説明

カソード電極および当該カソード電極に対する電気化学的セル

本発明は少なくとも一つの支持体を含むカソード電極に関する。支持体に少なくとも一つの活物質が塗布または析出されており、活物質はスピネル型構造ではないリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)から成るとともにスピネル型構造のリチウム・マンガン酸化物(LMO)を有する混合物を含んでいる。本発明はまた、カソード電極と、少なくとも一つの多孔質のセラミック材料を含むセパレータとを有する電気化学的セルに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は少なくとも一つの支持体を含む電気化学的セルのためのカソード電極に関する。支持体には少なくとも一つの活物質が塗布または析出されており、活物質はスピネル型構造ではないリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)から成るとともにスピネル型構造のリチウム・マンガン酸化物(LMO)を有する混合物を含んでいる。
【0002】
本発明はさらに、前記の活物質を有するカソード電極と、アノード電極と、少なくとも部分的にこれらの電極の間に設けられているセパレータとを有する電気化学的セルに関する。
【背景技術】
【0003】
上記のカソード電極もしくは上記の電気化学的セルはバッテリー、特に高いエネルギー密度および/または高い出力密度を有するバッテリー(いわゆるハイパワーバッテリーもしくはハイエネルギーバッテリー)において好適に応用される。高いエネルギー密度および/または高い出力密度を有するこのようなバッテリーは、好ましくは電動工具および電気的に駆動される車、例えばハイブリッドエンジンを備える車において用いられる。リチウムイオンバッテリーはこのようなバッテリーの例である。
【0004】
本発明においてカソード電極もしくは電気化学的セルをリチウムイオンセルとして、および、リチウムイオンバッテリーにおいて応用することは特に好ましい。さらに、上記のリチウムイオンセルおよびリチウムイオンバッテリーは電動工具において、および車の駆動のために好適に用いられるべきであり、完全に、または主に電気的に駆動される車、または、いわゆる「ハイブリッド」駆動される車のために、すなわち内燃機関とともに好適に用いられるべきである。このようなバッテリーを燃料電池とともに用いること、および、定置式の作動において用いることも含まれている。
【0005】
バッテリー技術の分野で、特にリチウムイオンバッテリーに関して一般に認められていることであるが、その時々に考慮される応用に対してカソード電極物質を選択することは特に重要である。そのため例えば携行可能な電気器具(通信電子機器)における応用のために、活物質、特にリチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn)、リチウム・(ニッケル)・コバルト・アルミニウム酸化物(NCA)が知られている。しかしながら、商業的にすでに広範囲に用いられているこれらの活物質が、電気自動車またはハイブリッドエンジンを備える車に対して応用するために必ずしも同程度に適しているとはいえない。
【0006】
基本的に、電動工具、電気的に駆動される車、またはハイブリッドエンジンを備える車において使用され得る電気化学的セルおよびバッテリーのために用いられ得るカソード電極のための活物質は、リチウムとニッケルとマンガンとコバルトとの複合酸化物(リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物“NMC”)である。リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物は安全上の理由から、特にリチウムコバルト酸化物より好ましく、エネルギー密度の理由から、同様に活物質として想定可能なリチウム・ポリアニオン化合物、例えばLiFePOより好ましい。(“LiPF”はリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物よりもエネルギー密度がおよそ50%小さい。これは特に非定置式の応用に対して有意義である。)
【0007】
本発明においてカソード電極のための活物質として好ましい、リチウムとニッケル・マンガン・コバルトとの複合酸化物(多くの参考文献において“NCM”とも呼ばれる)に関してあり得る不利点として、物質に基づくカソード電極が長時間の動作で、場合によって経年劣化現象を有し得ることが論じられている。
【0008】
カソード電極と、アノード電極と、セパレータとを有する電気化学的セルに関して、カソード電極材料としてのNMCの安定性が減少すると、層厚を大きくしたセパレータが用いられる結果になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2005/056480号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2009/011157号パンフレット
【特許文献3】米国特許第6558844号明細書
【特許文献4】米国特許第6183718号明細書
【特許文献5】欧州特許第0816292号明細書
【特許文献6】欧州特許第1783852号明細書
【特許文献7】国際公開第99/62620号パンフレット
【特許文献8】独国特許出願公開第19501271号明細書
【特許文献9】欧州特許第0926201号明細書
【特許文献10】欧州特許第1852926号明細書
【特許文献11】国際公開第01/82403号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】T.オーズク(Ohzuku)、外著「ケミカル・レターズ(Chem. Letters)(30)」2001年、p. 642−643)
【非特許文献2】ナツリ/ピストイア(Nazri/Pistoia)編、「リチウム・バッテリー(Lithium Batteries)」、(ISBN:978−1−4020−7628−2)、第12章
【非特許文献3】編者:D.リンデン(Linden)、T.B.レディ(Reddy)、「ハンドブック・オブ・バッテリーズ(Handbook of Batteries)」、マックグロウヒル(McGraw-Hill)、第3版、35.7.1.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って本発明の課題は、カソード電極のための改善された活物質を提供するという点にある。カソード電極のための改善された活物質の有利点として、活物質は好ましくは安全であり、かつ、比較的大きなエネルギー密度および/または高い出力密度を有し、および/または耐老化性(寿命)に関して改善されているべきである。
【0012】
本発明のさらなる課題は、改善された電気化学的セルを提供することである。改善された電気化学的セルの長所として、電気化学的セルは好ましくは、寿命が延長されるとともに寸法はより小さくなり、それによってエネルギー密度および/または出力密度が高められるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題および他の課題は本発明によって、以下のように解決される。すなわち、電気化学的セルのためのカソード電極が提供され、カソード電極は少なくとも一つの支持体を含んでおり、支持体に少なくとも一つの活物質が塗布または析出されており、活物質はスピネル型構造ではないリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)から成るとともにスピネル型構造のリチウム・マンガン酸化物(LMO)を有する混合物を含んでいる。
【0014】
上記の課題は本発明により以下のようにも解決される。すなわち、電気化学的セルが提供され、電気化学的セルは少なくとも一つの支持体を含むカソード電極であって、支持体に少なくとも一つの活物質が塗布または析出されており、活物質はスピネル型構造ではないリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)から成るとともにスピネル型構造のリチウム・マンガン酸化物(LMO)を有する混合物を含んでいるカソード電極と、アノード電極と、少なくとも部分的にこれらの電極の間に設けられているセパレータとを有している。
【0015】
このとき上記のセパレータが少なくとも一つの多孔性のセラミック材料を、好ましくは有機的な支持体材料に塗布された層内に含んでいるのが好ましい。
【0016】
上記のカソード電極もしくは電気化学的セルは、好ましくは電動工具と、ハイブリッドエンジンを備える車または燃料電池を備える車を含む電気的に駆動される車とにおいて用いられるバッテリーに応用されるのが好ましい。このときバッテリーは大きなエネルギー密度および/または高い出力密度を有しているべきである。
【0017】
「カソード電極」という概念は、消費部に接続された際、すなわち例えば電気モータの作動時に電子を受容する電極を表している。従ってこの場合、カソード電極は「正極」である。
【0018】
本発明において、カソード電極とアノード電極の「活物質」とは、リチウムをイオンの形態または金属の形態または何らかの中間形態で挟み込める物質、特に格子構造において挟み込める(「インターカレーション」)物質である。すなわち活物質は、(例えばバインダー、スタビライザーまたは支持体のような、他のあり得る構成要素とは逆に)電極の充電および放電の際に行われる電気化学的反応に「アクティブに」参加する。
【0019】
本発明におけるカソード電極は少なくとも一つの活物質を含んでおり、活物質はスピネル型構造ではないリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)から成るとともにスピネル型構造のリチウム・マンガン酸化物(LMO)を有する混合物を含んでいる。
【0020】
活物質は少なくとも30Mol%、好ましくは少なくとも50Mol%のNMCを含むとともに、少なくとも10Mol%、好ましくは少なくとも30Mol%のLMOを含んでいるのが好ましい。いずれの場合もカソード電極の活物質の物質量全体に対してである。(すなわち、活物質のほかに導電性の添加物、バインダー、スタビライザーなどを含み得るカソード電極全体に対してではない。)
【0021】
NMCとLMOが共同で活物質の少なくとも60MOl%になるのが好ましく、さらに好ましくは少なくとも70MOl%、さらに好ましくは少なくとも80MOl%、さらに好ましくは少なくとも90MOl%になるのが好ましい。いずれの場合もカソード電極の活物質の物質量全体に対してである。(すなわち、活物質のほかに導電性の添加物、バインダー、スタビライザーなどを含み得るカソード電極全体に対してではない。)
【0022】
さらに本発明において、活物質が概ねNMCとLMOから成ること、すなわち、他の活物質を2MOl%より大きな量で含まないことが好ましい。
【0023】
このときさらに、支持体に塗布された材料が概ね活物質であること、すなわちカソード電極の支持体に塗布された材料の80重量%〜95重量%が上記の活物質であることが好ましく、さらに86重量%〜93重量%が上記の活物質であることが好ましい。いずれの場合も材料の全重量に対してである。(すなわち、活物質のほかに導電性の添加物、バインダー、スタビライザーなどを含み得る支持体なしのカソード電極全体に対してである。)
【0024】
活物質としてのNMCの、活物質としてのLMOに対する重量比における比率に関して、比率が9(NMC):1(LMO)から3(NMC):7(LMO)までであることが好ましく、このとき7(NMC):3(LMO)から3(NMC):7(LMO)までであることが好ましく、このとき6(NMC):4(LMO)から4(NMC):6(LMO)までであることがさらに好ましい。
【0025】
活物質として好ましいリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)と少なくとも一つのリチウム・マンガン酸化物(LMO)との本発明に係る混合によって、カソード電極の安定性が高まり、特に寿命が長くなる。これらの改善は純粋なNMCに対してマンガンの比率が高められていることに起因すると想定されるが、この点は理論に結びついていない。このとき混合物において、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)がリチウム・マンガン酸化物(LMO)に対して有している高いエネルギー密度と、さらなる有利点は概ね保持される。すなわちリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物とリチウム・マンガン酸化物との前記混合物は、250回の充放電サイクルの後、あるいは温度経時試験において容量損失がほとんどないことが実験で示された。本来の容量に対する80%の容量限界に達したのは、25000回のフルサイクルの後である。温度経時試験では、フル充電された状態で、「純粋な」NMCに対して平均を超える耐久性が得られた。耐久性は12年を超える寿命を暗示している。このとき温度安定性も全体的に改善された。
【0026】
カソード電極の熱的安定性が向上することによって、電気化学的セルにおいてセパレータ層を、セパレータ層の本来の抵抗を持たせながらより薄く形成することができる。(この点については、カソード電極と、セパレータと、アノード電極とを有する電気化学的セルに関する以下に挙げる実施形態を参照されたい。) これによって、セルのエネルギー密度および出力密度は全体として高められる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
コバルト、マンガン、およびニッケルを含む複合酸化物、特に単相のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物は、電気化学的セルのための可能な活物質として従来技術においてそれ自体知られている。(例えば特許文献1および複合酸化物に関して基礎となっている論文である非特許文献1を参照されたい。)
【0028】
基本的にリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物の組成に関しては、酸化物がリチウムのほかに、ニッケル、マンガン、コバルトをそれぞれ少なくとも5MOl%、好ましくはそれぞれ少なくとも15MOl%、さらに好ましくはそれぞれ少なくとも30MOl%含有しなければならないという点を除けば、制限がない。含有はそれぞれ、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物における遷移金属の物質量全体に対してである。リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物には任意の他の金属、特に遷移金属がドーピングされていてよい。ただしNi,Mn,Coが前記の最小物質量で含まれていることが確実である場合に限る。
【0029】
このとき以下のストイキオメトリによるリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物が特に好ましい。
すなわち、Li[Co1/3Mn1/3Ni1/3]O
式においてLi,Co,Mn,Ni,Oの比率はそれぞれ±5%異なっていてよい。
【0030】
上記のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物は本発明においてスピネル型構造ではない。リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物はむしろ層構造、例えば「O3構造」になっているのが好ましい。さらに本発明に係るリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物において、充電および放電動作の間もスピネル型構造への目立った相転移はみられない。(すなわち、5%より大きい量ではみられない。)
【0031】
これに対してリチウム・マンガン酸化物(LMO)はスピネル型構造である。スピネル型構造であるとともに本発明におけるリチウム・マンガン酸化物は、遷移金属として少なくとも50MOl%、好ましくは少なくとも70MOl%、さらに好ましくは少なくとも90MOl%のマンガンを含んでいる。含有はそれぞれ、酸化物に全体として含まれる遷移金属の物質量全体に対してである。リチウム・マンガン酸化物の好ましいストイキオメトリは
Li1+xMn2-yである。
式においてMは、少なくとも一つの金属、特に少なくとも一つの遷移金属であって、
-0.5(好ましくは-0.1)≦x≦0.5(好ましくは0.2)であり、0≦y≦0.5である。
【0032】
本発明において求められる「スピネル型構造」は、広く普及しているとともに、主な代表である鉱物「スピネル」(アルミン酸マグネシウム、MgAl)から名づけられた、AB型の化合物のための結晶構造として当業者によく知られている。この構造は、カルコゲニド(ここでは酸素)イオンの立方最密充填から成り、立方最密充填の四面体型の隙間および八面体型の隙間は(部分的に)金属イオンによって占められている。リチウムイオンセルのためのカソード材料としてのスピネルは、例えば非特許文献2に記載されている。
【0033】
純粋なリチウム・マンガン酸化物は例えばストイキオメトリLiMnを有している。しかしながら本発明において用いられるリチウム・マンガン酸化物は好適に変性および/または安定化されている。純粋なLiMnは、一定の状況の下でMnイオンがスピネル型構造から切り離されるという不利点を有するためである。リチウム・マンガン酸化物のこのような安定化がどのように行われ得るかについて、基本的にはいかなる制限もない。ただし、リチウム・マンガン酸化物が、リチウムイオンセルの動作条件の下で、所望の寿命の間に安定的に保たれ得る場合に限る。既知の安定化の方法については、例えば特許文献2、特許文献3、特許文献4または特許文献5を参照されたい。これらの文献はリチウムイオンバッテリーにおけるカソード電極のための単独の活物質として、スピネル型構造の安定化リチウム・マンガン酸化物を用いることを記載している。特に好ましい安定化の方法は、ドーピングおよびコーティングを含む。
【0034】
NMCとLMOという二つの活物質が混合されるやり方に関しては何ら制限がない。物理的な混合(例えば粉末または粒子を、特にエネルギーを取り込みながら混合することによる)または化学的な混合(例えば気相または液相、例えば分散系からともに析出させることによる)が好ましく、二つの活物質が混合過程の結果として均一な混合物になっていることが好ましい。すなわち、二つの成分が物理的な補助手段なしに、分離された相として認識できなくなっているのが好ましい。
【0035】
好ましい混合物は均一な粉末またはペーストまたは分散系となっている。好ましい実施形態において、混合物はペースト押出しによって、選択的に先行する混合段階および乾燥段階を経ずに、連続的に製造されるとともに塗布され、かつ、圧縮されて電極となる。
【0036】
混合物に関して、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物とリチウム・マンガン酸化物はそれぞれ粒子形状であること、好ましくは平均粒径が1μm〜50μm、好ましくは2μm〜40μm、さらに好ましくは4μm〜20μmの粒子であることが好ましい。このとき粒子は、一次粒子から構成されている二次粒子であってよい。その場合、前記の平均粒径は二次粒子に関するものである。
【0037】
二つの相、特に粒子形状における二つの相の均一かつ緊密な混合は、混合物におけるリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物の耐老化性が特に好適な影響を受けるという点に寄与する。
【0038】
他の種類の「混合」、例えば支持体に層を交互に塗布すること、または、NMC粒子をLMOでコーティングすることも可能である。
【0039】
活物質は本発明において支持体に「塗布される。」活物質を支持体に「塗布する」ことに関しては、何らの制限もない。活物質はペーストまたは粉末として塗布されるか、または、気相から、または例えば分散系としての液相から、析出され得る。
【0040】
このとき押出し法が好ましい。活物質は好適にペーストまたは分散系としてカソード電極に直接的に塗布される。電気化学的セルの他の構成要素、特にアノード電極およびセパレータとの共押し出しによって、複合積層体が成立する。(押出し物と積層物についての以下の考察を参照されたい。)このような方法は例えば特許文献6に開示されている。「ペースト」と「分散系」という概念は同じ意味で用いられている。
【0041】
活物質は好ましくはそれ自体で支持体に塗布されるのではなく、他の不活な(すなわちリチウムを挟み込まない)さらなる構成要素とともに塗布される。
【0042】
このとき前記少なくとも一つの活物質のほかに、少なくとも一つのバインダーまたはバインダー系が存在すること、すなわち(支持体なしの)カソード電極の構成要素であることが好ましい。バインダーは、SBR、PVDF、PVDFホモポリマーまたはPVDFコポリマー(例えばKynar2801またはKynar761)であるか、これらを含んでいてよい。
【0043】
カソード電極は選択的にスタビライザー、例えばAerosilまたはSipernatを含む。これらのスタビライザーが重量比において5重量パーセントまで、好ましくは3重量パーセントまで、それぞれ支持体に塗布されているカソード電極の質量の重量全体に対して含まれていると好適である。
【0044】
スタビライザーが以下に説明するセパレータ、すなわち少なくとも一つの多孔性のセラミック材料を含むセパレータ、特に以下に説明する「セパリオン」を、粉末状の添加物として、好ましくは重量比において1重量%〜5重量%まで、さらに好ましくは1重量%〜2.5重量%まで、それぞれ支持体に塗布されているカソード電極の質量の重量全体に対して含有しているのが好ましい。特に少なくとも一つの多孔性のセラミック材料を含むセパレータ層を有する電気化学的セルに関して、スタビライザーがセパレータを含有することは、以下に述べるように、特に安定的かつ安全なセルを生じさせる。
【0045】
さらに、前記少なくとも一つの活物質のほかに、(および場合により、前記少なくとも一つのバインダーまたはバインダー系および/または前記少なくとも一つのスタビライザーに加えて)少なくとも一つの導電性添加物が存在すること、すなわち(支持体なしの)カソード電極の構成要素であることが好ましい。このような導電性添加物は例えばカーボンブラック(Enasco)またはグラファイト(KS6)を、好ましくは重量比において1重量%〜6重量%まで、さらに好ましくは1重量%〜3重量%まで、それぞれ支持体に塗布されているカソード電極の質量の重量全体に対して含んでいるのが好ましい。このとき構成物質、特にナノメータ領域における構成物質あるいは導電性炭素である「ナノチューブ」、例えばバイエル(Bayer)社の「Baytubes(登録商標)」を導入してもよい。
【0046】
上記において規定される電極、特にカソード電極のための活物質は支持体上に設けられている。本発明において支持体または支持体材料に関しては何ら制限がない。ただし、支持体または支持体材料は前記少なくとも一つの活物質、特にカソード電極の前記少なくとも一つの活物質を受容するのに適していなければならないという点は除く。さらに前記支持体はセルもしくはバッテリーの動作中、すなわち放電および充電動作中に活物質に対して概ねもしくはほとんど不活性であるべきである。支持体は均質であってよく、あるいは、層構造を含むか、または複合材料であるか、もしくは複合材料を含んでよい。
【0047】
支持体は好ましくは電子の排出もしくは供給にも用いられる。従って支持体材料は好ましくは少なくとも部分的に導電性を有しており、好ましくは導電性である。支持体材料は実施形態において好ましくはアルミニウムまたは銅を有しているか、あるいはアルミニウムまたは銅から成っている。このとき支持体は好ましくは少なくとも一つの電気的な導体と接続されている。
【0048】
支持体はコーティングされていてよく、またはコーティングされていなくてよい。支持体は複合材料であってよい。
【0049】
本発明のさらなる実施形態において、上記のカソード電極は電気化学的セルに装入され、このとき電気化学的セルは以下のものを有している。
少なくとも一つの支持体を有する(少なくとも)一つのカソード電極であって、支持体上に少なくとも一つの活物質が塗布されるか、または析出しており、活物質はスピネル型構造ではないリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)から成るとともにスピネル型構造のリチウム・マンガン酸化物(LMO)を有する混合物を含んでいるカソード電極、
(少なくとも)一つのアノード電極、および
(少なくとも)一つのセパレータであって、セパレータは(それぞれ)少なくとも部分的に前記の電極の間に設けられているセパレータ。
【0050】
上記の電気化学的セルに対して、カソード電極については上記に述べた全ての実施形態が好適である。
【0051】
「アノード電極」という概念は消費部、すなわち例えば電気モータに接続された場合、電子を放出する電極を意味する。従ってこの場合、アノード電極は「負極」である。
【0052】
アノード電極に関して本発明において基本的に制限はない。ただし、アノード電極が基本的にリチウムイオンを挟み込むことおよび排出することを可能にしなければならないという点を除く。アノード電極は好ましくは炭素および/またはチタン酸リチウムを含み、さらに好ましくはコーティングされたグラファイトを含む。
【0053】
特に好ましい実施形態において、電気化学的セルに、コーティングされたグラファイトを含むアノード電極が装入される。このときアノード電極が従来のグラファイトまたはいわゆる「柔らかい」炭素(「ソフトカーボン」)を含んでいるのが特に好ましい。ソフトカーボンはより硬い炭素、特に「ハードカーボン」でコーティングされている。このより硬い炭素/ハードカーボンは1000N/mm、好ましくは5000N/mm以上の硬度を有している。
【0054】
「従来の」グラファイトはクロップフミュール(Kropfmuhl)社のUFG8のような天然黒鉛であってよい。このとき選択的に炭素繊維の比率は38%までである。
【0055】
好ましくは、「ハードカーボン」+「ソフトカーボン」に対する「ハードカーボン」の比率は最大で15%である。
【0056】
「ハードカーボン」でコーティングされている従来のグラファイト(「ソフトカーボン」、天然黒鉛)を含むアノード電極は、本発明に係るカソード電極と協働して電気化学的セルの安定性を特別な程度において向上させる。
【0057】
好ましくは電極もセパレータもホイルまたは重なりとして層状に設けられている。これは、電極もセパレータも、単独の層または複数の層として相応の材料または物質から構成されていることを意味する。電気化学的セルにおいて層または重なりは積み重ねられており、積層化されるか、または巻回される。
【0058】
本発明において層または重なりは互いに重ね合わされるが、層または重なりを積層化しないことが好ましい。
【0059】
本発明に係る電気化学的セルもしくはバッテリーにおいて、電気化学的セルもしくはバッテリーにおいて用いられるとともに、カソード電極をアノード電極から分離しているセパレータは、セパレータが電荷担体を容易に通過させるように構成されているべきである。
【0060】
セパレータはイオン伝導性を有しており、好ましくは多孔性の構造を有している。リチウムイオンによって動作する本発明に係る電気化学的セルの場合、セパレータはリチウムイオンがセパレータを通過することを可能にしている。
【0061】
セパレータは少なくとも一つの無機材料、好ましくはセラミック材料を含んでいるのが好ましい。このときセパレータは、少なくとも一つの多孔性のセラミック材料を、好ましくは有機的な支持体材料に塗布された層内に含んでいることが好ましい。
【0062】
この型式のセパレータは基本的に特許文献7から知られているか、もしくはこの文献に開示されている方法に従って製造され得る。このようなセパレータは、Evonik社の「Separion(登録商標)」という商品名で購入できる。
【0063】
前記セラミック材料は好ましくは、少なくとも一つの金属イオンの酸化物、リン酸塩、硫酸塩、チタン酸塩、ケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、ホウ酸塩のグループから選択されている。
【0064】
さらに好ましくはこの場合、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、チタニウムの酸化物およびケイ酸塩(特にゼオライト)、ホウ酸塩およびリン酸塩が用いられる。セパレータのためのこのような物質およびセパレータの製造方法は特許文献6に開示されている。
【0065】
セラミック材料は電気化学的セルの作用のために十分な多孔性を有しているが、セラミック材料を含んでいない従来のセパレータに比べて、はるかに優れた耐熱性を有するとともに比較的高い温度において収縮する度合いがより小さい。セラミックのセパレータはさらに好適に、機械的強度が大きい。
【0066】
特にカソード電極のための本発明に係る活物質であって、熱的安定性と耐老化性を高める活物質と協働するとき、セラミックのセパレータはセパレータの層厚を減少することができ、それによって安全性と機械的強度が優れている状態で、セルの大きさを減少させるとともにエネルギー密度を増大させることができる。
【0067】
本発明に係る電気化学的セルにおいて、セパレータに対しては2μm〜50μm、特に5μm〜25μm、さらに好ましくは10μm〜20μmの厚さが好ましい。本発明においてカソード電極の熱的安定性と耐老化性が向上していることによって、上記のように、セパレータ層をセパレータ層本来の抵抗を備えた状態で、従来技術によるセパレータに比べてより薄く、それによってセルインピーダンスをより小さくして構成することができる。
【0068】
さらに好ましくは、前記無機物質もしくはセラミック材料は、最大直径が100nmよりも小さい粒子として存在する。このとき無機物質、好適にセラミック粒子は、有機的な支持体材料上に設けられているのが好ましい。
【0069】
セパレータは好適にポリエーテルイミド(PEI)でコーティングされている。
【0070】
セパレータのための支持体材料として有機材料が用いられるのが好ましい。有機材料は好ましくは不織布としてとして形成されており、有機材料は好ましくはポリエチレングリコールテレフタレート(PET)、ポリオレフィン(PO)、ポリエーテルイミド(PEI)を含んでいる。支持体材料は好適に箔または薄い層として形成されている。特に好ましい実施形態において、上記有機材料はポリエチレングリコールテレフタレート(PET)である。
【0071】
前記有機材料は好ましくはイオン伝導性の無機材料でコーティングされており、イオン伝導性の無機材料は、好ましくは−40℃〜200℃の温度範囲においてイオン伝導性を有する。
【0072】
好適な実施形態において、セパレータであって、好ましくは少なくとも一つの有機的な支持体材料と少なくとも一つの無機的な(セラミックの)物質との複合体として設けられているセパレータは、箔状の層状複合体として形成されており、層状複合体は好ましくは片面または両面においてポリエーテルイミドでコーティングされている。
【0073】
セパレータの好ましい実施形態において、セパレータは酸化マグネシウムの層から成り、酸化マグネシウムの層はさらに好ましくは片面または両面においてポリエーテルイミドでコーティングされている。
【0074】
さらなる実施形態において、酸化マグネシウムの50重量%〜80重量%は、酸化カルシウム、酸化バリウム、炭酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸バリウム、またはホウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、またはこれらの化合物の混合物に置き換えられていてよい。
【0075】
ポリエーテルイミドであって、ポリエーテルイミドによって好ましい実施形態において無機物質の層が片面または両面においてコーティングされているポリエーテルイミドは、好ましくは上記の不織布の形でセパレータに含まれている。「不織布」という概念は、繊維が織られた形式になっていない(non-woven fabric)ことを意味する。このような不織布は従来技術から知られている、および/または既知の方法、例えば特許文献8において説明されているようにスパンボンド法またはメルトブロー法によって製造され得る。
【0076】
ポリエーテルイミドは既知のポリマーである、および/または既知の方法によって製造され得る。このような方法は例えば特許文献9において開示されている。ポリエーテルイミドは例えば「Ultem(登録商標)」という商品名で購入できる。上記のポリエーテルイミドは本発明では、セパレータ内で単独の層または複数の層において、それぞれ片面および/または両面において無機材料の層上に設けられていてよい。
【0077】
好ましい実施形態においてポリエーテルイミドはさらなるポリマーを含んでいる。少なくとも一つのさらなるポリマーは好ましくは、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスチロールから成るグループから選択される。
【0078】
前記さらなるポリマーはポリオレフィンであるのが好ましい。好適なポリオレフィンはポリエチレンとポリプロピレンである。
【0079】
このときポリエーテルイミドは、好ましくは不織布として、好ましくは同様に不織布として設けられている前記さらなるポリマー、好ましくはポリオレフィンの単独の層または複数の層によってコーティングされているのが好ましい。
【0080】
前記さらなるポリマー、好ましくはポリオレフィンによるポリエーテルイミドのコーティングは、接着、積層、化学反応、溶接または機械的接合によって実現され得る。このようなポリマー複合体およびポリマー複合体の製造方法は特許文献10から知られている。
【0081】
前記不織布は好ましくは使用されるポリマーのナノ繊維またはテクニカルガラスから製造され、それによって、孔径は小さいながら、多孔率の大きい不織布が形成される。
【0082】
ポリエーテルイミド不織布の繊維直径は好ましくは、前記さらなるポリマーの不織布、好ましくはポリオレフィン不織布の繊維直径よりも大きい。
【0083】
すなわち、ポリエーテルイミドから製造された不織布は好ましくは、前記さらなるポリマーから製造されている不織布よりも大きな孔径を有している。
【0084】
ポリエーテルイミドに加えてポリオレフィンを用いることにより、電気化学的セルの安全性は確実に高められる。その理由は、セルに対して望ましくない加熱あるいは過度の過熱が行われた場合、ポリオレフィンの孔が収縮し、セパレータを通過する電荷輸送が低減もしくは終了されるというものである。電気化学的セルの温度が上昇して、ポリオレフィンが溶解し始めた場合、温度の作用に対して極めて安定的なポリエーテルイミドは、セパレータが解けること、およびそれによって電気化学的セルが無制御に破壊されることに対して有効に抵抗する。
【0085】
セラミックのセパレータは好ましくは、柔軟性を有するセラミックの合成材料から形成されている。合成材料は互いに固定的に結合されている様々な材料から製造されている。このような材料は複合材料とも呼ばれる。特に、このような合成材料はセラミック材料と、重合材料から形成されている。PETから成る不織布に対して、セラミックの含浸もしくは被覆を行うことが知られている。このような合成材料は200℃を超える温度(部分的に700℃まで)に耐えられる。
【0086】
セパレータ層もしくはセパレータは好ましくは、少なくとも領域ごとに少なくとも一つの特に隣接する電極の一つの画定縁部を超えて延在している。セパレータ層もしくはセパレータは特に好ましくは、特に隣接する電極の全ての画定縁部を超えて延在している。このようにして電極コイルの電極の縁部同士の間の電流も低減される。
【0087】
本発明の電気化学的セルを製造するためには、基本的に既知の方法、例えば非特許文献3に記載されている方法が用いられ得る。
【0088】
一の実施形態において、セパレータ層は負極または正極上に、あるいは、負極および正極上に直接的に形成される。
【0089】
セパレータの無機物質は好ましくはペーストまたは分散系として、負極および/または正極に直接的に塗布される。共押出しによれば、積層複合体が生じる。その場合、本発明に対してはペースト押出しが特に好ましい。
【0090】
積層複合体はその場合、一つの電極とセパレータもしくは二つの電極と電極の間に設けられたセパレータを含んでいる。
【0091】
押出し後、生成された複合体は、必要ならば通常の方法に従って乾燥もしくは焼結され得る。
【0092】
アノード電極と、カソード電極と、無機物質の層、すなわちセパレータとを互いに別個に製造することも可能である。その場合、無機物質もしくはセラミック材料は箔の形になっている。互いに別個に製造された電極とセパレータはその後、連続的かつ別個に処理ユニットに供給され、負極はセパレータおよび正極と統合され、積層化されてセル複合体となる。処理ユニットは好ましくは積層ローラを有するか、または積層ローラから成る。このような方法は特許文献11から知られている。
【0093】
[事例]
以下に、本発明に係る電気化学的セルであって、二つの電極、特にここではカソード電極と、セパレータを備えるとともに、電解質内に設けられ、かつ、ハウジングに囲まれている電気化学的セルの製造を説明する。
【0094】
本発明によれば、カソード電極の熱的安定性と耐老化性が向上したために、(リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物をカソード電極のために単独で使用する場合に比べて)はるかに小さい層厚が選択され得、それによって全体的により大きなエネルギー密度および出力密度が実現され得る。
【0095】
a)ジメチルホルムアミドから静電的に、平均の繊維直径がおよそ2μmのポリエーテルイミド繊維が紡がれ、ポリエーテルイミド繊維はおよそ15μmの厚さを有する不織布に加工される。
b)25重量部のLiPFと、20重量部のエチレン・カーボネートと、10重量部のプロピレン・カーボネートまたはEMCと、25重量部の酸化マグネシウムと、5gのKynar2801(登録商標)、すなわちバインダーを混ぜ合わせるとともに、分散機において、均一な分散系が成立するまで分散させる。
c)b)で製造された分散系はa)で製造された不織布に塗布され、それによって塗布された層はおよそ20μmの厚さを有する(セパレータ)。
d)厚さ18μmのアルミニウム箔に、押出し機を用いて、75重量部のMCMB25/28(登録商標)(メソカーボンマイクロビーズ(大阪ガスケミカル))と、10重量部のリチウムオキサレートボレートと、8重量部のKynar2801(登録商標)と、7重量部のプロピレン・カーボネートから成る混合物の質量体が塗布される。このとき塗布された層の層厚はおよそ20μm〜40μmになる(アノード電極)。
e)厚さ18μmのアルミニウム箔に、50重量部の層構造のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)と、30重量部のスピネル型構造のリチウム・マンガン酸化物(LMO)と、10重量部のKynar2801(登録商標)と、10重量部のプロピレン・カーボネートから成る混合物のペーストが塗布される(カソード電極)。
f)c),d)およびe)に従って製造された層はコイル装置において巻かれ、それによってc)による製品はd)およびe)による製品の層の間に設けられ、このときポリエーテルイミド不織布は例e)による製品のコーティングに接触している。金属箔には導体が備えられるとともにシステムは収縮性ホイル内に収容される。
【0096】
一般にカソード電極の製造に対して、以下の点が当てはまる。
【0097】
NMC/LMO全容量は、LMOの値が86%〜93%であり、後者は比率において他の構成要素を減少させるとともに好ましくはハイダイナミック・セルにおけるものである。
【0098】
押出しの際、流動性助剤として電解質の構成要素のうちの一つが用いられ得るが、例えばEC/EMCが3:1である混合物も用いられ得る。
【0099】
このとき混練機における加工が好ましく、混練機は不活性かつ準無水であるとともに、TP−65grd.TPおよびそれ以下で運転または駆動される。
【0100】
本発明により好適に、電極またはセル積層体はペースト押出しによって製造される。ピストン押出し機の原理で作動するペースト押出し機(例えばコモン・テック社(Common Tec))内に活物質が配量されるとともに導入され、その後ノズルを介して押出される。依然として潤滑剤を含んでいる押出し物は乾燥ゾーンにおいて潤滑剤を除去され、続いて焼結および/またはカレンダ加工される。これによって磨耗の最小化が実現され、それはアセンブリおよびセルの寿命の向上に寄与する。室温において押出しが行われ得るとともに、手間が掛かり、かつ、制御によって均一に行われる加熱が不要となるために、エネルギーが節約される。押出し機において柔軟剤の蒸気による臭気問題も最小化される。
【0101】
ペースト押出しにおいてマイクロインジェクションにより、ラジカル捕捉剤またはイオン液体などの物質も押出されるのが好ましい。この物質はセルの寿命を延長させる。この物質は例えば、押出された構成要素の平面/質量にわたって、前記の添加剤またはスタビライザー、もしくはビニレンカーボネートなどの添加物またはファイアソーブ(firesorb)などの難燃剤の量で注入され、マイクロカプセルに設けられたナノメータ構造物質としても注入される。ナノメータ構造物質の被包はストーバ(Stoba)のようなポリマー物質から成っていてよい。ポリマー物質は特に温度が高くなりすぎた場合に初めて外部に分散するとともに、電極を湿潤させるか、またはイオン的にシールする。
【0102】
10Cの充電動作および20Cの放電動作のためのセルを作り出すという目的を有するさらなるアプローチの例において、30μmもしくは20μmの銅およびアルミニウムのコレクターベルトが選択された。コレクターベルトはセルと電極材料をともに良好に冷却し、セルと電極材料は相応の電流容量を有する。コレクターバインダーに電極を、カレンダ加工の後のカソードが55μm〜125μm、アノードが18μm〜80μmという厚さ範囲で製造した。厚さの上部範囲に設けられている上部の電極は「ハイエネルギー」セルに用いられ、それに対して薄い電極は「ハイパワー」セルに用いられた。上記のスタビライザーおよび導電性添加物は成分比でそれぞれ最大3%注入された。
【0103】
本発明の実施形態においてアノードは、「ソフトカーボン」から成るグラファイト系であるとともに「ハードカーボン」でコーティングされているのが好ましい。このとき「ハードカーボン」は15%までしか含まれていない。
【0104】
カソードは大型のスタックセルのために構成されている。すなわち特にパターン型式として構成されているか、パターン型式でコーティングされている。このようにして出来上がったセルは、「ハイエネルギー」構成においても10Cまで持続する高い負荷耐性を示すとともに、耐老化性を有し、かつ、5000フルサイクル(80%)より大きい優れたサイクル特性を有する。導入された銅屑またはチップは注入されたポリマーによって包み込まれ、それによって部分的な「ホットスポット」を形成できない。「ハイパワー」構成は極めてサイクル安定性が良好であるとともに、20Cを超える負荷に耐える。
【0105】
電解質に関しては、本発明においてEC/EMCが1:3であるような単純な混合物を、VCまたは「レドックス・シャトル(redox shuttle)」のような添加物とともに(現時点で環境に有害に作用する、懸念すべきさらなる添加物なしに)用いれば十分であることを示すことができた。添加物の作用がマイクロインジェクションを介して電極内に与えられているためである。これによって電解質の環境への負担が少なくなり、かつ安価になるとともに、低温始動電流(コールド・クランキング・テスト(cold cranking test))を目標以上に達成するという極めて良好な結果が証明され得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的セルのためのカソード電極であって、当該カソード電極は、少なくとも一つの支持体を含んでおり、前記支持体に少なくとも一つの活物質が塗布または析出されており、前記活物質はスピネル型構造ではないリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)から成るとともにスピネル型構造のリチウム・マンガン酸化物(LMO)を有する混合物を含んでいることを特徴とするカソード電極。
【請求項2】
前記活物質は少なくとも30Mol%、好ましくは少なくとも50Mol%のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物を含むとともに、少なくとも10Mol%、好ましくは少なくとも30Mol%のリチウム・マンガン酸化物を、それぞれ前記カソード電極の前記活物質の物質量全体に対して含んでいることを特徴とする請求項1に記載のカソード電極。
【請求項3】
NMCとLMOが共同で、それぞれ前記カソード電極の前記活物質の物質量全体に対して、前記活物質の少なくとも60MOl%になり、さらに好ましくは少なくとも70MOl%、さらに好ましくは少なくとも80MOl%、さらに好ましくは少なくとも90MOl%、さらに好ましくは少なくとも96MOl%になることを特徴とする請求項1または2に記載のカソード電極。
【請求項4】
前記活物質がNMCとLMOから成ること、すなわち、他の活物質を2MOl%より大きな量で含まないことを特徴とする請求項1に記載のカソード電極。
【請求項5】
前記支持体に塗布された材料は80重量%〜90重量%、上記の活物質を含んでおり、さらに好ましくは86重量%〜93重量%、上記の活物質を、それぞれ前記支持体に塗布された状態の前記材料の全重量に対して含んでいることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のカソード電極。
【請求項6】
活物質としてのNMCの、活物質としてのLMOに対する重量部における比率は、9(NMC):1(LMO)から3(NMC):7(LMO)までであり、このとき7(NMC):3(LMO)から3(NMC):7(LMO)までであることが好ましく、このとき6(NMC):4(LMO)から4(NMC):6(LMO)までであることがさらに好ましいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のカソード電極。
【請求項7】
前記リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物と前記リチウム・マンガン酸化物はそれぞれ粒子形状であること、好ましくは平均粒径が1μm〜50μm、好ましくは2μm〜40μm、さらに好ましくは4μm〜20μmの粒子であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のカソード電極。
【請求項8】
前記カソード電極はスタビライザーを、好ましくは重量比において5重量パーセントまで、好ましくは3重量パーセントまで、それぞれ前記支持体に塗布されている前記カソード電極の質量の重量全体に対して含んでいることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のカソード電極。
【請求項9】
前記スタビライザーは、対応する前記電気化学的セルにおいて用いられ、かつ、少なくとも一つの多孔性のセラミック材料を含んでいるセパレータを有しているか、または前記セパレータから成ることを特徴とする請求項8に記載のカソード電極。
【請求項10】
前記リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)は以下のストイキオメトリを有しており、
Li[Co1/3Mn1/3Ni1/3]O
この式においてLi,Co,Mn,NiおよびOの比率はそれぞれ±5%異なり得ることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のカソード電極。
【請求項11】
前記リチウム・マンガン酸化物(LMO)は以下のストイキオメトリを有しており、
Li1+xMn2-y
この式においてMは、少なくとも一つの金属、特に少なくとも一つの遷移金属であって、
-0.5≦x≦0.5であり、かつ、0≦y≦0.5であることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のカソード電極。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のカソード電極と、アノード電極と、少なくとも部分的に前記の電極の間に設けられているセパレータとを有していることを特徴とする電気化学的セル。
【請求項13】
前記セパレータは、少なくとも一つの多孔性のセラミック材料を、好ましくは有機的な支持体材料に塗布された層内に含んでいることを特徴とする請求項12に記載の電気化学的セル。
【請求項14】
前記セパレータは、片面または両面においてポリエーテルイミドでコーティングされていることを特徴とする請求項12または13に記載の電気化学的セル。
【請求項15】
前記セラミック材料は、少なくとも一つの金属イオンの酸化物、リン酸塩、硫酸塩、チタン酸塩、ケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、ホウ酸塩のグループから選択されている請求項13または14に記載の電気化学的セル。
【請求項16】
前記セパレータは2μm〜50μm、好ましくは5μm〜25μmの厚さを有していることを特徴とする請求項12〜15のいずれか一項に記載の電気化学的セル。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のカソード電極または電気化学的セルを、リチウムイオンバッテリーにおいて、電動工具を作動させるために、および車、特に完全に、または主に電気的に駆動される車、または、いわゆる「ハイブリッド」作動される車を駆動するために、すなわち内燃機関とともに、または、燃料電池とともに使用すること、および、定置式のバッテリー用途において使用すること。

【公表番号】特表2013−507745(P2013−507745A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533521(P2012−533521)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006220
【国際公開番号】WO2011/045028
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(511173550)リ−テック・バッテリー・ゲーエムベーハー (85)
【Fターム(参考)】