説明

カチオン電着塗料組成物

【課題】 凹凸のある被塗物に対しても均一な塗膜を形成できる方法によって、導電性と仕上り性と防食性及び耐酸性に優れた塗装物品を提供すること。
【解決手段】
下記特徴の基体樹脂(A)、ブロックポリイソシアネート化合物(B)、及び導電性粉末(c1)をオニウム塩型の顔料分散用樹脂(c2)を用いて分散してなる導電性顔料分散ペースト(C)を含むカチオン電着塗料組成物。
基体樹脂(A):
ジグリシジルエーテル(a1)と、レソルシノールとハイドロキノン及びカテコールの中から選ばれる少なくとも1種のベンゼンジオール類(a2)とを反応させてなる樹脂中に下記式(1)で表されるベンゼンジエーテル構造を有する変性エポキシ樹脂に、アミノ基含有化合物(a3)を反応してなるアミノ基含有エポキシ樹脂(A1)を含有する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性、密着性、防食性、均一被覆性及び耐酸性が良好な塗膜を形成できるカチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油燃料を燃焼させる際に発生するガスが地球環境に悪影響を与えることが問題となっており、環境面を配慮して二酸化炭素や二酸化窒素などの排気ガスを全く発生せずに、動力・熱などのエネルギーを得る手段として燃料電池が開発されている。
【0003】
燃料電池の中でも、セパレーター、燃料極、固体電解質、及びガス拡散電極から構成される固体電解質型燃料電池は、コンパクトで軽量であるため、多方面での利用が考えられている。
【0004】
固体電解質型燃料電池のセパレーターは、電力を取り出すために導電性材料からなり、電極表面で発生する反応性ガス(酸素、水素など)を効率よく透過させるため
に、通常、表面に凹凸の溝が形成されている(表面に凹凸が形成されたセパレーター
はリブ付セパレーターと呼ばれている)。
【0005】
このような機能及び形状を有するセパレーターとして、従来、黒鉛が用いられていたが、黒鉛は高価であり且つ切削加工に熟練を要し、物理的強度にも問題がある。そのため、平板状又は表面に凹凸の溝が形成された導電性金属材料の表面に導電性塗料を塗装したものをセパレーターとして使用することが提案されているが、一般に、金属材料表面に導電性塗料をスプレー塗装やロールコーター塗装などの方法で均一に塗布することは困難であり、特にリブ付セパレーターの場合には導電性塗膜を均一に設けることは極めて困難である。
【0006】
従来、金属系粉末、金属被覆粉末、炭素系粉末などの導電性粉末を含有する電着塗料を用いて固体電解質型燃料電池の金属セパレーターを電着塗装することが開示されている。しかし、特許文献1に記載の電着塗料は、形成塗膜の導電性や防食性が不十分で、しかも長期間塗装ラインで使用した場合に塗料安定性に問題があった(特許文献1)。
【0007】
また、ケッチェンブラックと、ファーネスブラック、黒鉛及び導電性ウィスカーから選らばれる少なくとも1種類の導電性粉末とからなる導電性フィラーを、オニウム塩型の顔料分散用樹脂又はアクリル樹脂系の顔料分散樹脂で分散させてなる分散ペーストを用いて調製したカチオン電着塗料が開示されている(特許文献2、特許文献3)。
しかし、特許文献2又は特許文献3に記載のカチオン電着塗料から得られる塗膜は、導電性、密着性、防食性、均一被覆性(耐ヘコミ性)及び耐酸性のいずれかが不十分であった。
【0008】
【特許文献1】特開2004−31166号公報
【特許文献2】特開2006−206869号公報
【特許文献3】特開2007−23108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、燃料電池におけるリブ付セパレーターに対しても均一で、かつ導電性、密着性、防食性、均一被覆性(耐ヘコミ性)及び耐酸性に優れた塗膜を提供できるカチオン電着塗料組成物を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定のカチオン電着塗料組成物によって、燃料電池におけるリブ付セパレーターに用いる場合にも均一で、かつ導電性、密着性、防食性、均一被覆性及び耐酸性に優れた塗膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカチオン電着塗料組成物を用いて電着塗装してなる塗膜は、抵抗値が1Ωcm以下の電着塗膜を容易に形成でき、かつ密着性、防食性、均一被覆性(ピンホールやヘコミの発生がない塗膜を形成できる)及び耐酸性に優れる。特に、燃料電池のリブ付セパレーターに対してもつきまわり性が良好である為、均一な導電性塗膜を形成できる。
【0012】
また、カチオン電着塗料組成物は、塗料安定性に優れており、長期間にわたり塗装ラインで使用しても濾過残渣が増加せず、塗膜の仕上り性も低下することがない為、特に、固体電解質型燃料電池の金属セパレーターの塗装用として適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、特定の基体樹脂(A)、ブロックポリイソシアネート化合物(B)、及び導電性粉末(c1)をオニウム塩型の顔料分散用樹脂(c2)を用いて分散してなる導電性顔料分散ペースト(C)を含むカチオン電着塗料組成物である。以下、詳細に説明する。
【0014】
[カチオン電着塗料組成物]
基体樹脂(A):
基体樹脂(A)は、例えば、分子中にアミノ基、アンモニウム塩基、スルホニウム塩基、ホスホニウム塩基などの官能基を有し、水性媒体中でカチオン化可能な樹脂を用いることができ。骨格となる樹脂の種類としては、例えば、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ポリブタジエン樹脂系、アルキド樹脂系、ポリエステル樹脂系などが挙げられる。
これらの中でも本発明のカチオン電着塗料組成物には、特に、ジグリシジルエーテル(a1)と、レソルシノール、ハイドロキノン及びカテコールの中から選ばれる少なくとも1種のベンゼンジオール類(a2)とを反応させて得られる、樹脂中に下記式(1)で表されるベンゼンジエーテル構造を有する変性エポキシ樹脂に、アミノ基含有化合物(a3)を付加してなるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A1)を含有することが特徴である。
【0015】
【化1】

【0016】
式(1)
ジグリシジルエーテル(a1)
ジグリシジルエーテル(a1)は、2官能フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られる1分子中に2個のエポキシ基を有する化合物である。
上記2官能フェノール化合物としては、それ自体既知のものを使用することができ、そのようなポリフェノール化合物の例としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、4,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)などを挙げることができる。
【0017】
また、2官能フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂としては、長期耐食性、例えば耐ばくろ性の観点から、中でも、ビスフェノール型エポキシ樹脂、特にビスフェノールAから誘導される下記式の「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」が好適である。
【0018】
【化2】

【0019】
(式(2)中、n=0〜2で示されるものが好適である)
上記エポキシ樹脂は、一般に400〜100,000、好ましくは600〜60,000、さらに好ましくは800〜20,000の範囲内の数平均分子量(注1)、一般に180〜70,000、好ましくは240〜40,000、さらに好ましくは300〜15,000の範囲内のエポキシ当量を有することができる。
【0020】
このようなエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン株式会社からjER828EL、jER1002、jER1004、jER1007などの商品名で販売されているものが挙げられる。
【0021】
(注1)数平均分子量:JIS K 0124−83に記載の方法に準じ、分離カラムとして「TSK GEL4000HXL」、「TSK G3000HXL」、「TSK G2500HXL」、「TSK G2000HXL」(東ソー株式会社製)の4本を用いて、溶離液としてGPC用テトラヒドロフランを用いて40℃及び流速1.0ml/分において、RI屈折計で得られたクロマトグラムと標準ポリスチレンの検量線から求めた。
【0022】
ベンゼンジオール類(a2)
一方、ベンゼンジオール類(a2)としては、ハイドロキノン、カテコール、レソルシノールを挙げることができる。
【0023】
ベンゼンジオール類(a2)は、得られた変性エポキシ樹脂の軟化点を上昇させることなく、塗膜のガス透過阻止性及び耐薬品性を向上させる有用な化合物である。従って、均一被覆性及び耐食性の点から、レソルシノールまたはハイドロキノンが好ましい。なお、上記の化合物は、1種類でも用いることができるし、2種類以上を併用することも可能である。
【0024】
なお、変性エポキシ樹脂(A1)の製造は、ジグリシジルエーテル(a1)とベンゼンジオール類(a2)、必要に応じてポリフェノール化合物を配合し、反応触媒として、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、メチルエタノールアミンのような2級アミン、ジメチルベンジルアミン、トリブチルアミンのような3級アミン、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイドのような4級アンモニウム塩などの存在下、適宜に溶剤を加え、反応温度としては80〜200℃、好ましくは90〜180℃、反応時間として1〜6時間、好ましくは1〜5時間である。
【0025】
上記ポリフェノール化合物としては、それ自体既知のものを使用することができ、そのようなポリフェノール化合物の例としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、4,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどを挙げることができる。
【0026】
上記の反応に用いる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン系;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノールなどのアルコール系;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール系化合物あるいはこれらの混合物などが挙げられる。
【0027】
なおジグリシジルエーテル(a1)とベンゼンジオール類(a2)の割合は、両成分の固形分合計質量を基準にして、ジグリシジルエーテル(a1)が50〜90質量%、好ましくは60〜85質量%、ベンゼンジオール類(a2)が10〜50質量%、好ましくは15〜40質量%が、均一塗装性や塗料安定性の為に好ましい。適宜に加えることができるその他のポリフェノール化合物類は、目的とする塗膜性能に応じて使用することができる。このようにして得られた変性エポキシ樹脂は、エポキシ当量500〜3,000、好ましくは800〜2,500のエポキシ当量を有することが好適である。
【0028】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上記の変性エポキシ樹脂(A1)に、カチオン性付与成分であるアミノ基含有化合物(a3)を反応させてなるアミノ基含有変性エポキシ樹脂を含有することを特徴としている。
【0029】
このような目的で使用されるアミノ基含有化合物(a3)としては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミンなどのモノ−、もしくはジ−アルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、ジ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、トリ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、モノメチルアミノエタノール、モノエチルアミノエタノールなどのアルカノールアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのアルキレンポリアミン及びこれらのポリアミンのケチミン化物;エチレンイミン、プロピレンイミンなどのアルキレンイミン;ピペラジン、モルホリン、ピラジンなどの環状アミンなどが挙げられる。
【0030】
アミノ基含有変性エポキシ樹脂におけるアミノ基含有化合物(a3)の割合は、アミノ基含有変性エポキシ樹脂の合計固形分質量を基準にして、アミノ基含有化合物(a3)が10〜50質量%、好ましくは15〜45質量%であることが、水分散性や防食性の面から好ましい。
【0031】
アミノ基含有エポキシ樹脂の製造は、通常、適当な有機溶剤中で、80〜170℃、好ましくは90〜150℃の温度で1〜6時間、好ましくは1〜5時間行うことができる。上記の有機溶剤中としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン系;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノールなどのアルコール系;あるいはこれらの混合物などが挙げられる。
このようにして得られたアミノ基含有エポキシ樹脂のアミン価としては、30〜100mgKOH/g樹脂固形分の範囲、さらには40〜90mgKOH/g樹脂固形分が好ましい。
【0032】
また、基体樹脂(A)は、ポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物に、エポキシ当量170〜500のポリアルキレンオキシドを含有しないジグリシジルエーテル化合物及びビスフェノール化合物とを反応させて得られる変性エポキシ樹脂に、アミノ基含有化合物を付加してなるアミノ基含有変性エポキシ樹脂も含有することができる(例えば、特開平8−245750号公報に記載)。均一被覆性の向上に有用である。
【0033】
ブロックポリイソシアネート化合物(B):
本発明のカチオン電着塗料組成物は、架橋剤としてブロックポリイソシアネート化合物を使用する。
【0034】
上記ブロックポリイソシアネート(B)として使用できるポリイソシアネート化合物としては、公知のものを使用することができ、例えば、(o−,m−,p−)トリレンジイソシアネート、(o−,m−,p−)キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、クルードMDI[ポリメチレンポリフェニルイソシアネート]、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの芳香族、脂肪族又は脂環族ポリイソシアネート化合物;これらのポリイソシアネート化合物の環化重合体又はビゥレット体;又はこれらの組合せを挙げることができる。
【0035】
ブロックポリイソシアネート(B)の中でも、特に、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート化合物、さらに好ましくはm−キシリレンジイソシアネート化合物が、塗膜の耐薬品性や防食性向上の為にも好ましい。
【0036】
また、ブロックポリイソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物とブロック剤との付加反応生成物であり、イソシアネート基がブロックされているものであり、かかるブロックポリイソシアネート化合物は常温において安定であるが、塗膜の焼付け温度(100〜200℃)に加熱した際、ブロック剤が解離して遊離のイソシアネート基を再生しうるものである。
【0037】
このようなブロック剤としては、例えば、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール系化合物;n−ブタノール、2−エチルヘキサノールなどの脂肪族アルコール類;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール系化合物;ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムなどのラクタム系化合物;等が挙げられる。
【0038】
上記アミノ樹脂としては、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等のアミノ成分とアルデヒドとの反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂が挙げられる。
【0039】
上記反応に用いられるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒド等が挙げられる。また、上記メチロール化アミノ樹脂を適当なアルコールによってエーテル化したものをアミノ樹脂として使用することもできる。ここで、エーテル化に用いられるアルコールの例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノールなどが挙げられる。
【0040】
本発明のカチオン電着塗料組成物における基体樹脂(A)とブロックイソシアネート化合物(B)との配合割合は、これら両成分の合計固形分重量を基準にして、基体樹脂(A)は、一般に50〜85質量%、好ましくは55〜80質量%、さらに好ましくは55〜78質量%、そしてブロックイソシアネート化合物(B)は一般に15〜50質量%、好ましくは20〜45質量%、さらに好ましくは22〜45質量%の範囲内とすることができる。
【0041】
また、キシリレンジイソシアネート化合物の使用量としては、基体樹脂(A)とブロックイソシアネート化合物(B)の固形分合計100質量部に対して、キシリレンジイソシアネート化合物が0.1〜30質量%、好ましくは1〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%がよい。ここで、基体樹脂(A)に基づくOH基のモル数に対しては、ブロックイソシアネート化合物(B)に基づくNCO基のモル数が、NCO基/OH基=0.7〜1.1、好ましくは0.8〜1.0の範囲がよい。
【0042】
導電性顔料分散ペースト(C):
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上記に述べた基体樹脂(A)とブロックイソシアネート化合物(B)に加え、導電性粉末(c1)をオニウム塩型の顔料分散用樹脂(c2)を用いて分散させてなる導電性顔料分散ペースト(C)を含むことを特徴とする。
なお導電性粉末(c1)は、ケッチェンブラックを含有し、さらにファーネスブラック、黒鉛などのその他の導電性粉末を含有することが好ましい。
上記ケッチェンブラックは、中空シェル状の構造を有するカーボンブラックであり、他のカーボンブラックより少ない量で樹脂に導電性を付与することができるという特性を有する。
【0043】
ケッチェンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラックEC、ケッチェンブラックEC600JD、カーボンECP、カーボンECP600JD(以上、ライオン株式会社製、商品名)などの市販品を使用することができる。本発明において使用するケッチェンブラックは、250〜600ml/100g、特に350〜500ml/100gの範囲内のDBP吸油量を有することが、均一被覆性と塗膜の導電性を確保する為にも好ましい。
【0044】
本発明において、「DBP吸油量」は、JIS K 6217−4(2001年)に準じて、下記の方法によって測定される。
【0045】
乾燥試料1.0gを精確に秤かり取り、これを300mm×300mm以上の大きさの平滑なガラス板又は石板上に移し、もし粒状であれば、へらで適度の圧力をかけ粒を砕く。ビュレットから必要と予測される量のDBP(ジブチルフタル酸)の約1/2量をガラス板又は石板上に静かに注ぎ加え、DBPを円状に均等に広げてから試料を少しずつDBPの上に移して分散させ、へらで小円形を描く操作で丁寧に練る。
へらに付着した試料は、他のへらで取り除き、さらに必要と予測される量のDBPの約1/3〜1/4量をさらに加え、同一操作を繰り返して混合物が均一になるようにする。終点に近くなったらDBPを1滴ずつ加えて、更に終点近くなったら1/2滴ずつ加え、全体が一つの締まった塊状となった点を終点とする。この操作は、10〜15分で終わるようにし、操作終了後、ビュレット中のDBP滴下量を読み、次式によって吸油量:OA(ml/100g)を算出する。
OA=(V/W)×100
[式中、Vは終点までに用いた油の使用量(ml)であり、Wは乾燥試料の重さ(g)である]
ケッチェンブラック以外の導電性粉末(c1)のDBP吸油量は、30〜250ml/100g、特に50〜200ml/100gの範囲内が好ましい。粒状、板状、短繊維状などの任意の形状である。
【0046】
ケッチェンブラック以外の導電性粉末(c1)の具体例は、バルカンXC−72、バルカンXC−605(以上、キャボット社製、商品名、ファーネスブラック)、ラーベン1255(コロンビアカーボン株式会社製、商品名、ファーネスブラック);RPシリーズ及びAGBシリーズ(以上、伊藤黒鉛株式会社、商品名、黒鉛)、黒鉛粉SP−10、SP−20、HAG−15、HAG−150、HAG−300(以上、日本黒鉛(株)製、商品名、黒鉛)、人造黒鉛POG−2、POG−10、POG−20(以上、住友化学(株)製、商品名、黒鉛)、UFG−5、UFG−10、UFG−30(以上、昭和電工株式会社製、商品名、黒鉛)などの市販品が挙げられる。
これらの導電性粉末(c1)は、それぞれ単独で又は2種類以上組合せて用いることができる。
【0047】
特に、ケッチェンブラックとケッチェンブラック以外の導電性粉末(c1)と併用することにより、電着塗膜中に形成される導電経路がより緻密なものとなる。ここで、本来少ない添加量で樹脂に導電性を付与することができるという特性をもつケッチェンブラックと併用することによって、カチオン電着塗料組成物中の導電性粉末(c1)の含有量が比較的少なくても塗膜の導電性を十分に確保することができる。このことから均一被覆性や防食性及び耐酸性の向上に寄与する。
さらに、導電性粉末(c1)/ケッチェンブラックの質量比が2〜25、好ましくは5〜20の範囲内にあることが、均一被覆性と塗膜の導電性の面からも好ましい。
【0048】
なお、導電性粉末(a1)は、カチオン電着塗料組成物中に配合するに先立ち、予め、顔料分散用樹脂(c2)を用いて分散させることによって、導電性顔料分散ペースト(C)が調製される。
【0049】
本発明では、この導電性顔料分散ペースト(C)の調製に際して、顔料分散用樹脂として、アンモニウム塩基、スルホニウム塩基、ホスホニウム塩基などのオニウム塩基を有するオニウム塩型の顔料分散用樹脂、好ましくはアンモニウム塩型の顔料分散用樹脂(c2)を使用する。
【0050】
かかるオニウム塩型の顔料分散用樹脂(c2)を使用することによって、他の顔料分散用樹脂、例えば、酸中和型の顔料分散用樹脂を用いた場合に比べて、塗膜の導電性をさらに一層高めることができ、さらに形成塗膜の均一被覆性や塗料安定性が向上したカチオン電着塗料組成物が得られる。
【0051】
オニウム塩型の顔料分散用樹脂(c2)を構成する樹脂種としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂などが挙げられるが、中でもエポキシ樹脂が好適である。そのようなオニウム塩型のエポキシ樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂に、3級アミノ基を含有する化合物及びカルボン酸を反応させてなるアンモニウム塩型のエポキシ樹脂が好適である。
【0052】
さらに、オニウム塩型の顔料分散用樹脂(c2)には、塗膜の導電性に加え、防食の向上を目的として、オニウム塩型の顔料分散用樹脂(c2)に他の顔料分散用樹脂を併用することができる。
【0053】
併用する場合の割合は、オニウム塩型の顔料分散用樹脂(c2)/他の顔料分散用樹脂=99/1(質量比)〜50/50(質量比)、好ましくはオニウム塩型の顔料分散用樹脂(c2)/他の顔料分散用樹脂=90/10(質量比)〜60/40(質量比)の範囲が、導電性を確保した上で防食性を得る為にも好ましい。
なお導電性粉末(c1)の配合量は、顔料分散用樹脂の固形分100質量部あたり、合計で250〜900質量部、特に320〜750質量部の範囲内で配合することがよい。
【0054】
なお顔料分散ペースト(C)は、例えば、導電性粉末(c1)を、通常の顔料分散ペーストの調製法に従い、上記の如きオニウム塩型の顔料分散用樹脂(c2)の分散液に添加・混合し、ボールミル、ペブルミル、サンドミル等の分散機中で分散処理することによって調製することができる。
【0055】
さらに、導電性顔料分散ペースト(C)には、必要に応じて、酸化チタン、ベンガラなどの着色顔料;クレー、マイカ、バリタ、タルク、炭酸カルシウム、シリカなどの体質顔料;リンモリブデン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム等の防錆顔料、キシレン樹脂等の石油樹脂;及びジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド等の有機錫化合物;他の導電性粉末;界面活性剤などを分散時に加えることもできる。
【0056】
さらに、腐食抑制又は防錆を目的として、カチオン電着塗料組成物中に、ビスマス化合物を含有させることができる。上記ビスマス化合物としては、例えば、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、ケイ酸ビスマス及び有機酸ビスマス等を用いることができる。また、塗膜硬化性の向上を目的として、ジブチル錫ジベンゾエート、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫オキサイド等の有機錫化合物を配合することができる。また、顔料分散用樹脂としては、公知のものが使用でき、例えば水酸基及びカチオン性基を有する水酸基含有樹脂、界面活性剤等を使用できる。
【0057】
このような導電性顔料分散ペースト(C)は、例えば、顔料分散用樹脂、中和剤及び顔料類を配合し、ボールミル、サンドミル、ペブルミル等の分散混合機中で分散処理して、顔料分散ペーストを調製できる。
【0058】
カチオン電着塗料組成物の調製について
カチオン電着塗料組成物は、基体樹脂(A)及びブロックイソシアネート化合物(B)に、必要に応じて、界面活性剤や表面調整剤等の各種添加剤や有機溶剤等を十分に混合して調合樹脂とした後、上記調合樹脂を水溶性有機カルボン酸等で水溶化又は水分散化してエマルションを得る。なお調合樹脂の中和には、一般的には、公知の酸を用いることができるが、中でも酢酸、ギ酸、乳酸又はこれらの混合物が好適である。次いで、エマルションに、前述の如くして調製される導電性顔料分散ペースト(C)を添加し、均一に混合することにより調製することができる。
【0059】
その際の導電性顔料分散ペースト(C)の配合割合は、基体樹脂(A)とブロックイソシアネート化合物(B)の固形分合計100質量部あたり、導電性粉末(c1)を30〜120質量部、好ましくは35〜110質量部、さらに好ましくは40〜100質量部の範囲内であることが、塗膜の導電性を確保する面からも好ましい。また、導電性顔料分散ペースト(C)の調製に用いられる顔料分散用樹脂の配合割合は、基体樹脂(A)とブロックイソシアネート化合物(B)の固形分合計100質量部あたり3〜40質量部、特に5〜25質量部、さらに特に8〜20質量部の範囲内であることが望ましい。
さらに、カチオン電着塗料組成物には、必要に応じて、均一被覆性の向上を目的として、溶解性パラメーター(SP値)が9.0〜11.0の範囲の有機溶剤(D)を配合することが好ましい。
【0060】
具体的には、プロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値10.41)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(SP値10.33)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(SP値9.63)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値9.78)が挙げられる。この中でも、特に、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルが、均一被覆性の面からも好ましい。
なお溶解性パラメーターは、下記式(1)においてフェドーズ(Fedors)が提案した25℃における△ei、△Viの値より化合物の基本構造式から計算した値である(参考文献:向井淳二、金城徳幸著、講談社、「技術者のための実学高分子」、1981年10月発行、P71〜77)。SP値(δ)=√(Σ△ei/Σ△Vi)・・式(1)
カチオン電着塗料組成物における有機溶剤(D)の添加量は、基体樹脂(A)とブロックイソシアネート化合物(B)の固形分合計100質量部に対して、0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜6質量部、さらに好ましくは1〜3質量部が、塗料安定性の面から好ましい。
【0061】
また、カチオン電着塗料組成物には、必要に応じて、例えば、ノニオン系界面活性剤、ハジキ防止剤、造膜剤等の添加剤を一緒にし、十分に混ぜ合わせて溶解ワニスを作製し、それに水性媒体中で、ぎ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、スルファミン酸、それらの1種もしくはそれ以上の混合物などから選ばれる中和剤を添加して水分散化することによりエマルションを調製できる。
【0062】
なおカチオン電着塗料組成物は、上記の如くして調製されたエマルションに、前述の導電性顔料分散ペースト(C)を加え、浴固形分濃度が5〜40質量%となるように脱イオン水などで希釈し、さらにpHを5.0〜9.0の範囲内に調整して製造できる。
上記のカチオン電着塗料組成物を用いて、塗膜を形成する方法は、金属基材を、カチオン電着塗料組成物中に浸漬して電着塗装を施して得られた塗膜を、水洗及び加熱硬化することによって得ることができる。
【0063】
該カチオン電着塗料組成物による塗膜形成は、該塗料を浴として浴温15〜35℃及び印加電圧30〜300Vの条件下で、金属基材を陰極として電着塗装を行い、乾燥膜厚に基づいて1〜40μm、好ましくは5〜30μmの範囲内の塗膜を被覆する。
【0064】
上記金属基材としては、電着塗装が可能な材料であれば特に制限はなく、例えば、ステンレス、鉄、鋼、銅、亜鉛、亜鉛ダイキャスト、スズ、アルミニウム、アルミニウムダイキャスト、アルマイト、マグネシウム、マグネシウムダイキャストなどの金属類;これらの金属の合金;該金属をメッキしたシート;該金属が積層されたシートなどが挙げられ、これらは、必要に応じて、耐食性及び付着性を向上させるために、表面処理を施すことができ、例えば、ステンレスには、クロム系表面処理を施すことができる。具体的な被塗物には、自動車ボディ、自動車部品、各種工業用製品、例えば、固体電解質燃料電池などが挙げられる。
【0065】
上記によって得られたカチオン電着塗料組成物の塗膜を有する金属基材は、限外濾過(UF)水洗水、工業用水水洗水、純水水洗水の少なくとも1種の水洗水を用いて、スプレーによる水洗又は浸漬による水洗を施すことができる。なお、水洗水は、要求される塗膜性能に応じて適宜調整でき、例えば、限外濾過(UF)液又は純水水洗を施すこともできる。
【0066】
次いで、被塗物表面で一般に120〜230℃、好ましくは140〜220℃の範囲内の温度で、5分間〜60分間、好ましくは10分間〜30分間加熱乾燥して、乾燥膜厚1〜40μm、好ましくは乾燥膜厚5〜30μmを有する金属基材を得ることができる。
また、以下の工程(1)〜(3)、工程(1)金属基材を特定のカチオン電着塗料に浸漬し電着塗装によって得られた塗膜に、水洗及び加熱硬化を施し、工程(2)次いで、アルコール系有機溶剤とグリコールエーテル系有機溶剤及び界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の水溶液に浸漬し、工程(3)該塗膜を有する金属被塗物を、再び、カチオン電着塗料に浸漬し電着塗装をよって得られた塗膜を加熱硬化してなる、塗膜形成方法にも得ることができ、より均一被覆性や導電性に優れた塗膜を得ることができる。
【0067】
上記、アルコール系有機溶剤は、炭素数1〜4個のアルコールが好適であり、具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールが挙げられる。グリコールエーテル系溶剤は、具体的には、エチレングリコールモノブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールが挙げられる。この中でも、イソプロピルアルコールが均一被覆性の面からも好ましい。
【0068】
また、界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミドなどのノニオン系界面活性剤;例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルリン酸塩などのアニオン系界面活性剤;例えば、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩などのカチオン系界面活性剤;例えば、両性イオン界面活性剤としてアルキルベダインが挙げられる。この中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが均一被覆性の面からも好ましい。
このようにして形成される電着塗膜の導電性は、膜厚20μmに塗装された塗膜の表面抵抗値(注2)が1Ωcm以下、特に0.7Ωcm以下、さらに特に0.5Ωcm以下である導電性塗膜を容易に形成することができる。従って、本発明の塗膜形成方法は、固体電解質型燃料電池の金属セパレーターの片面又は両面の塗装に極めて適している。
【0069】
(注2)表面抵抗値:塗膜の「表面抵抗値」は、図2のような装置を用いて測定した。
(1)平滑な表面の無酸素銅板を電極(図2の1)として用い、膜厚20μmに両面塗装されたテストパネル(寸法50mm×50mm)に同寸法のカーボンペーパー(カーボン不織布)(図2の2)を両面から挟み込み、テストパネル(図2の3)を設置して固定する。
無酸素銅電極板の側面にリード線を冷間圧着によって接合し、図2のように定電流電源(ケースレーインスツルメンツ株式会社製、ソースメーター2400、図2の5)および微小電圧計(ケースレーインスツルメンツ株式会社、ナノボルトメーター2182A、図2の4)を接続する(4端子法による抵抗値測定)。
このとき微小電圧計にリード線を互いに撚って接続し、外界からのノイズを最小限にする。テストパネルが固定された電極板の平面部に、プレス機で250kg重の荷重をかけた状態で、0.1A〜1.0Aの一定電流値を印加して試料間の電位差を、微小電圧計によって測定する。これらの数値をもとに、下記式に従って塗膜の表面抵抗値を求めた。
【0070】
=(E/I)×25
:表面抵抗値[Ωcm]
:電位差[V]
:印加電流値[A]
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は「重量部」及び「重量%」を示す。
【0072】
製造例1 オニウム塩型の顔料分散用樹脂No.1
jER828EL(注3)1,010部に、ビスフェノールA 390部、ポリカプロラクトンジオール(数平均分子量約1,200)240部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量が約1,090になるまで反応させた。
次に、ジメチルエタノールアミン134部及び酢酸90部を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテルを加えて固形分を調整し、4級アンモニウム塩価44mgKOH/g、固形分60%のオニウム塩型の顔料分散用樹脂No.1を得た。
(注3)jER828EL:ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名、エポキシ樹脂、エポキシ当量190。
【0073】
製造例2 アクリル系の顔料分散用樹脂No.2
エチレングリコールモノブチルエーテルを200部を反応容器に入れ、加熱して120℃にした。次に以下に示す割合の混合物(I)と混合物(II)を、反応容器中に別々に約2時間かけて滴下した。反応は窒素注入下で行った。
混合物(I)
ブレンマーPE−350(注4) 113部
N−ビニルピロリドン 126部
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート 15部
メチルメタクリレート 50部
n−ブチルアクリレート 10部
ヒドロキシエチルアクリレート 10部
混合物(II)
アゾビスジメチルバレロニトリル 18部
エチレングリコールモノブチルエーテル 50部
(注4)プレンマーPE−350:日本油脂社製、ポリエチレングリコールとメタクリル酸の反応物
反応温度を120℃に保ち、反応溶液をかきまぜながら、上記の混合物を滴下した。滴下終了後にアゾビスイソブチロニトリル25部を反応溶液に加え、さらに2時間後、アゾビスイソブチロニトリル25部を反応溶液に加え、その後2時間120℃に保ったまま反応を行った。反応終了後未反応の単量体とエチレングリコールモノブチルエーテルを減圧蒸留し、アミン価16.4mgKOH/g、固形分60%のアクリル樹脂系の顔料分散用樹脂No.2を得た。
【0074】
製造例3 顔料分散ペーストNo.1
固形分60%の顔料分散用樹脂No.1を16.7部(固形分10部)、バルカンXC−72(注7)60部及び脱イオン水140.0部をボールミルに配合して20時間分散し、固形分35%の顔料分散ぺーストNo.1を得た。
【0075】
製造例4〜14 顔料分散ペーストNo.2〜No.12の製造
製造例3と同様にして、下記表1に示す配合で顔料分散ペーストNo.2〜No.12を得た。
【0076】
製造例15 顔料分散ペーストNo.13
固形分60%の顔料分散用樹脂No.2を16.7部(固形分10部)、ケッチェンブラックEC 4.0部、バルカンXC−72(注7)60.0部及び脱イオン水130.7部をボールミルに配合して20時間分散し、固形分35%の顔料分散ぺーストNo.13を得た。
【0077】
【表1】

【0078】
(注5)ケッチェンブラックEC:ライオン株式会社製、商品名、ケッチェンブラッ
ク、DBP吸油量368ml/100g。
【0079】
(注6)ケッチェンブラックEC600JD:ライオン株式会社製、商品名、ケッチェンブラック、DBP吸油量495ml/100g。
【0080】
(注7)バルカンXC−72:キャボット社製、商品名、ファーネスブラック、DBP吸油量178ml/100g。
(注8)UFG−5:昭和電工社製、商品名、黒鉛、DBP吸油量55ml/100g。
【0081】
製造例16 基体樹脂No.1の製造
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、jER828EL(注3)723部、ハイドロキノンを138部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド0.8部を加え、160℃でエポキシ当量650になるまで反応させた。ついで、ジエタノールアミン139部加え120℃で3時間保持した後、エチレングリコールモノブチルエーテルを250部を加え、樹脂固形分80%の基体樹脂溶液No.1を得た。基体樹脂No.1は、数平均分子量(注1参照)1,600であった。
【0082】
製造例17 基体樹脂No.2の製造
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、jER828EL(注3)723部、レソルシノールを138部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド0.8部を加え、160℃でエポキシ当量650になるまで反応させた。ついで、ジエタノールアミン139部加え120℃で3時間保持した後、エチレングリコールモノブチルエーテルを250部を加え、樹脂固形分80%の基体樹脂溶液No.2を得た。基体樹脂No.2は、数平均分子量(注1参照)1,600であった。
【0083】
製造例18 基体樹脂No.3の製造例
温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、デナコールEX−931(注9)227部、jER828EL(注3)457部、ビスフェノールAを223部及びトリフェニルエチルホスホニュウムアイオダイド0.2部を加え、160℃でエポキシ当量900になるまで反応させた。
ついで、ジエタノールアミン93部を加え80℃で4時間反応後、エチレングリコールモノブエチルエーテル250部で希釈し、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.3溶液を得た。基体樹脂No.3は、アミン価51mgKOH/g、数平均分子量2,000であった。
(注9)デナコールEX−931:ナガセケムテックス社製、商品名、エポキシ樹脂(ポリアルキレンオキシド含有ジグリシジルエーテル化合物(b1))、エポキシ当量471。
【0084】
製造例19 基体樹脂No.4の製造例
攪拌機、温度計、窒素導入管および還流冷却器を取りつけたフラスコに、jER828EL(注3参照)630部を仕込み、ビスフェノールA 250部及びトリフェニルエチルホスホニュウムアイオダイド0.2部仕込み、エポキシ当量750となるまで反応させた。
次いで、ジエタノールアミン120部を加え80℃で4時間反応後、エチレングリコールモノブエチルエーテル250部で希釈し、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.4溶液を得た。基体樹脂No.4は、アミン価63mgKOH/g、数平均分子量2,000であった。
【0085】
製造例20 硬化剤No.1の製造
反応容器中にイソホロンジイソシアネート222部及びメチルエチルケトンオキシム174部を加え70℃に昇温した。経時でサンプリングし、赤外線吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアネート基の吸収がなくなったことを確認し、エチレングリコールモノブチルエーテル44部を加えて、樹脂固形分90%の硬化剤No.1を得た。
【0086】
製造例21 硬化剤No.2の製造
反応容器中に、m−キシリレンジイソシアネート188部及びメチルイソブチル
ケトン40部を加え、50℃に昇温した。この中にメチルエチルケトキシム174部をゆっくり加えた後、60℃に昇温した。この温度を保ちながら、経時でサンプリングし、赤外線吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアネートの吸収がなくなったことを確認し、樹脂固形分が90%の硬化剤No.2を得た。
【0087】
製造例22 エマルションNo.1の製造
製造例16で得た樹脂固形分80%の基体樹脂No.1を87.5部(固形分70部)、製造例18で得た樹脂固形分90%の硬化剤33.3部(固形分30部)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル3部及び10%酢酸15部を混合し均一に撹拌した後、脱イオン水157.2部を強く撹拌しながら約15分かけて滴下し、固形分34%のカチオン電着塗料用のエマルションNo.1を得た。
製造例23〜26 エマルションNo.2〜No.5の製造
表1の配合内容とする以外は、製造例22と同様にして、固形分34%のカチオン電着塗料用のNo.2〜No.5を得た。
【0088】
【表2】

【0089】
カチオン電着塗料の製造
実施例1 カチオン電着塗料No.1の製造例
製造例22で得たエマルションNo.1を294部(固形分100部)に、製造例10で得た顔料分散ペーストNo.8を211.4部(固形分74.0部)及び脱イオン水364.6部を加えて、固形分20%のカチオン電着塗料No.1を得た。
実施例2〜15 カチオン電着塗料No.2〜No.15の製造例
実施例1と同様にして、下記表3に示す配合で、カチオン電着塗料No.2〜No.15を得た。
【0090】
【表3】

【0091】
比較例1〜7
実施例1と同様にして、下記表4に示す配合で、カチオン電着塗料No.16〜No.22を得た。
【0092】
【表4】

【0093】
試験板作成方法(1)
各カチオン電着塗料浴中に、ステンレス鋼板(SUS304 0.8mm×150mm×70mm)、又は冷延鋼板(化成処理なし 0.8mm×150mm×70mm)を浸漬し、該ステンレス鋼板を陰極として、乾燥膜厚20μmとなるように電着塗装を行った。
次いで、塗膜を有するステンレス鋼板を純水によってスプレー洗浄した。塗膜を有するステンレス鋼板を190℃の乾燥機に30分間入れて、加熱乾燥して試験板を作成した。
【0094】
試験板作成方法(2)
下記の工程によって、試験板を作成した。
工程1:各カチオン電着塗料浴中に、ステンレス鋼板(SUS304 0.8mm×150mm×70mm)、又は冷延鋼板(化成処理なし、0.8mm×150mm×70mm)を浸漬し、該ステンレス鋼板を陰極として、乾燥膜厚10μmとなるように電着塗装を行った。次いで、塗膜を有するステンレス鋼板を純水によってスプレー洗浄した。塗膜を有するステンレス鋼板を190℃の乾燥機に30分間入れて、加熱乾燥を行った。
工程2:28℃に調整した40質量%のイソプロピルアルコール水溶液に120秒間浸漬した。
工程3:該ステンレス鋼板を、再び、同様のカチオン電着塗料浴中に浸漬し、トータル乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装を行った。被塗物を引き上げて、純水によって30秒間スプレー水洗した。その後、190℃で30分間加熱乾燥して試験板を作成した。
【0095】
性能試験
実施例1〜20及び比較例1〜7で得たカチオン電着塗料No.1〜No.22を用いて、上記の試験板作成(1)又は試験板作成(2)に従って試験板を作成し、下記の試験方法による試験を行った結果を表5及び表6に示す。
【0096】
【表5】

【0097】
【表6】

【0098】
【表7】

【0099】
(注11)表面抵抗値:(注2)に記載の条件に従って測定した。
【0100】
(注12)均一被覆性:被塗物としてステンレス鋼板を用いた試験板の塗膜表面を、電子顕微鏡(50倍)にて観察した。
◎:塗膜表面にヘコミやワレなどの発生がなく良好
○:塗膜表面にわずかなヘコミが見られるが、製品としては問題なし
△:塗膜表面にヘコミやワレ及び肌荒れの少なくともいずれかがみられる
×:塗膜表面にヘコミやワレ及び肌荒れの少なくともいずれかが著しい。
【0101】
(注13)防食性:被塗物として冷延鋼板を用いた試験板を、JIS Z−2371に準ずる耐塩水噴霧試験を120時間行って、塗面上に発生した赤錆の面積から以下の基準で評価した。
◎:発錆面積0%
○:発錆面積1〜10%
△:発錆面積11〜50%
×:発錆面積51〜100%。
【0102】
(注14)耐酸性:被塗物としてステンレス鋼板を用いた試験板を、1モル/Lの硫酸溶液に80℃に保持しながら浸漬し、浸漬試験5時間後に取り出し直ちに上水で洗浄し室内に放置する。放置10分後に塗膜の付着性試験を行う。付着性は粘着テープを塗面に貼り付け密着させた後急速に剥がし残存する塗膜の面積により評価を行う。
を目視で評価した。
【0103】
◎:異常なし、剥離面積0%
○:剥離面積1〜10%
△:剥離面積11〜50%
×:剥離面積51〜100%
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のカチオン電着塗料は、導電性と防食性及び耐酸性を必要とし、かつ凹凸を有する工業用部品の塗装に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】固体電解質型燃料電池のモデル図である。
【図2】表面抵抗値の測定装置のモデル図である。
【符号の説明】
【0106】
1.無酸素銅電極板
2.カーボンペーパー(カーボン不織布、厚さ270μm)
3.塗装テストパネル(基材SUS304、塗装膜厚20μm、両面塗装)
4.微小電圧計
5.定電流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の基体樹脂(A)、ブロックポリイソシアネート化合物(B)、及び導電性粉末(c1)をオニウム塩型の顔料分散用樹脂(c2)を用いて分散してなる導電性顔料分散ペースト(C)を含むカチオン電着塗料組成物。
基体樹脂(A):
ジグリシジルエーテル(a1)と、レソルシノール、ハイドロキノン及びカテコールの中から選ばれる少なくとも1種のベンゼンジオール類(a2)とを反応させてなる下記式(1)で表されるベンゼンジエーテル構造を樹脂中に有する変性エポキシ樹脂に、アミノ基含有化合物(a3)を反応してなるアミノ基含有エポキシ樹脂を含有する
【化1】

式(1)
【請求項2】
導電性顔料分散ペースト(C)において、導電性粉末(c1)/ケッチェンブラック=2〜25(質量比)であることを特徴とする請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
請求項1又は2項に記載のカチオン電着塗料組成物を電着塗装することによって得られた塗装膜厚20μmにおける塗膜の表面抵抗値が1Ωcm以下である塗膜。
【請求項4】
請求項3に記載の塗膜で被覆してなる金属セパレーター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−256491(P2009−256491A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108194(P2008−108194)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】