説明

オーディオコンプレッサ

【課題】オーディオ信号の入力レベルによらずコンプレッション効果が一定となる装置を提供すること。
【解決手段】ゲインコンバータ40が、予め設定した閾値tを、エンベロープ検出部30が出力したエンベロープ信号で除算したコンプレションゲインを出力し、乗算部50が入力信号とゲインコンバータ40で得られたコンプレションゲインとを乗算して出力する。この際、全波整流部20の前段に、入力信号を入力し、この入力レベルに拘わらず一定レベルの信号を生成出力するALC部10を設けたので全波整流部20に入力される信号レベルが入力レベルに拘わらず同一となり、入力レベルによらずコンプレッション効果を一定とすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ信号を圧縮するオーディオコンプレッサの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からオーディオ信号を圧縮するオーディオコンプレッサに関する種々の提案が行われてきた。例えば、入力オーディオ信号の振幅レベルに応じたゲイン調整データ(GR)に従って乗算器で入力オーディオ信号の振幅レベルを調整する(コンプレス又はエキスパンドする)し、ゲイン調整データ(GR)に応じてフィルタ制御データを発生し、このフィルタ制御データにより、入力オーディオ信号の周波数成分を制御するフィルタを制御するものがあった(例えば、特許文献1参照。)。そして、振幅コンプレションに関連づけて高域成分を減衰させ相対的に低域成分を強調して「音の太さ」を演出可能とするものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−112414号公報(第3−5頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の装置にあっては、入力ソースのレベルによってコンプレッション効果が依存してしまうという問題があった。つまり、入力ソースのレベルが小さかったり大きかったりする場合に得られるコンプレション効果が異なってしまっていた。そのため一定のコンプレッション効果を得るためには、入力ソースのレベル毎に細かなパラメータ調整(スレッショルド等の調整等)を強いられていた。
【0005】
本発明は、かかる従来の課題を解決するためになされたもので、入力レベルによらずコンプレッション効果が一定となる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、音楽信号を入力し、この入力レベルに拘わらず所定レベルの信号を生成出力するALC部(10)と、
該ALC部(10)が出力した信号を入力してこの全波整流信号を生成出力する全波整流部(20)と、
該全波整流部(20)が出力した全波整流信号に対するエンベロープ波形を生成出力するエンベロープ検出部(30)と、
予め設定した閾値(t)を、前記エンベロープ検出部(30)が出力したエンベロープ信号で除算したコンプレションゲインを出力するゲインコンバータ(40)と、
前記楽音信号と前記ゲインコンバータ(40)で得られたコンプレションゲインとを乗算して出力する乗算部(50)と、を備えたことを特徴とするようにした。
【0007】
この発明においては、エンベロープ検出部(30)が、全波整流部(20)が出力した全波整流信号に対するエンベロープ波形を生成出力し、ゲインコンバータ(40)が、予め設定した閾値(t)を、前記エンベロープ検出部(30)が出力したエンベロープ信号で除算したコンプレションゲインを出力し、乗算部(50)が楽音信号とゲインコンバータ(40)で得られたコンプレションゲインとを乗算して出力するが、全波整流部(20)の前段に、音楽信号を入力し、この入力レベルに拘わらず所定レベルの信号を生成出力するALC部(10)を設けたので、全波整流部(20)に入力される信号レベルが入力レベルに拘わらず同一となる。その結果、入力レベルによらずコンプレッション効果を一定とすることが可能となる。
【0008】
また、このオーディオコンプレッサにおいて、前記予め設定した閾値は0より大きく1より小さな範囲で変更可能とすることができ、前記ゲインコンバータは、前記閾値を超えない前記エンベロープ波形に対して、前記コンプレッションゲインを求めない構成とすることもできるし、更には、前記ゲインコンバータが、前記除算によって求めたコンプレッションゲインを所定値(例えば1.0)でクリッピングする構成とすることができる。そして、コンプレッションゲインを求める際に0で除算することを避けるため、エンベロープ検出部を、 自身が0を出力すると判断した場合、予め定められた0でない定数をエンベロープ信号として出力する構成とすることも好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、入力レベルによらずコンプレッション効果を一定とする装置を実現することが可能になるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態のオーディオコンプレッサ1の構成図である。
【図2】動作の説明図である。
【図3】動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0012】
(構成)
図1は本発明の実施形態であるオーディオコンプレッサ1の構成図である。このオーディオコンプレッサ1は、楽音信号、音声信号等の音楽信号を入力するALC部(Auto level controller)10と、このALC部10の出力信号を入力して全波整流信号を生成して出力する全波整流部20と、この全波整流部20が生成出力した全波整流信号を入力してこれに対するエンベロープ信号を生成出力するエンベロープ検出部30と、予め閾値(t)が設定されており、この閾値(t)をエンベロープ信号で除算してコンプレションゲインを求めるゲインコンバータ40と、このゲインコンバータ40が求めたコンプレッションゲインとオーディオコンプレッサ1に入力された入力信号とを乗算して出力信号を生成する乗算部50とを有して構成されている。
【0013】
ゲインコンバータ40の閾値(Threshold)「t」は、例えば「0.0<t<1.0」の範囲で変更設定可能になっており、コンプレッションゲインを求める際にその値を例えば「1.0」とすればクリッピングする構成となっている。更に、ゲインコンバータ40は、閾値tを超えないエンベロープ信号に対してコンプレッションゲインを新たに求めない構成となっている。閾値tを小さくしていくとコンプレッションが徐々かかるようになると共に、閾値tを大きくしていくと徐々にコンプレションがかかりにくくなるようにされている。
【0014】
ALC部10は、比較的大きな時定数を持つ構成として、時間的に長い期間で入力信号自体の平均レベルを計測し、コンプレッションゲインを求める際のレベル差を補正可能としている。エンベロープ検出部30は、入力信号のピーク成分を一定の減衰時間で減衰させる機能を有する。また、エンベロープ検出部30の出力は、次段のゲインコンバータ40で除数として用いられるため、「0」を出力しないように制御されている。具体例としては、エンベロープ検出部30は自身が「0」を出力すると判定した場合、予め定めた8ビットの0でない信号(「00000001」を出力する。なお、この例は一例にすぎなく「0」を出力すると判定した場合、「0」以外の微小な値を換わりに出力する構成とすれば良い。
【0015】
(動作)
図2(a)に示すように、大、中、小の3段階のレベルの入力信号が、図1の符号aに示す箇所に入力するものとする。すると、ALC部10は、入力レベルに拘わらず所定レベルの信号を出力するので、3段階のいずれのレベルであっても、図2(b)に示すように同一レベルの信号が出力される(図1の符号bで示す箇所での信号)。具体的には、ALC部10は、入力信号が正の場合には自身が出力可能な最大値まで持ち上げると共に、入力信号が負の場合には自身が出力可能な最小値まで引き下げて出力する。
【0016】
次に、全波整流部20によって、図2(c)に示す全波整流信号が出力される(図1の符号cの箇所での信号)。更に、全波整流部20によって生成出力された全波整流信号は、エンベロープ検出部30によって、そのエンベロープ信号が生成出力されて、図3(a)に示すような波形の信号が生成される(図1の符号dで示す箇所での信号)。なお、図3(a)において、「t」はゲインコンバータ40によって設定された閾値を示しており、この閾値tを超えた部分にのみコンプレションがかけられることになる(逆に閾値tよりも小さな部分にはコンプレッションはかけられない)。
【0017】
ゲインコンバータ40は、閾値tを、エンベロープ検出部30からのエンベロープ信号で除算してコンプレッションゲインを得ていく(図3(b)参照:図1の符号eの箇所での信号)。この除算結果は、例えば「1.0」でクリッピングされる。図3(b)においては、このクリッピング位置「1.0」を横方向の点線で記載している。そして、乗算部50は、順次求められるコンプレッションゲインとこのオーディオコンプレッサ1に入力される入力信号とを乗じて、出力信号として出力する(図1の符号fの箇所での信号)。この結果、図3(c)に示すような波形を得ることができる。この図3(c)を見て分かるように、3段階の大、中、小のいずれのレベルの入力信号に対しても、振幅の差はあれ出力信号の形は等しくなり、入力レベルによらずコンプレッション効果が一定となっている。
【0018】
以上説明してきたように、本発明の実施形態によれば、エンベロープ検出部30が、全波整流部20が出力した全波整流信号に対するエンベロープ信号を生成出力し、ゲインコンバータ40が、予め設定した閾値tを、エンベロープ検出部30が出力したエンベロープ信号で除算したコンプレションゲインを出力し、乗算部50が入力信号とゲインコンバータ40で得られたコンプレションゲインとを乗算して出力する。そして、全波整流部20の前段に、入力信号を入力し、この入力レベルに拘わらず所定レベルの信号を生成出力するALC部10を設けたので、全波整流部20に入力される信号レベルが入力レベルに拘わらず同一となる。その結果、入力レベルによらずコンプレッション効果を一定とすることが可能となる。
【0019】
なお、このオーディオコンプレッサ1はその全部または一部をハードウエアで実現しても良いし、その全部または一部をCPUやDSPが所定のプログラムを実行することによって実現することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
以上説明してきたように、本発明のオーディオコンプレッサはオーディオ分野等に利用することができる。
【符号の説明】
【0021】
1 オーディオコンプレッサ
10 ALC部
20 全波整流部
30 エンベロープ検出部
40 ゲインコンバータ
50 乗算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音楽信号を入力し、この入力レベルに拘わらず所定レベルの信号を生成出力するALC部と、
該ALC部が出力した信号を入力してこの全波整流信号を生成出力する全波整流部と、
該全波整流部が出力した全波整流信号に対するエンベロープ信号を生成出力するエンベロープ検出部と、
予め設定した閾値を、前記エンベロープ検出部が出力したエンベロープ信号で除算してコンプレションゲインを出力するゲインコンバータと、
前記楽音信号と前記ゲインコンバータで得られたコンプレションゲインとを乗算して出力する乗算部と、を備えたことを特徴とするオーディオコンプレッサ。
【請求項2】
請求項1に記載のオーディオコンプレッサにおいて、
前記予め設定した閾値は0より大きく1より小さな範囲で変更可能であることを特徴とするオーディオコンプレッサ。
【請求項3】
請求項1および2の内のいずれか一項に記載のオーディオコンプレッサにおいて、
前記ゲインコンバータは、
前記閾値を超えない前記エンベロープ信号に対して、前記コンプレッションゲインを求めないことを特徴とするオーディオコンプレッサ。
【請求項4】
請求項1、2および3の内のいずれか一項に記載のオーディオコンプレッサにおいて、
前記ゲインコンバータは、
前記除算によって求めたコンプレッションゲインを所定値でクリッピングすることを特徴とするオーディオコンプレッサ。
【請求項5】
請求項1、2、3および4の内のいずれか一項に記載のオーディオコンプレッサにおいて、
前記エンベロープ検出部は、
自身が0を出力すると判断した場合、予め定められた0でない定数をエンベロープ信号として出力することを特徴とするオーディオコンプレッサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−65068(P2012−65068A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206351(P2010−206351)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000130329)株式会社コルグ (111)
【Fターム(参考)】