説明

カチオン交換体、その製造方法及びその用途

【課題】 従来法と比較して温和な条件下、少量の試薬で効率よく、クロマトグラフィー用担体表面にカルボン酸基又はスルホン酸基を導入することができるカチオン交換体を提供する。
【解決手段】 下記の工程により、カチオン交換体を製造する。
(1)クロマトグラフィー用担体にエポキシ基を導入する第1の工程、及び、
(2)このエポキシ基に、分子内にチオール基とカルボン酸基を有する化合物又は分子内にチオール基とスルホン酸基を有する化合物を反応させる第2の工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン交換体、その製造方法及びその用途に関する。本発明のカチオン交換体は、クロマトグラフィー用分離剤として特に有用である。
【背景技術】
【0002】
イオン交換基を有する担体は、分離材料としてクロマトグラフィー分離の分野で広く用いられている。例えば、イオン交換基としてカルボン酸基やスルホン酸基を導入したカチオン交換体は、液体クロマトグラフィーの分野において、アミノ酸、ペプチド、タンパク質等の分析、分取の目的で用いられている。
【0003】
カルボン酸を有する担体は、水酸基を有する担体に高濃度アルカリ存在下、ハロゲン化酢酸塩類を反応させる方法(例えば、特許文献1参照)、アミノ基を有する担体にジカルボン酸無水物を反応させる方法(例えば、特許文献2参照)、エポキシ基を有する担体にアミノカプロン酸等のカルボン酸基を有するアミノ化合物を反応させる方法、アリル基を有する担体を過マンガン酸塩類で酸化させる方法(例えば、特許文献3参照)等で調製されている。
【0004】
また、スルホン酸を有する担体は、水酸基を有する担体に高濃度アルカリ存在下、ハロゲン化エタンスルホン酸塩類やスルトン類を反応させる方法(例えば、特許文献1参照)や、アリル基を有する担体に酸素存在下で亜硫酸水素塩類を反応させる方法(例えば、特許文献3参照)等で調製されている。
【0005】
しかしながら、水酸基を有する担体に、高濃度アルカリ存在下、ハロゲン化酢酸類、ハロゲン化エタンスルホン酸類、ハロゲン化プロパンスルホン酸類を反応させる方法は、アルカリでハロゲン基が水酸基に置換される反応も進行するため多量の薬剤を使用する必要がある。また、アルカリで溶解するシリカや加水分解を受ける担体には使用できない。
【0006】
また、アミノ基を有する担体にジカルボン酸無水物を反応させる方法では、未反応のアミノ基が残存するため無水酢酸等で残存するアミノ基をブロックする必要がある。
【0007】
一方、クロマトグラフィー用担体では、分離する目的化合物と担体の非特異的相互作用を軽減するために、担体とイオン交換基の間に一般にスペーサーが導入される。このようなスペーサーを形成する化合物としては、例えば、エピクロルヒドリン、多官能エポキシ化合物又はアリル基を有する化合物等が使用される。具体的には、クロマトグラフィー用担体にスペーサーが導入され、この導入されたスペーサー末端にイオン交換基が導入される。
【0008】
この導入されたスペーサー末端にイオン交換基を導入するには、スペーサー末端のエポキシ基とアミノカプロン酸等のカルボン酸基を有するアミノ化合物とを反応させる方法が一般に用いられる。しかしながら、アミノ基の反応性が低いため、カルボン酸基の導入量は極めて少ない。また、エポキシ基とアミノ基の結合では、結合したアミノ基もイオン交換性を有し、両性のイオン交換体となる。
【0009】
一方、アリル基を有する化合物をスペーサーとした場合、スペーサー末端へのイオン交換基の導入方法としては、アリル基を酸化してカルボン酸にする方法や、アリル基に亜硫酸水素ナトリウムを付加してスルホン化する方法等があるが、いずれの方法においても、疎水性の高い未反応のアリル基が残存するという問題がある。
【0010】
【特許文献1】特開平1−262468号公報
【特許文献2】米国特許第4560704号明細書
【特許文献3】米国特許第4029583号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来法と比較して温和な条件下、少量の試薬で効率よく、クロマトグラフィー用担体の表面にカルボン酸基又はスルホン酸基を導入できるカチオン交換体、その製造方法、及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、本発明のカチオン交換体を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下に示すとおりのカチオン交換体、その製造方法、及びその用途である。
【0013】
[1]クロマトグラフィー用担体の表面に、イオン交換基として、チオール基を含有するカルボン酸基、又はチオール基を含有するスルホン酸基を有するカチオン交換体。
【0014】
[2]上記したチオール基を含有するカルボン酸基、又はチオール基を含有するスルホン酸基の量が、カチオン交換体1mL(湿潤容量)当たり0.005〜0.5meqであることを特徴とする上記[1]に記載のカチオン交換体。
【0015】
[3]上記したチオール基を含有するカルボン酸基、又はチオール基を含有するスルホン酸基が、下記式(1)
【0016】
【化1】

(上記式中、Rは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、Aはカルボン酸基、スルホン酸基又はそれらの塩を表す。)
で示されるイオン交換基であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のカチオン交換体。
【0017】
[4]上記したクロマトグラフィー用担体が、天然高分子系担体、合成高分子系担体、又は無機系担体であることを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載のカチオン交換体。
【0018】
[5]上記したクロマトグラフィー用担体の形状が、球状粒子、非球状粒子、膜、又はモノリス(連続体)であることを特徴とする上記[1]乃至[4]のいずれかに記載のカチオン交換体。
【0019】
[6]下記の工程を含む上記[1]乃至[5]のいずれかに記載のカチオン交換体の製造方法。
(1)クロマトグラフィー用担体にエポキシ基を導入する第1の工程、及び、
(2)このエポキシ基に、分子内にチオール基とカルボン酸基を有する化合物、又は分子内にチオール基とスルホン酸基を有する化合物を反応させる第2の工程。
【0020】
[7]上記した第1の工程において、エピクロルヒドリン、多官能エポキシ化合物又はエポキシ基含有シラン処理剤を使用して、クロマトグラフィー用担体にエポキシ基を導入することを特徴とする上記[6]に記載のカチオン交換体の製造方法。
【0021】
[8]上記した多官能エポキシ化合物が、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、及びソルビトールポリグリシジルエーテルからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする上記[6]に記載のカチオン交換体の製造方法。
【0022】
[9]上記したエポキシ基含有シラン処理剤が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする上記[7]に記載のカチオン交換体の製造方法。
【0023】
[10]上記した第2の工程において、分子内にチオール基とカルボン酸基を有する化合物、又は分子内にチオール基とスルホン酸基を有する化合物が、下記式(2)
【0024】
【化2】

(上記式中、Rは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、Aはカルボン酸基、スルホン酸基又はそれらの塩を表す。)
からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする上記[6]乃至[9]のいずれかに記載のカチオン交換体の製造方法。
【0025】
[11]上記式(2)で示される化合物が、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトプロパンスルホン酸及びそれらの塩類からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする上記[10]に記載のカチオン交換体の製造方法。
【0026】
[12]上記[1]乃至[4]のいずれかに記載のカチオン交換体からなるクロマトグラフィー用分離剤。
【0027】
[13]上記[1]乃至[4]のいずれかに記載のカチオン交換体をクロマトグラフィー用カラムに充填してなるクロマトグラフィー用充填カラム。
【発明の効果】
【0028】
本発明のカチオン交換体は、従来法と比較して温和な条件下、少量の試薬で効率よく、クロマトグラフィー用担体の表面にカルボン酸基又はスルホン酸基を導入することができ、かつクロマトグラフィー用の充填材として好適に使用できるものであるため、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明のカチオン交換体は、クロマトグラフィー用担体の表面に、イオン交換基として、チオール基を含有するカルボン酸基、又はチオール基を含有するスルホン酸基を有する。
【0030】
このようなチオール基を含有するカルボン酸基、又はチオール基を含有するスルホン酸基としては、例えば、下記式(1)
【0031】
【化3】

(上記式中、Rは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、Aはカルボン酸基、スルホン酸基又はそれらの塩を表す。)
で示されるイオン交換基が挙げられる。
【0032】
本発明のカチオン交換体を構成するクロマトグラフィー用担体の素材としては、後述するエポキシ基を導入できるものであれば、特に制限なく使用することができ、例えば、天然高分子系担体、合成高分子系担体、無機系担体等を用いることができる。
【0033】
本発明において、天然高分子系担体としては、例えば、セルロース、アガロース、デキストラン等の多糖類が挙げられる。合成高分子担体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体を、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等の架橋性単量体と混合し、重合開始剤の存在下に重合することにより調製したもの等が挙げられる。無機系担体としては、例えば、シリカ、ゼオライト等が挙げられる。また、それら担体の形態としては、例えば、球状粒子、非球状粒子、膜、モノリス(連続体)等が挙げられるが、特に制限されない。
【0034】
本発明のカチオン交換体の製造方法としては、特に限定するものではないが、例えば、以下の工程により製造することが好ましい。
(1)クロマトグラフィー用担体にエポキシ基を導入する第1の工程、及び、
(2)このエポキシ基に、分子内にチオール基とカルボン酸基を有する化合物又は分子内にチオール基とスルホン酸基を有する化合物を反応させる第2の工程。
【0035】
上記(1)の工程において、クロマトグラフィー担体へのエポキシ基の導入は、公知の方法により行うことができる。例えば、天然高分子担体又は合成高分子担体の場合、エピクロルヒドリン、又は多官能エポキシ化合物を、NaOH、KOH等のアルカリ存在下で反応させる方法が挙げられる。多官能エポキシ化合物としては、具体的には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等を例示できる。
【0036】
また、無機系担体の場合、例えば、エポキシ基含有シラン処理剤で反応させる方法が挙げられる。エポキシ基含有シラン処理剤としては、具体的には、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランを例示できる。
【0037】
本発明のカチオン交換体は、上記(2)の工程において、上記(1)の工程でエポキシ基を導入したクロマトグラフィー用担体(以下、エポキシ化担体と称する場合がある。)と、分子内にチオール基とカルボン酸基を有する化合物、又は分子内にチオール基とスルホン酸基を有する化合物とを反応させることにより調製される。具体的には、これらを溶液中(pH7〜9の範囲)、25〜40℃の反応温度で5〜24時間反応させることが好ましい。
【0038】
上記したエポキシ化担体に導入されているエポキシ基の量としては、特に限定するものではないが、通常、エポキシ化担体1g(乾燥重量)当たり0.02〜2molの範囲である。
【0039】
上記(2)の工程において、分子内にチオール基とカルボン酸基を有する化合物、又は分子内にチオール基とスルホン酸基を有する化合物としては、例えば、下記式(2)
【0040】
【化4】

(上記式中、Rは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、Aはカルボン酸基、スルホン酸基又はそれらの塩を表す。)
で示される化合物が挙げられる。分子内にチオール基とカルボン酸基を有する化合物としては、具体的には、メルカプト酢酸(チオグリコール酸)、メルカプトプロピオン酸、メルカプトブタン酸、又はそれらの塩類等が例示され、これらのうち、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸又はそれらの塩類がより好ましい。また、分子内にチオール基とスルホン酸基を有する化合物としては、具体的には、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトプロパンスルホン酸又はそれらの塩類が例示される。
【0041】
本発明のカチオン交換体に導入されている、チオール基を含有するカルボン酸基、又はチオール基を含有するスルホン酸基の量(すなわち、イオン交換容量)としては、特に限定するものではないが、カチオン交換体1mL(湿潤容量)当たり0.005〜0.5meqの範囲が好ましい。
【0042】
本発明のカチオン交換体は、クロマトグラフィー用の充填剤として特に有用である。
【0043】
本発明のカチオン交換体を、例えば、ガラス、金属製等のクロマトグラフィー用カラムに充填すれば、クロマトグラフィー用充填カラムとしてアニオン性タンパク質等の分離、分析又は分取のために使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。なお、以下の実施例において、エポキシ基の量、イオン交換容量は以下のとおり測定した。
【0045】
エポキシ基の定量方法.
500mLのセパラブルフラスコに濃硫酸100mLを入れ、濃塩酸30mLを滴下ロートで滴下した。発生する塩化水素をジオキサン1500mLを加えた2Lのセパラブルフラスコにガラス管で吹き込み、0.2Nの塩酸−ジオキサン溶液を調整した。エポキシ化担体Wg(乾燥重量)を200mLの三角フラスコに入れ、25mLの0.2Nの塩酸−ジオキサン溶液を加え、マグネットスターラーで25℃、3時間攪拌した。攪拌後、50mLのエチルアルコール、1mLのフェノールフタレイン溶液を加え、0.1N−NaOH水溶液で過剰の塩酸を滴定した(滴定量AmL)。同様に、エポキシ化担体を添加せずに25mLの0.2Nの塩酸−ジオキサン溶液を0.1N−NaOH水溶液で滴定した(滴定量TmL)。エポキシ基の量は以下の式より算出した。
【0046】
【数1】

イオン交換容量の定量方法.
50mLビーカーに10mL(湿潤容量)のカチオン交換体、0.5N−HCL溶液20mLを加え分散させた。このスラリーをグラスフィルターでろ過し、カチオン交換体をろ液が中性になるまで純水で洗浄した。このカチオン交換体を200mLのビーカーに加え、0.5mol/L塩化ナトリウム水溶液100mLに分散させた。スターラーチップを入れ、攪拌させながら0.5N−NaOH水溶液を用いて自動滴定装置(平沼産業社製、COM−450)で終点をpH7として滴定した(滴定量BmL)。カチオン交換体のイオン交換容量は以下の式より算出した。
【0047】
【数2】

実施例1.
クロマトグラフィー用担体として、デキストランをベースとしたSephadex(登録商標) G−25 Fine(GE社製)を純水で洗浄した後、その湿潤重量60gを滴下ロート付の三口フラスコに入れ、純水66g、エピクロルヒドリン60g添加し、40℃で分散させた。水酸化ナトリウム21gを純水36gに溶解させた後、この溶液を滴下ロートより2時間で滴下した。滴下後更に2時間反応させた。反応終了後、ガラスフィルターを用いて担体を分離し、純水で洗浄し、エポキシ化担体を得た。導入されたエポキシ基の量はエポキシ化担体1g(乾燥重量)当たり0.83mmolであった。
【0048】
以上のようにして得られたエポキシ化担体(50g)を300mLの三口フラスコに計り取り、次いで0.5mol/Lのチオグリコール酸ナトリウム水溶液(pH8.5)100gを加え、40℃で16時間反応させた。反応終了後、ガラスフィルターで生成物であるカチオン交換体を分離し、純水で洗浄した。このようにして製造されたカチオン交換体のイオン交換容量は、カチオン交換体1mL(湿潤容量)当たり0.23meqであった。
【0049】
実施例2.
クロマトグラフィー用担体として、水酸基を有する親水性ビニルポリマーであるTOYOPEARL(登録商標) HW−65C(東ソー社製)に変更した以外は、実施例1と同様の工程にてエポキシ化を実施した。導入されたエポキシ基の量はエポキシ化担体1g(乾燥重量)当たり0.40mmolであった。
【0050】
以上のようにして得られたエポキシ化担体(50g)を300mLの三口フラスコに計り取り、次いで0.5mol/Lのチオグリコール酸ナトリウム水溶液(pH8.5)100gを加え、40℃で16時間反応させた。反応終了後、ガラスフィルターで生成物であるカチオン交換体を分離し、純水で洗浄した。このようにして製造されたカチオン交換体のイオン交換容量は、カチオン交換体1mL(湿潤容量)当たり0.067meqであった。
【0051】
以上のようにして得られたカチオン交換体を7.5mmI.D.×75mmLカラムに充填し、タンパク質混合物の分離を行った。
【0052】
測定装置:AKTAprime(GE社製),
溶離液A:20mmol/L リン酸緩衝液(pH6.8),
溶離液B:溶離液A+0.5mol/L塩化ナトリウム(pH6.8),
グラジエント:60分で溶離液A 100%から溶離液B 100%となる直線勾配.
流速:1.0mL/分,
サンプル:Ribonuclease A(10mg/mL),
Cytochrom C(5mg/mL),
Lysozyme(2.5mg/mL),
サンプル注入量:100マイクロリットル,
測定波長:UV280nm。
【0053】
図1に上記測定の結果を示す。図1より実施例2で得られたカチオン交換体はタンパク質の分離に使用することが可能なことがわかった。
【0054】
実施例3.
チオール基を有するスルホン酸としてメルカプトプロパンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は実施例2と同様の工程にて反応を実施した。このようにして製造されたカチオン交換体のイオン交換容量は、カチオン交換体1mL(湿潤容量)当たり0.055meqであった。
【0055】
以上のようにして得られたカチオン交換体を7.5mmI.D.×75mmLカラムに充填し、タンパク質混合物の分離を行った。測定装置、測定条件は実施例2と同一である。
【0056】
図2に上記測定の結果を示す。図2より実施例3のカチオン交換体はタンパク質の分離に使用することが可能なことがわかった。
【0057】
実施例4.
クロマトグラフィー用担体として、水酸基を有する親水性ビニルポリマーであるTOYOPEARL(登録商標) HW−65C(東ソー社製)を純水で洗浄した後、その湿潤重量60g、0.6mol/LのNaOH水溶液(60g)、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(60g)添加し、25℃で16時間反応させた。反応終了後、ガラスフィルターを用いて担体を分離し、純水で洗浄し、エポキシ化担体を得た。導入されたエポキシ基の量はエポキシ化担体1g(乾燥重量)当たり0.22mmolであった。
【0058】
以上のようにして得られたエポキシ化担体(50g)に実施例2と同様の条件でカルボン酸基を導入した。製造されたカチオン交換体のイオン交換容量は、カチオン交換体1mL(湿潤容量)当たり0.040meqであった。
【0059】
実施例5.
クロマトグラフィー用担体として、シリカゲルであるワコーゲルTMC−300(和光純薬社製)10gを純水で洗浄した後、300mLの三口フラスコに加えた。純水95g、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン5gを加え、pHを6.0に調整後、90℃で30分間反応させた。反応終了後、ガラスフィルターを用いて担体を分離し、純水で洗浄し、エポキシ化担体を得た。導入されたエポキシ基の量は、エポキシ化担体1g(乾燥重量)当たり0.40mmolであった。
【0060】
以上のようにして得られたエポキシ化担体(10g)を100mLの三口フラスコに計り取り、次いで1.0mol/Lのチオグリコール酸ナトリウム水溶液(pH8.0)、50gを加え、25℃で16時間反応させた。反応終了後、ガラスフィルターで生成物であるカチオン交換体を分離し、純水で洗浄した。このようにして製造されたカチオン交換体のイオン交換容量は、カチオン交換体1mL(湿潤容量)当たり0.19meqであった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例2で実施したタンパク質分離の液体クロマトグラフィーのチャートを示す図である。
【図2】実施例3で実施したタンパク質分離の液体クロマトグラフィーのチャートを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフィー用担体の表面に、イオン交換基として、チオール基を含有するカルボン酸基、又はチオール基を含有するスルホン酸基を有するカチオン交換体。
【請求項2】
チオール基を含有するカルボン酸基、又はチオール基を含有するスルホン酸基の量が、カチオン交換体1mL(湿潤容量)当たり0.005〜0.5meqの範囲であることを特徴とする請求項2に記載のカチオン交換体。
【請求項3】
チオール基を含有するカルボン酸基、又はチオール基を含有するスルホン酸基が、下記式(1)
【化1】

(上記式中、Rは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、Aはカルボン酸基、スルホン酸基又はそれらの塩を表す。)
で示されるイオン交換基であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のカチオン交換体。
【請求項4】
クロマトグラフィー用担体が、天然高分子系担体、合成高分子系担体、又は無機系担体であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のカチオン交換体。
【請求項5】
クロマトグラフィー用担体の形状が、球状粒子、非球状粒子、膜、又はモノリス(連続体)であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のカチオン交換体。
【請求項6】
下記の工程を含む請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のカチオン交換体の製造方法。
(1)クロマトグラフィー用担体にエポキシ基を導入する第1の工程、及び、
(2)このエポキシ基に、分子内にチオール基とカルボン酸基を有する化合物、又は分子内にチオール基とスルホン酸基を有する化合物を反応させる第2の工程。
【請求項7】
第1の工程において、エピクロルヒドリン、多官能エポキシ化合物又はエポキシ基含有シラン処理剤を使用して、クロマトグラフィー用担体にエポキシ基を導入することを特徴とする請求項6に記載のカチオン交換体の製造方法。
【請求項8】
多官能エポキシ化合物が、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、及びソルビトールポリグリシジルエーテルからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項7に記載のカチオン交換体の製造方法。
【請求項9】
エポキシ基含有シラン処理剤が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項7に記載のカチオン交換体の製造方法。
【請求項10】
第2の工程において、分子内にチオール基とカルボン酸基を有する化合物、又は分子内にチオール基とスルホン酸基を有する化合物が、下記式(2)
【化2】

(上記式中、Rは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、Aはカルボン酸基、スルホン酸基又はそれらの塩を表す。)
からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれかに記載のカチオン交換体の製造方法。
【請求項11】
式(2)で示される化合物が、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトプロパンスルホン酸及びそれらの塩類からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項10に記載のカチオン交換体の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のカチオン交換体からなるクロマトグラフィー用分離剤。
【請求項13】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のカチオン交換体をクロマトグラフィー用カラムに充填してなるクロマトグラフィー用充填カラム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−133733(P2010−133733A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307656(P2008−307656)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】