説明

カルボキシルエステラーゼ1調節を介した高密度リポタンパク質レベルの変換

血漿中の全コレステロールおよびHDLコレステロールのレベルを調節することに基づく、冠動脈疾患およびアテローム性動脈硬化状態の検出および処置の方法が本明細書に記載されている。また、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態の処置に有用な薬剤を同定する方法が本明細書に開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
アテローム性動脈硬化症は、動脈壁における脂質蓄積、炎症応答、細胞死、および線維化により特徴づけられる。アテローム性動脈硬化症は、特に、米国および欧州の国々における死亡率および死亡数の主要な原因である。多くの危険因子がアテローム性動脈硬化症の発症に関与しており、家族歴、高血漿低密度リポタンパク質(LDL)レベルおよび低血漿高密度リポタンパク質(HDL)レベル、高血圧、肥満、老齢、男性の性的機能のような遺伝学的に制御されるもの、ならびに喫煙、脂肪の多い過度に加工された食品の消費、および運動不足のような生活要因を含む。
【0002】
LDL-Cは、プロアテローム生成的であるので、血漿LDL-Cレベルを下げ、心血管有害事象の危険を減少させるために、スタチン剤が開発された。最近の研究は、現在のガイドラインが目的とするレベル以下までLDL-Cレベルを減少させた場合に、さらにアテローム生成を阻害して、冠動脈有害事象を減少させることを示す。スタチン剤は、新規心血管有害事象を3分の1まで減少させることから重要ではあるが、さらなる治療が必要とされていることは明白である。血漿HDLコレステロール(HDL-C)レベルを増加させるとアテローム生成が阻害されることは証明されているが、多くの十分なHDL上昇剤は存在していない。したがって、HDLレベルを増加させる薬剤を同定する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0003】
発明の要約
本発明は、マウスエステラーゼ1(mES1)およびヒトカルボキシルエステラーゼ1(hCES1)が、血漿中の全コレステロールおよびHDLコレステロールのレベルを制御するという新規発見を対象とする。血漿リポタンパク質レベルに影響を及ぼすそれらの役割は、以前には知られていなかった。本発明は、mES1およびhCES1(おそらく)が、血漿中の全コレステロールおよびHDLコレステロールのレベルに影響を及ぼし、特に、CES1活性阻害が、血漿HDLコレステロールレベルを上昇させ、またおそらくは、血漿LDLコレステロールレベルを減少させるために使用され得て、アテローム性動脈硬化症を処置し得ることを示す。
【0004】
したがって、1つの局面において、本発明は、CES遺伝子(例えば、hCES1遺伝子)によりコードされるポリペプチドのエピトープに特異的な抗原結合領域を含む単離抗体またはその機能性断片の使用であって、該抗体またはその機能性断片が細胞上の表面受容体に結合し、HDL関連疾患の発症を予防するか、もしくは改善する使用に関する。
【0005】
1つの態様において、本発明は、抗体またはその機能性断片の有効量を対象に投与することを含む、HDL関連疾患を処置する方法に関する。
【0006】
本発明の抗体は、抗体またはその機能性断片および薬学的に許容される担体もしくは賦形剤を含む、医薬組成物に製剤化され得る。医薬組成物は、抗体またはその機能性断片を含む医薬組成物の有効量をそれを必要とする対象に投与することにより、HDL関連疾患を処置する方法として使用され得る。
【0007】
本発明はまた、HDL関連疾患の処置用医薬の製造のための単離抗体またはその機能性断片の使用であって、該抗体またはその機能性断片が、CES遺伝子(例えば、hCES1遺伝子)を含む使用に関する。
【0008】
1つの態様において、本発明は、カルボキシルエステラーゼの発現を阻害することを含む、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態を処置する方法を対象とする。特定の態様において、カルボキシルエステラーゼは、ヒトCES1である。カルボキシルエステラーゼの発現および/または活性を阻害する工程がさらに、カルボキシルエステラーゼ遺伝子によりコードされるポリペプチドのエピトープに特異的な抗原結合領域を含む単離抗体またはその機能性断片を用いて活性を阻害することを含む。特定の態様において、単離抗体またはその機能性断片は、抗原結合領域が細胞上の表面受容体に結合し、HDL関連疾患の発症を予防するか、もしくは改善することを含む。抗体またはその機能性断片をコードする遺伝子を有するトランスジェニック動物はまた、本発明の範囲内である。
【0009】
他の態様において、本発明は、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態の危険と関連するヒトCES1遺伝子のアレルを検出することを含む、冠動脈疾患または冠動脈疾患に対する感受性を検出する方法を対象とする。
【0010】
他の態様において、本発明は、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態の処置の有効性を決定するための方法であって、生物学的サンプル中のカルボキシルエステラーゼのレベルを参照と比較し、その結果、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態の処置の有効性を決定することを含む方法を対象とする。特定の態様において、カルボキシルエステラーゼは、ヒトCES1である。
【0011】
他の態様において、本発明は、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態の処置に有用な薬剤を同定する方法であって(ここで、カルボキシルエステラーゼの阻害は、減少した血漿LDLおよび/または超低密度リポタンパク質(VLDL)、ならびに増加した血漿HDL-Cレベルを誘導する)、生物学的サンプルを候補薬剤と接触させ、候補薬剤との接触前後のサンプル中の血漿中の全リポタンパク質またはHDL-Cのレベルを決定することを含み、ここで、血漿中のLDLおよび/またはVLDLレベルの減少またはHDLの増加が、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態の処置に有用な薬剤であることを示す方法を対象とする。
【0012】
他の態様において、本発明は、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態の処置に有用な薬剤を同定する方法であって、既知のカルボキシルエステラーゼ基質の存在下で、カルボキシルエステラーゼを候補薬剤と接触させることを含み、ここで、カルボキシルエステラーゼの活性の減少が、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態の処置に有用な薬剤としての候補薬剤を同定する方法を対象とする。特定の態様において、カルボキシルエステラーゼは、ヒトCES1である。特定の態様において、接触工程は、培養細胞で行われる。他の態様において、接触工程は、インビボで行われる。他の態様において、カルボキシルエステラーゼは、内因性または外因性である。
【0013】
他の態様において、本発明は、対象内のHDLレベルを高めるHDL調節剤を投与することを含む、HDL関連疾患を調節する方法を対象とする。特定の態様において、HDL関連疾患は、アテローム性動脈硬化症(冠動脈疾患、梗塞、心不全、末梢動脈疾患)、脂質障害、アルツハイマー病、過剰酸化ストレス、内皮機能不全、肥満、慢性腎疾患、肥満およびインスリン抵抗性からなる群から選択される。脂質障害は、例えば、高められた血漿コレステロールレベル、脂質代謝異常症候群、高トリグリセリド、脂質異常症、異常リポタンパク質血症、脂質異常症、家族性高コレステロール血症、および家族性高トリグリセリド血症であり得る。他の態様において、調節剤は、低分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAおよび抗体からなる群から選択される。特定の態様において、HDL関連疾患は、対象内のHDL-Cレベルが許容される正常なHDL-Cレベル以下である任意の疾患である。特定の態様において、HDL関連疾患は、対象内のHDL-Cレベルが関連集団のHDL-Cレベル以下である任意の疾患である。他の態様において、薬剤は、薬学的に許容される担体と共に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、Es1突然変異体マウスにおける血漿中の全コレステロールおよびHDLコレステロールの増加したレベルの図式を示す。
【図2】図2は、Rs7186875(CES1 (マウスEs1の相同遺伝子)と連鎖不均衡であるSNP)がヒトでの血漿ApoA-Iレベルと関連することを表したゲノムワイド相関試験からのデータを示す。
【図3】図3は、リアルタイムPCRで検出したマウスEs1 (上のパネル)、ヒトCES1 (下のパネル)およびそれらの近くの遺伝子の分布データを表した図式を示す。
【図4】図4は、HEK 293でのEs1 mRNA発現レベルにおけるshRNA-Es1の効果を示す。Es1発現レベルをリアルタイムPCRで測定し、β-アクチンレベルで標準化した。shRNA-742は、Es1発現を90%まで減少させた。値は、トリプリケート値の平均 ± SDである。*は、shLacZコントロールからの統計学的に有意な差(P<0.05、t検定)を示す。
【図5】図5は、マウス肝臓Es1 mRNA発現におけるアデノウイルスAd-sh742の異なる用量の効果を示す。C57BL/6Jマウスに、示されたアデノウイルスを特定の用量で注射した。6日後、Es1の肝臓発現レベルをリアルタイムPCRで測定し、β-アクチンレベルで標準化した。値は、平均であり、各円は、単一の動物からの値を示す。Ad-空コントロール群と比較した残余Es1発現レベルの割合を示す。*は、Ad-空コントロールからの統計学的に有意な差(P<0.05、t検定)を示す。
【図6】図6Aおよび6Bは、アデノウイルスを注射したマウスから採取した血漿中の肝臓酵素レベルを示す。C57BL/6Jマウスに、示されたアデノウイルスを特定の用量で注射した。血漿を、ウイルス投与前(0日目)および投与の6日後(6日目)に集めた。肝臓酵素ASTおよびALTのレベルをBARSで測定した。6日目の肝臓酵素レベルは、0日目と比較して、最も高いアデノウイルスの用量(2 x 109 PFU/マウス)で有意に増加した。値は、平均 ± SDである。n=4。*は、Ad-空コントロールからの統計学的に有意な差(P<0.05、t検定)を示す。
【図7】図7は、肝臓Es1 mRNA発現におけるAd-sh742アデノウイルス投与の効果を示す。C57BL/6Jマウスに、示されたアデノウイルスを1.5 x 109 PFU/マウスの量で注射した。6日後、Es1 mRNAの肝臓発現レベルをリアルタイムPCRで測定し、β-アクチンレベルで標準化した。値は、平均 ± SDである。n=12。*は、Ad-shConコントロールからの統計学的に有意な差(P<0.05、t検定)を示す。
【図8】図8Aおよび8Bは、それぞれ、血漿エステラーゼ活性および血漿HDL-Cレベルにおける肝臓Es1抑制の効果を示す。C57BL/6Jマウスに、示されたアデノウイルスを1.5 x 109 PFU/マウスの量で注射した。血漿を、ウイルス投与前(0日目)および投与の6日後(6日目)に集めた。図8Aに関して、血漿エステラーゼ活性を測定し、ユニット/mlで示した。6日目の血漿エステラーゼ活性は、Ad-shCon群と比較して、有意に減少した。値は、平均 ± SDである。n=12。*は、6日目でAd-shConコントロールからの統計学的に有意な差(P<0.05、t検定)を示す。図8Bに関して、血漿HDL-Cレベルを測定し、mg/dLで示した。6日目のHDL-Cレベルは、Ad-shCon群と比較して、有意に増加した。値は、平均 ± SDである。n=12。*は、6日目でAd-shConコントロールからの統計学的に有意な差(P<0.05、t検定)を示す。xは、同じ群間で、0日目と6日目での有意な差を示す(one way ANOVA検定、P<0.05)。
【0015】
詳細な説明
本発明は、カルボキシルエステラーゼ、とりわけ、マウスES1およびヒトCES1の阻害が全コレステロールおよびHDLコレステロールの血漿レベルを調節するという予期せぬ発見に関するものである。そのような阻害は、血漿中の全コレステロールレベルを減少させ、HDL-Cレベルを増加させる。これらの遺伝子は、以前から、薬物代謝における役割について既知であった(Redinbo, M. et al., Biochem. Soc. Trans., 31:620-624, 2003; Redinbo, M. and Potter, P., Drug Discov. Today, 10:313-325, 2005; Satoh, T. and Hosokawa, M., Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 38:257-288, 1998; Satoh, T. and Hosokawa, M., Chem. Biol. Interact., 162:195-211, 2006; Potter P. and Wadkins R., Curr. Med. Chem., 13:1045-1054, 2006)。
【0016】
定義
本明細書で使用される「HDL」なる用語は、高密度リポタンパク質を意味する。HDLは、血中でコレステロールのトランスポーターとして機能するほぼ等しい量の脂質およびタンパク質の複合体を含む。HDLは、主に、肝臓および小腸の上皮細胞で合成され、分泌される。分泌の直後、HDLは、その主な構成要素としてアポリポタンパク質 A-I (また、apoA-Iと呼ばれる)およびリン脂質を含む円盤状粒子の形態である(また、新生HDLと呼ばれる)。この新生HDLは、血中で、末梢細胞の細胞膜由来の、もしくは他のリポタンパク質の加水分解で産生された遊離コレステロールを受け取り、その疎水性中心で、LCAT (レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ)の作用により該コレステロールから変換されたコレステロールエステルを保持しながら、成熟した球状HDLを形成する。HDLは、「コレステロール逆輸送」と呼ばれる脂質代謝過程において極めて重要な役割を果たし、それは、血中で末梢組織からコレステロールを受け取り、それを肝臓に輸送するものである。コレステロール逆輸送は、アテローム性動脈硬化症に関するHDLの予防作用のための主要なメカニズムの1つであると考えられているので、高レベルのHDLは、アテローム性動脈硬化症および冠動脈性心疾患(CHD)の減少した危険と関連している。
【0017】
本明細書で使用される「HDL調節剤」なる用語は、HDLの発現もしくは機能的レベルを変化させることが可能であり、その結果として、該HDLレベルの変化がHDL関連疾患もしくは状態を変える任意の分子を意味する。HDL調節剤は、HDLレベルに影響を与える核酸もしくはポリペプチドと、直接もしくは間接的に作用し得る。HDL調節剤の例は、抗体、siRNA分子、および低分子量化合物を含むが、これらに限定されない。1つの態様において、HDL調節剤は、CES遺伝子(例えば、hCES1遺伝子)によりコードされるポリペプチドのエピトープに特異的な抗原結合領域を含む単離抗体またはその機能性断片である。抗体またはその機能性断片は、細胞上の表面受容体に結合し、HDL関連疾患の発症を予防するか、もしくは改善し得る。
【0018】
本明細書で使用される「生物学的サンプル」なる用語は、全個体またはその一部の組織、細胞もしくは構成要素部分(例えば、血液、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、臍帯血、尿、膣液および精液を含むが、これらに限定されない体液)を意味する。「生物学的サンプル」はさらに、全個体またはその一部の組織、細胞もしくは構成要素部分から調製されたホモジネート、溶解物もしくは抽出物、またはその画分もしくは部分を意味し、例えば、血漿、血清、髄液、リンパ液、皮膚の外部切片、気道、腸管および尿生殖路、涙、唾液、母乳、血液細胞、腫瘍、器官を含むが、これらに限定されない。多くの場合に、サンプルは、動物から取り出されるが、「生物学的サンプル」なる用語はまた、例えば、動物から取り出されることなくインビボで解析される細胞もしくは組織を意味する。一般には、「生物学的サンプル」は、動物由来の細胞を含むが、該用語はまた、非細胞性生物学的物質、例えば、非細胞性の血液、唾液もしくは尿の画分を意味し得て、それは、疾患関連ポリヌクレオチドもしくはポリペプチドのレベルを測定するのに使用され得る。「生物学的サンプル」はさらに、培地、例えば、生物が増殖するニュートリエントブロス(nutrient broth)もしくはゲルを意味し、それは、細胞性成分、例えば、タンパク質もしくは核酸分子を含む。
【0019】
本明細書で使用される「核酸」なる用語は、一本鎖もしくは二本鎖型のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドおよびそのポリマーを意味する。該用語は、合成的、自然発生的、および非自然発生的な既知のヌクレオチド類似体または修飾された骨格残基もしくは結合を含む核酸を包含し、それは、参照核酸と類似の結合特性を有し、参照核酸と類似の方法で代謝される。そのような類似体の例は、ホスホロチオエート、ホスホロアミダート、メチルホスホネート、キラル-メチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)を含むが、これらに限定されない。核酸配列はまた、該核酸の自然発生的なアレル変異型を含む。
【0020】
本明細書で使用される「オリゴヌクレオチド」なる用語は、ホスホジエステル結合により連結された2個もしくはそれ以上のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドからなる核酸分子を意味し、好ましくは、6個〜300個のヌクレオチド長を含む。オリゴヌクレオチドのサイズは、オリゴヌクレオチドの最終的な機能もしくは使用を含む多くの因子に依存する。好ましくは、例えば、伸長プライマーとして機能するオリゴヌクレオチドは、触媒、例えば、DNAポリメラーゼ、およびデオキシヌクレオチドトリホスフェートの存在下で、発現産物の合成を生じるのに十分な長さである。本明細書で使用される「オリゴヌクレオチド」はさらに、構造的に修飾されているが(「修飾化オリゴヌクレオチド」)、非修飾化オリゴヌクレオチドと同様に機能するオリゴヌクレオチドを意味する。修飾化オリゴヌクレオチドは、非自然発生的な部分、例えば、改変された糖部分もしくは糖間結合、例えば、ホスホロチオエートを含み得る。
【0021】
本明細書で使用される「ポリペプチド」なる用語は、モノマーがアミノ酸であり、ペプチド結合またはジスルフィド結合を介して連結されたポリマーを意味する。それはまた、約8個〜約500個のアミノ酸長である全長の自然発生的なアミノ酸配列またはその断片を意味する。さらに、非天然のアミノ酸、例えば、β-アラニン、フェニルグリシンおよびホモアルギニンが含まれ得る。本発明で使用されるすべてのアミノ酸は、D-もしくはL-の光学異性体であり得る。ポリペプチド配列はまた、該ポリペプチドの自然発生的なアレル変異型を含む。
【0022】
本明細書で使用される「対象」なる用語は、任意のヒトもしくは非ヒト動物を含む。好ましくは、該動物は、ヒトもしくは非ヒトの哺乳類である。また好ましくは、対象は、例えば、霊長類(例えば、サル、類人猿およびヒト)、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、魚、鳥などを意味する。
【0023】
本明細書で使用される「有効性」なる用語は、望まれる効果が得られる程度を意味する。特に、該用語は、血漿リポタンパク質およびHDLレベルが調節(例えば、上昇、増加、阻害、減少、または遅延)される程度を意味する。本発明において使用される「有効性」なる用語はまた、冠動脈疾患(CAD)の1個もしくはそれ以上の症状または臨床兆候の軽減もしくは減少を意味する。症状の軽減もしくは減少は、ホスファチジルコリン分解、酸化リン脂質の減少もしくは軽減、動脈硬化プラーク形成および破裂の減少、臨床兆候、例えば、心臓発作、狭心症、もしくは梗塞の減少、高血圧の減少、炎症性メディエータ生合成の減少、血漿コレステロールの減少などを含むが、これらに限定されない。症状の軽減もしくは減少はまた、アテローム性動脈硬化症に影響を与える血管床における血流の改善を意味する。
【0024】
本明細書で使用される「冠動脈疾患」(CAD)または同じ意味で用いられる「冠動脈性心疾患」(CHD)なる用語は、冠動脈の閉塞により特徴付けられる心血管疾患を意味する。閉塞は、プラーク破裂もしくは塞栓のようなメカニズムにより突然生じ得る。閉塞は、筋内膜過形成およびプラーク形成による動脈の狭窄と共に進行し得る。プラークが肥厚すると、動脈は狭窄し、血流は減少し、その結果、心筋に対する酸素の減少を生じる。この血流の減少により、心筋についての一連の結果が生じる。例えば、心筋に対する血流の妨害は、心臓発作として一般に既知である「梗塞」(心筋梗塞)を生じる。心臓につながる動脈の閉塞から生じる臨床的兆候および症状は、CADの症状である。CADの症状は、狭心症、虚血、心筋梗塞、心筋症、鬱血性心不全、不整脈および動脈瘤形成を含む。冠循環中の脆弱プラーク疾患は、それ自身心筋梗塞として現れる動脈血栓症または末梢の塞栓と関連すると理解される。CADは、さまざまな疾患段階を包含し得る。CADの早期段階は、血流を妨害しない冠状動脈壁内の粥腫で特徴付けられる。長年にわたって、これらの粥腫は、肥厚しながら増加する。したがって、CADの次の段階は、動脈壁および血管腔に拡大し、動脈を介した血流に影響を与えるプラークの形成により特徴付けられる。プラークが肥厚し、血管の直径の大部分を塞ぐと、対象は、閉塞性CADまたは虚血性心疾患の症状を呈し得る。該症状は、しばしば、労作性狭心症または減少した運動耐容能を含む。CADの程度が進行するにつれて、冠動脈腔のほぼ完全に近い閉塞が存在し、心筋への酸素運搬血液の流れを厳しく制限し得る。CADのこの段階は、心筋梗塞(心臓発作)と呼ばれ、レストおよびフラッシュ(rest and flash)肺水腫で狭心症の症状を含む慢性冠動脈虚血の兆候および症状で特徴付けられる。
【0025】
本明細書で使用される「アテローム性動脈硬化症」なる用語は、マクロファージ、平滑筋細胞および細胞外間隙にコレステロールおよびコレステリルエステルおよび関連脂質の異常な蓄積を生じる工程を意味し、その結果、身体および器官の1個またはそれ以上の動脈、細動脈および移植静脈(冠動脈、大動脈、腎動脈、頸動脈、四肢および中枢神経系に血液を供給する動脈、ならびにバイパス手術により移植された静脈を含むがこれらに限定されない)の狭窄および/または閉塞を生じる。アテローム性動脈硬化症は、動脈硬化病巣が血流からの物理的な力を介して破壊され、動脈壁構成要素が血流に曝されて、血栓症および心臓もしくは脳のような標的器官に対する酸素供給不全を生じるまで、数十年間にわたって続き、かなり潜行性であり得る。
【0026】
本明細書で使用される「HDL関連疾患」は、低HDLレベルを有する任意の疾患もしくは特性、または高められたHDLレベルから恩恵を受け得る任意の疾患もしくは特性、例えば、アテローム性動脈硬化症を意味する。これらに関連する疾患は、例えば、アテローム性動脈硬化症疾患(冠動脈疾患、梗塞、心不全、末梢動脈疾患)、脂質障害、アルツハイマー病、過剰酸化ストレス、慢性腎疾患、肥満、2型糖尿病およびインスリン抵抗性、ならびに高血圧、脂質異常症、中心性肥満および増加した空腹時血漿グルコースを含むいわゆる「メタボリック症候群」を含み得る。脂質障害は、例えば、高コレステロール(130 ミリグラム/デシリッター(mg/dL)より高いLDLレベル)、脂質代謝異常症候群、高トリグリセリド(1,500 mg/dLの高さのトリグリセリドレベル)、脂質異常症、または異常リポタンパク質血症(HDLは、35 mg/dL未満である)、高脂血症もしくは高コレステロール、家族性高コレステロール血症(全コレステロールおよびLDLコレステロールを増加させる遺伝学的障害)、ならびに家族性高トリグリセリド血症(遺伝性高トリグリセリド)を含み得る。
【0027】
本明細書で使用される「発現レベルの有意な変化」なる用語は、発現を評価するのに使用されたアッセイの標準誤差以上の量で、コントロールレベルからの発現レベルの増加もしくは減少を意味する。該用語はまた、好ましくは、少なくとも、約10%、約20%、約25%、約30%、好ましくは、少なくとも、約40%、約50%、より好ましくは、少なくとも、約60%、約70%、もしくは約90%、約100%、約150%、もしくは約200%、またはそれ以上の変化を意味する。
【0028】
本明細書で使用される「遺伝子」なる用語は、ポリペプチドをコードし、その発現を制御する核酸配列を意味する。したがって、遺伝子は、制御エレメント、例えば、プロモーター、スプライス部位、エンハンサー、リプレッサー結合部位などを含む。遺伝子は、ポリペプチド配列もしくはその発現レベルに影響を与え得るか、またはポリペプチドに影響を与えない配列変形である多くの異なる「アレル」を有し得る。遺伝子は、連続的なポリペプチドをコードする核酸配列である、1個もしくはそれ以上の「オープンリーディングフレーム」を含み得る。遺伝子は、内因性もしくは外因性で存在し得る。
【0029】
本明細書で使用される「hCES1またはmES1の発現レベル」なる用語は、生物学的サンプル中に存在する対応する遺伝子から転写mRNAの量を意味する。発現レベルは、コントロールサンプルからのレベルまたはコントロールサンプルの予測されるレベルと比較されるか、もしくは比較なしで検出され得る。
【0030】
本明細書で使用される「コントロールレベル」なる用語は、それにより変化が測定されるバイオマーカーの標準レベルを意味する。1つの態様において、「コントロールレベル」は、正常な、もしくは健常な細胞、組織、もしくは対象由来の、または正常な、もしくは健常な細胞、組織、もしくは対象の集団由来のバイオマーカー核酸発現、もしくはバイオマーカーポリペプチド、もしくはバイオマーカー生物学的活性の正常なレベルであり得る。例えば、コントロールレベルは、正常細胞、組織、もしくは対象におけるマウスES1もしくはヒトCES1ポリペプチドまたは生物学的活性のレベル、または血漿中の全リポタンパク質もしくはHDLのレベルであり得るが、これらに限定されない。
【0031】
本明細書で使用される「マウスES1またはヒトCES1のコントロール発現レベル」は、健全な対象を代表する生物学的サンプル中に存在する、対応する遺伝子から転写されたmRNAの量を意味する。「コントロール発現レベル」なる用語はまた、健全な対象からの測定に基づいて以前に確立された、健全な集団を代表するmRNAの確立されたレベルを意味する。
【0032】
本明細書で使用される「検出」は、サンプル中の分子の存在もしくは非存在の同定を意味する。検出される分子がポリペプチドである場合、検出工程は、例えば、検出可能な標識が施された抗体に該ポリペプチドを結合させることにより行われ得る。検出可能標識は、独立して、もしくは刺激に応答して観察可能なシグナルを産生することができる分子である。検出可能標識は、蛍光標識、発色標識、発光標識、または放射性標識であり得るが、これらに限定されない。標識を「検出する」方法は、例えば、標準的もしくは共焦点顕微鏡に適した定量的および定性的方法、FACS解析、およびマルチウェルプレート、アレイまたはマイクロアレイを含むハイスループット法に適した方法を含む。当業者は、特定の蛍光ポリペプチドもしくは染料からの蛍光放射の検出のために適当なフィルターセットおよび励起エネルギー源を選択することができる。本明細書で使用される「検出」はまた、検出されるポリペプチドに対する複数の抗体の使用を含み得て、ここで、複数の抗体は、検出されるポリペプチド上の異なるエピトープに結合する。この方法で使用される抗体は、2個またはそれ以上の検出可能標識を使用し得て、例えば、FRET対を含み得る。本発明によるポリペプチド分子は、検出可能シグナルのレベルが検出可能標識のバックグラウンドレベルよりも大きい場合、または測定されるポリペプチドのレベルがコントロールサンプルで測定されるレベルよりも大きい場合に「検出」される。
【0033】
本明細書で使用される「検出」はまた、例えば、直接もしくは間接的に標識化されたプローブ核酸分子(血清サンプル中の標的にハイブリダイズすることができる)により産生されるシグナルを測定するか、もしくは観察する工程による標的核酸分子の存在の同定を意味する。プローブ核酸の検出は、直接、標的核酸、例えば、マーカー遺伝子をコードする配列の存在および検出を示す。蛍光標識、放射性標識、および他の化学的標識を「検出」するための方法および技術は、Ausubel et al. (1995, Short Protocols in Molecular Biology, 3rd Ed. John Wiley and Sons, Inc.)に見出され得る。
【0034】
あるいは、核酸は「間接的に検出され」得て、ここで、ある部分が標的とハイブリダイズするプローブ核酸に結合しており、該部分は、例えば、適当な基質の存在下で標識の検出を可能とする酵素活性、または抗体の添加により検出を可能とする特定の抗原もしくは他のマーカーまたは特定の標識を含み得る。あるいは、標的核酸分子は、標的核酸配列の部分とハイブリダイズするように特別に設計されるオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、患者臨床サンプルから調製された核酸サンプルを増幅することにより検出され得る。TaqMan (登録商標)(これに限定されない)のような定量的増幅法はまた、本発明による標的核酸を「検出する」ために使用され得る。測定される(例えば、定量的PCRによる)核酸のレベル、または検出可能標識により提供される検出可能シグナルのレベルがバックグラウンドレベルを超える場合に、核酸分子は、本明細書で使用されるとき「検出され」る。
【0035】
本明細書で使用される「検出」はさらに、対象におけるCAD、例えば、アテローム性動脈硬化症の少なくとも早期の検出を意味し、ここで、「早期」の検出は、早期の段階、好ましくは、症状が現れる前のCADの検出を意味する。本明細書で使用される「検出」はさらに、上記したものと同じ検出基準を用いた対象におけるCAD再発の検出を意味する。本明細書で使用される「検出」はさらに、HDL調節剤を用いた処置の前後におけるCADの程度の変化の測定を意味する。この場合に、HDL調節剤に応答したCADの程度の変化は、HDL調節剤の非存在下での応答と比較してHDL調節剤の存在下での応答で、超音波、X腺、内視鏡検査、または組織学により検出される1個もしくはそれ以上のマーカー遺伝子(例えば、CES1)もしくはタンパク質の増加もしくは減少を意味する。
【0036】
本明細書で使用される「抗体」なる用語は、インタクト抗体またはその抗原結合断片(すなわち、「抗原結合部分」)もしくは一本鎖(すなわち、軽鎖または重鎖)を意味する。インタクト抗体は、ジスルフィド結合により結合された少なくとも2個の重(H)鎖および2個の軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略される)および重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2およびCH3の3個のドメインからなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略される)および軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は、CLの1個のドメインからなる。VHおよびVL領域はさらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域に散在する超可変領域(相補性決定領域(CDR)と呼ばれる)の領域に分類され得る。各VHおよびVLは、下記の順番でアミノ末端からカルボキシ末端に並べられた3個のCDRおよび4個のFRから構成される: FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系のさまざまな細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第1補体(Clq)を含む宿主組織もしくは因子への免疫グロブリンの結合を仲介し得る。
【0037】
本明細書で使用される抗体の「抗原結合部分」なる用語は、ある抗原に特異的に結合する能力を保持した1個またはそれ以上のインタクト抗体の断片を意味する。抗体の抗原結合機能は、インタクト抗体の断片により行われ得る。抗体の「抗原結合部分」なる用語の範囲内に含まれる抗原結合断片の例は、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片であるFab断片; ヒンジ領域でジスルフィド架橋により結合された2個のFab断片(一般に、重鎖由来の1個と軽鎖由来の1個)を含むF(ab)2断片; VHおよびCH1ドメインからなるFd断片; 抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片; VHドメインからなる単一ドメイン抗体(dAb)断片(Ward et al., 1989 Nature 341:544-546); および単離された相補性決定領域(CDR)を含む。さらに、Fv断片の2個のドメインであるVLおよびVHは、別々の遺伝子にコードされているが、それらを、組み換え技術を用いて人工的なペプチドリンカーにより結合させることができ、それにより、VLおよびVH領域が対をなして、一価分子を形成する単一タンパク質鎖(一本鎖Fv (scFv)として既知である; 例えば、Bird et al., 1988 Science 242:423-426; and Huston et al., 1988 Proc. Natl. Acad. Sci. 85:5879-5883を参照のこと)として作製することができる。そのような一本鎖抗体は、抗体の1個またはそれ以上の「抗原結合部分」を含む。これらの抗体断片は、当業者に既知の慣用的な技術を用いて取得され、該断片は、インタクト抗体の場合と同じ方法で利用のためにスクリーニングされる。
【0038】
また、抗原結合部分を単一ドメイン抗体、マキシボディ、ミニボディ、イントラボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、v-NARおよびビス-scFvに組み込むことができる(例えば、Hollinger and Hudson, 2005, Nature Biotechnology, 23, 9, 1126-1136を参照のこと)。抗体の抗原結合部分を、3型フィブロネクチン(Fn3)のようなポリペプチドに基づくスカホールドに移植することも可能である(例えば、米国特許第6,703,199号(フィブロネクチンポリペプチドモノボディを開示している))。
【0039】
抗原結合部分を、一組のタンデムFvセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む一本鎖分子に組み込むことができ、それは、相補性軽鎖ポリペプチドと共に、一組の抗原結合領域を形成する(Zapata et al., 1995 Protein Eng. 8(10):1057-1062; および米国特許第5,641,870号)。
【0040】
「抑制する」および「の発現を阻害する」なる用語は、それらが標的遺伝子、例えば、ヒトCES1を意味する限りにおいて、本明細書では、ヒトCES1遺伝子発現の少なくとも部分的な抑制を意味し、それは、第1細胞もしくは細胞群と実質的に同一であるが処理されていない第2細胞もしくは細胞群(コントロール細胞)と比較して、ヒトCES1遺伝子が転写されており、ヒトCES1遺伝子の発現が阻害されるように処理された第1細胞もしくは細胞群から単離され得るヒトCES1遺伝子から転写されるmRNA量の減少により示される。阻害の程度は、通常、下記で示される:
【数1】

【0041】
あるいは、阻害の程度は、ヒトCES1遺伝子転写と機能的に関連するパラメーター、例えば、細胞により分泌されるヒトCES1遺伝子によりコードされるタンパク質の量、または特定の表現型を示す細胞の数の減少の観点で提供され得る。一般に、ヒトCES1遺伝子の抑制は、任意の適当なアッセイにより、構成的に、もしくはゲノム改変により標的を発現する任意の細胞において決定され得る。
【0042】
本明細書で使用される単数形で記載された用語および本発明において使用される(とりわけ、特許請求の範囲において)類似の用語は、他に特記されていないか、または文脈上明確に矛盾するものではないとき、単数および複数の両方を含むものと解釈されるべきである。本明細書中の値の範囲の記載は、単に、該範囲内における各々別の値を意味する省略法として使用されることを意図する。他に特記されていないとき、各々の値は、本明細書中に個々に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載されるすべての方法は、他に特記されていないか、または文脈上明確に矛盾するものではないとき、任意の適当な順序で行われ得る。本明細書で使用される任意のおよびすべての実施例、または例示的な表現(例えば、「例えば」)の使用は、単に、本発明をよりよく例示することを意図するものであり、特許請求の範囲の発明の範囲に限定を加えるものではない。本明細書中の表現は、本発明の実施に重要な主張されていない任意の構成要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0043】
本発明は、マウスES1およびヒトCES1が、CADの発症および進行に影響を与える血漿中の全およびHDL-Cレベルを制御するという新規かつ驚くべき発見に基づくものである。特に、マウスES1もしくはヒトCES1の発現および/または活性の阻害は、血漿中の非HDLコレステロール(LDL + VLDLコレステロール)レベルを減少させ、HDL-Cレベルを増加させる。したがって、本発明の1つの局面は、マウスES1もしくはヒトCES1の発現もしくは活性を阻害、減少、もしくは遅延させる化合物、またはCADを処置する化合物を同定するための方法を提供する。本発明の他の局面は、CADの発症、進行もしくは退行をモニターするための、またはCADの処置における化合物の効果を評価するためのバイオマーカーとして、マウスES1もしくはヒトCES1の使用を提供する。
【0044】
スクリーニングアッセイ
1つの局面において、本発明は、カルボキシルエステラーゼ、例えば、マウスES1もしくはヒトCES1の活性を阻害するか、もしくはその発現を減少させ、それにより、血漿LDL-C/VLDL-Cのレベルを減少させ、および/またはHDL-Cの血漿レベルを増加させる化合物をスクリーニングする(同定する)方法を提供する。スクリーニングは、例えば、化合物をカルボキシルエステラーゼ、例えば、mES1もしくはhCES1を含む生物学的サンプルと接触させ、マウスES1もしくはヒトCES1のカルボキシルエステラーゼ活性についての化合物の効果をモニターするか、またはマウスES1もしくはヒトCES1の発現をモニターするか、またはサンプル中のHDL-C、LDL-CおよびVLDL-Cレベルについての化合物の効果をモニターすることにより行われ得る。カルボキシルエステラーゼ、例えば、マウスES1もしくはヒトCES1は、内因性もしくは外因性核酸分子(例えば、内因性遺伝子もしくは適当なリーディングフレームを含む外因性ベクター)、またはポリペプチド、またはその機能性断片の形態であり得る。
【0045】
血漿中の全リポタンパク質またはHDL-Cレベルを調節することについての化合物の効果は、例えば、マウスES1もしくはヒトCES1の活性を調節することによる。マウスES1およびヒトCES1の活性の調節は、下記を含むがこれらに限定されない: 1) HDLの分解からポリペプチドもしくはその機能性断片を保護すること、または予防すること; 2) マウスES1およびヒトCES1ポリペプチドもしくはその機能性断片を分解すること、またはその分解を誘導すること; 3) マウスES1およびヒトCES1ポリペプチドもしくはその機能性断片の生物学的活性を不活性化すること; 4) マウスES1およびヒトCES1核酸分子の発現を減少させること、または阻害すること; および5) マウスES1およびヒトCES1核酸分子を分解すること、または不安定化させること。
【0046】
HDLについての化合物の効果を決定するために、化合物を含まない対応サンプルをまた、コントロールとしてモニターする。次いで、処理および未処理サンプルを、顕微鏡解析、生存試験、複製能、組織学的解析、特定のRNAもしくはポリペプチドまたはその複合体のレベル、酵素学的活性のレベル、および細胞が他の細胞もしくは化合物と相互作用する能力などを含むがこれらに限定されない任意の適当な表現型基準により比較する。処理および未処理細胞間の差異は、化合物に起因する効果を示す。1つの態様において、少なくとも、約2%、約5%、約10%、約20%、約30%、約50%、約70%、約90%、約100%、約150%、約200%またはそれ以上まで、カルボキシルエステラーゼ活性を阻害するか、もしくはHDL-Cレベルを調節する化合物が同定され得る。スクリーニング法の工程は、下記を含む: 1) 化合物をHDLおよび適当なカルボキシルエステラーゼ、例えば、マウスES1もしくはヒトCES1を含む生物学的サンプルと接触させ; 2) 第1の生物学的サンプル中のHDLレベルを決定し; 3) 第2の生物学的サンプル中のHDLレベルを決定し(ここで、第2の生物学的サンプルは、化合物に曝露されていない); そして4) 2)からのHDLレベルが3)からのHDLレベルと比較して、例えば、1.5倍増加した化合物を選択すること。
【0047】
1つの態様において、スクリーニングアッセイは、無細胞アッセイであり、そこでは、HDLおよび適当なカルボキシルエステラーゼ、例えば、マウスES1もしくはヒトCES1を含む無細胞生物学的サンプルを化合物と接触させ、化合物が血漿中の全およびHDL-Cレベルを調節する能力を決定する。HDLレベルを測定する方法は、当分野で既知である(Sugiuchi et al., Clin. Chem., 41:717-723, 1995; Izawa et al., J. Med. Pharm. Sci., 37:1385-1388, 1997)。
【0048】
本明細書で使用される無細胞スクリーニングアッセイについて、適当なカルボキシルエステラーゼ、例えば、マウスES1もしくはヒトCES1ポリペプチドまたはその機能性断片は、生物学的サンプル自身に含まれるか、もしくは他の起源由来の生物学的サンプルに加えられ得る。例えば、ポリペプチドもしくはその機能性断片は、市販で利用可能であるか、または適当な生物学的起源、例えば、かなりの量の培養細胞から精製され得る。あるいは、該タンパク質は、適当な原核生物もしくは真核生物発現系中での発現により、単離遺伝子もしくはcDNAから組み換え的に産生され、その後、精製され得る(それはまた、当分野で既知である)。同様に、HDLは、生物学的サンプル自身に含まれるか、もしくは他の起源由来の生物学的サンプルに加えられ得る。HDLは、完全に単離されるか、または部分的に単離され得る。HDLを部分的もしくは完全に単離する方法は、当業者に既知である(Havel et al., J. Clin. Invest., 43:1345-1353, 1955; Navab et al., J. Clin. Invest., 99:2005-2019, 1997; Carroll and Rudel, J. Lipid Res., 24:200-207, 1983, McNamara et al., Clin. Chem., 40:233-239, 1994, Grauholt et al., Scandinavian J. Clin. Lab. Invest., 46:715-721, 1986; Warnick et al., Clin. Chem., 28:1379-1388, 1982; Talameh et al., Clin. Chimica Acta, 158:33-41, 1986)。
【0049】
他の態様において、スクリーニングアッセイは、インビボスクリーニングアッセイである。インビボスクリーニングアッセイは、動物内でHDLの分解を有効に阻害、減少、もしくは遅延させるか、またはHDL構成要素の産生に影響を与える化合物を発見する目的で、非ヒト動物において行われ得る。1つの例において、化合物は、所望により高脂肪食の後に、適当な時間、適当な用量で、非ヒト動物に投与されるがこれらに限定されない。次いで、動物から採血し、血漿リポタンパク質を単離し、HDLレベルを当分野で既知の方法により決定する。化合物で処理していない動物におけるHDLレベルと比較して、化合物で処理した動物におけるHDLレベルの増加は、化合物が、例えば、マウスES1もしくはヒトCES1の活性を阻害し、それにより、動物体内の血漿中の全リポタンパク質および/またはHDL-Cのレベルを調節していることを示す。好ましくは、増加は、少なくとも約1.5倍である。また好ましくは、化合物は、少なくとも、約10%、約20%、約30%、約50%、約70%、約90%、約100%、約150%、約200%またはそれ以上まで、動物内の全および/またはHDL-Cレベルを調節する。
【0050】
所望により、動物に投与される前に、化合物は、本明細書に記載された無細胞スクリーニングアッセイまたは細胞に基づくスクリーニングアッセイにより、プレスクリーニングされ得る。
【0051】
細胞に基づくスクリーニングアッセイは、適当なカルボキシルエステラーゼ、例えば、マウスES1もしくはヒトCES1、またはその機能性断片を発現する細胞を化合物と接触させ、カルボキシルエステラーゼ活性を調節する化合物の能力を決定する。カルボキシルエステラーゼ活性を調節する化合物の能力の決定は、適当な基質についてのカルボキシルエステラーゼの生物学的活性、例えば、触媒/酵素学的活性を評価すること、カルボキシルエステラーゼと結合するか、もしくはそれと相互作用する化合物の能力を評価すること、検出可能マーカーをコードする核酸と操作可能に結合したカルボキシルエステラーゼ応答エレメントを含むレポーター遺伝子の誘導を評価すること、または適当なカルボキシルエステラーゼ制御細胞応答、例えば、シグナル伝達もしくはタンパク質/タンパク質相互作用を評価することにより達成され得る。細胞は、哺乳類細胞、昆虫細胞、細菌細胞または酵母細胞などであり得る。
【0052】
本発明の他の局面は、上記スクリーニングアッセイから取得される化合物に関する。該化合物は、化学化合物、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、非免疫グロブリン結合スカホールドまたは抗体であり得る。
【0053】
抗体
1つの態様において、本発明は、抗体を用いることによりHDL核酸およびポリペプチドレベルを調節することに関する。抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、多特異的、ヒト、ヒト化、もしくはキメラ抗体、一本鎖抗体、Fab断片、Fv断片、F(ab')断片、Fab発現ライブラリーにより産生される断片、抗イディオタイプ(iodiotypic)抗体、または他のエピトープ結合ポリペプチドを含むが、これらに限定されない。本発明の抗体は、単一特異的、二重特異的、三重特異的またはそれ以上の多特異的であり得る。好ましくは、本発明においてマウスES1またはヒトCES1ポリペプチドの検出のために有用な抗体は、scFv、Fab、Fab'、F(ab')、Fd、Fvの一本鎖抗体を含むヒト抗体またはその断片である。本発明において有用な抗体は、完全重鎖もしくは軽鎖定常領域またはその部分を含むか、またはそれを含まないものを含み得る。1つの態様において、本発明において有用な抗体は、ヒト抗体により近似させるためにアミノ酸が非抗原結合領域において置換されているが、なお、独自の結合能力を保持するヒト化抗体を含み得る。ヒト化抗体を作製する方法は、当分野で既知である(Teng et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80:7308-7312, 1983; Kozbor et al., Immunology Today, 4:7279, 1983; Olsson et al., Meth. Enzymol., 92:3-16, 1982; WO 92/06193; およびEP 0239400)。
【0054】
ある態様において、他の抗CES1結合分子を作製するために、CES1ポリペプチドに結合する抗体の抗原結合部分(例えば、VHおよびVL鎖)を「混合させ、適合させる」ことができる。そのような「混合させ、適合させた」抗体の結合は、結合アッセイ(例えば、ELISA)を用いて試験され得る。特定のVL配列と混合され、適合するVHを選択するとき、典型的には、VLとの対でそれが置換されるVHと構造的に類似したVHを選択する。同様に、特定の全長重鎖/全長軽鎖対からの全長重鎖配列は、構造的に類似した全長重鎖配列で置換され得る。同様に、特定のVH/VL対からのVL配列は、構造的に類似したVL配列で置換され得る。同様に、特定の全長重鎖/全長軽鎖対からの全長軽鎖配列は、構造的に類似した全長軽鎖配列で置換され得る。これに関連して構造類似性を同定することは、当分野で既知の方法である。
【0055】
ヒト抗体は、抗体の可変領域もしくは全長鎖が、該配列の起源としてヒト生殖細胞系列免疫グロブリン遺伝子を使用する系から得られるとき、特定の生殖細胞系列配列「の産物」もしくはそれ「に由来する」重鎖もしくは軽鎖可変領域または全長重鎖もしくは軽鎖を含む。1つのそのような系では、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子を有するトランスジェニックマウスで作製される。トランスジェニックマウスを興味のある抗原(例えば、CES1ポリペプチドのエピトープ)で免疫する。
【0056】
ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列「の産物」もしくはそれ「に由来する」ヒト抗体は、ヒト抗体のアミノ酸配列をヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列と比較し、ヒト抗体の配列と配列が最も近いヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列(すなわち、最大%同一性)を選択することによりそれ自体同定され得る。特定のヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列「の産物」もしくはそれ「に由来する」ヒト抗体は、生殖細胞系列コード配列と比較してアミノ酸差異を含み得て、それは、例えば、自然発生的な体細胞突然変異または人工的な部位特異的突然変異によるものである。しかしながら、選択されたヒト抗体は、典型的には、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン遺伝子によりコードされたアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸を有し、他の種の生殖細胞系列免疫グロブリンアミノ酸配列(例えば、マウス生殖細胞系列配列)と比較して、ヒト抗体がヒトであることを同定するためのアミノ酸残基を含む。ある場合には、ヒト抗体のアミノ酸配列は、生殖細胞系列免疫グロブリン遺伝子によりコードされるアミノ酸配列と、少なくとも、60%、70%、80%、90%、または少なくとも、95%、またはさらに少なくとも、96%、97%、98%、または99%同一であり得る。
【0057】
ラクダ抗体
新世界(New World)メンバー、例えば、ラマ種(Lama paccos、Lama glamaおよびLama vicugna)を含む、ラクダおよびヒトコブラクダ(Camelus bactrianusおよびCalelus dromaderius)ファミリーのメンバーから得られた抗体タンパク質は、サイズ、構造複雑性およびヒトに対する免疫原性について特徴づけられている。哺乳類のこのファミリーにおいて実際に見出された特定のIgG抗体は、軽鎖を欠いており、したがって、他の動物由来の抗体に典型的な2個の重鎖および2個の軽鎖を有する4個の鎖の四次構造とは構造的に異なる。WO 94/04678を参照のこと。
【0058】
VHHとして同定された小さな単一可変ドメインであるラクダ抗体の領域は、遺伝学的な改変により得ることができ、標的についての高い親和性を有する小さなタンパク質を産生し、その結果、「ラクダ抗体」として既知の低分子量抗体由来タンパク質を生じる。米国特許第5,759,808号を参照; また、Stijlemans et al., 2004 J. Biol. Chem. 279: 1256-1261; Dumoulin et al., 2003 Nature 424: 783-788; Pleschberger et al., 2003 Bioconjugate Chem. 14: 440-448; Cortez-Retamozo et al., 2002 Int. J. Cancer 89: 456-62; およびLauwereys. et al., 1998 EMBO J. 17: 3512-3520を参照のこと。ラクダ抗体および抗体断片の改変ライブラリーは、例えば、Ablynx, Ghent, Belgiumから市販で入手可能である。非ヒト起源の他の抗体に関して、ラクダ抗体のアミノ酸配列を組み換え的に改変し、よりヒト配列に類似した配列を得ることができる(すなわち、ナノボディを「ヒト化」し得る)。したがって、ラクダ抗体のヒトに対する本来の低抗原性をさらに減少させ得る。
【0059】
ラクダナノボディは、ヒトIgG分子の約10分の1の分子量を有し、該タンパク質は、わずか数ナノメーターの物理的直径を有する。小サイズの1つの結果は、より大きな抗体タンパク質には機能的に認識されない抗原性部位に結合することが可能なラクダナノボディの能力であり、それはすなわち、ラクダナノボディが、古典的な免疫学的技術を用いて、別に隠れている抗原を検出する試薬として、および有望な治療剤として有用であることを示す。したがって、また他の小サイズにより生み出される結果は、ラクダナノボディが、標的タンパク質の溝もしくは狭い裂け目内の特定の部位に結合する結果としてそれを阻害し、それにより、古典的抗体の機能よりも古典的低分子量薬剤の機能により近似した能力をもって作用することである。
【0060】
さらに、低分子量およびコンパクトなサイズにより、ラクダナノボディは、極端に熱安定性であり、過激なpHおよびタンパク質分解消化に対して安定であり、抗原性がほとんどない。他の結果は、ラクダナノボディが、循環系から組織へ、さらに血液脳関門を越えて容易に移動し、神経組織に影響を与える傷害を処置し得ることである。ナノボディはさらに、血液脳関門を越えての薬剤輸送を促進する。2004年8月19日に公開された米国特許第20040161738号を参照のこと。ヒトでの弱い抗原性と合わせたこれらの特徴は、多大な治療可能性を示す。さらに、これらの分子は、E. coliのような原核細胞で十分に発現し得る。ラクダ抗体はまた、本発明の範囲内に含まれる。したがって、本発明の特徴の1つは、CES1ポリペプチドに対して高い親和性を有するラクダ抗体またはラクダナノボディである。
【0061】
ダイアボディ
ダイアボディは、VHおよびVLドメインがリンカーにより結合された単一ポリペプチド鎖上で発現する二価の二重特異性分子であり、それは、極めて短いため、同じ鎖上の2つのドメイン間で対を形成しない。VHおよびVLドメインは、他の鎖の相補性ドメインと対を形成し、それにより、2個の抗原結合部位を産生する(例えば、Holliger et al., 1993 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448; Poljak et al., 1994 Structure 2:1121-1123を参照)。ダイアボディは、同じ細胞内で、構造VHA-VLBおよびVHB-VLA (VH-VL構造)、またはVLA-VHBおよびVLB-VHA (VL-VH構造)を有する2個のポリペプチド鎖を発現させることにより作製され得る。それらの多くは、細菌中に可溶形で発現し得る。
【0062】
一本鎖ダイアボディ(scDb)は、2個のダイアボディ形成ポリペプチド鎖を約15個のアミノ酸残基のリンカーで連結させることにより産生する(Holliger and Winter, 1997 Cancer Immunol. Immunother., 45(3-4):128-30; Wu et al., 1996 Immunotechnology, 2(1):21-36を参照)。scDbは、細菌中に可溶性単量体形で発現させることができる(Holliger and Winter, 1997 Cancer Immunol. Immunother., 45(34): 128-30; Wu et al., 1996 Immunotechnology, 2(1):21-36; Pluckthun and Pack, 1997 Immunotechnology, 3(2): 83-105; Ridgway et al., 1996 Protein Eng., 9(7):617-21を参照)。ダイアボディをFcと融合させ、「ジダイアボディ」を作製することも可能である(Lu et al., 2004 J. Biol. Chem., 279(4):2856-65を参照)。
【0063】
改変および修飾化抗体
本発明の抗体は、修飾化抗体を改変するために、出発物質として1個またはそれ以上のVHおよび/またはVL配列を有する抗体を用いて作製され得て、修飾化抗体は、出発抗体からの改変された特性を有し得る。抗体は、1個もしくは2個の可変領域(すなわち、VHおよび/またはVL)内の、例えば、1個もしくはそれ以上のCDR領域内の、および/または1個もしくはそれ以上のフレームワーク領域内の1個もしくはそれ以上の残基を修飾することにより改変され得る。あるいは、抗体は、定常領域内の残基を修飾することにより改変され得て、例えば、抗体のエフェクター機能を改変し得る。
【0064】
行われ得る可変領域改変の1つの型は、CDR移植である。抗体は、主に、6個の重鎖および軽鎖CDRに位置するアミノ酸残基を介して標的抗原と相互作用する。このために、CDR内のアミノ酸配列は、CDRの外側の配列よりも個々の抗体間でより多様性がある。CDR配列は、抗体-抗原相互作用に最も関与しているので、異なる特性を有する異なる抗体由来のフレームワーク配列に移植された特定の自然発生的な抗体由来のCDR配列を含む発現ベクターを構築することにより、特定の自然発生的な抗体の特性を模倣する組み換え抗体を発現させることが可能である(例えば、Riechmann et al., 1998 Nature 332:323-327; Jones et al., 1986 Nature 321:522-525; Queen et al., 1989 Proc. Natl. Acad. See. U.S.A. 86:10029-10033; 米国特許第5,225,539号、ならびに米国特許第5,530,101号; 第5,585,089号; 第5,693,762号および第6,180,370号を参照のこと)。
【0065】
フレームワーク配列は、公のDNAデータベースまたは公開された文献から取得され得て、生殖細胞系列抗体遺伝子配列を含む。例えば、ヒト重鎖および軽鎖可変領域遺伝子についての生殖細胞系列DNA配列は、“VBase”ヒト生殖細胞系列配列データベース(www.mrc- cpe.cam.ac.uk/vbaseでインターネットで利用可能である)、およびKabat et al., 1991 Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242; Tomlinson et al., 1992 J. Mol. Biol. 227:776-798; and Cox et al., 1994 Eur. J. Immunol. 24:827-836において見出され得る(その各々の内容は、引用により本明細書の一部とする)。
【0066】
VH CDR1、2および3配列ならびにVL CDR1、2および3配列は、フレームワーク配列が由来する生殖細胞系列免疫グロブリン遺伝子において見出されたものと同一の配列を有するフレームワーク領域に移植されるか、またはCDR配列は、生殖細胞系列配列と比較して1個またはそれ以上の突然変異を含むフレームワーク領域に移植され得る。例えば、特定の例において、抗体の抗原結合能力を維持するか、もしくは高めるために、フレームワーク領域内の残基を突然変異させることが有益であることが見出された(例えば、米国特許第5,530,101号; 第5,585,089号; 第5,693,762号および第6,180,370号を参照のこと)。
【0067】
CDRはまた、免疫グロブリン以外のポリペプチドのフレームワーク領域に移植され得る。適当なスカホールドは、移植残基を提示する構造的に安定なフレームワークを形成し、それにより、それらは、局在化した表面を形成し、興味のある標的に結合する。例えば、CDRは、スカホールドに移植され得て、そこでは、フレームワーク領域は、フィブロネクチン、アンキリン、リポカリン、ネオカルジノスタチン、シトクロームb、CP1ジンクフィンガー、PST1、コイルドコイル、LACI-D1、Zドメインまたはテンドラミサト(tendramisat) (例えば、Nygren and Uhlen, 1997 Current Opinion in Structural Biology, 7, 463-469を参照)に基づく。
【0068】
他の型の可変領域修飾は、VHおよび/またはVL CDR1、CDR2および/またはCDR3領域内のアミノ酸残基の突然変異であり、それにより、興味のある抗体の1個またはそれ以上の結合特性(例えば、親和性)を改善する(“親和性成熟”として既知である)。部位特異的突然変異誘発またはPCR仲介突然変異誘発を、突然変異を導入するために行い得て、抗体結合または興味のある他の機能的特性についての効果を、本明細書に記載したインビトロもしくはインビボアッセイで評価することができる。保存的修飾を導入することも可能である。突然変異は、アミノ酸置換、付加または欠失であり得る。さらに、典型的には、CDR領域内の1、2、3、4もしくは5個の残基のみが改変される。
【0069】
本発明の改変抗体は、修飾が、例えば、抗体の特性を改善するために、VHおよび/またはVL内のフレームワーク残基で為されたものを含む。典型的には、そのようなフレームワーク修飾は、抗体の免疫原性を減少させるために行われる。例えば、1つの方法は、1個またはそれ以上のフレームワーク残基を対応する生殖細胞系列配列に“復帰突然変異させる”ことである。とりわけ、体細胞突然変異を受けた抗体は、抗体が由来する生殖細胞系列配列とは異なるフレームワーク残基を含み得る。そのような残基は、抗体フレームワーク配列を抗体が由来する生殖細胞系列配列と比較することにより同定され得る。フレームワーク配列をそれらの生殖細胞系列構造に戻すために、体細胞突然変異を、例えば、部位特異的突然変異誘発またはPCR仲介突然変異誘発により、生殖細胞系列配列に“復帰突然変異させ”得る。そのような“復帰突然変異”抗体はまた、本発明に包含されることを意図する。
【0070】
フレームワーク修飾の他の型は、フレームワーク領域内の、またはさらに1個もしくはそれ以上のCDR領域内の1個もしくはそれ以上の残基を突然変異させることを含み、T細胞-エピトープを除去し、それにより、抗体の潜在的な免疫原性を減少させる。この方法はまた、“脱免疫化”と呼ばれ、さらに、Carr等による米国特許第20030153043号に詳述されている。
【0071】
フレームワークまたはCDR領域内において為される修飾に加えて、本発明の抗体は、Fc領域内の修飾を含むように改変され得て、典型的には、1個またはそれ以上の抗体の機能的特性、例えば、血清半減期、補体固定、Fc受容体結合、および/または抗原依存性細胞毒性を変えることができる。さらに、本発明の抗体は、化学的に修飾され得る(例えば、1個またはそれ以上の化学的部分を抗体に結合させ得る)か、またはその糖修飾を変えるように、さらに1個またはそれ以上の抗体の機能的特性を変えるように修飾され得る。
【0072】
1つの態様において、CH1のヒンジ領域が修飾され、ヒンジ領域における多くのシステイン残基が改変される(例えば、増加または減少)。この方法は、さらに、Bodmer等による米国特許出願第5,677,425号に記載されている。CH1のヒンジ領域における多くのシステイン残基が、例えば、軽鎖および重鎖の構築を促進するように、または抗体の安定性を増加もしくは減少させるために改変される。
【0073】
他の態様において、抗体のFcヒンジ領域を、抗体の生物学的半減期を減少させるように突然変異させる。とりわけ、1個またはそれ以上のアミノ酸突然変異を、Fc-ヒンジ断片のCH2-CH3ドメインインターフェース領域に導入し、その結果、該抗体は、天然のFc-ヒンジドメインブドウ球菌タンパク質A (SpA)結合と比較してSpA結合を減少させた。この方法は、Ward等による米国特許第6,165,745号にさらに詳述されている。
【0074】
他の態様において、抗体は、その生物学的半減期を増加させるように修飾される。さまざまな方法が可能である。例えば、米国特許第6,277,375号は、インビボでのその半減基を増加させるIgGにおける下記の突然変異を開示している: T252L、T254S、T256F。あるいは、Presta et al.による米国特許第5,869,046号および第6,121,022号に記載されたとおり、生物学的半減期を増加させるために、抗体をIgGのFc領域のCH2ドメインの2つのループから得られるサルベージ受容体結合エピトープを含むように、CH1もしくはCL領域内で改変し得る。
【0075】
また他の態様において、Fc領域は、少なくとも1個のアミノ酸残基を異なるアミノ酸残基で置換することにより改変され、抗体のエフェクター機能を改変する。例えば、1個またはそれ以上のアミノ酸を異なるアミノ酸残基で置換することができ、その結果、該抗体は、エフェクターリガンドについての改変された親和性を有するが、親抗体の抗原結合能力を保持する。親和性が改変されるエフェクターリガンドは、例えば、Fc受容体または補体のC1成分であり得る。この方法は、Winter等による米国特許第5,624,821号および第5,648,260号にさらに詳述されている。
【0076】
他の態様において、アミノ酸残基から選択される1個またはそれ以上のアミノ酸が異なるアミノ酸残基で置換され得て、その結果、該抗体は、改変されたC1q結合および/または減少するか、もしくは消失した補体依存性細胞障害(CDC)を有する。この方法は、Idusogie等による米国特許第6,194,551号にさらに詳述されている。
【0077】
他の態様において、1個またはそれ以上のアミノ酸残基が改変され、それにより、補体を固定する抗体の能力が改変される。この方法は、Bodmer等によるWO 94/29351にさらに記載されている。
【0078】
また他の態様において、Fc領域は、1個またはそれ以上のアミノ酸を修飾することにより、抗体依存性細胞毒性(ADCC)を仲介する抗体の能力を増加させるために、および/またはFcγ受容体についての抗体の親和性を増加させるために修飾される。この方法は、PrestaによるWO 00/42072にさらに記載されている。さらに、FcγRl、FcγRII、FcγRIIIおよびFcRnのためのヒトIgG1上の結合部位がマッピングされ、改善された結合を有する変異型が記載されている(Shields, R.L. et al., 2001 J. Biol. Chem. 276:6591-6604を参照のこと)。
【0079】
また他の態様において、抗体の糖修飾が修飾される。例えば、無糖抗体(すなわち、抗体は、糖修飾を欠損している)が作製され得る。糖修飾は、例えば、抗原についての抗体の親和性を増加させるように改変され得る。そのような糖修飾は、例えば、抗体配列内の1個またはそれ以上の糖修飾部位を改変することにより達成され得る。例えば、1個またはそれ以上のアミノ酸置換を行うことができ、その結果、1個またはそれ以上の可変領域フレームワーク糖修飾部位の除去、それによる該部位での糖修飾の除去を生じる。そのような糖修飾は、抗原についての抗体の親和性を増加させ得る。そのような方法は、Co等による米国特許第5,714,350号および第6,350,861号にさらに記載されている。
【0080】
さらにまたは、糖修飾の改変型を有する抗体、例えば、減少した量のフコシル残基を有する低フコシル化抗体または増加したバイセクティングGlcNac構造を有する抗体が作製され得る。そのような改変糖修飾パターンは、抗体のADCC能を増大させることが証明されている。そのような糖修飾は、例えば、改変糖修飾機構を有する宿主細胞中で抗体を発現させることにより達成され得る。改変糖修飾機構を有する細胞は、当分野で既知であり、本発明の組み換え抗体を発現し、その結果、改変糖修飾を有する抗体を産生する宿主細胞として使用され得る。例えば、Hang等によるEP 1,176,195は、フコシルトランスフェラーゼをコードする機能的に破壊されたFUT8遺伝子を有する細胞株を開示しており、その結果、そのような細胞株で発現する抗体は、低フコシル化を示す。PrestaによるPCT国際公開WO 03/035835は、フコースをAsn(297)結合糖鎖に結合させることに関して減少した能力を有する変異型CHO細胞株、Lecl3細胞を開示しており、それはまた、該宿主細胞内で発現する抗体の低フコシル化を生じる(また、Shields, R.L. et al., 2002 J. Biol. Chem. 277:26733-26740を参照のこと)。Umana等によるWO 99/54342は、糖タンパク質修飾グリコシルトランスフェラーゼ(例えば、β(1,4)-N アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII (GnTIII))を発現するように改変された細胞株を開示しており、そこでは、改変細胞株で発現した抗体は、増加したバイセクティングGlcNac構造を示し、それは、抗体の増加したADCC活性を生じる(また、Umana et al., 1999 Nat. Biotech. 17:176-180を参照のこと)。
【0081】
本発明により意図される本明細書中の抗体の他の修飾は、ペグ化である。例えば、抗体の生物学的(例えば、血清)半減期を増大させるために抗体をペグ化し得る。抗体をペグ化するために、抗体またはその断片を、典型的には、ポリエチレングリコール(PEG)、例えば、PEGの反応性エステルもしくはアルデヒド誘導体と、1個またはそれ以上のPEG部分が抗体または抗体断片と結合する条件下で反応させる。ペグ化は、反応性PEG分子(または類似の反応性水可溶性ポリマー)を用いて、アシル化反応またはアルキル化反応により行われ得る。本明細書で使用される「ポリエチレングリコール」なる用語は、他のタンパク質を誘導体化するのに使用されるPEGの任意の形態、例えば、モノ(C1-C10)アルコキシ-もしくはアリールオキシ-ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール-マレイミドを包含することを意図する。特定の態様において、ペグ化される抗体は、無糖抗体である。タンパク質をペグ化する方法は、当分野で既知であり、本発明の抗体に適用され得る。例えば、Nishimura等によるEP 0 154 316およびIshikawa等によるEP 0 401 384を参照のこと。
【0082】
さらにペグ化は、非天然アミノ酸の導入により、抗体の任意の部分で達成され得る。特定の非天然アミノ酸は、Deiters et al., J Am Chem Soc 125:11782-11783, 2003; Wang and Schultz, Science 301:964-967, 2003; Wang et al., Science 292:498-500, 2001; Zhang et al., Science 303:371-373, 2004または米国特許出願第7,083,970号に記載された技術により導入され得る。簡潔には、これらの発現系のいくつかは、ナンセンスコドン、例えば、アンバーTAGを、本発明のポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームに導入するための部位特異的突然変異誘発を含む。次いで、そのような発現ベクターを、導入したナンセンスコドンに特異的なtRNAを利用することができる宿主に導入し、最適な非天然アミノ酸でチャージする。部分を本発明のポリペプチドに結合させる目的のために有益な特定の非天然アミノ酸は、アセチレンおよびアジド側鎖を有するものを含む。次いで、これらの新規アミノ酸を含むポリペプチドを、タンパク質中の選択された部位でペグ化し得る。
【0083】
抗体を改変する方法
抗体は、全長重鎖および/または軽鎖配列、VHおよび/またはVL配列、またはそれに結合した定常領域を修飾することにより新規抗体を作製するために修飾され得る。例えば、抗体の1個またはそれ以上のCDR領域を、既知のフレームワーク領域および/または他のCDRと組み換え的に結合させ、新規組み換え改変抗体を作製し得る。改変法のための出発物質は、1個またはそれ以上のVHおよび/またはVL配列、または1個またはそれ以上のそのCDR領域である。改変抗体を作製するために、実際に、1個またはそれ以上のVHおよび/またはVL配列、または1個またはそれ以上のそのCDR領域を有する抗体を作製する(すなわち、タンパク質として発現させる)必要はない。むしろ、配列中に含まれる情報を出発物質として使用して、元の配列に由来する“第2世代”配列を作製し、次いで、該“第2世代”配列をタンパク質として作製および発現させる。
【0084】
標準的な分子生物学的手法が、改変抗体配列を作製し、発現させるために使用され得る。改変抗体配列によりコードされる抗体は、それが由来する望まれる機能特性の1つ、いくつか、もしくは全部を保持する抗体である。改変抗体の機能特性は、当分野で利用可能なおよび/または本明細書に記載された標準的なアッセイ(例えば、ELISA)を用いて評価され得る。
【0085】
本発明の抗体を改変する方法の特定の態様において、突然変異を、抗体コード配列の全部もしくは一部に沿って、無作為にもしくは選択的に導入することができる。例えば、ShortによるPCT Pub. WO 02/092780は、飽和突然変異誘発、合成ライゲーションアセンブリー、またはその組み合わせを用いた抗体突然変異の作製およびスクリーニング法を開示している。あるいは、Lazar等によるWO 03/074679は、抗体の物理化学的特性を最適化するためにコンピューターによるスクリーニング法を用いた方法を開示している。
【0086】
非抗体結合分子
本発明はさらに、抗体の機能的特性を示すが、それらのフレームワークおよび抗原結合部分を他のポリペプチド(例えば、抗体遺伝子によりコードされたもの、もしくはインビボで抗体遺伝子の組み換えにより作製されたもの以外のポリペプチド)から得る結合分子を提供する。これらの結合分子の抗原結合ドメインは、定方向進化過程を通して生じる。米国特許第7,115,396号を参照のこと。抗体の可変ドメインのフォールドに類似する全体のフォールド(「免疫グロブリン様」フォールド)を有する分子は、適当なスカホールドタンパク質である。抗原結合分子を得るための適当なスカホールドタンパク質は、フィブロネクチンもしくはフィブロネクチン二量体、テネイシン、N-カドヘリン、E-カドヘリン、ICAM、チチン、GCSF-受容体、サイトカイン受容体、グリコシダーゼ阻害剤、抗生物質色素タンパク質、ミエリン膜接着分子P0、CD8、CD4、CD2、MHCクラスI、T-細胞抗原受容体、CD1、C2およびVCAM-1のI-セットドメイン、ミオシン結合タンパク質CのI-セット免疫グロブリンドメイン、ミオシン結合タンパク質HのI-セット免疫グロブリンドメイン、テロキンのI-セット免疫グロブリンドメイン、NCAM、トゥイッチン、ニューログリアン、成長ホルモン受容体、エリスロポエチン受容体、プロラクチン受容体、インターフェロンγ受容体、β-ガラクトシダーゼ/グルクロニダーゼ、β-グルクロニダーゼ、トランスグルタミナーゼ、T細胞抗原受容体、スーパーオキシドジスムターゼ、組織因子ドメイン、シトクロームF、緑色蛍光タンパク質、GroELならびにタウマチンを含む。
【0087】
非抗体結合分子の抗原結合ドメイン(例えば、免疫グロブリン様フォールド)は、7.5 kDより大きく、10 kDより小さい分子量(例えば、7.5-10 kDの分子量)を有する。抗原結合ドメインを得るために使用されるタンパク質は、天然に生じるほ乳類タンパク質(例えば、ヒトタンパク質)であり、抗原結合ドメインは、それが由来するタンパク質の免疫グロブリン様フォールドと比較して、50%まで(例えば、34%、25%、20%、または15%まで)の突然変異アミノ酸を含む。免疫グロブリン様フォールドを有するドメインは、一般に、50-150個のアミノ酸(例えば、40-60個のアミノ酸)からなる。
【0088】
非抗体結合分子を作製するために、抗原結合表面を形成するスカホールドタンパク質の領域(例えば、抗体可変領域ドメイン免疫グロブリンフォールドのCDRと位置および構造が類似した領域)の配列が無作為化されたクローンライブラリーを作製する。ライブラリークローンを、興味のある抗原への特異的結合について、および他の機能について試験する。選択されたクローンを、さらなる無作為化および選択のための基礎として使用し、抗原についてのより高い親和性を有する誘導体を産生し得る。
【0089】
高親和性結合分子は、例えば、スカホールドとして、フィブロネクチンIIIの10番目のモジュール(10Fn3)を用いて作製される。ライブラリーを、10FN3の23-29、52-55、および78-87残基にある3つのCDR様ループの各々について構築する。各ライブラリーを構築するために、各CDR様領域に重複するDNA断片コード配列を、オリゴヌクレオチド合成により無作為化する。選択可能な10Fn3ライブラリーを産生するための技術は、米国特許第6,818,418号および第7,115,396号; Roberts and Szostak, 1997 Proc. Natl. Acad. Sci USA 94:12297; 米国特許第6,261,804号; 米国特許第6,258,558号; およびSzostak等によるWO98/31700に記載されている。
【0090】
非抗体結合分子は、標的抗原についての結合活性を増大させるために、二量体または多量体として作製され得る。例えば、抗原結合ドメインは、抗体の定常領域(Fc)との融合として発現させ、Fc-Fc二量体を形成する。例えば、米国特許第7,115,396号を参照のこと。
【0091】
RNA干渉
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的一次転写産物(未加工転写産物)もしくはmRNAの全部または一部に相補的であり、標的遺伝子の発現を妨害するポリヌクレオチドを意味する(米国特許第5,107,065号; WO 9928508)。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、特定の遺伝子転写産物の任意の部分、例えば、5'非コード配列、3'非コード配列、またはコード配列と相補的であり得る。
【0092】
siRNAは、二本鎖のうちのいずれかのRNA鎖と相同なmRNA配列を分解するように作用し、細胞内、例えば、哺乳類細胞(ヒト細胞を含む)内で、および体内、例えば、哺乳類(ヒトを含む)体内で特定の遺伝子の転写後抑制を引き起こすことが可能な低分子干渉RNAを意味する。RNA干渉の現象は、当分野で既知である(Bass, Nature, 411:428-29, 2001; Elbahir et al., Nature, 411:494- 98, 2001; Fire et al., Nature, 391:806-11, 1998; およびWO 01/75164)。本明細書に開示された遺伝子産物をコードする配列および核酸に基づくsiRNAは、一般に、100塩基対未満の長さを有し、例えば、30 bpまたはそれ以下の長さであり得て、当分野で既知の方法(相補的DNA鎖もしくは合成法の使用を含む)により作製され得る。siRNAは、干渉を引き起こすことができ、細胞内、例えば、哺乳類細胞(ヒト細胞を含む)内で、および体内、例えば、哺乳類(ヒトを含む)体内で特定の遺伝子の転写後抑制を生じ得る。例えば、本発明によるsiRNAは、29 bps、25 bps、22 bps、21 bps、20 bps、15 bps、10 bps、5 bpsまたはそれらとほぼ同じくらいの、もしくはその間の任意の整数を有し得る。最適な阻害性siRNAを設計するためのツールは、DNAengine Inc. (Seattle, Wash.)およびAmbion, Inc. (Austin, Tex.)から利用可能なものを含む。
【0093】
二本鎖リボ核酸(dsRNA)分子がまた、細胞内または哺乳類内での標的遺伝子(例えば、hCES1)の発現を阻害するために使用され得て、ここで、dsRNAは、標的遺伝子の発現において形成されるmRNAの少なくとも一部と相補的な相補性領域を含むアンチセンス鎖を含み、相補性領域は、30ヌクレオチド長未満、一般には、19-24ヌクレオチド長未満であり、該dsRNAは、標的遺伝子を発現する細胞と接触すると、少なくとも、10%、25%、または40%まで標的遺伝子の発現を阻害する。
【0094】
dsRNAは、ハイブリダイズして二本鎖構造を形成するのに十分に相補的である2個のRNA鎖を含む。dsRNAの一方の鎖(アンチセンス鎖)は、標的遺伝子の発現の間に形成されるmRNAの配列に由来する標的配列と実質的に相補的であるか、もしくは一般に、完全に相補的である相補性領域を含み、他方の鎖(センス鎖)は、アンチセンス鎖に相補的な領域を含み、その結果、2個の鎖は、適当な条件下で混合されると、ハイブリダイズして二本鎖を形成する。一般に、二本鎖構造は、15〜30塩基対長、より一般には、18〜25塩基対長、さらにより一般には、19〜24塩基対長、最も一般には、19〜21塩基対長である。同様に、標的配列に相補的な領域は、15〜30ヌクレオチド長、より一般には、18〜25ヌクレオチド長、さらにより一般には、19〜24ヌクレオチド長、最も一般には、19〜21ヌクレオチド長である。本発明のdsRNAはさらに、1個またはそれ以上の一本鎖ヌクレオチドオーバーハングを含み得る。dsRNAは、例えば、Biosearch, Applied Biosystems, Inc.から市販で入手可能な、例えば、自動DNA合成機の使用により、当業者に既知の標準的な方法を用いて合成され得る。
【0095】
当業者は、20〜23塩基対、特に、21塩基対の二本鎖構造を含むdsRNAが、RNA干渉を誘導するのに特に効果的なものとして推奨されることを十分に認識している(Elbashir et al., EMBO 2001, 20:6877-6888)。
【0096】
また他の態様において、dsRNAは、安定性を高めるために化学的に修飾される。本発明の核酸は、当分野で十分に確立された方法、例えば、“Current protocols in nucleic acid chemistry”, Beaucage, S.L. et al. (Edrs.), John Wiley & Sons, Inc., New York, NY, USAに記載された方法により合成および/または修飾され得て、それは、引用により、本明細書の一部とする。化学的修飾は、2'修飾、オリゴヌクレオチドの糖もしくは塩基の他の部位における修飾、非天然塩基のオリゴヌクレオチド鎖への導入、リガンドもしくは化学的部分との共有結合、およびヌクレオチド間におけるリン酸結合の別の結合、例えば、チオリン酸への置換を含み得るが、これらに限定されない。2個以上のそのような方法が使用され得る。
【0097】
2個の別々のdsRNA鎖の化学結合は、さまざまな既知の技術、例えば、共有、イオンもしくは水素結合; 疎水性相互作用、ファンデルワールス力もしくはスタッキング相互作用を導入することにより、金属イオン配位の手段により、またはプリン類似体の使用を介して達成され得る。一般に、dsRNAを修飾するために使用され得る化学基は、メチレンブルー; 二官能性基、一般に、ビス-(2-クロロエチル)アミン; N-アセチル-N'-(p-グリオキシルベンゾイル)シスタミン; 4-チオウラシル; およびソラレンを含むが、これらに限定されない。1つの態様において、リンカーは、ヘキサ-エチレングリコールリンカーである。この場合に、dsRNAは、固相合成により産生され、ヘキサ-エチレングリコールリンカーは、標準的な方法に基づいて組み込まれる(例えば、Williams, D.J., and K.B. Hall, Biochem. (1996) 35:14665-14670)。特定の態様において、アンチセンス鎖の5'末端およびセンス鎖の3'末端は、ヘキサエチレングリコールリンカーにより化学的に結合され得る。他の態様において、dsRNAの少なくとも1個のヌクレオチドは、ホスホロチオエートまたはホスホロジチオエート基を含む。dsRNAの末端における化学結合は、一般に、三重螺旋結合により形成される。
【0098】
また他の態様において、2個の一本鎖のうちの一方もしくは両方のヌクレオチドは、細胞酵素、例えば、特定のヌクレアーゼ(これに限定されない)の分解活性を妨害するか、もしくは阻害するように修飾され得る。核酸に対する細胞酵素の分解活性を阻害する技術は、当分野で既知であり、2'-アミノ修飾、2'-アミノ糖修飾、2'-F糖修飾、2'-F修飾、2'-アルキル糖修飾、非荷電骨格修飾、モルホリノ修飾、2'-O-メチル修飾、およびホスホロアミデートを含むが、これらに限定されない(例えば、Wagner, Nat. Med. (1995) 1:1116-8を参照のこと)。したがって、dsRNA上のヌクレオチドの少なくとも1個の2'-ヒドロキシル基は、化学基で、一般には、2'-アミノもしくは2'-メチル基で置換される。また、少なくとも1個のヌクレオチドは、ロックトヌクレオチドを形成するように修飾され得る。そのようなロックトヌクレオチドは、リボースの2'-酸素とリボースの4'-炭素を繋ぐメチレン架橋を含む。ロックトヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドは、Koshkin, A.A., et al., Tetrahedron (1998), 54: 3607-3630)およびObika, S. et al., Tetrahedron Lett. (1998), 39: 5401-5404)に記載されている。ロックトヌクレオチドのオリゴヌクレオチドへの導入は、相補性配列のための親和性を改善し、ある程度まで融点を増加させる(Braasch, D.A. and D.R. Corey, Chem. Biol. (2001), 8:1-7)。
【0099】
バイオマーカーとしてのmES1またはhCES1の使用
1つの局面において、差異的に発現するマウスのES1もしくはヒトCES1遺伝子の発現レベルは、正常細胞およびCAD細胞ならびに/または組織において決定される。1つの態様において、遺伝子の発現レベルを決定する方法は、任意の有効な順序で、1個またはそれ以上の下記の工程を含み得て、例えば、ポリヌクレオチドプローブが生物学的サンプル中のマウスES1もしくはヒトCES1核酸分子と特異的にハイブリダイズするのに有効な条件下で、該ポリヌクレオチドを該サンプルと接触させ、該サンプル中のマウスES1もしくはヒトCES1マーカー遺伝子の存在もしくは非存在を検出する方法を含む。異なる、関連する多型を含む特定のアレルも検出される。
【0100】
1つの態様にいて、プローブは、正常細胞およびCAD細胞ならびに/または組織から取得されたサンプルに適用され、マウスES1もしくはヒトCES1核酸分子の存在が当分野で既知の方法を用いて検出される。例えば、マーカー遺伝子の存在を検出する方法は、任意の有効な工程で、例えば、ノザンブロット解析、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写酵素PCR、RACE PCR、インサイチュハイブリダイゼーションなどで行われ得る。
【0101】
他の態様において、プローブは、正常細胞およびCAD細胞ならびに/または組織から取得されたサンプルに適用され、マウスES1もしくはヒトCES1核酸の量が当分野で既知の方法を用いて検出される。そのような方法は、例えば、プローブと接触させ、ハイブリダイズさせ、ハイブリダイズさせたプローブを検出することを含み得るが、より定量的な方法および/または標準との比較を用いること含む。プローブと標的間のハイブリダイゼーションの量は、適当な方法、例えば、PCR、RT-PCR、RACE PCR、ノザンブロット、ポリヌクレオチドマイクロアレイ、Rapid-Scanなどにより決定され得て、定量的および定性的測定を含む。
【0102】
他の態様において、マウスES1-もしくはヒトCES1-特異的抗体は、当分野で既知の任意の方法により、生物学的サンプル中のマウスES1もしくはヒトCES1、またはその断片の存在を検出するために使用され得る。該方法は、免疫測定法、例えば、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA (酵素結合免疫吸着法)、「サンドウィッチ」免疫測定法、免疫沈降法、沈降反応、ゲル内拡散沈降反応、免疫拡散法、凝集反応、補体結合反応、免疫放射定量測定法、蛍光免疫測定法、プロテインA免疫測定法のような技術を用いた競合的および非競合的アッセイ系を含み得る(これらは、ほんの数例である)。そのようなアッセイは、当分野で既知である(Ausubel et al., eds, 1994, Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, John Wiley & Sons, Inc., New York(引用によりその全体を本明細書の一部とする))。さらに、本発明において有用な免疫測定法はまた、蛍光偏光免疫測定法(FPIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、酵素免疫測定法(EIA)および比濁阻害免疫測定法(NIA)のような同種および異種の手順を含み得る。
【0103】
他の態様において、生物学的サンプル中のマウスES1もしくはヒトCES1ポリペプチドのレベルは、マウスES1もしくはヒトCES1の発現レベルをモニターするための手段として決定され得る。そのような方法は、例えば、生物学的サンプルを取得し、該サンプルをマウスES1もしくはヒトCES1ポリペプチドまたは適当なそのエピトープに特異的な抗体と接触させ、抗体との免疫複合体形成の量を決定する工程を含み、ここで、該免疫複合体の量は、マウスES1もしくはヒトCES1ポリペプチドの量を示す。この決定は、CADを患う対象から得られた生物学的サンプル中のカルボキシルエステラーゼポリペプチドが、正常な対象から得られた生物学的サンプルまたは同じ対象から以前にもしくはその後に得られた1個またはそれ以上のサンプル中のカルボキシルエステラーゼのレベルと比較されるとき有益である。
【0104】
カルボキシルエステラーゼポリペプチドの量の決定はまた、CADの進行と相関し得る。カルボキシルエステラーゼポリペプチドレベルは、これらのペプチドを含む生物学的サンプルがCADの素因を有するか否かを予測的に評価するために使用され得るか、または特定の治療レジメンを計画するために使用され得る。
【0105】
診断アッセイ
正常対象と比較してCADを患う対象において、適当な、例えば、リポタンパク質調節カルボキシルエステラーゼ、例えば、マウスES1もしくはヒトCES1の発現レベルの検出可能な増加もしくは減少の決定は、疾患状態および/または治療に対する有利な応答を診断またはモニターする方法を提供する。したがって、本発明は、CADもしくはアテローム性動脈硬化状態を検出するか、または対象がCADもしくはアテローム性動脈硬化状態を発症する増加した危険を有するか否かを決定する方法を提供する。
【0106】
臨床適用において、ヒト組織サンプルが、適当なカルボキシルエステラーゼコード核酸および/またはカルボキシルエステラーゼポリペプチドの存在および/または非存在についてスクリーニングされ得る。そのようなサンプルは、組織サンプル、全細胞、細胞溶解物または単離核酸を含み得る(例えば、針生検、外科的切除サンプル、リンパ節組織、血漿もしくは血清を含む)。特定の態様において、これらのサンプルから抽出される核酸は、当分野で既知の技術を用いて増幅され得る。検出されたカルボキシルエステラーゼおよび/または全血漿および/またはHDL-Cのレベルが、正常組織サンプルのものと比較され得る。
【0107】
1つの態様において、診断法は、適当な、例えば、リポタンパク質調節カルボキシルエステラーゼ、例えば、マウスES1もしくはヒトCES1のmRNA、cDNAまたはポリペプチドレベルを検出することにより、対象がCADについての増加した危険を有するか否かを決定することを含む。健常対象と比較して対象におけるカルボキシルエステラーゼの発現レベルの有意な変化は、CADまたはCADに対する感受性の指標である。好ましくは、該変化は、少なくとも、約10%、約20%、約25%、約30%、好ましくは、少なくとも、約40%、約50%、より好ましくは、少なくとも、約60%、約70%もしくは約90%、約100%、約150%もしくは約200%、またはそれ以上である。
【0108】
または、診断法は、カルボキシルエステラーゼポリペプチドまたはその機能性断片を検出するための抗体を用いて行われ得る。1つの態様において、該方法は、対象からの生物学的サンプル中の適当なカルボキシルエステラーゼポリペプチド分子のレベルを該ポリペプチド分子のコントロールレベルと比較することを含み、ここで、カルボキシルエステラーゼポリペプチドレベルの有意な変化は、対象内のCADの指標である。「有意な変化」なる用語は、正常な健康人起源の生物学的サンプル由来のものと比較して、少なくとも、約10%、約20%、約25%、約30%、好ましくは、少なくとも、約40%、約50%、より好ましくは、少なくとも、約60%、約70%もしくは約90%、約100%、約150%もしくは約200%、またはそれ以上のポリペプチドまたはその機能性断片の量の変化を意味する。
【0109】
冠動脈疾患の予後診断、病期分類およびモニタリング
1つの局面において、本発明は、適当な、例えば、リポタンパク質調節カルボキシルエステラーゼ、例えば、マウスES1もしくはヒトCES1の核酸、ポリペプチドおよび/またはその機能性断片の発現レベルを調べることにより、CADの発症、予後および病期を決定する方法を提供する。本明細書で使用される予後診断は、疾患の経過および転帰の予測を意味する。
【0110】
一般に、CADの予後診断もしくは病期分類について使用される方法は、興味のあるサンプル中の適当なカルボキシルエステラーゼの量をコントロールサンプルのものと比較し、カルボキシルエステラーゼの発現レベルの相対的な差異を検出することを含む。差異は、定性的および/または定量的に測定され得る。コントロールサンプルは、無CADもしくは正常サンプルであるか、または進行しないことが知られたサンプル、または進行することが知られたサンプルであり得る。
【0111】
また、本明細書で使用されるCAD病期分類は、CADが症状を発症し、その原因となる一連の事象を意味する。さらに、病期分類は、患者内のCAD状態がいかに進行しているかを記載するために使用されるプロセスである。本発明の方法は、CADの病期分類をアッセイするのに有用である。病期分類は、参照レベルと比較して適当なカルボキシルエステラーゼの発現レベルを決定することにより達成され得る。参照レベルは、無CADもしくは健常サンプル、または疾患進行における異なる段階でのCADサンプルであり得る。
【0112】
本発明はさらに、適当なカルボキシルエステラーゼ核酸またはポリペプチドもしくはその機能性断片の発現レベルを長期間測定することにより、対象におけるCAD進行もしくは再発をモニターする方法を提供する。
【0113】
1つの態様において、該方法は、a) 最初の時点での対象内の適当なカルボキシルエステラーゼ核酸分子の発現レベルを決定し; b) 次の時点での対象内のカルボキシルエステラーゼ核酸の発現を決定し; そしてc) 最初の時点での発現レベルと次の時点での発現レベルを比較することを含み、ここで、発現レベルの有意な変化は、CADの発症、進行もしくは退行の指標である。
【0114】
他の態様において、該方法は、a) 最初の時点での対象内の適当なカルボキシルエステラーゼポリペプチド分子の発現レベルを決定し; b) 次の時点での対象内のカルボキシルエステラーゼポリペプチドの発現を決定し; そしてc) 最初の時点での発現レベルと次の時点での発現レベルを比較することを含み、ここで、発現レベルの有意な変化は、CADの発症、進行もしくは退行の指標である。
【0115】
より早期の時点と比較して次の時点でのカルボキシルエステラーゼ核酸またはポリペプチドもしくはその機能性断片の増加した発現レベルは、該疾患がより重篤な段階に進行していることを示す。対照的に、次の時点での減少した発現レベルは、該疾患がより重篤でない段階までしか進行していないことを示す。
【0116】
治療および治療化合物の有効性
他の局面において、本発明はまた、伝統的および非伝統的なCADの処置および治療の利益を享受し得るであろう患者の評価および/またはモニターを可能にする方法を提供する。本発明の利点は、1種もしくはいくつかの利用可能な治療から恩恵を受け得る患者をある期間にわたってモニターし、スクリーニングするか、または患者が処置によりいかに回復するか、処置の変化、変更、もしくは中断が保証されるか、または患者の疾患段階または病期が進行しているかをある期間にわたって決定する能力である。
【0117】
本発明による特定の治療のための患者の正確な同定は、増加した処置効果を提供し、患者が望まない生命を脅かす治療の副作用を受けるのを回避することができる。本発明の方法を用いた治療を受ける患者をモニターする能力は、患者がある期間にわたって十分に治療に応答するか否かを決定し、送達用量もしくは量もしくは形態が変更もしくは調製されるべきか否かを決定し、患者が治療の間に改善されたか、または疾患のより重篤なもしくは進行した段階が退行したか、もしくはそれに入ったか否かを確認し得る。
【0118】
本発明によるモニター法は、ある期間にわたって、例えば、処置もしくは治療の間、または患者の疾患の経過の間、患者の体液サンプルを試験するか、もしくは解析することによるCADもしくはアテローム性動脈硬化状態を患う患者の連続(serial)もしくは逐次(sequential)試験もしくは解析を示す。例えば、シリアル試験において、本発明の方法により、処置および/または疾患の経過の間、カルボキシルエステラーゼレベルを測定することにより、患者内での適当なカルボキシルエステラーゼ核酸もしくはポリペプチドまたはその機能性断片の発現レベルを観察、確認もしくは検査する目的で、同じ患者が体液サンプル、例えば、血清もしくは血漿を提供するか、または同じ患者からサンプルが取得される。
【0119】
同様に、患者は、疾患の状態および/または患者が受けている処置もしくは治療に対する効果、反応および応答を決定する目的で、生物学的サンプル中のカルボキシルエステラーゼレベルを評価するために、ある期間にわたってスクリーニングされ得る。1種もしくはそれ以上の生物学的サンプルは、好ましくは、処置もしくは治療を受ける前に、または処置もしくは治療の開始時点で患者から取得されることが望ましく、それは、患者が処置を受け、臨床および医学的評価を受ける間、1個もしくはそれ以上の後の時点における患者の進行および/または応答の解析および評価を補助する。
【0120】
レベルは、数日、数週間、数ヶ月、数年、またはさまざまなその期間にわたってモニターされ得る。患者の体液サンプル、例えば、血清もしくは血漿サンプルは、医療従事者、例えば、内科医もしくは臨床医により決定された間隔で集められ、処置もしくは疾患にわたって正常な個体のレベルと比較した患者内のカルボキシルエステラーゼ、血漿リポタンパク質(HDLを含む)レベルが決定される。例えば、患者サンプルは、本発明により1ヶ月ごと、2ヶ月ごと、または1ヶ月、2ヶ月もしくは3ヶ月の組み合わせで取得され、モニターされ得る。3ヶ月ごと、またはそれ以上の頻度の患者サンプルのモニタリングが望ましい。患者で見出されるレベルは、正常な個体のレベル、試験前に取得された患者自身のレベルと比較され、処置もしくは疾患の進行もしくは結果が決定される。
【0121】
好ましくは、正常な個体で見出されるレベルもしくはその近くのレベルまたはそれ以下のレベルまでのLDL/VLDL-Cの減少および/または血漿HDL-Cの増加を示すある期間にわたる適当なカルボキシルエステラーゼレベルの減少は、処置の進行もしくは効果、および/または疾患の改善、寛解などを示す。
【0122】
キット
本発明はまた、生物学的サンプル中の適当なカルボキシルエステラーゼの発現レベル(核酸またはポリペプチドレベル)の検出のために必要な試薬を含むキットを提供する。試薬は、上記した特定のプローブ/プライマーおよび抗体を含み得る。キットはまた、正常なおよび疾患のさまざまな臨床進行段階を示すコントロール/参照値または一組のコントロール/参照値を含み得る。好ましい態様において、コントロール/参照値または一組のコントロール/参照値は、正常なおよびCADのさまざまな臨床進行段階を示す。さらに、キットは、試験サンプルとの比較のためのポジティブコントロールおよび/またはネガティブコントロールを含み得る。ネガティブコントロールは、カルボキシルエステラーゼ核酸もしくはポリペプチドを含まないサンプルを含み得る。ポジティブコントロールは、さまざまな既知のレベルの適当なカルボキシルエステラーゼ核酸もしくはポリペプチドを含むサンプルを含み得る。キットはまた、アッセイを行うための指示書および結果を解釈するための指示書を含み得る。抗体に基づくキットについて、該キットは、例えば、(1) カルボキシルエステラーゼポリペプチドまたはその機能性断片に結合する第1抗体(例えば、固相支持体に結合している); および所望により、(2) カルボキシルエステラーゼポリペプチド、そのエピトープ、または第1抗体に結合する抗体であって、検出可能な標識が結合した第2の異なる抗体を含み得る。オリゴヌクレオチドに基づくキットについて、該キットは、例えば、(1) オリゴヌクレオチド、例えば、適当なカルボキシルエステラーゼ核酸配列とハイブリダイズする検出可能標識化オリゴヌクレオチド、または(2) カルボキシルエステラーゼ核酸分子を増幅させるのに有用な一組のプライマーを含み得る。キットはまた、例えば、緩衝剤、保存剤またはタンパク質安定化剤を含み得る。キットはさらに、検出可能標識を検出するのに必要な構成要素を含み得る(例えば、酵素もしくは基質)。キットはまた、アッセイされ、試験サンプルと比較され得るコントロールサンプルまたは一連のコントロールサンプルを含み得る。キットの各構成要素は、個々の容器内に封入され得て、さまざまな容器のすべては、該キットを用いて行われたアッセイの結果を解釈するための指示書と共に単一パッケージ内に存在し得る。
【0123】
そのようなキットは、対象がCADもしくはアテローム性動脈硬化状態を患うか、またはそれを発症する増加した危険を有するかを決定するために使用され得る。さらに、そのようなキットは、CADもしくはアテローム性動脈硬化状態の予後診断、病期分類およびその進行のモニタリングを決定するために使用され得る。さらにそのようなキットは、CADもしくはアテローム性動脈硬化状態についての薬剤スクリーニングのために、または処置の選択のために使用され得る。
【0124】
医薬組成物
他の局面において、本発明は、組成物、例えば、本発明のHDL調節剤(例えば、モノクローナル抗体、もしくは抗原結合部分、アンチセンスsiRNA、低分子量分子)の1個または薬学的に許容される担体と共に製剤化されたその組み合わせを含む医薬組成物を提供する。そのような組成物は、結合分子の1個またはその組み合わせ(例えば、2個もしくはそれ以上の異なる組み合わせ)を含み得る。例えば、本発明の医薬組成物は、標的抗原上の異なるエピトープに結合するか、もしくは相補的な活性を有する抗体または薬剤の組み合わせを含み得る。
【0125】
本発明の医薬組成物はまた、組み合わせ治療で、すなわち、他の薬剤と組み合わせて投与され得る。例えば、組み合わせ治療は、少なくとも1個の他のコレステロール還元剤と組み合わせたHDL調節剤を含み得る。組み合わせ治療で使用され得る治療剤の例は、本発明の薬剤の使用に関する下記のセクションで詳述されている。
【0126】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」は、生理学的に適合可能な任意のおよびすべての溶媒、分散媒、被覆、抗菌および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤などを含む。担体は、静脈、筋肉内、皮下、非経腸、脊髄もしくは表皮投与(例えば、注射もしくは点滴による)のために適当であり得る。投与経路に依存して、活性化合物は、該化合物を不活性化し得る酸の作用および他の自然条件から化合物を保護する物質で被覆され得る。
【0127】
本発明の医薬化合物は、1個またはそれ以上の薬学的に許容される塩を含み得る。「薬学的に許容される塩」親化合物の望まれる生物学的活性を保持しつつ、望まれない毒性効果を与えない塩を意味する(例えば、Berge, S.M., et al., 1977 J. Pharm. Sci. 66:1-19を参照のこと)。そのような塩の例は、酸付加塩および塩基付加塩を含む。酸付加塩は、非毒性無機酸、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸などに由来するもの、ならびに非毒性有機酸、例えば、脂肪族モノ-およびジ-カルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族性酸、脂肪族および芳香族性スルホン酸などに由来するものを含む。塩基付加塩は、アルカリ土類金属、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどに由来するもの、ならびに非毒性有機アミン、例えば、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、N-メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカインなどに由来するものを含む。
【0128】
本発明の医薬組成物はまた、薬学的に許容される抗酸化剤を含み得る。薬学的に許容される抗酸化剤の例は、水溶性抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸、塩酸システイン、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど; 脂溶性抗酸化剤、例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α-トコフェロールなど; および金属キレート剤、例えば、クエン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などを含む。
【0129】
本発明の医薬組成物において使用され得る適当な水性および非水性担体の例は、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびその適当な混合物、植物油、例えば、オリーブ油、ならびに注射用有機エステル、例えば、オレイン酸エチルを含む。適当な流動性は、例えば、被覆物質、例えば、レシチンの使用により、分散液の場合には必要とされる粒子サイズの維持により、界面活性剤の使用により維持され得る。
【0130】
これらの組成物はまた、アジュバント、例えば、保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤を含み得る。微生物の存在の防止は、上記の滅菌手順により、およびさまざまな抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの包含により確保され得る。また、組成物中に等張剤、例えば、糖、塩化ナトリウムなどを含むことが望ましくあり得る。さらに、注射用医薬形の延長された吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの包含によりもたらされ得る。
【0131】
薬学的に許容される担体は、滅菌水性溶液もしくは分散液および滅菌注射用溶液もしくは分散液の即時製剤のための滅菌粉末を含む。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当分野で既知である。任意の慣用的な媒体または薬剤が活性化合物と適合しない場合を除いて、本発明の医薬組成物におけるその使用が意図される。補助的活性化合物がまた、該組成物に組み込まれ得る。
【0132】
治療組成物は、一般に、滅菌され、製造および貯蔵の条件下で安定していなければならない。組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、または高い薬剤濃度のために適した他の秩序だった構造として製剤化され得る。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、ならびにその適当な混合物を含む溶媒または分散媒であり得る。適当な流動性は、例えば、被覆物質、例えば、レシチンの使用により、分散液の場合には必要とされる粒子サイズの維持により、界面活性剤の使用により維持され得る。多くの場合には、組成物中に等張剤、例えば、糖、ポリアルコール、例えば、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを含み得る。注射用組成物の延長された吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの組成物への包含によりもたらされ得る。
【0133】
滅菌注射用溶液は、必要とされる量の活性化合物を上記に列挙された成分の1個またはその組み合わせを有する適当な溶媒中に組み込み、所望により、その後、滅菌精密ろ過を行うことにより調製され得る。一般に、分散液は、活性化合物を塩基性(basic)分散媒および上記のものからの必要とされる他の成分を含む滅菌ビヒクルに組み込むことにより製造される。滅菌注射用溶液の製造のための滅菌粉末の場合において、製造法は、真空乾燥および凍結乾燥(凍結乾燥法)であり、それは、有効成分+以前に滅菌ろ過されたその溶液からの任意のさらなる望まれる成分の粉末を産生する。
【0134】
単一用量形を製造するために担体材料と組み合わせられ得る有効成分の量は、処置される対象および投与の特定の形態に応じて変わり得る。単一用量形を製造するために担体材料と組み合わせられ得る有効成分の量は、一般に、治療効果を生じる組成物の量であり得る。一般に、この量は、薬学的に許容される担体と組み合わせて、100%換算で約0.01%〜約99%の有効成分、約0.1%〜約70%の有効成分、または約1%〜約30%の有効成分の範囲である。
【0135】
用量レジメンは、望まれる最適応答(例えば、治療応答)を提供するように調節される。例えば、単回ボーラス投与が行われるか、何回かに分けた分割投与がある期間にわたって行われるか、または該投与量は、治療状況の緊急度に合わせて比例的に減少するか、もしくは増加し得る。とりわけ、投与の容易さおよび用量の統一のために、単位用量形での非経腸組成物を製剤することが有利である。本明細書で使用される単位用量形は、処置される対象のための単一用量として適した物理的に離れた別個の単位を意味し; 各々の単位は、必要とされる医薬担体と共に、望まれる治療効果を発揮するように計算され、前もって決定された活性化合物の量を含む。本発明の単位用量形の特定は、活性化合物の特性および達成されるべき特定の治療効果、ならびに、例えば、個体における感受性の処置のための活性化合物等の調剤の分野に特有の限界により決定され、それに直接依存する。
【0136】
HDL調節剤、例えば、抗体の投与について、用量は、宿主体重の約0.0001〜100 mg/kg、およびより通常は、0.01〜5 mg/kgの範囲内である。例えば、用量は、0.3 mg/kg体重、1 mg/kg体重、3 mg/kg体重、5 mg/kg体重もしくは10 mg/kg体重または1-10 mg/kgの範囲内であり得る。例えば、処置レジメンは、週1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、1ヶ月に1回、3ヶ月に1回または3〜6ヶ月に1回の投与を伴う。抗体についての用量レジメンは、静脈注射による1 mg/kg体重または3 mg/kg体重を含み、該抗体は、下記の投与スケジュールの1つを用いて与えられる: 4週間ごとに6回投与、次いで、3ヶ月ごと; 3週間ごと; 3 mg/kg体重を1回、その後、3週間ごとに1 mg/kg体重。
【0137】
ある方法において、異なる結合特異性を有する2個もしくはそれ以上の結合分子(例えば、モノクローナル抗体)が同時に投与され、その場合には、投与される各抗体の用量は、指示された範囲内にある。HDL調節剤は、通常、複数回投与される。単一用量間の間隔は、例えば、週1回、月1回、3ヶ月に1回もしくは年1回であり得る。間隔はまた、患者内のHDL調節剤(例えば、抗体)の血液レベルを測定することにより示されたとおり、不規則であり得る。ある方法において、用量は、約1-1000 μg/ml、およびある方法において、約25-300μg/mlの抗体の血漿濃度を達成するように調節される。
【0138】
あるいは、HDL調節剤は、徐放性製剤として投与され得て、その場合には、より少ない頻度の投与が必要とされる。用量および頻度は、患者内でのHDL調節剤の半減期に依存して変わる。例えば、抗体について、ヒト抗体が最も長い半減期を示し、次いでヒト化抗体、キメラ抗体および非ヒト抗体が続く。投与用量および頻度は、処置が予防的であるか、もしくは治療的であるかに応じて変わり得る。予防的適用においては、長期間にわたり、相対的に低頻度の間隔で、相対的に低い用量が投与される。ある患者は、生涯処置を受け続ける。治療的適用においては、疾患の進行が減少するか、もしくは終結するまで、または患者が疾患の症状の部分的もしくは完全な改善を示すまで、相対的に短い間隔での相対的に高用量がときどき必要とされる。その後、患者は、予防的レジメンで投与され得る。
【0139】
本発明の医薬組成物中の有効成分の実際の用量レベルは、患者に毒性を与えることなく、特定の患者に対する望まれる治療応答を達成するのに有効な有効成分の量、組成および投与形態を得るように変わり得る。選択される用量レベルは、使用される本発明の特定の組成物またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与時間、使用される特定の化合物の排泄速度、処置の持続、使用される特定の組成物との組み合わせで使用される他の薬剤、化合物および/または物質、年齢、性別、体重、状態、処置される患者の一般的な健康状態および病歴、および医療分野で既知のあらゆる要因を含むさまざまな薬物動態学的要因に依存し得る。
【0140】
HDL調節剤の「治療上有効量」は、疾患症状の重篤度の減少(例えば、血漿コレステロールの減少、またはコレステロール関連障害の症状の軽減)、または疾患無症状期間の頻度および持続の増加、または疾患苦痛による障害もしくは無力の予防を生じる。
【0141】
組成物は、当分野で既知の1個またはそれ以上のさまざまな方法を用いて、1個またはそれ以上の投与経路により投与され得る。当業者により理解されているとおり、投与の経路および/または形態は、望まれる結果に依存して変わり得る。HDL調節剤のための投与経路は、静脈、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、脊髄もしくは他の非経腸投与経路、例えば、注射もしくは点滴によるものを含むが、これらに限定されない。本明細書で使用される「非経腸投与」なる句は、通常注射による腸内および局所投与以外の投与形態を意味し、静脈、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼窩内、心腔内、皮内、腹腔内、経気、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、髄腔内、硬膜外および胸骨内投与ならびに注入を含むが、これらに限定されない。
【0142】
あるいは、HDL調節剤は、非経腸経路、例えば、局所、表皮もしくは粘膜経路の投与、例えば、鼻腔内、経口、膣内、直腸内、舌下もしくは局所で投与され得る。活性化合物は、速放性に対して化合物を保護する担体、例えば、インプラント、経皮パッチ、およびマイクロカプセル化送達系を含む徐放性製剤と共に製造され得る。生分解性の生体適合性ポリマー、例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸が使用され得る。そのような製剤の製造法の多くが特許されているか、または一般に当業者に既知である。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems, J.R. Robinson, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, 1978を参照のこと。
【0143】
治療組成物は、当分野で既知の医療デバイスを用いて投与され得る。例えば、1つの態様において、本発明の治療組成物は、無針皮下注射デバイス、例えば、米国特許第5,399,163号; 第5,383,851号; 第5,312,335号; 第5,064,413号; 第4,941,880号; 第4,790,824号もしくは第4,596,556号に示されたデバイスを用いて投与され得る。本発明において有用な既知のインプラントおよびモジュールの例は、米国特許第4,487,603号(制御された速度で薬剤を分配するための埋め込み型マイクロ注入ポンプを示す); 米国特許第4,486,194号(皮膚を介して薬剤を投与するための治療デバイスを示す); 米国特許第4,447,233号(正確な注入速度で医薬を送達するための医薬注入ポンプを示す); 米国特許第4,447,224号(継続した薬剤送達のための可変流量埋め込み型注入装置を示す); 米国特許第4,439,196号(複数のチャンバー区画を有する浸透圧剤送達系を示す); および米国特許第4,475,196号(浸透圧剤送達系を示す)を含む。これらの特許文献は、引用により本明細書の一部とする。多くの他のそのようなインプラント、送達系、およびモジュールは、当業者に既知である。
【0144】
ある態様において、HDL調節剤は、インビボでの適当な分布を確保するように製剤化され得る。例えば、血液脳関門(BBB)は、多くの非常に親水的な化合物を排除し得る。本発明の化合物がBBBを通過することを確保するために(所望により)、それらは、例えば、リポソームで製剤化され得る。リポソームを製造する方法に関しては、例えば、米国特許第4,522,811号; 第5,374,548号; および第5,399,331号を参照のこと。リポソームは、特定の細胞もしくは器官に選択的に輸送される1個またはそれ以上の部分を含み得て、その結果、標的化薬剤送達を促進し得る(例えば、V.V. Ranade, 1989 J. Cline Pharmacol. 29:685を参照のこと)。標的化部分の例は、葉酸またはビオチン(例えば、Low et al.による米国特許第5,416,016号を参照のこと); マンノシド(Umezawa et al., 1988 Biochem. Biophys. Res. Commun. 153:1038); 抗体(P.G. Bloeman et al., 1995 FEBS Lett. 357:140; M. Owais et al., 1995 Antimicrob. Agents Chernother. 39:180); 界面活性剤プロテインA受容体(Briscoe et al., 1995 Am. J. Physiol.1233:134); p120 (Schreier et al., 1994 J. Biol. Chem. 269:9090)を含む(また、K. Keinanen; M.L. Laukkanen, 1994 FEBSLett. 346:123; J.J. Killion; I.J. Fidler, 1994 Immunomethods 4:273を参照のこと)。
【実施例】
【0145】
実施例
下記の実施例は、本発明の実施において本願発明者等により使用された技術の代表的なものである。これらの技術は、本発明の実施の好ましい態様の例示であるが、当業者は、本願明細書の開示の観点で、多くの修飾が本発明の精神および意図される範囲から離れることなしになされ得ることを認識しているものと理解されるべきである。
【0146】
実施例1
機能性HDLの血漿レベルの上昇が冠動脈疾患の危険を減少させる強力な証拠が存在する(Gotto, A. et al., J. Am. Coll. Cardiol., 43:717-724, 2004)。以前知られていなかった血漿HDL-Cレベルの制御におけるマウスES1およびヒトCES1の役割が、本明細書に開示されている。血漿リポタンパク質およびHDL-Cの調節におけるこれらのカルボキシルエステラーゼの役割は、これらのカルボキシルエステラーゼを阻害する薬剤をスクリーニングし、それらをCADまたはアテローム性動脈硬化状態の処置において有用なものにすることにおけるそれらの有用性、ならびに、例えば、CAD、アテローム性動脈硬化状態、またはCADもしくはアテローム性動脈硬化状態に対する感受性のための生物学的マーカーとしての有用性を示す。
【0147】
血漿HDL-Cレベルについての量的形質遺伝子座(QTL)が、マウス第8染色体(Chr)遠位部において見出された。それは、5匹の異なるマウス交配種で見出された: B6 × A、B6 × 129、B6 × DBA/2、B6 × CASTおよびB6 × CASA (Rollins, J. et al., Trends Cardiovasc. Med., 16:220-234, 2006; Stylianou, I. et al., Genetics, 174:999-1007, 2006)。このQTLは、交配種B6 × B6.Aの第8染色体置換株で狭められていた。1個の候補遺伝子Es1の機能を、Es1天然突然変異体マウス株で試験した(Jackson Laboratory Mouse Stock #000785)。
【0148】
Es1突然変異体マウス(ストック番号#000785)およびコントロールB6マウスは、Jackson Laboratoryから取得された。10-11週齢のマウスを、血液サンプルを採取する前に4時間絶食させた。血漿を新しい試験管に移して、解析まで-20℃で凍結させた。収集されてから1週間以内に血漿サンプルを融解させ、解析した。各血液サンプルからの血漿リポタンパク質濃度を、Synchron CX Delta System (Beckman Coulter)に関する製造者の指示にしたがって、酵素学的試薬キット(no. 650207, Beckman Coulter)を用いて直接測定した。Es1突然変異体マウスは、血漿HDL-Cレベルを有意に増加させ、血漿非HDL-Cレベルを有意に減少させた(図1)。Es1突然変異体マウスは、コントロールと比較して、肝臓Es1 mRNAを80%減少させ、血漿エステラーゼ活性を73%減少させたので(Morton, C. et al., Cancer Res., 60:4206-4210, 2000)、この結果は、血漿ES1活性の阻害が血漿HDL-Cレベルを増加させることを示す。
【0149】
1464症例の2型糖尿病(T2D)患者および1467症例の対応するコントロールを含むゲノムワイド相関試験(図2)において、T2Dおよび関連特性との関連のために、386,731個の一塩基多型(SNP)を使用した(Saxena, R. et al., Science, 316:1331-1336, 2007)。CES1 (マウスEs1の相同遺伝子)と連鎖不均衡であるSNP rs7186875は、血漿ApoA-Iレベルと関連しており(P=0.00081)、それは、ヒトCES1がまた血漿apoA-IおよびHDLレベルを制御することを示す。これらの結果は、CES1活性の阻害が血漿apoA-I/HDLレベルを増加させることを示す。そのような結果を達成するのに有用な方法は、アテローム性動脈硬化症を処置するのに使用され得る。
【0150】
組織分布を、マウスEs1、ヒトCES1および関連遺伝子について比較した(図3)。組織をRNAlater (Ambion)で保存し、その後、RNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いて全RNAを抽出した。定量的リアルタイムPCRを、ABI Prism 7000 Sequence Detection System (PE Applied Biosystems)を用いて行った。プライマーは、プライマー設計ソフトウェアPrimer Express 2.0 (PE Applied Biosystems)を用いて設計された。各遺伝子のmRNA発現を、同じサンプルからのβ-アクチン(マウス遺伝子のために)もしくは18s RNA (ヒト遺伝子のために) mRNAのコピーで標準化した。マウスEs1およびヒトCES1は、ほぼ肝臓でのみ発現する。マウスEs1の発現は、その近くのエステラーゼ/カルボキシルエステラーゼ遺伝子(Ces3、Es22、Ces1およびCes7)の発現よりもずっと高く、ヒトCES1の発現は、その近くのカルボキシルエステラーゼ遺伝子(CES4およびCES7)およびCES1から遠くの他の2個のカルボキシルエステラーゼ遺伝子(CES2およびCES3)の発現よりもずっと高い。これらの結果は、肝臓がマウスおよびヒトにおけるエステラーゼ/カルボキシルエステラーゼ活性の主な起源であることを示す。
【0151】
実施例2:カルボキシルエステラーゼ1のインビボ阻害を介した高密度リポタンパク質レベルの調節
ES1がHDLレベルの調節において役割を果たすか否かに直接取り組むために、我々は、RNA干渉(RNAi)(配列特異的転写後遺伝子抑制過程)を用いて、マウス肝臓でのその発現を抑制することにした(Xia, et al 2002)。アデノウイルスは、肝細胞への高い向性を有しており、マウス肝臓に低分子ヘアピン型RNA (shRNA)を送達するのに使用され、遺伝子発現を抑制するのに成功した(Kay, et al 1995, Xu, et al 2006, Xu, et al 2007)。本明細書において、我々は、マウス肝臓でのEs1発現を下方調節するこの系を採用して、HDL-Cレベルに対して生じる効果を調べた。
【0152】
2.1 方法
shRNA設計および検証
RNAi Designerオンラインツール(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて、Es1 mRNA (Genbank受託番号: NM_001013764)のコード領域に対する4個の異なる標的配列を選択した。非標的配列およびLacZ遺伝子を標的とする配列を、ネガティブコントロールとして使用した(表2-1)。各配列について上流および下流(Top and bottom)のDNAオリゴ鎖を、BLOCK-iT U6 RNAi Entry Vectorキット(K4945-00, Invitrogen)についてのマニュアルに基づいて設計し、アニールしたオリゴをpENTR/U6ベクターにクローン化した。
【0153】
表2-1 shRNA標的配列
【表1】

【0154】
Es1発現の抑制におけるshRNA構築体の効率を試験するために、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いて、HEK 293細胞にEs1を発現する0.7 μgのcDNA構築体(4196339, OpenBiosystems, Huntsville, AL)および3.3 μgの個々のshRNA構築体を共トランスフェクトした。48時間後、全RNAを単離し、Taqman Reverse Transcription Reagent (N808-0234, Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いた逆転写後、Es1のmRNA発現レベルをリアルタイムPCRにより決定した。
【0155】
shRNAを発現するアデノウイルスベクターの作製
pENTR/U6内のshRNA構築体をBamHIおよびXbaIで消化し、U6プロモーターを含む生じた挿入物をシャトルベクターVQAd AscI-NpA (ViraQuest, North Liberty, IA)にクローン化した。組換えアデノウイルスベクターをViraQuestにより作製した。
【0156】
動物およびアデノウイルス処理
雄C57BL/6Jマウス(8-10週齢)をJackson Laboratory (Bar Harbor, ME)から購入し、試験前、少なくとも5日間順化させた。すべてのマウスを、温度よび湿度が制御された部屋で、12時間の明暗周期で維持した。餌ペレットおよび水道水は、不断給餌であった。アデノウイルスベクターをPBSで希釈し、100 μlを各マウスに尾静脈注射により投与した。この試験についてのNIBR動物プロトコールは、CV0126Gであった。すべての動物手順は、Animal Welfare Actに基づいてNovartis Animal Care and Use Committeeにより確立された方針およびガイドラインにしたがって行われた。
【0157】
血液および肝臓収集
後眼窩静脈叢からの採血前4時間、マウスを断食させた。ウイルス投与の前日(0日目、D0)に、200 μlの血液を各マウスから集め、ウイルス投与の6日後(6日目、D6)に、400 μlの血液を各マウスから集めた。血液をヘパリンリチウムで試験管に集め、血漿を、4℃で10分間、6000 rpmでの遠心分離で分離した。最終日に、採血後、マウスをCO2での窒息により安楽死させ、その後、PBSで心かん流を行い、肝臓を回収した。定量的リアルタイムPCRのために、肝臓組織をRNAlater溶液(AM7021, Ambion, Austin, TX)で保存した。すべての動物手順は、Animal Welfare Actに基づいてNovartis Animal Care and Use Committeeにより確立された方針およびガイドラインにしたがって行われた。
【0158】
定量的リアルタイムPCR解析
肝臓組織を回収後すぐにRNAlater RNA安定化剤(AM7021, Ambion, Austin, TX)に浸けた。全RNAをRNeasy Mini Kit (74106, Qiagen, Valencia, CA)を用いて単離した。逆転写のために、Taqman Reverse Transcription系(N808-0234, Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて、400 ngの全RNAを20 μlの反応物中で第1鎖相補的DNAに変換した。定量的リアルタイムPCR解析を、SYBR green PCRマスターミックス(4309155, Applied Biosystems)を用いて、ABI 7500 (Applied Biosystems)で行った。本試験で使用したプライマーを表2-2に示す。発現データを標準化するために、β-アクチンRNAを内部コントロール遺伝子として使用した。
【0159】
表2-2 リアルタイムPCRのためのプライマー
【表2】

【0160】
血漿脂質および肝臓酵素解析
血漿サンプルを、HDL-C、全コレステロール、トリグリセリドならびに肝臓酵素アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)およびアラニントランスアミナーゼ(ALT)の解析のためにBiological Assay Request System (BARS)にかけた。
【0161】
血漿エステラーゼ活性アッセイ
血漿エステラーゼ活性を、Wadkinsにより記載されたものにわずかな修飾を加えて決定した(Wadkins, et al 2005)。簡潔に説明すると、血漿をサンプルバッファー(PBS中の1 mM EDTA)で1:5に希釈し、25 μlの希釈した血漿を、96ウェルプレート中で270 μlのサンプルバッファーと混合した。次いで、5 μlのメタノール中の0.18 M o-ニトロフェニル酢酸(o-NPA)を各ウェルに加えた。プレートを、室温で5分間、インキュベートし、その後、プレートリーダーを用いて、420 nmでの吸光度を読み取った。標準曲線を、62.5 μg/mlでサンプルバッファーに溶解した精製ウサギ肝臓エステラーゼ(E0887, Sigma, St. Louis, MO)を用いて作製した。1〜20 μlのストックエステラーゼを、96ウェルプレート中で270 μlのサンプルバッファーに加えた。
【0162】
データ解析および統計
結果を平均 ± SDとして示す。異なる群からのデータの統計学的解析を、不対ステューデントt検定またはone way ANOVA検定を用いて行った。P<0.05での差異は、統計学的に有意であると考えられた。
【0163】
2.2 結果
Es1発現を抑制するshRNA構築体の選択
Es1 mRNAの異なる領域を標的とする4個の異なるshRNA構築体をpENTR/U6ベクターで作成した。抑制効率を試験するために、それらをEs1を発現するcDNA構築体と共に、HEK 293細胞に共トランスフェクトした。48時間後、Es1の発現は、shRNA-LacZコントロールと比較して、shRNA-Es1構築体と共トランスフェクトしたときに90%まで抑制された(図4)。shRNA-742は、Es1発現の抑制において最も高い能力を示したので、インビボ試験のためのアデノウイルスを作製するためにそれを使用した。
【0164】
投与のためのアデノウイルス量の最適化
アデノウイルスによるshRNAの肝臓発現は、肝臓酵素ASTおよびALTの増加した血漿レベルにより示された肝臓損傷を引き起こし得る免疫応答を誘導することが示されている(Witting, et al 2008)。肝臓機能は、HDL粒子の合成および代謝の中心であるので、我々は、重篤な肝臓損傷を生じることなく肝臓Es1発現の効率的な抑制を達成することができる最適な用量を見出すために、異なる量のアデノウイルスを試験した。Ad-sh742の異なる用量での投与の6日後、肝臓Es1発現は、空ウイルスコントロール(Ad-空)と比較して用量依存的な方法で抑制されて、最も高い用量(2 x 109 PFU/マウス)は、93%まで発現レベルを減少させた(図5)。血漿肝臓酵素レベルは、1.5 x 109 PFU/マウスの用量で、6日目にわずかに高められたが、それらは、2 x 109 PFU/マウスの用量で劇的に高められた(図6A、6B)。Ad-空は、血漿肝臓酵素レベルの増加をほとんど生じなかった。これらのデータに基づいて、1.5 x 109 PFU/マウスを、最小の肝臓損傷を有する肝臓Es1発現の抑制のための最適な用量とする。
【0165】
血漿HDL-Cレベルにおける肝臓Es1発現の抑制効果
1.5 x 109 PFU/マウスのAd-shControl (n=12)またはAd-sh742アデノウイルス(n=12)をマウスに注射した。投与の6日後、コントロール群と比較して、Ad-sh742群の肝臓Es1発現は、84%まで減少し(図7)、血漿中の全エステラーゼ活性は、35%まで減少し(図8A)、血漿HDL-Cレベルは、13%まで増加した(図8B、すべての比較のためにp<0.05)。全コレステロールおよびトリグリセリドレベルは、ほとんど異ならなかった(データは、示していない)。
【0166】
2.3 考察
この報告では、我々は、マウスでの肝臓遺伝子発現を抑制するために、アデノウイルス仲介shRNAを用いた方法を評価した。肝臓は、身体の生理および代謝において主要な役割を果たしており、肝臓で発現する多くの遺伝子が脂質代謝を制御する経路に関与している。HDL-Cレベルを調節する潜在的な新規遺伝子の関与を迅速に検討するために、我々は、標的遺伝子の発現を抑制する目的でマウス肝臓へのshRNAのアデノウイルス仲介送達を利用した。
【0167】
ここで、我々は、血漿HDL-Cレベルを制御する新規遺伝子を同定するためのマウス遺伝学的試験からの主要な候補の1つである、マウスEs1遺伝子を標的とするshRNAを発現するベクター(Ad-sh742)を作製した。Ad-sh742の静脈注射は、肝臓Es1発現の用量依存的抑制を生じ、それは、投与の6日後に生じて、少なくとも12日間続いた(データは、示していない)。最も高い用量(2.0 x 109 PFU/マウス)は、Es1発現レベルの90%以上の減少を生じ、これは、この戦略が有効であることを証明している。アデノウイルス送達shRNA発現に伴う1つの合併症は、肝臓損傷であり、それは、肝臓機能に悪影響を及ぼし得る。アデノウイルス用量と肝臓損傷の関係を確立するために、我々は、血漿肝臓酵素レベルを測定して、肝臓損傷の程度が全体的にアデノウイルス用量と比例しないことを示した。それを超えるとより低い用量よりも重篤な肝臓損傷を生じる閾値用量が存在することが考えられる。この非線形の関係は、最小限の肝臓損傷を有しながら極めて効率的な遺伝子抑制を達成する用量を使用する機会を提供する。Ad-sh742のために、1.5 x 109 PFU/マウスの最適用量を用いて、血漿HDL-Cレベルにおける肝臓Es1抑制の効果を調べた。コントロール群と比較したEs1の発現は、6日後に84%まで減少し、それは、血漿中の全エステラーゼ活性の35%の減少およびHDL-Cレベルの13%の増加を伴った。全コレステロールは、ほとんど変わらなかったので、これは、VLDL-CとLDL-Cの組み合わされたレベルがEs1の抑制された発現を有するマウスで減少し得ることを示す。これらのデータは、マウスEs1がHDL-Cレベルの制御において役割を果たすことを強力に示している。Es1ノックダウンマウスにおける残りの血漿エステラーゼ活性の高いレベルは、おそらく、他のエステラーゼタンパク質の存在によるものであるSatoh and Hosokawa 2006)。
【0168】
shRNA法を用いてここで作成されたデータは、Es1の肝臓mRNAレベルにおいて80%の減少を有するEs1突然変異体マウス(000785, The Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME)の表現型と一致している。血漿脂質レベルの解析は、HDL-Cレベルにおいてかなりの増加を示し、VLDL-CおよびLDL-Cレベルにおいて減少を示した(データは、示していない)。
【0169】
結論として、この試験は、ES1がマウスでの血漿HDLレベルを制御するというインビボでの直接的な証拠を提供する。我々のデータは、マウスEs1の相同遺伝子であるヒトCES1の活性の阻害が血漿HDLレベルを増加させ、ヒトでのアテローム性動脈硬化症を阻害し得ることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシルエステラーゼ遺伝子によりコードされるポリペプチドのエピトープに特異的な抗原結合領域を含む単離抗体またはその機能性断片の使用であって、該抗体またはその機能性断片が細胞上の表面受容体に結合し、HDL関連疾患の発症を予防するか、もしくは改善する、使用。
【請求項2】
カルボキシルエステラーゼ遺伝子がヒトCES1遺伝子である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
請求項1-2に記載の抗体またはその機能性断片の有効量を対象に投与することを含む、HDL関連疾患を処置する方法。
【請求項4】
請求項1-3のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性断片および薬学的に許容される担体もしくは賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の医薬組成物の有効量をそれを必要とする対象に投与することを含む、HDL関連疾患を処置する方法。
【請求項6】
HDL関連疾患の処置用医薬の製造のための単離抗体またはその機能性断片の使用であって、該抗体またはその機能性断片が、カルボキシルエステラーゼ遺伝子によりコードされるポリペプチドのエピトープに特異的な抗原結合領域を含む、使用。
【請求項7】
カルボキシルエステラーゼ遺伝子がヒトCES1遺伝子である、請求項7に記載の使用。
【請求項8】
請求項1に記載の抗体またはその機能性断片をコードする遺伝子を有する、トランスジェニック動物。
【請求項9】
カルボキシルエステラーゼの発現および/または活性を阻害することを含む、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態を処置する方法。
【請求項10】
カルボキシルエステラーゼ遺伝子がヒトCES1遺伝子である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
カルボキシルエステラーゼの発現および/または活性を阻害する工程がさらに、カルボキシルエステラーゼ遺伝子によりコードされるポリペプチドのエピトープに特異的な抗原結合領域を含む単離抗体またはその機能性断片を用いて活性を阻害することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
抗原結合領域を含む抗体またはその機能性断片が細胞上の表面受容体に結合し、HDL関連疾患の発症を予防するか、もしくは改善する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態を示すCES1遺伝子のアレルを検出することを含む、冠動脈疾患または冠動脈疾患に対する感受性を検出する方法。
【請求項14】
冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態の処置の有効性を決定するための方法であって、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態を処置し、カルボキシルエステラーゼのレベルを参照と比較し、その結果、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態の処置の有効性を決定することを含む、方法。
【請求項15】
カルボキシルエステラーゼ遺伝子がヒトCES1遺伝子である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態の処置に有用な薬剤を同定する方法であって、生物学的サンプルを候補薬剤と接触させ、候補薬剤との接触前後のサンプル中の血漿中の全リポタンパク質またはHDL-Cのレベルを決定することを含み、カルボキシルエステラーゼの阻害が、減少した血漿LDL-CもしくはVLDL-C、および増加した血漿HDL-Cレベルを誘導するものであり、血漿中の全リポタンパク質の減少またはHDL-Cの増加が、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態の処置に有用な薬剤であることを示すものである、方法。
【請求項17】
冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態の処置に有用な薬剤を同定する方法であって、既知のカルボキシルエステラーゼ基質の存在下で、カルボキシルエステラーゼを候補薬剤と接触させることを含み、カルボキシルエステラーゼのカルボキシルエステラーゼ活性の減少が、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化状態の処置に有用な薬剤としての候補薬剤を同定するものである、方法。
【請求項18】
カルボキシルエステラーゼ遺伝子がマウスES1またはヒトCES1遺伝子である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
接触工程が培養細胞で行われる、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
接触工程がインビボで行われる、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
カルボキシルエステラーゼが内因性または外因性である、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
対象内のHDL-Cレベルを高めるHDL調節剤を投与することを含む、HDL関連疾患を調節する方法。
【請求項23】
HDL関連疾患が、アテローム性動脈硬化症、脂質障害、アルツハイマー病、過剰酸化ストレス、内皮機能不全、肥満、慢性腎疾患、2型糖尿病およびインスリン抵抗性からなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
脂質障害が、高コレステロール、脂質代謝異常症候群、高トリグリセリド、脂質異常症、異常リポタンパク質血症、脂質異常症、家族性高コレステロール血症、および家族性高トリグリセリド血症からなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
薬剤がヒトCES1の活性を阻害するか、もしくはその発現を減少させる、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
HDL調節剤が、低分子量分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAおよび抗体からなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
HDL関連疾患が、対象内のHDL-Cレベルが許容される正常なHDL-Cレベル以下である任意の疾患である、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
HDL関連疾患が、対象内のHDL-Cレベルが関連集団のHDL-Cレベル以下である任意の疾患である、請求項22に記載の方法。
【請求項29】
HDL調節剤が薬学的に許容される担体と共に投与される、請求項22に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−506541(P2011−506541A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538619(P2010−538619)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067493
【国際公開番号】WO2009/077479
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】