説明

オフセット砥石

【課題】電動工具やエアー工具などに装着され、主として鉄、ステンレス等の金属板を研削して平坦にしたり、表面に塗布されている塗膜を除去したりするために用いられる回転型のオフセット砥石であって、軽量で操作性に優れ、切削時の振動が少なく、高い切削性能を長時間に渡って維持することができるオフセット砥石を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂で板状に成形されたカーボンファイバー円盤9と、ゴムなどで造られた緩衝材層19と、ダイヤモンド粒子13が電着またはロー付けで固着された研削面を有し、前記カーボンファイバー円盤に密着する形状に成形された金属円盤を、接着剤で一体化。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電動工具やエアー工具などに装着され、主として鉄、ステンレス等の金属面を研削して平坦にしたり、表面に塗布された塗膜を除去したりするために用いられる回転型のオフセット砥石におき、ダイヤモンド粒子を砥粒として用いたオフセット砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
船、建造物、機械部品などにおける、主として鉄やステンレスなどの金属板の表面を研削して平坦にしたり、表面の塗膜を除去したりする時は、回転型のオフセット砥石が用いられることが多い。一般的には、作業者が、オフセット砥石を装着した電動工具やエアー工具を片手または両手で把持し、工具に内蔵された電動モータやエアーモータでオフセット砥石を回転させながら被研削面に押し当てて研削する方法が広く採用されている。
【0003】
このような作業者による研削では、研削面の状態、砥石の当て方や押し付け力、などの条件は一定しないことが多く、被研削面と砥石との間に発生する研削抵抗が絶えず変化し、この変化が、砥石や電動工具を振動させるため、作業者の疲労の加速、研削面の仕上げ精度の劣化、砥石の消耗や破損、などの問題が起きている。
【0004】
この問題を解決するには、柔軟性があり、従って研削中の振動を吸収する機能を持つオフセット砥石を用いることが好ましい。しかし、柔軟性が増すと、研削に必要な接触加圧力が低下して研削能力が低下しがちで、かつ、砥石の摩耗や破損が発生しやすくなるため、短時間で研削が不能になる。従って、研削効率を維持しながら振動を抑制できる、適切な柔軟性を持ちながら、寿命も長い砥石が好ましい。
【0005】
一般的に用いられているオフセット砥石として、例えば、樹脂系の結合材と酸化アルミニウム系の砥粒を、混合し、加熱し、加圧してオフセット状に成形した砥石がある。このオフセット砥石1は、図5の側断面図に示すように、固定部4、円錐部5、研削部6からなる砥石基板2で構成されている。固定部4には取付孔15が設けられている。砥石基板2の直径Dは一般的に80〜180mm程度で、板厚tは2〜6mm程度である。なお、「オフセット」の語源は、平らな被研削面に研削部6を当接させて行う研削作業の作業効率を良くするため、円錐部5により固定部4と研削部6に段差を設けたことによる。
【0006】
このオフセット砥石1の研削部6には、図6の拡大断面図で示されるように、砥粒20を含有する研削材層8が形成されている。砥粒20としては、ホワイトアランダム(WA)などとも呼ばれている酸化アルミニウム系の固い粒子などが使用されることが多い。
【0007】
研削を行う時は、図4に示すように、例えば電動工具16の回転軸18を取付孔15に通し、図示していないナットなどでオフセット砥石1を回転軸18に固定する。次に、電気コード17で供給される電力で、電動工具16の内部の、図示していない電動機を作動し、回転軸18に固定されたオフセット砥石1を回転させながら、図示していない被研削面に当接させればよい。オフセット砥石の回転数としては、10,000rpm程度の比較的高速な回転数が適用されることが多い。
【0008】
以上で述べたような、樹脂系の結合材と酸化アルミニウム系の砥粒で造られたオフセット砥石は、弾性に富み、また軽量である。従って、研削抵抗が激しく変動して生じる振動は、砥石の持つ弾性によって吸収されやすく、また、砥石自体が軽量なため、高い回転数で用いても、砥石に生じる遠心力が小さく、電動工具全体の振動も抑制され、安定した研削作業が可能になる。これらの結果、研削後の仕上り精度は高く、研削時の騒音は小さく、研削作業者の疲労も少ない。また、使用する砥粒や結合材の価格が安く、かつ、これら砥粒と結合材を混合し加熱し加圧して成形するだけで簡単に製造することができる、という特徴を持つ。
【0009】
しかしながら、金属と比べて極めて柔らかな樹脂系の結合材を母体とする研削材層は、研削で発生する被研削物の切粉などで摩耗されやすく、従って、短時間の研削で、砥石の板厚tや直径Dが減少して研削効率が著しく低下してしまうので、安定した研削を継続するためには、頻繁に砥石を交換しなければならないという問題がある。
【0010】
このような、短時間で摩耗する樹脂系の結合材を用いたオフセット砥石の寿命問題を解消した砥石として、金属円盤にダイヤモンド粒子をロー付けまたは電着などの方法で固着したオフセット砥石がある。
【0011】
このオフセット砥石1は、図7の側断面図、図8の拡大側断面図で示されるように、金属円盤7の研削材層8に、数十個のダイヤモンド粒子13からなる砥粒群12を、Niを主原料とする金属のロー材14を使ってロー付けし固着したものである。ロー付けの代わりに電着法を用いて固着しても好い。直径Dは80〜180mmのものが一般的で、板厚tは1.6〜2.0mm程度である。用途によっては、ダイヤモンド粒子を、砥粒群12として配置せず、研削材層8の全面に分散するように固着してもよい。
【0012】
砥粒群12は、図2の底面図で示すように、隣接する他の砥粒群12との間に空間ができるよう互いに適当な距離を持たせて固着される。砥粒群12の間に空間を設けるのは、ダイヤモンド粒子13で研削されて発生する切粉がこの空間を経由してオフセット砥石の外部に排出されやすくするためで、切粉により砥石自体が摩耗することを抑制し、砥石の寿命が劣化する危険を減らすためである。
【0013】
このオフセット砥石1では、物質の中で最も硬い固いダイヤモンド粒子13を、金属系のロー材14で金属円盤7に固着しているため、酸化アルミニウム系の砥粒と比べ、砥粒自体の寿命が極めて長くなる上に、研削性能も高く、研削中の振動や研削抵抗の変動による衝撃を受けてダイヤモンド粒子が欠けたり金属円盤7から脱落したりすることは少ない。その結果、高い研削性能は長時間維持され、樹脂系の結合材と酸化アルミニウム系の砥粒でできたオフセット砥石の50〜100倍以上の寿命を確保することができる。
【0014】
ダイヤモンド粒子は酸化アルミニウム系の粒子と比べ格段に高価で、かつ、このダイヤモンド粒子を金属のロー材で金属円盤に固着する際には真空炉などを使用いた複雑な処理が必要なため、砥石のコストは高い。しかし、寿命が大幅に長くなるため、結果的には、安いが消耗が激しい結合材を使ったオフセット砥石と比べ、費用対効果は優れている。
【0015】
しかし、金属円盤を母体としているため、樹脂系の結合材を母体とした砥石が持っている柔軟性に乏しく、細かな振動を吸収することができない。従って、研削時の騒音は大きく、研削後の仕上げ精度が劣り、用途は限定されるという問題がある。仕上げ精度を改善するには、金属円盤7を薄くして柔軟性を増せばよい。例えば、金属円盤7の板厚tが2mmのオフセット砥石では切削抵抗の変動で砥石が大きく振動して必要な仕上げ精度を確保できない場合、板厚tを1mmにしたオフセット砥石を用いる。すると、オフセット砥石の柔軟性が増加し、研削抵抗の変動が吸収され砥石の振動は抑制されるので、研削面の仕上げ精度は向上する。また、板厚を薄くすることで砥石の重量が減少するため、10,000rpm程度の高速で砥石を回転させた時に発生する遠心力による砥石のブレが減少し、より安定した研削が可能になる。
【0016】
しかし、板厚を減少させて柔軟性を増した金属円盤7は、研削作業者が砥石を被研削材に押しつける力や研削中の研削抵抗の変動などで、回転に連動した、大きな振幅の変形を起こし、金属円盤7は短時間で疲労破壊する。従って、直径Dが100mmの砥石では、金属円盤の板厚tは1.6mm程度が限界で、この場合は、砥石の重量は140グラム程度になり、酸化アルミニウム系の砥粒を結合材で固めた砥石の4倍程度の重量になり、かつ、切削抵抗の変動などに追従して安定研削を行うために必要な柔軟性も低下するため、作業性は悪く、仕上げ精度も不十分な場合が多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従来から用いられている、酸化アルミニウム系の砥粒を樹脂系の結合材で加熱加圧成形したオフセット砥石は、軽く、比較的に柔軟なため、砥石を高速回転させて行う研削での作業者の負荷は少ない。また、砥石が変形して研削時の振動を吸収するため、騒音は小さく、高い仕上げ精度を確保しやすい上に、比較的安価な材料で簡単に製造できるため価格も安い。しかし、研削で発生する切粉などで、樹脂系の結合材が直ぐに摩耗するため、直径や板厚が減少して研削効率が短時間で劣化し、使用不可能になる。従って、特に広い面積にわたって被研削材の表面を研削しなければいけない場合は、作業中に頻繁に新しい砥石に交換しなければならないため、作業効率が著しく低下するという問題がある。
【0018】
一方、ダイヤモンド粒子を金属系のロー材で金属円盤に固着したオフセット砥石では、樹脂系の結合材を使った砥石と比べ寿命は飛躍的に長くなるが、砥石の剛性が高く、研削中に振動が発生しやすいため、騒音は大きく研削後の仕上げ精度は劣る。金属円盤の板厚を薄くして軽量でかつ柔軟な円盤にすれば、回転で発生する遠心力によるブレを軽減できる上に、研削抵抗の変動で生じる振動を吸収する性能が向上して仕上げ精度は改善できるが、研削で発生する繰り返し変形で金属円盤が疲労破壊しやすくなるため、薄くするにも限界があり、適切な寿命を維持できる板厚にした金属円盤を用いた砥石では振動を吸収し切れず、樹脂系の結合材を使ったオフセット砥石で得られる高い仕上げ精度は確保できない、という問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するための本願発明は、オフセット状に成形され、その研削面側にダイヤモンド粒子を含んだ研削材層をもつ金属円盤と、ゴムまたはゴム状の接着剤からなる緩衝材層と、カーボンファイバーを熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂でシート化し前記金属円盤に密着する形状に成形したカーボンファイバー円盤を、接着剤で一体化したオフセット砥石である。
【0020】
金属円盤は、プレス装置などで、鉄、ステンレスなどの金属板を打ち抜いてオフセット状に成形したものを使う。この金属円盤の研削面側に、Niなどの金属を主原料とするロー材を用いて、概略数十個のダイヤモンド粒子で構成される砥粒群を、互いに適当な間隔を持つ位置に複数個ロー付け固着して研削材層を形成する。ロー付けの代わりに電着法を用いてダイヤモンド粒子を固定してもよい。用途によっては、ダイヤモンド粒子は砥粒群にしないで、研削面に均一に散布して固着してもよい。
【0021】
カーボンファイバー円盤は、細いカーボンファイバーで編んだシートを熱可塑性樹脂で板状にし、金属円盤に密着する形状に成形して製作する。切断したカーボンファイバーを樹脂に混ぜたもので成形し製作してもよい。また熱可塑性樹脂の代わりに熱硬化性樹脂を用いてもよい。このようにして造られたカーボンファイバー円盤は、薄く、軽いが、金属と同等または同等以上の剛性特性や引張強さをもつ。
【0022】
この金属円盤とカーボンファイバー円盤の間に、ゴムなどの柔軟な材料からできた緩衝材層を装着し、接着剤で一体化してオフセット砥石とする。接着剤としては、乾燥すると固体化する接着剤でもよいが、常にゴム状の柔軟性を維持し続ける樹脂系の弾性接着剤を用いるのがよい。また、ゴムなどの柔軟な材料でできた緩衝材層の代わりとして、金属円盤とカーボンファイバー円盤の間に、常にゴム状の柔軟性を維持し続ける樹脂系の弾性接着剤を大目に充填して緩衝材層とし、弾性接着剤のもつ接着機能を使って金属円盤とカーボンファイバー円盤を一体化してもよい。
【0023】
このようにして造られた本願発明によるオフセット砥石では、酸化アルミニウム系の砥粒と比べて格段に硬いダイヤモンドを砥粒として用いているため、研削性が優れ、かつ砥粒単体の寿命は格段に長い。また、ダイヤモンド粒子は、金属のロー材を使って金属の板に強固に固着されているため、研削時の振動などで金属面から脱落することはない。
【0024】
更に、金属よりも軽く、金属以上の強度をもつカーボンファイバーを樹脂で固めてオフセット状に成形したカーボンファイバー円盤と、ダイヤモンド粒子がロー付けなどで強固に固着された金属円盤を、ゴムなどの柔軟な緩衝材層を介して接着剤で一体化しているため、切削で発生する振動は、機械的特性や振動特性が異なるカーボンファイバー円盤、金属円盤および緩衝材層の相互作用で減衰する。従って、騒音は小さく、仕上げ精度が高い研削が可能で、薄い金属円盤でも疲労破壊を起こしにくい。また、作業者が砥石を被研削面に押し付ける力が変動しても、緩衝材層がこれを吸収してくれる上に、砥石全体が軽量なため、作業者の疲労は小さく、長時間に渡って安定した研削をすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本願発明に係るオフセット砥石は、ダイヤモンド粒子が電着またはロー付けなどの方法で固着されている研削材層を有する金属円盤と、ゴムまたはゴム状の接着剤からなる緩衝材層と、カーボンファイバーを熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂でシート化し前記金属円盤に密着する形状に成形したカーボンファイバー円盤を、接着剤で一体化しているため、研削で発生する振動は、異なる振動特性をもつ金属円盤、緩衝材層、カーボンファイバー円盤の相互作用で減衰される上に、硬いダイヤモンドが持つ高研削性の効果も加わって、研削時の騒音は小さく、研削面の仕上り精度は高い。また、重量も軽く、研削作業者の作業負担は少ない。製造コストは、樹脂系の結合材と酸化アルミニウム系の砥粒でできた従来のオフセット砥石の十数倍になるが、寿命が50〜100倍以上になるため、砥石の消耗費用は大幅に削減でき、砥石を頻繁に交換する必要がないため作業効率も改善する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本願発明のオフセット砥石の、一つの実施例における側断面図
【図2】ダイヤモンド粒子を用いたオフセット砥石の一つの実施例における底面図
【図3】図1の実施例における研削部の拡大側断面図
【図4】オフセット砥石を電動工具に取り付けた状態を説明する図
【図5】酸化アルミニウム系粒子を樹脂系の結合材で加熱加圧結合した従来のオフセット砥石の、一つの実施例における側断面図
【図6】図5の実施例における研削部の拡大側断面図
【図7】ダイヤモンド粒子を固着した金属円盤を使った従来のオフセット砥石の、一つの実施例における側断面図
【図8】図7の実施例における研削部の拡大側断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
本願発明に係るオフセット砥石は、ダイヤモンド粒子が電着またはロー付けなどの方法で固着された研削材層をもつ金属円盤と、ゴムまたはゴム状の接着剤からなる緩衝材層と、カーボンファイバーを熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂でシート化し前記金属円盤に密着する形状に成形したカーボンファイバー円盤とからなり、前記金属円盤と緩衝材層とカーボンファイバー円盤を接着剤で一体化して形成される。
【0028】
金属円盤としては、砥石の直径が100mm程度の場合は、板厚0.3mm程度のステンレスなどの金属板をプレスなどで打ち抜いてオフセット状にし、この円盤の削面側に、ダイヤモンド粒子数十個からなる砥粒群を適当な間隔で複数個固着配置した研削材層を形成したものを用いる。ダイヤモンド粒子の固着には、Niを主原料とした金属のロー材を用い、真空炉などでロー材を溶解してダイヤモンド粒子を金属円盤の表面に固着する。ロー付けの代わりに電着法でダイヤモンド粒子を金属面に固着してもよい。
【0029】
一方、カーボンファイバー円盤は、カーボンファイバーで織られた布、または細かく切断されたカーボンファイバー、を熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂でシート状にし、オフセット状に成形したものを用いる。直径が100mm程度の円盤ではシートの厚みは0.6mm程度がよい。
【0030】
このようにして造られた金属円盤とカーボンファイバー円盤の間に、ゴムなどの柔軟な材料からできた板厚0.8mm程度の緩衝材層を装着して接着剤で一体化し、直径100mm程度、板厚2.0mm程度、重量80グラム程度のオフセット砥石とする。場合によっては、ゴムなどでできた緩衝材層の代わりとして、金属円盤とカーボンファイバー円盤の間に常にゴム並みの柔軟性を維持する弾性接着剤を大目に充填して緩衝材層とし、弾性接着剤のもつ接着機能で二つの円盤を一体化してオフセット砥石としてもよい。この場合は、直径100mm程度、板厚1.4mm程度、重量50グラム程度のオフセット砥石となる。
【0031】
このようにして造られたオフセット砥石は、酸化アルミニウム系の砥粒を樹脂系の結合材で固体化した従来のオフセット砥石と比べると重量は1.3〜2倍程度になるものの、従来の金属製のオフセット砥石と比べれば約2分の1である。また、機械的特性の異なる金属円盤とカーボンファイバー円盤を、緩衝材層を間に入れて接着し一体化しているため、研削で発生する振動は、機械的挙動が異なる金属円盤、緩衝材層、カーボンファイバー円盤、の相互作用で相殺されて減衰する。従って、研削時の騒音は小さく、板厚が0.3mm程度の薄い金属円盤を使っても疲労破壊することはなく、長時間に渡って高い仕上げ精度を実現できる上に、軽量で振動が少なく、従って研削作業者の疲労も少ない。
【0032】
砥粒のダイヤモンド粒子は、高価で、かつ、これを金属系のロー材を使ったロー付や電着法などで金属面に固着することが必要な上に、カーボンファイバーを樹脂で固めて成形製作するカーボンファイバー円盤も高価なため、本願発明によるオフセット砥石の製造コストは、従来の樹脂系の結合材から造られたオフセット砥石と比べると十数倍になる。しかし、ダイヤモンド粒子のもつ高い切削性能は長時間維持される上に、軽量で振動吸収性に優れ、従来の酸化アルミニウム系の砥石と比べて50〜100倍以上の長い寿命を持つため、高い仕上げ精度で長時間の研削を行うことが可能である。
【実施例】
【0033】
図1、図2、図3、図4、を用いて、本願発明に係るオフセット砥石の実施例を説明する。
【0034】
図1は、本願発明によるオフセット砥石1の側断面図を、図2は、図1の底面図を示す。
図1に示されるように、オフセット砥石1は、中央部の固定部4、これに続く円錐部5、この円錐部5に続く研削部6から成っている。また、図3の拡大側断面図に示されるように、金属円盤7とカーボンファイバー円盤3の間には、ゴムなどの柔軟な材料でできた緩衝材層19が装着されていて、接着剤11によって金属円盤7、緩衝材層19、と接着ざれ一体化している。固定部4には取付孔15を設けておく。
【0035】
金属円盤7は、ステンレス板からプレスで打ち抜かれ、オフセット状に成形された金属円盤で、本実施例では直径Dは100mm、板厚は0.3mmである。この金属円盤7の研削部6の片面には、数十個のダイヤモンド粒子13からなる複数の砥粒群12が、Niを主原料とする金属のロー材14で金属円盤7に固着され、研削材層8を形成している。また、砥粒群12は、図2の底面図で示すように、互いに適当な間隔を持って研削材層8上に配置され固着される。
【0036】
一方、カーボンファイバー円盤3は、細いカーボンファイバー9で編んだ布(図3では波形の線で示した)を熱可塑性樹脂10で固めて成形したもので、直径Dは100mm、板厚は0.6mmである。
【0037】
金属円盤7とカーボンファイバー円盤3の間には、直径Dが100mm、板厚が0.8mmの、ゴムでできた緩衝材層19を装着し、接着剤11を用いて二つの円盤、つまり金属円盤7とカーボンファイバー円盤3、を一体化する。使用する接着剤11としては、常にゴム状の柔軟性を維持する樹脂系の弾性接着材が好ましいが、ゴムが柔軟性を持っているため、乾燥して固まる接着剤でもよい。
【0038】
このようにして、金属円盤7と緩衝材層19とカーボンファイバー円盤3を接着剤11で一体化して造られたオフセット砥石1は、直径Dが100mmで板厚tは接着剤の厚みも加わって2.0mm程度になり、重量は80グラム程度になる。
【0039】
このオフセット砥石を使って研削する時は、まず、図4に示すように、電動工具16の回転軸18にオフセット砥石1を固定する。固定は、取付孔15を回転軸18に通し、図示していないナットを用いて行う。次に、図示していない作業者が、電動工具16を片手または両手で把持し、電気コード17で供給される電力で電動工具16に内蔵されている図示していないモータを作動してオフセット砥石1を回転させ、鉄やステンレスなどの被研削材の表面に適当な加圧力で押しつけて研削する。
【0040】
研削が始まると、被研削面の状態や、オフセット砥石を被研削面に押し付ける作業者の力の変動などで、オフセット砥石1が振動を始めるが、異なる振動特性をもつ金属円盤7、緩衝材層19、カーボンファイバー円盤3の相互作用で振動が減衰されるため、0.3mmという薄い金属円盤7でも疲労破壊が起こらない上に、緩衝材層19の柔軟性も加わってオフセット砥石1の研削材層8が安定的に被研削面に加圧され続けるため、高い仕上げ精度が実現できる。また、従来の金属円盤型のオフセット砥石の数分の一の重量なので、高速回転しても遠心力による砥石のブレは少なく、研削作業性も向上する。
【0041】
研削材層8には、研削砥粒として、物質の中でも最も硬いダイヤモンド粒子13がNiを主原料とした金属性のロー材14で強固に金属円盤7に強固に固着されているので、研削抵抗で砥粒が欠けたり逸脱したりする危険は少ない上に、金属円盤7の疲労破壊も起きないため、結果として、樹脂系の結合材を使って酸化アルミニウム系の粒子を結合し形成した従来のオフセット砥石に比べ、50〜100倍以上の長時間に渡り、高い研削性能を維持することができる。
【0042】
ゴムで造られた緩衝材層19を使わず、金属円盤7とカーボンファイバー円盤3の間に樹脂系の弾性接着剤を大目に充填して緩衝材層19としてもよい。オフセット砥石の直径が100mmで、金属円盤7の板厚が0.3mm、カーボンファイバー円盤3の板厚が0.6mm、の場合、砥石としての板厚tは1.4mm程度となり、0.8mmの厚みをもつゴムでできた緩衝材層をもつ砥石より約0.6mm薄く、重量は50グラム程度となりゴムでできた緩衝材層をもつ砥石より30グラムほど軽くなる。しかし、板厚0.8mmのゴムを使用したオフセット砥石と比べ、緩衝材層の効果は低下するので、研削時の騒音は若干大きく、仕上り精度は若干劣る上に、適切な研削に必要な加圧力を維持するための作業者の負担も若干高くなるため、用途は限定される。
【0043】
また、実施例では、金属円盤7、緩衝材層19、カーボンファイバー円盤3は、いずれもオフセット型で、砥石全面に渡って密着し一体化しているが、特にカーボンファイバー円盤3については、図1における固定部4が無く、円錐部5と研削部6のみで緩衝材層19を介して金属円盤7に接着され一体化していてもよい。この場合、緩衝材層19もカーボンファイバー円盤3と同様に固定部4を持っていなくてもよい。このようなオフセット砥石では、振動減衰効果は若干低下するため、用途は制約されやすい。
【0044】
またカーボンバイバー9を熱可塑性樹脂10でシート化する代わりに熱硬化性樹脂でシート化し、カーボンファイバー円盤3を製作してもよい。使用する樹脂の性質が異なるので製造工程は異なるが、カーボンファイバー9の特性でカーボンファイバー円盤3の機械的な性質が決まるため、いずれの樹脂を用いても同等の研削性能が確保できる。
【0045】
また、オフセット砥石を電動工具に固定する場合、オフセット砥石と電動工具の出力軸の間にゴム状のパッキング材を挟んでもよい。研削抵抗の変動による砥石の振動がパッキング材で吸収されるばかりでなく、オフセット砥石全体が、被研削面に均一に接触しやすくなるため、電動工具を適切な姿勢で維持するための労力を緩和でき、研削後の仕上り精度が良くなるばかりでなく、作業者の疲労も低減する。
【符号の説明】
【0046】
1 オフセット砥石
2 砥石基板
3 カーボンファイバー円盤
4 固定部
5 円錐部
6 研削部
7 金属円盤
8 研削材層
9 カーボンファイバー
10 熱可塑性樹脂
11 接着剤
12 砥粒群
13 ダイヤモンド粒子
14 ロー材
15 取付孔
16 電動工具
17 電気コード
18 回転軸
19 緩衝材層
20 砥粒
D 直径
t 板厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動工具やエアー工具などに装着され、主として鉄、ステンレス等の金属板や床などの表面を研削して平坦にしたり、表面の塗膜を除去したりするために用いられる回転型のオフセット砥石であって、ダイヤモンド粒子がロー付けまたは電着などの方法で固着された研削材層を有する金属円盤と、ゴムまたはゴム状の接着剤からなる緩衝材層と、カーボンファイバーを熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂でシート化し前記金属円盤に密着する形状に成形したカーボンファイバー円盤とからなり、前記金属円盤と緩衝材層とカーボンファイバー円盤を接着剤で一体化したオフセット砥石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−35115(P2013−35115A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183106(P2011−183106)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(392002343)ユニカ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】