説明

カルボニル化合物の製造方法

【課題】 カルボニル化合物を容易に製造することが可能なカルボニル化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】 カルボニル化合物は、チオカルボニル化合物と分子状酸素とを、周期律表の第8族に属する金属、第9族に属する金属、第10族に属する金属、及び第11族に属する金属よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む触媒の存在下、極性溶媒中で反応させることにより製造される。また、カルボニル化合物は、セレノカルボニル化合物と分子状酸素とを、前記触媒の存在下、極性溶媒中で反応させることにより製造される。このとき、分子状酸素はチオカルボニル化合物やセレノカルボニル化合物の酸化剤として作用し、脱硫酸素化反応又は脱セレノ酸素化反応を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種化学製品や医薬品、農薬品等に用いられるカルボニル化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カルボニル化合物の製造方法としては、チオカルボニル化合物に硝酸ビスマス五水和物を反応させることによりカルボニル化合物を得る方法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。また、窒素雰囲気下で、チオカルボニル化合物に塩化銅(I)及び水酸化ナトリウム水溶液を反応させることによりカルボニル化合物を得る方法が知られている(例えば、非特許文献2参照。)。
【非特許文献1】Iraj Mohammadpoor-Baltork et al.、硝酸ビスマス(III)五水和物:チオカルボニルからカルボニル化合物への変換用の便利で選択的な試薬(Bismuth(III) nitrate pentahydrate: a convenient and selective reagent for conversion of thiocarbonyls to their carbonyl compound)、Tetrahedron Letters., 44, 591-594, 2003.
【非特許文献2】Antonino Corsaro et al.、チオカルボニル基からカルボニル基への変換(Conversion of Thiocarbonyl Group into Carbonyl Group)、Tetrahedron., 54, 15027-15062, 1998.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、本研究者らの鋭意研究の結果、カルボニル化合物の新規な合成方法を見出したことによりなされたものである。その目的とするところは、カルボニル化合物を容易に製造することが可能なカルボニル化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のカルボニル化合物の製造方法は、チオカルボニル化合物又はセレノカルボニル化合物と分子状酸素とを、周期律表の第8族に属する金属、第9族に属する金属、第10族に属する金属、及び第11族に属する金属よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む触媒の存在下、極性溶媒中で反応させることを要旨とする。
【0005】
請求項2に記載の発明のカルボニル化合物の製造方法は、請求項1に記載の発明において、前記触媒が銅、銀、鉄、コバルト、及びニッケルよるなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことを要旨とする。
【0006】
請求項3に記載の発明のカルボニル化合物の製造方法は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記触媒が銅を含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、カルボニル化合物を容易に製造することが可能なカルボニル化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
実施形態のカルボニル化合物は、カルボニル基を有する化合物、即ち下記一般式(1)で示される構造を有する化合物である。尚、以下の説明において、Phはフェニル基を示し、Meはメチル基を示し、Prはプロピル基を示し、Buはブチル基を示し、Bnはベンジル基(フェニルメチル基)を示す。
【0009】
【化1】

上記一般式(1)中のR1及びR2は、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アルコキシ基等を示す。R1及びR2は、互いに結合することなくそれぞれ単独で炭素原子に結合してもよいし、該炭素原子に結合するとともに互いに結合して環を構成してもよい。
【0010】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基(i−Pr)等のプロピル基、tert−ブチル基(t−Bu)等のブチル基等が挙げられる。アリール基としては、メトキシフェニル基、メチルフェニル基、α、α、α−トリフルオロメチルフェニル基等が挙げられる。アルケニル基としてはα−アリル−ベンジル基等が挙げられる。アルキニル基としてはエチニル基等が挙げられる。アミノ基としては、アミノ基(-NH2)自身の他、ジメチルアミノ基、ベンジルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ピロリジル基等が挙げられる。アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、i−プロポキシ基等のプロポキシ基、tert−ブトキシ基等のブトキシ基、フェノキシ基等が挙げられる。このカルボニル化合物は、各種化学製品や医薬品、農薬品等に用いられる。例えば、カルボニル化合物であるタキソールは、抗腫瘍活性を有しており、抗癌剤として用いられる。
【0011】
カルボニル化合物は、チオカルボニル化合物及び分子状酸素(O2)を、触媒の存在下、極性溶媒中で反応させることにより製造される。また、カルボニル化合物は、セレノカルボニル化合物及び分子状酸素を、触媒の存在下、極性溶媒中で反応させることにより製造される。即ち、カルボニル化合物は、チオカルボニル化合物又はセレノカルボニル化合物、触媒及び極性溶媒を配合して反応液を調製した後、該反応液に分子状酸素を溶解させるとともに同反応液を加熱することにより製造される。このとき、カルボニル化合物は、チオカルボニル化合物の脱硫酸素化反応又はセレノカルボニル化合物の脱セレノ酸素化反応により得られる。さらにこのとき、前記脱硫酸素化反応又は脱セレノ酸素化反応の副生成物として硫黄又はセレンが生成される。
【0012】
チオカルボニル化合物は、前記一般式(1)において、酸素原子の代わりに硫黄原子が炭素原子に結合した構造を有する化合物である。一方、セレノカルボニル化合物は、前記一般式(1)において、酸素原子の代わりにセレン原子が炭素原子に結合した構造を有する化合物である。これらチオカルボニル化合物及びセレノカルボニル化合物は、それぞれ単独で反応物(出発物質)を構成してもよいし、それらが組み合わされて反応物を構成してもよい。チオカルボニル化合物及びセレノカルボニル化合物の組み合わせから反応物が構成されるときには、各化合物由来のカルボニル化合物が同時に製造される。さらにチオカルボニル化合物及びセレノカルボニル化合物は、それらの具体例の内の一種類の化合物のみで反応物を構成してもよいし、二種以上の化合物から反応物を構成してもよい。二種以上の化合物から反応物が構成されるときには、二種以上のカルボニル化合物が同時に製造される。
【0013】
分子状酸素は、チオカルボニル化合物及びセレノカルボニル化合物の酸化剤として作用し、脱硫酸素化反応及び脱セレノ酸素化反応を行う。分子状酸素を構成する酸素原子の質量数は通常16である。分子状酸素の反応液への溶解は、酸素ガス雰囲気下で反応液を静置若しくは撹拌する、又は反応液中に酸素ガスを通気することにより行われる。
【0014】
触媒は、脱硫酸素化反応及び脱セレノ酸素化反応を促進する。この触媒は、周期律表の第8族に属する金属、第9族に属する金属、第10族に属する金属、及び第11族に属する金属よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む。周期律表の第8族に属する金属としては鉄等が挙げられ、鉄を含む触媒としては塩化鉄(III)等が挙げられる。第9族に属する金属としてはコバルト等が挙げられ、コバルトを含む触媒としては塩化コバルト(II)等が挙げられる。第10族に属する金属としてはニッケルやパラジウム等が挙げられる。ニッケルを含む触媒としては塩化ニッケル(II)等が挙げられ、パラジウムを含む触媒としては塩化パラジウム(II)が挙げられる。第11族に属する金属としては銅や銀等が挙げられる。銅を含む触媒としては塩化銅(I)、塩化銅(II)、ヨウ化銅(I)、トリフルオロ酢酸銅(II)等が挙げられ、銀を含む触媒としては酢酸銀(I)等が挙げられる。
【0015】
触媒は、前記各反応の促進効果が高いために、銅、銀、鉄、コバルト、及びニッケルよるなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、銅を含むことがより好ましく、塩化銅(I)を含むことが最も好ましい。反応液中の触媒の含有量は1〜20モル%が好ましく、5〜20モル%がより好ましい。触媒は、その含有量が1モル%未満では前記各反応を十分に促進することができず、逆に20モル%を超えても各反応をそれ以上促進することができない。
【0016】
極性溶媒は、チオカルボニル化合物又はセレノカルボニル化合物と分子状酸素とを反応させる。極性溶媒としては、低極性溶媒であるトルエンやテトラヒドロフラン、高極性溶媒であるジメチルホルムアミド(DMF)やジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、二種以上が組み合わされて用いられてもよい。これらの中でも、DMF又はDMSOが、チオカルボニル化合物又はセレノカルボニル化合物と分子状酸素との反応効率を高めることができるために好ましい。このため、極性溶媒としてトルエンやテトラヒドロフランを用いるときには、それらにDMF又はDMSOを少量(触媒に対して1〜10モル当量)加えるのが好ましい。
【0017】
反応液は、その他の添加成分として含窒素二座配位子等の配位性化合物を含有することが好ましい。この配位性化合物は、極性溶媒として前記低極性溶媒が用いられるときには、該低極性溶媒中で前記各反応を促進する。また、触媒がコバルト、ニッケル又はパラジウムを含むときには、該触媒の各反応の促進効果を高める。さらに配位性化合物は、キラリティーを有しているときには光学活性を有するカルボニル化合物を反応速度論的に容易に分離する。配位性化合物としては、2,2’−ビピリジン、二座飽和型窒素配位子であるスパルテイン、下記一般式(2)で示される構造を有するビスオキサゾリン等が挙げられる。尚、下記一般式(2)において、R3はi−Pr、t−Bu、Bn等を示す。
【0018】
【化2】

反応液中の配位性化合物の含有量は触媒に対して1〜4モル当量が好ましい。配位性化合物は、その含有量が触媒に対して1モル当量未満では前記各反応を十分に促進することができず、逆に触媒に対して4モル当量を超えても各反応をそれ以上促進することができない。
【0019】
反応液の加熱温度、即ち前記各反応の反応温度は50〜80℃が好ましい。各反応は、反応温度が50℃未満では反応効率が低下するおそれがあり、80℃を超えても反応効率をそれ以上高めることができない。
【0020】
従って、実施形態の製造方法では、前記触媒及び極性溶媒を用いることにより、チオカルボニル化合物又はセレノカルボニル化合物と分子状酸素とを効率よく反応させることができる。分子状酸素は、その取扱いが容易であるとともに入手し易い。さらに実施形態の製造方法では、チオカルボニル化合物又はセレノカルボニル化合物から一段階の反応でカルボニル化合物を製造することができるとともに、硫黄やセレンのみが副生成物として生成される。これら硫黄及びセレンは、反応液からの除去が容易であるとともに、一般的なカルボニル化合物の製造時に発生する副生成物に比べて環境に対する配慮の面から好ましい。このため、実施形態の製造方法は、カルボニル化合物を容易に製造することが可能である。
【実施例】
【0021】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜13並びに比較例1及び2)
実施例1においては、20mlの二口ナスフラスコ内で、チオカルボニル化合物としてのN-ベンジル-ベンゼンカルボチオアミド0.500mmol(114mg)、触媒としての塩化銅(I)0.100mmol(9.9mg)及び極性溶媒としての0.5mlのDMSOを配合して反応液を調製した。次いで、前記二口ナスフラスコ内の空気を酸素置換した後、反応液を80℃に加熱するとともに撹拌した。反応液の加熱及び撹拌開始後、一定時間が経過する毎に、ヘキサンと酢酸エチルとが体積比で5:1の展開溶媒を用いた薄層クロマトグラフィ−(TLC)により、反応の進行を確認した。TLCにおいて反応物のN-ベンジル-ベンゼンカルボチオアミドの存在が確認できなくなった後、飽和塩化アンモニウム水溶液及びエーテルを用いた反応液のエーテル抽出を3回繰返して、エーテル抽出液を得た。続いて、飽和食塩水を用いたエーテル抽出液の洗浄、無水硫酸マグネシウムを用いたエーテル抽出液からの水の除去、エーテル抽出液の濾過及び濾液の減圧濃縮を順に行った後、濃縮された濾液から溶媒を留去して化合物1を得た。ここで、反応液を加熱及び撹拌した時間を反応時間とし、該反応時間を下記表1に示す。
【0022】
実施例2〜13においては、極性溶媒の種類等を下記表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして化合物1を得た。ここで、実施例6においては、反応液の加熱温度を90℃とした。さらに実施例7及び9においては、反応時間を表1に示す時間に設定した。加えて、実施例10及び11においては、反応液に配位性化合物としての2,2’−ビピリジンを触媒に対して2モル当量(40mmol、31mg)加え、実施例12及び13においては、反応液に2,2’−ビピリジンを触媒に対して1モル当量(20mmol、15.5mg)加えた。
【0023】
一方、比較例1及び2においては、極性溶媒の種類や反応時間を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の反応を行った。
【0024】
【表1】

続いて、実施例1〜13において、得られた化合物1の核磁気共鳴スペクトル(CDCl3溶媒TMS内部標準)の測定を行った。結果を以下に記載する。尚、触媒を含有しない比較例1及び触媒が周期律表の第12族に属する金属である亜鉛を含む比較例2においては、核磁気共鳴スペクトルの測定により、反応物が反応せず反応生成物が得られていないことを確認した。
(化合物1)
1H-NMR(CDCl3):δ4.53(d,J=5.85Hz,2H,CH2), 6.85(bs,1H,NH), 7.15-7.50(m,8H,Ar), 7.74-7.77(m,2H,Ar).
以上の結果とN-ベンジル-ベンゼンカルボチオアミドの1H-NMRのスペクトルとを比較することにより、化合物1はカルボニル化合物としてのN-ベンジル-ベンゼンカルボアミドであると同定した。このため、実施例1〜13では、下記反応式(3)に示すように、N-ベンジル-ベンゼンカルボチオアミドの脱硫酸素化反応が進行してN-ベンジル-ベンゼンカルボアミドが製造されたことが明らかとなった。また、触媒を塩化パラジウム(II)に変更するとともに反応液の加熱温度を120℃とした以外は実施例12と同様の反応を行ったところ、データは示さないが、核磁気共鳴スペクトルの測定により反応物の反応が進行したことを確認した。
【0025】
【化3】

このN-ベンジル-ベンゼンカルボアミドの収率は、例えば実施例1において98%(収量:103mg)であった。さらに、副生成物である硫黄をマススペクトルの測定により確認することができた。加えて、核磁気共鳴スペクトルの測定結果より反応効率を算出した。その結果を前記表1に示す。
【0026】
(実施例14)
実施例14においては、N-ベンジル-ベンゼンカルボチオアミドを、前記一般式(1)中のR1及びR2が下記表2に示すものであるチオカルボニル化合物又はセレノカルボニル化合物に変更した以外は、前記実施例1と同様にして化合物2〜15を得た。各チオカルボニル化合物又は各セレノカルボニル化合物の反応時間を表2に示す。
【0027】
【表2】

続いて、各化合物の核磁気共鳴スペクトル(CDCl3溶媒TMS内部標準)の測定を行った。結果を以下に記載する。
(化合物2)
1H-NMR(CDCl3):δ1.17(t,J=7.6Hz,3H,CH3), 2.23(q,J=7.6Hz,2H,CH2), 4.41(d,J=5.37Hz,2H,CH2), 5.98(bs,1H,NH), 7.25-7.34(m,5H,Ar).
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物の1H-NMRのスペクトルとを比較することにより、化合物2はカルボニル化合物としてのN-(フェニルメチル)-プロパンアミドであると同定した。
(化合物3及び化合物15)
1H-NMR(CDCl3):δ3.75(s,3H,CH3), 4.53(d,J=5.37Hz,2H,CH2), 6.42(bs,1H,NH), 6.80-6.83(m,2H,Ar), 7.18-7.26(m,5H,Ar), 7.66-7.70(m,2H,Ar).
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物又はセレノカルボニル化合物の1H-NMRのスペクトルとを比較することにより、化合物3及び化合物15はカルボニル化合物としてのN-フェニルメチル 4-メトキシベンゼンカルボアミドであると同定した。
(化合物4)
1H-NMR(CDCl3):δ1.10(d,J=6.83Hz,6H,CH3), 2.31(sept.,J=6.83Hz,1H,CH), 4.34(d,J=5.37Hz,2H,CH2), 5.81(bs,1H,NH), 7.17-7.27(m,5H,Ar).
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物の1H-NMRのスペクトルとを比較することにより、化合物4はカルボニル化合物としてのN-(フェニルメチル)-2-メチル-プロパンアミドであると同定した。
(化合物5)
1H-NMR(CDCl3):δ2.38(s,3H,CH3), 4.61(d,J=5.37Hz,2H,CH2), 6.55(bs,1H,NH), 7.19-7.34(m,7H,Ar), 7.68-7.70(m,2H,Ar).
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物の1H-NMRのスペクトルとを比較することにより、化合物5はカルボニル化合物としてのN-フェニルメチル 4-メチルベンゼンカルボアミドであると同定した。
(化合物6)
1H-NMR(CDCl3):δ1.22(s,9H,CH3), 4.41(d,J=5.86Hz,2H,CH2), 6.07(bs,1H,NH), 7.23-7.34(m,5H,Ar).
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物の1H-NMRのスペクトルとを比較することにより、化合物6はカルボニル化合物としてのN-(フェニルメチル)- 2,2-ジメチル-プロパンアミドであると同定した。
(化合物7)
1H-NMR(CDCl3):δ4.63(d,J=5.36Hz,2H,CH2), 6.64(bs,1H,NH), 7.29-7.43(m,5H,Ar), 7.59-7.70(m,2H,Ar), 7.82-7.91(m,2H,Ar).
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物の1H-NMRのスペクトルとを比較することにより、化合物7はカルボニル化合物としてのN-フェニルメチル 4-トリフルオロベンゼンカルボアミドであると同定した。
(化合物8)
1H-NMR(CDCl3):δ2.08(s,3H,C(=O)Me), 2.94(s,3H, NMe2), 3.03(s,3H,NMe2).
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物の1H-NMRのスペクトルとを比較することにより、化合物8はカルボニル化合物としてのN,N-ジメチルアセトアミドであると同定した。
(化合物9)
1H-NMR(CDCl3):δ1.21(t,3H,J=7.31Hz,CH3), 2.45(q,2H,J=7.31Hz,CH2), 4.45(s,2H,CH2Ph中のCH2), 4.61(s,2H,CH2Ph中のCH2), 7.10-7.39(m,10H,Ar).
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物の1H-NMRのスペクトルとを比較することにより、化合物9はカルボニル化合物としてのN,N-ビス(フェニルメチル)-プロパンアミドであると同定した。
(化合物10)
1H-NMR(CDCl3):δ1.11(d,J=6.34Hz,6H,CH3), 2.76(sept.,J=6.83Hz,1H,CH), 4.38(s,2H,CH2), 4.52(s,2H,CH2), 7.01-7.32(m,10H,Ar).
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物の1H-NMRのスペクトルとを比較することにより、化合物10はカルボニル化合物としてのN,N-ビス(フェニルメチル)-2-メチル-プロパンアミドであると同定した。
(化合物11)
1H-NMR(CDCl3):δ1.28(s,9H,CH3), 4.53(bs,4H,CH2), 7.04-7.26(m,10H,Ar).
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物の1H-NMRのスペクトルとを比較することにより、化合物11はカルボニル化合物としてのN,N-ビス(フェニルメチル)-2,2-ジメチル-プロパンアミドであると同定した。
(化合物12)
1H-NMR(CDCl3):δ2.79(s,12H,CH3).
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物の1H-NMRのスペクトルとを比較することにより、化合物12はカルボニル化合物としてのテトラメチルウレアであると同定した。
(化合物13)
1H-NMR(CDCl3):δ0.87(s,6H,CH3), 2.80(s,4H,CH2), 7.37(bs,2H,NH).
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物の1H-NMRのスペクトルとを比較することにより、化合物13はカルボニル化合物としてのテトラヒドロ-5,5-ジメチル-2(1H)-ピリミジノンであると同定した。
(化合物14)
1H-NMR(CDCl3):δ1.68-1.96(m,4H,NCH2CH2においてNCH2に結合するCH2), 2.38(dt,J=6.7,14.2Hz,1H,PhCHCH2中のCH2), 2.78(dt,J=6.7,14.2Hz,1H,PhCHCH2中のCH2), 3.10-3.20(m,1H,NCH2),3.25-3.52(m,3H,NCH2), 3.55(t,J=7.8Hz,1H,PhCH中のCH), 4.89(d,J=11.2Hz,1H,CH2=CH-中のCH2), 4.95(d,J=17.6Hz,1H,CH2=CH-中のCH2), 5.63-5.73(m,1H,CH2=CH-中のCH), 7.10-7.57(m,5H,Ar).
以上の結果と反応物であるセレノカルボニル化合物の1H-NMRのスペクトルとを比較することにより、化合物14はカルボニル化合物としての1-(2-フェニル-1-オキソ-4-ペンテニル)ピロリジンであると同定した。このため、実施例14では、下記反応式(4)に示すように、チオカルボニル化合物の脱硫酸素化反応又はセレノカルボニル化合物の脱セレノ酸素化反応が進行してカルボニル化合物が製造されたことが明らかとなった。尚、下記反応式(4)において、Eは硫黄原子又はセレン原子を示す。
【0028】
【化4】

(実施例15)
実施例15においては、N-ベンジル-ベンゼンカルボチオアミドを下記一般式(5)で示される構造を有する化合物A及び下記一般式(6)で示される構造を有する化合物Bの混合物に変更し、さらに反応温度及び反応時間を下記表3に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして化合物を得た。ここで、前記混合物中の化合物A及び化合物Bのモル比は1:1とした。
【0029】
【化5】

【0030】
【化6】

【0031】
【表3】

続いて、得られた各化合物の核磁気共鳴スペクトルの測定を行った。そして、データは示さないが、得られた測定結果と反応物である化合物A及び化合物Bの1H-NMRとを比較することにより、実施例15では、下記反応式(7)に示すように、各チオカルボニル化合物の脱硫酸素化反応が進行してそれら由来のカルボニル化合物が同時に製造されたことが明らかとなった。さらに、核磁気共鳴スペクトルの測定結果より反応効率を算出した。その結果を前記表3に示す。尚、表3において、「痕跡」は反応が若干進行したことを示す。
【0032】
【化7】

(実施例16〜19)
実施例16〜19においては、N-ベンジル-ベンゼンカルボチオアミド及び反応時間を下記表4に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして化合物16〜19を得た。
【0033】
【表4】

続いて、化合物16の核磁気共鳴スペクトル(CDCl3溶媒TMS内部標準)の測定を行うとともに、化合物18及び19の質量分析を行った。ここで、化合物17は、得られた後に空気中の水分等により加水分解した。このため、化合物17については、加水分解後の化合物を回収し、該化合物の核磁気共鳴スペクトルの測定(CDCl3溶媒TMS内部標準)及び質量分析(マススペクトル)を行った。結果を以下に記載する。
(化合物16)
1H-NMR(CDCl3):δ4.59(d,J=5.37Hz,2H,CH2), 6.61(bs,1H,NH), 7.00-7.11(m,2H,Ar), 7.26-7.43(m,5H,Ar), 7.76-7.80(m,2H,Ar).
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物の1H-NMRのスペクトルとを比較することにより、化合物16はカルボニル化合物としてのN-フェニルメチル 4-フルオロベンゼンカルボアミドであると同定した。
(化合物17)
1H-NMR(CDCl3):δ2.43(s,3H), 7.27(d,J=7.9Hz,2H), 8.01(d,J=7.9Hz,2H).
ms=136
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物の1H-NMRのスペクトル及びマススペクトルとを比較することにより、化合物17はカルボニル化合物としての4−メチル安息香酸フェニルであると同定した。
(化合物18)
ms=221
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物のマススペクトルを比較することにより、化合物18はカルボニル化合物としてのN-ベンゾイルカルバミン酸ブチルであると同定した。
(化合物19)
ms=237
以上の結果と反応物であるチオカルボニル化合物のマススペクトルのスペクトルとを比較することにより、化合物19はカルボニル化合物としてのN-ベンゾイルチオカルバミン酸ブチルであると同定した。このため、実施例16〜19では、チオカルボニル化合物の脱硫酸素化反応が進行してカルボニル化合物がそれぞれ製造されたことが明らかとなった。
【0034】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記分子状酸素の反応液への溶解を、空気雰囲気下で反応液を静置若しくは撹拌する、又は反応液中に空気を通気することにより行ってもよい。このように構成した場合には、空気中の酸素が反応液に溶解する。さらに、分子状酸素を反応液に溶解させる前に、該反応液の脱気を行ってもよい。加えて、反応液に分子状酸素を溶解させるときに、酸素ガスや空気を加圧してもよい。
【0035】
・ カルボニル基中の酸素の質量数が16のカルボニル化合物から公知の方法によりチオカルボニル化合物又はセレノカルボニル化合物を得た後、質量数が17又は18の酸素同位体で構成される分子状酸素を用いてカルボニル化合物を製造してもよい。このとき、製造されたカルボニル化合物は、カルボニル基中の酸素の質量数が17又は18である。質量数が17の酸素原子はNMR活性を有し、質量数が18の酸素原子は質量数が16のそれに次いで天然存在比が高く入手が容易である。
【0036】
ここで、生体内における生理活性物質とその受容体(レセプター)との相互作用や代謝過程は、一般的に生体内の受容体に対して特定の元素をその安定同位体に置換したゲスト分子を作用させることにより解明される。生理活性物質は、その多くがカルボニル基を有しているために、ゲスト分子にはカルボニル化合物が一般的に用いられる。
【0037】
従来、カルボニル化合物の同位体ラベル化は、質量数が17又は18の酸素同位体を含有する重水にカルボニル化合物を加えて加熱することにより行われる。このとき、重水中の酸素同位体は、カルボニル化合物中の酸素との交換反応によりカルボニル化合物に導入される。カルボニル化合物中の酸素と重水中の酸素同位体との交換反応は可逆的に進行する。このため、酸素同位体がカルボニル化合物に導入される割合、即ち酸素同位体のカルボニル化合物への導入率は前記交換反応の化学平衡に起因して例えば20%程度と低く、同位体の導入率が高いゲスト分子の製造は困難であった。ここで、カルボニル化合物に対して大過剰の重水を用いることにより酸素同位体のカルボニル化合物への導入率をある程度高めることはできるものの、大過剰の重水を用いることによるゲスト分子の製造コストの増大等の弊害の埋め合わせにはならない。
【0038】
これに対し、実施形態の脱硫酸素化反応及び脱セレノ酸素化反応は不可逆的に進行する。このため、実施形態のカルボニル化合物の製造方法は、カルボニル化合物に対して大過剰の重水を用いることなく、酸素同位体のカルボニル化合物への導入率を容易に高めることができる。このため、実施形態のカルボニル化合物の製造方法を用いることにより、同位体の導入率が高いゲスト分子を容易に製造することができる。
【0039】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記触媒が塩化銅(I)を含む請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のカルボニル化合物の製造方法。この構成によれば、カルボニル化合物の製造効率を高めることができる。
【0040】
・ 前記極性溶媒がジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシドである請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のカルボニル化合物の製造方法。この構成によれば、カルボニル化合物の製造効率を高めることができる。
【0041】
・ 前記極性溶媒に配位性化合物が配合されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のカルボニル化合物の製造方法。この構成によれば、チオカルボニル化合物又はセレノカルボニル化合物と分子状酸素との反応を促進することができる。
【0042】
・ 前記反応の反応温度が50〜80℃であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のカルボニル化合物の製造方法。この構成によれば、カルボニル化合物の製造効率を高めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオカルボニル化合物又はセレノカルボニル化合物と分子状酸素とを、周期律表の第8族に属する金属、第9族に属する金属、第10族に属する金属、及び第11族に属する金属よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む触媒の存在下、極性溶媒中で反応させることを特徴とするカルボニル化合物の製造方法。
【請求項2】
前記触媒が銅、銀、鉄、コバルト、及びニッケルよるなる群から選ばれる少なくとも一種を含む請求項1に記載のカルボニル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記触媒が銅を含む請求項1又は請求項2に記載のカルボニル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2006−56827(P2006−56827A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240287(P2004−240287)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第84春季年会 講演予稿集2」に発表
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】