説明

オイルミスト濃度測定方法およびオイルミスト濃度測定装置

【課題】短時間で正確なオイルミスト濃度の測定が可能な方法および装置を提供する。
【解決手段】気体中のオイルミスト濃度を測定する方法および装置において、測定対象となる気体のオイルミストを耐熱性濾紙64によって捕集すると共に、測定対象となる気体のオイルミスト捕集中の流量を測定し、捕集したオイルミストを示差熱分析にかけてDTA曲線を作成し、作成したDTA曲線に現れるピーク部の面積Sを算出し、予め求めておいたDTA曲線のピーク部の面積とオイルミスト量との関係式に、算出したピーク部の面積Sを代入して捕集したオイルミスト量を算出し、算出したオイルミスト量を、測定した気体の流量で除算することで測定対象となる気体のオイルミスト濃度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体中のオイルミスト濃度を測定する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械を作動させている工場内の空気や、エアーコンプレッサーが供給する圧縮空気など、オイルミストが含まれる可能性がある気体は多い。このような生産設備等におけるオイルミストの発生量が多いと、被生産物へ悪影響を与えることとなる。このため、生産管理体制を整えるためにオイルミスト濃度を測定することが必要である。
また、気体にオイルミストが含まれることにより環境の悪化や人体等への影響も懸念されることから、気体中のオイルミスト濃度を正確に測定することが従来から望まれている。
なお、エアーコンプレッサーの吐出管にはオイルミストを除去するフィルタ装置が接続され、エアーコンプレッサーから吐出される気体にはオイルミストが含まれないようにすることが一般的である。かかる場合には、吐出される気体にオイルミストが含まれるかどうかはフィルタ装置の性能によって決まり、フィルタ装置の性能を評価・検査する場合にもフィルタ装置から吐出される気体中のオイルミスト濃度を測定する必要があった。
【0003】
例えば、日本工業規格(非特許文献1参照)では、図12に示すようなオイルミスト濃度の測定方法が記述されている。
図12では、エアーコンプレッサーから供給される空気のオイルミスト濃度を測定する場合の装置を示している。エアーコンプレッサーから供給される空気の流路は、所定の中途部で分岐管12に分岐される。分岐管12には、バルブ14を介して濾紙16を内蔵したホルダ17が取り付けられている。また、ホルダ17の下流側には、気体の流量を測定する流量測定器18が設けられている。
オイルミストを濾紙16で捕集する際には、例えば30分間から60分間程度の所定時間、分岐管12に測定対象となる気体を流通させる必要がある。また、捕集中は、流量測定器18によって気体の流量を測定する。
【0004】
オイルミストの捕集後、ホルダ17を分岐管12から取り外し、濾紙16上から溶剤20を滴下する。溶剤20としては、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタンなどを用いることができる。
濾紙16に溶剤が滴下することで、濾紙16に付着していたオイルが溶剤に溶け、下方に落下する。
【0005】
オイルが溶けた溶剤は、赤外線セル21内に貯留させ赤外線分光分析法にかけられる。これにより、溶剤中のオイル濃度が算出される。
つまり、溶剤中のオイル濃度は赤外線の吸収率に比例することが知られているので、赤外線分光分析法によってオイルが溶けた溶剤の赤外線吸収スペクトルを測定し、予め知られている溶剤中のオイル濃度の赤外線吸収スペクトルと比較することによって、溶剤中のオイル濃度を算出する。
さらに、気体中のオイルミスト濃度を算出するには、流量測定器18によって捕集時間中に濾紙を通過した気体の流量を測定し、赤外線分光分析法によって得られたオイル量から、気体中のオイルミスト濃度を算出する。
【0006】
【非特許文献1】JIS B 8392−2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような赤外線分光分析法によれば、オイルミストを捕集してからオイルミスト濃度の測定が完了するまでに時間がかかりすぎてしまい、もっと迅速にオイルミスト濃度の測定ができる方法が望まれているという課題がある。
【0008】
そこで本発明は上記課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、短時間で正確なオイルミスト濃度の測定が可能な方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成すべく、以下の構成を備える。
すなわち、本発明にかかるオイルミスト濃度測定方法によれば、気体中のオイルミスト濃度を測定する方法において、測定対象となる気体のオイルミストを耐熱性濾紙によって捕集すると共に、測定対象となる気体のオイルミスト捕集中の流量を測定し、捕集したオイルミストを示差熱分析にかけてDTA曲線を作成し、作成したDTA曲線に現れるピーク部の面積を算出し、予め求めておいたDTA曲線のピーク部の面積とオイルミスト量との関係式に、算出したピーク部の面積を代入して捕集したオイルミスト量を算出し、算出したオイルミスト量を、前記測定した気体の流量で除算することで測定対象となる気体のオイルミスト濃度を算出することを特徴としている。
この方法によれば、いわゆる示差熱分析法によってオイルミスト濃度の測定を行うことができる。このため、溶剤への抽出や赤外線分光を実行しなくてはならない従来の赤外線吸収分析法と比較して短時間で測定が可能となる。また、捕集したオイルミストを抽出するための溶剤も必要としなくなるので、コスト的にも有利でありしかも環境に対して悪影響を与えないようにすることができる。
【0010】
さらに、前記示差熱分析時には、オイルミストを燃焼させるために、酸素が含まれたパージガスを導入することを特徴としてもよい。
この方法によれば、捕集したオイルミストが所定温度で燃焼して、燃焼時に大きなピークを有するDTA曲線が形成されることになり、確実にピーク部の面積を測定することができる。
【0011】
本発明にかかるオイルミスト濃度測定装置によれば、気体中のオイルミスト濃度を測定するオイルミスト濃度測定装置において、測定対象となる気体中のオイルミストを捕集する耐熱性濾紙と、該耐熱性濾紙を収納する収納ホルダと、該収納ホルダに測定対象となる気体を流入させる流入管と、捕集中の気体流量を測定する気体流量測定手段と、前記耐熱性濾紙に捕集されたオイルミストを加熱するためにヒータが設けられた加熱炉と、該加熱炉内に配置され、オイルミストと共に加熱される標準物質と、標準物質の温度を検出する第1の温度センサと、オイルミストの温度を検出する第2の温度センサと、前記加熱炉内の温度が一定速度で上昇するように前記ヒータを制御すると共に、前記第1の温度センサと前記第2の温度センサで検出された温度の温度差を算出し、算出された温度差と加熱炉内の温度との関係をDTA曲線として作成し、作成したDTA曲線に現れるピーク部の面積を算出し、算出したピーク部の面積を、予め設定されたDTA曲線におけるピーク部の面積とオイルミスト量との関係式に代入して捕集したオイルミスト量を算出し、算出されたオイルミスト量を前記気体流量測定手段によって測定された流量で除算することにより気体中のオイルミスト濃度を算出する制御手段とを具備することを特徴としている。
この構成を採用することによって、いわゆる示差熱分析法によってオイルミスト濃度の測定を行うことができる。このため短時間で測定が可能となる。
【0012】
また、前記加熱炉には、オイルミストを燃焼させるために、酸素が含まれたパージガスを導入するパージガス導入管が設けられていることを特徴としてもよい。
この構成によれば、捕集したオイルミストが所定温度で燃焼して、燃焼時に大きなピークを有するDTA曲線が形成されることになり、確実にピーク面積を測定することができる。
【0013】
さらに、前記収納ホルダは、前記加熱炉内に設けられ、オイルミストの捕集終了時に、収納ホルダからオイルミストを捕集した耐熱性濾紙を加熱炉内に露出させることができるように設けられていることを特徴としてもよい。
【0014】
なお、前記パージガスとして測定対象となる気体が用いられることを特徴としてもよい。
このようにパージガスとしてサンプルエアと同一の気体を用いる構成とすれば、配管を増やさずにすみ、装置全体の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかるオイルミスト濃度測定方法およびオイルミスト濃度測定装置によれば、短時間でオイルミスト量の測定をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1に、オイルミスト濃度測定方法の工程を説明する概略の説明図を示す。
まず、オイルミスト濃度の測定対象となる気体に対して耐熱性濾紙を設置し、所定時間オイルミストを捕集する(ステップS100)。また、オイルミストの捕集時間における気体の流量も同時に測定しておく。
次に、捕集したオイルミストを示差熱分析にかける(ステップS102)。示差熱分析の具体的内容については後述するが、示差熱分析とは、熱的に安定した標準物質と、測定対象となる試料を一定速度で加熱したときの両者の温度差の変化を測定するものである。
なお、本実施形態において標準物質としては、酸化アルミニウムを採用している。
【0017】
そして、示差熱分析によって得られたDTA曲線のピーク部の面積を測定する(ステップS104)。ここで、DTA(differential thermal analysis)曲線とは、縦軸にオイルミストの温度と標準物質との温度差をとり、横軸に加熱温度をとったものを指している。加熱温度は加熱時間と比例するように一定速度で加熱するように設定している。
【0018】
なお、DTA曲線のピーク部の面積とオイルミスト量との関係については予め測定しておく。実験によると、DTA曲線のピーク部の面積とオイルミスト量とはほぼ比例関係にあることが確認できた。
そこで、ステップS104において得られた実際のDTA曲線のピーク部の面積を、予め測定しておいたDTA曲線のピーク部の面積とオイルミスト量との関係式に代入し、オイルミスト量を算出する(ステップS106)。
【0019】
上述してきた示差熱分析法によってオイルミスト量が算出されると、算出されたオイルミスト量をステップS101で測定しておいた捕集時間中に流れた気体流量で除算する(ステップS108)。これにより、測定対象となった気体のオイルミスト濃度が算出される。
【0020】
次に、図2に基づいて、示差熱分析の具体的な内容について説明する。
オイルミストを捕集した耐熱性濾紙と、標準物質とを加熱炉に収納する(ステップS200)。耐熱性濾紙としては、示差熱分析による加熱に対して耐熱性のあるバインダーフリーのガラス繊維を採用する。本実施形態ではまた、上記のように標準物質としては熱的に安定している酸化アルミニウムを用いる。
【0021】
加熱炉内に、パージガスを導入しながら、一定時間で加熱温度を一定温度ずつ上昇させて加熱を行う(ステップS202)。パージガスとしては、酸素が含有されている気体を用いる。本実施形態では、通常の大気をパージガスとして用いるが、酸素が含有されていればパージガスとして通常の大気に限定するものではない。酸素を含有したパージガスを導入することで、オイルミストは所定温度に達したときに酸素と結合して燃焼し、DTA曲線において大きなピーク部を形成することができる。
加熱中は、オイルミストと標準物質の双方の温度を測定する(ステップS204)。ただし、オイルミストや標準物質の温度は、耐熱性濾紙および標準物質を載置した皿に、温度センサである熱電対を取り付け、熱電対の出力電流を測定することによって得られる。
【0022】
続いて、オイルミストの温度と標準物質の温度差を算出する(ステップS206)。
そして、縦軸にオイルミストの温度と標準物質との温度差をとり、横軸に加熱温度をとったDTA曲線を作成する(ステップS208)。
【0023】
図3に、DTA曲線について示す。
このDTA曲線は、横軸に加熱容器内の温度(℃)をとり、縦軸にオイルミストと標準物質の温度差を表した熱電対の出力電圧(μV)をとったものについて示している。
また、ここではDTA曲線と同時に試料であるオイルミストの質量の変化であるTGA(Thermo Gravimetry Analysis)曲線についても示している。
【0024】
図3を見ると、DTA曲線の250℃付近までは温度差がマイナスになっている。これは標準物質の方がオイルミストよりも温度が上昇していることを示している。その後、DTA曲線は、プラス側に上昇して山型のピークをつくっている。そして300℃の手前で再び温度差がマイナスになり、標準物質の方が温度が高くなっている。
【0025】
TGA曲線を見ると、1.4mgで移行していたオイルミストの質量が、温度が250℃付近で急激に下降し、最終的にほぼ0mgまで移行している。このように、TGA曲線の立ち下がり時は、DTA曲線のピーク時とほぼ一致する。
したがって、これらの内容から勘案すると、オイルミストは所定の温度に到達した時点でパージガスの酸素と結合して燃焼を起こし、温度が急激に上昇してDTA曲線のピークをつくるとともに、燃焼によって質量が急激に減少するものと考えられる。
【0026】
続いて、図4に基づいて、DTA曲線におけるピーク部の面積の算出方法について説明する。
DTA曲線のピーク部の面積Sは、ピーク前の最小値DTAmin1と、ピーク後の最小値DTAmin2との間のDTA曲線に囲まれた部分の面積を算出してもよいが、ピーク部を境にしてDTA曲線に囲まれた部分の前半部分だけの面積S’をピーク部の面積としてもよい。
このピーク部の前半部分だけをピーク部の面積として用いる場合、ピーク値DTAmaxと、ピーク前の最小値DTAmin1との間の面積S’を算出する。
【0027】
このピーク部の面積SまたはS’の算出には、加熱温度と温度差(熱電対の出力電圧)の関数を算出し、この関数に基づく積分によって算出することもできるが、積分による算出は、関数の算出に手間がかかる。
そこで、ピーク部の温度差(熱電対の出力電圧)を所定間隔おきに抽出し、この抽出した温度差の値を加算していくことで求めると好適である。
【0028】
図5に、ピーク部の面積とオイルミスト量の関係とについて示す。
図5のグラフでは、横軸にDTA曲線のピーク部の面積をとり、縦軸にオイルミスト量(mg)をとっている。なお、ここでのピーク部の面積は、上述したように、ピーク値DTAmaxと、ピーク前の最小値DTAmin1との間の面積S’のことである。
図5のグラフで示されたように、オイルミスト量は、ピーク部の面積S’にほぼ比例し、ピーク部の面積S’に関する一次関数(y=ax+b)で表すことができる。したがって、ピーク部の面積S’の算出ができれば、オイルミスト量は極めて容易に算出することができる。
【0029】
図6に、上述してきた示差熱分析法を用いてオイルミスト濃度を算出する、オイルミスト濃度測定装置について示す。なお、図6では、気体が流通する管路を実線で図示し、電気信号の接続ラインは破線で図示している。
オイルミスト濃度測定装置30は、オイルミストの抽出と、抽出されたオイルミストの濃度測定の2つの機能を1つの装置で実現できる構成を採用した。このため、コンパクトな構成となり、しかも手間をかけずに測定ができる。さらに、本実施形態のオイルミスト濃度測定装置30は、オイルミストを含む気体を吐出する機器に直接接続してオイルミスト濃度の測定が可能である。したがって、当該機器が設置されている現場にオイルミスト濃度測定装置30を運搬して現場での測定が可能となった。
【0030】
オイルミスト濃度測定装置30の具体的な構成について説明する。
オイルミスト濃度測定装置30は、示差熱分析を行うための加熱炉34を備え、加熱炉34には測定対象となるオイルミストを含む気体(以下、サンプルエアと称する場合がある)を流入させる流入管36が接続されている。流入管36の先端部には、サンプルエアを吐出する機器の配管に接続可能な導入口35が設けられている。このため、例えば、エアーコンプレッサーのオイルミスト量の測定をしようとする場合、エアーコンプレッサーの吐出管に導入口35を接続させることで、サンプルエアを容易に加熱炉34内に流入させることができる。
【0031】
流入管36は、制御バルブ38が設けられており、制御バルブ38によってサンプルエアとして導入するか、パージガスとして導入するかが切り換えられる。すなわち、本実施形態では、サンプルエアとパージガスの発生源としては同一のものを使用しており、例えばエアーコンプレッサーから吐出されるエアをサンプルエアとして使用し、また示差熱分析時にはエアーコンプレッサーから吐出されるエアをパージガスとしても用いる。
【0032】
制御バルブ38には、流入管36から流入してきたエアをサンプルエアとして加熱炉34内(後述する収納ホルダ66内)に導入するためのサンプルエア導入管47と、流入管36から流入してきたエアをパージガスとして加熱炉34内に導入するパージガス導入管39が接続されている。
【0033】
パージガス導入管39は、フィルタ40、流量制御バルブ42および逆止弁44を介して加熱炉34に接続される。本実施形態のオイルミスト濃度測定装置30では、流量制御バルブ42によって、パージガスの流量が20ml/minとなるように制御されている。流量制御バルブ42としては、マスフロメータやオリフィスなどを用いることができる。
さらに、加熱炉34には、加熱炉34内に導入されたパージガスを排出するためのパージガス排出管52が接続されている。パージガス排出管52には、制御バルブ54が設けられており、パージガス排出管52の開閉制御をしている。
【0034】
サンプルエア導入管47は、流量計49を介して、加熱炉34内の耐熱性濾紙64を収納した収納ホルダ66に接続されている。耐熱性濾紙64を通過してオイルミストが捕集されたサンプルエアは、サンプルエア排出管46を通って機外へ排出される。サンプルエア排出管46には、サンプルエア排出管46の開閉動作を行う制御バルブ48と、サンプルエアの排出流量を制御する流量制御バルブ50とが設けられている。
【0035】
加熱炉34内にはヒータ56が設けられている。ヒータ56は、加熱炉34内を所定温度(500℃程度)まで加熱可能な性能を有しており、制御装置32によって制御される。
また、収納ホルダ66内の耐熱性濾紙64と、標準物質を載置する皿状の標準物質載置部68には、それぞれの温度を検出するための温度センサ60,62が設けられている。両温度センサ60,62は、制御装置32に接続されており、制御装置32では検出された各温度を取り込んで示差熱分析に用いることができる。
【0036】
図7に、制御装置32のブロック図を示す。
制御装置32は、制御バルブ38、制御バルブ54および制御バルブ48の開閉動作を制御することができる。また制御装置32には、流量計49によって検出された流量データが入力され、ROM82やRAM84に記憶させておくことができる。
制御装置32は、制御動作を実行するCPU80、ROM82およびRAM84から構成されるメモリ、ハードディスク等の記憶装置83を備えており、ROM82やハードディスク83などに予め記憶させておいた制御プログラム87をCPU80が読み出して実行することにより、オイルミスト濃度測定装置30全体の動作を制御することができる。
【0037】
また、制御装置32内のROM82やハードディスク83には、示差熱分析を実行してDTA曲線を作成する示差熱分析実行機能、得られたDAT曲線のピーク部の面積を測定するピーク面積測定機能、測定したピーク部の面積に基づいてオイルミスト量を算出する機能および算出されたオイルミスト量とサンプルエアの流量からオイルミスト濃度を算出する機能をCPU80に実現させるためのオイルミスト濃度算出プログラム86が記憶されている。また、制御装置32のROM82やハードディスク83には、示差熱分析の際に用いるDTA曲線のピーク部の面積とオイルミスト量との関係式85が予め記憶されている。
このような制御装置32としては、通常のパーソナルコンピュータを用いることができる。
【0038】
続いて、加熱炉34内の構成について説明する。
加熱炉34内には、オイルミストを捕集する耐熱性濾紙64と、耐熱性濾紙64を収納する収納ホルダ66と、標準物質を載置する標準物質載置部68とを備えている。耐熱性濾紙64は、難燃性のガラス繊維を採用すると好適であり、またバインダーフリーであるとよい。
収納ホルダ66は、サンプルエア導入管47とサンプルエア排出管46が接続されて内部をサンプルエアが通過可能に設けられており、収納ホルダ66内を通過するサンプルエア内のオイルミストを耐熱性濾紙64によって捕集するように形成されている。
収納ホルダ66は、サンプルエアの流入時には、サンプルエアが収納ホルダ66内のみを通過して加熱炉34内の他の個所には流入しないように設けられている。また、収納ホルダ66は、示差熱分析時には、耐熱性濾紙64を加熱炉34内に露出させて標準物質と同じ雰囲気下にあるように動作することができる。
【0039】
収納ホルダ66の具体例を図8〜図9に示す。
収納ホルダ66は、サンプルエア導入管47が接続された円錐状の第1のホルダ部70と、サンプルエア排出管46が接続された円錐状の第2のホルダ部72とを備えており、第1のホルダ部70の大径側70aと第2のホルダ部72の大径側72aとが当接するように設けられている。
第1のホルダ部70または第2のホルダ部72のいずれかには、耐熱性濾紙64が取り付けられるように設けられている。
【0040】
第1のホルダ部70の大径側70aと第2のホルダ部72の大径側72aが接続されたときには、第1のホルダ部70と第2のホルダ部72とが密着し、サンプルエアを収納ホルダ66の外部へ流出させないような構造となっている。
また、オイルミストの捕集後に示差熱分析を行う際には、第1のホルダ部70と第2のホルダ部72とは離間して耐熱性濾紙64が加熱炉34内に露出するように設けられる。
第1のホルダ部70と第2のホルダ部72との接続は、互いの大径側70a,72aを挟み込むクランプ部材74によって行い、第1のホルダ部70と第2のホルダ部72との離間はクランプ部材74がクランプを解除することによって行うことができる。
【0041】
以下、オイルミスト濃度測定装置30の動作について、図10〜図11のフローチャートに基づいて説明する。
まず、制御装置32のCPU80は、制御バルブ38を開けてサンプルエアを流入管36からサンプルエア導入管47を介して収納ホルダ66内に導入させるように、制御バルブ38に制御信号を出力する(ステップS300)。このとき、収納ホルダ66内を通過するサンプルエアに含まれるオイルミストは、耐熱性濾紙64で捕集される。
収納ホルダ66を通過したサンプルエアは、サンプルエア排出管46を通り外部へ排出される。サンプルエア導入管47を通過中のサンプルエアの流量は、制御装置32のCPU80が流量計49によって検出し、ROM82やRAM84に一旦記憶させておく(ステップS302)。
【0042】
制御装置32のCPU82は、制御バルブ38を開けてから所定の捕集時間経過後に制御バルブ38を閉じるよう制御する(ステップS304、ステップS306)。これにより、サンプルエアの流入が無くなり、オイルミストの捕集が完了する。
次に、制御装置32のCPU82は、示差熱分析を実行すべく、収納ホルダ66内の耐熱性濾紙64を加熱炉34内に露出させるようにする(ステップS308)。かかる場合、制御装置32のCPU82がクランプ部材74がクランプを自動的に解除するように制御して、第1のホルダ部70と第2のホルダ部72を自動的に離間させるように制御してもよい。また、制御装置32のCPU32は、作業者に収納ホルダ66内の耐熱性濾紙64を加熱炉34内に露出させるように表示又は音声で案内して促し、クランプ部材74のクランプの解除や、第1のホルダ部70と第2のホルダ部72との離間を作業者の人手により行ってもよい。
【0043】
続いて制御装置32は、示差熱分析を開始する。
示差熱分析に際しては、制御装置32のCPU82が制御バルブ38をパージガス導入管39に切り換えるように制御し、パージガスを加熱炉34内に導入する(ステップS310)。流入管36の導入口35は、エアーコンプレッサーに接続されたままであるので、本実施形態のパージガスとしては、サンプルエアと同一の気体が用いられる。このようにすれば、配管を増やさずにすみ、装置全体の小型化を図り、接続の手間を省くこともできる。また、パージガスは、上述したようにサンプルエアと同一の気体であるが、パージガス導入管39にはフィルタ40が設けられているので、オイルミストをフィルタ40で除去することができ、パージガスとして好適に用いられる。
【0044】
また、パージガスは、少なくとも酸素が含まれていれば良い。本実施形態のように、特にサンプルエアを吐出するエアーコンプレッサーからの空気をパージガスとすることには限定されず、パージガス用の空気を導入させる機構を別途設けてもよい。
【0045】
そして、制御装置32のCPU82は、ヒータ56を制御して加熱炉34内の温度を一定速度で上昇させていく(ステップS312)とともに、温度センサ60と温度センサ62の温度を検出しつつ(ステップS314)、温度センサ60と温度センサ62の温度差を算出する(ステップS316)。算出された温度差は、ROM82やRAM84に一旦記憶させておく。
【0046】
制御装置32のCPU82は、予め設定しておいた所定の加熱時間を経過したと判断した場合、または加熱炉34内の温度が予め設定した温度に到達した場合に、ヒータ56の加熱を停止する(ステップS319)。
次に制御装置32のCPU82は、算出してきた温度差に基づいて、DTA曲線を作成する(ステップS320)。そして、制御装置32のCPU82は、DTA曲線のピーク部の面積を算出する(ステップS322)。ピーク部の面積の算出方法としては、上述したように、単に温度差を加算していく方法でよい。
続いて、制御装置32のCPU82は、算出したピーク部の面積を、ROM82またはハードディスク83に記憶されているDTA曲線のピーク部の面積とオイルミスト量との関係式に代入し、オイルミスト量を算出する(ステップS324)。
【0047】
さらに、制御装置32のCPU82は、算出されたオイルミスト量に基づいてオイルミスト濃度を算出する(ステップS326)。
オイルミスト濃度は、算出されたオイルミスト量と、オイルミスト捕集中のサンプルエアの流通量とから、オイルミスト量をオイルミスト流通量で除算することにより算出できる。オイルミスト流通量は、ステップS302で説明したように、オイルミスト捕集時に予め測定してある。
そして、算出されたオイルミスト量およびオイルミスト濃度を、表示部(図示せず)に表示させる(ステップS328)。制御装置32が通常のパーソナルコンピュータである場合には、表示部としては単なるモニタでよい。
【0048】
なお、上述したオイルミスト濃度測定装置30では、サンプルエアの流量を流量計で測定すると説明したが、マスフロメータ等の流量計は高価であるので、価格が安いオリフィス、圧力センサおよび温度センサを設けて制御装置32でサンプルエアの圧力及び温度を測定し、これらの値に基づいて制御装置32内でサンプルエアの流量を算出するようにしてもよい。
【0049】
以上本発明につき好適な実施形態を挙げて種々説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明のオイルミスト量の測定方法を説明するフローチャートである。
【図2】示差熱分析について説明するフローチャートである。
【図3】DTA曲線の例を示すグラフである。
【図4】DTA曲線のピーク部の面積算出方法について説明する説明図である。
【図5】DTA曲線のピーク部の面積とオイル量との関係を示すグラフである。
【図6】オイルミスト量を測定できるオイルミスト濃度測定装置の構成を示す構成図である。
【図7】制御装置の構成を示すブロック図である。
【図8】収納ホルダの構成を示す説明図である。
【図9】図8の収納ホルダについて、濾紙部分を開放したところを示す説明図である。
【図10】オイルミスト濃度測定装置の動作を説明するフローチャートである。
【図11】図10の続きのフローチャートである。
【図12】従来のオイルミスト量の測定方法について示す説明図である。
【符号の説明】
【0051】
30 オイルミスト濃度測定装置
32 制御装置
34 加熱炉
35 導入口
36 流入管
38 制御バルブ
39 パージガス導入管
40 フィルタ
42 流量制御バルブ
44 逆止弁
46 サンプルエア排出管
47 サンプルエア導入管
48 制御バルブ
49 流量計
50 流量制御バルブ
52 パージガス排出管
54 制御バルブ
56 ヒータ
60,62 温度センサ
64 耐熱性濾紙
66 収納ホルダ
68 標準物質載置部
70 第1のホルダ部
72 第2のホルダ部
74 クランプ部材
83 ハードディスク(記憶装置)
85 関係式
86 オイルミスト濃度算出プログラム
87 制御プログラム
DTAmax ピーク値
DTAmin1 最小値
DTAmin2 最小値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体中のオイルミスト濃度を測定する方法において、
測定対象となる気体のオイルミストを耐熱性濾紙によって捕集すると共に、測定対象となる気体のオイルミスト捕集中の流量を測定し、
捕集したオイルミストを示差熱分析にかけてDTA曲線を作成し、
作成したDTA曲線に現れるピーク部の面積を算出し、
予め求めておいたDTA曲線のピーク部の面積とオイルミスト量との関係式に、算出したピーク部の面積を代入して捕集したオイルミスト量を算出し、
算出したオイルミスト量を、前記測定した気体の流量で除算することで測定対象となる気体のオイルミスト濃度を算出することを特徴とするオイルミスト濃度測定方法。
【請求項2】
前記示差熱分析時には、オイルミストを燃焼させるために、酸素が含まれたパージガスを導入することを特徴とする請求項1記載のオイルミスト濃度測定方法。
【請求項3】
気体中のオイルミスト濃度を測定するオイルミスト濃度測定装置において、
測定対象となる気体中のオイルミストを捕集する耐熱性濾紙と、
該耐熱性濾紙を収納する収納ホルダと、
該収納ホルダに測定対象となる気体を流入させる流入管と、
捕集中の気体流量を測定する気体流量測定手段と、
前記耐熱性濾紙に捕集されたオイルミストを加熱するためにヒータが設けられた加熱炉と、
該加熱炉内に配置され、オイルミストと共に加熱される標準物質と、
標準物質の温度を検出する第1の温度センサと、
オイルミストの温度を検出する第2の温度センサと、
前記加熱炉内の温度が一定速度で上昇するように前記ヒータを制御すると共に、前記第1の温度センサと前記第2の温度センサで検出された温度の温度差を算出し、算出された温度差と加熱炉内の温度との関係をDTA曲線として作成し、作成したDTA曲線に現れるピーク部の面積を算出し、算出したピーク部の面積を、予め設定されたDTA曲線におけるピーク部の面積とオイルミスト量との関係式に代入して捕集したオイルミスト量を算出し、算出されたオイルミスト量を前記気体流量測定手段によって測定された流量で除算することにより気体中のオイルミスト濃度を算出する制御手段とを具備することを特徴とするオイルミスト濃度測定装置。
【請求項4】
前記加熱炉には、オイルミストを燃焼させるために、酸素が含まれたパージガスを導入するパージガス導入管が設けられていることを特徴とする請求項3記載のオイルミスト濃度測定装置。
【請求項5】
前記収納ホルダは、
前記加熱炉内に設けられ、
オイルミストの捕集終了時に、収納ホルダからオイルミストを捕集した耐熱性濾紙を加熱炉内に露出させることができるように設けられていることを特徴とする請求項3または請求項4記載のオイルミスト濃度測定装置。
【請求項6】
前記パージガスとして測定対象となる気体が用いられることを特徴とする請求項4または請求項5記載のオイルミスト濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−14403(P2009−14403A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174358(P2007−174358)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000103921)オリオン機械株式会社 (450)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】