カルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法および製造装置
【課題】スクライブ位置の誤差に起因する非発電領域を削減し、発電効率を向上させることができるカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に裏面電極を成膜・分割する工程と、裏面電極上に光吸収層を成膜・分割する工程と、光吸収層上に透明電極を成膜・分割する工程とを備えたカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法であり、光吸収層の分割工程および透明電極の分割工程の少なくとも一方は、基板の成膜側と反対側から波長800〜2000nmの赤外光を照射し、裏面電極の分割溝を透過して基板の成膜側へ達する赤外光を基板の成膜側に設けた撮像手段によって検出し、赤外光の濃淡により分割溝の端部の位置を認識し、認識した溝の端部の位置に基いて光吸収層および/または透明電極のスクライブ位置を決定し、撮像手段は、スクライブ手段と一体化して設けられ、両者は一体となって駆動することを特徴とする。
【解決手段】基板上に裏面電極を成膜・分割する工程と、裏面電極上に光吸収層を成膜・分割する工程と、光吸収層上に透明電極を成膜・分割する工程とを備えたカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法であり、光吸収層の分割工程および透明電極の分割工程の少なくとも一方は、基板の成膜側と反対側から波長800〜2000nmの赤外光を照射し、裏面電極の分割溝を透過して基板の成膜側へ達する赤外光を基板の成膜側に設けた撮像手段によって検出し、赤外光の濃淡により分割溝の端部の位置を認識し、認識した溝の端部の位置に基いて光吸収層および/または透明電極のスクライブ位置を決定し、撮像手段は、スクライブ手段と一体化して設けられ、両者は一体となって駆動することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、光吸収層がカルコパイライト系化合物からなるカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法に係り、特に、薄膜太陽電池のうち非発電領域の占める割合を削減し、発電効率を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、シリコンなどの単結晶型太陽電池、多結晶型太陽電池、薄膜型太陽電池などの種類に大別され、これらのうち薄膜型のものは、同出力の他の太陽電池と比較して原料の使用量が少なく、また、製造プロセスが簡易かつ低エネルギーで済むという利点から、商品化開発が進められている。
【0003】
薄膜型太陽電池の一種であるカルコパイライト型薄膜太陽電池は、カルコパイライト系化合物(例えばCu(In1−xGax)Se2、以下CIGSと略称する)からなるCIGS層をp型の光吸収層として有し、基本的な構造として、基板、裏面電極層、p型光吸収層、n型バッファ層、透明電極層からなり、光を照射することによって裏面電極層と透明電極層から電気を取り出すことができる。
【0004】
このようなCIGS層を光吸収層として備えた一般的なカルコパイライト型薄膜太陽電池(単電池)の層構造を図1に示す。この電池は、(a)のソーダライムガラス(以下、SLGと略称する)基板上10に、正極として機能する(b)のMo裏面電極層11がスパッタリング等により形成されている。Mo裏面電極層11上には、必要に応じてNa源としてのNaディップ層を形成し、そのNaディップ層を介するかまたはMo裏面電極層11上に直接的に、(c)のCu−In−Gaからなる光吸収層プリカーサ12が成膜され、(d)続いてセレン化水素(H2Se)雰囲気中熱処理することにより光吸収層プリカーサにSeを拡散させる処理を行いCIGSからなるp型光吸収層13´が形成される。(e)さらに、光吸収層13´の上に化学析出法(Chemical Bath Deposition法、以下、CBDと略称する)によって例えばCdSやZnS、InSからなるバッファ層13´´が形成されて(p型光吸収層13´およびバッファ層13´´をまとめて以下、光吸収層13とする)、その上に(f)の例えばZnOやZnAlO等からなる透明電極層14が形成されている。
【0005】
図1に示す単電池は、所望の電圧を得るために直列に接続される必要があるため、通常、図2に示すように、単電池が直列に接続された構造となるように各層が形成される。すなわち、まず(a)ガラス基板上に裏面電極層が形成され、(b)裏面電極層がスクライブ等の手段により複数の領域に分割され、続いて(c)その上に光吸収層が形成され、(d)光吸収層が複数の領域に分割され、最後に(e)その上に透明電極層が形成され、(f)透明電極層が複数の領域に分割される。
【0006】
このような形成方法によれば、図4に示すように、分割された裏面電極層11aを正極とし、分割された透明電極層14aを負極として、その間に分割された光吸収層13aを保持した単電池が複数形成され、透明電極層14aのT字状下端部15が隣接する単電池の裏面電極層11aに接続される形で、これら単電池が直列接続された構造が得られる。
【0007】
従来、このように裏面電極層、光吸収層および透明電極層を複数に分割する際は、先端に刃部を有するスクライブ等の手段によって各層を切削して行っているが、そのスクライブ間隔は予め決められた所定の間隔にて機械的に行われるため、分割位置の誤差が不可避であった。
【0008】
すなわち、図6に示すように、符号20、21および22で示す3箇所でスクライブが行われ、これらは互いに隣接していることが好ましいが、そのスクライブ間隔を厳密に制御することは困難であるため、符号CおよびEで示す領域が残存するようスクライブ間隔が設定される。このように残存した領域CおよびEに存在する光吸収層は周囲を取り囲む透明電極層が裏面電極層と接触しているため電位差が0であり、発電に寄与しない。そのため、スクライブ部であるために不可避的に発電に寄与しない領域B、DおよびFに加えて、領域CおよびEの部分も発電に寄与せず、太陽電池全体として発電を行うのは領域Aのみとなってしまい、発電効率が低下するという問題があった。
【0009】
例えば、発電セル長(領域AF)が約5mmで、スクライブ部(領域B、DおよびF)の幅が約50μm程度で、領域CおよびEがそれぞれ約100μmである場合、非発電領域は面積比で7%を占める。また、発電に寄与しない光吸収層が存在するために、原料の利用率も低下するという問題もある。
【0010】
このような問題に対して、Mo裏面電極層のスクライブ溝にレーザー光を照射し、その透過光や反射光を光学手段にて検出して、その検出結果によって光吸収層および透明電極層のスクライブ位置の補正を行なう技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2005−515639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、光学手段からの検出結果を受けてスクライブ手段を機械的に駆動させて位置の補正を行なうため、その機械的動作精度に起因して、誤差を完全には無くせないという問題が依然として存在する。
【0013】
本願発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、裏面電極層にスクライブ溝を設けて、続いてこの上に光吸収層および透明電極層を形成してスクライブ溝を設けるにあたり、裏面電極層の溝と、光吸収層および透明電極層の溝との間の非発電領域を削減し、太陽電池の発電効率を向上させることができるカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明は、ガラス基板上にMoからなる裏面電極層を成膜する工程と、裏面電極層をスクライブして複数の裏面電極層に分割する工程と、複数の裏面電極層上にCu、InおよびGaを含むカルコパイライト型化合物からなる光吸収層を成膜する工程と、光吸収層をスクライブして複数の光吸収層に分割する工程と、複数の光吸収層上に透明電極層を成膜する工程と、透明電極層をスクライブして複数の透明電極層に分割する工程とを備えたカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法であって、光吸収層を分割する工程および透明電極層を分割する工程の少なくとも一方の工程は、ガラス基板の成膜側と反対側から波長800〜2000nmの赤外光を照射し、赤外光のうち裏面電極層の分割溝を透過してガラス基板の成膜側へ達する赤外光をガラス基板の成膜側に設けた撮像手段によって検出し、赤外光の濃淡により裏面電極層の分割溝の端部の位置を認識し、その認識した溝の端部の位置に基いて光吸収層および/または透明電極層のスクライブ位置を決定し、撮像手段は、スクライブ手段と一体化して設けられ、両者は一体となって駆動することを特徴としている。
【0015】
本願発明においては、赤外光の波長は、860〜950nmであることを好ましい態様としている。
【0016】
本願発明においては、撮像手段は、裏面電極の分割溝を検出し、この分割溝の座標と前記スクライブ手段に予め入力された指定座標との差異を算出し、分割溝の座標を基準に、スクライブ位置を補正および移動してスクライブを行うことを好ましい態様としている。
【0017】
本願発明においては、撮像手段は、Si素子カメラであることを好ましい態様としている。
【0018】
本願発明においては、撮像手段は、裏面電極の分割溝の光学分解能が5μm以下であることを好ましい態様としている。
【0019】
また、本願発明は、ガラス基板上にMoからなる裏面電極層を形成する裏面電極層成膜手段と、裏面電極層を分割する裏面電極層分割手段と、裏面電極層上にCu、InおよびGaを含むカルコパイライト型化合物からなる光吸収層を形成する光吸収層成膜手段と、光吸収層を分割する光吸収層分割手段と、光吸収層上に透明電極層を形成する透明電極成膜手段と、透明電極層を分割する透明電極層分割手段とを備えたカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置であって、光吸収層分割手段および透明電極層分割手段の少なくとも一方は、少なくとも一部が赤外光透過部で構成されガラス基板を載置するステージと、ステージの下方に設けられ赤外光透過部を介してステージ上に載置されるガラス基板の裏面側に赤外光を照射する赤外光照射手段と、ステージの上方に設けられ赤外光の透過光を検出する撮像手段と、先端が平坦になった刃部を有し、光吸収層および/または透明電極層上を駆動しスクライブ加工を施してこれら層を分割するスクライブ手段とを備え、撮像手段は、スクライブ手段と一体に設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本願発明によれば、Mo裏面電極層の分割溝を検出する撮像手段がスクライブ手段と一体に設けられているので、撮像手段によるMo裏面電極層の分割溝の検出結果によりスクライブ手段が移動して光吸収層および透明電極層のスクライブを行うにあたり、誤差が生じることが抑制され、Mo裏面電極層の分割溝、光吸収層の分割溝および透明電極層の分割溝が隣接するようにスクライブされ、これら溝どうしの間の非発電領域を削減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】カルコパイライト型薄膜太陽電池の製造工程を示す模式断面図である。
【図2】従来のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造工程を示す模式図である。
【図3】本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造工程を示す模式図である。
【図4】従来のカルコパイライト型薄膜太陽電池を示す模式断面図である。
【図5】本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池を示す模式断面図である。
【図6】従来のカルコパイライト型薄膜太陽電池における非発電領域を示す模式断面図である。
【図7】本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池における非発電領域を示す模式断面図である。
【図8】本願発明の撮像手段およびスクライブ手段による赤外光検出を示す模式断面図である。
【図9】本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置の一例を示す斜視図である。
【図10】本願発明の撮像手段およびスクライブ手段を示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
【図11】本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置におけるステージを示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図12】赤外光の波長と、透過率との関係を示すグラフである。
【図13】赤外光の波長とコントラスト比との関係を示すグラフである。
【図14】本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置の他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本願発明の実施形態について更に詳細に説明する。
図3は、本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造工程を示す模式図である。まず、SLG基板10上に、正極として機能するMo裏面電極層11が金属Moターゲットを用いてスパッタリング法により成膜される(図3(a))。そして、その上に形成される光吸収層の性能向上を目的としてNaを拡散させるため、必要に応じてNa源としての図示しないNaディップ層が形成される場合がある。
【0023】
そのNaディップ層が設けられた裏面電極層または裏面電極層単体は、先端にスクライブ刃を有する図示しないメカニカルスクライブ手段あるいは先端からレーザーを放射して切削するレーザースクライブ手段によって切削され、分割溝20によって複数に分割されたMo裏面電極層11aが形成される(図3(b))。
【0024】
次に、Mo裏面電極層11a上に、金属InターゲットおよびCu−Ga合金ターゲットを用いたスパッタリング法によりIn層とGu−Ga層からなる光吸収層プリカーサ(図示せず)が形成さる。続いてH2Se雰囲気下で例えば500℃以上の加熱処理を行い、光吸収層プリカーサにSeを拡散させ、Cu−In−Ga−Seからなるp型光吸収層13´が成膜される(図3(c))。さらに、このp型光吸収層13´の上には、例えばCBD法によりCdS,ZnSあるいはInS等のバッファ層13´´が形成され、光吸収層13となる。
【0025】
次に、図示しない作業ステージ上に載置され、光吸収層13は、スクライブ手段によって切削され、分割溝21によって複数に分割された光吸収層13aが形成される(図3(d))。ここで、図8(a)は、この工程で用いられる本願発明のスクライブ手段40と撮像手段50を示す。スクライブ手段40は、ヘッド41の先端に刃部42を有し、支持部材43を介して撮像手段50が一体的に設けられている。また、作業ステージの下方からは、赤外光照射手段30によって、波長800〜2000nm、好ましくは860〜950nmの赤外光が照射される。なお、スクライブ手段としては、上記するヘッド41の先端にスクライブ刃部42を有するメカニカルスクライブ手段の他、レーザースクライブ手段を用いることができる。
【0026】
図8(a)に示すように、赤外光は一部がMo裏面電極層11に遮蔽されて、一部が分割溝を透過し、撮像手段50によって検出される。この赤外光が検出された領域と、検出強度が低下して赤外光が検出されない領域との境界すなわち分割溝20の端部を撮像手段50によって認識することにより、また、撮像手段50とスクライブ刃42の距離を予め測定しておくことにより、分割溝20の端部に対するスクライブ手段40の現在の変位を算出することができる。特に、撮像手段50が、スクライブ刃42の位置あるいはその直下を撮影するように設置されていると好ましい。
【0027】
スクライブ手段は、予め光吸収層13においてスクライブを行う座標が設定されているが、その予め設定された座標に基いてスクライブ手段の位置を決定すると、スクライブ手段の機械的な駆動による誤差や、太陽電池基板のステージへの位置決めの誤差に起因して、理想的なスクライブ位置から数μm〜数十μm程度の誤差が生じている場合がある。ここで、撮像手段50による赤外光の検出を受けて、実際にスクライブ手段が存在する位置を算出し、理想的なスクライブ位置から外れている場合は、スクライブ位置の補正を行ない、スクライブを実施する。
【0028】
続いて、光吸収層13a上に、ZnOターゲットまたはZnAlO合金ターゲットを用いたスパッタリング法によりZnOまたはZnAlO等からなる負極である透明電極層14が成膜される(図3(e))。
【0029】
次に、図示しない作業ステージ上に載置され、透明電極層14は、スクライブ手段によって切削され、分割溝22によって複数に分割された透明電極層14aが形成される(図3(f))。ここで、図8(b)は、この工程で用いられる本願発明のスクライブ手段40と撮像手段50を示す。スクライブ手段40は、図8(a)と同様、撮像手段50が一体的に設けられている。また、作業ステージの下方からは、赤外光照射手段30によって、波長800〜2000nm、好ましくは860〜950nmの赤外光が照射される。
【0030】
図8(b)に示すように、赤外光は一部がMo裏面電極層11に遮蔽されて、一部が分割溝20を透過し、撮像手段50によって検出される。この検出結果から上述と同様にして分割溝20の端部に対するスクライブ手段40の現在の変位を算出し、予めスクライブを行うべく設定された座標からの誤差がある場合は、スクライブ位置の補正を行ない、透明電極層14のスクライブを実施する。以上のようにして、図5に示す本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池が得られる。
【0031】
従来の製造方法によって得られる太陽電池の単電池部分を拡大した模式図を図6に、本願発明によって得られる太陽電池の単電池部分を拡大した模式図を図7にそれぞれ示す。従来の太陽電池では、スクライブ領域B、DおよびFに加え、分割溝20と21との間、分割溝21と22との間に、スクライブ位置の誤差を考慮したスクライブ間隔の設定に起因して領域CおよびEが形成されてしまっており、上述の通りこの領域は発電に寄与せずに全体として発電効率を低下させる原因となっていたが、本願発明の太陽電池では、上記誤差を補正してスクライブを行なうことができるため、スクライブ領域B、DおよびFが全て隣接して、非発電領域である領域CおよびEが形成されず、全体として発電効率が向上している。
【0032】
特に、本願発明では、撮像手段によってMo裏面電極の分割溝の端部が検出されて、スクライブ位置の補正を行なう際に、スクライブ手段と撮像手段が一体化しているので、撮像手段と刃部42との距離を短くでき、よって撮像手段と刃部42との相対位置の誤差を低減することができる。したがって、スクライブ位置への補正精度を一層高めることができる。これにより、スクライブ手段の補正による機械的な移動の際に確実に誤差を抑制し所望の位置まで補正を行なうことができるという効果を奏する。
【0033】
図9に、本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置の好ましい実施形態を示す。符号70は、スクライブを行うためのステージであり、裏面側から赤外光を照射する目的のため、その一部が透過ステージ71として構成されている。ステージ70上には、光吸収層のスクライブ工程および裏面電極層のスクライブ工程に供される太陽電池が所定の位置に位置決めされて載置される。
【0034】
ステージ70上方には、スクライブ手段40と撮像手段50が一体化されたものがスクライブ手段台座60に設置されており、さらにスクライブ手段40と撮像手段50を有する台座60が複数台設置されている。スクライブ方向の矢印で示すように、個々のスクライブ手段40は台座60に沿って動作し、スクライブを行う。また、他の矢印(符号71の延在方向)で示すように、台座60は、スクライブ方向と直角方向に動作することができ、撮像手段50がMo裏面電極層の分割溝から赤外光を検出し、スクライブ位置の補正が必要であると判断された際には、補正が必要なスクライブ手段をその座標まで移動させることができる。
【0035】
スクライブ位置を補正された個々のスクライブ手段40は、図面左端部から右端部へ向けて並列に動作してスクライブを行う。例えば図では1〜3本目のスクライブを同時に行い、続いて、台座60を移動させて、個々のスクライブ手段40を4〜6本目のスクライブ位置まで移動させる。上記と同様にして赤外光照射および検出により4〜6本目のスクライブ位置を補正して、図面右端部から左端部へ向けて並列に動作してスクライブを行う。このようにして、必要な数のスクライブを行う。
【0036】
図11に、透過ステージ71の模式図を示す。ステージ70には、SLG基板10においてスクライブを行う位置に、透過ステージ71が設けられている。透過ステージ71は、例えばガラス等の赤外光を透過させる材料で構成されており、その下方に赤外光照射手段30が設けられている。なお、図では省略されているが、透過ステージ71は、スクライブ位置に対応して複数箇所に設けることもできる。
【0037】
さらに、図14に、本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置の他の実施形態を示す。本形態の製造装置は図9に示す装置と同様、スクライブを行うためのステージ70、透過ステージ71を備える。
【0038】
また、ステージ70上方には、スクライブ手段40と撮像手段50が一体化されたものがスクライブ手段台座60に設置されている。本形態では、図9の装置と異なり、1台のスクライブ手段台座60に複数(例えば3つ)のスクライブ手段40と撮像手段50が設定されている。矢印で示すように、個々のスクライブ手段40は台座60に沿って動作し、スクライブ位置への移動およびその補正を行なう。このように、1台の台座に複数のスクライブ手段40と撮像手段50を設けた場合、台座60上での座標スケールを各スクライブ手段40で共通化することができるとともに、複数の台座60間の精度誤差を考慮する必要がないため、さらにスクライブの位置精度を高めることができる。なお、他の矢印で示すように、台座60はスクライブ方向に動作することができ、台座60が移動することによりスクライブがなされる。
【0039】
本願発明では、SLG基板10の裏面側から照射する赤外光は波長が800〜2000nmであることが好ましい。その理由を図12のグラフを用いて説明する。図12は、SLG基板10の裏面側から照射する光の波長に対して、照射する光がCIGS層を透過する率を示したものである。なお、実線で示される値はMo裏面電極層がスクライブにより除去されたCIGS層のみが存在する部分の透過率であり、破線で示される値はMo裏面電極層が除去されずCIGS層とMo裏面電極層の両方が存在する部分の透過率である。この図によると、波長が800nm未満の場合、実線で示されるように光はCIGS層をほとんど透過することがないため、光が撮像手段まで到達することがなく、Mo裏面電極の分割溝を検出することができない。また、波長が2000nmより大きいと、Mo裏面電極層およびCIGS層の両方を透過する光量が増加するため、透過光量の差を利用してMo裏面電極層の端部を検出する制度が低下していくためである。
【0040】
また、特に、赤外光は波長が860〜950nmであることが好ましい。その理由を図13のグラフを用いて説明する。図13は図12におけるCIGS層のみが存在する部分の透過率(実線)をMo裏面電極およびCIGS層の両方が存在する部分の透過率(破線)で割った値(コントラスト比)である。図示されるように、この波長の範囲においてはコントラスト比が約40と他の波長範囲に比べ特に大きいため、Mo裏面電極層の分割溝の端部の濃淡が強くなり、より明確に溝の端部の輪郭を検出することができるからである。
【0041】
さらに、波長が1000nm以上であると、その波長域を検出するためには、InGaAs素子を受光センサーとして使用した高価な撮像手段が必要になる。したがって、太陽電池の製造装置のコスト、ひいては太陽電池の製造コストが増大してしまうが、860〜950nmの波長域の検出であれば、Si素子を受光センサーとして使用した安価な撮像手段を使用することができる。特に、複数のスクライブ手段を設置する場合、撮像手段も複数台設置されるため、太陽電池の製造コスト低減の面からSi素子を受光センサーとして利用できる860〜950nmの波長域であることが好ましい。
【0042】
なお、上記実施形態では、SLGを基板として用いたが、SLGに代えて白板ガラスやマイカを基板として用いることも可能である。また、p型光吸収層としてCu−In−Ga−Seからなるカルコパイライト型化合物を示したが、前記Seに加えSを含ませたものとしても良い。さらに、図14に示す製造装置において台座60をスクライブ方向に移動させるようにしたが、台座60に代えてステージ70をスクライブ方向に移動させることによりスクライブするようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0043】
高発電効率を有するカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造に有望である。
【符号の説明】
【0044】
10…ソーダライムガラス基板、
11…Mo裏面電極層、
11a…分割されたMo裏面電極層、
12…光吸収層プリカーサ、
13…光吸収層、
13´…p型光吸収層、
13´´…バッファ層、
13a…分割されたCu−In−Ga−Se光吸収層、
14…透明電極層、
14a…分割された透明電極層、
15…裏面電極−透明電極接点、
20…Mo裏面電極層分割溝、
21…光吸収層分割溝、
22…透明電極層分割溝、
30…赤外光照射手段、
40…スクライブ手段、
41…スクライブヘッド、
42…スクライブ刃部、
43…支持部材、
50…撮像手段、
60…スクライブ手段台座、
70…ステージ、
71…透過ステージ、
A…発電領域、
B、D、F…スクライブ領域、
C、E…非発電領域。
【技術分野】
【0001】
本願発明は、光吸収層がカルコパイライト系化合物からなるカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法に係り、特に、薄膜太陽電池のうち非発電領域の占める割合を削減し、発電効率を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、シリコンなどの単結晶型太陽電池、多結晶型太陽電池、薄膜型太陽電池などの種類に大別され、これらのうち薄膜型のものは、同出力の他の太陽電池と比較して原料の使用量が少なく、また、製造プロセスが簡易かつ低エネルギーで済むという利点から、商品化開発が進められている。
【0003】
薄膜型太陽電池の一種であるカルコパイライト型薄膜太陽電池は、カルコパイライト系化合物(例えばCu(In1−xGax)Se2、以下CIGSと略称する)からなるCIGS層をp型の光吸収層として有し、基本的な構造として、基板、裏面電極層、p型光吸収層、n型バッファ層、透明電極層からなり、光を照射することによって裏面電極層と透明電極層から電気を取り出すことができる。
【0004】
このようなCIGS層を光吸収層として備えた一般的なカルコパイライト型薄膜太陽電池(単電池)の層構造を図1に示す。この電池は、(a)のソーダライムガラス(以下、SLGと略称する)基板上10に、正極として機能する(b)のMo裏面電極層11がスパッタリング等により形成されている。Mo裏面電極層11上には、必要に応じてNa源としてのNaディップ層を形成し、そのNaディップ層を介するかまたはMo裏面電極層11上に直接的に、(c)のCu−In−Gaからなる光吸収層プリカーサ12が成膜され、(d)続いてセレン化水素(H2Se)雰囲気中熱処理することにより光吸収層プリカーサにSeを拡散させる処理を行いCIGSからなるp型光吸収層13´が形成される。(e)さらに、光吸収層13´の上に化学析出法(Chemical Bath Deposition法、以下、CBDと略称する)によって例えばCdSやZnS、InSからなるバッファ層13´´が形成されて(p型光吸収層13´およびバッファ層13´´をまとめて以下、光吸収層13とする)、その上に(f)の例えばZnOやZnAlO等からなる透明電極層14が形成されている。
【0005】
図1に示す単電池は、所望の電圧を得るために直列に接続される必要があるため、通常、図2に示すように、単電池が直列に接続された構造となるように各層が形成される。すなわち、まず(a)ガラス基板上に裏面電極層が形成され、(b)裏面電極層がスクライブ等の手段により複数の領域に分割され、続いて(c)その上に光吸収層が形成され、(d)光吸収層が複数の領域に分割され、最後に(e)その上に透明電極層が形成され、(f)透明電極層が複数の領域に分割される。
【0006】
このような形成方法によれば、図4に示すように、分割された裏面電極層11aを正極とし、分割された透明電極層14aを負極として、その間に分割された光吸収層13aを保持した単電池が複数形成され、透明電極層14aのT字状下端部15が隣接する単電池の裏面電極層11aに接続される形で、これら単電池が直列接続された構造が得られる。
【0007】
従来、このように裏面電極層、光吸収層および透明電極層を複数に分割する際は、先端に刃部を有するスクライブ等の手段によって各層を切削して行っているが、そのスクライブ間隔は予め決められた所定の間隔にて機械的に行われるため、分割位置の誤差が不可避であった。
【0008】
すなわち、図6に示すように、符号20、21および22で示す3箇所でスクライブが行われ、これらは互いに隣接していることが好ましいが、そのスクライブ間隔を厳密に制御することは困難であるため、符号CおよびEで示す領域が残存するようスクライブ間隔が設定される。このように残存した領域CおよびEに存在する光吸収層は周囲を取り囲む透明電極層が裏面電極層と接触しているため電位差が0であり、発電に寄与しない。そのため、スクライブ部であるために不可避的に発電に寄与しない領域B、DおよびFに加えて、領域CおよびEの部分も発電に寄与せず、太陽電池全体として発電を行うのは領域Aのみとなってしまい、発電効率が低下するという問題があった。
【0009】
例えば、発電セル長(領域AF)が約5mmで、スクライブ部(領域B、DおよびF)の幅が約50μm程度で、領域CおよびEがそれぞれ約100μmである場合、非発電領域は面積比で7%を占める。また、発電に寄与しない光吸収層が存在するために、原料の利用率も低下するという問題もある。
【0010】
このような問題に対して、Mo裏面電極層のスクライブ溝にレーザー光を照射し、その透過光や反射光を光学手段にて検出して、その検出結果によって光吸収層および透明電極層のスクライブ位置の補正を行なう技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2005−515639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、光学手段からの検出結果を受けてスクライブ手段を機械的に駆動させて位置の補正を行なうため、その機械的動作精度に起因して、誤差を完全には無くせないという問題が依然として存在する。
【0013】
本願発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、裏面電極層にスクライブ溝を設けて、続いてこの上に光吸収層および透明電極層を形成してスクライブ溝を設けるにあたり、裏面電極層の溝と、光吸収層および透明電極層の溝との間の非発電領域を削減し、太陽電池の発電効率を向上させることができるカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明は、ガラス基板上にMoからなる裏面電極層を成膜する工程と、裏面電極層をスクライブして複数の裏面電極層に分割する工程と、複数の裏面電極層上にCu、InおよびGaを含むカルコパイライト型化合物からなる光吸収層を成膜する工程と、光吸収層をスクライブして複数の光吸収層に分割する工程と、複数の光吸収層上に透明電極層を成膜する工程と、透明電極層をスクライブして複数の透明電極層に分割する工程とを備えたカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法であって、光吸収層を分割する工程および透明電極層を分割する工程の少なくとも一方の工程は、ガラス基板の成膜側と反対側から波長800〜2000nmの赤外光を照射し、赤外光のうち裏面電極層の分割溝を透過してガラス基板の成膜側へ達する赤外光をガラス基板の成膜側に設けた撮像手段によって検出し、赤外光の濃淡により裏面電極層の分割溝の端部の位置を認識し、その認識した溝の端部の位置に基いて光吸収層および/または透明電極層のスクライブ位置を決定し、撮像手段は、スクライブ手段と一体化して設けられ、両者は一体となって駆動することを特徴としている。
【0015】
本願発明においては、赤外光の波長は、860〜950nmであることを好ましい態様としている。
【0016】
本願発明においては、撮像手段は、裏面電極の分割溝を検出し、この分割溝の座標と前記スクライブ手段に予め入力された指定座標との差異を算出し、分割溝の座標を基準に、スクライブ位置を補正および移動してスクライブを行うことを好ましい態様としている。
【0017】
本願発明においては、撮像手段は、Si素子カメラであることを好ましい態様としている。
【0018】
本願発明においては、撮像手段は、裏面電極の分割溝の光学分解能が5μm以下であることを好ましい態様としている。
【0019】
また、本願発明は、ガラス基板上にMoからなる裏面電極層を形成する裏面電極層成膜手段と、裏面電極層を分割する裏面電極層分割手段と、裏面電極層上にCu、InおよびGaを含むカルコパイライト型化合物からなる光吸収層を形成する光吸収層成膜手段と、光吸収層を分割する光吸収層分割手段と、光吸収層上に透明電極層を形成する透明電極成膜手段と、透明電極層を分割する透明電極層分割手段とを備えたカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置であって、光吸収層分割手段および透明電極層分割手段の少なくとも一方は、少なくとも一部が赤外光透過部で構成されガラス基板を載置するステージと、ステージの下方に設けられ赤外光透過部を介してステージ上に載置されるガラス基板の裏面側に赤外光を照射する赤外光照射手段と、ステージの上方に設けられ赤外光の透過光を検出する撮像手段と、先端が平坦になった刃部を有し、光吸収層および/または透明電極層上を駆動しスクライブ加工を施してこれら層を分割するスクライブ手段とを備え、撮像手段は、スクライブ手段と一体に設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本願発明によれば、Mo裏面電極層の分割溝を検出する撮像手段がスクライブ手段と一体に設けられているので、撮像手段によるMo裏面電極層の分割溝の検出結果によりスクライブ手段が移動して光吸収層および透明電極層のスクライブを行うにあたり、誤差が生じることが抑制され、Mo裏面電極層の分割溝、光吸収層の分割溝および透明電極層の分割溝が隣接するようにスクライブされ、これら溝どうしの間の非発電領域を削減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】カルコパイライト型薄膜太陽電池の製造工程を示す模式断面図である。
【図2】従来のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造工程を示す模式図である。
【図3】本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造工程を示す模式図である。
【図4】従来のカルコパイライト型薄膜太陽電池を示す模式断面図である。
【図5】本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池を示す模式断面図である。
【図6】従来のカルコパイライト型薄膜太陽電池における非発電領域を示す模式断面図である。
【図7】本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池における非発電領域を示す模式断面図である。
【図8】本願発明の撮像手段およびスクライブ手段による赤外光検出を示す模式断面図である。
【図9】本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置の一例を示す斜視図である。
【図10】本願発明の撮像手段およびスクライブ手段を示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
【図11】本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置におけるステージを示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図12】赤外光の波長と、透過率との関係を示すグラフである。
【図13】赤外光の波長とコントラスト比との関係を示すグラフである。
【図14】本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置の他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本願発明の実施形態について更に詳細に説明する。
図3は、本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造工程を示す模式図である。まず、SLG基板10上に、正極として機能するMo裏面電極層11が金属Moターゲットを用いてスパッタリング法により成膜される(図3(a))。そして、その上に形成される光吸収層の性能向上を目的としてNaを拡散させるため、必要に応じてNa源としての図示しないNaディップ層が形成される場合がある。
【0023】
そのNaディップ層が設けられた裏面電極層または裏面電極層単体は、先端にスクライブ刃を有する図示しないメカニカルスクライブ手段あるいは先端からレーザーを放射して切削するレーザースクライブ手段によって切削され、分割溝20によって複数に分割されたMo裏面電極層11aが形成される(図3(b))。
【0024】
次に、Mo裏面電極層11a上に、金属InターゲットおよびCu−Ga合金ターゲットを用いたスパッタリング法によりIn層とGu−Ga層からなる光吸収層プリカーサ(図示せず)が形成さる。続いてH2Se雰囲気下で例えば500℃以上の加熱処理を行い、光吸収層プリカーサにSeを拡散させ、Cu−In−Ga−Seからなるp型光吸収層13´が成膜される(図3(c))。さらに、このp型光吸収層13´の上には、例えばCBD法によりCdS,ZnSあるいはInS等のバッファ層13´´が形成され、光吸収層13となる。
【0025】
次に、図示しない作業ステージ上に載置され、光吸収層13は、スクライブ手段によって切削され、分割溝21によって複数に分割された光吸収層13aが形成される(図3(d))。ここで、図8(a)は、この工程で用いられる本願発明のスクライブ手段40と撮像手段50を示す。スクライブ手段40は、ヘッド41の先端に刃部42を有し、支持部材43を介して撮像手段50が一体的に設けられている。また、作業ステージの下方からは、赤外光照射手段30によって、波長800〜2000nm、好ましくは860〜950nmの赤外光が照射される。なお、スクライブ手段としては、上記するヘッド41の先端にスクライブ刃部42を有するメカニカルスクライブ手段の他、レーザースクライブ手段を用いることができる。
【0026】
図8(a)に示すように、赤外光は一部がMo裏面電極層11に遮蔽されて、一部が分割溝を透過し、撮像手段50によって検出される。この赤外光が検出された領域と、検出強度が低下して赤外光が検出されない領域との境界すなわち分割溝20の端部を撮像手段50によって認識することにより、また、撮像手段50とスクライブ刃42の距離を予め測定しておくことにより、分割溝20の端部に対するスクライブ手段40の現在の変位を算出することができる。特に、撮像手段50が、スクライブ刃42の位置あるいはその直下を撮影するように設置されていると好ましい。
【0027】
スクライブ手段は、予め光吸収層13においてスクライブを行う座標が設定されているが、その予め設定された座標に基いてスクライブ手段の位置を決定すると、スクライブ手段の機械的な駆動による誤差や、太陽電池基板のステージへの位置決めの誤差に起因して、理想的なスクライブ位置から数μm〜数十μm程度の誤差が生じている場合がある。ここで、撮像手段50による赤外光の検出を受けて、実際にスクライブ手段が存在する位置を算出し、理想的なスクライブ位置から外れている場合は、スクライブ位置の補正を行ない、スクライブを実施する。
【0028】
続いて、光吸収層13a上に、ZnOターゲットまたはZnAlO合金ターゲットを用いたスパッタリング法によりZnOまたはZnAlO等からなる負極である透明電極層14が成膜される(図3(e))。
【0029】
次に、図示しない作業ステージ上に載置され、透明電極層14は、スクライブ手段によって切削され、分割溝22によって複数に分割された透明電極層14aが形成される(図3(f))。ここで、図8(b)は、この工程で用いられる本願発明のスクライブ手段40と撮像手段50を示す。スクライブ手段40は、図8(a)と同様、撮像手段50が一体的に設けられている。また、作業ステージの下方からは、赤外光照射手段30によって、波長800〜2000nm、好ましくは860〜950nmの赤外光が照射される。
【0030】
図8(b)に示すように、赤外光は一部がMo裏面電極層11に遮蔽されて、一部が分割溝20を透過し、撮像手段50によって検出される。この検出結果から上述と同様にして分割溝20の端部に対するスクライブ手段40の現在の変位を算出し、予めスクライブを行うべく設定された座標からの誤差がある場合は、スクライブ位置の補正を行ない、透明電極層14のスクライブを実施する。以上のようにして、図5に示す本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池が得られる。
【0031】
従来の製造方法によって得られる太陽電池の単電池部分を拡大した模式図を図6に、本願発明によって得られる太陽電池の単電池部分を拡大した模式図を図7にそれぞれ示す。従来の太陽電池では、スクライブ領域B、DおよびFに加え、分割溝20と21との間、分割溝21と22との間に、スクライブ位置の誤差を考慮したスクライブ間隔の設定に起因して領域CおよびEが形成されてしまっており、上述の通りこの領域は発電に寄与せずに全体として発電効率を低下させる原因となっていたが、本願発明の太陽電池では、上記誤差を補正してスクライブを行なうことができるため、スクライブ領域B、DおよびFが全て隣接して、非発電領域である領域CおよびEが形成されず、全体として発電効率が向上している。
【0032】
特に、本願発明では、撮像手段によってMo裏面電極の分割溝の端部が検出されて、スクライブ位置の補正を行なう際に、スクライブ手段と撮像手段が一体化しているので、撮像手段と刃部42との距離を短くでき、よって撮像手段と刃部42との相対位置の誤差を低減することができる。したがって、スクライブ位置への補正精度を一層高めることができる。これにより、スクライブ手段の補正による機械的な移動の際に確実に誤差を抑制し所望の位置まで補正を行なうことができるという効果を奏する。
【0033】
図9に、本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置の好ましい実施形態を示す。符号70は、スクライブを行うためのステージであり、裏面側から赤外光を照射する目的のため、その一部が透過ステージ71として構成されている。ステージ70上には、光吸収層のスクライブ工程および裏面電極層のスクライブ工程に供される太陽電池が所定の位置に位置決めされて載置される。
【0034】
ステージ70上方には、スクライブ手段40と撮像手段50が一体化されたものがスクライブ手段台座60に設置されており、さらにスクライブ手段40と撮像手段50を有する台座60が複数台設置されている。スクライブ方向の矢印で示すように、個々のスクライブ手段40は台座60に沿って動作し、スクライブを行う。また、他の矢印(符号71の延在方向)で示すように、台座60は、スクライブ方向と直角方向に動作することができ、撮像手段50がMo裏面電極層の分割溝から赤外光を検出し、スクライブ位置の補正が必要であると判断された際には、補正が必要なスクライブ手段をその座標まで移動させることができる。
【0035】
スクライブ位置を補正された個々のスクライブ手段40は、図面左端部から右端部へ向けて並列に動作してスクライブを行う。例えば図では1〜3本目のスクライブを同時に行い、続いて、台座60を移動させて、個々のスクライブ手段40を4〜6本目のスクライブ位置まで移動させる。上記と同様にして赤外光照射および検出により4〜6本目のスクライブ位置を補正して、図面右端部から左端部へ向けて並列に動作してスクライブを行う。このようにして、必要な数のスクライブを行う。
【0036】
図11に、透過ステージ71の模式図を示す。ステージ70には、SLG基板10においてスクライブを行う位置に、透過ステージ71が設けられている。透過ステージ71は、例えばガラス等の赤外光を透過させる材料で構成されており、その下方に赤外光照射手段30が設けられている。なお、図では省略されているが、透過ステージ71は、スクライブ位置に対応して複数箇所に設けることもできる。
【0037】
さらに、図14に、本願発明のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置の他の実施形態を示す。本形態の製造装置は図9に示す装置と同様、スクライブを行うためのステージ70、透過ステージ71を備える。
【0038】
また、ステージ70上方には、スクライブ手段40と撮像手段50が一体化されたものがスクライブ手段台座60に設置されている。本形態では、図9の装置と異なり、1台のスクライブ手段台座60に複数(例えば3つ)のスクライブ手段40と撮像手段50が設定されている。矢印で示すように、個々のスクライブ手段40は台座60に沿って動作し、スクライブ位置への移動およびその補正を行なう。このように、1台の台座に複数のスクライブ手段40と撮像手段50を設けた場合、台座60上での座標スケールを各スクライブ手段40で共通化することができるとともに、複数の台座60間の精度誤差を考慮する必要がないため、さらにスクライブの位置精度を高めることができる。なお、他の矢印で示すように、台座60はスクライブ方向に動作することができ、台座60が移動することによりスクライブがなされる。
【0039】
本願発明では、SLG基板10の裏面側から照射する赤外光は波長が800〜2000nmであることが好ましい。その理由を図12のグラフを用いて説明する。図12は、SLG基板10の裏面側から照射する光の波長に対して、照射する光がCIGS層を透過する率を示したものである。なお、実線で示される値はMo裏面電極層がスクライブにより除去されたCIGS層のみが存在する部分の透過率であり、破線で示される値はMo裏面電極層が除去されずCIGS層とMo裏面電極層の両方が存在する部分の透過率である。この図によると、波長が800nm未満の場合、実線で示されるように光はCIGS層をほとんど透過することがないため、光が撮像手段まで到達することがなく、Mo裏面電極の分割溝を検出することができない。また、波長が2000nmより大きいと、Mo裏面電極層およびCIGS層の両方を透過する光量が増加するため、透過光量の差を利用してMo裏面電極層の端部を検出する制度が低下していくためである。
【0040】
また、特に、赤外光は波長が860〜950nmであることが好ましい。その理由を図13のグラフを用いて説明する。図13は図12におけるCIGS層のみが存在する部分の透過率(実線)をMo裏面電極およびCIGS層の両方が存在する部分の透過率(破線)で割った値(コントラスト比)である。図示されるように、この波長の範囲においてはコントラスト比が約40と他の波長範囲に比べ特に大きいため、Mo裏面電極層の分割溝の端部の濃淡が強くなり、より明確に溝の端部の輪郭を検出することができるからである。
【0041】
さらに、波長が1000nm以上であると、その波長域を検出するためには、InGaAs素子を受光センサーとして使用した高価な撮像手段が必要になる。したがって、太陽電池の製造装置のコスト、ひいては太陽電池の製造コストが増大してしまうが、860〜950nmの波長域の検出であれば、Si素子を受光センサーとして使用した安価な撮像手段を使用することができる。特に、複数のスクライブ手段を設置する場合、撮像手段も複数台設置されるため、太陽電池の製造コスト低減の面からSi素子を受光センサーとして利用できる860〜950nmの波長域であることが好ましい。
【0042】
なお、上記実施形態では、SLGを基板として用いたが、SLGに代えて白板ガラスやマイカを基板として用いることも可能である。また、p型光吸収層としてCu−In−Ga−Seからなるカルコパイライト型化合物を示したが、前記Seに加えSを含ませたものとしても良い。さらに、図14に示す製造装置において台座60をスクライブ方向に移動させるようにしたが、台座60に代えてステージ70をスクライブ方向に移動させることによりスクライブするようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0043】
高発電効率を有するカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造に有望である。
【符号の説明】
【0044】
10…ソーダライムガラス基板、
11…Mo裏面電極層、
11a…分割されたMo裏面電極層、
12…光吸収層プリカーサ、
13…光吸収層、
13´…p型光吸収層、
13´´…バッファ層、
13a…分割されたCu−In−Ga−Se光吸収層、
14…透明電極層、
14a…分割された透明電極層、
15…裏面電極−透明電極接点、
20…Mo裏面電極層分割溝、
21…光吸収層分割溝、
22…透明電極層分割溝、
30…赤外光照射手段、
40…スクライブ手段、
41…スクライブヘッド、
42…スクライブ刃部、
43…支持部材、
50…撮像手段、
60…スクライブ手段台座、
70…ステージ、
71…透過ステージ、
A…発電領域、
B、D、F…スクライブ領域、
C、E…非発電領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板上にMoからなる裏面電極層を成膜する工程と、
前記裏面電極層をスクライブして複数の裏面電極層に分割する工程と、
前記複数の裏面電極上にCu、In、Gaを含むカルコパイライト型化合物からなる光吸収層を成膜する工程と、
前記光吸収層をスクライブして複数の光吸収層に分割する工程と、
前記複数の光吸収層上に透明電極層を成膜する工程と、
前記透明電極層をスクライブして複数の透明電極層に分割する工程とを備えたカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法であって、
前記光吸収層を分割する工程および前記透明電極層を分割する工程の少なくとも一方の工程は、前記ガラス基板の成膜側と反対側から波長800〜2000nmの赤外光を照射し、前記赤外光のうち前記裏面電極層の分割溝を透過して前記ガラス基板の成膜側へ達する赤外光を前記ガラス基板の成膜側に設けた撮像手段によって検出し、前記赤外光の濃淡により前記裏面電極層の分割溝の端部の位置を認識し、その認識した溝の端部の位置に基いて前記光吸収層および/または前記透明電極層のスクライブ位置を決定し、
前記撮像手段は、前記スクライブ手段と一体化して設けられ、両者は一体となって駆動することを特徴とするカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記赤外光の波長は、860〜950nmであることを特徴とする請求項1に記載のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記撮像手段は、前記裏面電極層の分割溝を検出し、この分割溝の座標と前記スクライブ手段に予め入力された指定座標との差異を算出し、前記分割溝の座標を基準に、スクライブ位置を補正および移動してスクライブを行うことを特徴とする請求項1に記載のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記撮像手段は、Si素子を受光センサーとして用いたカメラであることを特徴とする請求項1に記載のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記撮像手段は、前記裏面電極の分割溝の光学分解能が5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項6】
ガラス基板上にMoからなる裏面電極層を形成する裏面電極層成膜手段と、
前記裏面電極層を分割する裏面電極層分割手段と、
前記裏面電極層上にCu、In、Gaを含むカルコパイライト型化合物からなる光吸収層を形成する光吸収層成膜手段と、
前記光吸収層を分割する光吸収層分割手段と、
前記光吸収層上に透明電極層を形成する透明電極層成膜手段と、
前記透明電極層を分割する透明電極層分割手段とを備えたカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置であって、
前記光吸収層分割手段および前記透明電極層分割手段の少なくとも一方は、
少なくとも一部が赤外光透過部で構成されガラス基板を載置するステージと、
前記ステージの下方に設けられ前記赤外光透過部を介して前記ステージ上に載置されるガラス基板の裏面側に赤外光を照射する赤外光照射手段と、
前記ステージの上方に設けられ前記赤外光の透過光を検出する撮像手段と、
先端が平坦になった刃部を有し、前記光吸収層および/または前記透明電極層上を駆動しスクライブ加工を施してこれら層を分割するスクライブ手段とを備え、
前記撮像手段は、前記スクライブ手段と一体に設けられていることを特徴とするカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置。
【請求項1】
ガラス基板上にMoからなる裏面電極層を成膜する工程と、
前記裏面電極層をスクライブして複数の裏面電極層に分割する工程と、
前記複数の裏面電極上にCu、In、Gaを含むカルコパイライト型化合物からなる光吸収層を成膜する工程と、
前記光吸収層をスクライブして複数の光吸収層に分割する工程と、
前記複数の光吸収層上に透明電極層を成膜する工程と、
前記透明電極層をスクライブして複数の透明電極層に分割する工程とを備えたカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法であって、
前記光吸収層を分割する工程および前記透明電極層を分割する工程の少なくとも一方の工程は、前記ガラス基板の成膜側と反対側から波長800〜2000nmの赤外光を照射し、前記赤外光のうち前記裏面電極層の分割溝を透過して前記ガラス基板の成膜側へ達する赤外光を前記ガラス基板の成膜側に設けた撮像手段によって検出し、前記赤外光の濃淡により前記裏面電極層の分割溝の端部の位置を認識し、その認識した溝の端部の位置に基いて前記光吸収層および/または前記透明電極層のスクライブ位置を決定し、
前記撮像手段は、前記スクライブ手段と一体化して設けられ、両者は一体となって駆動することを特徴とするカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記赤外光の波長は、860〜950nmであることを特徴とする請求項1に記載のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記撮像手段は、前記裏面電極層の分割溝を検出し、この分割溝の座標と前記スクライブ手段に予め入力された指定座標との差異を算出し、前記分割溝の座標を基準に、スクライブ位置を補正および移動してスクライブを行うことを特徴とする請求項1に記載のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記撮像手段は、Si素子を受光センサーとして用いたカメラであることを特徴とする請求項1に記載のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記撮像手段は、前記裏面電極の分割溝の光学分解能が5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項6】
ガラス基板上にMoからなる裏面電極層を形成する裏面電極層成膜手段と、
前記裏面電極層を分割する裏面電極層分割手段と、
前記裏面電極層上にCu、In、Gaを含むカルコパイライト型化合物からなる光吸収層を形成する光吸収層成膜手段と、
前記光吸収層を分割する光吸収層分割手段と、
前記光吸収層上に透明電極層を形成する透明電極層成膜手段と、
前記透明電極層を分割する透明電極層分割手段とを備えたカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置であって、
前記光吸収層分割手段および前記透明電極層分割手段の少なくとも一方は、
少なくとも一部が赤外光透過部で構成されガラス基板を載置するステージと、
前記ステージの下方に設けられ前記赤外光透過部を介して前記ステージ上に載置されるガラス基板の裏面側に赤外光を照射する赤外光照射手段と、
前記ステージの上方に設けられ前記赤外光の透過光を検出する撮像手段と、
先端が平坦になった刃部を有し、前記光吸収層および/または前記透明電極層上を駆動しスクライブ加工を施してこれら層を分割するスクライブ手段とを備え、
前記撮像手段は、前記スクライブ手段と一体に設けられていることを特徴とするカルコパイライト型薄膜太陽電池の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−165864(P2011−165864A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26525(P2010−26525)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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