説明

カルシウムタンパク質の測定に基づく骨転移の発生見込みの評価方法

本発明は、患者の血液または他の組織中のカルシウム結合タンパク質の存在またはレベルを判定することにより、どの癌患者が骨転移を発症するかを判定する方法を提供する。これらのカルシウム結合タンパク質には、MRP14が含まれる。加えて、本発明は、骨転移の発症を減らすための癌患者の処置方法を提供する。この判定を実施するキットも提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
要約
本発明は、癌が患者の骨格系に転移(骨転移)しそうであるか否かを予測するタンパク質マーカーを見出したことに関する。
【0002】
背景
転移性の癌は、1つの器官または身体の一部で発生し、しばしばリンパまたは循環系を通して、物理的に発生部位の近傍ではない身体の他の部分に広がる。患者の骨格系への非骨格性の癌の転移は、しばしば予後のよくない、無能力化する骨癌をもたらす。
【0003】
非骨格性の癌が骨転移をもたらしそうであることを予測する方法は、医療従事者が癌過程の早期に癌の骨への広がりを防止または阻害する治療介入を行うことを可能にするであろう。これは、無能力化する骨癌の遅延または防止および患者の予後の改善をもたらすであろう。
【0004】
本発明は、癌が骨転移をもたらしそうなことを予測するための診断方法、および、癌の骨格への転移を防止または遅延させるための本発明診断方法の使用を提供する。
【0005】
詳細な説明
本発明は、骨格への転移のあった癌患者から得た血漿サンプル中のペプチドおよびタンパク質を、リンパ節および他の部位への転移があったが骨にはなかった癌患者から得られた血漿サンプルに見られるものと比較した実験に基づく。これらの実験は、カルシウム結合タンパク質である遊走阻害因子関連タンパク質14(MRP−14)が、骨への転移を有する癌患者で一貫して発現されるが、例えば、骨転移を有する肺癌患者の約68%であるが、骨への転移を有さない患者では発現されないことを立証している。それはさらに、骨転移のある乳癌患者の血清中のMRP−14のレベルが、骨転移のない乳癌患者の血清中のMRP−14レベルと比較して高いことを立証した。このことから、カルシウム結合タンパク質を過剰発現する腫瘍細胞は、それらを血液中に流出および/または分泌し、そのような腫瘍細胞は、カルシウム結合タンパク質を過剰発現しない腫瘍と比較して、より接着でき、骨中で転移性腫瘍沈着に成長できるという仮説が設けられる。このことから、癌患者の血液または癌性組織で検出される1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質は、骨転移を発症するリスクの高い患者を予測するものであるという結論が導かれる。
【0006】
カルシウム結合タンパク質は、当業者に知られている。カルシウム結合タンパク質の例には、S100A1ないし8、S100A10−13、S100P、カルビンジン1ないし3、カルシウム結合タンパク質1ないし5、ヒスチジンリッチ(Histidine-Rich) カルシウム結合タンパク質、アネキシンA6、分泌性モジュラーカルシウム結合タンパク質2、レティキュロカルビン(Reticulocalbin)1、カルトラクチン(Caltractin)、グランカルシン(Grancalcin)、カルシウム−およびインテグリン−結合タンパク質およびMRP−14が含まれる。
【0007】
従って、本発明は、一般的に、癌が高い骨格への転移のリスクにあるか否かを予測するための方法に関する。それは、癌細胞が1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質を過剰発現しているか否かを判定することを含み、ここで特に、カルシウム結合タンパク質は、MRP−14、S100A1ないし8、S100A10−13、S100P、カルビンジン1ないし3、カルシウム結合タンパク質1ないし5、ヒスチジンリッチカルシウム結合タンパク質、アネキシンA6、分泌性モジュラーカルシウム結合タンパク質2、レティキュロカルビン1、カルトラクチン、グランカルシン、カルシウム−およびインテグリン−結合タンパク質から選択される。
【0008】
本発明はさらに、患者をゾレンドロン酸(zolendronic acid)またはその医薬的に許容し得る塩などの骨転移阻害処置剤で処置することにより、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質を過剰発現している癌の骨転移を阻害することに関する。
【0009】
より詳しくは、本発明は、非骨格性の癌を診断された患者における骨転移の阻害方法に関する。その方法は、(a)該患者の組織または体液のサンプルを、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質の存在について試験すること、そして、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質が検出された場合、(b)該患者を骨転移阻害療法で処置すること、を含む。
【0010】
より好ましくは、本発明は、非骨格性の癌を診断された患者における骨転移の阻害方法に関する。その方法は、(a)該患者の癌組織サンプルまたは血液を、カルシウム結合タンパク質の存在について試験すること、そして、カルシウム結合タンパク質が検出された場合、(b)該患者を骨転移阻害処置で処置すること、を含む。
【0011】
MRP−14、S100A1ないし8、S100A10−13、S100P、カルビンジン1ないし3、カルシウム結合タンパク質1ないし5、ヒスチジンリッチカルシウム結合タンパク質、アネキシンA6、分泌性モジュラーカルシウム結合タンパク質2、レティキュロカルビン1、カルトラクチン、グランカルシン並びにカルシウム−およびインテグリン−結合タンパク質などのS100タンパク質ファミリーのメンバーは、段階(a)に従い検出できるカルシウム結合タンパク質の例である。
【0012】
一般的に、試験は、転移、特に骨転移の臨床症状の現れ、または従来の方法による転移の検出に先立って行う。
【0013】
非骨格性の癌は、一般に、患者の骨格または骨に位置しない、任意の原発性の癌である。より明確には、非骨格性の癌は、乳癌、生殖泌尿器の癌、肺癌、消化管の癌、類表皮癌、黒色腫、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌、神経芽細胞腫、頭部および/または首の癌、膀胱癌、腎臓、脳または胃の癌である。特に、非骨格系の癌は、乳癌、肺癌または前立腺癌であり得る。
【0014】
血漿および組織サンプル中のタンパク質の存在の検出は、例えばウエスタンブロット、ELISAおよび質量分析などの、当分野で知られている方法論により実施する。
【0015】
好ましくは、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質の存在は、該1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質に特異的な1またはそれ以上の標識化プローブの使用により検出する。最も好ましくは、該標識化プローブは、抗体または放射性標識結合パートナーである。さらにより好ましい実施態様では、該抗体はモノクローナル抗体である。
【0016】
本発明の他の実施態様では、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質の存在は、該1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質をコードする1またはそれ以上の遺伝子の発現レベルを測定することにより判定する。好ましくは、該発現レベルは、マイクロアレイ分析、ノーザンブロット分析、逆転写PCRおよびリアルタイム定量的PCRからなる群から選択される技法を使用するmRNAレベルの測定により判定する。
【0017】
本方法に従い試験される組織サンプルは、例えば、手術または生検により得られたサンプルであるか、または、血液サンプル、特に血漿もしくは血清サンプルである。好ましくは、試験される組織または体液のサンプルは、組織生検、血液、血清、血漿、リンパ液、腹水、嚢胞液、尿、脳脊髄液(CSF)、唾液(salvia)または汗からなる群から選択される。
【0018】
本発明の特に有用な実施態様では、カルシウム結合タンパク質である遊走阻害因子関連タンパク質14(MRP−14)を、段階(a)に従い検出する。MRP−14は、当分野で数々の同義語で知られている:例えば、カルグラヌリン(calgranulin)B、P14、白血球L1複合体重鎖、S100カルシウム結合タンパク質A9、カルプロテクチン(calprotectin)L1Hサブユニットおよび骨髄関連因子14。それは低分子量(MW=13,242ダルトン)のカルシウム結合タンパク質であり、2個のEF−ハンドモチーフ(へリックス−ループ−へリックス)を含む。それは、ホモ二量体化、または関連タンパク質であるMRP−8とヘテロ二量体化できる。MRP−14は、全長形およびN末端の5アミノ酸の切断のある切断形で存在する。いずれの場合でも、冒頭のメチオニンは切り離され、アセチル化される。MRP−14は、慢性または急性浸潤中の浸潤性マクロファージで最初に発見されたものであり、炎症疾患に伴い頻繁に上方調節される。
【0019】
従って、本発明の特に重要な実施態様は、非骨格性の癌を診断された患者において骨転移を阻害する方法に関し、その方法は、(a)患者の癌組織サンプルまたは血漿を、遊走阻害因子関連タンパク質14(MRP−14)の存在について試験すること、そして、MRP−14が検出された場合、(b)該患者を骨転移阻害処置で処置すること、を含む。さらに、本発明は、MRP−14の存在を組織または体液のサンプル、最も好ましくは血漿中で判定する方法を提供する。
【0020】
血液および組織サンプル中のMRP−14の存在の検出は、例えば、ウエスタンブロット、ELISAおよび質量分析などの、当分野で知られている方法論により実施する。MRP−14検出用の抗体は市販されており、例えば、Bioprobe Indonesia から入手可能なマウス抗ヒトMRP−14であるMAC387である。そのような方法論は、本発明によるMRP−14の検出に有用である。血漿などの組織中のMRP−14の検出方法は、例えば、Herndon et al, J. Lab. Clin. Med., 141(2):110-20 (2003) および Sinz A. et al, Electrophoresis, 23(19):3445-56 (2002) に記載されている。
【0021】
骨転移阻害療法は、当業者に知られており、化学療法、ビスホスホネートによる処置、免疫治療剤などの生物学的物質による処置、および放射線療法を、単独または組み合わせて含む、幅広い抗腫瘍療法を含む。
【0022】
好ましい実施態様では、骨転移阻害療法は、骨転移阻害性医薬物質による処置を含む。そのような物質は当業者に知られており、ゾレンドロン酸、パルミドロネート(palmidronate)、エチドロネート、チルドロネート(tiludronate)、アレンドネート(alendonate)、リセドロネートなどのビスホスホネート化合物が含まれる。ゾレンドロン酸およびパルミドロネートは特に有用であり、ゾレンドロン酸が好ましい。有用な骨転移阻害剤には、ビスホスホネート類の医薬的に許容し得る塩および酸の形態が含まれる。ビスホスホネート剤の投与方法は当分野で知られており、当該ビスホスホネートによって変わる。
【0023】
従って、本発明はさらに、非骨格性の癌を診断された患者において骨転移を阻害する方法に関し、その方法は、(a)患者の癌組織サンプルまたは血漿を、MRP−14の存在について試験すること、そして、遊走阻害因子関連タンパク質14が検出された場合、(b)該患者を有効量のビスホスホネートで処置すること、特に、該ビスホスホネートはゾレンドロン酸またはその医薬的に許容し得る塩である、を含む。
【0024】
本発明はさらに、骨転移のリスクが高い癌患者を予測する方法に関し、その方法は、MRP−14、S100A1ないし8、S100A10−13、S100P、カルビンジン1ないし3、カルシウム結合タンパク質1ないし5、ヒスチジンリッチカルシウム結合タンパク質、アネキシンA6、分泌性モジュラーカルシウム結合タンパク質2、レティキュロカルビン1、カルトラクチン、グランカルシン、カルシウム−およびインテグリン−結合タンパク質、特にMRP−14などのカルシウム結合タンパク質を、患者の組織または体液のサンプル中、好ましくは癌組織サンプルまたは血液サンプル中で検出することを含む。好ましくは、組織または体液のサンプル中の1より多いカルシウム結合タンパク質の存在を検出する。好ましい実施態様では、該組織または体液のサンプルは、組織生検、血液、血清、血漿、リンパ液、腹水、嚢胞液、尿、脳脊髄液(CSF)、唾液または汗からなる群から選択される。
【0025】
従って、本発明は、非骨格性の癌を診断されたどの患者が、骨転移を発症しそうであるかを判定する方法を提供する。その方法は、a)該患者から組織または体液のサンプルを得ること;b)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルが該組織または体液のサンプルにおいて上昇しているか否かを判定すること;c)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルが上昇している場合、該患者が骨転移発症の高リスク群に属すると判定すること;およびd)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルが上昇していない場合、該患者が骨転移発症の低リスク群に属すると判定すること、の段階を含む。
【0026】
本発明のさらなる実施態様は、非骨格性の癌を診断されたどの患者が、骨転移を発症しそうであるかを判定する方法に関する。その方法は、a)該患者から組織または体液のサンプルを得ること;b)該組織または体液のサンプルにおいて、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質の存在を判定すること;c)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質の存在が検出される場合、該患者が骨転移発症の高リスク群に属すると判定すること;およびd)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質が検出されない場合、該患者が骨転移発症の低リスク群に属すると判定すること、の段階を含む。
【0027】
本発明の他の態様は、非骨格性の癌を診断されたどの患者が、骨転移を発症しそうであるかを判定する方法を提供し、その方法は、a)インビトロまたはエクスビボで、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルが該患者の組織または体液のサンプルにおいて上昇しているか否かを判定すること;b)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルが上昇している場合、該患者が骨転移発症の高リスク群に属すると判定すること;およびc)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルが上昇していない場合、該患者が骨転移発症の低リスク群に属すると判定すること、の段階を含む。本発明のなおさらなる態様は、非骨格性の癌を診断されたどの患者が、骨転移を発症しそうであるかを判定する方法に関し、その方法は、a)インビトロまたはエクスビボで、該患者の組織または体液のサンプルにおける1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質の存在を判定すること;b)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質が検出される場合、該患者が骨転移発症の高リスク群に属すると判定すること;およびc)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質が検出されない場合、該患者が骨転移発症の低リスク群に属すると判定すること、の段階を含む。
【0028】
カルシウム結合タンパク質は、好ましくは、MRP−14、S100A1ないし8、S100A10−13、S100P、カルビンジン1ないし3、カルシウム結合タンパク質1ないし5、ヒスチジンリッチカルシウム結合タンパク質、アネキシンA6、分泌性モジュラーカルシウム結合タンパク質2、レティキュロカルビン1、カルトラクチン、グランカルシン並びにカルシウム−およびインテグリン−結合タンパク質からなる群から選択される。カルシウム結合タンパク質は、最も好ましくはMRP−14である。
【0029】
好ましい実施態様は、該組織または体液サンプル中の1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルまたは存在を、該1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルを質量分析を利用して測定することにより、判定することを提供する。あるいは、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルまたは存在は、該タンパク質に特異的に結合する試薬を利用して判定し得る。好ましい実施態様では、かかる試薬は、該カルシウム結合タンパク質に特異的な標識化プローブである。最も好ましくは、選択される試薬は、モノクローナル抗体などの抗体である。
【0030】
本発明の方法のいくつかの実施態様では、出典明示により本明細書の一部とする米国特許第5,599,677号および第5,672,480号に記載の免疫アッセイを利用し得る。他の実施態様では、タンパク質は、下記実施例1のように、免疫組織化学により検出される。
【0031】
タンパク質レベルの検出のための抗体
本明細書で使用するとき、用語「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化またはキメラ抗体、および、生物学的機能のある抗体フラグメント(それは、該抗体フラグメントがタンパク質またはタンパク質のフラグメントに結合するのに十分なフラグメントである)が含まれる。タンパク質またはタンパク質フラグメントに対する抗体の産生のために、該タンパク質またはその一部の注射により、様々な宿主動物を免役し得る。そのような宿主動物には、いくつかを挙げると、ウサギ、マウスおよびラットが含まれるがこれらに限定されるものではない。免疫応答を高めるために、宿主の種に応じて様々なアジュバントを使用し得る。これには、フロイントのもの(完全または不完全)、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール類、ポリアニオン類、ペプチド類、油乳液類、キーホール(keyhole)カサガイヘモシアニン、ジニトロフェノール、およびBCG(カルメット・ゲラン桿菌(bacille Calmette-Guerin))およびコリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)などの潜在的に有用なヒトのアジュバントが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
ポリクローナル抗体は、カルシウム結合タンパク質などの抗原またはその抗原機能のある誘導体で免疫された動物の血清に由来する抗体分子の異種成分性集団である。ポリクローナル抗体の産生のために、上記のような宿主動物を、コードされたタンパク質またはその一部を、これも上記のようなアジュバントを添加して注射することにより免疫し得る。特定の抗原に対する均質な抗体集団であるモノクローナル抗体(mAb)は、培養された継続的細胞株による抗体分子の産生をもたらすいかなる技法によって得てもよい。これらには、Kohler および Milstein のハイブリドーマ技法 (Nature, Vol. 256, pp. 495-497 (1975); および米国特許第4,376,110)、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法 (Kosbor et al., Immunology Today, Vol. 4, p. 72 (1983); Cole et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 80, pp. 2026-2030 (1983))、およびEBVハイブリドーマ技法 (Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96 (1985))が含まれるが、これらに限定されるものではない。かかる抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgDを含むいかなる免疫グロブリンクラスのものでも、それらのいかなるサブクラスでもよい。
【0033】
本発明のmAbを産生するハイブリドーマは、インビトロまたはインビボで培養し得る。インビボでの高力価mAbの産生は、現在好ましい産生方法である。
【0034】
加えて、適切な抗原特異性を有するマウス抗体分子からの遺伝子を、適切な生物学的活性を有するヒト抗体分子と繋げることによる、「キメラ抗体」の産生のために開発された技法 (Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 81, pp. 6851-6855 (1984); Neuberger et al., Nature, Vol. 312, pp. 604-608 (1984); Takeda et al., Nature, Vol. 314, pp. 452-454 (1985)) を使用できる。
【0035】
キメラ抗体は、異なる部分が異なる動物種に由来する分子であり、例えば、マウスmAb由来の可変または高頻度可変領域およびヒト免疫グロブリンの定常領域を有するものである。あるいは、一本鎖抗体の産生のために記載された技法(米国特許第4,946,778号; Bird, Science, Vol. 242, pp. 423-426 (1988); Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 85, pp. 5879-5883 (1988); および Ward et al., Nature, Vol. 334, pp. 544-546 (1989)) を、異なった遺伝子発現による一本鎖抗体の産生に適合させることができる。一本鎖抗体は、Fv領域の重鎖および軽鎖フラグメントをアミノ酸架橋を介して連結し、一本鎖ポリペプチドを得ることにより形成する。最も好ましくは、「ヒト化抗体」の産生に有用な技法を、該タンパク質、そのフラグメントまたは誘導体に対する抗体の産生に適合させることができる。そのような技法は、米国特許第5,932,448号;第5,693,762号;第5,693,761号;第5,585,089号;第5,530,101号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,789,650号;第5,661,016号;および第5,770,429号に開示されている。
【0036】
特異的エピトープを認識する抗体フラグメントは、既知技法により生成し得る。例えば、そのようなフラグメントには、抗体分子のペプシン切断により産生できるF(ab')フラグメント、およびF(ab')フラグメントのジスルフィド架橋を還元することにより生成できるFabフラグメントが含まれるが、これらに限定されるものではない。あるいは、所望の特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ容易な同定を可能にするために、Fab発現ライブラリーを構築し得る(Huse et al., Science, Vol. 246, pp. 1275-1281 (1989))。既知の1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質がサンプル中に存在する程度は、上記の抗体を利用する免疫アッセイ法により判定し得る。かかる免疫アッセイ法には、ドットブロット、ウエスタンブロット、競合的および非競合的タンパク質結合アッセイ、酵素結合免疫測定法(ELISA)、免疫組織化学、蛍光標示式細胞分取法(FACS)および一般的に使用され、科学および特許文献に幅広く記載されている他のもの、および商業的に用いられている多くのものが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
容易な検出のために特に好ましいのは、サンドイッチELISAである。それには数々の変法が存在し、その全てが本発明に包含されると意図している。例えば、典型的なフォワード(forward)アッセイでは、未標識抗体を固体支持体に固定し、試験しようとするサンプルを結合した分子と接触するようにし、抗体−抗原の二成分複合体を形成させるに十分な時間インキュベートする。この時点で、検出可能なシグナルを誘導できるレポーター分子で標識化した二次抗体を添加し、抗体−抗原−標識抗体の三成分複合体の形成に十分な時間をとってインキュベートする。
【0038】
未反応の物質をいずれも洗い流し、カルシウム結合タンパク質などのタンパク質の存在をシグナルの観察により判定するか、または、既知量のタンパク質を含有する対照サンプルと比較して定量してもよい。フォワードアッセイの変法には、結合した抗体にサンプルと抗体の両方を同時に添加する同時アッセイ、または、標識化抗体および試験しようとするサンプルを最初に合わせ、インキュベートし、未標識表面結合抗体に添加する、リバース(reverse)アッセイが含まれる。
【0039】
これらの技法は当業者に周知であり、些末な変法の可能性は容易に明らかとなろう。本明細書で使用するとき、「サンドイッチアッセイ」は、基本的2部位技法の全変法を包含することを意図している。本発明の免疫アッセイについて、唯一の限定的要因は、標識化抗体が該タンパク質またはそのフラグメントに特異的な抗体であることである。このタイプのアッセイで最も一般的に使用されるレポーター分子は、酵素、フルオロフォア−または放射性核種−含有分子のいずれかである。酵素免疫アッセイの場合、通常グルタルアルデヒドまたは過ヨウ素酸塩を利用して、酵素を二次抗体にコンジュゲート(conjugate)させる。
【0040】
しかしながら、容易に認識される通り、当業者に周知の様々な異なるライゲーション技法が存在する。一般的に使用される酵素には、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼおよびアルカリホスファターゼなどが含まれる。これらの特定の酵素と共に使用される基質は、一般的に、対応する酵素による加水分解の際に、検出可能な色の変化をもたらすように選択される。例えば、p−ニトロフェニルホスフェートは、アルカリホスファターゼコンジュゲートとの使用に適する;ペルオキシダーゼコンジュゲートには、1,2−フェニレンジアミンまたはトルイジンが一般的に使用される。
【0041】
上記の色素生産性基質ではなく、蛍光産物をもたらす蛍光発生性基質を用いることも可能である。適する基質を含有する溶液を三成分複合体に添加する。基質は二次抗体と連結した酵素と反応し、定性的可視シグナルをもたらす。それは通常分光測定的にさらに定量し得、分泌されたタンパク質またはそのフラグメントの量の評価を与える。
【0042】
あるいは、フルオロセインおよびローダミンなどの蛍光化合物を、化学的に抗体に、それらの結合能力を変えずにカップリングし得る。特定の波長の光の照射により活性化されると、蛍光色素標識化抗体は光エネルギーを吸収し、分子内に励起状態を誘導し、特徴的なより長い波長で発光する。発光は光学顕微鏡で可視的に検出可能な特徴的な色で現れる。免疫蛍光およびEIA技法は、両方とも当分野で非常によく確立されていて、本方法に特に好ましい。しかしながら、放射性同位元素、化学発光分子または生物発光分子などの他のレポーター分子も用い得る。必要な用途に合わせるための本操作の改変方法は、当業者に容易に明らかとなろう。
【0043】
遺伝子発現の測定
本発明の他の実施態様は、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質をコードする1またはそれ以上の遺伝子の発現レベルを測定することにより、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルを判定することを提供する。発現レベルは、さらに上記の通りの標準的方法により検出できる。好ましくは、発現レベルを、mRNAレベルを測定することにより判定する。遺伝子発現の検出技法には、ノーザンブロット、RT−PCT、リアルタイムPCR、プライマーエクステンション、RNase保護、RNA発現プロファイリングおよび関連技法が含まれるが、これらに限定されるものではない。これらの技法は当業者に周知である。Sambrook J et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition (Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, 2000)。
【0044】
特に有用な実施態様では、発現レベルをマイクロアレイ分析、ノーザンブロット分析、逆転写PCRおよびリアルタイム定量的PCRからなる群から選択される技法により検出できる。
従って、いくつかの実施態様では、マーカーをcDNAまたはRNAのレベルで検出する。
【0045】
本明細書で使用するとき、用語「遺伝子発現バイオマーカー」は、特定の遺伝子の遺伝子発現の速度または程度を示すことができるいかなる生物学的マーカーをも意味し、mRNA、cDNAまたは該特定の遺伝子のポリペプチド発現産物が含まれるがこれらに限定されるものではない。
【0046】
本発明のいくつかの実施態様では、遺伝子発現バイオマーカーは、PCRをベースとするアッセイを使用して検出される。なお他の実施態様では、逆転写PCR(RT−PCR)を使用してRNAの発現を検出する。RT−PCRでは、RNAは逆転写酵素を使用して酵素的にcDNAに変換される。その後、該cDNAをPCR反応の鋳型として使用する。PCR産物は、ゲル電気泳動およびDNA特異的染料による染色または標識化プローブへのハイブリダイゼーションを含むがこれらに限定されるものではない、任意の適する方法により検出できる。
【0047】
いくつかの実施態様では、出典明示により本明細書の一部とする米国特許第5,639,606号;第5,643,765号;および第5,876,978号に記載の、競合的鋳型の標準化混合物を用いる定量的RT−PCRの方法を利用する。
【0048】
本発明の好ましい実施態様では、遺伝子発現バイオマーカーは、ハイブリダイゼーションアッセイを使用して検出される。ハイブリダイゼーションアッセイでは、マーカーの有無を、サンプル由来の核酸がオリゴヌクレオチドプローブなどの相補的核酸分子にハイブリダイズする能力をベースとして判定する。様々なハイブリダイゼーションアッセイが利用可能である。
【0049】
いくつかの実施態様では、関心のある配列へのプローブのハイブリダイゼーションは、結合したプローブを可視化することにより直接検出される(例えば、ノーザンまたはサザンアッセイ)。例えば、Ausabel et al., eds., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY (1991) 参照。これらのアッセイでは、DNA(サザン)またはRNA(ノザン)が単離される。次いで、DNAまたはRNAは、ゲノムを所々で切断するが、アッセイされる任意のマーカーの近くでは切断しない、一連の制限酵素で切断される。次いで、DNAまたはRNAは、例えばアガロースゲル上で分離され、メンブレンに移される。例えば放射性核種の導入により標識化されたプローブまたはプローブ群を、低−、中−または高−ストリンジェンシー(stringency)の条件でメンブレンに接触させる。結合していないプローブを除去し、標識化プローブを可視化することにより結合の存在を検出する。
【0050】
いくつかの実施態様では、DNAチップアッセイは、GeneChip (Affymetrix, Santa Clara, CA) である。例えば、出典明示により本明細書の一部とする米国特許第6,045,996号;第5,925,525号;および第5,858,659号参照。GeneChip 技術は、小型化された、「チップ」に固定されたオリゴヌクレオチドプローブの高密度アレイを使用する。プローブアレイは、Affymetrix の光に先導される(light-directed)化学合成法により製造される。それは、固相化学合成を半導体工業で用いられる光リソグラフィー製作技法と組み合わせたものである。一連の光リソグラフィーのマスクを使用してチップの露光部位を定義し、続いて特定の化学合成段階を行うと、該方法は、各プローブがアレイ中の予め定義された位置にある、オリゴヌクレオチドの高密度アレイを構築する。大きいガラスウエハー上に複数のプローブのアレイを同時に合成する。次いで、該ウエハーを格子に切り、個々のプローブアレイを、それらを環境から保護し、かつハイブリダイゼーション用の容器として役立つ、インジェクション型に作った(injection-molded)プラスチックカートリッジに詰める。
【0051】
分析しようとする核酸を単離し、PCRで増幅し、蛍光レポーター原子団で標識化する。次いで、標識化したDNAを、フルイディクスステーション(fluidics station)を使用してアレイとインキュベートする。次いで、アレイをスキャナーに挿入し、ここでハイブリダイゼーションパターンを検出する。ハイブリダイゼーションのデータを、プローブアレイに結合した、標的に既に導入された蛍光レポーター原子団からの発光として集める。一般的に、標的と完璧にマッチしたプローブは、ミスマッチを有するものより強いシグナルを奏する。各プローブの配列および位置はわかるので、相補的に、プローブアレイにアプライされた標的核酸配列の正体を判定できる。
【0052】
他の実施態様では、電子的に捕捉されるプローブを含有するDNAマイクロチップ (Nanogen, San Diego, CA) を利用する。例えば、出典明示により本明細書の一部とする米国特許第6,017,696号;第6,068,818号;および第6,051,380号参照。マイクロエレクトロニクスの使用を通じて、Nanogen の技術は、その半導体マイクロチップ上の指定された試験部位への、そしてそこからの、荷電分子の活発な運動および濃縮を可能にする。所定の遺伝子発現バイオマーカーに対して唯一のDNA捕捉プローブを電子工学的にマイクロチップ上の特定の位置に配置する、即ち、「アドレス化」する。核酸分子は強い負電荷を有するので、それらは電子的に正荷電の領域に移動できる。
【0053】
なおさらなる実施態様では、表面張力の差異による平坦な表面(チップ)上の流体の隔離をベースとするアレイ技術 (ProtoGene, Palo Alto, CA) を利用する。例えば、出典明示により本明細書の一部とする米国特許第6,001,311号;第5,985,551号;および第5,474,796号参照。Protogene の技術は、化学コーティングにより付与された表面張力の差異により、流体を平坦な表面上で隔離できることをベースとしている。一度そのように隔離したら、試薬のインクジェット印刷(ink-jet printing)により、オリゴヌクレオチドプローブをチップ上で直接合成する。
【0054】
なお他の実施態様では、「ビーズアレイ」を遺伝子発現バイオマーカーの検出に使用する (Illumina, San Diego, CA)。例えば、出典明示により本明細書の一部とするPCT公開WO99/67641およびWO00/39587参照。Illumina は、光ファイバーの束とアレイに自己集合するビーズとを組み合わせる BEAD ARRAY 技術を使用する。各光ファイバーの束は、束の直径に応じて、数千ないし数百万の個々のファイバーを含有する。ビーズは所定のマーカーの検出に特異的なオリゴヌクレオチドで被覆される。ビーズのバッチを、アレイに特異的なプール(pool)を形成するように合わせる。アッセイを実施するために、BEAD ARRAY を、調製したサンプルと接触させる。ハイブリダイゼーションを任意の適する方法を使用して検出する。
【0055】
本発明のいくつかの好ましい実施態様では、ハイブリダイゼーションを特定の構造の酵素的切断により検出する。例えば、Third Wave Technologies の INVADER(商標)アッセイである。例えば、出典明示により本明細書の一部とする米国特許第5,846,717号、第6,090,543号;第6,001,567号;第5,985,557号;および第5,994,069号参照。いくつかの実施態様では、結合したプローブのハイブリダイゼーションを、TaqMan アッセイを使用して検出する (PE Biosystems, Foster City, CA)。例えば、出典明示により本明細書の一部とする米国特許第5,962,233号および第5,538,848号参照。該アッセイは、PCR反応中に実施される。TaqMan アッセイは、AMPLITAQ DNAポリメラーゼなどのDNAポリメラーゼの5'−3'エキソヌクレアーゼ活性を活用する。所定のマーカーに特異的なプローブを、PCR反応に含める。該プローブは、蛍光染料などの5'−レポーター染料および3'−クエンチ染料を有するオリゴヌクレオチドからなる。PCRの間にプローブがその標的に結合すると、AMPLITAQ ポリメラーゼの5'−3'核酸分解活性が、レポーター染料とクエンチ染料との間でプローブを切断する。レポーター染料のクエンチ染料からの分離が、蛍光の増大をもたらす。シグナルはPCRの各サイクルに伴って蓄積し、蛍光計でモニターできる。
【0056】
本発明のシステムと方法を使用して産生および利用されるさらなる検出アッセイには、酵素ミスマッチ切断法、例えば、Variagenics (出典明示により本明細書の一部とする米国特許第6,110,684号;第5,958,692号;および第5,851,770号参照);分枝ハイブリダイゼーション法、例えば、Chiron(出典明示により本明細書の一部とする米国特許第5,849,481号;第5,710,264号;第5,124,246号;および第5,624,802号参照);ローリングサイクル複製(例えば、出典明示により本明細書の一部とする米国特許第6,210,884号および6,183,960号参照);NASBA(例えば、出典明示により本明細書の一部とする米国特許第5,409,818号参照);分子ビーコン(beacon)技術(例えば、出典明示により本明細書の一部とする米国特許第6,150,097号参照);E−センサー技術(Motorola、出典明示により本明細書の一部とする米国特許第6,248,229号;第6,221,583号;第6,013,170号;および第6,063,573号参照);サイクリングプローブ技術(例えば、出典明示により本明細書の一部とする米国特許第5,403,711号;第5,011,769号;および第5,660,988号);リガーゼ連鎖反応[Barnay, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 88, pp. 189-93 (1991)参照];およびサンドイッチハイブリダイゼーション法(例えば、出典明示により本明細書の一部とする米国特許第5,288,609号参照)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
いくつかの実施態様では、質量分析を使用して遺伝子発現バイオマーカーを検出する。例えば、いくつかの実施態様では、MASSARRAY(商標) システム(Sequenom, San Diego, CA) を使用して遺伝子発現バイオマーカーを検出する。例えば、出典明示により本明細書の一部とする米国特許第6,043,031号;第5,777,324号;および第5,605,798号参照。
【0058】
いくつかの実施態様では、本発明は、遺伝子発現バイオマーカーの同定、特徴解析および定量のためのキットを提供する。いくつかの実施態様では、該キットは、検出試薬およびバッファーに加えて、遺伝子発現バイオマーカーに特異的な抗体を含有する。他の実施態様では、該キットは、核酸の検出に特異的な試薬、例えばオリゴヌクレオチドプローブまたはプライマー、を含有する。好ましい実施態様では、該キットは、全対照、アッセイを実施するための指示、および結果の解析および提示に必要な任意のソフトウエアを含む、検出アッセイの実施に必要な全成分を含有する。いくつかの実施態様では、該キットは、環境保護庁または米国食品医薬品局(FDA)がインビトロ診断アッセイおよび/または医薬品もしくは食品の要求に従って、意図された使用を説明する指示書を含む。
【0059】
本発明の実験方法は、細胞構成分の測定に依存する。測定される細胞構成分は、細胞の生物学的状態のいかなる相に由来するものでもあり得る。それらは、RNA量が測定される転写状態、タンパク質量が測定される翻訳状態、タンパク質活性が測定される活性状態に由来するものであり得る。細胞の特徴解析は、例えば、1またはそれ以上のタンパク質の活性が他の細胞構成分のRNA量(遺伝子発現)と共に測定される、混合相に由来するものであってもよい。このセクションでは、薬物または経路応答における細胞構成分の例示的測定方法を記載する。本発明は、そのような測定の他の方法に適合させることができる。
【0060】
本発明のいくつかの実施態様では、他の細胞構成分の転写状態を測定する。転写状態は、次のサブセクションで記載する核酸または核酸疑似プローブのアレイへのハイブリダイゼーション技法、またはその後のサブセクションに記載する他の遺伝子発現技術により測定できる。どのように測定されても、結果はmRNAの量および/または比を表す値を含むデータであり、それは通常DNA発現比を反映する(RNA分解速度に差がない場合)。
【0061】
本発明の様々な代替的実施態様において、転写状態以外の生物学的状態の相、例えば翻訳状態、活性状態または混合相を測定できる。
【0062】
全実施態様において、細胞構成分の測定は、測定が行われる場合によって相対的に左右されないやり方で行うべきである。
【0063】
転写状態測定
好ましくは、転写状態の測定は、本サブセクションに記載の転写物アレイへのハイブリダイゼーションにより行う。ある種の他の転写状態測定法は、本サブセクション中で後述する。
【0064】
一般的な転写物アレイ
本発明のいくつかの実施態様では、本明細書で「マイクロアレイ」とも呼ばれる「転写物アレイ」を利用する。転写物アレイは、細胞の転写状態の分析に、特に癌細胞の転写状態の測定に用いることができる。
【0065】
ある実施態様では、転写物アレイは、例えば、細胞の全mRNAから合成された蛍光標識化cDNAなどの、細胞中に存在するmRNA転写物を表す検出可能に標識化されたポリヌクレオチドを、マイクロアレイにハイブリダイズさせることにより産生される。マイクロアレイは、細胞または生物のゲノム中の多数の遺伝子の、好ましくは殆どまたはほぼ全ての遺伝子の、産物の結合(例えば、ハイブリダイゼーション)部位の規則正しいアレイのある表面である。マイクロアレイは数々のやり方で作成でき、そのいくつかを後述する。どのように産生されても、マイクロアレイは一定の特徴を共有する。これらのアレイは再現可能であり、所定のアレイの複数の複写物を産生し、容易に相互に比較することを可能にする。好ましくは、マイクロアレイは、小型であり、通常5cmより小さく、結合(例えば、核酸ハイブリダイゼーション)条件下で安定である材料で作成する。マイクロアレイ中の所定の結合部位または結合部位のユニークなセットは、細胞中の単一の遺伝子産物を特異的に結合する。特定のmRNA毎に1より多い物理的結合部位(以後、「部位」)が存在し得るが、下記の議論を明瞭にするために、単一の部位があると仮定する。特定の実施態様では、固定された既知配列の核酸を各位置で含有する、位置的にアドレス可能なアレイを使用する。
【0066】
細胞のRNAに相補的なcDNAが作成され、適切なハイブリダイゼーション条件下でマイクロアレイにハイブリダイズされる場合、アレイ中の特定の遺伝子に対応する部位へのハイブリダイゼーションのレベルは、その遺伝子から転写されたmRNAの細胞における出現頻度(prevalence)を反映することが分かるであろう。例えば、フルオロフォアなどで検出可能に標識化した細胞の全mRNAに相補的なcDNAをマイクロアレイにハイブリダイズさせる場合、細胞中で転写されていない遺伝子に対応するアレイ上の部位(即ち、遺伝子産物に特異的に結合できる部位)は、蛍光シグナルなどのシグナルを殆どまたは全く示さず、コードされているmRNAが豊富にある遺伝子は、相対的に強いシグナルを示す。
【0067】
マイクロアレイの製造
マイクロアレイは当分野で知られており、cDNA、mRNA、cRNA、ポリペプチドおよびそれらのフラグメントなどの遺伝子産物に配列において対応するプローブが、分かっている位置で特異的にハイブリダイズまたは結合できる表面からなる。ある実施態様では、マイクロアレイは、各位置が1つの遺伝子によりコードされる産物(例えばタンパク質またはRNA)に対する個別の結合部位を表し、結合部位がその生物のゲノム中の遺伝子の殆どまたはほぼ全ての産物に対して存在するアレイ、即ちマトリックスである。好ましい実施態様では、「結合部位」、以後「部位」は、特定の同族のcDNAが特異的にハイブリダイズできる核酸または核酸類似体である。結合部位の核酸または類似体は、例えば、合成オリゴマー、全長cDNA、全長より短いcDNAまたは遺伝子フラグメントであり得る。
【0068】
いくつかの実施態様ではマイクロアレイは標的生物のゲノム中の全てまたはほぼ全ての遺伝子の産物に対する結合部位を含有するが、そのような総合性は必ずしも必要ではない。通常、マイクロアレイはゲノム中の遺伝子の少なくとも約50%、しばしば少なくとも約75%、より頻繁には少なくとも約85%、さらにより頻繁には少なくとも約90%以上、最も頻繁には少なくとも約99%に対応する結合部位を有する。好ましくは、マイクロアレイは、関心のある生物学的ネットワークモデルを試験し裏付けることに関連する遺伝子に対する結合部位を有する。「遺伝子」は、好ましくは少なくとも50、75または99個のアミノ酸の、そこからその生物において(単細胞の場合)、または多細胞生物のいくつかの細胞においてmRNAが転写されるオープンリーディングフレーム(ORF)として同定される。ゲノム中の遺伝子の数は、その生物により発現されるmRNAの数から、または該ゲノムの十分に特徴解析された部分からの外挿により推定できる。関心のある生物のゲノムが配列解読されている場合、ORFの数は判定でき、mRNAをコードしている領域はDNA配列の分析により同定できる。例えば、サッカロマイシス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)のゲノムは完全に配列解読されており、99アミノ酸より長い約6,275個のORFを有すると報告されている。これらのORFの分析は、タンパク質産物を特定していると思われる5,885個のORFがあることを示す。あらゆる目的で全体を出典明示により本明細書の一部とする Goffeau et al., Science, Vol. 274, pp. 546-567 (1996) 参照。対照的に、ヒトゲノムは約10個の遺伝子を含有すると推定される。
【0069】
マイクロアレイ用の核酸の調製
上記の通り、特定の同族cDNAが特異的にハイブリダイズする「結合部位」は、通常、その結合部位に取り付けられた核酸または核酸類似体である。ある実施態様では、マイクロアレイの結合部位は、ある生物のゲノムの各遺伝子の少なくとも一部に対応するDNAポリヌクレオチドである。これらのDNAは、例えば、ゲノムDNA、cDNA(例えばRT−PCRによる)またはクローン化された配列からの遺伝子セグメントのPCR増幅により得ることができる。唯一のフラグメント、即ち、10塩基より多い近接する同一の配列をマイクロアレイ上の他のフラグメントと共有しないフラグメントの増幅をもたらすPCRプライマーは、遺伝子またはcDNAの既知配列に基づいて選択される。コンピュータープログラムは、要求される特異性と最適な増幅特性を有するプライマーの設計において有用である。例えば、Oligo pl version 5.0, National Biosciences 参照。非常に長い遺伝子に対応する結合部位の場合、オリゴ−dTで開始されたcDNAプローブがマイクロアレイにハイブリダイズするときに全長に満たないプローブが効率的に結合するように、その遺伝子の3'末端に近いセグメントを増幅するのが望ましいことがある。典型的には、マイクロアレイ上の各遺伝子フラグメントは、約50bpないし約2000bp、より典型的には約100bpないし約1000bp、通常約300bpないし約800bpの長さである。PCR法は周知であり、例えば、あらゆる目的で全体を出典明示により本明細書の一部とする Innis et al., eds., PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press Inc., San Diego, CA (1990) に記載されている。コンピューター制御された自動装置システムが核酸の単離および増幅に有利であることが明らかであろう。
【0070】
マイクロアレイ用の核酸の代替的生成手段は、例えばN−ホスホネートまたはホスホラミダイト化学を使用する、合成ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの合成によるものである。Froehler et al., Nucleic Acid Res., Vol. 14, pp. 5399-5407 (1986); および McBride et al., Tetrahedron Lett., Vol. 24, pp. 245-248 (1983) 参照。合成配列は、約15塩基ないし約500塩基の長さ、より典型的には約20塩基ないし約50塩基である。ある実施態様では、合成核酸は、イノシンなどの非天然塩基を含む。上記の通り、核酸類似体をハイブリダイゼーション用の結合部位として使用し得る。適する核酸類似体の例は、ペプチド核酸である。例えば、Egholm et al., Nature, Vol. 365, pp. 566-568 (1993); および米国特許第5,539,083号も参照。
【0071】
代替的実施態様では、結合(ハイブリダイゼーション)部位は、遺伝子、cDNA、例えば発現配列タグのプラスミドまたはファージのクローンから、またはそれらの挿入物から作成される。Nguyen et al., Genomics, Vol. 29, pp. 207-209 (1995) 参照。なお他の実施態様では、結合部位のポリヌクレオチドはRNAである。
【0072】
固体表面への核酸の取り付け
核酸または類似体は、ガラス、プラスチック(例えばポリプロピレンやナイロン)、ポリアクリルアミド、ニトロセルロースまたは他の材料からできていてよい固体支持体に取り付けられる。核酸を表面に取り付けるのに好ましい方法は、Schena et al., Science, Vol. 270, pp. 467-470 (1995)に一般的に記載されている通りのガラス板への印刷によるものである。この方法は、cDNAのマイクロアレイの製造に特に有用である。DeRisi et al., Nat. Genet., Vol. 14, pp. 457-460 (1996); Shalon et al., Genome Res., Vol. 6, pp. 639-645 (1996); および Schena et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 93, pp. 10539-11286 (1995)も参照。上述の論文の各々を、あらゆる目的で全体的に出典明示により本明細書の一部とする。
【0073】
マイクロアレイ作成のための第2の好ましい方法は、高密度オリゴヌクレオチドアレイの作成によるものである。インサイチュでの合成のために光リソグラフィー技法を使用して、定義された配列に相補的な数千のオリゴヌクレオチドを表面上の定義された位置で含有するアレイを産生するための技法[あらゆる目的で全体的に出典明示により本明細書の一部とする、Fodor et al., Science, Vol. 251, pp. 767-773 (1991); Pease et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 91, No. 11, pp. 5022-5026 (1994); Lockhart et al., Nat. Biotechnol., Vol. 14, p. 1675 (1996); および米国特許第5,578,832号;第5,556,752号;および第5,510,270号参照]または定義されたオリゴヌクレオチドの迅速な合成および沈積のための他の方法 [Blanchard et al., Biosens. Bioelectron., Vol. 11, pp. 687-690 (1996)参照]が知られている。これらの方法を使用する場合、例えば20merの既知配列のオリゴヌクレオチドを、誘導体化ガラススライドなどの表面上で直接合成する。通常、産生されるアレイはRNA毎に数個のオリゴヌクレオチドがある重複性のものである。オリゴヌクレオチドプローブは、選択的スプライシングされた(alternatively spliced)mRNAを検出するように選択できる。
【0074】
マスキングなどによる他のマイクロアレイ作成方法も使用し得る。Maskos and Southern, Nucleic Acids Res., Vol. 20, pp. 1679-1684 (1992)参照。原則的に、ナイロンハイブリダイゼーションメンブレン上のドットブロット[あらゆる目的で全体を出典明示により本明細書の一部とする、Sambrook et al., Molecular Cloning--A Laboratory Manual, 2nd Edition, Vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989)参照]などのいかなるタイプのアレイも使用し得るが、当業者に認識されるように、非常に小さいアレイが、ハイブリダイゼーションの体積がより小さくなるので好ましい。
【0075】
標識化プローブの生成
総RNAおよびポリ(A)RNAの調製方法は周知であり、前出の Sambrook et al. (1989) に一般的に記載されている。ある実施態様では、RNAは、グアニジンチオシアネート溶解と続くCsCl遠心分離を使用して、本発明で関心のある様々なタイプの細胞から抽出される。Chirgwin et al., Biochemistry, Vol. 18, pp. 5294-5299 (1979)参照。ポリ(A)RNAは、オリゴ−dTセルロースにより選択される。前出の Sambrook et al.(1989) 参照。関心のある細胞には、野生型細胞、薬物に曝露された野生型細胞、改変/攪乱された細胞構成分(複数も可)を有する細胞、および薬物に曝露された改変/攪乱された細胞構成分(複数も可)を有する細胞が含まれる。
【0076】
標識化cDNAは、オリゴdTで開始された、またはランダムに開始された逆転写により、mRNAから調製される。これらは両方とも、当分野で周知である。例えば、Klug and Berger, Methods Enzymol., Vol. 152, pp. 316-325 (1987)参照。逆転写は、検出可能な標識にコンジュゲートしたdNTP、最も好ましくは蛍光標識化dNTPの存在下で実施し得る。あるいは、単離したmRNAを、標識化dNTPの存在下で二本鎖cDNAのインビトロ転写により合成した標識化アンチセンスRNAに変換できる。あらゆる目的で全体を出典明示により本明細書の一部とする、前出の Lockhart et al. (1996) 参照。代替的実施態様では、cDNAまたはRNAのプローブは、検出可能な標識の非存在下で合成でき、後で、例えばビオチン化dNTPまたはrNTPを導入することにより、またはビオチンのソラレン誘導体をRNAに光でクロスリンクさせるなどの同様の手段により、続いて標識化ストレプトアビジン、例えばフィコエリトリンにコンジュゲートしたストレプトアビジンまたはその均等物を添加して、標識化し得る。
【0077】
蛍光標識化プローブを使用する場合、フルオロセイン、リッサミン(lissamine)、フィコエリトリン、ローダミン(Perkin Elmer Cetus)、Cy2、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、FluorX (Amersham) などを含む、多数の適するフルオロフォアが知られている。例えば、Kricka, Nonisotopic DNA Probe Techniques, Academic Press, San Diego, CA (1992)参照。容易に区別できるように、別個の発光スペクトルを有するフルオロフォアの対を選択することが理解されるであろう。
【0078】
他の実施態様では、蛍光標識以外の標識が使用される。例えば、放射性標識、または別個の放射スペクトルを有する放射性標識の対を使用できる。Zhao et al., Gene, Vol. 156, p. 207 (1995); および Pietu et al., Genome Res., Vol. 6, p. 492 (1996) 参照。しかしながら、放射性粒子の散乱およびその結果である広い空間を占める結合部位の要件のために、放射性同位元素の使用はあまり好ましくない実施態様である。
【0079】
ある実施態様では、0.5mMのdGTP、dATPおよびdCTPプラス0.1mMのdTTPプラス蛍光デオキシリボヌクレオチド(例えば、0.1mMローダミン110UTP(Perken Elmer Cetus) または0.1mM Cy3 dUTP (Amersham)を、逆転写酵素(例えば、SuperScript.TM. II, LTI Inc.)と共に含有する混合物を、42℃で60分間インキュベートすることにより、標識化cDNAを合成する。
【0080】
マイクロアレイへのハイブリダイゼーション
核酸のハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件は、プローブが特異的アレイ部位に「特異的に結合」または「特異的にハイブリダイズ」するように、即ち、プローブが、相補的核酸配列を有する配列のアレイ部位にハイブリダイズ、二本鎖化または結合するが、非相補的核酸配列の部位にはハイブリダイズしないように、選択する。本明細書で使用する場合、ポリヌクレオチドの短い方が25塩基である場合は標準的塩基対形成則を使用してミスマッチがないときに、または、ポリヌクレオチドの短い方が25塩基より長い場合は5%を超えないミスマッチがあるときに、一方のポリヌクレオチド配列は他方に相補的であるとみなす。好ましくは、ポリヌクレオチドは完璧に相補的である(ミスマッチがない)。特定のハイブリダイゼーション条件が特異的ハイブリダイゼーションをもたらすことは、負の対照を含むハイブリダイゼーションアッセイを実施することにより、容易に実証できる。例えば、前出の Shalon et al. (1996); および前出の Chee et al. 参照。
【0081】
最適ハイブリダイゼーション条件は、標識化プローブと固定化ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの長さ(例えば、オリゴマー対>200塩基のポリヌクレオチド);およびタイプ(例えば、RNA、DNAおよびPNA)によって決まる。特異的、即ち、ストリンジェント(stringent)な核酸のハイブリダイゼーション条件のために一般的パラメータは、前出の Sambrook et al. (1996); およびあらゆる目的で全体を出典明示により本明細書の一部とする Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley-Interscience, NY (1987) に記載されている。Schena et al. のcDNAマイクロアレイを使用する場合、典型的ハイブリダイゼーション条件は、5xSSCプラス0.2%SDS中、65℃、4時間のハイブリダイゼーション、続いて25℃、低ストリンジェンシーの洗浄緩衝液(1xSSCプラス0.2%SDS)での洗浄、続いて10分間、25℃、高ストリンジェンシーの洗浄緩衝液(0.1xSSCプラス0.2%SDS)での洗浄である。Shena et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 93, p. 10614 (1996) 参照。有用なハイブリダイゼーション条件も提供される。例えば、Tijessen, Hybridization With Nucleic Acid Probes, Elsevier Science Publishers B.V. (1993); および前出の Kricka (1992) 参照。
【0082】
シグナル検出およびデータ分析
蛍光標識化プローブを使用する場合、転写アレイの各部位での蛍光の発光は、好ましくは、走査型共焦点レーザー顕微鏡により検出できる。ある実施態様では、適切な励起線を使用して、使用した2つのフルオロフォアの各々について別々のスキャンを実施する。あるいは、2つのフルオロフォアに特異的な波長での同時試料照射を可能にするレーザーを使用して、2つのフルオロフォアからの発光を同時に分析することができる。あらゆる目的で全体を出典明示により本明細書の一部とする、前出の Shalon et al. (1996) 参照。好ましい実施態様では、コンピューター制御のX−Yステージおよび顕微鏡対物レンズを有するレーザー蛍光スキャナーでアレイをスキャンする。2つのフルオロフォアの連続的励起は、複線の混合ガスレーザーで達成され、発光を波長で分け、2本の光電子増倍管を用いて検出する。蛍光レーザー走査型装置は、前出の Schena et al. (1996) および本明細書で引用する他の参照文献に記載されている。あるいは、Ferguson et al., Nat. Biotechnol., Vol. 14, pp. 1681-1684 (1996) に記載の光ファイバー束を使用して、多数の部位で同時にmRNA量のレベルをモニターし得る。
【0083】
シグナルは、例えば12ビットのアナログ/デジタルボード(analog to digital board)を使用して、コンピューターにより記録され、好ましい実施態様では、分析される。ある実施態様では、スキャンした画像を、例えば Hijaak Graphics Suite などのグラフィックスプログラムを使用してスペックル除去(de-speckled)し、その後、各波長、各部位で平均的ハイブリダイゼーションのスプレッドシートを創生する画像グリッディング(gridding)プログラムを使用して分析する。必要ならば、2つのフルオロフォアのチャンネル間の「クロストーク」(またはオーバーラップ)について、実験的に決定された補正を成し得る。転写物アレイ上のいかなる特定のハイブリダイゼーション部位についても、2つのフルオロフォアの発光の比を算出するのが好ましい。その比は、同族遺伝子の絶対的発現レベルとは無関係であるが、薬物投与、遺伝子欠失または任意の他の試験される事象により発現が有意に調節される遺伝子に有用である。
【0084】
好ましくは、ある攪乱がポジティブであるかネガティブであるかを同定することに加えて、その攪乱の規模を判定するのが有利である。これは、当業者には容易に明らかである方法により実施できる。
【0085】
他の転写状態測定法
細胞の転写状態は、当分野で知られている他の遺伝子発現技術により測定してもよい。いくつかのかかる技術は、二重の制限酵素切断と段階的(phasing)プライマーを組み合わせる方法[例えば、EP 0 534858 A1 (1992), Zabeau et al. 参照]、または定義されたmRNA末端に最も近い部位を有する制限フラグメントを選択する方法[例えば、Prashar et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 93, pp. 659-663 (1996) 参照]など、電気泳動分析の複雑さが限定される制限フラグメントのプールを産生する。他の方法は、複数のcDNAの各々の十分な塩基(例えば20−50塩基)を配列解読して各cDNAを同定することにより、または、定義されたmRNA末端経路パターンに対して既知の位置で生成される短いタグ(例えば、9−10塩基)を配列解読することにより、統計的にcDNAプールをサンプリングする。例えば、Velculescu, Science, Vol. 270, pp. 484-487 (1995) 参照。
【0086】
他の相の測定
本発明の様々な実施態様では、翻訳状態、活性状態などの、転写状態以外の生物学的状態の相、または混合相を、薬物および経路応答を得るために測定できる。このセクションではこれらの実施態様の詳細を記載する。
【0087】
翻訳状態の測定
翻訳状態の測定は、いくつかの方法により実施し得る。例えば、タンパク質の全ゲノムモニタリング、即ち、「プロテオーム」[前出の Goffeau et al. (1996) 参照]を、結合部位が細胞のゲノムによりコードされる複数のタンパク質種に特異的な固定化された(好ましくは、モノクローナル)抗体を含むマイクロアレイを構築することにより実施できる。好ましくは、抗体は、コードされる全タンパク質の実質的なフラクションについて、または、少なくとも関心のある生物学的ネットワークモデルの試験または確認に関連するタンパク質について、存在する。モノクローナル抗体の作成方法は周知である。例えば、あらゆる目的で全体を出典明示により本明細書の一部とする、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, NY (1988) 参照。好ましい実施態様では、モノクローナル抗体を、その細胞のゲノム配列に基づいて設計した合成ペプチドフラグメントに対して生成させる。そのような抗体アレイを用いて、細胞由来のタンパク質をアレイに接触させ、それらの結合を当分野で既知のアッセイによりアッセイする。
【0088】
あるいは、タンパク質は、二次元ゲル電気泳動システムにより分離できる。二次元ゲル電気泳動は、当分野で周知であり、典型的には、第1の次元に沿う等電点電気泳動および続く第2の次元に沿うSDS−PAGE電気泳動を含む。例えば、Hames et al., Gel Electrophoresis of Proteins: A Practical Approach, IRL Press, NY (1990); Shevchenko et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 93, pp. 1440-1445 (1996); Sagliocco et al., Yeast, Vol. 12, pp. 1519-1533 (1996); Lander, Science, Vol. 274, pp. 536-539 (1996) 参照。得られる電気泳動図を、質量分析的技法、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体を使用するウエスタンブロットおよびイムノブロット分析、および内部およびN末端マイクロシークエンシング(micro-sequencing)を含む、多数の技法により分析できる。これらの技法を使用して、薬物に曝露された細胞において(例えば酵母において)、または例えば特定の遺伝子の欠失または過剰発現により改変された細胞において、所定の生理条件下で産生される全タンパク質の実質的フラクションを同定することができる。
【0089】
他の生物学的状態の相に基づく実施態様
mRNA量以外の細胞構成成分のモニタリングは、現在のところ、mRNAのモニタリングでは遭遇しないある種の技術的困難を呈するが、細胞機能の特徴に関連するタンパク質の活性を測定できる本発明の方法の使用である本発明の実施態様がかかる測定に基づくことが当業者に明らかである。活性測定は、特徴解析される特定の活性に適する、いかなる機能的、生化学的または物理学的手段によっても実施できる。活性が化学的変化を含む場合、細胞のタンパク質を天然基質と接触させて変化の速度を測定できる。活性が多量体ユニットとの会合(例えば、活性化DNA結合複合体とDNAの会合)を含む場合、会合したタンパク質の量または会合の二次的結果(例えば転写されるmRNAの量)を測定できる。また、機能的活性(例えば、細胞周期制御としてなど)のみが知られている場合、機能の性能を観察できる。どのように知られ測定されても、タンパク質活性の変化は、本発明の前述の方法により分析される応答データを形成する。
【0090】
代替的かつ非限定的な実施態様では、応答データは、細胞の生物学的状態の混合相から形成されてもよい。応答データは、例えば、ある一定のmRNA量の変化、ある一定のタンパク質量の変化、およびある一定のタンパク質活性の変化から構築することができる。
【0091】
カルシウム結合タンパク質のレベル
本明細書で使用するとき、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルは、1またはそれ以上のタンパク質のレベルまたは該1またはそれ以上のタンパク質をコードするmRNAのレベルが、非骨格性の癌を診断されたが骨転移に冒されていない患者と比較して、そのタンパク質またはmRNAのレベルにおいて少なくとも1.5倍の差異を示す(即ち、高い)場合、「上昇」している。好ましくは、該差異は、骨転移に罹患していない患者と比較したとき、少なくとも;1.5倍、2倍、3倍、5倍、10倍、30倍、70倍または100倍の差異である。
【0092】
最も好ましくは、カルシウム結合タンパク質が検出されない場合、患者は骨転移発症の低リスク群であると判定される。本発明のある好ましい実施態様によると、非骨格性の癌を診断された患者は、組織または体液のサンプルにおいて、例えば血漿サンプルにおいて、MRP−14が検出されなければ、骨転移発症の低リスク群に分類される。
【0093】
本発明の他の態様は、非骨格性の癌を診断された患者において骨転移を処置するのに有用な物質のスクリーニング方法に関する。その方法は、(a)骨転移に冒される素因があるか、または冒されている非ヒト試験動物に候補物質を投与すること;(b)(a)の候補物質を、骨転移に冒される素因がないか、または冒されていない、調和する対照非ヒト動物に投与すること;(c)(a)および(b)の動物から得られるサンプル中の1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルを判定すること;および(d)(c)で判定されたレベルを比較すること、ここで、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルの低下は、候補物質が骨転移の処置に有用な物質であることを示す、を含む。
【0094】
好ましい実施態様では、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質は、MRP−14、S100A1ないし8、S100A10−13、S100P、カルビンジン1ないし3、カルシウム結合タンパク質1ないし5、ヒスチジンリッチカルシウム結合タンパク質、アネキシンA6、分泌性モジュラーカルシウム結合タンパク質2、レティキュロカルビン1、カルトラクチン、グランカルシン、カルシウム−およびインテグリン−結合タンパク質から選択される。最も好ましくは、カルシウム結合タンパク質はMRP−14である。
【0095】
好ましい実施態様によると、該サンプルは、組織または体液のサンプルであり、最も好ましくは血漿のサンプルである。1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルは、質量分析により、標識化抗体、好ましくはモノクローナル抗体または放射性標識化結合パートナーなどの、その1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質に特異的な標識化プローブを使用するウエスタンブロットまたはELISAにより、判定し得る。あるいは、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルは、該1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質をコードする1またはそれ以上の遺伝子の発現レベルを、例えばマイクロアレイ分析、ノーザンブロット分析、逆転写PCRおよびリアルタイム定量的PCRを使用して測定することにより判定し得る。
【0096】
本明細書で使用するとき、用語「低下」は、試験動物由来のサンプルについて測定した1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルにおける、非ヒト試験動物のサンプルについて判定されるレベルと比較したときの、測定レベルにおける統計的に有意な差異、または少なくとも1.5倍の差異を表す。好ましくは、該変化は、少なくとも2倍、3倍、5倍、10倍、30倍または100倍の差異である。
【0097】
骨転移の処置に有用な物質
本発明の他の実施態様では、骨転移の処置に有用な物質は、アンチセンスヌクレオチド、リボザイムおよび二本鎖RNA、低分子、抗体、または他のRNA、DNAもしくはタンパク質の量または活性を改変する手段からなる群から選択される。
【0098】
RNAの量または活性の改変方法
RNAの量または活性の改変方法は、現在のところ、リボザイム、アンチセンス種およびRNAアプタマーの3つのクラスに分けられる。Good et al., Gene Ther., Vol. 4, No. 1, pp. 45-54 (1997) 参照。細胞をこれらの成分に制御可能に適用または曝露することは、RNA量の制御可能な攪乱を可能にする。
【0099】
リボザイム
リボザイムは、RNA切断反応を触媒する能力のあるRNAである。Cech, Science, Vol. 236, pp. 1532-1539 (1987); PCT 国際公開WO 90/11364 (1990); Sarver et al., Science, Vol. 247, pp. 1222-1225 (1990) 参照。「ヘアピン」および「ハンマーヘッド」RNAリボザイムは、特定の標的mRNAを特異的に切断するように設計できる。他のRNA分子を高度に配列特異的なやり方で切断する、リボザイム活性を有する短いRNA分子を設計するための法則が確立されており、事実上全種類のRNAを標的とすることができる。Haseloff et al., Nature, Vol. 334, pp. 585-591 (1988); Koizumi et al., FEBS Lett., Vol. 228, pp. 228-230 (1988); および Koizumi et al., FEBS Lett., Vol. 239, pp. 285-288 (1988) 参照。リボザイム法は、そのような小型RNAリボザイム分子に細胞を曝すこと、細胞内でこれらの発現を誘導すること、などを含む。Grassi and Marini, Annals of Med., Vol. 28, No. 6, pp. 499-510 (1996); and Gibson, Cancer Meta. Rev., Vol. 15, pp. 287-299 (1996) 参照。
【0100】
リボザイムは、mRNAの切断に触媒的に有効であるのに十分な数で、日常的にインビボで発現させることができ、それにより細胞中のmRNA量を改変する。Cotton et al., EMBO J., Vol. 8, pp. 3861-3866 (1989) 参照。特に、先の法則に従い設計され、合成された、例えば、標準的ホルホラミダイト化学により合成された、リボザイムをコードするDNA配列を、tRNAをコードする遺伝子のアンチコドンステムおよびループ中の制限酵素部位に連結でき、次いでそれを当分野で日常的な方法により目的の細胞に形質転換および発現させることができる。
【0101】
好ましくは、グルココルチコイドまたはテトラサイクリン応答エレメントなどの誘導可能プロモーターもこのコンストラクトに導入し、リボザイム発現を選択的に制御できるようにする。飽和的使用には、高くかつ構成的に活性なプロモーターを使用できる。tDNA遺伝子、即ち、tRNAをコードする遺伝子は、それらの小さいサイズ、様々な種類の組織における高い割合の転写および普遍的発現のために有用である。従って、リボザイムは、実質的にいかなるmRNA配列も切断するために日常的に設計でき、制御可能かつ触媒的に有効な量のリボザイムが発現されるように、そのようなリボザイム配列をコードするDNAで日常的に細胞を形質転換できる。従って、細胞中の実質的にいかなるRNA種の量も、改変または攪乱できる。
【0102】
アンチセンス分子
他の実施態様では、標的RNA(好ましくはmRNA)種の活性、特にその翻訳速度は、アンチセンス核酸の制御可能な適用により制御可能に阻害できる。高レベルでの適用は、飽和的阻害をもたらす。「アンチセンス」核酸は、本明細書で使用するとき、標的RNAの配列特異的(例えば、ポリAではない)部分(例えばその翻訳開始領域)に、コードおよび/または非コード領域に相補的ないくつかの配列によりハイブリダイズできる核酸を表す。本発明のアンチセンス核酸は、二本鎖または一本鎖RNAまたはDNAまたはそれらの改変物または誘導体であるオリゴヌクレオチドであり得、それは制御可能な様式で細胞に直接投与できるか、または、外来性の導入された配列の転写により、標的RNAの翻訳を攪乱するのに十分な制御可能な量で、細胞内で産生させることができる。
【0103】
好ましくは、アンチセンス核酸は、少なくとも6個のヌクレオチドであり、好ましくは6個のオリゴヌクレオチドないし約200個のオリゴヌクレオチドの範囲のオリゴヌクレオチドである。特定の態様では、オリゴヌクレオチドは、少なくとも10個のヌクレオチド、少なくとも15個のヌクレオチド、少なくとも100個のヌクレオチドまたは少なくとも200個のヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドは、DNAもしくはRNAまたはそれらのキメラ的混合物もしくは誘導体もしくは修飾物であり得、一本鎖または二本鎖であり得る。オリゴヌクレオチドは、塩基部分、糖部分またはリン酸主鎖で修飾できる。オリゴヌクレオチドは、ペプチドまたは細胞膜を横切る移動を助ける物質 [例えば、Letsinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 86, pp. 6553-6556 (1989); Lemaitre et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 84, pp. 648-652 (1987); および PCT 公開番号 WO 88/09810 (1988) 参照]、ハイブリダイゼーションをきっかけとする切断物質 [例えば、Krol et al., BioTechniques, Vol. 6, pp. 958-976 (1988) 参照] または介入物質(intercalating agent)[例えば、Zon, Pharm. Res., Vol. 5, No. 9, pp. 539-549 (1988) 参照] などの他の付加的な基を含み得る。
【0104】
本発明の好ましい態様では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは一本鎖DNAとして提供される。オリゴヌクレオチドは、その構造中のどの位置でも、当分野で一般的に知られている成分で修飾し得る。
【0105】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、ベータ−D−ガラクトシルケオシン、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、β−D−マンノシルケオシン、5'−メトキシカルボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン(wybutoxosine)、偽性ウラシル(pseudouracil)、ケオシン(queosine)、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、5−メチル−2−チオウラシル、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)wおよび2,6−ジアミノプリンが含まれるがこれらに限定されるわけではない群から選択される、少なくとも1つの修飾された塩基部分を含んでもよい。
【0106】
他の実施態様では、オリゴヌクレオチドは、アラビノース、2−フルオロアラビノース、キシルロースおよびヘキソースが含まれるがこれらに限定されるわけではない群から選択される、少なくとも1つの修飾された糖部分を含む。
【0107】
なお他の実施態様では、オリゴヌクレオチドは、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホルアミドチオエート、ホスホルアミデート、ホスホルジアミデート、メチルホスホネート、アルキルホスホトリエステルおよびホルムアセタールまたはそれらの誘導体からなる群から選択される、少なくとも1つの修飾されたリン酸主鎖を含む。
【0108】
なお他の実施態様では、オリゴヌクレオチドは、2−a−アノマー性オリゴヌクレオチドである。a−アノマー性オリゴヌクレオチドは、相補的RNAと、通常のBユニットとは対照的に鎖が相互に平行に走る特別な二本鎖ハイブリッドを形成する。Gautier et al., Nucl. Acids Res., Vol. 15, pp. 6625-6641 (1987) 参照。
【0109】
オリゴヌクレオチドは、他の分子、例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーションをきっかけとするクロスリンク物質、輸送物質、ハイブリダイゼーションをきっかけとする切断物質などにコンジュゲートさせてもよい。
【0110】
本発明のアンチセンス核酸は、標的RNA種の少なくとも一部に相補的な配列を含む。しかしながら、絶対的な相補性は、好ましいが必要ではない。「RNAの少なくとも一部に相補的」な配列は、本明細書で使用されるとき、そのRNAとハイブリダイズして安定な二本鎖を形成できるのに十分な相補性を有する配列を意味する;二本鎖アンチセンス核酸の場合、従って、その二本鎖DNAの一本鎖が試験され得るか、または三本鎖形成がアッセイされ得る。ハイブリダイズする能力は、相補性の程度と、アンチセンス核酸の長さの両方に依存する。一般的に、ハイブリダイズする核酸が長ければ長いほど、多くの標的RNAとの塩基ミスマッチを含有し、かつ安定な二本鎖(または場合によっては三本鎖)を形成し得る。当業者は、ハイブリダイズした複合体の融点を判定する標準的な方法の使用により、耐えられるミスマッチの程度を確認できる。標的RNAの翻訳を阻害するのに有効なアンチセンス核酸の量は、標準的なアッセイ技法により判定できる。
【0111】
本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば、Biosearch、Applied Biosystems などから市販されているような自動DNAシンセサイザーの使用により、当分野で既知の標準的方法により合成し得る。例として、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドは、Stein et al., Nucl. Acids Res., Vol. 16, p. 3209 (1988) の方法で合成し得、メチルホスホネートオリゴヌクレオチドは、微細孔性ガラス(controlled pore glass)ポリマー支持体などの使用により調製できる。Sarin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 85, pp. 7448-7451 (1988) 参照。他の実施態様では、オリゴヌクレオチドは、2'−0−メチルリボヌクレオチド[Inoue et al., Nucl. Acids Res., Vol. 15, pp. 6131-6148 (1987) 参照] またはキメラRNA−DNA類似体[Inoue et al., FEBS Lett., Vol. 215, pp. 327-330 (1987) 参照]である。
【0112】
次いで、合成されたアンチセンスオリゴヌクレオチドは、制御された、または飽和的なやり方で、細胞に投与できる。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、細胞の生育環境中に制御されたレベルで置かれ、そこで細胞に取り込まれ得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドの取込みは、当分野で周知の方法の使用により補助できる。
【0113】
細胞内で発現されるアンチセンス分子
代替的実施態様では、本発明のアンチセンス核酸は、外来配列からの転写により、制御可能に細胞内で発現される。発現が高レベルであるように制御されるなら、飽和的攪乱または改変が生じる。例えば、ベクターは、細胞に取り込まれ、その細胞の中でベクターまたはその一部が転写され、本発明のアンチセンス核酸(RNA)を産生するように、インビボで導入できる。そのようなベクターは、そのアンチセンス核酸をコードする配列を含有し得る。そのようなベクターは、転写されて所望のアンチセンスRNAを産生できる限り、エピソームに留まっても、染色体に組み込まれてもよい。そのようなベクターは、当分野で標準的な組換えDNA技術の方法により構築できる。ベクターは、哺乳動物細胞での複製および発現に使用される、プラスミド、ウイルスまたは当分野で知られる他のものであり得る。
【0114】
アンチセンスRNAをコードする配列の発現は、関心のある細胞で作用する当分野で既知のいかなるプロモーターによるものでもよい。そのようなプロモーターは、誘導可能または構成的であり得る。最も好ましくは、アンチセンスオリゴヌクレオチドの制御発現を達成するために、外来成分の投与によって制御可能または誘導可能なものである。そのような制御可能プロモーターには、Tetプロモーターが含まれる。哺乳動物細胞に使用できる他のプロモーターには、SV40初期プロモーター領域[Bernoist and Chambon, Nature, Vol. 290, pp. 304-310 (1981)参照]、ラウス肉腫ウイルスの3'末端反復配列に含まれるプロモーター[Yamamoto et al., Cell, Vol. 22, pp. 787-797 (1980)参照]、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター[Wagner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 78, pp. 1441-1445 (1981)参照]、メタロチオネイン遺伝子などの調節配列 [Brinster et al., Nature, Vol. 296, pp. 39-42 (1982)参照]が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0115】
従って、アンチセンス核酸を日常的に設計して、実質的にいかなるmRNA配列をも標的化することができ、細胞は、有効かつ制御可能または飽和的な量のアンチセンス核酸を発現するように、そのようなアンチセンス配列をコードする核酸で日常的に形質転換できるか、それらに曝すことができる。従って、実質的にいかなるRNA種の翻訳も、細胞中で改変または攪乱できる。
【0116】
RNAアプタマー
最後に、さらなる実施態様では、RNAアプタマーを細胞に導入するか、または細胞中で発現させることができる。RNAアプタマーは、TatおよびRevRNAなどのタンパク質に特異的なRNAリガンドであり[前出の Good et al. (1997) 参照]、それらの翻訳を特異的に阻害できる。
【0117】
タンパク質量の改変方法
タンパク質量の改変方法には、なかんずく、タンパク質分解速度を変更するもの、およびタンパク質に結合する抗体を使用するものが含まれ、天然の標的タンパク質種の活性の量に影響を与える。タンパク質種の分解速度を高める(または低める)ことは、その種の量を減らす(または増やす)。高温および/または特定の薬物への曝露に応答して標的タンパク質の分解速度を高める方法を本発明で用いることができる。例えば、あるそのような方法は、熱誘導可能または薬物誘導可能なN末端デグロン(degron)を用いる。それは、高温、例えば37℃で迅速なタンパク質分解を促進する分解シグナルを露出し、低温、例えば23℃ではそれが隠されて迅速な分解を防止する、N末端タンパク質フラグメントである。Dohmen et al., Science, Vol. 263, pp. 1273-1276 (1994) 参照。そのような例示的デグロンは、N末端のValがArgにより置き換えられ、位置66のProがLeuで置き換えられたマウスのジヒドロ葉酸リダクダーゼの変異体である、Arg−DHFRtsである。
【0118】
この方法に従い、例えば、標的タンパク質の遺伝子Pを、当分野で知られている標準的標的遺伝子組換え法[Lodish et al., Molecular Biology of the Cell, W.H. Freeman and Co., NY, especially Chapter 8 (1995)参照]により、融合タンパク質Ub−Arg−DHFRts−P(「Ub」はユビキチンを表す)をコードする遺伝子と置き換える。N末端ユビキチンは、翻訳後迅速に切断されてN末端のデグロンを露出する。低温では、Arg−DHFRtsの内部のリジンは露出されず、融合タンパク質のユビキチン化は起こらず、分解は遅く、活性な標的タンパク質のレベルは高い。高温では(メトトレキセートの非存在下)、Arg−DHFRtsの内部のリジンは露出され、融合タンパク質のユビキチン化が起こり、分解は迅速であり、活性な標的タンパク質のレベルは低い。この技法はまた、熱による分解の活性化がメトトレキセートに曝すことにより制御可能に妨害されるので、制御可能な分解速度の改変も可能にする。この方法は、薬物や温度変化などの他の誘導因子に応答する他のN末端デグロンにも適合させ得る。
【0119】
抗体によるタンパク質活性の改変
標的タンパク質の活性は、(中和性)抗体によっても減ずることができる。かかる抗体への制御された、または飽和的な曝露をもたらすことにより、制御された、または飽和的なやり方でタンパク質の量/活性を改変または攪乱できる。例えば、タンパク質表面上の適するエピトープに対する抗体は、野生型非凝集の野生型形態と比較して低いかまたは最低限の活性の複合体に活性型を凝集させることにより、野生型の活性型の標的タンパク質の量を減らし、かくして間接的に活性を下げる。
【0120】
あるいは、抗体は、例えば、活性部位と直接相互作用することにより、または活性部位への基質の接近を妨害することにより、タンパク質活性を直接低下させ得る。逆に言えば、ある種の場合では、(活性化)抗体がタンパク質およびそれらの活性部位と相互作用してその結果活性を高めることもあり得る。いずれの場合でも、抗体(これから記載する様々なタイプのもの)を特定のタンパク質種に対して(これから記載する方法により)生成させ、それらの効果をスクリーニングする。抗体の効果をアッセイでき、標的タンパク質種の濃度および/または活性を上昇または低下させる適切な抗体を選択できる。そのようなアッセイには、抗体を細胞に導入すること(下記参照)およびその標的タンパク質の野生型の量または活性の濃度をイムノアッセイなどの当分野で知られている標準的手段によりアッセイすることが含まれる。野生型の総活性は、標的タンパク質の既知の活性に適するアッセイ手段によりアッセイできる。
【0121】
抗体は、例えば、細胞への抗体のマイクロインジェクション[Morgan et al., Immunol. Today, Vol. 9, pp. 84-86 (1988)参照]または細胞への所望の抗体をコードするハイブリドーマmRNAの形質転換[Burke et al., Cell, Vol. 36, pp. 847-858 (1984)参照]を含む、多数の様式で細胞に導入できる。さらなる技法では、組換え抗体を工学処理し、様々な非リンパ性細胞タイプで異所的に発現させて標的タンパク質に結合させ、そして標的タンパク質の活性を妨害することができる。Biocca et al., Trends Cell Biol., Vol. 5, pp. 248-252 (1995) 参照。抗体の発現は、好ましくはTetプロモーターなどの制御可能プロモーターまたは構成的に活性なプロモーター(飽和性攪乱を奏するため)の制御下である。第1段階は、標的タンパク質への適切な特異性を有する特定のモノクローナル抗体の選択である(下記参照)。次いで、選択された抗体の可変領域をコードする配列を、例えば、抗体全体、Fabフラグメント、Fvフラグメント、一本鎖Fv(ScFv)フラグメント(ペプチドリンカーにより繋げられたVおよびV領域)、二重特異性抗体(diabody)(異なる特異性を有する2つの連合したScFvフラグメント)などを含む、様々に工学処理された抗体フォーマットにクローニングできる。Hayden et al., Curr. Opin. Immunol., Vol. 9, pp. 210-212 (1997) 参照。
【0122】
細胞内で発現された様々なフォーマットの抗体は、様々な既知の細胞内リーダー配列との融合体として発現させることにより、細胞質、核、ミトコンドリアなどの細胞内区画に標的化できる。Bradbury et al., Antibody Engineerinq, Borrebaeck, Editor, Vol. 2, pp. 295-361, IRL Press (1995) 参照。特に、ScFvフォーマットは、細胞質の標的化に特に適すると思われる。
【0123】
抗体のタイプには、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、一本鎖、FabフラグメントおよびFab発現ライブラリーが含まれるが、これらに限定されるものではない。当分野で知られている様々な方法を、標的タンパク質に対するポリクローナル抗体の産生に使用し得る。抗体の産生のために、様々な宿主動物を注射により標的タンパク質で免役できる。そのような宿主動物には、ウサギ、マウス、ラットなどが含まれるがこれらに限定されるものではない。免疫応答を高めるために、宿主に応じて様々なアジュバントを使用でき、これにはフロイントのもの(完全または不完全)、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール類、ポリアニオン類、ペプチド類、油乳液類、ジニトロフェノール、およびカルメット・ゲラン桿菌(BCG)およびコリネバクテリウム・パルバムなどの潜在的に有用なヒトのアジュバントが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0124】
標的タンパク質に対するモノクローナル抗体の調製のために、培養された継続的細胞株による抗体分子の産生をもたらすいかなる技法も使用し得る。かかる技法には、Kohler and Milstein, Nature, Vol. 256, pp. 495-497 (1975) により元々開発されたハイブリドーマ技法、トリオーマ(trioma)技法、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法[Kozbor et al., Immunol. Today, Vol. 4, p. 72 (1983)参照]およびヒトモノクローナル抗体を産生するためのEBVハイブリドーマ技法[Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96 (1985)参照]が含まれるがこれらに限定されるものではない。本発明のさらなる実施態様では、最近の技術を利用して無菌動物でモノクローナル抗体を産生できる。PCT/US90/02545参照。
【0125】
本発明によると、ヒト抗体を使用し得る。それは、ヒトハイブリドーマを使用することにより[Cote et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 80, pp. 2026-2030 (1983)参照]、または、ヒトB細胞をEBVウイルスによりインビトロで形質転換することにより[前出の Coleetal. (1985)参照]得ることができる。実際に、本発明によると、標的タンパク質に特異的なマウス抗体分子からの遺伝子を、適切な生物学的活性を有するヒト抗体分子からの遺伝子と繋げることによる、「キメラ抗体」の産生のために開発された技法[Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 81, pp. 6851-6855 (1984); Neuberger et al., Nature, Vol. 312, pp. 604-608 (1984); Takeda et al., Nature, Vol. 314, pp. 452-454 (1985)参照]を使用できる;そのような抗体は、本発明の範囲内にある。
【0126】
加えて、モノクローナル抗体が有利である場合、ファージディスプレイの技法を使用して大型抗体ライブラリーから代替的に選択することができる。Marks et al., J. Biol. Chem., Vol. 267, pp. 16007-16010 (1992) 参照。この技法を使用して、1012個までの異なる抗体のライブラリーを、fd繊維状ファージの表面に発現させ、モノクローナル抗体の選択に利用可能な抗体の「シングルポット(single pot)」のインビトロの免疫系を創生する。Griffiths et al., EMBO J., Vol. 13, pp. 3245-3260 (1994) 参照。かかるライブラリーからの抗体の選択は、当分野で知られている技法により行うことができ、それには、ファージを固体された標的タンパク質に接触させること、標的に結合したファージを選択しクローニングすること、および抗体可変領域をコードする配列を、所望の抗体フォーマットを発現する適切なベクターにサブクローニングすること、が含まれる。
【0127】
本発明によると、一本鎖抗体の産生のために記載された技法(米国特許第4,946,778号参照)を、標的タンパク質に特異的な一本鎖抗体の産生に適合させることができる。本発明のさらなる実施態様は、Fab発現ライブラリーの構築のために記載された技法[Huse et al., Science, Vol. 246, pp. 1275-1281 (1989)参照]を利用して、標的タンパク質への所望の特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ容易な同定を可能にする。
【0128】
標的タンパク質のイディオタイプを有する抗体フラグメントを、当分野で知られている技法により生成できる。例えば、そのようなフラグメントには、抗体分子のペプシン切断により産生できるF(ab')フラグメント;F(ab')フラグメントのジスルフィド架橋の還元により生成できるFab'フラグメント、抗体分子をパパインおよび還元剤で処理することにより生成できるFabフラグメントおよびFvフラグメントが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0129】
抗体の産生において、所望の抗体のスクリーニングは、当分野で知られている技法、例えばELISAにより達成できる。標的タンパク質に特異的な抗体を選択するために、生成させたハイブリドーマまたはファージディスプレイ抗体ライブラリーを、標的タンパク質に結合する抗体についてアッセイし得る。
【0130】
タンパク質活性の改変方法
タンパク質の活性を直接改変する方法には、なかんずく、ドミナントネガティブ変異導入、特定の薬物または化学物質、およびまた以前に論じたように抗体の使用が含まれる。
【0131】
ドミナントネガティブ変異導入は、細胞内で発現されると標的タンパク質種の活性を崩壊させる内在遺伝子または変異型外来遺伝子への変異導入である。標的タンパク質の構造および活性に依存して、その標的の活性を崩壊させるドミナントネガティブ変異導入を構築するための適切な戦略の選択を導く一般法則が存在する。Hershkowitz, Nature, Vol. 329, pp. 219-222 (1987) 参照。活性型単量体の場合、不活性型の過剰発現は、標的タンパク質の総活性を有意に減少させるのに十分な天然基質またはリガンドの競合を引き起こすことができる。そのような過剰発現は、例えば、活性の高いプロモーター、好ましくは制御可能または誘導可能プロモーター、または構成的に発現するプロモーターを、変異型遺伝子と結びつけることにより達成できる。あるいは、活性部位の残基への変更を行い、標的リガンドとの事実上不可逆的な会合が起こるようにできる。このようなことは、活性部位のセリン残基を注意深く置換することにより、ある種のチロシンキナーゼで達成できる。Perlmutter et al., Curr. Opin. Immunol., Vol. 8, pp. 285-290 (1996) 参照。
【0132】
活性型多量体の場合、いくつかの戦略がドミナントネガティブ変異体の選択を導くことができる。多量体会合ドメインに結合し多量体形成を妨害する外来タンパク質フラグメントをコードする遺伝子の発現により、制御された、または飽和的なやり方で、多量体の活性を低下させられる。あるいは、特定のタイプの不活性タンパク質ユニットの制御可能または飽和的過剰発現は、野生型活性ユニットを不活性な多量体に拘束し、それにより多量体の活性を低下させることができる。Nocka et al., EMBO J., Vol. 9, pp. 1805-1813 (1990) 参照。例えば、二量体DNA結合タンパク質の場合、DNA結合ユニットからDNA結合ドメインを、または活性化ユニットから活性化ドメインを欠失させることができる。また、この場合、活性化ユニットとの会合を起こさないDNA結合ドメインのユニットを発現させることができる。それにより、DNA結合部位は、起こり得る発現の活性化がなく拘束される。特定のタイプのユニットが活性化中に通常は構造変化を経る場合、硬直したユニットの発現は、生じる複合体を不活性化できる。
【0133】
さらなる例として、細胞運動、有糸分裂過程、細胞構造形成などの細胞メカニズムに関与するタンパク質は、典型的には少数のタイプの多数のサブユニットの会合で構成されている。これらの構造は、構造的欠陥を有する少数の単量体ユニットの包含による混乱に、しばしば非常に敏感である。そのような変異型単量体は、関連するタンパク質の活性を崩壊させる。これらは、制御された、または飽和的なやり方で細胞に発現させることができる。
【0134】
ドミナントネガティブ変異体に加えて、温度(または他の外的要因)に敏感な変異型標的タンパク質を、当分野で周知の変異導入およびスクリーニング操作により見出すことができる。
また、当業者は、標的タンパク質に結合し阻害する抗体の発現は、もう一つのドミナントネガティブ戦略として採用できることを理解するであろう。
【0135】
低分子の薬物によるタンパク質の改変
最後に、ある種の標的タンパク質の活性は、外来性の薬物またはリガンドへの曝露により、制御された、または飽和的なやり方で改変または攪乱できる。本発明の方法は、しばしば癌処置用の様々な薬物の有用性の試験または確認に適用されるので、薬物曝露は、mRNAおよび発現されたタンパク質の両細胞構成要素を改変/攪乱する重要な方法である。好ましい実施態様では、入力(input)細胞構成要素を、薬物曝露または遺伝子欠失もしくはノックアウトなどの遺伝子操作のいずれかで攪乱し;そしてシステムの応答を遺伝子転写物アレイへのハイブリダイゼーションなどの遺伝子発現技術により測定する(後述する)。
【0136】
好ましい場合では、薬物は、細胞中の1種のみの標的タンパク質と相互作用し、その1種のみの標的タンパク質の活性を、活性を上げるか下げるかして変更すると知られているものである。様々な量のその薬物に細胞を段階的に曝露し、それによりその標的タンパク質を入力として含むネットワークモデルの段階的攪乱を引き起こす。飽和的曝露は、飽和的改変/攪乱をもたらす。例えば、シクロスポリンAは、サイクロフィリンとの複合体を介して作用するカルシニュリンタンパク質の非常に特異的な調節因子である。従って、シクロスポリンAの滴定系列(titration series)を使用して、カルシニュリンタンパク質のいかなる所望の阻害量も生成させることができる。あるいは、シクロスポリンAへの飽和的曝露は、カルシニュリンタンパク質を最大に阻害するであろう。
【0137】
本発明はさらに、患者の癌組織サンプルまたは血液サンプル中のカルシウム結合タンパク質の過剰発現を検出することにより、骨転移のリスクが高い癌患者を予測するための診断用キットに関する。
【0138】
好ましい実施態様では、どの非骨格性の癌を有する患者が骨転移を発症しそうであるかの判定に使用するための試験キットが提供され、それは、上記の通りの1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルまたは存在を判定できる試薬を、組織サンプルまたは体液を接触させるのに適する容器中に含み、結果の解釈のための指示を伴う。最も好ましくは、その試薬は、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質に特異的に結合できる抗体を含む。
【0139】
本発明はさらに、患者の癌組織サンプルまたは血漿中のMRP−14の存在を検出することにより、骨転移のリスクが高い癌患者を予測するための診断用キットに関し、特に、そのキットはMRP−14の抗体を含む。
【0140】
コンピューターによる実行
いくつかの実施態様では、生物学的システムのモデルを形成し試験するのに強力かつ便利な設備を提供するために、以前の方法のコンピューター処理段階をコンピューターシステムまたは1またはそれ以上のネットワークのコンピューターシステムで実行する。該コンピューターシステムは、内部成分を含み外部成分に連結されている単一のハードウエアプラットフォームであり得る。このコンピューターシステムの内部成分には、メインメモリーに相互連結されたプロセッサーエレメントが含まれる。例えば、コンピューターシステムは、Intel Pentium をベースとする200Mhzまたはそれ以上のクロック速度のプロセッサーであり得、32MBまたはそれ以上のメインメモリーを有することができる。
【0141】
外部成分には、大容量データ記憶装置(mass data storage)が含まれる。この大容量記憶装置は、典型的にはプロセッサーおよびメモリーと一緒に納められた1またはそれ以上のハードディスクであり得る。典型的には、そのようなハードディスクは、少なくとも1GBの記憶容量を与える。他の外部成分には、モニターやキーボードであり得るユーザーインターフェイス装置、「マウス」または他の画像入力装置であり得るポインティング(pointing)装置が含まれる。典型的には、該コンピューターシステムはまた、他のローカルコンピューターシステム、遠隔コンピューターシステム、またはインターネットなどの広域連絡ネットワークに連結される。このネットワークリンクは、コンピューターシステムがデータおよび処理タスクを他のコンピューターシステムと共有することを可能にする。
【0142】
このシステムの操作中にメモリーにロードされるのは、いくつかのソフトウエア成分である。それらは、当分野で標準的なものおよび本発明に特別なものの両方である。これらのソフトウエア成分は、本発明の方法に従い共同的に該コンピューターシステムを機能させる。これらのソフトウエア成分は、典型的には大容量記憶装置に記憶される。あるいは、ソフトウエア成分は、フロッピーディスクまたはCD−ROMなどの移動可能メディアに記憶してもよい(図示しない)。ソフトウエア成分は、コンピューターシステムおよびそのネットワークの相互連結の統御を担うオペレーティングシステムを意味する。このオペレーティングシステムは、例えば、Windows 95, Windows 98 または Windows NT などの Microsoft Windows の系統;または Sun Solaris などの Unix オペレーティングシステムであり得る。ソフトウエアは、本発明に特別な方法を実行するプログラムを補助するための、このシステムに好都合に存在する共通言語および関数を含む。本発明の分析法をプログラムするのに使用できる言語には、C、C++または、あまり好ましくはないが、JAVAが含まれる。
【0143】
好ましくは、本発明の方法は、使用すべきアルゴリズムを含む、等式の記号的記入および高レベルのプロセッシング仕様(specification of processing)を可能にする数学的ソフトウエアパッケージにプログラムされ、それによりユーザーを個々の等式またはアルゴリズムを手続的にプログラムする必要から解放する。そのようなパッケージには、例えば、Mathworks (Natick, Mass.) の Matlab、Wolfram Research (Champaign, IL) の Mathematica および Mathsoft (Cambridge, MA) の MathCAD が含まれる。
【0144】
いくつかの実施態様では、分析的ソフトウエア成分は、実際には、相互作用する分離したソフトウエア成分を含む。分析的ソフトウエアは、システムのオペレーションに必要な全データを含有するデータベースを意味する。そのようなデータは、一般に、先行実験の結果、ゲノムデータ、実験方法およびコスト並びに当業者には明らかである他の情報を含むが、これらに限定される必要はない。分析的ソフトウエアは、本発明の分析方法を実行する1またはそれ以上のプログラムを含むデータ簡約およびコンピューター処理成分を含む。
【0145】
分析的ソフトウエアは、コンピューターシステムのユーザーに試験ネットワークモデルおよび場合により実験データの制御および入力を提供するユーザーインターフェイスも含む。ユーザーインターフェイスは、そのシステムに仮説を指定するためのドラッグ−アンド−ドロップ(drag-and-drop)インターフェイスを含み得る。ユーザーインターフェイスは、大容量記憶装置成分(例えば、ハードドライブ)から;移動可能メディア(例えば、フロッピーディスクまたはCD−ROM)から;またはローカルエリアネットワークなどのネットワークもしくはインターネットなどの広域連絡ネットワークを介して本システムと連絡する他のコンピューターシステムから、実験データをロードするための手段も含み得る。
【0146】
本発明の分析方法を実行するための代替的システムと方法は、当業者に明らかであり、添付の特許請求の範囲に包含されると意図している。特に、添付の特許請求の範囲は、当業者には容易に理解されるであろう、本発明の方法を実行するための代替的プログラム構造を含むと意図している。
【0147】
引用文献
本明細書で引用する全文献は、各個々の刊行物または特許または特許出願をあらゆる目的で全体を出典明示により本明細書の一部とすると特定的かつ個別的に示すのと同程度に、あらゆる目的で全体を出典明示により本明細書の一部とする。本明細書における文献の議論は、それらの著者により成された主張を要約したにすぎず、どの文献も先行技術を構成することを認めない。出願人は、引用文献の正確さと妥当性を疑う権利を保有する。
【0148】
加えて、本明細書で引用される全ての GenBank 受託番号、Unigene Cluster 番号およびタンパク質受託番号は、各々のそのような番号をあらゆる目的で全体を出典明示により本明細書の一部とすると特定的かつ個別的に示すのと同程度に、あらゆる目的で全体を出典明示により本明細書の一部とする。
【0149】
本発明は、本発明の個々の態様の単一の例示であることを意図する、本願に記載した特定の実施態様によって限定されない。
【0150】
当業者には明らかである通り、本発明の多数の改変および変動をその精神と範囲から逸脱せずになすことができる。本明細書で列挙したものに加えて、本発明の範囲内にある機能的に均等な方法および装置は、先行する記載および添付の図面から当業者には明らかであろう。そのような改変および変動は、添付の特許請求の範囲内にあると意図している。本発明は、添付の特許請求の範囲並びにそのような特許請求の範囲が受けられる均等物の全範囲によってのみ限定される。
【0151】
実施例1
肺および前立腺癌を発症している患者の骨転移を予測するタンパク質を同定するために研究を実施した。この研究では、各癌のタイプについて、骨転移のある30人および骨転移のない30人の、60人の患者を選択した。各癌について血漿を3時点;1)癌の診断時、2)骨転移の診断時、および3)後期ステージIVの疾患において集め、腫瘍組織を採取した。MRP−14の存在を免疫組織化学(IHC)法により検出した。骨転移を起こした腫瘍の内、腫瘍の68%がIHCでMRP−14陽性であった。骨転移を起こさなかった腫瘍の内、腫瘍の0%がIHCでMRP−14陽性であり、正常組織の対照サンプルでは0%がIHCでMRP−14陽性であった。結論は、肺および前立腺癌の患者から採取した組織サンプルの内、診断時に、免疫組織化学的染色法の使用によるMRP−14の染色によって、それらの68%が骨に転移するであろうと判定することが可能であったということである。陽性に染色された組織サンプルは骨転移を形成したもののみであり、骨転移を形成しなかった腫瘍から、または正常対照組織からの組織サンプルは、いずれもこの方法で陽性と見出されなかった。
【0152】
実施例2
もう一つの研究では、標準的なELISA定量アッセイ法の使用により、乳癌患者の血漿中のMRP−14のレベルを定量的に判定した。骨転移のある患者およびない患者を含めた。この研究では、29人の骨転移のある乳癌患者の血清中のMRP−14の平均レベルは10.21、標準偏差1.97であり、29人の骨転移のない乳癌患者の血清中のMRP−14の平均レベルは6.51、標準偏差0.86であると判定された。詳しい結果を下表1に示す。
【0153】
表1
【表1】

【0154】
【表2】

【0155】
本研究の結論は、乳癌患者では、乳癌が骨に転移しない患者と比較して、骨転移を発症した患者でMPR−14のレベルは有意に高いということである。従って、乳癌患者におけるこのMRP−14のレベルは、どの患者が骨に転移する癌を有するかを示すものとして使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非骨格性の癌を診断された患者における骨転移の阻害方法であって、
(a)該患者の組織または体液のサンプルを、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質の存在について試験すること、そして、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質が検出された場合、
(b)該患者を骨転移阻害療法で処置すること、
を含む方法。
【請求項2】
非骨格性の癌を診断された患者における骨転移の阻害方法であって、
(a)該患者の癌組織サンプルまたは血液を、カルシウム結合タンパク質の存在について試験すること、そして、カルシウム結合タンパク質が検出された場合、
(b)該患者を骨転移阻害療法で処置すること、
を含む方法。
【請求項3】
カルシウム結合タンパク質が、S100タンパク質ファミリーのメンバーである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
カルシウム結合タンパク質が、MRP−14、S100A1ないし8、S100A10−13、S100P、カルビンジン1ないし3、カルシウム結合タンパク質1ないし5、ヒスチジンリッチカルシウム結合タンパク質、アネキシンA6、分泌性モジュラーカルシウム結合タンパク質2、レティキュロカルビン1、カルトラクチン、グランカルシン並びにカルシウム−およびインテグリン−結合タンパク質からなる群から選択される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項5】
非骨格性の癌が、乳癌、生殖泌尿器の癌、肺癌、消化管の癌、類表皮癌、黒色腫、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌、神経芽細胞腫、頭部および/または首の癌、膀胱癌、腎臓、脳または胃の癌である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項6】
非骨格性の癌が肺癌である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
非骨格性の癌が乳癌である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
骨転移阻害療法が、酸または塩形態のビスホスホネートによる処置を含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項9】
ビスホスホネートが、ゾレンドロン酸またはその塩である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項10】
非骨格性の癌を診断された患者における骨転移の阻害方法であって、
(a)該患者の組織または体液のサンプルを、カルシウム結合タンパク質MRP−14の存在について試験すること、そして、MRP−14が検出された場合、
(b)該患者を骨転移阻害療法で処置すること、
を含む方法。
【請求項11】
非骨格性の癌を診断された患者における骨転移の阻害方法であって、
(a)該患者の癌組織サンプルまたは血液を、MRP−14の存在について試験すること、そして、遊走阻害因子関連タンパク質14が検出された場合、
(b)該患者を骨転移阻害療法で処置すること、
を含む方法。
【請求項12】
骨転移阻害療法が、酸または塩形態のビスホスホネートによる処置を含む、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ビスホスホネートが、ゾレンドロン酸またはその医薬的に許容し得る塩である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
非骨格性の癌が、乳癌、生殖泌尿器の癌、肺癌、消化管の癌、類表皮癌、黒色腫、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌、神経芽細胞腫、頭部および/または首の癌、膀胱癌、腎臓、脳または胃の癌である、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項15】
非骨格性の癌が肺癌である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
非骨格性の癌が乳癌である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
カルシウム結合タンパク質の存在が質量分析により判定される、請求項1、請求項2、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項18】
カルシウム結合タンパク質の存在が、ウエスタンブロットまたはELISAにより判定される、請求項1、請求項2、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項19】
カルシウム結合タンパク質に特異的な標識化プローブを使用する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
標識化プローブが、抗体または放射性標識化結合パートナーである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
抗体がMRP−14に結合できるMAC387である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質の存在が、該1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質をコードする1またはそれ以上の遺伝子の発現レベルを測定することにより判定される、請求項1、請求項2、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項24】
該発現レベルが、マイクロアレイ分析、ノーザンブロット分析、逆転写PCRおよびリアルタイム定量的PCRからなる群から選択される技法により検出される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
非骨格性の癌を診断されたどの患者が、骨転移を発症しそうであるかを判定する方法であって、
a)該患者から組織または体液のサンプルを得ること;
b)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルが該組織または体液のサンプルにおいて上昇しているか否かを判定すること;
c)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルが上昇している場合、該患者が骨転移発症の高リスク群に属すると判定すること;および
d)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルが上昇していない場合、該患者が骨転移発症の低リスク群に属すると判定すること、
を含む方法。
【請求項26】
非骨格性の癌を診断されたどの患者が、骨転移を発症しそうであるかを判定する方法であって、
a)該患者から組織または体液のサンプルを得ること;
b)該組織または体液のサンプルにおいて、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質の存在を判定すること;
c)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質の存在が検出される場合、該患者が骨転移発症の高リスク群に属すると判定すること;および
d)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質が検出されない場合、該患者が骨転移発症の低リスク群に属すると判定すること、
を含む方法。
【請求項27】
非骨格性の癌を診断されたどの患者が、骨転移を発症しそうであるかを判定する方法であって、
a)インビトロまたはエクスビボで、1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルが該患者の組織または体液のサンプルにおいて上昇しているか否かを判定すること;
b)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルが上昇している場合、該患者が骨転移発症の高リスク群に属すると判定すること;および
c)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルが上昇していない場合、該患者が骨転移発症の低リスク群に属すると判定すること、
を含む方法。
【請求項28】
非骨格性の癌を診断されたどの患者が、骨転移を発症しそうであるかを判定する方法であって、
a)インビトロまたはエクスビボで、該患者の組織または体液のサンプルにおける1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質の存在を判定すること;
b)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質が検出される場合、該患者が骨転移発症の高リスク群に属すると判定すること;および
c)1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質が検出されない場合、該患者が骨転移発症の低リスク群に属すると判定すること、
を含む方法。
【請求項29】
カルシウム結合タンパク質が、S100タンパク質ファミリーのメンバーである、請求項25、請求項26、請求項27または請求項28に記載の方法。
【請求項30】
カルシウム結合タンパク質が、MRP−14、S100A1ないし8、S100A10−13、S100P、カルビンジン1ないし3、カルシウム結合タンパク質1ないし5、ヒスチジンリッチカルシウム結合タンパク質、アネキシンA6、分泌性モジュラーカルシウム結合タンパク質2、レティキュロカルビン1、カルトラクチン、グランカルシン並びにカルシウム−およびインテグリン−結合タンパク質からなる群から選択される、請求項25、請求項26、請求項27または請求項28に記載の方法。
【請求項31】
該組織または体液のサンプルが、組織生検、血液、血清、血漿、リンパ、腹水、嚢胞液、尿、脳脊髄液(CSF)、唾液または汗からなる群から選択される、請求項25、請求項26、請求項27または請求項28に記載の方法。
【請求項32】
非骨格性の癌が、乳癌、生殖泌尿器の癌、肺癌、消化管の癌、類表皮癌、黒色腫、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌、神経芽細胞腫、頭部および/または首の癌、膀胱癌、腎臓、脳または胃の癌である、請求項25、請求項26、請求項27または請求項28に記載の方法。
【請求項33】
非骨格性の癌が肺癌である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
非骨格性の癌が乳癌である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
該組織または体液のサンプルにおける1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルまたは存在を判定する段階が、質量分析を利用して該1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルを測定することによるものである、請求項25、請求項26、請求項27、請求項28、請求項29、請求項30、請求項31、請求項32、請求項33または請求項34に記載の方法。
【請求項36】
該組織または体液のサンプルにおける1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルまたは存在が、該タンパク質に特異的に結合する試薬を利用して該1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルを測定することにより行われる、請求項25、請求項26、請求項27、請求項28、請求項29、請求項30、請求項31、請求項32、請求項33または請求項34に記載の方法。
【請求項37】
該試薬が該カルシウム結合タンパク質に特異的な標識化プローブである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
該試薬が抗体を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
該試薬がモノクローナル抗体である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルまたは存在が、該1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質をコードする1またはそれ以上の遺伝子の発現レベルを測定することにより判定される、請求項25または請求項27に記載の方法。
【請求項41】
該発現レベルが、マイクロアレイ分析、ノーザンブロット分析、逆転写PCRおよびリアルタイム定量的PCRからなる群から選択される技法により検出される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
非骨格性の癌を診断された患者において骨転移を処置するのに有用な物質のスクリーニング方法であって、
(a)骨転移に冒される素因があるか、または冒されている非ヒト試験動物に候補物質を投与すること;
(b)(a)の候補物質を、骨転移に冒される素因がないか、または冒されていない、調和する対照非ヒト動物に投与すること;
(c)(a)および(b)の動物から得られるサンプル中の1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルを判定すること;
(d)(c)で判定されたレベルを比較すること、ここで、該1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルの低下は、候補物質が骨転移の処置に有用な物質であることを示す、
を含む方法。
【請求項43】
1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質が、MRP−14、S100A1ないし8、S100A10−13、S100P、カルビンジン1ないし3、カルシウム結合タンパク質1ないし5、ヒスチジンリッチカルシウム結合タンパク質、アネキシンA6、分泌性モジュラーカルシウム結合タンパク質2、レティキュロカルビン1、カルトラクチン、グランカルシン、カルシウム−およびインテグリン−結合タンパク質から選択される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
カルシウム結合タンパク質がMRP−14である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
該サンプルが組織または体液のサンプルである、請求項42、請求項43または請求項44に記載の方法。
【請求項46】
1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルが質量分析により判定される、請求項42、請求項43、請求項44または請求項45に記載の方法。
【請求項47】
1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルがウエスタンブロットまたはELISAにより判定される、請求項42、請求項43、請求項44または請求項45に記載の方法。
【請求項48】
1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質に特異的な標識化プローブを使用する、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
標識化プローブが、抗体または放射性標識化結合パートナーである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質のレベルが、該1またはそれ以上のカルシウム結合タンパク質をコードする1またはそれ以上の遺伝子の発現レベルを測定することにより判定される、請求項42、請求項43、請求項44または請求項45に記載の方法。
【請求項52】
該発現レベルが、マイクロアレイ分析、ノーザンブロット分析、逆転写PCRおよびリアルタイム定量的PCRからなる群から選択される技法により検出される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
該試薬が、アンチセンスヌクレオチド、リボザイムおよび二本鎖RNAからなる群から選択される、請求項42に記載の方法。
【請求項54】
非骨格性の癌を有するどの患者が骨転移を発症しそうであるかの判定に使用するための試験キットであって、請求項36、請求項37、請求項38または請求項39の試薬を、該体液を接触させるのに適する容器中に含み、結果の解釈のための指示を伴う、試験キット。
【請求項55】
該試薬が抗体を含み、該抗体が該カルシウム結合タンパク質に特異的に結合する、請求項54に記載の試験キット。
【請求項56】
組織または体液のサンプル中のMPR−14のレベルおよび/または存在を検出できる抗体を含む、請求項54または請求項55に記載の試験キット。

【公表番号】特表2006−524803(P2006−524803A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504606(P2006−504606)
【出願日】平成16年3月9日(2004.3.9)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002415
【国際公開番号】WO2004/081573
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
PENTIUM
UNIX
WINDOWS
JAVA
フロッピー
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】