説明

カーテン塗布装置及びカーテン塗布方法

【課題】補助水の乱れ及び風に基づく外乱によるカーテン膜の不安定化を防止すると共に、案内手段近傍における境界層の影響によるカーテン膜の膜厚化を制御することができるカーテン塗布装置及びカーテン塗布方法の提供。
【解決手段】カーテン塗布装置は、塗布液を吐出する塗布液吐出口を有する吐出手段と、補助水を導入する補助水導入口を有し、前記塗布液によるカーテン膜の流下方向に対して略垂直な幅方向におけるカーテン膜両端部を支持し、前記カーテン膜を、搬送された支持体上に案内する1対の案内手段と、前記支持体を搬送する搬送手段と、を有し、前記1対の案内手段は、それぞれ、前記補助水が流下する凹部を有し、前記凹部の底面に対して略垂直に形成された凹部側面と、該凹部側面に連続し、かつ、交差して形成された露出面とが鋭角をなす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーテン塗布装置及びカーテン塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、写真フィルム等の写真感光材料の製造に用いられている塗布方法として、カーテン塗布方法が提案されている。
前記カーテン塗布方法には、(i)塗布液をノズルスリットから吐出し、該吐出された塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ、連続走行する支持体(ウェブ、基材)上に衝突させながら塗布膜を形成させる方法、(ii)塗布液をスリットから吐出し、該吐出された塗布液をスライド面上を移動させ、その塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ連続走行するウェブ上に衝突させながら塗布膜を形成させる方法、(iii)各々のノズルスリットから異なる組成の塗布液を吐出し、該吐出された塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ、各々のノズルスリットから順次連続走行するウェブ上に衝突させながら、塗布膜を形成させる方法(多層塗布方法)、(iv)各々のノズルスリットから異なる組成の塗布液を吐出し、該吐出された塗布液をスライド面上で積層し、その積層した塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ、連続走行するウェブ上に衝突させながら塗布膜を形成させる方法(多層塗布方法)がある。
しかしながら、前記カーテン塗布方法には、塗布液が自由落下する際に、カーテン膜両端近傍で塗布液の流れが遅い部分(境界層)が発生し、その流速差により、カーテン膜両端近傍の塗布液が中心側に縮流する現象を起こし、連続走行するウェブ上に衝突させながら塗布膜を形成させると、塗布膜20(図1)の幅方向の端部近傍に薄膜部20a(図1)が形成され、塗布膜20(図1)幅方向の内側に厚膜部20b(図1)が形成されてしまうという問題がある。
【0003】
カーテン膜に境界層が形成されるのを防止するために、塗布液の粘度及び表面張力を規定し、かつ、エッジガイドの接液面の形状を規定することにより、カーテン膜に境界層が形成されるのを抑制し、塗布液の縮流による薄膜部20a及び厚膜部20bの形成を防止して、塗布膜厚の均一化を図る技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、この技術には、限定された塗布液の物性条件でのみしか、境界層の影響を低減することができず、また、塗布液の粘度及び表面張力を規制することが極めて困難という問題がある。
【0004】
さらに、カーテン膜に境界層が形成されるのを防止するために、エッジガイドに塗布液の流下方向にエッジガイド補助液を吐出することで、カーテン膜両端近傍での境界層の形成を抑制する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、この技術には、エッジガイド補助液によるカーテン膜の加速が十分でなく、境界層を完全に無くすことはできないという問題がある。
【0005】
前記塗布液の自由落下を安定させるために、エッジガイド補助液の流下面を円弧型の凸形状にすることにより、風による外乱がないときは、カーテン膜を凸部先端に位置させ、風による外乱により、カーテン膜が凸部先端からずれたときは、塗布液の動的表面張力の増大により、ずれたカーテン膜を凸部先端に戻すというカーテン膜の調心性を発現する技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、この技術には、塗布液の静的表面張力が35mN/m程度以下と小さい場合、風による外乱により、カーテン膜が凸部先端からずれて、エッジガイド側面に貼りついてしまい、カーテン膜が不均一となるという問題、及び、非直線的に落下することにより、塗布膜の均一性が損われ、塗布ムラを発生するという問題があり、さらに、前記塗布液によって前記エッジガイド補助液を吐出するための多孔質性材料が目詰まりを起こし、エッジガイド補助液の吐出が不均一となるという問題がある。
前記塗布液が多孔質材料に付着した場合は、塩酸等の溶剤を用いて洗浄しているが、分解作業等が容易ではなく、目詰まりを除去するのが困難であり、目詰まりしないエッジガイドの開発が強く求められていた。
上記目詰まりの問題を解消するために、エッジガイドの補助水流下面を金属面として、該金属面に設けられた吐出口から補助水を吐出する技術が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
しかしながら、上記技術には、エッジガイド補助水が吐出口に直接流入する構造であるため、エッジガイド補助水が均一に吐出され難いという問題、補助水流下面が平面であるため、補助水が直線で落下しないでカーテン膜が安定しないという問題、及び風による外乱によってカーテン膜が揺動しないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、補助水の乱れ及び風に基づく外乱によるカーテン膜の不安定化を防止すると共に、案内手段近傍における境界層の影響によるカーテン膜の膜厚化を制御することができるカーテン塗布装置及びカーテン塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 塗布液を吐出する塗布液吐出口を有する吐出手段と、補助水を導入する補助水導入口を有し、前記塗布液によるカーテン膜の流下方向に対して略垂直な幅方向におけるカーテン膜両端部を支持し、前記カーテン膜を、搬送された支持体上に案内する1対の案内手段と、前記支持体を搬送する搬送手段と、を有し、前記1対の案内手段は、それぞれ、前記補助水が流下する凹部を有し、前記凹部の底面に対して略垂直に形成された凹部側面と、該凹部側面に連続し、かつ、交差して形成された露出面とが鋭角をなすことを特徴とするカーテン塗布装置である。
<2> 凹部の最大深さが、0.2mm〜0.5mmである前記<1>に記載のカーテン塗布装置である。
<3> 凹部側面間の最大間隔が、1.5mm〜4.0mmである前記<1>から<2>のいずれかに記載のカーテン塗布装置である。
<4> 案内手段が、補助水流下方向に関して補助水導入口よりも上方に平面を有し、該平面が、縦5mm〜15mm、横7mm以上の長方形である前記<1>から<3>のいずれかに記載のカーテン塗布装置である。
<5> 補助水の導入速度が0.4m/秒間〜2.1m/秒間である前記<1>から<4>のいずれかに記載のカーテン塗布装置である。
<6> 補助水導入口の補助水の流下方向に関する最大間隔が、0.2mm〜0.5mmである前記<1>から<5>のいずれかに記載のカーテン塗布装置である。
<7> 塗布液を塗布液吐出口から吐出する吐出工程と、補助水を導入する補助水導入口を有する1対の案内手段により、前記塗布液によるカーテン膜の流下方向に対して略垂直な幅方向におけるカーテン膜両端部を支持し、前記カーテン膜を、搬送された支持体上に案内する案内工程と、前記支持体を搬送する搬送工程と、を含み、前記1対の案内手段は、それぞれ、記補助水が流下する凹部を有し、前記凹部の底面に対して略垂直に形成された凹部側面と、該凹部側面に連続し、かつ、交差して形成された露出面とが鋭角をなすことを特徴とするカーテン塗布方法である。
<8> 凹部の最大深さが、0.2mm〜0.5mmである前記<7>に記載のカーテン塗布方法である。
<9> 凹部側面間の最大間隔が、1.5mm〜4.0mmである前記<7>から<8>のいずれかに記載のカーテン塗布方法である。
<10> 案内手段が、補助水流下方向に関して補助水導入口よりも上方に平面を有し、該平面が、縦5mm〜15mm、横7mm以上の長方形である前記<7>から<9>のいずれかに記載のカーテン塗布方法である。
<11> 補助水の導入速度が0.4m/秒間〜2.1m/秒間である前記<7>から<10>のいずれかに記載のカーテン塗布方法である。
<12> 補助水導入口の補助水の流下方向に関する最大間隔が、0.2mm〜0.5mmである前記<7>から<11>のいずれかに記載のカーテン塗布方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、
補助水の乱れ及び風に基づく外乱によるカーテン膜の不安定化を防止すると共に、案内手段近傍における境界層の影響によるカーテン膜の膜厚化を制御することができるカーテン塗布装置及びカーテン塗布方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、塗布膜の薄膜部及び厚膜部を説明するための図である。
【図2】図2は、本発明のスライドカーテン塗布装置の一例を示す概略図である。
【図3】図3は、本発明のスロットカーテン塗布装置の一例を示す概略図である。
【図4】図4は、本発明のスロットカーテン塗布装置の他の例を示す概略図である。
【図5】図5は、本発明のカーテン塗布装置におけるエッジガイド(案内手段)の一例を説明するための図である。
【図6】図6は、本発明のカーテン塗布装置におけるエッジガイド(案内手段)の一例を示す正面図である。
【図7】図7は、本発明のカーテン塗布装置におけるエッジガイド(案内手段)の内部構造の一例を示す図である(マニホールド2段目)。
【図8】図8は、従来のカーテン塗布装置におけるエッジガイド(案内手段)の一例を示す断面図である。
【図9】図9は、本発明のカーテン塗布装置におけるエッジガイド(案内手段)の一例を示す断面図である。
【図10】図10は、ダイコーティングを説明するための図である(その1)。
【図11】図11は、ダイコーティングを説明するための図である(その2)。
【図12】図12は、本発明のカーテン塗布装置におけるエッジガイド(案内手段)の一例を示す斜視図である。
【図13】図13は、本発明のカーテン塗布装置におけるエッジガイド(案内手段)の他の例を示す斜視図である。
【図14】図14は、カーテン膜と補助水との境界層を説明するための図である。
【図15】図15は、実施例1及び13〜19のカーテン膜の幅方向の流量分布の評価結果を示すグラフである。
【図16】図16は、実施例1及び21のカーテン膜の幅方向の流量分布の評価結果を示すグラフである。
【図17】図17は、実施例1、13、14及び18のスライドダイ下端より10mmの高さ位置における落下速度の評価結果を示すグラフである。
【図18】図18は、実施例1、13、14及び18のスライドダイ下端より140mmの高さ位置における落下速度の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(カーテン塗布装置及びカーテン塗布方法)
本発明のカーテン塗布装置は、ウェブコーティングを対象としており、少なくとも、吐出手段と、一対の案内手段と、搬送手段とを有してなり、更に必要に応じてその他の手段を有してなる。
本発明のカーテン塗布方法は、ウェブコーティングを対象としており、少なくとも、吐出工程と、案内工程と、搬送工程を含み、さらに、必要に応じて適宜選択した、その他の工程を含む。
【0011】
<吐出手段、吐出工程>
前記吐出手段は、塗布液を吐出する塗布液吐出口を有する手段であり、前記吐出工程は、塗布液をスリットから吐出する工程である。
【0012】
−塗布液−
前記塗布液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリルエマルジョン、感熱液、熱転写リボン塗布液、水系塗布液、溶剤系塗布液、などが挙げられる。
【0013】
前記塗布液の粘度としては、カーテン塗布装置として、スロットダイ型カーテンかスライドダイ型カーテンがあるが、そのどちらかによって適正な粘度の範囲が異なる。また、カーテン塗布法において前記塗布液の粘度は、適正な粘度範囲へ調整する必要がある。
前記適性な粘度範囲としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、スロットダイ型カーテンでは、低シェア粘度が1mPa・s〜2,000mPa・sが好ましく、スライドダイ型カーテンでは、粘度が1mPa・s〜500mPa・sが好ましく、シェア減粘の物性値を有する塗布液では、低シェアにおいて上記粘度範囲であることが好ましい。
スロットダイ型カーテンでは、塗布液の粘度が低い場合は、操業中において調整などで、塗布を一時中断する場合において、ダイのスリットから液だれが発生し、2,000mPa・sを超えると、(1)液中の気泡が抜け難く、液中気泡による泡欠陥を生じたり、(2)塗布液の吐出圧が高くなるため、送液ポンプへの負荷が高くなったり、給液系の耐圧性が必要となる。スライドダイ型カーテンでは、前記膜厚均一性を考慮すると粘度は低い方がよく、粘度が高い場合、スライド部流下間において、スライド部のスライドエッジガイド(図2の9)近傍では塗布液の流速が遅く、前記のように境界層が生じるため、粘性抵抗によりスライド部流下間において、厚膜部が生じる。500mPa・sを超える場合は、前記のようなスライド流下間における厚膜化のメカニズムから、端10mm〜40mmの区間で中央平坦部よりも、20%を超える厚膜部となり、膜厚不均一による不良を生じ、巻取り不良や乾燥不良が生じる。
前記粘度は、B型粘度計等を用いて測定することができる。
【0014】
前記塗布液の表面張力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20mN/m〜40mN/mが好ましい。
前記表面張力が、20mN/m未満であると、膜自身の表面張力が弱いため、膜の引張りが弱く、風による外乱によって容易に膜が変形して揺れてしまう。表面張力が、40mN/mを超えると、カーテン膜が切上がりを生じる。
前記表面張力は、例えば、FACE自動表面張力計(協和界面科学製)等を用いて、白金プレート法で、静的表面張力を測定することができる。また、Brown氏の文献「A study of the behavior of a thin sheet of moving liquid J.Fluid Mechanics,10:297−305」に記載されているように、カーテン膜に針状の異物を差し込むことによる膜の分裂角を測定することでカーテン膜の動的表面張力を測定することができる。
前記のカーテン膜の切れ上がりのメカニズムは、カーテン膜の動的表面張力と動圧のバランスにより生じることから、膜の動的表面張力を測定評価することが重要である。
【0015】
−塗布液スリット−
前記塗布液スリットの断面形状は、矩形断面である。
前記塗布液吐出口の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、スリットの隙間が、0.2mm〜0.5mm程度であることが好ましい。
スリットの隙間は塗布液を幅方向に均一化させる機能を有し、その隙間の大きさは、「Slot Coating :Fluid mechanics and die design 、Sartor、Luigi、Ph.D. University of Minnesota、1990」などに示されているように、ダイマニホールドの大きさ、形状及びマニホールドからスリット出口までの距離、第二マニホールドの有無とその位置によっても変わり、塗布液の流量や粘度によっても変わる。
【0016】
前記塗布液吐出口の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、SUS系、アルミ系、又は硬質クロムメッキ等のメッキ、などの金属面が好ましい。
塗布液に樹脂が含まれている場合であっても、目詰まりを防止できる点で、金属が好ましい。
【0017】
−吐出機構−
前記塗布液を吐出するための吐出機構としては、スロットダイ型カーテンとスライドダイ型カーテンとがあり、適宜用途に応じて選択する。
スロットダイ型カーテンは、1層もしくは2層の塗布液を塗布する場合に用いられ、スリットが下向きであるため、塗布液の粘度が低い場合では、液だれを生じたり、液中の気泡がダイヘッドのマニホールド内に滞留する場合がある。しかし、スライドダイ型カーテンと比較して、塗布液の吐出速度が速いため、塗布液の動的表面張力と塗布液が落下する際の動圧(慣性力)との釣合いから、動的表面張力が大きい場合に切れ上がるというカーテン膜の切れ上がりのメカニズムを考慮すると、スロットダイ型カーテンは切れ上がり難い。また、スライド流下面のような、解放空間がないため、洗浄する際に容易であり、洗浄に使用する水等の洗浄液も少なく、塗布液の粘度が高い場合は、操業中の一時中断時も容易である。
スライドダイ型カーテンは、1層から3層以上までの多層の塗布液を塗布する場合に用いられ、スリットが上向きであるため、ダイヘッドのマニホールド内に泡が溜まり難い、しかし、スライド部の面積が大きく、洗浄は容易ではなく、操業中の一時中断時は、スロットダイ型カーテンと比較すると洗浄液が大量に必要となる。
【0018】
−塗布液流量−
前記塗布液の吐出する流量は、前記カーテン膜が形成可能であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
スロットダイ型カーテンでは、目的の流量を吐出し、カーテン膜が形成可能な、前記スリットおよびマニホールド形状であれば問題はない。
スライドダイ型カーテンでは、目的の流量を吐出可能な前記スリットおよびマニホールド形状であり、スリットから吐出された後、スライド面を流下後、カーテン膜が形成可能であれば問題はないが、塗布液の流量が比較的多い場合、カーテン膜の上部では、カーテン膜厚が厚くなるため、エッジガイドの上部において、エッジガイドの溝の幅(図中6のw)を、流量に応じて適宜設定する必要がある。
【0019】
<案内手段、案内工程>
前記案内手段は、図5に示すように、補助水を導入する補助水導入口14を有し、塗布液によるカーテン膜6の流下方向(図5中の矢印方向)に対して略垂直な幅方向におけるカーテン膜両端部を支持し、カーテン膜6を、搬送された支持体5上に案内する一対の手段2であり、前記案内工程は、補助水を吐出する補助水導入口14を有する1対の案内手段2により、前記塗布液によるカーテン膜6の流下方向(図5中の矢印方向)に対して略垂直な幅方向におけるカーテン膜両端部を支持し、カーテン膜6を、搬送された支持体5上に案内する工程である。
前記案内手段は、図6及び図9に示すように、補助水が流下する補助水流下溝(凹部)16を有し、補助水流下溝(凹部)16の底面16aに対して略垂直に形成された補助水流下溝側面(凹部側面)16bと、補助水流下溝側面(凹部側面)16bに連続し、かつ、交差して形成された露出面21とが鋭角θをなす。
前記案内手段は、図12に示すように、補助水流下方向に関して、補助水導入口14の上方に、縦5mm〜15mm、横7mm以上の平面40を有することが好ましい。この平面40を有することにより、スライド面と自由表面との速度差によるカーテン膜の湾曲(ティーポット効果)を回避することができる。
【0020】
−補助水(エッジガイド水、補助液)−
前記補助水としては、塗布液に応じて適宜選択する必要がある。補助水が塗布液を引張ることでカーテン膜をエッジガイドへと保持する効果、所謂調心性を発揮するため、表面張力を補助水が常に塗布液よりも高くなるようにする必要がある。例えば、水系ならば水、塗布液が溶剤系ならその溶媒、水や溶媒に樹脂、界面活性剤等を混合した調合液、などが挙げられる。
【0021】
−補助水導入口−
前記補助水導入口としては、前記補助水導入口の補助水の流下方向に関する最大間隔(図6におけるG)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2mm〜0.5mmが好ましく、0.2mm〜0.4mmがより好ましい。
前記最大間隔が、0.2mm未満であると、導入口の内部の清掃が容易でなく、0.5mmを超えると、補助水の吐出均一性が損われることがある。
前記補助水導入口の補助水の流下方向に対して垂直方向に関する最大幅(図6におけるW)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.5mm〜4mmが好ましく、2mm〜3mmがより好ましい。
前記最大幅が、1.5mm未満であると、加工上の精度に問題が生じることがあり、4mmを超えると、補助水が全幅で均一に流れない場合がある。
前記補助水の導入速度としては、流下面を補助水が流れる範囲であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4m/秒間〜2.1m/秒間が好ましく、0.8m/秒間〜1.6m/秒間がより好ましい。
前記補助水の導入速度が、0.4m/秒間未満であると、境界層が発生することがあり、2.1m/秒間を超えると、補助水が斜め下方に導入されることがある。
【0022】
前記補助水導入口の形状としては、矩形断面を有するスリット形状であり、本来エッジガイド内の流路は、長いスリット状であることが好ましい。しかし、目詰まりを生じた場合スリットが長い場合、清掃が困難である点や、構造上長いスリットを内部に有することは現実的には難しい。
よって、エッジガイド内部は図7のようなマニホールドを有している方が好ましく、また図7のように2段目のマニホールドを有することで、補助水の導入口までの距離を短くすることで、補助水を均一に吐出することができる。
【0023】
前記補助水導入口の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、塗布液や補助水に樹脂が含まれている場合であっても、目詰まりを防止できる点で、金属が好ましい。
【0024】
−補助水流下溝(凹部)−
前記補助水流下溝(凹部)は、底面と、該底面に対して略垂直に形成された凹部側面とを有する。
前記凹部側面と、凹部側面に連続し、かつ、交差して形成された露出面とは、鋭角をなす。
【0025】
前記鋭角としては、90°未満である限り特に制限はないが、30°〜80°が好ましく、45°〜60°がより好ましい。
前記鋭角が、30°未満であると加工上、精度に影響があることがあり、80°を超えると、鋭角の効果が損われることがある。一方、前記鋭角がより好ましい範囲内であると、エッジガイド補助水の保持の点で有利である。
【0026】
前記補助水流下溝(凹部)の最大深さ (図9におけるh)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2mm〜0.5mmが好ましく、0.2mm〜0.35mmがより好ましい。
前記最大深さが、0.2mm未満であると、補助水が補助水流下溝(凹部)から溢れることがあり、0.5mmを超えると、乱流が発生することがある。
【0027】
補助水流下溝側面(凹部側面)の最大間隔(図9における補助水流下溝(凹部)の最大幅W)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.5mm〜4.0mm、2mm〜3mmがより好ましい。
前記最大間隔が、1.5mm未満であると、補助水が流れ難くなる場合があり、また、補助水が凹部内から溢れることがあり、4.0mmを超えると、カーテン膜が不安定となる場合があり、下部で乱流が発生することがある。
ただし、スライドダイ型カーテンでは、塗布液の流量が多い場合では、エッジガイドの上部において、溝の最大間隔(w)よりもカーテン膜厚が厚くなる場合は適宜、溝幅wを設定する必要がある。
【0028】
−支持体−
前記支持体としては、塗布液を支持可能なものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記支持体の形状、構造、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記支持体の例としては、剥離紙、原紙、合成紙、PETフィルム等が挙げられる。
【0029】
<搬送手段、搬送工程>
前記搬送手段は、支持体を搬送する手段であり、前記搬送工程は、支持体を搬送する工程である。
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明のカーテン塗布装置及びカーテン塗布方法について更に詳細に説明する。
なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な実施の形態であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0031】
図2に、本発明のカーテン塗布装置としてのスライドカーテン塗布装置の一例を示す。
図2において、スライドカーテン塗布装置(カーテン塗工ヘッド)7は、塗布液3の吐出手段としてのスロット10,11、マニホールド12,13及びスリット(不図示)を有し、前記塗布液吐出手段が塗布液3をスライド面8上に吐出し、塗布液3が、スライド面8上で流下し、スライド面8から自由落下してカーテン膜6を形成し、連続走行するウェブ(基材)5上に塗布膜を形成する。このとき、ウェブ5は、搬送手段(不図示)を用いて搬送される。なお、スライド面8の側面には、スライド部エッジガイド(案内手段)9が配設され、カーテン膜6の側面には、カーテン膜6の両端を保持するカーテン部エッジガイド(案内手段)2が配設されている。
【0032】
多層同時塗布の場合には、スライドカーテン塗布装置(カーテン塗工ヘッド)7は、複数のマニホールド12,13及びスロット10,11を有し、この複数のマニホールド12,13及びスロット10,11が塗布液3をスライド面8上に吐出し、スライド面8上で塗布液3が積層される。積層された塗布液3は、スライド面8から自由落下してカーテン膜6を形成し、連続走行するウェブ(基材)5上に塗布膜を形成する。
【0033】
図3は、本発明のカーテン塗布装置としてのスロットカーテン塗布装置の一例を示す図である。
図3において、塗布液は、スロットカーテン塗布ヘッド1に設けられたマニホールド12及びスロット10より吐出され、エッジガイド2により両端を保持されて、カーテン膜6として流下し、基材5に衝突し塗着される。
【0034】
また、図4のように、塗布液はスライドカーテン塗布ヘッド7に設けられたマニホールド3、スロット10及びスリット(不図示)より吐出され、スライド面8を流下し、エッジガイド本体2により両端を保持されて流下し、基材5に衝突し塗着される。
多層同時塗布の場合には、複数のマニホールド3、スロット10及びスリット(不図示)を有し、塗布液をスライド面8上に吐出させ、スライド面8上で塗布液が積層される。積層された塗布液は、スライド面8から自由落下してカーテン膜6を形成し、連続走行するウェブ5上に塗布膜を形成する。
【0035】
図5に示すように、エッジガイド本体2は、下方に向って補助水15を補助水流下溝(凹部)16の幅方向に概ね均一に吐出する補助水導入口14を上部に備える。
補助水導入口14は、断面形状矩形であって、カーテン膜6に対して垂直、かつ、カーテン膜6落下方向に垂直に配置される。
カーテン膜6は、矢印の方向に落下し、エッジガイド本体2の補助水流下溝(凹部)16内を落下する補助水15によりその両端が支持される。
補助水15の導入速度は、流量調節弁(不図示)の開度、又は、ポンプの吐出量を変化させることにより設定する。
エッジガイド本体2の下部には、補助水15と塗布液の混合液を排出するための排出口(不図示)と、混合液を容易に排出可能にするためのバキューム機構(不図示)を備える。また、エッジガイド本体2の下部には、塗布液の固着防止のための補助水を流してもよい。
【0036】
図6は、エッジガイド本体2の正面図であり、図9は、エッジガイド本体2の断面図である。図9中で示したように、Wをエッジガイド本体2の凹部側面16b間の最大間隔(補助水流下溝(凹部)16の最大幅、補助水導入口14の最大幅)とし、hを補助水流下溝(凹部)16の最大深さとした。先端部90は、鋭角θをなす。但し、加工精度等の問題から、先端に0.1mm程度の平坦部を有していたり、バリやカエリを抑制するために先端が数十μm〜100μm程度に曲面(R)が形成されていいてもよい。
【0037】
また、図7に示すように、補助水導入口14のギャップを0.2mmとし、カーテン膜及びエッジガイドの上部の接合面70と、補助水流下溝(凹部)16の底面16aとには、0.2mm〜0.5mm程度の段差を設けている。
エッジガイド内部には、少なくとも1箇所以上のマニホールドを有しており、補助水を幅方向に均一に吐出することが可能となっている。なお、エッジガイドの補助水流下溝の底面は、補助水が均一に流下可能な濡れ性を持つ必要があり、補助水を選択する場合には適宜材質を選定する必要がある。例えば、SUS系、アルミ系、又は硬質クロムメッキ等のメッキ、などの金属面がよく、それ以外の部分では、親水性材料及び疎水性材料のいずれであってもよい。
また、前記エッジガイド(案内手段)は、スライドカーテン装置(図2)及びスロットカーテン装置(図3及び図4)の両方に適用が可能である。
【0038】
補助水流下溝の底面及び側面を多孔質性材料から金属面とすることにより、塗布液の多孔質材料への目詰まりの問題を解決し、塗布液の表面張力ではなく、補助水の表面張力で調心性を発揮するため、補助水流下溝(凹部)を設けることで、風による外乱に対して、安定したカーテン膜を形成することができる。また、補助水をカーテン膜の端部に沿って落下方向に導入し、導入初速0.4m/秒間〜1.6m/秒間で導入することにより、前記カーテン膜における境界層をさらに抑制することができる。
【0039】
しかしながら、補助水が、補助水流下溝(凹部)下部において、全面に流れず、補助水が紐状となり、カーテン膜が不安定となること、及び、エッジガイド下部において乱流が発生することがあった。この現象は、補助水流下溝の最大幅Wに起因することが分かった。
【0040】
乱流については、詳細なメカニズムは不明であるが、図14で示すように、カーテン膜6と接触する補助水15がエッジガイド下部で乱流となり、カーテン膜が乱れる。補助水が乱流となる場合、補助水が接触するカーテン膜と共に激しく振動するため、容易に判断できる。また、安定して層流で流れる場合もあり、エッジガイドの下部で(速度が速い場合)に乱流が発生しやすいことから、補助水の流路におけるレイノルズ数が大きく関係していると考えられ、レイノルズ数に影響を与える補助水流下溝(凹部)の最大深さh及び補助水流下溝の最大幅Wが関係していると考えられる。
【0041】
本発明におけるエッジガイドは、図2のようなスライドカーテンにおいても、図3及び図4のようなスロットカーテンにおいても適用が可能である。但し、本発明におけるエッジガイドをスライドカーテンに適用する場合、スライド面8を流下後、自由落下液膜を形成する際に、スライド面と自由表面との速度差によるカーテン膜の湾曲(ティーポット効果)を回避する必要が生じる。
よって、補助水の導入口からカーテン膜前方に少なくとも3mm、カーテン膜後方に少なくとも1mmの幅が必要となり、補助水導入口の幅3mmと合わせて少なくとも7mmの幅が必要となる。また、高さ方向では、補助水導入口の上部に少なくとも5mmの長さが必要であり、塗布液の流量次第では5mm〜15mm程度必要である。
したがって、図12で示したように、エッジガイドの上部をスライドカーテンダイ下端から長さ5mm〜15mm、幅7mm以上の平面とすることが好ましい。この平面部分は、金属面としたが、親水性でも疎水性表面でもよく、表面に補助水を流してもよい。
補助水導入口14がカーテン膜の幅方向に垂直かつカーテン膜6落下方向に垂直の直線(スリット)状である必要がある。
【実施例】
【0042】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0043】
(実施例1)
図2に示すスライドダイ型カーテン塗布装置を用いて、下記の条件でカーテン塗布を行い、(i)カーテン膜の風等の外乱からの安定性、(ii)エッジガイド近傍での乱流の有無、(iii)エッジガイド補助水が全面に流れない現象(補助水が紐状となる現象)及びエッジガイド下部での乱流の有無、(iv)カーテン膜の幅方向の流量分布を評価した。評価結果を表1〜6に示す。
なお、エッジガイドの位置は、移動が可能となっており、カーテン落下位置をエッジガイドの先端部の一方側となるように調節した。
【0044】
<カーテン塗布条件>
(1)塗布液
前記塗布液として、アクリルエマルジョン系粘着剤(製品名:X−407−102E−10、サイデン化学製)を用いた。
前記塗布液の液粘度を、B型粘度計(製品名:ビスメトロンVS−A1、芝浦システム製)で、No.3.ローター×30rpmの条件で測定したところ、450mPa・sであった。べき乗則では、Y=900X−0.26で表される。
前記塗布液の白金プレート法静的表面張力を、FACE自動表面張力計CBVP−A3型(協和界面科学株式会社製)で測定した結果、33mN/mであった。
【0045】
(2)塗布液のフローレイト
前記塗布液のフローレイトを、1.75cc/(cm×秒間)(塗布液用流量計(商品名:CN015C−SS−440K、オーバル株式会社製)で測定)とした。
また、カーテン膜の幅(カーテン落下幅)を230mmとした。
【0046】
(3)エッジガイドの形状、大きさ、材質
前記エッジガイドの断面形状を、図9に示す形状にし、図9におけるθを60°とした。
前記エッジガイドの大きさを、流下面長L(図6)が145mm、補助水導入口の最大ギャップG(図6)が0.2mm、補助水導入口の最大幅W(図6)が3mm、補助水流下溝(凹部)の最大深さh(図9)が0.5mm、補助水流下溝(凹部)の最大幅W(図9)が3mmとなるように設定した。
前記エッジガイドの材質をSUS420J2とした。
【0047】
(4)エッジガイド補助水の供給
0.2MPaに加圧された加圧タンクより、マイクロモーション流量計(オーバル株式会社製)(流量計本体:E010S−SS−311、トランスミッター:RFT9739−3MD11、積算計:EL0122−132011)及びフロート式流量計(東京計装株式会社製、P100L−4)を通して、エッジガイドに供給した。フロート式流量計の絞り弁の開閉を調節し、流量から換算して、導入速度を0.8m/秒間に設定した。
【0048】
<評価方法>
外乱からの影響を把握する方法として、風速約0.5m/s(KANOMAX製、アネモマスター風速計MODEL6141にて計測)の風を、カーテン膜の正面からカーテン膜に垂直方向、及び、カーテン膜の正面からエッジガイド近傍方向の2方向に向けて当てて評価した。この風速は、ロールの回転基材の同伴空気等により塗布ヘッド周辺で生じる気流、塗布機のオペレーターの移動、及び塗布機周辺でのギャップ調整、などの作業時に発生する気流を想定して設定した。
【0049】
(i)カーテン膜の風等の外乱からの安定性
−評価基準−
○:カーテン膜の揺れがない
×:カーテン膜が揺れる
【0050】
(ii)エッジガイド近傍での乱流の有無
−評価基準−
○:乱流は、発生しない
△:概ね乱流は、発生しない
×:乱流が発生、又は、補助水の流れに問題あり
【0051】
(iii)エッジガイド補助水が全面に流れない現象(補助水が紐状となる現象)及びエッジガイド下部での乱流の有無
−評価基準−
○:乱流が発生せず、補助水の流下は紐状とならない
△:乱流は発生せず、補助水の流下が紐状となる場合がある
×:乱流が発生し、補助水の流下が紐状となる場合がある
【0052】
(iv)カーテン膜の幅方向の流量分布
−評価条件−
(a)落下流量測定位置:
(i)カーテン膜の幅方向位置:補助水流下溝(凹部)底面から補助水流下溝(凹部)底面よりカーテン幅方中央側向に20mmの位置までの領域を2.5mmピッチで測定し、補助水流下溝(凹部)底面よりカーテン幅方向中央側に20mmの位置から補助水流下溝(凹部)底面よりカーテン幅方向中央側に50mmの位置までの領域を5mmピッチで測定し、補助水流下溝(凹部)底面よりカーテン幅方向中央側に50mmの位置からカーテン幅方向中央(補助水流下溝(凹部)底面より125mm)までの領域を25mmピッチで測定した。
(ii)カーテン膜の高さ方向位置:カーテン膜上端より140mm下方の位置
(b)流量測定方法:厚さ0.1mmのSUS304の板を折り曲げて作製した幅4mm、深さ5mmの樋で、カーテン液膜を遮り、樋流下液量を重量法で測り、落下流量とした。測定値は、補助水流下溝(凹部)底面より50mmからカーテン幅方向中央(補助水流下溝(凹部)底面より125mm)までの幅方向位置の値を100%とする正規化により流量分布とした。
−評価基準−
○:厚膜部の厚みが平均値の110%未満
△:厚膜部の厚みが平均値の110%以上、120%未満
×:厚膜部の厚みが平均値の120%以上
【0053】
(比較例1)
実施例1において、エッジガイドの断面形状を図9に示す形状とするのを、図8に示す形状(図8におけるθが90°)としたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(i)カーテン膜の風等の外乱からの安定性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0054】
(比較例2)
実施例1において、エッジガイドの断面形状を図9に示す形状とするのを、補助水流下溝(凹部)のない平面形状としたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(i)カーテン膜の風等の外乱からの安定性の評価を行った。ここでの安定性とは、エッジガイド近傍において、カーテン膜が補助水によって保持され、補助水がエッジガイドの溝の側壁へと保持される状態を示す。評価結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
ダイ塗布において、図10及び図11中の点線で示したように、塗布部22の下流側リップ先端がなす角は、鈍角(図10)よりも、90°(図11)とした方が、塗布膜20の濡れ上がりが小さく塗布が安定し、スジが発生しにくいという知見や、90°未満の鋭角にすることで、更なる効果があるという知見がある。
これに対し、エッジガイドの場合は、図8に示す形状(図9におけるθが90°)のエッジガイドを用いた比較例1よりも、図9に示す形状(図9におけるθが60°)のエッジガイドを用いた実施例1の方が、先端部でのエッジガイド補助水のピン留め効果は大きい結果となった。
ダイ塗布の場合は、塗布膜がリップと基材の間から離れ自由表面となるとき、基材から受ける引張りによる一方向のみの力を受けるため、リップ先端は図11のような形状(下流側リップ先端がなす角が90°程度)で問題ないが、エッジガイドの場合、補助水は落下方向とカーテン膜の引張りとの2方向の力を受けるため、θを鋭角(90°未満)とした方が、濡れ上がりが抑えられ、エッジガイド補助水が、先端部でピン留めされやすくなったと考えられる。
【0057】
(実施例2)
実施例1において、補助水流下溝(凹部)の最大深さh(図9)を0.5mmとするのを、補助水流下溝(凹部)の最大深さh(図9)を0.2mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(ii)エッジガイド近傍での乱流の有無の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0058】
(実施例3)
実施例1において、補助水流下溝(凹部)の最大深さh(図9)を0.5mmとするのを、補助水流下溝(凹部)の最大深さh(図9)を0.3mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(ii)エッジガイド近傍での乱流の有無の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0059】
(実施例4)
実施例1において、補助水流下溝(凹部)の最大深さh(図9)を0.5mmとするのを、補助水流下溝(凹部)の最大深さh(図9)を0.6mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(ii)エッジガイド近傍での乱流の有無の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0060】
(実施例5)
実施例1において、補助水流下溝(凹部)の最大深さh(図9)を0.5mmとするのを、補助水流下溝(凹部)の最大深さh(図9)を0.1mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(ii)エッジガイド近傍での乱流の有無の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0061】
(実施例6)
実施例1において、補助水流下溝(凹部)の最大深さh(図9)を0.5mmとするのを、補助水流下溝(凹部)の最大深さh(図9)を0.7mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(ii)エッジガイド近傍での乱流の有無の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
実施例1〜3では乱流は発生せず、実施例4では乱流が発生する場合もあった。また、実施例5では、上部においてエッジガイド補助水が溢れる場合があり、実施例6では下部において乱流が発生しカーテン膜に乱れが生じる場合があった。
表2より、補助水流下溝(凹部)の最大深さh(図9)が、カーテン膜のエッジガイド近傍での乱流の発生に関係していることが分かり、補助水流下溝(凹部)の最大深さh(図9)は、0.2mm〜0.5mmが好ましいことが分かった。
【0064】
(実施例7)
実施例1において、補助水流下溝(凹部)の最大幅W(図9)を3mmとするのを、補助水流下溝(凹部)の最大幅W(図9)を1.5mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(iii)エッジガイド補助水が全面に流れない現象(補助水が紐状となる現象)及びエッジガイド下部での乱流の有無の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0065】
(実施例8)
実施例1において、補助水流下溝(凹部)の最大幅W(図9)を3mmとするのを、補助水流下溝(凹部)の最大幅W(図9)を4mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(iii)エッジガイド補助水が全面に流れない現象(補助水が紐状となる現象)及びエッジガイド下部での乱流の有無の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0066】
(実施例9)
実施例1において、補助水流下溝(凹部)の最大幅W(図9)を3mmとするのを、補助水流下溝(凹部)の最大幅W(図9)を5mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(iii)エッジガイド補助水が全面に流れない現象(補助水が紐状となる現象)及びエッジガイド下部での乱流の有無の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0067】
(実施例10)
実施例1において、補助水流下溝(凹部)の最大幅W(図9)を3mmとするのを、補助水流下溝(凹部)の最大幅W(図9)を7mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(iii)エッジガイド補助水が全面に流れない現象(補助水が紐状となる現象)及びエッジガイド下部での乱流の有無の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0068】
(実施例11)
実施例1において、補助水流下溝(凹部)の最大幅W(図9)を3mmとするのを、補助水流下溝(凹部)の最大幅W(図9)を1mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(iii)エッジガイド補助水が全面に流れない現象(補助水が紐状となる現象)及びエッジガイド下部での乱流の有無の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0069】
(実施例12)
実施例1において、補助水流下溝(凹部)の最大幅W(図9)を3mmとするのを、補助水流下溝(凹部)の最大幅W(図9)を8mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(iii)エッジガイド補助水が全面に流れない現象(補助水が紐状となる現象)及びエッジガイド下部での乱流の有無の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
補助水がエッジガイド側面に偏って安定化する現象が生じたが、これは、カーテン膜の厚みが補助水流下溝(凹部)の最大幅Wと比較して小さいためであり、このことから、エッジガイドの補助水流下溝の最大幅Wを狭めることで、カーテン膜の安定化の効果があると考えた。また、補助水がエッジガイド側面に偏った状態が安定であることから、補助水の両端を凹部側面で保持できる状態まで、補助水流下溝(凹部)の最大幅Wを狭めることで、カーテン膜が安定化すると考えた。
実施例1、7及び8では、カーテン膜に乱れなく流れ、補助水は、補助水流下溝底面を全面で流れた。実施例9及び10では、カーテン膜は乱れなく流れるが、補助水が全面で流下しなかった。
実施例11では、補助水の流れが悪くなることがあり、補助水が溢れる場合があった。
実施例12では、下部で乱流が発生する場合があった。
表3より、凹部側面間の最大間隔(補助水流下溝(凹部)の最大幅)Wは、補助水の流下に影響を与えることが分かり、1.5mm〜4mmとすることでカーテン膜がさらに安定化することが分かった。
【0072】
(実施例13)
実施例1において、補助水導入速度を0.8m/秒間(相当の流量供給:50cc/分間)とするのを、補助水導入速度を0.4m/秒間(相当の流量供給:25cc/分間)としたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(iv)カーテン膜の幅方向の流量分布の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0073】
(実施例14)
実施例1において、補助水導入速度を0.8m/秒間(相当の流量供給:50cc/分間)とするのを、補助水導入速度を1.6m/秒間(相当の流量供給:100cc/分間)としたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(iv)カーテン膜の幅方向の流量分布の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0074】
(実施例15)
実施例1において、補助水導入速度を0.8m/秒間(相当の流量供給:50cc/分間)とするのを、補助水導入速度を1.7m/秒間(相当の流量供給:106cc/分間)としたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(iv)カーテン膜の幅方向の流量分布の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0075】
(実施例16)
実施例1において、補助水導入速度を0.8m/秒間(相当の流量供給:50cc/分間)とするのを、補助水導入速度を2.0m/秒間(相当の流量供給:125cc/分間)としたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(iv)カーテン膜の幅方向の流量分布の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0076】
(実施例17)
実施例1において、補助水導入速度を0.8m/秒間(相当の流量供給:50cc/分間)とするのを、補助水導入速度を2.1m/秒間(相当の流量供給:131cc/分間)としたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(iv)カーテン膜の幅方向の流量分布の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0077】
(実施例18)
実施例1において、補助水導入速度を0.8m/秒間(相当の流量供給:50cc/分間)とするのを、補助水導入速度を0.2m/秒間(相当の流量供給:12.5cc/分間)としたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(iv)カーテン膜の幅方向の流量分布の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0078】
(実施例19)
実施例1において、補助水導入速度を0.8m/秒間(相当の流量供給:50cc/分間)とするのを、補助水導入速度を0.35m/秒間(相当の流量供給:22cc/分間)としたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(iv)カーテン膜の幅方向の流量分布の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0079】
(実施例20)
実施例1において、補助水導入速度を0.8m/秒間(相当の流量供給:50cc/分間)とするのを、補助水導入速度を2.5m/秒間(相当の流量供給:156cc/分間)としたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(iv)カーテン膜の幅方向の流量分布の評価を行った。評価結果を表4及び図15に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
なお、表4において、厚膜部の欄における数字は、最も流量の大きい測定点の補助水流下溝底面からのカーテン幅方向距離及び基準値(100%)との差を示し、薄膜部の欄における数字は、最も流量の小さい測定点の補助水流下溝(凹部)底面からのカーテン幅方向距離及び基準値(100%)との差を示す。
なお、実施例20はエッジガイド補助水が斜め下方へ吐出されたため、評価の対象としなかった
【0082】
表4より、実施例1及び13〜17と、実施例18及び19とを比較すると、いずれの場合も補助水流下溝(凹部)底面から10mm〜25mmの位置で厚膜部が形成されているが、実施例1及び13〜17は、実施例18及び19と比べて、約10%厚膜部の流量が低減できていることが分かった。また、実施例1及び13〜17と実施例18及び19では、いずれも薄膜部が改善傾向にあることが分かった。補助水の導入速度を0.2m/秒間から序々に大きくすることで、カーテン膜の厚膜化が抑制できるが、2.0m/秒間程度以上では、それ以上速度を大きくしても、厚膜化抑制の効果に大きな違いは見られない。従って、補助水の導入速度は0.4m/秒間〜2.0m/秒間が好ましいことが分かった。
【0083】
(実施例21)
実施例1において、図2に示すスライドダイ型カーテン塗布装置を用いる代わりに、図3に示すスロットダイ型カーテン塗布装置を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、カーテン塗布及び(iv)カーテン膜の幅方向の流量分布の評価を行った。評価結果を表5及び図16に示す。
【0084】
【表5】

【0085】
実施例1は、スライドカーテンにおける流量プロファイルであり、スライド流下部における境界層に影響によって、カーテン膜形成時にすでに厚薄部が存在しており、さらなる厚薄部の抑制は難しい。そこで、さらなる厚薄部の抑制のために、実施例21のように、スロットカーテンを採用した。その結果、図16に示すように、厚膜部が形成されておらず、極端な薄膜部も形成されておらず、全幅で±4%以内に収まっている。
スロットカーテンにおいて厚膜部をより軽減できたことから、カーテン膜の落下部においては境界層を抑制することにより、カーテン膜の厚膜化抑制が可能となった。
【0086】
また、実施例1、13、14及び18について、スライドダイ下端より10mm、140mmの高さ位置における落下速度を、落下速度計測装置(レーザードップラー方式非接触速度計:アクト電子,型式 MODEL 1110A)により計測し、エッジガイド近傍の図14で示したような境界層がどのように変化し、カーテン膜の膜厚分布にどのような影響があるかを検討した。結果を表6及び図17及び18に示す。
【0087】
【表6】

【0088】
表6及び図17及び18より、実施例1、13及び21と、実施例18とを比べると、実施例1、13及び21は、実施例18よりも、スライドダイのスライド部を流下する間に形成されたカーテン膜の速度分布が、カーテン膜が落下する間に解消されて、厚膜部の抑制ができることが分かった。
【0089】
以上より、エッジガイド補助水が全面に流れず、端に偏る現象をなくし、カーテン膜の乱流を抑止し、風による外乱からカーテン膜を安定化させることが可能であることが分かった。
また、補助水の導入速度を0.4m/秒間〜2.1m/秒間とすることで、境界層を極めて小さい水準にまで低減することができるとともに、境界層の形成を抑制又は制御することができ、境界層がなくなることで、厚膜化及び薄膜化の抑制が可能となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のカーテン塗布装置及びカーテン塗布方法は、例えばハロゲン化銀写真感光材料、磁気記録材料、感圧・感熱記録紙、アート紙、コート紙、インクジェット記録シートなどの製造に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0091】
2 カーテン部エッジガイド(案内手段)
3 塗布液
5 ウェブ(基材)
6 カーテン膜
8 スライド面
9 スライド部エッジガイド(案内手段)
10 スロット
11 スロット
12 マニホールド
13 マニホールド
14 補助水導入口
16 補助水流下溝(凹部)
16a 凹部底面
16b 凹部側面
21 エッジガイド露出面
【先行技術文献】
【特許文献】
【0092】
【特許文献1】特許第2630512号公報
【特許文献2】特開平1−199668号公報
【特許文献3】特表2008−529753号公報
【特許文献4】米国特許7081163号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を吐出する塗布液吐出口を有する吐出手段と、
補助水を導入する補助水導入口を有し、前記塗布液によるカーテン膜の流下方向に対して略垂直な幅方向におけるカーテン膜両端部を支持し、前記カーテン膜を、搬送された支持体上に案内する1対の案内手段と、
前記支持体を搬送する搬送手段と、を有し、
前記1対の案内手段は、それぞれ、前記補助水が流下する凹部を有し、
前記凹部の底面に対して略垂直に形成された凹部側面と、該凹部側面に連続し、かつ、交差して形成された露出面とが鋭角をなすことを特徴とするカーテン塗布装置。
【請求項2】
凹部の最大深さが、0.2mm〜0.5mmである請求項1に記載のカーテン塗布装置。
【請求項3】
凹部側面間の最大間隔が、1.5mm〜4.0mmである請求項1から2のいずれかに記載のカーテン塗布装置。
【請求項4】
案内手段が、補助水流下方向に関して補助水導入口よりも上方に平面を有し、該平面が、縦5mm〜15mm、横7mm以上の長方形である請求項1から3のいずれかに記載のカーテン塗布装置。
【請求項5】
補助水の導入速度が0.4m/秒間〜2.1m/秒間である請求項1から4のいずれかに記載のカーテン塗布装置。
【請求項6】
補助水導入口の補助水の流下方向に関する最大間隔が、0.2mm〜0.5mmである請求項1から5のいずれかに記載のカーテン塗布装置。
【請求項7】
塗布液を塗布液吐出口から吐出する吐出工程と、
補助水を導入する補助水導入口を有する1対の案内手段により、前記塗布液によるカーテン膜の流下方向に対して略垂直な幅方向におけるカーテン膜両端部を支持し、前記カーテン膜を、搬送された支持体上に案内する案内工程と、
前記支持体を搬送する搬送工程と、を含み、
前記1対の案内手段は、それぞれ、記補助水が流下する凹部を有し、
前記凹部の底面に対して略垂直に形成された凹部側面と、該凹部側面に連続し、かつ、交差して形成された露出面とが鋭角をなすことを特徴とするカーテン塗布方法。
【請求項8】
凹部の最大深さが、0.2mm〜0.5mmである請求項7に記載のカーテン塗布方法。
【請求項9】
凹部側面間の最大間隔が、1.5mm〜4.0mmである請求項7から8のいずれかに記載のカーテン塗布方法。
【請求項10】
案内手段が、補助水流下方向に関して補助水導入口よりも上方に平面を有し、該平面が、縦5mm〜15mm、横7mm以上の長方形である請求項7から9のいずれかに記載のカーテン塗布方法。
【請求項11】
補助水の導入速度が0.4m/秒間〜2.1m/秒間である請求項7から10のいずれかに記載のカーテン塗布方法。
【請求項12】
補助水導入口の補助水の流下方向に関する最大間隔が、0.2mm〜0.5mmである請求項7から11のいずれかに記載のカーテン塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−35210(P2012−35210A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178445(P2010−178445)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】