説明

カルボキシエチルホスフィネートエステルの塩、及びこれを含む難燃性熱可塑性樹脂組成物

本願では、カルボキシエチルホスフィネートエステルの塩、及びこれを含む難燃性熱可塑性樹脂組成物が開示される。本発明に係るカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩は、難燃性、熱安定性及び吸湿性に優れ、さらに、本発明に係る難燃性熱可塑性樹脂組成物は、環境汚染をもたらすハロゲン化難燃剤を使用しないため、環境に優しく、また、色の熱安定性及び吸湿性にも優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、一般に、新規なカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩、及びこれを含む難燃性熱可塑性樹脂組成物に関し、より詳細には、優れた難燃性並びに高い熱安定性及び吸湿性を有する、新規なカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩、並びにこれを含む難燃性熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
一般的に、熱可塑性樹脂は、加工性及び機械特性に優れているため、ほとんど全ての電子製品に用いられている。しかし、熱可塑性樹脂自体は、高い可燃性を有し、耐火性がない。そのため、熱可塑性樹脂は火中で容易に燃焼し、火を燃え広がらせてしまう可能性がある。したがって、米国、日本及び欧州諸国では、電子製品の耐火性を保証するために、難燃性の基準を満たす高分子樹脂のみが使用されるよう、法制化している。
【0003】
従来の難燃化方法としては、熱可塑性樹脂をハロゲン化難燃剤及びアンチモン難燃剤と混合して難燃性を付与するという方法が主に用いられている。前記ハロゲン化難燃剤の例には、ポリブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、臭素置換されたエポキシ化合物及び塩素化ポリエチレンが挙げられる。アンチモン難燃剤の例としては、三酸化アンチモン及び五酸化アンチモンが挙げられる。
【0004】
ハロゲン系化合物とアンチモン化合物とを併用して難燃性を実現する方法は、難燃性を容易に達成でき、他の特性も殆ど低下しないため、有利であるが、かかる方法の実施中に発生するハロゲン化水素ガスが、人体に致命的な影響を与えうると、実験を通して証明されているため、かかる方法には欠点がある。特に、ハロゲン化難燃剤の代表的な物質であるポリ臭素化ジフェニルエーテルは、燃焼時にダイオキシンまたはフランのような有毒ガスを発生させる可能性が高い。そのため、このようなハロゲン化合物を用いることなく難燃性を実現可能な方法に関心が集まっている。
【0005】
ハロゲン化難燃剤を使用せずに熱可塑性樹脂の難燃化を実現する方法として、芳香族リン酸エステルを難燃剤として使用する方法が提案されている。しかし、スチレン樹脂の場合、芳香族リン酸エステル化合物を用いただけでは、UL94V1以上の難燃性を達成し難い。
【0006】
そこで、かかる問題点を解決するための方法として、スチレン樹脂及びポリフェニレンエーテル樹脂またはポリカーボネート樹脂の混合物を、難燃剤としての芳香族リン酸エステルと混合する方法が知られている。米国特許第3,639,506号明細書には、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)及びポリフェニレンエーテル樹脂の樹脂混合物に添加されてなるモノ芳香族リン酸エステルが開示されている。また、米国特許第5,061,745号明細書には、ABS樹脂及びポリカーボネート樹脂の樹脂混合物に、難燃剤として添加されてなるモノリン酸エステルが開示されている。米国特許第5,204,394号明細書には、ABS樹脂及びポリカーボネート樹脂の混合物に、難燃剤として添加されてなるオリゴマー型芳香族リン酸エステルが開示されている。
【0007】
大韓民国特許公開第2002−0007814号公報では、ポリスチレン樹脂に難燃剤としてのカルボキシホスフィン酸及びリン酸誘導体を混合する技術が開示されている。しかし、カルボキシホスフィン酸は、熱安定性が低く、吸湿性が大きいという問題点がある。
【発明の開示】
【0008】
発明の開示
技術的課題
そこで、本発明は、従来技術において生じる上記の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、従来の芳香族リン酸エステルの低い難燃性と、カルボキシホスフィン酸化合物の低い熱安定性及び高い吸湿性とを改善したカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、ハロゲン化難燃剤を用いることなくカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩を含む難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供することであり、これにより、優れた難燃性並びに高い熱安定性及び吸湿性を発揮する一方で、環境にも優しい難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【0010】
本発明についての上記及びその他の目的、特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び好ましい実施形態により、明確に理解できるであろう。
【0011】
技術的解決
上記目的を達成するため、本発明は、下記化学式1:
【0012】
【化1】

【0013】
で表されるカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩を提供する。
式中、Rは独立して、C〜Cのアルキル基、C〜C20のアリール基、及びC〜C20のアルキル置換されたアリール基からなる群より選択され、Rは独立して、C〜Cのアルキル基、C〜C30のアリール基、及びC〜C30のアルキル置換されたアリール基からなる群より選択され、nは1〜3の整数であり、並びに、Mは金属イオンまたは帯電したアミンである。
【0014】
また、本発明は、熱可塑性樹脂、及び前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、化学式1で表される化合物0.1〜50重量部を含む難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0015】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0016】
本発明に係る新規なカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩は、下記化学式1で表されるカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩であり、これを単独で、または混合して用いる:
【0017】
【化2】

【0018】
式中、Rは独立して、C〜Cのアルキル基、C〜C20のアリール基、及びC〜C20のアルキル置換されたアリール基からなる群より選択され、Rは独立して、C〜Cのアルキル基、C〜C30のアリール基、及びC〜C30のアルキル置換されたアリール基からなる群より選択され、nは1〜3の整数であり、並びに、Mは金属イオンまたは帯電したアミンである。
【0019】
化学式1の化合物において、Rは独立して、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシルまたはフェニルからなる群より選択されることが好ましく、Rは独立して、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシルまたはフェニルからなる群より選択されることが好ましい。さらに、MはAl、Zn、Ca、BaもしくはMgのような金属、またはアンモニウム、メラミン、メレム、アルキルアンモニウム及びアルキルイミダゾールからなる群より選択されるアミン化合物でありうる。
【0020】
さらに、本発明は、熱可塑性樹脂、及び前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、0.1〜50重量部の化学式1で表されるカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩を含む、難燃性熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0021】
特に、本発明に係る難燃性熱可塑性樹脂組成物の各々の構成成分について、以下で説明する。
【0022】
(A)カルボキシエチルホスフィネートエステルの塩
化学式1で表されるカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩は、単独で、または混合して用いられ、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物中、0.1〜50重量部の量、好ましくは1〜40重量部の量で含まれる。
【0023】
(B)熱可塑性樹脂
本発明で用いられる熱可塑性樹脂の種類は、特に制限されないが、その具体的な例は下記の通りである。すなわち、好ましい熱可塑性樹脂組成物の例として、以下に限定されるものではないが、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン三元共重合体樹脂(ABS樹脂)、ゴム変性高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート三元共重合体樹脂(ASA樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂(SAN樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン三元共重合体樹脂(MBS樹脂)、アクリロニトリル−エチルアクリレート−スチレン三元共重合体樹脂(AES樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂)、ポリエチレン樹脂(PE樹脂)、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアミド(PA)系樹脂、これらの共重合体、またはこれらのアロイが含まれる。
【0024】
特に、前記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン重合体、ゴム変性アクリロニトリル−スチレン共重合体、これらの共重合体、及びこれらのアロイからなる群より選択されることが好ましい。より好ましくは、前記熱可塑性樹脂はポリブチレンテレフタレートである。
【0025】
また、前記熱可塑性樹脂は、好ましくは、ポリフェニレンエーテル樹脂と高衝撃ポリスチレン樹脂との混合物であることが好ましく、前記熱可塑性樹脂を構成する前記ポリフェニレンエーテル樹脂がポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)であることがより好ましい。
【0026】
本発明に係る難燃性熱可塑性樹脂組成物は、難燃性を改善させるために、上述のカルボキシエチルホスフィネートエステル以外に、市販の難燃剤及び難燃補助剤、例えば、有機リン酸エステル化合物、シアヌレート化合物、金属塩、フッ素化ポリオレフィンなどをさらに含んでもよい。
【0027】
本発明に係る前記難燃性熱可塑性樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂100重量部に対して、有機リン酸エステル0.1〜40重量部をさらに含むことが好ましい。より好ましくは、前記有機リン酸エステルが下記化学式(2):
【0028】
【化3】

【0029】
で表される芳香族リン酸エステルである。
式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素またはC〜Cのアルキル基であり、Xは、レゾルシノール、ヒドロキノール、ビスフェノール−Aなどのジアルコールに由来するC〜C20のアリール基またはC〜C20のアルキル置換されたアリール基であり、nは0〜4の範囲である。
【0030】
前記有機リン酸エステルの例としては、トリフェニルホスフェート及びトリクレシルホスフェートのような単量体型リン酸エステル、並びにレゾルシノール、ヒドロキノン及びビスフェノール−Aのような2価アルコール類に由来するオリゴマー型縮合リン酸エステルが挙げられる。
【0031】
本発明に係る難燃性熱可塑性樹脂組成物は、金属塩などの難燃補助剤、及びフッ素化ポリオレフィン系樹脂などの滴下防止剤をさらに含んでもよい。前記の使用可能な金属塩としては、周知のスルホン酸金属塩が挙げられ、前記滴下防止剤として使用可能なフッ素化ポリオレフィン系樹脂の例としては、以下に限定されることはないが、典型的に使用可能な樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン/ビニリデンフルオライド共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体が挙げられる。前記難燃補助剤及び前記滴下防止剤は、1種単独または互いに異なる2種以上を組み合わせて用いることができ、前記熱可塑性樹脂100重量部に対して0.1〜30重量部の量で含まれることが好ましい。
【0032】
さらに、本発明に係る難燃性熱可塑性樹脂組成物は、最終の用途に応じて、滑剤、離型剤、核剤、帯電防止剤、熱安定化剤、酸化防止剤、相溶化剤、光安定化剤、補強剤、無機添加剤、顔料または染料のような添加剤をさらに含んでもよい。前記添加剤は、1種単独または混合して用いることができる。前記無機添加剤の例には、石綿、ガラス繊維、タルク、セラミック及び硫酸塩が含まれる。上記の添加剤は、前記熱可塑性樹脂100重量部に対して0〜60重量部の量で含まれることが好ましい。
【0033】
有利な効果
本発明に係るカルボキシホスフィン酸エステルの塩は、優れた難燃性、並びに高い熱安定性及び吸湿性を有する。
【0034】
さらに、本発明に係る難燃性熱可塑性樹脂組成物は、カルボキシエチルホスフィネートエステルの塩を含み、耐火性を有し、並びに、色の熱安定性及び吸湿性に優れるが燃焼時に環境汚染をもたらすハロゲン化難燃剤を使用しないため、環境に優しい。
【0035】
図面の簡単な説明
図1は、本発明による一製造例で得られた、メチルカルボキシエチルメチルホスフィネートのNMR分析結果を示し;
図2は、本発明による別の製造例で得られた、エチルカルボキシエチルメチルホスフィネートのNMR分析結果を示し;及び、
図3は、本発明による、さらに別の製造例で得られた、メチルカルボキシエチルフェニルホスフィネートのNMR分析結果を示す。
【0036】
本発明の態様
以下、具体的な実施例及び比較例を通じて、本発明をより明確に理解することができるが、本発明の範囲がこれらの実施例に制限されることはない。
【0037】
(A)カルボキシエチルホスフィネートエステルの塩の製造例
2−メチル−1,2−オキサホスフィノラン−5−オン−2−オキシドをアルコールと反応させてカルボキシエチルホスフィネートエステルを製造した後、塩化させて、カルボキシエチルホスフィネートエステルの塩を得た。
【0038】
A1)メチルカルボキシエチルメチルホスフィネートエステルのアルミニウム塩
温度計、冷却器、撹拌器及び滴下投入装置を備えた四つ口フラスコに、ジクロロメチルホスフィン(0.5mol、58.46g)を添加し、次いで1.2倍量の過剰量のアクリル酸(0.6mol、43.24g)を滴下しながら、窒素雰囲気下、80℃で1時間撹拌した。温度を130℃まで昇温して、反応混合物をさらに2時間撹拌した。続いて、50℃まで温度を下げた後、無水酢酸(0.6mol、174.64g)を滴下しながら、上記反応混合物を約2時間反応させた。前記反応の終了後、得られた反応溶液を常温まで冷却し、エーテルを用いて沈殿させた後、減圧濾過した。残ったエーテルは、真空オーブンで除去した。得られた2−メチル−1,2−オキサホスフィノラン−5−オン−2−オキシド(0.5mol、67.04g)をメタノール(0.6mol、19.22g)と共にフラスコに入れた後、50℃で約10時間還流させた。反応の終了後、得られた反応溶液を減圧蒸留して生成物を得た。前記生成物のNMR分析結果を図1に示す。
【0039】
上記の方法により得たメチルカルボキシエチルメチルホスフィネート(1mol、134.0g)、及びアルミニウムトリヒドロキシド(0.33mol、35.0g)を、500mlの水中に添加し、かかる反応混合物を、メカニカルスターラーを用いて170℃で6時間撹拌した。反応の終了後、温度を50℃に下げ、沈殿物を濾過し、その後、水で洗浄した。続いて、減圧下、100℃で水を除去することで、メチルカルボキシエチルメチルホスフィネートエステルのアルミニウム塩を得た。
【0040】
A2)エチルカルボキシエチルメチルホスフィネートエステルのアルミニウム塩
2−メチル−1,2−オキサホスフィノラン−5−オン−2−オキシドをエタノールと反応させて、エチルカルボキシエチルメチルホスフィネートを製造したことを除いては、A1)と同様の方法で標記の化合物を製造した。得られた化合物のNMR分析結果を図2に示す。
【0041】
A3)メチルカルボキシエチルフェニルホスフィネートエステルのアルミニウム塩
2−フェニル−1,2−オキサホスフィノラン−5−オン−2−オキシドをメタノールと反応させて、メチルカルボキシエチルフェニルホスフィネートを製造したことを除いては、A1)と同様の方法で標記の化合物を製造した。得られた化合物のNMR分析結果を図3に示す。
【0042】
(B)熱可塑性樹脂
B1)ゴム変性SAN共重合体樹脂(ABS樹脂)
B11)g−ABS樹脂
固形分50重量部のブタジエンゴムラテックスに、グラフト用単量体として、スチレン36重量部及びアクリロニトリル14重量部を加え、並びに脱イオン水150重量部を添加した。次に、総固形分量に対して、オレイン酸カリウム1.0重量部、クメンヒドロペルオキシド0.4重量部、メルカプタン連鎖移動剤0.2重量部、ブドウ糖0.4重量部、硫酸鉄水和物0.01重量部、及びピロホスフェートナトリウム塩0.3重量部を添加した後、かかる反応混合物を75℃で5時間維持させた。反応の終了後、グラフトラテックスが得られ、前記樹脂の固形分に対して硫酸0.4重量部を添加し、その後凝固させることにより、グラフト共重合体樹脂(g−ABS)粉末を製造した。
【0043】
B12)SAN共重合体樹脂
スチレン75重量部、アクリロニトリル25重量部、脱イオン水120重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.15重量部、トリカルシウムホスフェート0.4重量部、及びメルカプタン連鎖移動剤0.2重量部を添加した。反応温度を90分かけて室温から80℃まで昇温させた後、かかる反応混合物を前記温度で180分間維持して、共重合体樹脂(SAN)を製造し、その後水洗し、脱水し、及び乾燥することにより、SAN粉末を調製した。
【0044】
ゴム変性SAN共重合体樹脂は、B11)のg−ABS樹脂30重量部と、B12)のSAN共重合体樹脂70重量部とを混合することにより得た。
【0045】
B2)高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS樹脂)
ゴム含量が7.5%であり、ゴム粒子の平均粒径が0.4μmである、韓国第一毛織(株)製の高衝撃ポリスチレン樹脂HG−1730を使用した。
【0046】
B3)ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂)
数十μmの平均粒径を有する粉末形態である、日本旭化成社製のポリ(2,6−ジメチル−フェニルエーテル)(商品名:S−202)を使用した。
【0047】
B4)ガラス繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂(Glass Reinfoced PBT樹脂)
韓国三養化成社製のポリブチレンテレフタレート樹脂(商品名:Tribit 1500)70重量%を、ガラス繊維30重量%で補強したものを使用した。
【0048】
(C)カルボキシホスフィン酸化合物
2−カルボキシエチルメチルホスフィネートを使用した。
【0049】
(D)有機リン酸エステル
ビスフェノール−A ジフェニルホスフェート(商品名:CR−741)を使用した。
【0050】
実施例1〜9及び比較例1〜6
上述した構成成分を用いて、下記表1及び2に示した組成比に従って、実施例1〜9及び比較例1〜6の熱可塑性樹脂組成物を調製した。このとき、各構成成分を二軸押出機を用いて200〜280℃で押し出して、ペレットを製造し、それから、前記ペレットを80℃で2時間乾燥し、その後、6オンス(Oz)の射出成形機を用いて成形温度180〜280℃及び金型温度40〜80℃の条件で射出成形し、これによりサンプルを製作した。各サンプルの物性を評価した。その結果を下記表1及び2に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
物性の評価
(1)UL94VB難燃度
前記サンプルを、1/8”の厚さに加工し、UL94VB難燃規定に従って難燃度を測定した。
【0054】
(2)色の熱安定性(ΔE)
前記サンプルを、ピンポイントゲート用金型の6オンス(Oz)射出成形機を用いて、成形温度270℃で滞留時間10分間、5cm×20cmのサンプル中で射出成形した。前記滞留時間前後のサンプルを、ミノルタ製の分光光度計で観察することにより、色の熱安定性を判定した。
【0055】
(3)吸湿率
10cm×10cm×0.32cmの射出サンプルを60℃の恒温槽で24時間維持した。前記維持の前後の重さの差を測定することにより、吸湿率を決定した。
【0056】
上記表1及び2の結果から、本発明に係るカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩は難燃性に優れ、特に、従来のカルボキシエチルホスフィン酸化合物の場合と比較して、本発明に係るカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩の色の熱安定性及び吸湿性は顕著に向上することを確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明による一製造例で得られた、メチルカルボキシエチルメチルホスフィネートのNMR分析結果を示すグラフである。
【図2】本発明による別の製造例で得られた、エチルカルボキシエチルメチルホスフィネートのNMR分析結果を示すグラフである。
【図3】本発明による、さらに別の製造例で得られた、メチルカルボキシエチルフェニルホスフィネートのNMR分析結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表されるカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩:
【化1】

式中、Rは独立して、C〜Cのアルキル基、C〜C20のアリール基、及びC〜C20のアルキル置換されたアリール基からなる群より選択され、Rは独立して、C〜Cのアルキル基、C〜C30のアリール基、及びC〜C30のアルキル置換されたアリール基からなる群より選択され、nは1〜3の整数であり、並びに、Mは金属イオンまたは帯電したアミンである。
【請求項2】
前記Rは独立して、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシルまたはフェニルからなる群より選択される、請求項1に記載のカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩。
【請求項3】
前記Rは独立して、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシルまたはフェニルからなる群より選択される、請求項1に記載のカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩。
【請求項4】
前記Mは、Al、Zn、Ca、Ba、Mg、アンモニウム、メラミン、メレム、アルキルアンモニウムまたはアルキルイミダゾールからなる群より選択される、請求項1に記載のカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩。
【請求項5】
熱可塑性樹脂;及び
前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、単独で、または混合して用いられる、下記化学式1で表されるカルボキシエチルホスフィネートエステルの塩0.1〜50重量部を含む、難燃性熱可塑性樹脂組成物:
【化2】

式中、Rは独立して、C〜Cのアルキル基、C〜C20のアリール基、及びC〜C20のアルキル置換されたアリール基からなる群より選択され、Rは独立して、C〜Cのアルキル基、C〜C30のアリール基、及びC〜C30のアルキル置換されたアリール基からなる群より選択され、nは1〜3の整数であり、Mは金属イオンまたは帯電したアミンである。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂は、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン三元共重合体樹脂(ABS樹脂)、ゴム変性高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート三元共重合体樹脂(ASA樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂(SAN樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン三元共重合体樹脂(MBS樹脂)、アクリロニトリル−エチルアクリレート−スチレン三元共重合体樹脂(AES樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂)、ポリエチレン樹脂(PE樹脂)、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアミド(PA)系樹脂、これらの共重合体、及びこれらのアロイからなる群より選択される、請求項5に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂は、ポリブチレンテレフタレートである、請求項5に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂は、前記ポリフェニレンエーテル樹脂と前記高衝撃ポリスチレン樹脂との混合物である、請求項5に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリフェニレンエーテル樹脂は、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)である、請求項8に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、有機リン酸エステル0.1〜40重量部をさらに含む、請求項5に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
前記有機リン酸エステルは、下記化学式2で表される芳香族リン酸エステルである、請求項10に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物:
【化3】

式中、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素またはC〜Cのアルキル基であり、Xは、レゾルシノール、ヒドロキノールまたはビスフェノール−Aなどのジアルコールに由来する、C〜C20のアリール基またはC〜C20のアルキル置換されたアリール基であり、並びにnは0〜4の範囲である。
【請求項12】
スルホン酸金属塩などの難燃補助剤、並びにポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン/ビニリデンフルオライド共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体からなる群より選択されるフッ素化ポリオレフィン系樹脂などの滴下防止剤をさらに含み、該難燃補助剤及び該滴下防止剤は、単独で、または混合して用いられ、並びに前記熱可塑性樹脂100重量部に対して0.1〜30重量部の量で含まれる、請求項5、10及び11のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
滑剤、離型剤、核剤、帯電防止剤、熱安定化剤、酸化防止剤、相溶化剤、光安定化剤、補強剤、無機添加剤、顔料、染料及びこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一種の添加剤を、前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、0〜60重量部の量でさらに含む、請求項5に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−522252(P2009−522252A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−548365(P2008−548365)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国際出願番号】PCT/KR2006/001191
【国際公開番号】WO2007/078028
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】