説明

カフェイン含有量が低減された茶及びその製造方法

【課題】 カフェイン含有量が選択的に低減された固形の茶およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 カフェイン含有量が低減された茶を製造する方法であって、固形の茶をエタノール、水、およびエタノールと水の混合液から選ばれた媒体と接触させて加熱処理することによりカフェインを媒体とともに留去するカフェイン含有量が低減された茶の製造方法およびこの製造方法により製造された茶。
【効果】 カフェインのみを効率的に除去することが可能となると同時に、アミノ酸類、カテキン類の含有量が元の水準に維持された茶を提供できる。子供や、カフェインに敏感な人が安心して利用することができる嗜好品、健康食品を提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カフェイン含有量が低減された茶を製造する方法、及びその方法により製造された低カフェイン含有量の茶に関するものであって、更に詳しくは、固形の茶をエタノール、水、及びエタノールと水の混合液から選ばれた媒体と接触させて加熱処理することによりカフェインを媒体とともに留去してカフェイン含有量が低減された茶を製造する方法、及びこの方法により製造されたカフェインの含有量が選択的に減少された新しい固形の茶に関するものである。
【0002】
本発明は、茶に含有されるカフェインの昇華現象を利用してカフェインのみを効率的に除去する技術に関するものであり、茶に含まれる他の有用成分、例えば、アミノ酸類やカテキン類を除去することなく茶中に残存させることができる。従来、茶中のカフェイン除去には、茶葉を熱湯で抽出した抽出液中のカフェインを吸着体へ吸着させて抽出液から除去する方法、溶媒抽出法、又は茶葉を超臨界液で処理するなど複雑な工程を必要としたが、本発明により簡便な操作により、カフェインのみを確実に除去することが可能となり、茶を嗜好品又は健康食品などとして利用する食品の技術分野において、子供やカフェインに敏感な人であっても安心して利用することができる茶関連製品を提供することを可能としたものである。
【背景技術】
【0003】
お茶やコーヒーなどの飲料類に含まれているカフェインは、これを飲用した場合には種々の生理作用を発揮することが知られている。その生理作用の一つとして、中枢神経系、心臓又は腎臓に対して興奮作用を示すので、疲労感、眠気の軽減や利尿作用があるとされ、過剰に摂取すると不眠や不快感を感じる人がいることが知られている。特に幼い子供ばかりでなく、カフェインに敏感な人、妊娠中でカフェインの摂取を控えている人、胃酸過多の人や、近年増加している不眠症などに悩んでいる人などが気軽に飲用することができるカフェインの含有量を減少させた飲料類の開発が求められている。
【0004】
こうした要望に答えて、超臨界抽出法などにより製造したカフェインレスのコーヒーが既に販売されており、味、品質の劣化や薬臭さがなく好評であるとの評価がなされている。また、緑茶、紅茶、ウーロン茶、プーアル茶のような茶には一般的に2〜4重量%程度のカフェインが含まれており、コーヒーのカフェイン含有量を上回る茶類も存在する。従来、例えば、以下のようなカフェイン含有量を低減させた飲用茶を製造する技術が知られている。
【0005】
抗アレルギー飲食品用の素材として、カフェインの量を低減させて多量かつ継続して摂取可能な茶葉を得る方法として、べにふうき、べにふじ、べにほまれ、大葉烏龍などの生葉を85〜95℃の温水に30秒〜2分間浸漬、脱水した後、従来の技術により茶葉を製造する方法(特許文献1参照)、茶生葉に圧力0.01〜0.5MPaの熱水を吹き付けて、茶生葉のカフェインを低減する方法(特許文献2参照)、また、蒸葉を75〜95℃の熱湯に30秒〜3分間浸漬処理した後、通常の条件で荒茶を製造し、これを煎出した煎出液を乾燥して粉末化した低カフェイン緑茶エキス粒の製造方法(特許文献3参照)などが提案されている。これらの技術では、生茶葉の熱水などによる処理によりカフェイン量を低減した茶葉が得られるが、熱水処理に際し、茶抽出液の主要成分であるアミノ酸、糖類や無機塩類が熱水と共に茶葉から除去されるために、カフェイン以外の香味成分が少なからず溶出除去され、本来の茶の特性が失われ、品質の低下は免れないという問題を有していた。
【0006】
また、茶葉を熱水などで抽出して得た抽出液からカフェインを選択的に低減する方法としては、例えば、茶を液体で抽出して得た茶抽出液を、多孔質重合樹脂と接触させ、次いで水及び含水エタノールを順次通して茶抽出液の80%以上のアミノ酸、糖類及び無機塩類を含み、カテキン及びカフェインを含まない水溶離液を得る低カフェイン天然植物エキスの製造方法(特許文献4参照)、また、他の従来技術として、茶抽出物を水又は含水有機溶媒中に溶解又は懸濁し、これに合成吸着剤を接触させてカフェインを吸着除去する低カフェイン茶ポリフェノールの製造方法(特許文献5参照)などが報告されている。これらの技術では、低カフェインの茶抽出液を製造できるが、カフェインのみを低減した茶葉又はその粉末を製造することはできないばかりか、抽出、吸着除去、溶離工程など複雑な処理を必要とする問題を有している。公知の超臨界抽出法によりカフェインレス茶を製造することは可能ではあるが、製造コストが高く実用化には向いていない。
【0007】
上記したように、従来の方法では、茶葉を熱湯などで処理することによりカフェイン以外の香味成分が少なからず溶出して茶本来の特性が失われるため品質の低下は免れなかった。また、茶抽出液中のカフェインを低減するには複雑な工程を必要とし、コスト高を避けることはできなかった。そこで、茶本来の香味を保持し、低コストで簡便に低カフェイン含有量の茶葉を製造することが可能な技術及びカフェインがのみが低減された茶葉の創出が求められていた。
【特許文献1】特開2004−222682号公報
【特許文献2】特開2006−296335号公報
【特許文献3】特開2001−245591号公報
【特許文献4】特開2004−305012号公報
【特許文献5】特開平8−109178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中で、本発明者は上記従来技術に鑑みて、簡便な操作によりカフェイン含有量のみが低減された茶を製造する技術を開発することを目標として、鋭意研究を積み重ねた結果、エタノール、水、又はエタノール含有水から選ばれた媒体を添加した茶(例えば、市販のせん茶)を加熱処理してカフェインを媒体とともに留去することにより、茶中のカフェインのみが低減され、アミノ酸、糖類、カテキン類や無機塩類の含有量が実質的に変化していない茶を製造することができることを見いだし、更に研究を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の目的は、カフェインの含有量が低減された固形の茶を製造する方法を提供することである。また、本発明の目的は、茶本来の香味を失わないでカフェインのみの含有量が低下した品質の高い茶を製造し、提供することである。また、本発明の目的は、溶媒抽出、吸着脱着などの複雑な処理操作を必要としない簡便な方法で茶に含まれているカフェインのみを除去した低カフェイン茶を提供することである。また、本発明の目的は、カフェインのみの含有量が低減され、従来と変わらないアミノ酸類、及びカテキン類を含有する茶を提供することである。また、本発明の目的は、従来の製法により製造された茶を原料としてカフェインレスの茶を製造し提供することである。また、本発明の目的は、カフェインレス茶を食用に適した錠剤に成形した茶を提供することである。また、本発明の目的は、カフェインに敏感な人にも安心して飲用又は食用とすることができるカフェインレスの茶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)カフェイン含有量が低減された茶を製造する方法であって、固形の茶をエタノール、水、およびエタノールと水の混合液から選ばれた媒体と接触させて加熱処理することによりカフェインを媒体とともに留去することを特徴とするカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
(2)固形の茶が、不発酵茶、半発酵茶、および発酵茶から選ばれた少なくとも1種である前記(1)に記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
(3)固形の茶が、せん茶、抹茶、ほうじ茶、玉露、茎茶、ぐり茶、粉茶、紅茶、包種茶、ウーロン茶、およびプーアル茶から選ばれた1種以上である前記(2)に記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
(4)加熱処理が、100〜250℃の温度で行われる前記(1)から(3)のいずれかに記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
(5)加熱処理が、120〜170℃の温度で行われる前記(4)に記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
(6)加熱処理が、減圧下に行われる前記(1)から(5)のいずれかに記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
(7)加熱処理が、圧力300hPa以下の減圧下で行われる前記(6)に記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
(8)加熱処理が、圧力5〜70hPaの減圧下で行われる前記(7)に記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
(9)エタノールと水の混合液のエタノール濃度が5〜100容量%である前記(1)から(8)のいずれかに記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
(10)固形の茶と、エタノール、水、及びエタノールと水の混合液から選ばれた媒体を接触させて加熱処理する操作を単数回、又は複数回連続して行う前記(1)から(9)のいずれかに記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
(11)前記(1)から(10)のいずれかの方法により製造されたことを特徴とするカフェイン含有量が低減された茶。
(12)低減されたカフェイン含有量を有し、他の成分の含有量が実質的に変化していないことを特徴とするカフェイン含有量が低減された固形茶。
(13)他の成分が、アミノ酸類およびカテキン類である前記(12)に記載のカフェイン含有量が低減された茶
(14)前記(10)から(13)のいずれかに記載のカフェイン含有量が低減された茶を錠剤に成形した錠剤茶。
【0011】
次に本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明は、固形の茶を、エタノール、水及びエタノールと水の混合液から選ばれた媒体(以下、単に「媒体」とも言う。)と接触させて加熱処理することにより、カフェインを媒体とともに留去してカフェイン含有量が低減された固形の茶を製造する方法に関するものである。この加熱処理により、媒体を完全に蒸発除去することが好適である。本発明における「留去」とは、昇華、蒸発などによりカフェイン、媒体などを除去する操作を言う。カフェイン含有量を低減した茶の製造に関する従来の技術は、例えば、生茶葉を熱水処理した茶葉を原料として、従来の製茶法により製造したものであるのに対し、本発明は、一旦製造された茶に特定の処理をほどこすことによりカフェイン含有量が低減された茶に変換する技術を提供するものであり、市販の茶類をカフェインレス茶に変換して提供することを可能とするものである。
【0012】
加熱処理温度は、100〜250℃が好適であり、特に120〜170℃の温度下で行うのが更に好適である。加熱処理は、減圧下に行われることが好適であり、圧力300hPa以下、特に5〜70hPaの圧力下で行うのが更に好適である。エタノールの濃度は5〜100容量%の範囲が好適であり、濃度が高いほどカフェインの低減率は向上する。本発明のカフェインが低減された固形の茶には、茶が本来含有するカフェイン以外の他の成分の含有量については実質的な変化がなく、カフェインの含有量のみが低減された固形の茶が提供される。こうして得られた固形の茶は、温湯抽出用の茶として、また、錠剤などに成形された食用の茶としてカフェイン感受性を有する人々に対しても利用される。
【0013】
本発明において、茶に含まれるカフェインのみが効率よく低減されるのは、茶に含まれるカフェインが水又はエタノールに溶出して昇華により媒体の蒸発に伴って除去されるものと推察される。媒体とカフェインが共存した状態では昇華が促進されるものと考えられる。すなわち、本発明では、茶と接触したエタノール、水又はそれらの混合溶液からなる媒体中に、茶に含まれているカフェインが抽出され、その抽出されたカフェインが加熱によって、媒体の揮散(蒸発)と共に昇華してその含有量が低減される。ただし、茶に含まれるカフェイン以外の成分が媒体中に抽出されることがあっても、昇華性のない、または昇華性の低い成分は、加熱処理後にも、例えば、茶本体中又は固形の茶の表面に残存するためそれらの含有量が低減することはほとんどない。
【0014】
本発明に適用される茶としては、例えば、生茶葉を従来法により製茶した茶が利用される。本発明では、その原料、製法などが特に限定されることはなく、いかなる種類の茶に対しても適用され、例えば、せん茶、玉露、番茶、ぐり茶、ほうじ茶、茎茶、粉茶などの不発酵茶(緑茶)、ウーロン茶、包種茶などの半発酵茶や、紅茶、プーアル茶などの発酵茶が例示される。これらの茶は、広く販売されている通常のものだけでなくいかなる形態のものであってもよい。例えば、葉、粉末、茎などの形状をしている茶類が例示される。 しかし、カフェインを除去するに当たってはその表面積が大きく、媒体との接触が効率よく行える粉末状態、例えば、平均粒径を5〜200μmにすることがカフェイン含有量を低減させるには好適である。
【0015】
本発明におけるカフェインの低減が、エタノールなどの媒体への溶出、それに続くカフェインの昇華によることからして、カフェインを昇華させるには一般的に水よりもエタノールが好適であり、溶出の点から見るとエタノールよりもカフェインをよりよく溶解する水、特に熱湯が好適である。更に、両者の混合液体によるカフェインの昇華除去が可能である。
【0016】
本発明では、媒体のエタノール含有量に応じてカフェイン含有量が低減できるので、所望のカフェイン含有量の茶を製造するには媒体のエタノール濃度を適宜選択して行うことができる。例えば、好適なエタノール濃度としては5〜100容量%が挙げられるが、特にエタノール濃度50容量%以上ではカフェインの除去効果が大きい。
【0017】
茶に対して加えられる媒体の量は、例えば、1gの粉末茶に対して0.5〜20mLが好適である。媒体が0.5mLよりも少ないと茶中のカフェインの抽出が十分行われなくなることがあり、また、20mLを越えると媒体の除去に長時間を要すると共に、茶の有効成分であるアミノ酸やカテキン類の溶出が多くなることがあり好ましくない。また、長時間にわたって加熱すると茶が変性する恐れがあるので、媒体の使用は、例えば1gの茶に対して2〜5mLが好適である。
【0018】
本発明によりカフェイン含有量が低減された茶を製造するにあたり、茶と媒体の混合物を加熱して媒体中に溶出したカフェインを除去するには、媒体中に溶出したカフェインが十分に昇華する温度に加熱すればよく、100〜250℃の加熱が好適な温度範囲として例示されれる。加熱温度が100℃よりも低いとカフェインの昇華除去に時間がかかりすぎて実用的でなく、加熱温度が250℃を越えると茶葉が熱により褐変して変質し、例えば、緑茶特有の香気が失われることがあるので好ましくない。本発明における加熱処理温度は、例えば緑茶特有の香気を維持し効率的な製造をするためには120〜170℃の加熱が好適である。加熱方法としては、茶をカフェインの昇華温度に加熱できることが可能であれば、どのような加熱方法を採用してもよいが、例えば、熱風、加熱プレート、電気ヒーター加熱、赤外線加熱、電子レンジによる加熱などを挙げることができる。
【0019】
茶と媒体との混合物を加熱処理するに要する時間は、加熱手段により、また、処理する茶の重量により最適加熱時間は異なるが、一般的には、30秒間〜30分間の範囲内が好適である。例えば、電子レンジによる加熱では短時間の加熱、例えば90秒が適用される。加熱方法には、媒体と茶を混合した後所定の時間内で一度加熱を行う方法や、媒体と茶を混合して加熱処理する工程を複数回繰り返す方法などが採用されるが特に限定されるものではない。例えば、エタノールを含まない水100%を媒体として複数回加熱抽出する操作を繰り返すと、実施例1で示すようにカフェイン残存率が極めて少ない粉末茶が得られる。
【0020】
本発明においては、茶と媒体との混合物を加熱処理し、媒体を蒸発除去する操作だけで、茶中に含有されるカフェインは除去できるが、カフェインの昇華を効率よく行うには、減圧下に加熱処理するのが好適である。一般に、減圧の程度が大きくなるに従いカフェインの除去率は向上するが、効率的なカフェインの除去を行うには、圧力300hPa以下の減圧が好適であり、圧力5〜70hPaの減圧条件下で加熱処理するのが更に好適である。減圧条件と加熱条件を適宜組み合わせることによりカフェインの除去率を向上させることができる。
【0021】
本発明で使用するエタノールについては特に限定されることはなく、エタノールであればいずれのものであっても所定の濃度に調整して使用することができるが、例えば、試薬特級の100%エタノール(アルコール濃度99.5%)、醸造アルコール(濃度95.5%)などが挙げられる。媒体用の水としては、特に限定されないが、例えば、脱イオン水、蒸留水、水道水などが必要に応じて使用される。
【0022】
本発明は、カフェイン含有量が低減された茶の製造方法であって、固形の茶と、エタノール、水及びエタノールと水の混合液から選ばれた媒体とを接触させて加熱処理することによりカフェインと媒体を留去することを特徴とするカフェイン含有量が低減された茶の製造方法に関するものである。本発明では、固形の茶と媒体の混合物を加熱処理することにより、固形の茶に含まれるカフェインは媒体中に溶出し、溶出したカフェインは媒体が蒸発するに伴い昇華して除去されるものと考えられる。媒体は茶から完全に蒸発除去することが好適である。固形の茶と媒体とを混合すると、カフェイン以外の成分が媒体中へ溶出することもあるが、カフェイン以外の成分は、本発明の処理条件下では昇華性に乏しいため、加熱処理を経過してもそれらの成分は試料中又は試料の表面に残存する。したがって、本発明によれば、カフェインを選択的に除去することが可能となる。
【0023】
本発明により製造された固形の茶は、カフェイン含有量が低減され、しかもカフェイン以外の成分は通常の茶と同程度に含有するものであり、せん茶などと同様に熱湯により抽出するための茶として、また、抹茶などとして飲用する粉茶として、さらに錠剤などに成形して直接食するための茶として利用することが可能である。本発明のカフェインを低減した茶に含まれるアミノ酸類の含有量は、表3に示すように、処理前と比較してわずかに減少しているに過ぎず、処理前の茶と実質的に変わることはない。また、本発明のカフェインを低減した茶に含まれるカテキン類は、表4に示すように、処理前の茶と比較して実質的な変化はなく、本発明により、抗酸化作用、抗菌作用を有し健康増進に有効なカテキン類が低減されることなく高濃度で含有されている茶を提供できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明により次のような効果が奏される。
(1)カフェイン含有量が低減された固形状の茶の製造方法、及びこの方法により製造された固形の茶を提供することができる。
(2)従来品と比較して香味を変化させないで、カフェイン含有量が低減した茶を提供することができる。
(3)茶中に含まれるカフェイン以外の成分の含有量に影響することなく、カフェインのみを選択的に除去された固形茶を製造し、提供することができる。
(4)茶に含まれるアミノ酸類、カテキン類の含有量を実質的に低減することなく、カフェイン含有量を低減した茶を提供することができる。
(5)従来技術で製造した茶、例えば、せん茶を処理して、含まれているカフェインを選択的に低減した茶を提供することができる。
(6)錠剤に成形することにより経口摂取することが可能なカフェイン含有量が低減された茶の錠剤を提供することができる。
(7)幼い子供ばかりでなく、カフェインに敏感な大人が飲用可能な抽出茶を調製するための茶、および直接固形茶として食することができる錠剤の形態をした茶を提供することができる。
(8)花粉症の緩和などに効果がある健康食品としての茶を、カフェインの興奮作用による睡眠阻害などの弊害の生じない形態で提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
本実施例では、平均粒径15〜20μm、カフェイン含有量3.506重量%のせん茶の粉末を用いて減圧オーブンにて減圧熱処理を行い、この粉末茶からのカフェインの除去を検討した。処理条件と実験結果は表1にまとめて示した。
【0027】
実験方法
せん茶を古河電工製ドリームミルにより粉砕して作製した15〜20μmの平均粒径を有する粉末茶の約1gをガラスシャーレに秤取り、これにエタノール濃度が0%(水)から100%のエタノール−水混合媒体を3.3mL添加、混合した後、減圧オーブンで、160℃、圧力20hPaの条件下で、15分間減圧加熱処理を行った。放熱した乾燥状態のサンプルの重量を測定した後、30mgを25mL容量のメスフラスコに秤取り20mLの熱水を加え、80℃で30分間カフェインの抽出を行った。放熱後、25mLにメスアップした上澄み液をポアサイズ45μmのディスクフィルタを通してサンプルとし、HPLCによりカフェイン含有量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0028】
実験結果
(1)色と香り
処理した粉末茶は、全体的にほんの少し焦げ、匂いもほんのりとほうじ茶の匂いがした。エタノール濃度が50%までの媒体を使用した場合では、エタノールの濃度が高くなるほど焦げた匂いが強くなった。エタノール濃度が100%のサンプルは、処理後にスパーテルで削ると粉末状になり、熱湯抽出液が濁った。
(2)カフェイン含有量
減圧加熱処理を15分間連続して行なった場合は、茶のカフェイン含有量はエタノール濃度が高いほど低下し、エタノール濃度100%の媒体では原料の49%にまでカフェインを減量できた。エタノールを用いることにより高いカフェイン除去効果が得られることが判明した。
【実施例2】
【0029】
本実施例では、媒体を添加して5分間減圧加熱する処理を3回繰り返して粉末茶よりカフェインの除去処理を行った。1gの玉露の粉末に、水又は濃度100%のエタノールを3.3mL添加、混合した後、5分間、160℃、40hPaで減圧加熱処理を行った。次いで、放冷した処理後の粉末茶に同量の媒体を添加して同様の減圧加熱処理を行う操作を2度繰り返してカフェイン減量粉末茶を得た。生成したカフェイン減量粉末茶は、わずかに焦げ色が認められ、ほんのりとしたほうじ茶の匂いがした。
【0030】
水(エタノール含有量0%)を使用した場合では、カフェイン含有量が大きく低下した茶が製造され、優れたカフェイン低減効果が得られた。このように、水を媒体とすると、短時間の減圧加熱処理の繰り返しによりカフェイン除去効果が高まることが認められた。また、100%濃度のエタノールを使用した場合には、処理回数によるカフェイン含有量の低減効果に違いは見られなかったが、共に優れたカフェイン除去効果を示した。本実施例における処理条件及び処理後の粉末茶のカフェイン含有量については表1の後半に示す。
【0031】
【表1】

【実施例3】
【0032】
エタノール濃度75%のエタノール−水系の媒体を使用して、実施例1と同様の条件下で粉末茶中のカフェインを除去した結果、2.29重量%のカフェイン含有量(残存率65%)の粉末茶を得た。
【実施例4】
【0033】
発酵法により製造したエタノール(濃度95.5%)を使用して、減圧加熱処理時間を5分間とする以外は、実施例1と同様の条件下で粉末茶中のカフェインを除去した結果、2.01重量%のカフェイン含有量(残存率57.3%)の粉末茶を得た。
【実施例5】
【0034】
本実施例では、平均粒径が15〜20μmで、3.61重量%のカフェインを含有する緑茶粉末を試料とし、これにエタノールを添加した後、電子レンジ又は減圧オーブンにより加熱処理して、両加熱方法によるカフェインの除去効果を検討した。まず、ガラスシャーレに粉末茶を約1g精評し、100%濃度のエタノールを3mL添加、混合した後、大気圧下、電子レンジで90秒間加熱処理した。また、他の試料については、減圧オーブンで165℃、40hPaで15分間減圧加熱処理した。その後、放熱したサンプルのカフェイン含有量を実施例1と同様の方法により測定した。その結果、減圧加熱処理では、カフェイン含有量が元の67%にまで減少した茶を得た。また、電子レンジによる加熱では、元の87%にまでカフェイン含有量が減少した茶を得た。実験結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【実施例6】
【0036】
濃度100%のエタノールを媒体として、実施例1と同様の条件で、カフェインを2.76重量%含有する粉末紅茶を加熱処理した。生成した紅茶には残存率60.2%でカフェインが含まれていた。
【実施例7】
【0037】
上記実施例1により得たカフェイン含有量を低減させた粉末茶のアミノ酸類の含有量を測定した。その結果を表3に示す。処理後のアミノ酸含有量は全般的にわずかに減少したに過ぎず、実質的に処理前と同一の水準を保っていた。
【0038】
【表3】

【0039】
また、同じく実施例1で得た粉末茶は、処理前の茶と比較して、実質的に同一のカテキン類の含有量を示した。カテキン類の測定結果を表4に示す。このことは、本発明のカフェイン低減粉末茶は、カフェイン以外の含有成分を失うことなく保持しているものであり、茶として、また、健康食品としての品質に優れていることを示している。
【0040】
【表4】

【0041】
なお、上記の実施例で使用した濃度100%のエタノールとは、試薬特級99.5容量%濃度のエタノールであり、純水又は脱イオン水により所定のアルコール濃度に希釈して媒体として用いた。上述のエタノール濃度は全て容量%を意味している。表中のControl又は対照区の粉末茶は熱処理をしないでカフェイン含有量を測定した。カフェイン含有量は処理後の茶を熱水で抽出して得た抽出液をHPCLにより定量した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、カフェイン含有量が低減された茶を製造する方法であって、固形の茶と、エタノール、水、及びエタノールと水の混合液から選ばれた媒体を接触させて加熱処理することによりカフェインと媒体を同時に留去することを特徴とするカフェイン含有量が低減された茶の製造方法、及びこの方法により製造されたカフェイン含有量が低減された新しい茶に係るものである。本発明は、茶中の成分の中でカフェインのみを選択的に除去して、従来の茶と香味などが相違することのない新しいカフェイン低減茶を製造し、提供するものである。
【0043】
従来の茶はカフェイン含有量が高く飲用又は直接摂取すると、カフェインによる興奮作用により眠れなくなるばかりか、体への副作用が生ずるため、子供やカフェインに敏感な大人は茶の服用を避けねばならなかった。そのため、花粉症の緩和などに効果があるとされている茶を飲用又は直接摂取することはできない人が少なくなく、その利用範囲は限定されていた。これに対し、本発明により提供される茶は、カフェインの含有量のみが低減され、アミノ酸類及びカテキン類の含有量に変化がわずかであるので、カフェイン感受性のある人々であっても何の制限もなく茶を、健康食品として飲用又は食することが可能となった。また、本発明の新しい茶は、食べる茶として用いるに適した錠剤の形態とすることができる。本発明の茶は、上記のような従来の茶が有する問題点を解消するものであり、嗜好用食品として、また健康増進用の食品類としての応用範囲が拡大した新しい茶を提供することを可能とするものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カフェイン含有量が低減された茶を製造する方法であって、固形の茶をエタノール、水、およびエタノールと水の混合液から選ばれた媒体と接触させて加熱処理することによりカフェインを媒体とともに留去することを特徴とするカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
【請求項2】
固形の茶が、不発酵茶、半発酵茶、および発酵茶から選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
【請求項3】
固形の茶が、せん茶、抹茶、ほうじ茶、玉露、茎茶、ぐり茶、粉茶、紅茶、包種茶、ウーロン茶、およびプーアル茶から選ばれた1種以上である請求項2に記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
【請求項4】
加熱処理が、100〜250℃の温度で行われる請求項1から3のいずれかに記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
【請求項5】
加熱処理が、120〜170℃の温度で行われる請求項4に記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
【請求項6】
加熱処理が、減圧下に行われる請求項1から5のいずれかに記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
【請求項7】
加熱処理が、圧力300hPa以下の減圧下で行われる請求項6に記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
【請求項8】
加熱処理が、圧力5〜70hPaの減圧下で行われる請求項7に記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
【請求項9】
エタノールと水の混合液のエタノール濃度が5〜100容量%である請求項1から8のいずれかに記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
【請求項10】
固形の茶と、エタノール、水、及びエタノールと水の混合液から選ばれた媒体を接触させて加熱処理する操作を単数回、又は複数回連続して行う請求項1から9のいずれかに記載のカフェイン含有量が低減された茶の製造方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかの方法により製造されたことを特徴とするカフェイン含有量が低減された茶。
【請求項12】
低減されたカフェイン含有量を有し、他の成分の含有量が実質的に変化していないことを特徴とするカフェイン含有量が低減された茶。
【請求項13】
他の成分が、アミノ酸類およびカテキン類である請求項12に記載のカフェイン含有量が低減された茶
【請求項14】
請求項10から13のいずれかに記載のカフェイン含有量が低減された茶を錠剤に成形した錠剤茶。