方向で常に凹凸係合している。その他の構成は、上記第1実施形態と同一であるので、重複する説明は省略する。本実施形態の構成であっても、上記第1実施形態と同等の効果を奏する。
【0051】
なお、フロート弁50の下面中央を中央凹部52の陥没方向に膨出させて、フロート弁50の肉厚のバランスを取るようにしてもよい。
【0052】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0053】
(1)前記実施形態では、弁座33の内側領域に複数の弁口34,34を備えていたが、例えば、弁座33と同心の弁口を1つだけ設けてもよい。
【0054】
(2)前記実施形態では、フロート弁50に陥没形成された中央凹部52と、その中央凹部52に受容される側方移動規制ピン43Pとにより、フロート弁50の側方移動を規制していたが、例えば、フロート弁50を側方から包囲する囲壁或いは柵体によってフロート弁50の側方移動を規制してもよい。
【0055】
(3)前記実施形態では、下部カバー40がベースプレート41から1対の脚部42,42を突出して備えた形状であったが、弁座33を囲む位置から下方に膨出した容器構造をなしかつオイル通過孔が貫通形成された構成としてもよい。
【0056】
(4)前記実施形態では、内槽20とは別部品の上部カバー30に弁座33、円錐形凹部31及び弁口34を形成していたが、内槽20の底壁20Uにこれら弁座、円形凹部及び弁口を一体形成してもよい。
【0057】
(5)前記実施形態では、下部カバー40に鋲43を固定して側方移動規制ピン43Pを設けていたが、下部カバー40に側方移動規制ピン43Pを一体形成してもよい。
【0058】
(6)前記実施形態では、内槽20の底壁20Uに固定した下部カバー40によって本発明に係る「上下移動規制部」を構成していたが、図10に示すように、外槽11の底壁11Uの一部を内槽20の底壁20U側に膨出させて弁口34の下方に近接配置し、内槽20の底壁20Uと外槽11の底壁11Uとの間でフロート弁50の上下移動を規制するようにしてもよい。また、底壁11Uの膨出部分からフロート弁50の中央凹部52と遊嵌する側方移動規制ピン43Pを起立させてもよいし、図10に示すように、底壁11Uの膨出部分からフロート弁50を包囲しかつオイル通過孔11Tを有した囲壁11Hを起立させて、フロート弁50の側方移動を規制するようにしてもよい。
【0059】
(7)図11に示すように、下部カバー40におけるベースプレート41の中心部と、上部カバー30における円錐形凹部31の中心部との間で延びたシャフト60がフロート弁50の中心部を遊嵌状態で貫通した構成にしてもよい。
【0060】
(8)前記実施形態では、フロート弁50の中腹部51Bと弁座33とが線接触するように構成されていたが、面接触するようにしてもよい。
【0061】
(9)オイルストレーナの吸込口と弁口34とを近接配置して、オイルの浮力とオイルポンプの吸引力とによりフロート弁50を浮上させるようにしてもよい。
【0062】
(10)上記実施形態では、フロート弁50が円盤状をなしていたが、フロート弁50全体を半球形状にしてもよいし、円錐形状にしてもよい。
【0063】
(11)また、上記実施形態のフロート弁50では、中腹部51Bが球面になっていたが円錐面にしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 二槽オイルパン
11 外槽
20 内槽
30 上部カバー
33 弁座
34 弁口
40 下部カバー(上下移動規制部、膨出壁)
41A 抜き孔(オイル通過孔)
43P 側方移動規制ピン(側方移動規制部)
45 弁収容部屋
45A 側方開放部(オイル通過孔)
50 フロート弁
51 上面山
51A 中央突出部
51B 中腹部
52 中央凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外槽(11)の内側に内槽(20)を有した二槽オイルパン(10)における前記内槽(20)の底壁(20U)に弁口(34)を形成し、その弁口(34)の下方に配置されたフロート弁(50)を、前記二槽オイルパン(10)内のオイルからの浮力の有無により前記弁口(34)の周囲の弁座(33)に接離して前記弁口(34)を開閉可能なオイルパン内槽弁構造において、
前記フロート弁(50)に、その上面の外縁部から中心部に向かって徐々に上方に膨出又は突出した上面山形部(51)を形成し、その上面山形部(51)が前記弁座(33)に当接することで前記弁口(34)が閉塞される構成とし、
前記フロート弁(50)の下面に対向し、前記フロート弁(50)の上下動可能な範囲を規制する上下移動規制部(40)と、前記上面山形部(51)の頂上部が前記弁座(33)の内側領域に上下方向で常に対向するように前記フロート弁(50)の側方への移動を規制する側方移動規制部(43P)とを、前記内槽(20)又は前記外槽(11)の何れかに設けたことを特徴とするオイルパン内槽弁構造。
【請求項2】
前記上面山形部(51)のうち少なくとも前記弁座(33)との当接部分(51B)の表面を球面形状にしたことを特徴とする請求項1に記載のオイルパン内槽弁構造。
【請求項3】
前記底壁(20U)のうち前記弁口(34)を囲みかつ円環状の領域を下方に膨出させて前記弁座(33)を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のオイルパン内槽弁構造。
【請求項4】
前記弁口(34)は、前記弁座(33)の内側に複数設けられたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載のオイルパン内槽弁構造。
【請求項5】
前記フロート弁(50)の下面中央又は上面中央の一方に中央凹部(52)を設け、その中央凹部(52)に受容される側方移動規制ピン(43P)を前記側方移動規制部(43P)として備え、
前記フロート弁(50)の下面中央又は上面中央の他方に前記中央凹部(52)の陥没方向と同じ側に突出した中央突出部(51A)を設けたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1の請求項に記載のオイルパン内槽弁構造。
【請求項6】
前記フロート弁(50)の下面中央に中央凹部(52)を設ける一方、前記フロート弁(50)の上面中央に前記弁座(33)との当接部分(51B)より急傾斜になって上方に突出した中央突出部(51A)を設け、
前記上下移動規制部(40)により前記中央凹部(52)を下方から覆い、その上下移動規制部(40)から突出して前記中央凹部(52)に受容された側方移動規制ピン(43P)を、前記側方移動規制部(43P)として備えたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1の請求項に記載のオイルパン内槽弁構造。
【請求項7】
前記内槽(20)の底壁(20U)の下面には、前記弁座(33)の側方位置から下方に膨出した構造をなしかつ前記オイルが通過可能なオイル通過孔(41A,45A)を有した膨出壁(40)が上下移動規制部(40)として備えられ、
前記底壁(20U)と前記膨出壁(40)の間の弁収容部屋(45)に前記フロート弁(50)が収容されたことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1の請求項に記載のオイルパン内槽弁構造。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−62799(P2012−62799A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206700(P2010−206700)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000204033)太平洋工業株式会社 (143)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】