説明

オイルポンプ

【課題】キャビテーションが発生せず且つ低速回転時でもポンプ効率が低下しないオイルポンプを提供すること。
【解決手段】トロコイド型オイルポンプにおいて、吐出容積部30に位置する吐出ポート26の回転方向後方側での端壁部32であって吐出ポート26の幅方向中間位置に最大容積部136と吐出ポート26とを連通するように回転方向後方側に延びる深さが可変の可変くぼみ33を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内接ギヤ式のオイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
内接ギヤ式のオイルポンプ、例えばトロコイド歯形をもつ内歯に駆動軸を偏心させた歯数が一つ少ない外歯を内接し、この外歯車をドライブギヤとし内歯車をドリブンギヤとして構成したオイルポンプでは、ドライブギヤとドリブンギヤの噛合い部に、両者の回転によって容積が回転方向に順次拡大する吸入容積部と容積が回転方向に順次縮小する吐出容積部が形成される。
【0003】
ポンプケースは、ドライブギヤ及びドリブンギヤの各軸方向端面に当接する対向内壁とドリブンギヤの外周面を内接する内周壁をもち該対向内壁と内周壁とでポンプ室を区画形成するフランジ結合タイプの第一ハウジング及び第二ハウジングで構成されている。第一及び第二ハウジングは、ドライブギヤ及びドリブンギヤを前記ポンプ室に収納し、対向内壁の少なくとも一方に形成され吸入容積部に開口した吸入ポート及び吐出容積部に開口した吐出ポートが形成されかつ吸入ポート及び吐出ポートに連通した吸入通路及び吐出通路が形成される。
【0004】
ところで、上記吸入容積部と吐出容積部との中間には最大容積部が形成されるものがある。この最大容積部には、吸入行程でキャビテーションにより発生した気泡が、閉じ込め行程で潰されないまま残る。この気泡は、吐出行程で最大容積部が吐出圧に曝された瞬間消滅するが、その時の衝撃力で気泡に接していた面が腐食され、腐食痕(エロージョン)が発生する。
【0005】
キャビテーションの発生を抑制するために、従来のオイルポンプは、吐出容積部に位置する吐出ポートの回転方向後方側での端壁部であって吐出ポートの幅方向中間位置に最大容積部と吐出ポートとを連通するように回転方向後方側に延びるくぼみを形成している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特公平5−50595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最大容積部でのキャビテーションの発生は、吸入行程と吐出行程との圧力差に依存する。キャビテーションは、圧力差が大きいほど発生し、圧力差が小さいと発生しない。吸入行程の圧力は、ポンプの回転速度に関わらず0〜0.04MPaとほぼ一定であるが、吐出行程の圧力は、回転速度すなわち単位時間当たりの吐出回数に依存し、例えば、自動車のミッション用のオイルポンプの場合、バルブボディなどにあるプレッシャーレギュレータバルブにおいて、低速回転(800〜4000rpm)時0.5〜1.5MPa程度であり、高速回転(4000rpm以上)時2.0MPa程度である。したがって、低速回転時は、圧力差が小さくキャビテーションが発生しない。従来のオイルポンプではキャビテーションが発生しない低速回転時も、くぼみが作用して、吐出圧が低下してしまう。吐出圧低下は、元々オイルポンプが持っている構成部材の摺動部分に存在するクリアランスで生じるオイル漏れによって、吐出量自体が少なくなってしまうという欠点がある。なお、高速回転時は、吐出回数の多さで吐出量が十分にあるため吐出量の少なさの問題は生じない。
【0007】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたもので、キャビテーションが発生せず且つ低速回転時でもポンプ効率が低下しないオイルポンプを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るオイルポンプは、所定数の外歯を有するドライブギヤと、前記ドライブギヤより歯数が一つ多い内歯をもち、該ドライブギヤとの間に複数の吸入容積部、複数の吐出容積部及び該吸入容積部及び吐出容積部の中間に一つの最大容積部を形成するように該ドライブギヤを内接したドリブンギヤと、前記ドライブギヤ及びドリブンギヤの各軸方向端面に当接する対向内壁及び該ドリブンギヤの外周面を内接する内周壁で区画形成するポンプ室内に該ドライブギヤ及びドリブンギヤを収納しかつ該対向内壁の少なくとも一方に複数の前記吸入容積部に開口した吸入ポート及び複数の前記吐出容積部に開口した吐出ポートが形成されるとともに該吸入ポートに連通した吸入通路及び該吐出ポートに連通した吐出通路が形成された第一及び第二ハウジングと、を備えるオイルポンプにおいて、前記吐出容積部に位置する前記吐出ポートの回転方向後方側での端壁部であって該吐出ポートの幅方向中間位置に前記最大容積部と該吐出ポートとを連通するように回転方向後方側に延びる深さが可変の可変くぼみを形成したことを特徴としている。
【0009】
上記オイルポンプにおいて、前記可変くぼみは、深さが無い状態乃至深さが形成される状態に可変されるものとするとよい。
【0010】
また、前記可変くぼみは、該くぼみの内壁を前記深さ方向に摺動するピストンと該ピストンを駆動する油圧回路とを備えるものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
吐出ポートの回転方向後方側での端壁部に最大容積部と吐出ポートとを連通するように回転方向後方側に延びる深さが可変の可変くぼみを形成したので、低速回転時に可変くぼみの深さを浅くすることで、圧縮(閉じ込み)行程初期の吐出圧力損失を抑制することができる。その結果、吐出量の低下を防止することができ、ポンプ効率を向上させることができる。
【0012】
可変くぼみは、深さが無い状態と深さが形成される状態とに可変されるので、可変くぼみを圧縮行程初期に深さが無い状態にすることができる。その結果、圧縮行程初期の圧力損失を一層抑制することができる。
【0013】
可変くぼみが、くぼみの内壁を深さ方向に摺動するピストンとピストンを駆動する油圧回路とを備えるので、吐出ポートの油圧でピストンを駆動させるようにすることができる。その結果、確実に圧縮行程初期の圧力損失を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のオイルポンプを実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。図1は、最良の形態のオイルポンプの概略を示す断面図、図2は、最良の形態のオイルポンプに使用する第一ハウジングの構成図、図3は、最良の形態のオイルポンプに使用する第二ハウジングの構成図である。図4は、最良の形態のオイルポンプの内部の概略平面図、図5は、図2のI−I線に沿った第一ハウジングの断面図である。図6は、最良の形態のオイルポンプによるトランスミッションの潤滑を説明する概略油圧回路図である。
【0015】
オイルポンプ1の基本的な構成は、図1に示すように、所定数のトロコイド歯形からなる外歯11をもつ鉄系焼結金属からなるドライブギヤ12と、ドライブギヤ12の外歯11を内接した同材質製の内歯13をもつドリブンギヤ14と、軸方向に結合されるアルミダイキャスト製の第一ハウジング15及び第二ハウジング16とから構成される。
【0016】
ドライブギヤ12の外歯11とドリブンギヤ14の内歯13は、図4に示すように、ドライブギヤ12の外歯11がドリブンギヤ14の内歯13より一つ少ない。この歯数の関係により、ドライブギヤ12とドリブンギヤ14の外歯11と内歯13の間には、ドライブギヤ12をドリブンギヤ14の中心に対して偏心させることにより、所定数の容積部131〜140が回転方向A(図4参照。)に形成される。
【0017】
第一ハウジング15は、図1及び図2に示すように、ドライブギヤ12を内接した状態のドリブンギヤ14を回転自在に収納する中央凹部17をもつ円盤状のフランジ部18と、中央凹部17に対し偏心した軸孔19をもつボス部20とからなる。軸孔19にはドライブギヤ12を相対回転不能に支持する駆動軸(不図示)が挿通される。
【0018】
上記中央凹部17の外周には軸孔19と同心で第二ハウジング16の外周部10が嵌合する外周凹部21(図1参照。)が形成されている。外周凹部21の底面及びその外周側にはボルト孔22や外部装置への取付用のボルト孔23が形成されている。
【0019】
第二ハウジング16は、第一ハウジング15と反対側に延びた前記駆動軸の軸部材が挿通される軸孔24をもつ軸受部25及び該軸受部25から延び前記外周凹部21に嵌合して中央凹部17を閉塞する前記外周部10とから構成されている。
【0020】
上記第一ハウジング15の中央凹部17と第二ハウジング16の外周部10とによってドライブギヤ12及びドリブンギヤ14を収納するポンプ室が区画され、第一ハウジング15の中央凹部17の底面及び第二ハウジング16の外周部10の中央表面10a(図3で斜線内側部分)は、ドライブギヤ12及びドリブンギヤ14の各軸方向端面に当接する対向内壁となっている。
【0021】
第一ハウジング15の中央凹部17の底面には、図2に示すように、吐出ポート26と吸入ポート27が形成され、第二ハウジング16の中央表面10aには図3に示すように、第一ハウジング15の吐出ポート26に対向した吐出凹部28及び第一ハウジング15の吸入ポート27に対向した吸入凹部29が形成されている。
【0022】
軸方向に対向した吐出ポート26と吐出凹部28は、図4に示すように、周方向の容積部131〜140のうち容積部137〜140に位置が合わされ、容積部137〜140に開口して該容積部137〜140を吐出容積部30としている。吐出ポート26と吐出凹部28のうち一方は閉塞室であり、他方は図示しない吐出通路に連通されている。
【0023】
また、軸方向に対向した吸入ポート27及び吸入凹部29は、図4に示すように、周方向の容積部131〜140のうち容積部131〜135に位置が合され、容積部131〜135に開口して該容積部131〜135を吸入容積部31としている。そして、吸入ポート29は図1に示すように閉塞室となっており、吸入ポート27は吸入通路30に連通されている。
【0024】
更に図4に示すように、上記吐出ポート26及び吐出凹部28と吸入ポート27及び吸入凹部29に位置が合されていない容積部136は本発明でいう最大容積部となる。
【0025】
しかして、本発明のオイルポンプの特徴とする構成は、図2、図4及び図5に示すように、吐出容積部30に位置する吐出ポート26の回転方向A後方側での端壁部32であって、吐出ポート26の幅方向中間位置には最大容積部136と吐出ポート26とを連通する回転方向A後方側に延びた深さが可変の可変くぼみ33が形成されている。
【0026】
可変くぼみ33は、図5に示すように、吐出ポート26の回転方向A後方側に吐出ポート26と連通するシリンダ壁331と、該シリンダ壁331を摺動するピストン332と、該ピストン332を上方に付勢支持するバネ333とを備えている。したがって、可変くぼみ33は、シリンダ壁331とピストン332の上面とで区画される。ピストン332は、バネ333の付勢力でピストン332の上面が吐出ポート26の開口面と一致するように上方へ付勢支持されている(深さが無い状態、ピストンの中心線CLの左側参照。)。入油路334を通して所定の油圧がピストン332に作用すると、ピストン332がバネ333の付勢力に抗して下方に下げられ、吐出ポート26に連通するくぼみとなる(深さが形成される状態、ピストンの中心線CLの右側参照。)。
【0027】
次に、本発明のオイルポンプ1でトランスミッションを潤滑する場合について説明する。図6に示すように、吸入ポート29がトランスミッションケース2とバルブボディ3とオイルパン4と連通している。吐出ポート26もトランスミッションケース2とバルブボディ3とオイルパン4と連通している。また、吐出ポート26は、チェックバルブ5を介して入油路334と連通している。チェックバルブ5は、例えば、0.5MPa以上で開となるように設定されている。
【0028】
オイルポンプが回転駆動されると、ドライブギヤ12の回転に伴ってドリブンギヤ14が回転し、吸入容積部31が最大容積部136に連通する状態から吐出容積部30が最大容積部136に連通する状態への移行が繰返されてポンプ作用が行われ、オイルパン4からのオイルがバルブボディ3とトランスミッションケース2を通して吸入ポート29から吸入され、吐出ポート26からトランスミッションケース2にオイルが吐出される。
【0029】
オイルポンプ1の回転数が低く、吐出ポート26からの吐出圧力が0.5MPa未満であると、チェックバルブ5が閉じたままで、ピストン332の上面が吐出ポート26の開口面と一致した状態を維持し、吐出ポート26に連通するくぼみ33が形成されない。したがって、圧縮行程初期の圧力漏れを完全に防止することができる。
【0030】
オイルポンプ1の回転数が上昇し、吐出ポート26からの吐出圧力が0.5MPa以上になると、チェックバルブ5が開き、ピストン332の上面が吐出ポート26の開口面と一致していたピストン332が下降してピストン332の上面が下がり、吐出ポート26に連通するくぼみ33となる。したがって、最大容積部136の圧力が0.5MPa以上になると吐出ポート26に連通して圧力上昇が抑制され、キャビテーションの発生が防止される。
【0031】
なお、上記図6では、チェックバルブ5と出油路335を備えているが、これらを省いてもよい。バネ333のバネ定数を適当に設定することで、ピストン332に、例えば05MPa以上の圧力が掛かるとピストン332の上面が降下するようにできるからである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】最良の形態のオイルポンプの概略を示す断面図である。
【図2】最良の形態のオイルポンプに使用する第一ハウジングの構成図である。
【図3】最良の形態のオイルポンプに使用する第二ハウジングの構成図である。
【図4】最良の形態のオイルポンプの内部の概略平面図である。
【図5】図2のI−I線に沿った第一ハウジングの断面図である。
【図6】最良の形態のオイルポンプによるトランスミッションの潤滑を説明する概略油圧回路図である。
【符号の説明】
【0033】
1・・・・・オイルポンプ
12・・・・ドライブギヤ
14・・・・ドリブンギヤ
15・・・・第一ハウジング
16・・・・第二ハウジング
26・・・・吐出ポート
29・・・・吸入ポート
30・・・・吐出容積部
31・・・・吸入容積部
32・・・・端壁部
33・・・・可変くぼみ
136・・・最大容積部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定数の外歯を有するドライブギヤと、
前記ドライブギヤより歯数が一つ多い内歯をもち、該ドライブギヤとの間に複数の吸入容積部、複数の吐出容積部及び該吸入容積部及び吐出容積部の中間に一つの最大容積部を形成するように該ドライブギヤを内接したドリブンギヤと、
前記ドライブギヤ及びドリブンギヤの各軸方向端面に当接する対向内壁及び該ドリブンギヤの外周面を内接する内周壁で区画形成するポンプ室内に該ドライブギヤ及びドリブンギヤを収納しかつ該対向内壁の少なくとも一方に複数の前記吸入容積部に開口した吸入ポート及び複数の前記吐出容積部に開口した吐出ポートが形成されるとともに該吸入ポートに連通した吸入通路及び該吐出ポートに連通した吐出通路が形成された第一及び第二ハウジングと、を備えるオイルポンプにおいて、
前記吐出容積部に位置する前記吐出ポートの回転方向後方側での端壁部であって該吐出ポートの幅方向中間位置に前記最大容積部と該吐出ポートとを連通するように回転方向後方側に延びる深さが可変の可変くぼみを形成したことを特徴とするオイルポンプ。
【請求項2】
前記可変くぼみは、深さが無い状態乃至深さが形成される状態に可変される請求項1に記載のオイルポンプ。
【請求項3】
前記可変くぼみは、該くぼみの内壁を前記深さ方向に摺動するピストンと該ピストンを駆動する油圧回路とを備える請求項1に記載のオイルポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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