説明

カム軸駆動用のチェーン伝動装置

【課題】カム軸駆動用チェーン伝動装置に設けられたチェーン案内用ローラの潤滑不良を防止すること、および、エンジンレイアウトの容易化を図ることである。
【解決手段】クランク軸1に取付けられた駆動スプロケット2とカム軸3に取付けられた従動スプロケット3間にタイミングチェーン5を掛け渡し、そのタイミングチェーン5の弛み側チェーンの一側部に、タイミングチェーン5の移動を案内する複数の回転可能なローラ41を有する揺動可能なチェーンガイドAを設け、そのチェーンガイドの揺動側端部にチェーンテンショナの調整力を負荷してローラ41をタイミングチェーン5に押し付ける。駆動スプロケット2のピッチ円直径Dに対するローラ41の外径Dの比(D/D)を5/3〜5/1の範囲として、チェーン案内用ローラ41の潤滑不良を防止し、エンジンレイアウトの容易化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カム軸駆動用のチェーン伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クランク軸に取付けた駆動スプロケットとカム軸に取付けた従動スプロケット間にタイミングチェーンを掛け渡したカム軸駆動用のチェーン伝動装置においては、タイミングチェーンの弛み側チェーンの一側方に揺動可能なチェーンガイドを設け、そのチェーンガイドの揺動側端部にチェーンテンショナの調整力を負荷してタイミングチェーンを緊張させ、チェーンの緩みやバタツキを防ぐようにしている。
【0003】
また、タイミングチェーンの張り側チェーンにチェーンガイドを設けて固定の配置とし、その固定のチェーンガイドによりタイミングチェーンの移動を案内してチェーンのバタつきを抑制するようにしている。
【0004】
ここで、タイミングチェーンの張力調整用や移動案内用のチェーンガイドとして、タイミングチェーンを滑り接触によって面案内する形式のものが知られているが、タイミングチェーンの移動抵抗が大きく、伝達トルクロスが多いという問題がある。
【0005】
そのような問題点を解決するため、特許文献1においては、タイミングチェーンの移動方向に長く延びるガイドベースによって曲線状に配置された複数のローラ軸の両端部を支持し、その複数のローラ軸のそれぞれによってころ軸受からなるローラを回転自在に支持し、その複数のローラによりタイミングチェーンを移動自在に支持するようにしたチェーンガイドを提案している。
【0006】
上記のチェーンガイドにおいては、タイミングチェーンの案内が複数のローラの転がりによる案内であるため、タイミングチェーンの移動抵抗が小さく、伝達トルクロスが少ないという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2010/090139号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1に記載されたカム軸駆動用のチェーン伝動装置においては、駆動スプロケットとチェーンの移動を案内するローラの相対的な大きさの関係について何も言及されていない。ここで、駆動スプロケットのピッチ円直径とチェーンの移動を案内するローラの外径の比が大きくなり過ぎると、エンジンの高速回転時に、ローラが高速回転してローラ軸との間で潤滑不良が生じる。また、駆動スプロケットのピッチ円直径とローラの外径の比が小さくなると、ローラが重くなり、ローラ外径の大径化によってエンジンレイアウトが困難になる。
【0009】
この発明の課題は、カム軸駆動用チェーン伝動装置に設けられたチェーン案内用ローラの潤滑不良を防止すること、および、エンジンレイアウトの容易化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明においては、クランク軸に取付けられた駆動スプロケットとカム軸に取付けられた従動スプロケット間にタイミングチェーンを掛け渡し、そのタイミングチェーンの弛み側チェーンの一側部に、タイミングチェーンの移動を案内する複数の回転可能なローラをタイミングチェーンの移動方向に間隔をおいて保持する揺動可能なチェーンガイドを設け、そのチェーンガイドの揺動側端部にチェーンテンショナの調整力を負荷して前記ローラをタイミングチェーンに押し付けるようにしたカム軸駆動用のチェーン伝動装置において、前記駆動スプロケットのピッチ円直径Dに対する前記ローラの外径Dの比(D/D)を5/3〜5/1の範囲とした構成を採用したのである。
【0011】
ここで、エンジンにおけるクランク軸の回転数は、一般的に、最大で8000rpm程度であり、そのクランク軸に取付けられる駆動スプロケットのピッチ円直径Dとローラの外径Dの比(D/D)を、上記構成のように、5/1以下とすることによって、ローラの回転数は、40000rpmを超えることがなくなり、ローラが潤滑不良になるというようなことはない。
【0012】
また、クランク軸上に設けられる駆動スプロケットは、普通、そのピッチ円直径φが40〜50mm程度であり、駆動スプロケットのピッチ円直径Dに対するローラの外径Dの比(D/D)を5/3以上とすることによって、ローラの外径φは30.0mmを超える大きさとはならず、軽量で取り扱いの容易な小径のローラを採用することができ、エンジンレイアウトの容易化を図ることができる。
【0013】
上記の構成からなるカム軸駆動用のチェーン伝動装置において、タイミングチェーンの張り側チェーンの一側方に、前述の揺動可能なチェーンガイドと同一の構成からなる固定配置のチェーンガイドを設けることによってタイミングチェーンのバタつきを効果的に抑制することができる。
【0014】
ローラとして、外輪およびその内側に組み込まれた複数のころを有する針状ころ軸受や円筒ころ軸受を採用することにより、タイミングチェーンとの接触によってローラを円滑に回転させることができ、タイミングチェーンの移動抵抗を大幅に低減させることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明においては、上記のように、駆動スプロケットのピッチ円直径Dに対する前記ローラの外径Dの比(D/D)を5/3〜5/1の範囲としたことにより、エンジンの高速回転によってローラが潤滑不良となるのを防止することができる。また、ローラが必要以上に大径化せず、エンジンレイアウトの容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明に係るチェーン伝動装置の実施の形態を示す概略図
【図2】この発明に係るチェーンガイドの斜視図
【図3】図2の縦断面図
【図4】図3の右側面図
【図5】図3のV−V線に沿った断面図
【図6】図5に示すローラの断面図
【図7】ガイドベースの一部とローラとを示す分解正面図
【図8】駆動スプロケットとローラの大きさの関係を説明するための概略図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、カム軸駆動用のチェーン伝動装置を示し、クランク軸1の軸端部に取付けられた駆動スプロケット2と2本のカム軸3のそれぞれ軸端部に取付けられた従動スプロケット4間にはタイミングチェーン5が掛け渡されている。
【0018】
タイミングチェーン5はローラチェーンであっても、サイレントチェーンであってもよい。
【0019】
クランク軸1は、図1の矢印で示す方向に回転する。そのクランク軸1の回転により、タイミングチェーン5が同図の矢印で示す方向に移動し、駆動スプロケット2から同図の左側に位置する一方の従動スプロケット4に至る部分が弛み側とされ、他方の従動スプロケット4から駆動スプロケット2に至る部分が張り側とされ、上記弛み側チェーン5aの一側部にチェーンガイドAが設けられている。
【0020】
チェーンガイドAは、タイミングチェーン5の移動方向に長く延び、その上端部がエンジンブロックから突設する支点軸14により支持されて、その支点軸14を中心に揺動可能とされ、下側の揺動側端部には、チェーンテンショナ15の調整力が負荷されて弛み側チェーン5aに向けて押圧されている。
【0021】
タイミングチェーン5における張り側チェーン5bの他側部にはチェーンガイドAが設けられている。このチェーンガイドAは、揺動可能なチェーンガイドAと同様に、タイミングチェーン5の移動方向に長く延び、その両端部がエンジンブロックにねじ込まれるボルト16の締め付けにより固定されて、タイミングチェーン5の移動を案内するようになっている。
【0022】
ここで、揺動可能なチェーンガイドAと固定のチェーンガイドAとは、同一の構成とされ、揺動可能なチェーンガイドAが一端部に軸挿入用の挿入孔が形成されているのに対し、固定のチェーンガイドAが両端部にボルト挿入用の挿入孔が形成されている点でのみ相違している。
【0023】
そのため、ここでは、揺動可能なチェーンガイドAの構成について以下に説明し、固定配置のチェーンガイドAについては同一の部分に同一の符号を付して説明を省略する。
【0024】
図2乃至図4に示すように、チェーンガイドAは、タイミングチェーン5の移動方向に長く延びるガイドベース21と、そのガイドベース21の長さ方向に間隔をおいて設けられた複数のローラ軸31と、その複数のローラ軸31のそれぞれに回転自在に支持されたチェーン案内用の複数のローラ41とからなっている。
【0025】
ガイドベース21は、対向一対の側板部22間に複数の間隔保持板23を長さ方向に間隔をおいて形成した構成とされている。一対の側板部22は弓形状をなし、その上端部に支点軸14が挿入される挿入孔24が形成されている。
【0026】
また、一対の側板部22の対向内面には、ローラ軸31の軸端部を支持する複数の軸受凹部25が側板部22の長さ方向に間隔をおいて形成されている。
【0027】
図7に示すように、軸受凹部25は、側板部22のタイミングチェーン5と対向する外側面部から側板部22の幅方向に向き、上記外側面部での開口端が広幅とされたテーパ溝部25aと、そのテーパ溝部25aの狭小端に連通する軸支持部としての円形凹部25bとからなっている。ローラ軸31は、テーパ溝部25aから円形凹部25bに嵌合され、その円形凹部25bで支持される。
【0028】
ここで、テーパ溝部25aの狭小部の幅寸法をD11、円形凹部25bの内径をD12、ローラ軸31の外径をd10とすると、d10>D12>D11の関係が成り立つ寸法関係とされており、ローラ軸31は、テーパ溝部25aから円形凹部25bに押し込まれて、その円形凹部25bに締め代をもつ嵌め合い支持とされる。
【0029】
複数の軸受凹部25は、その円形凹部25bの中心を結ぶ線が凸形の円弧状線を描く円弧状の配置とされているが、曲線状の配置とされていてもよい。
【0030】
上記の構成からなるガイドベース21は、合成樹脂の成形品とされている。合成樹脂として耐油性、耐候性および強度的に優れた樹脂を用いるのが好ましい。そのような樹脂として、ポリアミド46(PA46)やポリアミド66(PA66)を挙げることができる。機械的強度をさらに向上させるために、それらの樹脂に強化ガラス繊維を混入するのが好ましい。
【0031】
なお、ガイドベース21は、アルミニウム合金やマグネシウム合金等の軽金属を用いて鋳造し、あるいは、ダイカスト成形してもよい。
【0032】
複数のローラ軸31は、複数の軸受凹部25のそれぞれに嵌合されている。ローラ軸31は、SUJ2やSC材を素材としている。このローラ軸31は、耐摩耗性を向上させるため、熱処理されて硬度が高められている。熱処理として、ここでは、光輝焼入れを採用しているが、高周波焼入れしてもよく、浸炭焼入れしてもよい。あるいは、浸炭窒化焼入れしてもよい。
【0033】
複数のローラ41は、複数のローラ軸31のそれぞれによって回転自在に支持されている。図6に示すように、ローラ41として、ここでは、針状ころ軸受が採用されている。針状ころ軸受41は、外輪42と、その内側に組み込まれた複数のころ43と、そのころ43を保持する保持器44とからなる。
【0034】
外輪42は、SPCやSCM等の金属板を絞り成形したシェル形であり、熱処理によって硬度が高められている。このとき、絞り成形の容易化を図るため、成形用素材としての金属板は、薄肉厚のものが好ましい。しかし、薄手の金属板を採用した場合、熱処理により円筒度が低下して、タイミングチェーン5の案内時に、そのタイミングチェーン5との接触によって異音が生じる。
【0035】
そのような不都合を解消するため、実施の形態では、厚さが1mm〜3mm程度の厚手の金属板を絞り成形するようにしている。
【0036】
また、シェル形外輪42の両端部には、保持器44を抜止めする内向き鍔46が形成されている。この内向き鍔46は、針状ころ軸受41の組立ての容易化を図るため、針状ころ43を保持する保持器44の組込み後において曲げ成形される。
【0037】
図8に示すように、駆動スプロケット2のピッチ円直径をD、ローラ41の外径をDとしたとき、駆動スプロケット2のピッチ円直径Dに対するローラの外径Dの比(D/D)は、5/3〜5/1の範囲とされている。
【0038】
一般的に、駆動スプロケット2は、そのピッチ円直径が40〜50mm程度である。このため、実施の形態では、外径が8〜30mm程度のローラ41を採用するようにしている。
【0039】
なお、針状ころ軸受の外輪42は削り出しによって形成されたものであってもよい。このような針状ころ軸受に代えて円筒ころ軸受を採用するようにしてもよい。また、針状ころ軸受や円筒ころ軸受は、保持器のない総ころタイプのものであってもよい。
【0040】
実施の形態で示すチェーン伝動装置は上記の構造からなり、駆動スプロケット2と従動スプロケット4間に掛け渡されたタイミングチェーン5の移動によってクランク軸1の回転をカム軸3に伝達するトルク伝達状態において、負荷の変動によりタイミングチェーン5の張力が変化すると、チェーンテンショナ15が作動して、その張力変化を吸収する。このため、タイミングチェーン5のバタツキを抑制することができる。
【0041】
クランク軸1の回転をカム軸3に伝達するトルク伝達時、揺動可能なチェーンガイドAおよび固定のチェーンガイドAのそれぞれのころ軸受からなるローラ41は高速移動するタイミングチェーン5との接触により回転し、タイミングチェーン5は転がり案内される。
【0042】
このように、タイミングチェーン5はローラ41の転がりによって案内されるため、タイミングチェーン5の移動抵抗が小さく、タイミングチェーン5はスムーズに移動し、ロスなくトルク伝達されることになる。
【0043】
タイミングチェーン5の移動によるカム軸3への回転トルクの伝達において、駆動スプロケット2のピッチ円直径Dとタイミングチェーン5の移動を案内するローラ41の外径Dの比が大きくなり過ぎると、最大で8000rpm程度とされるエンジンの高速回転時、ローラ41が高速回転して、外輪42ところ43との接触部、あるいは、ころ43とローラ軸31との接触部で潤滑不良が生じる。
【0044】
また、駆動スプロケット2のピッチ円直径Dとローラ41の外径Dの比が小さくなると、ローラ41の外径が大きくなって重くなり、その外径の大径化によってエンジンレイアウトが困難になる。
【0045】
実施の形態においては、クランク軸1に取付けられる駆動スプロケット2のピッチ円直径Dとローラ41の外径Dの比(D/D)を5/1以下としているため、ローラ41の回転数は、40000rpmを超えることがない。このため、ころ43の接触部で潤滑不良が生じるというようなことはない。
【0046】
また、クランク軸1上に設けられる駆動スプロケット2は、普通、そのピッチ円直径φが40〜50mm程度であり、駆動スプロケット2のピッチ円直径Dに対するローラの外径Dの比(D/D)を5/3以上としているため、ローラ41の外径φは30.0mmを超える大きさとはならない。このため、軽量で取り扱いの容易な小径のローラを採用することができ、エンジンレイアウトの容易化を図ることができる。
【符号の説明】
【0047】
チェーンガイド
チェーンガイド
1 クランク軸
2 駆動スプロケット
3 カム軸
4 従動スプロケット
5 タイミングチェーン(チェーン)
31 ローラ軸
41 ローラ(針状ころ軸受)
42 外輪
43 針状ころ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸に取付けられた駆動スプロケットとカム軸に取付けられた従動スプロケット間にタイミングチェーンを掛け渡し、そのタイミングチェーンの弛み側チェーンの一側部に、タイミングチェーンの移動を案内する複数の回転可能なローラをタイミングチェーンの移動方向に間隔をおいて保持する揺動可能なチェーンガイドを設け、そのチェーンガイドの揺動側端部にチェーンテンショナの調整力を負荷して前記ローラをタイミングチェーンに押し付けるようにしたカム軸駆動用のチェーン伝動装置において、
前記駆動スプロケットのピッチ円直径Dに対する前記ローラの外径Dの比(D/D)を5/3〜5/1の範囲としたことを特徴とするカム軸駆動用のチェーン伝動装置。
【請求項2】
前記タイミングチェーンの張り側チェーンの一側方に、前記チェーンガイドと同一の構成からなる固定配置のチェーンガイドを設けた請求項1に記載のカム軸駆動用のチェーン伝動装置。
【請求項3】
前記ローラが、外輪の内側に複数のころが組み込まれたからころ軸受からなる請求項1又は2に記載のカム軸駆動用のチェーン伝動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−24367(P2013−24367A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161828(P2011−161828)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】