説明

カスパーゼの活性化因子およびアポトーシスの誘導因子としてのならびに抗血管剤としての置換された4−アリール−クロメンおよびその使用法

本発明は、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない、式1Rで表される置換された4H−クロメンを対象にする。本発明はまた、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない化合物1Rが、カスパーゼの活性化因子およびアポトーシスの誘導因子、ならびに抗血管剤であるという発見に関する。従って、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない化合物1Rは、制御されない増殖および異常細胞の拡散が起こるさまざまな臨床状況において細胞死の誘導に使用できる。対応する(S)立体異性体を実質的に含まない化合物1Rはまた、血管系の過度な成長による疾患、例えば、固形腫瘍および眼球血管新生の治療にも使用できる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、薬化学の分野に関する。特に、本発明は、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない(R)(−)−2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1R)が、アポトーシスの誘導因子であり、さらに血管破壊剤であるという発見に関する。また、本発明は、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない化合物1Rの、治療効果を有する抗癌剤としての使用、および他の抗癌剤との併用、ならびに眼球血管新生等の血管系の過度な成長による疾患の治療のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
生物は、不要な細胞を制御された細胞死、プログラムされた細胞死、あるいはアポトーシス等としてさまざまに知られている工程により排除する。このような細胞死は、動物の成長、ならびに組織の恒常性および老化の正常な局面として起こる(Glucksmann, A., Biol. Rev. Cambridge Philos. Soc. 26:59-86 (1951); Glucksmann, A., Archives de Biologie 76:419-437 (1965); Ellis, et al., Dev. 112:591-603 (1991); Vaux et al., Cell 76:777-779 (1994))。アポトーシスは、細胞数を制御し、形態形成を促進し、有害なまたはそうでなければ異常な細胞を排除し、その機能を既に果たした細胞を除去する。さらに、アポトーシスは、様々な生理的ストレス、例えば低酸素症または虚血に対する応答として生じる(WO96/20721)。
【0003】
血漿および核膜小疱形成、細胞の縮小(核細胞質および細胞質の凝結)、小器官の再局在化およびコンパクション、クロマチン凝縮、ならびにアポトーシス体(膜に封入された粒子を含有する細胞内材料)の産生等の制御された細胞死を経験している細胞によって共有される多くの形態変化がある(Orrenius, S., J. Internal Medicine 237:529-536 (1995))。
【0004】
アポトーシスは、細胞自殺の内在性メカニズムにより達成される(Wyllie, A.H., in Cell Death in Biology and Pathology, Bowen and Lockshin, eds., Chapman and Hall (1981), pp. 9-34)。細胞は、内部または外部シグナルのいずれかの結果として、内部的にコードされた自殺プログラムを活性化させる。自殺プログラムは、入念に制御された遺伝子プログラムの活性化により実行される(Wyllie, et al., Int. Rev. Cyt. 68:251 (1980); Ellis, et al., Ann. Rev. Cell Bio. 7:663 (1991))。アポトーシス細胞およびアポトーシス体は、通常、溶解の前に、隣接する細胞またはマクロファージにより認識され除去される。この排除機構のために、多数の細胞が排除されるにも関わらず、炎症は誘発されない(Orrenius, S., J. Internal Medicine 237:529-536 (1995))。
【0005】
プロテアーゼの一群は、アポトーシスにおける主要素であることが明らかになっている(例えば、Thornberry, Chemistry and Biology 5:R97-R103 (1998); Thornberry, British Med. Bull. 53:478-490 (1996)参照)。線虫のエレガンス線虫(Caenorhabditis elegans)の遺伝学研究から、アポトーシス細胞死には少なくとも14の遺伝子が関与しており、その内の2つはアポトーシス促進性(細胞死促進性)ced(細胞死異常(cell death abnormal)を意味する)遺伝子、ced-3およびced-4であることが明らかになった。CED-3は、システインプロテアーゼであり、現在カスパーゼ−1と呼ばれている、インターロイキン1β変換酵素と相同である。これらのデータを最終的に哺乳類に適用し、さらに詳しい研究を行った結果、哺乳類のアポトーシスシステムにはカスパーゼのカスケード、あるいはカスパーゼのカスケードの様に振る舞うシステムが関与しているらしいことが明らかになった。現在カスパーゼファミリーのシステインプロテアーゼは、異なる14種類のプロテアーゼからなり、今後さらに発見され得る。公知の全てのカスパーゼは、活性化された酵素を形成する前にアスパルチル残基において切断を必要とする酵素前駆体として合成される。従って、カスパーゼは、増幅するカスケードのように他のカスパーゼを活性化することが可能である。
【0006】
アポトーシスおよびカスパーゼは、癌の発症にとって重大であると考えられている(Apoptosis and Cancer Chemotherapy, Hickman and Dive, eds., Humana Press (1999))。癌細胞はカスパーゼを含有するものの、カスパーゼカスケードを活性化する分子機構の一部を欠いているという多数の証拠がある。これは、癌細胞の細胞自殺を引き起こす能力を失わせ、その細胞を不死化させる、即ち、癌化させる。アポトーシスプロセスの場合、活性化に導く介入ポイントを示す制御ポイントが存在することが公知である。これらの制御ポイントとしては、CED-9-BCL様、CED-3-ICE様遺伝子ファミリー産物が挙げられ、これらはそれぞれ細胞が生存するか死ぬかの決定を制御し、細胞死プロセスそのものの一部を実行する内在性蛋白質である(Schmitt, et al., Biochem. Cell. Biol. 75:301-314 (1997) 参照)。BCL様蛋白質にはBCL-xLおよびBAX−αが含まれ、これらはカスパーゼ活性化の上流で作用すると見られる。BCL-xLはアポトーシスプロテアーゼカスケードの活性化を阻止すると見られる一方、BAX−αはアポトーシスプロテアーゼカスケードの活性化を促進すると見られる。
【0007】
化学療法(抗癌)薬は、休止中のカスパーゼカスケードを活性化することにより癌細胞自殺の引き金となりうることが示されている。これは、全てといえなくとも、ほとんどの公知の抗癌薬の作用機序における大事な局面であり得る(Los, et al., Blood 90:3118-3129(1997); Friesen, et al., Nat. Med. 2:574 (1996) )。最近の抗悪性腫瘍薬の作用機構は、しばしば細胞周期の特定の時期に対する攻撃に関わる。簡単に言えば、細胞周期とは、細胞が通常その一生の内に経て行く段階を意味する。通常、細胞はG0と呼ばれる休止期にある。増殖の際、細胞は、Sと呼ばれるDNA合成が起こる段階へ進む。その後、Mと呼ばれる時期において、細胞分裂あるいは有糸分裂が起こる。シトシンアラビノシド、ヒドロキシウレア、6−メルカプトプリン、およびメトトレキサート等の抗悪性腫瘍薬はS期に特異的であり、その一方ビンクリスチン、ビンブラスチン、およびパクリタキセル等の抗悪性腫瘍薬はM期に特異的である。多くの成長の遅い腫瘍、例えば大腸がんは、主にG0期にある一方、速く増殖する正常な組織、例えば骨髄は、主にS期またはM期にある。従って、6−メルカプトプリンのような薬は、骨髄毒性を引き起こす可能性がある一方、成長の遅い腫瘍に対しては依然として効果がないままである。腫瘍性疾患の化学療法のさらなる局面は、当業者において公知である(例えば、Hardman, et al., eds., Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, Ninth Edition, McGraw-Hill, New York (1996), pp. 1225-1287参照)。従ってこの時点では、カスパーゼカスケード活性化の正確な機構が解明されていないものの、カスパーゼカスケードが活性化される可能性があることは明らかである。また、カスパーゼカスケードの不十分な活性およびその結果として起こるアポトーシス現象が各種の癌において関与することも同様に明らかである。カスパーゼカスケード活性化因子およびアポトーシス誘導因子の開発は、治療に有効な抗悪性腫瘍薬の開発において非常に望ましい目標である。さらに、自己免疫疾患および特定の変性疾患は異常細胞の増殖が関与しているため、これらの疾患のための治療法もカスパーゼカスケード活性化因子およびアポトーシス誘導因子の適切な投与によるアポトーシスプロセスの亢進を含んでもよい。
【0008】
腫瘍血管系が固形腫瘍の成長および転移に不可欠であることは、周知である。従って、一つの腫瘍血管を損傷するかまたはブロックすることにより多くの腫瘍細胞を死滅させることが可能であり、そのため腫瘍血管系は治療において魅力的な標的である。腫瘍血管系を標的とする治療的手段としては、2つの主要なものがある。抗血管新生薬、例えば低分子のVEGFレセプター阻害剤等、あるいはVEGFレセプターを標的とするモノクローナル抗体を使用する抗血管新生アプローチは、腫瘍における血管新生プロセスを阻止するように設計されており、その結果、新しい血管の形成および腫瘍の成長をブロックする。血管破壊剤(vascular disrupting agent)(血管標的薬剤(vascular targeting agent)(VTA)の別名でも知られる、VDA)を使用した抗血管アプローチは、腫瘍に既に存在する血管を標的として血管のシャットダウンを引き起こし、急速な出血性壊死および腫瘍細胞死へと導く(Tozer, et al., Nature Review Cancer, 5:423-435 (2005)、Kelland, Current Cancer Therapy Reviews, 1:1-9 (2005))。腫瘍の血管系は、増殖し、正常な組織の血管系と比較すると、相対的に未熟であり、より透過性であり、無秩序であることが公知である。腫瘍血管破壊剤は、正常血管と腫瘍血管のこれらの違いを活用し、選択的に腫瘍血管系を標的とするように設計されている。
【0009】
2種類のVDAが開発されている。第1の種類は、生物学的あるいはリガンドを標的としたVDAであって、これらは抗体、ペプチド、または成長因子を用いて腫瘍内皮に対する毒素あるいは凝結原を標的とするものである。第2の種類は低分子VDAであり、そのほとんどはチューブリン結合剤である。そのいくつか、例えば5,6−ジメチルキサンテノン−4−酢酸(DMXAA)は、局所的なサイトカイン生成を誘導することにより作用する。VDAは、腫瘍の低潅流の低酸素性中心部分において細胞を死滅させる際に、および無処置の場合に急速に再成長できる、よく潅流された腫瘍組織の生存可能な縁を周囲に残す際に、最も効果的である。従って、VDAは、一般的に、単独では抗腫瘍効果が低い。しかしながら、周囲の腫瘍細胞を標的とする細胞障害性化学療法、放射線療法、および放射免疫療法とVDAの併用療法は、多くの動物腫瘍モデルにおいて良好な反応をもたらしている。一般的にVDAは、良好な耐容性を示し、他の種類の抗癌療法と比較すると異なる副作用の特性を有する。VDAは、腫瘍の血管系を標的とするため、従来の化学療法および放射線療法に耐性のある腫瘍細胞を死滅させることが可能である。その上、VDAは、その他の血管系の過度な成長による疾患、例えば、眼球血管新生等の治療にも有用であると考えられる(Numbu, H. et al., Invest Ophthalmol. Vis. Sci. 44:3650-5 (2003))。
【0010】
ビンカアルカロイド類およびコルヒチンは、固形腫瘍の出血性壊死を誘導することが公知である。しかしながら、この抗血管作用は、それらの最大耐用量に近づく、あるいはそれらを上回る用量でのみ観察されたため、それらを治療用途には使用できなかった。最近になり、コルヒチン結合部位において相互作用するいくつかのチューブリン結合剤が優先的に腫瘍内皮細胞を標的とし、正常な血管系が保存され、良好な耐容性が示される容量で固形腫瘍の出血性壊死を誘導することが見出された。これらの化合物としては、コンブレタスタチンA−4リン酸(CA4P)、ZD6126(N−アセチルコルチノル−O−リン酸)およびAVE8062が挙げられ、特に他の抗癌剤との併用において動物実験で高度な抗腫瘍活性が示されている。従って、血管破壊剤(VDA)は有望な新しい種類の抗癌剤であり、いくつかのVDAが現在臨床試験中である。
【0011】
さらに、最近、CA4Pが血管内皮カドヘリンのシグナル伝達を妨害することにより、腫瘍新生血管の急速な後退を誘導することが報告された(Vincent, L. et al., J. Clin. Invest. 115:2992-3006 (2005))。具体的に、CAP4は、選択的に内皮細胞を標的とするが、平滑筋細胞を標的としないことを、および内皮細胞特異的な接合分子である血管内皮カドヘリンの分子的関与をインビトロおよびインビボの両方において急速に破壊することにより不安定な発生期の腫瘍新生血管の後退を誘導することを見出された。これらの結果から、CA4Pの抗血管新生作用、ならびにCAP4の正常な安定した血管系とは対照的な発生期の腫瘍新生血管に対する選択性のメカニズムが提供された。従って、VDAは抗血管新生作用も有し得る。
【0012】
EP537949は、4H−ナフトール[1,2−b]ピランの誘導体を抗増殖剤として開示した。

式中、
R1は、それぞれ、独立にハロ、トリフルオロメチル、C1−4アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、C1−4アルキル、C1−4アルキルチオ、ヒドロキシ−C1−4アルキル、ヒドロキシ−C1−4アルコキシ、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、R5がエステル基である−COOR5、R6およびR7がそれぞれ水素またはC1−4アルキルである−CONR6R7または−NR6R7であり;
R2は、フェニル、ナフチル、あるいは、チエニル、ピリジル、ベンゾチエニル、キノリニル、ベンゾフラニルまたはベンズイミダゾリルより選択されるヘテロアリールであって、前記フェニル、ナフチル、およびヘテロアリール基が置換されてもよいか、あるいはR2は、C1−4アルキルで置換されてもよいフラニルであり;
R3は、ニトリル、カルボキシ、R8がエステル基である−COOR8、R9およびR10がそれぞれ水素またはC1−4アルキルである−CONR9R10、またはR11がC1−4アルキルもしくは置換されてもよいフェニルであるR11SO2であり;
R4は、−NR12R13、−NHCOR12、−N(COR122または−N=CHOCH2R12であって、ここでR12およびR13がそれぞれ水素またはカルボキシで置換されてもよいC1−4アルキルであるか、あるいはR4は、

であって、ここでXがC2−4アルキレン、またはR4は−NHSO2R14であって、ここでR14がC1−4アルキルまたは置換されてもよいフェニルであり;かつ
nは0〜2である。
【0013】
US5281619は、ナフトピランを糖尿病合併症の治療用として開示した。

式中、
R1は、C1−4アルコキシ、OH、またはCOOHであり;
R2は、置換されてもよいフェニルであり;
R3は、ニトリルであるか、あるいはR3は、R2が3−ニトロもしくは3−トリフルオロメチルで置換されたフェニルであって、R8がエステル基である場合、カルボキシまたは−COOR8であり;
R4は、NR12R13、−NHCOR12、−N(COR122または−N=CHOCH2R12であって、ここでR12およびR13がそれぞれHまたはC1−4アルキルであり;かつ
nは0〜2である。
【0014】
EP599514は、ピラノキノン誘導体の細胞増殖阻害剤としての調整を開示した。

式中、
R1は、置換されてもよいフェニル、または、チエニル、ピリジル、ベンゾチエニル、キノリニル、ベンゾフラニルまたはベンゾイミダゾリルより選択される置換されてもよいヘテロアリール、またはR1は、C1−4アルキルで置換されてもよいフラニルであり;
R2は、ニトリル、カルボキシ、R4がエステル基である−CO2R4、R5およびR6が独立してHまたはC1−4アルキルである−CON(R5)R6、またはR7がC1−4アルキルもしくは置換されてもよいフェニルであるR7SO2であり;
R3は、−NR8R9、−NHCOR8、−N(CO2R82、−N=CHOR8であって、ここでR8およびR9が、独立してHもしくはC1−4アルキル、またはR10がC1−4アルキルもしくは置換されてもよいフェニルである−NHSO2R10、またはXがC2−4アルキレンである

であり;かつ
P環は、ベンゾピラン核と縮合したピリジンを示す。
【0015】
EP618206は、ナフトピランおよびピラノキノリンの免疫抑制剤および細胞増殖阻害剤としての調整を開示した。

式中、
A−Bは、CH2CH2またはCH=CHであり;
R1は、それぞれ独立に、ハロ、カルボキシ、トリフルオロメチル、ヒドロキシ、C1−4アルキル、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、ヒドロキシ−C1−4アルキル、ヒドロキシ−C1−4アルコキシ、窒素含有ヘテロシクリル、ニトロ、トリフルオロメトキシ、R5がエステル基である−COOR5、R6およびR7がそれぞれ水素またはC1−4アルキルである−COR6、−CONR6R7または−NR6R7であり;
R2は、フェニル、ナフチル、あるいは、チエニル、ピリジル、ベンゾチエニル、キノリニル、ベンゾフラニルまたはベンズイミダゾリルより選択されるヘテロアリールであって、前記フェニル、ナフチル、およびヘテロアリール基が置換されてもよいか、あるいはR2は、C1−4アルキルで置換されてもよいフラニルであり;
R3は、ニトリル、カルボキシ、R8がエステル基である−COOR8、R9およびR10がそれぞれ水素またはC1−4アルキルである−CONR9R10、またはR11がC1−4アルキルもしくは置換されてもよいフェニル−C1−4アルキルである−SO2R11であり;
R4は、1−ピロリル、1−イミダゾリル、または1−ピラゾリルであって、それぞれがC1−4アルキル、カルボキシル、ヒドロキシル−C1−4アルキル、または−CHO基の一つまたは二つで置換されていてもよいか、あるいはR4は、1(1,2,4−トリアゾリル)、1−(1,3,4−トリアゾリル)または2−(1,2,3−トリアゾリル)であって、それぞれがC1−4アルキルまたはC1−4パーフルオロアルキル基で置換されていてもよいか、あるいはR4は、C1−4アルキルで置換されてもよい1−テトラゾリルであり;
Xは、ピリジンまたはベンゼン環であり;かつ
nは、0〜2である。
【0016】
EP619314は、4−フェニル−4H−ナフト[2,1−b]ピラン誘導体の調製を開示した。

式中、
R1およびR2は、独立してハロ、トリフルオロメチル、C1−C4アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、C1−C4アルキル、C1−C4アルキルチオ、ヒドロキシ−C1−C4アルキル、ヒドロキシ−C1−C4アルコキシ、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、R8がエステル基である−COOR8、R9およびR10がそれぞれ水素またはC1−C4アルキルである−COR9、−CONR9R10または−NR9R10であり;
R3は、ニトリル、カルボキシ、またはR11がエステル基である−CO2R11であり;
R4は、−NR12R13、−NR12COR13、−N(COR122、または−N=CHOCH2R12であって、ここでR12およびR13がそれぞれ水素またはC1−4アルキルであり、あるいはR4は、

であって、ここでXがC2−C4アルキレン、またはR4は置換されてもよい1−ピロリルであり;かつ
mおよびnは、それぞれ独立して0〜2である。
【0017】
化合物は、再狭窄、免疫疾患、ならびに糖尿病性合併症の治療において有用であると考えられている。
【0018】
Smithら(Bioorg. Med. Chem. Lett. 5:2783-2788 (1995))は、一連の2,4−二置換−4H−ナフト[1,2−b]ピラン−3−カルボニトリルの抗リウマチ薬としての可能性を報告した。彼らは、4−(3−ニトロフェニル)−2−(N−スクシンイミド)−4H−ナフト[1,2−b]ピラン−3−カルボニトリルが酸に安定であることを証明され、これもなお生物活性を保持することを報告した。

【0019】
Birchら(Diabetes 45:642-650 (1996))は、糖尿病誘発性の血管機能不全の阻害剤であるLY290181が、転写因子のフォルボール応答エレメントへの結合を阻害することにより、プロテインキナーゼCの刺激による転写活性化をブロックすることを報告した。

【0020】
Pandaら(J. Biol. Chem. 272:7681-7687 (1997) )は、LY290181の抗増殖性作用のメカニズムの候補となりうる、LY290181による微小管動態の抑制を報告した。
【0021】
Woodら(Mol. Pharmacol. 52:437-444 (1997))は、LY290181が直接チューブリンに結合することにより、有糸分裂および微小管の機能を阻害することを報告した。
【0022】
PCT公開特許出願のWO9824427は、抗微小管組成物、および炎症性疾患を治療または予防する方法を開示した。LY290181は抗微小管剤としてリストに入れられている。
【0023】
PCT公開特許出願のWO01/34591は、4H−クロメンおよびそのアナログをカスパーゼの活性化因子およびアポトーシスの誘導因子として開示した。

式中、
Xは、O、S、またはNR6であり、ここでR6が水素または置換されてもよいアルキルであり;
Yは、CN、COR7、CO2R7またはCONRxRyであり、ここでR7、RxおよびRyが、独立して水素、C1−10アルキル、ハロアルキル、アリール、縮合したアリール、炭素環式基、複素環式基、ヘテロアリール基、アルケニル、アルキニル、アリールアルキル、アリールアルケニル、アリールアルキニル、ヘテロアリールアルキル、ヘテロアリールアルケニル、ヘテロアリールアルキニル、カルボシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヒドロキシアルキルまたはアミノアルキルであるか;あるいはRxおよびRyがそれらが結合している窒素と共に複素環を形成し;
Zは、NR8R9、NHCOR8、N(COR82、N(COR8)(COR9)、N=CHOR8、またはN=CHR8であって、R8およびR9が独立してH、C1−4アルキルまたはアリールであるか、あるいはR8およびR9がそれらに結合した基と共に複素環を形成し;
R5は、水素またはC1−10アルキルであり;
Aは、置換されてもよく、アリール、ヘテロアリール、飽和炭素環、部分的に飽和した炭素環、飽和複素環、部分的に飽和した複素環、アリールアルキル、またはヘテロアリールアルキルであり;かつ
Bは、置換されてもよい芳香環または芳香族複素環である。
【0024】
PCT公開特許出願のWO02/092076は、置換されたクマリンおよびキノリン、ならびに、そのアナログをカスパーゼの活性化因子およびアポトーシスの誘導因子として開示した。

式中、
点線部分は両方が同時に二重結合ではなく;
Xは、O、SまたはNR6であって、ここでR6が水素または置換されてもよいアルキルまたはアリールであり;
Yは、CN、COR7、CO2R7またはCONRxRyであり、ここでR7、RxおよびRyが独立して水素、C1−10アルキル、ハロアルキル、アリール、縮合したアリール、炭素環式基、複素環式基、ヘテロアリール基、アルケニル、アルキニル、アリールアルキル、アリールアルケニル、アリールアルキニル、ヘテロアリールアルキル、ヘテロアリールアルケニル、ヘテロアリールアルキニル、カルボシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヒドロキシアルキルまたはアミノアルキルであるか;あるいはRxおよびRyが、それらが結合している窒素と共に複素環を形成し;
Zは、O、S、ハロ、NR8、またはNCOR8であって、ここでR8が独立してH、C1−4アルキルまたはアリールであり;
Aは、置換されてもよく、アリール、ヘテロアリール、飽和炭素環、部分的に飽和した炭素環、飽和複素環、部分的に飽和した複素環、アリールアルキル、またはヘテロアリールアルキルであり;かつ
Bは、置換されてもよく、アリール、ヘテロアリール、飽和炭素環、部分的に飽和した炭素環、飽和複素環、または部分的に飽和した複素環である。
【0025】
PCT公開特許出願のWO02/092083は、7,8−縮合4H−クロメンおよびそのアナログをカスパーゼの活性化因子およびアポトーシスの誘導因子として開示した。

式中、
Xは、O、S、またはNR6であり、ここでR6が水素または置換されてもよいアルキルであり;
Yは、CN、COR7、CO2R7またはCONRxRyであって、ここでR7、RxおよびRyが独立して水素、C1−10アルキル、ハロアルキル、アリール、縮合したアリール、炭素環式基、複素環式基、ヘテロアリール基、アルケニル、アルキニル、アリールアルキル、アリールアルケニル、アリールアルキニル、ヘテロアリールアルキル、ヘテロアリールアルケニル、ヘテロアリールアルキニル、カルボシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヒドロキシアルキルまたはアミノアルキルであるか;あるいはRxおよびRyがそれらが結合している窒素と共に複素環を形成し;
Zは、NR8R9、NHCOR8、N(COR82、N(COR8)(COR9)、N=CHOR8、またはN=CHR8であって、R8およびR9が独立してH、C1−4アルキルまたはアリールであるか、あるいはR8およびR9がそれらに結合した基と共に複素環を形成し;
R1−R2は、独立して水素、ハロ、ハロアルキル、アリール、縮合したアリール、炭素環式基、複素環式基、ヘテロアリール基、C1−10アルキル、アルケニル、アルキニル、アリールアルキル、アリールアルケニル、アリールアルキニル、ヘテロアリールアルキル、ヘテロアリールアルケニル、ヘテロアリールアルキニル、カルボシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル、カルボキシアルキル、ニトロ、アミノ、シアノ、アシルアミド、ヒドロキシ、チオール、アシルオキシ、アジド、アルコキシ、カルボキシ、メチレンジオキシ、カルボニルアミド、またはアルキルチオであり;
R5は、水素またはC1−10アルキルであり;
Aは、置換されてもよく、アリール、ヘテロアリール、飽和炭素環、部分的に飽和した炭素環、飽和複素環、部分的に飽和した複素環、アリールアルキル、またはヘテロアリールアルキルであり;かつ
Bは、置換されてもよく、縮合したチアゾール、オキサゾール、2−イミノ−イミダゾール、2,1,3−チアジアゾ−2−オン、チアゾール−2−オン、オキサゾール−2−オン、イミダゾール−2−チオン、チアゾール−2−チオン、オキサゾール−2−チオン、イミダゾリン、オキサゾリン、チアゾリン、トリアゾール、オキサジン、オキサジン−2,3−ジオン、またはピペラジン環である。
【0026】
PCT公開特許出願のWO02/092594は、置換された4H−クロメンおよびそのアナログをカスパーゼの活性化因子およびアポトーシスの誘導因子として開示した。

式中、
R1−R4は、独立して水素、ハロ、ハロアルキル、アリール、縮合したアリール、炭素環式基、複素環式基、ヘテロアリール基、C1−10アルキル、アルケニル、アルキニル、アリールアルキル、アリールアルケニル、アリールアルキニル、ヘテロアリールアルキル、ヘテロアリールアルケニル、ヘテロアリールアルキニル、カルボシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル、カルボキシアルキル、ニトロ、アミノ、シアノ、アシルアミド、ヒドロキシ、チオール、アシルオキシ、アジド、アルコキシ、カルボキシ、メチレンジオキシ、カルボニルアミド、またはアルキルチオールであるか;あるいは、R1およびR2、またはR2およびR3、あるいはR3およびR4が、それらが結合している原子と共にアリール、ヘテロアリール、部分的に飽和した炭素環式基、または部分的に飽和した複素環式基を形成し、前記の基が置換されてもよく;
R5は、水素またはC1−10アルキルであり;
Aは、置換されてもよく、アリール、ヘテロアリール、飽和炭素環、部分的に飽和した炭素環、飽和複素環、部分的に飽和した複素環、またはアリールアルキルであり;
Yは、CN、COR7、CO2R7またはCONRxRyであり、ここでR7、RxおよびRyが独立して水素、C1−10アルキル、ハロアルキル、アリール、縮合したアリール、炭素環式基、複素環式基、ヘテロアリール基、アルケニル、アルキニル、アリールアルキル、アリールアルケニル、アリールアルキニル、ヘテロアリールアルキル、ヘテロアリールアルケニル、ヘテロアリールアルキニル、カルボシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヒドロキシアルキルまたはアミノアルキルであるか;あるいはRxおよびRyがそれらが結合している窒素と共に複素環を形成し;かつ
Zは、NR8R9、NHCOR8、N(COR82、N(COR8)(COR9)、N=CHOR8、またはN=CHR8であって、ここでR8およびR9が独立してH、C1−4アルキルまたはアリールであるか、あるいはR8およびR9がそれらに結合した基と共に複素環を形成する。
【0027】
PCT公開特許出願のWO03/097806は、置換された4−アリール−4H−ピロロ[2,3−h]クロメンおよびそのアナログをカスパーゼの活性化因子およびアポトーシスの誘導因子として開示した。

式中、
R1は、アルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、ヒドロキシアルキル、ハロアルキル、アルコキシアルキル、アミノアルキルおよびオキラニルアルキルからなる群より選択され;
R3およびR4は、独立して水素、ハロ、ハロアルキル、アリール、縮合したアリール、炭素環式基、複素環式基、ヘテロアリール基、C1−10アルキル、アルケニル、アルキニル、アリールアルキル、アリールアルケニル、アリールアルキニル、ヘテロアリールアルキル、ヘテロアリールアルケニル、ヘテロアリールアルキニル、カルボシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル、カルボキシアルキル、ニトロ、アミノ、シアノ、アシルアミド、ヒドロキシ、チオール、アシルオキシ、アジド、アルコキシ、カルボキシ、メチレンジオキシ、カルボニルアミド、またはアルキルチオであり;
R5は、水素またはC1−10アルキルであり;
Aは、置換されてもよく、アリール、ヘテロアリール、飽和炭素環、部分的に飽和した炭素環、飽和複素環、部分的に飽和した複素環、またはアリールアルキルであり;
Dは、置換されてもよく、芳香族複素環、部分的に飽和した複素環または飽和複素環式縮合環、ここで縮合環が5または6個の環原子を有し、ここで1個あるいは2個の該環原子が窒素原子であり、該環原子のその他のものが炭素原子であり;
Yは、CN、COR19、CO2R19またはCONR20R21であり、ここでR19、R20およびR21が独立して水素、C1−10アルキル、ハロアルキル、アリール、縮合したアリール、炭素環式基、複素環式基、ヘテロアリール基、アルケニル、アルキニル、アリールアルキル、アリールアルケニル、アリールアルキニル、ヘテロアリールアルキル、ヘテロアリールアルケニル、ヘテロアリールアルキニル、カルボシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、ヒドロキシアルキルまたはアミノアルキルであるか;あるいは
R20およびR21が窒素と共に複素環を形成し;かつ
Zは、NR22R23、NHCOR22N(COR232、N(COR22)(COR23)、N=CHOR19、またはN=CHR19であって、R22およびR23が独立してH、C1−4アルキルまたはアリールであるか、あるいはR22およびR23がそれらに結合した基と共に複素環を形成する。
【0028】
Kasibhatlaら(Mol. Cancer Ther. 3:1365-74 (2004))は、新規の一連の2−アミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン類を、細胞に基づいたアポトーシススクリーニングアッセイ法を用いて発見したアポトーシス誘導剤として報告した。MX−58151を含むこの一連の化合物より得られるいくつかのアナログは、コルヒチン結合部位あるいはその近くに結合部位を有するチューブリンの不安定化剤であることが見出された。これらの化合物は、休止細胞と比較して増殖細胞に高選択性を示し、予め形成されていた内皮細胞毛細管をインビトロにおいて破壊することが示され、腫瘍の血管系を標的とする薬剤として作用するはずであることが示唆された。
【0029】
Gourdeanら(Mol. Cancer Ther. 3:1375-84 (2004))は、2−アミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメンの一群のインビボにおける腫瘍血管系の破壊および腫瘍壊死の誘発に関する評価を報告した。その内1つのMX-116407と呼ばれる化合物は、高活性を示し、全ての異種移植ヒト肺癌モデル(Calu-6)の実験動物において腫瘍縮小をもたらした。さらに、MX-116407は、シスプラチンの抗腫瘍活性を著しく増強し、40%無腫瘍状態の動物が得られた。
【0030】
Kemnitzerら(J. Med. Chem. 47:6299-310 (2004) )は、新たな一連のアポトーシス誘導剤としての4−アリール−4H−クロメン類の発見、ならびに4−アリール基の構造活性相関(structure-activity relationship)(SAR)を報告した。2−アミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−3−シアノ−7−(ジメチルアミノ)−4H−クロメン(MX-58151)および2−アミノ−3−シアノ−7−(ジメチルアミノ)−4−(5−メチル−3−ピリジル)−4H−クロメンは、これらの研究からリード化合物として確認された。

【0031】
Kemnitzerら(Bioorg. Med. Chem. Lett. 15:4745-51 (2005))は、7位および5位、6位、8位の改変による4−アリール−4H−クロメンのSARの探索について報告した。いくつかの7−置換および7,8−二置換化合物、例えば、2,7−ジアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−3−シアノ−4H−クロメンおよび2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−3−シアノ−4H−クロメンは、カスパーゼ活性化因子および細胞増殖阻害剤の両方として、MX-58151と同様の作用強度を有することが確認された。

【0032】
Kemnitzerら(J. Med. Chem. 50:2858-2864 (2007) )は、縮合環を7,8位に有する4−アリール−4H−クロメンのSARの探索について報告した。いくつかのこれらの化合物、例えば、2−アミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−3−シアノ−4,7−ジヒドロピラノ[2,3−e]インドールおよび2−アミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−3−シアノ−4,9−ジヒドロピラノ[3,2−g]インドールは、カスパーゼ活性化因子および細胞増殖阻害剤の両方として高活性を有することが確認された。

【発明の概要】
【0033】
本発明の一つの態様は、2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1)のR−立体異性体(1R)が、カスパーゼカスケードの活性化因子およびアポトーシスの誘導因子であり、かつ抗血管作用を有し、血管破壊剤(vascular disrupting agent)(VDA)または血管を標的とする薬剤(vascular targeting agent)(VTA)であるという発見に関する。従って、本発明の態様は、化合物1Rのアポトーシス誘導剤および抗血管剤としての使用に関する。
【0034】
別の態様において、本発明は、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない式1Rの化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくはそれらのプロドラッグに関する。
【0035】
別の態様において、本発明は式IIを有する1Rのプロドラッグに関する。
【0036】
別の態様において、本発明は、式1Rの化合物またはその薬学的に許容される塩もしくはそれらのプロドラッグ、ならびに薬学的に許容される賦形剤または担体を含む薬学的組成物に関する。
【0037】
別の態様において、本発明は、アポトーシス誘導に応答する疾患を、それを患っている動物において治療する方法であって、そのような治療を必要とする哺乳類に、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない、有効量の式1Rの化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくはそのプロドラッグを投与する工程を含む方法に関する。
【0038】
別の態様において、本発明は、治療を必要とする哺乳類に、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない化合物1Rを投与することにより、腫瘍および癌を治療、予防または緩和する方法に関する。
【0039】
別の態様において、本発明は、抗血管剤に応答する疾患を患っている動物においてその疾患を治療する方法であって、そのような治療を必要とする哺乳類に、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない、有効量の式1Rの化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくはそのプロドラッグを投与する工程を含む方法に関する。
【0040】
別の態様において、本発明は、内皮細胞増殖の抑制を必要とする動物において内皮細胞増殖を抑制する方法であって、細胞に、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない式1Rの化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくはそのプロドラッグを送達する工程を含む方法に関する。
【0041】
別の態様において、本発明は、組織における血管新生の抑制を必要とする動物において組織における血管新生を抑制する方法であって、組織に、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない式1Rの化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくはそれらのプロドラッグを送達する工程を含む方法に関する。
【0042】
別の態様において、本発明は、溶媒ならびに1Rおよび対応する(S)立体異性体を含むラセミ混合物を含む混合物を、キラルな固定相に接触させる工程;該混合物および該キラルな固定相を、溶出溶媒に接触させる工程;ならびに該立体異性体1Rを該溶出溶媒より単離する工程を含む方法であって、該立体異性体1Rが対応する(S)立体異性体を実質的に含まないように単離された、対応する(S)立体異性体から式1Rを有する立体異性体を分離する方法に関する。
【0043】
別の態様において、本発明は、式IIのプロドラッグを製造する方法であって、式1Rの化合物を保護されたアミノ酸およびカップリング剤に接触させて、保護されたプロドラッグを形成する工程;ならびに保護されたプロドラッグを脱保護し、式IIの化合物を形成する工程を含み、ここで、前記式1Rの化合物が対応する(S)立体異性体を実質的に含まない方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0044】
発明の詳細な説明
特定の立体異性体を「実質的に含まない」とは、立体異性体の立体異性純度を意味し、本明細書においては95%を超える特定の立体異性体が存在することを意味する。例えば、対応する(S)立体異性体1Sを実質的に含まない立体異性体1Rの組成においては、95%を超える(R)立体異性体が存在する。立体異性体は多様な手法を使用することにより検出することが可能であり、例えば、キラルHPLCが使用される。
【0045】
本発明は、強力で効果的なカスパーゼカスケードの活性化因子およびアポトーシスの誘導因子であり、ラセミ混合物として存在する化合物1、2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−3−シアノ−4H−クロメンを対応するR異性体(−)およびS異性体(+)に分離した際、R異性体1Rが活性を有する異性体であり、S異性体(+)が本質的に不活性である、という驚くべき発見から生じたものである。さらに、R異性体(−)は効果的な抗血管剤であることが明らかとなった。

【0046】
一つの態様において、本発明は、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない、式1R

の化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくはそのプロドラッグに関する。一つの例において、化合物1Rは、対応する(S)立体異性体を約95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上含まない。別の例において、化合物1Rは、対応する(S)立体異性体を約99.9%含まない。
【0047】
薬学的に許容される付加塩としては、以下に限定されず、無機および有機付加塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、マンデル酸塩およびシュウ酸塩などが挙げられる。
【0048】
本発明において使用されるプロドラッグとしては、以下に限定されず、アミド(例えば、当技術分野において公知の方法に基づく、4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸(DHA)等のC1−40カルボン酸、C3−6二酸または無水コハク酸または無水フマル酸等のその無水物、またはグリシンまたはアラニン等のアミノ酸との縮合により得られるもの);イミン(例えば、当技術分野において公知の方法に基づくC1−4アルデヒドまたはケトンとの縮合により得られるもの);およびカルバメート、例えば、Leuら(J. Med. Chem. 42:3623-3628(1999))およびGreenwaldら(J. Med. Chem. 42:3657-3667(1999))により記載のものが挙げられる。
【0049】
本発明において使用されるアミノ酸は、天然および非天然アミノ酸が含まれる。本発明において使用される天然アミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンが挙げられる。
【0050】
ある1つの特定のプロドラッグの群としては、アミノ酸、特に天然アミノ酸を用いて調製したアミドである。具体的には、式II:

を有する化合物1Rのプロドラッグまたはその薬学的に許容される塩もしくはそのプロドラッグ。
式中、
Rは、水素、アルキル、およびヒドロキシ、カルボキシ、カルバモイル、メルカプト、イミダゾリル、メチルチオ、アリール、アミノまたはグアニジンで置換されたアルキルであるか;あるいは
RとRの結合している炭素原子に結合しているNH2基が結合し、ともにプロリンのような環を形成する。
【0051】
化合物1は、当技術分野において公知の任意の方法を用いて調製可能である。一つの例において、化合物1は、スキーム1に説明されているように調整される。ジメチルイソプロピルアミン(DMIPA)等の塩基の存在下、エタノール等の溶媒中で2,3−ジアミノフェノールを5−ブロモベラトルアルデヒド(3−ブロモ−4,5−ジメトキシベンズアルデヒド)およびマロノニトリルと反応させることにより、ラセミ混合物1を82〜90%の収率で調製した。
【0052】
スキーム1

【0053】
別の態様において、スキーム2に示されているように、本発明は、式1Rまたは1Sを有する立体異性体を式1を有するそのラセミ混合物より分離する方法に関する。一つの例において、立体異性体1Rあるいは1Sは、対応するもう一方の立体異性体を実質的に含まない状態で溶出溶媒から単離できる。別の例において、立体異性体1Rは、対応するもう一方の立体異性体を約96%、97%、98%、99%、またはそれ以上含まない状態で溶出溶媒から単離できる。また別の例において、立体異性体1Rは、対応するもう一方の立体異性体を約99%含まない状態で溶出溶媒から単離できる。さらに別の例において、立体異性体1Rは、対応するもう一方の立体異性体を約99.9%含まない状態で溶出溶媒から単離できる。
【0054】
別の態様において、スキーム2に示すとおり、本発明は、対応する(S)立体異性体から式1Rを有する立体異性体を分離する方法に関する。該方法は、溶媒ならびに1Rおよび対応する(S)立体異性体を含むラセミ混合物を含む混合物を、キラルな固定相に接触させる工程;該混合物および該キラルな固定相を、溶出溶媒に接触させる工程;ならびに該立体異性体1Rを該溶出溶媒より単離する工程を含み、該立体異性体1Rは対応する(S)立体異性体を実質的に含まない状態で単離される。別の例において、立体異性体1Rは、対応する(S)立体異性体を約99%含まない状態で単離される。
【0055】
「キラルな固定相」とは、対応する立体異性体(鏡像異性化合物)を分離できる分離媒体を指す。キラルな固定相は固相担体に結合したキラル分子および/またはポリマー、固相の吸着体表面にインサイチューで作成されたキラル相、または、一種類の立体異性体との特異的な相互作用を許容する表面腔を含んでもよい。例えば、本発明に用いるキラルな固定相としては、以下に限定されず、シリカまたはその他の固相マトリックスに、キラルな蛋白質、キラルな低分子、セルロースまたはアミロースのポリマー、大環状グリコペプチド、またはシクロデキストリンがコーティング、結合、あるいは吸着された固定相が挙げられる。本発明に用いるキラルな固定相の別の例としては、アミロース・トリス[(S)−α−メチルベンジルカルバメート]をコートした20μmシリカゲル(CHIRALPAK(登録商標)AS-Vとしてダイセル化学工業株式会社、東京、日本、より入手可能)が挙げられる。
【0056】
キラル分離に用いる溶媒の例としては、MeOHおよびアセトニトリルが挙げられる。その他の溶媒、例えば酢酸エチルおよびエタノールも使用可能である。
【0057】
他の態様においてラセミ混合物1は、他の方法、例えば超臨界流体条件(supercritical fluid conditions)(SFC)あるいは擬似移動床式(simulated moving bed(SMB)技術を用いて分離することも可能である。
【0058】
1Rおよび1Sの混合物から1Rを分離することを可能とする擬似移動床式装置は、例えばNovaSep Inc.、ペンシルバニア州ブースウィン、または、Knauer, ASI、マサチューセッツ州フランクリン(CSEP(登録商標)Models)から市販されている。例えば、米国特許第3,268,605号、同4,434,051号、および同5,456,825号に開示されている装置を参照されたい。また、擬似移動床式技術を用いた立体異性体の精製方法に関しては、米国特許第5,126,055号、同5,434,298号、および同6,533,936号を参照されたい。
【0059】
スキーム2

【0060】
本発明の別の態様は、式IIのプロドラッグを製造する方法に関する。該方法は、式1Rの化合物を保護されたアミノ酸およびカップリング剤に接触させて、保護されたプロドラッグを形成する工程;ならびに保護されたプロドラッグを脱保護し、式IIの化合物を形成する工程を含む。式1Rの化合物は、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない。
【0061】
本発明に用いられる保護されたアミノ酸としては、保護された天然および非天然アミノ酸が挙げられる。一つの例として、保護されたアミノ酸は、9−フルオレニルメチルカルバメートで保護されたL−アラニン(Fmoc-L-アラニン)である。
【0062】
本発明に用いられるカップリング試薬としては、アミノ酸をアミノ基に効率よく高収率でカップリングする試薬が挙げられる。例えば、該カップリング試薬はジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびヒドロキシベンゾトリアゾル(HOBt)を含む混合物であり、または他の例において該カップリング試薬は1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)およびヒドロキシベンゾトリアゾル(HOBt)を含む混合物である。他のカップリング試薬が使用できることは当業者には明らかである。
【0063】
保護されたプロドラッグは、効率よく高収率でプロドラッグから保護基を切断する任意の方法を使用して脱保護できる。例えば、保護されたプロドラッグは、塩基水溶液を用いて脱保護される。脱保護に用いる塩基としては、それらに制限されないが、水酸化物塩の水溶液等の水酸化物塩基の水溶液が挙げられる。水酸化物塩としては、水酸化アンモニウム、ナトリウム、カルシウム、カリウム、およびマグネシウムが挙げられる。
【0064】
一つの態様において、化合物1Rのアミノ酸プロドラッグは、スキーム3に示されるように調製される。ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびヒドロキシベンゾトリアゾル(HOBt)等のカップリング剤の存在下、1RをFmoc-L-アラニン等の9−フルオレニルメチルカルバメート(Fmoc)で保護されたアミノ酸と反応させることにより、1Rの保護されたプロドラッグであるFmoc-アラニンアミド体を調製した。Fmoc保護基を、塩基性の条件下で、例えば2N NaOHを使用して、除去することにより、より塩基性の強いアミノ基の存在により1Rよりも優れた水溶解性を有することが期待される1Rのアラニンアミド体を調製することができる。アミドプロドラッグがマウス等の動物またはヒトに注射されると、このアミノ酸はアミノペプチダーゼにより除去され、活性な薬剤1Rが精製されると考えられる。
【0065】
スキーム3

【0066】
本発明の一つの態様は、化合物1Rがカスパーゼの活性化因子であり、アポトーシスの誘導因子であるという発見に関連する。従って、化合物1Rは、癌の場合など、制御されない細胞増殖および異常細胞の拡散が起こるさまざまな臨床状況において有用である。
【0067】
本発明の別の態様は、化合物1Rが、薬剤耐性癌細胞、例えば、乳癌および前立腺癌細胞等の強力で非常に効率的なカスパーゼ活性化因子およびアポトーシスの誘導因子であり、これらの薬剤耐性癌細胞を死滅させることを可能とするという発見に関する。それに対し、多くの標準的な抗癌剤は、同じ条件下での薬剤耐性癌細胞の死滅に効果的ではない。従って、化合物1Rは、動物における薬剤耐性癌の治療に有用である。
【0068】
本発明の別の態様は、化合物1Rが強力な抗血管剤であるという発見に関する。従って、化合物1Rは、内皮細胞の成長の阻害、および組織の血管新生の阻害に有用である。特に、化合物1Rは、腫瘍の血管系を標的とするかまたは破壊し、腫瘍への血液供給を遮断し、かつ腫瘍細胞死を引き起こすことを介する、動物における癌治療に有用である。化合物1Rは、その他の血管系の過度な成長による疾患、例えば、眼球血管新生等疾患の治療にも有用であると思われる。
【0069】
本発明の別の態様は、インビボアポトーシスまたはインビボの腫瘍性疾患を調節する際に有用な治療方法であって、そのような治療を必要とする対象に、カスパーゼカスケードの活性化因子およびアポトーシスの誘導因子として機能し、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない、有効量の化合物1R、またはその薬学的に許容される塩もしくはそのプロドラッグを投与する工程を含む方法に関する。
【0070】
本発明の別の態様は、動物に対応する(S)立体異性体を実質的に含まない、有効量の化合物1R、または該化合物の薬学的に許容される塩もしくはプロドラッグを投与する工程を含む治療方法であって、その化合物が異常細胞の制御されない成長および拡散を特徴とする疾患群に属する癌の治療に有用であることを特徴とする治療方法に関する。このような疾患としては、以下に限定されないが、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣癌、軟部肉腫、原発性マクログロブリン血症、膀胱癌、慢性顆粒球白血病、原発性脳腫瘍、悪性メラノーマ、小細胞肺癌、胃癌、直腸癌、悪性膵島細胞腺腫、悪性カルチノイド腫瘍、絨毛癌、菌状息肉腫、頭頚部癌、骨肉腫、膵癌、急性顆粒球白血病、ヘアリー細胞白血病、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、カポジ肉腫、尿生殖器癌、甲状腺癌、食道癌、悪性高カルシウム血症、頸部過形成、腎細胞癌、子宮内膜癌、真性多血症、本態性血小板増加症、副腎皮質腫瘍、皮膚癌、および前立腺癌が挙げられる。
【0071】
本発明の治療方法を実施する場合には、カスパーゼカスケードによって媒介される生理的反応と関係している癌、腫瘍性疾患、およびその他の疾患の治療のための経口投与、静脈内投与、局所投与および外用投与用に製剤化された化合物を治療に有効な濃度で含有する組成物は、有効量で一つまたは複数のこれらの疾患の症状を呈する固体に投与される。その量は、疾患の一つまたは複数の症状を緩和あるいは取り除くのに有効である。特定の疾患を治療するために有効な化合物の量は、その疾患に関連する症状を緩和あるいは何らかの形で減らすのに十分な量である。そのような量は、それによって効果が認められる、単回投与量として投与できるかあるいは投与計画に従って投与できる。その量は、疾患を治癒させ得るが、典型的には、疾患を緩和させるために投与される。一般的には、望まれる症状の緩和を実現するには、反復投与が必要である。
【0072】
本発明の別の態様は、提供される薬学的に許容される媒体と組み合わせた、カスパーゼカスケード活性化因子およびアポトーシス誘導因子として作用する、化合物1R、またはその薬学的に許容される塩、もしくはその化合物のプロドラッグを含む薬学的組成物に関する。一つの例において、化合物1Rを含有する薬学的組成物は、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない。別の例において、化合物1Rを含む薬学的組成物は、対応する(S)立体異性体を約95、96、97、98もしくは99%またはそれ以上含まない。別の例において、化合物1Rを含む薬学的組成物は、対応する(S)立体異性体を約99.9%含まない。
【0073】
本発明の別の態様は、少なくとも一つの公知の癌化学療法薬または該療法薬の薬学的に許容される塩と組み合わせた、カスパーゼカスケード活性化因子およびアポトーシス誘導因子として作用する、化合物1R、またはその薬学的に許容される塩、もしくはその化合物のプロドラッグを含む癌治療に有効な組成物に関する。併用療法に使用することが可能な公知の抗癌剤としては、それらに限定されず、ブスルファン、シスプラチン、マイトマイシンC、カルボプラチン等のアルキル化剤;コルヒチン、ビンブラスチン、パクリタキセル、ドセタキセル等の有糸分裂阻害薬;カンプトテシン、トポテカン等のtopo1阻害薬;ドキソルビシン、エトポシド等のtopoII阻害薬;5−アザシチジン、5−フルオロウラシル、メトトレキサート等のRNA/DNA代謝拮抗薬;5−フルオロ−2’−デオキシウリジン、アラ−C、ヒドロキシウレア、チオグアニン等のDNA代謝拮抗薬;ハーセプチン(登録商標)、リツキサン(登録商標)等の抗体が挙げられる。併用療法に使用可能なその他の公知の抗癌剤としては、メルファラン、クロラムブシル、シクロフォスアミド、イホスファミド、ビンクリスチン、ミトグアゾン、エピルビシン、アクラルビシン、ブレオマイシン、ミトキサントロン、エリプチニウム、フルダラビン、オクトレオチド、レチノイン酸、タモキシフェン、およびアラノシンが挙げられる。
【0074】
本発明の別の態様は、少なくとも一つの認可された癌治療薬(現在認可されているかあるいは将来認可される)あるいはその薬の薬学的に許容される塩と共にカスパーゼカスケード活性化因子、アポトーシス誘導因子、および血管破壊剤として作用する、化合物1R、またはその薬学的に許容される塩、もしくはその化合物のプロドラッグを含む癌の治療に有効な組成物に関する。化合物1Rと認可された癌治療薬のこれらの組み合わせとしては、例えば、腎細胞癌治療等のためのスニチニブとの組み合わせ、肝臓癌治療等のためのソラフェニブとの組み合わせ、非小細胞肺癌治療等のためのカルボタキセルあるいはベバクジマブとの組み合わせ、卵巣癌治療等のためのドキソルビシンとの組み合わせ、前立腺癌治療等のためのサトラプラチンとの組み合わせ、および、結腸直腸癌治療等のためのベバクジマブとの組み合わせが挙げられる。認可された癌治療薬は、許可された用量およびスケジュールにおいて、例えば、21日毎に1回使用できる。化合物1Rは、例えば、認可された治療薬を投与する前日、同日、または翌日から投与できる。化合物1Rは、21日サイクルで、3日連続して1日1回投与できる。化合物1Rのその他のサイクルとしては、例えば、28日サイクルで、3週間の間1週間に1回である。これらの併用療法は、認可された癌治療薬を単独で投与した場合と比較して、疾患進行の遅延において統計的に優位な改善をもたらすことが期待される。
【0075】
本発明の方法を実施する場合には、本発明の化合物は、一つの薬学的組成物の部分として、少なくとも一つの公知の化学療法剤と共に投与してもよい。あるいは、本発明の化合物は、少なくとも一つの公知の化学療法剤と別個に投与されてもよい。一つの態様において、本発明の化合物と少なくとも一つの公知の癌化学療法剤は、実質的に同時に投与される。即ち、これらの化合物が血中において同時に治療レベルに達する限り、これらの化合物は同時に、または次々に投与される。また、別の態様において、本発明の化合物および少なくとも一つの公知の癌化学療法剤は、血中において治療レベルに達する限り、それぞれの投与計画に従って投与される。
【0076】
本発明の別の態様は、治療に有用な少なくとも一つの抗体、例えばハーセプチン(登録商標)またはリツキサン(登録商標);成長因子、例えばDGF、NGF;サイトカイン、例えばIL-2、IL-4;あるいは細胞表面に結合する任意の化合物とバイオコンジュゲート化した、カスパーゼカスケード活性化因子およびアポトーシス誘導因子として作用する化合物1Rのバイオコンジュゲートを含む癌の治療に有効な組成物に関する。抗体およびその他の分子は化合物1Rをその標的に送達して、この化合物を効果的な抗癌剤にする。バイオコンジュゲートは、治療において有用な抗体、例えばハーセプチン(登録商標)またはリツキサン(登録商標)の抗癌作用を亢進させることも可能である。
【0077】
本発明の別の態様は、放射線療法と組み合わせた、カスパーゼカスケード活性化因子およびアポトーシス誘導因子として作用する、化合物1R、またはその薬学的に許容される塩、もしくはそのプロドラッグを含む癌の治療に有効な組成物に関する。この態様において、本発明の化合物は、放射線療法を施すのと同時または別の時に投与することができる。
【0078】
本発明の別の態様は、カスパーゼカスケード活性化因子およびアポトーシス誘導因子として作用する、化合物1R、またはその薬学的に許容される塩、もしくはその化合物のプロドラッグを含む癌の手術後の治療に有効な組成物に関する。本発明は、さらに、癌を外科的に取り除いた後、本明細書に記載されている薬学的組成物の一つで動物を治療することにより癌を治療する方法に関する。
【0079】
感染病原体への曝露後、広範な免疫機構が速やかに機能する。感染の種類によっては、感染と戦う為にTおよびBリンパ球の急速なクローン性増殖が生じる。感染に続くエフェクター細胞の除去は、免疫ホメオスタシスを維持する主要なメカニズムの一つである。この反応性細胞の除去は、アポトーシスとして知られる現象により制御されていることが示されている。自己免疫疾患は、調節されていない細胞死によるものであると確認されている。特定の自己免疫疾患において、免疫系は、その強力な細胞毒性エフェクター機構を、特定化された細胞、例えば、多発性硬化症におけるオリゴデンドロサイト、糖尿病における膵臓のβ細胞、および橋本甲状腺炎における甲状腺細胞に対して向ける(Ohsako, S.およびElkon, K.B., Cell Death Differ. 6:13-21(1999))。リンパ球アポトーシスレセプターFas/APO-I/CD95をコードする遺伝子の変異は、慢性の組織学的に良性な脾腫大および全身性リンパ節腫脹、高ガンマグロブリン血症、および自己抗体形成を特徴とする不完全なリンパ球のアポトーシスおよび自己免疫性リンパ増殖症候群(autoimmune lymphoproliferative syndrome)(ALPS)に関係していることが報告されている。(Infante, A. J., et al., J.Pediatr. 133:629-633 (1998)およびVaishnaw, A. K., et al., J. Clin. Invest. 103:355-363 (1999))。T細胞依存性の共刺激シグナルの存在下における、トランスジェニックマウスの発達中のB細胞での、抗アポトーシス活性を有するプログラム細胞死制御因子のBcl-2遺伝子ファミリーの一員であるBcl-2の高発現は、変更されたB細胞レパートリーの発生、および病原性自己抗体の産生をもたらすことが報告されている(Lopez-Hoyos, M., et al., Int. J. Mol. Med. 1:475-483 (1998) )。従って多くの種類の自己免疫疾患は、アポトーシスプロセスの欠陥により引き起こされていることが明白であり、一つの治療戦略としては、自己免疫疾患の原因となっているリンパ球においてアポトーシスを活性化することである(O'Reilly, L. A.およびStrasser, A., Inflamm. Res. 48:5-21 (1999) )。
【0080】
Fas-Fasリガンド(FasL)相互作用は、免疫ホメオスタシスの維持に必要であることが公知である。自己反応性TおよびB細胞応答および甲状腺の著しいリンパ球浸潤を特徴とする実験的自己免疫甲状腺炎(experimental autoimmune thyroiditis)(EAT)は、FasLの治療効果を研究するための良いモデルである。FasLをコードするDNA発現ベクターを直接、炎症の起きている甲状腺に注射することにより、甲状腺のリンパ球浸潤の発生が阻害され、浸潤性T細胞の死滅の誘導が確認されたことが、Batteux, F.ら(J. Immunol. 162:603:-608 (1999))により報告された。これらの結果は、甲状腺細胞におけるFasLの発現が病原性自己反応性浸潤性Tリンパ球の死滅を誘導することにより、進行中のEATに対して治療的効果を有しうることを示すものである。
【0081】
ビスインドリルマレイミドVIIIは、ヒト星状細胞種1321N1細胞およびMolt-4T細胞におけるFas媒介性アポトーシスを増強することが公知である。これらの細胞はいずれも、ビスインドリルマレイミドVIII非存在下において抗Fas抗体に誘発されるアポトーシスに対して抵抗性である。ビスインドリルマレイミドVIIIによるFas媒介性アポトーシスの増強は、非活性化されたT細胞よりも活性化されたT細胞に選択的であり、Fas依存性であることが報告されている。自己抗原刺激の最中にラットへビスインドリルマレイミドVIIIを投与すると、T細胞媒介性自己免疫疾患の症状の発生が実験的アレルギー性脳炎のルイスラットモデルおよびルイス・アジュバント関節炎モデルの二つのモデルにおいて阻止されることが、Zhou, T.ら(Nat. Med. 5:42-48 (1999) )により報告された。従って、ビスインドリルマレイミドVIII等のFas依存性アポトーシスエンハンサーの適用は、有害な細胞のより効果的な除去およびT細胞媒介性自己免疫疾患の阻害に治療上有用であり得る。従って、カスパーゼカスケード活性化因子およびアポトーシス誘導因子として作用する、有効量の化合物1R、または化合物1Rの薬学的に許容される塩もしくはプロドラッグは、自己免疫疾患に対して有効な治療法である。
【0082】
乾癬は、鱗状の赤い斑点を特徴とする慢性的な皮膚疾患である。ソラレン+紫外線A(PUVA)は、尋常性乾癬に一般に用いられている有効な治療法であり、ソラレン8-MOPあるいはTMP+UVAの処置を施したリンパ球は、アポトーシス細胞死に特有のDNA分解パターンを示すことが、Covenら(Photodermatol. Photoimmunol. Photomed. 15:22-27(1999))により報告された。また、312nm UVBが乾癬皮膚病変を回復させる際、T細胞アポトーシスの誘導が主要なメカニズムであり得ることが、Ozawaら(J. Exp. Med. 189:711-718(1999))により報告された。乾癬を治療し、臨床的に正常な皮膚に回復させるためには、低用量のメトトレキサートを使用することができる。低用量のメトトレキサートは、アポトーシスを誘導することが可能であり、この作用機序によりメトトレキサートを用いた乾癬治療における上皮過形成の減少を説明できることが、Heenenら(Arch. Dermatol. Res. 290:240-245 (1998) )により報告された。従って、カスパーゼカスケードの活性化因子およびアポトーシスの誘導因子として作用する、有効量の化合物1R、または化合物1Rの薬学的に許容される塩もしくはプロドラッグは、乾癬等の過剰増殖性の疾患に対して有効な治療法である。
【0083】
滑膜細胞過形成は、関節リウマチ(RA)患者に特有である。滑膜細胞過形成の原因としては、RA滑膜細胞および滑膜細胞死に欠陥のある細胞の過剰な増殖が考えられる。Wakisakaら(Clin. Exp. Immunol. 114:119-128 (1998))は、RA滑膜細胞がFas/FasL経路を経たアポトーシスを介して死滅し得るが、滑膜細胞のアポトーシスが滑膜中に存在する炎症誘発性サイトカインにより阻害されることを見出し、かつ炎症誘発性サイトカインによるアポトーシスの阻害が滑膜細胞の伸長に寄与することが可能であり、RA患者においてパンヌス形成および関節の破壊を引き起こすことを示唆した。従って、カスパーゼカスケード活性化因子およびアポトーシス誘導因子として作用する、有効量の化合物1R、または化合物1Rの薬学的に許容される塩もしくはプロドラッグは、関節リウマチに対して有効な治療法である。
【0084】
急性の炎症反応の消散を促す際にアポトーシスが主要な役割を果たしているという確たる証拠が集まってきている。好中球はアポトーシスを起こすよう恒常的にプログラムされているため、その炎症誘発の可能性は制限され、その結果マクロファージおよび準専門的な貧食細胞により迅速、特異的かつ非炎症性の認識が起こる(Savill, J., J. Leukoc. Biol. 61:375-380 (1997) )。クローン病、潰瘍性大腸炎、およびその他の炎症性状態における炎症箇所より単離された固有層T細胞は、CD2経路に誘発されたアポトーシスの減少を示し、かつ炎症を起こしたクローン病組織の細胞の研究は、この欠陥が上昇したBcl-2レベルを伴うことを示すことが、Boirivantら(Gastroenterology 116:557-565 (1999))により報告された。従って、カスパーゼカスケード活性化因子およびアポトーシス誘導因子として作用する、有効量の化合物1R、または薬学的に許容される塩もしくはプロドラッグは、炎症および炎症性腸疾患に対して有効な治療法である。
【0085】
本発明の範囲内の組成物には、意図された目的を達成するのに効果的な量の化合物1Rを含む全ての組成物が含まれる。それぞれの必要量は異なるものの、各成分の有効量の最適な範囲の決定は、当技術分野の通常の技術の範囲内である。典型的には、これらの化合物は、哺乳類、例えばヒトに、1日当たり、アポトーシスが媒介する疾患に対する治療を受ける哺乳類の体重に対して0.0025〜50mg/kgの投与量、あるいはそれと同等の量の薬学的に許容される塩として投与できる。一つの例においては、そのような疾患を治療あるいは予防するために、約0.01〜約10mg/kgが経口投与される。筋肉内注射の場合、その用量は一般的に経口投与量の約半分である。例えば、適当な筋肉内投与量は、約0.0025〜約25mg/kgであり、別の例としては約0.01〜約5mg/kgである。公知の癌化学療法薬もさらに投与される場合、意図された目的を達成するのに効果的な量で投与される。このような癌に効果的な公知の癌化学療法薬の量は、当業者には周知である。
【0086】
一つの例において、経口単位用量は、約0.01〜約50mgを含む。別の例において、経口単位用量は、約0.1〜約10mgの本発明の化合物を含む。単位用量は、一つまたは複数の錠剤として1日当たり一回または複数回投与でき、1錠は、約0.1〜約10mg、好都合には約0.25〜50mgの化合物あるいはその溶媒和化合物を含有する。
【0087】
局所製剤において、該化合物は、1gの担体当たり約0.01〜100mgの濃度で存在し得る。
【0088】
該化合物を未加工の化学物質として投与するほか、本発明の化合物は薬学的製剤の一部として投与されてもよい。該薬学的製剤は、適切な薬学的に許容される担体、例えば賦形剤および補助剤等を含んでもよい。賦形剤および補助剤は、化合物を薬学的に使用できる製剤に加工する工程を容易にする。
【0089】
一つの例において、経口投与される製剤は、0.01〜99%の活性化合物を賦形剤と共に含有する。別の例において、経口投与される製剤は、約0.25〜75%の活性化合物を賦形剤と共に含有する。さらなる例示的態様において、本発明の化合物を経口投与する形態として、錠剤、糖衣錠、またはカプセル剤を用いることができる。
【0090】
別の例において、経直腸投与される製剤、ならびに経口溶液、および注射溶液は、約0.01〜99%の活性化合物を賦形剤と共に含有する。別の例において、これらの製剤は、約0.25〜75%の活性化合物を賦形剤と共に含有する。さらなる例において、本発明の化合物を経直腸投与する形態としては坐剤を用いることができる。
【0091】
本発明の薬学的組成物は、本発明の化合物の有益な効果を経験しうる任意の動物に投与することが可能である。それらの動物の内主要なものは哺乳類、例えばヒト、および獣医学的動物であるが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0092】
本発明の薬学的組成物は、意図された目的を達成するいかなる手段により投与されてもよい。例えば、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、経皮、経頬、くも膜下腔内、頭蓋内、鼻腔内、または局所経路により投与できる。その代わりにまたは同時に、経口経路により投与してもよい。投与される量は、レシピエントの年齢、健康状態、体重、同時に受けている治療があれば、その種類、治療の頻度、および望まれる効果の性質に依存する。
【0093】
本発明の薬学的製剤は、それ自体公知の様式で、例えば、通常の混合、顆粒化、糖衣錠製造、溶解、または凍結乾燥する工程によって製造される。従って、経口用途の薬学的製剤は、活性化合物を固形賦形剤と組み合わせ、望ましいあるいは必要な場合、適当な補助剤を加えた後、任意に、得られた混合物を粉砕し顆粒の混合物を加工し、錠剤または糖衣錠の芯を取得することにより得られる。
【0094】
本発明に使用される賦形剤としては、これらに制限されないが、例えば、糖類等の充填剤、例えば乳糖またはショ糖、マンニトールまたはソルビトール;リン酸三カルシウムまたはリン酸水素カルシウム等のセルロース製剤、および/またはリン酸カルシウム;例えば、トウモロコシ澱粉、コムギ澱粉、米澱粉、ジャガイモ澱粉、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドンを使用したデンプンのり等の結合剤。任意に、上記のデンプン、および、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはアルギン酸ナトリウム等のその塩等の崩壊剤を加えることもできる。補助剤は、とりわけ、流量調整剤および潤滑剤、例えばシリカ、タルク、ステアリン酸またはその塩、例えばステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸カルシウム、および/またはポリエチレングリコールである。糖衣錠の芯には、任意に胃液に抵抗性の適当なコーティングが施される。この用途には、濃縮された糖類の溶液を用いることができ、これらは、任意にアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適当な有機溶媒あるいは溶媒混合液を含む。胃液に抵抗性のコーティングを調製するために、フタル酸アセチルセルロースまたはフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースのような、適切なセルロース調製物の溶液が使用される。例えば識別のため、または活性化合物の用量の組み合わせを特徴づけるために、錠剤または糖衣錠のコーティングに、染料または顔料が添加されてもよい。
【0095】
経口投与に使用可能な他の薬学的製剤は、ゼラチンで作られた押し込み型(push-fit)カプセル剤、およびゼラチンと可塑剤、例えばグリセロールまたはソルビトールから作られた軟密封カプセル剤(soft, sealed capsules)を含む。押し込み型カプセル剤は、乳糖などの充填剤、澱粉などの結合剤および/またはタルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、および任意に安定剤と混合してもよい顆粒の形で活性化合物を含有する。軟カプセル剤では、活性化合物は、適切な液体、例えば、脂肪油、または液体パラフィンに溶解または懸濁される。任意で安定剤が添加されてもよい。
【0096】
直腸に使用できる薬学的製剤は、例えば一つまたは複数の活性化合物と坐剤基剤との組合せからなる坐剤を含む。適切な坐剤基剤は、例えば天然または合成トリグリセリド、またはパラフィン炭化水素である。さらに、活性化合物と基剤との組合せからなるゼラチン直腸用カプセル剤を使用することも可能である。使用可能な基剤物質としては、例えば液体トリグリセリド、ポリエチレングリコール、またはパラフィン炭化水素が挙げられる。
【0097】
非経口投与のための製剤は、水溶性の形、例えば水溶性塩およびアルカリ性溶液、の活性化合物の水溶液を含む。活性化合物は、約0.01〜約50mg/mLで存在してよい。さらに、油性注射用懸濁液に適した活性化合物の懸濁液の投与が可能である。
【0098】
適切な親油性溶媒、媒体、賦形剤または担体としては、脂肪油、例えば、ゴマ油、またはオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル;ポリエチレングリコール(「PEG」)、例えばPEG-200、400、600、800または1000;クレモフォール;シクロデキストリン;またはポリ(エチレングリコール)およびポリ(プロピレングリコール)のブロック共重合体(「ポロキサマー」)、例えばLUTROL(登録商標)が含まれる。一つの例において、賦形剤または担体は、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール)およびポリ(プロピレングリコール)のブロック共重合体、ならびに食塩水からなる群より選択される。別の例において、本発明に使用される薬学的組成物は、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない約10mg/mLの化合物1R、約25%(v/v)のポリ(エチレングリコール)、約5%(v/v)のポリ(エチレングリコール)およびポリ(プロピレングリコール)のブロック共重合体、ならびに食塩水を含む。
【0099】
水性注射用懸濁液は、懸濁液の粘性を増加する物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、ポリソルベート20、80、81、90および94(例えば、TWEEN(登録商標))等のポリソルベート、1%、2%、5%、10%または20%ブドウ糖水溶液(例えば、5%ブドウ糖の水溶液「D5W」)等のブドウ糖、ならびに/またはデキストランを含有してもよい。懸濁液はまた、任意で、安定化剤を含有してもよい。一つの例において、賦形剤または担体は、ポリ(エチレングリコール)、ポリソルベート、および5%ブドウ糖水溶液からなる群より選択される。別の例において、本発明に使用される薬学的組成物は、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない約10mg/mLの化合物1R、約7%(v/v)のポリ(エチレングリコール)400、約9%(v/v)のポリソルベート80、および約84%(v/v)の5%ブドウ糖水溶液を含む。
【0100】
本発明の態様に従い、本発明の化合物は、局所および非経口製剤において使用され、皮膚癌の治療に使用される。
【0101】
本発明の局所用組成物は、適当な担体を選択することにより、オイル、クリーム、ローション、軟膏等として製剤化される。適当な担体としては、植物または鉱物油、白色ワセリン(白色軟パラフィン)、分岐鎖油脂、動物性脂肪、高分子エタノール(C12を超えるもの)が挙げられる。担体の具体的な例としては、有効成分が溶解されるものが、挙げられる。乳化剤、安定剤、湿潤剤、および抗酸化剤を含むことも可能であり、さらに所望の場合、色または香りを与える物質を含んでもよい。さらに、これらの局所製剤には、経皮透過促進剤を使用することもできる。その様な促進剤の例は、米国特許第3,989,816号および同第4,444,762号を参照のこと。
【0102】
一つの例において、クリーム剤は、鉱物油、自己乳化する蜜ろう、および水の混合物より調合され、これに少量の油、例えば扁桃油、に溶解した有効成分を混合する。そのようなクリーム剤の典型的な例は、水、蜜ろう、鉱物油、および扁桃油を約40:20:40:1の割合で含有するものである。
【0103】
軟膏剤は、温めた軟パラフィンを含む扁桃油のような植物油溶液中の有効成分の溶液を混合し、その混合物を冷ますことにより、製剤化されうる。その様な軟膏剤の典型的な例は、約30%重量の扁桃油および約70%重量の白色軟パラフィンを含有するものである。
【0104】
下記の実施例は、本発明の方法と組成物を説明するものであり、これを限定するものではない。臨床治療で普通に遭遇し、当業者にとって明白な種々の条件およびパラメータの他の適切な修飾ならびに適用は、本発明の精神と範囲内に含まれる。
【0105】
実施例1:
2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1)の合成

3−ブロモ−4,5−ジメトキシベンズアルデヒド(1500g、6.12モル、1.1等量)およびマロノニトリル(404g、6.12モル、1.1等量)を99%エタノール(12L、7等量)に懸濁したものを、N2(g)雰囲気下、室温で攪拌した。ジメチルイソプロピルアミン(339mL、2.78モル、0.5等量)を徐々に加え(その結果、約14℃から約26℃の発熱が生じた)、反応混合物をN2(g)雰囲気下、室温で2時間攪拌した。黄色の濃い懸濁液をHPLCにより分析することにより、クネーフェナーゲル中間体の出現とアルデヒドの消失を観察した。2,3−ジアミノフェノール(690.66g、5.56モル、1等量)を加え、反応混合物を室温で一晩攪拌した。得られたベージュがかった茶色の懸濁液をろ過し、得られたケークを冷えたCH2Cl2(3000mL)で洗浄した。固体を真空下で乾燥させ、2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1.9kg、収率82%)を得た。

【0106】
実施例2:
キラルな調整用HPLCを用いた2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1)の分離によるR(−)−2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1R)の調製

2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1)のMeOH/CH3CN:95/5溶液をCHIRALPAK(登録商標)AS-V 20μMシリカゲルを充填したLC110(内径110mm)カラムに注入するために調製し、MeOH/CH3CN:95/5溶液を溶離液として使用し、下記の一般条件が使用された。
【0107】
一般条件

【0108】
画分を回収し、それぞれ組み合わせることにより、化合物1Rおよび1Sを得た。化合物の分析を、CHIRALPAK(登録商標)AS-H5μM(150×4.6mm)分析用カラムを用いて、以下のHPLCパラメータ設定で行った。

【0109】
これらの条件下で、化合物1Rおよび化合物1Sの滞留時間は、それぞれ3.19分および4.12分であることが明らかとなった。さらに、化合物1Rおよび化合物1Sの旋光度は、MeOH中25℃で、それぞれαD=-38.46°およびαD=+44.62°であることが観察された。化合物1Rの絶対配置は単結晶構造解析より決定された。
【0110】
ラセミ混合物1をHPLC解析したところ、両方の立体異性体がほぼ同じ割合で存在していることが明らかとなった。分離を行った後、単離された1R立体異性体のさらなるHPLC解析を行ったところ、対応する(S)立体異性体を約99.9%含まないことが示された。
【0111】
実施例3:
(9H−フルオレン−9−イル)メチル(S)−1−((R)−2,8−ジアミノ−3−シアノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−4H−クロメン−7−イルカルバモイル)エチルカルバメートの合成

オーブンで乾燥させた磁性攪拌子入りカルーセル式反応フラスコに、室温およびアルゴン下で(R)−2,7,8−トリアミノ−3−シアノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−4H−クロメン(0.200g、0.479mmol)、Fmoc-Ala-OH(0.179g、0.575mmol)、ジメチルホルムアミド(2.4mL)、HOBt(0.084g、0.62mmol)、および1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)(0.119g、0.623mmol)を加えた。黒色の溶液を室温で一晩攪拌した。溶液を、EtOAc(50mL)で希釈し、水(3×30mL)および食塩水(10mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濾過後、濃縮することにより粗生成物を茶色の残渣として得た。これをフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲルを12g予め充填させたカラム;EtOAc:ヘキサン1:9〜1:4〜1:1でのグラジエント溶出)で精製することにより、0.046g(13%)の表題化合物を黄色固体として得た。融点:212-217℃(dec)。

【0112】
実施例4:
(2S)−2−アミノ−N−((R)−2,8−ジアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−3−シアノ−4H−クロメン−7−イル)プロパンアミドの合成

オーブンで乾燥させた磁性攪拌子入り一つ口丸底反応フラスコに、室温およびアルゴン下で(9H−フルオレン−9−イル)メチル(S)−1−((R)−2,8−ジアミノ−3−シアノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−4H−クロメン−7−イルカルバモイル)−エチルカルバメート(0.045g、0.063mmol)、CH2Cl2:MeOH、1:1(2.11mL)、および2NのNaOH(0.063mL、0.13mmol)を加えた。橙色の懸濁液を室温で一晩攪拌した。懸濁液を濃縮して茶色の残渣を得た。残渣を、CHCl3(3×40mL)で抽出し、MgSO4で乾燥させ、濾過後、濃縮することにより粗生成物を得た。これをフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲルを4g予め充填させたカラム;CH2Cl2:MeOH、1:1で溶出)で精製することにより、0.005g(16%)の表題化合物を黄色固体として得た。

【0113】
実施例5:
(9H−フルオレン−9−イル)メチル((R)−2,8−ジアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−3−シアノ−4H−クロメン−7−イルカルバモイル)メチルカルバメートの合成

オーブンで乾燥させた磁性攪拌子入りカルーセル式反応フラスコに、室温およびアルゴン下で(R)−2,7,8−トリアミノ−3−シアノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−4H−クロメン(0.500g、1.19mmol)、Fmoc-Gly-OH(0.427g、1.44mmol)、ジメチルホルムアミド(6.0mL)、HOBt(0.210g、1.56mmol)、およびEDC(0.299g、1.56mmol)を加えた。黒色の溶液を室温で一晩攪拌した。溶液を、EtOAc(100mL)で希釈し、水(5×25mL)および食塩水(20mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濾過後、濃縮することにより粗生成物を橙色の固体として得た。これをフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲルを20g予め充填させたカラム;EtOAc:ヘキサン1:1〜2:1でグラジエント溶出)で精製することにより、0.125g(15%)の表題化合物を黄色固体として得た。融点:128-130℃。

【0114】
実施例6:
2−アミノ−N−((R)−2,8−ジアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−3−シアノ−4H−クロメン−7−イル)アセトアミド

オーブンで乾燥させた磁性攪拌子入り一つ口丸底反応フラスコに、室温およびアルゴン下で(9H−フルオレン−9−イル)メチル((R)−2,8−ジアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシフェニル)−3−シアノ−4H−クロメン−7−イルカルバモイル)メチルカルバメート(0.050g、0.072mmol)、CH2Cl2:MeOH、1:1(2.40mL)、および2NのNaOH(0.072mL,0.14mmol)を加えた。橙色の懸濁液を室温で一晩攪拌した。懸濁液を濃縮して茶色の残渣を得た。残渣をCHCl3(3×40mL)で抽出し、MgSO4で乾燥させ、濾過後、濃縮することにより粗生成物を得た。これをフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲルを4g予め充填させたカラム;CH2Cl2:MeOH、96:4〜90:10で微量のEt3Nと共にグラジエント溶出)で精製することにより、0.012g(35%)の表題化合物を黄色固体として得た。

【0115】
実施例7:
固形腫瘍細胞におけるカスパーゼカスケード活性化因子およびアポトーシス誘導因子としての(R)(−)−2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1R)の特定
ヒト乳癌細胞株T-47DおよびZR-75-1、ヒト大腸癌細胞株DLD-1、ならびにヒト非小細胞肺癌細胞株H1299を、10%FCS(Invitrogen Corporation)を加えたAmerican Type Culture Collectionにより指定された培地成分の混合物に従って、37℃、5%CO2、湿度95%のインキュベーターで培養した。T-47DおよびZR-75-1細胞は、細胞密度が30〜80%コンフルエントの範囲内であり、細胞密度が0.1〜0.6×106個/mLとなるように保持された。細胞を、600×gで回収し、適切な培地+10%FCSに0.65×106個/mLで再懸濁した。約0.16〜10μMの2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1)またはその他の試験化合物(最終濃度0.016〜1μM)を含む10%DMSO含有RPMI-1640倍地溶液を5μl含む96穴マイクロタイタープレートのウェルに、45μlの細胞のアリコートを添加した。対照サンプルとして試験化合物を含まない10%DMSO含有RPMI-1640倍地溶液を5μl含む96穴マイクロタイタープレートのウェルに、45μlの細胞のアリコートを添加した。サンプルを攪拌することにより混ぜ、37℃で24時間、5%CO2、湿度95%のインキュベーターで培養した。培養後、サンプルをインキュベーターから取り出し、20μMのN−(Ac−DEVD)−N'-エトキシカルボニル−R110(配列番号:1)蛍光発生気質(Cytovia, Inc.;US6,335,429)、20%ショ糖(Sigma)、20mM DTT(Sigma)、200mM NaCl(Sigma)、40mM NaPIPES緩衝液pH7.2(Sigma)および500μg/mlリゾレシチン(Calbiochem)を含む50μlの溶液を加えた。サンプルを攪拌することにより混ぜ、室温で培養した。蛍光プレートリーダー(Model 1420 Wallac Instruments)を用いて、485nmでの励起と530nmでの発光を使用して基質溶液を加えた1〜2分後に最初の読み取り(T=0)を行うことにより、対照サンプルのバックグラウンド蛍光を測定した。3時間培養後、上記と同様にサンプルの蛍光測定を行った(T=3h)。
【0116】
計算:
相対蛍光単位値(Relative Fluorescence Unit Value)(RFU)を用いてサンプル測定値を下記のとおり計算した。
RFU(T=3h)−対照RFU(T=0)=正味のRFU(T=3h)
【0117】
カスパーゼカスケード活性化の活性は、2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメンまたはその他の試験化合物の正味のRFU値と対象サンプルのその値の比率により測定した。EC50(nM)は、S字形用量反応の計算(Prism 2.0, GraphPad Software Inc.)により測定された。カスパーゼ活性化強度(EC50)を表Iに要約する。
【0118】
(表1)カスパーゼ活性化強度



【0119】
従って、R(−)−2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1R)は、固形腫瘍細胞において強力なカスパーゼカスケード活性化因子およびアポトーシス誘導因子であり、ラセミ体である2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメンの活性異性体である。S(+)−2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1S)は、ラセミ体である2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメンの不活性異性体である。観察された1Sの活性は、検査した試料中に存在する僅かなパーセント(〜1%)の1Rによる可能性がある。1Rのアラニンアミドプロドラッグである化合物4もまた、強力なカスパーゼカスケード活性化因子およびアポトーシス誘導因子である。
【0120】
実施例8:
細胞増殖を阻害する抗悪性腫瘍性化合物としてのR(−)−2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1R)の特定(GI50
ヒト乳癌細胞MX-1およびMDAMB435、肝細胞癌細胞SNU398、結腸癌細胞HCT116およびHeLa細胞を、実施例7と同様に培養し、回収した。10nM〜100μMのR(−)−2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(最終濃度1nM〜10μM)を含む10%DMSO含有RPMI-1640倍地溶液を5μL含む96穴マイクロタイタープレートのウェルに、90μLの細胞(4.4×104個/mL)のアリコートを90μL添加した。最大細胞増殖(LMax)のための対照サンプルとして化合物を含まない10%DMSO含有RPMI-1640倍地溶液を5μL含む96穴マイクロタイタープレートのウェルに、45μLの細胞を添加した。サンプルを攪拌することにより混ぜ、37℃で72時間、5%CO2、湿度95%のインキュベーターで培養した。培養後、サンプルをインキュベーターから取り出し、25μLのCellTiter-Glo(商標)試薬(Promega)を加えた。サンプルを攪拌することにより混ぜ、室温で10〜15分培養した。発光プレートリーダー(Model SPECTRAfluor Plus、Tecan)を用いてプレートを読み取り、Ltest値を得た。
【0121】
初期細胞数のGI50(細胞増殖を50%阻害する用量)のためのベースラインは、10%DMSO含有RPMI-1640倍地溶液を5μL含む96穴マイクロタイタープレートのウェルに、それぞれ、45μLの細胞をあるいは45μLの培地のアリコートを添加することにより測定した。サンプルを攪拌することにより混ぜ、37℃で0.5時間、5%CO2、湿度95%のインキュベーターで培養した。培養後、サンプルをインキュベーターから取り出し、25μLのCellTiter-Glo(商標)試薬(Promega)を加えた。サンプルを攪拌することにより混ぜ、37℃で10〜15分、室温で、5%CO2、湿度95%のインキュベーターで培養した。蛍光を上記と同様に読み取り、GI50測定のベースラインとして用いる初期細胞数の蛍光を定義した(LStart)。
【0122】
計算:
GI50(細胞増殖を50%阻害する用量)は、[(LTest - LStart)/(LMax - LStart)] = 0.5となる濃度を指す。
【0123】
GI50(nM)を表IIに要約する。
【0124】
(表2)癌細胞におけるGI50

【0125】
このように、R(−)−2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメンは、細胞増殖を阻害する抗悪性腫瘍性化合物であることが特定された。
【0126】
実施例9:
HUVEC管破壊アッセイにおけるR(−)−2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1R)のインビトロ抗脈管活性
マトリゲル基底膜マトリックス(300μL、BD Biosciences, Mississauga、オンタリオ、カナダ)のアリコートを24穴プレート(Fisher Scientific Ltd., Nepean, オンタリオ、カナダ)の各ウェルに添加し、37℃で1時間インキュベートした。EGM-2中HUVEC細胞(3×104個)を各ウェルに加え、細胞が管状構造を形成するように5%CO2雰囲気下37℃で4時間培養した。化合物1Rをそれぞれの濃度にDMSOで希釈し、細胞に加え、これを37℃で1時間5%CO2雰囲気下で培養した。培養後、培地を穏やかに吸引し、新しいEGM-2を加え、細胞をさらに24時間培養した。顕微鏡画像をZeiss LSM 510共焦点顕微鏡(Zeiss Canada Ltd., Toronto、オンタリオ、カナダ)を用いて記録した。化合物1Rの毛細管破壊への影響は、光学顕微鏡法(拡大率40倍)により評価され、その結果を表IIIに要約する。
【0127】
(表3)化合物1Rによる管形成の阻害

【0128】
このように、R(−)−2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1R)は、10nMという低さの濃度においても管形成を阻害し、化合物1Rが高い抗脈管活性を有することを示した。
【0129】
実施例10:
R(−)−2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1R)の製剤化
化合物1Rは、25%PEG400(v/v)および5%Lutrol(w/v)含有食塩水を用いて10mg/mLの溶液とした。933μLの食塩水を66.7mgのLutrolの入ったバイアルに加え、Lutrolが食塩水に溶解するまで攪拌することにより、6.67%Lutrol含有食塩水溶液を調製した。973μLのPEG400を40mgの化合物1Rの入ったバイアルに加え、ボルテックスで攪拌し、1RがPEG400に溶解するまでバイアルを振盪機またはローテーターに設置し、40mg/mL化合物1R含有PEG400溶液を調製した。溶解を促進するために、必要に応じて、混合物を時折50℃まで加温してもよい。250μLの40mg/mL化合物1R含有PEG400の入ったバイアルに、750μLの6.67%Lutrol含有食塩水を、ピペットを使用して加え、食塩水添加中は攪拌することにより、25%PEG400(v/v)および5%Lutrol(w/v)含有食塩水中10mg/mLの化合物1Rを含む溶液を調製した。得られた溶液は0.2μmフィルタで濾過後、注射剤とした。
【0130】
化合物1Rは、7%PEG400/9%Tween80/84%D5W中10mg/mL溶液として製剤化し、静脈内注射剤として用いてもよい。また、化合物1Rは、10%クレモフォール/10%エタノール/80%食塩水中10mg/mL溶液として製剤化し、静脈内注射剤として用いてもよい。
【0131】
実施例11:
R(−)−2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1R)のインビボ抗癌活性
ヒト乳癌腫瘍MX1は、NCI-FCRDCより入手し、ヌードマウスにおいて腫瘍として保持した。腫瘍片を雌nu/nuマウスの右乳腺領域に外套針を用いて移植し、移植約12日後に平均的な大きさが200〜250mgとなるように成長させた。動物を無作為抽出し、1試験群当たり8〜10頭として割り当てた。体重を測定し、腫瘍サイズはノギスで測定し、標準的な式Vol=LxW2/2を用いて体積に変換した。化合物1Rを7%PEG400/9%Tween80/84%D5W中で調整し、示された日数及び用量で、尾静脈内より投与した。治療の初日を試験の1日目とした。生存期間は、腫瘍が1000mgに達するか、あるいは死亡までの日数のいずれか早い方とした。生存期間中央値は試験群の中央値である。
【0132】
(表4)MX−1モデルにおける化合物1Rのインビボ抗腫瘍活性

【0133】
このように、R(−)−2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1R)により、媒体対照動物と比較して、MX−1モデルにおける生存期間中央値は延長し、化合物1Rが単剤として高いインビボ抗腫瘍活性を有することが示された。
【0134】
実施例12:
シスプラチンおよびドキソルビシンとR(−)−2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1R)の組み合わせ
実施例11に記載のように、MX1ヒト乳癌腫瘍を移植されたマウスに化合物1Rを投与した。示された用量で、シスプラチンは腹腔内に投与し、ドキソルビシンは静脈内に投与した。
【0135】
(表5)MX−1モデルにおける、シスプラチンおよびドキソルビシンと組み合わせた化合物1Rのインビボ抗腫瘍活性

【0136】
従って、(R)(−)−2,7,8−トリアミノ−4−(3−ブロモ−4,5−ジメトキシ−フェニル)−3−シアノ−4H−クロメン(1R)とシスプラチンまたはドキソルビシンの併用は、マウスの生存期間中央値を有意に延長し、MX−1モデルにおける無腫瘍動物の数を有意に増加させ、その他の抗癌剤と併用した場合に化合物1Rが優れた活性を有することを示した。
【0137】
ここで本発明を詳しく説明しているが、本発明の範囲あるいはそのいかなる態様にも影響することなく、広範で同等の範囲の条件、剤形、およびその他のパラメータにおいて同様の実施が可能であることは当業者により理解される。本明細書において引用されたすべての特許、特許出願、および広報は、すべて参照として本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対応する(S)立体異性体を実質的に含まない、式1R

の化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくはそのプロドラッグ。
【請求項2】
前記化合物1Rが、対応する(S)立体異性体を約99.9%含まない、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記プロドラッグが、式1Rのアミノ基とC1−40カルボン酸、その無水物もしくはアミノ酸を縮合させることにより得られるアミド;式1Rのアミノ基とC1−4アルデヒドもしくはケトンを縮合させることにより得られるイミン;またはカルバメートである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記アミノ酸が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンからなる群より選択される、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
前記プロドラッグが式II

を有する、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩:
式中、
Rが、水素、アルキル、およびヒドロキシ、カルボキシ、カルバモイル、メルカプト、イミダゾリル、メチルチオ、アリール、アミノまたはグアニジンで置換されたアルキルであるか;あるいは
RとRの結合している炭素原子に結合しているNH2基がともに環を形成する。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくはそのプロドラッグ、ならびに薬学的に許容される賦形剤または担体を含む、薬学的組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物を約0.01〜約50mg/mL含む、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記賦形剤または担体が、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール)およびポリ(プロピレングリコール)のブロック共重合体、ならびに食塩水からなる群より選択される、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記ポリ(エチレングリコール)がPEG200、400、600、800、または1000である、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
約10mg/mLの請求項1に記載の化合物、約25%(v/v)ポリ(エチレングリコール)、約5%(v/v)ポリ(エチレングリコール)およびポリ(プロピレングリコール)のブロック共重合体、ならびに食塩水を含む、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記賦形剤または担体が、ポリ(エチレングリコール)、ポリソルベート、および5%ブドウ糖水溶液からなる群より選択される、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記ポリソルベートがポリソルベート20、80、81、90または94である、請求項11に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
約10mg/mLの請求項1に記載の化合物、約7%(v/v)ポリ(エチレングリコール)400、約9%(v/v)ポリソルベート80、および約84%(v/v)の5%ブドウ糖水溶液を含む、請求項12に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
化合物1Rが、対応する(S)立体異性体を約99%またはそれ以上含まない、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
化合物1Rが、対応する(S)立体異性体を約99.9%含まない、請求項14に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
少なくとも一つの公知の癌化学療法薬または該療法薬の薬学的に許容される塩をさらに含む、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
アポトーシス誘導に応答する疾患を、それを患っている動物において治療する方法であって、
そのような治療を必要とする哺乳類に、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない、有効量の式1R

の化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくはそのプロドラッグを投与する工程を含む方法。
【請求項18】
前記疾患が癌である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記癌が、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、急性および慢性リンパ性白血病、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣癌、軟部肉腫、慢性リンパ性白血病、原発性マクログロブリン血症、膀胱癌、慢性顆粒球白血病、原発性脳腫瘍、悪性メラノーマ、小細胞肺癌、胃癌、直腸癌、悪性膵島細胞腺腫、悪性カルチノイド腫瘍、悪性メラノーマ、絨毛癌、菌状息肉腫、頭頚部癌、骨肉腫、膵癌、急性顆粒球白血病、ヘアリー細胞白血病、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、カポジ肉腫、尿生殖器癌、甲状腺癌、食道癌、悪性高カルシウム血症、頸部過形成、腎細胞癌、子宮内膜癌、真性多血症、本態性血小板増加症、副腎皮質腫瘍、皮膚癌および前立腺癌からなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記癌が薬剤耐性癌である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記化合物が、薬学的に許容される賦形剤または担体を含む薬学的組成物の一部として投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも一つの公知の癌化学療法薬または該療法薬の薬学的に許容される塩を投与する工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記公知の癌化学療法薬が、ブスルファン、シスプラチン、マイトマイシンC、カルボプラチン、コルヒチン、ビンブラスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、カンプトテシン、トポテカン、ドキソルビシン、エトポシド、5−アザシチジン、5−フルオロウラシル、メトトレキサート、5−フルオロ−2’−デオキシウリジン、アラ−C、ヒドロキシウレア、チオグアニン、メルファラン、クロラムブシル、シクロフォスアミド、イホスファミド、ビンクリスチン、ミトグアゾン、エピルビシン、アクラルビシン、ブレオマイシン、ミトキサントロン、エリプチニウム、フルダラビン、オクトレオチド、レチノイン酸、タモキシフェン、ハーセプチン(登録商標)、リツキサン(登録商標)およびアラノシンからなる群より選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記化合物1Rならびに公知の前記癌治療薬を投与する前記工程により、公知の該癌治療薬の有効性がその単独投与と比較して増大する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
放射線療法により前記癌を治療する工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記化合物が癌の外科的治療の後に投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記疾患が自己免疫疾患である、請求項17に記載の方法。
【請求項28】
前記疾患が関節リウマチである、請求項17に記載の方法。
【請求項29】
前記疾患が炎症である、請求項17に記載の方法。
【請求項30】
前記炎症が炎症性腸疾患である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記疾患が皮膚疾患である、請求項17に記載の方法。
【請求項32】
前記疾患が乾癬である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
抗血管剤に応答する疾患を、それを患っている動物において治療する方法であって、
そのような治療を必要とする哺乳類に、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない、有効量の式1R

の化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくはそのプロドラッグを投与する工程を含む方法。
【請求項34】
前記疾患が癌である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記疾患が固形腫瘍である、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記疾患が血管系の過度な成長によって生じる疾患である、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記疾患が眼球血管新生である、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記化合物が、薬学的に許容される賦形剤または担体を含む薬学的組成物の一部として投与される、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記化合物を癌化学療法薬と共に投与する、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
前記疾患が腎細胞癌であり、前記癌化学療法薬がスニチニブである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記疾患が肝臓癌であり、前記癌化学療法薬がソラフェニブである、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記疾患が非小細胞肺癌であり、前記癌化学療法薬がカルボタキセルあるいはベバクジマブである、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記疾患が卵巣癌であり、前記癌化学療法薬がドキソルビシンである、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
前記疾患が前立腺癌であり、前記癌化学療法薬がサトラプラチンである、請求項39に記載の方法。
【請求項45】
前記疾患が結腸直腸癌であり、前記癌化学療法薬がベバクジマブである、請求項39に記載の方法。
【請求項46】
対応する(S)立体異性体から式1R

を有する立体異性体を分離する方法であって、
該立体異性体1Rが対応する該(S)立体異性体を実質的に含まない状態で単離される、以下の工程を含む方法:
溶媒ならびに1Rおよび対応する該(S)立体異性体を含むラセミ混合物を含む混合物を、キラルな固定相に接触させる工程;
該混合物および該キラルな固定相を、溶出溶媒に接触させる工程;ならびに
該立体異性体1Rを該溶出溶媒より単離する工程。
【請求項47】
前記立体異性体1Rが、対応する前記(S)立体異性体を約99%含まない状態で単離される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
式中、
Rが、水素、アルキル、およびヒドロキシ、カルボキシ、カルバモイル、メルカプト、イミダゾリル、メチルチオ、アリール、アミノまたはグアニジンで置換されたアルキルであるか;あるいは
RとRの結合している炭素原子に結合しているNH2基がともに環を形成する、式II

のプロドラッグを製造する方法であって、
式1Rの化合物が、対応する(S)立体異性体を実質的に含まない、以下の工程を含む方法:
式1R

の化合物を保護されたアミノ酸およびカップリング剤に接触させて、保護されたプロドラッグを形成する工程;ならびに
該保護されたプロドラッグを脱保護し、式IIの該化合物を形成する工程。
【請求項49】
前記保護されたアミノ酸が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンからなる群より選択される保護されたアミノ酸である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記保護されたアミノ酸が、9−フルオレニルメチルカルバメートで保護されたL−アラニン(Fmoc-L-アラニン)である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記カップリング試薬が、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびヒドロキシベンゾトリアゾル(HOBt)、あるいは1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)およびヒドロキシベンゾトリアゾル(HOBt)を含む混合物である、請求項48に記載の方法。
【請求項52】
前記保護されたプロドラッグが、式

を有する、請求項48に記載の方法。
【請求項53】
前記保護されたプロドラッグを脱保護する工程が、該保護されたプロドラッグを塩基水溶液に接触させることを含む、請求項48に記載の方法。
【請求項54】
前記塩基水溶液が水酸化物塩の水溶液である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
増殖抑制量の請求項1に記載の化合物を細胞に送達する工程を含む、内皮細胞の増殖を抑制する方法。
【請求項56】
血管新生抑制を必要とする動物の組織において血管新生を抑制する方法であって、
抗血管新生量の請求項1に記載の化合物を該組織に送達する工程を含む方法。

【公表番号】特表2009−542701(P2009−542701A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518401(P2009−518401)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/015676
【国際公開番号】WO2008/005572
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(504422955)サイトビア インコーポレイティッド (3)
【Fターム(参考)】