説明

オレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法、触媒及びオレフィン類重合体の製造方法

【課題】高立体規則性を有し粒度分布が狭くさらに微粉の少ない顆粒状または球状重合体を高収率で得ることができるオレフィン類重合用固体触媒、その製造方法及び触媒並びにオレフィン類の重合方法を提供すること。
【解決手段】マグネシウム化合物(a)、チタンハロゲン化合物(b)及び電子供与性化合物(c)を接触させて得られる固体成分を、その固体成分中に含まれるチタン化合物のチタン原子換算のモル比で0.1〜15倍のハロゲン化合物(d)とビニルシラン化合物(e)を含有する不活性有機溶媒で該固体成分の表面又は固体成分中に(d)成分及び(e)成分を残留させるように接触し、その後乾燥して粉末状にしてオレフィン類重合用固体触媒成分を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーの立体規則性を高度に維持することができ、高収率で重合体を得ることのできるオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法、触媒およびオレフィン類重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オレフィン類の重合においては、チタンなどの遷移金属触媒成分とアルミニウムなどの典型金属触媒成分とからなる固体触媒が広く知られている。
【0003】
そして、オレフィン類重合用触媒は、マグネシウム化合物を担体として用いた担持型触媒の登場により、重合活性が飛躍的に増大し、さらにエステル化合物などの電子供与体を添加することで、炭素原子数3以上のα-オレフィンから立体規則性の高い重合体の製造も可能となった。
【0004】
上記の担持型触媒は、その目的が生成重合体中に残留する塩素やチタン等の触媒残渣を除去する所謂、脱灰工程を省略し得る程の高活性を有するとともに、併せて立体規則性重合体の収率の向上や、重合時の触媒活性の持続性を高めることに注力したものであり、それぞれ優れた成果を上げているが、この種の高活性型触媒成分と有機アルミニウム化合物およびケイ素化合物に代表される電子供与性化合物とからなる組成の重合用触媒を用いてオレフィン類の重合を行なうと、固体触媒成分自体の微粉および重合した際の反応熱による粒子破壊のため、生成重合体中に微粉が多く含まれ、粒度分布もブロード化する傾向があった。微粉重合体が多くなると、均一な反応の継続を妨げ、重合体移送時における配管の閉塞をもたらす等のプロセス障害の原因となり、また粒度分布が広くなると結果的に重合体の成形加工にまで好ましくない影響を及ぼすため、微粉重合体が可及的に少なく、かつ均一粒径で粒度分布の狭い重合体を希求する要因となっていた。
【0005】
この生成重合体の流動性や粒度分布の問題や調製プロセスを簡略化しつつかつ粒度分布等の問題を解決する手段として、特許文献1(特開平6−157659号公報)においては、芳香族炭化水素と四塩化チタンの混合溶液に、球状のジアルコキシマグネシウム、芳香族炭化水素及びフタル酸ジエステルの懸濁液を添加し、反応させさらに四塩化チタンと反応させ、その後洗浄して得られる固体触媒成分からなるオレフィン類重合用触媒が提案されている。
【0006】
また、特許文献2(特開平6−287225号公報)においては、球状のジアルコキシマグネシウム、芳香族炭化水素及びフタル酸ジエステルとの懸濁液を、芳香族炭化水素と四塩化チタンとの混合溶液に加えて反応させ、得られた反応生成物を芳香族炭化水素で洗浄し、再度四塩化チタンと反応させ、その後洗浄して得られた固体成分を乾燥させ、微粉除去処理工程を経て得られることを特徴とするオレフィン類重合用固体触媒成分が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−157659号公報
【特許文献2】特開平6−287225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記技術は、生成重合体をある程度、高収率で得られるようになったものの、更なる高活性化が望まれていた。
【0009】
従って、本発明の目的は、オレフィンの重合に供した際、ポリマーの立体規則性を高度に維持でき、高収率で重合体を得ることができるオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法、触媒及びオレフィン類重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる実情において、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、固体触媒成分の調製に際し、後工程として、固体成分と、成分(d)及び成分(e)を含む溶液を特定条件下で接触させる工程を行なえば、固体触媒成分の表面及び内部に遊離の成分(d)と成分(e)が残留すること、この遊離の成分(d)と成分(e)を残存させて調製された触媒の存在下でオレフィン類を重合させれば、ポリマーの立体規則性を高度に維持でき、しかも高収率で重合体を得ることができることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、マグネシウム化合物(a)、チタンハロゲン化合物(b)及び電子供与性化合物(c)を接触させて得られる固体成分を、その固体成分中に含まれるチタン化合物のチタン原子換算のモル比で0.1〜15倍のハロゲン化合物(d)とビニルシラン化合物(e)を含有する不活性有機溶媒で該固体成分の表面又は固体成分中に(d)成分及び(e)成分を残留させるように接触し、その後乾燥して粉末状にしたことを特徴とするオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、マグネシウム化合物(a)、チタンハロゲン化合物(b)及び電子供与性化合物(c)を接触させて得られる固体成分(A1)を不活性有機溶媒に懸濁させた液(X)と固体成分(A1)中に含まれるチタン化合物のチタン原子換算のモル比で0.1〜15倍のハロゲン化合物(d)とビニルシラン化合物(e)を含有する不活性有機溶媒(Y)を、40〜110℃で2〜10分間混合攪拌し、静置後上澄み液を除去して固体成分(A2)を得るI工程を有することを特徴とするオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、(A)前記オレフィン重合用固体触媒成分、
(B)下記一般式(1);RAlQ3−p(1)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Qは水素原子あるいはハロゲン原子を示し、pは0<p≦3の整数である。)で表される有機アルミニウム化合物および(C)外部電子供与性化合物から形成されることを特徴とするオレフィン類重合用触媒を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、前記オレフィン類重合用触媒の存在下に、オレフィン類の重合を行なうことを特徴とするオレフィン類重合体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のオレフィン類重合用固体触媒成分を用いて形成された触媒を用いれば、ポリマーの立体規則性を高度に維持でき、高収率で重合体を得ることが出来る。従って、汎用ポリオレフィンを、低コストで提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の触媒成分及び重合触媒を調製する工程を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のオレフィン類重合用触媒のうち固体触媒成分(A)(以下、「成分(A)」ということがある。)の調製に用いられるマグネシウム化合物(a)(以下単に「成分(a)」ということがある。)としては、ジハロゲン化マグネシウム、ジアルキルマグネシウム、ハロゲン化アルキルマグネシウム、ジアルコキシマグネシウム、ジアリールオキシマグネシウム、ハロゲン化アルコキシマグネシウムあるいは脂肪酸マグネシウム等が挙げられる。これらのマグネシウム化合物の中、ジハロゲン化マグネシウム、ジハロゲン化マグネシウムとジアルコキシマグネシウムの混合物、ジアルコキシマグネシウムが好ましく、特にジアルコキシマグネシウムが好ましく、具体的にはジメトキシマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、ジプロポキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウム、エトキシメトキシマグネシウム、エトキシプロポキシマグネシウム、ブトキシエトキシマグネシウム等が挙げられ、ジエトキシマグネシウムが特に好ましい。
【0018】
また、これらのジアルコキシマグネシウムは、金属マグネシウムを、ハロゲン含有有機金属等の存在下にアルコールと反応させて得たものでもよい。上記のジアルコキシマグネシウムは、単独あるいは2種以上併用することもできる。
更に、好適に用いられるジアルコキシマグネシウムは、顆粒状または粉末状であり、その形状は不定形あるいは球状のものを使用し得る。例えば球状のジアルコキシマグネシウムを使用した場合、より良好な粒子形状と狭い粒度分布を有する重合体粉末が得られ、重合操作時の生成重合体粉末の取り扱い操作性が向上し、生成重合体粉末に含まれる微粉に起因する重合体の分離装置におけるフィルターの閉塞等の問題が解決される。
【0019】
上記の球状ジアルコキシマグネシウムは、必ずしも真球状である必要はなく、楕円形状あるいは馬鈴薯形状のものを用いることもできる。具体的にその粒子の形状は、長軸径Lと短軸径Wとの比(L/W)が3以下であり、好ましくは1〜2であり、より好ましくは1〜1.5である。
【0020】
また、上記ジアルコキシマグネシウムの平均粒径は1〜200μmのものが使用し得る。好ましくは5〜150μmである。球状のジアルコキシマグネシウムの場合、平均粒径は1〜100μm、好ましくは5〜80μmであり、さらに好ましくは10〜60μmである。また、その粒度については、微粉及び粗粉が少なく、かつ粒度分布の狭いものを使用することが好ましい。具体的には、5μm以下の粒子が20%以下であり、好ましくは10%以下である。一方、100μm以上の粒子が10%以下であり、好ましくは5%以下である。更にその粒度分布をD90/D10(ここで、D90は積算粒度で90%における粒径、D10は積算粒度で10%における粒度である。)で表すと3以下であり、好ましくは2以下である。
【0021】
上記の如き球状のジアルコキシマグネシウムの製造方法は、例えば特開昭58−4132号公報、特開昭62−51633号公報、特開平3−74341号公報、特開平4−368391号公報、特開平8−73388号公報などに例示されている。
【0022】
成分(A)の調製に用いられるチタンハロゲン化合物(b)(以下単に「成分(b)」ということがある。)は、一般式Ti(OR4−n(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示し、nは0≦n≦4の整数である。)で表される四価のチタンハライドもしくはアルコキシチタンハライド群から選択される化合物の1種或いは2種以上である。
【0023】
具体的には、チタンハライドとしてチタンテトラクロライド、チタンテトラブロマイド、チタンテトラアイオダイド等のチタンテトラハライドが例示され、アルコキシチタンハライドとしてメトキシチタントリクロライド、エトキシチタントリクロライド、プロポキシチタントリクロライド、n−ブトキシチタントリクロライド、ジメトキシチタンジクロライド、ジエトキシチタンジクロライド、ジプロポキシチタンジクロライド、ジ−n−ブトキシチタンジクロライド、トリメトキシチタンクロライド、トリエトキシチタンクロライド、トリプロポキシチタンクロライド、トリ−n−ブトキシチタンクロライド等が例示される。これらのうち、チタンテトラハライドが好ましく、特に好ましくはチタンテトラクロライドである。これらチタン化合物は単独あるいは2種以上併用することもできる。
【0024】
成分(A)の調製に用いられる電子供与性化合物(c)(以下単に「成分(c)」ということがある。)は、酸素原子あるいは窒素原子を含有する有機化合物であり、例えばアルコール類、フェノール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、酸ハライド類、アルデヒト類、アミン類、アミド類、ニトリル類、イソシアネート類、Si−O−C結合またはSi−N−C結合を含む有機ケイ素化合物などが挙げられる。
【0025】
具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−エチルヘキサノール等のアルコール類、フェノール、クレゾール等のフェノール類、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテル、アミールエーテル、ジフェニールエーテル、9,9−ビス(メトキシメチル)フルオレン、2-iso-プロピル−2−iso−ペンチル−1、3−ジメトキシプロパン等のエーテル類、ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸ビニル、酢酸プロピル、酢酸オクチル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸オクチル、安息香酸シクロヘキシル安息香酸フェニル、p−トルイル酸メチル、p−トルイル酸エチル、アニス酸メチル、アニス酸エチル等のモノカルボン酸エステル類、マロン酸ジエチル、マロン酸ジプロピル、マロン酸ジブチル、マロン酸ジ-iso−ブチル、マロン酸ジペンチル、マロン酸ジネオペンチル、iso-プロピルブロモマロン酸ジエチル、ブチルブロモマロン酸ジエチル、iso-ブチルブロモマロン酸ジエチル、ジ-iso−プロピルマロン酸ジメチル、ジ-iso−プロピルマロン酸ジエチル、ジブチルマロン酸ジメチル、ジブチルマロン酸ジエチル、ジ−iso−ブチルマロン酸ジメチル、ジ−iso−ブチルマロン酸ジエチル、ジ-iso−ペンチルマロン酸ジメチル、ジ-iso−ペンチルマロン酸ジエチル、iso-プロピルブチルマロン酸ジエチル、iso−プロピル−iso-ペンチルマロン酸ジメチル、ビス(3−クロロ−n−プロピル)マロン酸ジエチル、ビス(3−ブロモ−n−プロピル)マロン酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジ−iso−デシル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジエステル、フタル酸ジエステル誘導体等のジカルボン酸ジエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン等のケトン類、フタル酸ジクロライド、テレフタル酸ジクロライド等の酸クロライド類、アセトアルデヒド、プロピオンアルドヒド、オクチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類、メチルアミン、エチルアミン、トリブチルアミン、ピペリジン、アニリン、ピリジン等のアミン類、オレフィン酸アミド、ステリアリン酸アミド等のアミド類、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トルニトリル等のニトリル類、イソシアン酸メチル、イソシアン酸エチル等のイソシアネート類、フェニルアルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン、フェニルアルキルアルコキシシラン、シクロアルキルアルコキシシラン、シクロアルキルアルキルアルコキシシラン等のSi−O−C結合を含む有機珪素化合物、ビス(アルキルアミノ)ジアルコキシシラン、ビス(シクロアルキルアミノ)ジアルコキシシラン、アルキル(アルキルアミノ)ジアルコキシシラン、ジアルキルアミノトリアルコキシシラン、シクロアルキルアミノトリアルコキシシラン、等のSi−N−C結合を含む有機珪素化合物を挙げることができる。
【0026】
上記の電子供与性化合物のうち、エステル類、とりわけ芳香族ジカルボン酸ジエステルが好ましく用いられ、特にフタル酸ジエステルおよびフタル酸ジエステル誘導体が好適である。これらのフタル酸ジエステルの具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−n−プロピル、フタル酸ジ-iso−プロピル, フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジ-iso-ブチル、フタル酸エチルメチル、フタル酸メチル−iso−プロピル、フタル酸エチル(n−プロピル)、フタル酸エチル(n−ブチル)、フタル酸エチル−iso-ブチル、フタル酸ジ−n−ペンチル、フタル酸ジ-iso−ペンチル、フタル酸ジネオペンチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジ−n−ヘプチル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ビス(2,2−ジメチルヘキシル)、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジ−n−ノニル、フタル酸ジ−イソデシル、フタル酸ビス(2、2−ジメチルヘプチル)、フタル酸n−ブチル−イソヘキシル、フタル酸n−ブチル(2−エチルヘキシル)、フタル酸n−ペンチルヘキシル、フタル酸n−ペンチルイソヘキシル、フタル酸イソペンチル(ヘプチル)、フタル酸n−ペンチル(2−エチルヘシル)、フタル酸n−ペンチル−iso-ノニル、フタル酸イソ-iso−ペンチル(n−デシル)、フタル酸n−ペンチルウンデシル、フタル酸-iso−ペンチル−iso−ヘキシル、フタル酸n−ヘキシル(2,2−ジメチルヘキシル)、フタル酸n−ヘキシル-iso-ノニル、フタル酸n−ヘキシル(n−デシル)、フタル酸n−ヘプチル(2−エチルヘキシル)、フタル酸n−ヘプチル−iso-ノニル、フタル酸n−ヘプチル(neo−デシル)、フタル酸2−エチルヘキシル-iso-ノニルが例示され、これらのフタル酸ジエステルは1種あるいは2種以上が使用される。
【0027】
またフタル酸ジエステル誘導体としては、上記のフタル酸ジエステルの2つのエステル基が結合するベンゼン環の1または2個の水素原子が、炭素数1〜5のアルキル基、または塩素原子、臭素原子およびフッ素原子などのハロゲン原子に置換されたものが挙げられる。該フタル酸ジエステル誘導体を電子供与性化合物として用いて調製した固体触媒成分により、より水素レスポンスを向上させることができ、重合時に添加する水素が同量あるいは少量でもポリマーのメルトフローレートを向上することができる。具体的には、4−メチルフタル酸ジネオペンチル、4−エチルフタル酸ジネオペンチル、4、5、−ジメチルフタル酸ジネオペンチル、4,5−ジエチルフタル酸ジネオペンチル、4−クロロフタル酸ジエチル、4−クロロフタル酸ジ−n−ブチル、4−クロロフタル酸ジネオペンチル、4−クロロフタル酸ジイソブチル、4−クロロフタル酸ジイソヘキシル、4−クロロフタル酸ジイソオクチル、4−ブロモフタル酸ジエチル、4−ブロモフタル酸ジ−n−ブチル、4−ブロモフタル酸ジネオペンチル、4−ブロモフタル酸ジ-iso-ブチル、4−ブロモフタル酸ジ-iso-ヘキシル、4−ブロモフタル酸ジ-iso−オクチル、4,5−ジクロロフタル酸ジエチル、4,5−ジクロロフタル酸ジ−n−ブチル、4,5−ジクロロフタル酸ジ-iso-ヘキシル、4,5−ジクロロフタル酸ジ-iso-オクチルが挙げられ、このうち、4−ブロモフタル酸ジネオペンチル、4−ブロモフタル酸ジ−n−ブチル、および4−ブロモフタル酸ジ−iso-ブチルが好ましい。
【0028】
なお、上記のエステル類は、2種以上組み合わせて用いることも好ましく、その際用いるエステルのアルキル基の炭素数合計が他のエステルのそれと比べ、その差が4以上になると該エステル類を組み合わせることが望ましい。
【0029】
本発明においては、上記成分(a)、(b)及び(c)を、不活性有機溶媒の存在下で接触させることによって固体成分(A1)を調製する方法が好ましい態様であるが、この不活性有機溶媒としては、上記のチタンハロゲン化合物を溶解しかつジアルコキシマグネシウムは溶解しないものであり、具体的にはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2‐ジエチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキセン、デカリン等の飽和炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素化合物、オルトジクロルベンゼン、塩化メチレン、1,2−ジクロロベンゼン、四塩化炭素、ジクロルエタン等のハロゲン化炭化水素化合物等が挙げられるが、このうち、沸点が50〜150℃程度の、常温で液状の芳香族炭化水素化合物、具体的にはヘキサン、ヘプタン、オクタン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンが好ましく用いられる。また、これらは単独で用いても、2種以上混合して使用してもよい。
【0030】
本発明における成分(A)の調製における固体成分(A1)の特に好ましい調製方法としては、成分(a)と成分(c)と沸点50〜150℃の芳香族炭化水素化合物とから懸濁液を形成し、成分(b)と芳香族炭化水素化合物とから形成した混合溶液を該懸濁液に接触させ、その後反応させることによる調製方法を挙げることができる。
【0031】
固体成分の調製においては、上記成分の他、更に、ポリシロキサンを使用することが好ましく、ポリシロキサンを用いることにより生成ポリマーの立体規則性あるいは結晶性を向上させることができ、さらには生成ポリマーの微粉を低減することが可能となる。ポリシロキサンは、主鎖にシロキサン結合(−Si−O結合)を有する重合体であるが、シリコーンオイルとも総称され、25℃における粘度が0.02〜100cm/s(2〜1000センチストークス)を有する、常温で液状あるいは粘ちょう状の鎖状、部分水素化、環状あるいは変性ポリシロキサンである。
【0032】
鎖状ポリシロキサンとしては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンが、部分水素化ポリシロキサンとしては、水素化率10〜80%のメチルハイドロジェンポリシロキサンが、環状ポリシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルキクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタンシロキサン、2,4,6−トリメチルシクロトリシロキサン、2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサンが、また変性ポリシロキサンとしては、高級脂肪酸基置換ジメチルシロキサン、エポキシ基置換ジメチルシロキサン、ポリオキシアルキレン基置換ジメチルシロキサンが例示される。これらの中で、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びジメチルポリシロキサンが好ましく、デカメチルシクロペンタシロキサンが特に好ましい。
【0033】
本発明では上記成分(a)、(b)及び(c)、また必要に応じて芳香族炭化水素化合物またはポリシロキサンを接触させ固体成分を形成させるが、以下に、本発明の固体成分の調製方法について述べる。具体的には、マグネシウム化合物(a)を、チタンハロゲン化合物(b)または芳香族炭化水素化合物に懸濁させ、フタル酸ジエステルなどの電子供与性化合物(c)、更に必要に応じて4価のチタンハロゲン化合物(b)を接触して固体成分を得る方法が挙げられる。該方法において、球状のマグネシウム化合物を用いることにより、球状でかつ粒度分布のシャープな固体成分が得られ結果として同様の成分(A)を得ることができ、また球状のマグネシウム化合物を用いなくとも、例えば噴霧装置を用いて溶液あるいは懸濁液を噴霧・乾燥させる、いわゆるスプレードライ法により粒子を形成させることにより、同様に球状でかつ粒度分布のシャープな固体成分を得ることができる。
【0034】
各成分の接触は、不活性ガス雰囲気下、水分等を除去した状況下で、攪拌機を具備した容器中で、攪拌しながら行われる。接触温度は、各成分の接触時は、各成分の接触時の温度であり、反応させる温度と同じ温度でも異なる温度でもよい。接触温度は、単に接触させて攪拌混合する場合や、分散あるいは懸濁させて変性処理する場合には、室温付近の比較的低温域であっても差し支えないが、接触後に反応させて生成物を得る場合には、40〜130℃の温度域が好ましい。反応時の温度が40℃未満の場合は十分に反応が進行せず、結果として調製された固体触媒成分の性能が不十分となり、130℃を超えると使用した溶媒の蒸発が顕著になるなどして、反応の制御が困難になる。反応時間は1分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上である。
【0035】
固体成分を調製する際の各成分の使用量比は、調製法により異なるため一概には既定できないが、例えばマグネシウム化合物(a)1モルあたり、4価のチタンハロゲン化合物(b)が0.5〜100モル、好ましくは0.5〜10モル、より好ましくは1〜5モルであり、電子供与性化合物(c)が0.01〜10モル、好ましくは0.01〜1モル、より好ましくは0.02〜0.6モルであり、芳香族炭化水素化合物が0.001〜500モル、好ましくは0.001〜70モル、より好ましくは0.005〜50モルであり、ポリシロキサンが0.01〜100g、好ましくは0.05〜80g、より好ましくは1〜50gである。
【0036】
本発明の固体触媒成分(A)は、上記固体成分を、その固体成分(A1)中に含まれるチタン化合物のチタン原子換算のモル比で0.1〜15倍、さらに好ましくは0.1〜5倍、特に好ましくは0.1〜3倍、最も好ましくは0.1〜1.5倍のハロゲン化合物(d)(以下単に「成分(d)」ということがある。)及びその固体成分中に含まれるチタン化合物のチタン原子換算のモル比で0.01〜1倍、好ましくは0.05〜0.5倍、特に好ましくは0.08〜0.3倍のビニルシラン化合物(e)(以下単に「成分(e)」ということがある。)を含有する不活性有機溶媒で、固体成分の表面又は固体成分中に(d)成分及び(e)成分を残留させるように接触し、その後乾燥することにより得られる。成分(d)および(e)を上記の使用量で固体成分と接触させれば、より高活性、低微粉および粒度分布良好の効果を発する。
【0037】
成分(d)はハロゲン化合物であり、上記(b)成分、ハロゲン化炭化水素、ハロゲン含有アルコール、水素−ケイ素結合を有するハロゲン化ケイ素化合物、周期表第IIIB族、IV族、V族元素のハロゲン化物(以下、金属ハライドという。)等が挙げられる。
【0038】
ハロゲン化炭化水素としては、炭素数1〜12個の飽和又は不飽和の脂肪族、脂環式及び芳香族炭化水素のモノ及びポリハロゲン置換体である。それら化合物の具体的な例は、脂肪族化合物では、メチルクロライド、メチルブロマイド、メチルアイオダイド、メチレンクロライド、メチレンブロマイド、メチレンアイオダイド、クロロホルム、ブロモホルム、ヨードホルム、四塩化炭素、四臭化炭素、四ヨウ化炭素、エチルクロライド、エチルブロマイド、エチルアイオダイド、1,2−ジクロロエタン,1,2−ジブロモエタン、1,2−ジヨードエタン、メチルクロロホルム、メチルブロモホルム、メチルヨードホルム、1,1,2−トリクロロエチレン、1,1,2−トリブロモエチレン,1,1,2,2−テトラクロロエチレン、ペンタクロロエタン、ヘキサクロロエタン、ヘキサブロモエタン、n−プロピルクロライド、1,2−ジクロロプロパン、ヘキサクロロプロピレン、オクタクロロプロパン、デカブロモブタン、塩素化パラフィン等が挙げられ、脂環式化合物ではクロロシクロプロパン、テトラクロロシクロペンタン、ヘキサクロロシクロペンタジエン、ヘキサクロロシクロヘキサン等が挙げられ、芳香族化合物ではクロロベンゼン、ブロモベンゼン、o−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、ヘキサブロモベンゼン、ベンゾトリクロライド、p−クロロベンゾトリクロライド等が挙げられる。これらの化合物は、一種のみならず二種以上用いてもよい。
【0039】
ハロゲン含有アルコールとしては、一分子中に一個又は二個以上の水酸基を有するモノ又は多価アルコール中の、水酸基以外の任意の一個又は二個以上の水素原子がハロゲン原子で置換された化合物を使用できる。ハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素原子が挙げられ、塩素原子が望ましい。
【0040】
それら化合物を例示すると、2−クロロエタノール、1−クロロ−2−プロパノール、3−クロロ−1−プロパノール、1−クロロ−2−メチル−2−プロパノール、4−クロロ−1−ブタノール、5−クロロ−1−ペンタノール、6−クロロ−1−ヘキサノール、3−クロロ−1,2−プロパンジオール、2−クロロシクロヘキサノール、4−クロロベンズヒドロール、(m,o,p)−クロロベンジルアルコール、4−クロロカテコール、4−クロロ−(m,o)−クレゾール、6−クロロ−(m,o)−クレゾール、4−クロロ−3,5−ジメチルフェノール、クロロハイドロキノン、2−ベンジル−4−クロロフェノール、4−クロロ−1−ナフトール、(m,o,p)−クロロフェノール,p−クロロ−o−メチルベンジルアルコール、2−クロロ−4−フェニルフェノール、6−クロロチモール、4−クロロレゾルシン、2−ブロモエタノール、3−ブロモ−1−プロパノール、1−ブロモ−2−プロパノール、1−ブロモ−2−ブタノール、2−ブロモ−p−クレゾール、1−ブロモ−2−ナフトール、6−ブロモ−2−ナフトール、(m,o,p)−ブロモフェノール、4−ブロモレゾルシン、(m,o,p)−フロロフェノール、p−ヨードフェノール、2,2−ジクロロエタノール、2,3−ジクロロ−1−プロパノール、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、3−クロロ−1−(α−クロロメチル)−1−プロパノール、2,3−ジブロモ−1−プロパノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノール、2,4−ジブロモフェノール、2,4−ジブロモ−1−ナフトール、2,2,2−トリクロロエタノール、1,1,1−トリクロロ−2−プロパノール、β,β,β,−トリクロロ−tert−ブタノール、2,3,4−トリクロロフェノール、2,4,5−トリクロロフェノール、2,4,6−トリクロロフェノール、2,4,6−トリブロモフェノール、2,3,5−トリブロモ−2−ヒドロキシトルエン、2,3,5−トリブロモ−4−ヒドロキシトルエン、2,2,2−トリフルオロエタノール、α,α,α−トリフルオロ−m−クレゾール、2,4,6−トリヨードフェノール、2,3,4,6−テトラクロロフェノール、テトラクロロハイドロキノン、テトラクロロビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、2,2,3,8テトラフルオロ−1−プロパノール、2,3,5,6−テトラフルオロフェノール、テトラフルオロレゾルシン等が挙げられる。
【0041】
水素−ケイ素結合を有するハロゲン化ケイ素化合物としては、HSiCl、HSiCl、HSiCl、HSiMeCl、HSiEtCl、HSi(t−Bu)Cl、HSiPhCl、HSiMeCl、HSi(i−Pr)Cl、HSiEtCl、HSi(n−Bu)Cl、H(CCH)SiCl、HSiPhCl等が挙げられる。
【0042】
金属ハライドとしては、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、B、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Biの塩化物、フッ化物、臭化物、ヨウ化物が挙げられ、特にTiCl、BCl、BBr,BI、AlCl、AlBr、GaCl、GaBr、InCl、TlCl、SiCl、SnCl、SbCl、SbF等が好適である。これらの中では、金属ハライドが好ましく、四塩化チタンが特に好ましい。四塩化チタンの場合、微粉が低減され、粒度分布はよりシャープになる。
【0043】
本発明で使用されるビニルシラン化合物としては、下記の一般式;
(CH=CH)SiR4−m−n(1)
(ここで、Rは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素残基を、Xはハロゲンを示し、mは1≦m≦4の数を、nはm+n≦4を満たす数である)で表されるものが好ましい。
【0044】
具体例としては、CH =CH−SiH 、CH =CH−SiH (CH )、CH =CH−SiH(CH 、CH =CH−Si(CH 、CH =CH−SiCl 、CH =CH−SiCl (CH )、CH =CHSiCl(CH )H、CH =CH−SiCl(C 、CH =CH−Si(C 、CH=CH−Si(CH )(C H5 ) 、CH =CH−Si(C)(CH 、CH =CH−Si(CH (C CH )、(CH =CH) SiCl 、(CH =CH) Si(CH 、(CH =CH) SiCH 、(CH =CH) SiCl、(CH =CH) Si、(CH=CH)Si(CH)Cl、(CH=CH)SiCl、(CH=CH)Si(C等を例示することができる。その中、特に好ましくは、(CH=CH)Si(CH、(CH=CH)Si(CH)Cl、(CH=CH)SiCl、(CH=CH)Si(C、(CH =CH) SiCHである。
【0045】
不活性有機溶媒としては、前記の不活性有機溶媒が同じ態様で使用される。
【0046】
上記固体成分(A1)と成分(d)及び成分(e)を含有する不活性有機溶媒との好適な接触方法としては、上記固体成分(A1)を不活性有機溶媒に懸濁させた液(X)と固体成分(A1)中に含まれるチタン化合物のチタン原子換算のモル比に対しての特定量のハロゲン化合物(d)とビニルシラン化合物(e)を含有する不活性有機溶媒(Y)を、40〜110℃、好ましくは85〜105℃、特に好ましくは85〜100℃で、2〜10分間混合攪拌し、静置後上澄み液を除去して固体成分(A2)を得るI工程(以下、単に「成分(d)等の後接触工程」とも言う。)を実施する方法が挙げられる。
【0047】
また、更に、前記固体成分(A2)と、ハロゲン化合物(d)及びビニルシラン化合物(e)を含有する不活性有機溶媒(Y)を40〜110℃で2〜10分間混合攪拌し、静置後上澄み液を除去して固体成分(A3)を得るII工程を更に有する方法が好ましい。また、前記固体成分と成分(d)を含有する不活性有機溶媒(Y)との混合攪拌接触は、都合2〜8回、好ましくは3〜6回行なうことが、固体成分の表面又は固体成分中に(d)成分及び(e)成分を特定量で残留させることができる点で好ましい。
【0048】
I工程又はII工程において、上澄み液を除去した後は乾燥して粉末状にして固体触媒成分(A)を得ればよい。上記固体成分と、成分(d)及び成分(e)を含有する不活性有機溶媒との接触処理後は、溶媒中及び固体成分表面あるいは固体成分中に脱離の成分(d)と成分(e)が存在するが、本発明では脱離の成分(d)と成分(e)が存在したまま乾燥する。乾燥方法としては、使用した不活性有機溶媒を除去し、粉末状になるように乾燥すればよく、真空乾燥、加熱乾燥、加熱真空乾燥などの方法が挙げられる。
【0049】
本発明ではこのように上記固体成分と、成分(d)及び成分(e)を含有する不活性有機溶媒との接触処理後、洗浄することなく、乾燥することによって、得られた固体触媒成分中に触媒活性成分とは別の、ある程度遊離成分に近い成分(d)と(e)が特定量で取り込まれ、このような固体触媒成分をオレフィン類の重合に供することにより重合体を高収率で得ることが出来る。
【0050】
本発明の固体触媒成分(A)は、成分(d)がチタンハロゲン化合物四塩化チタンの場合、該固体触媒成分を該成分1g当たり10mlのヘプタンで、40℃で5分間洗浄し、これを8回繰り返して洗浄した際、洗い流されるチタン量が、0.3重量%以上、2.5重量%以下となるものである。すなわち、この洗い流されるチタン量が脱離の成分(d)である。洗い流されるチタン量は、洗浄前の固体触媒成分(A)のチタン含有量から、洗浄後の固体触媒成分(A)のチタン含有量を差し引いた値である。8回の繰り返し洗浄を行なうことにより、脱離の成分(d)をほぼ完全に洗い流すことができる。洗浄が数回程度では、固体触媒成分(A)中に脱離の成分(d)が幾分か残存してしまう。
【0051】
脱離の成分(d)を測定するための上記の洗浄方法は、具体的には、攪拌機を具備し、窒素ガスで充分に置換された容量500mlの丸底フラスコに、固体触媒成分(A)10gを装入し、その後40℃のヘプタン100mlを投入し、40℃で5分間攪拌する。攪拌機は丸底フラスコの中心部に設けられた攪拌軸に攪拌翼が付設されたものであり、攪拌条件は毎分200回転である。
【0052】
また、本発明の固体触媒成分(A)は、成分(e)を0.05重量%以上、1.2重量%以下を含有することが好ましい。成分(e)は、該固体触媒成分を該成分1g当たり10mlのヘプタンで、40℃で5分間洗浄と共に減少する。特に5回の繰り返し洗浄後は、固体触媒成分(A)中の成分(e)はほぼ完全に洗い流される。従って、このような洗浄により、固体触媒成分(A)中の成分(e)を定量化することができる。
【0053】
本発明において、固体成分から固体触媒成分を調製する際、成分(d)と成分(e)を接触させる際には、特許文献(特開平3−234707号公報)に記載されるトリエチルアルミニウムのような有機アルミニウム化合物は接触させない。すなわち、従来の固体触媒成分では、マグネシウムおよびチタンを含有する固体成分に有機ケイ素化合物を接触させた後、有機アルミニウム化合物を接触させ反応させ、その後洗浄して固体触媒成分を形成していた。これに対して本発明の固体触媒成分は、上記成分(d)と成分(e)のみを接触させて得られる。
【0054】
以上を踏まえ、本発明における成分(A)の特に好ましい調製方法としては、マグネシウム化合物(a)を沸点50〜150℃の芳香族炭化水素化合物に懸濁させ、次いでこの懸濁液にチタンハロゲン化合物(b)を接触させた後、反応処理を行う。この際、該懸濁液にチタンハロゲン化合物(b)を接触させる前又は接触した後に、フタル酸ジエステルなどの電子供与性化合物(c)の1種あるいは2種以上を、−20〜130℃で接触させ、必要に応じてポリシロキサンを接触させて、反応処理を行い、固体成分を得る。この際、電子供与性化合物の1種あるいは2種以上を接触させる前又は後に、低温で熟成反応を行うことが望ましい。この固体成分を炭化水素化合物で洗浄(中間洗浄)し、固体成分を得る。次いで、上記の「成分(d)等の後接触工程」を行ない、成分(A)を得る。
【0055】
また本発明における成分(A)中のチタン、マグネシウム、ハロゲン原子、電子供与性化合物の含有量は特に既定されないが、好ましくは、チタンが1.0〜10重量%、好ましくは2.0〜10重量%、より好ましくは3.0〜10重量%、マグネシウムが10〜70重量%、より好ましくは10〜50重量%、特に好ましくは15〜40重量%、さらに好ましくは15〜25重量%、ハロゲン原子が20〜90重量%、より好ましくは30〜85重量%、特に好ましくは40〜80重量%、さらに好ましくは45〜80重量%、また電子供与性化合物が合計0.5〜30重量%、より好ましくは合計1〜25重量%、特に好ましくは合計2〜20重量%である。
【0056】
本発明のオレフィン重合用触媒を形成する際に用いられる有機アルミニウム化合物(B)(以下、「成分(B)」ということがある。)としては、上記一般式(1)で表される化合物であれば、特に制限されないが、Rとしては、エチル基、イソブチル基が好ましく、Yとしては、水素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、nは、2又は3が好ましく、3が特に好ましい。このような有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムブロマイド、ジエチルアルミニウムハイドライドが挙げられ、1種あるいは2種以上が使用できる。好ましくは、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムである。
【0057】
また本発明の触媒では上記固体触媒成分(A)及び成分(B)の他に外部電子供与性化合物(C)(以下、「成分(C)」ということがある。)を用いる。
【0058】
本発明のオレフィン類重合用触媒を形成する際に用いられる外部電子供与性化合物(C)(以下、「成分(C)」ということがある。)としては前記した固体触媒成分の調製に用いることのできる電子供与性化合物(c)と同じものが用いられるが、その中でもエーテル類、エステル類又は有機ケイ素化合物が好ましい。エーテル類の中、1,3ジエーテルが好ましく、特に9,9−ビス(メトキシメチル)フルオレン、2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3―ジメトキシプロパンが好ましい。また、エステル類の中、安息香酸メチル、安息香酸エチルが好ましい。
【0059】
上記の有機ケイ素化合物としては、下記一般式(3)
Si(NR(OR4−(q+r) (3)
(式中、qは0、1〜4の整数、rは0、1〜4の整数、但し、q+rは0〜4の整数、R、R又はRは水素原子、炭素数1〜12の直鎖または分岐状アルキル基、置換又は未置換のシクロアルキル基、フェニル基、ビニル基、アリル基、アラルキル基のいずれかで、ヘテロ原子を含有してもよく、同一または異なっていてもよい。Rは炭素数1〜4のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ビニル基、アリル基、アラルキル基を示し、ヘテロ原子を含有してもよく、同一または異なってもよく、RとRは結合して環状を形成してもよい。)で表される化合物が挙げられる。
【0060】
一般式(3)中、Rは炭素数1〜10の直鎖又は分岐状のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基が好ましく、特に炭素数1〜8の直鎖又は分岐状のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基が好ましい。また、R又はRは炭素数1〜10の直鎖又は分岐状のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基が好ましく、特に炭素数1〜8の直鎖又は分岐状のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基が好ましい。また、RとRが結合して環状を形成する(NR)はパーヒドロキノリノ基、パーヒドロイソキノリノ基が好ましい。また、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基が好ましく、特に炭素数1〜4の直鎖又は分岐状のアルキル基が好ましい。
【0061】
このような有機ケイ素化合物としては、フェニルアルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン、フェニルアルキルアルコキシシラン、シクロアルキルアルコキシシラン、シクロアルキルアルキルアルコキシシラン、(アルキルアミノ)アルコキシシラン、アルキル(アルキルアミノ)アルコキシシラン、アルキル(アルキルアミノ)シラン、アルキルアミノシラン等を挙げることができる。
【0062】
式中、rが0の有機ケイ素化合物を具体的に例示すると、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリ−n−プロピルメトキシシラン、トリ−n−プロピルエトキシシラン、トリ−n−ブチルメトキシシラン、トリ−iso−ブチルメトキシシラン、トリ−t−ブチルメトキシシラン、トリ−n−ブチルエトキシシラン、トリシクロヘキシルメトキシシラン、トリシクロヘキシルエトキシシラン、シクロヘキシルジメチルメトキシシラン、シクロヘキシルジエチルメトキシシラン、シクロヘキシルジエチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−iso−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−iso−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−iso−ブチルジメトキシシラン、ジ−t−ブチルジメトキシシラン、t−ブチルメチルジメトキシシラン、t−ブチルエチルジメトキシシラン、t−ブチル(nープロピル)ジメトキシシラン、t−ブチル(イソプロピル)ジメトキシシラン、t−ブチル(nーブチル)ジメトキシシラン、t−ブチル(イソブチル)ジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、n−ブチルメチルジメトキシシラン、ビス(2−エチルヘキシル)ジメトキシシラン、ビス(2−エチルヘキシル)ジエトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジエトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジエトキシシラン、ビス(3−メチルシクロヘキシル)ジメトキシシラン、ビス(4−メチルシクロヘキシル)ジメトキシシラン、ビス(3,5−ジメチルシクロヘキシル)ジメトキシシラン、シクロヘキシルシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルシクロペンチルジエトキシシラン、シクロヘキシルシクロペンチルジプロポキシシラン、3−メチルシクロヘキシルシクロペンチルジメトキシシラン、4−メチルシクロヘキシルシクロペンチルジメトキシシラン、3,5−ジメチルシクロヘキシルシクロペンチルジメトキシシラン、3−メチルシクロヘキシルシクロヘキシルジメトキシシラン、4−メチルシクロヘキシルシクロヘキシルジメトキシシラン、3,5−ジメチルシクロヘキシルシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロペンチルメチルジメトキシシラン、シクロペンチルメチルジエトキシシラン、シクロペンチルエチルジエトキシシラン、シクロペンチル(iso−プロピル)ジメトキシシラン、シクロペンチル(iso−ブチル)ジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジエトキシシラン、シクロヘキシル(n−プロピル)ジメトキシシラン、シクロヘキシル(iso−プロピル)ジメトキシシラン、シクロヘキシル(n−プロピル)ジエトキシシラン、シクロヘキシル(iso−ブチル)ジメトキシシラン、シクロヘキシル(n−ブチル)ジエトキシシラン、シクロヘキシル(n−ペンチル)ジメトキシシラン、シクロヘキシル(n−ペンチル)ジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、フェニルエチルジメトキシシラン、フェニルエチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、iso−ブチルトリメトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、2-エチルヘキシルトリメトキシシラン、2-エチルヘキシルトリエトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランが挙げられる。
【0063】
上記の中でも、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−iso−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−iso−ブチルジメトキシシラン、ジ−t−ブチルジメトキシシラン、t−ブチルメチルジメトキシシラン、t−ブチルエチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジエトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジエトキシシラン、シクロペンチルメチルジメトキシシラン、シクロペンチルメチルジエトキシシラン、シクロペンチルエチルジエトキシシラン、シクロヘキシルシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルシクロペンチルジエトキシシラン、3−メチルシクロヘキシルシクロペンチルジメトキシシラン、4−メチルシクロヘキシルシクロペンチルジメトキシシラン、3,5−ジメチルシクロヘキシルシクロペンチルジメトキシシランが好ましい。
【0064】
式中、rが1〜4の有機ケイ素化合物としては、(アルキルアミノ)トリアルキルシラン、(アルキルアミノ)ジアルキルシクロアルキルシラン、(アルキルアミノ)アルキルジシクロアルキルシラン、(アルキルアミノ)トリシクロアルキルシラン、(アルキルアミノ)(ジアルキルアミノ)ジアルキルシラン、(アルキルアミノ)(ジアルキルアミノ)ジシクロアルキルシラン、ビス(アルキルアミノ)ジアルキルシラン、ビス(アルキルアミノ)アルキルシクロアルキルシラン、ビス(アルキルアミノ)ジシクロアルキルシラン、ビス(アルキルアミノ)(ジアルキルアミノ)アルキルシラン、ビス(アルキルアミノ)(ジアルキルアミノ)シクロアルキルシラン、ジ(アルキルアミノ)ジアルキルシラン、ジ(アルキルアミノ)アルキルシクロアルキルシラン、ジ(アルキルアミノ)ジシクロアルキルシラン、ジ(シクロアルキルアミノ)ジアルキルシラン、ジ(シクロアルキルアミノ)アルキルシクロアルキルシラン、ジ(シクロアルキルアミノ)ジシクロアルキルシラン、トリス(アルキルアミノ)アルキルシラン、トリス(アルキルアミノ)シクロアルキルシラン、トリ(アルキルアミノ)アルキルシラン、トリ(アルキルアミノ)シクロアルキルシラン、トリ(シクロアルキルアミノ)アルキルシラン、トリ(シクロアルキルアミノ)シクロアルキルシラン、テトラキス(アルキルアミノ)シラン、トリス(アルキルアミノ)ジアルキルアミノシラン、トリス(シクロアルキルアミノ)ジアルキルアミノシラン、ビス(ジアルキルアミノ)ビス(アルキルアミノ)シラン、ジアルキルアミノトリス(アルキルアミノ)シラン、ビス(パ−ヒドロイソキノリノ)ビス(アルキルアミノ)シラン、ビス(パーヒドロキノリノ)ビス(アルキルアミノ)シラン、ビス(シクロアルキルアミノ)ビス(アルキルアミノ)シラン、テトラ(アルキルアミノ)シラン、トリ(アルキルアミノ)ジアルキルアミノシラン、トリ(シクロアルキルアミノ)ジアルキルアミノシラン、ジ(ジアルキルアミノ)ジ(アルキルアミノ)シラン、ジアルキルアミノトリ(アルキルアミノ)シラン、ジ(アルキル置換パ−ヒドロイソキノリノ)ジ(アルキルアミノ)シラン、ジ(アルキル置換パーヒドロキノリノ)ジ(アルキルアミノ)シラン、ジ(シクロアルキルアミノ)ジ(アルキルアミノ)シラン、アルキル(ジアルキルアミノ)(アルキルアミノ)アルコキシシラン、シクロアルキル(ジアルキルアミノ)(アルキルアミノ)アルコキシシラン、ビニル(ジアルキルアミノ)(アルキルアミノ)アルコキシシラン、アリル(ジアルキルアミノ)(アルキルアミノ)アルコキシシラン、アラルキル(ジアルキルアミノ)(アルキルアミノ)アルコキシシラン、ジアルキル(アルキルアミノ)アルコキシシラン等を挙げることができる。
【0065】
該有機ケイ素化合物(C)は1種あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。また、これらの外部電子供与性化合物は、1種あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0066】
本発明のオレフィン重合体の製造方法は、本発明のオレフィン類重合用触媒の存在下にオレフィン類の単独重合、ランダム共重合もしくはブロック共重合を実施する。オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサン等であり、これらのオレフィン類は1種あるいは2種以上併用することができる。とりわけ、エチレン、プロピレン、1−ブテンが好適に用いられ、特に好ましくはプロピレンである。プロピレンの場合、他のオレフィン類との共重合を行うことができる。共重合されるオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサン等であり、これらのオレフィン類は1種あるいは2種以上併用することができる。とりわけ、エチレン、1−ブテンが好適に用いられる。プロピレンと他のオレフィン類との共重合としては、プロピレンと少量のエチレンをコモノマーとして1段で重合するランダム共重合と、第一段階(第一重合槽)でプロピレンの単独重合を行い、第二段階(第二重合槽)あるいはそれ以上の多段階(多段重合槽)でプロピレンとエチレンの共重合を行う、所謂プロピレン−エチレンブロック共重合が代表的である。このようなランダム共重合やブロック共重合においても、上記の成分(A)および成分(B)及び成分(C)からなる本発明の触媒は有効であり、触媒活性、立体規則性及び/または水素レスポンスが良好であるばかりでなく、共重合特性や得られた共重合体の特性も良好である。また、特にプロピレンの単独重合からブロック共重合に移行する際に、最終製品中のジェル生成を防止するために、アルコール類を重合系に添加することができる。アルコール類の具体例としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等が挙げられ、使用量は成分(II)1モルに対し0.01〜10モル好ましくは0.1〜2モルである。
【0067】
各成分の使用量比は、本発明の効果に影響を及ぼすことのない限り任意であり、特に限定されるものではないが、通常成分(B)は成分(A)中のチタン原子1モル当たり、1〜2000モル、好ましくは50〜1000モルの範囲で使用される。成分(C)は成分(B)1モル当たり、0.002〜10モル、好ましくは0.01〜2モル、特に好ましくは0.1〜0.5モルの範囲で用いられる。
【0068】
各成分の接触順序は任意であるが、重合系内にまず有機アルミニウム化合物(B)を装入し、次いで、成分(C)を装入し、その後固体触媒成分(A)を接触させることが望ましい。
【0069】
本発明における重合方法は、有機溶媒の存在下でも不存在下でも行うことができ、また、プロピレン等のオレフィン単量体は、気体および液体のいずれの状態でも重合に用いることができる。重合温度は200℃以下、好ましくは100℃以下であり、重合圧力は10MPa以下、好ましくは6MPa以下である。また、連続重合法、バッチ式重合法のいずれも可能である。更に、重合反応を1段で行っても良いし、2段以上の多段で行ってもよい。
【0070】
更に、本発明において成分(A)および成分(B)、または成分(C)から形成される触媒を用いてオレフィンを重合するにあたり(「本重合」ともいう。)、触媒活性、立体規則性及び生成する粒子性状度等を一層改善させるために、本重合に先立ち予備重合を行うことが望ましい。予備重合の際には、本重合と同様のオレフィン類あるいはスチレン等のモノマーを用いることができる。具体的には、オレフィン類の存在下に成分(A)および成分(B)、または成分(C)を接触させ、成分(A)1g当たり0.1〜100gのポリオレフィンを予備的に重合させ、更に成分(B)及び/又は成分(C)を接触させ触媒を形成する。
【0071】
予備重合を行うに際して、各成分及びモノマーの接触順序は任意であるが、好ましくは、不活性ガス雰囲気あるいはプロピレンなどの重合を行うガス雰囲気に設定した予備重合系内にまず成分(B)を装入し、次いで成分(A)を接触させた後、プロピレン等のオレフィン及び/又は1種あるいは2種以上の他のオレフィン類を接触させる。予備重合温度は任意であり、特に制限はないが、好ましくは−10℃〜70℃の範囲、更に好ましくは0℃〜50℃の範囲である。
【0072】
本発明のオレフィン類重合触媒の存在下で、オレフィン類の重合を行った場合、従来の触媒を使用した場合に比べ、高立体規則性を有し、微粉が少なく粒度分布が狭い重合体を高収率で得ることができる。
【0073】
実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、これは単なる例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例1】
【0074】
〈固体成分の調製〉
攪拌機を具備し、窒素ガスで充分に置換された、容量3000mlの丸底フラスコに、ジエトキシマグネシウム75g及びトルエン375mlを装入し、懸濁状態とした。次いで、該懸濁液を、攪拌機を具備し、窒素ガスで充分に置換された、容量3000mlの丸底フラスコに予め装填されたトルエン150ml及び四塩化チタン225mlの溶液中に添加し懸濁液とした。次いで、該懸濁液を6℃で1時間反応させた。その後、フタル酸ジ−n−ブチル22.5ml添加し、さらに105℃まで昇温した後、撹拌しながら2時間反応処理を行った。反応終了後、生成物を100℃のトルエン750mlで4回洗浄し、固体成分を得た。この固体触媒成分中のチタン含有量を測定したところ、3.3重量%であった。
【0075】
〈固体触媒成分(A)の調製〉
攪拌機を具備し、窒素ガスで充分に置換された、容量500mlの丸底フラスコに固体成分20g及びトルエン120mlを装入し、懸濁状態とした。該懸濁液に室温の四塩化チタン2ml及びジビニルジメチルシラン0.3mlを含有するヘプタン溶液120mlを投入後、昇温し、100℃で5分間攪拌した。攪拌後、静置して、その後上澄みを除去した。以上までの固体成分と四塩化チタン及びジビニルジメチルシランの接触を1回とした。次いで、丸底フラスコ内の固体成分に対してさらに室温の四塩化チタン2ml及びジビニルジメチルシラン0.3mlを含有するヘプタン溶液120mlを投入、100℃で5分間攪拌し、攪拌後、静置して、その後上澄みを除去した(都合2回の接触)。その後、2回目の接触と同様の操作を繰り返し、固体成分と、四塩化チタン及びジビニルジメチルシランの接触を都合5回行なった。その後、濾過、乾燥して、粉末状の固体触媒成分(A)を得た。この固体触媒成分中のチタン含有量を測定したところ、3.9重量%であった。すなわち、「成分(d)等の後接触工程」において、固体触媒成分(A)にはチタン量として、0.6重量%(3.9重量%−3.3重量%)が取り込まれたことになる。そして、脱離四塩化チタンの定量方法として、下記の洗浄方法が妥当であることの確認試験を行なった。なお、ヘプタン中の四塩化チタンの使用モル量は、固体成分中に含まれるチタン化合物のチタン原子換算のモル比で1.3倍であった。ジビニルジメチルシランの使用モル量は、固体成分中に含まれるチタン化合物のチタン原子換算のモル比で0.1倍であった。
【0076】
〈脱離四塩化チタンの定量〉
攪拌機を具備し、窒素ガスで充分に置換された容量500mlの丸底フラスコに、上記固体触媒成分(A)10gを装入し、その後40℃のヘプタン100mlを投入し、40℃で5分間、200rpmで攪拌した。攪拌停止後、濾過して、洗浄された固体触媒成分(A)を得た、これを1回として、都合8回のバッチ洗浄を繰り返した。攪拌機は丸底フラスコの中心部に設けられた攪拌軸に攪拌翼が付設されたものであった。その結果、8回洗浄後の固体触媒成分(A)中のチタン量は3.3重量%であり、脱離四塩化チタンは0.6重量%となり、当該洗浄方法が妥当なものであることが確認された。
【0077】
〈重合触媒の形成および重合〉
窒素ガスで完全に置換された内容積2.0リットルの撹拌機付オートクレーブに、トリエチルアルミニウム1.32mmol、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン0.13mmolおよび前記固体触媒成分(A)をチタン原子として0.0026mmol装入し、重合用触媒を形成した。その後、水素ガス1.5リットル、液化プロピレン1.4リットルを装入し、20℃で5分間予備重合を行なった後に昇温し、70℃で1時間重合反応を行った。このときの固体触媒成分1g当たりの重合活性、生成重合体中の沸騰n−ヘプタン不溶分の割合(HI)、生成重合体のメルトフローレイトの値(MFR)、生成固体重合体の44μm以下又は75μm以下の微粉の量、生成固体重合体の平均粒径および粒度分布を表1に示した。
【0078】
なお、ここで使用した固体触媒成分当たりの重合活性は下式により算出した。
重合活性=生成重合体(g)/固体触媒成分(g)
また、生成重合体中の沸騰n−ヘプタン不溶分の割合(HI)は、この生成重合体を沸騰n−ヘプタンで6時間抽出したときのn−ヘプタンに不溶解の重合体の割合(重量%)とした。さらに、生成重合体のメルトフローレイトの値(MFR)は、ASTM D 1238に準じて測定した。また、生成固体重合体の44μm以下の微粉または75μm以下の微粉の量は330メッシュまたは200メッシュの篩上に置いた生成ポリマーにエタノールを流し、篩を通過した微粒子を含むエタノール懸濁液を遠心分離することにより固体分(微粒子)を回収し、さらに減圧乾燥して重量を測る方法により測定した。次に、生成固体重合体の1700μm以上の粗粉の量は10メッシュの篩上の生成ポリマーを回収し測定した。生成固体重合体の平均粒径は、JISK0069に従い粒度分布を測定し、積算重量50%に相当する粒子径を求める方法により測定した。
【実施例2】
【0079】
ジビニルジメチルシランの代りに同モルのジビニルジクロロシランを用いて固体触媒成分(A)の調製を行なった以外は、実施例1と同じ条件で、重合触媒の形成及び重合を行なった。得られた結果を表1に示す。
【実施例3】
【0080】
ジビニルジメチルシランの代りに同モルのトリビニルメチルシランを用いて固体触媒成分(A)の調製を行なった以外は、実施例1と同じ条件で、重合触媒の形成及び重合を行なった。得られた結果を表1に示す。
【実施例4】
【0081】
フタル酸ジ−n−ブチルの代りに同モルのフタル酸ジイソブチルを用いて固体成分の調製を行なった以外は、実施例1と同じ条件で、重合触媒の形成及び重合を行なった。得られた結果を表1に示す。
【実施例5】
【0082】
〈固体成分の調製〉
無水塩化マグネシウム75g、デカン375mlおよび2―エチルヘキシルアルコール300gを135℃で4時間加熱して均一溶液とした後、この溶液中に無水フタル酸16.9gを添加し、さらに、135℃にて1時間攪拌混合を行い、無水フタル酸を溶解させた。このようにして得られた均一溶液を室温に冷却した後、この均一溶液のうち113mlを−20℃に保持した四塩化チタン300ml中に45分間にわたって滴下装入した。滴下後、液の温度を4時間かけて110℃に昇温し、110℃に達したところでフタル酸ジイソブチル1.6mlを添加した。さらに2時間上記の温度で攪拌した。2時間の反応終了後、濾過した。固体部をデカンで洗浄し、固体成分を得た。この固体成分中のチタン含有量を測定したところ、4.5重量%であった。
【0083】
上記で得られた固体成分を用いた以外は、実施例1と同じ条件で、固体触媒成分(A)の調製、重合触媒の形成及び重合を行なった。この固体触媒成分(A)中のチタン含有量を測定したところ、4.9重量%であった。すなわち、「成分(d)等の後接触工程」において、固体触媒成分(A)にはチタン量として、0.4重量%(4.9重量%−4.5重量%)が取り込まれたことになる。なお、ヘプタン中の四塩化チタンの使用モル量は、固体成分中に含まれるチタン化合物のチタン原子換算のモル比で1.0倍であった。ジビニルジメチルシランの使用モル量は、固体成分中に含まれるチタン化合物のチタン原子換算のモル比で0.1倍であった。得られた結果を表1に示す。
【0084】
比較例1
〈固体触媒成分の調製〉
攪拌機を具備し、窒素ガスで充分に置換された、容量3000mlの丸底フラスコに、ジエトキシマグネシウム75g及びトルエン375mlを装入し、懸濁状態とした。次いで、該懸濁液を、攪拌機を具備し、窒素ガスで充分に置換された、容量3000mlの丸底フラスコに予め装填されたトルエン150ml及び四塩化チタン225mlの溶液中に添加した。次いで、該懸濁液を6℃で1時間反応させた。その後、フタル酸ジ−n−ブチル22.5ml添加さらに105℃まで昇温した後、撹拌しながら2時間反応処理を行った。反応終了後、生成物を100℃のトルエン750mlで4回洗浄し、新たに四塩化チタン75ml及びジビニルジメチルシラン1.1mlを加えて、撹拌しながら100℃で0.5時間の反応処理を行った。次いで、生成物を40℃のヘプタン600mlで4回洗浄し、濾過、乾燥して、粉末状の固体触媒成分を得た。この固体触媒成分中のチタン含有量を測定したところ、3.8重量%であった。
【0085】
〈重合触媒の形成および重合〉
上記で得られた固体触媒成分を用いた以外は実施例1と同様に実験を行なった。得られた結果を表1に示した。
【0086】
比較例2
固体触媒成分(A)の調製時、ジビニルジメチルシランを用いなかった以外は、実施例1と同じ条件で、重合触媒の形成及び重合を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0087】
比較例3
固体触媒成分(A)の調製時、四塩化チタンを用いなかった以外は、実施例1と同じ条件で、重合触媒の形成及び重合を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0088】
比較例4
ジビニルジメチルシランの代りに同モルのジアリルジメチルシランを用いて固体触媒成分(A)の調製を行なった以外は、実施例1と同じ条件で、重合触媒の形成及び重合を行なった。得られた結果を表2に示す。
【実施例6】
【0089】
四塩化チタン2mlの代りに同モルの四塩化ケイ素を用いて、固体触媒成分(A)の調製を行なった以外は、実施例1と同じ条件で、重合触媒の形成及び重合を行なった。得られた結果を表3に示す。
【実施例7】
【0090】
四塩化チタン2mlの代りに同モルの1,2−ジクロロエタンを用いて、固体触媒成分(A)の調製を行なった以外は、実施例1と同じ条件で、重合触媒の形成及び重合を行なった。得られた結果を表3に示す。
【実施例8】
【0091】
四塩化チタン2mlの代りに同モルのHSiCl3を用いて、固体触媒成分(A)の調製を行った以外は、実施例1と同じ条件で、重合触媒の形成及び重合を行なった。得られた結果を表3に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
表1、表2および表3の結果から、本発明の方法により得られた固体触媒成分および触媒を用いてプロピレンの重合を行なうことにより、高立体規則性を有する重合体を高収率で得ることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム化合物(a)、チタンハロゲン化合物(b)及び電子供与性化合物(c)を接触させて得られる固体成分を、その固体成分中に含まれるチタン化合物のチタン原子換算のモル比で0.1〜15倍のハロゲン化合物(d)とビニルシラン化合物(e)を含有する不活性有機溶媒で該固体成分の表面又は固体成分中に(d)成分及び(e)成分を残留させるように接触し、その後乾燥して粉末状にしたことを特徴とするオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法。
【請求項2】
マグネシウム化合物(a)、チタンハロゲン化合物(b)及び電子供与性化合物(c)を接触させて得られる固体成分(A1)を不活性有機溶媒に懸濁させた液(X)と固体成分(A1)中に含まれるチタン化合物のチタン原子換算のモル比で0.1〜15倍のハロゲン化合物(d)とビニルシラン化合物(e)を含有する不活性有機溶媒(Y)を、40〜110℃で2〜10分間混合攪拌し、静置後上澄み液を除去して固体成分(A2)を得るI工程を有することを特徴とするオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法。
【請求項3】
前記固体成分(A2)と、ハロゲン化合物(d)及びビニルシラン化合物(e)を含有する不活性有機溶媒(Y)を40〜110℃で2〜10分間混合攪拌し、静置後上澄み液を除去して固体成分(A3)を得るII工程を更に有することを特徴とする請求項2記載のオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法。
【請求項4】
前記固体成分と、ハロゲン化合物(d)及びビニルシラン化合物(e)を含有する不活性有機溶媒(Y)との混合攪拌接触は、都合2〜8回行なうことを特徴とする請求項3記載のオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法。
【請求項5】
前記ビニルシラン化合物が下記の一般式(1);
(CH=CH)SiR4−m−n(1)
(ここで、Rは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素残基を、Xはハロゲンを示し、mは1≦m≦4の数を、nはm+n≦4を満たす数である)
で表わされることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法。
【請求項6】
前記ハロゲン化合物が四塩化チタンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法。
【請求項7】
前記不活性有機溶媒が脂肪族炭化水素溶媒であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法。
【請求項8】
(A)請求項1記載の製造方法で得られるオレフィン重合用固体触媒成分、
(B)下記一般式(1);RAlQ3−p(1)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Qは水素原子あるいはハロゲン原子を示し、pは0<p≦3の整数である。)で表される有機アルミニウム化合物および(C)外部電子供与性化合物から形成されることを特徴とするオレフィン類重合用触媒。
【請求項9】
請求項8に記載のオレフィン類重合用触媒の存在下に、オレフィン類の重合を行なうことを特徴とするオレフィン類重合体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−229277(P2010−229277A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78070(P2009−78070)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】