説明

オーディオシステム

【課題】 リスナが聴き疲れしないような音声で、右耳用ラウドスピーカからリスナの右耳に専ら入力すべき音声を出力するとともに、左耳用ラウドスピーカからリスナの左耳に専ら入力すべき音声を出力することができるオーディオシステムを提供する。
【解決手段】 左耳用ラウドスピーカ200LS、及び右耳用ラウドスピーカ200RSと、リスナの左耳に専ら入力するべきオーディオ信号を前記左耳用ラウドスピーカに入力するとともに、リスナの右耳に専ら入力するべきオーディオ信号を前記右耳用のラウドスピーカに入力するオーディオ装置300を備えたオーディオシステム100であって、前記左耳用及び右耳用ラウドスピーカは、所定の聴取位置においてリスナの両耳のうちそれぞれ右耳及び左耳のみに音声が到達する狭い指向特性で音声を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、左耳用ラウドスピーカに、リスナの左耳に専ら入力するべき音声のオーディオ信号を入力するとともに、右耳用ラウドスピーカに、リスナの右耳に専ら入力するべき音声のオーディオ信号を入力するオーディオシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リスナの前方右側及び前方左側に配置された左右のラウドスピーカにバイノーラル信号等を入力するオーディオシステムが一般的に使用されるようになっている(例えば、特許文献1)。このバイノーラル信号とは、リスナの左耳に到達させるべき音声を左耳用スピーカから出力し、リスナの右耳に到達させるべき音声を右耳用スピーカから出力することにより、リスナに対する所定の定位感を実現するものである。
【0003】
このため、左耳に到達させるべき音声が右耳に入力されたり、右耳に到達させるべき音声が左耳に入力されると、せっかくの所定の定位感が薄れてしまう。この右耳に到達する左耳に入力させるべき音声と左耳に到達する右耳に入力させるべき音声をクロストークという。しかしながら、ヘッドフォンではなくラウドスピーカから音声を放音すると、図5で示すように、クロストークが生じてしまう。
【0004】
この様な不都合を防止するために、従来のオーディオシステムではクロストーク成分をキャンセルする信号を左右スピーカに入力するオーディオ信号に加算していた。すなわち、右スピーカからリスナの左耳に到達するクロストークをキャンセルする信号を左スピーカに入力するオーディオ信号に加算していた。これとともに、左スピーカからリスナの右耳に到達するクロストークをキャンセルする信号を右スピーカに入力するオーディオ信号に加算していた。
【0005】
このようなキャンセル信号によってクロストーク成分がリスナの耳口に入力される前に打ち消され、クロストーク成分がリスナの耳口に入力されることを防止していた。これによって、ラウドスピーカから音声を出力する構成であっても、クロストークを防止して、リスナに所定の位置Pに音源があるように認識させることができる。
【特許文献1】特開2000−059880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のオーディオシステムでは、この様に左右各チャンネルのオーディオ信号に、クロストークをキャンセルするための信号を付加する処理を行うため、この処理を施した音声を長時間聴くとリスナが聴き疲れをおこしていた。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、リスナが聴き疲れしないような音声で右耳用ラウドスピーカからリスナの右耳に専ら入力すべき音声を出力するとともに、左耳用ラウドスピーカからリスナの左耳に専ら入力すべき音声を出力することができるオーディオシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明では以下の手段を採用している。
【0009】
(1)本発明は、左耳用ラウドスピーカ、及び右耳用ラウドスピーカと、
リスナの左耳に専ら入力するべきオーディオ信号を前記左耳用ラウドスピーカに入力するとともに、リスナの右耳に専ら入力するべきオーディオ信号を前記右耳用ラウドスピーカに入力するオーディオ装置を備えたオーディオシステムであって、前記左耳用及び右耳用ラウドスピーカは、それぞれ所定の聴取位置においてリスナの両耳のうちそれぞれ左耳及び右耳のみに音声が到達する狭い指向特性で音声を出力するものである。
【0010】
上記構成では、左耳用ラウドスピーカに対して、リスナの左耳に専ら入力するべき音声のオーディオ信号が入力される。これによって、左耳用ラウドスピーカからリスナの左耳に専ら入力するべき音声が放音される。これとともに、右耳用ラウドスピーカに対して、リスナの右耳に専ら入力するべき音声のオーディオ信号が入力される。これによって、右耳用ラウドスピーカからリスナの右耳に専ら入力するべき音声が放音される。
【0011】
ここで、左耳用及び右耳用ラウドスピーカは、所定の聴取位置においてリスナの両耳のうちそれぞれ右耳及び左耳のみに音声が到達する狭い指向特性で音声を出力する。このため、左耳用ラウドスピーカからは、聴取位置において、左耳のみに到達して右耳には到達しない音声ビームを出力することが可能となる。また、右耳用ラウドスピーカからは、聴取位置において、右耳のみに到達して左耳には到達しない音声ビームを出力することが可能となる。
【0012】
これによって、左耳用スピーカからの音声が右耳に到達することや、右耳用スピーカからの音声が左耳に到達することを効果的に防止することが可能となる。この左耳用スピーカから出力されて右耳に到達する音声、及び右耳用スピーカから出力されて左耳に到達する音声をクロストークという。このクロストークが生じると、リスナは右耳に到達する音声と左耳に到達する音声の音量及び入力タイミングから音源の方向を認識してしまう。このクロストークを防止し、左耳に専ら入力すべき音声を左耳に入力し、右耳に専ら入力すべき音声を右耳に入力することで、リスナに所定の定位感を与えることが可能となる。
【0013】
ここでは、このクロストークをキャンセルするための音声信号処理をオーディオ装置でオーディオ信号に施すことなく、左耳用ラウドスピーカと右耳用ラウドスピーカの特性のみでクロストークを防止する。このため、クロストークをキャンセルするための音声信号処理を施したオーディオ信号の音声と比較して、聴き疲れのしない音声を出力することが可能となる。
【0014】
(2)本発明は、前記左耳用及び右耳用ラウドスピーカは、ライン状に配列された複数のスピーカユニットを備えたアレイスピーカであり、前記オーディオ装置は、左方向に音声ビームを形成するように左耳のオーディオ信号を処理するとともに、右方向に音声ビームを形成するように右耳のオーディオ信号を処理する信号処理部を備える、ことを特徴とする。
【0015】
この様に、前方左耳用及び右耳用ラウドスピーカはアレイスピーカである。そして、信号処理部によって、左方向に音声ビームを形成するように左耳のオーディオ信号が処理されて、左耳用のアレイスピーカに入力される。また、右方向に音声ビームを形成するように右耳のオーディオ信号が処理されて、右耳用のアレイスピーカに入力される。このため、所定の聴取位置においてリスナの両耳のうちそれぞれ右耳及び左耳のみに到達するような狭い指向特性で音声ビームを出力することが可能となる。
【0016】
なお、マトリクス状や千鳥格子上に配列されたスピーカユニットを備えたアレイスピーカであっても、「ライン状に配列されたスピーカユニットを備えた」構成であるため、ここでのアレイスピーカに含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クロストークをキャンセルするための音声信号処理をオーディオ装置でオーディオ信号に施すことなく、左耳用ラウドスピーカと右耳用ラウドスピーカの特性のみでクロストークを防止することができる。これによって、クロストークをキャンセルするための音声信号処理を施したオーディオ信号の音声と比較して、聴き疲れのしない音声を出力するオーディオシステムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1〜図4を参照して本発明の実施形態であるオーディオシステム100について説明する。図1は、本実施形態にかかるオーディオシステム100のスピーカ200の配置及びスピーカ200LS,200RSから出力される音声を説明するための図である。オーディオシステム100は、5.1チャンネル方式のシステムである。すなわち、オーディオシステム100はチャンネルl,r,c,rs,lsのオーディオ信号を出力する。 このため、オーディオシステム100は、チャンネルl,r,cの音声を入力するためのスピーカ200L,200Rの他に、チャンネルls,rsの音声を入力するためのスピーカ200LS(左耳用ラウドスピーカ),200RS(右耳用ラウドスピーカ)を備える。これらのスピーカ200L,200LSは聴取位置lpに居るリスナの前方左側(図面奥左側)に配置され,スピーカ200R,200RSはリスナの前方右側(図面奥右側)に配置される。
【0019】
なお、5.1チャンネル方式では、上記チャンネルl,r,c,rs,lsのオーディオ信号の他にサブウーファに出力するチャンネルもあるが、本実施形態ではこのチャンネル及びサブウーファに関する説明を省略する。また、これらのスピーカ200L,200R,200LS,200RSを区別しない場合には、スピーカ200と記載する。
【0020】
チャンネルls,rsのオーディオ信号はバイノーラルオーディオ信号であり、リスナの左耳に専ら到達させるべきオーディオ信号がスピーカ200LSに入力されるとともに、右耳に専ら到達させるべきオーディオ信号がスピーカ200RSに入力される。このオーディオ信号は、位置Pに定位するように周波数特性が調整されている(詳細は後述する)。これによって、リスナにチャンネルls,rsの音声の音源が位置Pにあると認識させることができる。
【0021】
このような構成では、リスナの右耳にスピーカ200LSからの音声(クロストーク)が入力されたり、リスナの右耳にスピーカ200RSからの音声(クロストーク)が入力されると、せっかく付与した定位感が薄れてしまう。
【0022】
本実施形態では、スピーカ200LS,200RSを、アレイスピーカで構成し、左サラウンド信号をリスナの左耳に向けて音声ビーム化し、右サラウンド信号をリスナの右耳に向けて音声ビーム化するようにしている。同図はこのアレイスピーカの機能を象徴的に表したものである。そして、スピーカ200LSは、聴取位置lpにおいて、リスナの両耳のうち右耳のみに音声が到達するような狭い指向性で音声ビームを出力する。また、スピーカ200RSは、リスナの両耳のうち右耳のみに音声が到達するような狭い指向性で音声ビームを出力する。
【0023】
これによって、上述したようなクロストークが防止される。なお、ここではスピーカ200L,200Rは、通常のラウドスピーカであり、リスナの聴取位置lp全体をカバーする指向範囲で聴取位置lpに音声が到達するように音声を出力するが、これらもアレイスピーカで構成してもよい。
【0024】
このように、オーディオシステム100では、スピーカ200LS,200RSの特性でクロストークキャンセルを防止するのであって、オーディオ信号処理によってクロストークを防止するのではない。このため、スピーカ200LS,200RSから出力される音声は、クロストークキャンセルをするオーディオ信号処理を施した音声のような聴き疲れのする音声とはならない。
【0025】
以下に、図2及び図3を用いてスピーカ200LS,200RSの構成を説明する。図2(A)は、スピーカ200LS,200RSの正面図であり、(B)は、(A)のスピーカ200LS,200RSが音声ビームを出力する原理を示す図である。図3は、図2で示すスピーカ200LS,200RSからの音声ビームの焦点合わせの原理を説明するための図である。
【0026】
図2を参照して、(A)で示すように、スピーカ200LS,200RSはスピーカユニットsuをライン状に複数配列してなるアレイスピーカである。(B)で示すように、各スピーカユニットsuからの出力音声は放射状(円形)に伝播する。このため、同じオーディオ信号が各スピーカユニットsuから出力された場合には、各スピーカユニットsuから放音された音声は、各スピーカユニットsuの正面方向に伝播する成分のみ位相が一致して強め合う。そして、他の斜め方向へ伝播する成分は隣接するスピーカユニットsuからの成分と干渉し合うことで打ち消される。
【0027】
これによって、各スピーカユニットsuの合成された成分は各スピーカユニットsuの正面方向に伝播する音声ビームが主力となる。この音声ビームは、図3で示すように、各スピーカユニットsuに入力するオーディオ信号の遅延時間を調整することで、焦点合わせを行うことができる。この焦点合わせは、各スピーカユニットsuから出力された音声が同時に焦点に到達するように各スピーカユニットsuに入力するオーディオ信号に遅延時間(図中の矢印で示す時間)を付与することで行われる。
【0028】
上述したように、スピーカ200LS,200RSではスピーカユニットsuの配列方向で音声ビームの指向方向を制御することができる。このため、この配列方向が図1の左右方向に一致するように、スピーカ200LS,200RSは配置される。
【0029】
図4は、オーディオシステム100の構成を概略的に示すブロック図である。オーディオシステム100は上述したスピーカ200L,200R,200LS,200RSと、これらのスピーカ200を接続するオーディオ装置300とを備える。オーディオ装置300は、オーディオインタフェース1、信号処理部2、DAコンバータ3、増幅部4及びコントロール部5を備える。
【0030】
オーディオインタフェース1は、入力端子6aに接続された図略のオーディオ再生装置から入力端子6aを介してデジタルのオーディオ信号を入力するためのインタフェース回路である。信号処理部2は、オーディオインタフェース1から入力したオーディオ信号を各チャンネルl,r,c,ls,rsに分離し、この分離したオーディオ信号に対してフィルタ処理(周波数特性制御)、スピーカ200への出力レベル、遅延時間の調整等の信号処理を施す。
【0031】
信号処理部2は、例えばDSP(DigitalSignal Processor)等から成り、信号処理を施したオーディオ信号を、チャンネルl,rについては対応するDAコンバータ3に対して出力する。これとともに、信号処理部2はセンタチャンネルcのオーディオ信号については、2つに分離して加算部71,72にそれぞれ入力する。
【0032】
加算部71は信号処理部2−DAコンバータ3(31)の信号経路に配置されており、加算部72は信号処理部2−DAコンバータ3(32)の信号経路に配置されている。これらの加算部71,72によって、チャンネルcのオーディオ信号がチャンネルl,rのオーディオ信号にそれぞれ加算される。この加算されたオーディオ信号が、DAコンバータ31,32にそれぞれ入力される。
【0033】
また、信号処理部2は、チャンネルls,rsのオーディオ信号については、後述するリア定位付加部8に入力する。
【0034】
DAコンバータ3は、入力したデジタルのオーディオ信号をアナログ信号に変換する。DAコンバータ3は各スピーカ200毎に設けられておりスピーカ200Lに対応するものがDAコンバータ31である。スピーカ200Rに対応するものがDAコンバータ32である。スピーカ200LSに対応するものがDAコンバータ33である。スピーカRSに対応するものがDAコンバータ34である。
【0035】
DAコンバータ31,32には、加算部71,72を介してチャンネルcのオーディオ信号が加算されたチャンネルl,rのオーディオ信号が入力される。DAコンバータ33,34にはチャンネルls,rsのオーディオ信号が入力される。
【0036】
増幅部4(41〜44)は、各スピーカ200毎に設けられており、DAコンバータ3から入力したオーディオ信号の信号レベルを増幅して出力端子6bに接続されたスピーカ200に入力する。これによって、スピーカ200L,200R,200LS,200RSからチャンネルl,r,c,ls,rsの音声がそれぞれ放音される。
【0037】
コントロール部5は、メモリ等の記憶部、ユーザの操作を受け付ける操作部等とともに、CPU(Central Processing Unit)からなり、メモリに記憶されるプログラムを実行することで、本オーディオ装置300の各部の動作を制御する。
【0038】
また、上記構成に加えて、オーディオ装置300は、チャンネルls,rsのオーディオ信号に対して音声信号処理を行うためにリア定位付加部8、信号補正部9及びディレイ調整部10を備える。リア定位付加部8は、例えば例えばFIR(Finite Impulse Response)フィルタ等で実現され、所定の位置Pへチャンネルl,rの音声を定位させるために、オーディオ信号の周波数特性を補正する。
【0039】
音声が音源から人間の耳口に到達する際に、音源から耳口までの距離や方向に応じて音声が減衰し、周波数特性が変化する。この他に、頭部による反射や周り込み、耳介での反射等によっても周波数特性が変化する。この周波数特性の変化に基づいて、リスナは経験的に音源の方向や距離を認識する。
【0040】
このため、周波数特性を補正することで、リア定位付加部8は所定の方向及び距離に(位置Pに)音源があるとリスナに認識させるようにする。リア定位付加部8は、チャンネルlのオーディオ信号の周波数特性を補正するLSリア定位付加部8Aと、チャンネルrのオーディオ信号の周波数特性を補正するRSリア定位付加部8Bからなる。
【0041】
LSリア定位付加部8Aには、信号処理部2からチャンネルlsのオーディオ信号が入力される。LSリア定位付加部8Aは入力されたオーディオ信号を、スピーカ200LSに入力する用のオーディオ信号(オーディオ信号x1)とスピーカ200RSに入力する用のオーディオ信号(オーディオ信号x2)の2つに分離する。
【0042】
LSリア定位付加部8Aには、図1で示すように位置Pからリスナの左耳までの頭部伝達関数(HTRF)h1に対応するフィルタ係数が設定されている。また、位置Pからリスナの右耳までの頭部伝達関数h2に対応するフィルタ係数が設定されている。この頭部伝達関数とは、音源からリスナの耳口までの音声の伝達関数である。
【0043】
LSリア定位付加部8Aは、オーディオ信号x1を頭部伝達関数h1に対応するフィルタ係数で畳み込み演算を行う。これとともに、オーディオ信号x2を頭部伝達関数h2に対応するフィルタ係数で畳み込み演算を行う。これによって、音声が位置Pに定位するように、チャンネルlsのオーディオ信号の周波数特性を補正することができる。
【0044】
RSリア定位付加部8Bは、頭部伝達関数h1,h2に対応するフィルタ係数が設定されている。RSリア定位付加部8Bには、信号処理部2からチャンネルrsのオーディオ信号が入力される。RSリア定位付加部8Bもまた、入力されたオーディオ信号をスピーカ200RSに入力する用のオーディオ信号(オーディオ信号x3)とスピーカ200LSに入力する用のオーディオ信号(オーディオ信号x4)の2つに分離する。
【0045】
そして、RSリア定位付加部8Bも、LSリア定位付加部8Aと同様に、オーディオ信号x3を頭部伝達関数h2に対応するフィルタ係数で畳み込み演算を行う。これとともに、オーディオ信号x4を頭部伝達関数h1に対応するフィルタ係数で畳み込み演算を行う。これによって、音声が位置Pに定位するように、チャンネルrsのオーディオ信号の周波数特性を補正することができる。
【0046】
上述したように周波数特性が補正された後、オーディオ信号x1はLSリア定位付加部8Aから対応する信号補正部9(9A)に入力される。また、オーディオ信号x1はRSリア定位付加部付加部8Bから対応する信号補正部9(9B)に入力される。このLSリア定位付加部8Aから信号補正部9(9A)までの信号経路には加算部11Aが配置されている。また、RSリア定位付加部8Bから信号補正部9(9B)までの信号経路には加算部11Bが配置されている。
【0047】
LSリア定位付加部8Aからのオーディオ信号x2は加算部11Bに入力される。この加算部11Bでオーディオ信号x3にオーディオ信号x2が加算された後、加算信号(オーディオ信号x11)が信号補正部9(9B)に入力される。また、RSリア定位付加部8Bからのオーディオ信号x4は加算部11Aに入力される。この加算部11Aでオーディオ信号x1にオーディオ信号x4が加算された後、加算信号(オーディオ信号x12)は信号補正部9(9A)に入力される。
【0048】
信号補正部9は、例えばFIR(FiniteImpulse Response)フィルタ等で実現される。信号補正部9は、リア定位付加部8と同様に入力されたオーディオ信号の周波数特性を補正する。もっとも、信号補正部9での周波数特性の補正の目的は、スピーカ200LS,200RSからリスナの耳口に到達する音声の周波数特性をフラットに補正するためである。
【0049】
スピーカ200LS,200RSからの音声はリスナの耳口に到達する際に、距離に応じて減衰して周波数特性が変化する。また、頭部による反射や周り込み、耳介での反射等によっても周波数特性が変化する。上述したように、人間は周波数特性の変化から音源の方向や音源からの距離を認識する。このため、何らオーディオ信号の補正を行わないと、スピーカ200LS,200RSからリスナの耳口までの周波数特性の変化に影響されて、リスナは位置Pに音声が定位すると認識できなくなる。
【0050】
このため、信号補正部9は、この周波数特性の変化前の状態で音声がリスナの耳口に到達するように(フラットに)オーディオ信号の周波数特性を補正する。
【0051】
信号補正部9は、LSch信号補正部9AとRSch信号補正部9Bとからなる。LSch信号補正部9Aには、スピーカ200LSからリスナの左耳までの頭部伝達関数h3に対応したフィルタ係数が設定されている。
【0052】
ここで、スピーカ200LSの各スピーカユニットsuからリスナの左耳までの距離はそれぞれ異なる。このため、LSch信号補正部9Aには、この各スピーカユニットsuからリスナの左耳までの頭部伝達関数h3のフィルタ係数が設定される。すなわち、スピーカユニットsuの個数分の異なったフィルタ係数が設定されることになる。
【0053】
LSch信号補正部9Aには、上述したようにオーディオ信号x11が入力される。LSch信号補正部9Aは、スピーカ200LSのスピーカユニットsuの個数分だけ、入力したオーディオ信号x11を分離する。そして、LSch信号補正部9Aは、分離した各オーディオ信号x11をそれぞれ対応するフィルタ係数で畳み込み演算を行うことで、周波数特性を補正する。LSch信号補正部9Aはこの補正後の各オーディオ信号x11を対応するディレイ調整部10(10A)に入力する。
【0054】
RSch信号補正部9Bには、スピーカ200RSからリスナの右耳までの頭部伝達関数h4に対応したフィルタ係数が設定されている。ここで、スピーカ200RSの各スピーカユニットsuからリスナの右耳までの距離はそれぞれ異なる。このため、RSch信号補正部9Bには、この各スピーカユニットsuからリスナの右耳までの頭部伝達関数h4のフィルタ係数が設定される。すなわち、スピーカユニットsuの個数分の異なったフィルタ係数が設定されることになる。
【0055】
RSch信号補正部9Bには、上述したようにオーディオ信号x12が入力される。RSch信号補正部9Bは、スピーカ200RSのスピーカユニットsuの個数分だけ、入力したオーディオ信号x12を分離する。この分離した各オーディオ信号x12をそれぞれ対応するフィルタ係数で畳み込み演算を行うことで、RSch信号補正部9Bはオーディオ信号x12の周波数特性を補正する。RSch信号補正部9Bはこの補正後の各オーディオ信号x12を対応するディレイ調整部10(10B)に入力する。
【0056】
上述したように、LSch信号補正部9A及びRSch信号補正部9Bでは、スピーカRS,LSのスピーカユニットsuの個数分だけオーディオ信号x11,x12が分離される。そして、分離された各オーディオ信号x11,x12には、その信号が入力されるスピーカユニットsuからリスナの耳までの頭部伝達関数の逆関数に基づく周波数特性が付与される。 これによって、各スピーカユニットsuからリスナの耳口までの頭部伝達関数の違いを踏まえて、オーディオ信号x11,x12の周波数特性を十分にフラットに補正することができる。このため、スピーカLS,RSからリスナの耳口までの周波数特性の変化に影響されず、リスナは位置Pに音声が定位すると認識することができる。
【0057】
ディレイ調整部10は、オーディオ信号x11,x12に遅延時間を付与する。オーディオ信号x11に遅延時間を付与するものがディレイ調整部10Aであり、オーディオ信号x12に遅延時間を付与するものがディレイ調整部10Bである。ディレイ調整部10Aには各オーディオ信号x11が、ディレイ調整部10Bには各オーディオ信号x12が入力される。
【0058】
そして、ディレイ調整部10A,10Bが、図3で示したように、各オーディオ信号x11,x12に遅延時間を付与する。これによって、スピーカ200LSから出力される音声ビームの焦点がリスナの左耳に合わせられるとともに、スピーカ200RSから出力される音声ビームの焦点がリスナの右耳に合わせられる。
【0059】
遅延時間を付与されたオーディオ信号x11はディレイ調整部10AからDAコンバータ33に入力される。これとともに、遅延時間を付与されたオーディオ信号x12はディレイ調整部10BからDAコンバータ34に入力される。この後、オーディオ信号x11はDAコンバータ33−増幅部43を介してスピーカ200LSに入力される。また、オーディオ信号x12はDAコンバータ34−増幅部44を介してスピーカ200RSに入力される。
【0060】
これによって、スピーカ200LSからはオーディオ信号x11の音声ビームが出力されるが、この音声ビームは右耳には到達せずに左耳にのみ到達する。また、スピーカ200RSからはオーディオ信号x12の音声ビームが出力されるが、この音声ビームは左耳には到達せずに右耳にのみ到達する。このため、スピーカ200LSからの音声が右耳に到達するクロストークや、スピーカ200RSからの音声が左耳に到達するクロストークが生じない。
【0061】
上述したように、本実施形態では、アレイスピーカであるスピーカ200LS,200RSを用いている。そして、スピーカ200LSからの音声がリスナの両耳のうち右耳に到達しないような狭い指向範囲でリスナの左耳に音声ビームを指向させる。そして、スピーカRSからの音声がリスナの両耳のうち左耳到達しないような狭い指向範囲でリスナの右耳に音声ビームを指向させる。
【0062】
この様にして、スピーカ200LS,200RSの特性を利用してクロストークが防止されている。すなわち、本実施形態では、オーディオ信号処理クロストークをキャンセルするためのオーディオ信号処理を行うことでクロストークを防止するのではない。このため、長時間聴いても聴き疲れすることなく、リスナにチャンネルls,rsの音声を聴かせることができる。
【0063】
本実施形態は、以下の変形例を採用することができる。
【0064】
(1)本実施形態では、スピーカ200LS,200RSのみをアレイスピーカで構成しているが、スピーカ200L,200Rをアレイスピーカで構成してもよい。また、アレイスピーカで構成したスピーカ200L,200Rからl,rチャンネルの音声を出力し、スピーカ200LS,200RSを設けない構成であってもよい。
【0065】
(2)また、本実施形態では、スピーカ200LS,200RSのスピーカユニットsuの配列は一列のライン状であるが、これに限定されない。音声ビームの焦点合わせが可能な配列であればよく、例えば、マトリクス状や千鳥格子状等にスピーカユニットsuが配列されてもよい。
【0066】
(3)また、スピーカ200LS,200RSを別体で設ける構成であるが、この構成に限定されない。例えば、スピーカ200LS,200RSを1台のアレイスピーカで構成してもよい。この場合には、1台のアレイスピーカのスピーカユニット群のうち一部からリスナの右耳に指向する音声ビームが出力され、他の一部からリスナの左耳に指向する音声ビームが出力される。
【0067】
(4)なお、スピーカ200LS,200RSはアレイスピーカであるが、これに限定されない。スピーカ200LS,200RSは、聴取位置lpにおいて、リスナの両耳のうちそれぞれ左耳及び右耳のみに到達するような狭い指向範囲で音声を出力することが可能なスピーカであればよい。
【0068】
(5)また、5.1チャンネルのマルチチャンネル方式のオーディオシステム100について説明したが、チャンネル数はこれに限定されない。左耳に専ら入力すべき音声及び右耳に専ら入力すべき音声の少なくとも2チャンネルのオーディオ信号を対応するスピーカ200に入力する構成であればよい。
【0069】
(6)なお、本実施形態では、リスナは所定の聴取位置lpで音声を聴かなくてはならないが、リスナの移動に追随して音声ビームの指向方向が制御される構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本実施形態にかかるオーディオシステムのスピーカの配置及びスピーカから出力される音声を説明するための図である。
【図2】スピーカの正面図であり、(B)は、(A)のスピーカが音声ビームを出力する原理を示す図である。
【図3】図2で示すスピーカからの音声ビームの焦点合わせの原理を説明するための図である。
【図4】オーディオシステムの構成を概略的に示すブロック図である。
【図5】クロストークを説明するための図である。
【符号の説明】
【0071】
100−オーディオシステム 200LS−スピーカ(左耳用スピーカ) 200RS−スピーカ(右耳用スピーカ) 300−オーディオ装置 11−ディレイ調整部(信号処理部)
P−定位位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左耳用ラウドスピーカ、及び右耳用ラウドスピーカと、
リスナの左耳に専ら入力するべきオーディオ信号を前記左耳用ラウドスピーカに入力するとともに、リスナの右耳に専ら入力するべきオーディオ信号を前記右耳用ラウドスピーカに入力するオーディオ装置を備えたオーディオシステムであって、
前記左耳用及び右耳用ラウドスピーカは、それぞれ所定の聴取位置においてリスナの両耳のうちそれぞれ左耳及び右耳のみに音声が到達する狭い指向特性で音声を出力するものである、
ことを特徴とするオーディオシステム。
【請求項2】
前記左耳用及び右耳用ラウドスピーカは、ライン状に配列された複数のスピーカユニットを備えたアレイスピーカであり、
前記オーディオ装置は、左方向に音声ビームを形成するように左耳のオーディオ信号を処理するとともに、右方向に音声ビームを形成するように右耳のオーディオ信号を処理する信号処理部を備える、ことを特徴とする請求項1に記載のオーディオシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−352732(P2006−352732A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178883(P2005−178883)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】