説明

カットパイル布帛と柄出し加工法

【課題】肌触りがよく、パイル面に模様が刻設されたカットパイル布帛を得る。
【解決手段】輪郭に内接する内接円の直径Dが5mm以下の柄部14をパイル表面に描出する。柄部14の表面から基布11に到るパイル層厚み(s)を、柄部を囲む地部15の表面から基布に到るパイル層厚み(t)よりも少なくする。柄部のパイル繊維16の先端部21を地部のパイル繊維18の先端部(19)に比して曲折した形状とする。柄部のパイル繊維と地部のパイル繊維は同じパイル糸の繊維とする。パイル密度Mを900本/(25.4mm)2 以上にし、パイル密度とパイル糸の総繊度Dとの積(M×D)で示されるパイル/デシテックス換算密度ρを200000dtex/(25.4mm)2 以上にし、パイル層厚みtを0.7〜3.5mmにし、パイル層13を緻密且つ薄くし、パイル繊維の根元部22が基布11に直角に起立するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイル面に模様が立体的に刻設されており、主として椅子張地や車両内装材に使用されるカットパイル布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パイル面に模様を立体的に刻設する方法としては、パイル面に加熱エンボス金型を押圧して凹部を形成する方法(例えば、特許文献1参照)、凹部のパイル繊維を接着固定するために、ホットメルト樹脂を担持するエンボスロールをパイル面に当ててパイルを加熱押圧して凹部を形成する方法(例えば、特許文献2参照)、パイル面にレーザ光線を照射してパイルを溶融させて凹部を形成する方法(例えば、特許文献3参照)、パイル面に熱風を噴射して凹部を形成する方法(例えば、特許文献4参照)、凹部を着色するために、パイル面に超音波振動する捺染ロールを当てて着色された凹部を形成する方法(例えば、特許文献5参照)、パイル面に熱流体を噴射してパイルを押し倒して形成される凹部の谷底に、地組織の色彩を滲み出させて色分けされた凹部を形成する方法(例えば、特許文献6参照)、染料移行転写シートに載せたカットパイル布帛のパイル面に加熱エンボスロールを当て、染料が移行して着色された凹部を形成する方法(例えば、特許文献7参照)が公知である。
【0003】
色彩と溶解性の異なる2種類の繊維に成るパイル糸に成る2色混合パイル面に、その2種類の繊維の何れか一方の繊維に対する溶解剤を印捺し、その印捺部分を単一色にし、2色混合色と単一色に色分けされた図柄模様を描出するパイル異色繊維抜触法は公知である(例えば、特許文献8、9参照)。繊維膨潤剤と顔料の配合された捺染糊をパイル面に印捺し、その印捺箇所のパイルを膨潤収縮させると共に着色し、パイル面に凹凸着色図柄模様を描出するパイル収縮捺染法は公知である(例えば、特許文献10、11、12参照)。又、繊維溶解剤と染料の配合された捺染糊をパイル面に印捺して凹凸着色図柄模様を描出するパイル抜触捺染法は公知である(例えば、特許文献13参照)。
【0004】
基布の地織組織によってパイルを一定方向に傾斜させた所謂ヘタラシ・モケット(例えば、特許文献14参照)、一定方向に傾斜するようにパイルを撫で揃えるポリッシャー加工は公知である(例えば、特許文献15、16参照)。
【0005】
【特許文献1】特開昭59−173382号公報(特公平01−57192)
【特許文献2】特開昭53−114992号公報(特公昭59−38353)
【特許文献3】特開昭58−174676号公報(特公昭63−25108)
【特許文献4】特開昭57−143561号公報(特公昭62−07307)
【特許文献5】特開昭61−194285号公報(特公昭63−43511)
【特許文献6】特開昭61−296151号公報(特公平02−15649)
【特許文献7】特開昭56−107065号公報(特公昭62−15667)
【特許文献8】特開昭56−091084号公報(特公昭59−36037)
【特許文献9】特開昭61−186584号公報(特公昭63−61439)
【特許文献10】特開昭58−004888号公報(特公昭61−15198)
【特許文献11】特開昭61−70046号公報
【特許文献12】特開2000−289554号公報(特許第3401641号)
【特許文献13】特開昭58−191287号公報
【特許文献14】実開昭54−150565号公報(実公昭58−19188号)
【特許文献15】特開平07−252765号公報(特許第2748232号)
【特許文献16】特開平10−034782号公報(特許第3042834号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エンボス(例えば、特許文献1〜7参照)によって刻設された凹部では、パイルが融着または圧縮されていて固く、肌触りのよいカットパイル布帛は得られない。抜触(例えば、特許文献8〜13参照)によると、肌触りのよいカットパイル布帛は得られるものの、その扱う抜触剤(繊維溶解剤)によって抜触加工設備が損傷を受け、その排液処理も問題になる。パイルが一定方向に傾斜したヘタラシ・モケット(例えば、特許文献14〜16参照)では、パイルが根元から傾倒しているので、その傾斜している方向には滑り易く肌触りはよいものの、その逆方向には逆毛が立って滑り難く、チョークマークとかフインガーマークと言われる逆毛の跡がパイル表面に付き易く、パイルが根元から傾倒していることからしてクッション性を欠き、肌触りのよいカットパイル布帛は得られない。
【0007】
そこで、本発明は、ループパイル布帛のようにパイル表面が滑らかで肌触りがよく、又、加工設備の損傷や排液処理による公害問題を伴うことなくパイル表面に模様が立体的に刻設されたカットパイル布帛を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るカットパイル布帛は、(イ) パイル表面12がカットパイルによって構成されており、パイル密度(M)が900本/(25.4mm)2 以上であり、パイル密度とパイル糸の総繊度D(dtex)との積(M×D)で示されるパイル/デシテックス換算密度ρが200000dtex/(25.4mm)2 以上であり、
(ロ) パイルを係止する基布11からパイル表面12に到るパイル繊維長qが0.7〜3.5mmであり、
(ハ) パイル繊維の先端17からの長さkがパイル繊維長qの45%以下であって0.2〜1.0mmの範囲内のパイル先端部21と、そのパイル先端部21から基布11に至るパイル根元部22の間でパイル繊維16が曲がっており、
(ニ) 基布11に対してパイル先端部21がパイル根元部22に比して大きく傾斜しており、
(ホ) 基布11に対するパイル根元部22の交叉角度θと、基布11に対するパイル先端部21の傾斜角度αとの傾斜角度差βが30度以上であることを第1の特徴とする。
【0009】
本発明に係るカットパイル布帛の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、(ヘ) 基布11に対してパイル先端部21がパイル根元部22に比して大きく傾斜しているパイル繊維16が、パイル表面12の一部のパイル繊維であり、(ト) そのパイル根元部22に比して大きく傾斜したパイル先端部21の有無によってパイル表面12に図柄模様が描出されており、(チ) その柄部14のパイル繊維16と、その柄部14を囲む地部15のパイル繊維18が同じパイル糸の繊維である点にある。
【0010】
本発明に係るカットパイル布帛の第3の特徴は、上記第2の特徴に加えて、(リ) 柄部14の表面から基布11に到るパイル層厚みsが、柄部を囲む地部15の表面12から基布11に到るパイル層厚みtよりも少なく、(ヌ) 柄部14のパイル繊維16の先端部21が地部15のパイル繊維18の先端部(19)に比して曲折している点にある。
【0011】
本発明に係るカットパイル布帛の第4の特徴は、上記第2および第3の何れかの特徴に加えて、柄部14のパイル層厚みsと地部15のパイル層厚みtとの差が0.7mm以下である点にある。
【0012】
本発明に係るカットパイル布帛の第5の特徴は、上記第1、第2、第3および第4の何れかの特徴に加えて、パイル糸が色の異なる複数種類の繊維によって構成されている点にある。
【0013】
本発明に係るカットパイル布帛の柄出し加工法は、
(カ) パイル表面12を単繊維繊度が5dtex以下の熱可塑性合成繊維によるカットパイルによって構成し、
(ヨ) そのカットパイルのパイル密度Mを900本/(25.4mm)2 以上にし、
(タ) パイル密度とパイル糸の総繊度D(dtex)との積(M×D)で示されるパイル/デシテックス換算密度ρを200000dtex/(25.4mm)2 以上にし、
(レ) パイルを係止する基布11からパイル表面12に到るパイル層13のパイル層厚み(t)を0.7〜3.5mmにしてカットパイル布帛を構成し、
(ソ) 加熱エンボスロール23の凸部25の先端26とバックアップロール27の間の隙間の寸法c(クリアランス)を、パイル層厚みtと基布11の厚みを加えたカットパイル布帛の総厚みeよりも0.3〜1.2mm狭く設定し、
(ツ) 加熱エンボスロール23の凹部底面24からパイル表面12を離し、パイル層厚みtの45%以下となる範囲内において加熱エンボスロール23の凸部の先端26をパイル層13に0.3〜1.2mm食い込ませて、
(ネ) その加熱エンボスロール23とバックアップロール27の間にカットパイル布帛を通すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
カットパイルは、パイル繊維長(q)が長ければ長いほど、又、パイル密度(M)が粗ければ粗いほど倒れ易く、又、倒れたままセットされ易い。
その点、本発明では、パイル層厚み(t)が3.5mm以下であり、パイル/デシテックス換算密度(ρ)が200000dtex/(25.4mm)2 以上となっているので、パイル繊維が、その根元20から押し倒されると言うことは起き難く、仮に、パイル表面12が押圧されて根元20に到るパイル全体が押し倒されたとしても、その根元20が押し倒された状態でそのまま固定されると言うことは起き難い。
【0015】
ループパイル布帛(図4参照)のパイル表面には、カットパイル布帛のパイル表面に見られる所謂フィンガーマークやチョークマークは発生しない。
本発明のカットパイル布帛のパイル先端部21は、加熱エンボスロール23によって押圧されて傾斜し、そのまま熱セットされるので、恰も、熱セットしてカットしたループパイル29(図4−a 参照)の先端のパイル繊維30(図4−b参照)のように、パイル繊維16の側面がパイル表面12に露になる。
【0016】
そのように、カットパイル布帛のパイル先端部21の傾倒した状態では、パイル繊維の側面がループパイルの先端のようにパイル表面12に露になる。
その結果、カットパイル布帛のパイル表面12がループパイル布帛のパイル表面のように光沢を帯び、又、そのカットパイル布帛のパイル表面12が傾斜したパイル繊維の側面によって構成されることになるので、ループパイル布帛のパイル表面のように滑り易く、滑らかで肌触りのよく、カットパイルの傾倒する方向の相違による光沢差によるフィンガーマークやチョークマークがパイル表面に発生し難いカットパイル布帛が得られる。
【0017】
そして、パイル繊維が傾倒しているとしても、パイル繊維が根元から傾倒している訳ではなく、その傾倒している先端17からの長さkがパイル繊維長qの45%以下であって0.2〜1.0mmの範囲内のパイル先端部21だけであり、そのパイル繊維長qの55%以上を占めるパイル根元部22が、一般のカットパイル布帛のカットパイルのように基布11から略垂直に起立しているので、パイル繊維が根元から傾倒したヘタラシ・モケット(例えば、前記特許文献14参照)やポリッシャー加工カットパイル布帛(例えば、前記特許文献15、16参照)のようにパイル布帛としてのクッション性が損なわれることはない。
【0018】
パイル繊維の断面が現われるカットパイル布帛のパイル表面と、パイル繊維の側面が現われるループパイル布帛のパイル表面の間には、パイル繊維の断面と側面との光沢差に応じた光沢差が認められるように、パイル表面12の一部のパイル繊維のパイル先端部21をパイル根元部22に比して大きく傾斜させるときは、その傾斜したパイル先端部21の有無による光沢の相違によってパイル表面12に図柄模様が描出される。
即ち、パイル繊維16・18の長短差や色彩の相違によってではなく、パイル繊維16・18の先端部分17・19の形状の差異に起因する光沢差によって、そのパイル繊維16の先端部分17が曲がった柄部14では、パイル繊維18の先端部分19が真っ直ぐになった地部15よりも明るく目に映り、その柄部14による模様がパイル表面12に描出される。
【0019】
その場合、カットパイルカーペットのパイル層に混在する遊び毛(パイル糸の切断された断面に生じる極短い繊維破片)や敷き込んで使用中のパイル層に入り込んだ塵埃が容易には除去し得ないように、パイル繊維16の曲折した先端部分17を真っ直ぐにすることは容易には出来ない。特に、パイル層厚み(t)が3.5mm以下であり、パイル/デシテックス換算密度(ρ)が200000dtex/(25.4mm)2 以上の薄く緻密なパイル層13では、柄部のパイル繊維の先端部分17が真っ直ぐになることも、又、先端での直径が5mm以下の尖端形物品に押圧されない限り地部のパイル繊維の先端部分19が折れ曲がることもない。
パイル根元部22に比して大きく傾斜したパイル先端部21の描出する柄部14は、その輪郭に内接する内接円の直径Dが5mm以下となる大きさにするとよい。そのように柄部14を、その輪郭が直径5mm以下の内接円が内接する程度に細かくすると、その柄部14の表面が擦られてもパイル繊維16の先端部分17が引き伸ばされ真っ直ぐになることはない。このため、本発明のカットパイル布帛の椅子張地等としての使用状態においてパイル表面12が擦られたり押圧されても、柄部14と地部15の光沢差は消失し難く、パイル表面12に描出された柄部14による模様が消失することはない。
【0020】
そのように、柄部14の輪郭が直径5mm以下の内接円が内接する程度に細かければ、その柄部14の表面が擦られてもパイル繊維16の先端部分17が引き伸ばされ真っ直ぐになることなく、柄部14による模様が消失し難くなるので、その輪郭に内接する内接円の直径Dが1.5〜2.5mmになる程度に細く柄部14を設定することが望ましい。
【0021】
グラビア印刷画面が無地一色であっても赤と黄と青の三原色の網点によって構成されているように、色の異なる複数種類の繊維によって構成されたパイル糸に成るパイル表面は無地一色になる。
しかし、その色の異なる複数種類の繊維によって構成されたパイル糸の側面では、その色の異なる複数種類の繊維が引き揃えられていて縞状に並んでおり、その側面が光沢を帯びていることもあって、無地一色には看取されず多彩色に目に映る。
従って、パイル糸を色の異なる複数種類の繊維によって構成すると、地部15では濃色無地一色になるが、柄部14では数色の繊維が縞状に並んだ光沢のある多彩色となる。
その結果、柄部14と地部15との光沢差に加え、濃色無地一色の地部15の中に多彩な柄部14が点在して彩色豊かなカットパイル布帛が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
パイル層の嵩比重は、カットパイル布帛の単位面積から刈り取ったパイル繊維の質量とパイル層の厚みによって算定されるが、パイル層厚みtが3.5mm以下のカットパイル布帛ではパイル繊維を刈り取ることは極めて困難なことから、本発明では、パイル密度(M)とパイル糸の総繊度(D)(dtex)との積(M×D)で示されるパイル/デシテックス換算密度(ρ)をパイル層の嵩比重に代用している。
ここに、パイル/デシテックス換算密度(ρ)とは、カットパイル布帛の単位面積(25.4mm)2 に含まれる全てのパイル繊維を太い一本の繊維に纏めた場合の当該一本の繊維の繊度、即ち、カットパイル布帛の単位面積内(25.4mm)2 に植設されている仮想の太い一本のパイル繊維の繊度を意味する。
【0023】
パイル繊維には、捲縮率が10%以下で略無捲縮の熱可塑性合成繊維、好ましくは艶消剤の含有量が0.7重量%以下のブライト繊維を用い、加熱エンボスロール23の凸部25に触れて柄部のパイル繊維16の先端部21が曲折変形したままセットされるようにする。
パイル繊維には、略無捲縮であっても加熱されて捲縮を顕現する潜在捲縮性繊維を使用することが出来る。
そのような潜在捲縮性繊維では、加熱エンボスロール23の凸部25に触れて曲折変形すると同時に捲縮が顕現し、彎曲変形したままセットされることになる。
【0024】
柄部14のパイル繊維16の先端部21を、地部15のパイル繊維18の先端部(19)に比して曲折した形状にするためには、パイル糸を単繊維繊度が5dtex以下の熱可塑性合成繊維によって構成し、カットパイル布帛を加熱エンボスロール23とバックアップロール27の間に通すとよい。
そのエンボスロールの凸部先端26とバックアップロール27の間の隙間(c)の寸法(クリアランス)は、パイル層13の厚み(t)と基布11の厚みを加えたカットパイル布帛の総厚み(e)よりも0.3〜1.2mm、好ましくは、0.4〜0.7mm(概して0.5mm前後)に狭くし、エンボスロールの凸部先端26のパイル層13への食込深さ(d)が0.3〜1.2mm(概して0.5mm前後)になるようにする。
そのエンボスロールの凸部25の高さは、エンボスロールの凹部底面24とカットパイル布帛のパイル表面12が触れ合わず、それらの間に0.5mm以上の隙間(g)を設けることが出来るように設定される。
【0025】
そうすると、パイル表面12のエンボスロールの凸部25に触れて押圧される部分では、パイル繊維16の先端部21が押し倒されて曲折・彎曲したまま熱セットされる。
その場合、先端17から根元20に到るパイル繊維(16)全体が押圧されて傾倒せず、根元部22が隣り合うパイル繊維に確り支えられて基布11から直立した状態で保持され、エンボスロールの凸部25に触れる先端部21だけが押し倒されるようにするためにも、パイル層厚み(t)を2mm以下とし、パイル/デシテックス換算密度(ρ)を300000dtex/(25.4mm)2 以上にしてパイル層13の繊維密度を緻密にし、パイルが押し倒れたとしても、その根元部22までもが押し倒された状態でそのままセットされることがないようにする。
エンボスロール23の加熱温度は、パイル繊維の熱溶融温度以下にする。
【0026】
エンボスロールの凸部先端26のパイル層13への食込深さ(d)とエンボスロール23の加熱温度は、パイル根元部22が凸部先端26に押し倒されることがなく60°以上、好ましくは70°以上の交叉角度(θ)をもって基布11から起立し、パイル根元部22の長さ(h)がパイル繊維長(q) の70%以上を占め、基布11に対するパイル先端部21の傾斜角度(α)が40°以下、好ましくは30°以下になるように設定される。
パイル繊維16のパイル先端部21とパイル根元部22の境目となる屈曲箇所28は、なだらかに彎曲していてもよい。
パイル先端部21の傾斜角度(α)とパイル根元部22の基布との交叉角度(θ)は、1個のカットパイルを構成する多数のパイル繊維の傾斜角度および交叉角度の平均値となるカットパイルの軸芯の傾斜角度および交叉角度として測定される。
【0027】
エンボスロール23に通したカットパイル布帛のパイル表面(12)にはシヤーリングを施し、地部15のパイル繊維18の先端部(19)を刈り揃え、先端19から基布11に到る地部15のパイル繊維18のパイル繊維長(p)を、先端17から基布11に到る柄部14のパイル繊維長(q)以下にするとよい。
【0028】
柄部のパイル層厚み(s)と地部のパイル層厚み(t)との差が0.5mm以下になるように地部15のパイル繊維18の先端部(19)を刈り揃えると、パイル繊維の断面が現われる地部15では光が反射し難く濃色を帯び、パイル繊維の側面が現われる柄部14と地部15との光沢差が際立って、柄部14による模様が一層明瞭になる。
そのように、地部15のパイル繊維18の先端部(19)が刈り揃えられ、柄部のパイル層厚み(s)と地部のパイル層厚み(t)との差が0.5mm以下になり、先端19から基布11に到る地部のパイル繊維長(p)が、先端17から基布11に到る柄部のパイル繊維長(q)以下になると、パイル表面12が押圧されても、地部15のパイル繊維18に比して長い柄部14のパイル繊維16の先端部21がパイル層内部へと押し込まれるので、その柄部14による模様が消失しない。
【0029】
裏面にバッキング剤(裏打ち用接着剤)を塗布してパイルを基布11に接着し固定する裏打加工は、地部15のパイル繊維18の先端19を刈り揃えるシヤーリング工程の前工程において行う。
【0030】
エンボスロール23に凸部25を緻密に突設するときは、パイル先端部21が曲折した柄部14が隣り合い、パイル表面全体がパイル先端部21が曲折したパイル繊維16で覆われることになる。
凸部25の突設されていない円柱状の加熱ロールによってパイル表面12を撫でて全てのパイル繊維のパイル先端部21を曲折させることも出来る。
しかし、パイル層13の全てのパイル繊維のパイル先端部21を曲折させるためには、凸部25が緻密に突設されたエンボスロール23を使用することが望ましい。
それは、全てのパイル繊維のパイル先端部21が曲折するとしても、凸部25が緻密に突設されたエンボスロール23を使用する場合には、隣り合う柄部14と柄部14の間の僅かな隙間から、曲折しないパイル繊維18の先端19が突出し、パイル表面12に僅かな起伏が生じ、又、パイル先端部21の側面が現われて光沢のパイル表面に光沢のないパイル繊維の断面が霜降模様状に細かく現われてパイル表面の色彩が深みを帯び、感触の柔らかいカットパイル布帛が得られるからである。
【実施例】
【0031】
35/2番手のレーヨン紡績糸を地縦糸と地緯糸に用い、単繊維繊度1.2dtexのポリエステル繊維Aと単繊維繊度2.4dtexのポリエステル繊維Bを、前者75%・後者25%の比率で混繊した総繊度336dtex・繊維総本数252本のポリエステルマルチフィラメント糸をパイル糸に用いた経糸密度127.1本/25.4mm、緯糸密度46.2本/25.4mm、パイル密度1469本/(25.4mm)2 、パイル繊維密度370188本/(25.4mm)2 、パイル/デシテックス換算密度490499dtex/(25.4mm)2 のパイル繊維長(q) をシヤーリングに通して変えた6種類のモケット(実施例1〜6)を、バックアップロール27と凸部25の先端26の間のクリアランス(c)を1.3〜1.5mmに設定したエンボスロール23とバックアップロール27の間に、エンボスロール23の表面温度を変えて通し、パイル表面に直径2mmの内接円に輪郭が触れる大きさの柄部14をパイル表面12に描出し、その裏面にバッキング剤を塗布して裏打ち加工して仕上げた。
【0032】
6種類の各モケットの柄部14は地部15よりも概して0.3〜0.4mm程度窪んでいたが、柄部14のパイル繊維16の先端17は溶融しておらず、又、隣り合うパイル繊維とパイル繊維(16・16)の間も融着し合っておらず、柄部14に触れて地部15よりも粗硬に感じることはなかった。
6種類の各モケットに対するエンボスロール23の加熱温度、および、6種類の各モケットの総厚み(e) 、柄部14パイル層厚み(s) 、パイル先端部21の長さ(k)、パイル根元部22の長さ(h) 、パイル根元部22の傾斜角度(θ) 、パイル先端部21の傾斜角度(α)、パイル根元部22とパイル先端部21の傾斜角度の差(β)は、それぞれ[表1]に示す通りである。
【0033】
【表1】

【0034】
35/2番手のレーヨン紡績糸を地縦糸と地緯糸に用い、単繊維繊度1.2dtexのポリエステル繊維Aと単繊維繊度2.4dtexのポリエステル繊維Bを、前者75%・後者25%の比率で混繊した総繊度336dtex・繊維総本数252本のポリエステルマルチフィラメント糸をパイル糸に用い、経糸密度と緯糸密度とパイル密度とパイル繊維密度とパイル/デシテックス換算密度を変えた3種類のモケット(実施例7〜13)を、シヤーリングに通してモケットの総厚み(e) を1.9mmに揃え、バックアップロール27と凸部25の先端26の間のクリアランス(c)を1.5mmに設定したエンボスロール23とバックアップロール27の間に、エンボスロール23の表面温度を変えて通し、パイル表面に直径2mmの内接円に輪郭が触れる大きさの柄部14をパイル表面12に描出し、その裏面にバッキング剤を塗布して裏打ち加工して仕上げた。
【0035】
3種類の各モケットの経糸密度と緯糸密度とパイル密度とパイル繊維密度とパイル/デシテックス換算密度、各モケットに対するエンボスロール23の加熱温度は、それぞれ[表2]に示す通りである。
得られた各モケットを椅子張り地に使用し、柄部14の耐柄崩れ度合いを調べたところ、加熱温度の高いエンボスロール23に通したモケットは、高い耐柄崩れ性を示した。
尚、[表2]の耐柄崩れの欄において、○印は、柄部14に柄崩れが殆ど見受けられなかったことを示し、△印は、柄部14に柄崩れが僅かに見受けられたことを示す。
【0036】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るカットパイル布帛の断面側面図である。
【図2】本発明に係るカットパイル布帛のエンボスロール通過時の断面側面図である。
【図3】本発明に係るカットパイル布帛の斜視図であり、一部を円で囲んで拡大して図示している。
【図4】ループパイル布帛の断面側面図である。
【符号の説明】
【0038】
11:基布
12:パイル表面
13:パイル層
14:柄部
15:地部
16:柄部のパイル繊維
17:先端
18:地部のパイル繊維
19:先端
20:根元
21:パイル先端部
22:パイル根元部
23:エンボスロール
24:凹部底面
25:凸部
26:凸部先端
27:バックアップロール
28:屈曲箇所
29:ループパイル
30:パイル繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ) パイル表面(12)がカットパイルによって構成されており、パイル密度(M)が900本/(25.4mm)2 以上であり、パイル密度(M)とパイル糸の総繊度(D)(dtex)との積(M×D)で示されるパイル/デシテックス換算密度(ρ)が200000dtex/(25.4mm)2 以上であり、
(ロ) パイルを係止する基布(11)からパイル表面(12)に到るパイル繊維長(q) が0.7〜3.5mmであり、
(ハ) パイル繊維の先端(17)からの長さ(k)がパイル繊維長(q) の45%以下であって0.2〜1.0mmの範囲内のパイル先端部(21)と、そのパイル先端部(21)から基布(11)に至るパイル根元部(22)の間でパイル繊維(16)が曲がっており、
(ニ) 基布(11)に対してパイル先端部(21)がパイル根元部(22)に比して大きく傾斜しており、
(ホ) 基布に対するパイル根元部(22)の交叉角度(θ)と、基布に対するパイル先端部(21)の傾斜角度(α)との傾斜角度差(β)が30度以上であるカットパイル布帛。
【請求項2】
(ヘ) 基布(11)に対してパイル先端部(21)がパイル根元部(22)に比して大きく傾斜しているパイル繊維(16)が、パイル表面(12)の一部のパイル繊維であり、
(ト) そのパイル根元部(22)に比して大きく傾斜したパイル先端部(21)の有無によってパイル表面(12)に図柄模様が描出されており、
(チ) その柄部(14)のパイル繊維(16)と、その柄部(14)を囲む地部(15)のパイル繊維(18)が同じパイル糸の繊維である前掲請求項1に記載のカットパイル布帛。
【請求項3】
(リ) 柄部(14)の表面から基布(11)に到るパイル層厚み(s)が、柄部を囲む地部(15)の表面(12)から基布(11)に到るパイル層厚み(t)よりも少なく、
(ヌ) 柄部(14)のパイル繊維(16)の先端部(21)が地部(15)のパイル繊維(18)の先端部分(19)に比して曲折している前掲請求項2に記載のカットパイル布帛。
【請求項4】
柄部(14)のパイル層厚み(s)と地部(15)のパイル層厚み(t)との差が0.7mm以下である前掲請求項2と3の何れかに記載のカットパイル布帛。
【請求項5】
パイル糸が色の異なる複数種類の繊維によって構成されている前掲請求項1と2と3と4の何れかに記載のカットパイル布帛。
【請求項6】
(カ) パイル表面(12)を単繊維繊度が5dtex以下の熱可塑性合成繊維によるカットパイルによって構成し、
(ヨ) そのカットパイルのパイル密度(M)を900本/(25.4mm)2 以上にし、
(タ) パイル密度(M)とパイル糸の総繊度(D)(dtex)との積(M×D)で示されるパイル/デシテックス換算密度(ρ)を200000dtex/(25.4mm)2 以上にし、
(レ) パイルを係止する基布(11)からパイル表面(12)に到るパイル層(13)のパイル層厚み(t)を0.7〜3.5mmにしてカットパイル布帛を構成し、
(ソ) 加熱エンボスロール(23)の凸部(25)の先端(26)とバックアップロール(27)の間の隙間の寸法(c;クリアランス)を、パイル層厚み(t)と基布(11)の厚みを加えたカットパイル布帛の総厚み(e)よりも0.3〜1.2mm狭く設定し、
(ツ) 加熱エンボスロール(23)の凹部底面(24)からパイル表面(12)を離し、パイル層厚み(t)の45%以下となる範囲内において加熱エンボスロールの凸部の先端(26)をパイル層13に0.3〜1.2mm食い込ませて、
(ネ) その加熱エンボスロール(23)とバックアップロール(27)の間にカットパイル布帛を通すことを特徴とするカットパイル布帛の柄出し加工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−214822(P2008−214822A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56679(P2007−56679)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物セルコン (104)
【Fターム(参考)】