説明

オイルパン

【課題】浅底部と深底部とを有するオイルパンにおいて、浅底部の膜振動を低減しつつ、浅底部の油面高さを低く抑える。
【解決手段】オイルパン1の浅底部11の底面110に、前後方向(オイル流れ方向)に延びる複数の帯状の凹曲面111,112,113を設けるとともに、互いに隣接する凹曲面を、当該凹曲面同士が交差する稜線部114,115によって区画する。このように浅底部11に複数の凹曲面を設けることにより、浅底部11の底面の面剛性を高めることができるので膜振動の発生を抑えることができる。しかも、浅底部11の稜線部以外の部分をオイル通路とすることが可能であるので、オイルの通路面積を十分に確保することができる。これによって、浅底部を有するオイルパンにおいて、浅底部の膜振動を低減しつつ、浅底部の油面高さを低く抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などに搭載されるエンジン(内燃機関)のエンジンオイルを貯留するオイルパンに関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載されるエンジンの潤滑・冷却にはエンジンオイル(以下、オイルともいう)が用いられている。オイルは、エンジンの下部に設けられたオイルパンに貯留され、オイルポンプによってエンジン各部(例えば、クランクシャフト、シリンダボア、ピストンピン、及び、動弁系など)に循環される。エンジン各部を循環したオイルは、下方のオイルパン内に落下(滴下)して貯留される。オイルパン内に貯留のオイルは、再度、オイルポンプによってエンジン各部に循環される。この循環の間、オイルは、エンジン各部で油膜を形成して各部品間の潤滑を促進するとともに、エンジン各部から熱を受け取って各部を冷却する。
【0003】
エンジンの下部に配置されるオイルパンとしては、オイルを受ける浅底部と、その浅底部で受けたオイルを貯留する深底部とを有し、前記深底部にオイルストレーナの入口を配置する構造のものがある。このようなオイルパンでは、例えば浅底部と深底部とがエンジンの前後方向(クランクシャフトの軸方向)に沿って配置されており、これら浅底部の底面と深底部の底面とが段部等を介して繋がっている。そして、このような構造のオイルパンにおいては、エンジンのシリンダブロックやタイミングチェーンカバーなどから浅底部等に落下したオイルが浅底部側から深底部に戻されて貯留される。なお、浅底部と深底部とを有するオイルパンにおいて、浅底部の高さは、エンジンの下方側に配置される車両部品等の関係上から低い方が好ましい。
【0004】
このようなエンジン用のオイルパンは、シリンダブロック下部に配置されているため、エンジンの振動がオイルパン底面に伝達して膜振動が発生し、その膜振動によって騒音が発生する場合がある。特に、浅底部と深底部とを有するオイルパンでは、浅底部の剛性が弱くてエンジン振動の影響を受けやすいので膜振動が発生しやすい。このような点を考慮して、オイルパンの浅底部の底面にリブ(整流板)を設けて、浅底部の剛性を高めている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
なお、オイルパンの浅底部の振動に関する技術として、浅底部の底部の両側に、底部基準面に対する突出部と引込部とからなる振動吸収ビードを設けることにより、振動を減衰させて騒音の発生を低減する技術がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3405094号明細書
【特許文献2】実開平3−63746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記した特許文献1に記載の技術のようにオイルパンの浅底部にリブを設けても、そのリブ形成部以外の部分には平面形状が残存し、局部的に膜振動が発生するので十分な騒音低減効果を得ることができない。ここで、オイルパンの浅底部の剛性を確保して膜振動を抑制するには、リブを高くすることが効果的であるが、この場合、エンジン内部側の部品とリブとが近接(干渉)するので十分なリブ高さを確保することができない。
【0008】
また、オイルパンの浅底部の剛性を確保するには、オイルパンの浅底部に設けるリブの数を多くするという方法が考えられるが、リブ数を多くすると浅底部のオイル通路幅(通路面積)が低下するので、浅底部を流れるオイルの油面が高くなってしまう。浅底部の油面が高くなると、クランクシャフト等の回転にて発生する気流などの影響によって深底部へのオイル戻り性が低下する。さらに浅底部の油面が高くなるとクランクシャフト等の回転体と干渉する可能性がある。
【0009】
なお、上記した特許文献2に記載の構造においても、浅底部に平面形状が残存するので局部的に膜振動が発生するため十分な騒音低減効果を得ることができない。また、特許文献2に記載の構造では、浅底部の底部に突出部と引込部とからなる振動吸収ビードを設けているので、浅底部の高さを低く抑えることはできない。
【0010】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、浅底部と深底部とを有するオイルパンにおいて、浅底部の膜振動を低減しつつ、浅底部の油面高さを低く抑えることが可能な構造を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、内燃機関の下部に配置され、前記内燃機関のオイルを貯留するオイルパンであって、底の深さが異なる浅底部と深底部とを有し、前記浅底部側から前記深底部側にオイルが流れる構造のオイルパンを対象としており、このようなオイルパンにおいて、前記浅底部の底面に、当該浅底部のオイル流れの上流側から前記深底部に向かう方向に沿って延びる複数の帯状の凹曲面が並列に設けられているとともに、前記浅底部において互いに隣接する凹曲面と凹曲面とは、当該凹曲面同士が交差する稜線部によって区画されていることを技術的特徴としている。
【0012】
このように、浅底部に複数の凹曲面を設けることにより、浅底部の底面の面剛性を高めることができるので膜振動の発生を抑えることができる。さらに凹曲面同士が交差する稜線部によって浅底部の底面の剛性が強化されるので、膜振動の発生をより効果的に低減することができ、騒音の発生を抑制することができる。しかも、浅底部の稜線部以外の部分をオイル通路とすることが可能であるので、オイルの通路面積を十分に確保することができる。これによって浅底部の高さが低いオイルパンにおいて、浅底部の膜振動を低減しつつ、浅底部の油面高さを低く抑えることができる。
【0013】
なお、本発明において浅底部に設ける凹曲面は、例えば、浅底部の前後方向(オイル流れ方向)を軸とする円筒凹面の一部で構成する。
【0014】
ここで、エンジン下部に配置されるオイルパンにおいては、一般に、深底部の幅方向(前後方向と直交する方向)の中央部にオイルストレーナの入口(以下、「ストレーナ入口」ともいう)が配置される。この点を考慮して、本発明では、深底部上流側の浅底部の底面に前記凹曲面を少なくとも3つ設け、それら複数の凹曲面のうち、当該凹曲面の配列方向(幅方向)の中央部の凹曲面へのオイル流れを抑制するためのオイル流れ抑制部を設ける。このようにして浅底部の中央部へのオイル流れを抑制すると、タイミングチェーンケース等から浅底部に落下し、気泡を多く含んだオイルが浅底部の中央部に流れる量を少なくすることができる。これによって深底部の幅方向の中央部への気泡の流入を抑制することができ、ストレーナ入口からの空気吸い込みを抑制することができる。
【0015】
次に、浅底部の中央部(凹曲面)のオイル流れを抑制するための具体的な例について説明する。
【0016】
まず、一つの例として、浅底部の中央部の凹曲面のオイル流れの上流側に整流リブを設けて、当該中央部の凹曲面へのオイル流れを抑制するという構成を挙げることができる。このような整流リブを設ける場合、そのリブ高さを十分に確保できない場合は、オイルパン内部に配設されるバッフルプレートの外周の折返し片のうち、前記整流リブの近傍に位置する折返し片を、当該整流リブと上下方向においてオーバーラップする位置まで延設(下方に延長)することにより、オイル抑制効果を高めるようにしてもよい。
【0017】
また、他の例として、オイルパン内部にバッフルプレートが配設される構造のオイルパンである場合、例えばバッフルプレートの形状を下方に凸の湾曲形状とし、当該バッフルプレートと浅底部の両側部(左側部及び右側部)の凹曲面との間の隙間(通路面積)に対し、バッフルプレートと浅底部の中央部の凹曲面と間の隙間(通路面積)を小さくすることによって、当該浅底部の中央部の凹曲面へのオイル流れを抑制するという構成を挙げることができる。
【0018】
なお、本発明のオイルパンにおいて、前後方向(オイル流れ方向)に沿って延びる剛性リブ、具体的には、浅底部側から深底部のオイル流れ方向の下流側の側壁にまで延びるパワープラント剛性リブを設ける場合、その剛性リブと浅底部の稜線部とを繋ぐことによって、オイルパン内部の全体を少なくとも3つの通路(例えば、中央部通路と両側部の通路との3つの通路)に区画するようにしてもよい。このような構成を採用すると、オイル中に含まれる気泡をオイルパン中央部と両側部(左側部・右側部)とに分離することが可能となり、深底部中央に配置されるストレーナ入口からの空気吸い込みを効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、浅底部と深底部とを有するオイルパンにおいて、浅底部の底面に、当該浅底部のオイル流れの上流側から深底部に向かう方向に沿って延びる複数の帯状の凹曲面を設けているので、浅底部の膜振動を低減しつつ、浅底部の油面高さを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のオイルパンの一例を示す平面図である。
【図2】図1のオイルパンの分解斜視図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】図1のB−B断面図である。
【図5】図1のC−C断面図である。
【図6】図1のオイルパンの浅底部の底面形状を模式的に示す斜視図である。
【図7】本発明のオイルパンの他の例を示す平面図である。
【図8】図7のD−D断面図である。
【図9】図7のE−E断面図である。
【図10】図7のオイルパンのオイル流れを示す斜視図である。
【図11】オイルパンに設ける整流リブとバッフルプレートの折返し片との位置関係を示す要部縦断面図である。
【図12】図1〜図5のオイルパン内部にバッフルプレートを配設した状態を示す平面図である。
【図13】図12のF−F断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
本発明のオイルパンの一例を図1〜図6を参照して説明する。なお、この例の説明において、前後方向とは、エンジンのクランクシャフト(図示せず)の軸方向であり、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両に搭載されるエンジン用のオイルパンを対象とする場合は車両前後方向のことである。また、前後方向に対して直交する方向を幅方向(左右方向)とする。
【0023】
この例のオイルパン1は、FR型車両に搭載されるエンジンに適用されるオイルパンであって、アルミニウム合金製の第1オイルパン10と鉄製の第2オイルパン20とによって構成されている。例えば、第1オイルパン10は鋳造加工にて作製されており、第2オイルパン20は板金プレス加工によって作製されている。これら第1オイルパン10及び第2オイルパン20の材質及び加工方法はこれらに限定されるものではない。
【0024】
この例のオイルパン1は、第1オイルパン10の後方側下部に第2オイルパン20が一体的に組み付けられている。オイルパン1は、底面位置が高く設定された浅底部11、その浅底部11よりも底面位置が低く設定された中底部(段差部)12、及び、底面位置が最も低く設定された深底部21を有する構造となっている。これら浅底部11、中底部12及び深底部21は当該オイルパン1の前後方向に沿って、前側からこの順[浅底部11→中底部12→深底部21]で配置されている。
【0025】
浅底部11の底面110は深底部21側に向けて僅かな下り勾配で傾斜している。この浅底部11の底面110と、中底部12の底面120と、深底部21の底面210とは連続して繋がっており、浅底部11に落下したオイルは中底部12を通過して深底部21内に流入して貯留される。浅底部11の底面110の後側部分は下方に向けて湾曲する湾曲面となっており、浅底部11に落下したオイルがスムーズに中底部12に流れるようになっている。なお、浅底部11の底面110の詳細については後述する。
【0026】
浅底部11の底面110の後側部分(湾曲面部分)及び中底部12の底面120には、前後方向(オイル流れ方向)に沿って延びる複数(3本)の補強リブ17a・・17aが設けられている。また、浅底部11の底面110及び中底部12の底面120の左右部には、それぞれ、浅底部11のオイル流れの上流側から中底部12のオイル流れの下流側に向けて延びる補強リブ17b,17bが設けられている。
【0027】
第1オイルパン10はシリンダブロック(図示せず)の下部に取り付けられる。また、第1オイルパン10の前側端部の上部には、タイミングチェーンカバー40(図10参照)が配置される。これらシリンダブロック、タイミングチェーンカバー40及び第1オイルパン10(オイルパン1)はボルト等によって一体的に連結される。
【0028】
第1オイルパン10には中底部12の後方側に開口部13が設けられている。この開口部13は、第2オイルパン20内部への連通用の開口である。また、第1オイルパン10には、上記浅底部11、中底部12及び開口部13の側方周囲を囲う側壁14が一体形成されている。側壁14の上端は第1オイルパン10の全周囲に亘って略同じ高さ位置になるように設定されており、この側壁14の上端周縁の全周に亘って取付フランジ15が一体形成されている。取付フランジ15には、シリンダブロック連結用のボルト孔15a・・15a、及び、チェーンカバー連結用のボルト孔15b・・15bが形成されている。
【0029】
また、第1オイルパン10の開口部13の周縁部には第2オイルパン20を連結するための連結フランジ16が設けられている。連結フランジ16の幅方向の両側部は側壁14よりも外方に突出している。連結フランジ16には連結用のボルト孔16a・・16aが設けられている。
【0030】
そして、第1オイルパン10には、浅底部11側から深底部21のオイル流れ方向の下流側(開口部13の下流側)の側壁14aにまで延びる左右2本のパワープラント剛性リブ18a,18bが設けられており、パワープラント全体の剛性が高められている。これらパワープラント剛性リブ18a,18bは、それぞれ、後述する浅底部11の各稜線部114,115に連続して形成されており、各パワープラント剛性リブ18a,18bと各稜線部114,115とは繋がっている。
【0031】
また、図4に示すように、各パワープラント剛性リブ18a,18bの上端は、オイルパン1内の油面レベルOLよりも高くなるように設定されており、各パワープラント剛性リブ18a,18bの下端は可能な限り深い位置となるように設定されている。ただし、各パワープラント剛性リブ18a,18bの下端と深底部21の底面210との間には、オイル通過用の隙間が形成されている。
【0032】
一方、第2オイルパン20はタンク状のオイル貯留容器であって、第1オイルパン10の下部に連結されることにより上記開口部13に連通している。
【0033】
第2オイルパン20は、第1オイルパン10の開口部13の開口縁形状に対応する平面視形状を有しており、その上端縁の全周囲には第1オイルパン10に連結するための連結フランジ22が一体形成されている。連結フランジ22には連結用のボルト孔22a・・22aが設けられている。また、第2オイルパン20の底面には、その幅方向の中央部に円形の凹部23が設けられており、この凹部23が最も低い位置となっている。
【0034】
なお、この例のように第2オイルパン20を第1オイルパン10の底部における車両前後方向の後側部分に設けた理由は、オイルパン1の下側に配置される車両部品、例えば車幅方向に亘って延びるドライブシャフト等との干渉を回避するためである。このようにして、オイルパン1の一部分に、深さ寸法の深いオイル貯留容器となる第2オイルパン20を設けておくことで、ドライブシャフト等との干渉を回避しながら、オイルパン1のオイル貯留量を確保することができる。
【0035】
以上のオイルパン1の内部には、オイルストレーナ50(図4及び図5参照)が収容され、そのオイルストレーナ50のストレーナ入口51が深底部21の中央の凹部23の上方に配置される。そして、例えば、タイミングチェーンカバー40に設けたオイルポンプ(図示せず)の駆動に伴い、深底部21(第2オイルパン20)内に貯留のオイルがオイルストレーナ50を介して吸い上げられて、エンジン各部(例えば、クランクシャフト、シリンダボア、ピストンピン及び動弁系など)に圧送され、これら各部の潤滑や冷却が行われる。また、各部の潤滑や冷却を行ったオイルは、再び、オイルパン1内部に落下し深底部21内に回収される。オイルパン1の深底部21内に回収されたオイルは、再度、オイルポンプによってエンジン各部に循環される。なお、深底部21内へのオイル回収(オイル戻り)の詳細については後述する。
【0036】
次に、この例のオイルパン1の特徴部分について説明する。
【0037】
まず、上述したように、浅底部と深底部とを有するオイルパンでは、浅底部の剛性が弱くてエンジン振動の影響を受けやすいので膜振動が発生しやすい。この点を考慮して、従来技術では、オイルパンの浅底部の底面にリブを設けて浅底部の剛性を高めている。
【0038】
しかしながら、オイルパンの浅底部にリブを設けても、そのリブ形成部以外の部分には平面形状が残存し、局部的に膜振動が発生するので十分な騒音低減効果を得ることができない。ここで、オイルパンの浅底部の剛性を確保して膜振動を抑制するには、リブを高くすることが効果的であるが、この場合、エンジン下部側に配置される車両部品とリブとが近接(干渉)するため十分なリブ高さを確保することができない。
【0039】
また、オイルパンの浅底部に設けるリブの数を多くすると、膜振動の低減効果を高めることは可能であるが、この場合、浅底部のオイル通路幅(通路面積)が低下するので浅底部を流れるオイルの油面が高くなってしまう。浅底部の油面が高くなると、クランクシャフト等の回転にて発生する気流などの影響によって深底部へのオイル戻り性が低下し、ストレーナ入口からの空気吸い込みが発生して油圧制御系の油圧低下や動弁系(例えば、ラッシュアジャスタ等)の異常挙動による異音が発生する場合がある。
【0040】
また、浅底部の油面が高くて油面がエンジンのクランクシャフト等に近接すると、クランクシャフト等の回転により発生する気流によってオイルが巻き上げられる場合がある。さらに浅底部の油面が高くなると、クランクシャフト等の回転体と干渉してオイルが攪拌される場合があって、そのオイル攪拌抵抗により燃費(燃料消費率)が低下する可能性がある。
【0041】
このような点を考慮し、この例では、浅底部と深底部とを有するオイルパンにおいて、浅底部の膜振動を低減しつつ、浅底部の油面高さを低く抑えることが可能な構造を実現する点に特徴がある。
【0042】
具体的には、図1〜図6に示すように、オイルパン1の浅底部11の底面110に、当該浅底部11のオイル流れの上流側から深底部21に向かう方向(前後方向)に沿って延びる3つの帯状の凹曲面111,112,113を幅方向に並列に設ける。さらに、それら浅底部11において互いに隣接する[凹曲面111と凹曲面112]、及び、[凹曲面111と凹曲面113]を、当該凹曲面同士が交差する稜線部(堰部)114,115によって区画することを技術的特徴としている。
【0043】
そして、このようにオイルパン1の浅底部11の底面110に凹曲面111,112,113を設けることにより、浅底部11の底面110の面剛性を高めることができるので膜振動の発生を抑えることができる。さらに、凹曲面同士が交差する稜線部114,115によって浅底部11の底面110の剛性が強化されるので、膜振動の発生をより効果的に低減することができ、騒音の発生を抑制することができる。しかも、浅底部11の稜線部114,115以外の部分をオイル通路とすることが可能であるので、浅底部11の通路面積を十分に確保することができる。これによって浅底部11の高さが低いオイルパン1において、浅底部11の膜振動を低減しつつ、浅底部11の油面高さを低く抑えることができる。
【0044】
なお、この例においては、各凹曲面111,112,113を、それぞれ、浅底部11の前後方向を軸とする円筒凹面の一部で構成している。また、それら凹曲面111,112,113の各曲率半径は、特に限定されず、オイルパン1の幅寸法、浅底部11の底面110の面剛性、及び、各凹曲面111,112,113の通路面積などを考慮して適宜に設定すればよい。
【0045】
ここで、この例では、オイルパン1の浅底部11を、2つの稜線部114,115によって中央部及び両側部(左側部及び右側部)の3つのオイル通路に区画し、さらに、その稜線部114,115にパワープラント剛性リブ18a,18bを繋ぐことによってオイルパン1内部の全体を3つの通路に区画しているので、オイルパン1の中央部(幅方向の中央部)の通路へのオイル流れを抑制することにより、深底部21の幅方向の中央部への気泡の流入を抑制することが可能となり、ストレーナ入口51からの空気吸い込みを抑制することができる。その具体的な例([実施例1]及び[実施例2])について図7〜図12を参照して説明する。
【0046】
[実施例1]
まず、この例では、上記した図1〜図5に示した構造に加えて、図7〜図10に示すように、オイルパン1の浅底部11の中央部の凹曲面111の上流側に、前後方向(オイル流れ方向)と直交する幅方向に延びる整流リブ116を設けた点に特徴がある。
【0047】
このように整流リブ116を設けて浅底部11の中央部へのオイル流れを抑制すると、例えば、図10に示すように、タイミングチェーンカバー40からオイルパン1の浅底部11の上流側に落下したオイル(気泡を多く含んだオイル)が浅底部11の中央部(凹曲面111)に流入する量を少なくすることができる。さらに、図10に示すように、シリンダブロックからオイル落とし穴Hなどを介してオイルパン両側部のオイル落とし穴部117に落下したオイルは、パワープラント剛性リブ18a,18b(稜線部114,115を含む場合もある)によってオイルパン1の中央部への流れが規制される。これによって、深底部21の幅方向の中央部への気泡の流入を抑制することが可能となり、ストレーナ入口51からの空気吸い込みを抑制することができる。
【0048】
なお、浅底部11の中央部の凹曲面111へのオイル流れを抑制すると、その分だけ両側部の凹曲面112,113に流れるオイルの量が多くなって、両側部の凹曲面112,113の油面が少しだけ上昇することになるが特に問題はない。すなわち、浅底部11の両側部(左側部及び右側部)は中央部に比べて、クランクシャフト等の回転による気流の影響を受けにくいので、両側部の油面が多少上昇しても深底部21へのオイル戻し性を十分に確保することができる。
【0049】
また、この例及び上記した図1〜図6の例では、図7及び図10(図1及び図2)に示すように、パワープラント剛性リブ18a,18bを浅底部11の稜線部114,115に繋ぐことによってオイルパン1内部の全体を3つの通路に区画しており、さらに、図4に示すように各パワープラント剛性リブ18a,18bの上端を当該オイルパン1内の油面レベルOLよりも高い位置に設定しているので、オイルの上側部分に滞在する気泡をオイルパン1の中央部と両側部(左側部・右側部)とに分離することができる。これによって深底部21の中央部(ストレーナ入口51)への空気流入を低減することができる。なお、パワープラント剛性リブ18a,18bによって深底部21も中央部と両側部に区画されているが、各パワープラント剛性リブ18a,18bの下端と深底部21の底面210との間には隙間(図4参照)が存在するので、深底部21において両側部(左側部・右側部)から中央部に向けてオイルが移動することが可能であり、このような区画を行っても、深底部21の中央部(パワープラント剛性リブ18a,18b間)の油面が下がることはない。
【0050】
この例において、整流リブ116のリブ高さが十分でない場合、図11に示すように、バッフルプレート30の外周縁に設けられた下方への折返し片(垂下片)31のうち、整流リブ116の近傍に位置する折返し片31aを下方に延長して、当該整流リブ116と折返し片31aが上下方向においてオーバーラップ(オイル流れ方向から見てオーバーラップ)する構造として、浅底部11の中央部へのオイル流れの抑制効果(気流の整流効果)を高めるようにしてもよい。
【0051】
また、このようにオイルパン1の内部にバッフルプレートを配設する場合、バッフルプレートとして、後述するような湾曲形状のバッフルプレート30を用いることにより、浅底部11の中央部のオイル流れをより効果的に抑制することができる。この点については下記の[実施例2]において詳細に説明する。
【0052】
[実施例2]
この例では、図12に示すように、オイルパン内部にバッフルプレート30を配設する構造のオイルパン1において、バッフルプレート30の形状を工夫することにより、浅底部11の中央部のオイル流れを抑制する点に特徴がある。
【0053】
具体的には、図13(図12のF−F断面図)に示すように、バッフルプレート30の形状を、オイルパン1の両側部(左側部及び右側部)に対して中央部が低くなる湾曲形状(下方に凸の湾曲形状(円弧形状))とし、そのバッフルプレート30と浅底部11の両側部の凹曲面112,113との間の各隙間Csa、Csbに対し、当該バッフルプレート30と浅底部11の中央部の凹曲面111と間の隙間Ccを小さくしている。つまり、浅底部11の両側部の通路面積を大きくし、浅底部11の中央部の通路面積を小さくすることによって当該中央部の凹曲面111へのオイル流れを抑制している。なお、図12では、説明を判りやすくするためにバッフルプレート30を2点鎖線(想像線)で示している。
【0054】
このようにバッフルプレート30を利用して、オイルパン1の浅底部11の中央部へのオイル流れを抑制することにより、タイミングチェーンカバー40から浅底部11の上流側に落下したオイル(気泡を多く含んだオイル)が浅底部11の中央部(凹曲面111)に流入する量を少なくすることができる。
【0055】
さらに、この例においても、上記した[実施例1]と同様に、シリンダブロックからオイル落とし穴Hなどを介してオイルパン両側部のオイル落とし穴部117(図10参照)に落下したオイルはパワープラント剛性リブ18a,18b(稜線部114,115を含む場合もある)によってオイルパン1の中央部への流れが規制される。これによって、深底部21の幅方向の中央部への気泡の流入を抑制することが可能となり、ストレーナ入口51(図4参照)からの空気吸い込みを抑制することができる。また、浅底部11の両側部の凹曲面112,113との間の各隙間Csa、Csbつまり通路面積を大きくしているので、深底部21へのオイル戻り性を十分に確保することができる。
【0056】
また、この例においても、パワープラント剛性リブ18a,18bを浅底部11の稜線部114,115に繋ぐことによってオイルパン1内部の全体を3つの通路に区画しているので、上記した[実施例1]と同様に、パワープラント剛性リブ18a,18bによってオイルの上側部分に滞在する気泡をオイルパン1の中央部と両側部とに分離することができ、これにより深底部21の中央部(ストレーナ入口51)への空気流入を低減することができる。
【0057】
なお、以上のようなバッフルプレート30を利用してオイルパン1の浅底部11の中央部へのオイル流れを抑制する構成に加えて、上記した[実施例1]の構成つまり浅底部11の中央部へのオイル流れを抑制する整流リブ116を付加しておいてもよい。
【0058】
ここで、以上の各実施例1,2に用いるバッフルプレート30は、オイルパン1に組み付けるタイプのものであってもよいし、シリンダブロック側に組み付けるタイプものであってもよい。
【0059】
−他の実施形態−
以上の例では、浅底部11の各凹曲面111,112,113を、それぞれ、浅底部11の前後方向を軸とする円筒凹面の一部で構成しているが、本発明はこれに限られることなく、浅底部11の前後方向において断面積が一様な他の任意の2次曲面(帯状凹曲面)を採用してもよい。
【0060】
以上の例では、第1オイルパン(浅底部)と第2オイルパン(深底部)とを備えた分割タイプのオイルパンに本発明を適用した例を示したが、これに限られることなく、上記した浅底部と深底部とが一体形成されたオイルパンにも本発明は適用可能である。
【0061】
以上の例では、オイルパンの浅底部の底面に3つの凹曲面を設けた例を示したが、これに限れられることなく、浅底部の底面に2つの凹曲面あるいは4つ以上の凹曲面を設けてもよい。
【0062】
以上の例では、底の深さが異なる浅底部11、中底部12及び深底部21からなる3段の段差を有する構造のオイルパンに本発明を適用した例について説明したが、これに限られることなく、浅底部及び深底部とからなる2段の段差を有するオイルパン、もしくは、4段以上の段差を有するオイルパンにも本発明を適用することができる。
【0063】
以上の例では、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両に搭載されるエンジンに設けられるオイルパンに本発明を適用した例を示したが、これに限られることなく、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両または4輪駆動車に搭載されるエンジン用のオイルパンにも本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、車両などに搭載されるエンジン(内燃機関)のエンジンオイルを貯留するオイルパンに利用可能であり、さらに詳しくは、底の深さが異なる浅底部及び深底部を有するオイルパンに有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 オイルパン
10 第1オイルパン
11 浅底部
110 底面
111 凹曲面(中央部)
112,113 凹曲面(両側部)
114,115 稜線部
116 整流リブ
14a 側壁
18a,18b パワープラント剛性リブ
20 第2オイルパン
21 深底部
210 底面
23 凹部
30 バッフルプレート
31a 折返し片
51 ストレーナ入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の下部に配置され、前記内燃機関のオイルを貯留するオイルパンであって、底の深さが異なる浅底部と深底部とを有し、前記浅底部側から前記深底部側にオイルが流れる構造のオイルパンにおいて、
前記浅底部の底面に、当該浅底部のオイル流れの上流側から前記深底部に向かう方向に沿って延びる複数の帯状の凹曲面が並列に設けられているとともに、前記浅底部において互いに隣接する凹曲面と凹曲面とは、当該凹曲面同士が交差する稜線部によって区画されていることを特徴とするオイルパン。
【請求項2】
請求項1記載のオイルパンにおいて、
前記浅底部の底面に前記凹曲面が少なくとも3つ設けられており、それら凹曲面のうち、当該凹曲面の配列方向における中央部の凹曲面へのオイル流れを抑制するためのオイル流れ抑制部を備えていることを特徴とするオイルパン。
【請求項3】
請求項2記載のオイルパンにおいて、
前記中央部の凹曲面のオイル流れの上流側に、当該中央部の凹曲面へのオイル流れを抑制するための整流リブが設けられていることを特徴とするオイルパン。
【請求項4】
請求項3記載のオイルパンであって、当該オイルパンの内部にバッフルプレートが配設されるオイルパンにおいて、
前記バッフルプレートの外周の折返し片のうち、前記整流リブの近傍に位置する折返し片が当該整流リブと上下方向においてオーバーラップする位置まで延設されていることを特徴とするオイルパン。
【請求項5】
請求項2記載のオイルパンであって、当該オイルパンの内部にバッフルプレートが配設されるオイルパンにおいて、
前記バッフルプレートと前記両側部の凹曲面との間の隙間に対し、前記バッフルプレートと前記中央部の凹曲面と間の隙間を小さくすることにより、当該中央部の凹曲面へのオイル流れを抑制するように構成されていることを特徴とするオイルパン。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のオイルパンにおいて、
前記浅底部側から前記深底部のオイル流れ方向の下流側の側壁にまで延びる剛性リブが設けられているとともに、前記剛性リブは前記浅底部の稜線部に繋がっていることを特徴とするオイルパン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−106381(P2011−106381A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263827(P2009−263827)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】