説明

カセット装置、記録装置

【課題】記録装置本体に装着する前のカセット装置に媒体を容易にセットすること、およびセットした媒体の位置を安定させることを考慮したカセット装置を提供すること。
【解決手段】カセット装置(7)は、媒体が載置される載置面9と、該載置面より媒体が送られる送り方向下流側(Y)に形成され、送り方向下流側が媒体の積層方向上方(Z)となるように前記載置面に対して傾斜した傾斜面11と、前記傾斜面を基準として前記載置面側に対して進退可能であり、送り方向に対して側視鋸歯形状24を有する係止部23と、を備え、該係止部23の側視鋸歯形状24は、前記カセット装置(7)が前記記録装置本体に装着されていないとき、前記傾斜面11から前記載置面側に対して突出しており、前記カセット装置(7)が前記記録装置本体に装着されたとき、前記傾斜面側から退避する構成であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置本体に対して着脱可能なカセット装置、および該カセット装置を備える記録装置に関する。
本願において、記録装置には、インクジェットプリンター、ワイヤドットプリンター、レーザープリンター、ラインプリンター、複写機、ファクシミリ等の種類が含まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
従来では、特許文献1に示す如く、プリンターは、プリンター本体に対して着脱可能な用紙カセットを有していた。前記用紙カセットは、搬送手段によって送られる前の用紙を載置することができるように構成されていた。また、前記用紙カセットは、上段側トレイと、下段側トレイとを有しており、それぞれに用紙をセットすることができるように構成されていた。またさらに、前記上段側トレイは、前記下段側トレイに対してスライド可能に構成されていた。
【0003】
そして、前記上段側トレイにセットされた用紙を使用する場合、前記用紙カセットを前記プリンター本体に装着する前に予めユーザーが前記上段側トレイを送り方向下流側へスライドするように構成されていた。これにより、ピックアップローラーが前記上段側トレイにセットされた用紙と接触し、該用紙を送り方向下流側へ送ることができた。一方、前記下段側トレイにセットされた用紙を使用する場合、予めユーザーが前記上段側トレイを送り方向上流側へスライドするように構成されていた。これにより、ピックアップローラーが前記下段側トレイにセットされた用紙と接触し、該用紙を送り方向下流側へ送ることができた。
【0004】
また、いずれのトレイにセットされた用紙を使用する場合であっても、前記下段側トレイの用紙の先端と対向する位置に形成された分離手段としての傾斜面を、用紙の先端が上っていく構成であった。
またさらに、前記上段側トレイにおける用紙の先端と対向する位置には、側視凹凸形状のストッパー部が形成されていた。これにより、前記上段側トレイが送り方向上流側に位置するとき、つまり、前記下段側トレイの用紙が選択されているとき、前記上段側トレイにセットされた用紙の先端が前記ストッパー部と係合することにより、用紙が送り方向へ飛び出すことを防止することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−227377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記上段側トレイが送り方向下流側に位置するとき、つまり、前記上段側トレイの用紙が選択されているとき、前記ストッパー部は、前記傾斜面の奥側へ退避する。つまり、前記ストッパー部は、用紙の先端と接触しない状態となる。従って、この状態で、装着前の前記用紙カセットを持ち運ぶと、振動によって用紙の先端が前記分離手段としての前記傾斜面を上り、前記傾斜面の上に乗り上げてしまう虞が生じる。
また、残りの用紙の枚数が少なくなり、前記用紙カセットを前記プリンター本体から取り外して新しく用紙を追加する際、残りの用紙が、追加された用紙によって送り方向下流側へ押される。そして、残りの用紙の先端が前記傾斜面を上り、前記傾斜面の上に乗り上げてしまう虞がある。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、その課題は、記録装置本体に装着する前のカセット装置において、カセット装置内に媒体を容易にセットすること、およびセットされた媒体の位置を安定させることを考慮したカセット装置および該カセット装置を備えた記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様のカセット装置は、記録装置本体に対して着脱可能なカセット装置であって、媒体が載置される載置面と、該載置面より媒体が送られる送り方向下流側に形成され、送り方向下流側が媒体の積層方向上方となるように前記載置面に対して傾斜した傾斜面と、該傾斜面を基準として前記載置面側に対して進退可能であり、送り方向に対して側視鋸歯形状を有する係止部と、を備え、該係止部の側視鋸歯形状は、前記カセット装置が前記記録装置本体に装着されていないとき、前記傾斜面から前記載置面側に対して突出しており、前記カセット装置が前記記録装置本体に装着されたとき、前記傾斜面側から退避する構成であることを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、媒体を前記載置面にセットする際、前記係止部の側視鋸歯形状が媒体の先端を係止することができる。従って、送り方向における媒体の先端が前記傾斜面を上って傾斜面の上に乗り上げる虞がない。その結果、容易に媒体を前記載置面にセットすることができる。
また、前記カセット装置が前記記録装置本体に装着される前において、前記載置面にセットされた媒体が、持ち運ぶ際の振動によって前記傾斜面を上って傾斜面の上に乗り上げる虞がない。
またさらに、前記載置面に残っている媒体の枚数が少なくなり追加する際、追加される媒体がセットされることにより残りの媒体が送り方向下流側へ押される場合がある。係る場合であっても、残りの媒体の先端が前記傾斜面を上って傾斜面の上に乗り上げることを防止することができる。
【0010】
また、従来の構成で設けられていたカセット装置が装着される際に前記傾斜面から突出する部材を無くすことができる。従って、本態様では、前記カセット装置を前記記録装置本体に装着した際、前記載置面にセットされた媒体の先端が潰される虞がない。
尚、前記カセット装置が前記記録装置本体に装着された状態では、前記係止部が前記退避している。従って、媒体が送られることを前記係止部が妨げる虞はない。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記係止部の一の鋸歯形状における積層方向下側の面の姿勢は、前記傾斜面の法線の姿勢または該法線の姿勢より前記載置面の姿勢側に倒れた姿勢であることを特徴とする。
本態様によれば、第1の態様と同様の作用効果に加え、媒体が送り方向下流側へ押された場合であっても、より確実に前記係止部が媒体の先端を係止し、媒体の先端が前記傾斜面を上って傾斜面の上に乗り上げることを防止することができる。つまり、鋸歯形状における積層方向下側の面が、前記傾斜面を上ろうとする媒体の先端にとって越えられない壁となる。
【0012】
本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記係止部の一の鋸歯形状における積層方向下側の面の姿勢は、前記載置面の姿勢と平行であることを特徴とする。
本態様によれば、第2の態様と同様の作用効果に加え、媒体の先端が積層方向上方へ移動することを防止することができる。つまり、より一層確実に前記係止部が媒体の先端を係止し、媒体の先端が前記傾斜面を上って傾斜面の上に乗り上げることを防止することができる。
【0013】
本発明の第4の態様は、第1から第3のいずれか一の態様において、前記係止部は揺動する構成であることを特徴とする。
本態様によれば、第1から第3のいずれか一の態様と同様の作用効果に加え、前記係止部が摺動する構成と比較して、前記係止部の側視鋸歯形状の姿勢を安定させることができる。また、前記係止部を、容易に前記進退させることができる。
【0014】
本発明の第5の態様は、第4の態様において、前記係止部は積層方向下方を支点に揺動する構成であり、前記係止部を前記退避する方向へ付勢する第1付勢手段と、前記係止部における前記支点より積層方向上方と接触し、前記係止部の側視鋸歯形状が前記突出したときにとる第1の姿勢と、前記係止部の側視鋸歯形状が前記退避したときにとる第2の姿勢との間を揺動可能なレバー部材と、該レバー部材が前記第1の姿勢をとるように前記レバー部材を付勢する第2付勢手段と、を備え、前記カセット装置が前記記録装置本体に装着される前、前記レバー部材は前記第2付勢手段の付勢力によって前記第1の姿勢をとることにより、前記係止部の側視鋸歯形状は前記突出しており、前記カセット装置が前記記録装置本体に装着されていないとき、前記レバー部材が前記記録装置本体の一部と当接することにより、前記第2付勢手段の付勢力に抗して第2の姿勢へ揺動し、前記第1付勢手段の付勢力によって前記係止部の側視鋸歯形状が前記退避する構成であることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、第4の態様と同様の作用効果に加え、前記カセット装置の着脱に応じて、前記係止部の側視鋸歯形状を前記進退させるように、容易に構成することができる。
また、前記係止部が前記突出した状態の姿勢を、前記レバー部材によって安定させることができる。つまり、前記載置部に載置された媒体が送り方向下流側へ押された場合であっても、送り方向下流側へ押された力に前記レバー部材が対抗して前記係止部を強固に支えて、前記係止部が退避してしまうことを防止することができる。
【0016】
本発明の第6の態様の記録装置は、媒体が載置される載置部と、載置された媒体を送り方向下流側へ送る送り手段と、送られた媒体に対して記録する記録部と、を備えた記録装置であって、前記載置部は、上記第1から第5のいずれか一の態様の前記カセット装置を備えていることを特徴とする。
本態様によれば、前記載置部は、上記第1から第5のいずれか一の態様の前記カセット装置を備えている。従って、前記記録装置において、上記第1から第5のいずれか一の態様と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施例のプリンターの内部の概略を示す側面図。
【図2】本実施例のカセット部の突出した状態の係止部を示す拡大斜視図。
【図3】本実施例のカセット部の退避した状態の係止部を示す拡大斜視図。
【図4】本実施例のカセット部装着前における係止部を示す側断面図。
【図5】本実施例のカセット部装着時における係止部を示す側断面図。
【図6】本実施例のカセット部に用紙をセットした様子を示す側断面図。
【図7】本実施例のカセット部に用紙を追加した様子を示す側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すのは、本発明に係る記録装置の一例であるプリンター1の概略を示す側面図である。
図1に示す如く、本発明に係るプリンター1は、プリンター本体2と、プリンター本体2に対して着脱可能なカセット装置としてのカセット部7と、を備えている。このうち、カセット部7は、プリンター本体2に装着された状態において、プリンター1における載置部を構成する。載置部としてのカセット部7は、被送り媒体の一例である用紙Pを載置することができるように設けられている。
【0019】
一方、プリンター本体2は、送り手段3と、送り経路と、記録部16と、排出部20と、を備えている。
このうち、送り手段3は、カセット部7に載置された用紙Pをカセット部7に設けられた分離部10によって一枚ずつ分離しながら送り方向Yに送ることができるように設けられている。また、送り経路は、送り手段3等によって送られる用紙Pを案内する媒体案内部によって構成されており、用紙Pが送られる経路である。
また、記録部16は、送り手段3によって送られた用紙Pに対して記録を実行することができるように構成されている。またさらに、排出部20は、記録された用紙Pを排出し、排出トレイ上(図示せず)に載置することができるように設けられている。
【0020】
具体的に、送り手段3は、ピックアップローラー4と、アーム部5と、第1ローラー対14と、第2ローラー対15と、を備えている。
このうち、ピックアップローラー4は、モーターの動力によって駆動することができ、カセット部7の載置面9に積層された用紙Pのうち、積層方向Z(載置方向)最上位の用紙Pと接触することができるように設けられている。尚、Z軸の矢印が示す方向は載置方向上方である。
【0021】
またさらに、アーム部5は、送り方向上流側である一端側のアーム揺動軸6を中心に揺動可能に設けられている。そして、送り方向下流側である他端側にピックアップローラー4を回動可能に保持するように構成されている。
また、分離部10は、カセット部7の載置面9における用紙Pがセットされる箇所より送り方向下流側に設けられている。
【0022】
具体的には、ピックアップローラー4によって送られる用紙Pを側視した姿勢に対して傾斜した傾斜面11と有している。そして、用紙Pが重送された場合、ピックアップローラー4に対して最上位の用紙Pと次位以降の用紙Pとを分離することができるように設けられている。所謂、土手分離機構である。
ここで、「土手分離機構」とは、所定の角度で用紙Pが進入するように面を設け用紙Pの先端に負荷を与えることにより分離する機構をいう。
【0023】
またさらに、第1ローラー対14および第2ローラー対15は、分離部10を通過した用紙Pを記録部16へ送ることができるように設けられている。このうち、第1ローラー対14は、第1駆動ローラー14aと、第1従動ローラー14bとを有している。
尚、第1従動ローラー14bに代えて回動に所定の負荷を伴う所謂、リタードローラーでもよい。係る場合、土手分離機構での分離が十分でない場合に、重送された用紙Pを確実に分離することができる。即ち、第1駆動ローラー14aと直接的に接触する用紙Pを、該用紙Pよりリタードローラー側の用紙Pから分離することができる。
【0024】
また、第2ローラー対15は、送り経路において第1ローラー対14より下流側に設けられている。具体的には、第2ローラー対15は、第2駆動ローラー15aと第2従動ローラー15bとを有している。
そして、例えば、ステッピングモーターによって精度よく用紙Pを記録部16へ送ることができるように設けられている。
【0025】
また、記録部16は、キャリッジ17と、記録ヘッド18と、媒体支持部19と、を備えている。このうち、キャリッジ17は、用紙Pの幅方向Xへ延設されたガイド軸(図示せず)に案内されながら移動手段(図示せず)の動力によって幅方向Xへ移動するように構成されている。また、記録ヘッド18は、キャリッジ17に設けられており、インクを用紙Pに対して吐出することができるように設けられている。所謂、インクジェット式の記録である。
【0026】
またさらに、媒体支持部19は、記録ヘッド18と対向する位置に設けられ、用紙Pを支持し、用紙Pと記録ヘッド18との間の距離を所定の間隔にすることができるように構成されている。
尚、本実施形態では、インクを吐出するインクジェット式の記録部16を採用したが他の構成でもよい。例えば、トナーを用紙Pに付着させ、熱と圧力をかけて用紙Pに記録する所謂、レーザープリンターの構成でもよい。
また、排出部20は、第3ローラー対21と、図示しない排出トレイを備えている。第3ローラー対21は、送り経路において記録部16より下流側に設けられ、記録された用紙Pを排出トレイへ送ることができるように設けられている。
【0027】
続いて、本実施例のカセット部7について詳しく説明する。
図2に示すのは、本実施例のカセット部7の突出した状態の係止部23を示す拡大斜視図である。また、図3に示すのは、本実施例のカセット部7の退避した状態の係止部23を示す拡大斜視図である。
図2および図3に示す如く、本実施例のカセット部7には、前述した傾斜面11が幅方向Xに複数設けられている。そして、複数の傾斜面11、11の間には、送り方向Yを基準として側視鋸歯形状24を有する係止部23が設けられている。
【0028】
図2に示す如く、カセット部7がプリンター本体2から取り外された状態、つまり、カセット部7がプリンター本体2に完全に装着される前の状態では、係止部23の側視鋸歯形状24は、傾斜面11を基準として載置面9側へ突出している。これにより、詳しくは後述するように、カセット部7が持ち運ばれる際、載置面9に載置、積層された用紙Pが、傾斜面11を上って傾斜面11の上に乗り上げることを防止することができる。
【0029】
一方、図3に示す如く、カセット部7がプリンター本体2に完全に装着された状態では、係止部23の側視鋸歯形状24は、傾斜面11を基準として載置面9側から退避している。従って、前述したようにピックアップローラー4によって載置された用紙Pを送り方向下流側へ送る際、用紙Pの先端を分離部10としての傾斜面11に確実に当てることができる。つまり、カセット部7がプリンター本体2に装着された状態では、用紙Pが送られることを、係止部23の側視鋸歯形状24が妨げる虞がない。
【0030】
続いて、係止部23の側視鋸歯形状24が、傾斜面11を基準として載置面9側に対して突出、退避する構造および側視鋸歯形状24の歯の姿勢について詳しく説明する。
図4に示すのは、本実施例のカセット部7の装着前における係止部23を示す側断面図である。また、図5に示すのは、本実施例のカセット部7の装着時における係止部23を示す側断面図である。
図4および図5に示す如く、係止部23には、側視鋸歯形状24と、第1ばね係合部26と、軸係合部27とが設けられている。また、カセット部7の基体部8には、第1揺動軸13と、第2ばね係合部12とが設けられている。またさらに、カセット部7の基体部8には、レバー部材29が第2揺動軸30を中心に揺動可能に取り付けられている。
【0031】
そして、係止部23の下方に形成された軸係合部27が、基体部8の第1揺動軸13と係合している。従って、係止部23は、第1揺動軸13を中心に揺動することができる。また、第1付勢手段の一例である引っ張りコイルばね28の一端側は、係止部23の第1ばね係合部26と係合しており、他端側は、基体部8の第2ばね係合部12と係合している。従って、係止部23は、第1揺動軸13を中心に図中の反時計方向へ付勢される。つまり、係止部23の側視鋸歯形状24が、傾斜面11を基準として載置面9に対して退避する方向へ付勢されている。
【0032】
また、レバー部材29は、一端側が係止部23と当接することにより、係止部23の姿勢を決めることができるように構成されている。具体的に、レバー部材29は、図4に示す第1の姿勢と、図5に示す第2の姿勢との間を揺動可能に構成されている。例えば、図示しない度当て部によってレバー部材29が第1の姿勢と第2の姿勢との間以外の姿勢を取らないように構成することができる。
【0033】
またさらに、レバー部材29は、第2付勢手段の一例であるねじりコイルばね31によって第2の姿勢側から第1の姿勢側へ付勢されている。つまり、レバー部材29は、図中の時計方向へ付勢されている。
そして、レバー部材29は、係止部23の側視鋸歯形状24が前記突出する状態となる方向へ係止部23を付勢している。
【0034】
そして、ユーザーが、カセット部7をプリンター本体2に装着する際、図4に示す黒い矢印方向(Y軸の矢印方向)へカセット部7をプリンター本体2に対して移動させる。
すると、図5に示す如く、プリンター本体2に設けられた当接部22に、レバー部材29の他端側が当接する。そして、さらにY軸の矢印方向へカセット部7を移動させると、レバー部材29の他端側が当接部22によって相対的に押され、レバー部材29が、ねじりコイルばね31の付勢力に抗して図中の反時計方向へ揺動する。つまり、レバー部材29が、第1の姿勢から第2の姿勢へ揺動する。これにより、引っ張りコイルばね28の付勢力によって、側視鋸歯形状24が前記退避する方向へ、係止部23は揺動する。そして、カセット部7がプリンター本体2に完全に装着された状態となる。
【0035】
一方、ユーザーが、カセット部7をプリンター本体2から取り外す際、図5に示す状態からY軸の矢印と逆方向へカセット部7を引っ張って移動させる。すると、レバー部材29の他端側は当接部22から離間するように移動すると共に、ねじりコイルばね31の付勢力によって、レバー部材29は第2の姿勢から第1の姿勢へと揺動する。ここで、ねじりコイルばね31の付勢力は、引っ張りコイルばね28の付勢力より大となる関係となるように設けられている。従って、係止部23は、レバー部材29の一端側に押されて、引っ張りコイルばね28の付勢力に抗して図中の時計方向へ揺動する。つまり、係止部23の側視鋸歯形状24が、傾斜面11を基準として載置面9に対して突出した状態となる。
【0036】
以上が、係止部23の側視鋸歯形状24が、傾斜面11を基準として載置面9側に対して突出、退避する構造についての説明である。
尚、本実施例において、係止部23は揺動する構成としたが、揺動に限らない。摺動する構成でもよい。本実施例で揺動する構成としたのは、突出、退避移動を確実に行うことと、後述する側視鋸歯形状24の歯の姿勢を精度よく決めるためである。
【0037】
また、技術的思想としては、カセット部7の着脱状態に応じて、係止部23の側視鋸歯形状24が、傾斜面11を基準として載置面9側に対して突出、退避することができればよい。従って、レバー部材29を用いた構造に限らない。例えば、カセット部7を装着した際、係止部23における揺動中心(13)を基準とした側視鋸歯形状24が形成されている側と反対側が、当接部22と当接する構成でもよい。
【0038】
次に、側視鋸歯形状24の歯の姿勢について説明する。
図4に示す如く、係止部23の側視鋸歯形状24が傾斜面11を基準として載置面9に対して突出した状態では、側視鋸歯形状24のそれぞれの歯の積層方向下側の面25の姿勢は、傾斜面11の法線Nの姿勢と同じ姿勢、または法線Nの姿勢より、載置面9の姿勢側に倒れた姿勢となるように構成されている。これによって、後述するように、プリンター本体2から取り外した状態のカセット部7を持ち運んでいる最中において、振動によって載置面9に載置された用紙Pの先端が、傾斜面11を上って傾斜面11の上に乗り上げることを防止することができる。
【0039】
尚、係止部23の側視鋸歯形状24が傾斜面11を基準として載置面9に対して突出した状態では、側視鋸歯形状24のそれぞれの歯の積層方向下側の面25の姿勢が、載置面9の姿勢と平行であるとさらによい。振動によって載置面9に載置された用紙Pの先端が、積層方向上方へ移動することを防止することができる。結果的に、傾斜面11を上って傾斜面11の上に乗り上げることをより確実に防止することができる。
【0040】
続いて、係止部23の側視鋸歯形状24の作用効果についてさらに詳しく説明する。
図6に示すのは、本実施例のカセット部7に用紙Pをセットした様子を示す側断面図である。また、図7に示すのは、本実施例のカセット部7に用紙P2(P)を追加した様子を示す側断面図である。
図6に示す如く、プリンター本体2から取り外された状態のカセット部7が持ち運ばれると、振動によって、載置面9に載置されている用紙Pが送り方向下流側へ移動し、傾斜面11に乗り上げようとする場合がある。
【0041】
係る場合であっても、係止部23の側視鋸歯形状24が傾斜面11を基準として載置面9に対して突出した状態では、用紙Pの先端が、係止部23の側視鋸歯形状24に引っ掛かるので、傾斜面11を上って傾斜面11の上に乗り上げる虞がない。つまり、側視鋸歯形状24の歯の積層方向下側の面25が乗り越えられない小さな壁となって、用紙Pの先端が、傾斜面11を登る方向へ移動することを防止することができる。
【0042】
また、用紙Pが載置されていない載置面9に用紙Pの束を送り方向下流側へ滑り込ませるようにしてセットする際、用紙Pの先端が、係止部23の側視鋸歯形状24に引っ掛かるので、セットしやすい。
つまり、用紙Pをセットする際、滑り込ませるようにしてセットした用紙Pの先願が、傾斜面11を上って傾斜面11の上に乗り上げる虞がない。その結果、容易に用紙Pを載置面9上にセットすることができる。
【0043】
また、図7に示す如く、カセット部7の載置面9に載置されている用紙Pの残り枚数が少なくなった場合、ユーザーは、カセット部7をプリンター本体2から取り外して、載置面9に載置された用紙P1(P)の上に、新たな用紙P2(P)を追加してセットする。係る場合、通常、ユーザーは、新たな用紙P2(P)の先端側を、残っている用紙P1(P)の上面に載せ、Y軸の矢印方向に滑り込ませるようにしてセットする。すると、残っている用紙P1(P)は、新たにセットされる用紙P2(P)との間に生じる摩擦力によって、Y軸の矢印方向へ押される。
【0044】
仮に、係止部23の側視鋸歯形状24がない従来の構成であったとすると、残っている用紙P1(P)の先端が傾斜面11を上って傾斜面11の上に乗り上げる虞がある。
本実施例では、係止部23の側視鋸歯形状24を有しているので、残っている用紙P1(P)の先端が、係止部23の側視鋸歯形状24に引っ掛かる。従って、用紙P1(P)の先端が、傾斜面11を上って傾斜面11の上に乗り上げる虞がない。その結果、容易に、用紙P2(P)を追加してセットすることができる。
【0045】
また、従来の構成で設けられていたカセット装置が装着される際に傾斜面11から載置面9側へ突出する部材を無くすことができる。従って、本実施例では、カセット部7を装着した際、載置面9上にセットされた用紙Pの先端が潰される虞がない。
尚、本実施例では、側視鋸歯形状24の歯の積層方向下側の面25の姿勢について言及したが、技術的思想としては、プリンター本体2に対してカセット部7を着脱することにより、分離部10とは別の係止部23の側視鋸歯形状24が傾斜面11を基準として載置面9側に対して突出、退避する構成であればよい。
【0046】
プリンター本体2に対してカセット部7を装着する前の状態において、側視鋸歯形状24が前記突出していれば、用紙Pの先端が傾斜面11を上り傾斜面11の上に乗り上げることを防止することができるからである。つまり、分離部10とは別の係止部23がギザギザした側視鋸歯形状24を有していればよい。側視鋸歯形状24の歯の積層方向下側の面25の姿勢について言及した理由は、前述した姿勢にすることによって、用紙Pの先端が傾斜面11を上り傾斜面11の上に乗り上げることを確実に防止することができるからである。
また、本実施例では、同時に一種類の用紙Pをセットすることが可能な所謂、一段式のカセット部7について説明したが、従来技術の構成のように上段側トレイと下段側トレイとを有する多段式のカセット部でもよい。
【0047】
本実施例のカセット装置としてのカセット部7は、記録装置本体としてのプリンター本体2に対して着脱可能なカセット部7であって、媒体の一例である用紙Pが載置される載置面9と、載置面9より用紙Pが送られる送り方向下流側に形成され、送り方向下流側が用紙Pの積層方向上方となるように載置面9に対して傾斜した傾斜面11と、傾斜面11を基準として載置面9側に対して進退可能であり、送り方向Yに対して側視鋸歯形状24を有する係止部23と、を備え、係止部23の側視鋸歯形状24は、カセット部7がプリンター本体2に装着されていないとき、傾斜面11から載置面9側に対して突出しており、カセット部7がプリンター本体2に装着されたとき、前記傾斜面11側から退避する構成であることを特徴とする。
【0048】
また、本実施例において、係止部23の一の鋸歯形状24における積層方向下側の面25の姿勢は、傾斜面11の法線Nの姿勢または法線Nの姿勢より載置面9の姿勢側に倒れた姿勢であることを特徴とする。
尚、前述したように、係止部23の一の鋸歯形状24における積層方向下側の面25の姿勢を、載置面9の姿勢と平行にすると、より確実に用紙Pの先端が傾斜面11を上ることをより確実に防止することができる。
【0049】
また、本実施例において、係止部23は揺動する構成であることを特徴とする。
またさらに、本実施例において、係止部23は積層方向下方の第1揺動軸13を支点に揺動する構成であり、係止部23を前記退避する方向へ付勢する第1付勢手段の一例である引っ張りコイルばね28と、係止部23における第1揺動軸13より積層方向上方と接触し、係止部23の側視鋸歯形状24が前記突出したときにとる第1の姿勢と、係止部23の側視鋸歯形状24が前記退避したときにとる第2の姿勢との間を揺動可能なレバー部材29と、レバー部材29が前記第1の姿勢をとるようにレバー部材29を付勢する第2付勢手段の一例であるねじりコイルばね31と、を備え、カセット部7がプリンター本体2に装着されていないとき、レバー部材29はねじりコイルばね31の付勢力によって前記第1の姿勢をとることにより、係止部23の側視鋸歯形状24は前記突出しており、カセット部7がプリンター本体2に装着される際、レバー部材29がプリンター本体2の一部と当接することにより、ねじりコイルばね31の付勢力に抗して第2の姿勢へ揺動し、引っ張りコイルばね28の付勢力によって係止部23の側視鋸歯形状24が前記退避する構成であることを特徴とする。
【0050】
本実施例の記録装置としてのプリンター1は、用紙Pが載置される載置部(7)と、載置された用紙Pを送り方向下流側へ送る送り手段3と、送られた用紙Pに対して記録する記録部16と、を備えたプリンター1であって、載置部(7)は、カセット部7を備えていることを特徴とする。
【0051】
尚、本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
1 プリンター、2 プリンター本体、3 送り手段、4 ピックアップローラー、
5 アーム部、6 アーム揺動軸、7 カセット部、8 基体部、9 載置面、
10 分離部、11 傾斜面、12 第2ばね係合部、13 第1揺動軸、
14 第1ローラー対、14a 第1駆動ローラー、
14b 第1従動ローラー(リタードローラー)、15 第2ローラー対、
15a 第2駆動ローラー、15b 第2従動ローラー、16 記録部、
17 キャリッジ、18 記録ヘッド、19 媒体支持部、20 排出部、
21 第3ローラー対、22 当接部、23 係止部、24 側視鋸歯形状、
25 下側の面、26 第1ばね係合部、27 軸係合部、
28 引っ張りコイルばね(第1付勢手段)、29 レバー部材、30 第2揺動軸、
31 ねじりコイルばね(第2付勢手段)、N 傾斜面の法線、P 用紙、
P1 残りの用紙、P2 新たに追加する用紙、X 幅方向、Y 送り方向、
Z 積層方向(鉛直方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録装置本体に対して着脱可能なカセット装置であって、
媒体が載置される載置面と、
該載置面より媒体が送られる送り方向下流側に形成され、送り方向下流側が媒体の積層方向上方となるように前記載置面に対して傾斜した傾斜面と、
該傾斜面を基準として前記載置面側に対して進退可能であり、送り方向に対して側視鋸歯形状を有する係止部と、を備え、
該係止部の側視鋸歯形状は、前記カセット装置が前記記録装置本体に装着されていないとき、前記傾斜面から前記載置面側に対して突出しており、
前記カセット装置が前記記録装置本体に装着されたとき、前記傾斜面側から退避する構成であるカセット装置。
【請求項2】
請求項1に記載のカセット装置において、前記係止部の一の鋸歯形状における積層方向下側の面の姿勢は、前記傾斜面の法線の姿勢または該法線の姿勢より前記載置面の姿勢側に倒れた姿勢であることを特徴とするカセット装置。
【請求項3】
請求項2に記載のカセット装置において、前記係止部の一の鋸歯形状における積層方向下側の面の姿勢は、前記載置面の姿勢と平行であることを特徴とするカセット装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のカセット装置において、前記係止部は揺動する構成であることを特徴とするカセット装置。
【請求項5】
請求項4に記載のカセット装置において、前記係止部は積層方向下方を支点に揺動する構成であり、
前記係止部を前記退避する方向へ付勢する第1付勢手段と、
前記係止部における前記支点より積層方向上方と接触し、前記係止部の側視鋸歯形状が前記突出したときにとる第1の姿勢と、前記係止部の側視鋸歯形状が前記退避したときにとる第2の姿勢との間を揺動可能なレバー部材と、
該レバー部材が前記第1の姿勢をとるように前記レバー部材を付勢する第2付勢手段と、を備え、
前記カセット装置が前記記録装置本体に装着されていないとき、前記レバー部材は前記第2付勢手段の付勢力によって前記第1の姿勢をとることにより、前記係止部の側視鋸歯形状は前記突出しており、
前記カセット装置が前記記録装置本体に装着される際、前記レバー部材が前記記録装置本体の一部と当接することにより、前記第2付勢手段の付勢力に抗して第2の姿勢へ揺動し、前記第1付勢手段の付勢力によって前記係止部の側視鋸歯形状が前記退避する構成であるカセット装置。
【請求項6】
媒体が載置される載置部と、
載置された媒体を送り方向下流側へ送る送り手段と、
送られた媒体に対して記録する記録部と、を備えた記録装置であって、
前記載置部は、請求項1から5のいずれか1項に記載されたカセット装置を備えていることを特徴とする記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−201443(P2012−201443A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65946(P2011−65946)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】