説明

カロチノイド含有パルプの製造方法

【課題】かんきつ類に含まれるカロチノイド、特に温州ミカンの果汁に含まれるβ−クリプトキサンチンを簡単な工程で効率よく濃縮することができるカロチノイド含有パルプの製造方法を提供する。
【解決手段】かんきつ類の果実を濃縮した濃縮果汁をBrix10.5〜11.0の範囲に希釈する工程と、希釈後の果汁を加熱して殺菌する工程と、殺菌後に冷却した果汁に酵素を添加して酵素処理を行う工程と、酵素処理後の酵素処理液を遠心分離してパルプ分と上澄み液とに分離する工程と、分離した前記パルプ分を加熱して酵素を不活性化するとともに、加熱状態のパルプ分をホットパック充填する工程とを含んでいる。また、分離した前記パルプ分に高度分岐環状デキストリンを添加して乾燥粉末化することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロチノイド含有パルプの製造方法に関し、詳しくは、かんきつ類の果実に含まれるカロチノイド、特に、温州ミカンに含まれるβ−クリプトキサンチンを多く含有するカロチノイド含有パルプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温州ミカン由来のカロチノイドは、β−クリプトキサンチンを主要構成成分としており、他の果実や野菜等から得られるカロチノイドに比べて高付加価値を有している。このため、従来から、温州ミカンの果実に含まれるβ−クリプトキサンチンを濃縮したパルプや粉末の製造方法が種々提案されている。
【0003】
例えば、温州ミカンの果実を搾汁してろ過又は篩別した果汁を軽遠心分離し、この軽遠心分離で得た上清部を更に重遠心分離して得られた高粘度の沈殿物に酵素剤を添加し、加温することなく凍結し、解凍して固液分離を促進させた後、解凍された低粘性の沈殿物を脱水することによってカロチノイド(β−クリプトキサンチン)高含有パルプを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第3359298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の方法によれば、加温又は加熱工程を行わないため、カロチノイドを低減させることなく、効率よくカロチノイド高含有パルプを製造できるとしている。しかしながら、軽遠心分離及び重遠心分離の2回の遠心分離工程を行い、さらに、凍結、解凍を行うために工程が複雑になり、凍結に多大なコストを要するとともに、凍結から解凍までに長時間を必要とするという問題がある。また、重遠心分離で分離した高粘度の沈殿物に酵素剤を均一に添加しなければならないため、あらかじめ酵素剤を精製水に溶解させておく手間も掛かる。
【0005】
そこで本発明者は、かんきつ類、特に温州ミカンの果汁に含まれるβ−クリプトキサンチンを簡単な工程で効率よく濃縮するために鋭意研究を重ねた結果、短時間の加熱ならばβ−クリプトキサンチンがほとんど減少せず、また、高度分岐環状デキストリンを添加することによってもβ−クリプトキサンチンの減少を抑えることができることを見出し、本発明のカロチノイド含有パルプの製造方法を完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明のカロチノイド含有パルプの製造方法における第1の構成は、かんきつ類の果実を搾汁、ろ過又は篩別した果汁を濃縮した濃縮果汁を、Brix10.5〜11.0の範囲に希釈する工程と、希釈後の果汁を加熱して殺菌する工程と、殺菌後に冷却した果汁に酵素を添加して酵素処理を行う工程と、酵素処理後の酵素処理液を遠心分離してパルプ分と上澄み液とに分離する工程と、分離した前記パルプ分を加熱して酵素を不活性化するとともに、加熱状態のパルプ分をホットパック充填する工程とを含むことを特徴としている。
【0007】
また、本発明のカロチノイド含有パルプの製造方法における第2の構成は、かんきつ類の果実を搾汁、ろ過又は篩別した果汁を濃縮した濃縮果汁を、Brix10.5〜11.0の範囲に希釈する工程と、希釈後の果汁を加熱して殺菌する工程と、殺菌後に冷却した果汁に酵素を添加して酵素処理を行う工程と、酵素処理後の酵素処理液を遠心分離してパルプ分と上澄み液とに分離する工程と、分離した前記パルプ分に高度分岐環状デキストリンを添加する工程とを含むことを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明のカロチノイド含有パルプの製造方法、前記濃縮果汁が温州ミカンの濃縮果汁を冷凍した温州ミカン冷凍濃縮果汁を解凍した濃縮果汁であること、遠心分離により分離した前記上澄み液を清澄果汁の原料として使用すること、遠心分離により分離した前記パルプ分を加熱して酵素を不活性化する工程を含むことを特徴としている。加えて、前記高度分岐環状デキストリン添加後の前記パルプ分を乾燥させて粉末化する工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のカロチノイド含有パルプの製造方法によれば、原料として保存性、保管性に優れた濃縮果汁や冷凍濃縮果汁を使用するので、原料の調達が年間を通して容易であり、製造工程の稼働効率の向上が図れる。また、遠心分離の回数も最小限にできるので、工程の大幅な簡略化が図れる。さらに、酵素を添加する果汁は、濃縮果汁をBrix10.5〜11.0の低粘度の状態に希釈しているので、酵素をそのまま果汁中に投入することができ、精製水に溶解する手間がない。
【0010】
また、遠心分離したパルプ分を加熱して酵素を不活性化した状態でホットパック充填することにより、この状態で長期保存が可能となる。一方、遠心分離した上澄み液を清澄果汁の原料として使用することにより、原料の濃縮果汁全体を有効に利用することができる。
【0011】
さらに、遠心分離したパルプ分に高度分岐環状デキストリンを添加することにより、β−クリプトキサンチン等のカロチノイドの分解を抑制することができ、乾燥性、保存性に優れたカロチノイド含有パルプを得ることができ、高度分岐環状デキストリンを添加したパルプ分を乾燥させて粉末化することにより、耐熱性に優れたカロチノイド含有粉末を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明のカロチノイド含有パルプの製造方法の一形態例を示す工程説明図であって、温州ミカンの濃縮果汁からβ−クリプトキサンチンを多く含有するカロチノイド含有粉末を製造する工程を表している。
【0013】
まず、最初のステップ11で用意する原料は、温州ミカンの濃縮果汁である。この濃縮果汁は、温州ミカンの果実を搾汁、ろ過又は篩別した果汁を、周知の濃縮方法によって1/5〜1/7に濃縮した濃縮果汁、あるいは、この濃縮果汁を周知の凍結方法によって凍結させた冷凍濃縮果汁を解凍したものであって、一般に流通している濃縮果汁、冷凍濃縮果汁を使用することができる。
【0014】
次のステップ12では、前記濃縮果汁をBrix10.5〜11.0の範囲になるように水で希釈する工程である。このとき、Brix10.5未満では、水分量が多くなりすぎて後工程での処理量が増大し、Brix11.0を超えると粘性が増して後工程での操作に支障を来すことがある。また、前記範囲を外れると、カロチノイド(β−クリプトキサンチン)の収率が低下することがある。
【0015】
ステップ13は、希釈後の果汁を短時間加熱して殺菌する工程である。この殺菌工程は、各種液状物を加熱殺菌するための各種方法、各種装置を利用することができ、例えば、95℃で30秒程度保持する殺菌処理や、それと同等程度の殺菌価を有する条件での殺菌処理を利用することができる。このような短時間の殺菌工程を行うことにより、果汁中の菌数を制御して後工程中での腐敗を防止することができる。
【0016】
95℃、30秒の殺菌工程を行う前と行った後とにおけるβ−クリプトキサンチンの含有量を分析した結果、表1に示すように残存率は略100%であり、この殺菌工程によってβ−クリプトキサンチンが失われることはほとんどないことが確認できた。
【表1】

【0017】
ステップ14は、殺菌工程で昇温した果汁を冷却する工程である。冷却温度は、後工程での酵素処理に適した温度に設定することが好ましい。冷却方法は任意であり、適当な容器に充填して空冷又は水冷してもよく、熱交換器を利用してもよい。
【0018】
ステップ15は、冷却した果汁あるいは冷却途中の果汁を適当な容積のタンクに分配する工程である。タンクの容積は、酵素処理や遠心分離を効率よく行えるように設定され、例えば、使用する遠心分離器の処理能力に応じた容積のタンクにそれぞれ果汁を分配する。なお、殺菌工程後の果汁や、冷却途中の果汁をタンクに充填し、タンクに入れた状態で所定温度まで果汁を冷却することも可能である。
【0019】
ステップ16は、所定温度に冷却された果汁に酵素を添加して酵素処理を行う工程である。添加する酵素としては、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、マセレーションエンザイム、プロトペクチナーゼ等の酵素を使用することができ、これらの1種又は複数種を適宜混合して用いることができる。また、これらの酵素を含む酵素剤も使用可能であり、形態は粉末、液状のいずれでもよい。果汁への酵素の添加は、果汁が低粘度状態になっているから、各酵素に応じた適量を前記タンク内の果汁に投入して撹拌することにより、果汁全体に酵素を均一に分散させることができる。この酵素処理の工程は、添加した酵素に適した温度に果汁を保持した状態で所定時間かけて行われる。
【0020】
この酵素処理工程の前後におけるβ−クリプトキサンチンの含有量を分析した結果、表2に示すように、β−クリプトキサンチンの残存率は略100%であり、ほとんど減少しないことが確認できた。
【表2】

【0021】
ステップ17は、酵素処理を終えた果汁の遠心分離を行い、β−クリプトキサンチンを多く含む高含水率(90%程度)のパルプ分(ミカンパルプ)と、β−クリプトキサンチンをほとんど含まない上澄み液とに分離する工程である。遠心分離に使用する遠心分離器は、市販の各種遠心分離器を使用することが可能であり、遠心分離における流量は、毎時4〜5トン程度が適当である。
【0022】
遠心分離された上澄み液は、ステップ18の清澄果汁工程に進んで所定のろ過処理や酵素不活性処理等の各処理を行うことにより、ステップ19の清澄果汁を製品として得ることができる。
【0023】
また、遠心分離したステップ20のミカンパルプは、その後の取り扱いに応じて異なる工程を選択することができる。まず、粉末化までを連続して行う場合には、ステップ20のミカンパルプは、そのままステップ21のデキストリン添加工程に進み、ミカンパルプに対して所定量の高度分岐環状デキストリンが添加される。このように、遠心分離後のミカンパルプに高度分岐環状デキストリンを添加することにより、ミカンパルプ中に含まれているβ−クリプトキサンチンの加熱分解を略100%抑制することができる。
【0024】
ステップ22は、高度分岐環状デキストリンを添加したミカンパルプを乾燥して粉末化する工程であり、例えば被膜式乾燥機を使用してミカンパルプを乾燥させることにより、ステップ23のカロチノイド(β−クリプトキサンチン)含有粉末を製品として得ることができる。このとき、高度分岐環状デキストリンを添加して、乾燥、粉末化する工程でβ−クリプトキサンチンが損なわれることはほとんどなく、β−クリプトキサンチンを多く含んだ粉末を得ることができる。
【0025】
一方、ステップ20のミカンパルプを一時的又は長期間にわたって保存し、保存後に粉末化を行う場合、あるいは、このミカンパルプの状態のままで様々な用途に用いる場合には、ステップ24に進んで酵素を不活性化する工程を行う。この酵素不活性処理は、ミカンパルプを酵素が不活性化する温度に加熱して所定時間保持することによって行われる。
【0026】
酵素を不活性化したミカンパルプは、ステップ25の急冷又はステップ26の放冷を行って常温とすることにより、ステップ27のカロチノイド含有パルプが得られる。このステップ27のカロチノイド(β−クリプトキサンチン)含有パルプは、酵素が不活性化しているので、そのままの状態で保存することが可能であり、そのままで各種用途に使用可能であるが、前記ステップ21のデキストリン添加工程及びステップ22の乾燥工程を行うことにより、前記同様にしてステップ23のカロチノイド(β−クリプトキサンチン)含有粉末を得ることができる。
【0027】
さらに、ステップ24の酵素不活性処理で高温に加熱された状態のミカンパルプを、高温状態のままガスバリアー性、遮光性を有する容器あるいは袋にホットパック充填する工程を行うことにより、常温で長期保存可能な状態にすることができるので、これを製品とすることもできる。
【0028】
前記遠心分離により分離したステップ20のミカンパルプに含まれるβ−クリプトキサンチンの含有量を基準として、このミカンパルプをそのままガスバリアー性、遮光性を有する容器に充填して冷凍保存した場合と、ステップ24の酵素不活性化工程を行った後にホットパック充填を行い、ステップ25の急冷処理を行って常温保存した場合及びステップ26の放冷を行って常温常温保存した場合とで、β−クリプトキサンチンの含有量に変化が生じるかを確認する分析を行った。その結果、表3に示すように、6か月保存後の状態でいずれの場合もβ−クリプトキサンチンの減少は見られなかった。このことから、ステップ24の酵素不活性化工程を行ってもβ−クリプトキサンチンが消失しないことが分かる。
【表3】

【0029】
また、ステップ21のデキストリン添加工程におけるミカンパルプ中の固形分に対する高度分岐環状デキストリンの添加量と、ステップ22における乾燥粉末化工程を行った後のβ−クリプトキサンチンの残存量との関係を確認する実験を行った。その結果、表4に示すように、パルプの固形分1に対して高度分岐環状デキストリンを2〜3の割合で添加することにより、乾燥粉末化後の粉末におけるβ−クリプトキサンチンの残存率を略100%にすることができ、ミカンパルプに適当量の高度分岐環状デキストリンを添加することにより、乾燥粉末化を行ってもβ−クリプトキサンチンの減少を抑えられることが確認できた。
【表4】

【0030】
さらに、ステップ20のミカンパルプを、温州ミカン果汁100gに対して3.3g添加し、これにゲル化剤等を加えて温州ミカン果汁使用ゼリータイプ飲料を製造した。表5に示すように、前記ミカンパルプを添加しないときの前記飲料中に含まれるβ−クリプトキサンチンは1.18mg/100gであったが、ミカンパルプを添加したもののβ−クリプトキサンチン含有量は1.66mg/100gとなった。このときのβ−クリプトキサンチンの残存率は略100%であり、ミカンパルプ中のβ−クリプトキサンチンの減少は見られず、前記ミカンパルプを各種飲料等の食品に添加することにより、β−クリプトキサンチンを高濃度に含有する機能性食品が得られることが確認された。
【表5】

【0031】
また、製造した温州ミカン果汁使用ゼリータイプ飲料を、ガスバリア性、遮光性を有するソフトパウチに充填し、常温で保存した後のβ−クリプトキサンチンの残存量を測定した。その結果、表6に示すように、製造後3か月、6か月及び9か月経過後におけるβ−クリプトキサンチンの残存率は96%であり、ほとんど減少していないことが確認された。
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のカロチノイド含有パルプの製造方法の一形態例を示す工程説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かんきつ類の果実を搾汁、ろ過又は篩別した果汁を濃縮した濃縮果汁を、Brix10.5〜11.0の範囲に希釈する工程と、希釈後の果汁を加熱して殺菌する工程と、殺菌後に冷却した果汁に酵素を添加して酵素処理を行う工程と、酵素処理後の酵素処理液を遠心分離してパルプ分と上澄み液とに分離する工程と、分離した前記パルプ分を加熱して酵素を不活性化するとともに、加熱状態のパルプ分をホットパック充填する工程とを含むことを特徴とするカロチノイド含有パルプの製造方法。
【請求項2】
かんきつ類の果実を搾汁、ろ過又は篩別した果汁を濃縮した濃縮果汁を、Brix10.5〜11.0の範囲に希釈する工程と、希釈後の果汁を加熱して殺菌する工程と、殺菌後に冷却した果汁に酵素を添加して酵素処理を行う工程と、酵素処理後の酵素処理液を遠心分離してパルプ分と上澄み液とに分離する工程と、分離した前記パルプ分に高度分岐環状デキストリンを添加する工程とを含むことを特徴とするカロチノイド含有パルプの製造方法。
【請求項3】
前記濃縮果汁が、温州ミカンの濃縮果汁を冷凍した温州ミカン冷凍濃縮果汁を解凍した濃縮果汁であることを特徴とする請求項1又は2記載のカロチノイド含有パルプの製造方法。
【請求項4】
分離した前記上澄み液を、清澄果汁の原料として使用することを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載のカロチノイド含有パルプの製造方法。
【請求項5】
分離した前記パルプ分を加熱して酵素を不活性化する工程を含むことを特徴とする請求項2乃至4いずれか1項記載のカロチノイド含有パルプの製造方法。
【請求項6】
高度分岐環状デキストリン添加後の前記パルプ分を乾燥させて粉末化する工程を含むことを特徴とする請求項2記載のカロチノイド含有パルプの製造方法。
【請求項7】
請求項2記載のカロチノイド含有パルプの製造方法で製造したカロチノイド含有パルプを乾燥させて粉末化したことを特徴とするカロチノイド含有粉末。

【図1】
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【公開番号】特開2007−244221(P2007−244221A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68580(P2006−68580)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(304001419)日本果実工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】