説明

カルバペネム類の製造方法およびその製造に用いられる中間体

本発明は、プロドラッグ型の経口用カルバペネム剤として有用な下記式(XI)[式中、Rは、生体内で分解されて容易に除去しうる基を表し、かつ、Rは、1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イル、またはピロリジン−2−オン−4−イルを表す]の化合物の製造方法、およびその製造において用いられる合成中間体に関する。本発明の方法によれば、前記化合物をより安価に製造することができ、工業的製造も有利に行うことができる。


【発明の詳細な説明】
[発明の背景]
発明の分野
本発明は、プロドラッグ型の経口用抗菌剤として有用なカルバペネム系化合物の製造方法に関する。本発明はまた、その製造方法において用いられる合成中間体に関する。
関連技術
プロドラッグ型経口用医薬として有用なカルバペネム系化合物として、下記のような式(A)の化合物(以下、化合物Aという)、および式(B)の化合物(以下、化合物Bという)が知られている。

これら化合物Aおよび化合物Bを含む化合物の群は、その構造中に、生体内で分解されて容易に除去しされ得る基部位を備えている。この基は、プロドラッグのプロモエティとも呼ばれ、生体内に入ると容易に分解されて、脱離する。この基が脱離した化合物は、幅広い抗菌スペクトルと強い抗菌活性を示し、抗菌剤として用いることができる。一方、化合物A等のような化合物は、腎デヒドロペプチダーゼに対して優れた安定性を有し、経口投与された場合、消化管から吸収において優れた吸収性を示す。このため、これらの化合物は、プロドラッグ型経口用医薬として実用化が大いに期待されている。
化合物Aの従来の製造法は、例えば、日本国特許第2,666,118号公報等に記載されている。ここには、化合物Aは、スキーム1の手順にしたがって、式(C)の化合物(以下、化合物Cという)を出発物質として製造できることが記載されている。
スキーム1:

[式中、Phはフェニル基を表し、PNBはパラ−ニトロベンジル基を表す]。
また日本国特許第2,666,118号公報には、実際の合成例(実施例1および5)においては、保護基としてパラ−ニトロベンジル基を必要とする1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イル基の導入プロセスを経て、ピバロイルオキシメチル基を有する化合物Aを合成することが開示されている。このため、ピバロイルオキシメチル基を有する化合物Aを合成する場合には、化合物Cにおいてピバロイルオキシメチル基を有する化合物を出発物質として使用するのではなく、パラ−ニトロベンジル基を有する化合物を使用すべきことが、この特許公報は示唆しているといえる。
特開平6−321946号、およびHeterocycles,21,p.29〜40,(1984)には、スキーム1中の化合物Cは、式(D)の化合物(以下、化合物Dという)を出発物質として製造できることが記載されている。
したがって、既知の方法によれば、化合物Aは、化合物Dを出発物質とする、合計9つの工程を経て製造できる(スキーム2参照)。
スキーム2:

[式中、Phはフェニル基を表し、TBSはt−ブチルジメチルシリル基を表し、かつ、PNBはパラ−ニトロベンジル基を表す]。
一般的に、経口用プロドラッグを製造する場合には、活性物質本体を先ず製造し、最後に生体内で分解されて容易に除去しうる置換基部分(すなわち、プロドラッグのプロモエティ)を導入する。前記スキーム2に示した化合物Aの製造方法も、このような従来のプロドラッグ製法に従ったものである。
しかしながら、このような従来法において、化合物Cのカルボン酸保護基の着脱工程(すなわち、工程(vii)〜(ix))は、製造コストを上昇させる要因となる。一方で、化合物Aのような経口用カルバペネム系化合物は、できるだけ低コストで製造されることが望まれている。
したがって、プロドラッグ型の経口用抗菌剤として有用なカルバペネム系化合物を、より低コストで製造できる製造方法、およびその製造のための製造中間体の提供が依然として望まれている。
[発明の概要]
本発明者らは今般、化合物Aの製造工程の初期において、目的化合物におけるプロドラッグのプロモエティを導入することに成功し、さらに、得られた合成中間体から化合物Aを製造することにも成功した。これにより、プロドラッグ型の経口用抗菌剤として有用なカルバペネム系化合物を、より低コストで製造することができた。またこの製造方法の過程において、前記カルバペネム系化合物を合成するために有用な種々の合成中間体を得ることもできた。さらに、この製造方法は、安全性などの観点から工業的規模での実施が可能なものであった。本発明はこのような知見に基づくものである。
よって、本発明は、プロドラッグ型の経口用抗菌剤として有用なカルバペネム系化合物をより低コストで製造できる製造方法、およびその製造のための合成中間体の提供をその目的とする。
本発明による下記式(IV)の化合物の製造方法は、

[式中、Rは水酸基の保護基を表し、Rは生体内で分解されて容易に除去しうる基を表す]、
下記式(II)の化合物と、下記式(III)の化合物とを反応させる工程を含んでなる:

[式中、Rは水酸基の保護基を表す]、

[式中、Rは生体内で分解されて容易に除去しうる基を表す]。
本発明の好ましい態様によれば、前記方法は、下記式(I)の化合物またはその塩を、イミダゾリド化反応させることによって、式(II)の化合物を得る工程をさらに含んでなる:

[式中、Rは水酸基の保護基を表す]。
本発明の別の態様によれば、前記した方法によって式(IV)の化合物を得ることを含んでなる、下記式(XI)の化合物の製造方法が提供される:

[式中、
は、生体内で分解されて容易に除去しうる基を表し、かつ
は、1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イル、またはピロリジン−2−オン−4−イルを表す]。
本発明の好ましい態様によれば、前記方法は、式(IV)の化合物と、アジド化合物とを反応させることによって、下記式(V)の化合物を得る工程をさらに含んでなる:

[式中、R、およびRは前記と同義である]。
本発明の好ましい態様によれば、前記方法は、式(V)の化合物と酸とを反応させることによって、下記式(VI)の化合物を得る工程をさらに含んでなる:

[式中、Rは前記と同義である]。
本発明の好ましい態様によれば、前記方法は、式(VI)の化合物を閉環反応に付すことによって、下記式(VII)の化合物を得る工程をさらに含んでなる:

[式中、Rは前記と同義である]。
本発明の好ましい態様によれば、前記方法は、式(VII)の化合物と、下記式(VIII)の有機酸またはリン酸の反応性誘導体とを反応させることによって、下記式(IX)の化合物を得る工程を含んでなる:

[式中、Rは、
C1−4アシル;
ハロゲン原子により1〜3置換されていてもよいC1−4アルキルスルホニル;
ニトロ、ハロゲン原子、もしくはC1−4アルキルにより1〜3置換されていてもよいC6−10アリールスルホニル;
C1−4アルキル、C1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン原子、ニトロ、フェニル、ジC1−4アルキルアミノ、シアノ、アセチル、ベンゾイル、もしくはジC1−4アルキル−スルファモイルにより置換されていてもよい、C1−8アルキルオキシカルボニル;
C1−4アルキル、C1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン原子、ニトロ、フェニル、ジC1−4アルキルアミノ、シアノ、アセチル、ベンゾイル、もしくはジC1−4アルキル−スルファモイルにより置換されていてもよい、C6−10アリールオキシカルボニル;または
C1−4アルキルもしくはフェニルにより置換されていてもよいホスホリルを表す]、

[式中、R、およびRは前記と同義である]。
本発明の好ましい態様によれば、前記方法は、式(IX)の化合物と、下記式(X)の化合物とを反応させて、式(XI)の化合物を得る工程をさらに含んでなる:

[式中、Rは、1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イル、またはピロリジン−2−オン−4−イルを表す]。
本発明の別の態様によれば、式(XI)の化合物の製造方法であって、式(IX)の化合物と、式(X)の化合物とを反応させて、式(XI)の化合物を得る工程を含んでなる方法が提供される。
本発明のさらに別の態様によれば、前記した、式(IV)、式(V)、式(VI)および式(IX)の化合物が提供される。
本発明による製造方法は、製造工程の比較的初期段階において、目的化合物におけるプロドラッグのプロモエティを導入し、その後の工程中においてはプロモエティに相当する基は保護基として働かせることを特徴の一つとするものである。例えば、特開平8−59663号公報には、合成の初期段階からプロドラッグのプロモエティを導入し、カルバペネム系化合物を合成することが記載されている。しかしながら、このような従来の製造方法において、合成の初期段階においてプロドラッグのプロモエティを導入する際には、メチルジエチルホスホネートなどのような発火の危険性の高い試薬を使用する必要があった。このため、このような工程は、工業的生産には必ずしも適したものではなかった。本発明は、かかる点を解決したものである。
本発明によれば、前記した従来法よりも短い7段階の製造工程によって、プロドラッグ型のカルバペネム系化合物を製造することができる(後述のスキーム3参照)。本発明の製造方法は、工業的規模で生産されている安価な式(I)の化合物を出発物質として用いることができる。そして本発明の製造方法によれば、より低いコストで最終生成物であるプロドラッグを製造することができ、また工業的規模での実施が可能なものである。さらに本発明の製造方法によれば、最終生成物の収率を高めることができるので、より高効率でプロドラッグを製造することができる。
[発明の具体的説明]
本明細書において、基または基の一部としての「アルキル」という語は、特に定義されていない限り、基が直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のアルキル基を意味する。また例えば「C1−8アルキル」という場合の「C1−8」とは、該アルキル基の炭素数1〜8個であることを意味する。
「C1−8アルキル」は、好ましくはC1−7アルキル、より好ましくはC1−6アルキル、さらに好ましくはC1−4アルキル、さらにより好ましくはC1−3アルキル、特に好ましくはC1−2アルキルである。
「C1−6アルキル」は、好ましくはC1−4アルキル、より好ましくはC1−3アルキル、さらに好ましくはC1−2アルキルである。
「C1−4アルキル」は、好ましくはC1−3アルキル、より好ましくはC1−2アルキルである。
アルキルの例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、およびヘプチルなどの直鎖アルキル;イソプロピル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ネオペンチル、イソペンチル、およびイソヘキシルなどの分岐アルキル;および、シクロプロピル、1−メチルシクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロブチル、シクロペンチル、およびシクロヘキシルなどのシクロアルキルが挙げられる。
本明細書において、基または基の一部としての「アルコキシ」という語は、基が直鎖状、分枝鎖状もしくは環状のアルコキシ基を意味する。
「C1−4アルコキシ」は、好ましくはC1−3アルコキシ、より好ましくはC1−2アルコキシである。
アルコキシの例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、i−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシなどが挙げられる。
本明細書において、基または基の一部としての「アシル」という語は、基が直鎖状、分枝鎖状もしくは環状の基を意味する。
「C1−8アシル」は、好ましくはC1−7アシル、より好ましくはC1−6アシル、さらに好ましくはC1−4アシル、さらにより好ましくはC1−3アシル、特に好ましくはC1−2アシルである。
「C1−4アシル」は、好ましくはC1−3アシル、より好ましくはC1−2アシルである。
アシルの例としては、ホルミル、アルキルカルボニル、アラルキルカルボニル、アリールカルボニル等が挙げられ、具体的には、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、トルオイル、アニソイル、ベンゾイルなどが挙げられる。
本明細書において、基または基の一部としての「アルケニル」とは、基が直鎖状、分枝鎖状もしくは環状のアルケニル基を意味する。
「C2−6アルケニル」は、好ましくはC2−5アルケニルであり、より好ましくはC2−4アルケニルである。
アルケニルの例としては、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、2−メチル−1−プロペニル、2−メチルアリル、ペンテニル、2−ペンテニル、シクロペンテニル、ヘキセニル、2−ヘキセニル、およびシクロヘキセニルが挙げられる。
本明細書において、基または基の一部としての「アラルキル」という語は、不飽和の5〜7員環炭素環式基により置換されたC1−6アルキル基を意味する。ここで、このアルキル基は、その基上の1またはそれ以上の水素原子が1またはそれ以上の置換基(同一または異なっていてもよい)により置換されていてもよい。このC1−6アルキル基部分は、好ましくはC1−4アルキル、より好ましくはC1−3アルキル、さらに好ましくはC1−2アルキルである。
「C6−20アラルキル」は、好ましくはC7−19アラルキルである。
アラルキルの例としては、ベンジル、ジフェニルメチル、トリチル、およびフェネチルなどが挙げられる。
本明細書において、基または基の一部としての「アリール」という語は、不飽和の5〜7員環炭素環式基を意味し、この炭素環式基は、必要によりC1−4アルキル基もしくはC1−4アルコキシ基により置換されていてもよい。C6−10アリールとしては、例えば、フェニル、トリル、ナフチルが挙げられる。
本明細書において、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を意味する。好ましくは、ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、または臭素原子である。
本明細書において、アルキル基が「置換されていてもよい」とは、アルキル基上の1またはそれ以上の水素原子が1またはそれ以上の置換基(同一または異なっていてもよい)により置換されていてもよいことを意味する。置換基の最大数はアルキル上の置換可能な水素原子の数に依存して決定できることは当業者に明らかであろう。また、アルキル基が「1〜3置換されていてもよい」とは、アルキル基上の1、2、または3個の水素原子が1、2、または3つの置換基(同一または異なっていてもよい)により置換されていてもよいことを意味する。これらは、アシル基、アラルキル基等についても同様である。
式(I)、式(II)、式(IV)および式(V)において、Rは水酸基の保護基を表す。このような保護基としては、例えば、ペプチド化学、またはβ−ラクタム化合物の分野において公知の保護基であればいずれのものも使用可能である。このような保護基は、例えば、プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス(Protective Groups in Organic Synthesis)第2版(ジョン・ウイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons,Inc.)出版)に記載の保護基から適宜選択することができる。
好ましくは、Rは、
ハロゲン原子もしくはニトロ基により1〜3置換されていてもよいC1−8アシル;
C1−4アルコキシもしくはニトロ基により1〜3置換されていてもよいC6−20アラルキル;
C1−4アルコキシ、ハロゲン原子もしくはトリC1−4アルキルシリルにより1〜3置換されていてもよいC1−6アルキルオキシカルボニル;
C1−4アルコキシもしくはニトロ基により置換されていてもよいC6−20アラルキルオキシカルボニル;
C2−6アルケニルオキシカルボニル;
ハロゲン原子により置換されていてもよいC1−4アルコキシによって1〜3置換されたメチル;
C1−4アルコキシもしくはハロゲン原子により1〜3置換されたエチル;
トリC1−4アルキルシリル;および
ジフェニル−C1−4アルキルシリル
からなる群より選択される。
ここで、「ハロゲン原子もしくはニトロ基により1〜3置換されていてもよいC1−8アシル」は、好ましくは、ハロゲン原子もしくはニトロ基により1〜3置換されていてもよいC1−7アシルである。その具体例としては、例えば、ホルミル、アセチル、クロロアセチル、ジクロロアセチル、トリクロロアセチル、トリフロロアセチル、プロピオニル、ブチリル、4−トルオイル、4−アニソイル、4−ニトロベンゾイル、2−ニトロベンゾイルが挙げられる。
「C1−4アルコキシもしくはニトロ基により1〜3置換されていてもよいC6−20アラルキル」は、好ましくは、C1−4アルコキシもしくはニトロ基により1〜3置換されていてもよいC7−19アラルキルである。その具体例としては、ベンジル、4−メトキシベンジル、2−ニトロベンジル、4−ニトロベンジル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチルが挙げられる。
「C1−4アルコキシ、ハロゲン原子もしくはトリC1−4アルキルシリルにより1〜3置換されていてもよいC1−6アルキルオキシカルボニル」の例としては、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル、2−トリメチルシリルエトキシカルボニルが挙げられる。
「C1−4アルコキシもしくはニトロ基により置換されていてもよいC6−20アラルキルオキシカルボニル」は、好ましくは、C1−4アルコキシもしくはニトロ基により置換されていてもよいC7−19アラルキルオキシカルボニルである。その具体例としては、ベンジルオキシカルボニル、4−メトキシベンジルオキシカルボニル、3,4−ジメトキシベンジルオキシカルボニル、2−ニトロベンジルオキシカルボニル、4−ニトロベンジルオキシカルボニルが挙げられる。
「C2−6アルケニルオキシカルボニル」は、好ましくは、C2−5アルケニルオキシカルボニルである。その具体例としては、ビニルオキシカルボニル、アリルオキシカルボニルが挙げられる。
「ハロゲン原子により置換されていてもよいC1−4アルコキシによって1〜3置換されたメチル」の例としては、メトキシメチル、t−ブトキシメチル、2−メトキシエトキシメチル、2,2,2−トリクロロエトキシメチルが挙げられる。
「C1−4アルコキシもしくはハロゲン原子により1〜3置換されたエチル」の例としては、1−エトキシエチル、1−メチル−1−メトキシエチル、2,2,2−トリクロロエチルが挙げられる。
「トリC1−4アルキルシリル」の例としては、トリメチルシリル、トリエチルシリル、ジメチルイソプロピルシリル、t−ブチルジメチルシリル、トリイソプロピルシリルが挙げられる。
「ジフェニル−C1−4アルキルシリル」の例としては、ジフェニルメチルシリル、ジフェニルエチルシリルが挙げられる。
より好ましくは、Rは、トリC1−4アルキルシリルであり、さらに好ましくは、Rは、t−ブチルジメチルシリルである。
式(IV)、式(V)、式(VI)、式(VII)、式(IX)、および式(XI)において、Rは生体内で分解されて容易に除去されうる基を表す。ここで、「生体内で分解されて容易に除去されうる基」とは、プロドラッグ化合物またはその前駆化合物においてプロモエティ部位に相当する基を意味する。この基を有する化合物が生体内に取り込まれると、生体内の酵素もしくは生体内化学反応により、この基が容易に分解され除去されて、前記化合物は優れた抗菌活性を有する化合物に変化することができる。本発明においては、「生体内で分解されて容易に除去されうる基」はさらに、後述する式(IV)の化合物から式(XI)の化合物までの過程において、保護基として作用できるものである。
本発明において、「生体内で分解されて容易に除去されうる基」は、当該技術分野において公知のプロモエティ部位または保護基の群から本発明において好適なものを適宜選択することができる。
好ましくは、Rは、
C1−8アルキルカルボニルオキシC1−4アルキル;
C1−6アルキルオキシカルボニルオキシC1−4アルキル;および
5−メチル−1,3−ジオキソレン−2−オン−4−イルメチル
からなる群より選択される。
ここで、「C1−8アルキルカルボニルオキシC1−4アルキル」は、好ましくは、C1−7アルキルカルボニルオキシC1−3アルキルである。その具体例としては、バレリルオキシメチル、ピバロイルオキシメチル、1−(ピバロイルオキシ)エチル、イソブチリルオキシメチル、ブチリルオキシメチル、プロピオニルオキシメチル、アセチルオキシメチル、シクロヘキシルカルボニルオキシメチル、1−(アセチルオキシ)エチル、ヘキサノイルオキシメチル、1−(1−メチルシクロヘキシルカルボニルオキシ)エチル、1−メチルシクロヘキシルカルボニルオキシメチルが挙げられる。
「C1−6アルキルオキシカルボニルオキシC1−4アルキル」は、好ましくは、C1−6アルキルオキシカルボニルオキシC1−3アルキルである。その具体例としては、1−(イソプロピルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(3−ペンチルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(シクロヘキシルメチルオキシカルボニルオキシ)エチル、シクロヘキシルオキシカルボニルオキシメチルが挙げられる。
より好ましくは、Rは、ピバロイルオキシメチル、1−(イソプロピルオキシカルボニルオキシ)エチル、シクロヘキシルオキシカルボニルオキシエチル、および1−(アセチルオキシ)エチルからなる群より選択される。さらに好ましくは、Rは、ピバロイルオキシメチルである。
本発明の好ましい態様によれば、Rはピバロイルオキシメチル基であり、かつ、Rはt−ブチルジメチルシリルである。
式(VIII)、および式(IX)において、Rは、
C1−4アシル;
ハロゲン原子により1〜3置換されていてもよいC1−4アルキルスルホニル;
ニトロ、ハロゲン原子、もしくはC1−4アルキルにより1〜3置換されていてもよいC6−10アリールスルホニル;
C1−4アルキル、C1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン原子、ニトロ、フェニル、ジC1−4アルキルアミノ、シアノ、アセチル、ベンゾイル、もしくはジC1−4アルキル−スルファモイルにより置換されていてもよい、C1−8アルキルオキシカルボニル;
C1−4アルキル、C1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン原子、ニトロ、フェニル、ジC1−4アルキルアミノ、シアノ、アセチル、ベンゾイル、もしくはジC1−4アルキル−スルファモイルにより置換されていてもよい、C6−10アリールオキシカルボニル;または
C1−4アルキルもしくはフェニルにより置換されていてもよいホスホリルを表す。これらの基は、有機カルボン酸、有機スルホン酸、有機炭酸、または有機リン酸から−OH基を除くことによって得ることができる。
このRにおいて「C1−4アシル」の例としては、アセチル、プロピオニル、ブチリル基が挙げられる。
「ハロゲン原子により1〜3置換されていてもよいC1−4アルキルスルホニル」の例としては、メタンスルホニル、トリフルオロメタンスルホニルが挙げられる。
「ニトロ、ハロゲン原子、もしくはC1−4アルキルにより1〜3置換されていてもよいC6−10アリールスルホニル」の例としては、ベンセンスルホニル、p−ニトロベンゼンスルホニル、トルエンスルホニル、p−ブロモベンゼンスルホニルが挙げられる。
「C1−4アルキル、C1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン原子、ニトロ、フェニル、ジC1−4アルキルアミノ、シアノ、アセチル、ベンゾイル、もしくはジC1−4アルキル−スルファモイルにより置換されていてもよい、C1−8アルキルオキシカルボニル」は、好ましくは、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルキル、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン原子、ニトロ、フェニル、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、シアノ、アセチル、ベンゾイル、またはジメチルスルファモイルにより置換されていてもよいC1−8アルキルオキシカルボニルである。
「C1−4アルキル、C1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン原子、ニトロ、フェニル、ジC1−4アルキルアミノ、シアノ、アセチル、ベンゾイル、もしくはジC1−4アルキル−スルファモイルにより置換されていてもよい、C6−10アリールオキシカルボニル」は、好ましくは、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルキル、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン原子、ニトロ、フェニル、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、シアノ、アセチル、ベンゾイル、またはジメチルスルファモイルにより置換されていてもよいフェニルオキシカルボニルである。
「C1−4アルキルもしくはフェニルにより置換されていてもよいホスホリル基」の例としては、ジメチルホスホリル、ジエチルホスホリル、ジフェニルホスホリルが挙げられる。
好ましくは、Rは、
C1−4アシル;
ハロゲン原子により1〜3置換されていてもよいC1−4アルキルスルホニル;
ニトロ、ハロゲン原子、もしくはC1−4アルキルにより1〜3置換されていてもよいC6−10アリールスルホニル;または
フェニルにより置換されていてもよいホスホリル
を表す。より好ましくは、Rは、ジフェニルホスホリルである。
本発明の好ましい態様によれば、Rはピバロイルオキシメチル基であり、かつ、Rはジフェニルホスホリルである。
は、1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イル(下記式(a))、またはピロリジン−2−オン−4−イル(下記式(b))を表す。

好ましくは、Rは、1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イルである。
本発明の特に好ましい態様によれば、Rはt−ブチルジメチルシリルであり、Rはピバロイルオキシメチル基であり、Rはジフェニルホスホリルであり、かつRは、1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イルである。
本発明による式(XI)の化合物の製造方法は、下記スキーム3のように示すことができる。
スキーム3:

[式中、R、R、R、およびRは、前記定義のとおりである]。
工程(1)および工程(2): 式(IV)の化合物の製造
本発明によれば、式(IV)の化合物は、式(II)の化合物と、式(III)の化合物とを反応させることにより製造することができる。またこのとき使用される式(II)の化合物は、式(I)の化合物またはその塩を、イミダゾリド化反応させることによって製造することができる。
式(I)の化合物は通常、前記した化合物Dの形で工業的または商業的に入手可能である。使用する場合、式(I)の化合物は、その塩の形態であってもよい。ここで、「その塩」とは、その化合物の薬学上許容される塩を意味する。このような塩の好ましい例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩のようなハロゲン化水素酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩のような低級アルキルスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩のようなアリールスルホン酸塩、フマール酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩などの有機酸塩およびグルタミン酸塩、アスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩などが挙げられる。さらに本発明においては、化合物の塩が許容される場合、化合物は溶媒和物とすることができる。このような溶媒和物としては、水和物、アルコール和物(例えば、メタノール和物、エタノール和物)、およびエーテル和物(例えば、ジエチルエーテル和物)が挙げられる。
式(I)の化合物またはその塩をイミダゾリド化反応させることによって、式(II)の化合物を製造することができる。ここで、イミダゾリド化反応は、下記工程(1−i)または工程(1−ii)に従って実施することができる:
(1−i)式(I)の化合物またはその塩と、N,N−カルボジイミダゾールとを反応させる。この反応は、好ましくは、有機溶媒中において行われる。ここで前記有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサンのような炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンのようなエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンのようなハロゲン化炭化水素系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルのようなエステル系溶媒;および、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルのような高極性非プロトン性溶媒が挙げられる。好ましくは、該有機溶媒は、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、塩化メチレン、または、酢酸エチルである。
(1−ii)式(I)の化合物またはその塩と、ハロゲン化炭酸エステル(好ましくはクロロ炭酸エチル)およびイミダゾールとを塩基(好ましくはトリエチルアミン)の存在下において反応させる。この反応は、好ましくは、塩化メチレン溶媒中、クロロ炭酸エチルおよびトリエチルアミン存在下において行われる。
なお、式(II)の化合物は、特開平6−321946号、またはHeterocycles 29〜40,21,(1984)に記載されている方法にしたがって製造して得てもよい。
次に、式(II)の化合物と、式(III)の化合物とを反応させ、縮合させることによって、式(IV)の化合物を得ることができる。なお、この工程で使用される式(III)の化合物のRは、カルバペネム薬である化合物Aにおけるプロドラッグのプロモエティ部位に相当するものであり、本工程にて導入される。
式(III)で表されるマグネシウムマロネート化合物は、下記式(III’)で表されるマロン酸モノエステルを、有機溶媒中においてマグネシウム塩と反応させることにより誘導することができる。

[式中、Rは前記定義のとおりである]。
前記式(III’)の化合物を用いて得られた反応液から、式(III)の化合物を単離することなく、ここに、式(II)の化合物を添加することによって、式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応を実施する。
ここで、使用可能なマグネシウム塩としては、例えば、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、フッ化マグネシウムのようなハロゲン化マグネシウム;臭化マグネシム・ジエチルエーテル錯体のようなハロゲン化マグネシウムのエーテル系有機化合物による錯体;および、マグネシウムエトキシド、マグネシウムメトキシドのようなマグネシウムの低級アルコキシ化合物(例えば、C1−4アルコキシ化合物)が挙げられる。好ましくは、マグネシウム塩は、塩化マグネシウム、または、臭化マグネシウム・ジエチルエーテル錯体であり、さらに好ましくは、マグネシウム塩は、塩化マグネシウムである。
式(III)の化合物の製造過程において、使用可能な有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサンのような炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンのようなエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンのようなハロゲン化炭化水素系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルのようなエステル系溶媒;および、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルのような高極性非プロトン性溶媒が挙げられる。好ましくは、該有機溶媒は、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、塩化メチレン、または、酢酸エチルである。
この有機溶媒は、式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応においてもそのまま使用することができる。
式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応は、塩基の存在下に実施することが好ましい。
このとき使用可能な塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリアリルアミン、ジメチルベンジルアミン、テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N−メチルモルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノナ−5−エン(DBN)のような第三級脂肪族アミン;および、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリン、ピコリン、コリジン、ルチジン、キノリン、イソキノリン等の含窒素複素環化合物が挙げられる。好ましくは、該塩基は、トリC1−4アルキルアミンであり、より好ましくは、トリエチルアミンである。
式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応は、水分によって悪影響を受けることがあるため、空気中の水分が混入しないように、例えば、窒素ガス、アルゴンガスのような不活性ガス雰囲気下において実施することが好ましい。
式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応において、式(II)の化合物および式(III)の化合物の使用量は、式(II)の化合物に対して式(III)の化合物が1〜5倍モルであり、好ましくは1〜3倍モルである。
塩基の使用量は、式(II)の化合物に対して塩基が1〜5倍モルであり、好ましくは1〜3倍モルである。
有機溶媒の使用量は、式(II)の化合物の重量に対して溶媒が50〜1000倍量であり、好ましくは100〜500倍量である。マグネシウム塩の使用量は、式(III’)の化合物に対して1〜5倍モル、好ましくは1〜3倍モルである。
この工程の反応温度は、通常0〜100℃であり、好ましくは15〜60℃である。反応時間は、通常1〜100時間であり、好ましくは2〜50時間である。
この反応により得られる式(IV)の化合物は、この反応により得られる反応混合物の状態のまま、次工程に使用してもよいが、抽出、濃縮、およびクロマトグラフィーなどような通常の操作によって、反応混合物から単離して精製したものを得、これを次工程に使用してもよい。
工程(3): 式(V)の化合物の製造
本発明によれば、式(V)の化合物は、式(IV)の化合物と、アジド化合物とを反応させることにより製造することができる。
ここで使用可能なアジド化合物としては、例えば、トルエンスルホニルアジド、ドデシルベンゼンスルホニウムアジド、p−カルボキシベンゼンスルホニルアジド、メタンスルホニルアジドのようなスルホニルアジド類が挙げられる。爆発性の少ないことから、アジド化合物は、好ましくは、ドデシルベンゼンスルホニルアジドである。
この工程は、通常、有機反応溶媒中において実施される。
使用可能な有機反応溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサンのような炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンのようなエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンのようなハロゲン化炭化水素系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルのようなエステル系溶媒;および、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルのような高極性非プロトン性溶媒が挙げられる。好ましくは、該有機反応溶媒は、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、塩化メチレン、または、酢酸エチルである。
この反応は塩基存在下において実施することが好ましい。
使用可能な塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリアリルアミン、ジメチルベンジルアミン、テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N−メチルモルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノナ−5−エン(DBN)のような第三級脂肪族アミン;および、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリン、ピコリン、ルチジン、キノリン、イソキノリンのような含窒素複素環化合物が挙げられる。好ましくは、該塩基は、トリC1−4アルキルアミンであり、より好ましくは、トリエチルアミン、または、N,N−ジイソプロピルエチルアミンである。
また塩基は、式(IV)の化合物とアジド化合物とを混合した後に加えることが好ましい。
この工程において、アジド化合物の使用量は、式(IV)の化合物に対して1〜5倍モルであり、好ましくは1〜2倍モルである。塩基の使用量は、式(IV)の化合物に対して0.1〜2倍モルであり、好ましくは0.2〜1倍モルである。有機反応溶媒の使用量は、式(IV)の化合物の重量に対して1〜100倍量であり、好ましくは2〜50倍量である。
この工程の反応温度は、通常0〜100℃であり、好ましくは15〜60℃である。反応時間は、通常0.5〜24時間であり、好ましくは1〜10時間である。
この反応により得られる式(V)の化合物は、この反応により得られる反応混合物の状態のまま、次工程に使用してもよいが、抽出、濃縮、およびクロマトグラフィーなどような通常の操作によって、反応混合物から単離して精製したものを得、これを次工程に使用してもよい。
工程(4): 式(VI)の化合物の製造
本発明によれば、式(VI)の化合物は、式(V)の化合物と、酸とを反応させることにより製造することができる。この反応により、式(V)中の水酸基の保護基であるRを脱離させて、式(V)の化合物を脱保護する。
ここで使用可能な酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸、硫酸、リン酸のような無機酸;および、酢酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸のような有機酸が挙げられる。好ましくは、該酸としては、塩酸、臭化水素酸、またはフッ化水素酸が使用される。
この工程は、通常、水と有機溶媒とからなる混合溶媒中において実施される。
このような混合溶媒としては、例えば、水とメタノール、エタノールのような低級アルコールとからなる含水低級アルコール系溶媒;水とテトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル系溶媒とからなる混合溶媒;および、水とアセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類とからなる混合溶媒が挙げられる。好ましくは、該混合溶媒は、メタノール−水からなる混合溶媒である。
本発明の好ましい態様によれば、式(V)の化合物を溶解するための追加の溶媒を添加してもよい。このような追加の溶媒を使用することにより、この工程の反応をより円滑に行わせることができる。
このような追加の溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルムのようなハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンのような低級ケトン系溶媒;および、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルのような高極性非プロトン性溶媒等が挙げあれる。好ましくは、追加の溶媒は、ハロゲン化炭化水素系溶媒であり、より好ましくは、塩化メチレンである。
したがって、本発明の1つのより好ましい態様によれば、この工程は、塩化メチレン−メタノール−水の3成分混合溶媒中において実施される。
この工程において、酸の使用量は、式(V)の化合物に対して0.5〜10倍モルであり、好ましくは1〜5倍モルである。
溶媒の使用量は、式(V)の化合物の重量に対して1〜100倍量であり、好ましくは5〜50倍量である。例えば、前述した塩化メチレン−メタノール−水に塩酸を添加する4成分系においては、塩酸とメタノール−水の混合溶媒との割合は、塩酸の容量に対して該混合溶媒が1〜100倍であり、好ましくは5〜50倍である。また、溶媒(例えばメタノール)と水との混合比率(容量比)は、1:0.01〜1:100であり、好ましくは1:0.05〜1:1である。さらに、塩化メチレンとメタノール−水−塩酸の混合溶媒との混合割合(容量比)は、1:0.01〜1:10であり、好ましくは式(V)の化合物が溶解した後に2層に分液しない範囲である1:0.05〜1:0.5である。
この工程の反応温度は、通常0〜100℃であり、好ましくは0〜40℃である。反応時間は、通常0.5〜20時間であり、好ましくは1〜10時間である。
この反応により得られる式(VI)の化合物は、この反応により得られる反応混合物の状態のまま、次工程に使用してもよいが、抽出、濃縮、クロマトグラフィー、結晶化などような通常の操作によって、反応混合物から単離して精製したものを得、これを次工程に使用してもよい。
工程(5): 式(VII)の化合物の製造
本発明によれば、式(VII)の化合物は、式(VI)の化合物を閉環反応させることにより製造することができる。
この工程は、通常、反応を促進させるために、金属触媒の存在下に実施される。
このような金属触媒としては、例えば、酢酸ロジウム、ロジウムオクタエート、酢酸パラジウム、硫酸銅、ビス(アセチルアセトナート)銅が挙げられる。好ましくは、該金属触媒は、ロジウムオクタエートである。
この工程における金属触媒の使用量は、式(VI)の化合物に対して触媒が0.05〜5%モルであり、好ましくは0.1〜3%モルである。
この工程は、通常、有機溶媒中において実施される。
このような有機溶媒としては、例えば、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサンのような炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンのようなエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンのようなハロゲン化炭化水素系溶媒;および、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルのような高極性非プロトン性溶媒が挙げられる。好ましくは、該有機溶媒は、ハロゲン化炭化水素系溶媒であり、より好ましくは、塩化メチレンである。
有機溶媒の使用量は、式(VI)の化合物の重量に対して溶媒が1〜100倍量であり、好ましくは5〜50倍量である。
この工程の反応温度は、通常10〜100℃であり、好ましくは30〜80℃である。反応時間は、通常0.5〜20時間であり、好ましくは1〜5時間である。
この反応は、水分によって悪影響を受けることがあるため、空気中の水分が混入しないように、例えば、窒素ガス、アルゴンガスのような不活性ガス雰囲気下において実施することが好ましい。
この反応により得られる式(VII)の化合物は、この反応により得られる反応混合物の状態のまま、次工程に使用してもよいが、抽出、濃縮、およびクロマトグラフィーなどような通常の操作によって、反応混合物から単離して精製したものを得、これを次工程に使用してもよい。
工程(6): 式(IX)の化合物の製造
本発明によれば、式(IX)の化合物は、式(VII)の化合物と、下記式(VIII)で表される有機酸またはリン酸の反応性誘導体とを反応させることにより製造することができる。

[式中、Rは前記定義のとおりである]。
式(VIII)の有機酸またはリン酸の反応性誘導体の具体例としては、アセチルクロリド、プロピオニルクロリド、p−トルエンスルホニルクロリド、p−ブロモベンゼンスルホニルクロリド、ジフェニルクロロホスフェート、クロロ炭酸エチル、クロロ炭酸イソプロピル、ブロモ炭酸エチル、無水酢酸、メタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、p−トルエンスルホン酸無水物、p−ニトロベンゼンスルホン酸無水物が挙げられる。好ましくは、式(VIII)の化合物は、ジフェニルクロロホスフェートである。
この工程は、通常、反応溶媒中において実施される。
このような反応溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサンのような炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンのようなエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンのようなハロゲン化炭化水素系溶媒;および、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルのような高極性非プロトン性溶媒が挙げられる。好ましくは、該反応溶媒は、ハロゲン化炭化水素系溶媒であり、より好ましくは、塩化メチレンである。
この反応は、塩基存在下において実施することが好ましい。
このような塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリアリルアミン、ジメチルベンジルアミン、テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N−メチルモルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノナ−5−エン(DBN)のような第三級脂肪族アミン;および、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリン、ピコリン、ルチジン、キノリン、イソキノリンのような含窒素複素環化合物が挙げられる。好ましくは、該塩基は、トリC1−4アルキルアミンであり、より好ましくは、トリエチルアミン、または、N,N−ジイソプロピルエチルアミンである。
この工程において、式(VIII)の反応性誘導体の使用量は、式(VII)の化合物に対して1〜5倍モルであり、好ましくは1〜3倍モルである。塩基の使用量は、式(VII)の化合物に対して1〜5倍モルであり、好ましくは1〜3倍モルである。反応溶媒の使用量は、式(VII)の化合物に対して5〜200倍量であり、好ましくは10〜100倍量である。
この工程の反応温度は、通常−70〜40℃、好ましくは−40〜10℃である。反応時間は、通常10分〜10時間であり、好ましくは0.5〜3時間である。
この反応は、水分によって悪影響を受けることがあるため、空気中の水分が混入しないように、例えば、窒素ガス、アルゴンガスのような不活性ガス雰囲気下において実施することが好ましい。
この反応により得られる式(IX)の化合物は、この反応により得られる反応混合物の状態のまま、次工程に使用してもよいが、抽出、濃縮、およびクロマトグラフィーなどような通常の操作によって、反応混合物から単離して精製したものを得、これを次工程に使用してもよい。
工程(7): 式(XI)の化合物の製造
本発明によれば、目的とする式(XI)の化合物は、式(IX)の化合物と、下記式(X)の化合物とを反応させることにより製造することができる。

[式中、Rは、前記定義のとおりである]。
式(X)の化合物は、具体的には、1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−チオール、または、ピロリジン−2−オン−4−チオールである。好ましくは、式(X)の化合物は、1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−チオールである。
この工程は、通常、溶媒中において実施される。
このような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサンのような炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンのようなエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンのようなハロゲン化炭化水素系溶媒;および、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルのような高極性非プロトン性溶媒が挙げられる。好ましくは、該溶媒は、アセトニトリルである。
この反応は、塩基存在下において実施することが好ましい。
このような塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリアリルアミン、ジメチルベンジルアミン、テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N−メチルモルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノナ−5−エン(DBN)のような第三級脂肪族アミン;および、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリン、ピコリン、ルチジン、キノリン、イソキノリンのような含窒素複素環化合物が挙げられる。好ましくは、該塩基は、トリC1−4アルキルアミンであり、より好ましくは、トリエチルアミン、または、N,N−ジイソプロピルエチルアミンである。
この工程において、式(X)の化合物の使用量は、式(IX)の化合物に対して1〜5倍モルであり、好ましくは1〜3倍モルである。塩基の使用量は、式(IX)の化合物に対して1〜6倍モルであり、好ましくは2〜4倍モルである。溶媒の使用量は、式(IX)の化合物に対して5〜200倍量であり、好ましくは10〜100倍量である。
この工程の反応温度は、通常−40〜60℃、好ましくは−20〜20℃である。反応時間は、通常10分〜10時間であり、好ましくは2〜5時間である。
この反応は、水分によって悪影響を受けることがあるため、空気中の水分が混入しないように、例えば、窒素ガス、アルゴンガスのような不活性ガス雰囲気下において実施することが好ましい。
この反応により得られる式(XI)の化合物は、抽出、濃縮、およびクロマトグラフィーなどような通常の操作によって、反応混合物から単離して精製することができる。
本発明による製造方法の具体例の1つとして、下記スキーム4を示すことができる:
スキーム4:

[式中、TBSはt−ブチルジメチルシリル基を表し、Phはフェニル基を表す]。
本発明の別の態様によれば、式(XI)の化合物の製造における合成中間体としての、式(IV)の化合物の使用が提供される。本発明のさらに別の態様によれば、プロドラッグ型の経口用抗菌剤の製造における合成中間体としての、式(IV)の化合物の使用が提供される。
式(XI)の化合物の用途
本発明による式(IV)の化合物を用いて得られるカルバペネム誘導体(式(XI)の化合物)が、カルバペネム系化合物のプロドラッグとしての機能を有し、プロドラッグのプロモエティ部位が除去された化合物が、生体内おいて優れた抗菌活性を有することは、日本国特許第2,666,118号公報に開示されている。また、化合物Bについては、THE JOURNAL OF ANTIBIOTICS,1997,Vol.50,pp429−439に開示されている。また、この化合物をプロドラッグ型の経口用抗菌剤として使用すること、および、この化合物を用いた医薬組成物の製造については、これらの公報を参照することにより、当業者に明かであろう。
【実施例】
以下本発明を以下の実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
参考例1: マロン酸モノピバロイルオキシメチルエステル
アルゴン雰囲気下において、マロン酸モノベンジルエステル66.2g(0.34mol)のアセトニトリル(600mL)溶液に、0℃でジイソプロピルエチルアミン69mL(0.41mol)を滴下し、次いで、ピバリン酸ヨードメチルエステル86.7g(0.36mol)を滴下して、1.5時間撹拌した。得られた反応混合物を、酢酸エチル(2000mL)によって希釈し、これを、水、10%チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和重曹水、および5%食塩水を順次用いて洗浄した。その後、得られた溶液を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル=20:1→1:1)で精製し、得られた油状物を酢酸エチル(600mL)に溶解し、ここに触媒として、5%パラジウム−活性炭(50%含水)6.6gを加えた。これを、水素雰囲気下、室温において18時間激しく撹拌した。触媒をろ過により除去した後、母液を減圧下留去して、標題化合物67.7gを淡黄色油状物として得た(収率84%)。
H NMR(ppm,400MHz,CDCl):6.99(br.s,1H),5.78(s,2H),3.46(s,2H),1.19(s,9H).
例1−1:(3S,4S)−3−[(R)−1−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)エチル]−4−[(R)−1−メチル−3−ピバロイルオキシメチルオキシカルボニル−2−オキソプロピル]アゼチジン−2−オン
アルゴン雰囲気下において、(3S,4S)−3−[(R)−1−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)エチル]−4−[(R)−1−カルボキシエチル]アゼチジン−2−オン3.01g(10.0mmol)のテトラヒドロフラン(30mL)溶液に、室温において、1,1’−カルボニルジイミダゾール1.63g(10.1mmol)を加えて、1時間攪拌し、(3S,4S)−3−[(R)−1−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)エチル]−4−[(R)−2−イミダゾール−1−イル−1−メチル−2−オキソエチル]アゼチジン−2−オンを含む溶液を調製した。
別途、アルゴン雰囲気下において、マロン酸モノピバロイルオキシメチルエステル4.03g(18.5mmol)のテトラヒドロフラン(30mL)溶液に、室温において、臭化マグネシウムジエチルエーテル錯体4.39g(17.0mmol)を加えて、同温度で30分間攪拌した。その後、得られた溶液を、氷冷し、トリエチルアミン2.8mL(20.1mmol)を滴下して、室温に昇温した後、1時間攪拌して、マロン酸モノピバロイルオキシメチルエステルのマグネシウム塩を含む懸濁液を調製した。
この懸濁液を先に調製した(3S,4S)−3−[(R)−1−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)エチル]−4−[(R)−2−イミダゾール−1−イル−1−メチル−2−オキソエチル]アゼチジン−2−オンを含む溶液に、室温下において加えて、3時間攪拌した。得られた反応混合物を、酢酸エチル(240mL)と0.5M塩酸(40mL)の混合液に注ぎ、攪拌後分液した。有機層を水、飽和重曹水、および飽和食塩水を順次用いて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル=3:2v/v)により精製して、標題化合物3.64gを淡黄色油状物として得た(収率80%)。
H NMR(ppm,400MHz,CDCl):11.79(s,0.3H),6.26(br,0.3H),6.20(br,0.7H),5.77(s,0.6H),5.72(ABq,J=7.8Hz,1.4H),5.05(s,0.3H),4.13(m,1H),3.88(dd,J=4.9,2.4Hz,0.7H),3.76(d,J=6.6Hz,0.3H),3.53(s,1.4H),2.91(m,0.7H),2.87(m,1H),2.38(m,J=6.8Hz,0.3H),1.06−1.21(m,15H),0.82(s,9H),0.02(s,6H).
MS(FAB)m/z 458(M+H)
例1−2:
マロン酸モノピバロイルオキシメチルエステル4.36g(20.0mmol)の無水アセトニトリル溶液に、氷冷下、無水塩化マグネシウム粉末2.86g(30.0mmol)を加え、10分間撹拌した。この懸濁液に、氷冷下、トリエチルアミン4.2mL(30.1mmol)を10分間かけて滴下し、次いで、氷浴を除去して、この懸濁液を15分間撹拌した。この懸濁液に、別容器で、(3S,4S)−3−[(R)−1−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)エチル]−4−[(R)−1−カルボキシエチル]アゼチジン−2−オン3.02g(10.0mmol)、N,N−カルボニルジイミダゾール1.67g(10.3mmol)、およびアセトニトリル(15mL)を用いて調製したイミダゾリド溶液を加え、30℃に加温して4.5時間撹拌した。得られた反応混合物を減圧濃縮した後、残渣に酢酸エチル(80mL)を加え、2mol/L塩酸(30mL×2)、飽和重曹水(30mL×2)、および飽和食塩水(30mL)を順次用いて洗浄し、(3S,4S)−3−[(R)−1−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)エチル]−4−[(R)−1−メチル−3−ピバロイルオキシメチルオキシカルボニル−2−オキソプロピル]アゼチジン−2−オン4.07g(反応収率89%,((3S,4S)−3−[(R)−1−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)エチル]−4−[(R)−1−カルボキシエチル]アゼチジン−2−オンからの収率))を含む酢酸エチル溶液を得た。
例2: (3S,4S)−3−[(R)−1−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)エチル]−4−[(R)−1−メチル−3−ジアゾ−3−ピバロイルオキシメチルオキシカルボニル−2−オキソプロピル]−アゼチジン−2−オン
アルゴン雰囲気下において、(3S,4S)−3−[(R)−1−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)エチル]−4−[(R)−1−メチル−3−ピバロイルオキシメチルオキシカルボニル−2−オキソプロピル]−アゼチジン−2−オン3.34g(7.30mmol)を無水塩化メチレン24mLに溶解し、室温にてドデシルベンゼンスルホニルアジド3.10g(8.82mmol)の塩化メチレン(8mL)溶液をさらに添加した。次いで、ここに、室温下においてトリエチルアミン0.28mL(2.01mmol)を添加し、得られた溶液を4時間撹拌した。該溶液から、塩化メチレンを減圧下留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル=3:1v/v)により精製して、標題化合物3.52gを淡黄色油状物として得た(収率100%)。
H NMR(ppm,400MHz,CDCl):5.83(br s,1H),5.81(s,2H),4.13(dq,J=6.3,6.3Hz,1H),3.86−3.80(m,2H),2.91(dd,J=4.2,1.7Hz,1H),1.18(s,9H),1.14(d,J=6.3Hz,3H),1.12(d,J=6.6Hz,3H),0.81(s,9H),0.01(s,3H),0.00(s,3H).
MS(FAB)m/z 484(M+H)
例3: (3S,4S)−3−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−4−[(R)−1−メチル−3−ジアゾ−3−ピバロイルオキシメチルオキシカルボニル−2−オキソプロピル]−アゼチジン−2−オン
(3S,4S)−3−[(R)−1−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)エチル]−4−[(R)−1−メチル−3−ジアゾ−3−ピバロイルオキシメチルオキシカルボニル−2−オキソプロピル]−アゼチジン−2−オン2.25g(4.66mmol)の塩化メチレン(6.75mL)溶液に、メタノール(13.5mL)と脱イオン水(2.3mL)を加えて、0℃に冷却した。ここに、濃塩酸1.3mLを加えて、室温に昇温した後、4.5時間撹拌した。この溶液を、酢酸エチルで希釈した後、水、飽和重曹水、および飽和食塩水を順次用いて洗浄し、次いで無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この溶液から溶媒を減圧下留去して得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル=1:1−>1:2v/v)により精製して、標題化合物1.58gを白色結晶として得た(収率92%)。
H NMR(ppm,400MHz,CDCl):5.95(br s,1H),5.87(d,J=5.6Hz,1H),5.84(d,J=5.6Hz,1H),4.11(m,1H),3.82(dd,J=6.1,2.2Hz,1H),3.73(dq,J=6.1,6.1Hz,1H),2.89(dd,J=7.1,2.2Hz,1H),2.45(br s,1H),1.29(d,J=6.1Hz,3H),1.21(s,9H),1.20(d,J=7.1Hz,3H).
MS(FAB)m/z 370(M+H)
例4: ピバロイルオキシメチル(1R,5S,6S)−オキシカルボニル−2−ジフェニルホスホリルオキシ−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチルカルバペン−2−エム−3−カルボキシレート
アルゴン雰囲気下において、(3S,4S)−3−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−4−[(R)−1−メチル−3−ジアゾ−3−ピバロイルオキシメチルオキシカルボニル−2−オキソプロピル]−アゼチジン−2−オン 1.58g(4.15mmol)の塩化メチレン(15mL)溶液に、オクタン酸ロジウム97mgを加えて、4時間加熱還流した。得られた反応液を−15℃に冷却し、ここにジフェニルリン酸クロリド1.11mL(4.15mmol)を加えた。次いで、同温にて得られた溶液に、ジイソプロピルエチルアミン0.91mL(5.40mmol)と4−ジメチルアミノピリジン10mg(81.9μmol)の塩化メチレン(1mL)溶液をゆっくり滴下し、更に1時間撹拌した。得られた反応液を0.5M塩酸、飽和重曹水、および飽和食塩水を順次用いて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。得られた溶液から溶媒を減圧下留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル=2:3v/v)により分離して精製し、標題化合物1.97gを無色油状物として得た(収率83%)。
H NMR(ppm,400MHz,CDCl):7.39−7.19(m,10H),5.80(dd,J=5.6,2.4Hz,1H),5.76(dd,J=5.6,2.4Hz,1H),4.22−4.16(m,2H),3.38(m,1H),2.03(m,1H),1.30(d,J=1.7Hz,3H),1.29(d,J=1.9Hz,3H),1.17(s,9H).
MS(FAB)m/z 574(M+H)
例5: ピバロイルオキシメチル(1R,5S,6S)−2−[1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イル]−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチルカルバペン−2−エム−3−カルボキシレート
アルゴン雰囲気下において、ピバロイルオキシメチル(1R,5R,6S)−2−ジフェニルホスホリルオキシ−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチルカルバペン−2−エム−3−カルボキシレート 100mg(0.17mmol)のアセトニトリル(1mL)溶液に、氷冷下、3−メルカプト−1−(チアゾリン−2−イル)アゼチジン塩酸塩 40mg(0.19mmol)を加えた。次いで、この溶液に、ジイソプロピルエチルアミン72μL(0.40mmol)を滴下して、1.5時間攪拌した。得られた反応混合物を酢酸エチル(40mL)で希釈して、水(10mL×3)、飽和重曹水(7.5mL×2)、および飽和食塩水を順次用いて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。その後、得られた溶液から溶媒を減圧留去して、淡黄色油状残渣94mgを得た。得られた残渣を酢酸エチル(0.3mL)−ヘキサン(2mL)を用いて結晶化し、標題化合物70mg(収率81%)を白色粉末として得た。
H NMR(ppm,400MHz,CDCl):5.95(d,J=5.6Hz,1H),5.82(d,J=5.6Hz,1H),4.16−4.22(m,2H),4.37(m,2H),4.11(m,1H),3.92−4.01(m,4H),3.35(t,J=7.3Hz,2H),3.20(dd,J=2.4,6.8Hz,1H),3.14(m,1H),1.31(d,J=6.0Hz,3H),1.19−1.20(m,12H).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(IV)の化合物の製造方法であって、

[式中、Rは水酸基の保護基を表し、Rは生体内で分解されて容易に除去しうる基を表す]、
下記式(II)の化合物と、下記式(III)の化合物とを反応させる工程を含んでなる、方法:

[式中、Rは水酸基の保護基を表す]、

[式中、Rは生体内で分解されて容易に除去しうる基を表す]。
【請求項2】
式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応を、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、塩化メチレン、および酢酸エチルからなる群より選択される有機反応溶媒中で、塩基の存在下において実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
塩基が、トリC1−4アルキルアミンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
式(III)の化合物を、下記式(III’)で示されるマロン酸モノエステルを、有機溶媒中においてマグネシウム塩と反応させることによって得る工程をさらに含んでなる、請求項1に記載の方法:

[式中、Rは請求項1の定義と同義である]。
【請求項5】
下記式(I)の化合物またはその塩を、イミダゾリド化反応させることによって、式(II)の化合物を得る工程をさらに含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法:

[式中、Rは水酸基の保護基を表す]。
【請求項6】
イミダゾリド化反応を、
式(I)の化合物またはその塩と、N,N−カルボジイミダゾールとを反応させるか、または、
式(I)の化合物またはその塩と、ハロゲン化炭酸エステルおよびイミダゾールとを塩基の存在下において反応させる
ことによって実施する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
が、トリC1−4アルキルシリルである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
が、
C1−8アルキルカルボニルオキシC1−4アルキル;
C1−6アルキルオキシカルボニルオキシC1−4アルキル;および
5−メチル−1,3−ジオキソレン−2−オン−4−イルメチル
からなる群より選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
がピバロイルオキシメチル基である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
がピバロイルオキシメチル基であり、かつ、Rがt−ブチルジメチルシリルである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法によって、式(IV)の化合物を得ることを含んでなる、下記式(XI)の化合物の製造方法:

[式中、
は、生体内で分解されて容易に除去しうる基を表し、かつ
は、1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イル、またはピロリジン−2−オン−4−イルを表す]。
【請求項12】
式(IV)の化合物と、アジド化合物とを反応させることによって、下記式(V)の化合物を得る工程をさらに含んでなる、請求項11に記載の方法:

[式中、Rは水酸基の保護基を表し、Rは生体内で分解されて容易に除去しうる基を表す]、

[式中、R、およびRは前記と同義である]。
【請求項13】
アジド化合物が、ドデシルベンゼンスルホニルアジドである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
式(IV)の化合物とアジド化合物との反応を、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、塩化メチレン、および酢酸エチルからなる群より選択される有機反応溶媒中で、塩基の存在下において実施する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
式(V)の化合物と酸とを反応させることによって、下記式(VI)の化合物を得る工程をさらに含んでなる、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法

[式中、Rは前記と同義である]。
【請求項16】
式(VI)の化合物を閉環反応に付すことによって、下記式(VII)の化合物を得る工程をさらに含んでなる、請求項15に記載の方法:

[式中、Rは前記と同義である]。
【請求項17】
閉環反応を、ハロゲン化炭化水素系溶媒中で、金属触媒の存在下において実施する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
金属触媒が、ロジウムオクタエートである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
式(VII)の化合物と、下記式(VIII)の有機酸またはリン酸の反応性誘導体とを反応させることによって、下記式(IX)の化合物を得る工程を含んでなる、請求項16〜18のいずれか一項に記載の方法:

[式中、R
C1−4アシル;
ハロゲン原子により1〜3置換されていてもよいC1−4アルキルスルホニル;
ニトロ、ハロゲン原子、もしくはC1−4アルキルにより1〜3置換されていてもよいC6−10アリールスルホニル;
C1−4アルキル、C1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン原子、ニトロ、フェニル、ジC1−4アルキルアミノ、シアノ、アセチル、ベンゾイル、もしくはジC1−4アルキル−スルファモイルにより置換されていてもよい、C1−8アルキルオキシカルボニル;
C1−4アルキル、C1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン原子、ニトロ、フェニル、ジC1−4アルキルアミノ、シアノ、アセチル、ベンゾイル、もしくはジC1−4アルキル−スルファモイルにより置換されていてもよい、C6−10アリールオキシカルボニル;または
C1−4アルキルもしくはフェニルにより置換されていてもよいホスホリルを表す]、

[式中、R、およびRは前記と同義である]。
【請求項20】
反応性誘導体が、ジフェニルクロロホスフェートである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
式(IX)の化合物と、下記式(X)の化合物とを反応させて、式(XI)の化合物を得る工程をさらに含んでなる、請求項19または20に記載の方法:

[式中、Rは、1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イル、またはピロリジン−2−オン−4−イルを表す]。
【請求項22】
が、トリC1−4アルキルシリルである、請求項11〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
が、
C1−8アルキルカルボニルオキシC1−4アルキル;
C1−6アルキルオキシカルボニルオキシC1−4アルキル;および
5−メチル−1,3−ジオキソレン−2−オン−4−イルメチル
からなる群より選択される、請求項11〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
がピバロイルオキシメチル基である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
がピバロイルオキシメチル基であり、かつ、Rがt−ブチルジメチルシリルである、請求項11〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
がジフェニルホスホリル基である、請求項19〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
が1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イルである、請求項11〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
下記式(XI)の化合物の製造方法であって、

[式中、
は、生体内で分解されて容易に除去しうる基を表し、かつ
は、1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イル、またはピロリジン−2−オン−4−イルを表す]、
下記式(IX)の化合物と、下記式(X)の化合物とを反応させて、式(XI)の化合物を得る工程を含んでなる、方法:

[式中、
は、生体内で分解されて容易に除去しうる基を表し、かつ、

C1−4アシル;
ハロゲン原子により1〜3置換されていてもよいC1−4アルキルスルホニル;
ニトロ、ハロゲン原子、もしくはC1−4アルキルにより1〜3置換されていてもよいC6−10アリールスルホニル;
C1−4アルキル、C1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン原子、ニトロ、フェニル、ジC1−4アルキルアミノ、シアノ、アセチル、ベンゾイル、もしくはジC1−4アルキル−スルファモイルにより置換されていてもよい、C1−8アルキルオキシカルボニル;
C1−4アルキル、C1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン原子、ニトロ、フェニル、ジC1−4アルキルアミノ、シアノ、アセチル、ベンゾイル、もしくはジC1−4アルキル−スルファモイルにより置換されていてもよい、C6−10アリールオキシカルボニル;または
C1−4アルキルもしくはフェニルにより置換されていてもよいホスホリルを表す]、

[式中、Rは、1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イル、またはピロリジン−2−オン−4−イルを表す]、
【請求項29】
がピバロイルオキシメチル基であり、Rがジフェニルホスホリル基であり、かつRが1−(1,3−チアゾリン−2−イル)アゼチジン−3−イルである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
下記式(IV)の化合物:

[式中、Rは水酸基の保護基を表し,Rは生体内で分解されて容易に除去しうる基を表す]。
【請求項31】
がt−ブチルジメチルシリル基を表す、請求項30に記載の化合物。
【請求項32】
がt−ブチルジメチルシリル基を表し、かつ、Rがピバロイルオキシメチル基を表す、請求項30に記載の化合物。
【請求項33】
式(V)の化合物:

[式中、Rは水酸基の保護基を表し,Rは生体内で分解されて容易に除去しうる基を表す]。
【請求項34】
がt−ブチルジメチルシリル基を表す、請求項33に記載の化合物。
【請求項35】
がt−ブチルジメチルシリル基を表し、かつ、Rがピバロイルオキシメチル基を表す、請求項33に記載の化合物。
【請求項36】
式(VI)の化合物:

[式中、Rは生体内で分解されて容易に除去しうる基を表す]。
【請求項37】
がピバロイルオキシメチル基を表す、請求項36に記載の化合物。
【請求項38】
式(IX)の化合物:

[式中、
は生体内で分解されて容易に除去しうる基を表し、

C1−4アシル;
ハロゲン原子により1〜3置換されていてもよいC1−4アルキルスルホニル;
ニトロ、ハロゲン原子、もしくはC1−4アルキルにより1〜3置換されていてもよいC6−10アリールスルホニル;
C1−4アルキル、C1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン原子、ニトロ、フェニル、ジC1−4アルキルアミノ、シアノ、アセチル、ベンゾイル、もしくはジC1−4アルキル−スルファモイルにより置換されていてもよい、C1−8アルキルオキシカルボニル;
C1−4アルキル、C1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン原子、ニトロ、フェニル、ジC1−4アルキルアミノ、シアノ、アセチル、ベンゾイル、もしくはジC1−4アルキル−スルファモイルにより置換されていてもよい、C6−10アリールオキシカルボニル;または
C1−4アルキルもしくはフェニルにより置換されていてもよいホスホリルを表す]。
【請求項39】
がピバロイルオキシメチル基を表す、請求項38に記載の化合物。
【請求項40】
がジフェニルホスホリル基を表す、請求項38に記載の化合物。
【請求項41】
がピバロイルオキシメチル基を表し、かつ、Rがジフェニルホスホリル基を表す、請求項38に記載の化合物。
【請求項42】
経口用抗菌剤の製造における合成中間体としての、下記式(IV)の化合物の使用。

[式中、Rは水酸基の保護基を表し,Rは生体内で分解されて容易に除去しうる基を表す]。

【国際公開番号】WO2004/035539
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【発行日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−544985(P2004−544985)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013318
【国際出願日】平成15年10月17日(2003.10.17)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】