説明

オイル劣化検出装置

【課題】より適正なオイル劣化判断を行い得るオイル劣化検出装置並びに該オイル劣化検出装置を備えた回転部または摺動部を持つ機構システムを提供すること。
【解決手段】オイル流路11に2枚の極板21,22を互いに並行して設置して、2枚の極板21,22間に交流電圧を印加したときに流れる電流を電流計24で計測し、信号処理部(処理手段)31により、該極板21,22間の電圧を電圧計で計測し、電流計24および電圧計25による計測結果に基づいてオイル10の導電率および誘電率を求め、導電率および誘電率に基づきオイル10の劣化を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイル劣化検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転部または摺動部を備えた機構システムにおいては、オイルタンクおよびオイル供給路を備えて、機構システムの回転部または摺動部を構成する各種部品、或いはその周辺部品にオイルを循環供給して、各部品の摩耗を防ぎ円滑に動作させるようにしている。
このような機構システムにおけるオイルの性状管理は、従来、化学分析に頼っていたが、オイルのサンプリングを行ってから、化学分析結果を得るまでにかなりの時間を要するため、その性状管理はタイムリーなものであるとは言い難い。そこで、オイルの劣化状態を検知する装置の開発が望まれ、いくつか提案されている。
例えば、特開平10−78402号公報に開示の「エンジン・オイル劣化検出装置」では、エンジンのオイル・パンにオイルの電気抵抗値を測定する抵抗センサを設け、測定したオイルの電気抵抗値が低下して、予め設定した劣化抵抗値に到達した場合に、運転者にオイル交換の必要性を知らせる手法が提案されている。
【特許文献1】特開平10−78402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された技術においては、電気抵抗値の変化に基づいてオイルの劣化を判定しており、カーボン(すす)の混入など、電気抵抗値に対して大きく影響を及ぼす物質の混入に対して過敏であるという事情があった。
また、オイルの劣化状態を検知するための計測手法として、特許文献1のように電気抵抗値(導電率)の変化を計測するもの以外にも、オイルの劣化に伴う粘度変化、誘電率変化、光透過率変化、或いはpH変化等を計測するものがあるが、何れの手法にも長所と短所があり、単独情報の計測では適正なオイル劣化判断に限界があるという事情があった。
【0004】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、より適正なオイル劣化判断を行い得るオイル劣化検出装置並びに該オイル劣化検出装置を備えた回転部または摺動部を持つ機構システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、オイル流路に互いに並行して設置された2枚の極板と、前記2枚の極板間に交流電圧を印加したときに流れる電流を計測する電流計と、前記2枚の極板に交流電圧を印加したときの該極板間の電圧を計測する電圧計と、前記電流計および前記電圧計による計測結果に基づいて前記オイルの導電率および誘電率を求め、該導電率および該誘電率に基づき該オイルの劣化を判断する処理手段とを具備するオイル劣化検出装置を提供する。
【0006】
上記オイル劣化検出装置において、前記電流計は、電流を計測し、前記電圧計は、電圧を計測し、前記処理手段は、前記電流計および前記電圧計による計測結果に基づいて前記2枚の極板間の複素インピーダンスを求め、該複素インピーダンスの逆数の実部を前記2枚の極板間の抵抗成分と見なして前記オイルの導電率を求め、該複素インピーダンスの虚部を前記2枚の極板間の容量成分と見なして前記オイルの誘電率を求めることとしてもよい。
【0007】
本発明によれば、導電率および誘電率に基づきオイルの劣化を判断するので、オイルの劣化やコンタミ混入に伴う電気特性の変化について、導電率および誘電率の観点から2次元的に捉えることができ、より適正なオイル劣化判断を行うことが可能となる。
【0008】
上記オイル劣化検出装置において、前記処理手段は、前記オイルの導電率および前記オイルの誘電率についての許容範囲をそれぞれ保有しており、前記オイルの導電率および前記オイルの誘電率のいずれかが該許容範囲外となった場合に、オイルが劣化していると判断することとしてもよい。
【0009】
上記オイル劣化検出装置において、前記処理手段は、前記オイルの導電率及び前記オイルの誘電率と、オイル劣化の原因とが対応付けられたテーブルを保有しており、このテーブルを参照することにより、オイル劣化の原因を特定することとしてもよい。
これにより、オイル劣化の判定だけでなく、オイル劣化の原因についても特定することが可能となる。
【0010】
上記オイル劣化検出装置において、前記2枚の極板に印加する交流電圧の周波数を変化させて計測を行うこととしてもよい。
【0011】
交流電圧の周波数を可変とすることで、導電率および誘電率の感度調節を行うことができ、より高い精度でオイルの劣化判断を行うことが可能となる。
【0012】
上記オイル劣化検出装置において、前記2枚の極板に印加する交流電圧の波形は、例えば、正弦波、矩形波、三角波、のこぎり波または逆のこぎり波である。
【0013】
例えば、交流電圧の波形を、矩形波、三角波、のこぎり波または逆のこぎり波とし、高調波成分について導電率および誘電率を求めることにより、複数の周波数について導電率および誘電率を同時に取得することができ、一度の計測で導電率および誘電率の感度調節を行うことができ、より高い精度でオイルの劣化判断を行うことが可能となる。
【0014】
上記オイル劣化検出装置において、前記オイル流路に設置されて前記オイルの粘度を計測する粘度計を更に備え、前記処理手段は、前記粘度計による計測結果を加味して前記オイルの劣化を判断することとしてもよい。
【0015】
オイル劣化判断の判断要素に粘度を加えることにより、燃料混入等による粘度の低下に対しても対処でき、オイル10の劣化判断を電気的特性および粘度に基づき多次元的に行うことができ、より高精度に且つ適正に劣化判断を行うことが可能となる。
【0016】
上記オイル劣化検出装置において、前記オイル流路に設置されて前記オイルの水分を計測する水分計を更に備え、前記処理手段は、前記水分計による計測結果を加味して前記オイルの劣化を判断することとしてもよい。
【0017】
オイル劣化判断の判断要素に水分を加えることにより、電気的特性の変化の原因を特定できるようになり、オイルの劣化判断を電気的特性および水分に基づき多次元的に行うことができ、より高精度に且つ適正に劣化判断を行うことが可能となる。
【0018】
上記オイル劣化検出装置において、前記処理手段による前記オイルの劣化判断の結果を報知する報知手段を更に備えることとしてもよい。
【0019】
また、上記オイル劣化検出装置において、前記処理手段により前記オイルが劣化していると判断されたとき、前記オイルの一部を良質なオイルに交換する部分交換手段を更に備えることとしてもよい。
【0020】
本発明によれば、当該オイル劣化検出装置が適用されるシステムにメンテナンスが入るまでの時間を稼ぐことができ、また、メンテナンスの遅れによってシステムが壊れるなどの最悪の事態を防ぐことが可能となる。
【0021】
本発明は、上記オイル劣化検出装置を有する回転部または摺動部を備える機構システムを提供する。
【0022】
このような構成を備えることにより、機構システムの運転を止めることなくリアルタイムにオイルの劣化センシングが可能となり、さらに、適切なオイル交換時期が把握できるため、不必要なオイル交換作業を行わずに済むという効果を奏する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、導電率および誘電率に基づきオイルの劣化を判断するので、オイルの劣化やコンタミ混入に伴う電気特性について、導電率および誘電率の観点から2次元的に捉えることができ、より適正なオイル劣化判断を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明に係るオイル劣化検出装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0025】
図1は本発明の一実施形態に係るオイル劣化検出装置の概略構成図である。
同図において、本実施形態のオイル劣化検出装置は、オイル流路11を流れるオイル10の劣化を検出するものであり、オイル流路11に互いに並行して設置される2枚の極板21,22と、2枚の極板21,22間に交流電圧を印加する交流電源23と、交流電圧を印加したときに流れる電流を計測する電流計24と、交流電圧を印加したときの極板21,22間の電圧を計測する電圧計25と、電流計24および電圧計25による計測結果に基づいてオイル10の導電率および誘電率を求め、該導電率および該誘電率に基づきオイル10の劣化を判断する信号処理部(特許請求の範囲にいう処理手段に該当する)31と、信号処理部31によるオイル10の劣化判断の結果を報知する報知部32とを備えて構成されている。
【0026】
交流電源23としては、正弦波の交流電圧を出力するもので、周波数を可変設定できるものを使用する。また、電流計24および電圧計25は、例えば、それぞれ電流および電圧の瞬時値を出力できる形態のものを使用する。
【0027】
信号処理部31は、例えばMPU(マイクロプロセッサ)やDSP(ディジタル信号処理プロセッサ)、或いはPC等で具現化され、導電率および誘電率を求め、オイル10の劣化を判断する処理等はプログラム処理により実現される。なお、PC等は、当該オイル劣化検出装置が適用される内燃機関等の装置の全体または一部を制御する制御手段と併用する構成であっても良い。また、オイル流路11に複数個の極板21,22が設置される場合には、信号処理部31を極板21,22毎に備える構成としても良いし、或いは、複数個の極板21,22を一括して1個の信号処理部31で処理する構成としても良い。
【0028】
報知部は、劣化判断の結果を報知するものであればどのような形態でも良く、例えば、オイル10が劣化したと判断されたときに、アラーム(警報音)を出力するもの、表示パネル上の所定領域を点滅表示するもの、或いは、オイル10が劣化した旨のメッセージを表示出力するもの等、種々の態様が考えられる。
【0029】
さらに、2枚の極板21,22は、図2(a)に示すように、間隔dの並行平板で、平面の面積Sが既知で平面形状が同一のものを使用し、オイル流路11に設置する。なお、オイル流路11にオイルフィルタがある場合には、2枚の極板21,22は、該オイルフィルタの後方(オイル10の流れにおける下流)に設置するのが望ましい。
【0030】
次に、本実施形態に係るオイル劣化検出装置における計測原理について説明する。
まず、図2(a)に示した極板21,22および極板間に介在するオイル20の等価電気モデルとして、図2(b)に示すような、抵抗R(Rは構造体の抵抗値)および静電容量C(極板間に介在するオイルの静電容量値)による並列回路を仮定する。
【0031】
交流電源23により印加される電圧をVとし、該電圧Vの周波数をωとし、流れる電流をI、抵抗Rを流れる電流をI1、静電容量Cを流れる電流をI2とするとき、回路方程式は、次式で示される。
【0032】
I=I1+I2 … (1)
V=R・I1 … (2)
V=(1/jωC)・I2 … (3)
【0033】
よって、式(1)〜(3)より、並列回路の複素インピーダンスZは次式で求められる。
Z=V/I=V/(((1/R)+jωC)・V)
=1/((1/R)+jωC) … (4)
【0034】
ここで、複素インピーダンスZの逆数1/Zを、複素平面上にプロットすると図2(c)に示す如くなる。同図において、横軸は複素インピーダンスZの逆数1/Zの実部Re[1/Z]であり、縦軸は複素インピーダンスZの逆数1/Zの虚部Im[1/Z]である。また、中心からプロットした点までの直線距離が複素インピーダンスZの逆数1/Zの大きさ1/|Z|であり、θは複素インピーダンスZの逆数1/Zの偏角である。
【0035】
図2(c)に示すように、計測により得られた複素インピーダンスZについて、その逆数1/Zの実部が抵抗成分(1/R)に、逆数1/Zの虚部が容量成分(ωC)に対応するため、抵抗値Rおよび静電容量値Cが求まる。さらに、極板21,22および極板間に介在するオイル20について、極板21,22の間隔dおよび平面の面積Sが一定で既知であるため、得られた抵抗値Rおよび静電容量値Cから、それぞれオイル10の導電率σおよび誘電率εを求めることができる。
【0036】
次に、図3に示す信号処理部31の詳細構成図を参照して、信号処理部31における信号処理および判定処理について詳細に説明する。同図に示されるように、信号処理部31は、実効値比較部41、位相差算出部42、抵抗値算出部43、静電容量値算出部44、導電率算出部45、誘電率算出部46および劣化判断部47を備えて構成されている。なお、これらの構成要素は、プログラム上の処理のまとまりを表すものである。また、電流計24からは電流の実効値と位相が、また電圧計25からは電圧の実効値と位相が、それぞれ送られてくるものとする。
【0037】
まず、実効値比較部41では、電流の実効値と電圧の実効値とを比較して複素インピーダンスZの絶対値(|Z|=|V|/|I|)を求める。また、位相差算出部42では、電流と電圧との位相差θを算出する。
次に、抵抗値算出部43では、複素インピーダンスZの逆数1/|Z|から抵抗値R(R=|Z|/cosθ)を求め、静電容量値算出部44では、複素インピーダンスZの逆数1/|Z|から静電容量値C(C=sinθ/(ω・|Z|))を求める。
【0038】
次に、導電率算出部45では、抵抗値Rからオイル10の導電率σ(σ=d/R・S)を求め、誘電率算出部46では、静電容量値Cからオイル10の誘電率ε(ε=C・d/S)を求める。
【0039】
さらに、劣化判断部47では、例えば、予め、オイル10の導電率σおよび誘電率εについて、それぞれ上限値から下限値までの許容範囲を設定しておき、導電率σおよび誘電率εの何れかについて該許容範囲外となる値となったときに、オイル10が劣化していると判断する。
【0040】
なお、2枚の極板に印加する交流電圧の周波数を変化させて計測を行うことが望ましい。一般に、印加する交流電圧の周波数が相対的に低い場合には、誘電率変化の影響に起因する信号変化は低減され、逆に、周波数が相対的に高い場合には、誘電率変化の影響に起因する信号変化は増加する傾向にある。すなわち、交流電圧の周波数を可変とすることで、導電率σおよび誘電率εの感度調節を行うことが可能となる。
【0041】
例えば、予備実験により、複数の周波数における計測を行って、オイル10の性質に応じて、より導電率σおよび誘電率εの感度が高く、より適正に劣化判断を行い得る交流電圧の周波数帯を確認しておくことができる。また、当該オイル劣化検出装置が適用されるシステムの運転時には、複数の周波数について計測を行って、これらを統計処理した導電率σおよび誘電率εに基づいて劣化判断を行うようにすれば、より高い精度でオイル10の劣化判断を行うことが可能となる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態のオイル劣化検出装置では、オイル流路11に2枚の極板21,22を互いに並行して設置して、2枚の極板21,22間に交流電圧を印加したときに流れる電流を電流計24で計測し、信号処理部(処理手段)31により、該極板21,22間の電圧を電圧計で計測し、電流計24および電圧計25による計測結果に基づいてオイル10の導電率σおよび誘電率εを求め、導電率σおよび誘電率εに基づきオイル10の劣化を判断する。
【0043】
具体的には、電流計24により電流の瞬時値を計測し、電圧計により電圧の瞬時値を計測し、信号処理部(処理手段)31により、電流計24および電圧計25による計測結果に基づいて2枚の極板21,22間の複素インピーダンスZと位相を求め、該複素インピーダンスZの実部を2枚の極板21,22間の抵抗成分と見なしてオイル10の導電率σを求め、該複素インピーダンスZの逆数の虚部を2枚の極板21,22間の容量成分と見なしてオイルの誘電率εを求める。
【0044】
オイル10の電気的特性(導電率および誘電率)の変化には、概して水分の混入によるもの、熱劣化によるもの、及びすすの混入によるものとがある。図4に示すように、水分の混入に対しては、誘電率は大きく変化するが導電率の変化は相対的に小さい。また、すす等の混入に対して導電率は大きく変化するが、誘電率は殆ど変化しない。したがって、従来のように、導電率または誘電率の単独の電気的特性の変化に基づいたのでは、適正なオイル劣化判断に限界がある。これに対して、本実施形態のオイル劣化検出装置では、導電率および誘電率に基づきオイル10の劣化を判断するので、オイルの劣化やコンタミ混入に伴う電気特性について、導電率および誘電率の観点から2次元的に捉えることができ、また、すす等の導電率変化に対して大きな影響を及ぼす物質によるオイル劣化への影響を切り離して評価することができる。その結果として、より適正なオイル劣化判断を行うことができる。
【0045】
また、本実施形態において、例えば、劣化判断部47は、図5に示されるように、導電率σ及び誘電率εとオイル劣化の原因とが対応付けられているテーブルを保有しており、このテーブルを参照してオイル劣化の原因、換言すると、電気的特性(導電率および誘電率)の変化の原因を特定することとしてもよい。
具体的には、オイル10の導電率σおよび誘電率εがともに許容範囲内である場合には正常と判定し、導電率σが許容範囲外であり、かつ、誘電率εが許容範囲内である場合には、すす混入量の増大による異常と判断し、オイル10の導電率σが許容範囲内であり、かつ、オイル10の誘電率εが許容範囲外である場合には、水分混入量の増大による異常と判断し、また、オイル10の導電率σ及び誘電率εがともに許容範囲外である場合には、熱劣化による異常であると判断する。
【0046】
なお、信号処理部31内の記憶部(図示せず)に、定期的にオイル10の導電率σおよび誘電率εの計測履歴を記録して、オイル10の劣化の進行具合の判断や、オイル交換時期の判断に供するようにしても良い。
【0047】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0048】
〔変形例1〕
例えば、オイル流路11に設置されてオイル10の粘度を計測する粘度計(粘度センサ)を更に備え、信号処理部(処理手段)31において、粘度計(粘度センサ)による計測結果を加味してオイル10の劣化を判断するようにしても良い。
【0049】
上述した実施形態では、導電率および誘電率というオイル10の電気的特性に基づいてオイル10の劣化判断を行っており、オイル10と電気的特性が類似する物質(例えば内燃機関に当該オイル劣化検出装置を適用する場合には燃料等)の混入については、判別が難しいという事情がある。そこで、変形例1のように、オイル10の劣化判断の判断要素に粘度を加えることにより、燃料混入等による粘度の低下に対しても対処(オイル10が劣化していると判断して報知)できるようになる。すなわち、オイル10の劣化判断を電気的特性(導電率および誘電率)および粘度に基づき多次元的に行うことができ、より高精度に且つ適正に劣化判断を行うことができる。
【0050】
〔変形例2〕
例えば、オイル流路11に設置されてオイル10の水分を計測する水分計を更に備え、信号処理部(処理手段)31において、水分計による計測結果を加味してオイル10の劣化を判断するようにしても良い。
【0051】
オイル10の電気的特性(導電率および誘電率)の変化には、概して水分の混入によるものと、熱劣化によるものと、すすの混入によるものがあるが、電気的特性(導電率および誘電率)の変化が小さいところでは、何れに起因するものかを判断するのは難しいという事情がある。そこで、変形例2のように、オイル10の劣化判断の判断要素に水分を加えることにより、電気的特性(導電率および誘電率)の変化の原因を特定できるようになる。すなわち、オイル10の劣化判断を電気的特性(導電率および誘電率)および水分に基づき多次元的に行うことができ、より高精度に且つ適正に劣化判断を行うことができる。
【0052】
〔変形例3〕
また、上記実施形態では交流電圧の波形として正弦波を用いたが、矩形波、三角波、のこぎり波または逆のこぎり波を用いても良い。この場合、得られるインピーダンスの時間関数をフーリエ変換すると、基本周波数の整数倍となる高調波成分が得られ、それぞれの高調波成分について導電率および誘電率を求めることにより、複数の周波数について導電率および誘電率を同時に取得することができる。すなわち、実施形態においては、感度を上げるために複数の周波数についてサンプリングして、より適正な周波数を選んで計測を行うようにしたが、矩形波、三角波、のこぎり波または逆のこぎり波を用いることにより複数の周波数における情報を獲得することができ、一度の計測でより適正な周波数の目安を付けることができ、また、複数の周波数ポイントでの導電率σおよび誘電率εを得て、オイル10の劣化判断に供することができるため、より高精度の劣化判断が可能となる。
【0053】
〔変形例4〕
また、信号処理部(処理手段)31によりオイル10が劣化していると判断されたとき、10オイルの一部を良質なオイルに交換する部分交換手段を更に備えた構成としても良い。
例えば、図6に示すように、オイル流路11にオイル10を供給するオイルタンク51に、制御弁付きのリザーブタンク52を備えた構成とし、信号処理部31によりオイル10が劣化していると判断されたときには、信号処理部31からの制御信号によって制御弁を開制御して、オイルタンク51内の一部を良質なオイルに交換するものである。
【0054】
このように、信号処理部31によりオイル10が劣化していると判断されたとき、報知部32によりその旨を報知すると共に、オイル10を部分交換することで、当該オイル劣化検出装置が適用されるシステムにメンテナンスが入るまでの時間を稼ぐことができ、また、メンテナンスの遅れによってシステムが壊れるなどの最悪の事態を防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のオイル劣化検出装置は、システムの各部品の摩耗を防ぎ円滑に動作させるために、オイルの循環供給を行う機構システムであればどのようなものにも適用可能である。例えば、回転部または摺動部を持つ機構システム、具体的には、ガソリンやディーゼル等の内燃機関や、発電機、電動機、或いは、風力、水力、火力または原子力発電システム等における回転部等々、種々のシステムに適用できる。
【0056】
また、本発明のオイル劣化検出装置をこのような機構システムに適用することにより、機構システムの運転を止めることなく、リアルタイムにオイルの劣化センシングが可能となり、更に、適切なオイル交換時期が把握できるため、不必要なオイル交換作業を行わずに済むという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態に係るオイル劣化検出装置の構成図である。
【図2】図2(a)極板21,22および極板間に介在するオイル20の断面図、図2(b)は回路モデルの回路図、図2(c)は複素平面上で複素インピーダンスZを説明する説明図である。
【図3】信号処理部31の詳細構成図である。
【図4】導電率および誘電率の変化の傾向を説明する説明図である。
【図5】劣化判断部が保有するテーブルの一例を示した図である。
【図6】部分交換手段の説明図である。
【符号の説明】
【0058】
10 オイル
11 オイル流路
21,22 極板
23 交流電源
24 電流計
25 電圧計
31 信号処理部(処理手段)
32 報知部
41 実効値比較部
42 位相差算出部
43 抵抗値算出部
44 静電容量値算出部
45 導電率算出部
46 誘電率算出部
47 劣化判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイル流路に互いに並行して設置された2枚の極板と、
前記2枚の極板間に交流電圧を印加したときに流れる電流を計測する電流計と、
前記2枚の極板に交流電圧を印加したときの該極板間の電圧を計測する電圧計と、
前記電流計および前記電圧計による計測結果に基づいて前記オイルの導電率および誘電率を求め、該導電率および該誘電率に基づき該オイルの劣化を判断する処理手段と
を具備するオイル劣化検出装置。
【請求項2】
前記電流計は、電流を計測し、
前記電圧計は、電圧を計測し、
前記処理手段は、前記電流計および前記電圧計による計測結果に基づいて前記2枚の極板間の複素インピーダンスおよび電流と電圧との位相差を求め、該複素インピーダンスの逆数の実部を前記2枚の極板間の抵抗成分と見なして前記オイルの導電率を求め、該複素インピーダンスの虚部を前記2枚の極板間の容量成分と見なして前記オイルの誘電率を求める請求項1に記載のオイル劣化検出装置。
【請求項3】
前記処理手段は、前記オイルの導電率および前記オイルの誘電率についての許容範囲をそれぞれ保有しており、前記オイルの導電率および前記オイルの誘電率のいずれかが該許容範囲外となった場合に、オイルが劣化していると判断する請求項1または請求項2に記載のオイル劣化検出装置。
【請求項4】
前記処理手段は、前記オイルの導電率及び前記オイルの誘電率と、オイル劣化の原因とが対応付けられたテーブルを保有しており、このテーブルを参照することにより、オイル劣化の原因を特定する請求項1から請求項3のいずれかに記載のオイル劣化検出装置。
【請求項5】
前記2枚の極板に印加する交流電圧の周波数を変化させて計測を行う請求項1から請求項4のいずれかに記載のオイル劣化検出装置。
【請求項6】
前記2枚の極板に印加する交流電圧の波形は、正弦波、矩形波、三角波、のこぎり波または逆のこぎり波である請求項1から請求項5のいずれかに記載のオイル劣化検出装置。
【請求項7】
前記オイル流路に設置されて前記オイルの粘度を計測する粘度計を更に備え、
前記処理手段は、前記粘度計による計測結果を加味して前記オイルの劣化を判断する請求項1から請求項6のいずれかに記載のオイル劣化検出装置。
【請求項8】
前記オイル流路に設置されて前記オイルの水分を計測する水分計を更に備え、
前記処理手段は、前記水分計による計測結果を加味して前記オイルの劣化を判断する請求項1から請求項7のいずれかに記載のオイル劣化検出装置。
【請求項9】
前記処理手段による前記オイルの劣化判断の結果を報知する報知手段を更に備える請求項1から請求項8のいずれかに記載のオイル劣化検出装置。
【請求項10】
前記処理手段により前記オイルが劣化していると判断されたとき、前記オイルの一部を良質なオイルに交換する部分交換手段を更に備える請求項1から請求項9のいずれかに記載のオイル劣化検出装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載のオイル劣化検出装置を有する回転部または摺動部を具備する機構システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−2693(P2009−2693A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161651(P2007−161651)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】