説明

オキソカーボン基を有する高分子

【課題】主鎖が脂肪族鎖からなり、該主鎖にオキソカーボン基が直接結合している高分子電解質を効率的に製造できる化合物、当該化合物を用いてなる高分子、当該高分子を用いてなる高分子電解質を提供する。
【解決手段】式(1’)で表される化合物、当該化合物を付加重合してなる式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子、及び当該高分子を用いてなる高分子電解質を提供する。かかる高分子電解質は、燃料電池用部材の製造に好適に使用できる。


上式中、X1及びX2はともに−O−が好ましく、Zは−C(O)−(カルボニル基)が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキソカーボン基を有する新規な高分子に関する。
【背景技術】
【0002】
スクアリン酸(四角酸)等のオキソカーボン類は、オキソカーボン基における水素が解離した状態が共鳴による安定な構造となるため酸性度が高いことが知られている(例えば、非特許文献1,非特許文献2参照)。本発明者は、このようなオキソカーボン基をイオン交換基として有する高分子が、耐水性やプロトン伝導性に優れることを提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−225624号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Oxocarbons、45頁(Edited by Robert West)、Academic Press(1980),(ISBN:0−12−744580−3)
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society,95,8703(1973)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、主鎖が脂肪族鎖からなり、この主鎖にオキソカーボン基が直接結合している高分子電解質(以下、「オキソカーボン基含有高分子電解質」という)を効率的に製造できる化合物、当該化合物を用いてなる高分子、当該高分子を用いてなるオキソカーボン基含有高分子電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、下記の<1>〜<3>の化合物及びこれらから選ばれる化合物を用いてなる<4>の高分子を提供する。
<1>下記式(1’)で示される化合物。

(式中、X1、X2はそれぞれ独立に、−O−、−S−又は−NR−を表し、Zは−C(O)−、−C(S)−、−C(NR’)−、置換基を有していてもよいアルキレン基又は置換基を有していてもよいアリーレン基を表す(−NR−、NR’におけるR、R’は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。)。nは0〜10の整数を表わす。nが2以上である場合、複数あるZは互いに同じであっても、異なっていてもよい。Q1、Q2及びQ3は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基、又はハロゲン原子を表す。B'は1価の有機基を表す。)
<2>前記式(1’)において、Zが−C(O)−、−C(S)−及び−C(NH)−から選ばれる、<1>の化合物。
<3>前記式(1’)において、X1及びX2がともに−O−であり、Zが−C(O)−であり、nが0〜2の整数である、<1>の化合物。
<4><1>〜<3>のいずれかの化合物をモノマーとして用い、該モノマーを付加重合して得られる高分子。
【0007】
また、本発明は前記<1>〜<3>のいずれかの化合物から誘導される、下記<5>〜<8>を提供する。
<5>下記式(1)で示される繰り返し単位を有する高分子。

(式中、X1、X2はそれぞれ独立に、−O−、−S−又は−NR−を表し、Zは−C(O)−、−C(S)−、−C(NR’)−、置換基を有していてもよいアルキレン基又は置換基を有していてもよいアリーレン基を表す(−NR−、NR’におけるR、R’は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。)。nは0〜10の整数を表わす。nが2以上である場合、複数あるZは互いに同じであっても、異なっていてもよい。Q1、Q2及びQ3は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基、又はハロゲン原子を表す。B'は1価の有機基を表す。)
<6>前記式(1)において、Zが−C(O)−、−C(S)−及び−C(NH)−から選ばれる、<5>の高分子。
<7>前記式(1)において、X1及びX2がともに−O−であり、Zが−C(O)−であり、nが0〜2の整数である、<5>の高分子。
<8><5>〜<7>のいずれかに記載の高分子にある式(1)で表される繰り返し単位の少なくとも一部を、以下の式(2)で表される繰り返し単位に転換してなる、高分子。

(式中、Bは水素原子又は金属原子を表す。Bが金属原子である場合、他の置換基と結合していてもよい。その他の符号である、X1、X2、Z、n、Q1、Q2及びQ3は前記と同じである。)
【0008】
前記<5>〜<8>のいずれかに高分子は、オキソカーボン基という強酸性基を有するものであり、高分子電解質、特に高分子電解質型燃料電池(以下、場合により「燃料電池」という)に好適に使用される。そこで本発明は、下記の<9>〜<13>を提供する。
<9><8>の高分子を有効成分とする高分子電解質。
<10><9>の高分子電解質を含む、高分子電解質膜。
<11><9>の高分子電解質と、触媒成分とを含む、触媒組成物。
<12><9>の高分子電解質、<10>の高分子電解質膜、<11>の触媒組成物を用いてなる触媒層のいずれかを有すること、膜−電極接合体。
<13><12>の膜−電極接合体を備える、固体高分子形燃料電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば燃料電池のプロトン伝導膜用材料等に使用される高分子電解質に有用なオキソカーボン基含有高分子電解質を、容易に得ることができる。特に、オキソカーボン基を有する高分子電解質は、スルホン酸基をイオン交換基として有する従来の高分子電解質に比し、化学的安定性、耐水性等にも優れることが期待されるため、実用的な燃料電池を得るうえでも有利であり、工業的に特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
まず、本発明は、オキソカーボン基含有高分子電解質を容易且つ効率的に製造するうえで、有用なモノマーである下記式(1’)の化合物を提供する。

(式中、X1、X2はそれぞれ独立に、−O−、−S−又は−NR−を表し、Zは−C(O)−、−C(S)−、−C(NR’)−、置換基を有していてもよいアルキレン基又は置換基を有していてもよいアリーレン基を表す(−NR−、NR’におけるR、R’は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。)。nは0〜10の整数を表わす。nが2以上である場合、複数あるZは互いに同じであっても、異なっていてもよい。Q1、Q2及びQ3は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基、又はハロゲン原子を表す。B'は1価の有機基を表す。)
【0012】
ここで、X1、X2はそれぞれ独立に−O−、−S−又は−NR−を表す。好ましくは−O−、−S−であり、さらに好ましくは−O−であり、X1及びX2がともに、−O−であると特に好ましい。またNRにおけるRは,水素原子,メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等で代表される置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又はフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、ナフチル基等で代表されるの置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。
またZは−C(O)−(カルボニル基)、−C(S)−(チオカルボニル基)、−C(NR’)−(イミノ基又は置換イミノ基)、置換基を有していてもよいアルキレン基又は置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。NR’におけるR’は前記Rと同義であり、Rと同じものが例示される。
置換基を有していてもよいアルキレン基の代表例としては、例えばメチレン、フルオロメチレン、ジフルオロメチレン、フェニルメチレン、ジフェニルメチレン等が挙げられる。置換基を有していてもよいアリーレン基の代表例としては、例えばフェニレン基、ナフチレン基、テトラフルオロフェニレン基等が挙げられる。
Zは、好ましくは−C(O)−、−C(S)−及び−C(NR’)−から選ばれる基であり、より好ましくは−C(O)−及び−C(S)−から選ばれる基であり、特に好ましくは−C(O)−である。
nはZの繰り返しの数であり、0〜10の整数を表わす。nは、好ましくは0〜4であり、さらに好ましくは0〜2であり、特に好ましくは1である。
1、Q2及びQ3(以下、「Q1〜Q3」のようにいうことがある)はそれぞれ独立に、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等で代表される置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基、ナフチル基等で代表されるの置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基、またはハロゲン原子を表す。Q1〜Q3として好ましくは、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子であり、さらに好ましくは水素原子、ハロゲン原子であり、特に好ましくは水素原子である。ハロゲン原子としては塩素原子、フッ素原子が挙げられる。
B'は1価の有機基を表す。該1価の有機基としては、アルキル基又はアリール基が挙げられる。アルキル基として好ましくは炭素数1〜8のアルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。アリール基としてはフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などが挙げられる。
【0013】
前記式(1)で表される化合物にある官能基、すなわち下記式(10)で表される基は、−X1−B’を−X1−Bにすることでイオン交換基となる。当該イオン交換基は、下記式(20)で表されるものであり、かかるイオン交換基を本発明においてはオキソカーボン基と呼称する。


上式中、Bは水素原子又は金属原子を表し、Bが金属原子である場合、他の置換基と結合していてもよい。例えば、Bが金属原子である場合、複数のオキソカーボン基における−X−で示される基と結合していてもよい。その他の符号である、X1、X2、Z、n、Q1、Q2及びQ3は前記と同じである。
【0014】
式(20)で表されるオキソカーボン基において、Bが水素原子である場合(遊離酸の形)である場合は、下記式

で表わされる平衡反応をとりうる。この平衡反応の極限構造は下記式


のように表わされ、プロトンが解離した時のカチオンが分子内に広く非局在化するために安定な構造となる。そのために式(20)で表される基は酸性度が高い酸性基になるものと考えられる。
【0015】
このような好ましいオキソカーボン基の代表例としては、

等が挙げられる(Bは前記と同義である)。なお、上記(1a)〜(1r)においてBは、既述の通り水素原子又は金属原子を表す。
【0016】
これらの中でも、本発明のオキソカーボン基含有高分子電解質のイオン交換基としては、(1a)〜(1d)が好ましい。より好ましくは(1a)〜(1c)であり、より一層好ましくは(1b)、(1c)であり、特に好ましくは(1b)である。
本発明で得られるオキソカーボン基含有高分子電解質を燃料電池用の部材として用いる場合は、発電性能の観点からBが水素原子のオキソカーボン基、すなわち、遊離酸の形のオキソカーボン基であることが好ましい。
なお、Bが金属原子である場合、オキソカーボン基1当量当たりに1当量結合する金属原子が好ましく、具体的には、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子が挙げられる。
【0017】
前記式(1’)で表される化合物(以下、「式(1’)化合物」という)は、付加重合等によりオキソカーボン基含有高分子電解質を得るうえで有用な高分子(前駆体高分子)を得ることが可能であり、ここでは、特に好適な前記(1b)のオキソカーボン基を有するオキソカーボン含有高分子電解質を製造できる下記式(1’’)で表される化合物を例にとり、式(1’)化合物を製造する方法について説明する。

(式中、Q1〜Q3、B’は前記式(1’)と同義である。)
【0018】
(モノマーの合成方法1)
式(1’’)化合物は、不活性ガス中、アルケニルリチウムと3,4−ジアルコキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンを反応させ、さらにこれを酸性条件下で処理する方法によって製造することができる。このような製造方法は例えば、Journal of Organic Chemistry,53,(1988)の2482頁や2477頁に記載された方法を参考にすればよい。
なお、アルケニルリチウムとしてはビニルリチウムやイソプロペニルリチウムなどが挙げられる。
【0019】
反応させる際の溶媒としては、アルケニルリチウムと反応しない溶媒が選ばれる。このような溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、テトラヒドロピラン、ジブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジフェニルエーテル等のエーテル系溶媒を挙げることができる。好ましくはテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、テトラヒドロピラン等の環状エーテルであり、より好ましくはテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランであり、特に好ましくはテトラヒドロフランである。また、エーテル系溶媒と、脂肪族炭化水素溶媒及び/又は芳香族炭化水素溶媒とを混合して使用することもできる。脂肪族溶媒としてはシクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン等、芳香族炭化水素溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0020】
アルケニルリチウムと3,4−ジアルコキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンを反応させる際の温度は、通常、−150℃〜20℃、好ましくは−120℃〜0℃、さらに好ましくは−100℃〜−20℃である。アルケニルリチウムと3,4−ジアルコキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンを反応させる際の反応溶液における3,4−ジアルコキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンの濃度は、通常0.01〜50wt%、好ましくは0.02〜30wt%、さらに好ましくは0.1〜20wt%、より好ましくは0.2〜10wt%、特に好ましくは0.5〜5wt%である。アルケニルリチウムと3,4−ジアルコキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンを反応させる際の反応時間は通常1分〜10時間であり、好ましくは2分〜5時間、さらに好ましくは5分〜4時間、特に好ましくは10分〜3時間である。
【0021】
ここで用いる3,4−ジアルコキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンとしては、例えば、3,4−ジメトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジエトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジ(n−プロポキシ)−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジイソプロポキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジ(n−ブトキシ)−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジ(sec−ブトキシ)−3−シクロブテン−1,2−ジオン等を挙げることができる。これらのなかでも、3,4−ジメトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジエトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジイソプロポキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジ(n−ブトキシ)−3−シクロブテン−1,2−ジオンが好ましい。
【0022】
アルケニルリチウムと3,4−ジアルコキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンを反応させた後、温和な条件下で酸処理することにより、式(1’’)化合物が得られる。かかる酸処理には、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸及びシュウ酸から選ばれる酸又はこれらから選ばれる2種以上の酸の混合物が使用可能である。かかる酸処理を実施する際の温度は、−150℃〜50℃が好適であり、−50℃〜40℃であるとより好ましく、0℃〜30℃であるとさらに好ましい。酸処理を実施する際の温度が高過ぎると、式(1’’)化合物にある−O−B’の一部が、−OHに転化して、下記式(1’’’)で表される化合物(式(1’’’)化合物)となることがある。

オキソカーボン基含有高分子電解質を製造し得る前駆体高分子を得るためのモノマーとして使用する場合、式(1’’’)化合物よりも、式(1’’)化合物の方が有利であり、式(1’’’)化合物の生成を抑制するようにして酸処理を実施することが好ましい。なお、酸処理に係る処理時間としては通常1分〜1時間であり、好ましくは2分〜30分であり、特に好ましくは3分〜10分である。処理時間が長すぎると、式(1’’’)化合物が生成しやすくなる。したがって、式(1’’’)化合物の生成を制御するためには、酸処理に係る温度と処理時間は重要な因子となる。
アルケニルリチウムと3,4−ジアルコキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンとの反応及びその後の酸処理によって製造される式(1’’)化合物は、各種公知の精製手段により精製することが好ましい。当該精製手段としては、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶などの一般的な精製方法を用いることができる。
【0023】
前記のモノマーの合成方法1で、好適な式(1’)化合物である式(1’’)化合物を得ることが可能である。なお、式(1’’)化合物にある下記式(1’’−a)で表される構造を、

(B’は前記と同義である)
を下記式(1’’−b)


(B’は前記と同義である)
で表される構造や下記式(1’’−c)

(B’は前記と同義である)
で表される構造等に変更すれば、各々前記(1c)あるいは(1d)を有するようなオキソカーボン基含有高分子電解質を製造し得る式(1’)化合物を製造可能であり、同様な製造方法によれば、種々の式(1’)化合物を得ることもできる。ただし、式(1’)化合物を製造するうえで、より高収率であることを勘案すると、前記式(1’’)化合物のように、式(1’’−a)で表される構造を有する化合物が有利なものである。
このようにして得られた式(1’)化合物は付加重合により高分子量化させることにより、オキソカーボン含有高分子電解質を得るための前駆体となる高分子を製造することができる。
【0024】
(モノマーの合成方法2)
また、式(1’’)化合物を得る製造方法として別の実施形態につき説明する。
式(1’’)化合物は、不活性ガス中、4−アルコキシ−3−ハロゲノシクロブテン−1,2−ジオンとアルケニルスズとを、パラジウム触媒を用いて反応させて製造することもできる。このような製造方法は例えば、Journal of Organic Chemistry,55,5359(1990)やTetrahydron Letters,31(30),4293(1990)に記載されている。なお、4−アルコキシ−3−ハロゲノシクロブテン−1,2−ジオンはTetrahydron Letters,31(30),4293(1990))に記載のある方法に従って製造することができる。
【0025】
アルケニルスズとしてはテトラビニルスズ、テトライソプロペニルスズ、モノビニルトリアルキルスズ、モノイソプロペニルトリアルキルスズ、ジビニルジアルキルスズ、ジイソプロペニルジアルキルスズ、トリビニルモノアルキルスズ、トリイソプロペニルモノアルキルスズ等が挙げられる。
【0026】
パラジウム触媒としては、パラジウム(0)化合物又はパラジウム(II)化合物、及び/又はパラジウム錯体が用いられる。例えば、適当なパラジウム触媒としては、パラジウム化合物、例えばパラジウムケトネート、パラジウムアセチルアセトネート、ビス−η2−オレフィンパラジウムジハライド、ニトリルパラジウムハライド、オレフィンパラジウムハライド、パラジウムハライド、ベンジルパラジウムハライド、アリルパラジウムハライド又はパラジウムビスカルボキシレートであり、好ましくはパラジウムケトネート、パラジウムアセチルアセトネート、ビス−η2−オレフィンパラジウムジハライド、パラジウム(II)ハライド、ベンジルパラジウムハライド、η3−アリルパラジウムハライドダイマー及びパラジウムジカルボキシレート、特に好ましくはビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)(Pd(dba)2)、パラジウムビスアセチルアセトネート、ビス(ベンゾニトリル)パラジウムジクロリド(PdCl2)、Na2PdCl4、ジクロロビス(ジメチルスルホキシド)パラジウム(II)、ビス(アセトニトリル)パラジウムジクロリド、パラジウム(II)アセテート、ベンジルクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、パラジウム(II)プロピオネート、バラジウム(II)ブタノエート及び(1c,5c−シクロオクタジエン)パラジウムジクロリドである。
なお、パラジウム触媒の使用量は、4−アルコキシ−3−ハロゲノシクロブテン−1,2−ジオンのモル数を基準として、0.01〜20mol%の量であり、0.1〜10mol%が好ましく、0.5〜8mol%がさらに好ましく、1〜6mol%が特に好ましい。
この反応の際には、パラジウム触媒に対して、配位子となり得る化合物を共存させることもできる。このような配位子となり得る化合物としては、例えば、ホスフィン類(例えば、トリアルキルホスフィン類、トリシクロアルキルホスフィン類及びトリアリールホスフイン類)、アルシン類(トリアルキルアルシン類、トリシクロアルキルスルホン類、トリアリールアルシン類)であり、リン原子またはヒ素原子上の3個の置換基は、同一でも異なっていてもよく、キラルまたはアキラルであってもよい。このように配位子となり得る化合物を用いる場合、その使用量は、4−アルコキシ−3−ハロゲノシクロブテン−1,2−ジオンのモル数を基準として、0.1〜20mol%であることが好ましく、0.1〜15mol%であることがより好ましく、0.5〜10mol%であることがさらに好ましく、1〜6mol%であることが特に好ましい。
【0027】
また、この反応には、パラジウム触媒以外に任意の助触媒を用いることができる。助触媒として好ましくは銅触媒であり、さらに好ましくはCuI、CuCN、CuBr、CuBr2、CuCl、CuCl2、CuBr・SBr2であり、特に好ましくはCuIである。助触媒の使用量は4−アルコキシ−3−ハロゲノシクロブテン−1,2−ジオンのモル数を基準として、0.01〜20mol%であることが好ましく、0.1〜18mol%であることがより好ましく、0.5〜15mol%であることが一層好ましく、1〜12mol%であることが特に好ましい。
【0028】
この反応では種々の溶媒が使用可能であるが、特に極性溶媒であると好ましい。このような極性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド溶媒、N−メチルピロリドン(NMP)などのラクタム系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランなどのエーテル系溶媒などが挙げられる。好ましくはアミド系溶媒、エーテル系溶媒であり、さらに好ましくはアミド系溶媒であり、特に好ましくはDMFである。
また、反応温度は0〜150℃が通常用いられ、好ましくは20〜100℃であり、特に好ましくは40〜80℃である。
反応後の生成物の精製には、各種公知の精製手段が用いられ、かかる精製手段としては、モノマーの合成方法1で例示したものと同じである。
【0029】
ここで、式(1’)化合物を重合して高分子を得る方法について述べる。
重合方法は、式(1’)化合物の炭素−炭素二重結合により、連鎖重合(付加重合)することができる方法であれば特に制限はなく公知の方法を用いることができる。アニオン重合、カチオン重合、ラジカル重合、グループトランスファー重合及び配位重合から、使用する式(1’)化合物の種類に応じて最適な重合方法を選択して用いることができる。好ましくはラジカル重合、アニオン重合であり、さらに好ましくはラジカル重合である。このようなラジカル重合を行う場合、フリーラジカル重合、原子移動ラジカル重合等が使用可能である。なお、ラジカル重合を行う反応形態としては、溶液重合のような均一反応系に留まらず、乳化重合、懸濁重合等の多相系の反応形態も用いることができる。
【0030】
次に、好適なラジカル重合の中でも、フリーラジカル重合に関して詳述する。
フリーラジカル重合を行う場合、使用可能なラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ系開始剤;ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、tert−ブチルパーオクトエートなどの過酸化物系開始剤が挙げられ、これら重合開始剤は一般に、重合に供されるモノマー(式(1’)化合物又は式(1’)化合物と他のモノマーの合計)100重量部当り0.2〜10重量部の範囲内であると好適である。
ラジカル重合は無溶媒で行うこともできるが、反応熱の除熱等の観点からは溶媒の存在下に実施することが好ましい。このような溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド溶媒、N−メチルピロリドン(NMP)などのラクタム系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランなどのエーテル系溶媒、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン、テトラクロロメタンなどのハロゲン系溶媒等が挙げられる。なお、かかる溶媒の中で水に不溶な溶媒(非水溶溶媒)を選択し、当該非水溶溶媒と水とを溶媒として用いることで、多相系の反応形態とすることもできる。この場合、懸濁重合に使用する分散剤や乳化重合に使用する乳化剤等は、当技術分野で周知のものから種々選択して用いることができる。
【0031】
重合時の温度は0〜200℃が通常用いられ、好ましくは20〜150℃であり、特に好ましくは40〜120℃である。この温度は、通常使用するラジカル重合開始剤の種類により適宜最適な温度が選択される。なお、重合時間は通常30分〜50時間の範囲であり、工業生産に関わる好適な反応時間を勘案すると、1〜20時間の範囲である。また、反応途中の反応液を所定時間おきにサンプリングし、反応液中に残存しているモノマーをクロマトグラフィー分析(ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等)で定量したり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で生成した高分子の分子量を測定し、所望の分子量となる時点を求めたり、することで好適な反応時間を求めることもできる。
【0032】
このようにして得られる式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子(以下、「前駆体高分子」という)は、オキソカーボン基含有高分子電解質の前駆体として特に有用であり、たとえば以下の繰り返し単位を例示できる。なお、Aは前記式(10)で表される基を表す。


当該前駆体高分子の分子量は、当該前駆体高分子の使用用途又は当該前駆体高分子から得られるオキソカーボン基含有高分子電解質の使用用途によって適宜最適なものを選択することができるが、GPCを用いたポリスチレン換算の数平均分子量で表して1000〜1000000程度が好ましく、3000〜500000程度がさらに好ましく、5000〜100000程度が特に好ましい。
【0033】
次に前駆体高分子にある式(1)で表される繰り返し単位の少なくとも一部を、式(2)で表される繰り返し単位に転換して、オキソカーボン基含有高分子電解質を製造する方法に関し説明する。式(2)で表される繰り返し単位への転換反応は加水分解処理を用いることが、操作が簡便であるので好ましく、特に前駆体高分子を酸性条件下で加水分解処理することが好ましい。酸性条件下で加水分解処理をする際に用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸及びシュウ酸から選ばれる酸、又はこれらから選ばれる複数種の酸の混合物が挙げられる。加水分解処理に係る処理温度としては通常、−150℃〜200℃であり、好ましくは−50℃〜100℃であり、さらに好ましくは0℃〜50℃である。処理時間としては通常1分〜20時間であり、好ましくは3分〜10時間であり、特に好ましくは5分〜5時間である。酸性条件下で加水分解処理する際には、その反応系が均一系であっても不均一系であってもよい。なお、前駆体高分子にある式(1)で表される繰り返し単位の式(2)で表される繰り返し単位への転換率は、得られるオキソカーボン基含有高分子電解質の使用用途によって適宜好適な転換率を選択できるが、前駆体高分子にある式(1)で表される繰り返し単位の合計を100mol%としたとき、転換率が50モル%以上であると好ましく、80モル%以上であると特に好ましい。
【0034】
本発明で得られるオキソカーボン基含有高分子電解質は、酸性度が高く、化学的安定性、耐水性等にも優れるオキソカーボン基をイオン交換基として有するため、燃料電池等の電気化学デバイスの隔膜として特に有用である。以下、かかる燃料電池に該オキソカーボン基含有高分子電解質を使用する場合について説明する。
この場合は、本発明のオキソカーボン基含有高分子電解質は、通常フィルムの形態で使用されるが、フィルムへ転化する方法に特に制限はなく、例えば溶液状態より製膜する方法(溶液キャスト法)が好ましく使用される。
具体的には、オキソカーボン基含有高分子電解質を適当な溶媒に溶解し、その溶液をガラス板等の支持基材上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜される。製膜に用いる溶媒は、オキソカーボン基含有高分子電解質を溶解可能であり、その後に除去し得るものであるならば特に制限はなく、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、あるいはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、テトラヒドロピラン、ジブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、クラウンエーテル類等のエーテル系溶媒が好適に用いられる。これらは単独で用いることもできるが、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。
中でも、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランがオキソカーボン基含有高分子電解質の溶解性が高く好ましい。
【0035】
フィルムの厚みは、特に制限はないが10〜300μmが好ましく、20〜100μmが特に好ましい。10μmより薄いフィルムでは実用的な強度が十分でない場合があり、300μmより厚いフィルムでは膜抵抗が大きくなり電気化学デバイスの特性が低下する傾向にある。膜厚は溶液の濃度および基板上への塗布厚により制御できる。
【0036】
またフィルムの各種物性改良を目的として、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤等を本発明の高分子に添加することができる。また、同一溶剤に混合共キャストするなどの方法により、他のポリマーを本発明のオキソカーボン基含有高分子電解質と複合アロイ化することも可能である。
燃料電池用途では水の量を制御するために、無機あるいは有機の微粒子を保水剤として添加する事も知られている。これらの公知の方法はいずれも本発明の目的に反しない限り使用できる。
【0037】
また、フィルムの機械的強度の向上などを目的として、電子線・放射線などを照射して架橋することもできる。さらには、多孔性のフィルムやシートに含浸複合化したり、ファイバーやパルプを混合してフィルムを補強したり、する方法などが知られており、これらの公知の方法はいずれも本発明の目的に反しない限り使用できる。
【0038】
燃料電池は、前記のようにして得られたフィルムの両面に、触媒及び集電体としての導電性物質を接合することにより製造することができる。
該触媒としては、水素または酸素との酸化還元反応を活性化できるものであれば特に制限はなく、公知のものを用いることができるが、白金の微粒子を用いることが好ましい。白金の微粒子はしばしば活性炭や黒鉛などの粒子状又は繊維状のカーボンに担持されていることが特に好ましい形態である。
集電体としての導電性物質に関しても公知の材料を用いることができるが、多孔質性のカーボン織布、カーボン不織布またはカーボンペーパーが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するために好ましい。
多孔質性のカーボン不織布またはカーボンペーパーに白金微粒子又は白金微粒子を担持したカーボンを接合させる方法、およびそれを高分子電解質フィルムと接合させる方法については、例えば、J. Electrochem. Soc.: Electrochemical Science and Technology, 1988, 135(9),2209 に記載されている方法等の公知の方法を用いることができる。
また、本発明のオキソカーボン基含有高分子電解質は、燃料電池の触媒層を構成する触媒組成物の一成分であるプロトン伝導材料としても使用可能である。
このようにして製造された本発明の燃料電池は、燃料として水素ガス、改質水素ガス、メタノール、ジメチルエーテル等を用いる各種の形式で使用可能である。
【0039】
前記において、本発明の実施の形態について説明を行なったが、前記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
分子量の測定はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記条件でポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)および/または重量平均分子量(Mw)を測定した。
GPC測定装置 TOSOH社製 HLC−8220
カラム Shodex社製 KD−80Mを2本直列に接続
カラム温度 40℃
移動相溶媒 DMAc(LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
溶媒流量 0.5mL/min
【0041】
(実施例1)3−クロロ−4−イソプロポキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンの製造
アルゴン雰囲気下、フラスコに3,4−ジヒドロキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン15.6g(13.7mmol)、塩化チオニル51.5g(433mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド2滴を入れて50℃で5時間攪拌した。その後、未反応の塩化チオニルを減圧下で留去し、ここに2−プロパノール(11.7g、195mmol)を室温で滴下して加え、滴下後、そのまま2時間室温で攪拌した。過剰な2−プロパノールを減圧下で留去し、さらに減圧蒸留することで目的の3−クロロ−4−イソプロポキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンを17.1g(9.80mmol)を得た。
【0042】
(実施例2)3−ビニル−4−イソプロポキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンの製造
アルゴン雰囲気下で、前記参考例1で得られた3−クロロ−4−イソプロポキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン3.85g(22.0mmol)とテトラビニルスズ5.00g(22.0mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド10mlを入れた。さらにベンジルクロロパラジウムビストリフェニルホスフィン833mg(1.10mmol)、ヨウ化銅314mg(1.65mmol)を入れて室温で20時間反応を行った。反応後の溶液を酢酸エチル50mlで希釈し、10%フッ化カリウム水溶液で洗浄し、さらに酢酸エチルで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、エバポレーターで溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラム(移動相;ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製し、目的の3−ビニル−4−イソプロポキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン3.40g(20.5mmol)を得た。
【0043】
(実施例3)3−ビニル−4−イソプロポキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンの重合
アルゴン雰囲気下で、前記実施例2で得られた3−ビニル−4−イソプロポキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン0.500g(3.01mmol)をクロロホルム1.0mlの溶解させた。液体窒素を用いて系を凍結し、真空ポンプを用いて減圧、アルゴン導入を行った。これを3回繰り返して系内をアルゴンで置換した。室温でアゾイソブチロニトリル99.0mg(0.602mmol)を加えて、65℃で15時間加熱攪拌した。その後、クロロホルムを留去して、残渣を2NHClとメタノールの混合物(75:25(vol/vol))で洗浄してポリマー(a)0.450gを得た。GPCで求めた数平均分子量Mnは6000であった。
【0044】
(実施例4)ポリマーaの加水分解
前記実施例3で得られたポリマー(a)0.450gをTHF5mlに溶解し、さらに濃塩酸10mlを加えた。この混合物を60℃で20時間加熱攪拌し、イソプロポキシ基を加水分解した。反応後、溶媒をエバポレーターで留去し、酢酸エチル30mlに溶解した。この溶液をショートシリカゲルカラム(長さ約5cm)を通して微粒の不純物を除去し、溶媒をエバポレーターで留去して、加水分解されたポリマー(b)0.302gを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1’)で示される化合物。

(式中、X1、X2はそれぞれ独立に、−O−、−S−又は−NR−を表し、Zは−C(O)−、−C(S)−、−C(NR’)−、置換基を有していてもよいアルキレン基又は置換基を有していてもよいアリーレン基を表す(−NR−、NR’におけるR、R’は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。)。nは0〜10の整数を表わす。nが2以上である場合、複数あるZは互いに同じであっても、異なっていてもよい。Q1、Q2及びQ3は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基、又はハロゲン原子を表す。B'は1価の有機基を表す。)
【請求項2】
前記式(1’)において、Zが−C(O)−、−C(S)−及び−C(NH)−から選ばれる、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
前記式(1’)において、X1及びX2がともに−O−であり、Zが−C(O)−であり、nが0〜2の整数である、請求項1記載の化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の化合物をモノマーとして用い、該モノマーを付加重合して得られる高分子。
【請求項5】
下記式(1)で示される繰り返し単位を有する高分子。

(式中、X1、X2はそれぞれ独立に、−O−、−S−又は−NR−を表し、Zは−C(O)−、−C(S)−、−C(NR’)−、置換基を有していてもよいアルキレン基又は置換基を有していてもよいアリーレン基を表す(−NR−、NR’におけるR、R’は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。)。nは0〜10の整数を表わす。nが2以上である場合、複数あるZは互いに同じであっても、異なっていてもよい。Q1、Q2及びQ3は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基、又はハロゲン原子を表す。B'は1価の有機基を表す。)
【請求項6】
前記式(1)において、Zが−C(O)−、−C(S)−及び−C(NH)−から選ばれる、請求項5記載の高分子。
【請求項7】
前記式(1)において、X1及びX2がともに−O−であり、Zが−C(O)−であり、nが0〜2の整数である、請求項5記載の高分子。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の高分子にある式(1)で表される繰り返し単位の少なくとも一部を、以下の式(2)で表される繰り返し単位に転換してなる、高分子。

(式中、Bは水素原子又は金属原子を表す。Bが金属原子である場合、他の置換基と結合していてもよい。その他の符号である、X1、X2、Z、n、Q1、Q2及びQ3は前記と同じである。)
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の高分子を有効成分とする高分子電解質。
【請求項10】
請求項9記載の高分子電解質を含む、高分子電解質膜。
【請求項11】
請求項9記載の高分子電解質と、触媒成分とを含む、触媒組成物。
【請求項12】
請求項9記載の高分子電解質、請求項10記載の高分子電解質膜、請求項11記載の触媒組成物を用いてなる触媒層のいずれかを有すること、膜−電極接合体。
【請求項13】
請求項12記載の膜−電極接合体を備える、固体高分子形燃料電池。

【公開番号】特開2010−18795(P2010−18795A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138949(P2009−138949)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】