説明

カルボニル基のα位のヘテロ原子含有置換基の新規な除去方法

【課題】有機化合物のカルボニル基のα位のヘテロ原子含有置換基を、温和な条件下で水素原子に置換する新しい化学反応方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、カルボニル基と、前記カルボニル基のα位に存在する、ハロゲン原子、SR、SeR、SOR、SO、OR、及びOSOからなる群から選択される基とを有する有機化合物を、溶媒中において、下式(II)で表される化合物及び下記式(II’)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物の存在下に、3価クロム化合物と、マンガン及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属とによって処理する工程を含み、それによって前記カルボニル基のα位に存在する、ハロゲン原子、SR、SeR、SOR、SO、OR、及びOSOからなる群から選択される基が水素に置換された有機化合物を製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケトンなどのカルボニル基のα位に存在する、ヘテロ原子を有する置換基(例えばスルホニル基)を還元的に除去する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物のカルボニル基のα位の炭素原子は、カルボニル基の電子効果によって様々な有機合成反応に対して高い反応性を有することが知られている。さらにそのカルボニル基のα位炭素原子に新たな置換基、たとえば電子吸求性基を導入することによってその炭素原子の反応性をさらに高め、次にその炭素原子に別の置換基を導入してから先の置換基を除去することによって、反応における高い位置選択性を得るという合成手段の一般原理はよく知られている。また、有機合成反応の結果得られた生成物が、カルボニル基のα位にヘテロ原子含有置換基を有する有機化合物である場合もしばしばある。
【0003】
さらに、目的化合物を得るために、そのヘテロ原子含有置換基を水素原子に置換することもしばしば必要である。したがって、カルボニル基のα位炭素上に存在するヘテロ原子含有置換基、特にそのα位炭素に直接ヘテロ原子が結合した形態の置換基を還元的に除去して水素原子に置き換えるための反応は、有機合成化学的手法として重要である。このような反応は最近でも研究されており、例えば、α-ハロケトンを貴金属触媒、ギ酸、及び塩基の存在下で還元して脱ハロゲン化物を得る方法が知られている(例えば、特開2002−249448号公報)。また、脱スルホニル化反応に関しては、Tetrahedron 1999, 55, 10547-19659に総説がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−249448号公報
【特許文献2】国際公開WO2005/118565号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T.W.Greene, Protective Groups in Organic Synthesis, John Wiley & Sons, 1981
【非特許文献2】Tetrahedron 1999, 55, 10547-10658
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したとおり、カルボニル基のα位の炭素上のヘテロ原子含有置換基を還元的に水素原子に置換できる反応は、合成反応として有用である。そこで、本発明の目的は、温和な条件下で、好収率かつ高い官能基選択性をもって、カルボニル基のα位の炭素上のヘテロ原子含有置換基を還元的に除去する化学的方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、有機化合物のカルボニル基のα位の炭素に、炭素-ヘテロ原子結合を介して結合した置換基を、以下に説明するビピリジン及びその誘導体並びに8−ヒドロキシキノリン及びその誘導体からなる群から選択される1種以上の化合物の存在下で、3価クロム化合物と、マンガン及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属とによって処理することによって、温和な反応条件下で還元的に水素に置換できることを発見して本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、カルボニル基と、前記カルボニル基のα位に存在する、ハロゲン原子、SR、SeR、SOR、SO、OR、及びOSO(R、R、R、R、R、及びRは、直鎖状又は分枝状のアルキル、シクロアルキル、直鎖状又は分枝状のアルケニル、シクロアルケニル、直鎖状又は分枝状のアルキニル、飽和又は不飽和ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル基からなる群から選択される基であり、R、R、R、R、R、及びRはさらに置換基を有していてもよい)からなる群から選択される基とを有する有機化合物を、溶媒中において、下式(II):
【化1】

(式中、R、R1’、R、R2’、R、及びR3’はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、及びアルコキシ基からなる群から選択される基であり、前記アルキル基、前記アリール基、及び前記アルコキシ基はさらに置換基を有していてもよく;
、及びR3’は一緒になってR、及びR3’が結合しているピリジン環とともに縮合環を形成していてもよい。)
で表される化合物及び下記式(II’):
【化2】

(式中、Rはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、直鎖状又は分枝状のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基からなる群から選択される基であり、これらアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基はさらに置換基を有していてもよく、Rはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、直鎖状又は分枝状のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基からなる群から選択される基であり、これらアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基はさらに置換基を有していてもよく、xは0〜3の整数であり、yは0〜3の整数である)で表される化合物、からなる群から選択される少なくとも1種の化合物の存在下に、3価クロム化合物と、マンガン及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属とによって処理する工程を含む、前記カルボニル基のα位に存在する、ハロゲン原子、SR、SeR、SOR、SO、OR、及びOSOからなる群から選択される基が水素に置換された有機化合物を製造する方法に関する。
上記式(II)又は(II’)で表される化合物は、本発明の方法、すなわち化学反応において配位子として働くと考えられるが、この理論は本願請求項に係る発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0009】
特に、上記の有機化合物の製造方法において、出発原料である有機化合物が下記式I:
【化3】

(式I中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、直鎖状又は分枝状のアルキル、シクロアルキル、直鎖状又は分枝状のアルケニル、シクロアルケニル、直鎖状又は分枝状のアルキニル、飽和又は不飽和ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル基からなる群から選択される基であり、R及びRはさらに置換基を有していてもよい;
Xは、ハロゲン原子、SR、SeR、SOR、SO、OR、及びOSOからなる群から選択される基であり、R、R、R、R、R、及びRは、直鎖状又は分枝状のアルキル、シクロアルキル、直鎖状又は分枝状のアルケニル、シクロアルケニル、直鎖状又は分枝状のアルキニル、飽和又は不飽和ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル基からなる群から選択される基であり、R、R、R、R、R、及びRはさらに置換基を有していてもよい;
Yは、R-、RO-、及びRN-からなる群から選択され、R、R、R、及びRは、水素原子、直鎖状又は分枝状のアルキル、シクロアルキル、直鎖状又は分枝状のアルケニル、シクロアルケニル、直鎖状又は分枝状のアルキニル、飽和又は不飽和ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル基からなる群から選択される基であり、R、R、R、及びRはさらに置換基を有していてもよく、R及びRはそれぞれ同じであるか又は異なっていてよい;
さらに、R又はRと、R、R、R、又はRとは一緒になって環を形成してもよく、前記環は1つ以上のヘテロ原子を含む環であってもよい。)
で表され、得られる反応生成物が、下記式III:
【化4】

(式III中のR、R、及びYは、上記式IのR、R、及びYと同じ意味を有する。)
で表される化合物であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明で用いる3価クロム化合物は、Cr(III)X(式中、Xはハロゲン原子又は有機カルボキシレートを示す。)であることが好ましい。
【0011】
さらに、上記3価クロム化合物中のXが、Cl又はBrであることが好ましい。
【0012】
また、上記3価クロム化合物は、CrCl無水物、CrCl・6HO、CrBr・6HO、CrCl・3THF、及びCr(OAc)からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の反応に用いる上記式(II)中で表されるビピリジン配位子のR及びR1’が水素原子、又は直鎖状もしくは分枝状アルキル基であり、R及びR2’が水素原子、直鎖状又は分枝状アルキル基、アリール基、及びアルコキシ基からなる群から選択される基であり、且つ、R、及びR3’が水素原子であるか;
あるいは、R及びR1’が水素原子であり、R及びR2’が水素原子、直鎖状又は分枝状のアルキル基、又はアリール基であり、且つ、R、及びR3’が一緒になって、それらが結合しているピリジン環とともに縮合環を形成しているものであることが好ましい。
【0014】
前記式(II’)で表される化合物が、8−ヒドロキシキノリンであることが好ましい。
【0015】
上記各製造方法において、反応系にさらに、(RSiX4−nで表されるハロゲン化ケイ素化合物を添加することが好ましい。
【0016】
また、上記各製造方法において、反応系にさらに、シクロペンタジエニル環を含むTi、Zr、及びHf化合物からなる群から選択されるメタロセン化合物を添加することが好ましい。
【0017】
上記反応、すなわち上記の処理は15〜40℃で行うことが好ましい。
【0018】
上記反応を行う溶媒は、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、メチルt-ブチルエーテル、ジメチルホルムアミド、メタノール、及びアセトニトリルからなる群から選択される1種又は2種以上の混合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法を用いることによって、温和な条件下で、カルボニル基のα位のヘテロ原子含有置換基を好収率で水素原子に置換することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0021】
なお、本明細書中に記載する「アルキル」、「アルケニル」、「アルキニル」の用語には、特に記載のない場合は、直鎖状のもの及び分枝状のものが含まれる。
「飽和又は不飽和ヘテロシクリル」基には、単環式及び多環式のヘテロ原子含有環基が含まれ、不飽和結合を含むものも含まないものも含まれる。ただし、そのヘテロ原子を含む環が芳香族システムを形成している場合は、ヘテロアリール基に分類される。
【0022】
上述したとおり、本発明の方法すなわち化学反応は、カルボニル基と、そのカルボニル基のα位の炭素原子上に炭素-ヘテロ原子結合で結合した置換基とを有する有機化合物を、上記化学式(II)で表される化合物及び/又は上記式(II’)で表される化合物の存在下に、有機溶媒中で、3価クロム化合物と、マンガン及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属とによって処理する方法であって、これによってカルボニル基のα位の置換基を還元的に水素原子に置換することができる。
【0023】
[本発明の方法に用いる出発物質]
本発明の反応原料である有機化合物のカルボニル基のα位の置換基(式(I)においてはXに対応する)は、ハロゲン原子、SR、SeR、SOR、SO、OR、及びOSOからなる群から選択される。
前記式中、R、R、R、R、R、及びRは、直鎖状又は分枝状のアルキル、シクロアルキル、直鎖状又は分枝状のアルケニル、シクロアルケニル、直鎖状又は分枝状のアルキニル、飽和又は不飽和ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル基からなる群から選択される基である。直鎖状又は分枝状のアルキル基としては、好ましくはC1−20、特にC1−10アルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、及びオクタデシル基、並びにそれらの異性体が挙げられる。シクロアルキル基としては、好ましくはC3−18、特にC5−10の単環式もしくは多環式のシクロアルキル、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、及びノルボルニル基などが挙げられる。直鎖状又は分枝状のアルケニル基としては、好ましくはC2−20、特にC2−10のアルケニル基、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、及びヘキセニル基などのモノ又はポリエン基が挙げられる。シクロアルケニル基としては、C4−20、好ましくはC5−10のシクロアルケニル基が挙げられ、例えば、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、ノルボルネニル、及びシクロペンタジエニル基などの単環式又は多環式のモノ及びポリエン基が挙げられる。直鎖状又は分枝状のアルキニルとしては、特にC2−20のアルキニル基が挙げられ、例えば、2-プロピニル基が挙げられる。飽和又は不飽和ヘテロシクリル基としては、例えば、エポキシ、テトラヒドロフリル、モルホリニル、ピロリジニル、及びピペリジニル基などが挙げられる。アリールとしては、特にC6−14アリール基、例えば、フェニル、ナフチル、及びアントラセニル基が挙げられる。また、アリール基には、芳香環に非芳香族環が縮合した基、例えばテトラヒドロナフチル基、インダニル基、及びインデニル基なども含まれる。ヘテロアリール基は、任意の単環式又は多環式ヘテロアリール基、すなわちヘテロ原子含有芳香族基であってよく、例えば、ピロリル、ピリジル、イミダゾリル、及びインドリル基が挙げられる。
、R、R、R、R、及びRはこれらにさらに別の置換基が結合していてもよく(すなわち、これらR〜R基は置換又は非置換の基であってよい)、そのようなさらなる置換基は本発明の反応が進行する限りどのような置換基でもよいが、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、飽和又は不飽和ヘテロシクリル、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、モノ又はジ-(アルキルもしくはアリール)アミノ基、カルボキシル基、アルキルもしくはアリールアミド基を含めたアミド基、エステル基、アルキルもしくはアリールカルバメートを含めたカルバメート基、アルキルもしくはアリールチオカルバメート基を含めたチオカルバメート基、チオール基、アルキルもしくはアリールチオ基、及びアルキルもしくはアリールスルホンアミドを含めたスルホンアミド基が挙げられるがこれらに限定されるものではなく、さらにこの別の置換基は可能な場合は保護基で保護されていてもよい。置換基、例えば、水酸基、アミノ基、及びカルボキシル基など官能基の保護基とその用法は、当業者には公知である(例えば、T.W.Greene, Protective Groups in Organic Synthesis, John Wiley & Sons, 1981を参照されたい)。
【0024】
原理的には、カルボニル基のα位の炭素原子上に上述の、ハロゲン原子、SR、SeR、SOR、SO、OR、及びOSOからなる群から選択される基を有する部分化学構造を有する有機化合物であれば、本発明の反応を適用することができるので、カルボニル基及びそのカルボニル基のα位に前記置換基を有していること以外に、本発明の反応を阻害しない限り、本反応の出発化合物の化学構造は特に限定されるものではない。しかし、特に、以下の式(I):
【化5】

で表される化合物を、本発明の反応の出発物質として用いることが好ましい。
【0025】
上記式(I)の化合物に本発明の方法を適用すると、Xが還元的に水素原子に置換されて、下記式(III):
【化6】

を有する化合物が得られる。
【0026】
上記式(I)及び(III)の記号の意味は以下のとおりである。
【0027】
及びRはそれぞれ独立して、水素原子、直鎖状又は分枝状のアルキル、シクロアルキル、直鎖状又は分枝状のアルケニル、飽和又は不飽和ヘテロシクリル、シクロアルケニル、直鎖状又は分枝状のアルキニル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル基からなる群から選択される基であり、R及びRはさらに置換基を有していてもよい(すなわち、前述した基のいずれも置換又は非置換であることができる)。R及びR基の定義は、上述した、R、R、R、R、R、及びRの基の定義と同じである。加えて、R及びRにさらに結合していてもよい別の置換基は、特に限定されないが、例えば、R、R、R、R、R、及びRにさらに結合していてもよい別の置換基として上に示した基が挙げられる。
さらに、R及び/又はRは以下に説明するように、Yと一緒になって、任意選択によって1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい環を形成してもよく、その環は単環式でも多環式でもよい。
【0028】
Xは、ハロゲン原子、SR、SeR、SOR、SO、OR、及びOSOからなる群から選択される基であり、これらの基のR、R、R、R、R、及びRの定義は、上の[本発明の方法に用いる出発物質]欄において「本発明の反応原料である有機化合物のカルボニル基のα位の置換基」として説明した基の定義と同じである。
【0029】
Yは、R-、RO-、及びRN-からなる群から選択される。すなわち、式(I)で表される化合物は、ケトン類、エステル類、及びアミド類である。R、R、R、及びR基の定義は、上述したXのR、R、R、R、R、及びRの定義と同じであり、R及びRはそれぞれ同じであるか又は異なっていてよい。R、R、R、及びRはさらに別の置換基を有していてもよく、そのようなさらなる別の置換基は特に限定されるものではないが、例えば、先に、R、R、R、R、R、及びRにさらに結合していてもよい置換基として説明したものが挙げられる。
また、YはR又はRと一緒になって環を形成していてもよい。すなわち、R又はRと、R、R、R、又はRとは一緒になって環を形成していてもよく、この環は任意選択で1つ以上のヘテロ原子を含む環であってもよい。さらにこの環には単環式及び多環式のいずれもが含まれる。
【0030】
[本発明の有機化合物の製造方法]
本発明の有機化合物の製造方法、すなわち化学反応では、上述した出発物質を、溶媒中で、下式(II):
【化7】

で表される化合物及び/又は下記式(II’):
【化8】

で表される化合物の存在下、3価クロム化合物と、マンガン及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属とによって処理することにより、カルボニル基のα位のハロゲン原子、SR、SeR、SOR、SO、OR、及びOSOからなる群から選択される基(上記式(I)中のX基)を還元的に脱離させて水素原子に置換する。
【0031】
〔式(II)又は式(II’)で表される化合物〕
本発明の反応は、上記式(II)で表される化合物及び上記式(II’)で表される化合物からなる群から選択される1種以上の存在下で行う。式(II)中、R、R1’、R、R2’、R、及びR3’はそれぞれ独立して、水素原子、直鎖状又は分岐状のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、及びアリールオキシ基からなる群から選択される基である。アルキル基は、特に、C1−18アルキル基が好ましく、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、及びドデシル基、並びにそれらの異性体、などが挙げられる。これらの中でも、t−ブチル及びノニル基が特に好ましい。アリール基は、特に、非置換もしく置換基を有するフェニル基が好ましい。フェニル基が有する置換基としては、ハロゲン(例えば、フッ素及び塩素原子)、C1−18アルキル基(例えば、直鎖状又は分枝状のアルキル基)、C3−6のシクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基)、及びC1−18アルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ、及び2-エチルヘキシルオキシ)などの基が挙げられるが、これらに限定されない。特に好ましい非置換もしくは置換基を有するフェニル基は、非置換のフェニル基である。
【0032】
また、上記式(II)において、R及びR3’は一緒になって、それらが結合している2つのピリジン環とともに縮合環を形成していてもよい。そのような縮合環を有する式(II)の化合物としては、例えば、1,10−フェナントロリン、5,6−ジメチル−1,10−フェナントロリン、及び5,6−ジヒドロ−1,10−フェナントロリン、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンが挙げられる。
【0033】
上記式(II)で表される化合物のうち、好ましいものは、R及びR1’が水素原子、又は直鎖状もしくは分枝状アルキル基、特にC1−18アルキル基であり、R及びR2’が水素原子、直鎖状又は分枝状アルキル基、特にC1−18アルキル基、アリール基、特に非置換もしくは置換基を有するフェニル基、及びアルコキシ基、特にC1−18アルコキシ基からなる群から選択される基であり、且つ、R、及びR3’が水素原子であるか;
あるいは、R及びR1’が水素原子であり、R及びR2’が水素原子、直鎖状もしくは分枝状アルキル基、特にC1−18アルキル基、又はアリール基、特に非置換もしくは置換基を有するフェニル基であり、且つ、R、及びR3’が一緒になって、それらが結合しているピリジン環とともに縮合環、例えば非置換もしくは置換基を有するフェナントロリン環、を形成しているものであることが好ましい。
【0034】
本発明の反応において目的生成物が特に高い収率が得られることから、上記式(II)において、R及びR1’が水素原子であり、R及びR2’がC1−18アルキル基、特にt−ブチルもしくはノニル基、又はアリール基、特にフェニル基であり、R及びR3’が水素原子であることが特に好ましい。また、上記式(II)において、R及びR1’が水素原子であり、R及びR2’がアリール基、特にフェニル基であり、R及びR3’がそれらが結合しているピリジン環と一緒になってフェナントロリン環を形成していることが特に好ましい。
式(II)で表される化合物のうち、特に好ましいものは、4,4’−ジアルキル又はジアリール−2,2’−ビピリジルであり、具体例としては4,4’−ジ−t−ブチル−2,2’−ビピリジル、4,4’−ジフェニル−2,2’−ビピリジル、4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジルが、特に好ましい化合物としてあげられる。また、4,7-ジフェニルフェナントロリンも特に好ましい。
【0035】
上記式(II’)中、Rはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状又は分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基からなる群から選択される基であり、これらアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基はさらに置換基を有していてもよい。アルキル基は、特に、C1−18の直鎖状又は分岐状アルキル基が好ましく、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル基、並びにそれらの異性体、などが挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロペンチル及びシクロヘキシル基などが好ましい。アリール基は、特に、非置換もしくは置換基を有するフェニル基が好ましい。フェニル基が有する置換基としては、ハロゲン(例えば、フッ素及び塩素原子)、C1−18の直鎖状又は分枝状のアルキル基、C3−14シクロアルキル基、及びC1−18アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ、2-エチルヘキシルオキシ)などの基が挙げられるが、これらに限定されない。特に好ましいアリール基は、非置換のフェニル基である。Rがアルコキシ基である場合は、特に、C1−6アルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ基が挙げられる。式(II’)中のRは、Rと同じ定義を有するが、Rは、Rどうし互いにそれぞれ独立して、且つRとも独立して選択できる。さらに、式(II’)中、xは0〜3の整数であり、yは0〜3の整数である。式(II’)で表される好ましい配位子としては、8−ヒドロキシキノリン、7−プロピルヒドロキシキノリン、1−メチルヒドロキシキノリンが挙げられ、特に8−ヒドロキシキノリンが好ましい。
【0036】
式(II)で表される配位子と式(II’)で表される配位子はそれぞれ個別に用いることも、組み合わせて併用することもできる。
【0037】
〔溶媒〕
本発明の反応は溶媒中で行うことが好ましい。本発明の反応を妨げない限り、その反応にはどのような溶媒を用いてもよい。好ましい溶媒としては、トルエン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、メチルt-ブチルエーテル、ジメチルホルムアミド、メタノール、及びアセトニトリルが挙げられる。溶媒は単独で用いても、あるいは2種以上の溶媒を混合して用いてもよい。また、本発明の反応溶媒として、1種以上の有機溶媒と水との混合溶媒を用いることもできる。目的化合物が高い収率が得られることから、特に好ましい溶媒は、メタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、及びこれらの溶媒の2種以上の混合物である。溶媒の使用量は特に限定されず、本発明の反応が進行する限り、任意の量を用いることができる。
【0038】
〔3価クロム化合物、マンガン及び亜鉛〕
本発明の反応には、3価クロム化合物を、マンガン及び亜鉛から選択される1種以上の金属とともに用いる。用いる3価クロム化合物としては、有機クロム化合物及び無機クロム化合物を挙げることができるが、無機クロム化合物が好ましい。多くの3価クロム化合物が知られている。本発明の反応の収率が高いことから、特に好ましい3価クロム化合物は、Cr(III)X(式中、Xはハロゲン原子又は有機カルボキシレートを表す。)で表されるハロゲン化クロム(III)及びクロム(III)カルボキシレートである。さらに、XはCl(塩素)又はBr(臭素)であることが好ましい。特に好ましい3価クロム化合物は、CrCl無水物、CrCl・6HO、CrBr・6HO、CrCl・3THFである。さらにCr(OAc)(Acはアセチルを表す)を用いた場合にも良好な収率が得られる。
【0039】
本発明の反応においては、上記3価クロム化合物とともに、マンガン及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属を用いる。マンガン及び亜鉛を併用することが好ましい。反応速度を高めることができるので、粉末マンガン及び粉末亜鉛を用いることが特に好ましい。
【0040】
目的生成物を好収率で得るためには、出発原料であるα置換カルボニル化合物に対して、3価クロム化合物を1モル当量以上、通常は1〜10当量用いるが、一般的には1.5〜2当量で充分である。しかし、本発明の方法では、3価クロム化合物の使用量は本発明の反応が進行するように適宜決定することができ、ここに記載した量に限定されない。
【0041】
3価クロム化合物とともに用いるマンガン金属及び/又は亜鉛金属は、出発原料であるα置換カルボニル化合物に対して、1モル当量以上、特に1〜100モル当量、好ましくは3〜30モル当量、さらに好ましくは5〜20モル当量を用いてよい。通常は、用いる3価クロム化合物のモル当量よりも多いモル当量のマンガン金属及び/又は亜鉛金属を用いることが好ましい。
【0042】
[その他の添加剤]
本発明者らは、上述した出発原料としてのカルボニル化合物、3価クロム化合物、Mn及びZnから選択される1種以上の金属、上記式(II)又は式(II’)で表される配位子の少なくとも1種、及び溶媒に加えて、(RSiX4−nで表されるハロゲン化ケイ素化合物及び/又はシクロペンタジエニル環を含むTi、Zr、及びHf化合物からなる群から選択されるメタロセン化合物をさらに用いることによって、さらに本発明の反応系を活性化することができることを発見した。
【0043】
すなわち、本発明者らは、本発明の反応において、(RSiX4−nで表されるハロゲン化ケイ素化合物及び/又はシクロペンタジエニル環を含むTi、Zr、及びHf化合物からなる群から選択されるメタロセン化合物を、3価クロム化合物とともに用いることによって、3価クロム化合物の使用量が上記のカルボニル化合物に対して1モル当量未満であっても、所望の反応生成物が好収率で得られることを発見した。したがって、本発明の反応系にこれらの化合物の少なくとも1種を添加することによって、3価クロム化合物の使用量を大きく低減することができる。ハロゲン化ケイ素化合物及び/又はシクロペンタジエニル環を含むTi、Zr、及びHf化合物からなる群から選択されるメタロセン化合物と3価クロム化合物との本発明の反応における使用割合は、好ましい反応結果が得られるように適切な割合にすることができる。
【0044】
上記(RSiX4−nにおいて、Rはそれぞれ独立して、アルキル基、アリール基、又はアリールアルキル基を表す。アルキル基としてはC1−20、特に好ましくは置換又は非置換のC1−6アルキル基が挙げられ、アルキル基には直鎖状アルキル基、分枝状アルキル基、及び環状アルキル基のいずれもが含まれる。アルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、ドデシル、シクロペンチル、及びシクロヘキシルなどが挙げられるが、特に、メチルが好ましい。アリール基としては、置換又は非置換のC6−14単環式及び多環式アリール基、例えばフェニル及びトルイル基が挙げられ、特にフェニル基が好ましい。アリールアルキル基としては、置換又は非置換のC7−20アリールアルキル基が挙げられ、例えば、ベンジル及びフェネチル基が好ましい。Xはハロゲン原子、好ましくは、塩素、フッ素、臭素、又はヨウ素原子を表し、特に塩素原子が好ましい。nは0〜3の整数を表す。(RSiX4−nで表される化合物として特に好ましいものとしては、トリメチルクロルシラン、トリエチルクロルシラン、t−ブチルジメチルクロルシラン、フェニルジメチルクロルシラン、ジメチルジクロルシラン、メチルトリクロルシラン、テトラクロルシランなどが挙げられる。
【0045】
上述のように(RSiX4−nの使用量は特に限定されないが、例えば、上記カルボニル化合物に対して0.1当量〜10当量、好ましくは0.5当量〜5当量、さらに好ましくは0.9当量〜2当量である。
【0046】
本発明に用いる、シクロペンタジエニル環を含むTi、Zr、及びHf化合物からなる群から選択されるメタロセン化合物は公知であって、例えば、特開2006−63158号公報(段落0024〜0031)に記載された様々なメタロセン化合物が挙げられる。メタロセン化合物の例には、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド;ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムクロリド及びビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムクロリドなどのビス(モノ又はポリアルキル置換シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド;ビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド;及び、ビス(モノ又はポリアルキル置換インデニル)ジルコニウムジクロリド、などのジルコニウム化合物、さらにこれらの化合物のジルコニウム原子をチタン又はハフニウム原子に置き換えた化学構造を有するチタン化合物及びハフニウム化合物が含まれる。本発明の反応に用いるメタロセン化合物としては、特にZr化合物が好ましく、中でもビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドが特に好ましい。
【0047】
上記メタロセン化合物の使用量は特に限定されないが、例えば、上記カルボニル化合物に対して0.1当量〜10当量、好ましくは0.5当量〜5当量、さらに好ましくは0.9当量〜2当量である。
【0048】
上記(RSiX4−nで表される化合物及び/又は上記メタロセン化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
上記(RSiX4−nで表される化合物及び/又は上記メタロセン化合物を用いた場合は、3価クロム化合物の使用量を低減することができ、3価クロム化合物は上記カルボニル化合物に対して1モル当量以下、例えば、0.01〜0.9モル当量、あるいは0.05〜0.5モル当量であってもよい。
【0050】
〔反応条件〕
本発明の反応は、上記のカルボニル化合物と上述した各反応剤を、溶媒中で5〜50℃、好ましくは15〜40℃、特に好ましくは20〜30℃で反応させることによって行うことができるが、この反応温度は特に限定されるものではない。本発明の反応は、室温(20〜30℃)で行うことができることが大きな特徴であり、かつ利点でもある。しかし、所望の反応の反応速度が得られ、生成物の収率が所望の範囲にある限り、室温より高い温度又は低い温度で本発明の反応を行うこともできる。所望の反応温度において、反応混合物を撹拌混合することによって、目的とする生成物が得られる。
【0051】
また、本発明の反応は、不活性ガス、例えば、窒素又はアルゴン雰囲気下で行うことが好ましい。
【実施例】
【0052】
以下に実施例に従って本発明をさらに説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
以下の記載及び表中に用いる略語の意味は以下のとおりである。
TBSはtert-ブチルジメチルシリル、TMSはトリメチルシリル、Meはメチル、Phはフェニル、Cpはシクロペンタジエニル、tBuはtert-ブチル、THFはテトラヒドロフラン、DMEはジメトキシエタン、ACNはアセトニトリル、HPLCは高速液体クロマトグラフィー、をそれぞれ意味する。その他に定義が特にない略語の意味は技術常識に従う。
【0053】
[α置換カルボニル化合物の合成例]
以下の実施例で本反応の出発原料として用いたα置換カルボニル化合物のうち、以下に示すER−413207は以下の反応スキームにしたがって合成した。ER−804030は、国際公開WO2005/118565号パンフレットの実施例に記載されている方法に従って合成した。
【0054】
【化9】

【0055】
反応容器に4,4’-ジ-t-ブチル-ビピリジル (3.4 mg, 0.0126 mmol, 0.10当量)、CrCl3 (2.0 mg, 0.0126 mmol, 0.10当量)、マンガン粉末 (27.7 mg, 0.504 mmol, 4.0当量)、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド(55.2 mg, 0.189 mmol, 1.5 当量)を量り取り、続いて反応容器内を窒素ガスで置換した。反応容器にTHF (2.0 ml, 無水, 無安定剤)を添加し、室温で90分攪拌した。ここへ、窒素雰囲気下、2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン(2.6 mg, 0.0126 mmol, 0.10当量)及びNiCl2-DME錯体 (2.8 mg, 0.0126 mmol, 0.10当量)を加え、さらに室温で30分攪拌した。得られた反応液にER-804030(200 mg)のTHF溶液(10 ml)を加え、室温で2時間攪拌した。HPLCで反応の終了を確認後、反応液にヘキサン(6.0 ml)を加え、上澄みを分液ロートへ移した。有機層を10%クエン酸水溶液(6.0ml)で洗浄して有機層を分離した。水層をヘキサン(3.0 ml)で再抽出し、ヘキサン層を有機層に混合した。有機層にヘキサン(2.0 ml)を加え、10%食塩水(4.0 ml)で洗浄後、有機層を濃縮して、ER-413207粗生成物213mgを得た。粗生成物をシリカゲル (17 g)を用いてカラムクロマトグラフィーで精製し(溶出液:ヘプタン/酢酸エチル)、152.5 mg (収率82.8%)の精製品を白色固体として得た。
TLC (Hexane / EtOAc = 4/1), Rf = 0.2, 0.4, 発色剤:アニスアルデヒド
1H NMR (400 MHz, CDCl3) 7.96 (dd, 1H, J = 8.8, 1.6 Hz), 7.82 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 7.68 (t, 1H, J = 7.2 Hz), 7.59 (d, 1H, J = 8.4), 7.55 (d, 1H, J = 7.6 Hz), 6.10-5.95 (m, 1H), 5.80-5.65 (m, 1H), 5.05-4.90 (m, 2H), 4.85-4.70 (m, 4H), 4.55-4.40 (m, 2H), 4.35-4.25 (m, 1H), 4.25-4.12 (m, 3H), 4.12-3.95 (m, 2H), 3.95-3.75 (m, 5H), 3.75-3.35 (m, 9H), 3.21 (s, 3H), 3.30-2.45 (m, 6H), 2.25-2.00 (m, 5H), 2.00-1.20 (m, 9H), 1.10-1.00 (m, 3H), 1.00-0.80 (m, 45H), 0.20-0.00 (m, 30H)
MS m/z 1484 (M+Na)+ (ESI Positive)
【0056】
さらに、以下の実施例で用いたシクロヘキサノン誘導体は以下の反応スキームに従って合成した。
【化10】

【0057】
〔本発明を実施するための一般的手順〕
本発明の方法は、攪拌機を備えた反応容器中で、窒素又はアルゴン雰囲気下、出発化合物であるα置換カルボニル化合物、式(II)又は式(II’)で表される化合物、3価クロム化合物、マンガン金属又は亜鉛金属、さらに場合によってはさらなる添加剤の混合物を溶媒中で撹拌することによって行うことができる。
しかし、ここに示した装置以外の装置を用いること、及び反応剤の添加方法及び添加順序を適宜最適な態様を選択することは、当業者が容易にできることであり、本発明は上記装置及び手順に限定されない。
【0058】
[試験例1]
[シクロヘキサノン誘導体を用いた本発明の反応例]
上述した、カルボニル基のα位にSPh基、S(O)Ph基、又はSO2Ph基を有するシクロヘキサノン誘導体、あるいは2-クロロシクロヘキサノンを出発物質として用いて、上述した手順に従って、下記反応式に示した反応剤を用いて反応を行い、得られた結果を下の表1に示す。
【0059】
【化11】

【0060】
【表1】

【0061】
表1から、カルボニル基のα位に結合した様々なヘテロ原子含有置換基が本発明の方法によって水素原子に置換できることがわかる。
【0062】
[試験例2]
次に、2-フェニルスルホニルシクロヘキサノンを出発物質として3価クロム化合物として酢酸クロム(III)を用いた例と、添加剤としてTMSCl(トリメチルクロロシラン)を用いた例を以下に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2から、TMSClを用いると3価クロム化合物の使用量が少なくても目的化合物が高収率で得られることがわかる。また、酢酸クロム(III)を用いても、目的化合物が得られることがわかる。
【0065】
[試験例3]
次に、2-フェニルスルホニルシクロヘキサノンを出発物質として用い、上記式(II)で表される種々の化合物について、本発明の反応を以下のスキームに従って行った。その結果を以下の表3に示す。
【化12】

【0066】
【表3】

【0067】
表3に示した結果から、種々の式(II)の化合物を用いて本発明の反応が進行することがわかる。
【0068】
[試験例4]
[ER−413207を出発物質として用いた本発明の反応例]
カルボニル基のα位に-SO2Ph基を有する上記ER−413207を出発物質として、本発明の反応を実施した結果を以下の表4〜7に示す。表中の各反応剤の当量は出発物質1当量当たりの量である。この反応の反応式を以下に示す。
【0069】
【化13】

【0070】
〔反応の手順〕
フラスコ中、アルゴン雰囲気下にて、ER-413207 (10.4 mg, 87.5wt%, 0.00622 mmol)、以下の表に示す所定量の式(II)又は式(II’)で表される化合物、Cr(III)X3、粉状マンガン又は粉状亜鉛、さらに場合によってはCp2TiCl2などの添加剤の混合物へ、室温 (23 oC付近) で溶媒を添加し、得られた反応混合物を所定時間撹拌した。ヘプタンを反応混合物に投入して反応を停止させた後、HPLC外部標準法により反応混合物中の目的生成物を定量し、その収率を求めた。
【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
【表6】

【0074】
【表7】

【0075】
以上の結果は、溶媒中で、3価クロム化合物、式(II)又は式(II’)で表される化合物、及び金属マンガン又は金属亜鉛を用いて、カルボニル基のα位にヘテロ原子含有置換基を有するカルボニル化合物を処理することによって、好収率でヘテロ原子含有置換基が水素に置換された化合物が得られることを示している。さらに、表1の結果からクロルシラン化合物を反応系に添加することによって、より少ない3価クロム化合物を用いても高収率で目的化合物が得られることがわかる。さらに、表2の結果からメタロセン化合物を反応系に添加することによって、より少ない3価クロム化合物を用いても高収率で目的化合物が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボニル基と、前記カルボニル基のα位に存在する、ハロゲン原子、SR、SeR、SOR、SO、OR、及びOSO(R、R、R、R、R、及びRは、直鎖状又は分枝状のアルキル、シクロアルキル、直鎖状又は分枝状のアルケニル、シクロアルケニル、直鎖状又は分枝状のアルキニル、飽和又は不飽和ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル基からなる群から選択される基であり、R、R、R、R、R、及びRはさらに置換基を有していてもよい)からなる群から選択される基とを有する有機化合物を、溶媒中において、下式(II):
【化1】

(式中、R、R1’、R、R2’、R、及びR3’はそれぞれ独立して、水素原子、直鎖状又は分岐状のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基からなる群から選択される基であり、前記アルキル基、前記アリール基、及び前記アルコキシ基はさらに置換基を有していてもよく;
あるいは、R、及びR3’は一緒になってR、及びR3’が結合しているピリジン環とともに縮合環を形成していてもよい。)
で表される化合物及び下記式(II’):
【化2】

(式中、Rはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状又は分岐状のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基からなる群から選択される基であり、これらアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基はさらに置換基を有していてもよく、Rはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状又は分岐状のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基からなる群から選択される基であり、これらアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基はさらに置換基を有していてもよく、xは0〜3の整数であり、yは0〜3の整数である)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物の存在下に、3価クロム化合物と、マンガン及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属とによって処理する工程を含む、前記カルボニル基のα位に存在する、ハロゲン原子、SR、SeR、SOR、SO、OR、及びOSOからなる群から選択される基が水素に置換された有機化合物の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の有機化合物の製造方法であって、下記式I:
【化3】

(式I中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、直鎖状又は分枝状のアルキル、シクロアルキル、直鎖状又は分枝状のアルケニル、シクロアルケニル、直鎖状又は分枝状のアルキニル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル基からなる群から選択される基であり、R及びRはさらに置換基を有していてもよい;
Xは、ハロゲン原子、SR、SeR、SOR、SO、OR、及びOSOからなる群から選択される基であり、R、R、R、R、R、及びRは、直鎖状又は分枝状のアルキル、シクロアルキル、直鎖状又は分枝状のアルケニル、シクロアルケニル、直鎖状又は分枝状のアルキニル、飽和又は不飽和ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル基からなる群から選択される基であり、R、R、R、R、R、及びRはさらに置換基を有していてもよい;
Yは、R-、RO-、及びRN-からなる群から選択され、R、R、R、及びRは、水素原子、直鎖状又は分枝状のアルキル、シクロアルキル、直鎖状又は分枝状のアルケニル、シクロアルケニル、直鎖状又は分枝状のアルキニル、飽和又は不飽和ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル基からなる群から選択される基であり、R、R、R、及びRはさらに置換基を有していてもよく、R及びRはそれぞれ同じであるか又は異なっていてよい;
さらに、R又はRと、R、R、R、又はRとは一緒になって環を形成してもよく、前記環は1つ以上のヘテロ原子を含む環であってもよい。)
で表されるカルボニル化合物を、溶媒中において、下式(II):
【化4】

(式中、R、R1’、R、R2’、R、及びR3’はそれぞれ独立して、水素原子、直鎖状又は分枝状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基からなる群から選択される基であり、前記直鎖状又は分枝状アルキル基、前記シクロアルキル基、前記アリール基、及び前記アルコキシ基はさらに置換基を有していてもよく;
あるいは、R、及びR3’は一緒になってR、及びR3’が結合しているピリジン環とともに縮合環を形成していてもよい。)
で表される化合物及び下記式(II’):
【化5】

(式中、Rはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状又は分枝状のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基からなる群から選択される基であり、これらアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基はさらに置換基を有していてもよく、Rはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状又は分枝状のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基からなる群から選択される基であり、これらアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアルコキシ基はさらに置換基を有していてもよく、xは0〜3の整数であり、yは0〜3の整数である)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物の存在下に、3価クロム化合物と、マンガン及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属とによって処理する工程を含む、下記式III:
【化6】

(式III中のR、R、及びYは、上記式IのR、R、及びYと同じ意味を有する。)
で表される化合物の製造方法。
【請求項3】
前記3価クロム化合物がCr(III)X(式中、Xはハロゲン原子又は有機カルボキシレートを示す。)である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記XがCl又はBrである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記3価クロム化合物が、CrCl無水物、CrCl・6HO、CrBr・6HO、CrCl・3THF、及びCr(OAc)からなる群から選択される1種以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記式(II)中のR及びR1’が水素原子、又は直鎖状もしくは分枝状アルキル基であり;R及びR2’が水素原子、直鎖状又は分枝状アルキル基、アリール基、及びアルコキシ基からなる群から選択される基であり;且つ、R、及びR3’が水素原子であるか;
あるいは、R及びR1’が水素原子であり;R及びR2’が水素原子又はアリール基であり;且つ、R、及びR3’が一緒になって、それらが結合しているピリジン環とともに縮合環を形成している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記式(II’)で表される化合物が8−ヒドロキシキノリンである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
さらに、(RSiX4−nで表されるハロゲン化ケイ素化合物を添加する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
さらに、シクロペンタジエニル環を含むTi、Zr、及びHf化合物からなる群から選択されるメタロセン化合物を添加する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記処理を15〜40℃で行う、請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記溶媒が、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、メチルt-ブチルエーテル、ジメチルホルムアミド、メタノール、及びアセトニトリルからなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−285428(P2010−285428A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111227(P2010−111227)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】