説明

カルボン酸の製造方法

本発明は、カルボン酸の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、酸素又は酸素含有気体による炭化水素の酸化によってカルボン酸を製造する方法、さらにより詳細にはアジピン酸を得るためのシクロヘキサンの酸化に関する。本発明に従えば、この方法は、炭化水素の酸化工程、及び反応媒体から生成したジカルボン酸を抽出し且つ随意に未転化炭化水素をアルコール及びケトンのような生成し得る酸化副生成物と共に再循環するための少なくとも1回の工程を含む。本発明の方法はまた、酸化工程の際に生成したα,ω−ヒドロキシカルボン酸化合物の転化、除去又は取り出し工程をも含む。このα,ω−ヒドロキシカルボン酸化合物の転化、除去又は取り出し工程は、これらの化合物を含む媒体に対して酸化を行ってこれらの化合物を二酸に転化させることから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸の製造方法に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、酸素又は酸素含有気体による炭化水素の酸化によってカルボン酸を製造する方法、さらにより詳細にはアジピン酸を得るためのシクロヘキサンの酸化に関する。
【背景技術】
【0003】
アジピン酸は、多くの分野において用いられる重要な化合物である。例えばアジピン酸は食品分野及びコンクリートの分野の両方で数多くの製品中の添加剤として用いることができる。しかしながら、最も重要な用途の内の1つは、ポリウレタン及びポリアミドを含むポリマーの製造におけるモノマーとしての用途である。
【0004】
アジピン酸を製造するためのいくつかの方法が提唱されている。工業的に大規模に用いられている最も重要なものの1つは、1工程又は2工程でシクロヘキサンを酸素含有気体又は酸素によって酸化してシクロヘキサノール/シクロヘキサノン混合物にし、このシクロヘキサノール/シクロヘキサノン混合物を取り出して(抽出して)精製した後に、これらの化合物を硝酸によって酸化して特にアジピン酸にすることから成る。
【0005】
しかしながら、この方法は含窒素蒸気の生成に関連する大きな欠点を示す。
【0006】
カルボン酸(主としてアジピン酸)を直接得ることを可能にする炭化水素の酸素又は酸素含有気体による酸化方法を開発するために、多くの研究が行われてきた。
【0007】
これらの方法は、特にフランス国特許第2761984号、同第2791667号、同第2765930号、及び米国特許第5294739号の各明細書に開示されている。
【0008】
一般的に、この反応は溶媒中で実施され、この溶媒はモノカルボン酸、例えば酢酸である。また、フランス国特許第2806079号明細書に開示された親油性の性状を有するカルボン酸のようなその他の溶媒も提唱されている。
【0009】
多くの特許文献に、この反応のための操作条件が開示されており、生成した酸を取り出すため、それらを精製するため及び酸化されなかった炭化水素を再循環するための様々な工程が記載され、そして触媒が記載されている。
【0010】
しかしながら、この酸化反応においては、多かれ少なかれ有意の程度でプロセスの収率を低下させてしまう副生成物が生成する。これらの内のあるもの、例えばアルコール類は、生成した酸と反応してエステル類を生成する。このエステル類は、蓄積したり生成した酸から分離するのが難しい望ましくない不純物が生成したりするのを防止するために、反応媒体から取り出さなければならない。
【0011】
また、α,ω−ヒドロキシカルボン酸化合物のようなその他の酸化の中間体物質も、反応媒体から取り除いたり転化させたりしなければ、厄介なことになる。と言うのも、これらの化合物は二酸から分離するのが難しいことが多く、特にポリアミドの製造におけるモノマーとして用いるために要求される純度を示す純粋な酸を得るのを困難にするからである。
【0012】
プロセスの経済性のため及び高純度の二酸を製造するためには、反応媒体中及び特に回収される二酸中の副生成物の濃度が低くなるようにすることが重要である。
【特許文献1】フランス国特許第2761984号明細書
【特許文献2】フランス国特許第2791667号明細書
【特許文献3】フランス国特許第2765930号明細書
【特許文献4】米国特許第5294739号明細書
【特許文献5】フランス国特許第2806079号明細書
【特許文献6】フランス国特許第2828194号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の1つの目的は、二酸の製造方法であって、酸化反応から生じる副生成物を除去し、取り出し又は転化させることができるものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的で、本発明は、溶媒の存在下において分子状酸素又は分子状酸素含有気体によって環状脂肪族炭化水素を酸化することによるジカルボン酸の製造方法を提供する。
【0015】
本発明に従えば、この方法は、炭化水素を酸化する工程、並びに生成したジカルボン酸を反応媒体から取り出し(抽出し)且つ随意に未転化炭化水素を(アルコール類及びケトン類のような)生成する可能性がある酸化副生成物と共に再循環するための少なくとも1回の工程を含む。
【0016】
本発明の方法はまた、酸化工程の間に生成したα,ω−ヒドロキシカルボン酸化合物の転化、除去又は取り出し工程をも含む。
【0017】
このα,ω−ヒドロキシカルボン酸化合物の転化、除去又は取り出し工程は、これらの化合物を含む媒体に対して酸化を行ってこれらの化合物を二酸に転化させることから成る。この酸化反応は随意に、Cu、Ag、Au、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Hg、Al、Sc、In、Tl、Y、Ga、Ti、Zr、Hf、Ge、Sn、Pb、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、ランタニド(例えばCe)及びそれらの組合せ(好ましくは貴金属、例えば白金、金、銀、ルテニウム、レニウム、パラジウム又はそれらの混合物)より成る群から選択される金属又は金属化合物を触媒活性成分として含む触媒の存在下で実施される。有利には、この触媒活性金属又は金属化合物は、カーボンブラック、アルミナ、ゼオライト類、シリカ、グラファイトのような多孔質担体上(より一般的には触媒反応の分野において用いられる担体上)に付着、含浸又はグラフトさせる。
【0018】
本発明の好ましい触媒は特に、カーボンブラック上に付着させた白金化合物を含む触媒である。
【0019】
α,ω−ヒドロキシカルボン酸化合物を酸化させるための反応は、50〜150℃の範囲の温度において実施するのが有利である。
【0020】
この工程にとって好適な酸化剤は、分子状酸素又は分子状酸素含有気体であるのが有利である。また、過酸化水素水溶液、オゾン又は硝酸のような他の酸化剤を用いることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の第1の実施形態に従えば、ヒドロキシカルボン酸化合物の転化、除去又は取り出し工程は、酸化反応器から出て来た媒体に対して、生成した二酸及び未反応炭化水素を分離する前に、即ち有機相の存在下で、実施される。
【0022】
本発明の第2の実施形態に従えば、ヒドロキシカルボン酸化合物の転化工程は、生成した二酸を含む媒体に対してこの酸化反応媒体から生成した二酸を抽出した後に、又は該二酸の結晶化の後に水性結晶化母液に対して、即ち水性相から成る媒体に対して、実施される。
【0023】
かくして、本発明の第1の実施形態においては、炭化水素の酸化反応が終わった後の酸化反応器において、又は1つ以上の別個の酸化反応器に反応媒体を供給して、均質又は不均質酸化触媒を反応媒体に添加する。この実施形態においては、用いられる触媒は均質金属触媒又は均質金属触媒の混合物であるのが有利である。温度条件は、例えば50〜150℃の範囲と規定される。
【0024】
酸化剤は、酸素又は酸素含有気体(例えば空気)であるのが有利である。この場合、酸素分圧は0.1〜30バールの範囲であるのが有利である。
【0025】
本発明の第2の実施形態においては、α,ω−ヒドロキシカルボン酸化合物の酸化を水性媒体中で、触媒の不在下又は下に規定する通りの触媒の存在下で、実施する。有利には、触媒は不均質触媒であり、酸化剤は例えば酸素、酸素含有気体、硝酸、過酸化水素水溶液又はオゾンである。
【0026】
本発明の方法は、特にアジピン酸を製造するためのシクロヘキサンの酸化に適用される。また、シクロドデカンのような他の炭化水素の酸化に適用することもできる。
【0027】
炭化水素(例えばシクロヘキサン)の酸化のための反応は、一般的に溶媒の存在下で実施される。この溶媒は、反応条件下において酸化されることがないものである限り、非常に様々な性状のものであることができる。この溶媒は、特に極性プロトン性溶媒及び極性非プロトン性溶媒から選択することができる。極性プロトン性溶媒としては、例えば1級若しくは2級水素原子のみを有するカルボン酸類、特に2〜9個の炭素原子を有する脂肪族酸類(例えば酢酸)、ペルフルオロアルカンカルボン酸類(例えばトリフルオロ酢酸)、アルコール類(例えばt−ブタノール)、ハロゲン化炭化水素類(例えばジクロロメタン)、又はケトン類(例えばアセトン)を挙げることができる。極性非プロトン性溶媒としては、例えばカルボン酸(特に2〜9個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸又はペルフルオロアルカンカルボン酸)の低級アルキル(=1〜4個の炭素原子を有するアルキル基)エステル類、テトラメチレンスルホン(若しくはスルホラン)、アセトニトリル又はベンゾニトリルを挙げることができる。
【0028】
溶媒はまた、親油性性状を有するカルボン酸から選択することもできる。
【0029】
本発明にとって好適な親油性酸化合物は、少なくとも6個の炭素原子を有する芳香族、脂肪族、アリール脂肪族又はアルキル芳香族酸化合物であって、低い水中溶解性、即ち周囲温度(10℃〜30℃)において10重量%未満の溶解度を示すものであり、これは複数の酸官能基を含むものであることができる。
【0030】
親油性有機化合物としては、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸又はステアリン酸(オクタデカン酸)及びそれらのペルメチル化誘導体(メチレン基の水素全部がメチル基で置換されたもの)、2−オクタデシルコハク酸、3,5−ジ−(t−ブチル)安息香酸、4−(t−ブチル)安息香酸、4−オクチル安息香酸、オルトフタル酸水素t−ブチル、アルキル基(好ましくはt−ブチルタイプのアルキル基)で置換されたナフテン酸若しくはアントラセン酸、フタル酸の置換誘導体、又は脂肪二酸、例えば脂肪酸二量体を挙げることができる。また、前記の類に属する酸であって、様々な電子供与性置換基(O若しくはNタイプのヘテロ原子を有する基)又は電子求引性置換基(ハロゲン類、スルホンイミド類、ニトロ若しくはスルホナト基等)を有するものを挙げることもできる。置換された芳香族酸が好ましい。
【0031】
一般的に、溶媒は有利には酸化反応を実施する温度及び圧力条件下において均質の層が得られるように選択する。このためには、炭化水素中又は反応媒体中の溶媒の溶解性が少なくとも2重量%超であり、酸化させるべき炭化水素の少なくとも一部及び溶媒の少なくとも一部を含む少なくとも1つの均質液相が形成されるのが有利である。
【0032】
この溶媒は、水中にそれほど可溶ではないもの、即ち周囲温度(10℃〜30℃)において10重量%未満の水中溶解性を示すものから選択するのが有利である。
【0033】
しかしながら、上に示したものより大きい水中溶解性を示す溶媒であっても、酸化させるべき炭化水素及び酸化中間体から本質的に成る有機相又は反応媒体の相と酸化反応の間に生成する水を含む非有機相との間の分配係数が、前記水性相中のその溶媒の濃度を10重量%未満にすることができるもの(分配係数)である化合物であれば、本発明の範囲から逸脱することなく用いることができる。
【0034】
この酸化は、一般的に触媒の存在下で実施される。この触媒は、Cu、Ag、Au、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Hg、Al、Sc、In、Tl、Y、Ga、Ti、Zr、Hf、Ge、Sn、Pb、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、ランタニド(例えばCe)及びそれらの組合せより成る群から選択される金属成分を含むものであるのが有利である。
【0035】
これらの触媒成分は、化合物の形で(酸化反応を実施するための条件下で液状酸化媒体中に少なくともある程度可溶なものであるのが有利である)、又は不活性担体(例えばシリカ若しくはアルミナ)上に担持させ、吸収させ若しくは結合させて、用いられる。
【0036】
前記触媒は、特に酸化反応を実施するための条件下において:
・酸化させるべき炭化水素中に可溶であり、又は
・溶媒中に可溶であり、又は
・反応を実施するための条件下で均質液相を形成する炭化水素/溶媒混合物中に可溶である:
のが好ましい。
【0037】
本発明の好ましい実施形態に従えば、用いられる触媒は、これらの媒体の内の1つに、周囲温度において又はさらなる酸化にこれらの媒体を再循環するための温度において、可溶のものである。
【0038】
用語「可溶」とは、触媒がその媒体中に少なくともある程度可溶であることを意味するものとする。
【0039】
不均質触媒反応の場合には、触媒活性金属成分を、微孔質若しくはメソ孔質無機マトリックス又はポリマーマトリックスに担持させ又は組み込むか、或は有機又は無機担体にグラフトさせた有機金属錯体の形にする。用語「組み込む」とは、金属が担体の成分となること、又は酸化の条件下において多孔質構造中に空間的に捕捉された錯体を用いて操作を実施することを意味するものとする。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、前記均質又は不均質触媒は、単独の又は混合物としての第IVB族(Ti族)、第VB族(V族)、第VIB族(Cr族)、第VIIB族(Mn族)、第VIII族(Fe若しくはCo若しくはNi族)、第IB族(Cu族)及びセリウムからの金属の塩又は錯体から成る。好ましい成分は、特にMn及び/又はCoが例えばZr、Hf、Ce、Hf又はFeのような1種以上の他の金属成分と組み合わされたものである。液状酸化媒体中の金属の濃度は、0.00001〜5%の範囲(重量%)、好ましくは0.001%〜2%の範囲である。
【0041】
さらに、反応媒体中の溶媒の濃度は、溶媒の分子数対触媒金属原子数のモル比が0.5〜100000の範囲、好ましくは1〜5000の範囲となるように決定するのが有利である。
【0042】
液状酸化媒体中の溶媒の濃度は、広い範囲内で変えることができる。かくして、この濃度は、液状媒体の総重量に対して1〜99重量%の範囲であることができ;より一層有利には液状媒体の2〜50重量%の範囲にすることができる。
【0043】
また、本発明の範囲から逸脱することなく、溶媒を、アジピン酸の酸化反応の生産性及び/又は選択性並びに特に酸素の溶解を改善する効果を特に有する別の化合物との組合せとして用いることも可能である。
【0044】
かかる化合物の例としては、特に、ニトリル類、ヒドロキシイミド化合物類又はハロゲン化化合物類、より一層有利にはフッ素化化合物類を挙げることができる。さらに特に好適な化合物としては、アセトニトリル若しくはベンゾニトリルのようなニトリル類、ヨーロッパ特許公開第0824962号公報に開示された類に属するイミド類、より特定的にはN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)若しくはN−ヒドロキシフタルイミド(NHPI)、又はジクロロメタンのようなハロゲン化誘導体、又は次のようなフッ素化化合物を挙げることができる:
・フッ素化若しくはペルフッ素化環状若しくは非環状脂肪族炭化水素若しくはフッ素化芳香族炭化水素、例えばペルフルオロトルエン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロノナン、ペルフルオロデカリン、ペルフルオロメチルデカリン、α,α,α−トリフルオロトルエン若しくは1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、
・ペルフッ素化若しくはフッ素化エステル、例えばペルフルオロ(アルキルオクタノエート)若しくはペルフルオロ(アルキルノナノエート)、
・フッ素化若しくはペルフッ素化ケトン、例えばペルフルオロアセトン、
・フッ素化若しくはペルフッ素化アルコール、例えばペルフルオロヘキサノール、ペルフルオロオクタノール、ペルフルオロノナノール、ペルフルオロデカノール、ペルフルオロ−t−ブタノール、ペルフルオロイソプロパノール若しくは1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、
・フッ素化若しくはペルフッ素化ニトリル、例えばペルフルオロアセトニトリル、
・フッ素化若しくはペルフッ素化酸、例えばトリフルオロメチル安息香酸、ペンタフルオロ安息香酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロオクタン酸、ペルフルオロノナン酸若しくはペルフルオロアジピン酸、
・フッ素化若しくはペルフッ素化ハライド、例えばペルフルオロヨードオクタン若しくはペルフルオロブロモオクタン、
・フッ素化若しくはペルフッ素化アミン、例えばペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリブチルアミン若しくはペルフルオロトリフェニルアミン。
【0045】
本発明は、より特定的にはアジピン酸又はドデカン二酸のような対応する直鎖状二酸を得るためのシクロヘキサン又はシクロドデカンのような環状脂肪族化合物の酸化に適用される。
【0046】
本発明の好ましい実施形態に従えば、本発明は、液状媒体中でマンガン触媒又はマンガン/コバルト組合せ触媒の存在下で酸素又は酸素含有気体によってシクロヘキサンを直接酸化してアジピン酸を得る方法に関する。
【0047】
前記酸化反応は、50℃〜200℃の範囲、好ましくは70℃〜180℃の範囲の温度で実施される。この反応は、大気圧において実施することができる。しかしながら、反応媒体の成分を液体の形に保つためには、この反応は一般的には加圧下で実施される。この圧力は、10kPa(0.1バール)〜20000kPa(200バール)の範囲、好ましくは100kPa(1バール)〜10000kPa(100バール)の範囲であることができる。
【0048】
用いる酸素は、純粋な形のものであることもでき、窒素やヘリウムのような不活性ガスとの混合物であることもできる。また、多少酸素に富んだ空気を用いることも可能である。媒体に供給される酸素の量は、酸化させるべき化合物1モル当たり1〜1000モルであるのが有利である。
【0049】
前記酸化プロセスは、連続式で実施することもでき、バッチ式プロセスに従って実施することもできる。有利には、反応器から出て来た液状反応媒体を、一方で製造された二酸を分離して回収することができ、他方でシクロヘキサン、シクロヘキサノール及び/又はシクロヘキサノンのような酸化されなかった又は完全には酸化されなかった有機化合物を再循環させることができる既知の方法に従って処理する。また、例えばケトン、アルコール、アルデヒド又はヒドロペルオキシドのような酸化反応を開始させる化合物を用いるのも有利である。シクロヘキサンの酸化の場合の反応中間体であるシクロヘキサノン、シクロヘキサノール及びシクロヘキシルヒドロペルオキシドが特に示される。一般的に、開始剤は用いる反応混合物の重量の0.01〜20重量%を占めるが、これらの割合は臨界的な価値を持つものではない。開始剤は、酸化を開始させる時に、特に有用である。この開始剤は、反応の初めから導入することができる。
【0050】
酸化はまた、プロセスの初期の段階から導入された水の存在下で実施することもできる。
【0051】
上に示したように、酸化から得られる反応混合物は、例えばその成分の内のいくらかを酸化に再循環できるようにするため及び製造された酸を回収できるようにするために、それらを分離するための様々な操作に付される。
【0052】
本発明の第1の実施形態に従えば、酸化反応器から出て来た媒体は、均質又は不均質金属触媒の存在下で2回目の酸化工程に直接付される。温度及び圧力条件は、炭化水素の酸化工程において用いた条件と同じであっても異なっていてもよい。用いる酸化剤は、例えば酸素、酸素含有気体、過酸化水素水溶液、オゾン、有機ヒドロペルオキシド等であることができる。この酸化工程において、生成したα,ω−ヒドロキシカルボン酸化合物(例えばシクロヘキサンの酸化の場合にはヒドロキシカプロン酸)がジカルボン酸に転化される。上に示したように、この工程は酸化反応器中で又は1つ以上の追加の反応器中で実施される。
【0053】
触媒は、Cu、Ag、Au、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Hg、Al、Sc、In、Tl、Y、Ga、Ti、Zr、Hf、Ge、Sn、Pb、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、ランタニド(例えばCe)及びそれらの組合せより成る群から選択される金属の少なくとも1種の化合物から成る均質触媒であるのが有利である。
【0054】
また、前記の金属化合物の内の1つを触媒相として含む不均質触媒を用いることも可能である。
【0055】
この工程の終わりに、反応混合物を冷却し、デカンテーションして少なくとも2つの液相にする。1つ以上の有機相は未反応炭化水素、随意としての溶媒並びにある種の酸化中間体(例えばアルコール及びケトン)を本質的に含み、水性相は炭化水素の酸化の間及びα,ω−ヒドロキシカルボン酸化合物の転化工程の間に生成した二酸を含む。
【0056】
できるだけ多量のジカルボン酸を抽出するためには、前記有機相を水又は酸性水溶液で数回洗浄するのが有利である。
【0057】
酸化されなかった炭化水素(シクロヘキサン)及びシクロヘキサノンやシクロヘキサノールのようなある種の酸化中間体化合物を含む有機相は、炭化水素の酸化工程に再循環するのが有利である。
【0058】
酸溶媒が親油性性状を有する溶媒である場合、この溶媒は水中に不溶なので、有機相中に存在する。従って、この溶媒は酸化しなかったシクロヘキサンと一緒に酸化工程に再循環される。この溶媒の再循環は、特に溶媒がt−ブチル安息香酸のような置換又は非置換芳香族酸から選択された場合に、行われる。
【0059】
生成した二酸、特にアジピン酸は、例えば結晶化によって、水性相から回収される。
【0060】
こうして回収された酸は、多くの文献に記載された標準的な技術に従って精製するのが有利である。精製方法の中では、各種の溶媒、例えば水、酢酸水溶液又はアルコールからの結晶化による精製が好ましい。精製方法は、フランス国特許第2749299号及び同第2749300号明細書に開示されている。
【0061】
同様に、炭化水素の酸化のための触媒が完全には有機相と共に再循環されずに水性相により一部又は全部抽出される場合には、例えば液液抽出、電気透析又はイオン交換樹脂上での処理のような様々な技術によって水性相から抽出するのが有利である。
【0062】
本発明の第2の実施形態においては、6−ヒドロキシカプロン酸のようなα,ω−ヒドロキシカルボン酸化合物の酸化工程は、酸化反応媒体を冷却してデカンテーションする工程の後に回収された水性相に対して、及び/又は有機相の洗浄からの水性相に対して、そしてまた、カルボン酸の結晶化の際に回収された水性母液に対して、実施される。
【0063】
この第2の実施形態において、前記のα,ω−ヒドロキシカルボン酸化合物の酸化は、触媒の存在下又は不在下で酸素又は酸素含有気体(例えば空気)によって実施される。また、硝酸、過酸化水素水溶液又はオゾンのような他の酸化剤を用いることも可能である。この酸化反応は、50℃〜150℃の範囲の温度で酸素分圧0.1〜30バールの酸素加圧下において実施される。
【0064】
有利には、用いられる触媒は、不均質触媒、例えばAu、Pt、Ru、Cr、Ti、V、Mn、Fe、Co、Zn、Mo、Rh、Pd、Ag、W、Re、Os及びBiより成る群から選択される金属成分の化合物又は該化合物の混合物を触媒活性金属部分として含む担持触媒である。本発明にとって特に好適な触媒としては、チャコール、アルミナ若しくは酸化チタン上に担持された白金をベースとする触媒、又はチャコール上に担持された白金及びビスマスをベースとする触媒を挙げることができる。
【0065】
この酸化操作は、ジカルボン酸の抽出及び精製の際に回収されるすべての水性相に対して、特に水性結晶化母液に対して、実施することができる。また、水性相及び有機相のデカンテーションによる分離と同時に実施することもできる。
【0066】
酸化の後に、回収された水性媒体を上記のように処理して、二酸、特にアジピン酸を抽出する。
【0067】
有利には、本発明の方法は、酸化工程において生成したエステルを加水分解する工程を含むことができる。かかる加水分解工程は、例えばフランス国特許第2846651号明細書に開示されている。
【0068】
この加水分解工程は、冷却及びデカンテーション/洗浄工程の後に回収される有機相に対して実施するのが有利であり且つ好ましい。
【0069】
本発明の方法は、環状炭化水素を酸素又は酸素含有気体で酸化と共に、酸化しなかった炭化水素を再循環することによって、酸化工程において生成した様々な副生成物が蓄積することなく、二酸を製造することを可能にする。さらに、回収される二酸(群)は、炭化水素の酸化のための反応からのある種の副生成物によって汚染されていないので、容易に精製することができる。
【実施例】
【0070】
本発明のその他の利点及び詳細は、単に例示として与えられた実施例からより一層はっきりわかるだろう。
【0071】
例1:比較例
【0072】
フランス国特許第2828194号明細書に開示されたようなマンガン及びコバルトをベースとする触媒及びt−ブチル安息香酸の存在下での空気によるシクロヘキサンの酸化から得られた反応媒体を分離することによって、特に
・アジピン酸:30%
・コハク酸:2.35%
・グルタル酸:5.60%
・6−ヒドロキシカプロン酸:4.46%
を含む水溶液600gを得た。
【0073】
得られた水溶液を冷却して結晶性アジピン酸を得た。濾過後に得られた固体を水で洗浄し、次いで加熱しながら水300ミリリットル中に取り出した。
【0074】
アジピン酸の結晶化を可能にするために、この新たな溶液を冷却した。この操作をもう一度繰り返した。
【0075】
各結晶化の後に集められたアジピン酸中のヒドロキシカプロン酸を定量測定した。
・1回目の結晶化:1986ppm
・2回目の結晶化:73ppm
・3回目の結晶化:22ppm
【0076】
この試験は、要求される仕様に対応するアジピン酸中のヒドロキシカプロン酸の低濃度を得るためには、少なくとも3回の連続的なアジピン酸の結晶化を実施することが必要であることを示している。
【0077】
例2:
【0078】
フランス国特許第2828194号明細書に開示されたようなマンガン及びコバルトをベースとする触媒及びt−ブチル安息香酸の存在下での空気によるシクロヘキサンの酸化の際に得られた反応媒体580gを、各種水溶性化合物、特に生成した酸及び6−ヒドロキシカプロン酸を抽出するために、水250ミリリットルで洗浄した。
【0079】
得られた水性相は、特にギ酸1重量%、コハク酸0.7重量%、グルタル酸3.4重量%、アジピン酸7.3重量%及び6−ヒドロキシカプロン酸(HOCap)1.4重量%を含んでいた。この水性相3.65gを、Engelhardt社より販売されているチャコール粉末上に担持されたPtの存在下で振盪によって撹拌されるオートクレーブに装填した(HOCap/Ptモル比=15)。90℃において25バールの空気加圧下で3時間反応を行った。クロマトグラフィーによる分析によると、この試験は、6−ヒドロキシカプロン酸の転化率=100%、ギ酸の転化率=100%、及び6−ヒドロキシカプロン酸に対するアジピン酸の真の収率=80%という結果をもたらした。得られた混合物をアジピン酸の結晶化のための慣用の方法によって処理した。最初の結晶化の後のアジピン酸中の6−ヒドロキシカプロン酸(HOCap)の含有率は、2ppm未満だった。
【0080】
例3:
【0081】
6−ヒドロキシカプロン酸の酸化工程において、空気に代えてH22を用い且つ担持白金触媒に代えてタングステン酸13mgを用いて、例2を繰り返した。
【0082】
20℃に4時間加熱した後に、20.4%のヒドロキシカプロン酸がアジピン酸に転化した。
【0083】
例4:
【0084】
6−ヒドロキシカプロン酸の酸化工程において、空気に代えて60重量%硝酸溶液を用い且つ銅として表わして6000重量ppmの硝酸銅(Cu(NO3)2・3H2O)及びバナジウムとして表わして300ppmのVO3NH4を含む組成物を触媒として用いて、例2を繰り返した。
【0085】
反応を70℃において3時間実施した。6−ヒドロキシカプロン酸が完全に転化した。6−ヒドロキシカプロン酸に対するアジピン酸の収率は68%だった。
【0086】
例5:
【0087】
チャコール上の白金触媒に代えて10重量%の濃度で添加した酢酸パラジウムを用いて、例2を繰り返した。
【0088】
6−ヒドロキシカプロン酸の転化度は100%だった。6−ヒドロキシカプロン酸に対するアジピン酸の収率は63%だった。
【0089】
例6:
【0090】
チャコール上の白金触媒に代えて担体としてのアルミナと担持触媒相としてのAg/Pd組合せ物とから成る担持触媒を用いて、例2を繰り返した。金属の重量として表わした触媒相の濃度は、アルミナ担体に対して10重量%だった。
【0091】
6−ヒドロキシカプロン酸の転化度は57%であり、転化した6−ヒドロキシカプロン酸に対するアジピン酸の収率は59%だった。
【0092】
例7:
【0093】
チャコール上の白金触媒に代えて担体としての活性炭と担持触媒相としてのRu/Fe組合せ物とから成る担持触媒を用いて、例2を繰り返した。金属の重量として表わした触媒相の濃度は、活性炭担体に対して10重量%だった。
【0094】
6−ヒドロキシカプロン酸の転化度は86%であり、転化した6−ヒドロキシカプロン酸に対するアジピン酸の収率は46%だった。
【0095】
例8:
【0096】
チャコール上の白金触媒に代えて担体としてのグラファイトと担持触媒相としてのPt/Bi組合せ物とから成る担持触媒を用いて、例2を繰り返した。金属の重量として表わした触媒相の濃度は、グラファイト担体に対して10%だった。
【0097】
6−ヒドロキシカプロン酸の転化度は96%であり、転化した6−ヒドロキシカプロン酸に対するアジピン酸の収率は81%だった。
【0098】
例9:
【0099】
チャコール上の白金触媒に代えて担体としてのアルミナと担持触媒相としてのPt/Bi組合せ物とから成る担持触媒を用いて、例2を繰り返した。金属の重量として表わした触媒相の濃度は、アルミナ担体に対して10重量%だった。
【0100】
6−ヒドロキシカプロン酸の転化度は82%であり、転化した6−ヒドロキシカプロン酸に対するアジピン酸の収率は69%だった。
【0101】
例10:
【0102】
チャコール上の白金触媒に代えて担体としての酸化チタンと担持触媒相としての白金とから成る担持触媒を用いて、例2を繰り返した。金属の重量として表わした触媒相の濃度は、酸化チタン担体に対して10重量%だった。
【0103】
6−ヒドロキシカプロン酸の転化度は100%であり、転化した6−ヒドロキシカプロン酸に対するアジピン酸の収率は69%だった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒の存在下において酸素又は酸素含有気体によって炭化水素を酸化することによるジカルボン酸の製造方法において、
・炭化水素を酸化し、
・生成した二酸を反応媒体から、水又は酸の水溶液を抽出溶媒として用いた液液抽出によって、抽出し、
・生成した二酸を液液抽出の終わりに回収された水性相から結晶化によって回収し、
・酸化工程の終わりに回収された有機相を酸化工程に再循環する
ことから成る前記製造方法であって、
酸化工程において生成したα,ω−ヒドロキシカルボン酸化合物を酸化して二酸にすることから成る前記ヒドロキシカルボン酸化合物の転化、除去又は取り出し工程を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
水性相からの二酸の1回以上の結晶化工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記のヒドロキシカルボン酸化合物の酸化を、酸化反応からの反応媒体に対して実施することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記のα,ω−ヒドロキシカルボン酸化合物の酸化を、前記の炭化水素の酸化の終わりに酸化反応器に触媒を添加することによって実施することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記のα,ω−ヒドロキシカルボン酸化合物の酸化を、1個以上の追加の酸化反応器中で実施することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒が反応媒体中に可溶の触媒であることを特徴とする、請求項3〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
生成した酸を液液抽出によって抽出することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
抽出溶媒が水であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記のα,ω−ヒドロキシカルボン酸化合物の酸化を、二酸の液液抽出工程の後に回収される水性相及び/又は二酸の結晶化からの水性母液に対して実施することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記酸化を50℃〜150℃の範囲の温度及び0.1〜30バールの範囲の酸素分圧において実施することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記酸化を金属触媒の存在下で実施することを特徴とする、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記金属触媒がCu、Ag、Au、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Hg、Al、Sc、In、Tl、Y、Ga、Ti、Zr、Hf、Ge、Sn、Pb、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ceのようなランタニド、及びそれらの組合せより成る群から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記触媒がCu、Ag、Au、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Hg、Al、Sc、In、Tl、Y、Ga、Ti、Zr、Hf、Ge、Sn、Pb、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ceのようなランタニド、及びそれらの組合せより成る群に属する1種以上の成分から成る活性相と、アルミナ、シリカ、ゼオライト類及びチャコールより成る群から選択される担体とを含む担持触媒であることを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記貴金属が金、白金、パラジウム、ルテニウム又は銀より成る群から選択されることを特徴とする、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記炭化水素がシクロヘキサン及びシクロドデカンより成る群から選択されることを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記溶媒が親油性性状を有する酸であることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2008−546673(P2008−546673A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516371(P2008−516371)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【国際出願番号】PCT/FR2006/001308
【国際公開番号】WO2006/136674
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(390023135)ロディア・シミ (146)
【Fターム(参考)】