説明

カソードルミネッセンス測定装置及び電子顕微鏡

【課題】簡単な構成でありながら電子顕微鏡による高分解能観察及びカソードルミネッセンスの高分解能観察を可能としたカソードルミネッセンス測定装置を提供することである。
【解決手段】試料Wに電子線EBを照射して生じるカソードルミネッセンスCLを測定するカソードルミネッセンス測定装置1であって、前記電子線EBを収束して前記試料Wに照射する電磁型対物レンズ75と、前記電子線EBが照射された試料Wから生じるカソードルミネッセンスCLを集光する集光ミラー部411と、を備え、前記集光ミラー部411が、前記電磁型対物レンズ75の試料W側の端部よりも上方に設けられており、前記電磁型対物レンズ75の漏洩磁場が前記試料Wに印加されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に電子線を照射したときに生じるカソードルミネッセンスを測定するカソードルミネッセンス測定装置及びそのカソードルミネッセンス測定装置を備えた電子顕微鏡に関し、特に、電子線を収束するための電磁型対物レンズとカソードルミネッセンスを集光する集光ミラーとの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カソードルミネッセンス測定装置は、電子線によって試料表面を励起し、試料表面から発生するカソードルミネッセンスを検出器によって検出し、この検出器の出力信号に基づいて、試料中に含まれる元素の量(濃度)や分布状況または結晶性などを分析するもので、一般的には、特許文献1又は特許文献2に示すように、電子線を用いるところから電子顕微鏡と組み合わせて構成される。
【0003】
そして、この種のカソードルミネッセンス測定装置は、対物レンズと試料との間にカソードルミネッセンスを集光するための集光ミラー部を配置している。
【0004】
しかしながら、集光ミラー部は当然厚みを有しており、また対物レンズ及び試料に接触しないように設けられるため、対物レンズと試料との距離(作動距離)を集光ミラー部が配置できる程度に取る必要がある。そのため、電子顕微鏡による観察像(二次電子像)の空間分解能を犠牲にしなくてはならないという問題がある。
【0005】
一方で、カソードルミネッセンスの空間分解能は電子線励起により発生した電子−正孔対(キャリア)が拡散及び再結合する領域の大きさに最も大きく影響するところ、例えばバルク試料ではキャリアの拡散領域が数百μmであることが知られている。つまり、このキャリア拡散が、カソードルミネッセンスの空間分解能向上を妨げる要因となっている。
【0006】
これに対して従来、カソードルミネッセンスの空間分解能を向上させるために、低加速電圧で電子線を照射する、又は新たに試料に垂直に磁場を印加するといった試みがなされている。
【0007】
しかしながら、低加速電圧で電子線を照射する場合には、励起電圧が低く、試料が直接遷移型のものに限られてしまう。
【0008】
また、新たに垂直磁場印加の装置を組み込む場合には、作動距離が長くなってしまい十分な空間分解能が得られないという問題がある。
【0009】
その他にも、試料を薄膜にして空間分解能を向上させる試みがなされているが、試料の作製などに手間が掛かるという問題がある。
【特許文献1】特開平11−96956号公報
【特許文献2】特開2003−157789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、簡単な構成でありながら電子顕微鏡による高分解能観察とカソードルミネッセンスの高分解能観察との両立を実現することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明に係るカソードルミネッセンス測定装置は、試料に電子線を照射して生じるカソードルミネッセンスを測定するカソードルミネッセンス測定装置であって、前記電子線を収束して前記試料に照射する電磁型対物レンズと、前記電子線が照射された試料から生じるカソードルミネッセンスを集光する集光ミラー部と、を備え、前記集光ミラー部が、前記電磁型対物レンズの試料側端部よりも上方に設けられており、前記電磁型対物レンズの漏洩磁場が前記試料に印加されることにより前記試料のキャリア拡散を防止することを特徴とするものである。ここで、「漏洩磁場」とは、電磁型対物レンズの試料側端部から外部に広がる磁場のことである。
【0012】
また、本発明に係る電子顕微鏡は、上記カソードルミネッセンス測定装置を備えた電子顕微鏡であることを特徴とするものである。
【0013】
このようなものであれば、作動距離を可及的にゼロにすることができ、電磁型対物レンズを短焦点で使用することができるので、電子顕微鏡による高分解能観察を実現することができる。また、作動距離を可及的にゼロにすることができるので、電磁型対物レンズの漏洩磁場が試料に印加されて、試料中のキャリアの拡散を抑制することができ、カソードルミネッセンスの高分解能観察を実現することができる。さらに、試料への磁場印加のための装置を必要としないので、装置構成を簡単にすることができるとともに装置の小型化を可能とすることができる。その上、低加速電圧で電子線を照射する必要がなく、試料を薄膜に加工する手間も必要としない。
【0014】
キャリアの拡散を可及的に抑制するためは、前記電磁型対物レンズの漏洩磁場が前記試料に対して略垂直に印加されることが望ましい。
【0015】
具体的な構成としては、前記電磁型対物レンズが、励磁コイルと当該励磁コイルを収容するヨークと、当該ヨークの試料側端部に設けられた磁極とを備え、前記ヨークに設けられた磁極の上方に前記集光ミラー部を配置していることが望ましい。
【0016】
キャリアの拡散を好適に抑制するためには、前記漏洩磁場が、1000ガウス以上であることが望ましい。
【0017】
また、前記電磁型対物レンズが、前記試料を内部に収容可能な開口部を備えていることが望ましい。つまり、電磁型対物レンズの試料側端部と試料との距離をゼロ(試料の上面と試料側端部とが同一平面上となる。)又はマイナス(つまり、試料が試料側端部よりも上方に位置し、試料は電磁型対物レンズ内に位置する。)にすることができ、1000ガウス以上の漏洩磁場を構造的に実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
このように構成した本発明によれば、簡単な構成でありながら電子顕微鏡による高分解能観察及びカソードルミネッセンスの高分解能観察を可能としたカソードルミネッセンス測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明のカソードルミネッセンス測定装置の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図1は、本実施形態に係るカソードルミネッセンス測定装置1を示す模式的構成図であり、図2は、電磁型対物レンズ75及び集光ミラー部411を主として示す部分拡大断面図である。
【0020】
本実施形態に係るカソードルミネッセンス測定装置1は、電子顕微鏡に組み込まれたものであり、電子線EBを試料Wに照射することにより試料Wから生じるカソードルミネッセンスCLを用いて、試料Wの微小領域における物性評価や半導体素子の解析を行うものである。その構成は、図1に示すように、電子銃6及び電子線制御手段7を有する鏡筒部2と、前記電子銃6からの電子線EBが照射される試料Wを収容する試料室3と、電子線EBの照射によって試料Wから発生するカソードルミネッセンスCLを分光して検出する検出装置4と、検出装置4からの検出信号に基づき試料W上の電子線EBの2次元走査に同期して試料像を表示等する情報処理装置5と、を備えている。また、電子顕微鏡の機能を確保するために、図示しないが電子線EBを試料Wに照射したときに生じる二次電子を検出する二次電子検出器も備えている。
【0021】
鏡筒部2は、図1に示すように、試料室3の上部に連続して設けられており、試料室3の所定領域に設置された試料Wに電子線EBを照射する電子銃6と、当該電子銃6から射出された電子線EBを試料Wの測定部位に収束させるとともに走査させるための電子線制御手段7と、鏡筒部2内を真空にするための真空排気機構8を備えている。
【0022】
電子線制御手段7は、図1に示すように、電子銃6からの電子を収束させるためのコンデンサレンズ71、電子線量のモニタと電子線EBの開き角を制御するアパーチャ72、電子線EBの非点収差を補正するための非点補正器(スティグメータ)73、電子線EBを走査するための走査偏向器(スキャニングデフレクタ)74、電子線EBを試料W面上に収束させるための電磁型対物レンズ75からなり、これらは上部からこの順で配置されている。なお、電磁型対物レンズ75については後述する。
【0023】
試料室3は、図1に示すように、試料移動機構を有する試料ステージ31と、試料室3内を真空にするための真空排気機構32を備えている。
【0024】
検出装置4は、図1に示すように、集光部41と、当該集光部41により集光されたカソードルミネッセンスCLを単色光に分離する例えばモノクロメータ等の分光部42と、当該分光部42により波長毎に複数に分光された各単色光の強度をそれぞれ測定し、各単色光の強度に応じた値の電流値(又は電圧値)を有する出力信号を出力する例えばフォトマルチプライヤ(PMT)等のセンシング部43とを備えている。
【0025】
集光部41は、図2に示すように、試料Wから発生するルミネッセンスLを最小限の損失で集め分光部42に導くものであり、電子銃6からの電子線EBを通過させ、その電子線EBを試料Wに照射するための電子線通路411a、及びその通路411aの軸線上に焦点Fが設定されたミラー面411bを有する集光ミラー部411と、前記ミラー面411bにより集光されたカソードルミネッセンスCLを分光部42に伝送するための光ファイバ412とを備えている。なお、光ファイバ412の光導入端面412Aは、ミラー面411bの焦点と合致するように配置される。そして、集光ミラー部411と光ファイバ412とは、図示しない保持部材によって一体的に保持されている。
【0026】
ミラー面411bは、放物面鏡又は回転楕円面鏡などが考えられるが、本実施形態では回転楕円面鏡である。なお、ミラー面411bの具体的形状とその焦点は、試料Wの位置及び対物レンズ75の厚さによって決定される。
【0027】
情報処理装置5は、例えば、CPU、メモリ、入出力インターフェイス、AD変換器、入力手段等からなる汎用又は専用のコンピュータである。そして、前記メモリの所定領域に格納してあるプログラムに基づいてCPUやその周辺機器が作動することにより、この情報処理装置5が、前記検出装置4からの出力信号を受信し、走査した各測定ポイントでの試料Wの微小領域における物性評価や半導体素子の解析を行う。また、この情報処理装置5は、二次電子検出器からの検出信号を受信して、二次電子像の表示等を行う。
【0028】
しかして、本実施形態のカソードルミネッセンス測定装置1は、図2に示すように、集光ミラー部411が、電磁型対物レンズ75内に配置される構成としている。
【0029】
つまり、電磁型対物レンズ75は、励磁コイル751と、この励磁コイル751を収容するヨーク752と、このヨーク752の試料W側の端部に設けられた磁極753とを備え、前記ヨーク752における励磁コイル751と磁極753との間の側周壁に、集光部41を(挿入して)固定するための固定孔752aを備えている。
【0030】
そして、ヨーク752は、パーマロイ,鉄等の強磁性体でかつ導電性のある材料から形成されており、中心に電子線EBを通過させるための開口部752cを有する回転体形状をなし、内側周壁の試料W側端部に内側磁極753a、外側周壁の試料W側端部に外側磁極753bを備え、それら磁極753a、753bの間隙は電子線EB(中心軸)に向かって形成されている。
【0031】
前記ヨーク752の固定孔752aに集光ミラー部411及び光ファイバ412を保持する保持部材が略水平に挿入されて固定されることより、集光ミラー部411は、開口部752cにおける励磁コイル751と磁極753との間に配置される。このとき、集光ミラー部411の電子線通路411aの中心軸が、電子線EBと一致するように位置調節される。
【0032】
そして、励磁コイル751に電流を流すことによってヨーク752が磁化されて、内側磁極753aと外側磁極753bとの間に磁場が生成される。このとき、内側磁極753aと外側磁極753bとの間に生じる磁場のうち、対物レンズ75の試料側開口部(ヨーク752の試料側の開口部752c)から外部に広がる磁場(漏洩磁場)は、試料Wに対して略垂直に印加され、磁力線は試料Wの上面に略垂直に入射する(図2参照)。つまり、試料Wが漏洩磁場内に配置されることになる。漏洩磁場としては、キャリア拡散を好適に抑制する観点から、例えば1000ガウス以上である。なお、図2において磁力線を点線で示している。また、図2中に示す従来の試料位置においては、磁力線は、試料Wの上面に外側に広がるように入射する(磁気回路(磁路)が形成される)ので、キャリアの拡散を抑制することができない。
【0033】
さらに、ヨーク752は、前記固定孔752aの他に3つの孔752bを有しており、これら4つの孔752a、752bが軸対称となるようにしている。これにより、電磁型対物レンズ75により生じる磁場が軸対称となる。
【0034】
このように構成した本実施形態に係るカソードルミネッセンス測定装置1によれば、電磁型対物レンズ75と試料Wとの間に集光ミラー部411を設けないので、作動距離を可及的にゼロにすることができ、電磁型対物レンズ75の漏洩磁場内に試料Wが配置されることになり、試料Wのキャリア拡散を抑制して、カソードルミネッセンスの空間分解能を格段に向上させることができる。また、作動距離を可及的にゼロにすることができ、電子顕微鏡による観察時に対物レンズ75を短焦点で使用できるため電子顕微鏡による高分解能観察も同時に可能とすることができる。したがって、カソードルミネッセンスCLの高空間分解能観察及び電子顕微鏡による高空間分解能観察を同時に可能とすることができる。
【0035】
さらに、対物レンズ75の漏洩磁場を利用しているので、装置1の小型化を実現することができる。また、集光ミラー部411が電磁型対物レンズ75の内部にあるので、メンテナンス等の際に集光ミラー部411が試料Wに当たることがない。
【0036】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0037】
例えば、前記実施形態では、集光ミラー部411を電磁型対物レンズ75の内部に設けるようにしているが、電磁型対物レンズ75の外部上方に設けるようにしても良い。
【0038】
また、前記実施形態では、試料Wは、電磁型対物レンズ75の下側に設けられているが、その他、図2中に点線で示す試料Wの位置W(P)に設けても良い。つまり、集光ミラー部411と同様に、試料Wを電磁型対物レンズ75の試料側端部よりも上方、つまり電磁型対物レンズ75内に配置される。電磁型対物レンズ75の試料側開口部(ヨーク752の試料側の開口部752c)は、試料Wを収容可能な程度の開口面積を有し、その開口部752c内に試料Wを配置する。これにより、電磁型対物レンズ75の試料側端部と試料Wとの距離をマイナスにすることができ、キャリア拡散抑制のために必要な1000ガウス以上の磁場を構造的に簡単に実現することができる。また、電磁型対物レンズ75の試料側端部と試料Wとの距離をゼロ、つまり、試料Wの上面と電磁型対物レンズ75の試料側端部とが同一平面上となるようにするにしても良い。
【0039】
さらに、前記実施形態ではセンシング部43をフォトマルチプライヤ(PMT)を用いて構成しているが、測定する波長領域によって使用する機器を変えても構わない。例えば赤外(1μm〜)においては、Ge検出器、Pbs検出器、赤外PMT等を用いることが好ましい。また、光−電子変換効率、ダイナミックレンジ、S/Nに優れているといったことからCCDを利用してもよい。CCDによればスペクトルの一括検出も可能である。
【0040】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係るカソードルミネッセンス測定装置を示す模式的構成図。
【図2】同実施形態における電磁型対物レンズ及び集光ミラー部を主として示す部分拡大断面図。
【符号の説明】
【0042】
1 ・・・カソードルミネッセンス測定装置
W ・・・試料
EB ・・・電子線
75 ・・・電磁型対物レンズ
411・・・集光ミラー部
751・・・励磁コイル
752・・・ヨーク
753・・・磁極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に電子線を照射して生じるカソードルミネッセンスを測定するカソードルミネッセンス測定装置であって、
前記電子線を収束して前記試料に照射する電磁型対物レンズと、前記電子線が照射された試料から生じるカソードルミネッセンスを集光する集光ミラー部と、を備え、
前記集光ミラー部が、前記電磁型対物レンズの試料側端部よりも上方に設けられており、前記電磁型対物レンズの漏洩磁場が前記試料に印加されることを特徴とするカソードルミネッセンス測定装置。
【請求項2】
前記電磁型対物レンズの漏洩磁場が前記試料に対して略垂直に印加されることを特徴とする請求項1記載のカソードルミネッセンス測定装置。
【請求項3】
前記電磁型対物レンズが、励磁コイルと当該励磁コイルを収容するヨークと、当該ヨークの試料側端部に設けられた磁極とを備え、
前記ヨークに設けられた磁極の上方に前記集光ミラー部を配置していることを特徴とする請求項2記載のカソードルミネッセンス測定装置。
【請求項4】
前記漏洩磁場が、1000ガウス以上である請求項1、2又は3記載のカソードルミネッセンス測定装置。
【請求項5】
前記電磁型対物レンズが、前記試料を内部に収容可能な開口部を備えている請求項1、2、3又は4記載のカソードルミネッセンス測定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5記載のカソードルミネッセンス測定装置を備えた電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−107335(P2008−107335A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249887(P2007−249887)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】