説明

カバー構造

【課題】 フロントフォークの上方側部たる摺動部を泥水や飛び石の被害から護るについて、製品コストの上昇化を回避して外観を良くし得るようにする。
【解決手段】 車輪側チューブ2におけるヘッド端部2aから突出する車体側チューブ1における突出部の上方側部に連結されるアッパーブラケット3および下方側部に連結されるアンダーブラケット4を有し、ヘッド端部2aとこのヘッド端部2aの近傍部および突出部を外方から覆うカバーを有し、このカバーがアッパーブラケット3の下端から垂下されながら係合手段の配在下にアンダーブラケット4側に係合されて径方向の移動および車体側チューブ1の軸芯線を中心にする回動が阻止されてなるカバー構造において、アッパーブラケット3とアンダーブラケット4との間に配設される支持部材7を有し、この支持部材7の上端とアッパーブラケット3の下端との間にカバーにおける上端部が挟持されてこのカバーにおける軸線方向の移動が阻止されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カバー構造に関し、特に、二輪車の前輪側に架装される油圧緩衝器たるフロントフォークにおけるカバー構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車の前輪側に架装される油圧緩衝器たるフロントフォークは、走行中の二輪車における前輪に入力される路面振動をその伸縮作動で吸収するが、特に、旧来アメリカンタイプと称されていたクルーザタイプの二輪車にあっては、オフロードタイプの二輪車と同様に、オンロードタイプの二輪車と比較してフロントフォークが長くなり、したがって、フロントフォークにおける言わば摺動部が長くなって、その分この摺動部が泥水や飛び石の被害を受け易くなる。
【0003】
そこで、このクルーザタイプの二輪車におけるフロントフォークについては、摺動部が泥水や飛び石の被害を受けないように、オフロードタイプの二輪車におけるゴムブーツに代えて、また、装飾することも兼ねて、フロントフォークにおける摺動部を筒状に形成の金属製のカバーで覆うとする提案がある。
【0004】
すなわち、たとえば、特許文献1には、正立型のフロントフォークを構成する車輪側チューブにおけるヘッド端部とこのヘッド端部の下方近傍部およびこのヘッド端部から突出する車体側チューブにおける突出部を覆うカバーを有するカバー構造についての提案が開示されている。
【0005】
そして、この特許文献1に開示のカバー構造におけるカバーは、ほぼ截頭円錐筒状に形成されて主に車体側チューブにおける突出部やこの突出部に連結されるアンダーブラケットを内方に臨在させる上方カバー体と、ほぼ筒状に形成されて主に車輪側チューブにおけるヘッド端部やこのヘッド端部の近傍部を内方に臨在させる下方カバー体との組み合わせからなる。
【0006】
そしてまた、このカバー構造にあって、上方カバー体は、車体側チューブにおける突出部に連結されるブリッジ機構を構成するアッパーブラケットと、このアッパーブラケットと共にブリッジ機構を構成するアンダーブラケットとの間に挟持されるように配在され、下方カバー体は、アンダーブラケットの下端に一体的に吊持される。
【0007】
このとき、上方カバー体は、アンダーブラケットを内方に臨在させる下端側部の内周に環状に形成のサポートを溶接で固着させ、このサポートがアンダーブラケット側に担持されながら係合し、この上方カバー体における車体側チューブの軸線方向に沿う上下方向の移動と車体側チューブを横切る方向となる径方向の移動および車体側チューブにおける軸芯線を中心にする回動が阻止される。
【0008】
それゆえ、この特許文献1に開示のカバー構造にあっては、二輪車の走行でフロントフォークが伸縮作動するときにも、アッパーブラケットとアンダーブラケットとの間に挟持されるように配在される上方カバー体とこの上方カバー体の言わば下方に配在される下方カバー体が協働して所定のカバー機能を発揮し、フロントフォークにおける摺動部を泥水や飛び石の被害から護る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3932219号公報(特許請求の範囲 請求項1,明細書中の段落0011から同0013,図1,図2,図3参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、上方カバー体と下方カバー体とからなるカバーが所定のカバー機能を発揮して、フロントフォークにおける摺動部を泥水や飛び石の被害から護る点で、基本的に問題がある訳ではないが、その実施化にあって、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0011】
すなわち、上記した提案のカバー構造にあって、下方カバー体をアンダーブラケットの下端に一体的に吊持させるについては、断面をアングル状にする環状に形成のホルダが利用される。
【0012】
このとき、ホルダは、アンダーブラケットの下端に隣接される平座金状に形成のフランジ部と、このフランジ部の外周端から下方に垂下されて下方カバー体の上端部の内周に隣接される筒状に形成の基部とを有してなる。
【0013】
そして、このホルダにあっては、あらかじめフランジ部の裏面側にナットが溶接されるが、このホルダにおける基部が下方カバー体の上端部の内周にスポット溶接される。
【0014】
それゆえ、上記したカバー構造にあっては、アンダーブラケットを貫通するボルトがホルダのフランジ部に連設のナットに螺合することで、下方カバー体がアンダーブラケットの下端に吊持される。
【0015】
しかし、ホルダにおける筒状に形成の基部が下方カバー体の上端部の内周にスポット溶接されるから、このスポット溶接の跡たる凹みが下方カバー体の上端部の外周に露呈する。
【0016】
そして、この凹みは、装飾も考慮するカバー構造において、外観を悪くするので、爾後の後処理たる研磨作業で消滅するのが必須になり、そのため、このカバー構造を具現化するカバーにおける製品コストの上昇化を避けられなくする危惧がある。
【0017】
この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、フロントフォークにおける摺動部を泥水や飛び石の被害から護るカバーにおける製品コストの上昇化を回避しながら外観を良くし、その汎用性の向上を期待するのに最適となるカバー構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記した目的を達成するために、この発明によるカバー構造の構成を、基本的には、車輪側チューブにおけるヘッド端部から突出する車体側チューブにおける突出部の上方側部に連結されるアッパーブラケットおよび下方側部に連結されるアンダーブラケットを有し、上記のヘッド端部とこのヘッド端部の近傍部および上記の突出部を外方から覆う筒状に形成のカバーを有し、このカバーが上記のアッパーブラケットの下端から垂下される上方カバー体と、上記のアンダーブラケットの下端に吊持される下方カバー体とを有してなるカバー構造において、上記の下方カバー体が筒状に形成されながら上記のアンダーブラケットの下端に隣接する上端フランジ部を有し、この上端フランジ部の裏面に隣接されるホルダが平座金状に形成されながら上記のアンダーブラケットを貫通するボルトの螺合を許容するナットを連設し、このナットを連設した上記のホルダが上記の上端フランジ部の裏面に連設され、上記のアンダーブラケットを貫通するボルトが上記の上端フランジ部を貫通して上記のナットに螺合されてなるとする。
【発明の効果】
【0019】
それゆえ、この発明によれば、車輪側チューブにおけるヘッド端部とこのヘッド端部の近傍部およびこのヘッド端部から突出する車体側チューブの突出部を外方から覆う筒状に形成の下方カバー体がアンダーブラケットの下端に吊持されるのにあって、アンダーブラケットを貫通するボルトの螺合を許容するナットが下方カバー体における上端フランジ部の裏面に連設される平座金状に形成のホルダに連設されてなるから、下方カバー体の上端部が溶接されることがなく、したがって、下方カバー体の上端部に溶接跡を露呈させずして溶接跡を消滅する作業を不要にし、部品コストの上昇化を回避できる。
【0020】
そして、この発明にあっては、ホルダが平座金状に形成されるから、このホルダにナットを溶接する作業が容易になる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明によるカバー構造の一実施形態となるフロントフォークの上端側部を部分的に破断して示す正面図である。
【図2】図1中のX1‐X1線位置から見る横断面図である。
【図3】図1中のX2‐X2線位置から見る横断面図である。
【図4】この発明によるカバー構造の他の実施形態となるフロントフォークの要部を拡大して示す部分断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、図示するところでは、この発明によるカバー構造がフロントフォークにおける上端側部に具現化されてなる。
【0023】
このとき、フロントフォークは、図示しないが、車輪側チューブと車体側チューブとをテレスコピック型に有して伸縮可能とされ、二輪車の前輪側に架装されて下端部で懸架する前輪に入力される路面振動をその伸縮作動で吸収する油圧緩衝器とされる。
【0024】
そして、このフロントフォークは、二輪車の前輪側に架装されるのにあって、同じく図示しないが、左右の二本とされて上端部がブリッジ機構で一体化されて一対とされ、前輪を挟むようになる二本の下端部が前輪の車軸を連結させて前輪を懸架する。
【0025】
ちなみに、ブリッジ機構は、詳しくは図示しないが、図1に示すように、フロントフォークにおける上端側部を構成する車体側チューブ1における突出部(符示せず)、つまり、車輪側チューブ2の上端部たるヘッド端部2aから上方に向けて突出する車体側チューブ1における突出部に連結される。
【0026】
すなわち、図示するところにあって、ブリッジ機構は、車体側チューブ1における突出部の上方側部に連結されるアッパーブラケット3と、上記の突出部における下方側部に連結されるアンダーブラケット4とを有してなり、それぞれが両端部に形成の取り付け孔(図示せず)に車体側チューブ1における突出部を挿通させて一体的に把持する。
【0027】
そして、同じく図示しないが、このブリッジ機構は、アッパーブラケット3とアンダーブラケット4とを一体的に連結する一本のステアリングシャフトを両者の中央に有してなり、このステアリングシャフトが二輪車における車体の先端部を構成するヘッドパイプ内に回動可能に導通され、これによって、一対のフロントフォークが二輪車の前輪側で前輪を挟むようにして左右方向に転舵可能とされる。
【0028】
ちなみに、フロントフォークにおいて、上記のブリッジ機構が配設される部位は、フロントフォークにおけるいわゆる摺動部を構成しないが、この部位も、泥水や飛び石による被害を受けることがあるので、この発明に言うカバーで覆われる部位とされる。
【0029】
一方、図示するフロントフォークは、小径のインナーチューブを車体側チューブ1にすると共に、大径のアウターチューブを車輪側チューブ2にする正立型に設定されている。
【0030】
ちなみに、一般に、フロントフォークとしては、上記した正立型と逆の構成となる倒立型もあるが、この発明によるカバー構造の構成を鑑みると、倒立型に設定のものに具現化されても良く、その場合には、装飾効果を向上できる。
【0031】
ところで、この発明によるカバー構造は、外観上では、アッパーブラケット3に垂下されるように配設されて、車輪側チューブ2におけるヘッド端部2aとこのヘッド端部2aの下方近傍部およびこのヘッド端部2aから上方に向けて突出する車体側チューブ1における突出部を覆う筒状に形成のカバー(符示せず)を有してなる。
【0032】
このとき、カバーの長さ、すなわち、図中で上下方向となる軸線方向の長さは、フロントフォークが最伸長状態になるときにも、下端部が車輪側チューブ2におけるヘッド端部2aを覆う長さを有するように設定される。
【0033】
ところで、この発明によるカバー構造にあって、カバーは、金属製の上方カバー体5と下方カバー体6とを有してなり、上方カバー体5は、ほぼ截頭円錐筒状に形成され、下方カバー体6は、ほぼ筒状に形成される。
【0034】
なお、図示するところにあって、上方カバー体5がほぼ截頭円錐筒状に形成されるのは、上端の径をアッパーブラケット3におけるいわゆる外径に相応させる一方で、下端部が下方カバー体6の上端部を内包に臨在させるようになるのを意匠上配慮した結果である。
【0035】
したがって、上方カバー体5が下端部の内方に下方カバー体6の上端部を臨在させ得る限りには、図示する形状以外の形状に形成されても良いことはもちろんであり、このことに関しては、下方カバー体6においても同様であって、内方に車輪側チューブ2におけるヘッド端部2aを臨在させ得る限りには、図示する形状以外の形状に形成されても良い。
【0036】
そして、上方カバー体5は、主に、内方に車体側チューブ1における突出部、すなわち、アッパーブラケット3とアンダーブラケット4との間となる突出部およびアンダーブラケット4とその下方近傍部を内方に臨在させ、このことから、上方カバー体5は、下端側部(符示せず)にアンダーブラケット4との干渉を回避する切り落し部たる干渉回避部(符示せず)を有してなる。
【0037】
それに対して、下方カバー体6は、車輪側チューブ2におけるヘッド端部2aと、このヘッド端部2aから突出する車体側チューブ1における突出部とを内方に臨在させ、このことから、上記した干渉回避部は有せず、筒状のままに形成される。
【0038】
少し説明すると、上方カバー体5は、車体側チューブ1における突出部に連結されるアッパーブラケット3の下端から垂下されて内方に上記の突出部を臨在させると共に、同じくこの突出部に連結されるアンダーブラケット4を下端側部の内方に臨在させる。
【0039】
そして、この上方カバー体5は、上端に内方に向かう折り曲げ部からなる上端フランジ部5aを有すると共に、この上端フランジ部5aがアッパーブラケット3の下端と後述する支持部材7の上端との間に挟持されて吊持され、図中で上下方向となるこの上方カバー体5の軸線方向の移動が阻止される。
【0040】
また、この上方カバー体5は、係合手段(符示せず)の配在下に下端側部がアンダーブラケット4側に係合されて径方向の移動および車体側チューブ1における図中で上下方向となる軸芯線(図示せず)を中心にする回動が阻止される。
【0041】
それに対して、下方カバー体6は、アンダーブラケット4の下端に吊持されるとし、このとき、この発明によるカバー構造にあっては、下方カバー体6の上端部の外周にスポット溶接の跡たる凹みを残さないようにすると共に、ホルダ61にナット63を溶接する作業を容易にさせる。
【0042】
そのため、下方カバー体6は、上端に内方に向かう折り曲げ部からなる上端フランジ部6aを有し、この上端フランジ部6aをアンダーブラケット4の下端に隣接させると共に、この上端フランジ部6aをボルト62,ナット63の利用でアンダーブラケット4の下端に一体的に連設させる。
【0043】
このとき、ナット63は、あらかじめホルダ61に溶接され、このナット63を溶接したホルダ61が下方カバー体6における上端フランジ部6aの裏面に、たとえば、スポット溶接される。
【0044】
そして、ホルダ61を介して上端フランジ部6aの言わば裏面側に配設されたナット63にアンダーブラケット4の本体部41を貫通するボルト62を螺合することで、下方カバー体6をアンダーブラケット4の下端に一体的に吊持し得る。
【0045】
ちなみに、この発明のカバー構造にあっては、下方カバー体6の上端フランジ部6aに連設される前のホルダ61にナット63が溶接されるが、このホルダ61に対するナット63の溶接作業を前記した特許文献1に開示の提案に比較して容易にする。
【0046】
すなわち、前記した特許文献1に開示の提案にあっては、ホルダが断面をアングル状にする環状に形成され、したがって、ナットを溶接させる平座金状に形成のフランジ部を有するが、このフランジ部の外周端から垂下される筒状に形成の基部をも有してなる。
【0047】
それゆえ、前記した特許文献1に開示の提案にあっても、あらかじめナットを溶接したホルダを下方カバー体の上端部の内周に溶接してから、この下方カバー体をアンダーブラケットの下端にボルトナットの利用で一体的に連設するが、そのため、下方カバー体における部品コストの上昇化を回避し得ない。
【0048】
すなわち、前記した特許文献1に開示の提案におけるホルダは、このホルダにおける筒状に形成の基部が下方カバー体の上端部の内周に隣接された状態でスポット溶接されるから、下方カバー体の上端部の外周にスポット溶接に伴う溶接跡たる凹みが出現することを避け得ず、この凹みを消滅させる作業を要することで、下方カバー体における部品コストの上昇化を回避し得ないことになる。
【0049】
のみならず、ホルダにあって、フランジ部の裏面側に基部が垂下されるから、フランジ部の裏面にナットを溶接する際には、この基部が手前側に延びて溶接作業の邪魔をする傾向になり、また、ナットがこの基部に近隣するように配在されるから、このナットをフランジ部に全周溶接させることを困難にし易くなる。
【0050】
そして、この困難になる作業に完全を尽くすと、作業に手間を要するなどして作業性が大幅に低下され、結果として、部品コストの大幅な上昇化を招く不具合が危惧される。
【0051】
そこで、この発明のカバー構造では、ホルダ61が平座金状に形成されてなるとし、このホルダ61に対するナット63の溶接作業を容易にする、すなわち、ホルダ61が平座金状に形成されるから、このホルダ61をいわゆる平置きにすることで、ナット63の溶接作業を容易に実践し得る。
【0052】
のみならず、ホルダ61が平座金状に形成されるから、基本的には、表裏がなく、したがって、ナット63の溶接の際にホルダ61における表裏を選択することを要請しない利点がある。
【0053】
また、図2に示すように、ナット63の全周をホルダ61に溶接(図中に符号Mで示す)することも可能になり、このことから、必要な溶接長さを任意の箇所で選択でき、その意味からも溶接作業を容易にする利点がある。
【0054】
つぎに、このナット63を固着させたホルダ61を下方カバー体6の上端フランジ部6aの裏面に連設するが、その際には、このホルダ61がいわゆる仮止め状態に下方カバー体6の上端フランジ部6aに固着されれば足りる。
【0055】
すなわち、図2中に破線図で示すように、ナット63の整列方向に直交する位置で対向するように二箇所のスポット溶接をすれば足り、しかもこのスポット溶接の跡たる凹み6bは、いわゆる外方となる横方向から視認できない。
【0056】
そして、このナット63を有した状態のホルダ61が上端フランジ部6aに仮止めされた態勢は、爾後にナット63にアンダーブラケット4の本体部41を貫通するボルト62が螺合することで固定状態に変えられ、ホルダ61が下方カバー体6における上端フランジ部6aの裏面から脱落することを危惧させない。
【0057】
以上のように、この発明のカバー構造にあっては、ホルダ61にナット63を溶接する作業を容易にすると共に、下方カバー体6にホルダ61を連設するのにあって、下方カバー体6の上端部の外周にスポット溶接の跡たる凹み(図1中の符号6b参照)を出現させない、つまり、残さないようにすることが可能になる。
【0058】
そして、上記のナット63をあらかじめ固着するホルダ61が上端フランジ部6aに連設された下方カバー体6は、上記したように、アンダーブラケット4の本体部41を貫通するボルト62がナット63に螺合することで、アンダーブラケット4の下端に吊持される。
【0059】
以上のように、この発明によるカバー構造にあっては、平座金状に形成のホルダ61にナット63を溶接すると共に、このナット63を溶接したホルダ61を下方カバー体6の上端フランジ部6aの裏面に連設する。
【0060】
それゆえ、ホルダ61を下方カバー体6に連設するのにあって、スポット溶接を利用するとしても、このスポット溶接の跡を外方たる横方向から視認し得ないようにすることが可能になり、したがって、溶接跡たる凹みを消滅させるための溶接作業も要しないことになる。
【0061】
また、この発明によるカバー構造にあっては、下方カバー体6の言わば上端が内方に折り曲げられて上端フランジ部6aとされるから、下方カバー体6の上端がいわゆる切り放し端にならず、作業者の手指を傷つける可能性を大幅に削減するヒューマニズムに徹することになる。
【0062】
なお、上記ボルト62は、アンダーブラケット4における本体部41を貫通するが、頭部62aは、アンダーブラケット4の上端に突出して後述する係合手段を構成するスペーサ部材8(図1参照)あるいはシート部材9(図3参照)における車体側チューブ1の軸芯線を中心にする回動を阻止して(図2参照)、所定の配設位置に定着させる。
【0063】
ちなみに、下方カバー体6にあっては、その形状に対して意匠的な配慮をするのが好ましいので、以下には、これについて少し説明する。
【0064】
すなわち、下方カバー体6にあって、上端フランジ部6aは、アンダーブラケット4の下端に連設されるから、この連設が保障される径を有するように設定されることで足りる。
【0065】
その一方で、下方カバー体6にあって、上端フランジ部6aを有する上端部は、ナット63を溶接させた平座金状に形成のホルダ61を内方に臨在させ、また、フロントフォークの最収縮時に車輪側チューブ2におけるヘッド端部2aを内方に臨在させるから、これを許容する径を有するように形成される。
【0066】
それに対して、下方カバー体6にあって、下端部は、フロントフォークの最伸長時に内方に車輪側チューブ2におけるヘッド端部2aを臨在させるが、それ以外のとき、つまり、通常の伸縮ストロークの領域にあるとき、あるいは、フロントフォークの最収縮時には、内方に車輪側チューブ2の言わば胴部を臨在させる。
【0067】
このとき、車輪側チューブ2における胴部の径とヘッド端部2aの径とを比較すると、ヘッド端部2aの径の方が遥かに大きく、したがって、下端部とこれが近隣する車輪側チューブ2における胴部との間にはいたずらに大きな隙間が出現しないように配慮することが意匠上好ましいことになる。
【0068】
そこで、この下方カバー体6にあっては、上端部の径と下端部の径とを比較するとき、上端部から下端部にかけて徐々に径を小さくする形状となる意匠上の配慮をしている。
【0069】
そして、この上端部より下端部の径を小さくする形状を選択する場合に、下端部が平座金状に形成のホルダ61の挿通を阻害することになっては、意匠状の配慮をすることに意味がなくなる。
【0070】
そこで、図2中に仮想線図で示すように、ホルダ61において、ナット63を溶接する部位およびスポット溶接6bをする部位に干渉しない範囲で、二面切り欠き構造を採用してこの二面切り欠き間の寸法を下端部の径よりも小さくするのが好ましく、この場合には、ホルダ61における実質的な径を保障しながら、下方カバー体6に対する意匠上の配慮を実践し得ることになる。
【0071】
ところで、上記の係合手段であるが、図1に示すところでは、スペーサ部材8を有し、図4に示すところでは、シート部材9を有し、スペーサ部材8は、金属材に比較すれば軟質となるゴム材などで環状に形成されながら車体側チューブ1における突出部に介装されてアンダーブラケット4の上端に着座し、シート部材9は、ゴム材に比較すれば硬質となる金属材などで環状に形成されながら車体側チューブ1における突出部に介装されて上記のスペーサ部材8の上端に着座する。
【0072】
そして、この係合手段にあって、スペーサ部材8は、図3にも示すように、車体側チューブ1における突出部に介装されながらアンダーブラケット4の上端に着座する環状に形成の本体部81と、この本体部81から複数箇所で径方向に膨出する膨出部82とを有してなる。
【0073】
そして、図3に示すように、この膨出部82の外周に上方カバー体5の下端側部の内周を隣接させて、この上方カバー体5の下端側部における径方向の移動、すなわち、図1中で左右方向となる車体側チューブ1を横切る方向となる径方向の動きを阻止する。
【0074】
その一方で、このスペーサ部材8にあっては、後述するシート部材9からの押圧力を受けるとき、膨出部82が外方に膨出するのを旨とし、この膨出部82の外方に向けての膨出によって、上方カバー体5の下端部における径方向の移動阻止をより効果的に実現する。
【0075】
以上からすると、このスペーサ部材8にあっては、上方カバー体5の下端側部における径方向の移動阻止を効果的に実現し得る限りには、上記の本体部81が膨出部82を有しない構成とされ、それゆえ、この本体部81の外周を上方カバー体5における下端側部の内周に隣接させ、この上方カバー体5の下端側部における径方向の移動が阻止されるとしても良い。
【0076】
ただ、この場合には、このスペーサ部材8における質量が大きくなり、部品構成としていわゆる不経済になり、また、上方カバー体5の内方空間における大気への連通が下端側部の内周に全接触するスペーサ部材8によって遮断されて、上方カバー体5の内方空間における換気性を悪くする、つまり、熱篭りを招来させる危惧がある。
【0077】
つぎに、シート部材9は、上記したように、環状に形成されてスペーサ部材8の、特に、本体部81の上端に着座する(図1参照)が、この実施形態では、図3に示すように、平座金状に形成されて後述する支持部材7の下端を担持し、この支持部材7の下端を担持した状態下にスペーサ部材8における本体部81を上方から下方に向けて押圧する。
【0078】
ちなみに、スペーサ部材8においては、本体部81がシート部材9を介して支持部材7の下降で上方から押圧されて潰されることで、上記したように膨出部82が径方向に膨出し、上方カバー体5の下端側部の内周に先端を密接させる。
【0079】
一方、このシート部材9は、上記したように、支持部材7からの押圧力をスペーサ部材8に効率良く伝えることが重要で、その限りにおいて、図3に示すように、径方向となる幅を可能な限りに大きくするが、前記したボルト62における頭部62aの挿通を許容して干渉を回避するように相応箇所に凹み(符示せず)を有している。
【0080】
係合手段において、スペーサ部材8およびシート部材9が以上のように形成される一方で、さらには、上方カバー体5における車体側チューブ1の軸芯線を中心とする回動を阻止するように形成される。
【0081】
つまり、この係合手段にあっては、スペーサ部材8あるいはシート部材9がカバーを構成する上方カバー体5における下端側部に係合して、この上方カバー体5における車体側チューブ1の軸芯線を中心にする回動が阻止される。
【0082】
少し説明すると、図1に示す実施形態では、スペーサ部材8が前記した膨出部82に径方向の外方にさらに延びて上方カバー体5の外周位置より突出する突出部82aを有する。
【0083】
その一方で、上方カバー体5が下端側部に上記の突出部82aの嵌合状態での臨在を許容する切り欠き部5b(図1拡大図中の破線図参照)を有してなり、この切り欠き部5bに上記の突出部82aを嵌合させるようにして臨在させることで、上方カバー体5における車体側チューブ1の軸芯線を中心にする回動を阻止する(図3参照)。
【0084】
そして、図4に示す実施形態では、シート部材9が上記したスペーサ部材8における突出部82aに相当する突出部9aを有して、すなわち、シート部材9が舌付き座金状に形成されて、舌部に相当する突出部9aが上記した上方カバー体5に形成の切り欠き部5bに嵌合されるように挿通されて、上方カバー体5における車体側チューブ1の軸芯線を中心にする回動が阻止される。
【0085】
それゆえ、この発明によるカバー構造にあっては、カバーを構成する上方カバー体5における径方向への移動と車体側チューブ1の軸芯線を中心にする回動を上記した係合手段で阻止するが、この上方カバー体5における軸線方向の移動については、アッパーブラケット3と支持部材7によって阻止する。
【0086】
この点に関して、前記した特許文献1に開示の提案と比較すると、特許文献1に開示されるところでは、この発明に言う係合手段に相当する構成たる環状に形成のサポートが上方カバー体における軸線方向の移動と径方向の移動および車体側チューブの軸芯線を中心にする回動を阻止する。
【0087】
したがって、この発明のように係合手段が上方カバー体5における径方向の移動と車体側チューブ1の軸芯線を中心にする回動を阻止するのみとして、上方カバー体5における軸線方向の移動を支持部材7とアッパーブラケット3とに任せる点で、この係合手段における構成を簡素化できる。
【0088】
特に、係合手段において、上方カバー体5における車体側チューブ1の軸芯線を中心にする回動阻止がスペーサ部材8における突出部82aあるいはシート部材9における突出部9aと、この突出部82a,9aを嵌合させるように臨在させる切り欠き部5bとで具現化されるから、たとえば、前記した特許文献1に開示の提案のように環状のサポートが上方カバー体の加担側部の内周に溶接されることで具現化される場合に比較して、部品の溶接を要せずして、また、溶接に伴う諸作業も要せずして、部品コストの上昇化を回避させる。
【0089】
ところで、支持部材7であるが、図示するところでは、筒状に形成されてアッパーブラケット3とアンダーブラケット4との間となる車体側チューブ1における突出部に介装される(図1参照)。
【0090】
そして、この支持部材7にあっては、前述したように、上端とこれが対向するアッパーブラケット3の下端との間に上方カバー体5の上端フランジ部5aを挟持し、下端が前記したシート部材9の上端に当接する、すなわち、担持される。
【0091】
それゆえ、この支持部材7にあっては、上記の上方カバー体5をアッパーブラケット3の下端に垂設して軸線方向の移動を阻止することになり、この点に関して、前記した特許文献1に開示の提案にあっては、上方カバー体5をアッパーブラケット3とアンダーブラケット4との間に挟持されるように配設し、この状態で、上方カバー体5を係合手段によってアンダーブラケット4側に係合させて軸線方向の移動を阻止することに比較して、前記したように係合手段の構成を簡素化し得る。
【0092】
以上からすれば、この支持部材7は、上端とアッパーブラケット3の下端との間に上方カバー体5の上端フランジ部5aを確実に、すなわち、広い接触面積で挟持し得るように構成されるのが好ましく、図示しないが、そのため上端に外方に向かうフランジ部を有してなるとしても良い。
【0093】
そして、この支持部材7が機能するところ、すなわち、下端がシート部材9の上端に当接されてこのシート部材9を介してスペーサ部材8に上方からの押圧力を作用することを勘案すると、同じく図示しないが、この支持部材7の下端に外方に向かうフランジ部を有してなるとしても良い。
【0094】
のみならず、この支持部材7は、上記したところでは筒状に形成されてなるとしたが、要は、上端とこれが対向するアッパーブラケット3の下端との間に上方カバー体5における折り曲げ端部からなる上端フランジ部5aを挟持すれば良いから、上記の筒状に形成されることに代えて、図示しないが、任意の形状に形成されて良い。
【0095】
前記したところでは、係合手段を構成するスペーサ部材8およびシート部材9の形状が、図1および図4に示すように、それぞれ異なるとしているが、原理的には、同様に形状に形成されて良い。
【0096】
ただ、スペーサ部材8における突出部82aが上方カバー体5における切り欠き部5bに嵌合する場合には、シート部材9における突出部9aが上方カバー体5における切り欠き部5bに嵌合する必要はなく、その限りにおいて、スペーサ部材8およびシート部材9の形状が、図1および図4に示すように、それぞれ異なる。
【0097】
ちなみに、図1に示すところでは、スペーサ部材8の膨出部82が上方カバー体5における下端側部に隣接して上方カバー体5における径方向の移動を阻止すると共に、この膨出部82から延びる突出部82aが切り欠き部5bに嵌合して上方カバー体5における回動を阻止するから、本体部81および膨出部82をいわゆる厚肉に形成する。
【0098】
それに対して、図4に示すところでは、スペーサ部材8の本体部81に着座するシート部材9における突出部9aが上方カバー体5における切り欠き部5bに嵌合して上方カバー体5における回動を阻止する一方で、このシート部材9を着座させる本体部81に連設される膨出部82が上記の本体部81より厚肉に形成されて、膨出部82が上方カバー体5における下端側部に隣接するときの接触面積を大きくし得るように配慮する。
【0099】
そして、前記したところでは、この発明におけるカバー構造を構成するカバーが上方カバー体5と下方カバー体6とからなるとするが、上方カバー体5がアッパーブラケット3の下端と支持部材7のとの間に挟持されるとする場合には、この上方カバー体5に下方カバー体6が一体に連設されてなるとしても良く、また、上方カバー体5と下方カバー体6とを一体にしたカバーの上端がアッパーブラケット3の下端と支持部材7のとの間に挟持されるとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0100】
クルーザタイプの二輪車におけるフロントフォークの言わば長くなる摺動部が泥水や飛び石の被害を受けないようにするカバー構造への具現化に向く。
【符号の説明】
【0101】
1 車体側チューブ
2 車輪側チューブ
2a ヘッド端部
3 アッパーブラケット
4 アンダーブラケット
5 カバーを構成する上方カバー体
5a,6a 上端フランジ部
5b 切り欠き部
6 カバーを構成する下方カバー体
7 支持部材
8 スペーサ部材
9 シート部材
9a,82a 突出部
41,81 本体部
62 ボルト
82 膨出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪側チューブにおけるヘッド端部から突出する車体側チューブにおける突出部の上方側部に連結されるアッパーブラケットおよび下方側部に連結されるアンダーブラケットを有し、上記のヘッド端部とこのヘッド端部の近傍部および上記の突出部を外方から覆う筒状に形成のカバーを有し、このカバーが上記のアッパーブラケットの下端から垂下される上方カバー体と、上記のアンダーブラケットの下端に吊持される下方カバー体とを有してなるカバー構造において、上記の下方カバー体が筒状に形成されながら上記のアンダーブラケットの下端に隣接する上端フランジ部と、この上端フランジ部に連設される平座金状に形成の環状プレートと、この環状プレートに連設されて上記のアンダーブラケットを貫通するボルトの螺合を許容するナットとを有し、上記の環状プレートが上記の上端フランジ部に連設されると共に、上記のアンダーブラケットを貫通するボルトが上記の上端フランジ部を貫通して上記のナットに螺合されてなることを特徴とするカバー構造。
【請求項2】
上記の下方カバー体が上記のアンダーブラケットの下端に吊持されると共に内方に上記の車輪側チューブにおけるヘッド端部を臨在させてなる請求項1に記載のカバー構造。
【請求項3】
上記のアッパーブラケットと上記のアンダーブラケットとの間に支持部材が配設されると共に、上記の上方カバー体が上端に内方に向かう折り曲げ部からなる上端フランジ部を有し、この上端フランジ部が上記のアッパーブラケットの下端と上記の支持部材の上端との間に挟持されてこの上方カバー体における軸線方向の移動が阻止されてなる請求項1または請求項2に記載のカバー構造。
【請求項4】
上記の上方カバー体が上記のアッパーブラケットの下端から垂下されながら下端側部を係合手段の配在下に上記のアンダーブラケット側に係合させて上記の車体側チューブを横切る方向となる径方向の移動および上記の車体側チューブの軸芯線を中心にする回動が阻止されてなる請求項1,請求項2または請求項3に記載のカバー構造。
【請求項5】
上記の係合手段が環状に形成されながら上記の突出部に介装されて上記のアンダーブラケットの上端に着座するスペーサ部材を有し、このスペーサ部材に上記のカバーが係合されてこのカバーにおける上記の車体側チューブの軸芯線を中心にする回動が阻止されてなる請求項1,請求項2,請求項3または請求項4に記載のカバー構造。
【請求項6】
上記の係合手段が環状に形成されながら上記の突出部に介装されて上記のアンダーブラケットの上端側に着座するシート部材を有し、このシート部材に上記のカバーが係合されてこのカバーにおける上記の車体側チューブの軸芯線を中心にする回動が阻止されてなる請求項1,請求項2,請求項3,請求項4または請求項5に記載のカバー構造。
【請求項7】
上記の係合手段が環状に形成されながら上記の突出部に介装されて上記のアンダーブラケットの上端に着座するスペーサ部材と、環状に形成されながら上記の突出部に介装されて上記のスペーサ部材の上端に着座するシート部材とを有し、上記のスペーサ部材および上記のシート部材のいずれか一方が径方向の外方に延びて上記の上方カバー体における下端側部の外周位置より突出する突出部を有すると共に、上記の上方カバー体における下端側部が上記の突出部の臨在を許容する切り欠き部を有し、この切り欠き部に上記の突出部が臨在されることで、上記の上方カバー体における上記の車体側チューブの軸芯線を中心にする回動が阻止されてなる請求項1,請求項2,請求項3,請求項4,請求項5または請求項6に記載のカバー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−47437(P2011−47437A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195055(P2009−195055)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】