説明

カルボニル化合物捕集材

【課題】 α,β−不飽和アルデヒド化合物を捕集して長時間保存してもα,β−不飽和アルデヒド化合物由来の反応物が消失しないという安定性に優れ、測定する前に反応する低濃度のカルボニル化合物の影響を排除して、測定値のばらつきを低減させることができるという再現性に優れ、測定時には低濃度のカルボニル化合物を正確に定量することができるという正確性に優れるカルボニル化合物捕集材を提供する。
【解決手段】 式(1)で表されるヒドラジン系化合物の塩酸塩又は該化合物の硫酸塩と、シリカゲル、アルミナ、セルロース、及び活性炭からなる群から選ばれる少なくとも1種の吸着材とを含むカルボニル化合物捕集材。


[式中、R及びR’は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、ニトロ基又はシアノ基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボニル化合物を捕集することのできるカルボニル化合物捕集材、及び該材を用いるカルボニル化合物の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水中や大気中におけるホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アクロレインなどのアルデヒド類及びアセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類等のカルボニル化合物の環境への影響等が社会問題となっており、特に、住居の気密化に伴って建材や家具などから放散するカルボニル化合物による住環境や作業環境への影響等が社会問題となっている。このような問題の対策を検討するためには、大気中のカルボニル化合物の量を測定する必要があり、室内その他の大気中におけるカルボニル化合物の量を簡便に測定できる方法の開発が望まれている。
カルボニル化合物の定量方法としては、シリカゲルに2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(以下、DNPHと称する場合がある。)をリン酸と共にシリカゲルに含浸させたカルボニル化合物捕集材が知られており、該捕集材がカルボニル化合物を捕集して、DNPHとカルボニル化合物との反応物を形成したのち、該捕集材を有機溶媒で洗浄すると、該反応物が溶出されて、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーで定量できることが知られている(例えば、非特許文献1及び2)。
【0003】
【非特許文献1】「ウォーターズ カラム・サンプル前処理製品カタログ 2004−2005」、Sep−Pak DNPHシリカカートリッジ 大気中のホルムアルデヒド、アルデヒド・ケトン類の測定に、第51〜52頁、日本ウォーターズ株式会社。
【非特許文献2】「総合カタログ 2004」、大気分析用標準物質、第547頁、シグマアルドリッチジャパン株式会社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らが、DNPHをリン酸と共にシリカゲルに含浸させたカルボニル化合物捕集材を用いて、α,β−不飽和アルデヒド化合物の1種であるアクロレインを定量したところ、捕集直後には正しく定量できるものの、捕集して僅か1時間で70%以上のアクロレインとDNPHとの反応物が分解し、捕集して3時間で該反応物がほとんど消失してしまうことが明らかになった。
また、DNPHをリン酸と共にシリカゲルに含浸させたカルボニル化合物捕集材は、カルボニル化合物と極めて反応性に優れることから、低濃度のカルボニル化合物を定量できるものの、該捕集材の製造時など測定前においても大気または室内空気中に存在する微量のカルボニル化合物と反応し、測定前のブランクの値がばらつくため、低濃度のカルボニル化合物を正確に測定することが困難であるという問題点が判明した。
本発明の目的は、α,β−不飽和アルデヒド化合物を捕集して長時間保存してもα,β−不飽和アルデヒド化合物由来の反応物が消失しないという安定性に優れ、測定する前に反応する低濃度のカルボニル化合物の影響を排除して、測定値のばらつきを低減させることができるという再現性に優れ、測定時には低濃度のカルボニル化合物を正確に定量することができるという正確性に優れるカルボニル化合物捕集材、及びカルボニル化合物の定量方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、式(1)で表されるヒドラジン系化合物の塩酸塩又は該化合物の硫酸塩と、シリカゲル、アルミナ、セルロース、及び活性炭からなる群から選ばれる少なくとも1種の吸着材とを含むカルボニル化合物捕集材、

[式中、R及びR’は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、ニトロ基又はシアノ基を表す。]
【0006】
及び、該捕集材を、低級脂肪族ニトリル、低級アルコール、低級脂肪族エーテル及び低級環状エーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性溶媒で洗浄、乾燥したのち、式(2)で表されるカルボニル化合物
C(=O)R (2)
[式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、二重結合を含んでいてもよい炭素数1〜8のアルキル基、二重結合を含んでいてもよい炭素数5〜8のシクロアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。]
が含有される試料を得られた該捕集材に通過させて、カルボニル化合物(2)を式(3)で表される誘導体として該捕集材に吸着させ、続いて該捕集材を親水性溶媒で洗浄して誘導体(3)を溶出させ、得られる溶出液中の誘導体(3)を定量することを特徴とするカルボニル化合物の定量方法である。

[式中、R、R、R及びR’は、前記と同じ意味を表す。]
【0007】
中でも、本発明の捕集材は、式(2)で表される化合物が式(4)で表されるα,β−不飽和アルデヒド化合物について、捕集して長時間安定な反応物を生成し、正確に該化合物を定量することができる。

[式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基を表す。Rが水素原子であればR及びRは炭素数3〜8のアルキレン基で結合していてもよい。]
【発明の効果】
【0008】
本発明の捕集材は、α,β−不飽和アルデヒド化合物を捕集して長時間保存してもα,β−不飽和アルデヒド化合物由来の反応物が消失しないという安定性に優れ、測定する前に反応する低濃度のカルボニル化合物の影響を排除して、測定値のばらつきを低減させることができるという再現性に優れ、測定時には低濃度のカルボニル化合物を正確に定量することができるという正確性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられる吸着材は、シリカゲル、アルミナ、セルロース及び活性炭からなる群から選ばれる少なくとも1種の吸着材である。
シリカゲルとしては、通常、10〜500μm、好ましくは40〜300μm程度の粒径を主成分とする粒子状、粉末状のシリカゲルが用いられる。具体的には、関東化学社製シリカゲル、富士シリシア化学社製シリカゲル、メルク社製シリカゲル、シグマ アルドリッチ社製シリカゲルなど、市販されているクロマトグラフ用のシリカゲルが用いられる。中でも、中性に調整されたシリカゲルが好ましく使用される。
アルミナとしては、通常、粒子状、粉末状の活性アルミナが用いられる。具体的には、メルク社製酸化アルミニウム90活性型塩基性、住友化学株式会社製活性アルミナ A11及びAC−11など、市販されているクロマトグラフ用の活性アルミナが例示される。
【0010】
セルロースとしては、通常、粒子状、粉末状のセルロースが用いられ、具体的にはKCフロック(山陽国策パルプ社製)などが例示される。
活性炭としては、粒子状、粉末状の活性炭が用いられ、触媒担体用の活性炭が好適に用いられる。
また、吸着材として、異なる吸着材を併用してもよく、例えば、活性炭混合シリカゲルなどを使用してもよい。
【0011】
本発明に用いられる吸着材は、スルホニル基、カルボキシル基、ホスフェート基などの陽イオン交換基を含有しない。すなわち、ベンゼンスルホニル基の導入されたシリカゲル、カルボキシルメチルセルロース、スルホエチル基が導入されたセルロースなどの陽イオン交換基を含有する吸着材とは異なる吸着材である。
また、陽イオン交換基を含有しない吸着材を用いたカルボニル化合物捕集材は、アセトアルデヒド、アクロレイン、アセトンなどのカルボニル化合物の微量分析が一層、優れる傾向がある。
【0012】
本発明で用いられるヒドラジン系化合物(1)におけるRおよびR’は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基などの炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基などの炭素数1〜4のアルコキシ基;トリフルオロメトキシ基などの炭素数1〜4のハロアルコキシ基;フェニル基、ベンジル基などの炭素数6〜10のアリール基;ニトロ基又はシアノ基を表す。
ヒドラジン系化合物(1)におけるRおよびR’は、中でも、いずれも水素原子であることが好ましく、とりわけ、2,4−ジニトロフェニルヒドラジンが好ましい。
【0013】
ヒドラジン系化合物(1)の製造方法として、例えば、DNPHについて説明すると、4−クロロ−1,3−ジニトロベンゼン、ヒドラジン、酢酸カリウムをエタノール中で加熱反応させる方法などが挙げられる。尚、DNPHは、水和物として、例えば、シグマ アルドリッチ社、和光純薬工業(株)、林純薬工業(株)などの試薬会社から入手することができるので、市販品をそのまま使用すればよい。
【0014】
ヒドラジン系化合物(1)は、取扱いの容易さから、通常、親水性溶媒と混合し、化合物(1)の濃度が1〜30wt%である溶液として用いる。該溶液が1wt%以上であれば混合が容易である傾向があることから好ましく、30wt%以下であれば化合物(1)の溶解性が優れる傾向があることから好ましい。
ここで、親水性溶媒としては、低級脂肪族ニトリル、低級アルコール、低級脂肪族エーテル又は低級環状エーテルが例示される。本明細書において、低級脂肪族ニトリルとは炭素数が6以下の脂肪族ニトリル例えばアセトニトリル等を、低級アルコールとは炭素数が5以下のアルコール例えばメチルアルコールやエチルアルコール等を、低級脂肪族エーテルとは炭素数が10以下の脂肪族エーテルを、また低級環状エーテルとは炭素数が6以下の環状エーテル例えばテトラヒドロフラン等を意味する。これらの親水性溶媒の中では、アセトニトリル、メチルアルコール等が好ましく、特にアセトニトリルが好ましい。
化合物(1)の使用量としては、吸着材100重量部に対し、通常、0.01〜5重量部程度、好ましくは0.2〜2.5重量部程度である。0.01重量部以上であるとカルボニル化合物を十分に捕集できる傾向があることから好ましく、5重量部以下であるとブランク値を低く維持できる傾向があることから好ましい。
【0015】
本発明のカルボニル化合物捕集材は化合物(1)の塩酸塩又は化合物(1)の硫酸塩と、前記吸着材とを含むものである。カルボニル化合物捕集材の製造方法としては、例えば、(I)予め、親水性溶媒で洗浄、乾燥した吸着材に、前記化合物(1)の溶液を混合して0.5〜120分程度、好ましくは5〜60分程度攪拌し、続いて、塩酸水溶液又は硫酸水溶液を加えて0.5〜5時間程度攪拌したのち、濾過、乾燥する方法。(II)カラムなどに充填された吸着材を親水性溶媒で洗浄したのち、前記化合物(1)の溶液を該カラムに循環させて、カラムから排出される溶液から化合物(1)の量が低減されなくなるまで実施したのち、同様の条件で塩酸水溶液又は硫酸水溶液を循環させる方法、(III)化合物(1)と親水性溶媒と塩酸水溶液又は硫酸水溶液とを混合して化合物(1)の塩の結晶あるいは溶液を得、吸着材と混合する方法などが挙げられる。中でも(I)の方法が、大量のカルボニル化合物捕集材を簡便かつ短時間に処理することができることから好ましい。
このようにして得られたカルボニル化合物捕集材は、吸着材に化合物(1)の塩酸塩又は化合物(1)の硫酸塩が吸着された、または担持されたものである。中でも塩酸塩を用いたカルボニル化合物捕集材は保存安定性、反応性及び捕集効率に優れる傾向にあることから好ましい。
【0016】
化合物(1)の塩酸塩又は化合物(1)の硫酸塩は、例えば、反応器に化合物(1)と溶媒とを仕込み、塩酸ガス又は発煙硫酸を吹き込み、攪拌することにより得ることができる。また、前記製造方法の例示(I)及び(II)のように、化合物(1)、吸着材、溶媒を仕込んだ容器に塩酸水溶液又は硫酸水溶液を混合することによっても製造することができる。
塩酸又は硫酸の使用量としては、化合物(1)1モルに対し、通常、2〜50モル程度、好ましくは5〜20モル程度である。2モル以上であると、化合物(1)を十分に塩酸又は硫酸の塩にすることができる傾向があることから好ましく、50モル以下であると吸着材の腐食を低減する傾向にあることから好ましい。
【0017】
塩酸又は硫酸は取扱いの容易さから、通常、塩酸又は硫酸の水溶液を親水性溶媒と混合した溶液として用いる。具体的に塩酸を例にして説明すると、10〜36wt%程度の塩酸水溶液に親水性溶媒を混合させ、5〜20wt%の溶液を調製すればよい。鉱酸の水溶液を取扱いが容易な範囲であって高濃度の鉱酸水溶液として取り扱うと、水に由来するホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどの不純物が低減される傾向にあることから好ましい。
【0018】
カルボニル化合物の定量方法を具体的に例示すれば、まず、カルボニル化合物捕集材を親水性溶媒で洗浄し、減圧下などの清浄な状態で乾燥したのち、式(2)で表されるカルボニル化合物
C(=O)R (2)
[式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、二重結合を含んでいてもよい炭素数1〜8のアルキル基、二重結合を含んでいてもよい炭素数5〜8のシクロアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。]
が含有される大気試料中又は水試料を該捕集材に通過させて、カルボニル化合物(2)を式(3)で表される誘導体として該捕集材に吸着させ、続いて該捕集材を親水性溶媒で洗浄して誘導体(3)を溶出させ、得られる溶出液中の誘導体(3)をキャピラリーGC/MSなどのガスクロマトグラフィー、液体クロマトグフィー等で分析することによりカルボニル化合物(2)を定量する方法などが挙げられる。

[式中、R、R、R及びR’は、前記と同じ意味を表す。]
【0019】
ここで、カルボニル化合物を捕集する前に捕集材を洗浄することにより、捕集材の製造時等に混入したカルボニル化合物との反応物は溶出させることが可能であり、測定値のばらつきを著しく低減させることができることから、再現性に優れ、低濃度のカルボニル化合物についても正確性に優れた定量を実施することができる。また、本発明のカルボニル化合物捕集材中の未反応の化合物(1)の塩酸塩又は未反応の化合物(1)の硫酸塩は、親水性溶媒では溶出することがないので、カルボニル化合物の定量に供することができるのである。尚、上記洗浄及び乾燥は、測定直前に実施してもよいが、例えば、カルボニル化合物捕集材を捕集管に充填する場合、捕集管を製造した後に洗浄及び乾燥を実施し、その後、アルミラミネート袋、缶などの非通気性材料で密封して得られるカルボニル化合物定量キットとして用いると、取扱いが容易な上、測定値のばらつきが問題になるほど汚染されることはないことから好ましい。
捕集材の洗浄は、通常、カルボニル化合物捕集材1重量部に対し、5〜20重量部程度の親水性溶媒を1〜2回程度用いる。上記程度の量や回数により、測定値のばらつきの少ない捕集管を得ることができる。
【0020】
本発明で定量し得るカルボニル化合物(2)としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、バレルアルデヒドなどのRが水素原子でRがアルキル基であるアルデヒド化合物;アクロレイン、クロトンアルデヒドなどの式(4)で表されるα,β−不飽和アルデヒド化合物などが挙げられる。

[式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基を表す。Rが水素原子であればR及びRは炭素数3〜8のアルキレン基で結合していてもよい。]
【0021】
カルボニル化合物(2)のその他の例示としては、ベンズアルデヒドなどのRが水素原子でRがアリール基であるアルデヒド化合物;アセトン、ブタノンなどのケトン類などが挙げられる。
本発明は、従来、捕集材に吸着されると不安定な反応物を生成し、定量することが困難であった式(4)で表されるアルデヒド化合物に対しても安定で、容易に定量することができる。
【0022】
カルボニル化合物(2)の具体的な定量方法としては、例えば、通気性を有する容器に、カルボニル化合物捕集材を充填してなる捕集管を用いて、空気試料からカルボニル化合物を捕集したのち、該捕集管から誘導体(3)を取り出して、定量する方法などが挙げられる。具体的に、捕集管がアクティブサンプラーによる定量方法を代表例として以下に説明する。まず、内径3〜15mm、長さ1〜10cm程度の管状容器である捕集管に、空気試料が十分に流通する程度にカルボニル化合物捕集材を充填し、カルボニル化合物捕集材が保持することのできるフィルターで栓をする。次に、得られたものを親水性溶媒で洗浄し乾燥して、カルボニル化合物捕集管を調製する。該捕集管は、通常、密封下で保存する。次いで、空気試料雰囲気下で密封を解き、ポンプを接続し、ポンプの吸引速度は0.01〜1.5 l/min程度で空気試料を採取する。続いて、該捕集管を親水性溶媒で洗浄して誘導体(3)と親水性溶媒とを含む溶液を得る。最後に該溶液を液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等により分析する。
上記方法の如く、ポンプで空気試料を採取するアクティブサンプラーによる定量方法のほか、多孔質管などのように全体又は主要部分が通気性を有する容器にカルボニル化合物捕集材を充填してなる捕集管を調製し、該捕集管を空気試料に静置することにより採取したのち、同様に定量する方法、すなわち、パッシブサンプラーによる定量方法などが例示される。
【0023】
ガスクロマトグラフィーとしては、例えば、キャピラリーGC/MS法等で分析を行うことより精度のよい分析が可能である。また、UV検出器、屈折率検出器を具備した汎用の液体クロマトグラフィーで簡便に分析することができ、中でもUV検出器を用いる液体クロマトグラフィー法は精度のよい分析が可能である。
なお、カルボニル化合物(2)の定量は、予め、カルボニル化合物(2)と化合物(1)とが反応して得られる誘導体(3)を別途調製し、上記クロマトグラフィーを用いて、絶対検量線法、内部標準法などによって定量すればよい。
【0024】
本発明のカルボニル化合物捕集材を使用する前に、本発明のカルボニル化合物捕集材をアセトニトリルなどの親水性溶媒で洗浄すると、製造時に混入した低濃度のカルボニル化合物の誘導体は溶出されることから、測定する前に混入した低濃度のカルボニル化合物の影響を排除して、測定値のばらつきを低減させて再現性に優れ、低濃度のカルボニル化合物を正確に定量することができる。
また、本発明のカルボニル化合物捕集材は、低濃度のカルボニル化合物を含有する空気試料についても、DNPHを含む捕集材と同等程度、中でも、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドについては一層、再現性及び正確性に優れた定量を実施することができ、低濃度のアクロレイン、アセトンなどの化合物についても、再現性及び正確性に優れた定量を実施することができる。
さらに、式(2)で表される化合物とカルボニル化合物とから得られる誘導体(3)は365nmのUV吸収を有することから、汎用的な液体クロマトグラフィーで簡便に定量することができる。
とりわけ、25℃の室温にとどまらず、80℃程度の高温時においても捕集管内において安定であり、高温時にも使用することができる。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
<カルボニル化合物捕集材の製造例>
シリカゲル20g及びアセトニトリル100mLを500mLのフラスコに投入し10分間攪拌した後10分間静置した。その後、シリカゲルを減圧濾過し、さらにアセトニトリル100mLで洗浄した。洗浄後のシリカゲル全量とDNPH(30%含水、和光純薬工業(株)製)100mgを500mLのフラスコに投入し、酢酸エチル100mLを加えて攪拌した。この混合液を攪拌しながら、室温で濃塩酸数滴を滴下し、さらに5〜6時間保温、攪拌した。その後、40℃にて減圧下濃縮乾燥してDNPH塩酸塩を吸着させた約18gのシリカゲルを得た。
【0026】
<カルボニル化合物捕集管の製造例>
図1に示すような内径10.5mm、長さ30mmのポリエチレン製の容器に前記のカルボニル化合物捕集材(420mg)を充填した。尚、該容器は、ポリプロピレン製フィルター(細孔径 50μm)で栓をして捕集材を保持した。このものを窒素気流下にてグローブボックス内でアセトニトリル(5ml)で洗浄し、真空ポンプで約40℃にて4時間乾燥し、カルボニル化合物捕集管を得た。上下の吸引口に密封し、さらにアルミラミネート袋に収めて密封した。
得られた捕集管にアセトニトリル/28%アンモニア水=100/3(10ml)を通してDNPHを溶出させ、下記液体クロマトグラフィー条件にて定量した結果、2mgが溶出されることが観測され、ほぼ70%のDNPH塩酸塩がカルボニル化合物捕集管に含まれていた。
【0027】
<分析条件>
カラム :SUMIPAX ODS Dシリーズ
5μm 4.6mmφ×250mm
移動相 :アセトニトリル/水=50/50
流量 :1.0ml/min
測定波長:365nm(UV)
温度 :40℃
注入量 :1μl
【0028】
<DNPH−塩酸塩を含有する本発明のカルボニル化合物捕集材に捕集されたDNPH−アクロレイン誘導体の安定性>
前記で得られたカルボニル化合物捕集材に10μg/mLのDNPH−アクロレイン誘導体(和光純薬工業(株)製)を100μL添加したものを10本用意し、25℃及び5℃で0〜4時間保存し、それぞれ異なる捕集管について、時間毎にアセトニトリルでDNPH−アクロレイン誘導体を含む溶液を溶出させた。続いて、上記液体クロマトグラフィー条件でカルボニル化合物捕集材に含まれるDNPH−アクロレイン誘導体の量を定量した。
結果を図2に示した。図からも明らかなように、5℃で保存されたDNPH−アクロレイン誘導体を含むカルボニル化合物捕集材は、1時間後でも添加量と同じ量のDNPH−アクロレイン誘導体が溶出され、4時間後でも87%の量のDNPH−アクロレイン誘導体が溶出される。
25℃保存されたDNPH−アクロレイン誘導体を含むカルボニル化合物捕集材は、1時間後でも添加量の95%の量のDNPH−アクロレイン誘導体が溶出され、4時間後でも78%の量のDNPH−アクロレイン誘導体が溶出される。
【0029】
(比較例1)
<DNPH及びリン酸を含浸させたカルボニル化合物捕集管>
DNPH及びリン酸を含浸させたカルボニル化合物捕集管として、DNPHサンプラーshort body(ウォーターズ社製ホルムアルデヒド捕集材)をそのまま用いた。
得られた捕集管にアセトニトリル/28%アンモニア水=100/3(10ml)を通してDNPHを溶出させ、上記液体クロマトグラフィー条件にて定量した結果、1.3mgが溶出された。
【0030】
<DNPH及びリン酸を含浸させた従来のカルボニル化合物捕集材に捕集されたDNPH−アクロレイン誘導体の安定性>
前記DNPH及びリン酸を含浸させたカルボニル化合物捕集管を用いて、実施例1と同様に、カルボニル化合物捕集材に含まれるDNPH−アクロレイン誘導体の量を定量した。
結果を図3に示した。図からも明らかなように、5℃で保存されたDNPH−アクロレイン誘導体を含むカルボニル化合物捕集材は、わずか0.1時間で添加量の87%の量のDNPH−アクロレイン誘導体しか溶出されず、2時間後では50%の量のDNPH−アクロレイン誘導体しか溶出されないことから、冷蔵保存でもDNPH−アクロレイン誘導体が安定に保存できないことが明らかになった。
25℃保存されたDNPH−アクロレイン誘導体を含むカルボニル化合物捕集材は、わずか10分間で添加量の90%の量のDNPH−アクロレイン誘導体しか溶出されず、2時間後では20%の量のDNPH−アクロレイン誘導体しか溶出されないことから、室温保存ではDNPH−アクロレイン誘導体がほとんど安定に保存できないことがわかる。
【0031】
(実施例2及び比較例2:ホルムアルデヒド標準ガスによる捕集試験)
ガステック社製標準ガス発生装置を用いてパラホルムアルデヒドを熱分解して発生させたホルムアルデヒドを高純度の空気ボンベから一定流量で流した空気で希釈し、ホルムアルデヒドを約40ppm含有する空気試料を調製した。
実施例2では、実施例1で得られたカルボニル化合物捕集管(1段目)及び比較例1で用いたカルボニル化合物捕集管(2段目)を2連結して、前記試料を500ml/minの割合で30分間捕集した。捕集後、捕集管のそれぞれにアセトニトリル(5ml)を通して、ホルムアルデヒド誘導体を溶出し、得られた液体20μlを<カルボニル化合物捕集管の製造例>に示す分析条件と同様に液体クロマトグラフィーで分析した。
また、比較例2では、比較例1で得られたカルボニル化合物捕集管のみに前記試料を500ml/minの割合で30分間捕集し、前記と同様に分析した。
結果を表1にまとめた。実施例2では1段目の捕集管にホルムアルデヒドが吸着されて2段目の捕集管にはホルムアルデヒドが捕集されていないことがわかる。ホルムアルデヒドの捕集量も実施例1の捕集管の捕集量の相対比から、本発明の捕集管は従来の捕集管と同じレベルのホルムアルデヒドを捕集することが明らかになった。
【0032】
【表1】

【0033】
(実施例3及び比較例3:ブランク値)
実施例1で得られた捕集管(本発明の捕集管、実施例3)3本、及び比較例1で用いた捕集管(従来の捕集管、比較例3)10本をそれぞれ、そのまま、アセトニトリル5mlで洗浄し、溶出液から検出される、ホルムアルデヒドと2,4−ジニトロフェニルヒドラジンとの誘導体(3)、アセトアルデヒドと2,4−ジニトロフェニルヒドラジンとの誘導体(3)及びアセトンと2,4−ジニトロフェニルヒドラジンとの誘導体(3)の含有量を上記液体クロマトグラフィーで定量した。尚、それぞれのカルボニル化合物は、シグマ アルドリッチ社の市販品を用いて、絶対検量法で定量した。
結果を表2に示す。本発明の捕集管には、各カルボニル化合物と2,4−ジニトロフェニルヒドラジンとの誘導体(3)は、ほとんど含有されていないが、従来の捕集管は、既に、これらの誘導体(3)が多く含有され変動係数も大きかった。これらの知見から本発明の捕集管は、低濃度のアルデヒド濃度測定に適していることが判る。
【0034】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のカルボニル化合物捕集材は、再現性、正確性、耐熱性及び簡便性を有することから、家屋室内、ビル、工場、廃棄物処理場などの空間大気、自然環境下の大気、自動車の排気ガスなどの高温ガス試料中や、上下水道、河川、海水、産業排水などの液体試料中に含まれるホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アクロレインなどのアルデヒド類及びアセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類等のカルボニル化合物の微量分析を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例に用いられたカルボニル化合物捕集管
【図2】DNPH−塩酸塩を含有する本発明のカルボニル化合物捕集材に捕集されたDNPH−アクロレイン誘導体の安定性(5℃、25℃)
【図3】DNPH及びリン酸を含浸させた従来のカルボニル化合物捕集材に捕集されたDNPH−アクロレイン誘導体の安定性(5℃、25℃)
【符号の説明】
【0037】
1:カルボニル化合物捕集管
2:容器(ポリプロピレン製)
3:カルボニル化合物捕集材
4:ポリエチレン製フィルター
5:吸引口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるヒドラジン系化合物の塩酸塩又は該化合物の硫酸塩と、シリカゲル、アルミナ、セルロース、及び活性炭からなる群から選ばれる少なくとも1種の吸着材とを含むカルボニル化合物捕集材。

[式中、R及びR’は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のハロアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、ニトロ基又はシアノ基を表す。]
【請求項2】
吸着材がクロマトグラフ用シリカゲルである請求項1に記載のカルボニル化合物捕集材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のカルボニル化合物捕集材を管状容器に充填してなる捕集管。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の捕集材を、低級脂肪族ニトリル、低級アルコール、低級脂肪族エーテル及び低級環状エーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性溶媒で洗浄、乾燥したのち、式(2)で表されるカルボニル化合物
C(=O)R (2)
[式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、二重結合を含んでいてもよい炭素数1〜8のアルキル基、二重結合を含んでいてもよい炭素数5〜8のシクロアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。]
が含有される試料を該捕集材に通過させて、カルボニル化合物(2)を式(3)で表される誘導体として該捕集材に吸着させ、続いて該捕集材を親水性溶媒で洗浄して誘導体(3)を溶出させ、得られる溶出液中の誘導体(3)を定量することを特徴とするカルボニル化合物の定量方法。

[式中、R、R、R及びR’は、前記と同じ意味を表す。]
【請求項5】
式(2)で表される化合物が式(4)で表されるα,β−不飽和アルデヒド化合物であることを特徴とする請求項4に記載の定量方法。

[式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基を表す。Rが水素原子であればR及びRは結合して炭素数3〜8のアルキレン基を形成していてもよい。]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−71815(P2007−71815A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261742(P2005−261742)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)
【Fターム(参考)】